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特許7241325三次元形状造形物の製造方法、三次元形状造形物、および三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】三次元形状造形物の製造方法、三次元形状造形物、および三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/28 20210101AFI20230310BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20230310BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230310BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20230310BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230310BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230310BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230310BHJP
【FI】
B22F10/28
B22F1/14 600
B22F1/00 S
B22F10/34
B33Y80/00
B33Y70/00
B33Y10/00
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021545575
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2020034145
(87)【国際公開番号】W WO2021049538
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2019164418
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】中島 功康
(72)【発明者】
【氏名】中村 暁史
(72)【発明者】
【氏名】野村 直之
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054139(JP,A)
【文献】特開2006-097124(JP,A)
【文献】特開2019-060006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 33/02
B33Y 10/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末への光ビームの照射により複数の固化層を逐次形成して、三次元形状造形物を製造するための方法であって、
前記粉末として、少なくとも、表面が酸化処理された酸化粉末を用い、
前記酸化粉末が、メイン成分と該メイン成分よりも相対的に酸化物を生成しやすいサブ成分とを含んで成
前記メイン成分と前記サブ成分は、金属元素を含み、
前記酸化粉末全体に占める前記サブ成分の含有割合は、0.1質量%~10質量%である、製造方法。
【請求項2】
前記表面に前記メイン成分の酸化物と前記サブ成分の酸化物を含む前記酸化粉末を用いる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記表面に前記酸化物がリッチな層が存在する前記酸化粉末を用いる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記光ビームの照射の際にて、前記酸化粉末の前記サブ成分が前記メイン成分よりも相対的に酸化しやすくなっている、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸化粉末は、表面の前記酸化処理に起因して酸素を含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸化粉末に含まれる前記サブ成分と前記酸素とにより、製造する前記三次元形状造形物の少なくとも内部領域に、該サブ成分の酸化物が点在可能となるように、前記酸化粉末への前記光ビームの照射を実施する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸化粉末の前記メイン成分が50質量%以上のFe系成分を含んで成る、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸化粉末の前記サブ成分が、前記メイン成分に含まれる元素よりも酸化物の生成自由エネルギーが低い元素を含んで成る、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記酸化粉末の前記サブ成分が、Al、Y、Zr、Mn、Hf、Ti、TaおよびSiから構成される群から選択される少なくとも1種の元素を含んで成る、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
粉末床溶融結合法により前記固化層を形成する、請求項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
指向性エネルギー堆積法により前記固化層を形成する、請求項1~10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
三次元形状造形物であって、
メイン成分から構成される基部と、該メイン成分よりも相対的に酸化しやすいサブ成分の酸化物とを含んで成り、
前記メイン成分と前記サブ成分は、金属元素を含み、
前記三次元形状造形物に占める前記サブ成分の含有割合は、0.1質量%~10質量%であり、
前記サブ成分の前記酸化物が、前記基部の内部領域に点在しており、かつ前記基部の表面領域の一部に生成されている、三次元形状造形物。
【請求項13】
前記サブ成分の前記酸化物が、前記表面領域にて層形態を成すように生成されている、請求項12に記載の三次元形状造形物。
【請求項14】
前記サブ成分の前記酸化物が、前記表面領域にて露出するように生成されている、請求項12又は13に記載の三次元形状造形物。
