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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒用粒子
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20230306BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230306BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20230306BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20230306BHJP
   B01J 23/10 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01J37/02 301Z
B01D53/86 222
B01D53/86 245
B01D53/86 280
F01N3/10 A
B01J23/10 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022539052
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2021048696
(87)【国際公開番号】W WO2022158270
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2021007975
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】松枝 悟司
(72)【発明者】
【氏名】内藤 功
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-083315(JP,A)
【文献】特開2005-052779(JP,A)
【文献】特開2007-268470(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102580731(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/10,3/28
C01F 7/02-7/021
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物粒子と、前記無機酸化物粒子を被覆している無機被覆層とを含む、排ガス浄化触媒用粒子であって、
前記無機酸化物粒子は、アルミナ若しくはシリカ-アルミナ複合酸化物、又はこれらに、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及びセリウム以外の希土類元素から選択される1種以上が配合された無機酸化物の粒子であり、
前記無機被覆層は、前記無機被覆層の質量に対して50質量%超のセリアを含む金属酸化物の層であり、
前記排ガス浄化触媒用粒子は、
孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積が、前記無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積に比べて減少しており、
これによって、熱伝導率が、前記無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の1.04倍以上高い、
排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項2】
前記排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率が、前記無機酸化物粒子の熱伝導率の1.10倍以上である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項3】
前記無機被覆層が、セリアの層、又はセリア及び酸化プラセオジムの層である、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項4】
前記排ガス浄化触媒用粒子について、FE-EPMAで測定された、無機酸化物粒子中のアルミニウム元素と、無機被覆層中の金属酸化物中のセリウム元素との相関係数が、0.70以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項5】
前記排ガス浄化触媒用粒子の全質量に占める前記無機被覆層の質量の割合が、5質量%以上50質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項6】
前記無機被覆層を構成する金属酸化物の結晶子径が、5nm以上30nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項7】
前記排ガス浄化触媒用粒子の嵩密度が、0.59g/cm以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項8】
前記無機酸化物粒子がアルミナ粒子である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項9】
前記排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率が、室温(24±2℃)における値として、0.095W/(m・K)以上0.160W/(m・K)以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子と、
触媒貴金属と
を含み、
前記触媒貴金属が、前記排ガス浄化触媒用粒子に担持されている、
排ガス浄化触媒。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子と、
無機酸化物粒子から構成され、ただし前記排ガス浄化触媒用粒子とは異なる、担持用粒子と、
触媒貴金属と
を含み、
前記触媒貴金属が、前記排ガス浄化触媒用粒子及び前記担持用粒子のうちの少なくとも一方に担持されている、
排ガス浄化触媒。
【請求項12】
基材と、前記基材上のコート層とを有する、排ガス浄化触媒装置であって、
前記コート層が、請求項1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子を含む、
排ガス浄化触媒装置。
【請求項13】
基材と、前記基材上のコート層とを有する、排ガス浄化触媒装置であって、
前記コート層が、請求項10又は11に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒用粒子に関する。
