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特許7236658非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池
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  • 特許-非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20230303BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230303BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230303BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230303BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230303BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 D
H01M4/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020548354
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2019035426
(87)【国際公開番号】W WO2020066576
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2018179772
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩見 安展
(72)【発明者】
【氏名】西田 伸道
(72)【発明者】
【氏名】森川 敬元
(72)【発明者】
【氏名】横井 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】中森 俊行
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-041826(JP,A)
【文献】特開2017-168378(JP,A)
【文献】特開2009-205950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質として、炭素系活物質と、少なくともケイ素(Si)を含有する酸化物相中にSi粒子が分散したSi系活物質とを含む、非水電解質二次電池用負極であって、
前記Si系活物質には、第1のSi系活物質と、第2のSi系活物質とが含まれ、
前記第1のSi系活物質は、前記第2のSi系活物質よりも、体積基準のメジアン径が大きく、かつ前記Si粒子の含有率が高い、非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記第1のSi系活物質の体積基準のメジアン径は、8μm~15μmであり、
前記第2のSi系活物質の体積基準のメジアン径は、3μm~6μmである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
前記Si系活物質の含有量は、前記負極活物質の総質量に対して、4~10質量%である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
前記酸化物相は、ケイ酸リチウム及び酸化ケイ素の少なくとも一方を主成分とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
前記第1のSi系活物質の前記酸化物相は、前記ケイ酸リチウムを主成分とし、
前記第2のSi系活物質の前記酸化物相は、前記酸化ケイ素を主成分とする、請求項4に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の負極と、正極と、非水電解質とを備えた、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池用の負極活物質として、ケイ素(Si)を含有するSi系活物質や黒鉛などの炭素系活物質が用いられている。Si系活物質は、黒鉛などの炭素系活物質と比べて単位質量当りに多くのリチウムイオンを吸蔵できることが知られている。特に、酸化物相にSi粒子が分散したSi系活物質は、Siを単体で用いるよりもリチウムイオンの吸蔵による体積変化が小さいことから、非水電解質二次電池の負極活物質に好適である。例えば、特許文献1,2には、Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表される複合酸化物相中にSi粒子が分散した非水電解質二次電池用の負極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/035290号
【文献】国際公開第2016/121321号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池において、充放電サイクル特性を改善することは重要な課題であり、特に高容量化を図りつつ、サイクル特性を向上させることが求められている。特許文献1,2に開示された技術は、電池容量とサイクル特性の両立について改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極は、負極活物質として、炭素系活物質と、少なくともケイ素(Si)を含有する酸化物相中にSi粒子が分散したSi系活物質とを含む、非水電解質二次電池用負極であって、前記Si系活物質には、第1のSi系活物質と、第2のSi系活物質とが含まれる。前記第1のSi系活物質は、前記第2のSi系活物質よりも、体積基準のメジアン径が大きく、かつ前記Si粒子の含有率が高い。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記負極と、正極と、非水電解質とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様である負極によれば、充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池の斜視図である。
