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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20230303BHJP
   H01M 8/04014 20160101ALI20230303BHJP
   H01M 8/04029 20160101ALI20230303BHJP
   H01M 8/04186 20160101ALI20230303BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230303BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/04014
H01M8/04029
H01M8/04186
H01M8/10 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019090927
(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2019216091
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018111806
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】フアヨル マリン
(72)【発明者】
【氏名】田村 聡
(72)【発明者】
【氏名】北沢 暢祐
(72)【発明者】
【氏名】林 隆夫
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-526344(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016249(WO,A1)
【文献】特表2010-518559(JP,A)
【文献】特開2016-9573(JP,A)
【文献】特開平1-307173(JP,A)
【文献】特表2015-522913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04-8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード及びアノードを有し、前記カソードにおいてメディエータを還元させることによって電力を生成する燃料電池と、
前記カソードによって還元された前記メディエータを酸化剤によって酸化させる再生器と、
前記再生器に前記酸化剤を供給する酸化剤供給経路と、
前記再生器の内部に存在するガスを前記再生器の外部に排出するガス排出経路と、
前記酸化剤供給経路を流れる前記酸化剤と前記ガス排出経路を流れる前記ガスとを熱交換させて前記酸化剤を加熱する熱交換器と、を備えた、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記カソードと前記再生器とを連通させ、前記カソードから排出された前記メディエータを前記再生器に導くとともに、前記再生器において酸化された前記メディエータを前記カソードに戻す循環経路をさらに備えた、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記熱交換器と前記再生器との間で前記酸化剤供給経路の少なくとも一部を覆う断熱材をさらに備えた、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記再生器と前記熱交換器との間で前記ガス排出経路の少なくとも一部を覆う断熱材をさらに備えた、請求項1~3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記酸化剤供給経路を流れる前記酸化剤を加熱するヒータをさらに備えた、請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記ヒータは、前記熱交換器における前記酸化剤の出口と酸化剤供給経路の出口との間を流れる前記酸化剤を加熱する、請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記再生器の内部を加熱するヒータをさらに備えた、請求項1~6のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記熱交換器は凝縮器であり、