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関からの排ガス中には、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等が含まれる。このような排ガスは、排ガス浄化触媒によって、CO及びHCが酸化浄化され、NOxが還元浄化された後に、大気中に放出されている。
【0003】
排ガス浄化触媒は、例えばハニカム状の基材と、この基材上に形成された触媒コート層を有する、排ガス浄化触媒装置の形態で使用されることが多い。排ガス浄化触媒装置の触媒コート層は、一般に、触媒貴金属粒子、及び無機酸化物粒子、並びに任意的にその他の成分を含み、触媒貴金属粒子は、無機酸化物粒子のうちの少なくとも一部に担持されている。
【0004】
排ガス浄化触媒は、一般に、高温では高い排ガス浄化活性を示すが、低温では、活性が低い。したがって、例えば、エンジン停止状態から自動車を発車した場合等の、「コールドスタート」と呼ばれる状態の排ガス中のNO、CO、及びHCの排出量(エミッション)が問題となる。
【0005】
ところで、近年では、自動車の燃費測定方法が、WLTC(Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle)と呼ばれる国際基準に切り替わっている。
【0006】
この点、燃費測定方法として、わが国では、従来、例えば、コールドスタート25%、ホットスタート75%の配分で燃費を測定する、JC08モードが採用されていた。しかし、近年のWLTCモードでは、コールドスタート100%にて燃費測定が行われる。
【0007】
このように、近年では、コールドスタート領域の重要性が増大してきており、これに伴って、コールドスタート領域における排ガス浄化の重要性が増大しているのである。
【0008】
そのため、当業界では、コールドスタート領域における排ガス浄化性能を向上させようとして、種々の検討が行われている。
【0009】
例えば、特許文献1では、ウォッシュコート層を、排ガス流入口側のフロント部と排ガス流出口側のリア部とに分け、フロント部のコート量を少なくして、フロント部の熱容量を小さくするとともに、ここにパラジウムを高濃度で担持した排ガス浄化用触媒が提案されている。特許文献1には、この構成によると、フロント部のウォッシュコート層が、排ガスの熱によって昇温し易くなるため、パラジウムが触媒活性を発揮する温度まで速やかに昇温されて、低温領域の活性が向上すると説明されている。
【0010】
また、特許文献2では、基材、及び基材にコートされているコート層を有し、コート層が貴金属担持触媒及びマイクロ波吸収剤を含む、排ガス浄化触媒と、マイクロ波発生装置とを備える、車両用排ガス浄化装置が記載されている。この排ガス浄化装置は、コールドスタート直後、マイクロ波を照射して、コート層の温度を強制的に上昇させて、所望の排ガス浄化触媒活性を得ようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-162166号公報
【文献】特開2019-048268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、コールドスタート領域における排ガス浄化性能を向上させ得る、排ガス浄化触媒材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のとおりである。
【0014】
《態様1》無機酸化物粒子と、前記無機酸化物粒子を被覆している無機被覆層とを含む、排ガス浄化触媒用粒子であって、
前記排ガス浄化触媒用粒子は、
孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積が、前記無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積に比べて減少しており、
これによって、熱伝導率が、前記無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子よりも高い、
排ガス浄化触媒用粒子。
《態様2》前記排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率が、前記無機酸化物粒子の熱伝導率の1.10倍以上である、態様1に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
《態様3》前記無機被覆層が、金属酸化物の層である、態様1又は2に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
《態様4》前記排ガス浄化触媒用粒子について、FE-EPMAで測定された、無機酸化物粒子中の無機元素と、無機被覆層中の金属酸化物中の金属元素との相関係数が、0.70以上である、態様3に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
《態様5》前記金属酸化物中の金属元素が、セリウムを含む、態様3又は4に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
《態様6》前記金属酸化物中の金属元素が、プラセオジムを更に含む、態様5に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
《態様7》前記無機被覆層を構成する金属酸化物の結晶子径が、5nm以上30nm以下である、態様3~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
《態様8》前記排ガス浄化触媒用粒子の嵩密度が、0.59g/cm以上である、態様1~7のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
《態様9》前記無機酸化物粒子がアルミナ粒子であり、
前記無機被覆層が、前記無機被覆層の質量に対して50質量%超のセリアを含む層である、
態様1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子。
《態様10》態様1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子と、
触媒貴金属と
を含み、
前記触媒貴金属が、前記排ガス浄化触媒用粒子に担持されている、
排ガス浄化触媒。
《態様11》態様1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子と、
無機酸化物粒子から構成され、ただし前記排ガス浄化触媒用粒子とは異なる、担持用粒子と、
触媒貴金属と
を含み、
前記触媒貴金属が、前記排ガス浄化触媒用粒子及び前記担持用粒子のうちの少なくとも一方に担持されている、
排ガス浄化触媒。
《態様12》基材と、前記基材上のコート層とを有する、排ガス浄化触媒装置であって、
前記コート層が、態様1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用粒子を含む、
排ガス浄化触媒装置。
