IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-正極材料、および、電池 図1
  • 特許-正極材料、および、電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】正極材料、および、電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20230310BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230310BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230310BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230310BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230310BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20230310BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019567875
(86)(22)【出願日】2018-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2018043358
(87)【国際公開番号】W WO2019146236
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2018011533
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018011534
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018173451
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】松村 忠朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕太
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-193940(JP,A)
【文献】特開2014-241282(JP,A)
【文献】特開2016-189339(JP,A)
【文献】特開2006-244734(JP,A)
【文献】特開平08-171938(JP,A)
【文献】BOHNSACK, Andreas et al.,Ternary Halides of the A3MX6 Type. VI. Ternary Chlorides of the Rare-Earth Elements with Lithium, Li,Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie,ドイツ,1997年,Vol.623,pp.1067-1073,ISSN:1521-3749
【文献】BOHNSACK, Andreas et al.,Ternary Halides of the A3MX6Type. VII. The Bromides Li3MBr6(M=Sm-Lu, Y): Synthesis, Crystal Structur,Journal of inorganic and General Chemistry,1997年,Vol.623,pp.1352-1356,特にp.1354右欄-p.1355左欄
【文献】冨田靖正 他,異種元素ドープしたLi3InBr6のリチウムイオン伝導性,電気化学会創立70周年記念大会 講演要旨集,社団法人電気化学会,2003年,p.384,特に1.目的及び2.方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00
H01M 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、
前記正極活物質の表面の少なくとも一部を覆い、第1固体電解質材料を含む被覆層と、
第2固体電解質材料とを含み、
前記第1固体電解質材料は、Li、M、およびXを含み、かつ、硫黄を含まず、
Mは、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含み、
Xは、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含み、
前記第1固体電解質材料は、ヨウ素を含まないハロゲン化物であり、
前記第2固体電解質材料は、硫化物、またはヨウ素を含むハロゲン化物であり、
前記正極活物質と前記第2固体電解質材料とは、前記第1固体電解質材料に隔てられ直接接しない
正極材料。
【請求項2】
前記第1固体電解質材料は、下記の組成式(1)により表され、
Liαβγ ・・・式(1)
ここで、αとβとγとは、それぞれ独立に、0より大きい値であり、
前記Mは、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素であり、
前記Xは、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素である、
請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記Mは、イットリウムを含む、請求項2に記載の正極材料。
【請求項4】
2.5≦α≦3、
1≦β≦1.1、および
γ=6、を満たす、請求項3に記載の正極材料。
【請求項5】
前記第2固体電解質材料は、ヨウ素を含むハロゲン化物である、請求項1から4のいずれかに記載の正極材料。
【請求項6】
前記第2固体電解質材料は、下記の組成式(2)により表され、
Liα’M’β’X’γ’ ・・・式(2)
ここで、α’とβ’とγ’とは、それぞれ独立に、0より大きい値であり、
M’は、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含み、
X’は、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素と、Iと、を含む、
請求項1からのいずれかに記載の正極材料。
【請求項7】
前記M'は、イットリウムを含む、請求項に記載の正極材料。
【請求項8】
前記X'は、ClとBrとを含む、請求項またはに記載の正極材料。
【請求項9】
前記第1固体電解質材料は、Li 2.7 1.1 Cl 、Li YBr またはLi 2.5 0.5 Zr 0.5 Cl であり、
前記第2固体電解質材料は、Li YBr Cl である、
請求項1から8のいずれかに記載の正極材料。
【請求項10】
前記第2固体電解質材料は、硫化物固体電解質である、請求項1から4のいずれかに記載の正極材料。
【請求項11】
前記硫化物固体電解質は、硫化リチウムと硫化リンである、請求項10に記載の正極材料。
【請求項12】
前記硫化物固体電解質は、Li2S-P25である、請求項11に記載の正極材料。
【請求項13】
前記第1固体電解質材料は、Li 2.7 1.1 Cl 、Li YBr またはLi 2.5 0.5 Zr 0.5 Cl である、請求項12に記載の正極材料。
【請求項14】
前記正極活物質は、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムである、請求項1から13のいずれかに記載の正極材料。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の正極材料を含む正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられる電解質層と、を備える、電池。
【請求項16】
前記電解質層は、前記第1固体電解質材料と前記第2固体電解質材料とのうちの少なくとも一方と同じ材料を含む、請求項15に記載の電池。
【請求項17】
前記電解質層は、前記第1固体電解質材料と同じ材料を含む、請求項16に記載の電池。
【請求項18】
前記電解質層は、前記第1固体電解質材料とは異なるハロゲン化物固体電解質を含む、請求項15から17のいずれかに記載の電池。
【請求項19】
前記電解質層は、前記第1固体電解質材料および前記第2固体電解質材料とは異なるハロゲン化物固体電解質を含む、請求項15から18のいずれかに記載の電池。
【請求項20】
前記電解質層は、硫化物固体電解質を含む、請求項15から19のいずれかに記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池用の正極材料、および、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インジウムを含むハロゲン化物を固体電解質として用いた電池が開示されている。特許文献2には、正極活物質の表面が実質的に電子伝導性を持たないリチウムイオン伝導性酸化物で被覆された全固体リチウム電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-244734号公報
