(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】摩耗検出装置及びブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 17/22 20060101AFI20230307BHJP
F16D 66/02 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
B60T17/22 Z
F16D66/02 F
(21)【出願番号】P 2019154677
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕樹
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-56482(JP,A)
【文献】特開2008-222084(JP,A)
【文献】特開2017-71251(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0146279(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102009011986(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016215725(DE,A1)
【文献】特開2016-74411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00 - 17/22
F16D 49/00 - 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の機械式ブレーキに用いられている摩擦材の摩耗を検出する摩耗検出装置であって、
前記機械式ブレーキの制動量を検出する第1の検出部と、
前記第1の検出部で検出された前記制動量により減速した前記車両の減速度を求め、その求めた前記減速度と、当該制動量による前記減速度の許容範囲の下限値とを比較する第1の比較処理を実行する処理部と、
前記第1の比較処理の比較結果を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする摩耗検出装置。
【請求項2】
前記出力部は、前記処理部が前記減速度と前記下限値とを比較した結果、前記減速度が前記下限値以下である場合にのみ前記比較結果を出力することを特徴とする、請求項1に記載の摩耗検出装置。
【請求項3】
前記車両の車輪の回転速度を検出する第2の検出部をさらに備え、
前記処理部は、前記第2の検出部で検出された回転速度から前記減速度を求める、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摩耗検出装置。
【請求項4】
前記機械式ブレーキの制動量は、前記車両のブレーキペダルの操作量又はマスタシリンダの油圧であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の摩耗検出装置。
【請求項5】
前記処理部は、
第1の期間において前記第1の検出部で検出された第1の制動量により減速した前記減速度から所定値だけ小さい値を前記下限値に設定する基準値設定部と、
前記第1の期間後の第2の期間において、前記第1の検出部で検出された第2の制動量が前記第1の制動量と同一又は同一と同視し得る場合に、前記第2の制動量により減速した前記減速度と前記下限値とを比較する前記第1の比較処理を実行する比較部と、
を備え、
前記出力部は、前記第1の比較処理において、前記第2の制動量により減速した前記減速度が前記下限値以下である場合には、当該第1の比較処理の結果をアラーム音、表示灯の点灯表示及び表示装置の画面表示の少なくとも一つの方式によって出力することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の摩耗検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の摩耗検出装置と、
前記摩擦材によって前記車両に制動力を与える機械式ブレーキ装置と、
を備えるブレーキシステムであって、
前記比較部は、前記第2の期間において、前記第1の検出部で検出された第2の制動量が前記第1の制動量と同一又は同一と同視し得る場合に、前記第2の制動量により減速した前記減速度と前記下限値よりも低い値である閾値とを比較する第2の比較処理を実行し、
前記出力部は、前記第2の比較処理の結果、前記第2の制動量により減速した前記減速度が前記閾値以下の場合には、前記機械式ブレーキ装置に通知し、
前記機械式ブレーキ装置は、前記出力部から通知を受けると前記車両を停止させる、
