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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物及び半導体パッケージ
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/62 20060101AFI20230310BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20230310BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20230310BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C08G59/62
C08G59/68
H01L23/30 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018194632
(22)【出願日】2018-10-15
(65)【公開番号】P2020063338
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西殿 恭子
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-153358(JP,A)
【文献】国際公開第2004/020492(WO,A1)
【文献】特開昭59-056748(JP,A)
【文献】特開2018-002911(JP,A)
【文献】特開2000-290352(JP,A)
【文献】特開昭57-000113(JP,A)
【文献】特開2001-123045(JP,A)
【文献】特開2003-192771(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003513(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 4/00-16/06
H01L 23/28-23/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、
下記式(1)を満たす構造を有し、かつ軟化点が150℃以下であるフェノール樹脂(B)とを含有し、
1-R2-(R3-R4-R5 (1)
式(1)中、nは、5~10の整数であり、
1及びR5の各々は、少なくとも一つの水酸基と少なくとも一つの炭素数1~20のアルキル基とを置換基として有するフェニル基又はナフチル基であり、
複数のR3の各々は、少なくとも一つの水酸基と少なくとも一つの炭素数1~20のアルキル基とを置換基として有するフェニレン基又はナフチレン基であり、
2及びR4の各々は、アルキレン基であり、
前記フェノール樹脂(B)は、下記式(11)に示す構造を有する化合物を含み、
【化1】
式(11)中、nは5~10の整数であり、mは1~3の整数であり、Rは炭素数5~20のアルキル基である、
封止用樹脂組成物。
【請求項2】
下記式(3)に示すリン系硬化促進剤(C1)を更に含有し、
【化2】
式(3)において、
1~R3は各々独立に炭素数6~12のアリール基であり、
4は炭素数1~4のアルキル基であり、
6及びR8は各々独立にカルボキシル基、又は水酸基であり、
5及びR7は各々独立にH又は炭素数1~4のアルキル基であり、
9及びR11の各々はHであり、
10はカルボキシル基、又は水酸基であり、
p、q及びrは、p≧1、q≧1、r≧1、及びq≧rの関係を満たす数である、
請求項1記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
含窒素系硬化促進剤(C2)を更に含有する、
請求項1又は2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
半導体チップと、
前記半導体チップを覆う、請求項1からのいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物である封止材とを備える、
半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物及び半導体パッケージに関し、詳しくは、エポキシ樹脂を含有する封止用樹脂組成物、及び封止用樹脂組成物の硬化物からなる封止材を備える半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、低誘電性等の諸性能に優れ、半導体封止材料として用いられる硬化性組成物として、分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物と芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物とのエステル化物である活性エステル化合物と、フェノール性水酸基含有化合物(B)とを必須の成分とする活性エステル組成物が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/008416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体封止用の材料には、金属との密着性が良好であることが求められるが、特許文献1に記載の活性エステル組成物では、金属との良好な密着性が得られにくい。
【0005】
本発明の目的は、硬化することで得られる硬化物が、低い誘電率と低い誘電正接とを有することができ、かつ金属との密着性も有することができる封止用樹脂組成物、及びこの封止用樹脂組成物の硬化物からなる封止材を備える半導体パッケージを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)と、下記式(1)を満たす構造を有し、かつ軟化点が150℃以下であるフェノール樹脂(B)とを含有する。
1-R2-(R3-R4-R5 (1)
式(1)中、nは、5~10の整数である。R1及びR5の各々は、少なくとも一つの水酸基と少なくとも一つの炭素数1~20のアルキル基とを置換基として有するフェニル基又はナフチル基である。複数のR3の各々は、少なくとも一つの水酸基と少なくとも一つの炭素数1~20のアルキル基とを置換基として有するフェニレン基又はナフチレン基である。R2及びR4の各々は、アルキレン基である。
【0007】
