(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】シート被覆物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/12 20060101AFI20230303BHJP
E03C 1/20 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
B29C51/12
E03C1/20 A
(21)【出願番号】P 2019030096
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅地 正博
(72)【発明者】
【氏名】喜多 亮太
(72)【発明者】
【氏名】植田 真矢
(72)【発明者】
【氏名】増川 功一
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-301759(JP,A)
【文献】特開2013-204259(JP,A)
【文献】特開2015-194011(JP,A)
【文献】特開2010-064448(JP,A)
【文献】特開2004-238030(JP,A)
【文献】特開平08-189212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00 - 51/46
E03C 1/12 - 1/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部が上方に突出した基材の内底面の上に、該内底面の略全体が隠されるようにインサート物を載置する工程と、
加熱されたシート材を、前記インサート物の露出部分を覆い隠すように、前記基材の上方より加圧して、前記シート材と前記周縁部の
上端面および内壁面とが接着されるように前記基材に接着する工程とを備えたことを特徴とする、シート被覆物の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記基材は孔が開設されており、該孔の前記基材の前記インサート物を載置した面と反対側の面から前記インサート物の一部が露出することを特徴とする、シート被覆物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記シート材の表面が水受け面とされることを特徴とする、シート被覆物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面をシート材で被覆したシート被覆物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシート被覆物として、製品の主たる部材をなす基材の上にインサート物を積層し、そのインサート物の表面全体をシート材で被覆したものがある。このようなシート被覆物として例えば、板状の基材に、断熱材やクッション材、面状ヒーターなどの機能部材よりなるインサート物を積層し、その上をシート材で被覆した、浴室用床パンや洗面室カウンターなどの製品が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に示したものは、基材の上に機能部材を配置し、さらに機能部材の表面全体をシート材(表面材)で接着して覆う方法が採られている。つまり、このシート被覆物は、機能部材が成形品とシート材とに挟まれて、機能部材への水の浸入が起こらないように保護される構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように機能部材を矩形パン状の基材の内底面に配する場合、矩形パン状体の内壁面と機能部材との間に隙間ができ、機能部材の表面のみにシート材を配するだけでは機能部材の側端面が露出するおそれがある。つまり、機能部材の表面をシート材で覆うだけでは、機能部材の保護としては不十分である。シート材を、機能部材の側端面をも覆うように、隙間などができないように被覆すればよいが、その作業はきわめて困難とされる。
【0006】
また、機能部材を保護する方法として、基材の裏側に配置する方法も想定できるが、機能部材が面状ヒーターである場合などには、基材の厚みのせいで、面状ヒーターの機能が十分に発揮されない可能性がある。よって、この方法も良策とは言えない。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、その目的は、機能部材などのインサート物をシート材で確実かつ簡易に保護することのできる、シート被覆物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のシート被覆物の製造方法は、周縁部が上方に突出した基材の内底面の上に、該内底面の略全体が隠されるようにインサート物を載置する工程と、加熱されたシート材を、前記インサート物の露出部分を覆い隠すように、前記基材の上方より加圧して、前記シート材と前記周縁部の上端面および内壁面とが接着されるように前記基材に接着する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシート被覆物の製造方法は上述した構成とされているため、機能部材などのインサート物をシート材で確実かつ簡易に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、シート被覆物の製造方法の概略手順を示す図である。
【
