(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】センサ基板、検出装置及びセンサ基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20230303BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
G01N21/64 G
G01N33/543 595
(21)【出願番号】P 2019546627
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035059
(87)【国際公開番号】W WO2019069717
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2017194171
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】柳川 博人
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0052121(US,A1)
【文献】特開2014-037973(JP,A)
【文献】特開2010-043890(JP,A)
【文献】特開2007-240361(JP,A)
【文献】特開2008-128787(JP,A)
【文献】特開2015-014547(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01286187(EP,A2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0166045(US,A1)
【文献】OU F S , et al.,Hot-Spot Engineering in Polygonal Nanofinger Assemblies for Surface Enhanced Raman Spectroscopy,Nano Letters,2011年05月23日,Vol.11,p.2538-2542,dx.doi.org/10.1021/nl201212n
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01N 33/48 - G01N 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体を備えるセンサ基板であって、
前記金属微細構造体は、平面状に配置された複数の突起部で構成され、
複数の微細突起を有する樹脂基板と、前記樹脂基板の上に形成され、前記複数の突起部を構成する金属膜とを含み、
前記金属膜の厚みは、前記複数の微細突起の頂部において、310nm以上460nm以下であり、
前記複数の突起部は、平面視において、隣接する突起部間の中央を通る仮想線が、ハニカム形状を描くように配置されており、
前記複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状であり、
隣接する前記突起部の間に存在する間隙の前記センサ基板の厚み方向における深さは、前記ハニカム形状を構成する六角形に内接する仮想円の半径よりも大き
く、
前記間隙の最小幅は、10nmより大きく、40nmより小さい、
センサ基板。
【請求項2】
前記略六角形状は、前記ハニカム形状を構成する六角形の面積の80%以上の面積を有する、
請求項1に記載のセンサ基板。
【請求項3】
前記間隙の前記センサ基板の厚み方向における深さは、380nm以上510nm以下である、
請求項1
または2に記載のセンサ基板。
【請求項4】
前記間隙の底部は、前記複数の微細突起の頂部より下方に位置する、
請求項
1から請求項3のいずれか一項に記載のセンサ基板。
【請求項5】
前記金属膜の厚みは、前記複数の微細突起の頂部において、前記複数の微細突起の高さの1.6倍以上2.3倍以下である、
請求項
1から請求項4のいずれか一項に記載のセンサ基板。
【請求項6】
前記複数の微細突起は、直径が140nm以上400nm以下であり、高さが125nm以上225nm以下の円柱であり、ピッチが280nm以上520nm以下である、
請求項
1から請求項5のいずれか一項に記載のセンサ基板。
【請求項7】
検出装置であって、
請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載のセンサ基板を備え、
前記センサ基板の前記金属微細構造体には、被検出物質に特異的に結合する性質を有する第1の抗体が固定され、
前記検出装置は、さらに、
前記被検出物質と特異的に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の抗体、及び前記被検出物質を含み得る試料を、前記金属微細構造体に導入する導入口と、
前記第2の抗体及び前記試料が導入された前記金属微細構造体に、前記励起光を照射する光照射部と、
前記励起光の照射により前記蛍光物質から生じる蛍光に基づき、前記被検出物質を検出する検出部と、を備える、
検出装置。
【請求項8】
励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体を備えるセンサ基板の製造方法であって、
複数の微細突起を有する樹脂基板を準備する工程と、
前記樹脂基板上に金属膜を形成することにより複数の突起部を有する金属微細構造体を備えるセンサ基板を形成する工程と、
を含み、
前記金属膜の厚みは、前記複数の微細突起の頂部において、310nm以上460nm以下であり、
前記複数の突起部は、平面視において、隣接する突起部間の中央を通る仮想線が、ハニカム形状を描くように配置されており、
前記複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状であり、
隣接する前記突起部の間に存在する間隙の前記センサ基板の厚み方向における深さは、前記ハニカム形状を構成する六角形に内接する仮想円の半径よりも大き
く、
前記間隙の最小幅は、10nmより大きく、40nmより小さい、
センサ基板の製造方法。
【請求項9】
前記複数の微細突起の各々の形状は、円柱状である、
請求項
8に記載のセンサ基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料中の被検出物質(例えばウイルス)を検出するセンサ基板、検出装置及びセンサ基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中の被検出物質を検出する技術として、蛍光法が広く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、まず、蛍光物質で標識された抗体(以下、標識化抗体という)が結合された被検出物質を、金属層を含むセンサ部上に固定化された抗体(以下、固定化抗体)を介してセンサ部上に結合させる。そして、センサ部に励起光を照射することにより、金属層にプラズモンを励起し、プラズモンにより増強した光電場を生じさせる。このとき、増強した光電場(以下、増強電場)内に存在する標識化抗体の蛍光物質から生じる蛍光の量を測定することにより、被検出物質の量を検出することができる。
【0003】