《態様13》基材と、前記基材上のコート層とを有する、排ガス浄化触媒装置であって、
前記コート層が、態様10又は11に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、コールドスタート領域における排ガス浄化性能を向上させ得る、排ガス浄化触媒材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《排ガス浄化触媒用粒子》
本発明の排ガス浄化触媒用粒子は、
無機酸化物粒子と、前記無機酸化物粒子を被覆している無機被覆層とを含む、排ガス浄化触媒用粒子であって、
前記排ガス浄化触媒用粒子は、
孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積が、前記無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積に比べて減少しており、
これによって、熱伝導率が、前記無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子よりも高い、
排ガス浄化触媒用粒子である。
【0017】
従来技術においても、コールドスタート領域における排ガス浄化性能の向上を目的とした改良技術は存在した。それらの技術としては、例えば、触媒貴金属の配置を工夫するもの、触媒貴金属を担持するための担体粒子の組成を工夫するもの、排ガス成分を吸脱着する吸着材を利用するもの、電熱線等によって排ガス浄化装置を強制的に加温するもの等が例示される。
【0018】
これらに対して、本発明は、コート層に、熱伝導率が高められた成分(排ガス浄化触媒用粒子)を配合して、コート層の昇温速度を速めることによって、コールドスタート領域における排ガス浄化性能を向上させようとの発想に基づくものである。
【0019】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子では、多孔性の無機酸化物粒子の、好ましくは細孔内を含む表面を無機被覆層で被覆して、孔径0.1~20μmの範囲の細孔容積を減じ、粒子の緻密性を高めることにより、熱伝導率を高くしたものである。
【0020】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子は、触媒貴金属を担持するための担体として用いてもよいし、触媒貴金属を担持しない成分として用いてもよい。
【0021】
〈無機酸化物粒子〉
本発明の排ガス浄化触媒用粒子における無機酸化物粒子は、排ガス浄化触媒装置の触媒コート層に通常用いられる無機酸化物粒子から、適宜に選択されてよい。例えば、Al、Si、Ti、Zr、Ce等から選択される、1種、又は2種以上の元素の酸化物であってよい。無機残化物が2種以上の元素の酸化物であるとき、複数種の無機酸化物の混合物であっても、複数種の元素を含む複合酸化物であっても、これらの双方を含む形態の無機酸化物であってもよい。
【0022】
本発明における無機酸化物粒子は、具体的には、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカ-アルミナ複合酸化物、セリア、ジルコニア、セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ)等であってよい。また、これらに、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、Ce以外の希土類元素等が配合されたものも、本発明における無機酸化物粒子に包含される。
【0023】
本発明における無機酸化物粒子は、典型的には、アルミナであってよい。
【0024】
本発明における無機酸化物粒子は、多孔性の粒子であってよい。
【0025】
この無機酸化物粒子における、孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積は、例えば、0.3mL/g以上、0.4mL/g以上、0.5mL/g以上、0.6mL/g以上、0.7mL/g以上、又は0.8mL/g以上であってよく、例えば、1.5mL/g以下、1.2mL/g以下、1.1mL/g以下、1.0mL/g以下、0.9mL/g以下、0.8mL/g以下、0.7mL/g以下、0.6mL/g以下、又は0.5mL/g以下であってよい。
【0026】
この孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積は、無機酸化物粒子について、水銀ポロシメータを用いて水銀圧入法によって測定された値である。
【0027】
本発明における無機酸化物粒子の嵩密度は、例えば、0.30g/mL以上、0.35g/mL以上、0.40g/mL以上、0.45g/mL以上、0.50g/mL以上、0.55g/mL以上、又は0.60g/mL以上であってよく、例えば、1.20g/mL以下、1.10g/mL以下、1.00g/mL以下、0.95g/mL以下、0.90g/mL以下、0.85g/mL以下、又は0.80g/mL以下であってよい。
【0028】
この嵩密度は、無機酸化物粒子の質量を、見かけ体積(細孔容積を含めた体積)で割り付けた値である。
【0029】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子は、無機酸化物粒子を無機被覆層で被覆することにより、元の無機酸化物粒子よりも高い熱伝導率を有するものである。したがって、無機酸化物粒子の熱伝導率は、任意の値であってよい。無機酸化物粒子の熱伝導率は、室温(24±2℃)における値として、例えば、0.075W/(m・K)以上0.125W/(m・K)以下であってよい。
【0030】
本明細書における熱伝導率は、ホットディスク法によって測定された値である。熱伝導率の測定は、具体的には、後述の実施例に記載の方法によって行われてよい。
【0031】
〈無機被覆層〉
本発明の排ガス浄化触媒用粒子における無機被覆層は、上記の無機酸化物粒子の、好ましくは細孔内を含む表面を無機被覆層で被覆して、孔径0.1~20μmの範囲の細孔容積を減じ、粒子の緻密性を高めることにより、熱伝導率を高くする機能を有する。
【0032】
この無機被覆層は、金属酸化物の層であってよい。得られる排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率をより高くするとの観点から、この金属酸化物中の金属元素は、希土類金属元素を含んでいてよい。すなわち、希土類元素は、質量数が大きく、これに伴って自由電子の数が多い。そのため、無機被覆層が、希土類金属の酸化物を含むと、電子の自由運動による熱輸送量が増加して、排ガス浄化触媒用粒子全体の熱伝導率が向上すると考えられる。ただし、本発明は、特定の理論に拘束されるものではない。
【0033】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子における無機被覆層は、希土類金属元素の酸化物の層であるか、又は、希土類金属元素と、Al、Si、Ti、Zr等から選択される、1種、又は2種以上の元素と、の複合酸化物の層であってよい。
