(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
H05B 3/00 20060101AFI20230308BHJP
B60N 2/56 20060101ALI20230308BHJP
A47C 7/74 20060101ALI20230308BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
H05B3/00 320B
B60N2/56
A47C7/74 B
H05B3/00 370
H05B3/00 310C
B60R16/02 650J
(21)【出願番号】P 2018231981
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 生佳
【審査官】河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0238159(US,A1)
【文献】特開平11-149973(JP,A)
【文献】特開2006-85907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00
B60N 2/56
A47C 7/74
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートであって、
シートクッションに設けられた第1電熱線と、
シートバックに設けられた第2電熱線と、
前記第1電熱線と前記第2電熱線とを互いに並列に接続する回路と、
前記回路
の全体を流れる電流を測定する電流測定手段と、
前記第1電熱線又は前記第2電熱線の温度を測定する温度測定手段と、
前記回路
の全体の電気抵抗
である合成抵抗に基づいて前記第1電熱線及び前記第2電熱線の少なくとも一方の失陥を判定する判定手段とを有し、
前記判定手段は、前記回路
の全体に供給される電圧及び電流に基づいて
前記合成抵抗を算出し、
前記合成抵抗と
前記合成抵抗を取得したときの前記第1電熱線又は前記第2電熱線の温度とに基づいて前記回路が所定の温度閾値のときに予測される
前記合成抵抗を抵抗閾値として算出し、その後に算出した
前記合成抵抗が前記抵抗閾値より大きいときに前記失陥が発生したことを判定する乗物用シート。
【請求項2】
前記温度閾値は、150℃以上250℃以下である請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記判定手段は、以下の式(1)に基づいて前記抵抗閾値を算出する請求項2に記載の乗物用シート。
Rth={1+k×(Tv-Tm)}×Rm ・・・(1)
ここで、Rthは前記抵抗閾値[Ω]、kは前記第1電熱線及び前記第2電熱線の電気抵抗温度係数[℃
-1]、Tvは前記温度閾値[℃]、Tmは測定温度[℃]、Rmは前記電気抵抗[Ω]である。
【請求項4】
前記判定手段は、前記回路に電流を流す初回時に前記抵抗閾値を算出する請求項3に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記判定手段は、所定の入力信号に応じて前記抵抗閾値を再び算出する請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記第1電熱線及び前記第2電熱線は、前記回路に着脱可能に接続されている請求項1~請求項5のいずれか1つの項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記判定手段は、前記シートクッションの下側に設けられ、
前記第1電熱線は、前記シートクッションの上面に設けられ、
前記第2電熱線は、前記シートバックの前面に設けられ、
前記回路は、前記判定手段から前記シートクッションの後端に沿って上方に延び、分岐して前記シートクッションの上面側及び前記シートバックの前面側に延びている請求項1~請求項6のいずれか1つの項に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記第1電熱線は、前記シートクッションの上面に沿って配置されたシート材に設けられ、
前記シート材の後端部は、前記シートバックの下方に配置され、