また、特許文献2は、表面に誘電体を有する基板と、誘電体上に形成された複数の金属粒子と、金属粒子間の誘電体上に形成され、標的分子を付着する有機分子膜と、を有する光学デバイスを開示している。特許文献2では、増強電場が形成されるホットサイトである金属粒子間の誘電体上に有機分子膜が形成されている。これにより、増強電場を効率よく利用して、光信号を検出することができる。また、隣り合う金属粒子間の間隔が標的分子の入り口側で間口が広く形成されるため、金属粒子間の間隔を狭めて増強電場を高めながら、標的分子が有機分子膜に吸着される確率を高めることができる。
【0004】
また、特許文献3は、金属材料により外表面部が形成された、複数の金属微細突起部が基板上に周期的に配置されたプラズモン共鳴構造体を開示している。特許文献3では、複数の金属微細突起部は基板から離間するに従い先細となるように形成され、金属微細突起部間は、金属材料により形成された平坦な露出面を有する平坦部により接続されている。このような構成を有することより、金属微細突起部の表面におけるプラズモン共鳴の発生位置及び電場強度を容易に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-043934号公報
【文献】特開2013-231637号公報
【文献】特開2008-196898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、空気中を浮遊するウイルス濃度は、ウイルス感染患者の鼻汁に含まれるウイルス濃度に比べ極端に小さいため、空気中から補集したウイルスに由来する被検出物質は微量である。そのため、微量の被検出物質を検出することが望まれている。
【0007】
そこで、本開示は、微量の被検出物質を検出することができるセンサ基板、検出装置及びセンサ基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係るセンサ基板は、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体を備えるセンサ基板であって、前記金属微細構造体は、平面上に配置された複数の突起部で構成され、複数の微細突起を有する樹脂基板と、前記樹脂基板の上に形成され、前記複数の突起部を構成する金属膜とを含み、前記金属膜の厚みは、前記複数の微細突起の頂部において、310nm以上460nm以下であり、前記複数の突起部は、平面視において、隣接する突起部間の中央を通る仮想線が、ハニカム形状を描くように配置されており、前記複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状であり、隣接する前記突起部の間に存在する隙間の前記センサ基板の厚み方向における深さは、前記ハニカム形状を構成する六角形に内接する仮想円の半径よりも大きく、前記間隙の最小幅は、10nmより大きく、40nmより小さい。
【0009】
また、本開示の一態様に係る検出装置は、上記のセンサ基板を備え、前記センサ基板の前記金属微細構造体には、被検出物質に特異的に結合する性質を有する第1の抗体が固定され、前記検出装置は、さらに、前記被検出物質と特異的に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の抗体、及び前記被検出物質を含み得る試料を、前記金属微細構造体に導入する導入口と、前記第2の抗体及び前記試料が導入された前記金属微細構造体に、前記励起光を照射する光照射部と、前記励起光の照射により前記蛍光物質から生じる蛍光に基づき、前記被検出物質を検出する検出部と、を備える。
【0010】
また、本開示の一態様に係るセンサ基板の製造方法は、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体を備えるセンサ基板の製造方法であって、複数の微細突起を有する樹脂基板を準備する工程と、前記樹脂基板上に金属膜を形成することにより複数の突起部を有する金属微細構造体を備えるセンサ基板を形成する工程と、を含み、前記金属膜の厚みは、前記複数の微細突起の頂部において、310nm以上460nm以下であり、前記複数の突起部は、平面視において、隣接する突起部間の中央を通る仮想線が、ハニカム形状を描くように配置されており、前記複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状であり、隣接する前記突起部の間に存在する隙間の前記センサ基板の厚み方向における深さは、前記ハニカム形状を構成する六角形に内接する仮想円の半径よりも大きく、前記間隙の最小幅は、10nmより大きく、40nmより小さい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、微量の被検出物質を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る検出システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る検出装置の概略構成図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るセンサ基板における金属微細構造体上のSAMを示す図である。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態に係るセンサ基板の斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態における金属微細構造体を説明する図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係るセンサ基板の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図7A】
図7Aは、実験例Aの金属微細構造体の平面SEM像を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、実験例Bの金属微細構造体の平面SEM像を示す図である。
【
図7C】
図7Cは、実験例Cの金属微細構造体の平面SEM像を示す図である。
【
図7D】
図7Dは、実験例Dの金属微細構造体の平面SEM像を示す図である。
【
図7E】
図7Eは、実験例Eの金属微細構造体の平面SEM像を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、実験例Aの金属微細構造体の斜視SEM像を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、実験例Bの金属微細構造体の斜視SEM像を示す図である。
【
図8C】
図8Cは、実験例Cの金属微細構造体の斜視SEM像を示す図である。
【
図8D】
図8Dは、実験例Dの金属微細構造体の斜視SEM像を示す図である。
【
図8E】
図8Eは、実験例Eの金属微細構造体の斜視SEM像を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、実験例Aの金属微細構造体の断面SEM像を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、実験例Bの金属微細構造体の断面SEM像を示す図である。
【
図9C】
図9Cは、実験例Cの金属微細構造体の断面SEM像を示す図である。
【
図9D】
図9Dは、実験例Dの金属微細構造体の断面SEM像を示す図である。
【
図9E】