【文献】特許第4982866号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Chem.Mater.2016,28,266-273.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、電池の反応過電圧上昇の抑制が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一様態における正極材料は、正極活物質と、前記正極活物質の表面の少なくとも一部を覆い、第1固体電解質材料を含む被層と、第2固体電解質材料とを含む。前記第1固体電解質材料は、Li、M、およびXを含み、かつ、硫黄を含まない。Mは、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む。Xは、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む。

【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電池の反応過電圧上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1における正極材料の概略構成を示す断面図である。
図2図2は、実施の形態2における電池の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態が、図面を参照しながら説明される。
【0010】
(実施の形態1)
実施の形態1における正極材料は、正極活物質と第1固体電解質材料と第2固体電解質材料とを含む。
【0011】
前記第1固体電解質材料は、前記正極活物質の表面に位置することで、被覆層を形成している。
【0012】
前記第1固体電解質材料は、下記の組成式(1)により表される材料である。
Liαβγ ・・・式(1)
ここで、αとβとγとは、それぞれ独立に、0より大きい値である。
【0013】
Mは、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0014】
Xは、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0015】
以上の構成によれば、電池の反応過電圧上昇を抑制することができる。
【0016】
特許文献1では、インジウムを含む化合物からなる固体電解質を含む全固体二次電池において、正極活物質の対Li電位が平均で3.9V以下であることが望ましく、これにより固体電解質の酸化分解による分解生成物からなる皮膜が良好に形成され、良好な充放電特性が得られると言及されている。また、対Li電位が平均で3.9V以下の正極活物質として、LiCoO、LiNi0.8Co0.15Al0.05などの一般的な層状遷移金属酸化物正極が開示されている。
【0017】
一方、本発明者らが鋭意検討した結果、正極材料にヨウ素(=I)を含むハロゲン化物固体電解質(第2固体電解質材料の一例)を用いた電池では、対Li電位が平均で3.9V以下の正極活物質を用いた場合であっても、充電中にハロゲン化物固体電解質が酸化分解することを見出した。また、それに伴い電池の反応過電圧が上昇する課題が存在し、その原因がハロゲン化物固体電解質に含まれるヨウ素の酸化反応にあると推察した。具体的には、正極材料中の正極活物質からリチウムと電子が引き抜かれる通常の充電反応に加え、正極活物質と接するヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質からも電子が引き抜かれる副反応が生じる。すなわち、正極活物質とハロゲン化物固体電解質の間に、リチウムイオン伝導性に乏しい酸化分解層が形成され、正極の電極反応において大きな界面抵抗として機能すると考えられる。この課題を解消するためには、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質への電子授受を抑制し、酸化分解層形成を抑制する必要がある。
【0018】
非特許文献1では、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質など、様々な固体電解質の電位安定性に関する計算結果が示されている。ハロゲン化物固体電解質に関しては、構成するアニオン種によって電位安定性が異なることが示されている。例えば、臭素を含むハロゲン化物固体電解質は、4.0Vvs.Li以下の電位安定性を有することが示されている。
【0019】
一方、本発明者らが鋭意検討した結果、計算から導き出される電位安定性の上限が4.0Vvs.Liを下回る固体電解質であっても、それらを正極材料に用いた場合、安定した充放電特性を示すものが存在することを明らかにした。例えば、電位安定性の上限が4.0Vvs.Li以下とされる臭素を含むハロゲン化物固体電解質を正極材料に用いた場合、4.0Vvs.Li以上の電圧で充電した場合でも良好な充放電特性を示す。一方で、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質を正極材料に用いた場合、著しく充放電特性が低下することを明らかにした。そのメカニズムの詳細は明らかでないが、臭素を含むハロゲン化物固体電解質を正極材料に用いた場合、正極活物質と当該固体電解質が接するごく近傍においては充電中に固体電解質が酸化されるが、酸化生成物の電子伝導性が極めて低いため、固体電解質内部へと反応が継続して進行しない。一方、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質を正極材料に用いた場合、固体電解質の酸化生成物が電子伝導性を有するため、正極活物質と当該固体電解質が接する近傍のみで反応が留まらず、固体電解質内部へと反応が継続して進行し、固体電解質の酸化分解層が継続的に生成する。このため、電池の反応過電圧が上昇すると考えられる。以上の通り、固体電解質を正極材料に用いた際の電池動作に関しては、非特許文献1にて開示される計算結果からのみでは、推測することができない。
【0020】
ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質は酸化安定性に乏しいため、正極活物質とヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質とが接触する電池においては、充電時に継続的に酸化分解を示す。一方、ヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質(第1固体電解質材料の一例)は、酸化安定性に優れ、正極活物質とヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質とが接触する電池において、酸化分解を示さない、もしくは酸化分解した場合でも反応が継続しない。本開示のある実施形態による構成では、正極活物質と、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質とが、ヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質を含む被覆層に隔てられ直接接しない。そのため、以上の構成によれば、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質の酸化を抑制し、電池の反応過電圧の上昇を抑制することができる。また、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質は、ヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質よりもイオン導電率に優れる。そのため、以上の構成によれば、正極層にヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質のみを用いた場合と比較し、電池の出力特性をより向上することができる。
【0021】
ハロゲン化物固体電解質は、イオン導電率が高く、熱的安定性に優れ、硫化水素などの有害ガスを発生しない。したがって、ハロゲン化物固体電解質を用いることで、電池の出力特性、および熱的安定性を向上し、硫化水素などの有害ガス発生を抑制できる。
【0022】
また、特許文献2では、硫化物固体電解質と、3V以上の電位で酸化還元反応を示す正極活物質との接触で高抵抗層が生じるとして、電子伝導性を持たないリチウムイオン伝導性酸化物で正極活物質表面を被覆することで、前記高抵抗層の形成を抑制できると言及されている。
【0023】