前記温度測定手段は、前記シート材の後端部に設けられている請求項7に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータ部材を備えた乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用シートにおいて、シートクッション及びシートバックを構成するクッションパッドと表皮材との間にシート状のヒータ部材を設け、シートを昇温できるようにしたものがある(例えば、特許文献1)。ヒータ部材は、シート材と、シート材に設けられた電熱線であるヒータ線とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートクッションに設けられた電熱線とシートバックに設けられた電熱線とは、互いに並列に接続されることがある。この場合、シートクッション及びシートバックの電熱線の一方に断線等の失陥が発生しても、電流は他方の電熱線を通過して流れることができるため、ヒータに電流が流れ続けることになる。そのため、ヒータの失陥を検出することができないという問題がある。そのため、電熱線の失陥を検出する手法が必要になる。電熱線の失陥を検出する手法としては、回路の電気抵抗値を監視し、電気抵抗値が所定の閾値より大きくなったときに断線が発生したと判定することができる。しかし、電熱線を含む回路の電気抵抗値は製品毎に変動が大きいため、失陥を判定するための閾値を各製品に対して同一の値を設定することが困難である。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、並列に接続された電熱線を備えた乗物用シートにおいて、失陥を検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、乗物用シート(1)であって、シートクッション(5)に設けられた第1電熱線(26)と、シートバック(6)に設けられた第2電熱線(29)と、前記第1電熱線と前記第2電熱線とを互いに並列に接続する回路(40)と、前記回路を流れる電流を測定する電流測定手段(44)と、前記第1電熱線又は前記第2電熱線の温度を測定する温度測定手段(36)と、前記回路の電気抵抗に基づいて前記第1電熱線及び前記第2電熱線の少なくとも一方の失陥を判定する判定手段(46)とを有し、前記判定手段は、前記回路を供給される電圧及び電流に基づいて前記回路の前記電気抵抗を算出し、前記電気抵抗と前記電気抵抗を取得したときの前記第1電熱線又は前記第2電熱線の温度とに基づいて前記回路が所定の温度閾値のときに予測される前記回路の前記電気抵抗を抵抗閾値として算出し、その後に算出した前記回路の前記電気抵抗が前記抵抗閾値より大きいときに前記失陥が発生したことを判定する。
【0007】
この態様によれば、第1電熱線又は第2電熱線の温度が所定の温度閾値になるときの回路の電気抵抗を抵抗閾値として設定する。温度閾値が第1電熱線及び第2電熱線が通常の使用時に到達しない値に設定されることによって、電気抵抗値が抵抗閾値より大きいときに第1電熱線及び第2電熱線の少なくとも一方に失陥が発生していると判定することができる。抵抗閾値は測定した第1電熱線及び第2電熱線の電気抵抗に基づいて設定されるため、実際の第1電熱線及び第2電熱線の特性に応じた値に設定される。そのため、並列に接続された電熱線を備えた乗物用シートにおいて、断線や断線寸前の状態等の失陥を適切に検出することができる。
【0008】
上記の態様において、前記温度閾値は、100℃以上300℃以下であるとよい。
【0009】
この態様によれば、失陥を適切に判定することができる。
【0010】
上記の態様において、前記判定手段は、以下の式(1)に基づいて前記抵抗閾値を算出するとよい。
Rth={1+k×(Tv-Tm)}×Rm ・・・(1)
ここで、Rthは前記抵抗閾値[Ω]、kは前記第1電熱線及び前記第2電熱線の電気抵抗温度係数[℃-1]、Tvは前記温度閾値[℃]、Tmは測定温度[℃]、Rmは前記電気抵抗[Ω]である。
【0011】
この態様によれば、失陥を適切に判定することができる。
【0012】
上記の態様において、前記判定手段は、前記回路に電流を流す初回時に前記抵抗閾値を算出するとよい。
【0013】
この態様によれば、回路に初めて電力を供給する際に抵抗閾値が自動的に設定される。そのため、抵抗閾値の設定し忘れを防止することができる。
【0014】
上記の態様において、判定手段は、所定の入力信号に応じて前記抵抗閾値を再び算出するとよい。
【0015】
この態様によれば、任意のタイミングで抵抗閾値を更新することができる。抵抗閾値は、例えば乗物用シートの乗せ替え時や、乗物用シートの修理時等に更新されるとよい。