前記熱交換器に接続され、前記熱交換器における前記酸化剤と前記ガスとの熱交換により生じる凝縮水を前記熱交換器の外部に排出する排水経路をさらに備えた、請求項1~7のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化還元対を含有している陰極液を用いた燃料電池システムが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、燃料電池スタック及び再生セクションを備えた燃料電池アセンブリが記載されている。燃料電池スタックは膜電極アセンブリを備え、膜電極アセンブリはアノード及びカソードを備えている。酸化還元対を含有している陰極液は、燃料電池スタックに供給され、膜電極アセンブリのカソードに流動接触した後、再生セクションに供給される。再生セクションには、供給デバイスによって酸化剤が供給される。陰極液中の酸化還元対は、カソードにおける反応によって還元される。陰極液は、カソードで反応した後、カソードから遠ざかり再生セクションに向かう。再生セクションに供給された酸化剤は、陰極液中の酸化還元対を少なくとも部分的に酸化させる。再生セクションにおける反応中に生成される熱及び水蒸気などの副産物は、再生セクションから排気される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-500692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、再生セクションから排気された熱及び水蒸気等の副産物の取り扱いについて具体的には検討されていない。そこで、本開示は、再生器の内部に存在するガスを安全に排出できるとともに再生器におけるメディエータの酸化反応の反応速度を高める観点から有利な燃料電池システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
カソード及びアノードを有し、前記カソードにおいてメディエータを還元させることによって電力を生成する燃料電池と、
前記カソードによって還元された前記メディエータを酸化剤によって酸化させる再生器と、
前記再生器に前記酸化剤を供給する酸化剤供給経路と、
前記再生器の内部に存在するガスを前記再生器の外部に排出するガス排出経路と、
前記酸化剤供給経路を流れる前記酸化剤と前記ガス排出経路を流れる前記ガスとを熱交換させて前記酸化剤を加熱する熱交換器と、を備えた、
燃料電池システムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
上記の燃料電池システムによれば、再生器の内部に存在するガスを安全に排出できる。加えて、上記の燃料電池システムは、再生器におけるメディエータの酸化反応の反応速度を高めるのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の燃料電池システムの一例を示す図である。
図2図2は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す図である。
図3図3は、本開示の燃料電池システムのさらに別の一例を示す図である。
図4図4は、本開示の燃料電池システムのさらに別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
固体高分子型燃料電池等の燃料電池のカソードにおける酸素の還元反応の反応速度は遅く、このことは燃料電池における発電のための反応の効率を低下させる主たる要因である。このため、燃料電池において、還元されやすいメディエータを含む溶液をカソードに供給することが考えられる。この場合、カソードにおいて白金を不要にできる。
【0010】
カソードにおいて還元されたメディエータは、酸化剤によって酸化されることによって再生され、カソードに再度供給できる。これにより、メディエータの還元とメディエータの再生とを繰り返し行うことができる。メディエータの酸化反応は、発熱反応である。このため、メディエータの酸化反応に伴う発熱によりメディエータの溶液の溶媒の一部が蒸発して蒸気になる。これにより、メディエータの再生のための再生器の内部には比較的高温のガスが存在しうる。このガスには未反応の酸化剤も含まれうる。本発明者らは、再生器の内部に存在するガスを燃料電池システムの外部に排出すると、そのガスは高温であるので、安全上の問題が生じる可能性があることを新たに見出した。加えて、本発明者らは、再生器に供給される酸化剤の温度が比較的低温(例えば、20~40℃)であると、メディエータの酸化反応の反応速度を高めにくいことを知った。そこで、本発明者らは、これらの問題を解決すべく日夜検討を重ねた。その結果、本発明者らは、再生器に供給される酸化剤と再生器から排出されたガスとの熱交換により酸化剤を加熱することが上記の課題を解決するうえで有利であることを新たに見出した。この新たな知見に基づいて、本発明者らは、本開示に係る燃料電池システムを案出した。
【0011】
(本開示に係る態様の概要)
本開示の第1態様に係る燃料電池システムは、