図2】(a)は基材の一例を示す斜視図、(b)はインサート物を載置した基材の斜視図、(c)は(b)の一部の拡大部分縦断面図である。
【
図3】(a)はシート被覆物の製造方法で形成されたシート被覆物(トリミング前)の斜視図、(b)はシート被覆物の製造方法で形成されたシート被覆物(トリミング後)の斜視図、(c)は(b)のX部を模式的に示した部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面をもとに説明する。まず、シート被覆物の製造方法(以下では、本製造方法と略す)の概略基本手順について記述する。
【0012】
本製造方法は、基材10の上にインサート物20を載置する工程と、加熱されたシート材25を、インサート物20の露出部分を覆い隠すように、基材10の上方より加圧して基材10に接着する工程とを備えている(
図1参照)。
【0013】
ここで、基材10としては種々の素材のものを想定できるが、後述するように加熱にて基材10の上にシート材25の接着を行うため、加熱にて変形しないものとすることが望ましい。一方、シート材25としては、後述するように加熱にて軟化する素材であることが望ましく、例えば熱可塑性樹脂シートが好適に使用され得る。
【0014】
ついで、本製造方法の詳細について説明する。以下では、本製造方法で用いられる基材10が、周縁部11が上方に突出した矩形パン状体10であることを例に挙げて説明する。矩形パン状体10を基材10としたシート被覆物1としては、例えば浴室用床パン1が挙げられる(
図2、
図3参照)。つまり、浴室用床パン1は、その基材10である矩形パン状体10の内底面14にインサート物20を積層し(
図2参照)、シート材25で被覆した構成(
図3参照)とされる。浴室用床パン1用のインサート物20としては、面状ヒーター20などの機能部材20が挙げられる。
【0015】
図2(a)に示すように、矩形パン状体10の内底面14の端縁部には排水口18が形成されており、底部(内底面14)は、その排水口18に向けて水が流れるように水勾配をつけて形成されている。この内底面14は、2つの折曲ライン15で区分された3つの平面よりなる。
【0016】
本製造方法では、浴室用床パン1の製造装置として、個別に減圧可能とした上下チャンバーボックス31、35を有した真空・圧空成形機30(以下、成形機30という)が用いられる(
図1(a)参照)。この成形機30は、種々の基材の表面にシートやフィルムを接着するための装置である。
【0017】
上チャンバーボックス31と下チャンバーボックス35とは、それらの開口部どうしが向き合い、開閉(開口部間の離反/近接)自在とされており、閉じたときには内部に閉空間が形成される構成とされている。なお本例では、開閉が上チャンバーボックス31の上下移動によりなされる。
【0018】
上チャンバーボックス31は、内部空間を加熱するヒーター32を有している。上チャンバーボックス31には上駆動装置33が併設されており、この上駆動装置33により、上チャンバーボックス31の開閉動作およびヒーター32のオン/オフ動作などがなされる。
【0019】
下チャンバーボックス35は内部に、基材10を設置するための上下移動可能な設置テーブル36を有している。下チャンバーボックス35には下駆動装置37が併設されており、この下駆動装置37により、設置テーブル36の上下動作がなされる。
【0020】
また、この成形機30は、上下チャンバーボックス31、35の開口部間にシート材25を張架状態に配されるように保持するシート保持機39を備えている。張架状態に配されたシート材25は、上下チャンバーボックス31、35の開口部どうしが閉じているときには、
図1(a)に示すように、開口部間に挟まれた状態となる。成形機30はさらに内部空間を減圧するための真空タンクおよび内部空間を加圧するための圧空タンクを有しているが、これらについては図示を省略した。
【0021】
図1(a)~(e)、
図2(a)~(c)および
図3(a)~(c)を参照しながら、本製造方法の具体例について説明する。
【0022】
まず、矩形パン状体10の凹部に、機能部材20(面状ヒーター20)を載置する(準備工程、
図1(a)および
図2(a)(b)(c)参照)。面状ヒーター20は、矩形パン状体10の凹部の内底面14に載置できる形状、寸法とされる。面状ヒーター20は、
図2(b)に示すように、矩形パン状体10の凹部の内底面14がほとんど隠れる程度の形状、寸法であることが望ましい。
【0023】
面状ヒーター20は電力供給を受けるためのリード線21が接続されており、このリード線21を外部に露出させるために、矩形パン状体10の内底面14には外底面17に通じる孔16が開設されている(
図2(c)参照)。なお、リード線21を孔16から外部に導出してから、面状ヒーター20を内底面14に載置すればよい。
【0024】
また、シート材25の接着、被覆のために、あらかじめシート材25の一方の面、または矩形パン状体10の周縁部11の上端面11a、内壁面12および面状ヒーター20の上面などに接着剤を塗布しておけばよい。なお、面状ヒーター20の裏面を接着剤で内底面14に接着させて固定させておいてもよい。
【0025】
つぎに、下チャンバーボックス35内の設置テーブル36に、面状ヒーター20を凹部内に配した基材10(矩形パン状体10)を、面状ヒーター20の上面が露出するように設置する(基材設置工程、
図1(a)参照)。つまり、矩形パン状体10は凹部が上方を向いた状態で設置テーブル36に設置される。