ここで、本発明者らは、電子伝導性を持たないリチウムイオン伝導性ハロゲン化物で正極活物質を被覆することでも前記高抵抗層を抑制できるのではないかと考えた。さらに、酸化物固体電解質よりリチウムイオン伝導性に優れるハロゲン化物固体電解質で被覆することで、固体電解質から正極活物質へのLi移動抵抗を抑制することも可能となる。
【0024】
既に説明したように、特許文献1では、インジウムを含む化合物からなる固体電解質を含む全固体二次電池において、正極活物質の対Li電位が平均で3.9V以下であることが望ましく、これにより酸化分解による分解生成物からなる皮膜が良好に形成され、良好な充放電特性が得られると言及されている。ただし、酸化分解の詳細なメカニズムについては明らかにされていない。
【0025】
本発明者らが鋭意検討した結果、ハロゲン化物固体電解質のうちヨウ素を含む場合は、対Li電位が平均で3.9V以下の正極活物質でも酸化反応が進行し、抵抗層となることを見出した。正極活物質に接するヨウ素含有ハロゲン化物固体電解質が充電時の副反応として酸化され、イオン伝導性の乏しい抵抗層となることが推察される。
【0026】
正極に硫化物固体電解質(第2固体電解質材料の一例)を使用する全固体電池において、ヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質(第1固体電解質材料の一例)で正極活物質を被覆すれば、正極活物質と硫化物固体電解質の接触による高抵抗層の形成を抑制しつつ、ハロゲン化物固体電解質の高いイオン伝導性による低抵抗な正極活物質/硫化物固体電解質界面を形成することができる。
【0027】
本開示の他のある実施形態による構成では、被覆層に含まれるヨウ素非含有ハロゲン化物固体電解質により、硫化物固体電解質への電子授受が抑制される。このため、硫化物固体電解質の副反応が生じず、充放電効率を向上することができる。また、副反応が生じないため、酸化層形成が抑制され、電極反応の界面抵抗を低減することができる。
【0028】
なお、「半金属元素」とは、B、Si、Ge、As、Sb、およびTeである。
【0029】
また、「金属元素」とは、水素を除く周期表1族から12族中に含まれるすべての元素、ならびに、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、S、およびSeを除く全ての13族から16族中に含まれる元素である。すなわち、ハロゲン化合物と無機化合物を形成した際に、カチオンとなりうる元素群である。
【0030】
Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含むハロゲン化物固体電解質は、Liとハロゲン元素のみから構成されるLiIなどのハロゲン化物固体電解質と比較し、イオン導電率が高い。そのため、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含むハロゲン化物固体電解質を電池に用いた場合、電池の出力特性を向上することができる。
【0031】
なお、組成式(1)においては、Mは、Y(=イットリウム)を含んでいてもよい。
【0032】
すなわち、第1固体電解質材料は、金属元素としてYを含んでいてもよい。
【0033】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0034】
Yを含む第1固体電解質材料として、例えば、LiMeの組成式で表される化合物であってもよい。ここで、a+mb+3c=6、かつ、c>0が満たされる。Meは、LiおよびYを除く金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つである。また、mは、Meの価数である。
【0035】
Meとして、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つの元素を用いてもよい。
【0036】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率をより向上することができる。
【0037】
なお、組成式(1)において、2.5≦α≦3、1≦β≦1.1、およびγ=6、が満たされてもよい。
【0038】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率をより向上することができる。これにより、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0039】
なお、第1固体電解質材料は、下記の組成式(A1)により表される材料であってもよい。
Li6-3d ・・・式(A1)
ここで、組成式(A1)においては、Xは、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。また、組成式(A1)においては、0<d<2、を満たす。
【0040】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0041】
なお、第1固体電解質材料は、下記の組成式(A2)により表される材料であってもよい。
LiYX ・・・式(A2)
ここで、組成式(A2)においては、Xは、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。
【0042】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0043】
なお、第1固体電解質材料は、下記の組成式(A3)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δCl ・・・式(A3)
ここで、組成式(A3)においては、0<δ≦0.15、が満たされる。
【0044】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0045】
なお、第1固体電解質材料は、下記の組成式(A4)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δBr ・・・式(A4)
ここで、組成式(A4)においては、0<δ≦0.25、が満たされる。
【0046】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0047】
なお、第1固体電解質材料は、下記の組成式(A5)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ+a1+δ-aMeCl6-xBr ・・・式(A5)
ここで、組成式(A5)においては、Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、およびZnからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。
【0048】
また、組成式(A5)においては、-1<δ<2、0<a<3、0<(3-3δ+a)、0<(1+δ-a)、および0≦x≦6、が満たされる。
【0049】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0050】
なお、第1固体電解質材料は、下記の組成式(A6)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δ-aMeCl6-xBr ・・・式(A6)
ここで、組成式(A6)においては、Meは、Al、Sc、Ga、およびBiからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。
【0051】
また、組成式(A6)においては、-1<δ<1、0<a<2、0<(1+δ-a)、および0≦x≦6、が満たされる。
【0052】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0053】
なお、第1固体電解質材料は、下記の組成式(A7)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ-a1+δ-aMeCl6-xBr ・・・式(A7)
ここで、組成式(A7)においては、Meは、Zr、Hf、およびTiからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。
【0054】
また、組成式(A7)においては、-1<δ<1、0<a<1.5、0<(3-3δ-a)、0<(1+δ-a)、および0≦x≦6、が満たされる。
【0055】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0056】
なお、第1固体電解質材料は、下記の組成式(A8)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ-2a1+δ-aMeCl6-xBr ・・・式(A8)