カソード及びアノードを有し、前記カソードにおいてメディエータを還元させることによって電力を生成する燃料電池と、
前記カソードによって還元された前記メディエータを酸化剤によって酸化させる再生器と、
前記再生器に前記酸化剤を供給する酸化剤供給経路と、
前記再生器の内部に存在するガスを前記再生器の外部に排出するガス排出経路と、
前記酸化剤供給経路を流れる前記酸化剤と前記ガス排出経路を流れる前記ガスとを熱交換させて前記酸化剤を加熱する熱交換器と、を備える。
【0012】
第1態様によれば、熱交換器において酸化剤供給経路を流れる酸化剤とガス排出経路を流れるガスとが熱交換し、酸化剤が加熱される。換言すると、熱交換器においてガス排出経路を流れるガスは冷却される。これにより、再生器から燃料電池システムの外部に排出されるガスの温度を低減でき、再生器の内部に存在するガスを燃料電池システムの外部に安全に排出できる。加えて、熱交換器において酸化剤が加熱されるので、再生器に供給される酸化剤の温度が高くなりやすい。これにより、再生器におけるメディエータの酸化反応の反応速度を高めることができる。
【0013】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る燃料電池システムは、前記カソードと前記再生器とを連通させ、前記カソードから排出された前記メディエータを前記再生器に導くとともに、前記再生器において酸化された前記メディエータを前記カソードに戻す循環経路をさらに備える。第2態様によれば、循環経路によって、カソードと再生器との間でメディエータを循環させることができる。
【0014】
本開示の第3態様において、例えば、第1態様又は第2態様に係る燃料電池システムは、前記熱交換器と前記再生器との間で前記酸化剤供給経路の少なくとも一部を覆う断熱材をさらに備える。第3態様によれば、熱交換器において加熱された酸化剤の温度が断熱材によって高く保たれ、高温の酸化剤を再生器に供給できる。その結果、再生器におけるメディエータの酸化反応の反応速度を高めることができる。
【0015】
本開示の第4態様において、例えば、第1態様~第3態様のいずれか1つの態様に係る燃料電池システムは、前記再生器と前記熱交換器との間で前記ガス排出経路の少なくとも一部を覆う断熱材をさらに備える。第4態様によれば、再生器から排出されたガスの温度が断熱材によって高く保たれ、熱交換器において酸化剤が高温に加熱されやすい。その結果、より確実に、再生器におけるメディエータの酸化反応の反応速度が高まりやすい。
【0016】
本開示の第5態様において、例えば、第1態様~第4態様のいずれか1つの態様に係る燃料電池システムは、前記酸化剤供給経路を流れる前記酸化剤を加熱するヒータをさらに備える。第5態様によれば、ヒータによって酸化剤が加熱されることにより、再生器に供給される酸化剤の温度をより確実に高めることができる。その結果、再生器におけるメディエータの酸化反応の反応速度を高めることができる。
【0017】
本開示の第6態様において、例えば、第5態様に係る燃料電池システムでは、前記ヒータは、前記熱交換器における前記酸化剤の出口と酸化剤供給経路の出口との間を流れる前記酸化剤を加熱する。第6態様によれば、熱交換器において加熱された酸化剤がヒータによって加熱されるので、ヒータに要求される発熱量が少なくて済み、燃料電池システムの効率を高めることができる。
【0018】
本開示の第7態様において、例えば、第1態様~第6態様のいずれか1つの態様に係る燃料電池システムは、前記再生器の内部を加熱するヒータをさらに備える。第7態様によれば、必要に応じてヒータを発熱させることによって再生器の内部を所望の温度に保ち、メディエータの酸化反応の反応速度を高めることができる。
【0019】
本開示の第8態様において、例えば、第1態様~第7態様のいずれか1つの態様に係る燃料電池システムでは、前記熱交換器は凝縮器であり、前記熱交換器に接続され、前記熱交換器における前記酸化剤と前記ガスとの熱交換により生じる凝縮水を前記熱交換器の外部に排出する排水経路をさらに備える。第8態様によれば、排水経路によって凝縮水を熱交換器の内部から熱交換器の外部へ排出することができる。
【0020】
(実施形態)
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は例示に過ぎず、本開示の燃料電池システムは以下の実施形態に限定されない。
【0021】
図1に示す通り、燃料電池システム1aは、燃料電池10と、再生器20と、酸化剤供給経路31と、ガス排出経路32と、熱交換器35とを備えている。燃料電池10は、カソード11及びアノード12を有し、カソード11によってメディエータを還元させることによって電力を生成する。再生器20は、カソード11によって還元されたメディエータを酸化剤によって酸化させる。酸化剤供給経路31は、再生器20に酸化剤を供給する流路である。ガス排出経路32は、再生器20の内部に存在するガスを再生器20の外部に排出する流路である。