【請求項15】
前記サブ成分の前記酸化物が前記内部領域にて粒子形態をなすように点在しており、該粒子形態をなす前記サブ成分の前記酸化物がナノメートルサイズを有する、請求項12~14のいずれかに記載の三次元形状造形物。
【請求項16】
前記粒子形態をなす前記サブ成分の前記酸化物の大きさが、10nm~500nmである、請求項15に記載の三次元形状造形物。
【請求項17】
三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末であって、
表面が酸化処理されており、メイン成分と該メイン成分よりも相対的に酸化物を生成しやすいサブ成分とを含んで成り、
前記メイン成分と前記サブ成分は、金属元素を含み、
前記酸化粉末全体に占める前記サブ成分の含有割合は、0.1質量%~10質量%であり、
前記表面に前記メイン成分の酸化物と前記サブ成分の酸化物が形成されている、
酸化粉末。
【請求項18】
前記酸化物がリッチな層が前記表面に存在する、請求項17に記載の酸化粉末。
【請求項19】
表面の前記酸化処理に起因して酸素が含まれる、請求項17又は18に記載の酸化粉末。
【請求項20】
前記サブ成分と前記酸素とにより、製造される前記三次元形状造形物の少なくとも内部領域に、該サブ成分の酸化物が点在可能となっている、請求項19に記載の酸化粉末。
【請求項21】
前記メイン成分が50質量%以上のFe系成分を含んで成る、請求項17~20のいずれかに記載の酸化粉末。
【請求項22】
前記サブ成分が、前記メイン成分に含まれる元素よりも酸化物の生成自由エネルギーが低い元素を含んで成る、請求項17~21のいずれかに記載の酸化粉末。
【請求項23】
前記サブ成分が、Al、Y、Zr、Mn、Hf、Ti、TaおよびSiから構成される群から選択される少なくとも1種の元素を含んで成る、請求項22に記載の酸化粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状造形物の製造方法、三次元形状造形物、および三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
光ビームを粉末材料に照射することを通じて三次元形状造形物を製造する方法(一般的には「粉末床溶融結合法」と称される)は、従来より知られている。かかる方法は、以下の工程(i)および(ii)に基づいて粉末層形成と固体層形成とを交互に繰り返し実施して三次元形状造形物を製造する。
(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射し、かかる所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程。
(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、同様に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程。
【0003】
このような製造技術に従えば、複雑な三次元形状造形物を短時間で製造することが可能となる。粉末材料として無機質の金属粉末を用いる場合、得られる三次元形状造形物を金型として使用することができる。一方、粉末材料として有機質の樹脂粉末を用いる場合、得られる三次元形状造形物を各種モデルとして使用することができる。
【0004】
粉末材料として金属粉末を用い、それによって得られる三次元形状造形物を金型として使用する場合を例にとる。図9に示すように、まず、スキージング・ブレード23を動かして造形プレート21上に所定厚みの粉末層22を形成する(図9(a)参照)。次いで、粉末層22の所定箇所に光ビームLを照射して粉末層22から固化層24を形成する(図9(b)参照)。引き続いて、得られた固化層24の上に新たな粉末層22を形成して再度光ビームを照射して新たな固化層24を形成する。このようにして粉末層形成と固化層形成とを交互に繰り返し実施すると固化層24が積層することになり(図9(c)参照)、最終的には積層化した固化層24から成る三次元形状造形物を得ることができる。最下層として形成される固化層24は造形プレート21と結合した状態になるので、三次元形状造形物と造形プレート21とは一体化物を成すことになり、その一体化物を金型として使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表平1-502890号公報
【文献】特開2019-108570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、光ビームを粉末材料に照射することを通じて三次元形状造形物を製造する場合において、得られる三次元形状造形物の機械的強度に異方性が生じ得る。この場合、三次元形状造形物の所定方向における機械的強度は、造形物の用途に応じて個々に要求され得る任意の強度基準を満たし得る。一方、三次元形状造形物の所定方向とは異なる方向における機械強度は当該任意の強度基準を満たさないおそれがある。そのため、全体として、得られる三次元形状造形物を任意の用途にて好適に用いることができないおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものである。すなわち、本発明の目的は、得られる三次元形状造形物の機械的強度を好適に向上させることが可能な三次元形状造形物の製造方法、当該製造方法から得られる三次元形状造形物、および三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
粉末への光ビームの照射により複数の固化層を逐次形成して、三次元形状造形物を製造するための方法であって、
前記粉末として、少なくとも、表面が酸化処理された酸化粉末を用い、
前記酸化粉末が、メイン成分と該メイン成分よりも相対的に酸化物を生成しやすいサブ成分とを含んで成る、製造方法が提供される。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
三次元形状造形物であって、
メイン成分から構成される基部と、該メイン成分よりも相対的に酸化しやすいサブ成分の酸化物とを含んで成り、