本発明の一態様に係る半導体パッケージは、半導体チップと、前記半導体チップを覆う、前記封止用樹脂組成物の硬化物である封止材とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬化することで得られる硬化物が、低い誘電率と低い誘電正接とを有することができ、かつ金属との密着性も有することができる封止用樹脂組成物、及びこの封止用樹脂組成物の硬化物からなる封止材を備える半導体パッケージを、提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における半導体パッケージの第一の例を示す概略の断面図である。
図2】本発明の一実施形態における半導体パッケージの第二の例を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態に係る封止用樹脂組成物(以下、組成物(X)という)は、エポキシ樹脂(A)と、フェノール樹脂(B)とを含有する。フェノール樹脂(B)は、式(1)を満たす構造を有し、かつ軟化点が150℃以下である。
【0012】
1-R2-(R3-R4-R5 (1)
式(1)中、nは、5~10の整数である。R1及びR5の各々は、少なくとも一つの水酸基と少なくとも一つの炭素数1~20のアルキル基とを置換基として有するフェニル基又はナフチル基である。複数のR3の各々は、少なくとも一つの水酸基と少なくとも一つの炭素数1~20のアルキル基とを置換基として有するフェニレン基又はナフチレン基である。R2及びR4の各々は、アルキレン基である。
【0013】
本実施形態によると、組成物(X)を硬化させて硬化物を得た場合、組成物(X)がエポキシ樹脂(A)を含有することから、硬化物は金属との良好な密着性を有することができる。さらに、組成物(X)がフェノール樹脂(B)を含有することで、硬化物は低い誘電率と低い誘電正接とを有することができる。これは、フェノール樹脂(B)は、芳香環を含む主鎖を有することで適度に大きい水酸基当量を有することができ、かつフェノール樹脂(B)の側鎖にあるアルキル基がフェノール樹脂(B)の自由体積を増大させるためであると考えられる。すなわち、フェノール樹脂(B)が適度に大きい水酸基当量と大きな自由体積とを有することで、硬化物における極性基の密度が低められ、これにより、低い誘電率と低い誘電正接とを達成できると、考えられる。
【0014】
また、フェノール樹脂(B)の軟化点が150℃以下であることで、組成物(X)の調製時に組成物(X)中でフェノール樹脂(B)を良好に分散させやすい。このために、硬化物の全体にわたって極性基の密度を低下させやすく、そのために低い比誘電率と低い誘電正接とを達成しやすい。
【0015】
なお、フェノール樹脂(B)の軟化点は、フェノール樹脂(B)についてのDSC曲線における吸熱ピークが現れる温度である。DSC曲線は、空気雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件でフェノール樹脂(B)の示差走査熱量測定を行うことで得られる。
【0016】
上記のフェニル基又はナフチル基が置換基として有するアルキル基の炭素数は、2~15であることがより好ましく、5~10であることが更に好ましい。また、上記のフェニ連記又はナフチレン基が置換基として有するアルキル基の炭素数は、2~15であることがより好ましく、5~10であることが更に好ましい。これらの場合、硬化物は低い誘電率と低い誘電正接とを特に有しやすい。
【0017】
組成物(X)が含有する成分について、更に詳しく説明する。
【0018】
エポキシ樹脂(A)は、半導体の封止用途に適用できるのであれば、適宜の成分を含み得る。組成物(X)がエポキシ樹脂(A)を含有することで、組成物(X)を熱硬化させて得られる硬化物は金属との密着性を有することができる。エポキシ樹脂(A)は、例えばグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂及びオレフィン酸化型(脂環式)エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。より具体的には、エポキシ樹脂(A)は、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のアルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂等のブロム含有エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタンやイソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;並びにフタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群から選択される一種以上の成分を含有できる。
【0019】
特にエポキシ樹脂(A)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂及びトリフェニルホスフィン型エポキシ樹脂からなる群から選択される一種以上の成分を含有することが好ましい。
【0020】
組成物(X)は、エポキシ樹脂(A)と反応しうる硬化剤を含有し、硬化剤が上記のフェノール樹脂(B)を含有する。
【0021】
フェノール樹脂(B)は、上記のとおり、式(1)を満たす構造を有し、かつ軟化点が150℃以下である。すなわち、式(1)を満たす構造を有する化合物であっても、軟化点が150℃より高ければ、フェノール樹脂(B)には含まれない。
【0022】
式(1)に示す構造は、複数のR3を含む。硬化物の低誘電率化及び低誘電正接化のためには、複数のR3は、少なくとも一つの水酸基と少なくとも一つのアルキル基とを置換基として有するフェニレン基を含むことが好ましい。
【0023】
硬化物の低誘電率化及び低誘電正接化のためには、式(1)のR1及びR5の各々は、少なくとも一つの水酸基と少なくとも一つのアルキル基とを置換基として有するフェニル基であることが好ましい。
【0024】
硬化物の低誘電率化及び低誘電正接化のためには、式(1)のR2及びR4の各々は、メチレン基であることが好ましい。
【0025】
硬化物の低誘電率化及び低誘電正接化のためには、特に、フェノール樹脂(B)は、下記式(11)に示す構造を有する化合物を含むことが好ましい。式(11)中、nは5~10の整数であり、mは1~3の整数であり、Rは炭素数1~20のアルキル基である。