【0022】
燃料電池システム1aにおいて、燃料及びメディエータを再生するための酸化剤は、特に限定されない。燃料電池システム1aにおいて、例えば、燃料として水素が用いられ、酸化剤として空気が用いられる。図1において、実線の矢印は燃料の流れを示し、破線の矢印はメディエータの流れを示し、一点鎖線の矢印は酸化剤の流れを示し、二点鎖線の矢印は再生器から排出されたガスの流れを示す。
【0023】
燃料電池10は、例えば、固体高分子形燃料電池である。カソード11の電極の材料は、固体高分子形燃料電池のカソードの電極の材料として公知の材料でありうる。なお、カソード11の電極の材料は、通常の固体高分子形燃料電池のカソードの電極の材料に含まれている白金を含んでいなくてもよい。なぜなら、メディエータは、カソード11において酸素よりも還元されやすいからである。アノード12の電極の材料は、固体高分子形燃料電池のアノードの電極の材料として公知の材料でありうる。燃料電池10は、典型的には、電解質膜13をさらに備える。電解質膜13は、カソード11とアノード12との間に配置され、プロトン伝導性を有する。電解質膜13によってカソード11とアノード12とが仕切られている。電解質膜13の材料は、ナフィオン(登録商標)等の固体高分子形燃料電池の電解質の材料として公知の材料でありうる。
【0024】
燃料電池10の運転期間中に、アノード12には、例えば、水素ガスを含む燃料ガスが供給される。水素は、アノード12においてプロトンH+と電子e-とに分離される。その後、プロトンは電解質膜13を伝ってカソード11に移動し、電子e-は外部回路(図示省略)を通ってカソード11に移動する。
【0025】
図1に示す通り、燃料電池システム1aは、例えば循環経路14をさらに備えている。循環経路14は、カソード11と再生器20とを連通させており、カソード11から排出されたメディエータを再生器20に導くとともに、再生器20において酸化されたメディエータをカソード11に戻す流路である。
【0026】
循環経路14は、例えば、第一経路14a及び第二経路14bを含む。第一経路14aは、カソード11におけるメディエータの出口と再生器20におけるメディエータの入口とを接続している。第二経路14bは、再生器20におけるメディエータの出口とカソード11におけるメディエータの入口とを接続している。燃料電池10の運転期間中に、カソード11には、例えば、メディエータを含む溶液が供給される。この溶液において、メディエータは酸化体Medoxの状態である。メディエータの酸化体Medoxはカソード11において還元され、メディエータは還元体Medredに変化し、燃料電池10の外部に
移動する。メディエータの還元体Medredを含む溶液は、第一経路14aを通って再生器20に供給される。再生器20において、酸化剤の有効成分である酸素によってメディエータの還元体Medredが酸化され、メディエータは酸化体Medoxに変化する。これにより、メディエータが再生される。再生器20において再生されたメディエータは、第二経路14bを通ってカソード11に供給される。
【0027】
メディエータの還元体Medredの酸化は、典型的には発熱反応である。このため、再生器20の内部の温度は高温(例えば、100℃)になりやすい。これにより、メディエータの溶液の溶媒(例えば、水)の一部が蒸発して、再生器20の内部に高温のガスが存在する。再生器20の内部のガスには未反応の酸化剤も含まれうる。メディエータの酸化により水が生成される。この水の一部は、メディエータの酸化に伴う発熱により蒸発する。再生器20の内部のガスは、ガス排出経路32を通って再生器20の外部に排出される。これにより、再生器20の内部のメディエータの溶液におけるメディエータの濃度の低下を防止できる。その結果、燃料電池10における発電効率の低下を防止できる。ガス排出経路32を通って、未反応の酸化剤が再生器20の外部に排出されてもよい。一方、再生器20には、酸化剤(例えば、外部空気)が酸化剤供給経路31を通って供給される。
【0028】
熱交換器35において、酸化剤供給経路31を流れる酸化剤とガス排出経路32を流れるガスとの熱交換により、酸化剤供給経路31を流れる酸化剤が加熱される。一方、ガス排出経路32を流れるガスは冷却される。このため、再生器20から燃料電池システム1aの外部に排出されるガスの温度が低く、再生器20の内部に存在するガスを燃料電池システム1aの外部に安全に排出できる。ガス排出経路32を流れるガスには、例えば水蒸気が含まれる。このため、熱交換器35において凝縮水が生成されうる。熱交換器35は、例えば、凝縮器として機能しうる。メディエータの酸化の反応速度を高める観点から、再生器20に供給される酸化剤の温度が高いことが有利である。熱交換器35において酸化剤が加熱されるので、再生器20に供給される酸化剤の温度が高くなり、再生器20におけるメディエータの酸化反応の反応速度を高めることができる。