前記サブ成分の前記酸化物が、前記基部の内部領域に点在しており、かつ前記基部の表面領域の一部に生成されている、三次元形状造形物が提供される。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末であって、
表面が酸化処理されており、メイン成分と該メイン成分よりも相対的に酸化物を生成しやすいサブ成分とを含んで成る、酸化粉末が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に従えば、得られる三次元形状造形物の機械的強度を好適に向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末を模式的に示す断面図。
図2】当業者の技術常識を説明するための模式図。
図3】本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物の製造方法を模式的に示す断面図。
図4】本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物の製造方法を模式的に示す断面図(図4(a)光ビーム照射時、図4(b)メルト部分形成時、図4(c)新たな粉末の配置時、図4(d)三次元形状造形物の形成時)。
図5】粉末床溶融結合法により三次元形状造形物を製造する態様を模式的に示す断面図(図5(a)光ビーム照射時、図5(b)三次元形状造形物の形成時)。
図6】指向性エネルギー堆積法により三次元形状造形物を製造する態様を模式的に示す断面図(図6(a)光ビーム照射時、図6(b)三次元形状造形物の形成時)。
図7】本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物を模式的に示す斜視図。
図8】本発明の別の実施形態に係る三次元形状造形物の製造方法を模式的に示す断面図(図8(a)光ビーム照射時、図8(b)三次元形状造形物の形成時)。
図9】粉末床溶融結合法が実施される光造形複合加工のプロセス態様を模式的に示した断面図(図9(a):粉末層形成時、図9(b):固化層形成時、図9(c):積層途中)
図10】光造形複合加工機の構成を模式的に示した斜視図
図11】光造形複合加工機の一般的な動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照して本発明の一実施形態をより詳細に説明する。図面における各種要素の形態および寸法は、あくまでも例示にすぎず、実際の形態および寸法を反映するものではない。
【0014】
本明細書において「粉末層」とは、例えば「金属粉末から成る金属粉末層」または「樹脂粉末から成る樹脂粉末層」を意味している。また「粉末層の所定箇所」とは、製造される三次元形状造形物の領域を実質的に指している。従って、かかる所定箇所に存在する粉末に対して光ビームを照射することによって、その粉末が焼結又は溶融固化して三次元形状造形物を構成することになる。更に「固化層」とは、粉末層が金属粉末層である場合には「焼結層」を意味し、粉末層が樹脂粉末層である場合には「硬化層」を意味している。
【0015】
また、本明細書で直接的または間接的に説明される“上下”の方向は、例えば造形プレートと三次元形状造形物との位置関係に基づく方向であって、造形プレートを基準にして三次元形状造形物が製造される側を「上方向」とし、その反対側を「下方向」とする。
【0016】
[粉末床溶融結合法]
まず、本発明の一実施形態に係る製造方法にて用いられる1つである粉末床溶融結合法について説明する。特に粉末床溶融結合法において三次元形状造形物の切削処理を付加的に行う光造形複合加工を例として挙げる。図9は、光造形複合加工のプロセス態様を模式的に示しており、図10および図11は、粉末床溶融結合法と切削処理とを実施できる光造形複合加工機の主たる構成および動作のフローチャートをそれぞれ示している。
【0017】
光造形複合加工機1は、図10に示すように、粉末層形成手段2、光ビーム照射手段3および切削手段4を備えている。
【0018】
粉末層形成手段2は、金属粉末または樹脂粉末などの粉末を所定厚みで敷くことによって粉末層を形成するための手段である。光ビーム照射手段3は、粉末層の所定箇所に光ビームLを照射するための手段である。切削手段4は、積層化した固化層の側面、すなわち、三次元形状造形物の表面を削るための手段である。
【0019】
粉末層形成手段2は、図9に示すように、粉末テーブル25、スキージング・ブレード23、造形テーブル20および造形プレート21を主に有して成る。粉末テーブル25は、外周が壁26で囲まれた粉末材料タンク28内にて上下に昇降できるテーブルである。スキージング・ブレード23は、粉末テーブル25上の粉末19を造形テーブル20上へと供して粉末層22を得るべく水平方向に移動できるブレードである。造形テーブル20は、外周が壁27で囲まれた造形タンク29内にて上下に昇降できるテーブルである。そして、造形プレート21は、造形テーブル20上に配され、三次元形状造形物の土台となるプレートである。
【0020】
光ビーム照射手段3は、図10に示すように、光ビーム発振器30およびガルバノミラー31を主に有して成る。光ビーム発振器30は、光ビームLを発する機器である。ガルバノミラー31は、発せられた光ビームLを粉末層22にスキャニングする手段、すなわち、光ビームLの走査手段である。
【0021】
切削手段4は、図10に示すように、切削工具40(エンドミル)および駆動機構41を主に有して成る。エンドミルは、積層化した固化層の側面、すなわち、三次元形状造形物の表面を削るための切削工具である。駆動機構41は、切削工具40を所望の切削すべき箇所へと移動させる手段である。
【0022】