図2図2は実施形態の一例である電極体の部分断面図である。
図3図3は実施形態の一例である負極の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、負極活物質として、第1のSi系活物質におけるSi粒子の含有率>第2のSi系活物質におけるSi粒子の含有率、及び第1のSi系活物質のメジアン径>第2のSi系活物質のメジアン径である、2種類のSi系活物質を用いることにより、充放電サイクル特性が大きく向上することを見出した。本開示に係る負極によれば、高容量化を図りつつ、サイクル特性を向上させることが可能である。
【0010】
本開示に係る負極のサイクル特性が向上する理由は次のように推察される。Si系活物質において、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出するのはSi粒子である。大粒子の第1のSi系活物質と小粒子の第2のSi系活物質を負極活物質として用いた場合、第1のSi系活物質に比べて比表面積が大きい第2のSi系活物質のリチウムイオンの放出反応が優先的に進行する。そのため、第2のSi系活物質に比べて第1のSi系活物質は放電深度が浅くなる。第1のSi系活物質はSi粒子の含有率が高くなるものの、放電深度が浅くなるためサイクルに伴う劣化が抑制される。一方、第2のSi系活物質は放電深度が深くなるものの、Si粒子の含有率が低減されるためサイクルに伴う劣化が抑制される。したがって、本開示に係る負極によれば、粒子間のSi含有率が等しいSi系活物質を用いた負極に比べてSi系活物質全体のSi粒子の含有量を維持しつつサイクル特性が向上する。
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態の一例について詳説するが、本開示は以下で説明する実施形態に限定されない。以下では、非水電解質二次電池として、ラミネートシート11a、11bで構成された外装体11を備えるラミネート電池(非水電解質二次電池10)を例示する。但し、本開示に係る非水電解質二次電池は、円筒形の電池ケースを備えた円筒形電池、角形の電池ケースを備えた角形電池等であってもよく、電池の形態は特に限定されない。
【0012】
図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池10の斜視図、図2は非水電解質二次電池10を構成する電極体14の部分断面図である。図1及び図2に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質とを備え、これらは外装体11の収容部12に収容されている。ラミネートシート11a、11bには、金属層と樹脂層が積層されてなるシートが用いられる。ラミネートシート11a、11bは、例えば金属層を挟む2つの樹脂層を有し、一方の樹脂層が熱溶着可能な樹脂で構成されている。金属層の例としては、アルミニウム層が挙げられる。
【0013】
外装体11は、例えば平面視略矩形形状を有する。外装体11にはラミネートシート11a、11b同士を接合して封止部13が形成され、これにより電極体14が収容された収容部12が密閉される。封止部13は、外装体11の端縁に沿って略同じ幅で枠状に形成されている。封止部13に囲まれた平面視略矩形状の部分が収容部12である。収容部12は、ラミネートシート11a、11bの少なくとも一方に電極体14を収容可能な窪みを形成することで設けられる。本実施形態では、当該窪みがラミネートシート11aに形成されている。
【0014】
非水電解質二次電池10は、電極体14に接続された一対の電極リード(正極リード15及び負極リード16)を備える。各電極リードは、外装体11の内部から外部に引き出される。図1に示す例では、各電極リードが外装体11の同じ端辺から互いに略平行に引き出されている。正極リード15及び負極リード16はいずれも導電性の薄板であり、例えば正極リード15がアルミニウムを主成分とする金属で構成され、負極リード16が銅又はニッケルを主成分とする金属で構成される。
【0015】
図2に例示するように、電極体14は、正極20と、負極30と、正極20と負極30の間に介在するセパレータ50とを備える。電極体14は、例えば正極20及び負極30がセパレータ50を介して巻回された巻回構造を有し、径方向にプレスされた扁平状の巻回型電極体である。負極30は、リチウムの析出を抑制するために、正極20よりも一回り大きな寸法で形成される。なお、電極体は、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して1枚ずつ交互に積層されてなる積層型であってもよい。
【0016】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。例えば、非水電解質の総質量に対して、0.5~5質量%のフルオロエチレンカーボネートが添加されてもよい。また、非水電解質の総質量に対して、1~5質量%のビニレンカーボネートが添加されてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、固体電解質であってもよい。電解質塩には、LiPF等のリチウム塩が使用される。
【0017】
以下、電極体14を構成する正極20、負極30、セパレータ50について、特に、負極30について詳説する。
【0018】
[正極]