ことを特徴とするブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗検出装置及びブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ブレーキの性能を安定化させるために、ブレーキパッドの温度に基づいて回生ブレーキと機械式ブレーキの配分を自動制御するブレーキ制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の発明は、摩耗を最小限に抑えることを目的としており、車両を使用し続けている限りは必ず、ブレーキパッドの摩耗によって所望の制動力を出せなくなる事態が招来する。したがって、所望の制動力を出せなくなる恐れがある場合にはブレーキパッドの点検や交換を行う必要がある。ただし、現状では、ユーザ(例えば、運転者)がブレーキパッドの摩耗の度合いを容易に把握することはできず、ブレーキパッドの点検や交換の適切な時期を判断するのは困難である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、ユーザがブレーキパッドの点検や交換の適切な時期を把握することができる摩耗検出装置及びブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、車両の機械式ブレーキに用いられている摩擦材の摩耗を検出する摩耗検出装置であって、前記機械式ブレーキの制動量を検出する第1の検出部と、前記第1の検出部で検出された前記制動量により減速した前記車両の減速度を求め、その求めた前記減速度と、当該制動量による前記減速度の許容範囲の下限値とを比較する第1の比較処理を実行する処理部と、前記第1の比較処理の比較結果を出力する出力部と、を備えることを特徴とする摩耗検出装置である。
【0007】
(2)上記(1)の摩耗検出装置であって、前記出力部は、前記処理部が前記減速度と前記下限値とを比較した結果、前記減速度が前記下限値以下である場合にのみ前記比較結果を出力してもよい。
【0008】
(3)上記(1)又は上記(2)の摩耗検出装置であって、前記車両の車輪の回転速度を検出する第2の検出部をさらに備え、前記処理部は、前記第2の検出部で検出された回転速度から前記減速度を求めてもよい。
【0009】
(4)上記(1)から(3)のいずれかの摩耗検出装置であって、前記機械式ブレーキの制動量は、前記車両のブレーキペダルの操作量又はマスタシリンダの油圧であってもよい。
【0010】
(5)上記(1)から(4)のいずれかの摩耗検出装置であって、前記処理部は、第1の期間において前記第1の検出部で検出された第1の制動量により減速した前記減速度から所定値だけ小さい値を前記下限値に設定する基準値設定部と、前記第1の期間後の第2の期間において、前記第1の検出部で検出された第2の制動量が前記第1の制動量と同一又は同一と同視し得る場合に、前記第2の制動量により減速した前記減速度と前記下限値とを比較する前記第1の比較処理を実行する比較部と、を備え、前記出力部は、前記第1の比較処理において、前記第2の制動量により減速した前記減速度が前記下限値以下である場合には、当該第1の比較処理の結果をアラーム音、表示灯の点灯表示及び表示装置の画面表示の少なくとも一つの方式によって出力してもよい。
【0011】
(6)上記(5)の摩耗検出装置と、前記摩擦材によって前記車両に制動力を与える機械式ブレーキ装置と、を備えるブレーキシステムであって、前記比較部は、前記第2の期間において、前記第1の検出部で検出された第2の制動量が前記第1の制動量と同一又は同一と同視し得る場合に、前記第2の制動量により減速した前記減速度と前記下限値よりも低い値である閾値とを比較する第2の比較処理を実行し、前記出力部は、前記第2の比較処理の結果、前記第2の制動量により減速した前記減速度が前記閾値以下の場合には、前記機械式ブレーキ装置に通知し、前記機械式ブレーキ装置は、前記出力部から通知を受けると、前記車両を停止させる、ことを特徴とするブレーキシステムである。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、運転者がブレーキパッドの点検や交換の時期を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る摩耗検出装置を備えたブレーキシステム1の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る摩耗検出装置3の概略構成の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る摩耗検出装置3の動作のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る摩耗検出装置及びブレーキシステムを、図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る摩耗検出装置を備えたブレーキシステム1の概略構成の一例を示す図である。ブレーキシステム1は、車両Aに搭載されている。車両Aは、有人であってもよいし、無人であってもよい。車両Aは、自動運転車であってもよい。また、車両Aは、有人であって運転者によって操縦されてもよいし、無人であって遠隔から操縦者によって操縦されてもよい。本実施形態では、車両Aが運転者により操縦される場合について説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係るブレーキシステム1は、機械式ブレーキ装置2及び摩耗検出装置3を備える。