Rであるアルキル基の炭素数は、2~15であることがより好ましく、5~10であることが更に好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
硬化物の低誘電率化及び低誘電正接化のためには、式(11)に示す構造において、フェニレン基及びフェニル基のいずれもが、水酸基に対するパラ位に位置するRを有することが、更に好ましい。
【0028】
フェノール樹脂(B)の百分比は、組成物(X)に対して、2.0質量%以上7.0質量%以下であることが好ましい。この場合、フェノール樹脂(B)による低誘電率化及び低誘電正接化の作用が特に発揮されやすい。
【0029】
組成物(X)中の硬化剤は、フェノール樹脂(B)のみを含んでもよく、フェノール樹脂(B)以外の成分を含んでもよい。硬化剤がフェノール樹脂(B)以外の成分を含む場合、硬化剤全体に対するフェノール樹脂(B)の百分比は20質量%以上であることが好ましい。
【0030】
硬化剤がフェノール樹脂(B)以外の成分を含む場合、硬化剤は、フェノール樹脂(B)に加えて、例えばフェノール樹脂(B)以外のフェノール化合物、酸無水物、及びフェノール性水酸基を生成する機能性化合物からなる群から選択される一種以上の成分を含有する。フェノール化合物には、フェノール樹脂(B)を除く、1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有するモノマー、オリゴマー及びポリマー全般が含まれうる。例えば硬化剤は、フェノール樹脂(B)を除く、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビフェニル型ノボラック樹脂、トリフェニルメタン型樹脂、ナフトールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、及びビフェニルアラルキル樹脂からなる群から選択される一種以上の成分を含有することができる。酸無水物は、例えば無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸及びポリアゼライン酸無水物からなる群から選択される一種以上の成分を含有することができる。フェノール性水酸基を生成する機能性化合物としては、加熱されることでフェノール性水酸基を生成する化合物が挙げられる。より具体的には、機能性化合物として、加熱されると開環してフェノール性水酸基を生成するベンゾオキサジン類が挙げられる。
【0031】
エポキシ樹脂(A)に対する硬化剤の当量比は、例えば0.5以上2.0以下であり、0.8以上1.4以下であれば好ましい。
【0032】
組成物(X)は、硬化促進剤(C)を含有できる。
【0033】
硬化促進剤(C)は、例えば次のリン系硬化促進剤(C1)を含有することが好ましい。すなわち、組成物(X)は、リン系硬化促進剤(C1)を含有することが好ましい。
【0034】
リン系硬化促進剤(C1)は、下記式(3)に示す構造を有する。
【0035】
【化2】
【0036】
式(3)において、R1~R3は各々独立に炭素数6~12のアリール基である。R4は炭素数1~4のアルキル基である。R6及びR8は各々独立にカルボキシル基、又は水酸基である。R5及びR7は各々独立にH又は炭素数1~4のアルキル基である。R9及びR11の各々はHである。R10はカルボキシル基、又は水酸基である。p、q及びrは、p≧1、q≧1、r≧1、及びq≧rの関係を満たす数である。
【0037】
リン系硬化促進剤(C1)について、更に詳しく説明する。リン系硬化促進剤(C1)は、下記式(3.1)に示す第4級ホスホニウムカチオン(C11)と、下記式(3.2)に示す有機カルボキシラートアニオン(C12)と、下記式(3.3)に示すフェノール化合物(C13)とから構成される。
【0038】
【化3】
【0039】
リン系硬化促進剤(C1)において、第4級ホスホニウムカチオン(C11)と、有機カルボキシラートアニオン(C12)とは、イオン結合している。さらに、有機カルボキシラートアニオン(C12)とフェノール化合物(C13)とは、水素結合しており、このためリン系硬化促進剤(C1)は錯体状の化合物である。このリン系硬化促進剤(C1)の構造の概念的なモデルの一例を下記式(4)に示す。
【0040】
【化4】
【0041】
リン系硬化促進剤(C1)を含有することで、リン系硬化促進剤(C1)は、リン系の化合物一般と比較して、組成物(X)の流動性、硬化性、及び保存安定性を高めやすい。これは、リン系硬化促進剤(C1)を構成する第4級ホスホニウムカチオン(C11)、有機カルボキシラートアニオン(C12)及びフェノール化合物(C13)という三つの要素間に働く次のような相互作用に起因すると考えられる。
【0042】
式(4)に示すように、有機カルボキシラートアニオン(C12)とフェノール化合物(C13)の各々は、1,3位に水素結合可能な置換基である水酸基又はカルボニル基を有するため、有機カルボキシラートアニオン(C12)とフェノール化合物(C13)との間に水素結合による相互作用が強力に働く。これにより有機カルボキシラートアニオン(C12)の酸強度が見かけ上強くなり、有機カルボキシラートアニオン(C12)と第4級ホスホニウムカチオン(C11)とが解離しにくくなる。このため、常温下ではリン系硬化促進剤(C1)中の第4級ホスホニウムカチオン(C11)と有機カルボキシラートアニオン(C12)とが解離しない状態が維持されることで、組成物(X)の硬化が抑制される。このため、組成物(X)の保存安定性が高められると考えられる。組成物(X)が加熱されても、当初は有機カルボキシラートアニオン(C12)とフェノール化合物(C13)との間の強い相互作用が維持されることで、第4級ホスホニウムカチオン(C11)と有機カルボキシラートアニオン(C12)との解離が抑制される。このため、組成物(X)が加熱されても、すぐには硬化反応は進行せず、組成物(X)の溶融粘度の上昇が抑制される。これにより、組成物(X)の成形時の流動性が高められると考えられる。加熱を開始してからしばらくすると、有機カルボキシラートアニオン(C12)とフェノール化合物(C13)との間の相互作用は次第に弱まり、第4級ホスホニウムカチオン(C11)と有機カルボキシラートアニオン(C12)とが解離する。これにより、組成物(X)の硬化が促進される。このため、組成物(X)の流動性と硬化性とが共に高められると考えられる。