ここで、組成式(A8)においては、Meは、Ta、およびNbからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。
【0057】
また、組成式(A8)においては、-1<δ<1、0<a<1.2、0<(3-3δ-2a)、0<(1+δ-a)、および0≦x≦6、が満たされる。
【0058】
以上の構成によれば、第1固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0059】
なお、第1固体電解質材料として、例えば、LiYX、LiMgX、LiFeX、Li(Al、Ga、In)X、Li(Al、Ga、In)X、など、が用いられうる。ここで、Xは、ClおよびBrからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0060】
第2固体電解質材料は、イオン導電率が高い材料を含む。例えば、第2固体電解質材料は、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質などが用いられる。例えば、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質としては、下記の組成式(2)で表される化合物が用いられうる。
Liα’M’β’X’γ’ ・・・式(2)
ここで、α’とβ’とγ’とは、それぞれ独立に、0より大きい値である。
【0061】
M’は、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0062】
X’は、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素と、Iと、を含む。
【0063】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率をより向上させることができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0064】
なお、組成式(2)においては、M’は、Yを含んでいてもよい。
【0065】
すなわち、第2固体電解質材料は、金属元素としてYを含んでいてもよい。
【0066】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率をより向上することができる。これにより、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0067】
なお、組成式(2)において、X’は、Br(=臭素)とCl(=塩素)とを含んでいてもよい。
【0068】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率をより向上することができる。これにより、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0069】
なお、第2固体電解質材料は、下記の組成式(B1)により表される材料であってもよい。
Li6-3d ・・・式(B1)
ここで、組成式(B1)においては、Xは、少なくともIを含む1種または2種以上のハロゲン元素である。また、組成式(B1)においては、0<d<2、を満たす。
【0070】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0071】
なお、第2固体電解質材料は、下記の組成式(B2)により表される材料であってもよい。
LiYX ・・・式(B2)
ここで、組成式(B2)においては、Xは、少なくともIを含む1種または2種以上のハロゲン元素である。
【0072】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0073】
なお、第2固体電解質材料は、下記の組成式(B3)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ+a1+δ-aMeCl6-x-yBr ・・・式(B3)
ここで、組成式(B3)においては、Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、およびZnからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。
【0074】
また、組成式(B3)においては、-1<δ<2、0<a<3、0<(3-3δ+a)、0<(1+δ-a)、0≦x<6、0<y≦6、および(x+y)<6、が満たされる。
【0075】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0076】
なお、第2固体電解質材料は、下記の組成式(B4)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δ-aMeCl6-x-yBr ・・・式(B4)
ここで、組成式(B4)においては、Meは、Al、Sc、Ga、およびBiからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。
【0077】
また、組成式(B4)においては、-1<δ<1、0<a<2、0<(1+δ-a)、0≦x<6、0<y≦6、および(x+y)<6、が満たされる。
【0078】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0079】
なお、第2固体電解質材料は、下記の組成式(B5)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ-a1+δ-aMeCl6-x-yBr ・・・式(B5)
ここで、組成式(B5)においては、Meは、Zr、Hf、およびTiからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。
【0080】
また、組成式(B5)においては、-1<δ<1、0<a<1.5、0<(3-3δ-a)、0<(1+δ-a)、0≦x<6、0<y≦6、および(x+y)<6、が満たされる。
【0081】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0082】
なお、第2固体電解質材料は、下記の組成式(B6)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ-2a1+δ-aMeCl6-x-yBr ・・・式(B6)
ここで、組成式(B6)においては、Meは、Ta、およびNbからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。
【0083】
また、組成式(B6)においては、-1<δ<1、0<a<1.2、0<(3-3δ-2a)、0<(1+δ-a)、0≦x<6、0<y≦6、および(x+y)<6、が満たされる。
【0084】
以上の構成によれば、第2固体電解質材料のイオン導電率を、より向上することができる。これにより、電池の充放電効率を、より向上させることができる。
【0085】
なお、第2固体電解質材料として、例えば、LiYX、LiMgX、LiFeX、Li(Al、Ga、In)X、Li(Al、Ga、In)X、など、が用いられうる。ここで、Xは、ClおよびBrからなる群より選択される少なくとも1つの元素と、Iと、を含む。
【0086】
第2固体電解質材料としては、硫化物固体電解質なども用いられうる。硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiS-B、LiS-GeS、Li3.25Ge0.250.75、Li10GeP 、など、が用いられうる。また、これらに、LiX、LiO、MO、LiMOなどが、添加されてもよい。ここで、Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。また、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、In、Fe、およびZnからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。また、pおよびqは、それぞれ独立に、自然数である。
【0087】
なお、実施の形態1においては、第2固体電解質材料は、硫化物固体電解質であってもよい。例えば、硫化物固体電解質は、硫化リチウムと硫化リンを含んでもよい。例えば、硫化物固体電解質は、LiS-Pであってもよい。
【0088】
LiS-Pは、イオン導電率が高く、酸化還元に対して安定である。したがって、LiS-Pを用いることで、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0089】