図9Eは、実験例Eの金属微細構造体の断面SEM像を示す図である。
【
図10】
図10は、センサ基板をウイルスセンサに使用した場合の、金属微細構造体の凸部Au膜厚の違いによる蛍光強度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示に至った知見)
上述したように、特許文献2に記載の従来技術は、金属粒子間のホットサイト上に標的分子を捕捉する有機分子膜を形成することにより、増強電場を効率よく利用できる利点がある。また、隣り合う金属粒子間の間隔が標的分子の入り口側で間口が広く形成されるため、金属粒子間の間隔を狭めて増強電場を高めると共に、標的分子が有機分子膜に吸着される確率を高めることができる利点がある。しかしながら、電場増強の程度が必ずしも十分ではなく、微量の被検出物質を検出することが難しい。
【0014】
また、特許文献3に記載の従来技術は、複数の金属微細突起部が基板から離間するに従い先細となるように形成され、金属微細突起部間が平坦な露出面を有する平坦部により接続されることより、金属微細突起部の表面におけるプラズモン共鳴の発生位置及び電場強度を容易に制御できる利点がある。しかしながら、金属微細突起部の表面の電場増強位置及び電場強度が制御されているだけで、平坦部を含むプラズモン共鳴構造体全体における電場増強位置及び電場強度は制御されておらず、増強電場を有効に利用できていない。
【0015】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討をした。その結果、大きな発光増強が得られるセンサ基板に想到した。そして、当該センサ基板を検出装置に使用することにより、検出装置の検出感度を向上させることができることを見出した。
【0016】
そこで、本開示では、微量の被検出物質を検出することができるセンサ基板、検出装置及びセンサ基板の製造方法を提供する。
【0017】
本開示の一態様の概要は、以下の通りである。
【0018】
本開示の一態様に係るセンサ基板は、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体を備えるセンサ基板であって、前記金属微細構造体は、平面状に配置された複数の突起部で構成され、前記複数の突起部は、平面視において、隣接する突起部間の中央を通る仮想線が、ハニカム形状を描くように配置されており、前記複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状であり、隣接する前記突起部の間に存在する間隙の前記センサ基板の厚み方向における深さは、前記ハニカム形状を構成する六角形に内接する仮想円の半径よりも大きい。
【0019】
この構成によれば、複数の突起部は、平面視において、隣接する突起部間の中央を通る仮想線が、ハニカム形状を描くように配置されており、複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状である。これにより、複数の突起部の各々の全周に亘って間隙の幅を狭くすることができるため、電場増強効果を向上させることができる。また、この構成によれば、隣接する突起部の間に存在する間隙のセンサ基板の厚み方向における深さはハニカム形状を構成する六角形に内接する仮想円の半径よりも大きい。これにより、間隙の深さも深くすることができるため、間隙に入る被検出物質の割合を高めることができる。したがって、本開示の一態様に係るセンサ基板を用いると、電場増強効果の向上を図ることができ、微量の被検出物質を検出することができる。
【0020】
本開示の一態様に係るセンサ基板では、前記略六角形状は、前記ハニカム形状を構成する六角形の面積の80%以上の面積を有するのがよい。また、前記略六角形状は、前記ハニカム形状を構成する六角形の面積の98%以下の面積を有するのがよい。この構成によれば、複数の突起部間に存在する間隙の幅を狭くすることができ、表面プラズモンが発生する領域が大きくなって、電場増強効果を高めることができる。
【0021】
例えば、本開示の一態様に係るセンサ基板では、前記隣接する突起部間に存在する間隙の最小幅は、10nmより大きく、40nmより小さくてもよい。
【0022】
この構成によれば、間隙の最小幅は10nmより大きい。これにより、被検出物質が間隙に入る幅を確保でき、間隙に入る被検出物質の割合をより向上させることができる。また、この構成によれば、間隙の最小幅は40nmより小さい。これにより、表面プラズモンによる電場増強効果をより向上させることができる。
【0023】
例えば、本開示の一態様に係るセンサ基板では、前記間隙の前記センサ基板の厚み方向における深さは、380nm以上510nm以下であってもよい。
【0024】
これにより、間隙に入る被検出物質の割合をより増大させることができ、微量の被検出物質を高感度に検出することができる。
【0025】
例えば、本開示の一態様に係るセンサ基板では、前記金属微細構造体は、複数の微細突起を有する樹脂基板と、前記樹脂基板の上に形成され、前記複数の突起部を構成する金属膜とを含んでもよい。
【0026】
これにより、金属微細構造体の製造を容易にすることができ、製造コストの削減を図ることができる。
【0027】
例えば、本開示の一態様に係るセンサ基板では、前記間隙の底部は、前記複数の微細突起のいずれの頂部より下方に位置してもよい。
【0028】
このように、間隙が深く形成されるため、間隙に入る被検出物質の割合をさらに高めることができる。
【0029】
例えば、本開示の一態様に係るセンサ基板では、前記金属膜の厚みは、前記複数の微細突起の頂部において、前記複数の微細突起の高さの1.6倍以上2.3倍以下であってもよい。
【0030】
これにより、例えば、スパッタリングによって金属膜を形成して金属微細構造体を作製する場合、間隙を適切な幅及び深さに調整することができる。
【0031】
例えば、本開示の一態様に係るセンサ基板では、前記複数の微細突起は、直径が140nm以上400nm以下であり、高さが125nm以上225nm以下の円柱であり、ピッチが280nm以上520nm以下であってもよい。
【0032】
これにより、例えば、ウイルスに含まれる物質と相互作用が小さい波長である750nm~850nmの波長の光を励起光として使用することができる金属微細構造体を作製することができる。そのため、被検出物質と特異的に結合する性質を有する抗体等の自家発光がなく、微量の被検出物質(ここでは、ウイルスの核タンパク質)を高感度に検出することができる。
【0033】
例えば、本開示の一態様に係るセンサ基板では、前記金属膜の厚みは、前記複数の微細突起の頂部において、310nm以上460nm以下であってもよい。
【0034】
これにより、例えば、スパッタリングによって金属膜を形成して金属微細構造体を作製する場合、間隙を適切な幅及び深さに調整することができる。
【0035】
また、本開示の一態様に係る検出装置は、上記のいずれかのセンサ基板を備え、前記センサ基板の前記金属微細構造体には、被検出物質に特異的に結合する性質を有する第1の抗体が固定され、前記検出装置は、さらに、前記被検出物質と特異的に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の抗体、及び前記被検出物質を含み得る試料を、前記金属微細構造体に導入する導入口と、前記第2の抗体及び前記試料が導入された前記金属微細構造体に、前記励起光を照射する光照射部と、前記励起光の照射により前記蛍光物質から生じる蛍光に基づき、前記被検出物質を検出する検出部と、を備える。