【0043】
本実施形態では、式(3)において、R1~R3が各々独立に炭素数6~12のアリール基であり、R4が炭素数1~4のアルキル基であることで、リン系硬化促進剤(C1)における第4級ホスホニウムカチオン(C11)と有機カルボキシラートアニオン(C12)との立体障害が少なく、そのため、リン系硬化促進剤(C1)の安定性が高い。また、R6及びR8が各々独立にカルボキシル基、又は水酸基であり、更にR10がカルボキシル基、又は水酸基であることで、有機カルボキシラートアニオン(C12)とフェノール化合物(C13)との間の相互作用が強力に働き、上記のような組成物(X)の保存安定性の向上、成形時の流動性の向上及び硬化性の向上がもたらされる。また、R5及びR7が各々独立にH又は炭素数1~4のアルキル基であることで、芳香環上でエポキシ樹脂と反応する官能基同士が隣接せず、しかもエポキシ樹脂と反応する官能基の周りの立体障害が抑制される。このため、組成物(X)が硬化する際にエポキシ化合物(A)と反応する官能基が未反応で残る確率が低くなり、組成物(X)の硬化性が高められる。
【0044】
式(3)において、R6とR8の少なくとも一方はカルボキシル基であることが好ましい。この場合、リン系硬化促進剤(C1)が、リン系の化合物一般と比較して、組成物(X)の保存安定性、成形時の流動性及び硬化性を更に向上しやすく、かつ硬化物を含む封止材4と金属との密着性も向上しやすい。その理由は次の通りであると推察される。カルボキシル基及びカルボキシラートアニオン基は、水酸基よりも求核性が低いため、R6とR8の少なくとも一方がカルボキシル基であると、リン系硬化促進剤(C1)がエポキシ化合物(A)と反応する際には、当初は急激な反応は生じない。反応が進んでも、カルボキシラートアニオン基が先に反応し、カルボキシル基は反応せずに残存しやすい。そのため、組成物(X)の保存安定性及び成形時の流動性が損なわれにくい。反応がある程度進むと、有機カルボキシラートアニオン(C12)からフェノール化合物(C13)が解離して、このフェノール化合物(C13)中の水酸基の高い求核反応性が発現し、そのため組成物(X)の硬化が促進される。これにより、組成物(X)の硬化性が高められる。有機カルボキシラートアニオン(C12)中のカルボキシル基は組成物(X)の硬化後も硬化物中に残存しやすい。このため、硬化物が金属表面と接触すると、組成物(X)中のカルボキシル基が金属元素と結合してカルボン酸塩を形成しやすく、金属表面に水酸基又は酸化膜が存在する場合にはカルボキシル基が金属表面と水素結合しやすい。このため、硬化物の金属表面との間の密着性が高められる。これにより、封止材4は金属との間の高い密着性を有することができる。
【0045】
式(3)において、R10が水酸基であることも好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性、成形時の流動性及び硬化性が、より高められやすい。これは、リン系硬化促進剤(C1)内において、有機カルボキシラートアニオン(C12)とフェノール化合物(C13)との水素結合による相互作用が、より強く生じやすいからだと考えられる。特に、R6とR8の少なくとも一方がカルボキシル基でありかつR10が水酸基である場合に、高い効果が得られる。これは、リン系硬化促進剤(C1)内における有機カルボキシラートアニオン(C12)に対してフェノール化合物(C13)が、有機カルボキシラートアニオン(C12)におけるカルボキシラートアニオン基及びカルボキシル基とフェノール化合物(C13)における二つの水酸基とが近接するように配置されやすいため、水素結合による相互作用が更に強く生じやすいからだと考えられる。
【0046】
また、リン系硬化促進剤(C1)はベンゼンを含まず、リン系硬化促進剤(C1)の合成時にベンゼンが生成されてリン系硬化促進剤(C1)に混入されることもない。このため、組成物(X)からの、硬化促進剤に由来するベンゼンの放出が抑制される。
【0047】
また、原料の加熱混練によって組成物(X)を調製する際に、リン系硬化促進剤(C1)は組成物(X)中で分散及び融解しやすい。このため、組成物(X)で半導体素子を封止する場合、リン系硬化促進剤(C1)の粒子がワイヤ間やバンプ間にひっかかって絶縁不良を引きおこすようなことが、抑制される。
【0048】
リン系硬化促進剤(C1)の融点又は軟化点が200℃以上という比較的高い温度であってもよい。この場合でも、リン系硬化促進剤(C1)は組成物(X)中で分散及び融解しやすい。これは、何らかの分子間相互作用によって、組成物(X)中でのリン系硬化促進剤(C1)の分散性が高められているためであると考えられる。
【0049】
組成物(X)中でホスホニウム塩(A)が特に分散及び融解しやすくなるためには、リン系硬化促進剤(C1)の融点又は軟化点は200℃以下であることが好ましく、70~140℃の範囲内であればより好ましい。融点又は軟化点が140℃以下であると、組成物(X)中でリン系硬化促進剤(C1)が特に分散及び融解しやすくなる。また、融点又は軟化点が70℃以上であると、リン系硬化促進剤(C1)を粉砕して粉末状にする場合の融着が特に抑制されるとともに、保存中に粉末状のリン系硬化促進剤(C1)がブロック化しにくくなる。融点又は軟化点は、80~120℃の範囲内であれば更に好ましく、90~100℃の範囲内であれば特に好ましい。
【0050】
なお、リン系硬化促進剤(C1)の融点又は軟化点を測定するためには、空気雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件でリン系硬化促進剤(C1)の示差走査熱量測定を行うことで、DSC曲線を得る。このDSC曲線における吸熱ピークが現れる温度を、融点又は軟化点とする。
【0051】
リン系硬化促進剤(C1)の融点又は軟化点を下げる方法として、リン系硬化促進剤(C1)をフェノール樹脂でマスターバッチ化することが挙げられる。フェノール樹脂は低粘度であることが好ましい。フェノール樹脂としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂が挙げられる。マスターバッチ化のためには、公知の方法が利用可能である。
【0052】