【0016】
上記の態様において、前記第1電熱線及び前記第2電熱線は、前記回路に着脱可能に接続されているとよい。
【0017】
この態様によれば、第1電熱線又は第2電熱線が失陥した場合に、失陥した電熱線のみを交換することができる。
【0018】
上記の態様において、前記判定手段は、前記シートクッションの下側に設けられ、前記第1電熱線は、前記シートクッションの上面に設けられ、前記第2電熱線は、前記シートバックの前面に設けられ、前記回路は、前記判定手段から前記シートクッションの後端に沿って上方に延び、分岐して前記シートクッションの上面側及び前記シートバックの前面側に延びているとよい。
【0019】
この態様によれば、回路をコンパクトに形成することができる。
【0020】
上記の態様において、前記第1電熱線は、前記シートクッションの上面に沿って配置されたシート材に設けられ、前記シート材の後端部は、前記シートバックの下方に配置され、前記温度測定手段は、前記シート材の後端部に設けられているとよい。
【0021】
この態様によれば、温度測定手段が着座者に影響を受け難い場所に配置されるため、第1電熱線の温度を適切に測定することができる。
【発明の効果】
【0022】
乗物用シートであって、シートクッションに設けられた第1電熱線と、シートバックに設けられた第2電熱線と、前記第1電熱線と前記第2電熱線とを互いに並列に接続する回路と、前記回路を流れる電流を測定する電流測定手段と、前記第1電熱線又は前記第2電熱線の温度を測定する温度測定手段と、前記回路の電気抵抗に基づいて前記第1電熱線及び前記第2電熱線の少なくとも一方の失陥を判定する判定手段とを有し、前記判定手段は、前記回路を供給される電圧及び電流に基づいて前記回路の前記電気抵抗を算出し、前記電気抵抗と前記電気抵抗を取得したときの前記第1電熱線又は前記第2電熱線の温度とに基づいて前記回路が所定の温度閾値のときに予測される前記回路の前記電気抵抗を抵抗閾値として算出し、その後に算出した前記回路の前記電気抵抗が前記抵抗閾値より大きいときに前記失陥が発生したことを判定する態様によれば、断線や断線寸前の状態等の失陥を適切に検出することができる。第1電熱線又は第2電熱線の温度が所定の温度閾値になるときの回路の電気抵抗が抵抗閾値として設定される。温度閾値が第1電熱線及び第2電熱線が通常の使用時に到達しない値に設定されることによって、電気抵抗値が抵抗閾値より大きいときに第1電熱線及び第2電熱線の少なくとも一方に失陥が発生していると判定することができる。抵抗閾値は第1電熱線及び第2電熱線の初期電気抵抗に基づいて設定されるため、実際の第1電熱線及び第2電熱線の特性に応じた値に設定される。
【0023】
上記の態様において、前記温度閾値が、150℃以上250℃以下である態様にするとよい。この態様によれば、失陥を適切に検出することができる。
【0024】
上記の態様において、前記判定手段は、以下の式(1)に基づいて前記抵抗閾値を算出するとよい。
Rth={1+k×(Tv-Tm)}×Rm ・・・(1)
ここで、Rthは前記抵抗閾値[Ω]、kは前記第1電熱線及び前記第2電熱線の電気抵抗温度係数[℃-1]、Tvは前記温度閾値[℃]、Tmは測定温度[℃]、Rmは前記電気抵抗[Ω]である。この態様によれば、失陥を適切に検出することができる。
【0025】
上記の態様において、前記判定手段は、前記回路に電流を流す初回時に前記抵抗閾値を算出するとよい。この態様によれば、回路に初めて電力を供給する際に抵抗閾値が自動的に設定される。そのため、抵抗閾値の設定し忘れを防止することができる。
【0026】
上記の態様において、前記判定手段は、所定の入力信号に応じて前記抵抗閾値を再び算出するとよい。この態様によれば、任意のタイミングで抵抗閾値を更新することができる。抵抗閾値は、例えば乗物用シートの乗せ替え時や、乗物用シートの修理時等に更新されるとよい。
【0027】
上記の態様において、前記第1電熱線及び前記第2電熱線は、前記回路に着脱可能に接続されているとよい。この態様によれば、第1電熱線又は第2電熱線が失陥した場合に、失陥した電熱線のみを交換することができる。
【0028】
上記の態様において、前記判定手段は、前記シートクッションの下側に設けられ、前記第1電熱線は、前記シートクッションの上面に設けられ、前記第2電熱線は、前記シートバックの前面に設けられ、前記回路は、前記判定手段から前記シートクッションの後端に沿って上方に延び、分岐して前記シートクッションの上面側及び前記シートバックの前面側に延びているとよい。この態様によれば、回路をコンパクトに形成することができる。