【0036】
これにより、第1の抗体に特異的に捕捉された被検出物質を高感度に検出することができる。
【0037】
また、本開示の一態様に係るセンサ基板の製造方法は、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる金属微細構造体を備えるセンサ基板の製造方法であって、複数の微細突起を有する樹脂基板を準備する工程と、前記樹脂基板上に金属膜を形成することにより複数の突起部を有する金属微細構造体を備えるセンサ基板を形成する工程と、を含み、前記複数の突起部は、平面視において、隣接する突起部間の中央を通る仮想線が、ハニカム形状を描くように配置されており、前記複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状であり、隣接する前記突起部の間に存在する間隙の前記センサ基板の厚み方向における深さは、前記ハニカム形状を構成する六角形に内接する仮想円の半径よりも大きい。
【0038】
これにより、上述した金属微細構造体を有するセンサ基板を製造することができる。
【0039】
以下、実施の形態に関して図面を参照しながら具体的に説明する。
【0040】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する趣旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0041】
また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0042】
また、以下の実施の形態では、被検出物質が空気中を浮遊するウイルスを構成する成分(以下、単に、ウイルスという)である場合について説明するが、本開示において被検出物質はこれに限られない。ウイルスを構成する成分とは、例えば、ウイルスを構成するタンパク質又は核酸などである。ウイルスの種類は、特に限定される必要はなく、一般的にウイルスと分類されるものであればなんでもよい。また、被検出物質は、ウイルスでなくてもよい。
【0043】
(実施の形態)
[検出システムの概要]
図1は、実施の形態に係る検出システム10の概略構成図である。検出システム10は、例えば、人が出入りする部屋に設置されている。
図1に示すように、検出システム10は、捕集装置100と、検出装置200と、コントローラ300と、を備える。以下に、捕集装置100、検出装置200及びコントローラ300の詳細について説明する。
【0044】
[捕集装置の構成]
捕集装置100は、空気中のウイルスを含み得る微粒子を捕集して捕集液に混合する。
図1に示すように、捕集装置100は、吸引器102と、捕集液タンク104と、ポンプ106と、サイクロン108と、空気吸入口110と、洗浄液タンク112と、ポンプ114と、廃液タンク120と、液体流路122と、を備える。以下に、捕集装置100の各構成要素について説明する。
【0045】
吸引器102は、空気吸入口110から周辺の雰囲気空気を吸入する。周辺の雰囲気空気中を浮遊するウイルスを含み得る微粒子は、空気とともに空気吸入口110よりサイクロン108に吸入される。
【0046】
ポンプ106は、捕集液タンク104内の捕集液をサイクロン108に供給する。
【0047】
サイクロン108は、空気吸入口110及び捕集液タンク104に接続されており、吸引器102により空気吸入口110から吸入された空気中のウイルスを含み得る微粒子と、ポンプ106により捕集液タンク104から供給された捕集液とを混合する。サイクロン108は、液体流路122を介して検出装置200に接続されている。微粒子が混合された捕集液(以下、試料という)は、サイクロン108から液体流路122を介して検出装置200に排出される。
【0048】
洗浄液タンク112は、サイクロン108及び液体流路122を洗浄するための洗浄液を保持するための容器である。洗浄液タンク112は、サイクロン108に接続されており、洗浄液タンク112内の洗浄液は、ポンプ114によってサイクロン108に供給される。
【0049】
廃液タンク120は、不要な液体を貯蔵するための容器である。
【0050】
液体流路122は、サイクロン108から出力された試料を、検出装置200に導くための経路である。
【0051】
[検出装置の構成]
次に、検出装置200について、
図1、
図2及び
図3を参照しながら具体的に説明する。
図2は、実施の形態に係る検出装置200の構成図である。
図3は、実施の形態に係るセンサ基板204bにおける金属微細構造体上のSAM(自己組織化単分子膜:Self-Assembled Monolayer)2044を示す図である。
【0052】
検出装置200は、捕集装置100によって微粒子が混合された捕集液からウイルスを検出する。
図1及び
図2に示すように、検出装置200は、センサデバイス202と、導入部206と、光源208と、ビームスプリッタ210と、レンズ212と、検出部214と、を備える。以下に、検出装置200の各構成要素について説明する。
【0053】
センサデバイス202は、センサセル204を備える。なお、センサデバイス202は、単一のセンサセル204を備えているが、複数のセンサセル204を備えてもよい。
【0054】
本実施の形態では、センサデバイス202は、0.1pM~100nMの濃度範囲のウイルスを検出できる。本実施の形態では、ウイルス量を光学的に検出するために、表面増強蛍光法が利用される。
【0055】
センサセル204は、励起光が照射されたときに、表面プラズモンを生じさせることにより、ウイルスに結合した蛍光物質からの蛍光を増強する。
図2に示すように、センサセル204は、センサデバイス202に配置され、流路204a及びセンサ基板204bを備える。
【0056】
流路204aは、導入口206から滴下されたサンプル液体2061をセンサ基板204bに導くための経路である。
【0057】
センサ基板204bは、表面プラズモンを利用してウイルスを光学的に検出するための領域である。センサ基板204bには、金属微細構造体が配置されており、光源208から励起光が照射されることにより表面プラズモンが生じる。また、
図3に示すように、センサ基板204bの金属微細構造体には、第1のVHH抗体2045が固定されている。第1のVHH抗体2045は、ウイルスに特異的に結合する固定化抗体である。センサ基板204bの詳細については、
図4A及び
図4Bを用いて後述する。
【0058】
導入口206は、第2のVHH抗体2063及び試料をセンサセル204に導入する。具体的には、導入口206は、第2のVHH抗体2063と試料とを含むサンプル液体2061をセンサセル204に滴下する。第2のVHH抗体2063は、蛍光物質2064で標識された標識化抗体である。試料は、ウイルス2062を含み得る液体であり、本実施の形態では、サイクロン108から排出された捕集液である。
【0059】