リン系硬化促進剤(C1)が粉末状であることも好ましい。この場合も、リン系硬化促進剤(C1)が、組成物(X)中で特に分散及び融解しやすくなる。リン系硬化促進剤(C1)を粉末状にする方法としては、リン系硬化促進剤(C1)を衝撃式粉砕機等で粉砕することが挙げられる。粉末状のリン系硬化促進剤(C1)が、100メッシュパス95%以上であることが好ましい。すなわち、粉末状のリン系硬化促進剤(C1)の95質量%以上が、100メッシュ(目開き212μm)を通過することが好ましい。この100メッシュパスは、エアージェットシーブ法で測定される。この場合、リン系硬化促進剤(C1)が、組成物(X)中で非常に分散及び融解しやすくなる。
【0053】
リン系硬化促進剤(C1)の合成方法は、特に限定されない。例えばまず第4級ホスホニウムカチオン(C11)と有機カルボキシラートアニオン(C12)とから構成される中間体を合成し、この中間体とフェノール化合物(C13)とを混合することで、リン系硬化促進剤(C1)が得られる。
【0054】
中間体は、例えば特許第4429768号公報に開示されている方法で製造できる。具体的には、例えばまず第4級ホスホニウムカチオン(C11)に対応する第4級ホスホニウムのアルキル炭酸塩と、有機カルボキシラートアニオン(C12)に対応する有機カルボン酸との塩交換反応で、中間体が合成される。
【0055】
第4級ホスホニウムのアルキル炭酸塩は、例えば第4級ホスホニウムに対応する第3級ホスフィンと炭酸ジエステル類とを反応させることで得られる。第3級ホスフィンとしては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、及び2-(ジフェニルホスフィノ)ビフェニルが挙げられる。炭酸ジエステルとしては、例えばジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、及びジフェニルカーボネートが挙げられる。反応を速やかに収率良く完結させるためには、溶媒中で反応させることが好ましい。溶媒としては、例えばメタノール及びエタノールが挙げられる。第4級ホスホニウムのアルキル炭酸塩を合成するためには、例えば第3級ホスフィンと炭酸ジエステル類を溶媒に加えて反応溶液を調製し、この反応溶液をオートクレーブ中で、50~150℃の範囲内の温度で10~200時間反応させる。
【0056】
中間体は、第4級ホスホニウムカチオン(C11)に対応する第4級ホスホニウムの水酸化物と、有機カルボキシラートアニオン(C12)に対応する有機カルボン酸との塩交換反応で合成されてもよい。
【0057】
第4級ホスホニウムの水酸化物は、例えば第4級ホスホニウムに対応する第3級ホスフィンとハロゲン化アルキル又はハロゲン化アリールとを反応させた後に、無機アルカリで塩交換することで得られる。第3級ホスフィンとしては、第4級ホスホニウムのアルキル炭酸塩を得る場合と同じものが挙げられる。ハロゲン化アルキルとしては、例えば臭化エチル、塩化ブチル、2-エチルヘキシルブロマイド、2-ブチルエタノール、及び2-クロロプロパノールが挙げられる。ハロゲン化アリールとしては、例えばブロモベンゼン、ブロモナフタレン、及びブロモビフェニルが挙げられる。無機アルカリとしては、例えば水素化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム及び水酸化アルミニウムが挙げられる。反応を速やかに収率良く完結させるためには、溶媒中で反応させることが好ましい。溶媒としては、例えばメタノール及びエタノールが挙げられる。第4級ホスホニウムの水酸化物を合成するためには、例えば第3級ホスフィンとハロゲン化アルキル又はハロゲン化アリールと無機アルカリとを溶媒に加えて反応溶液を調製し、この反応溶液をオートクレーブ中で、20~150℃の範囲内の温度で1~20時間反応させる。
【0058】
第4級ホスホニウムのアルキル炭酸塩又は水酸化物と有機カルボン酸とを反応させる場合、例えば第4級ホスホニウムのアルキル炭酸塩又は水酸化物と有機カルボン酸とを含有する溶液を、例えば30~170℃の範囲内の温度で1~20時間反応させながら、副生成するアルコール、水、炭酸ガス及び必要に応じて溶媒を除去する。これにより、塩交換反応によって中間体が得られる。
【0059】
中間体は、特に第4級ホスホニウムのアルキル炭酸塩と有機カルボン酸との塩交換反応で合成されることが好ましい。この場合、最終生成物であるリン系硬化促進剤(C1)中へのハロゲンイオンなどのイオン性不純物の混入が抑制される。このため、リン系硬化促進剤(C1)を含有する組成物(X)から作製される封止材4におけるマイグレーションの発生が抑制され、このため封止材4を備える半導体パッケージ1は、高い信頼性を有する。
【0060】
上述のとおり、中間体とフェノール化合物(C13)とを混合することで、リン系硬化促進剤(C1)が得られる。そのためには、例えば中間体とフェノール化合物(C13)とを、メタノール、エタノール等の溶媒中で、50~200℃で1~20時間混合させてから、溶媒を除去する。溶媒を除去するためには、例えば溶液を減圧下又は常圧下で、50~200℃で加熱する。これにより、リン系硬化促進剤(C1)が得られる。
【0061】
リン系硬化促進剤(C1)中の不純物であるハロゲンイオン含量は、リン系硬化促進剤(C1)に対して5ppm以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)から作製される封止材4におけるマイグレーションが特に抑制され、このため封止材4を備える半導体パッケージ1が特に高い信頼性を有する。このような低いハロゲンイオン含量は、上記のようにリン系硬化促進剤(C1)が特に第4級ホスホニウムのアルキル炭酸塩と有機カルボン酸との塩交換反応を含む方法で合成されることで達成可能である。
【0062】
硬化促進剤(C)は、含窒素硬化促進剤(C2)を含有することも好ましい。すなわち、組成物(X)は、含窒素硬化促進剤(C2)を含有することも好ましい。含窒素硬化促進剤(C2)は、その分子中に窒素原子を有する硬化促進剤である。含窒素硬化促進剤(C2)は、例えば2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールといったイミダゾール類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等のシクロアミジン類及び;2-(ジメルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールといった第3級アミン類からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0063】