正極活物質は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出する特性を有する材料を含む。正極活物質として、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物(例えば、Li(NiCoAl)O、Li(NiCoMn)O、LiCoO、など)、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物、など、が用いられうる。特に、正極活物質として、リチウム含有遷移金属酸化物を用いた場合には、製造コストを安くでき、平均放電電圧を高めることができる。
【0090】
なお、実施の形態1においては、正極活物質は、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムであってもよい。例えば、正極活物質は、Li(NiCoMn)Oであってもよい。
【0091】
以上の構成によれば、電池のエネルギー密度および充放電効率を、より高めることができる。
【0092】
被覆層に含まれる第1固体電解質材料としては、電子伝導性が低く、酸化耐性を有する材料、が用いられうる。例えば、第1固体電解質材料として、ヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質などが用いられうる。
【0093】
ヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質は、イオン導電率が高く、高電位安定性が高い。このため、ヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質を用いることで、電池の充放電効率をより高め、かつ、電池の反応過電圧の上昇をより抑制することができる。
【0094】
なお、実施の形態1においては、第1固体電解質材料は、Li2.71.1ClもしくはLiYBrもしくはLi2.50.5Zr0.5Clであってもよい。
【0095】
以上の構成によれば、電池の充放電効率をより高め、かつ、電池の反応過電圧の上昇をより抑制することができる。
【0096】
図1は、実施の形態1における正極材料1000の概略構成を示す断面図である。
【0097】
実施の形態1における正極材料1000は第2固体電解質粒子100と、正極活物質粒子110と、被覆層111とを含む。
【0098】
正極活物質粒子110と第2固体電解質粒子100とは、被覆層111によって隔てられ、直接接触しない。
【0099】
被覆層111は、第1固体電解質材料を含む層である。すなわち、正極活物質粒子110の表面には、被覆層111が設けられる。
【0100】
なお、被覆層111の厚みは、1nm以上かつ100nm以下であってもよい。
【0101】
被覆層111の厚みが1nm以上であることで、正極活物質粒子110と、第2固体電解質粒子100との、直接接触を抑制し、第2固体電解質材料の副反応を抑制できる。このため、充放電効率を向上することができる。
【0102】
また、被覆層111の厚みが100nm以下であることで、被覆層111の厚みが厚くなり過ぎない。このため、電池の内部抵抗を十分に小さくすることができる。その結果、電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0103】
また、被覆層111は、正極活物質粒子110を一様に被覆してもよい。正極活物質粒子110と、第2固体電解質粒子100との、直接接触を抑制し、第2固体電解質材料の副反応を抑制できる。このため、電池の充放電特性をより高め、かつ、電池の反応過電圧の上昇を抑制することができる。
【0104】
もしくは、被覆層111は、正極活物質粒子110の一部を被覆してもよい。被覆層111を有さない部分を介して、複数の正極活物質粒子110同士が直接接触することで、正極活物質粒子110間での電子伝導性が向上する。このため、電池の高出力での動作が可能となる。
【0105】
また、実施の形態1における、第2固体電解質材料の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、針状、球状、楕円球状、など、であってもよい。例えば、第2固体電解質材料の形状は、粒子であってもよい。
【0106】
例えば、実施の形態1における第2固体電解質材料の形状が粒子状(例えば、球状)の場合、メジアン径は、100μm以下であってもよい。メジアン径が100μm以下の場合、正極活物質粒子110と第2固体電解質粒子100とが、正極材料において良好な分散状態を形成し得る。このため、充放電特性が向上する。また、実施の形態1においては、メジアン径は10μm以下であってもよい。
【0107】
以上の構成によれば、正極材料において、正極活物質粒子110と第2固体電解質粒子100とが、良好な分散状態を形成できる。
【0108】
また、実施の形態1においては、第2固体電解質粒子100は、正極活物質粒子110のメジアン径より小さくてもよい。
【0109】
以上の構成によれば、電極において第2固体電解質粒子100と正極活物質粒子110とが、より良好な分散状態を形成できる。
【0110】
正極活物質粒子110のメジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。
【0111】
正極活物質粒子110のメジアン径が0.1μm以上の場合、正極材料1000において、正極活物質粒子110と第2固体電解質粒子100とが、良好な分散状態を形成し得る。この結果、電池の充放電特性が向上する。
【0112】
また、正極活物質粒子110のメジアン径が100μm以下の場合、正極活物質粒子110内のリチウム拡散が速くなる。このため、電池が高出力で動作し得る。
【0113】
正極活物質粒子110のメジアン径は、第2固体電解質粒子100のメジアン径よりも、大きくてもよい。これにより、正極活物質粒子110と第2固体電解質粒子100とが、良好な分散状態を形成できる。
【0114】
なお、実施の形態1における正極材料1000においては、第2固体電解質粒子100と被覆層111とは、図1に示されるように、互いに、接触していてもよい。このとき、被覆層111と正極活物質粒子110とは、互いに、接触する。
【0115】
また、実施の形態1における正極材料1000は、複数の第2固体電解質粒子100と、複数の正極活物質粒子110と、を含んでもよい。
【0116】
また、実施の形態1における正極材料1000における、第2固体電解質粒子100の含有量と正極活物質粒子110の含有量とは、互いに、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0117】
<第1固体電解質材料と第2固体電解質材料の製造方法>
実施の形態1における第1固体電解質材料と第2固体電解質材料は、例えば、下記の方法により、製造されうる。
【0118】
目的とする組成の配合比となるような二元系ハロゲン化物の原料粉を用意する。例えば、LiYClを作製する場合には、LiClとYClを、3:1のモル比で用意する。
【0119】
このとき、原料粉の種類を選択することで、上述の組成式における「M」と「Me」と「X」とを決定することができる。また、原料と配合比と合成プロセスを調整することで、上述の値「α」と「β」と「γ」と「d」と「δ」と「a」と「x」と「y」とを調整できる。
【0120】
原料粉をよく混合した後、メカノケミカルミリングの方法を用いて原料粉同士を混合・粉砕・反応させる。もしくは、原料粉をよく混合した後、真空中で焼結してもよい。
【0121】
これにより、前述したような結晶相を含む固体電解質材料が得られる。
【0122】
なお、固体電解質材料における結晶相の構成(すなわち、結晶構造)は、原料粉どうしの反応方法および反応条件の調整により、決定することができる。
【0123】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。上述の実施の形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0124】
図2は、実施の形態2における電池2000の概略構成を示す断面図である。
【0125】
実施の形態2における電池2000は、正極201と、電解質層202と、負極203と、を備える。
【0126】
正極201は、上述の実施の形態1における正極材料(例えば、正極材料1000)を含む。
【0127】
電解質層202は、正極201と負極203との間に配置される。
【0128】
以上の構成によれば、電池の反応過電圧の上昇を抑制することができる。
【0129】
正極201に含まれる、正極活物質粒子110と第2固体電解質粒子100の体積比率「v:100-v」について、30≦v≦95が満たされてもよい。30≦vの場合、十分な電池のエネルギー密度を確保し得る。また、v≦95では、高出力での動作を実現し得る。
【0130】
正極201の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。なお、正極201の厚みが10μm以上の場合には、十分な電池のエネルギー密度を確保し得る。なお、正極201の厚みが500μm以下の場合には、高出力での動作を実現し得る。