【0029】
上記の態様において、前記第1電熱線は、前記シートクッションの上面に沿って配置されたシート材に設けられ、前記シート材の後端部は、前記シートバックの下方に配置され、前記温度測定手段は、前記シート材の後端部に設けられているとよい。この態様によれば、温度測定手段が着座者に影響を受け難い場所に配置されるため、第1電熱線の温度を適切に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図6】判定部による抵抗閾値設定処理の手順を示すフロー図
【
図7】判定部による失陥判定処理の手順を示すフロー図
【
図8】第1及び第2電熱線の失陥と電気抵抗との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の乗物用シートを自動車のシートに適用した実施形態について説明する。シートは、前席及び後席のいずれであってもよい。
【0032】
図1に示すように、シート1は、車両のフロア2にスライドレール3を介して設けられたシートクッション5と、シートクッション5の後部に回動可能に設けられたシートバック6とを有する。シートクッション5は乗員を臀部及び大腿部を下方から支持する着座部であり、シートバック6は乗員の背部を後方から支持する背もたれ部である。
【0033】
シートクッション5は、骨格をなすシートクッションフレームと、シートクッションフレームに支持されたパッド8と、パッド8の外面に被せられた表皮材9とを有する。同様に、シートバック6は、骨格をなすシートバックフレームと、シートバックフレームに支持されたパッド12と、パッド12の外面に被せられた表皮材13とを有する。シートバックフレームは、下端においてシートクッションフレームにリクライニング機構を介して取り付けられている。
【0034】
パッド8及びパッド12は、例えば発泡ウレタン等の可撓性を有する樹脂材料から形成されている。シートクッション5及びシートバック6の表皮材9、13は、例えば織布や皮革、合成皮革から形成されている。
【0035】
図1~
図3に示すように、シート1は、シート1を昇温するヒータシステム15を有する。ヒータシステム15は、シートクッション5に設けられた第1ヒータ部材20と、シートバック6に設けられた第2ヒータ部材21と、第1ヒータ部材20及び第2ヒータ部材21への電力供給を制御する制御装置23とを有する。
【0036】
第1ヒータ部材20は、シート状に形成され、シートクッション5のパッド8の上面と表皮材9との間に設けられている。第1ヒータ部材20は、シート材25と、シート材25に設けられた第1電熱線26とを有する。第2ヒータ部材21は、シート状に形成され、シートバック6のパッド12の前面と表皮材13との間に設けられている。第2ヒータ部材21は、シート材28と、シート材28に設けられた第2電熱線29とを有する。
【0037】
シート材25、28は、例えば不織布や織布等の伸縮可能なシート状部材から形成されている。第1ヒータ部材20のシート材25はシートクッション5のパッド8の上面に沿って配置され、シート材25の後端部はパッド8の後端部に配置されている。パッド8の後端部の上方にはシートバック6が配置されており、シート材25の後端部はシートバック6の下方に配置されている。第2ヒータ部材21のシート材28は、シートバック6のパッド12の前面に沿って配置され、シート材25の下端部はパッド12の下端部に配置されている。
【0038】
第1電熱線26及び第2電熱線29は、通電によって発熱する電線であり、シート材25、28の表面に接着等によって結合されている。第1電熱線26及び第2電熱線29は、同じ材質から形成されている。第1電熱線26の両端は、シート材25の後端に設けられた第1コネクタ31に接続されている。第1電熱線26の中間部は、シート材25の前部に延びている。第2電熱線29の両端は、シート材28の下端に設けられた第2コネクタ32に接続されている。第2電熱線29の中間部は、シート材28の上部に延びている。第1電熱線26及び第2電熱線29は、シート材25、28の広範囲を覆うように波形に屈曲している。第1電熱線26及び第2電熱線29は、例えばヘアピン形の屈曲部を形成し、他の部分が互いに平行となるように蛇行しているとよい。
【0039】
