(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】遮熱フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 7/023 20190101AFI20230310BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20230310BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20230310BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230310BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230310BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20230310BHJP
G02B 1/111 20150101ALI20230310BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B7/027
B32B27/16 101
B32B27/30 A
B32B27/18 Z
G02B5/22
G02B1/111
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2021544046
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033568
(87)【国際公開番号】W WO2021045185
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019163409
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 知之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕
(72)【発明者】
【氏名】花田 泰
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208514(WO,A1)
【文献】特開2012-203325(JP,A)
【文献】特開2008-009348(JP,A)
【文献】特開2020-095191(JP,A)
【文献】特開2020-095193(JP,A)
【文献】特開2008-268535(JP,A)
【文献】特開2002-006102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G02B 1/111
G02B 5/22
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リタデーション値が100nm以下の透明基材と、
前記透明基材に重ねられた赤外線吸収層と、
を備え、
前記赤外線吸収層は、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物は、
赤外吸収能を有する酸化物(A)と、
フッ素を含有しないアクリル化合物(B)と、
フッ素を含有するアクリル化合物(C)と、
を含有する、
遮熱フィルム。
【請求項2】
波長800nm以上2500nm以下における赤外線の透過率が30%以下であり、かつ全光
線透過率が60%以上である、
請求項1に記載の遮熱フィルム。
【請求項3】
前記酸化物(A)は、セシウム酸化タングステンを含有し、
前記酸化物(A)に対する前記セシウム酸化タングステンの割合は、30質量%以上である、
請求項1又は2に記載の遮熱フィルム。
【請求項4】
前記アクリル化合物(B)は、6官能アクリレートを含有し、
前記アクリル化合物(B)に対する前記6官能アクリレートの割合は、10質量%以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項5】
前記紫外線硬化性樹脂組成物に対する前記酸化物(A)の割合は、5質量%以上80質量%以下であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物に対する前記アクリル化合物(B)の割合は、15質量%以上90質量%以下であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物に対する前記アクリル化合物(C)の割合は0.1質量%以上10質量%以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項6】
前記透明基材は、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、及びポリメタクリル酸メチルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項7】
前記透明基材は、ポリカーボネートを含有する層と、ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層との積層物を含んでいる、
請求項1~6のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項8】
前記赤外線吸収層は、前記積層物における、ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層の表面に形成されている、
請求項7に記載の遮熱フィルム。
【請求項9】
前記赤外線吸収層の厚みは、0.3μm以上30μm以下である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項10】
リタデーション値が6000nm以上であるポリエステルフィルムを更に備える、
請求項1~9のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項11】
反射防止層を更に備える、
請求項1~10のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項12】
前記反射防止層は、屈折率が1.45以下の低屈折率層を備える、
請求項11に記載の遮熱フィルム。
【請求項13】
前記反射防止層の厚みは0.05μm以上0.15μm以下である、
請求項11又は12に記載の遮熱フィルム。
【請求項14】
投影装置の光学系を構成する光学部材に適用される、
請求項1~13のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項15】
偏光層を更に備える
、
請求項1~14のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項16】
フッ素を含有するアクリル化合物(C)が、重合性官能基とフルオロアルキル基とを含有する化合物であり、前記重合性官能基としてエチレン性不飽和基を含有する、
請求項1~15のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項17】
前記赤外線吸収層に対する酸化物(A)の割合が、5質量%以上80質量%以下であり、
前記赤外線吸収層が塗膜である、
請求項1~16のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項18】
前記透明基材は、ポリカーボネートを含有する層と、ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層との二層構造であり、
(ポリカーボネートを含有する層の厚み)/(ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層の厚み)=99/1~51/49である、
請求項1~17のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遮熱フィルムに関する。より詳細には赤外線を透過させにくくする遮熱フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、赤外線吸収性粘着剤組成物から形成される赤外線遮蔽層と偏光フィルムとが積層されてなる光学積層体が開示されている。この赤外線吸収性粘着剤組成物は、赤外線吸収性微粒子と、アクリル系共重合体と、分散剤とを含有する。このアクリル系共重合体は、アクリル酸n-ブチル及びアクリル酸等の単官能アクリル化合物を共重合させることで得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の課題は、赤外線吸収性と、耐擦傷性と、防汚性とを有する赤外線吸収層を備える遮熱フィルムを提供することである。
【0005】
本開示に係る遮熱フィルムは、リタデーション値が100nm以下の透明基材と、前記透明基材に重ねられた赤外線吸収層と、を備える。前記赤外線吸収層は、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である。前記紫外線硬化性樹脂組成物は、赤外吸収能を有する酸化物(A)と、フッ素を含有しないアクリル化合物(B)と、フッ素を含有するアクリル化合物(C)と、を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る遮熱フィルムの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る遮熱フィルムの他例を示す断面図である。