【0017】
機械式ブレーキ装置2は、機械式ブレーキにより車両Aの車輪Wに制動力を発生させる。なお、車輪Wは、前輪でもよいし、後輪でもよいし、前輪及び後輪の両方であってもよい。
【0018】
摩耗検出装置3は、車両Aの機械式ブレーキに用いられている摩擦材の摩耗の度合いを検出する。そして、摩耗検出装置3は、摩擦材の摩耗の度合いが規定値よりも高い場合には、ユーザに通知する。ここで、例えば、ユーザとは、車両Aに搭乗している搭乗者や運転者であってもよいし、車両Aの遠隔操縦者や遠隔監視者であってもよいし、その両方であってもよい。
【0019】
以下に、本実施形態に係る機械式ブレーキ装置2の概略構成の一例について説明する。
機械式ブレーキ装置2は、ブレーキペダル4、ブレーキペダルストロークセンサ5、マスタシリンダ6、油圧センサ7、ブレーキアクチュエータ8、ブレーキ機構9、モータ10、駆動装置11、回転センサ12及び車速センサ13を備える。
【0020】
ブレーキペダル4は、運転者や不図示のアクチュエータからの操作(ブレーキ操作)を受け付ける。例えば、ブレーキ操作は、運転者がブレーキペダル4を操作する踏み込む操作である。また、ブレーキ操作は、アクチュエータがブレーキペダル4を押し込む操作であってもよい。
【0021】
ブレーキペダルストロークセンサ5は、ブレーキペダル4に設けられ、ブレーキ操作によるブレーキペダル4の操作量Sを一定周期ごとに計測する。そして、ブレーキペダルストロークセンサ5は、計測した操作量Sを摩耗検出装置3に出力する。なお、運転者がブレーキペダル4を踏み込む場合には、操作量Sは、ブレーキペダル4の踏込み量である。
【0022】
マスタシリンダ6は、ブレーキペダル4と接続されており、ブレーキペダル4へのブレーキ操作に応じた油圧を発生させる。
油圧センサ7は、マスタシリンダ6で発生させた油圧P(以下、「ブレーキ油圧」という。)を一定周期ごとに計測し、その計測したブレーキ油圧Pを摩耗検出装置3に出力する。ただし、油圧センサ7は、ブレーキペダル4が操作されている場合においてのみ一定周期ごとにブレーキ油圧Pを計測してもよい。
【0023】
ブレーキアクチュエータ8は、マスタシリンダ6で発生させた油圧をブレーキ機構9に供給する。
【0024】
ブレーキ機構9は、ディスクブレーキであってもよいし、ドラムブレーキであってもよい。したがって、本発明の「摩擦材」は、ブレーキパッドであってもよいし、ブレーキシューであってもよい。なお、以下においては、ブレーキ機構9がディスクブレーキであるとして説明する。
【0025】
ブレーキ機構9は、ブレーキディスクロータ91、ブレーキキャリパ92及びブレーキパッド93を備える。
ブレーキディスクロータ91は、車輪Wとともに回転する。
ブレーキキャリパ92は、ブレーキアクチュエータ8から供給された油圧によりブレーキパッド93をブレーキディスクロータ91に押し付ける。これにより、車両Wに操作量S又は油圧Pに応じた制動力が発生する。
【0026】
ブレーキパッド93は、ブレーキディスクロータ91に接触することで摩擦力(制動力)を発生させる。ブレーキパッド93は、本発明の「摩擦材」の一例である。このブレーキパッド93は、摩耗していくと摩擦力が低下する。そのため、ブレーキパッド93は、消耗品であって、交換が必要である。
【0027】
モータ10は、車輪Wの駆動源であって、車両Wに駆動力を発生させる。この駆動力によって車輪Wが回転して車両Aが走行する。
【0028】
駆動装置11は、モータ10の回転を制御する。
回転センサ12は、モータ10の回転を検出して、そのモータ10の回転に応じた検出信号(例えば、パルス信号)を出力する。回転センサ12は、例えば、レゾルバである。
【0029】
車速センサ13は、車両Aの速度(以下、「車速」という。)Vcを一定周期ごとに計測する。そして、車速センサ13は、車両Aの速度(以下、「車速」という。)Vcを摩耗検出装置3に出力する。
【0030】
次に、本実施形態に係る摩耗検出装置3の概略構成の一例を説明する。
図2は、本実施形態に係る摩耗検出装置3の概略構成の一例を示す図である。
【0031】
図2に示すように、摩耗検出装置3は、第1の検出部20、第2の検出部21、処理部22及び出力部23を備える。
【0032】
第1の検出部20は、機械式ブレーキ装置2が車輪Wに対して発生させる制動量brを検出する。この制動量brとは、機械式ブレーキ装置2が車輪Wに対して発生させる制動力の度合いを示す。例えば、制動量brは、ブレーキペダルの操作量S又はブレーキ油圧Pである。本実施形態では、第1の検出部20は、ブレーキペダルストロークセンサ5から操作量Sを一定周期ごとに取得することで制動量brを検出する。ただし、第1の検出部20は、油圧センサ7からブレーキ油圧Pを一定周期ごとに取得することで制動量brを検出してもよい。第1の検出部20は、検出した制動量brを処理部22に出力する。