【0029】
熱交換器35は、酸化剤供給経路31を流れる酸化剤とガス排出経路32を流れるガスとの熱交換が可能である限り、特定の熱交換器に制限されない。熱交換器35は、例えば、以下の(i)~(iii)の少なくとも1つの特徴を有する。熱交換器35は、例えば、プレート式熱交換器又はフィンチューブ式熱交換器でありうる。
(i)酸化剤供給経路31がガス排出経路32の近傍に配置されている。
(ii)酸化剤供給経路31をなす部材がガス排出経路32をなす部材と接触している。
(iii)酸化剤供給経路31とガス排出経路32とが熱交換の観点から適切な部材によって仕切られている。
【0030】
メディエータは、酸素ガスよりも還元されやすく、還元と酸化とを繰り返すことができる物質である限り、特に制限されない。メディエータは、例えば、ポリオキソメタレート、金属イオン、又は金属錯体である。ポリオキソメタレートとして、リンモリブデン酸、リンバナジウム酸、リンタングステン酸などを使用できる。ポリオキソメタレートは、例えば、バナジウム、モリブデン、タングステンなどの金属を有している。金属錯体としては、ポルフィリン金属錯体、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を配位子として有する金属錯体、オキシダーゼ又はその誘導体を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。オキシダーゼとしては、ガラクトースオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼなどが挙げられる。複数種類のメディエータがメディエータ溶液に含まれていてもよい。
【0031】
メディエータは、典型的には、溶液に含まれた状態でカソード11と再生器20との間を循環する。溶液におけるメディエータの濃度が高いほど、カソード11においてメディエータが還元される反応の反応速度が高くなる。このため、水等の所定の溶媒に対して、メディエータが使用温度において高い溶解度を示すことが有利である。メディエータの溶液における溶媒は例えば水であり、メディエータの溶液には、硫酸及びリン酸などの酸成分が含まれていてもよい。メディエータの溶液のpHは酸性であってもよい。メディエータの溶液に適切な電解質が含まれていてもよい。
【0032】
図1に示す通り、燃料電池システム1aは、例えば、ポンプ16をさらに備えている。ポンプ16の作動により、メディエータを含む溶液が第一経路14aを通って再生器20に導かれ、かつ、メディエータを含む溶液が第二経路14bを通ってカソード11に導かれる。ポンプ16は、例えば、第二経路14b上に配置されている。ポンプ16は、第一経路14a上に配置されていてもよい。ポンプ16は、例えば、ピストンポンプ、プランジャポンプ、ギヤポンプ、及びベーンポンプ等の容積式ポンプである。第一経路14a又は第二経路14b上には、メディエータの流量を調整するためのレギュレータが配置されていてもよい。
【0033】
例えば、第二経路14bにおいてメディエータを含む溶液が冷却されながらカソード11に導かれる。これにより、カソード11に供給されるメディエータを含む溶液の温度が低く、電解質膜13等の燃料電池10の構成要素が劣化しにくい。このため、燃料電池10の耐用期間が延びやすい。例えば、第二経路14bから1秒間に放出される熱量は、第一経路14aから1秒間に放出される熱量よりも大きい。例えば、燃料電池システム1aの通常運転においてこの関係が満たされる。なお、燃料電池システム1aの通常運転において、所定の出力(例えば、100W以上)での発電が所定期間継続される。
【0034】
燃料電池システム1aにおいて、例えば、第二経路14bの少なくとも一部は、第一経路14aを定める管の材料の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する材料でできた管によって定められている。これにより、第二経路14bにおけるメディエータを含む溶液の熱が第二経路14bの外部に伝わりやすく、メディエータを含む溶液が第二経路14bにおいて冷却されやすい。第一経路14aを定める管の材料の熱伝導率及び第二経路14bを定める管の材料の熱伝導率のそれぞれは、例えば25℃における値を意味する。
【0035】