【0034】
元素の質量数及び自由電子の観点から、無機被覆層を構成する金属酸化物中の金属元素は、セリウムを含んでいてよい。すなわち、本発明の排ガス浄化触媒用粒子における無機被覆層は、セリアを含む層であってよい。セリウムは、価数変化によって自由電子の増減が可能であるため、電子の自由運動による熱輸送量の観点から、特に有利であると考えられる。
【0035】
無機被覆層中のセリアの含有率は、無機被覆層の質量に対して、50質量%超、60質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、若しくは95質量%であってよく、又は100質量%であってもよい。しかしながら、無機酸化物層が、セリア以外の金属元素の酸化物、特に後述の酸化プラセオジムを含むことのメリットを享受するとの観点から、無機被覆層中のセリアの含有率は、無機被覆層の質量に対して、99質量%以下、98質量%以下、96質量%以下、94質量%以下、92質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0036】
同様に、元素の質量数及び自由電子の観点から、無機被覆層を構成する金属酸化物中の金属元素は、セリウムとともに、プラセオジムを含んでいてよい。すなわち、本発明の排ガス浄化触媒用粒子における無機被覆層は、セリアとともに、酸化プラセオジムを含む層であってよい。無機被覆層中の酸化プラセオジムの含有率は、無機被覆層の質量に対して、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってよく、80質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、18質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0037】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子は、典型的には、無機酸化物粒子がアルミナ粒子であり、無機被覆層が、当該無機被覆層の質量に対して、50質量%超のセリアを含む層である場合であり、特には、無機被覆層がセリアから成る層である場合である。
【0038】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子における無機被覆層は、上記の無機酸化物粒子の、好ましくは細孔内を含む表面を無機被覆層で被覆している。したがって、この無機被覆層は、無機酸化物粒子の細孔内に侵入できる程度の小さい結晶子から構成されていてよい。
【0039】
この場合、無機被覆層を構成する金属酸化物の結晶子径は、例えば、5.0nm以上、5.5nm以上、6.0nm以上、又は6.5nm以上であってよく、例えば、30nm以下、25nm以下、20nm以下、15nm以下、12nm以下、10nm以下、9nm以下、又は8nm以下であってよい。
【0040】
この金属酸化物の結晶子径は、XRD測定から求めた値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法によって行われてよい。
【0041】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子における無機被覆層の存在割合は、無機酸化物粒子の、好ましくは細孔内を含む表面を効果的に被覆して、得られる排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率を高める観点からは、多くてよい。一方で、無機酸化物粒子の細孔を閉塞せず、比表面積を高く維持する観点からは、少なくてよい。
【0042】
これらの観点を合わせて考慮すると、本発明の排ガス浄化触媒用粒子における無機被覆層の存在割合は、排ガス浄化触媒用粒子の全質量に占める無機被覆層の質量の割合として、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、又は10質量%以上であってよく、例えば、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0043】
〈排ガス浄化触媒用粒子〉
本発明の排ガス浄化触媒用粒子では、孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積が、無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積に比べて、減少している。また、これに伴って、排ガス浄化触媒用粒子の嵩密度及び熱伝導率は、無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の嵩密度及び熱伝導率に比べて、それぞれ、増大している。
【0044】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子における、孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積は、無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積の、例えば、99%以下、98%以下、95%以下、93%以下、90%以下、又は85%以下であってよい。しかしながら、得られる排ガス浄化触媒用粒子の比表面積を高く維持する観点から、排ガス浄化触媒用粒子における、孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積は、無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積の、例えば、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、又は90%以上であってよい。
【0045】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子における、孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積は、典型的には、例えば、0.2mL/g以上、0.3mL/g以上、0.4mL/g以上、0.5mL/g以上、0.6mL/g以上、又は0.7mL/g以上であってよく、例えば、1.2mL/g以下、1.1mL/g以下、1.0mL/g以下、0.9mL/g以下、0.8mL/g以下、0.7mL/g以下、0.6mL/g以下、0.5mL/g以下、又は0.45mL/g以下であってよい。
【0046】
この孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積は、排ガス浄化触媒用粒子について、水銀ポロシメータを用いて水銀圧入法によって測定された値である。