また、第1の検出部20は、操作量Sを制動量brとして検出し、ブレーキペダルストロークセンサ5に故障があった場合(例えば、操作量Sが異常値であると判定された場合)には、ブレーキ油圧Pを制動量brとして検出してもよい。
【0033】
第2の検出部21は、回転センサ12からの検出信号に基づいて車輪Aの回転速度Vrを一定周期ごとに算出することで回転速度Vrを検出する。そして、第2の検出部21は、検出した回転速度Vrを処理部22に出力する。
【0034】
処理部22は、第1の検出部20で検出された制動量brにより減速した車両Aの減速度aを回転速度Vrにより求める。そして、処理部22は、その求めた減速度aと、当該制動量brによる減速度aの許容範囲の下限値(以下、「第1の基準値ath1」という。)と、を比較する第1の比較処理を実行する。減速度aが第1の基準値ath1以下の場合とは、機械式ブレーキの効きが悪くなっている場合である。
【0035】
出力部23は、第1の比較処理の比較結果を出力する。例えば、出力部23は、第1の比較処理において、減速度aが第1の基準値ath1以下である場合には、その第1の比較処理の結果を、アラーム音、警告灯を含む表示灯の点灯表示及び表示装置の画面表示の少なくとも一つの方式によって出力する。これにより、出力部23は、ユーザに機械式ブレーキの効きが悪くなっていることを報知することができる。出力部23は、上記アラーム音を出力する音出力部、上記表示灯及び上記表示装置のうち、少なくともいずれかを有していてもよい。また、出力部23は、第1の比較処理において、減速度aが第1の基準値ath1以下である場合には、当該第1の比較処理の結果をユーザの通信装置に有線又は無線で出力してもよい。上記通信装置は、スマートフォンやタブレット端末等の携帯情報端末であってもよい。
【0036】
なお、出力部23は、第1の比較処理において、減速度aが第1の基準値ath1以上である場合には、その第1の比較処理の結果を出力してもよい。例えば、出力部23は、減速度aが第1の基準値ath1以下である場合には表示灯を第1の態様で表示し、減速度aが第1の基準値ath1以上である場合には表示灯を第1の態様とは異なる第2の態様で表示する。
【0037】
次に、本実施形態に係る処理部22の概略構成の一例について説明する。なお、処理部22は、CPU又はMPUなどのマイクロプロセッサ、MCUなどのマイクロコントローラなどにより構成されてよい。
【0038】
処理部22は、減速度算出部30、基準値設定部31、格納部32及び比較部33を備える。
【0039】
減速度算出部30は、第2の検出部21から出力された回転速度Vrに基づいて減速度aを求める。ただし、本実施形態では、減速度算出部30は、減速度aを算出することができれば、その算出方法には特に限定されない。例えば、減速度算出部30は、車速センサ13からの車速Vに基づいて減速度aを算出してもよい。
例えば、減速度算出部30は、回転速度Vrに基づいて減速度aを求め、回転速度Vrが異常値であると判定された場合には車速Vに基づいて減速度aを求めてもよい。
【0040】
基準値設定部31は、第1の期間H1において第1の検出部20で検出された制動量br(以下、「第1の制動量br1」という。)により減速した減速度a(以下、「第1の減速度a1」という。)を減速度算出部30から取得する。そして、基準値設定部31は、第1の減速度a1から所定値だけ小さい値を第1の基準値ath1に設定する。当該所定値は、予め設定されており、例えば実験やブレーキパッド93の仕様によって決定されてもよい。基準値設定部31は、第1の制動量br1と第1の基準値ath1とを関連付けて格納部32に格納する。第1の制動量br1と第1の基準値ath1とは、1つのデータセットであってもよいし、複数のデータセットであってもよい。
【0041】
ここで、上記第1の期間H1は、ブレーキパッド93の摩耗の度合いが低い期間である。例えば、第1の期間H1は、ブレーキパッド93が最初にブレーキディスクロータ91に接触したときから所定の時間(例えば、数分や数時間)が経過するまでの期間である。例えば、ブレーキパッド93が最初にブレーキディスクロータ91に接触したときとは、車輪Wに対して制動力が最初に付与されたときである。また、第1の期間H1は、ブレーキシステム1を車両Aに搭載した当初にあたる期間であってもよい。
【0042】
なお、ブレーキパッド93が交換された場合には、基準値設定部31は、格納部32に格納されている第1の基準値ath1をリセットしてもよい。そして、基準値設定部31は、ブレーキバッド93が交換される度に、新たな第1の制動量br1を設定してもよい。ここで、摩耗検出装置3に操作部(不図示)を備え、基準値設定部31は、操作部が操作されたことを示す信号を当該操作部から受信した場合には、ブレーキパッド93が交換されたと判定してもよい。