正極20は、正極芯体21と、正極芯体21の両面に形成された正極合剤層22とを備える。正極芯体21には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極20の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層22は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含み、正極芯体21の両面に形成されることが好ましい。正極20は、正極芯体21上に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層22を正極芯体21の両面に形成することにより製造できる。なお、正極合剤層22は正極芯体21の一方の面にのみ形成してもよい。
【0019】
正極活物質は、リチウム含有金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有金属複合酸化物に含有される元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム含有金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。なお、リチウム含有金属複合酸化物の粒子表面には、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着していてもよい。
【0020】
正極合剤層22に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層22に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0021】
[負極]
図3は、実施形態の一例である負極30の部分断面図である。図3に例示するように、負極30は、負極芯体31と、負極芯体31の両面に形成された負極合剤層32とを備える。負極芯体31には、銅、銅合金など負極30の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層32は、負極活物質及び結着剤を含み、負極芯体31の両面に形成されることが好ましい。負極30は、負極芯体31上に負極活物質及び結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層32を負極芯体31の両面に形成することにより製造できる。なお、負極合剤層32は負極芯体31の一方の面にのみ形成してもよい。
【0022】
負極合剤層32に含まれる結着剤には、正極20の場合と同様に、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)が用いられる。また、負極合剤層32には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などが含まれていてもよい。負極合剤層32には、例えばSBRと、CMC又はその塩が含まれる。
【0023】
負極合剤層32は、負極活物質として、炭素系活物質33と、少なくともケイ素(Si)を含有する酸化物相中にSi粒子が分散したSi系活物質とを含む。Si系活物質には、Si系活物質35(第1のSi系活物質)と、Si系活物質40(第2のSi系活物質)とが含まれる。詳しくは後述するが、Si系活物質35は、Si系活物質40よりも、メジアン径が大きく、かつSi粒子の含有率が高い。2種類のSi系活物質35,40を用いることにより、電池の充放電サイクル特性が大きく向上する。
【0024】
Si系活物質35,40は、炭素系活物質33と比べてより多くのリチウムイオンを吸蔵できることから、Si系活物質35,40を負極活物質に用いることで電池の高容量化を図ることができる。但し、Si系活物質35,40は、炭素系活物質33よりも充放電による体積変化が大きいことから、高容量化を図りつつ良好なサイクル特性を確保するには、炭素系活物質33とSi系活物質35,40を併用することが好ましい。
【0025】
炭素系活物質33には、従来から負極活物質として使用されている黒鉛、例えば鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、及び土状黒鉛等の天然黒鉛、並びに塊状人造黒鉛(MAG)、及びメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などを用いることができる。黒鉛の体積基準のメジアン径は、例えば18~24μmである。体積基準のメジアン径は、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において体積積算値が50%となる粒径であって、50%粒径(D50)又は中位径とも呼ばれる。以下、特に断らない限り、D50は体積基準のメジアン径を意味する。
【0026】
Si系活物質35,40の含有量は、負極活物質の総質量に対して、2~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましく、4~10質量%であることが特に好ましい。即ち、炭素系活物質33とSi系活物質との混合比率は、質量比で98:2~80:20が好ましく、97:3~85:15がより好ましく、96:4~90:10が特に好ましい。炭素系活物質33とSi系活物質の質量比が当該範囲内であれば、高容量化を図りつつ、サイクル特性を向上させることが容易になる。
【0027】
Si系活物質35は、少なくともSiを含有する酸化物相36と、Si粒子37とを含み、酸化物相36中にSi粒子37が分散した構造を有する粒子である。Si系活物質35は、酸化物相36及びSi粒子37で構成される母粒子38の表面を覆う導電被膜39を含む。同様に、Si系活物質40は、少なくともSiを含有する酸化物相41と、Si粒子42とを含み、酸化物相41中にSi粒子42が分散した構造を有する粒子である。Si系活物質40は、酸化物相41及びSi粒子42で構成される母粒子43の表面を覆う導電被膜44を含む。