燃料電池システム1aにおいて、例えば、第二経路14bの長さは、第一経路14aの長さよりも長い。この場合、第二経路14bにおいて、メディエータを含む溶液から放出される熱量が大きくなりやすく、第二経路14bにおいてメディエータを含む溶液が適切に冷却されやすい。例えば、第二経路14bを定める管の表面積は、第一経路14aを定める管の表面積よりも大きい。この場合も、第二経路14bにおいて、メディエータを含む溶液から放出される熱量が大きくなりやすい。第二経路14bを定める管は金属材料でできていてもよい。第二経路14bを定める管にはフィンが取り付けられていてもよい。第二経路14bを定める管の少なくとも一部は、空気が通過可能な空間と接していてもよい。例えば、燃料電池システム1aは、吸気口及び排気口を有する筐体(図示省略)を備え、第二経路14bを定める管の少なくとも一部がその筐体の吸気口から排気口に延びる空気の流路に設けられていてもよい。燃料電池システム1aは、例えば、ファン又はブロワ(図示省略)をさらに備えていてもよい。例えば、ファン又はブロワの作動により、第二経路14bを定める管の少なくとも一部を横切る空気の流れが生じる。
【0036】
燃料電池システム1aは、例えば、燃料ガス供給経路15a及びアノードオフガス排出経路15bをさらに備えている。燃料ガス供給経路15a及びアノードオフガス排出経路15bのそれぞれはアノード12に接続されている。燃料ガス供給経路15aを通って水素を含む燃料がアノード12に供給され、未反応の燃料(すなわち、アノードオフガス)がアノードオフガス排出経路15bを通って燃料電池10から回収される。
【0037】
燃料電池システム1aは、例えば、ブロワ40をさらに備え、ブロワ40によって送り出された空気が酸化剤供給経路31を通って再生器20に供給される。例えば、ブロワ40の作動により、外気が取り込まれ、酸化剤供給経路31に送り出される。
【0038】
再生器20は、メディエータの還元体を含む溶液と酸化剤とを接触させることができる限り、特定の形態に限定されない。再生器20は、槽型の反応器として構成されていてもよいし、管型の反応器として構成されていてもよい。再生器20において、例えば、メディエータを含む溶液が貯留されている。この場合、酸化剤供給経路31を通過した酸化剤は、例えば、再生器20に貯留されたメディエータを含む溶液中に吹き込まれる。メディエータの溶液は、噴流又は微細な液滴(ミスト)として存在していてもよい。この場合、例えば、メディエータの溶液の噴流又は微細な液滴に向かって酸化剤供給経路31の出口31eから空気が吹き出される。これにより、メディエータの溶液と再生器20の内部に存在するガスとの界面の面積が大きくなり、メディエータの酸化の反応速度が高まりやすい。
【0039】
図1に示す通り、燃料電池システム1aは、例えばヒータ25(第二ヒータ)をさらに備えている。ヒータ25は、再生器20の内部を加熱する。ヒータ25によって再生器20の内部を加熱することにより、メディエータの酸化に伴い生成された水が蒸発しやすい。なお、メディエータは通常揮発しない。これにより、再生器20から水を排出でき、再生器20の内部のメディエータの溶液におけるメディエータの濃度の低下を防止できる。また、再生器20の内部の温度が所望の範囲に保たれ、メディエータの酸化反応の反応速度が高まる。
【0040】
ヒータ25の構成は、再生器20の内部を加熱できる限り特に制限されない。ヒータ25は、例えば、抵抗加熱式の電気ヒータ又は加熱用の熱媒体の流路を有するヒータでありうる。ヒータ25は、例えば、再生器20の外面に取り付けられている。例えば、ヒータ25は、再生器20の外面の少なくとも一部を覆っている。ヒータ25は、再生器20の外面の少なくとも一部を取り囲んでいてもよい。ヒータ25は、再生器20の内部に配置されていてもよい。燃料電池システム1aは、例えば、撹拌機(図示省略)をさらに備えていてもよい。この場合、撹拌機は、再生器20の内部のメディエータの溶液を撹拌する。これにより、再生器20の内部のメディエータの溶液の温度が空間的に均一に保たれやすい。
【0041】
ヒータ25は、再生器20においてメディエータの酸化がなされている期間中に常に発熱している必要はない。メディエータの酸化は、多くの場合発熱反応である。メディエータの酸化に伴う発熱により、メディエータの溶液におけるメディエータの濃度の低下を防止する観点から、再生器20の内部の温度が適切に保たれているのであれば、ヒータ25は停止していてもよい。一方、例えば、外気温の低下等の理由により、再生器20の内部の温度が所望の範囲に保つことが難しい場合には、ヒータ25が発熱する。燃料電池システム1aは、温度センサ(図示省略)をさらに備えていてもよい。この温度センサは、例えばサーミスタを利用した温度センサ又は熱電対を利用した温度センサであり、再生器20の内部の温度を検出する。例えば、温度センサによって検出された温度に基づいて、ヒータ25の発熱が制御される。場合によっては、ヒータ25は省略可能である。