【
図3】
図3Aは、第2実施形態に係る遮熱フィルムの第1例を示す断面図である。
図3Bは、第2実施形態に係る遮熱フィルムの第2例を示す断面図である。
図3Cは、第2実施形態に係る遮熱フィルムの第3例を示す断面図である。
【
図4】
図4Aは、第3実施形態に係る遮熱フィルムの第1例を示す断面図である。
図4Bは、第3実施形態に係る遮熱フィルムの第2例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、第4実施形態に係る遮熱フィルムの一例を示す断面図である。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、投影装置が移動体に搭載された状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
まず、本開示に至った経緯の概略を
図6A及び
図6Bを参照して説明する。
【0008】
近年、ユーザ200が自動車や飛行機等の移動体300を安全に運転できるよう、この移動体300に投影装置10を搭載し、表示部11からの運転支援情報等を映像21としてウインドシールド20に表示する技術が盛んに開発されている。
【0009】
しかし、投影装置10のカバー14が後述の遮熱フィルム1を備えない場合、ウインドシールド20及びカバー14を透過する太陽6からの自然光61に含まれる赤外光62、紫外光63、可視光64のうち、特に熱エネルギーの大部分を占める赤外光62、可視光64が、ミラー13で表示部11に向かって反射されることによって、表示部11が集光し、発熱による破壊の可能性がある。
【0010】
また、投影装置10を移動体300に搭載すると、カバー14に塵や汚れがつきやすく、これらを例えば布で取り除くことにより、カバー14表面に傷が付き、それにより投影される虚像23の品質が悪化する可能性がある。
【0011】
そこで、発明者らは鋭意研究の結果、投影される虚像23の輝度等の品質に影響する可視光64は透過させやすく、一方で赤外光62を透過させにくく、防汚性及び耐擦傷性を有する遮熱フィルム1を見出し、本開示に至った。
【0012】
遮熱フィルム1は、リタデーション値が100nm以下の透明基材3と、透明基材3に重ねられた赤外線吸収層2とを備える(
図1参照)。赤外線吸収層2は、紫外線硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X)という場合がある)の硬化物である。組成物(X)は、赤外吸収能を有する酸化物(A)と、一分子中にフッ素を含有しないアクリル化合物(B)と、一分子中にフッ素を含有するアクリル化合物(C)と、を含有する。
【0013】
このような遮熱フィルム1は、酸化物(A)に起因する赤外線吸収性を有する。カバー14が遮熱フィルム1を備えると、赤外光62は遮熱フィルム1を透過しにくくなるため、表示部11は破損しにくくなり、かつ投影装置10を変形させにくくできる。また、赤外線吸収層2は、アクリル化合物(B)に起因する耐擦傷性と、アクリル化合物(C)に起因する防汚性とをも有する。このため、赤外線吸収層2の表面に汚れが付きにくくなる。赤外線吸収層2の表面に付いた汚れを布等でふき取っても、赤外線吸収層2の表面が傷付きにくくなる。さらに、透明基材3のリタデーション値が100nm以下であることで、投影される虚像23の輝度の低下や虹ムラを防ぎ、また偏光サングラス等の偏光部材越しで見た際のさらなる輝度の低下を生じさせにくくする。
【0014】
以下、本開示に係る実施形態をより詳細に説明する。なお、下記説明において「(メタ)アクリル-」は、「アクリル-」と「メタクリル-」のうち少なくとも一方を意味する。例えば、(メタ)アクリルモノマーは、アクリルモノマーとメタクリルモノマーとのうち少なくとも一方を意味する。
【0015】
<第1実施形態>
(遮熱フィルム)
本実施形態に係る遮熱フィルム1は、赤外
光62の透過を遮ることで遮熱する性質を有する。この遮熱フィルム1は、
図1のように赤外線吸収層2と、透明基材3とを備える。そして、赤外線吸収層2は透明基材3に重ねられている。このような赤外線吸収層2と透明基材3とは、積層体1Aを構成する。すなわち、遮熱フィルム1は、透明基材3の表面に赤外線吸収層2を有する積層体1Aを備える。本実施形態では遮熱フィルム1は積層体1Aのみからなるが、遮熱フィルム1は、赤外線吸収層2及び透明基材3以外の任意の層を更に備えてもよい。
【0016】
本実施形態に係る遮熱フィルム1は、波長800nm以上2500nm以下における赤外線の透過率が30%以下であり、かつ全光線透過率が60%以上であることが好ましい。これにより、遮熱フィルム1は、赤外線の透過を抑えて遮熱効果を担保しながら、透明性をも担保して、遮熱フィルム1を通しての視認性の低下を抑えることができる。
【0017】
(赤外線吸収層)
次に赤外線吸収層2について説明する。
【0018】
赤外線吸収層2は、赤外光62を吸収する性質を有する層であって、組成物(X)の硬化物である。組成物(X)は、赤外吸収能を有する酸化物(A)と、一分子中にフッ素を含有しないアクリル化合物(B)と、一分子中にフッ素を含有するアクリル化合物(C)と、光重合開始剤(D)、とを含有する。
【0019】
酸化物(A)は、赤外線吸収層2に赤外線吸収性を付与する化合物である。酸化物(A)の赤外線吸収能は、透明な樹脂中に酸化物(A)を分散させた混合物の光透過率を分光光度計で測定したとき、波長550nmである光の透過率が75%以上で、かつ波長1000nmである光の透過率が50%以下であることを意味する。この赤外線吸収能を得るための条件として、例えば、混合物に対する酸化物(A)の割合が5質量%以上85質量%以下であり、混合物の厚みが0.3μm以上30μm以下であることが挙げられる。酸化物(A)の赤外線吸収能は、波長550nmである光の透過率が80%以上であり、かつ波長1000nmである光の透過率が40%以下であることが好ましい。酸化物(A)の赤外線吸収能は、波長550nmである光の透過率が80%以上であり、かつ波長1000nmである光の透過率が10%以下であることがより好ましい。上記の混合物が含有する透明樹脂として、例えば、多官能アクリレート重合物が挙げられる。
【0020】
なお、本開示において、光の透過率及び光の反射率を測定するにあたって使用する分光光度計は特に限定されないが、例えば日立ハイテクサイエンス社製のUH4150(製品モデル)を用いることができる。
【0021】
酸化物(A)は、例えばアンチモン酸化スズ(ATO)、スズ酸化インジウム(ITO)、及びセシウム酸化タングステンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する。中でも、酸化物(A)はセシウム酸化タングステンを含有することが好ましい。赤外光62に含まれる波長が800nm~1200nmの範囲内の成分は熱エネルギーの強度が大きく、この成分をセシウム酸化タングステンはATO及びITOよりも吸収することができる。このため、セシウム酸化タングステンは赤外線吸収層2の赤外線吸収性を向上させることができる。
【0022】
酸化物(A)がセシウム酸化タングステンを含有する場合、酸化物(A)は、30質量%以上のセシウム酸化タングステンを含有することが好ましい。すなわち、酸化物(A)に対するセシウム酸化タングステンの割合は、30質量%以上であることが好ましい。酸化物(A)に対するセシウム酸化タングステンの割合は、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。セシウム酸化タングステンの割合の上限は特に限定されないが、例えば100質量%以下である。
【0023】
赤外線吸収層2は透明性を有することが好ましいため、赤外線吸収層2に含有される酸化物(A)の粒子径は1nm以上200nm以下の範囲とするのが好ましい。この場合、赤外線吸収層2中の酸化物(A)が見えにくくなって、透明性に優れる赤外線吸収層2が得られやすい。酸化物(A)の粒子径は5nm以上100nm以下の範囲とするのがより好ましく、酸化物(A)の粒子径は10nm以上50nm以下の範囲とするのがさらに好ましい。なお、本開示において、粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を使用した粒度分布から得られる。
【0024】
アクリル化合物(B)は、赤外線吸収層2に耐擦傷性を付与する化合物であって、(メタ)アクリロイル基を含有する。このようなアクリル化合物(B)として、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、及びポリエステル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