試料にウイルス2062が含まれれば、当該ウイルス2062は、第1のVHH抗体2045を介してセンサ基板204bの金属微細構造体に結合する。このとき、ウイルス2062は、蛍光物質2064で標識された第2のVHH抗体2063とも結合している。つまり、センサ基板204bの金属微細構造体に、第1のVHH抗体2045、ウイルス2062、第2のVHH抗体2063及び蛍光物質2064の複合体が結合される。この状態で、センサ基板204bの金属微細構造体に光が照射されると、ウイルス2062と間接的に結合している蛍光物質2064から蛍光が発せられ、当該蛍光が表面プラズモンによって増強される。以降において、表面プラズモンによって増強された蛍光を表面増強蛍光と呼ぶ。なお、第1の抗体及び第2の抗体は、VHH抗体を例にして説明するが、VHH抗体に限定されるものではなく、IgG抗体であってもよい。
【0060】
図3において、センサ基板204bの金属微細構造体上にはSAM2044が形成されている。本実施の形態では、SAM2044は、例えば、炭素数が6程度のアルキル鎖を含む。第1のVHH抗体2045は、SAM2044を介してセンサ基板204bの金属微細構造体に固定されている。
【0061】
サンプル液体2061中に、ウイルス(被検出物質)2062が含まれる場合、そのウイルス2062は、センサ基板204bの金属微細構造体に固定された第1のVHH抗体2045に結合する。ウイルス2062には、蛍光物質2064で標識された第2のVHH抗体2063も結合されている。
【0062】
このような金属微細構造体に励起光が照射されると、蛍光物質2064から蛍光が発せられ、センサ基板204bの金属微細構造体に生じた表面プラズモンによって当該蛍光が増強される。つまり、ウイルス2062の量に対する表面増強蛍光が発せられる。
【0063】
光源208は、センサセル204に励起光を照射する光照射部の一例である。光源208としては、公知の技術を特に限定することなく利用することができる。例えば、半導体レーザ、ガスレーザ等のレーザを光源208として利用することができる。なお、光源208は、ウイルスに含まれる物質と相互作用が小さい波長(例えば、400nm~2000nm)の励起光を照射することが好ましい。さらには、励起光の波長は、半導体レーザが利用できる波長600nm~850nmであることが好ましい。本実施の形態では、励起光の波長及び蛍光物質が発する波長は、750nm~850nmである。
【0064】
ビームスプリッタ210は、光源208から照射された励起光からセンサ基板204bで発生した表面増強蛍光を分離する。具体的には、ビームスプリッタ210は、光源208からの励起光を通過させ、センサセル204で発生した表面増強蛍光を分離して検出部214に導く。
【0065】
レンズ212は、ビームスプリッタ210を通過した光源208からの励起光をセンサ基板204bに集光する。
【0066】
検出部214は、ビームスプリッタ210により導かれた表面増強蛍光を分光し、特定の波長域の光を検知することにより、試料中のウイルスの量に相当する電気信号を出力する。検出部214は、特定の波長の光を検出できるものであれば公知の技術を特に限定無く利用することができる。例えば、検出部214として、光を分光するために特定の波長を透過させる干渉フィルター、回折格子を用いて分光するツェルニー型分光器、及び、エシェル型分光器等を利用することができる。さらには、検出部214に光源208からの励起光を除去するためのノッチフィルター、あるいは、光源208からの励起光を遮断し、かつ、センサセル204で発生した表面増強蛍光を透過させることができるロングパスフィルターを含んでもよい。
【0067】
[コントローラの構成]
図1に示すように、コントローラ300は、検出システム10全体の動作を制御する。具体的には、コントローラ300は、捕集装置100及び検出装置200を制御する。
【0068】
より具体的には、コントローラ300は、測定の開始を制御して、吸引器102に周辺の空気の吸引を開始させ、かつ、ポンプ106に、捕集液タンク104からサイクロン108に捕集液を供給させる。これにより、サイクロン108において、捕集液と微粒子とが混合され、試料がサイクロン108から検出装置200に供給される。さらには、コントローラ300は、光源208に光を照射させ、検出部214に表面増強蛍光を検知させる。
【0069】
例えば、コントローラ300は、入力パラメーターに基づいて、予め設定された条件で、各ポンプを制御して所定体積のサンプル液体2061を検出装置200に供給することができる。さらに、コントローラ300に計時機能を有しており、各動作に要した時間の情報を生成し記憶してもよい。また、コントローラ300は、検出装置200から計測値を受信して、計測値と時間の情報とに基づいて、空気中を浮遊するウイルスの濃度の経時的変化を算出してもよい。
【0070】
なお、コントローラ300は、例えば、1以上の専用の電子回路によって実現される。1以上の専用の電子回路は、1個のチップ上に集積されてもよいし、複数のチップ上に個別に形成されてもよい。また、コントローラ300は、1以上の専用の電子回路の代わりに、汎用のプロセッサ(図示せず)と、ソフトウェアプログラム又はインストラクションが格納されたメモリ(図示せず)とによって実現されてもよい。この場合、ソフトウェアプログラム又はインストラクションが実行されたとき、プロセッサは、コントローラ300として機能する。
【0071】
[センサ基板の構成]
ここで、センサ基板204bの詳細な構成について、
図4A、
図4B及び
図5を参照しながら具体的に説明する。
【0072】
図4Aは、実施の形態におけるセンサセル204のセンサ基板204b斜視図である。
図4Bは、
図4AのIVB-IVB線における金属微細構造体2041の拡大断面図である。
【0073】
図4Aに示すように、センサ基板204bには、プラズモン共鳴を発生するためのナノスケールの金属微細構造体2041が設けられている。本実施の形態では、
図4Bに示すように、金属微細構造体2041は、樹脂基板2042及び金属膜2043を備える。
【0074】
樹脂基板2042は、ナノインプリント又は射出成形により形成された複数の微細突起2042aを有する。ここでは、複数の微細突起2042aの形状は、ピラー形状(円柱形状)である例を示す。この複数の微細突起2042aにおいて、微細突起の高さHと微細突起2042a間のピッチPのサイズとの比率は、1:1~1:3であるとよい。本実施の形態では、励起光の波長及び蛍光の波長は、例えば、ウイルスに含まれる物質と相互作用が小さい波長である750nm~850nmの範囲の波長である。したがって、本実施の形態では、例えば、複数の微細突起2042aは、直径Dが140nm以上400nm以下であり、高さHが125nm以上225nm以下の円柱であり、微細突起2042a間のピッチPが280nm以上520nmであるとよい。特に、複数の微細突起2042aは、直径Dが約230nm、高さHが約200nmの円柱であり、微細突起2043a間のピッチが約460nmであるとよい。なお、樹脂基板2042の複数の微細突起2042aは、これに限定されるものではなく、複数の円柱の代わりに、複数の半球体を含んでもよい。
【0075】