【0042】
燃料電池システム1aは、例えば、第一経路14aの少なくとも一部を覆う断熱材(図示省略)をさらに備えていてもよい。この断熱材により、第一経路14aにおいてメディエータを含む溶液の温度が低下しにくい。その結果、再生器20の内部の温度が所望の温度に保たれやすく、メディエータの酸化反応の反応速度が高まりやすい。なお、この断熱材は、空気層をなす中空の部材であってもよい。第一経路14aの全体が断熱材によって覆われていてもよい。ここで、「覆う」とは、断熱材が第一経路14aをなす部材と接して断熱される構成と、断熱材が空間又は部材を介して第一経路14aを覆う構成とを含みうる。
【0043】
燃料電池システム1aは、例えば、再生器20の少なくとも一部を覆う断熱材(図示省略)をさらに備えていてもよい。この断熱材により、再生器20の内部が所望の温度に保たれやすい。加えて、再生器20の内部を所望の温度に保つために再生器20の外部から供給すべきエネルギー量が少なくて済む。なお、この断熱材は、空気層をなす中空の部材であってもよい。再生器20の全体が断熱材によって覆われていてもよい。ここで、「覆う」とは、断熱材が再生器20と接して断熱される構成と、断熱材が空間又は部材を介して再生器20を覆う構成とを含みうる。
【0044】
断熱材の材料は特に限定されない。断熱材の材料としては、樹脂、金属、ガラス、セラミックなどが挙げられる。断熱材の構成も特に限定されない。断熱材の構成としては、発泡体、繊維集合体などが挙げられる。
【0045】
燃料電池システム1aは、様々な観点から変更可能である。例えば、燃料電池システム1aは、第一経路14aを流れるメディエータ溶液と、第二経路14bを流れるメディエータ溶液とを熱交換させる熱交換器を備えるように変更されてもよい。第二経路14bにおけるメディエータ溶液は、典型的には、再生器20におけるメディエータの酸化に伴う発熱により、第一経路14aにおけるメディエータ溶液の温度より高い。このため、第一経路14aを流れるメディエータ溶液と第二経路14bを流れるメディエータ溶液との熱交換により、カソード11に供給されるメディエータの温度が低くなりやすい。その結果、燃料電池10の耐用期間が延びやすい。加えて、第一経路14aを流れるメディエータ溶液と第二経路14bを流れるメディエータ溶液との熱交換により、第一経路14aを流れるメディエータ溶液が加熱される。このため、再生器20の内部の温度が所望の温度に保たれやすく、メディエータの酸化反応の反応速度が高まりやすい。
【0046】
例えば、燃料電池システム1aは、第二経路14bを流れるメディエータ溶液と酸化剤供給経路31を流れる酸化剤とを熱交換させる熱交換器を備えるように変更されてもよい。典型的には、酸化剤供給経路31を流れる酸化剤の温度は、第二経路14bを流れるメディエータ溶液の温度より低い。このため、第二経路14bを流れるメディエータ溶液と酸化剤供給経路31を流れる酸化剤との熱交換により第二経路14bを流れるメディエータ溶液が冷却される。その結果、カソード11に供給されるメディエータの温度が低くなりやすく、燃料電池10の耐用期間が延びやすい。加えて、第二経路14bを流れるメディエータ溶液と酸化剤供給経路31を流れる酸化剤との熱交換により酸化剤が加熱され、再生器20に供給される酸化剤の温度が高まりやすい。このため、メディエータの酸化反応の反応速度が高まりやすい。
【0047】
燃料電池システム1aは、例えば、第二経路14b上に配置され、再生器20において酸化されたメディエータを貯留するタンクをさらに備えるように変更されてもよい。この場合、再生器20を小型化しやすい。加えて、再生器20の内部を所望の温度に保つために再生器20の外部から供給すべきエネルギー量が少なくて済み、燃料電池システム1aの効率が高まりやすい。このタンクは、第二経路14bにおいて再生器20とポンプ30との間に配置されてもよいし、第二経路14bにおいてポンプ30とカソード11との間に配置されてもよい。
【0048】
燃料電池システム1aは、図2に示す燃料電池システム1b、図3に示す燃料電池システム1c、又は図4に示す燃料電池システム1dのように変更されてもよい。燃料電池システム1b~1dは、特に説明する場合を除き、燃料電池システム1aと同様に構成されている。燃料電池システム1aの構成要素と同一又は対応する燃料電池システム1b~1dの構成要素には、同一の符号を付し詳細な説明を省略する。燃料電池システム1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、燃料電池システム1b~1dにも当てはまる。
【0049】