本実施形態では、組成物(X)がリン系硬化促進剤(C1)を含有すると、組成物(X)を金型成形する際の、金型からの硬化物の離型性を高めることができる。特に硬化促進剤(C)が含窒素硬化促進剤(C2)を含有しかつリン系硬化促進剤(C1)を含有しない場合と比べて、硬化促進剤(C)がリン系硬化促進剤(C1)を含有すると、金型からの硬化物の離型性が高くなりやすい。そのため、組成物(X)が高い連続成形性を有することができる。
【0064】
また、本実施形態では、組成物(X)が含窒素硬化促進剤(C2)を含有すると、組成物(X)の熱硬化性を高めることができる。本実施形態では、フェノール樹脂(B)は組成物(X)の硬化性を低めやすい。これは、フェノール樹脂(B)の側鎖にあるアルキル基が、フェノール樹脂(B)の反応性を低下させるためであると考えられる。しかし、組成物(X)が含窒素硬化促進剤(C2)を含有すると、組成物(X)がフェノール樹脂(B)を含有しても、含窒素硬化促進剤(C2)が組成物(X)の硬化性を高めることができる。また、組成物(X)が含窒素硬化促進剤(C2)を含有すると、組成物(X)の硬化物と金属との密着性を高めることができる。
【0065】
組成物(X)がリン系硬化促進剤(C1)と含窒素硬化促進剤(C2)とを両方含有すると、更に好ましい。この場合、リン系硬化促進剤(C1)が成形時の離型性を高め、かつ含窒素硬化促進剤(C2)が組成物(X)の反応性と硬化物の密着性とを高めることで、硬化物の生産性を特に高めつつ、硬化物と金属との密着性を確保することができる。
【0066】
組成物(X)がリン系硬化促進剤(C1)を含有する場合、組成物(X)に対するリン系硬化促進剤(C1)の百分比は0.1質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以上であれば組成物(X)から作製される硬化物の難燃性を高めやすいという利点があり、0.5質量%以下であればリン系硬化促進剤(C1)が組成物(X)の流動性を悪化させにくいという利点がある。このリン系硬化促進剤(C1)は、0.2質量%以上であれることも好ましい。また、このリン系硬化促進剤(C1)が、0.3質量%以下であることも好ましい。
【0067】
組成物(X)が含窒素硬化促進剤(C2)を含有する場合、組成物(X)に対する含窒素硬化促進剤(C2)の百分比は0.02質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。この百分比が0.02質量%以上であれば硬化物の金属との密着性が特に高くなりやすいという利点があり、0.2質量%以下であれば含窒素硬化促進剤(C2)が連続成形性を悪化させにくいという利点がある。この含窒素硬化促進剤(C2)の百分比は、0.03質量%以上であることも好ましい。また、この含窒素硬化促進剤(C2)の百分比は、0.04質量%以下であることも好ましい。
【0068】
また、含窒素硬化促進剤(C2)の量は、フェノール樹脂(B)に対して0.5質量%以上であることが好ましい。この場合、含窒素硬化促進剤(C2)は、組成物(X)の硬化性を特に高めることができる。
【0069】
組成物(X)がリン系硬化促進剤(C1)と含窒素硬化促進剤(C2)とを含有する場合、リン系硬化促進剤(C1)と含窒素硬化促進剤(C2)の合計量の百分比は、組成物(X)に対して0.2質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。
【0070】
硬化促進剤(C)は、リン系硬化促進剤(C1)及び含窒素硬化促進剤(C2)以外の硬化促進剤(C3)を含有してもよい。硬化促進剤(C3)は、例えばトリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンとパラベンゾキノンの付加反応物、フェニルホスフィンといった有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートといったテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート;ボレート以外の対アニオンを持つ4級ホスホニウム塩;並びに2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N-メチルモルホリン・テトラフェニルボレートといったテトラフェニルボロン塩、からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。硬化促進剤(C)が硬化促進剤(C3)を含有する場合、硬化促進剤(C3)の百分比は、例えば硬化促進剤(C)に対して50質量%以下である。
【0071】
硬化促進剤(C)の百分比は、例えば、組成物(X)に対して0.1質量%以上1質量%以下である。
【0072】
無機充填剤(D)について説明する。無機充填材(D)は、例えば溶融シリカ、球状シリカ、球状溶融シリカ、破砕シリカ、結晶シリカ、球状アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等;チタン酸バリウム、酸化チタン等の高誘電率フィラー;ハードフェライト等の磁性フィラー;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤;並びに、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母粉等からなる群から選択される一種以上の成分を含有することができる。特に無機充填材(D)は、球状溶融シリカを含有することが好ましい。無機充填材(D)の平均粒径は3μm以上40μm以下であることが好ましい。この場合、成形時の組成物(X)の流動性が良好になりやすい。なお、平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準の算術平均径である。
【0073】
無機質充填剤(D)の百分比は、例えば組成物(X)に対して70質量%以上95質量%以下である。無機質充填剤(D)の百分比が95質量%以下であると、組成物(X)の成形時の流動性が特に優れ、ワイヤ流れ、未充填等の不良が抑制される。無機質充填剤(D)の百分比が70質量%以上であると、組成物(X)の成形時の溶融粘度が過剰に高くなることが抑制されることで、組成物(X)から作製される封止材4におけるボイドなどによる外観不良が抑制される。無機質充填剤(D)の百分比が組成物(X)全体に対して85質量%以上92質量%以下であれば特に好ましい。