光造形複合加工機1の動作について詳述する。光造形複合加工機1の動作は、図11のフローチャートに示すように、粉末層形成ステップ(S1)、固化層形成ステップ(S2)および切削ステップ(S3)から構成されている。粉末層形成ステップ(S1)は、粉末層22を形成するためのステップである。かかる粉末層形成ステップ(S1)では、まず造形テーブル20をΔt下げ(S11)、造形プレート21の上面と造形タンク29の上端面とのレベル差がΔtとなるようにする。次いで、粉末テーブル25をΔt上げた後、図9(a)に示すようにスキージング・ブレード23を粉末材料タンク28から造形タンク29に向かって水平方向に移動させる。これによって、粉末テーブル25に配されていた粉末19を造形プレート21上へと移送させることができ(S12)、粉末層22の形成が行われる(S13)。粉末層22を形成するための粉末材料としては、例えば「平均粒径5μm~100μm程度の金属粉末」および「平均粒径30μm~100μm程度のナイロン、ポリプロピレンまたはABS等の樹脂粉末」を挙げることができる。粉末層22が形成されたら、固化層形成ステップ(S2)へと移行する。固化層形成ステップ(S2)は、光ビーム照射によって固化層24を形成するステップである。かかる固化層形成ステップ(S2)においては、光ビーム発振器30から光ビームLを発し(S21)、ガルバノミラー31によって粉末層22上の所定箇所へと光ビームLをスキャニングする(S22)。これによって、粉末層22の所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させ、図9(b)に示すように固化層24を形成する(S23)。光ビームLとしては、炭酸ガスレーザ、Nd:YAGレーザ、ファイバレーザ、ダイレクトダイオードレーザ(DDL)、または紫外線などを用いてよい。
【0023】
粉末層形成ステップ(S1)および固化層形成ステップ(S2)は、交互に繰り返して実施する。これにより、図9(c)に示すように複数の固化層24が積層化する。
【0024】
積層化した固化層24が所定厚みに達すると(S24)、切削ステップ(S3)へと移行する。切削ステップ(S3)は、積層化した固化層24の側面、すなわち、三次元形状造形物の表面を削るためのステップである。切削工具40(図9(c)および図10参照)を駆動させることによって切削ステップが開始される(S31)。具体的には駆動機構41によって切削工具40を移動させながら、積層化した固化層24の側面に対して切削処理を施すことになる(S32)。このような切削ステップ(S3)の最終では、所望の三次元形状造形物が得られているか否かを判断する(S33)。所望の三次元形状造形物が依然得られていない場合では、粉末層形成ステップ(S1)へと戻る。以降、粉末層形成ステップ(S1)~切削ステップ(S3)を繰り返し実施して更なる固化層の積層化および切削処理を実施することによって、最終的に所望の三次元形状造形物が得られる。
【0025】
[指向性エネルギー堆積法]
本発明の一実施形態に係る製造方法では、粉末床溶融結合法に限定されることなく指向性エネルギー堆積法が用いられてよい。当該指向性エネルギー堆積法は、原料供給と光ビーム照射とを実質的に同時に行って固化層を形成する方式である。粉末床溶融結合法との対比でいうと、指向性エネルギー堆積法は、固化層を得るに際して粉末層形成を行わないといった特徴を有する。指向性エネルギー堆積法における原料としては、粉末または溶加材を用いてよい。つまり、指向性エネルギー堆積法では、原料供給箇所に光ビームが照射されると共に、その原料供給箇所に対して粉末または溶加材が直接的に供給されることを通じて、その供給される粉末または溶加材から固化層を形成する。
【0026】
例えば粉末が用いられる場合、供給された粉末を光ビーム照射によって焼結又は溶融固化させて粉末から固化層を直接的に形成する。好ましくは、光ビーム照射の光ビームLの集光部(すなわち、原料供給箇所となる光ビームの照射部分)に対して粉末を噴霧供給し、それによって、粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する。粉末の噴霧供給のために、粉末供給ノズルを用いてよい。指向性エネルギー堆積法で用いる粉末の種類は、粉末床溶融結合法で用いる粉末の種類と同じであってよい。すなわち、指向性エネルギー堆積法における粉末は、粉末床溶融結合法の粉末層を構成する粉末を用いてもよい。
【0027】
[本発明の特徴部分]
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0028】
1.三次元形状造形物の製造のために用いられる粉末
本願発明者らは、得られる三次元形状造形物の機械的強度を好適に向上させることが可能とするための解決策について鋭意検討した。その結果、本願発明者らは、下記特徴を有する粉末を用いる場合に、最終的に得られる三次元形状造形物が特異な構成となり得ることを新たに見出した(図1参照)。
【0029】
具体的には、本発明の一実施形態では、三次元形状造形物の製造のために用いられる粉末は酸化粉末19Aであり得る。特に、本発明の一実施形態では、当該酸化粉末19Aがメイン成分19Aとサブ成分19Aとを含んで成り、サブ成分19Aがメイン成分19Aよりも相対的に酸化物を生成しやすくなっている。
【0030】
なお、本明細書でいう「酸化粉末」とは、広義には酸化処理された粉末又は酸化された粉末を指し、狭義には表面が酸化処理された粉末又は表面が酸化された粉末を指す。更に、本明細書でいう「酸化粉末」とは、上記メイン成分およびサブ成分の両成分を含む単体形態であってもよく、メイン成分を含むメイン粉末とサブ成分を含むサブ粉末との集合体又は混合体の形態であってもよい。本明細書でいう「メイン成分」とは、広義には酸化粉末を構成する主たる成分であって、サブ成分よりも相対的に含有割合が高いものを指す。本明細書でいう「メイン成分」とは、狭義には酸化粉末を構成する主たる成分であって、全体に占める含有割合が質量基準で90%~99.9%であるものを指す。
【0031】
又、本明細書でいう「サブ成分」とは、広義には酸化粉末を構成する従たる成分であって、メイン成分よりも相対的に含有割合が低いものを指す。本明細書でいう「サブ成分」とは、狭義には酸化粉末を構成する従たる成分であって、全体に占める含有割合が質量基準で0.1%~10%であるものを指す。
【0032】
本発明の一実施形態では、酸化粉末19Aのメイン成分19Aは、少なくとも50質量%以上のFe系成分を含み得る。これに限定されることなく、酸化粉末19Aのメイン成分19Aは、Fe系成分のみならず例えばCr系成分、Ni系成分を更に含んで成ってよい。特に限定されるものではないが、酸化粉末19Aのメイン成分19Aは、0質量%以上50質量%未満のCr系成分および/またはNi系成分を含み得る。
【0033】