アクリル化合物(B)は3つ以上のアクリロイル基を官能基として含有する化合物であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物中にアクリル化合物(B)のアクリロイル基に由来する架橋構造が存在するため、赤外線吸収層2の耐擦傷性を向上させることができる。アクリル化合物(B)は、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート等の5官能アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能アクリレート;並びにこれらアクリレート中の基をアルキル基又はε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む。中でも、アクリル化合物(B)は6官能アクリレートを含有することが好ましい。この場合、赤外線吸収層2の耐擦傷性を更に向上させることができ、さらにアクリル化合物(B)の全体量を減らしても赤外線吸収層2の表面に傷が付くことを抑えることができる。アクリル化合物(B)は6官能アクリレートと6官能以外のアクリレートを含有することがより好ましい。アクリル化合物(B)は、上記の群に限らず、任意の化合物を含んでもよい。
【0026】
6官能以外のアクリレートは、3官能以上5官能以下のアクリレートを含有できる。6官能以外のアクリレートは、6官能を超えるアクリレートを含有してもよい。6官能を超えるアクリレートとしては、例えば、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート(具体的には、東亞合成株式会社製のアロニックスM-400シリーズ、大阪有機化学工業株式会社製のビスコート#802など)、デンドリマーアクリレート(具体的には、大阪有機化学工業株式会社製のビスコート#1000など)、及び6官能を超えるウレタンアクリレート(具体的には、DIC株式会社製のルクシディアV-4000BA、及び日本合成化学工業株式会社製のUV-1700Bなど)が挙げられる。
【0027】
アクリル化合物(B)が6官能アクリレートを含有する場合、アクリル化合物(B)は10質量%以上の6官能アクリレートを含有することが好ましい。この場合、赤外線吸収層2の耐擦傷性を更に向上させることができ、さらにアクリル化合物(B)の全体量を減らしても赤外線吸収層2の表面に傷が付くことを抑えることができる。
【0028】
アクリル化合物(C)は、赤外線吸収層2に防汚性を付与する化合物である。アクリル化合物(C)は、重合性官能基とフルオロアルキル基とを含有する化合物であることが好ましい。アクリル化合物(C)は重合性官能基としてエチレン性不飽和基を含有することがより好ましい。アクリル化合物(C)中の重合性官能基は(メタ)アクリロイル基のみから構成されてもよく、アクリル化合物(C)は重合性官能基としてビニル基、アリル基、及びスチリル基からなる群から選択される少なくとも一種の基を更に含有してもよい。
【0029】
アクリル化合物(C)は、例えば2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-ブチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-ペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-ヘキシル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-オクチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-デシル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-ドデシル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロイソブチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロイソオクチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロイソドデシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-ペルフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H-ペルフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H-ペルフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H,1H,11H-ペルフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3,3,3-トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-プロピル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-ブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-ヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-オクチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-デシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロイソブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロイソオクチル)エチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4-テトラフルオロブチル(メタ)アクリレート、1H,1H,6H-ペルフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、1H,1H,8H-ペルフルオロオクチル(メタ)アクリレート、1H,1H,10H-ペルフルオロデシル(メタ)アクリレート、1H,1H,12H-ペルフルオロドデシル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートジフルオロブチレートからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む。アクリル化合物(C)は、上記の群に限らず、任意の化合物を含んでもよい。
【0030】
アクリル化合物(C)は、パーフルオロポリエーテルアクリレート化合物であってもよい。このパーフルオロポリエーテルアクリレート化合物は、パーフルオロアルキル基を主鎖として有するとともに、主鎖の末端又は側鎖に重合性官能基を有することが好ましい。赤外線吸収層2は、フッ素が含まれるアクリル化合物(C)を含有することで、表面張力が小さくなって水及び油をはじきやすくなり、よって、防汚性が向上する。さらに赤外線吸収層2はアクリル化合物(C)を含有することで、表面にスリップ性が付与されて、摩擦係数が下がりやすくなり、よって、汚れをふき取りやすく、且つふき取りの際に傷が入りにくい。
【0031】
光重合開始剤(D)は、紫外線を吸収し、組成物(X)中の重合反応を開始する化合物である。光重合開始剤(D)として、例えばアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α-アミノオキシムエステル、チオキサントン類などが挙げられる。組成物(X)は、光重合開始剤(D)に加えて、あるいは光重合開始剤(D)に代えて、光増感剤を含有してもよい。光増感剤としては、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルホスフィン、チオキサントンなどが挙げられる。
【0032】
組成物(X)は反応性希釈剤を更に含有してもよい。反応性希釈剤としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等の単官能モノマー、並びにトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートの多官能モノマーが挙げられる。
【0033】
組成物(X)は、分散剤等の任意の添加剤を更に含有してもよい。組成物(X)は、紫外線吸収材(E)をさらに含有することが好ましい。
【0034】
紫外線吸収材(E)としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチル酸系化合物、ベンゾイル系化合物等の有機紫外線吸収剤や、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機紫外線吸収剤等が挙げられる。紫外線吸収剤(E)を含有することで、赤外線吸収層2で自然光61に含まれる赤外光62に加え紫外光63を遮蔽することが可能となり、表示部11の温度上昇をさらに抑制することができる。また、紫外線吸収剤(E)を含有することで、赤外線吸収層2の樹脂や、透明基材3の劣化を防ぎ、遮熱フィルム1の耐久性の向上にも効果がある。
【0035】
赤外線吸収層2に対する酸化物(A)の割合は、5質量%以上であることが好ましい。酸化物(A)の割合の上限は特に限定されないが、例えば80質量%以下である。赤外線吸収層2は5質量%以上の酸化物(A)を含有することが好ましい。赤外線吸収層2に対する酸化物(A)の割合の上限は特に限定されないが、例えば80質量%以下である。赤外線吸収層2は全量に対して30質量%以上40質量%以下の酸化物(A)を含有することがより好ましい。なお、赤外線吸収層2は、組成物(X)に含まれる固形分(不揮発分)で形成される。
【0036】