【0131】
電解質層202は、電解質材料を含む層である。当該電解質材料は、例えば、固体電解質材料(すなわち、第3固体電解質材料)である。すなわち、電解質層202は、固体電解質層であってもよい。
【0132】
電解質層202に含まれる第3固体電解質材料として、ハロゲン化物固体電解質、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、高分子固体電解質、または錯体水素化物固体電解質を用いてもよい。
【0133】
第3固体電解質材料のハロゲン化物固体電解質としては、上述の実施の形態1における、第1固体電解質材料および/または第2固体電解質材料と同じハロゲン化物固体電解質を用いてもよい。すなわち、電解質層202は、上述の実施の形態1における第1固体電解質材料および/または第2固体電解質材料と同じハロゲン化物固体電解質を含んでもよい。
【0134】
以上の構成によれば、電池の出力密度および充放電特性を、より向上させることができる。
【0135】
また、電解質層202に含まれる第3固体電解質材料としては、上述の実施の形態1における第1固体電解質材料および第2固体電解質材料とは異なるハロゲン化物固体電解質であってもよい。すなわち、電解質層202は、上述の実施の形態1における第1固体電解質材料および第2固体電解質材料とは異なるハロゲン化物固体電解質を含んでもよい。
【0136】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0137】
第3固体電解質材料の硫化物固体電解質としては、LiS-P、LiS-SiS、LiS-B、LiS-GeS、Li3.25Ge0.250.7 、Li10GeP12、など、が用いられうる。また、これらに、LiX、LiO、MO、LiMOなどが、添加されてもよい。ここで、Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。また、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、In、Fe、およびZnからなる群より選択される1種または2種以上の元素である。また、pおよびqは、それぞれ独立に、自然数である。
【0138】
あるいは、第3固体電解質材料の硫化物固体電解質として、上述の実施の形態1における第2固体電解質材料と同じ硫化物固体電解質を用いてもよい。すなわち、電解質層202は、上述の実施の形態1における第2固体電解質材料と同じ硫化物固体電解質を含んでもよい。
【0139】
以上の構成によれば、還元安定性に優れる硫化物固体電解質を含むため、黒鉛や金属リチウムなどの低電位負極材料を用いることができ、電池のエネルギー密度を向上させることができる。また、電解質層202が実施の形態1における第2固体電解質材料と同じ硫化物固体電解質を含む構成によれば、電池の充放電特性を向上させることができる。
【0140】
第3固体電解質材料の酸化物固体電解質としては、例えば、LiTi(POおよびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO系のペロブスカイト型固体電解質、Li14ZnGe16、LiSiO、LiGeOおよびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、LiLaZr 12およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、LiNおよびそのH置換体、LiPOおよびそのN置換体、LiBO、LiBOなどのLi-B-O化合物をベースとして、LiSO、LiCOなどが添加されたガラス、ガラスセラミックスなど、が用いられうる。
【0141】
第3固体電解質材料の高分子固体電解質としては、例えば、高分子化合物と、リチウム塩との化合物が用いられうる。高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有することで、リチウム塩を多く含有することができ、イオン導電率をより高めることができる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO 、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF 、など、が使用されうる。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。
【0142】
第3固体電解質材料の錯体水素化物固体電解質としては、例えば、LiBH-LiI、LiBH-Pなど、が用いられうる。
【0143】
なお、固体電解質層は、第3固体電解質材料を、主成分として、含んでもよい。すなわち、固体電解質層は、第3固体電解質材料を、例えば、固体電解質層の全体に対する重量割合で50%以上(すなわち、50重量%以上)、含んでもよい。
【0144】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0145】
また、固体電解質層は、第3固体電解質材料を、例えば、固体電解質層の全体に対する重量割合で70%以上(すなわち、70重量%以上)、含んでもよい。
【0146】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0147】
なお、固体電解質層は、第3固体電解質材料を主成分として含みながら、さらに、不可避的な不純物、または、第3固体電解質材料を合成する際に用いられる出発原料および副生成物および分解生成物など、を含んでいてもよい。
【0148】
また、固体電解質層は、第3固体電解質材料を、例えば、混入が不可避的な不純物を除いて、固体電解質層の全体に対する重量割合で100%(すなわち、100重量%)、含んでもよい。
【0149】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0150】
以上のように、固体電解質層は、第3固体電解質材料のみから構成されていてもよい。
【0151】
なお、固体電解質層は、第3固体電解質材料として挙げられた材料のうちの2種以上を含んでもよい。例えば、固体電解質層は、ハロゲン化物固体電解質と硫化物固体電解質とを含んでもよい。
【0152】
電解質層202の厚みは、1μm以上かつ300μm以下であってもよい。電解質層202の厚みが1μm以上の場合には、正極201と負極203とを分離しやすくなる。また、電解質層202の厚みが300μm以下の場合には、高出力での動作を実現し得る。
【0153】
負極203は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出する特性を有する材料を含む。負極203は、例えば、負極活物質を含む。
【0154】
負極活物質には、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物、など、が使用されうる。金属材料は、単体の金属であってもよい。もしくは、金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属、リチウム合金、など、が挙げられる。炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素、など、が挙げられる。容量密度の観点から、珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物、または錫化合物、を使用できる。
【0155】
負極203は、固体電解質材料を含んでもよい。固体電解質材料としては、電解質層202を構成する材料として例示された固体電解質材料を用いてもよい。以上の構成によれば、負極203内部のリチウムイオン伝導性を高め、高出力での動作が可能となる。
【0156】
負極活物質粒子のメジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。負極活物質粒子のメジアン径が0.1μm以上の場合、負極において、負極活物質粒子と固体電解質材料とが、良好な分散状態を形成し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。また、負極活物質粒子のメジアン径が100μm以下の場合、負極活物質粒子内のリチウム拡散が速くなる。このため、電池が高出力で動作し得る。
【0157】
負極活物質粒子のメジアン径は、固体電解質材料のメジアン径よりも、大きくてもよい。これにより、負極活物質粒子と固体電解質材料との良好な分散状態を形成できる。
【0158】
負極203に含まれる、負極活物質粒子と固体電解質材料の体積比率「v:100-v」について、30≦v≦95が満たされてもよい。30≦vの場合、十分な電池のエネルギー密度を確保し得る。また、v≦95の場合、高出力での動作を実現し得る。