【0074】
組成物(X)は、シランカップリング剤、難燃剤、難燃助剤、イオントラップ剤、カーボンブラック等の顔料、着色剤、低応力化剤、粘着付与剤、及びシリコーン可撓剤等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む添加剤を含有してもよい。
【0075】
シランカップリング剤は、2個以上のアルコキシ基を有することが好ましい。シランカップリング剤は、例えばβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、及びヘキサメチルジシラザンからなる群から選択される一種以上の成分を含有することができる。
【0076】
難燃剤は、ノボラック型ブロム化エポキシ樹脂、金属水酸化物等を含有することができる。特に、難燃剤は、三酸化二アンチモン及び五酸化二アンチモンのうち少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0077】
イオントラップ剤は、イオントラップ能力を有する公知の化合物を含有することができる。例えば、イオントラップ剤は、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等を含有することができる。
【0078】
低応力化剤は、例えばアクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体等のブタジエン系ゴム、並びにシリコーン化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することができる。
【0079】
組成物(X)の製造方法について説明する。例えば組成物(X)の原料を混合してから、熱ロール、ニーダー等の混練機を用いて加熱状態で溶融混合し、続いて室温に冷却し、更に公知の手段で粉砕することで、粉末状の組成物(X)を得ることができる。粉末状の組成物(X)を打錠することで、成形条件に見合った適宜の寸法及び質量を有するタブレット状の組成物(X)を得てもよい。
【0080】
組成物(X)を熱硬化させて得られる硬化物の比誘電率は3.6以下であることが好ましく、3.5以下であればより好ましく、3.4以下であれば更に好ましい。また、比誘電率は例えば3.3以上である。また、硬化物の誘電正接は、0.006以下であることが好ましく、0.005以下であれば更に好ましい。また、誘電正接は、例えば0.003以上である。この硬化物の比誘電率及び比誘電正接は、上記説明した組成物(X)の組成、特に組成物(X)中のフェノール樹脂(B)によって、実現可能である。
【0081】
組成物(X)を熱硬化させて得られる硬化物は、半導体パッケージ1における封止材4として好適である。硬化物は、上記のとおり低い比誘電率と低い誘電正接とを有することができるので、半導体パッケージ1の高周波特性を高めることができる。
【0082】
封止材4を備える半導体パッケージ1について説明する。半導体パッケージ1は、半導体チップ2と、半導体チップ2を覆う組成物(X)の硬化物である封止材4とを備える。
【0083】
半導体パッケージ1は、例えばMini、Dパック、D2パック、To22O、To3P、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)といった挿入型パッケージ、又はクワッド・フラット・パッケージ(QFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、ボールグリッドアレイ(BGA)といった表面実装型パッケージである。半導体パッケージ1は、システム・オン・チップ(SOC)であってもよく、システム・イン・パッケージ(SiP)であってもよい。
【0084】
半導体パッケージ1は、例えば基材3と、基材3に搭載されている半導体チップ2と、半導体チップ2を覆う封止材4とを備える。封止材4は、半導体パッケージ1の外形を構成する外周器であり、組成物(X)の硬化物からなる。半導体チップ2は、例えば集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード又は固体撮像素子である。半導体チップ2は、SiC、GaNといったパワーデバイスであってもよい。基材3は、例えばリードフレーム31又は配線板32である。
【0085】
封止材4の比誘電率は3.6以下であることが好ましく、3.5以下であればより好ましく、3.4以下であれば更に好ましい。また、比誘電率は、例えば3.3以上である。また、封止材4の誘電正接は、0.006以下であることが好ましく、0.005以下であれば更に好ましい。また、誘電正接は、例えば0.003以上である。この封止材4の比誘電率及び比誘電正接は、上記説明した組成物(X)の組成、特に組成物(X)中のフェノール樹脂(B)によって、実現可能である。
【0086】
図1に半導体パッケージ1の第一の例を示す。この半導体パッケージ1における基材3はリードフレーム31である。図1に示す半導体パッケージ1は、金属製のリードフレーム31と、リードフレーム31に搭載されている半導体チップ2と、半導体チップ2とリードフレーム31とを電気的に接続するワイヤ5と、半導体チップ2を覆う封止材4とを備える。
【0087】
リードフレーム31は、ダイパッド311、インナーリード312及びアウターリード313を備える。リードフレーム31は、例えば42アロイなどの鉄合金又は銅を主に含む金属材料から形成できる。
【0088】
図1に示す半導体パッケージ1を製造する場合、例えばリードフレーム31のダイパッド311上に半導体チップ2を適宜のダイボンド材6で固定する。これによりリードフレーム31に半導体チップ2を搭載する。続いて、半導体チップ2における電極パッド(図示せず)とリードフレーム31におけるインナーリード312とを、ワイヤ5で接続する。ワイヤ5は、例えば金製である。ワイヤ5は、銀及び銅のうち少なくとも一方を含んでもよい。続いて、半導体チップ2の周りで組成物(X)を成形して硬化させることで、封止材4を作製する。
【0089】
組成物(X)を加圧成形法で成形することで、封止材4を作製することが好ましい。加圧成形法は、例えば射出成形法、トランスファー成形法又は圧縮成形法である。