組成物(X)に対するアクリル化合物(B)の割合は、10質量%以上であることが好ましい。組成物(X)に対するアクリル化合物(B)の割合は15質量%以上であることがより好ましい。アクリル化合物(B)の割合の上限は特に限定されないが、例えば90質量%以下である。組成物(X)の全量に対するアクリル化合物(B)の割合は、60質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
組成物(X)に対するアクリル化合物(C)の割合は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。組成物(X)の全量に対するアクリル化合物(C)の割合は、0.5質量%以上6質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
組成物(X)は例えば透明基材3上に塗布され、この組成物(X)が紫外線を照射されて光硬化することで、赤外線吸収層2が形成され得る。組成物(X)の塗布にあたっては、例えばロールコート法、スピンコート法、ディップコート法などの任意の方法が採用される。
【0039】
赤外線吸収層2の厚みは、好ましくは0.3μm以上30μm以下である。赤外線吸収層2の厚みが0.3μm以上であると、赤外線吸収層2がフィラーを含有しなくても、赤外線吸収層2は機械強度を有し、遮熱フィルム1の作製時等で赤外線吸収層2に亀裂が生じることを抑えることができる。なお、ここで言う「フィラー」は上記酸化物(A)とは異なるものである。赤外線吸収層2の厚みが30μm以下であると、組成物(X)が硬化する時の収縮によって、透明基材を湾曲させることによる遮熱フィルム1の反りを抑えることができ、また、遮熱フィルム1の反りによって赤外線吸収層2と透明基材3との間に生じる応力による剥離を抑制することができる。さらに反りが生じた遮熱フィルムが前記反りの方向とは反対方向に変形しようとする際に生じる割れを抑制することもできる。遮熱フィルム1の反りを抑えることができ、これにより赤外線吸収層2と透明基材3との密着性が低下しにくくなり、さらに次工程での取り扱いがしやすくなる。赤外線吸収層2の厚みは、より好ましくは1.0μm以上15μm以下であり、更に好ましくは2.0μm以上7.0μm以下である。例えば、遮熱フィルム1が自動車の車内搭載機器の部品である場合、車外からの光を運転者に向かって反射させないため、遮熱フィルム1を曲面に沿って曲げながら貼り付けることがある。このような場合、赤外線吸収層2の厚みが30μmよりも厚いと、赤外線吸収層2の屈曲性が低く、塗膜である赤外線吸収層2に亀裂が生じるおそれがある。
【0040】
赤外線吸収層2は、可視光透過率が60%以上であることが好ましく、これにより、遮熱フィルム1の透明性が得られやすくなり、遮熱フィルム1を通しての視認性の低下を少なくすることができる。また赤外線吸収層2は、赤外線透過率が30%以下であることが好ましく、これにより、遮熱フィルム1に遮熱効果を付与することができる。
【0041】
また、可視光透過率と赤外線透過率を両立していることがさらに好ましい。具体的には、波長550nmである光の透過率が60%以上でかつ波長1000nmである光の透過率が50%以下であることが好ましく、波長550nmである光の透過率が75%以上でかつ波長1000nmである光の透過率が30%以下であることがより好ましく、波長550nmである光の透過率が80%以上でかつ波長1000nmである光の透過率が10%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
(透明基材)
次に透明基材3について説明する。
【0043】
遮熱フィルム1は、上記の通り、透明基材3を備える。透明基材3は、リタデーション値が100nm以下であるフィルム状の部材である。このため、遮熱フィルム1を透過して投影される虚像23は、虹ムラが生じにくくなる。また、表示部11からの直線偏光への影響を極力小さくすることができるため、遮熱フィルム1を透過して投影される虚像23は、設計通りの輝度を得ることができる。さらに、投影される虚像23を偏光サングラス等の偏光部材越しで見ることを想定し、偏光の軸角度を調整する場合も、偏光への影響を極力小さくすることができるため、さらなる輝度の低下を防ぐことができる。このリタデーション値の下限は特に限定されないが、例えば0nm以上である。
【0044】
透明基材3のリタデーション値は50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。透明基材3のリタデーション値は50nm以下であると、リタデーション値が100nm以下50nmを超える場合に比べて、さらに虹ムラが生じにくくなり、さらに輝度も安定する。なお、「透明基材3のリタデーション値が100nm以下」とは、透明基材3のリタデーション値を、透明基材3の厚み方向、幅方向及び長さ方向の各々で100nm以下にすることを意味する。
【0045】
透明基材3は透明な材料を成形することで得られる。透明基材3を構成する材料として、例えば、ガラス、シクロオレフィンポリマー(以下、COPという場合がある)、ポリカーボネート(以下、PCという場合がある)、トリアセチルセルロース(以下、TACという場合がある)及びポリメタクリル酸メチルアクリレート(以下、PMMAという場合がある)等が挙げられる。中でも、透明基材3は、PC、COP、及びPMMAからなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。この場合、遮熱フィルム1、特に透明基材3に耐衝撃性を付与でき、しかも透明基材3は遮熱フィルム1を破断させにくくできる。すなわち、耐衝撃性を有する低リタデーションの透明基材3が得られる。
【0046】
透明基材3は、PCとPMMAとを含有することがより好ましい。この場合、透明基材3は複数の層を有する積層物であって、PCを含有する層(以下、PC層という場合がある)と、PMMAを含有する層(以下、PMMA層という場合がある)とを含むように形成してもよい。例えば、透明基材3は、二層からなる積層物であって、一方の層がPC層であり、他方の層がPMMA層であってもよい。また透明基材3は、三層からなる積層物であって、そのうちの二層がPMMA層であり、残りの一層がPC層であり、二層のPMMA層の間に、一層のPC層が位置していてもよい。すなわち、三層からなる透明基材3は、PC層の両表面にPMMA層が一層ずつ設けて形成されている。
【0047】
透明基材3が複数の層を有する積層物である場合、赤外線吸収層2はポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層の表面に形成されていることが好ましい。例えば、
図2に示すように、透明基材3が、ポリカーボネートを含有する層(PC層)31と、ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層(PMMA層)32との積層物である二層構造の場合、赤外線吸収層2はPMMA層32の表面に形成され、PC層31の表面には赤外線吸収層2が形成されていなくてもよい。赤外線吸収層2がPMMA層32の表面に形成されている場合、赤外線吸収層2がPMMA層32で支持され、ハードコート層としての機能を有しやすくなる。例えば、PMMA層32の表面に形成された赤外線吸収層2は、鉛筆硬度3H以上を実現可能となる。したがって、遮熱フィルム1の耐傷つき性を向上させることができる。
【0048】
なお、本実施形態において、赤外線吸収層2をPC層31の表面に形成することを除外してはいない。赤外線吸収層2をPC層31の表面に形成した場合は、赤外線吸収層2の鉛筆硬度がやや低下し(3B程度)、遮熱フィルム1の耐傷つき性を向上させにくいが、赤外線吸収層2の本来の機能(赤外線吸収機能)を損なうわけではない。
【0049】
透明基材3がPC層とPMMA層からなる二層構造の場合、PC層の厚みとPMMA層の厚みとの比率は、PC層の厚み/PMMA層の厚み=99/1~51/49であることが好ましい。この場合、遮熱フィルム1、特に透明基材3に耐衝撃性を付与でき、しかも透明基材3は遮熱フィルム1を破断させにくくできる。より好ましくは、PC層の厚み/PMMA層の厚み=97/3~75/25である。具体的には、例えば、PC層の厚みは345μm、PMMA層の厚みは30μmとすることができる。
【0050】
透明基材3は、上記に限らず、任意の化合物を含有してもよい。透明基材3は、酸化防止剤、耐熱安定剤、及び紫外線吸収剤等の添加剤を更に含有できる。
【0051】
透明基材3の厚みは、好ましくは20μm以上1000μm以下である。この場合、遮熱フィルム1の作製時等で透明基材3に亀裂が生じることを抑えることができ、また機械強度を高めることができる。さらに透明基材3の厚みは、より好ましくは50μm以上550μm以下であり、更に好ましくは100μm以上500μm以下である。
【0052】
遮熱フィルム1の厚み(総厚み)は、50μm以上700μm以下であることが好ましい。遮熱フィルム1の厚みを薄くすることで、ディスプレイで表示された像の二重像などを低減することができるので、遮熱フィルム1は薄いほうが好ましい。より好ましくは、遮熱フィルム1の厚みは100μm以上550μm以下、更に好ましくは150μm以上500μm以下にすることができる。そのため、機械強度を高めることができ、さらに支持体が無く遮熱フィルム単体で使用される場合、今後の投影装置の大型化でたわみが問題になる可能性があり、その対策にもなり得る。
【0053】