上述のように、酸化粉末19Aのサブ成分19Aはメイン成分19Aよりも相対的に酸化物を生成しやすくなっているものであるところ、当該サブ成分19Aの一例は、Al、Y、Zr、Mn、Hf、Ti、TaおよびSiから構成される群から選択される少なくとも1種の元素を含むものであってよい。なお、サブ成分19Aの特徴である「メイン成分19Aよりも相対的に酸化物を生成しやすくなっている」とは、サブ成分19Aが金属元素を含む場合、酸化物生成の自由エネルギーがメイン成分19Aの構成元素よりも小さいものを指すと解することができ得る。
【0034】
又、上述のように、酸化粉末19Aは粉末に酸化処理された表面を有する。酸化処理の方法としては、一例として、高温炉内で粉末床溶融結合法および/または指向性エネルギー堆積法で通常用いられる金属粉末を熱処理して強制的に当該粉末を酸化させる態様が挙げられる。酸化処理前の金属粉末としては、特に限定されるものではないが、例えばメイン成分としてFe系、Cr系成分、およびNi系成分等を含み、サブ成分としてSi系成分を含むSUS316L(平均粒径:30μm)を用いることができる。熱処理条件としては、上記金属粉末を炉内(炉内雰囲気:大気)にて500度で2時間処理することが望ましい。かかる熱処理に伴う金属粉末の強制酸化により、酸化粉末19Aが得られる。ここで特筆すべき点は、この酸化粉末19Aの表面には、酸化処理に起因して酸化物がリッチな層、即ち酸化物が相対的に多い層19Aが存在することである。具体的には、酸化粉末19Aの表面には、メイン成分19A由来の酸化物およびサブ成分19A由来の酸化物がリッチな層、即ちこれら酸化物が相対的に多い層19Aが形成されている。これにより、酸化粉末19Aの表面には、当該酸化処理に起因して酸素成分が含まれ得る。
【0035】
以上の事からも、本発明の一実施形態では、三次元形状造形物の製造のために用いられる粉末(具体的には酸化粉末19A)として、(1)メイン成分19Aに加えて、メイン成分19Aよりも相対的に酸化物を生成しやすいサブ成分19Aが意図して更に含まれ、かつ(2)表面の酸化処理に起因して酸素成分が意図して含まれるものを用いる点に特徴を有する。
【0036】
(当業者の技術常識)
なお、積層造形分野における当業者の技術常識によれば、以下のとおり解釈され得る(図2参照)。
【0037】
具体的には、従来の粉末19’は、最終的に得られる三次元形状造形物100’の基部(メインボディ部)を構成する成分又は材料から成ることが一般的である。この状況下で、当業者は、意図して積極的にこの従来の粉末19’の表面を酸化処理することを考えることは容易ではない。
【0038】
その理由は以下のとおりである。従来の粉末19’には、三次元形状造形物100’の基部の構成材料又は構成成分として、Fe系成分が主として含まれ得る。Fe系成分を主として含む従来の粉末19’の表面が酸化処理されると、当該粉末19’は酸素成分を含むこととなる。そのため、三次元形状造形物100’の製造途中において、従来の粉末19’に含まれる主成分19α’であるFe系成分と酸素成分とが結びつき、主成分19α’自体よりも相対的に強度が低い酸化鉄が生成されるおそれがある。
【0039】
以上の事から、当業者は、最終的に得られる三次元形状造形物100’が意図しない酸化物を含むおそれがあり、三次元形状造形物100’の強度がかえって低下するおそれがあると考えることが通常である。それ故、上記のとおり、当業者は従来の粉末19’の表面を意図して積極的に酸化処理することを考えることは容易ではない。
【0040】
又、従前の態様としては、本発明でいうメイン成分およびサブ成分に相当する成分を有する第1の粉末と、当該第1の粉末の表面に担持された第2の粉末と、からなる混合粉末を用いる態様がある(特許文献2参照)。この第2の粉末は、本発明でいうメイン成分に相当する成分(Fe)の酸化物を含むものである。かかる従前の態様では、レーザー等を用いて混合粉末を溶融させる際に、第2粉末の不安定な酸化物に含まれる酸素がメイン成分に相当する成分からなる母相の結晶粒内に固相拡散し、固相拡散した酸素がサブ成分に相当する成分と反応することでサブ成分の酸化物が形成される。
【0041】
これに対して、本発明の酸化粉末は、上記の混合粉末と比べて、メイン成分およびサブ成分に相当する成分を有する第1の粉末の表面が酸化処理されたものに相当し、第2の粉末を含まない点で相違する。
【0042】
後述するように、サブ成分の酸化物が最終的に得られる造形物の強度向上に資する。この点につき、従前の態様では、造形物の強度向上に資するサブ成分の酸化物の形成原料となる酸素は、本発明でいうメイン成分に相当する成分(Fe)の酸化物に含まれるものである。これに対して、本発明では、造形物の強度向上に資するサブ成分の酸化物の形成原料となる酸素は、表面酸化処理に伴い、酸化粉末19Aの表面に含まれるメイン成分19A由来の酸化物およびサブ成分19A由来の酸化物に含まれるものである。
【0043】
以上の事から、従前の態様では、造形物の強度向上に資するサブ成分の酸化物の形成原料となる酸素を、「メイン成分およびサブ成分に相当する成分を有する」第1の粉末と混合する「メイン成分に相当する成分(Fe)の酸化物を含む」第2粉末を別途用意することで調達している。これに対して、本発明の酸化粉末では、造形物の強度向上に資するサブ成分の酸化物の形成原料となる酸素を、上記のような第2粉末を別途用意することなく、「メイン成分およびサブ成分を有する」粉末(上記従前の第1粉末に相当)自体の表面を表面酸化処理することで、メイン成分19A由来の酸化物およびサブ成分19A由来の酸化物から調達している。この点で、本発明と従前の態様とでは、造形物の強度向上に資するサブ成分の酸化物の形成原料となる酸素の調達アプローチがそもそも異なっている。
【0044】
2.本発明の三次元形状造形物の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物の製造方法について説明する。本発明の一実施形態に係る製造方法は、粉末床溶融結合法および指向性エネルギー堆積法の少なくとも一方が用いられることを前提とする。すなわち、以下で述べる本発明の一実施形態に係る製造方法は、粉末への光ビームの照射により複数の固化層を逐次形成して、三次元形状造形物を製造することを前提とする(図3参照)。