【0047】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子の嵩密度は、無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の嵩密度の、例えば、101%以上、105%以上、110%以上、115%以上、又は120%以上であってよく、例えば、150%以下、140%以下、130%以下、125%以下、120%以下、115%以下、又は110%以下であってよい。
【0048】
排ガス浄化触媒用粒子の嵩密度は、例えば、0.35g/mL以上、0.40g/mL以上、0.45g/mL以上、0.50g/mL以上、0.55g/mL以上、0.59g/L以上、0.60g/mL以上、又は0.70g/mL以上であってよく、例えば、1.25g/L以下、1.20g/mL以下、1.10g/mL以下、1.00g/mL以下、0.95g/mL以下、0.90g/mL以下、又は0.85g/mL以下であってよい。
【0049】
この嵩密度は、排ガス浄化触媒用粒子の質量を、見かけ体積(細孔容積を含めた体積)で割り付けた値である。
【0050】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率は、無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の熱伝導率の、例えば、1.05倍以上、1.10倍以上、1.15倍以上、1.20倍以上、1.25倍以上、又は1.30倍以上であってよい。
【0051】
一方で、排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率は、無機被覆層の割合の増加に伴って、無制限に増大するものではなく、有限の上限値が存在する。排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率は、無機被覆層によって被覆される前の無機酸化物粒子の熱伝導率の、例えば、1.80倍以下、1.50倍以下、1.40倍以下、1.30倍以下、又は1.20倍以下であってよい。
【0052】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子は、無機酸化物粒子を無機被覆層で被覆することにより、元の無機酸化物粒子よりも高い熱伝導率を有するものである。したがって、排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率は、排ガス浄化触媒用粒子に含まれる無機酸化物粒子の熱伝導率に依存して、これよりも大きい値になる。排ガス浄化触媒用粒子の熱伝導率は、室温(24±2℃)における値として、例えば、0.090W/(m・K)以上、0.095W/(m・K)以上、1.000W/(m・K)以上、1.100W/(m・K)以上、又は1.200W/(m・K)以上であってよく、例えば、0.180W/(m・K)以下、0.160W/(m・K)以下、0.140W/(m・K)以下、0.130W/(m・K)以下、0.125W/(m・K)以下、又は0.120W/(m・K)以下であってよい。
【0053】
上述したとおり、本明細書における熱伝導率は、ホットディスク法によって測定された値である。熱伝導率の測定は、具体的には、後述の実施例に記載の方法によって行われてよい。
【0054】
本発明の排ガス浄化触媒用粒子において、無機酸化物粒子が無機被覆層で被覆されることによって、元の無機酸化物粒子よりも高い熱伝導率を有するのは、無機被覆層の被覆によって、無機酸化物粒子の孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積を減じ、粒子の緻密性が高くなることに起因すると考えられる。したがって、無機被覆層は、無機酸化物粒子の細孔内を含む表面を被覆していてよい。
【0055】
無機被覆層が、無機酸化物粒子の細孔内の表面を被覆していることは、無機酸化物粒子中の無機元素の位置と、無機被覆層中の金属酸化物中の金属元素の位置との相関係数が高いことによって確認することができる。無機被覆層が、無機酸化物粒子の外表面のみを被覆していると、この相関係数は低い値となる。
【0056】
上記の観点から、本発明の排ガス浄化触媒用粒子について、FE-EPMAによって測定された、無機酸化物粒子中の無機元素と、無機被覆層中の金属酸化物中の金属元素との相関係数は、0.70以上、0.75以上、0.80以上、0.85以上、又は0.90以上であってよい。しかしながら、この相関係数は、本発明が所期する効果を発現するためには、0.99以下、0.98以下、0.97以下、0.95以下、0.92以下、又は0.90以下であってもよい。
【0057】
FE-EPMAによる、無機酸化物粒子中の無機元素と、無機被覆層中の金属酸化物中の金属元素との相関係数は、具体的には、後述の実施例に記載の方法によって行われてよい。
【0058】
《排ガス浄化触媒用粒子の製造方法》
上記に説明したような本発明の排ガス浄化触媒用粒子は、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
【0059】
しかしながら、本発明の排ガス浄化触媒用粒子は、例えば、所望の無機酸化物粒子に、無機被覆層を構成する所望の金属酸化物前駆体を含有する溶液を噴霧した後、焼成することにより、製造されてよい。
【0060】
金属酸化物前駆体は、金属の強酸塩であってよく、例えば、金属の塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩等であってよい。
【0061】
金属酸化物前駆体を含有する溶液の溶媒は、金属酸化物前駆体を溶解し得る液体状の化合物であってよく、典型的には、水である。
【0062】
金属酸化物前駆体溶液の噴霧後、焼成前に、必要に応じて乾燥が行われてもよい。この乾燥は、例えば、80℃以上300℃以下の温度において、例えば、0.5時間以上48時間以下の時間で行われてよい。
【0063】
焼成は、例えば、400℃以上1,000℃以下の温度において、例えば、0.5時間以上48時間以下の時間で行われてよい。焼成は、酸化性雰囲気中で行われてよく、典型的には、空気中で行われてよい。
【0064】
その後、必要に応じて、粉砕分級することにより、所望の粒径の排ガス浄化触媒用粒子が得られる。
《排ガス浄化触媒》
本発明の別の観点によると、
上記に説明した本発明の排ガス浄化触媒用粒子と、
触媒貴金属と
を含み、
触媒貴金属が、排ガス浄化触媒用粒子に担持されている、
排ガス浄化触媒(第1の排ガス浄化触媒)が提供される。
【0065】
上記第1の排ガス浄化触媒における、触媒貴金属は、白金族元素から選択される1種又は2種以上の貴金属であってよく、例えば、Pt、Pd、及びRhから選択される、1種、2種、又は3種であってよい。
【0066】
この第1の排ガス浄化触媒は、例えば、本発明の排ガス浄化触媒用粒子を、貴金属前駆体を含有する溶液中に浸漬した後、焼成することによって製造されてよい。