【0043】
格納部32には、互いに関連付けられた第1の制動量br1と第1の基準値ath1とが格納されている。
【0044】
比較部33は、第1の期間H1後の第2の期間H2において、第1の検出部20で検出された制動量br(以下、「第2の制動量br2」という。)が、格納部32に格納されている第1の制動量br1と同一又は同一と同視し得る値か否かを一定周期ごとに判定する。例えば、比較部33は、第2の制動量br2が第1の制動量br1を中心とした所定の範囲内に含まれる場合には、第2の制動量br2と第1の制動量br1とが同一と同視し得ると判定する。
【0045】
比較部33は、第2の制動量br2が第1の制動量br1と同一又は同一と同視し得る値であると判定した場合には、当該第2の制動量br2により減速した減速度a(以下、「第2の減速度a2」という。)を減速度算出部30から取得するとともに、当該第1の制動量br1に関連付けられている第1の基準値ath1を格納部32から読み取る。そして、比較部33は、第2の減速度a2と第1の基準値ath1とを比較する第1の比較処理を実行する。なお、比較部33が第2の減速度a2を減速度算出部30から取得するタイミングは、第2の制動量br2が第1の制動量br1と同一又は同一と同視し得る値であると判定する前であってもよい。
【0046】
比較部33は、第2の期間H1において、第1の比較処理の結果、第2の減速度a2が第1の基準値ath1以下の場合には、当該第2の減速度a2と第2の基準値ath2(閾値)とを比較する第2の比較処理を実行してもよい。ここで、第2の基準値ath2は、第1の基準値ath1よりも低い値である。
出力部23は、第2の比較処理の結果、第2の減速度a2が第2の基準値ath2以下の場合には駆動装置11に通知してもよい。駆動装置11は、当該通知を受け取ると、モータ10への回転を制御してモータ10に対して制動力を発生させることで車両Aを停止させる。第2の減速度a2が第2の基準値ath2以下の場合とは、減速度aが著しく低い状態であって、ブレーキパッド93の摩耗の度合いが高い状態を示す。このような状態では、ブレーキシステム1は、車両Aの走行が危険であると判断し、自動ブレーキ機能により停止させてもよい。
【0047】
次に、本実施形態に係る摩耗検出装置3の動作の流れについて、
図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態に係る摩耗検出装置3の動作のフロー図である。なお、以下において、すでに格納部32に第1の制動量br1と第1の基準値ath1とが関連付けられて格納されている。
【0048】
処理部22は、第1の検出部20から機械式ブレーキ装置2が車輪Wに対して発生させている第2の制動量br2を取得する。また、処理部22は、第2の検出部21からの回転速度Vrに基づいて、第2の制動量br2によって減速した第2の減速度a2を求める(ステップS101)。例えば、第2の制動量br2によって減速した第2の減速度a2とは、第2の制動量br2を第1の検出部20で取得しているときの回転速度Vから算出した減速度aである。
【0049】
比較部33は、第2の制動量br2が、格納部32に格納されている第1の制動量br1と同一又は同一と同視し得る値か否かを判定する(ステップS102)。比較部33は、第2の制動量br2が第1の制動量br1と同一又は同一と同視し得る値であると判定した場合には、当該第1の制動量br1に関連付けられている第1の基準値ath1を格納部32から読み取る。そして、比較部33は、第2の減速度a2が、読み取った第1の基準値ath1以下か否かを判定する第1の比較処理を実行する(ステップS103)。一方、比較部33は、第2の制動量br2が第1の制動量br1と同一ではない又は同一と同視し得る値ではないと判定した場合には、ステップS101の処理に戻る。
【0050】
比較部33は、ステップS103の処理において、第2の減速度a2が第1の基準値ath1以下であると判定した場合には、当該第2の減速度a2が第2の基準値ath以下であるか否かを判定する第2の比較処理を実行する(ステップS104)。一方、比較部33は、ステップS103の処理において、第2の減速度a2が第1の基準値ath1以下ではないと判定した場合には、ステップS101の処理に戻る。
【0051】
出力部23は、ステップS104の処理において、第2の減速度a2が第2の基準値ath2以下であると判定された場合には、その第2の比較処理の結果を出力する報知処理を実行するとともに、車両Aを停止させる停止信号を駆動装置11に出力することで通知する(ステップS105)。例えば、出力部23は、報知処理として、第2の比較処理の結果をアラーム音、警告灯を含む表示灯の点灯表示及び表示装置の画面表示の少なくとも一つの方式によって出力する。また、出力部23は、報知処理として、第2の比較処理の結果をユーザの通信装置に有線又は無線で出力してもよい。
駆動装置11は、停止信号を受信するとモータ10に対して制動力を発生させることで車両Aを停止させる。