【0159】
負極203の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。負極の厚みが10μm以上の場合には、十分な電池のエネルギー密度を確保し得る。また、負極の厚みが500μm以下の場合には、高出力での動作を実現し得る。
【0160】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、粒子同士の密着性を向上する目的で、結着剤が含まれてもよい。結着剤は、電極を構成する材料の結着性を向上するために、用いられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、など、が挙げられる。また、結着剤としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、およびヘキサジエンからなる群より選択された2種以上の材料の共重合体が用いられうる。また、これらのうちから選択された2種以上が混合されて、結着剤として用いられてもよい。
【0161】
正極201と負極203との少なくとも1つは、電子導電性を高める目的で、導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、例えば、天然黒鉛または人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維または金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛またはチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物、など、が用いられうる。炭素導電助剤を用いた場合、低コスト化を図ることができる。
【0162】
なお、実施の形態2における電池は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、積層型、など、種々の形状の電池として、構成されうる。
【実施例
【0163】
以下、実施例および比較例を用いて、本開示の詳細が説明される。
【0164】
≪実施例1≫
[第2固体電解質材料の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉LiBr、LiCl、LiI、YCl、YBrとを、モル比でLiBr:LiCl:LiI:YCl:YBr =1:1:4:1:1となるように、秤量した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、25時間、600rpmでミリング処理することで、第2固体電解質材料LiYBrClの粉末を得た。
【0165】
[正極活物質被覆層の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉LiClとYClとを、モル比でLiCl:YCl=2.7:1.1となるように、秤量した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-5型)を用い、25時間、600rpmでミリング処理することで、第1固体電解質材料Li2.71.1Clの粉末を得た。当該被覆層の材料は、第1固体電解質材料である。
【0166】
正極活物質Li(NiCoMn)O(以下、NCMと表記する)上へのLi2.7 1.1Cl被覆層の形成には、メノウ乳鉢による混合を用いた。アルゴングローブボックス内で第1固体電解質材料(Li2.71.1Cl)と正極活物質(NCM)を1:10の重量比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することで、被覆層を粒子表層に形成した実施例1の被覆正極活物質を得た。
【0167】
[正極材料の作製]
アルゴングローブボックス内で、実施例1の第2固体電解質材料と、実施例1の被覆正極活物質を、23:77の重量比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することで、実施例1の正極材料を作製した。
【0168】
≪実施例2≫
[正極活物質被覆層の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉LiBrとYBrとを、モル比でLiBr:YBr=3:1となるように、秤量した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、25時間、600rpmでミリング処理することで、第1固体電解質材料LiYBrの粉末を得た。
【0169】
正極活物質被覆層の作製以外の項目は、上述の実施例1の方法と同様に実施し、実施例2の正極材料を得た。
【0170】
≪実施例3≫
[正極活物質被覆層の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉LiCl、YCl、ZrClを、モル比でLiCl:YCl:ZrCl=5:1:1となるように、秤量した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、25時間、600rpmでミリング処理することで、第1固体電解質材料Li2.50.5Zr0.5Clの粉末を得た。
【0171】
正極活物質被覆層の作製以外の項目は、上述の実施例1の方法と同様に実施し、実施例3の正極材料を得た。
【0172】
≪比較例1≫
正極活物質被覆層の作製を実施せず、被覆層を形成していないNCMを用いたこと以外の項目は、上述の実施例1の方法と同様に実施し、比較例1の正極材料を得た。
【0173】
[硫化物固体電解質の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、LiSとPとを、モル比でLiS:P=75:25となるように、秤量した。これらを乳鉢で粉砕して混合した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、10時間、510rpmでミリング処理することで、ガラス状の固体電解質を得た。ガラス状の固体電解質について、不活性雰囲気中で、270℃で、2時間熱処理した。これにより、ガラスセラミックス状の固体電解質であるLiS-Pを得た。
【0174】
[電池の作製]
上述の実施例1~3および比較例1の正極材料、およびガラスセラミックス状のLiS-Pを用いて、下記の工程を実施した。
【0175】
まず、絶縁性外筒の中で、LiS-Pを80mg、正極材料を10mgの順に積層した。これを360MPaの圧力で加圧成型することで、正極と固体電解質層を得た。
【0176】
次に、正極側に、金属In(厚さ200μm)を積層し、正極側集電体とした。
【0177】
次に、固体電解質層の正極と接する側とは反対側に、金属In(厚さ200μm)、金属Li(厚さ300μm)、金属In(厚さ200μm)の順に積層した。これを80MPaの圧力で加圧成型することで、正極、固体電解質層、および負極からなる積層体を作製した。
【0178】
次に、積層体の上下にステンレス鋼集電体を配置し、集電体に集電リードを付設した。
【0179】
最後に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性外筒内部を外気雰囲気から遮断・密閉することで、電池を作製した。
【0180】
以上により、上述の実施例1~3および比較例1の電池をそれぞれ作製した。
【0181】
[充電試験]
上述の実施例1~3および比較例1の電池をそれぞれ用いて、以下の条件で、充電試験が実施された。
【0182】
電池を25℃の恒温槽に配置した。
【0183】
電池の理論容量に対して0.05Cレート(20時間率)となる電流値70μAで、定電流充電し、電圧3.7Vで充電を終了した。
【0184】
以上により、上述の実施例1~3および比較例1の電池の50mAh/g(正極活物質重量換算)時点でのOCV電圧(すなわち、3.084V)からの上昇電圧を過電圧とした。この結果は下記の表1に示される。
【0185】
【表1】
【0186】
≪考察≫
表1に示す実施例1と比較例1の結果から、ヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質(第2固体電解質材料の一例)を正極に使用した電池においては、正極活物質の表面に、第1固体電解質材料を含む被覆層が設けられることで、電池の過電圧上昇を抑制できることが確認された。ここで、該電池に含まれる第1固体電解質材料は、組成式Liαβγによって表される。αとβとγとは、それぞれ独立に、0より大きい値であり、かつ、Mは、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含み、かつ、Xは、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0187】