【0045】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、光ビームLを照射する粉末として、少なくとも上記の酸化粉末19Aを用いることを特徴とする。当該酸化粉末19Aは、上記のとおり、酸化処理された表面を有し、かつメイン成分19Aと当該メイン成分19Aよりも相対的に酸化物を生成しやすいサブ成分19Aとを含んで成る。
【0046】
以下、本発明の一実施形態に係る製造方法について、具体的に説明する(図4参照)。なお、図4では、積層方向に沿って2つの固化層から構成される三次元形状造形物を製造することを前提とする。
【0047】
(a)造形プレート21上への酸化粉末19Aの供給および酸化粉末19Aへの光ビーム照射工程(図4(a)、図5(a)および図6(a)参照)
まず、造形プレート21上に酸化粉末19Aを供給し、当該酸化粉末19Aへの光ビームLの照射を実施する。光ビームLの照射態様としては、上述のように粉末床溶融結合法を用いてもよいし、指向性エネルギー堆積法を用いてもよい。
【0048】
(b)メルト部分50の形成工程(図4(b)参照)
上記の光ビームLの照射により、酸化粉b19Aが溶融し、これに起因してメルト部分50を形成する。
【0049】
上記のとおり、酸化粉末19Aは、(1)メイン成分19Aと、メイン成分19Aよりも相対的に酸化物を生成しやすい(すなわち、相対的に酸化しやすい)サブ成分19Aとを含み、かつ(2)表面の酸化処理に起因して酸素成分を含むことを特徴とする。
【0050】
そのため、当該特徴を有する酸化粉末19Aに対して光ビームLを照射すると(図4(a)参照)、酸化粉末19Aの光吸収により光エネルギーから変換された熱により、酸化粉末19Aの温度が上昇して、酸化粉末19Aが溶融する。これと同時に、サブ成分19Aが酸化粉末19Aに含まれる上記酸素成分と結びついてサブ成分の酸化物を生成する。かかる酸化物の生成は、上記のとおりサブ成分19Aがメイン成分19Aよりも相対的に酸化物を生成しやすいことに起因する。なお、サブ成分の酸化物の大部分は、主としてメイン成分を含むメルト部分50の上面領域側へと移動する。この時、サブ成分の酸化物の全てがメルト部分50の上面領域に移動するのではなく、その一部がメルト部分50の内部領域に残存する(図4(b)参照)。
【0051】
この状態で、残存したサブ成分の酸化物が熱に対して安定して存在し得ることで、メルト部分50が固化して得られる第1の固化層24A内に点在するサブ成分由来の酸化物201が生成され得る。又、メルトプール50の上面領域側へと移動したサブ成分の酸化物が熱に対して安定して存在し得ることで、メルト部分50が固化して得られる第1の固化層24Aの上面領域に、サブ成分由来の酸化物202(具体的には酸化膜)が生成され得る。
【0052】
(c)第1の固化層24A上への酸化粉末19Aの供給および酸化粉末19Aへの光ビーム照射工程(図4(c)参照)
形成した第1の固化層24A上に酸化粉末19Aを供給し、当該酸化粉末19Aへの光ビームの照射を実施する。
【0053】
酸化粉末19Aに対して光ビームを照射すると、酸化粉末19Aの光吸収により光エネルギーから変換された熱により、酸化粉末19Aの温度が上昇して、酸化粉末19Aが溶融する。これと同時に、サブ成分19Aが酸化粉末19Aに含まれる上記酸素成分と結びついてサブ成分の酸化物を生成する。又、第1の固化層24の上面領域に位置するサブ成分由来の酸化物202の大部分は、一旦溶融した後に還元されることなく(酸素を手放すことなく)、主としてメイン成分を含むメルト部分の上面領域側へと移動する。この時、サブ成分の酸化物の全てがメルト部分50の上面領域に移動するのではなく、サブ成分の酸化物の一部がメルト部分の内部領域に残存する。
【0054】
この状態で、残存したサブ成分の酸化物が熱に対して安定して存在することで、メルト部分が固化して得られる第2の固化層24B内に点在するサブ成分由来の酸化物201が生成され得る。又、メルトプール50の上面領域側へと移動したサブ成分の酸化物が熱に対して安定して存在することで、メルト部分50が固化して得られる第2の固化層24Bの上面領域に、サブ成分由来の酸化物202(具体的には酸化膜)が生成され得る。
【0055】
(d)三次元形状造形物の形成工程(図4(d)、図5(b)および図6(b)参照)
以上により、本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物を製造することができる。なお、図4(d)と図5(b)および図6(b)とでは図示される三次元形状造形物の断面形状が異なるが、以下に示す共通の特徴を有している点で、本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物は技術的意義を有する。
【0056】
なお、上述のように、従前の態様(特許文献2参照)では、造形物の強度向上に資するサブ成分の酸化物の形成原料となる酸素は、サブ成分を含まない第2粉末から得ている。一方、本発明では、造形物の強度向上に資するサブ成分の酸化物の形成原料となる酸素は、酸化処理により酸化粉末の表面に供されたメイン成分19A由来の酸化物およびサブ成分19A由来の酸化物から得ている。従前の態様と本発明とを比較すると、酸素の調達先につき、従前の態様ではサブ成分に相当する成分が含まれていないのに対して、本発明ではサブ成分が含まれ得る点で、両者は相違する。かかる相違があるが故、得られるサブ成分の酸化物の形成態様にも違いが出てくると解する。
【0057】
具体的には、従前の態様では、酸素がメイン成分に相当する成分からなる母相内に固相拡散して、固相拡散した酸素がサブ成分に相当する成分と反応することでサブ成分の酸化物がはじめて形成される。そのため、造形物の強度向上に資するサブ成分の酸化物が最終的に得られる造形物の“内部”に分散することが基本となっている。
【0058】
これに対して、上記のとおり、本発明では、光ビームが照射される酸化粉末19Aは内部領域のみならず表面領域にもサブ成分を含み得る。そのため、これに起因して、酸化粉末19Aへの光ビーム照射後に得られる造形物において、サブ成分と酸素が結びついて得られるサブ成分の酸化物の大部分は造形物の上面領域に形成されやすく、その一部は造形物の内部領域に残存することとなる。
【0059】