なお、遮熱フィルム1の厚みとは、遮熱フィルム1を構成する全部の層の厚みの合計(総厚み)を意味する。したがって、透明基材3と赤外線吸収層2とからなる遮熱フィルム1の厚みは、透明基材3の厚みと赤外線吸収層2の厚みとの合計である。後述のように、透明基材3と赤外線吸収層2と反射防止層4からなる遮熱フィルム1の厚みは、透明基材3の厚みと赤外線吸収層2の厚みと反射防止層4の厚みとの合計である。また、透明基材3と赤外線吸収層2とポリエステルフィルム5からなる遮熱フィルム1の厚みは、透明基材3の厚みと赤外線吸収層2の厚みとポリエステルフィルム5の厚みとの合計である。また、透明基材3と赤外線吸収層2と偏光層7からなる遮熱フィルム1の厚みは、透明基材3の厚みと赤外線吸収層2の厚みと偏光層7の厚みとの合計である。
【0054】
(用途)
次に、遮熱フィルム1の用途を説明する。
【0055】
遮熱フィルム1は、遮熱性が求められる各種部材に適用できる。この部材として、例えば、投影装置10の光学系を構成する光学部材;移動体300のウインドシールド、サイドウィンドウ、及びリアウィンドウ;偏光レンズ;建築物の窓;センサー等が挙げられる。投影装置10の光学部材として、例えば、カバー14(
図6B参照)が挙げられる。
【0056】
以下、遮熱フィルム1を
図6Bのような投影装置10に設けた場合について説明する。この説明は、本開示を実施するための様々な形態の一例に過ぎない。
【0057】
投影装置10は、自動車等の移動体300に搭載される(
図6A参照)。投影装置10は、移動体300のダッシュボード内、あるいはダッシュボード上に設けられる。
【0058】
投影装置10は、表示部11と、赤外線吸収体12と、ミラー13と、カバー14と、ケース16とを備える。このような投影装置10は、ヘッドアップディスプレイ(HUD:Head-Up Display)とも呼ばれる。
【0059】
ケース16は、内部に空間を有し、投影装置10の外形状を構成する。ケース16は、その内部空間に、赤外線吸収体12と、ミラー13と、カバー14とを収容する。ケース16は、上端に開口する開口部を有し、この開口部にカバー14が設けられている。
【0060】
カバー14の本来の役割は、ケース16の上部開口部から塵埃が内部空間へ入るのを防ぐ役割で設けられている。さらに、カバー14に求められる性能として、ユーザ200がカバー14表面に継時的に付着した塵埃や汚れを拭き取る場合を想定した耐摩耗性、あるいは車載に求められる耐熱性があるため、従来、ポリカーボネート樹脂が採用されている。しかし、近年の投影装置10の大型化に伴い、投影装置内部への侵入する自然光61の量が増え、表示部11の発熱による破壊への懸念がさらに高まっていることで、カバー14に対して太陽光対策も求められるようになっている。従来技術では、カバー14として偏光板を設け、自然光61のうち、可視光64を透過しにくくすることで、太陽光対策とすることが報告されている。本実施形態では、カバー14として遮熱フィルムを設け、自然光61のうち、赤外光62を透過しにくくすることで、太陽光対策としている。
【0061】
カバー14は、基部15と、基部15に重ねられた遮熱フィルム1とを備えていてもよい。基部15は、遮熱フィルム1よりも厚く、可視光を透過させる光学部材である。基部15を構成する材料として、ガラス、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、及びポリメタクリル酸メチルアクリレート等が挙げられる。
【0062】
表示部11は、運転支援情報を表示するように構成される。この運転支援情報は、赤外線吸収体12を透過し、ミラー13で反射する。そして、ミラー13で反射した運転支援情報は、カバー14を透過し、ウインドシールド20に映像21として投影される。これにより、移動体300内のユーザ200は、ウインドシールド20上の映像21を、移動体300の前方(車外)の空間に投影された虚像23として視認する。つまり、移動体300を運転しているユーザ200は、移動体300の前方に広がる実空間に重ねて、虚像23を見ることができる。表示部11は、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)である。
【0063】
赤外線吸収体12は、可視光を透過させ、かつ赤外光62を吸収する板状の部材である。投影装置10が赤外線吸収体12を備えることにより、赤外光62がカバー14を透過してしまっても、この赤外光62を赤外線吸収体12で吸収させることができる。これにより、赤外光62による表示部11の破損が更に生じにくくなる。赤外線吸収体12は、例えば、樹脂中に赤外線吸収剤を分散させた部材である。この赤外線吸収剤として、酸化物(A)と同様の化合物を用いることができる。
【0064】
ミラー13は、表示部11からの運転支援情報をウインドシールド20に反射する。このようなミラー13は、例えば凹面鏡である。ミラー13は複数設けられている場合があり、それらは第一ミラーや第二ミラーと呼ばれる。
【0065】
本実施形態の移動体300の内部において、投影装置10と遮熱フィルム1との両方を設けてもよい。この遮熱フィルム1は、投影装置10のカバー14とは別に設けられた部材であって、ダッシュボードの上面に設けられる。遮熱フィルム1は、ダッシュボードの一部であってもよく、ダッシュボードと別体であってもよい。遮熱フィルム1をダッシュボードの上面に設けることで、カバー14に設けられた遮熱フィルム以外の部材の性能と、遮熱フィルムの性能との複合的な性能を見出すことが可能となる。なお、遮熱フィルム1は、カバー14の前方で、かつウインドシールド20の下端付近に設けられる。
【0066】
<第2実施形態>
次に本実施形態に係る遮熱フィルム1について、
図3A~
図3Cを参照して説明する。以下の説明において、第1実施形態と重複する構成は、図面に同じ符号を付して、具体的な説明を省略する場合がある。
【0067】
遮熱フィルム1は、
図3A~
図3Cのように、赤外線吸収層2と、透明基材3と、1つ又は2つの反射防止層4とを備えていてもよい。赤外線吸収層2と透明基材3とは、積層体1Aを構成する。
【0068】
反射防止層4は、その表面に当たった光が反射することを防止する層である。
【0069】
遮熱フィルム1が1つの反射防止層4を備える場合、反射防止層4は、遮熱フィルム1の片面に重ねられている。
図3Aのような遮熱フィルム1の場合、積層体1Aの厚み方向で赤外線吸収層2と隣り合わない透明基材3の表面に反射防止層4が重なっている。このような遮熱フィルム1を投影装置10が備える場合、反射防止層4がミラー13と対向するため、ミラー13で反射した運転支援情報(可視光)が反射防止層4の表面で更に反射することを抑えることができる。これにより、可視光が遮熱フィルム1を透過する効率を向上させることができる。さらに、部材厚み方向の外側と内側の間での反射に起因した二重像対策としても効果がある。
【0070】
また、
図3Bのような遮熱フィルム1の場合、積層体1Aの厚み方向で透明基材3と隣り合わない赤外線吸収層2の表面に反射防止層4が重なっている。このような遮熱フィルム1を備える投影装置10を移動体300に搭載すると、反射防止層4がウインドシールド20と対向するため、ウインドシールド20を透過した自然光61が反射防止層4の表面で反射されにくくなる。このため、反射防止層4の表面で反射した自然光61が運転しているユーザ200の目に入ったり、虚像23が見えにくくなることを抑えることができる。
【0071】
また、
図3Cのように遮熱フィルム1が2つの反射防止層4を備える場合、反射防止層4は遮熱フィルム1の両面に重ねられている。このような遮熱フィルム1を備える投影装置10を移動体300に搭載すると、透明基材3と重なった反射防止層4がミラー13と対向するため、ミラー13で反射した運転支援情報(可視光)が反射防止層4の表面で更に反射することを抑えることができる。これにより、可視光が遮熱フィルム1を透過する効率を向上させることができる。加えて、赤外線吸収層2と重なった反射防止層4がウインドシールド20と対向するため、ウインドシールド20を透過した自然光61が反射防止層4の表面で反射されにくくなる。
【0072】
図3Bのように、遮熱フィルム1が片面に反射防止層4を有する場合、反射防止層4を有しない場合に比べて、遮熱フィルム1の反射防止層4側の面(貼り合わせ面)の光反射率を2%以下にでき、光透過率を4%以上向上させることができる。また、
図3Cのように、遮熱フィルム1が両面に反射防止層4を有する場合、反射防止層4を有しない場合に比べて、遮熱フィルム1の反射防止層4の表面の光反射率を1%以下にでき、光透過率を8%以上向上させることができる。これにより、例えば、HUDの光源の光の効率を8%上げることができる。少なくとも片面に反射防止層4を有する遮熱フィルム1は、二重像の防止効果がある。
【0073】
反射防止層4の厚みは、0.05μm以上0.15μm以下であることが好ましい。この場合、波長が550nm程度の光を反射防止層4の表面で反射させにくくできる。これにより、この光が反射防止層4の表面で僅かに反射しても、反射光はユーザ200により視認されにくくなる。反射防止層4の厚みは、0.08μm以上であることがより好ましい。また、反射防止層4の厚みは、0.12μm以下であることがより好ましい。特に好ましくは、反射防止層4の厚みは0.10μmである。
【0074】
反射防止層4は、低屈折率層4Aを備える。反射防止層4は低屈折率層4Aのみからなっていてもよく、低屈折率層4A以外の任意の層を備えてもよい。
【0075】