【0067】
貴金属前駆体は、所望の貴金属の強酸塩、又は錯化合物であってよく、例えば、貴金属の塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、アンミン錯体等であってよい。
【0068】
貴金属前駆体を含有する溶液を含有する溶液の溶媒は、上記の貴金属前駆体を溶解し得る液体状の化合物であってよく、典型的には、水である。
【0069】
排ガス浄化触媒用粒子を貴金属前駆体溶液に浸漬した後、焼成前に、必要に応じて乾燥が行われてもよい。
【0070】
第1の排ガス浄化触媒の製造における、乾燥及び焼成は、それぞれ、公知の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法により、行われてよい。
【0071】
本発明の更に別の観点によると、
上記に説明した本発明の排ガス浄化触媒用粒子と、
無機酸化物粒子から構成され、ただし本発明の排ガス浄化触媒用粒子とは異なる、担持用粒子と、
触媒貴金属と
を含み、
触媒貴金属が、排ガス浄化触媒用粒子及び担持用粒子のうちの少なくとも一方に担持されている、
排ガス浄化触媒(第2の排ガス浄化触媒)が提供される。
【0072】
第2の排ガス浄化触媒における担持用粒子は、本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外の無機酸化物粒子から構成されており、例えば、Al、Si、Ti、Zr、Ce等から選択される、1種、又は2種以上の元素の酸化物であってよく、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカ-アルミナ複合酸化物、セリア、ジルコニア、セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ)等であってよい。また、これらに、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、Ce以外の希土類元素等が配合されたものも、この場合の担持用粒子に包含される。
【0073】
第2の排ガス浄化触媒における触媒貴金属は、第1の排ガス浄化触媒の触媒貴金属として上述した貴金属から選択されてよい。
【0074】
この第2の排ガス浄化触媒は、例えば、本発明の排ガス浄化触媒用粒子及び担持用粒子を、貴金属前駆体を含有する溶液中に浸漬した後、焼成することによって製造されてよい。これらの粒子を貴金属前駆体溶液に浸漬した後、焼成前に、必要に応じて乾燥が行われてもよい。
【0075】
貴金属前駆体を含有する溶液、乾燥、及び焼成については、第1の排ガス浄化触媒の製造についての説明を、そのまま採用してよい。
【0076】
《排ガス浄化触媒装置》
本発明の更に別の観点によると、
基材と、基材上のコート層とを有する、排ガス浄化触媒装置であって、
コート層が、上記に説明した本発明の排ガス浄化触媒用粒子を含む、
排ガス浄化触媒装置(第1の排ガス浄化触媒装置)が提供される。
【0077】
第1の排ガス浄化触媒装置における基材は、公知の排ガス浄化触媒装置における基材として知られているものの中から、適宜に選択されてよい。例えば、コージェライト、メタル等の適宜の材料から構成されたハニカム基材であってよい。このハニカム基材は、ストレートフロー型であってもよく、ウォールフロー型であってもよい。
【0078】
コート層は、基材上に形成されていてよい。
【0079】
このコート層は、本発明の排ガス浄化触媒用粒子を含む。第1の排ガス浄化触媒装置における排ガス浄化触媒用粒子は、触媒貴金属が担持されている場合を含まない。
【0080】
コート層は、本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外に、他の成分を含んでいてよい。他の成分は、例えば、触媒貴金属、本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外の無機酸化物粒子、バインダー等から選択されてよい。
【0081】
第1の排ガス浄化触媒装置における触媒貴金属は、白金族元素から選択される1種又は2種以上の貴金属であってよく、例えば、Pt、Pd、及びRhから選択される、1種、2種、又は3種であってよい。
【0082】
第1の排ガス浄化触媒装置における、本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外の無機酸化物粒子は、例えば、Al、Si、Ti、Zr、Ce等から選択される、1種、又は2種以上の元素の酸化物であってよい。
【0083】
第1の排ガス浄化触媒装置のコート層が触媒貴金属を含むとき、当該コート層は、本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外の無機酸化物粒子も含み、触媒貴金属は、この本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外の無機酸化物粒子に担持されていてよい。
【0084】
第1の排ガス浄化触媒装置は、本発明の排ガス浄化触媒用粒子を含むコート層を、1層のみ有していてもよいし、このコート層を2層以上有していてもよい。また、第1の排ガス浄化触媒装置は、本発明の排ガス浄化触媒用粒子を含むコート層以外のコート層を、更に有していてもよい。本発明の排ガス浄化触媒用粒子を含むコート層以外のコート層は、公知の排ガス浄化触媒装置における任意のコート層であってよい。
【0085】
第1の排ガス浄化触媒装置は、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
【0086】
しかしながら、第1の排ガス浄化触媒装置は、例えば、基材上に、本発明の排ガス浄化触媒用粒子を含む塗工液をコートした後、焼成する方法によって製造されてよい。この塗工液は、本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外に、任意成分又はその前駆体を、更に含んでいてよい。塗工液のコート後、焼成前に、必要に応じて乾燥が行われてもよい。
【0087】
塗工液のコート、乾燥、及び焼成は、それぞれ、公知の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法により、行われてよい。
【0088】
本発明の更に別の観点によると、
基材と、基材上のコート層とを有する、排ガス浄化触媒装置であって、
コート層が、上記に説明した本発明の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置(第2の排ガス浄化触媒装置)が提供される。
【0089】
第2の排ガス浄化触媒装置における基材は、第1の排ガス浄化触媒装置における基材と同様であってよい。
【0090】
第2の排ガス浄化触媒装置のコート層は、上記の基材上に形成されていてよい。
【0091】