以上の事からも、本発明では、従前の態様と比べて、光ビームの照射先である酸化粉末の表面にもサブ成分が含まれ得るが故、最終的に得られる造形物におけるサブ成分の酸化物の形成態様に違いが出ている。
【0060】
3.本発明の三次元形状造形物
次に、上記製造方法に従い得られた本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物について説明する(図7参照)。
【0061】
得られた三次元形状造形物の構造を確認した結果、以下の事が新たに見出された。具体的には、本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物100が、メイン成分から構成される基部101(メインボディ部に相当)と、当該メイン成分よりも相対的に酸化しやすいサブ成分の酸化物200とを含んで成ることが分かった。
【0062】
特に、本発明の一実施形態では、サブ成分の酸化物200が、三次元形状造形物100の基部101の内部領域101aに点在しており、かつ当該基部101の表面領域101bの一部に生成されている。特に、本発明の一実施形態では、内部領域のみならず表面領域の一部にも層形態を成す酸化物(酸化膜に相当)が生成されている。一態様では、当該サブ成分の酸化物は、三次元形状造形物の表面領域に露出するように生成されている。すなわち、エネルギー分散型X線分析(EDX、Energy dispersive X-ray spectrometry)等による元素分析で、三次元形状造形物100の表面領域101bにてサブ成分の酸化物の検出が可能となっている。
【0063】
本発明の一実施形態では、三次元形状造形物100の基部101の内部領域に、サブ成分の酸化物201が粒子形態をなすように点在しており、粒子形態をなすサブ成分の酸化物201がナノメートルサイズを有している。特に限定されるものではないが、粒子形態をなすサブ成分の酸化物201は、10nm~500nmのサイズを有することができ、例えば約100nmである。又、特に限定されるものではないが、点在するサブ成分の酸化物201のうち、隣接するサブ成分の酸化物201間の距離は、50nm~500nmであってよく、例えば200nmである。
【0064】
本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物100の基部101の構成材料となり得るメイン成分は、少なくとも50質量%以上のFe系成分を含み得る。これに限定されることなく、当該メイン成分は、Fe系成分のみならず例えばCr系成分、Ni系成分を更に含んで成ってよい。特に限定されるものではないが、当該メイン成分は、0質量%以上50質量%未満のCr系成分および/またはNi系成分を含み得る。
【0065】
又、上記サブ成分はメイン成分よりも相対的に酸化しやすい、すなわち酸化物を生成しやすくなっているところ、当該サブ成分の一例は、Al、Y、Zr、Mn、Hf、Ti、TaおよびSiから構成される群から選択される少なくとも1種の元素を含むものであってよい。なお、サブ成分の特徴である「メイン成分よりも相対的に酸化しやすい」とは、サブ成分が金属元素を含む場合、酸化物生成の自由エネルギーがメイン成分の構成元素よりも小さいものを指すと解することができ得る。
【0066】
そして、本発明の一実施形態において、得られた三次元形状造形物100の内部に、上記のサブ成分の酸化物が点在、すなわち分散していると、点在するサブ成分の酸化物が三次元形状造形物100の全体的な強度向上に資することが可能となる。これにより、得られる三次元形状造形物100の機械的強度を好適に向上させることが可能となる。具体的には、得られる三次元形状造形物100の引張強さ、破断伸び、クリープ強度、疲労強度等について、全体的な向上を図ることが可能となる。特に、上記のとおり、粒子形態をなすサブ成分の酸化物201がナノメートルサイズを有している場合、三次元形状造形物100の全体的な強度向上の効果が顕著となり得る。
【0067】
又、本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物では、内部領域のみならず表面領域の一部にも層形態を成す酸化物(酸化膜に相当)が生成されている。仮に表面領域に生成された酸化膜に対して切削加工を付さない場合、当該酸化膜を例えば耐熱膜として利用することが可能となる。
【0068】
なお、積層造形分野とは異なる鉄鋼分野において、内部に金属酸化物(例えば酸化イットリウム)が点在した構造体の存在は既に知られている。この点につき、本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物は、鉄鋼分野にて既知の金属酸化物(例えば酸化イットリウム)が内部に点在した構造体と比べて、内部領域のみならず表面領域の一部にも酸化膜が生成されている点で構造が異なる。この点において、本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物は特異な構造を有するといえる。即ち、本発明の一実施形態では、得られた三次元形状造形物100は、従前から知られている“酸化物分散型強化合金”ではなく“酸化物内部分散型および酸化物表面露出型強化合金”として機能することができる。
【0069】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0070】
例えば、上記では、本発明の一実施形態に係る酸化粉末19Aを用いて最終的に三次元形状造形物100を得る態様について説明した(図3図7参照)。これに限定されることなく、三次元形状造形物の製造段階において、本発明の一実施形態に係る酸化粉末19Aと、通常の粉末19とを用いて、所定の三次元形状造形物の製造を行ってもよい。ここでいう「通常の粉末19」とは、表面が酸化処理されておらず、かつメイン成分(Fe系成分、Cr系成分およびNi系成分からなる群から選択される少なくとも1種)から構成される粉末を指す。
【0071】
具体的には、得られる三次元形状造形物の使用時にて、外部からの圧力等に対する耐性が要求される程度が高い部分(例えば図8の三次元形状造形物の基部101)については、本発明の一実施形態に係る酸化粉末19Aを用いることが好ましい。一方、外部からの圧力等に対する耐性が特に要求されない又は要求される程度が低い部分(例えば図8の三次元形状造形物の基部102)については、上記の通常の粉末19’を用いてよい。これにより、得られる三次元形状造形物の構成を選択的に変更することが可能となる。