低屈折率層4Aは、屈折率が透明基材3の屈折率よりも低い層である。低屈折率層4Aは、バインダー材料を含有する組成物(例えば、コーティング剤)の硬化物である。バインダー材料自身が低屈折率である場合、バインダー材料単体で屈折率を調整することができるが、バインダー材料に低屈折率粒子を配合してもよい。
【0076】
バインダー材料としては、例えば、珪素アルコキシドの加水分解物、飽和炭化水素またはポリエーテルを主鎖として有するポリマー(紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂)等が挙げられる。また、これらポリマーの構成単位内にフッ素原子が含まれていてもよい。
【0077】
低屈折率粒子は、例えば、シリカ微粒子;並びにフッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、及びフッ化ナトリウム等のフッ化物微粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。シリカ微粒子には、中空シリカ微粒子を含むことが好ましい。
【0078】
低屈折率粒子は、バインダー材料と相溶しやすくするための表面処理が施されていてもよい。
【0079】
低屈折率層4Aを形成するにあたって、例えばロールコート法、スピンコート法、及びディップコート法等の任意の塗布方法を採用できる。そして、バインダー材料を含有する組成物の塗布後、この組成物を硬化させることにより低屈折率層4Aが得られる。
【0080】
低屈折率層4Aの屈折率は1.45以下であることが好ましい。低屈折率層4Aが空気と接する場合、低屈折率層4Aの屈折率が低くなるほど、空気の屈折率(1.0)に近づくため、反射防止層4の表面で光がより反射しにくくなる。この屈折率の下限は特に限定されないが、例えば、1.30以上である。低屈折率層4Aの屈折率が1.30以上であると、低屈折率層4Aの屈折率を高くする目的で低屈折率層4Aを多孔質にして密度を小さくしなくてもよくなるため、反射防止層4の機械強度を確保できる。なお、空気の屈折率を1.0とし、透明基材3の屈折率を1.65とした場合、低屈折率層4Aの理想的な屈折率は1.28であるが、この屈折率で規定された低屈折率層4Aは多孔質になりやすい。このため、低屈折率層4Aの密度が小さくなり、反射防止層4の機械強度も低下することが想定される。
【0081】
反射防止層4は、上記の通り、低屈折率層4A以外の層を更に備えてもよい。低屈折率層4A以外の層として、例えば、ハードコート層等が挙げられる。反射防止層4がハードコート層を備える場合、このハードコート層は反射防止層4の機械強度を向上させることができる。ハードコート層は、任意の組成及び製法で作製できる。
【0082】
<第3実施形態>
次に本実施形態に係る遮熱フィルム1を
図4A及び
図4Bを参照して説明する。以下の説明において、第1実施形態と重複する構成は、図面に同じ符号を付して、具体的な説明を省略する場合がある。
【0083】
遮熱フィルム1は、
図4A及び
図4Bのように、赤外線吸収層2と、透明基材3と、リタデーション値が6000nm以上であるポリエステルフィルム5とを備える。赤外線吸収層2と透明基材3とは、積層体1Aを構成する。このような遮熱フィルム1において、積層体1Aとポリエステルフィルム5を重ね合わせている。
【0084】
ポリエステルフィルム5は、例えば積層体1Aの片面に重ねられている。
図4Aのような遮熱フィルム1の場合、積層体1Aの厚み方向で赤外線吸収層2と隣り合わない透明基材3の表面にポリエステルフィルム5が重ねられている。
図4Bのような遮熱フィルム1の場合、積層体1Aの厚み方向で透明基材3と隣り合わない赤外線吸収層2の表面にポリエステルフィルム5が重ねられている。
【0085】
遮熱フィルム1がポリエステルフィルム5を備えることにより、表示部11から出射された直線偏光が、遮熱フィルム1を透過後に円偏光に変換される。そのため、投影される虚像23の虹ムラをポリエステルフィルム5で低減できる。また、投影される虚像23の直線偏光を偏光サングラス越しで見た場合、この画像にブラックアウトが生じやすいが、ポリエステルフィルム5はブラックアウトが生じることを抑えることができる。ここで、「ブラックアウト」とは、偏光サングラス越しで見る角度によって真っ暗になり画面が見えなくなる現象を意味する。さらに、表示部11から出射された表示光は通常S偏光成分となっているため、投影された虚像23を偏光サングラス越しで見た場合、S偏光成分が遮られることで輝度が低減し視認しにくくなるが、ポリエステルフィルム5を備えることで、視認性が向上する。ポリエステルフィルム5の厚みは、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0086】
ポリエステルフィルム5として、例えば、超複屈折率PETフィルムなどが使用可能であり、具体的には、東洋紡社製コスモシャインSRFが挙げられる。
【0087】
<第4実施形態>
次に本実施形態に係る遮熱フィルム1について、
図5を参照して説明する。以下の説明において、第1~3実施形態と重複する構成は、図面に同じ符号を付して、具体的な説明を省略する場合がある。
【0088】
遮熱フィルム1は、
図5のように、赤外線吸収層2と、透明基材3と、偏光層7とを備える。透明基材3は第1の透明基材310と、第2の透明基材320とを備える。赤外線吸収層2と第1の透明基材310とは、積層体1Aを構成する。偏光層7は第1の透明基材310と第2の透明基材320との間に位置している。偏光層7は、積層体1Aの厚み方向で赤外線吸収層2と隣り合わない第1の透明基材310の表面に、粘着層8を介して重ねられている。粘着層8は、第1の透明基材310の表面と偏光層7の表面とを粘着するために設けられている。粘着層8は第1の透明基材310と同程度の透明性があることが好ましく、例えば、アクリル系接着剤の乾燥物又は硬化物で形成することができる。また偏光層7は、積層体1Aの厚み方向で第2の透明基材320の表面に、粘着層9を介して重ねられている。粘着層9は、第2の透明基材320の表面と偏光層7の表面とを粘着するために設けられている。第2の透明基材320は、第1の透明基材310とは隣り合わない偏光層7の表面と粘着層9により粘着されている。粘着層9は粘着層8と同様に形成される。
【0089】
本実施形態に係る遮熱フィルム1は、第1~3実施形態の場合と同様に、赤外線吸収層2により、赤外線吸収性と、耐擦傷性と、防汚性とを有するものである。また偏光層7により、LCDなど、偏光を出射する画像形成装置の出射光波面と偏光層7の透過軸とが平行になるように、遮熱フィルム1を画像光出射窓に設置することで、画像形成装置からの出射光のほとんどを透過させることができ、画像の輝度は維持しつつ、入射する自然光61の内の可視光64で偏光層7の透過軸と平行でない成分を遮蔽することができて、遮熱フィルム本来の自然光61の内の赤外光62を透過させにくくすることで遮熱性能を有していることに加え、可視光64に対する遮熱性能も併せ持つ優れた効果を発揮するものである。
【0090】
偏光層7を有する遮熱フィルム1は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、ポリビニルアルコール(PVA)等の透明高分子フィルムに、二色性を有する水溶性染料やヨウ化カリウム-ヨウ素液等の色素を吸着させ、一軸方向に延伸させた後、乾燥して偏光素子(偏光層7)を作成する。次に、粘着層8及び9を形成する適当な接着剤(粘着剤も含む)を用いて、フィルム状の第1の透明基材310及びフィルム状の第2の透明基材320と上記偏光素子とを粘着し、第1の透明基材310と第2の透明基材320により上記偏光素子を挟持する。この後、第1実施形態と同様にして、第1の透明基材310の表面に赤外線吸収層2を形成して遮熱フィルム1とすることができる。また、第1の透明基材310の表面に赤外線吸収層2を形成した後、赤外線吸収層2が形成された第1の透明基材310を上記偏光素子と粘着するようにしてもよい。また、第1の透明基材310と第2の透明基材320の両方に赤外線吸収層2を有していても良い。
【0091】
第1の透明基材310と第2の透明基材320とは、各々、第1実施形態で説明した透明基材3を使用することができる。具体的には、例えば、第1の透明基材310は、PMMA層32とPC層31とを有する二層構造のものを使用することができる。また第2の透明基材320はPC層31で形成することができる。その他に、第1の透明基材310と第2の透明基材320とは、各々、ポリビニルアルコールフィルム、TACフィルム、COPフィルム、PCフィルムなどを使用しても良い。また遮熱フィルム1は、使用する色素によって、ヨウ素系偏光フィルム、染料系偏光フィルム、カラー偏光フィルム、ポリビニレン偏光フィルム、赤外偏光フィルム、紫外偏光フィルムなどとして形成することができる。
【0092】
偏光層7の厚みは、特に限定されないが、10μm以上150μm以下の範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、遮熱フィルム1の厚み(総厚み)が厚くなりすぎずに、偏光層7を備えることができる。偏光層7の厚みは、20μm以上130μm以下の範囲とすることがより好ましく、更に好ましくは、30μm以上110μm以下の範囲とすることができる。また上記偏光層7を有する遮熱フィルム1においても、上記と同様の反射防止層4やポリエステルフィルム5を備えていても良い。この場合、第2の透明基材320の表面(偏光層7に対向しない表面)に反射防止層4やポリエステルフィルム5が重ねられている。