このコート層は、本発明の排ガス浄化触媒を含む。排ガス浄化触媒は、第1の排ガス浄化触媒及び第2の排ガス浄化触媒から選択される、1種又は2種であってよい。
【0092】
コート層は、本発明の排ガス浄化触媒以外に、他の成分を含んでいてよい。他の成分は、例えば、本発明の排ガス浄化触媒用粒子(触媒貴金属が担持されていないもの)、触媒貴金属、本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外の無機酸化物粒子、バインダー等から選択されてよい。
【0093】
第2の排ガス浄化触媒装置における触媒貴金属、及び、本発明の排ガス浄化触媒用粒子以外の無機酸化物粒子は、それぞれ、第1の排ガス浄化触媒装置の場合と同様であってよい。
【0094】
第2の排ガス浄化触媒装置は、本発明の排ガス浄化触媒を含むコート層を、1層のみ有していてもよいし、このコート層を2層以上有していてもよい。また、第2の排ガス浄化触媒装置は、本発明の排ガス浄化触媒を含むコート層以外のコート層を、更に有していてもよい。本発明の排ガス浄化触媒を含むコート層以外のコート層は、例えば、本発明の排ガス浄化触媒用粒子を含むコート層、及び公知の排ガス浄化触媒装置における任意のコート層から選択される1層又は2層以上であってよい。
【0095】
第2の排ガス浄化触媒装置は、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
【0096】
しかしながら、第2の排ガス浄化触媒装置は、例えば、基材上に、本発明の排ガス浄化触媒を含む塗工液をコートした後、焼成する方法によって製造されてよい。この塗工液は、本発明の排ガス浄化触媒以外に、任意成分又はその前駆体を、更に含んでいてよい。塗工液のコート後、焼成前に、必要に応じて乾燥が行われてもよい。
【0097】
塗工液のコート、乾燥、及び焼成は、それぞれ、公知の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法により、行われてよい。
【実施例
【0098】
《粒子の分析方法》
1.嵩密度
各実験例で得られた粉末試料約20gを精秤し、メスシリンダーに投入して体積を測定した。得られた試料重量(g)及び体積(mL)を下記式に代入して、嵩密度を算出した。
嵩密度(g/mL)=試料重量(g)/試料体積(mL)
【0099】
2.細孔容積
各実験例で得られた粉末試料の細孔容積は、水銀ポロシメータを用い、水銀圧入法における、水銀注入圧力と水銀注入量との関係を調べ、水銀注入圧力(P)を下記数式で表されるWashburnの式によって細孔直径に換算して、0.1~20μmの累積細孔容積を求めた。
PD=-4σcosθ
【0100】
なお、上記式中のPは水銀注入圧力であり、Dは細孔直径であり、σは水銀の表面張力であり、θは水銀と試料との接触角である。本実施例では、σ=485mN/m、θ=130°として、計算を行った。
【0101】
3.Alと、無機被覆層中の金属元素との相関係数
各実験例で得られた、無機被覆層-アルミナ複合粒子については、Alと、無機被覆層中の金属元素との相関係数(ρAl,Me)を調べた。Alと無機被覆層中の金属元素との相関係数(ρAl,Me)は、電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA)を用いて測定した各元素の特性X線強度から求めた。具体的には、先ず、倍率300倍にて観察した、275μm×275μmの視野領域を、縦256分割×横256分割の合計65,536個の領域に分割し、各分割領域におけるAlの特性X線強度、及び無機被覆層中の金属元素の特性X線強度を求めた。次に、これらの値から、下記数式により、Alの特性X線強度及び無機被覆層中の金属元素の特性X線強度の共分散(CAl、Me)、Alの特性X線強度の標準偏差(σAl)、及びCeの特性X線強度の標準偏差(σMe)をそれぞれ算出して、共分散(CAl、Me)を標準偏差の積(σAl・σMe)で除することによって、相関係数(ρAl,Me)を求めた。
【0102】
【数1】
【0103】
上記の数式において、IMe,iは、i番目の分割領域における、無機被覆層中の金属元素の特性X線強度であり、IMe,avは、無機被覆層中の金属元素の特性X線強度の平均値であり、IAl,iは、i番目の分割領域におけるAlの特性X線強度であり、IAl,avは、Alの特性X線強度の平均値であり、nは分割領域数(65,536)である。
【0104】
4.XRD測定
各実験例で得られた、無機被覆層-アルミナ複合粒子については、XRD測定を行い、無機被覆層中の金属元素が酸化物として存在していることを確認し、当該酸化物の結晶子径を調べた。XRD測定は、以下の条件にて行った。
検出器:(株)リガク製、試料水平型強力X線回折装置「RINT-TTR III」
管球:CuKα
出力:40kV-250mA
測定角度範囲(2θ):5~85°
サンプリング間隔:0.02°
【0105】
5.熱伝導率
各実験例で得られた各粉末試料の熱伝導率は、スウェーデン国、Hot Disk AB(aktiebolag)製のホットディスク法熱物性測定装置、形式名「TPS 500S」を用いて、金型サイズ2.4cmΦ、試料充填高さ1.0cm、測定圧力20cmNの条件下、室温(24±2℃)にて測定した。
【0106】
《比較例1》
嵩密度0.44g/cm、0.1~20μmの累積細孔径容積が0.91cm/gのアルミナ粒子(アルミナ(1))について、評価を行った。
【0107】
《比較例2》
比較例1で用いたのと同種のアルミナ(1)450gと、セリア粒子50gとを、乾式混合して得た混合粒子について、評価を行った。
【0108】
《実施例1》
比較例1で用いたのと同種のアルミナ(1)450gに、CeO換算のCe濃度が16.7質量%の硝酸セリウム水溶液299.4g(CeO換算のCe量50g相当)を噴霧し、大気中で250℃にて8時間乾燥した後、大気中で500℃にて2時間焼成することにより、実施例1のセリア-アルミナ複合粒子(排ガス浄化触媒用粒子)を得た。このセリア-アルミナ複合粒子について、評価を行った。
【0109】
比較例1及び2、並びに実施例1の粒子についての評価結果を、表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
《比較例3》
嵩密度0.67g/cm、0.1~20μmの累積細孔径容積が0.48cm/gのアルミナ粒子(アルミナ(2)について、評価を行った。
【0112】
《比較例4》
比較例3で用いたのと同種のアルミナ(2)450gと、セリア粒子50gとを、乾式混合して得た混合粒子について、評価を行った。
《比較例5》
比較例3で用いたのと同種のアルミナ(2)450gを、CeO換算のCe濃度が4.5質量%の硝酸セリウム水溶液1,111g(CeO換算のCe量50g)中に浸漬し、室温にて1時間撹拌した後、大気中で250℃にて8時間乾燥し、次いで、大気中で500℃にて2時間焼成することにより、比較例5のセリア-アルミナ複合粒子を得た。このセリア-アルミナ複合粒子について、評価を行った。