図4Bに示すように、金属膜2043は、樹脂基板2042に金属を成膜することで作製される。金属膜2043上には、SAM2044が形成されており、第1のVHH抗体2045は、このSAM2044を介して金属微細構造体2041に固定される。金属膜2043には、樹脂基板2042の複数の微細突起2042aに対応する複数の突起部2043aが形成されている。励起光の波長及び蛍光の波長が750nm~850nmである場合は、金属膜2043の厚みBは、複数の微細突起の頂部において、複数の微細突起の高さHの1.6倍以上2.3倍以下であるとよい。このとき、金属膜2043の厚みBは、複数の微細突起の頂部において、310nm以上460nm以下であるとよい。特に、金属膜2043の厚みBは、約385nmであるとよい。また、複数の突起部2043aにおいて隣接する突起部間の隙間の最小幅Wは、10nmより大きく40nmより小さくてもよい。間隙のセンサ基板の厚み方向における深さAは、380nm以上510nm以下であるとよい。間隙の底部は、複数の微細突起のいずれの頂部より下方に位置するとよい。
【0076】
金属膜2043の材料は、特に限定される必要はなく、金、銀、銅、若しくは、アルミニウム、又はこれらの金属を主成分として含む合金であってもよい。また、本実施の形態では、金属膜2043の成膜方法は、特に限定される必要はなく、例えば、スパッタリング又は真空蒸着で作製してもよい。
【0077】
図4A及び
図4Bを再び参照すると、本実施の形態に係るセンサ基板204bは、金属微細構造体2041を備える。金属微細構造体2041は、励起光が照射されることによって表面プラズモンを生じさせる。また、金属微細構造体2041は、平面状に配置された複数の突起部2043aで構成されている。
【0078】
次に、本実施の形態に係るセンサ基板204bが備える金属微細構造体2041について、
図5を参照しながら具体的に説明する。
図5は、実施の形態に係るセンサ基板204bが備える金属微細構造体2041を説明する図である。
【0079】
図5において、外郭線Lは、複数の突起部2043a(
図4B参照)の平面視における輪郭である。複数の突起部2043aは、隣接する突起部2043a間の中央を通る仮想線Vが、ハニカム形状を描くように配置されている。例えば、それぞれ隣接する3つの突起部2043aの中心をそれぞれC1、C2及びC3とすると、隣接する2つの突起部2043a間の中央は、中心C1及びC3を結ぶ線分をd1に二等分する中点に位置する。同様に、接する2つの突起部2043a間の中央は、中心C1及びC2を結ぶ線分をd2に二等分する中点に位置し、中心C2及びC3を結ぶ線分をd3に二等分する中点に位置する。隣接する突起部2043a間の中央を通る仮想線Vは、隣接する突起部2043aの中央を結ぶ線分の垂直二等分線を他の線分の垂直二等分線と交わる点で繋げると、ハニカム形状を描く。また、外殻線Lの形状、すなわち複数の突起部2043aの各々の形状は、平面視において、略六角形状である。また、
図5において、仮想円Mは、ハニカム形状を構成する六角形に内接している。
【0080】
略六角形状とは、例えば、完全な六角形状であってもよく、角が丸みを帯びた六角形状、六角形の各辺が若干の曲率を有する線で構成された形状などであってもよい。
【0081】
次に、複数の突起部2043aの各々の形状が略六角形状であることのメリットについて説明する。一般に、プラズモンによる電場増強は、金属間に形成される小さな間隙(ナノギャップ)において大きいことが知られている。複数の突起部の形状が球形形状である場合は、隣接する突起部間の間隙の最小幅の領域は、平面視において、点で存在する。一方、本開示のように、複数の突起部2043aの形状が平面視において略六角形状である場合は、隣接する突起部2043a間の間隙の最小幅W(
図4B参照)の領域は、各突起部2043aの全周に亘って存在するため、線になる。つまり、複数の突起部2043aの形状が平面視において略六角形状である場合、単位面積あたりの間隙の最小幅Wの領域の面積が増加するため、複数の突起部の形状が球形形状である場合よりも、電場増強効果が大きくなる。
【0082】
すなわち、複数の突起部2043aの各々のほぼ全周に亘って間隙の幅を狭くすることができるため、表面プラズモンが発生する領域が大きくなり、電場増強効果を高めることができる。
【0083】
従来より、基板上にポリスチレン球などを細密構造となるように配列させ、その上に金属膜(Au)を成膜して複数の突起部を形成するAuFON(Au film over
nanosphere)が知られている。また、金属微細構造体を構成する複数の突起部が、平面視において、六角形形状に近い形状である構造も報告されている。しかしながら、これらの金属微細構造体は、断面視において、複数の突起部間のナノギャップが浅く形成されるため発光増強も限られていた。また他の問題として、AuFONは安定的に作製することが極めて困難なため研究には用いられるが、生産性及び再現性の観点から、製品に用いることは極めて困難である。
【0084】
一方、
図5に図示はしていないが、隣接する突起部2043aの間に存在する間隙のセンサ基板204bの厚み方向における深さA(
図4B参照)は、仮想円の半径よりも大きい。これにより、間隙の深さを深く形成することができるため、間隙に入る被検出物質の割合を増大させることができる。また、表面プラズモンは、間隙において最大となるため、間隙の深さが深くなると、表面プラズモンが発生する領域は深さ方向に大きくなり、電場増強効果を高めることができる。
【0085】
[センサ基板の製造方法]
続いて、本実施の形態に係るセンサ基板の製造方法について、
図6を参照しながら具体的に説明する。
図6は、本実施の形態に係るセンサ基板の製造方法を説明するフローチャートである。
【0086】
図6に示すように、本実施の形態に係るセンサ基板の製造方法は、複数の微細突起を有する樹脂基板を準備する工程S1と、樹脂基板上に金属膜を形成することにより複数の突起部を有する金属微細構造体を備えるセンサ基板を形成する工程S2と、を含む。
【0087】
樹脂基板の準備工程S1では、樹脂基板上に複数の微細突起を形成することができれば形成方法は特に限定されず、例えば、ナノインプリント法であってもよく、射出成型法であってもよい。微細突起の形状は、ピラー形状(円柱形状)であってもよく、半球形状であってもよい。複数の微細突起の形状が円柱形状である場合、複数の微細突起の各々は、上述した直径、高さ、ピッチで形成されるとよい。
【0088】
センサ基板の形成工程S2では、樹脂基板の準備工程S1で得られた複数の微細突起を有する樹脂基板上に金属膜を形成する。これにより、複数の突起部を有する金属微細構造体が形成され、金属微細構造体を備えるセンサ基板が得られる。金属微細構造体が形成された領域を検出領域という。金属膜を形成する方法は、例えば、スパッタリング法、及び真空蒸着法などが挙げられる。金属膜は、樹脂基板上の複数の微細突起が形成された検出領域のみに形成される。なお、本実施の形態に係るセンサ基板は、一例であり、所望の大きさ及び形状に形成されてもよい。
【0089】
なお、上記製造方法では、複数の微細突起を有する樹脂基板上に金属膜を形成することにより複数の突起部を有する金属微細構造体を備えるセンサ基板の製造方法を説明したが、金属微細構造体を形成し、他の基板に組み込むことによりセンサ基板を製造してもよい。
【0090】
(実験例)
以下、実験例を挙げて本開示をより具体的に説明するが、これらの実験例は、本開示を何ら制限するものではない。
【0091】
[センサ基板の作製]