図2に示す通り、燃料電池システム1bは、例えば、第一断熱材51をさらに備えている。第一断熱材51は、熱交換器35と再生器20との間で酸化剤供給経路31の少なくとも一部を覆っている。これにより、熱交換器35において加熱された酸化剤の温度が第一断熱材51によって高く保たれ、高温の酸化剤を再生器20に供給できる。その結果、再生器20におけるメディエータの酸化反応の反応速度が高まりやすい。なお、第一断熱材51は、空気層をなす中空の部材であってもよい。第一断熱材51は、熱交換器35と再生器20との間で酸化剤供給経路31の全体を覆っていてもよい。
【0050】
図2に示す通り、燃料電池システム1bは、例えば、第二断熱材52をさらに備えている。第二断熱材52は、再生器20と熱交換器35との間でガス排出経路32の少なくとも一部を覆っている。これにより、再生器20から排出されたガスの温度が第二断熱材52によって高く保たれ、熱交換器35において酸化剤が高温に加熱されやすい。その結果、再生器20におけるメディエータの酸化反応の反応速度が高まりやすい。なお、第二断熱材52は、空気層をなす中空の部材であってもよい。第二断熱材52は、熱交換器35と再生器20との間でガス排出経路32の全体を覆っていてもよい。
【0051】
第一断熱材51及び第二断熱材52は一体的に構成されていてもよい。換言すると、燃料電池システム1bは、第一断熱材51及び第二断熱材52の双方として機能する単一の断熱材を備えていてもよい。
【0052】
図3に示す通り、燃料電池システム1cは、例えば、ヒータ55(第一ヒータ)をさらに備えている。ヒータ55は、酸化剤供給経路31を流れる酸化剤を加熱する。これにより、酸化剤を所望の温度で再生器20に供給でき、再生器20におけるメディエータの酸化反応の反応速度が高まりやすい。
【0053】
ヒータ55は、例えば、熱交換器35における酸化剤の出口35eと酸化剤供給経路31の出口31eとの間を流れる酸化剤を加熱する。これにより、熱交換器35において加熱された酸化剤がヒータ55によって加熱されるので、ヒータ55に要求される発熱量が少なくて済み、燃料電池システム1cの効率を高めやすい。
【0054】
ヒータ55の構成は、酸化剤供給経路31を流れる酸化剤を加熱できる限り特に制限されない。ヒータ55は、例えば、抵抗加熱式の電気ヒータ又は加熱用の熱媒体の流路を有するヒータでありうる。ヒータ55は、例えば、酸化剤供給経路31を定める管の外面に取り付けられている。例えば、ヒータ55は、熱交換器35と再生器20との間で酸化剤供給経路31を定める管の外面の少なくとも一部を覆っている。ヒータ55は、酸化剤供給経路31を定める管の内部に配置されていてもよい。ここで、「覆っている」とは、ヒータ55が酸化剤供給経路31を定める管の外面に接触している構成と、ヒータ55が空間又は部材を介して酸化剤供給経路31を定める管の外面を覆っている構成とを含みうる。
【0055】
ヒータ55は、再生器20においてメディエータの酸化がなされている期間中に常に発熱している必要はない。熱交換器35における酸化剤供給経路31を流れる酸化剤とガス排出経路32を流れるガスとの熱交換により、酸化剤が十分に加熱されるのであれば、ヒータ55は停止していてもよい。一方、外気温の低下等の理由により、熱交換器35における酸化剤供給経路31を流れる酸化剤とガス排出経路32を流れるガスとの熱交換のみによって再生器20に供給される酸化剤を所望の温度に加熱することが難しい場合、ヒータ55が発熱する。なお、燃料電池システム1cは、温度センサ(図示省略)をさらに備えていてもよい。この温度センサは、例えばサーミスタを利用した温度センサ又は熱電対を利用した温度センサであり、酸化剤供給経路31を流れる酸化剤の温度を検出する。例えば、温度センサによって検出された温度に基づいて、ヒータ55の発熱が制御される。
【0056】
図4に示す通り、燃料電池システム1dは、例えば、排水経路57をさらに備えている。燃料電池システム1dにおいて、熱交換器35は凝縮器である。排水経路57は、熱交換器35に接続されている。排水経路57は、熱交換器35における酸化剤とガスとの熱交換により生じる凝縮水を熱交換器35の外部に排出する流路である。排水経路57を通過した凝縮水は、燃料電池システム1dから排出されてもよいし、燃料電池システム1dにおける所定のプロセスに利用されてもよい。
【0057】
燃料電池システム1a~1dにおける各構成要素は、技術的に矛盾しない限り組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0058】
1a、1b、1c、1d 燃料電池システム
10 燃料電池
11 カソード
12 アノード
14 循環経路
20 再生器
25 ヒータ
31 酸化剤供給経路
32 ガス排出経路
35 熱交換器
51 第一断熱材
52 第二断熱材
55 ヒータ
57 排水経路
図1
図2
図3
図4