【0113】
《実施例2》
比較例3で用いたのと同種のアルミナ(2)450gに、CeO換算のCe濃度が16.4質量%の硝酸セリウム水溶液304.9g(CeO換算のCe量50g)を噴霧し、大気中で250℃にて8時間乾燥した後、大気中で500℃にて2時間焼成することにより、実施例2のセリア-アルミナ複合粒子(排ガス浄化触媒用粒子)を得た。このセリア-アルミナ複合粒子について、熱伝導率の評価を行った。
【0114】
《実施例3》
アルミナ(2)の量を400gとし、硝酸セリウム水溶液としてCeO換算のCe濃度が26.3質量%の硝酸セリウム水溶液380.23g(CeO換算のCe量100g)を用いた他は、実施例2と同様にして、実施例3のセリア-アルミナ複合粒子(排ガス浄化触媒用粒子)を得た。このセリア-アルミナ複合粒子について、評価を行った。
【0115】
比較例3~5、並びに実施例2及び3の粒子についての評価結果を、表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
表1及び2の結果から、以下のことが理解される。
【0118】
アルミナ粒子とセリアとを複合化した結果、孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積が減少した、比較例2、4、及び5、並びに実施例1~3のセリア-アルミナ複合粒子では、元のアルミナ粒子に比べて、熱伝導率が向上した。しかしながら、Alと希土類金属元素との相関係数が低い、比較例2、4、及び5の場合には、熱伝導率の向上の程度はわずかであった。
【0119】
これに対して、アルミナ粒子とセリアとを複合化した結果、孔径0.1~20μmの範囲の累積細孔容積が、元のアルミナ粒子よりも減少し、かつ、AlとCeとの相関係数が高い、実施例1~3のセリア-アルミナ複合粒子では、元のアルミナ粒子に比べて、熱伝導率が有意に向上した。XRD、及びAlとCeとの相関係数の結果からは、これらのセリア-アルミナ複合粒子では、セリアの一次粒子がアルミナ粒子の二次表面上に担持されているものと推察された。
【0120】
《排ガス浄化触媒装置の排ガス浄化性能の評価方法》
排ガス浄化触媒装置を常圧固定床式流通反応装置に設置し、ストイキ相当の排ガスモデルガス(下記組成)を流通させながら、ガス温度を100℃から600℃まで20℃/分の昇温速度で昇温して、排ガス浄化触媒装置からの排出ガス中のHC濃度、CO濃度、及びNOx濃度を連続的にモニターした。このとき、HC、CO、及びNOxそれぞれの浄化率が、50%に達したガス温度(50%浄化温度)を調べた。
【0121】
排ガスモデルガスの組成は、以下のとおりとした。以下の濃度は、いずれも、標準状態の質量比である。
HC:1,500ppm
CO:2,600ppm
NO:1,650ppm
:0.27%
CO:7.0%
O:1.5%
;バランス
【0122】
《実施例4》
上記の実施例2で得られたセリア-アルミナ複合粒子(排ガス浄化触媒用粒子)450gを、イオン交換水1,000mL中に分散し、金属Pd換算のPd含有量が8.44質量%の硝酸パラジウム水溶液26.7g(金属Pd換算のPd量2.25g)を添加して、室温にて1時間撹拌した。吸引ろ過器を用いて、撹拌後の混合物から固形分を回収し、大気中で110℃にて2時間乾燥後、大気中で500℃にて2時間焼成して、排ガス浄化触媒を得た。
【0123】
一方、吸引ろ過時のろ液を、ICP発光分析によって分析したところ、ろ液からPdは検出されず、したがって、上記で得られた排ガス浄化触媒におけるPdの担持効率は、100%であり、そのPd担持率は、セリア-アルミナ複合粒子の質量を100質量%として、0.5質量%であった。
【0124】
上記で得られた排ガス浄化触媒300gを、イオン交換水450mLと混合し、ボールミルにより湿式粉砕することにより、平均粒径が5μmに調整された排ガス浄化触媒のスラリーを得た。
【0125】
基材として、直径30mm、長さ50mm(容積0.035L)のコージェライト製モノリスハニカム担体を用い、この担体に、乾燥後コート量が3.5g(100g/L)となるように、上記のスラリーを塗布した。次いで、大気中で250℃にて2時間乾燥した後に、大気中で500℃にて2時間焼成することにより、実施例4の排ガス浄化触媒装置を得た。
【0126】
得られた排ガス浄化触媒装置を用いて、上述の手法によって、触媒性能の評価を行った。
【0127】
《比較例6》
セリア-アルミナ複合粒子に代えて、比較例3で用いたのと同種のアルミナ(2)456gを用いた他は、実施例4と同様にして、比較例6の排ガス浄化触媒装置を製造して、その排ガス浄化性能の評価を行った。
【0128】
実施例4及び比較例6でそれぞれ得られた排ガス浄化触媒装置の排ガス浄化性能を、表3に示した。
【0129】
【表3】
【0130】
表3の結果から、触媒貴金属の担体として、本発明の排ガス浄化触媒用粒子を用いた実施例4の排ガス浄化触媒装置では、担体にアルミナ粒子を用いた比較例6の排ガス浄化触媒装置と比べて、HC、CO、及びNOxすべてについて、50%浄化温度が低いことが検証された。これは、排ガス浄化触媒装置を構成するセリア-アルミナ複合粒子の熱伝導率が高いため、排ガスの熱が、速やかに触媒コート層に伝達されて、触媒コート層の温度が速やかに上昇した結果、より高い排ガス浄化性能を早期に示すようになったためと考えられる。
【0131】
《実施例5》
CeO換算のCe濃度が16.4質量%の硝酸セリウム水溶液274.4g(CeO換算のCe量45g)と、Pr11換算のPr濃度が27.9質量%の硝酸プラセオジム水溶液18.0g(Pr11換算のPr量5g)とを混合して、噴霧用混合水溶液を調製した。
【0132】
比較例3で用いたのと同種のアルミナ(2)450gに、上記の噴霧用混合水溶液を噴霧し、大気中で250℃にて8時間乾燥した後、大気中で500℃にて2時間焼成することにより、実施例5のセリア-アルミナ複合粒子(排ガス浄化触媒用粒子)を得た。このセリア/プラセオジム-アルミナ複合粒子について、熱伝導率の評価を行った。
【0133】
《実施例6~8》
噴霧用混合水溶液を調製するときの、硝酸セリウム水溶液及び硝酸プラセオジム水溶液の混合量を変更し、CeO換算のCe量とPr11換算のPr量との合計が50gであり、両者の比が表4に記載の値となるように調節した他は、実施例5と同様にして、セリア-アルミナ複合粒子(排ガス浄化触媒用粒子)を調製して、熱伝導率の評価を行った。
【0134】
実施例5~8の評価結果を、比較例3及び実施例2の結果とともに、表4に示す。
【表4】
【0135】
表4の結果から、アルミナ粒子と、セリウム-プラセオジム複合酸化物とを複合化した実施例5~8の複合粒子も、アルミナ粒子とセリアとを複合化した実施例2の複合粒子と同様に、元のアルミナ粒子(比較例3)に比べて、熱伝導率が有意に向上することが検証された。