【0093】
なお、本実施形態では、透明基材3が第1の透明基材310と第2の透明基材320からなる遮熱フィルム1を説明したが、これに限られない。すなわち、透明基材3は一層だけであってもよい。この場合、遮熱フィルム1は、赤外吸収層2と、透明基材3と、偏光層7を有している。そして、赤外吸収層2が透明基材3の一方の片面に設けられ、偏光層7が粘着層8を介して透明基材3のもう一方の片面に設けられて、遮熱フィルム1が形成される。
【0094】
<変形例>
上記の実施形態は、本開示を実施するための様々な形態の一つに過ぎない。上記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0095】
第2実施形態では反射防止層4は積層体1Aの片面又は両面に接しているが、変形例では反射防止層4と積層体1Aとの間にポリエステルフィルム5が設けられてもよい。具体的には、反射防止層4と赤外線吸収層2との間にポリエステルフィルム5が設けられてもよく、透明基材3と反射防止層4との間にポリエステルフィルム5が設けられてもよい。
【0096】
第2実施形態では低屈折率層4Aとハードコート層とを備える反射防止層4も説明したが、反射防止層4は低屈折率層4Aとハードコート層との2層構成に限定されない。変形例では反射防止層4の層構成は3層以上であってもよく、反射防止層4は表面ナノインプリント工法で得られるモスアイフィルムであってもよい。その場合、遮熱フィルム1に直接モスアイ加工を施しても良いし、モスアイ加工済みのモスアイフィルムを粘着剤等で貼り合わせしても良い。なお、「モスアイ」とは、数nm~100nm程度の直径を持った円錐状の形状で反射防止効果がある構造をいう。
【実施例】
【0097】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。
【0098】
<実施例及び比較例>
実施例及び比較例に用いられた成分及び部材を以下に示す。
【0099】
{透明部材}
・PCPMMA:ポリカーボネートを含有する層と、ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層とが重なった二層構造のフィルム状の積層物(厚み375μm~750μm)、
・PC:フィルム状のポリカーボネート(厚み300000nm=300μm)、
・COP:フィルム状のシクロオレフィンポリマー(厚み100000nm=100μm)、
・ガラス:ガラスフィルム(厚み1000000nm=1mm)、
・PET:フィルム状のポリエチレンテレフタレート(厚み250000nm=250μm)。
【0100】
{赤外吸収能を有する酸化物(A)}
・酸化物1:セシウム酸化タングステン(Cs
0.33
WO
3
;アクリル樹脂中に酸化物1を分散させた混合物の、波長550nmである光の透過率が80%で、かつ波長1000nmである光の透過率が20%であり、混合物に対する酸化物1の割合は30質量%である)。
・酸化物2:アンチモン酸化スズ(アクリル樹脂中に酸化物1を分散させた混合物の、波長550nmである光の透過率が72%で、かつ波長1000nmである光の透過率が55%であり、混合物に対する酸化物2の割合は30質量%である)。
【0101】
上記において、空気をブランク値とした。
【0102】
{フッ素を含有しないアクリル化合物(B)}
・6官能アクリレート:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学株式会社製のDPE6A)、
・6官能以外のアクリレート:ペンタエリスリトールテトラアクリレート(共栄社化学株式会社製のPE-4A)。
【0103】
{フッ素を含有するアクリル化合物(C)}
信越化学工業株式会社製の「KY-1207」。
【0104】
{光重合開始剤}
BASF社製の「Omnirad 127」。
【0105】
{反射防止層}
ハードコート層と低屈折率層とが重なった反射防止フィルム(厚み100μm、低屈折率層の屈折率が1.42;パナソニック株式会社製の「MUAR8」。
【0106】
{超複屈折率層}
リタデーション値が7900nmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製コスモシャインSRF、厚み80μm)。
【0107】
≪紫外線硬化性樹脂組成物の調製≫
後掲の表1~表3に示す割合の成分を混合することで、各実施例及び比較例の紫外線硬化性樹脂組成物を作製した。
【0108】
[実施例1~9]
まず、硬化後の厚みが5000nmとなるようにして透明基材の表面に紫外線硬化性樹脂組成物を塗布した。次に、透明基材上の紫外線硬化性樹脂組成物を紫外線の下で硬化させた。これにより、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である赤外線吸収層と透明基材とが重なったテストフィルムを得た。このテストフィルムを本実施例では遮熱フィルムとした。
【0109】
[実施例10]
まず、硬化後の厚みが5000nmとなるようにして透明基材の表面に紫外線硬化性樹脂組成物を塗布した。次に、透明基材上の紫外線硬化性樹脂組成物を紫外線の下で硬化させた。これにより、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である赤外線吸収層と透明基材とが重なった積層体を得た。その後、ハードコート層と低屈折率層とが重なった反射防止フィルムを用意した。そして、OCR(シリコーン系UV硬化型透明粘着剤)を用いて、透明基材の裏面に反射防止フィルム(反射防止層)を貼り合わせし、テストフィルムを得た。このテストフィルムを本実施例では遮熱フィルムとした。
【0110】
[実施例11]
赤外線吸収層とハードコート層とが隣り合うようにして反射防止フィルム(反射防止層)を積層体に配置した以外は、実施例10と同様にしてテストフィルムを得た。このテストフィルムを本実施例では遮熱フィルムとした。
【0111】
[実施例12]
まず、硬化後の厚みが5000nmとなるようにして透明基材の表面に紫外線硬化性樹脂組成物を塗布した。次に、透明基材上の紫外線硬化性樹脂組成物を紫外線の下で硬化させた。これにより、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である赤外線吸収層と透明基材とが重なった積層体を得た。その後、ハードコート層と低屈折率層とが重なった2つの反射防止フィルム(第1及び第2反射防止フィルム)を用意した。そして、透明基材とハードコート層とが隣り合うようにして第1反射防止フィルムをアクリル粘着剤で貼り合わせし、かつ赤外線吸収層とハードコート層とが隣り合うようにして第2反射防止フィルムをOCR(シリコーン系UV硬化型透明粘着剤)で貼り合わせした。これにより、テストフィルムを得た。このテストフィルムを本実施例では遮熱フィルムとした。
【0112】
[実施例13]
反射防止フィルムの代わりのリタデーション値が7900nmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いたこと以外は、実施例10と同様にして、積層体の片面に超複屈折率層が重なったテストフィルムを得た。このテストフィルムを本実施例では遮熱フィルムとした。
【0113】
[実施例14]
透明基材の厚みを375μmとし、その他は表3に記載の内容に従って、遮熱フィルムを作成した。
【0114】
[実施例15]
複合酸化物の配合量を25質量%とし、その他は表3に記載の内容に従って、遮熱フィルムを作成した。
【0115】
[実施例16]
複合酸化物の配合量を30質量%とし、その他は表3に記載の内容に従って、遮熱フィルムを作成した。
【0116】
[実施例17]
透明基材の厚みを450μmとし、且つ偏光層を透明基材の裏面(PC層の表面)に形成し、その他は表3に記載の内容に従って、遮熱フィルムを作成した。
【0117】
なお、偏光層はポラテクノ社製SHC-10Uの偏光板を使用して形成した。
【0118】
[実施例18]
透明基材の厚みを750μmとし、その他は表3に記載の内容に従って、遮熱フィルムを作成した。
【0119】
[実施例19]
赤外吸収層をPC層の表面とし、その他は表4に記載の内容に従って、遮熱フィルムを作成した。
【0120】
[比較例1]
透明基材だけを用意し、この透明基材をテストフィルムとした。
【0121】
[比較例2]
透明基材の上に偏光板(ポラテクノ社製SHC-10U)をアクリル粘着剤で貼付けすることで透明基材に偏光板が重なったテストフィルムを得た。
【0122】
[比較例3]
まず、硬化後の厚みが5000nmとなるようにして透明基材の表面に紫外線硬化性樹脂組成物を塗布した。次に、透明基材(PETフィルム)上の紫外線硬化性樹脂組成物を紫外線の下で硬化させた。これにより、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である赤外線吸収層と透明基材とが重なったテストフィルムを得た。
【0123】
[比較例4]
まず、硬化後の厚みが5000nmとなるようにして透明基材の表面に紫外線硬化性樹脂組成物を塗布した。この紫外線硬化性樹脂組成物には、フッ素を含有するアクリル化合物(C)が含まれていない。次に、透明基材上の紫外線硬化性樹脂組成物を紫外線の下で硬化させた。これにより、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物である赤外線吸収層と透明基材とが重なったテストフィルムを得た。