複数の微細突起を有する樹脂基板として、複数のピラー形状の微細突起がナノインプリントにより形成された樹脂基板を用いた。複数の微細突起のそれぞれは、高さが200nm、直径が230nm、ピッチが460nmであった。続いて、この樹脂基板をスパッタ装置に入れ、所定の値(2×10-4Pa~8×10-4Pa)まで真空引きした。そして、スパッタリングにより、樹脂基板に金(Au)を微細突起の頂部からの厚み(以下、凸部Au膜厚と呼ぶ)が190nm、290nm、385nm、435nm、及び480nmとなるように成膜することで、金属微細構造体を備えるセンサ基板を作製した。なお、スパッタリングは、以下の条件の範囲で適宜調整して行った。
【0092】
出力:20W~30W
時間:1000秒~2000秒
アルゴンガスの流量:10sccm~30sccm
基板回転数:10rpm~30rpm
ターゲットと基板間の距離:80mm~120mm
【0093】
得られたセンサ基板の金属微細構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0094】
図7A~
図7Eは、それぞれ、凸部Au膜厚が190nm(実験例A)、290nm(実験例B)、385nm(実験例C)、435nm(実験例D)、及び480nm(実験例E)の金属微細構造体の平面SEM像である。なお、実験例C及び実験例Dが本開示における実施例に、実験例A、実験例B及び実験例Eが比較例に相当する。
【0095】
図7Aに示すように、実験例Aでは、金属膜の厚みが比較的薄いため、金属膜は複数の微細突起の形状に従い形成される。そのため、金属微細構造を構成する複数の突起部の形状は、平面視において、円形形状である。
【0096】
図7B~
図7Eに示すように、凸部Au膜厚が290nm(実験例B)付近から膜厚の増加に伴い徐々に複数の突起部の形状が変化し始める。つまり、金属微細構造を構成する複数の突起部の形状は、平面視において、円形形状から六角形状に変化し始め、
図7Eに示す実験例Eでは、かなり六角形に近い形になる。
【0097】
ここで、
図7Bに示す実験例Bの金属微細構造体では、複数の突起部の各々の形状は、平面視において、円形形状である。
【0098】
一方、
図7C~
図7Eに示す実験例C~実験例Eの金属微細構造体では、複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状である。
【0099】
以下、複数の突起部が六角形状に近付く理由について説明する。通常、円柱形状の複数の微細突起の上に金属膜を成膜すると、金属膜は、複数の突起部の各々が球形形状(センサ基板に対する平面視において、円形形状)になるように成長する。さらに成膜を続け、金属膜の厚みが増加するにつれて、隣接する突起部間の隙間は狭くなる。隣接する突起部間の隙間が狭くなると、狭くなった隙間において、隣接する突起部の側面の成膜が抑制される。一方、隣接する突起部間の隙間が広い部分、例えば、互いに隣接する3つの突起部に囲まれた隙間では、隣接する突起部の側面の成膜が抑制されにくい。そのため、結果的には、本開示のように、金属微細構造体を構成する複数の突起部の各々の形状は、平面視において、略六角形状となる。
【0100】
図8A~
図8Eは、それぞれ、実験例A~実験例Eの金属微細構造体の斜視SEM像である。
【0101】
図8Aに示すように、実験例Aでは、金属微細構造を構成する複数の突起部の形状は、頂部が丸みを帯びた円形形状であり、突起部間の間隙は広い。
【0102】
図8B~
図8Eに示すように、凸部Au膜厚が大きくなるにつれて、複数の突起部間の間隙が狭くなり、上述したように、複数の突起部の形状は、平面視において、略六角形状に近付いていることが分かる。
【0103】
図9A~
図9Eは、それぞれ、実験例A~実験例Eの金属微細構造体の断面SEM像である。これらの断面SEM像では、突起部の形状の視認性を高めるために、複数の突起部2043aを保護膜で被覆して撮影したものである。
【0104】
図9A~
図9Dでは、隣接する突起部2043a間の間隙の底部が、複数の微細突起2042aのいずれの頂部より下方に位置する。したがって、隣接する突起部2043aの間に存在する間隙のセンサ基板の厚み方向における深さA(
図4B参照)は、仮想円の半径よりも大きい。
【0105】
一方、
図9Eでは、隣接する突起部間に接触箇所が生じている。そのため、隣接する突起部2043a間の間隙の底部が、複数の微細突起2042aのいずれの頂部よりも上方に位置する。したがって、隣接する突起部2043aの間に存在する間隙のセンサ基板の厚み方向における深さA(
図4B参照)は、仮想円の半径よりも小さい。
【0106】
本開示における金属微細構造体では、複数の突起部2043a間の間隙は、凸部Au膜厚が増加すると狭くなる。
図9Aに示す実験例Aの金属微細構造体では、隣接する突起部2043a間の間隙の最小幅は、約90nmであった。
図9Bに示す実験例Bの金属微細構造体では、隣接する突起部2043a間の最小幅は、約40nmであった。
図9Cに示す実験例Cの金属微細構造体では、隣接する突起部2043a間の間隙の最小幅は、約20nmであった。
図9Dに示す実験例Dの金属微細構造体では、隣接する突起部2043a間の間隙の最小幅は、約15nmであり、一部に、突起部同士が接触して間隙が存在しない箇所があった。また、
図9Eに示す実験例Eの金属微細構造体では、最小幅が約10nmの間隙が数か所存在したものの、多くは、突起部同士が接触していて間隙が存在しなかった。
【0107】
間隙は、電場増強の観点から、狭ければ狭いほど良いが、狭くしすぎると隣接する金属微細構造同士が接触する箇所が出来る。間隙に接触箇所があると、その間隙では所望のプラズモン共鳴が得られないため、結果的には単位面積あたりの発光増強は減少する。そのため、単位面積当たりの発光強度を減少させないために、接触箇所の増加を抑制しつつ間隙を狭くするとよい。
【0108】
また、本開示に係るセンサ基板をサンドイッチAssayを利用したウイルスセンサとして使用する場合には、被検出物質、例えば、ウイルスの核タンパク質(NP)に特異的に結合する性質を有する第1の抗体が金属微細構造体に固定されたセンサ基板を使用する。サンドイッチAssayでは、金属微細構造体の表面のSAMに固定化された第1の抗体(以下、固定化抗体)にNPを結合させた後、NPと特異的に結合する性質を有し、蛍光物質で標識された第2の抗体(以下、標識化抗体)をNPと結合させる。これにより、固定化抗体/NP/標識化抗体の複合体が形成される。NPがインフルエンザウイルスの核タンパク質であって、固定化抗体及び標識化抗体としてVHH抗体を用いた場合には、固定化抗体、NP及び標識化抗体の大きさは、それぞれ5nmであるため、複合体の大きさは15nmになる。サンドイッチAssayで得られた複合体が最大の電場増強領域である隣接する突起部間の間隙に存在する場合、間隙が金属微細構造体の中で最も強い電場増強領域であるため、最も強い発光が得られる。そのため、間隙の最小幅は15nm以上であるとよい。以上より、ナノギャップは15nm以上かつできるだけ狭い方がよい。つまり、
図9Cに示す実験例Cの金属微細構造体では、間隙の最小幅が20nmであるため最も望ましく最大の発光増強が得られると推察される。
【0109】
図示はしていないが、金属微細構造体は、785nmの波長を有する励起光を照射されると、金属微細構造体の表面においてプラズモン共鳴が生じるとともに、複合体を構成する蛍光物質から800nmの波長を有する蛍光が発せられた。この金属微細構造体では、650nm~850nmの波長帯に急峻なプラズモン共鳴による吸収ピークが見られた。