【0052】
一方、出力部23は、ステップS104の処理において、第2の減速度a2が第2の基準値ath2以下ではないと判定された場合には、第1の比較処理の結果(第2の減速度a2が第1の基準値ath1以下であること)を出力する報知処理を実行する(ステップS106)。当該報知処理の方法は、ステップS105に記載の報知処理と同様である。
【0053】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0054】
(変形例1)上記実施形態に係る処理部22は、第1の期間H1における減速度aから第1の基準値ath1を設定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、処理部22は、外部装置から第1の基準値ath1と第1の制動量br1とを取得して格納部32に格納してもよい。
【0055】
(変形例2)上記実施形態に係る処理部22は、第1の制動量br1と第1の減速度a1とから制動量brに対する減速度aの比率R(a1/br1)を求めてもよい。そして、処理部22は、第2の制動量br2と比率Rとを用いて第1の基準値ath1(例えば、br2×R)を算出してもよい。これにより、第1の基準値ath1は、第2の制動量br2によって変動する。そのため、処理部22は、
図3におけるステップS102の処理を行う必要はなく、処理負荷を削減することができる。
【0056】
(変形例3)上記実施形態に係る処理部22は、第1の比較処理及び第2の比較処理を、制動量brのサンプリング周期や減速度aの算出周期で行ってもよいし、予め決まった日(例えば、毎週日曜日)のみ行ってもよい。すなわち、第1の比較処理及び第2の比較処理のタイミングは任意に設定可能である。
【0057】
(変形例4)上記実施形態の比較部33は、第2の減速度a2が第1の基準値ath1以下か否かを判定する第1の比較処理を実行したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、比較部33は、第2の制動量br2に対する第2の減速度a2の比率R2を求めてもよい。そして、比較部33は、第1の比較処理として、第1の制動量br1に対する第1の減速度a1の比率R1よりも所定値だけ低いRthを求め、比率R2と比率Rthとを比較してもよい。そして、出力部23は、比率R2が比率Rth以下になった場合にステップS106の処理を実行してもよい。
【0058】
以上、説明したように、本実施形態に係る摩耗検出装置3は、第1の検出部20で検出された制動量brにより減速した車両の減速度aを求め、その求めた減速度aと、当該制動量brによる減速度aの許容範囲の下限値(第1の基準値ath1)とを比較する第1の比較処理を実行する処理部22を備える。また、摩耗検出装置3は、第1の比較処理の比較結果を出力する出力部23を備える。
【0059】
このような構成によれば、ユーザがブレーキパッドの点検や交換の適切な時期を把握することができる。
【0060】
従来のブレーキシステムでは、機械式ブレーキに用いられているブレーキパッド93の交換時期などをユーザに知らせることは行っていない。そのため、車両Aのユーザが適当な時期にブレーキパッド93の交換を行ったり、定期点検のときに整備業者から指摘されてブレーキパッド93を交換したりしているのが実情である。これにより、ブレーキパッド93の交換時期が早ければ、まだ使用できるブレーキパッド93を無駄にすることになる。一方、ブレーキパッド93の交換時期が遅ければ、ブレーキパッド93の摩耗に起因する事故の発生の確率が高くなる場合がある。
【0061】
本実施形態では、摩耗検出装置3は、減速度aが第1の基準値ath1以下になった場合(ブレーキに効きが悪くなった場合)には、ユーザに通知する。これにより、運転者は当該通知により、ブレーキパッドの点検や交換の適切な時期を把握することができる。
【0062】
なお、上述した摩耗検出装置3の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。この場合、上記コンピュータは、CPU、GPUなどのプロセッサ及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えてもよい。そして、上記摩耗検出装置3の全部または一部の機能をコンピュータで実現するためのプログラムを上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを上記プロセッサに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。ここで、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
A 車両
1 ブレーキシステム
2 機械式ブレーキ装置
3 摩耗検出装置
20 第1の検出部
21 第2の検出部
22 処理部
23 出力部
30 減速度算出部
31 基準値設定部
32 格納部
33 比較部