図2に示すように、シート材25、28の少なくとも一方には、第1電熱線26又は第2電熱線29の温度を測定する温度センサ36(温度測定手段)が設けられている。本実施形態では、温度センサ36は第1ヒータ部材20のシート材25に設けられ、第1電熱線26の温度を検出する。温度センサ36は、シート材25において第1電熱線26の近傍に配置されている。温度センサ36は、シート材25の後端部に設けられ、シートバック6の下方に配置されている。すなわち、シート1に着座した乗員と接触し難い位置に配置されている。
【0040】
図5に示すように、第1電熱線26と第2電熱線29とは回路40によって互いに並列に接続されている。回路40を構成する配線41は、第1ヒータ部材20の第1コネクタ31と、第2ヒータ部材21の第2コネクタ32とに接続されている。回路40には、制御装置23が接続されている。制御装置23は、直流電源である電源42に接続されている。回路40を構成する配線41と、第1ヒータ部材20の第1コネクタ31及び第2ヒータ部材21の第2コネクタ32は、着脱可能に接続されている。すなわち、第1電熱線26及び第2電熱線29は、回路40に着脱可能に接続されている。
【0041】
制御装置23は、マイクロコンピュータやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、ドライバ等から構成された電子制御回路(ECU)である。制御装置23は、回路40に流れる電流を測定する電流測定部44(電流測定手段)と、回路40に供給される電圧を測定する電圧測定部45と、電流に基づいて第1電熱線26及び第2電熱線29の少なくとも一方の失陥を判定する判定部46(判定手段)と、第1電熱線26及び第2電熱線29への電力供給を制御する電力供給部47とを有する。電力供給部47は、パルス制御によって第1電熱線26及び第2電熱線29に供給する電力を制御する。なお、電圧測定部45は必須の構成でなく、省略することができる。電圧測定部45を省略した場合には、電源42の公称電圧を回路40に供給される電圧とする。
【0042】
制御装置23は、ヒータシステム15のオン、オフを制御するスイッチ49と接続されている。
図1に示すように、スイッチ49は、シートクッション5の側部を覆うカバー51に設けられている。スイッチ49は、ヒータシステム15のオン、オフに加えて、ヒータシステム15の目標温度を選択可能にしてもよい。また、制御装置23は、温度センサ36と接続されている。
【0043】
図4に示すように、制御装置23は、シートクッション5の下側に設けられている。制御装置23は、シートクッション5の下面、又はシートクッション5の下方のフロア2の上面に取り付けられている。回路40を構成する配線41は、制御装置23からシートクッション5の下方を後方に延び、シートクッション5の後端に沿って上方に延びている。回路40を構成する配線41は、シートクッション5の後端において分岐し、一方はシートクッション5の上面側に延びて第1コネクタ31に接続し、他方はシートバック6クッションの前面側に延びて第2コネクタ32に接続している。
【0044】
次に、制御装置23の判定部46が行なう抵抗閾値設定処理及び失陥判定処理について説明する。スイッチ49から信号に基づいて電力供給部47が回路40への通電を開始するときに、判定部46は
図6に示す抵抗閾値設定処理を開始する。
【0045】
判定部46は、抵抗閾値設定処理において、最初に今回の第1電熱線26及び第2電熱線29への通電が初回であるか否かを判定する(S1)。本実形態では、初回の通電とは、ヒータシステム15が製造された後の製品検査時に行われる通電をいう。他の実施形態では、ディーラーにおける検査時や整備時における通電や、ユーザーが初めて使用するときの通電を初回の通電としてもよい。
【0046】
回路40への通電が初回である場合(S1の判定がYes)、判定部46は温度センサ36からの信号に基づいて第1電熱線26の温度(Tm)を取得する(S2)。
【0047】
判定部46は、ステップS2の処理に続いて、電力供給部47にパルス制御を100%で実行するように指令する(S2)。この処理により、電力供給部47がパルス制御を100%で実行する。
【0048】
判定部46は、ステップS3に続いて、電圧測定部45からの信号に基づいて回路40に供給される電圧Vを取得すると共に、電流測定部44からの信号に基づいて回路40に流れる電流Iを取得する(S4)。