【0110】
[SAMの形成及び固定化抗体の固定化]
センサ基板をウイルスセンサとして使用する場合、金属微細構造体の表面に固定化抗体が固定化されたSAMを形成する。ここでは、上記方法により作製されたセンサ基板を、40℃のインキュベータ内でSAM溶液に一晩浸漬することにより、金属微細構造体上にSAMを形成した。
【0111】
なお、SAM溶液は、以下の手順で調製した。Carboxy-EG6-undekanethiolと、Hydroxy-EG3-undecanethiolとをそれぞれエタノールで希釈し、混合した。得られた混合材料を、エタノールで希釈することでSAM溶液を調製した。
【0112】
第1のVHH抗体及び第2のVHH抗体として、インフルエンザウイルスの核タンパクと特異的に結合するアルパカ由来のVHH抗体を準備した。
【0113】
その後、SAMのカルボキシル基(COOH)末端と、第1のVHH抗体のアミノ基(NH2)末端とを、EDC-NHS反応によりペプチド結合させ、第1のVHH抗体をSAMに固定化した。
【0114】
[被検出物質の検出]
固定化された第1のVHH抗体に、被検出物質であるインフルエンザウイルスの核タンパク質(NP)を結合させ、さらに蛍光物質である有機蛍光色素(発光波長800nm)で標識化した第2のVHH抗体をNPと結合させることでサンドイッチAssayを行った。
【0115】
サンドイッチAssayにより得られたサンプルに、785nmの波長を有するレーザ光を照射することで、サンプルに含まれる複合体の有機蛍光色素を励起させ、その有機蛍光色素が発する800nmの波長を有する蛍光の強度を測定した。
【0116】
図10は、センサ基板をウイルスセンサに使用した場合の、金属微細構造体の凸部Au膜厚の違いによる蛍光強度を示したグラフである。凸部Au膜厚の異なる5つのセンサ基板に、同量のNP及び標識化抗体を導入し、サンドイッチAssayを行った。本開示では、蛍光強度が3000カウント以上である場合、所望の検出感度を有するため、3000カウントを閾値とした。このとき、凸部Au膜厚は、310nm以上460
nm以下の範囲内である。
【0117】
上述したように、実験例A及び実験例Bの金属微細構造体を有するセンサ基板では、複数の突起部の各々の形状は、平面視において、円形形状である。また、実験例A及び実験例Bの金属微細構造体では、それぞれ隣接する突起部間の間隙の最小幅は、約90nm及び約40nmである。そのため、電場増強度は小さくなる。その結果、
図10に示すように、これらの2つのセンサ基板では、蛍光強度が弱い。
【0118】
一方、実験例Cの金属微細構造体を有するセンサ基板では、最大の蛍光強度が得られている。このとき、隣接する突起部間の間隙の最小幅は、約20nmであった。上述のように、サンドイッチAssayにより得られた、固定化抗体/NP/標識化抗体の複合体の大きさは15nmである。そのため、間隙の最小幅が約20nmであると、サンドイッチAssayで得られた複合体が最大の電場増強領域である間隙に存在し得るため、最も強い蛍光増強が得られる。
【0119】
また、実験例Dの金属微細構造体を有するセンサ基板では、実験例Cの金属微細構造体を有するセンサ基板よりも蛍光強度が低下している。このとき、隣接する突起部間の間隙の最小幅が複合体の大きさ(15nm)以下になるため、間隙の最小幅が複合体の大きさよりも大きい場合に比べ、複合体が間隙の最小幅部分より下方に入りにくくなる。そのため、実験例Cの場合よりも蛍光強度が低下したと考えられる。しかしながら、蛍光強度が約3600カウントであり、閾値以上の蛍光強度が得られている。
【0120】
また、実験例Eの金属微細構造体を有するセンサ基板では、実験例Dの金属微細構造体を有するセンサ基板よりもさらに蛍光強度が低下している。
図9D及び
図9Eの断面SEM像より、実験例Eの金属微細構造体では、実験例Dの金属微細構造体よりも隣接する突起部同士が接触する箇所が多くなるため、単位面積当たりの発光強度が低下する。そのため、実験例Dの金属微細構造体を有するセンサ基板よりもさらに蛍光強度が低下したと考えられる。このとき、蛍光強度は約2200カウントであり、蛍光強度が閾値よりも低い。
【0121】
以上、本開示に係るセンサ基板、センサ基板の製造方法及び検出装置について、実施の形態及び実験例に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態及び実験例に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態及び実験例に施したものや、実施の形態及び実験例における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【0122】
なお、上記実施の形態では、1つのセンサデバイス202に1つのセンサセル204を備える構成を示したが、1つのセンサデバイス202に複数のセンサセル204を備えてもよい。また、上記実施の形態では、センサデバイス202の形状は、矩形形状である例を示したが、例えば、CDのように円形形状であってもよい。これにより、複数の検出を1つのセンサデバイス202で簡便に行うことができる。
【0123】
なお、上記実施の形態では、金属微細構造体2041上にSAM2044が形成されていたが、必ずしもSAM2044が形成される必要はない。つまり、金属膜2043上にSAM2044が形成されなくてもよい。
【0124】
なお、上記実施の形態では、検出装置200は、ビームスプリッタ210及びレンズ212を用いて表面増強蛍光の検出を行っていたが、この構成に限定されない。
【0125】
なお、上記実施の形態では、励起光の波長及び蛍光の波長の両方が1つの吸収領域に含まれている例を説明したが、励起光の波長及び蛍光の波長は2つの吸収領域に個別に含まれてもよい。この場合であっても、表面プラズモンを効率的に生じさせ、蛍光を効果的に増強することができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示に係るセンサ基板は、例えば発光増強蛍光法などで使用される表面プラズモンセンサ基板であり、ウイルスセンサなどに用いることができる。本開示に係るセンサ基板、センサ基板の製造方法及び検出装置は、部屋に滞在している人へのウイルスの感染リスクを低減するために、部屋の空気中の浮遊するウイルス濃度を高感度に検出する検出システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0127】
10 検出システム
100 捕集装置
102 吸引器
104 捕集液タンク
106、114 ポンプ
108 サイクロン
110 空気吸入口
112 洗浄液タンク
120 廃液タンク
122 液体流路
200 検出装置
202 センサデバイス
204 センサセル
204a 流路
204b センサ基板
206 導入部
208 光源
210 ビームスプリッタ
212 レンズ
214 検出部
2041 金属微細構造体
2042 樹脂基板
2042a 微細突起
2043 金属膜
2043a 突起部
2044 SAM
2045 第1のVHH抗体
2061 サンプル液体
2062 ウイルス(被検出物質)
2063 第2のVHH抗体
2064 蛍光物質
L 外郭線
M 仮想円
V 仮想線