【0028】
Si粒子37,42は、酸化物相36,41中にそれぞれ略均一に分散していることが好ましい。母粒子38,43は、酸化物相36,41中に微細なSi粒子37,42がそれぞれ分散した海島構造を有し、任意の断面においてSi粒子37,42が一部の領域に偏在することなく略均一に点在している。Si粒子37,42の平均粒径は、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。Si粒子37,42の平均粒径は、負極合剤層32の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより測定され、具体的にはSEM又はTEM画像から選択される任意の100個の粒子の外接円の直径を計測し、計測値を平均化して求められる。
【0029】
Si系活物質35におけるSi粒子37の含有率は、上述のように、Si系活物質40におけるSi粒子42の含有率よりも高い。Si粒子37の含有率、即ち母粒子38の質量に対するSi粒子37の含有量は、40~70質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。Si粒子42の含有率、即ち母粒子43の質量に対するSi粒子42の含有量は、20~40質量%が好ましく、25~35質量%がより好ましい。例えば、Si粒子37の含有率は40質量%以上であり、Si粒子42の含有率は40質量%未満である。
【0030】
また、Si系活物質35のメジアン径は、体積基準及び個数基準のいずれにおいても、Si系活物質40のメジアン径よりも大きい。Si系活物質35のD50は、Si系活物質40のD50よりも大きく、好ましくは7μm~20μmであり、より好ましくは8μm~15μmである。Si系活物質40のD50は、2μm~7μmが好ましく、3μm~6μmがより好ましい。Si系活物質35,40のD50は、例えば炭素系活物質33のD50よりも小さい。Si系活物質35,40の混合体の粒度分布には2つのピークが存在することが好ましい。
【0031】
つまり、負極30では、負極活物質として、Si系活物質35におけるSi粒子37の含有率>Si系活物質40におけるSi粒子42の含有率、及びSi系活物質35のメジアン径>Si系活物質40のメジアン径の条件を満たす、2種類のSi系活物質が用いられる。これにより、Si系活物質35,40の一方のみを用いた場合、或いは当該Si粒子の含有率又はメジアン径の条件を満たさない場合と比べて、充放電サイクル特性が大きく向上し、電池容量とサイクル特性の両立を図ることができる。
【0032】
酸化物相36,41は、少なくともSiを含有する金属酸化物を主成分(最も質量が多い成分)とし、Si粒子37,42よりも微細な粒子の集合により構成される。酸化物相36,41は、例えば、ケイ酸リチウム(リチウムシリケート)及び酸化ケイ素の少なくとも一方を主成分とする。また、酸化物相36,41は、Li、Si、Al、及びBを含有する酸化物相であってもよい。例えば、酸化物相36,41に含有されるOを除く元素の総モル数に対して、Liの含有量が5~20モル%、Siの含有量が50~70モル%、Alの含有量が12~25モル%、Bの含有量が12~25モル%であってもよい。この場合、Si系活物質35,40を負極合剤スラリーに添加した際に、酸化物相36の構成成分が水中に溶出することを抑制できる。
【0033】
上記ケイ酸リチウムは、例えばLi2zSiO(2+z)(0<z<2)で表され、LiSiO(z=2)を含まない。LiSiOは、不安定な化合物であり、水と反応してアルカリ性を示すため、Siを変質させて充放電容量の低下を招く。ケイ酸リチウムは、安定性、作製容易性、リチウムイオン導電性等の観点から、LiSiO(z=1)又はLiSi(z=1/2)を主成分とすることが好適である。LiSiO又はLiSiを主成分とする場合、当該主成分の含有量は、酸化物相36,41の総質量に対して、50質量%超過であることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%であってもよい。
【0034】
上記酸化ケイ素は、例えば二酸化ケイ素(シリカ)である。酸化物相36,41が二酸化ケイ素を主成分とする場合、Si系活物質35,40は、例えば非晶質のSiOマトリックス中にSi粒子37,42が分散した構造を有し、SiO(0.5≦x≦1.5)で表される。
【0035】
酸化物相36,41は、両方がケイ酸リチウム相であってもよく、両方が酸化ケイ素相であってもよい。好ましくは、酸化物相36がケイ酸リチウムを主成分とし、酸化物相41が酸化ケイ素を主成分とする。即ち、Si系活物質35はケイ酸リチウム相中にSi粒子37が分散した粒子であり、Si系活物質40は酸化ケイ素相中にSi粒子42が分散した粒子である。この場合、電池のサイクル特性の改善効果がより顕著になる。
【0036】
Si系活物質35,40は、母粒子38,43のみで構成されていてもよいが、好ましくは酸化物相36、41よりも導電性の高い材料から構成される導電被膜39,44を粒子表面にそれぞれ有する。導電被膜39,44を構成する導電材料は、例えば炭素材料、金属、及び金属化合物からなる群より選択される少なくとも1種である。中でも、炭素材料を用いることが好ましい。母粒子38,43の表面を炭素被覆する方法としては、アセチレン、メタン等を用いたCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂等を母粒子38,43と混合し、熱処理を行う方法などが例示できる。また、カーボンブラック、ケッチェンブラック等の導電剤を結着剤を用いて母粒子38,43の表面に固着させることで炭素被覆層を形成してもよい。