【0049】
判定部46は、ステップS4に続いて、取得した回路40に供給される電圧V及び電流Iに基づいて、回路40の電気抵抗Rmを算出し(Rm=V/I)、電気抵抗Rmと電気抵抗Rmを取得したときの第1電熱線26の温度Tmとに基づいて回路40が所定の温度閾値のときに予測される回路40の電気抵抗を抵抗閾値として算出する。判定部46は、以下の式(1)に基づいて抵抗閾値を算出する(S5)。
Rth={1+k×(Tv-Tm)}×Rm ・・・(1)
ここで、Rthは抵抗閾値[Ω]、kは第1電熱線26及び第2電熱線29の電気抵抗温度係数[℃-1]、Tvは温度閾値[℃]、Tmは測定温度[℃]、Rmは前記電気抵抗[Ω]である。式(1)は、電気抵抗の温度依存性を示す公知の数式である。電気抵抗温度係数kは第1電熱線26及び第2電熱線29の材質によって決まる。温度閾値Tvは、断線等の失陥がない状態の通常使用時に第1電熱線26が到達することがない温度に設定されている。すなわち、温度閾値Tvは、断線等の失陥がない状態において、パルス制御を100%で実行しても第1電熱線26が到達することがない温度に設定されている。温度閾値は、例えば100℃以上300℃以下、好ましくは150℃以上250℃以下である。温度閾値は、第1電熱線26及び第2電熱線29の許容温度に基づいて設定されるとよい。第1電熱線26及び第2電熱線29の許容温度は、例えば第1電熱線26及び第2電熱線29に含まれる絶縁層が破壊する虞がある温度に設定されるとよい。また、温度閾値は、第1電熱線26及び第2電熱線29にパルス制御を100%として通電したときに第1電熱線26及び第2電熱線29が到達する温度の約1.5倍の値に設定されているとよい。例えば、温度閾値を200℃に設定した場合、抵抗閾値は回路40の温度が200℃の場合に想定される電気抵抗値になる。
【0050】
判定部46は、ステップS5に続いて、算出した抵抗閾値Rthを制御装置23のメモリに記憶し(S6)、その後に抵抗閾値設定処理を終了する。
【0051】
判定部46は、ステップS1において回路40への通電が初回でないと判定した場合(S1の判定がNo)、判定部46に更新指令(所定の入力信号)が入力されているか否かを判定する(S2)。更新指令は、後述する抵抗閾値を更新するために入力される信号であり、例えば制御装置23に設けられたリセットボタンの操作や、制御装置23に接続された外部装置から入力される。更新指令がある場合(S2の判定がYes)、メモリに記憶された抵抗閾値Rthを消去する(S8)。判定部46は、ステップS8の処理に続いて、上述したステップS2~S6を実行し、新しい抵抗閾値Rthを設定する。これらの処理により、判定部46は更新指令があった後の1回目の通電における電圧、電流、及び第1電熱線26の温度に基づいて再び抵抗閾値Rthを算出し、記憶する。
【0052】
判定部46は、ステップS2において更新指令がない場合(S2の判定がNo)、抵抗閾値設定処理を終了する。すなわち、これまでに記憶した抵抗閾値Rthを維持する。
【0053】
次に、制御装置23の判定部46が行なう失陥判定処理について説明する。スイッチ49から信号に基づいて電力供給部47が回路40への通電を開始するときに、判定部46は
図7に示す失陥判定処理を開始する。
【0054】
判定部46は、失陥判定処理において、最初に電力供給部47にパルス制御を100%で実行するように指令する(S11)。この処理により、電力供給部47がパルス制御を100%で実行する。
【0055】
判定部46は、ステップS11の処理に続いて、電圧測定部45からの信号に基づいて取得した回路40に供給される電圧Vと、電流測定部44からの信号に基づいて取得した回路40に流れる電流Iとに基づいて、回路40の電気抵抗Rmを算出する(Rm=V/I)(S12)。
【0056】
判定部46は、ステップS12の処理に続いて、ステップS11において算出した回路40の電気抵抗Rmが記憶された抵抗閾値Rthより大きいか否かを判定する(S13)。電気抵抗Rmが抵抗閾値Rthより大きい場合(S13の判定がYes)、第1電熱線26及び第2電熱線29の少なくとも一方に失陥が発生しているとして失陥フラグを1にし(S14)、電気抵抗Rmが抵抗閾値Rth以下である場合(S13の判定がNo)、第1電熱線26及び第2電熱線29に失陥が発生していない(正常である)として失陥フラグを0にする(S15)。判定部46は、ステップS14又はS15において失陥フラグを設定した後にリターンに進み、失陥判定処理を繰り返す。他の実施形態では、判定部46は、ステップS14又はS15において失陥フラグを設定した後にリターンに進み、失陥判定処理を終了してもよい。