表1に示す比較例1の結果から、正極にヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質を用い、かつ、第1固体電解質材料を含む被覆層を備えない場合には、充電途中の過電圧が213mVと高い値を示すことが確認された。
【0188】
また、実施例1から3と比較例1の結果から、被覆層に用いる第1固体電解質材料について、組成や構造が異なる場合であっても、電極内の第2固体電解質材料の酸化分解を抑制でき、それに伴い電池の過電圧上昇を抑制できることが確認された。
【0189】
≪実施例4≫
[第2固体電解質材料の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、LiSとPとを、モル比でLiS:P=75:25となるように、秤量した。これらを乳鉢で粉砕して混合した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、10時間、510rpmでミリング処理することで、ガラス状の固体電解質を得た。ガラス状の固体電解質について、不活性雰囲気中で、270℃で、2時間熱処理した。これにより、ガラスセラミックス状の第2固体電解質材料であるLiS-Pを得た。
【0190】
[正極活物質被覆層の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉LiClとYClとを、モル比でLiCl:YCl=2.7:1.1となるように、秤量した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-5型)を用い、25時間、600rpmでミリング処理することで、第1固体電解質材料Li2.71.1Clの粉末を得た。当該被覆層の材料は、第1固体電解質材料である。
【0191】
正極活物質Li(NiCoMn)O(以下、NCMと表記する)上へのLi2.7 1.1Cl被覆層の形成には、メノウ乳鉢による混合を用いた。アルゴングローブボックス内で第1固体電解質材料(Li2.71.1Cl)と正極活物質(NCM)を1:10の重量比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することで、被覆層を粒子表層に形成した実施例4の被覆正極活物質を得た。すなわち、正極活物質の複数の粒子のうちの全て又は一部の粒子は、粒子表面の少なくとも一部に被覆層が形成されていた。
【0192】
[正極材料の作製]
アルゴングローブボックス内で、実施例4の第2固体電解質材料と、実施例4の被覆正極活物質を、23:77の重量比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することで、実施例4の正極材料を作製した。
【0193】
≪実施例5≫
[正極活物質被覆層の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉LiBrとYBrとを、モル比でLiBr:YBr=3:1となるように、秤量した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、25時間、600rpmでミリング処理することで、第1固体電解質材料LiYBrの粉末を得た。
【0194】
正極活物質被覆層の作製以外の項目は、上述の実施例4の方法と同様に実施し、実施例5の正極材料を得た。
【0195】
≪実施例6≫
[正極活物質被覆層の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉LiCl、YCl、ZrClを、モル比でLiCl:YCl:ZrCl=5:1:1となるように、秤量した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、25時間、600rpmでミリング処理することで、第1固体電解質材料Li2.50.5Zr0.5Clの粉末を得た。
【0196】
正極活物質被覆層の作製以外の項目は、上述の実施例4の方法と同様に実施し、実施例6の正極材料を得た。
【0197】
≪比較例2≫
正極活物質被覆層の作製を実施せず、被覆層を形成していないNCMを用いたこと以外の項目は、上述の実施例4の方法と同様に実施し、比較例2の正極材料を得た。
【0198】
≪比較例3≫
[第2固体電解質材料の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉LiBr、LiCl、LiI、YCl、YBrとを、モル比でLiBr:LiCl:LiI:YCl:YBr =1:1:4:1:1となるように、秤量した。その後、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、25時間、600rpmでミリング処理することで、第2固体電解質材料LiYBrClの粉末を得た。
【0199】
正極活物質被覆層の作製を実施せず、被覆層を形成していないNCMを用いたことと、第2固体電解質材料の作製以外の項目は、上述の実施例4の方法と同様に実施し、比較例3の正極材料を得た。
【0200】
[電池の作製]
上述の実施例4~6および比較例2~3の正極材料、ならびに、ガラスセラミックス状のLiS-Pを用いて、下記の工程を実施した。
【0201】
まず、絶縁性外筒の中で、LiS-Pを80mg、正極材料を10mgの順に積層した。これを360MPaの圧力で加圧成型することで、正極と固体電解質層を得た。次に、正極側に、金属In(厚さ200μm)を積層し、正極側集電体とした。次に、固体電解質層の正極と接する側とは反対側に、金属In(厚さ200μm)、金属Li(厚さ300μm)、金属In(厚さ200μm)の順に積層した。これを80MPaの圧力で加圧成型することで、正極、固体電解質層、および負極からなる積層体を作製した。
【0202】
次に、積層体の上下にステンレス鋼集電体を配置し、集電体に集電リードを付設した。
【0203】
最後に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性外筒内部を外気雰囲気から遮断・密閉することで、電池を作製した。
【0204】
以上により、上述の実施例4~6および比較例2~3の電池をそれぞれ作製した。
【0205】
[充電試験]
上述の実施例4~6および比較例2~3の電池をそれぞれ用いて、以下の条件で、充電試験が実施された。
【0206】
電池を25℃の恒温槽に配置した。
【0207】
電池の理論容量に対して0.05Cレート(20時間率)となる電流値70μAで、定電流充電し、電圧3.7Vで充電を終了した。これを開回路で20分静置し、安定化した開回路電圧を読み取った。この開回路電圧と終止電圧3.7Vとの差を過電圧とした。
【0208】
以上により、上述の実施例4~6および比較例2~3の過電圧を得た。この結果は下記の表2に示される。
【0209】
【表2】
【0210】
≪考察≫
表2に示す結果から、硫化物固体電解質(第2固体電解質材料の一例)を正極に使用した電池においては、正極活物質の表面に、第1固体電解質材料を含む被覆層が設けられることで、電池の過電圧上昇を抑制できることが確認された。ここで、該電池に含まれる第1固体電解質材料は、組成式Liαβγで表される。αとβとγとは、それぞれ独立に、0より大きい値であり、かつ、Mは、Li以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含み、かつ、Xは、ClとBrとからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む。
【0211】
表2に示す比較例2の結果から、正極に硫化物固体電解質を用い、かつ、第1固体電解質材料を含む被覆層を備えない場合には、充電終了時の過電圧が131mVと高い値を示すことが確認された。
【0212】
また、実施例4から6と比較例2との結果から、被覆層に用いる第1固体電解質材料について、組成や構造が異なる場合であっても、電極内の第2固体電解質材料の酸化分解を抑制でき、それに伴い電池の過電圧上昇を抑制できることが確認された。
【0213】
また、比較例3の結果から、正極活物質とヨウ素を含むハロゲン化物固体電解質が直接接触すると、充電終了時の過電圧が186mVと高い値を示すことが確認された。これは、ヨウ素が酸化して抵抗層を形成したためと考えられる。これに対して、実施例4から6の結果から、ヨウ素を含まないハロゲン化物固体電解質で正極活物質を被覆すれば、正極活物質と硫化物固体電解質の接触による高抵抗層の形成を抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本開示の電池は、例えば、全固体リチウム二次電池などとして、利用されうる。
【符号の説明】
【0215】
1000 正極材料
100 第2固体電解質粒子
110 正極活物質粒子
111 被覆層
2000 電池
201 正極
202 電解質層
203 負極
図1
図2