【0037】
導電被膜39,44は、例えば、母粒子38,43の表面の略全域を覆って形成される。導電被膜39,44の厚みは、導電性の確保と母粒子38,43へのリチウムイオンの拡散性を考慮して、1~200nmが好ましく、5~100nmがより好ましい。導電被膜39,44の厚みが薄くなり過ぎると、導電性が低下し、また母粒子38,43を均一に被覆することが難しくなる。一方、導電被膜39,44の厚みが厚くなり過ぎると、母粒子38,43へのリチウムイオンの拡散が阻害されて容量が低下する傾向にある。導電被膜39,44の厚みは、SEM又はTEM等を用いた粒子の断面観察により計測できる。
【0038】
Si系活物質35,40は、例えば下記の工程1~3を経て製造される。
(1)Si粒子と、ケイ酸リチウム、酸化ケイ素等のSiを含有する無機化合物とを所定の質量比で混合する。なお、当該無機化合物が、酸化物相36,41となる。一般的に、Si系活物質35を製造する際には、Si系活物質40を製造する場合よりも、Si粒子の混合比率を高くする。
(2)上記原料粉末を、不活性雰囲気下で、ボールミル等を用いて粉砕、混合した後、例えば500℃~700℃で熱処理(焼結)する。当該焼結体をD50が所定範囲となるように粉砕、分級することで、酸化物相中にSi粒子が分散した母粒子が得られる。
(3)次に、母粒子を石炭ピッチ等の炭素材料と混合して、不活性雰囲気下で熱処理する。こうして、母粒子の表面に炭素被膜等の導電被膜が形成されたSi系活物質35,40が得られる。
【0039】
[セパレータ]
セパレータ50には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ50の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ50は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ50の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiCo0.979Zr0.001Mg0.01Al0.01で表されるリチウム含有金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、カーボンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、95:2.5:2.5の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤スラリーを調製した。当該正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる長尺状の正極芯体の両面にドクターブレード法で塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーで塗膜を圧縮して、正極芯体の両面に正極合剤層を形成した。正極合剤層が形成された正極芯体を所定の電極サイズに切断して正極を作製した。
【0042】
[第1のSi系活物質の作製]
不活性雰囲気中で、Si粒子(3N、10μm粉砕品)と、Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるリチウムシリケート粒子(10μm粉砕品)とを、Si粒子の含有率が52質量%となるように混合し、ボールミルで粉砕処理した。その後、不活性雰囲気中で混合粉末を取り出し、不活性雰囲気下、600℃、4時間の条件で熱処理を行った。熱処理した粉末(以下、母粒子という)をジェットミルで粉砕した後、石炭ピッチと混合して、不活性雰囲気下、800℃、5時間の条件で熱処理を行い、母粒子の表面に炭素の導電被膜を形成した。炭素の被覆量は、母粒子及び導電被膜を含む粒子の総質量に対して2質量%である。導電被膜が形成された粒子を解砕し、篩を用いて分級して、リチウムシリケート相中に52質量%の量でSi粒子が分散した、D50が11μmの第1のSi系活物質を得た。
【0043】
[第2のSi系活物質の作製]
不活性雰囲気中で、Si粒子(3N、10μm粉砕品)と、二酸化ケイ素粒子(10μm粉砕品)とを、Si粒子の含有率が30質量%となるように混合し、ボールミルで粉砕処理した。その後、不活性雰囲気中で混合粉末を取り出し、不活性雰囲気下、600℃、4時間の条件で熱処理を行った。熱処理した粉末(以下、母粒子という)をジェットミルで粉砕した後、CVD法(1000℃)で母粒子の表面に炭素の導電被膜を形成した。炭素の被覆量は、母粒子及び導電被膜を含む粒子の総質量に対して5質量%である。導電被膜が形成された粒子を解砕し、篩を用いて分級して、二酸化ケイ素相中に30質量%の量でSi粒子が分散した、D50が5μmの第2のSi系活物質を得た。
【0044】
[Si系活物質の分析]
Si系活物質の粒子断面をSEMで観察した結果、酸化物相中にSi粒子が略均一に分散していることが確認された。Si粒子の平均粒径は50nm未満であった。炭素被覆量は、CZアナライザーによって解析した。Si系活物質のD50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD-2000A)を用いて測定した。分散媒に水を用い、粒子の屈折率を1.70-0.01iとして測定した。
【0045】
[負極の作製]
D50が22μmの黒鉛(炭素系活物質)と、上記第1のSi系活物質と、上記第2のSi系活物質とを、95:3:2の質量比で混合したものを負極活物質として用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンとを、97.5:1.5:1.0の固形分質量比で混合し、水を分散媒とする負極合剤スラリーを調製した。次に、当該負極合剤スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面にドクターブレード法で塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて圧縮して、負極芯体の両面に負極合剤層を形成した。負極合剤層が形成された負極芯体を所定の電極サイズに切断して負極を作製した。