【0026】
矩形パン状体10は、設置された状態では、その外底面13が設置テーブル36に接触し、かつ内底面14のほとんどがインサート物20で隠されているから、それら以外の部位が下チャンバーボックス35内の内部空間に露出する。具体的には、矩形パン状体10の周縁部11の上端面11a、内壁面12、外壁面13および面状ヒーター20の上面は露出する。なお、上記準備工程は、基材10を設置テーブル36に設置した状態で実施してもよい。
【0027】
この基材設置工程と相前後して、シート材25を張架した状態となるようにシート保持機39で保持して、シート材25を上下チャンバーボックス31、35の開口部間に配置する(シート材設置工程、図1(a)参照)。そして、上下チャンバーボックス31、35を閉じ、それにより内部空間をシート材25で上下2つのスペースに分ける(図1(a)参照)。
【0028】
つぎに、上下チャンバーボックス31、35の内部を同時に真空となるように減圧し、上チャンバーボックス31内をヒーター32で加熱する(加熱工程、図1(b)参照)。シート材25は加熱されることで徐々に軟化していく。図1(b)の2点鎖線に示すように、シート材25は軟化して弛んだ状態になる。なお、上下チャンバーボックス31、35の減圧、空気導入については、各図に、上下チャンバーボックス31、35に対する横向きの2点鎖線で示した。
【0029】
つぎに、下チャンバーボックス35の設置テーブル36を上方に移動させて、基材10をシート材25の裏面に押し付けていく。それと同時に、上チャンバーボックス31内に大気を導入し、空気により上方からシート材25を加圧して、基材10の露出部分およびインサート物20の露出部分にシート材25を接着させる(一次成形工程、図1(c)(d)参照)。
【0030】
さらに、上チャンバーボックス31内に圧縮空気を導入し、シート材25をさらに加圧してもよい(追加成形工程、図1(d)参照)。
【0031】
ついで、下チャンバーボックス35内に大気を導入し、上チャンバーボックス31を上方に移動させ、シート材25で被覆された基材10を取り出す(取り出し工程、図1(e)参照)。
【0032】
図3(a)は、取り出したシート材25付きの基材10(トリミング前のシート被覆物1)の斜視図である。このシート被覆物1は、一次成形工程の際に、シート材25とともに面状ヒーター20が下方に押圧されているから、矩形パン状体10の内底面14の折曲ライン15が面状ヒーター20の表面にシート材25を介して表れている。排水口18の表面の形状も同様に、シート材25を介して表面に表れている。
【0033】
その後、余剰シート材を取り除き、製品(トリミング後のシート被覆物1)とする(トリミング工程、
図3(a)(b)参照)。この工程では、この浴室用床パン1を浴室に設置することで露出しない部分である外壁面13や、排水口18の開口部分に付着した余剰シート材を取り除けばよい。このようにして、製品とされる浴室用床パン1が得られる。
【0034】
シート材25は、以上のような成形機30を用いることで、矩形パン状体10や面状ヒーター20の露出部分などの3次元表面に対応して、矩形パン状体10の内壁面12にも、途中で途切れることなく隙間なく接着される。したがって、面状ヒーター20と矩形パン状体10の内底面14の寸法関係により、
図2(c)のように、入隅部に隙間空間19ができている場合でも、その隙間空間19にシート材25が入り込み、隙間空間19は埋められ、面状ヒーター20は露出することなく覆われる(
図3(c)参照)。
【0035】
このように、本製造方法によれば、機能部材20などのインサート物20をシート材25で隙間なく被覆することで、インサート物20を確実かつ簡易に保護することができる。また、本製造方法を実施すれば、基材10が上記のような矩形パン状体10である場合でも、インサート物20とともに、周縁部11のすべての内壁面12を覆うようにシート材25が接着され得るので、インサート物20は露出することなく保護される。特に、成形するシート被覆物1が浴室用床パン1である場合など、表面が水濡れするものには有効である。
【0036】
また、基材10が例えばリード線21導出用の孔16を有したものでは、リード線21が孔16から導出するように機能部材20を載置すればよく、そのため電気的配線を準備工程において確実に行うことができる。また、インサート物20を載置した面の孔16やリード線21はシート材25で覆われているため、水密性を担保することができる。なお、インサート物20を載置した面と反対側の面の孔16からリード線21が露出していても、インサート物20を載置した面の側は、インサート物20の露出部分全体がシート材25で覆われているため、反対側の面の水密性も担保することができる。
【0037】
表面が水濡れするシート被覆物1としては、浴室用床パン1に限られず、洗面用カウンターが挙げられる。シート被覆物1としては水濡れのおそれのないものであってもよく、基材10にインサート物20を積層し、その上をシート材25で覆ったものであればどのようなものでもよい。また、インサート物20としては、断熱材、クッション材などであってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 シート被覆物(浴室用床パン)
10 基材(矩形パン状体)
11 周縁部
11a 上端面
12 内壁面
16 孔
20 インサート物(機能部材、面状ヒーター)
25 シート材