【0090】
図2に半導体パッケージ1の第二の例を示す。この半導体パッケージ1は、片面封止型のパッケージである。この半導体パッケージ1は、ボールグリッドアレイ(BGA)であり、かつシステム・イン・パッケージ(SiP)でもある。
【0091】
第二の例に係る半導体パッケージ1は、基材3と、半導体チップ2を含む複数の電子部品20と、バンプ電極8と、封止材4とを含む。
【0092】
第二の例における基材3は、配線板32である。配線板32は、電子部品20が搭載される面である搭載面321を有する。配線板32の搭載面321とは反対側の面322には、複数のバンプ電極8が設けられている。
【0093】
電子部品20は、上記のとおり、配線板32の搭載面321に搭載される。電子部品20のうち少なくとも一つが半導体チップ2である。半導体チップ2は、ベアチップであってもよく、パッケージであってもよい。半導体チップ2は、第一の例における半導体チップ2と同じでもよい。第二の例においては、半導体チップ2は複数のバンプ電極7を備え、このバンプ電極7によって、半導体チップ2が配線板32に電気的に接続されている。電子部品20が半導体チップ2以外の部品を含む場合、複数の電子部品20は、例えばインダクタ21を含む。
【0094】
封止材4は、組成物(X)の硬化物からなる。封止材4は、配線板32における搭載面321側において、電子部品20を封止する。これにより、片面封止型パッケージが実現されている。また、一つの封止材4が複数の電子部品20を封止することで、SiPが実現されている。
【0095】
第二例に係る半導体パッケージ1を製造する場合、例えば配線板32の搭載面321に、電子部品20を搭載した後、配線板32の搭載面321側において組成物(X)を成形して硬化させることで、封止材4を作製する。組成物(X)は、例えばトランスファー成形法又は圧縮成形法で成形される。
【実施例
【0096】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみには制限されない。
【0097】
(1)組成物の調製
表1に示す原料を、ミキサーで十分混合してからニーダーで約100℃で溶融させて混練し、冷却後、粉砕機で粉砕してから打錠することで、タブレット状の組成物を得た。
【0098】
なお、表1に示す原料の詳細は次のとおりである。
・エポキシ樹脂1:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製、品番NC3000、エポキシ当量276。
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱化学株式会社製、品番YX4000H、エポキシ当量195。
・フェノール樹脂1:式(11)に示すフェノール樹脂、明和化成株式会社製、品番ST-007-02、水酸基当量234、軟化点90℃。
・フェノール樹脂2:ノボラック型フェノール樹脂、明和化成株式会社製、品番DL92、水酸基当量105。
・フェノール樹脂3:ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、明和化成株式会社製、品番MEH7851SS、水酸基当量203。
・硬化促進剤1:式(3)に示すリン系硬化促進剤、サンアプロ株式会社製、品番RP-701。
・硬化促進剤2:2-フェニル-4-ヒドロキシメチル-5-メチルイミダゾール、四国化成株式会社製、品番2P4MHZ。
・硬化促進剤3:トリフェニルホスフィン、北興化学工業株式会社製。
・着色剤:カーボンブラック、三菱化学株式会社製、品番MA600。
・離型剤:ポリエチレンワックス、大日化学工業株式会社製、品番PE-A。
・シランカップリング剤:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、品番KBM803。
・充填材:球状溶融シリカ、電気化学工業社製、品番FB940。
【0099】
2.評価
2-1.比誘電率及び誘電正接の測定
組成物をトランスファー成形法で、圧力3.9MPa、温度175℃、成形時間180秒の条件で成形して硬化物を得た。この硬化物を175℃で4時間加熱することでアフターキュアを施した。続いて、硬化物を切断して1.5mm×1.5mm×85mmの寸法のサンプルを作製した。このサンプルの、測定波長10GHzにおける比誘電率及び誘電正接を、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製、型番N5230A)を用いて測定した。
【0100】
2-2.密着性
銅基材をセットした金型を用い、組成物をトランスファー成形法で、温度175℃、成形時間180秒の条件で成形することで、銅基材上に直径2.5mm、高さ3mmの寸法の硬化物を作製した。銅基材に対する硬化物の密着力を、Dage社製のボンドテスターを用いて測定した。その結果、密着力が25MPa未満の場合を「C」、密着力が25MPa以上~40MPa未満である場合は「B]、密着力が40MPa以上である場合は「A」と、評価した。
【0101】
2-3.連続成形性(離型性)評価
平面視40mm×40mmの寸法を有する銅製の基板を、第一精工株式会社製の成型機「S・Pot」の金型にセットしてから、この金型内で、組成物を成型温度175℃、キュア時間150秒の条件で成型することで、基板上に硬化物を作製した。硬化物を作製した直後に、金型から基板を持ち上げることで、硬化物を金型から取り外した。このとき、基板を持ち上げるために要する力を、デジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製、型番ZTS-DPU-100N)を用いて測定した。この測定を50回繰り返し行い、得られた測定値の平均値を算出した。この平均値が10N以下である場合を「A」、10Nより大きく20N未満の場合を「B」、20N以上の場合を「C」と、判定した。
【0102】
2-4.硬化時間評価
CURELASTOMETER MODELV(株式会社テイ・エス・エンジニアリング)を用いて、組成物を設定温度175℃で加熱しながら、組成物のトルク値を測定した。測定開始時からトルク値が0.5kgf・cm(4.9035N・cm)に達するまでに要した時間を、硬化時間とした。
【0103】
【表1】
【符号の説明】
【0104】
1 半導体パッケージ
2 半導体チップ
4 封止材
図1
図2