【0046】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)とを、3:7の体積比(25℃、1気圧)で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度になるように添加し、さらにビニレンカーボネートを2質量%の濃度となるように添加して、非水電解質を調製した。
【0047】
[電池の作製]
上記正極及び上記負極にそれぞれ正極リード及び負極リードを取り付け、正極及び負極をポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して巻回した。巻回体の最外周面にポリプロピレン製のテープを貼着した後、巻回体を径方向にプレスして扁平形状の巻回型電極体を作製した。アルゴン雰囲気下において、ポリプロピレン層/接着剤層/アルミニウム合金層/接着剤層/ポリプロピレン層の5層構造を有するラミネートシートで構成された外装体のカップ状の収容部に電極体及び上記非水電解質を収容した。その後、外装体内部を減圧して電極体に電解液を含浸させ、外装体の開口部を封止して、高さ62mm、幅35mm、厚み3.6mmの非水電解質二次電池を作製した。
【0048】
<実施例2>
第1のSi系活物質の作製において、Si粒子の含有率が45質量%となるように原材の配合比を調整したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0049】
<実施例3>
第1のSi系活物質の作製において、Si粒子の含有率が59質量%となるように原材の配合比を調整したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0050】
<実施例4>
第1のSi系活物質の作製において、D50が8μmとなるように粒子を解砕、分級したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0051】
<実施例5>
第1のSi系活物質の作製において、D50が15μmとなるように粒子を解砕、分級したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0052】
<実施例6>
第2のSi系活物質の作製において、D50が3μmとなるように粒子を解砕、分級したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0053】
<実施例7>
第2のSi系活物質の作製において、D50が6μmとなるように粒子を解砕、分級したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0054】
<実施例8>
負極の作製において、黒鉛と、第1のSi系活物質と、第2のSi系活物質との混合比を、90:6:4としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0055】
<実施例9>
負極の作製において、黒鉛と、第1のSi系活物質と、第2のSi系活物質との混合比を、96:2:2としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0056】
<比較例1>
第1及び第2のSi系活物質の作製において、D50がいずれも5μmとなるように粒子を解砕、分級したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0057】
<比較例2>
第1のSi系活物質の作製において、D50が5μmとなるように粒子を解砕、分級し、第2のSi系活物質の作製において、D50が10μmとなるように粒子を解砕、分級したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0058】
[容量維持率(サイクル特性)の評価]
実施例・比較例の各電池を、25℃の温度環境下、1It(800mA)の定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電した後、4.2Vで電流値が40mAになるまで定電圧で充電した。その後、800mAの定電流で電池電圧が2.75Vになるまで放電を行った。この充放電を300サイクル行い、下記の式に基づいて、容量維持率を求めた。
容量維持率=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示す結果から理解されるように、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて、300サイクル後の容量維持率が高く、サイクル特性に優れる。Si粒子の含有率が異なる2種類のSi系活物質(第1及び第2のSi系活物質)を用いた場合であっても、第1及び第2のSi系活物質のD50が同じである場合(比較例1)、及び第1のSi系活物質のD50が、第2のSi系活物質のD50よりも小さい場合(比較例2)は、良好なサイクル特性を実現できない。
【符号の説明】
【0061】
10 非水電解質二次電池、11 外装体、11a、11b ラミネートシート、12 収容部、13 封止部、14 電極体、15 正極リード、16 負極リード、20 正極、21 正極芯体、22 正極合剤層、30 負極、31 負極芯体、32 負極合剤層、33 炭素系活物質、35 第1のSi系活物質、36,41 酸化物相、37,42 Si粒子、38,43 母粒子、39,44 導電被膜、40 第2のSi系活物質、50 セパレータ
図1
図2
図3