【0057】
電力供給部47は、失陥フラグが0の場合に回路40への電力供給を実行し、失陥フラグが1の場合に回路40への電力供給を禁止する。また、シート1が設けられる自動車の制御装置23は、シート1の制御装置23と接続し、シート1の制御装置23から失陥フラグを入力されるとよい。そして、自動車の制御装置23は失陥フラグが1の場合に、インストルメントパネルのインジケータや、カーナビゲーションシステムのディスプレイにヒータ装置に失陥が生じていることを示す警告表示を表示させるとよい。
【0058】
以上のように構成した実施形態に係るシート1によれば、第1電熱線26又は第2電熱線29の温度が所定の温度閾値になるときの回路40の電気抵抗を抵抗閾値として設定する。温度閾値が第1電熱線26及び第2電熱線29が通常の使用時に到達しない値に設定されることによって、電気抵抗値が抵抗閾値より大きいときに第1電熱線26及び第2電熱線29の少なくとも一方に失陥が発生していると判定することができる。電熱線の失陥には、断線や断線寸前の状態(断面積が狭くなった状態)が含まれる。並列に接続された第1電熱線26及び第2電熱線29の少なくとも一方が断線、或いは断線寸前の状態になると、回路40の合成抵抗が増加し、電流が減少する。そのため、回路40の電気抵抗が抵抗閾値より大きいか否かを判定することによって、断線等の失陥を検出することができる。抵抗閾値は測定した第1電熱線26及び第2電熱線29の電気抵抗に基づいて設定されるため、実際の第1電熱線26及び第2電熱線29の特性に応じた値に設定される。これにより、製造した電熱線の電気抵抗が変動する場合にも第1電熱線26及び第2電熱線29の失陥を適切に検出することができる。
【0059】
抵抗閾値設定処理において、回路40に供給される電圧Vが13.5V、電流が6.9Aである場合、回路40の電気抵抗Rmは1.95Ωである。このとき、第1電熱線26の温度が20℃であると、温度閾値を200℃に設定した場合の抵抗閾値Rthは式(1)に基づいて2.2Ωと算出される。
図8に示すように、抵抗閾値Rthは通常の使用時には到達しない値であるため、失陥がない場合の電気抵抗Rmは抵抗閾値Rthより小さくなる。しかし、第1電熱線26が断線した場合や、第2電熱線29が断線した場合には回路40の電気抵抗Rmが増加し、抵抗閾値よりも大きくなる。
【0060】
判定部46は、回路40に電流を流す初回時に抵抗閾値を算出するため、回路40に初めて電力を供給する際に抵抗閾値が自動的に設定される。そのため、抵抗閾値の設定し忘れを防止することができる。
【0061】
上記の態様において、前記判定手段は、更新指令に応じて抵抗閾値を再び算出するため、任意のタイミングで抵抗閾値を更新することができる。抵抗閾値は、例えばシート1の乗せ替え時や、シート1の修理時、ヒータシステム15の交換時等に更新されるとよい。また、ヒータシステム15において、第1ヒータ部材20及び第2ヒータ部材21の少なくとも一方を交換するときに、抵抗閾値を更新することができる。
【0062】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、抵抗閾値に代えて電流閾値に基づいてヒータシステム15の失陥を判定してもよい。電流閾値Ithは、回路40に供給される電圧と抵抗閾値とに基づいて算出し(Ith=V/Rth)、回路40を流れる電流Iが電流閾値Ithより小さくなったときに失陥が生じていると判定してもよい。
【0063】
判定部46による失陥判定処理は、ステップS12及びS13を繰り返し、ステップS13の判定が複数回(例えば100回)Yesになったときに、失陥が発生しているとして失陥フラグを1にしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 :シート
5 :シートクッション
6 :シートバック
8 :パッド
9 :表皮材
12 :パッド
13 :表皮材
15 :ヒータシステム
20 :第1ヒータ部材
21 :第2ヒータ部材
23 :制御装置
26 :第1電熱線
29 :第2電熱線
36 :温度センサ
40 :回路
41 :配線
44 :電流測定部
45 :電圧測定部
46 :判定部
47 :電力供給部