【0124】
なお、以下に、実施例1~19及び比較例1~4のテストフィルムの層構成と特徴点を示す。この層構成はテストフィルムの表面から裏面に向かって積層順に並んでいる。
【0125】
実施例1:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0126】
実施例2:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0127】
実施例3:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0128】
実施例4:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)、アクリル化合物(B)が6官能アクリレートを使用して形成されている。
【0129】
実施例5:赤外線吸収層/透明基材(PC層)、透明基材がPC層のみである。
【0130】
実施例6:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)、赤外線吸収層が複合酸化物を約90質量%含有している。
【0131】
実施例7:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)、複合酸化物がATOである。
【0132】
実施例8:赤外線吸収層/透明基材(COP層)、透明基材がCOP層のみである。
【0133】
実施例9:赤外線吸収層/透明基材(ガラス層)、透明基材がガラス層のみである。
【0134】
実施例10:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)/反射防止層。
【0135】
実施例11:反射防止層/赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0136】
実施例12:反射防止層/赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)/反射防止層。
【0137】
実施例13:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)/超複屈折フィルム。
【0138】
実施例14:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0139】
実施例15:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0140】
実施例16:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0141】
実施例17:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)/偏光層。
【0142】
実施例18:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0143】
実施例19:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。
【0144】
比較例1:透明基材(PC層)のみ。
【0145】
比較例2:偏光板/PC層
比較例3:赤外線吸収層/透明基材(PET層)/PC層、リタデーション値が4000nmのPETフィルムを透明基材に使用。
【0146】
比較例4:赤外線吸収層/透明基材(PMMA層+PC層)。フッ素を含有するアクリル化合物(C)が含まれていない紫外線硬化性樹脂組成物を使用した。
【0147】
≪評価≫
各実施例及び比較例のテストフィルムを下記の試験項目ごとに評価した。この評価結果を後掲の表1~表4に示す。
【0148】
<赤外線透過率>
まず、各実施例及び比較例のテストフィルムを紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製UH4150)内に設置した。その際、赤外線吸収層2の面が光源に向くようにしてテストフィルムを設置した。この設置後、テストフィルムに800~2500nmにおける全波長の赤外線を照射した。そして、テストフィルムを透過した赤外線の強度を、テストフィルムに照射した赤外線の強度で割ることで各波長の透過率を算出し、この透過率の平均値を赤外線透過率とした。なお、比較例1では透明基材に赤外線を直接照射し、比較例2では偏光板の面が光源に向くようにしてテストフィルムを設置した。
【0149】
<全光線透過率>
まず、各実施例及び比較例のテストフィルムをヘイズメーター(日本電色工業社製NDH4000)内に設置した。その際、赤外線吸収層2の面が光源に向くようにしてテストフィルムを設置した。この設置後、JIS K 7361に準拠して、全光線透過率を算出した。なお、比較例1では透明基材に可視光を直接照射し、比較例2では偏光板の面が光源に向くようにしてテストフィルムを設置した。
【0150】
<温度上昇>
内部空間(体積1000cm3)と、この内部空間に連通する開口部とを有するケースを用意した。そして、この開口部を表面にテストフィルムを貼り付けて閉じた。テストフィルムを貼り付ける際、透明基材と赤外線吸収層とをこの順で並ばせてテストフィルムの表面を露出させた。ケースの開口部をテストフィルムで閉じた後、内部空間の温度を測定した。この温度を試験前温度とした。次に、レンズに白熱電球(パナソニック株式会社製RF100V54WD)60W型200ルクスを用いて45分間照射した。そして、赤外線照射が終了した直後の内部空間の温度を測定した。この温度を試験後温度とした。試験後温度と試験前温度との差を温度上昇とした。なお、テストフィルムを貼り付ける際、比較例1では透明基材の表面を露出させ、比較例2では偏光板の表面を露出させた。
【0151】
<耐擦傷性>
テストフィルムの表面の耐擦傷性を、スチールウール磨耗試験により評価した。試験装置として表面性測定機(新東科学株式会社製のType14DR)を用い、スチールウールを、100g/cm2の荷重をかけながら、速度3000mm/minの条件で10往復した後、テストフィルムの表面のキズの有無を目視確認した。スチールウールは日本スチールウール株式会社製の#0000を使用した。
【0152】
<耐衝撃性>
テストフィルムの耐衝撃性は、JISK5600-5-3に準拠して評価した。そして、テストフィルムにおける亀裂の有無を目視確認した。テストフィルムに、亀裂がない場合をA、亀裂がある場合をBとした。
【0153】
<鉛筆硬度>
テストフィルムの鉛筆硬度をJIS K 5600-5-4(引っかき硬度)に基づいて評価した。
【0154】
<水接触角>
テストフィルムの表面に水滴を滴下し、この表面と水滴との接触角を測定した。
【0155】
<防汚性(指紋拭き取り性)>
テストフィルムにおいて赤外線吸収層の表面に指紋を付着させた直後に、この表面をBEMCOT-M(旭化成株式会社製)で10往復撫でた。そして、撫でた部分にセロハン粘着テープ(ニチバン株式会社製の「CT24」)を貼り付けてから、このセロハン粘着テープを剥がした。その後、テストフィルムの表面との距離が40cmの位置で、セロハン粘着テープを剥がした部分を目視確認することで、テストフィルムの表面の防汚性を評価した。セロハン粘着テープを剥がした部分に、汚れがない場合をA、汚れがある場合をBとした。
【0156】
なお、実施例11及び12では反射防止層の表面に指紋を付着させ、比較例1では透明基材の表面に指紋を付着させ、比較例2では偏光板の表面に指紋を付着させた。
【0157】
<防汚性(塩水拭き取り性)>
テストフィルムにおいて赤外線吸収層の表面に塩水を滴下した。塩水の滴下直後に、この表面をBEMCOT-M(旭化成株式会社製)で10回撫でた。次に、テストフィルムの表面を乾燥させた。この乾燥により、テストフィルムの表面で塩が析出しているか否かを目視確認することで、テストフィルムの表面の防汚性を評価した。テストフィルムの表面に、塩の析出がない場合をA、塩の析出がある場合をBとした。
【0158】
なお、実施例11及び12では反射防止層の表面に塩水を滴下し、比較例1では透明基材の表面に塩水を滴下し、比較例2では偏光板の表面に塩水を滴下した。
【0159】
<虹ムラ発生の有無>
テストフィルムを液晶画面の上に設置し、偏光サングラス越しで見ることで、テストフィルムに虹ムラが発生しているか否かを評価した。テストフィルムに、虹ムラが発生していない場合をA、虹ムラが発生している場合をBとした。
【0160】
<ブラックアウト発生の有無>
テストフィルムを液晶画面の上に設置し、偏光サングラス越しで見たとき、テストフィルムを見る角度によってブラックアウト現象(テストフィルムが真っ暗になる現象)が発生するか否かを評価した。テストフィルムに、ブラックアウト現象が発生していない場合をA、ブラックアウト現象が発生している場合をBとした。
【0161】
<二重像>
テストフィルムと平面ミラーをこの順に液晶画面の上に設置し、平面ミラーに映った虚像をカメラを用いて観察することで、二重像を評価した。二重像が発生していない場合をS、二重像が発生しているが程度が良い場合をA、二重像が発生しており程度が悪い場合をBとした。
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【符号の説明】
【0166】
1 遮熱フィルム
2 赤外線吸収層
3 透明基材