【0072】
又、上述のように、本発明の一実施形態では、酸化粉末は、上記メイン成分および上記サブ成分の両成分を含む単体形態であるのみならず、メイン成分を含むメイン粉末とサブ成分を含むサブ粉末との集合体又は混合体の形態であってもよい。なお、メイン成分を含むメイン粉末とサブ成分を含むサブ粉末との集合体又は混合体の形態を採る場合、酸化粉末は、かかる集合体又は混合体の表面が酸化処理されたものに相当する。
【0073】
かかる集合体又は混合体の形態の場合においても、酸化粉末自体が内部に上記メイン成分および上記サブ成分を含むこととなる。そのため、上述のとおり、当該酸化粉末を用いて得られる三次元形状造形物は、その内部に、点在したサブ成分の酸化物を含み得る。そのため、点在するサブ成分の酸化物が三次元形状造形物の全体的な強度向上に資することに起因して、得られる三次元形状造形物の機械的強度を好適に向上させることが可能となる。
【0074】
なお、上述のような本発明の一実施形態は、次の好適な態様を包含している。
第1態様
粉末への光ビームの照射により複数の固化層を逐次形成して、三次元形状造形物を製造するための方法であって、
前記粉末として、少なくとも、表面が酸化処理された酸化粉末を用い、
前記酸化粉末が、メイン成分と該メイン成分よりも相対的に酸化物を生成しやすいサブ成分とを含んで成る、製造方法。
第2態様
上記第1態様において、前記表面に前記メイン成分の酸化物と前記サブ成分の酸化物を含む前記酸化粉末を用いる、製造方法。
第3態様
上記第2態様において、前記表面に前記酸化物がリッチな層が存在する前記酸化粉末を用いる、製造方法。
第4態様
上記第1態様~上記第3態様のいずれかにおいて、前記光ビームの照射の際にて、前記酸化粉末の前記サブ成分が前記メイン成分よりも相対的に酸化しやすくなっている、製造方法。
第5態様
上記第1態様~上記第4態様のいずれかにおいて、前記酸化粉末は、表面の前記酸化処理に起因して酸素を含んで成る、製造方法。
第6態様
上記第5態様において、前記酸化粉末に含まれる前記サブ成分と前記酸素とにより、製造する前記三次元形状造形物の少なくとも内部領域に、該サブ成分の酸化物が点在可能となるように、前記酸化粉末への前記光ビームの照射を実施する、製造方法。
第7態様
上記第1態様~上記第6態様のいずれかにおいて、前記酸化粉末の前記メイン成分が50質量%以上のFe系成分を含んで成る、製造方法。
第8態様
上記第1態様~上記第7態様のいずれかにおいて、前記酸化粉末の前記サブ成分が、前記メイン成分に含まれる元素よりも酸化物の生成自由エネルギーが低い元素を含んで成る、製造方法。
第9態様
上記第8態様において、前記酸化粉末の前記サブ成分が、Al、Y、Zr、Mn、Hf、Ti、TaおよびSiから構成される群から選択される少なくとも1種の元素を含んで成る、製造方法。
第10態様
上記第1態様~上記第9態様のいずれかにおいて、粉末床溶融結合法により前記固化層を形成する、製造方法。
第11態様
上記第1態様~上記第10態様のいずれかにおいて、指向性エネルギー堆積法により前記固化層を形成する、製造方法。
第12態様
三次元形状造形物であって、
メイン成分から構成される基部と、該メイン成分よりも相対的に酸化しやすいサブ成分の酸化物とを含んで成り、
前記サブ成分の前記酸化物が、前記基部の内部領域に点在しており、かつ前記基部の表面領域の一部に生成されている、三次元形状造形物。
第13態様
上記第12態様において、前記サブ成分の前記酸化物が、前記表面領域にて層形態を成すように生成されている、三次元形状造形物。
第14態様
上記第12態様又は第13態様において、前記サブ成分の前記酸化物が、前記表面領域にて露出するように生成されている、三次元形状造形物。
第15態様
上記第12態様~上記第14態様のいずれかにおいて、前記サブ成分の前記酸化物が前記内部領域にて粒子形態をなすように点在しており、該粒子形態をなす前記サブ成分の前記酸化物がナノメートルサイズを有する、三次元形状造形物。
第16態様
上記第15態様において、前記粒子形態をなす前記サブ成分の前記酸化物の大きさが、10nm~500nmである、三次元形状造形物。
第17態様
三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末であって、
表面が酸化処理されており、メイン成分と該メイン成分よりも相対的に酸化物を生成しやすいサブ成分とを含んで成る、酸化粉末。
第18態様
上記第17態様において、前記表面に前記メイン成分の酸化物と前記サブ成分の酸化物が形成されている、酸化粉末。
第19態様
上記第18態様において、前記酸化物がリッチな層が前記表面に存在する、酸化粉末。
第20態様
上記第17態様~上記第19態様のいずれかにおいて、表面の前記酸化処理に起因して酸素が含まれる、酸化粉末。
第21態様
上記第20態様において、前記サブ成分と前記酸素とにより、製造される前記三次元形状造形物の少なくとも内部領域に、該サブ成分の酸化物が点在可能となっている、酸化粉末。
第22態様
上記第17態様~上記第21態様のいずれかにおいて、前記メイン成分が50質量%以上のFe系成分を含んで成る、酸化粉末。
第23態様
上記第17態様~上記第22態様のいずれかにおいて、前記サブ成分が、前記メイン成分に含まれる元素よりも酸化物の生成自由エネルギーが低い元素を含んで成る、酸化粉末。
第24態様
上記第23態様において、前記サブ成分が、Al、Y、Zr、Mn、Hf、Ti、TaおよびSiから構成される群から選択される少なくとも1種の元素を含んで成る、酸化粉末。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の一実施形態に係る三次元形状造形物の製造方法を実施することによって、種々の物品を製造することができる。例えば、『粉末層が無機質の金属粉末層であって、固化層が焼結層となる場合』では、得られる三次元形状造形物をプラスチック射出成形用金型、プレス金型、ダイカスト金型、鋳造金型、鍛造金型などの金型として用いることができる。
【関連出願の相互参照】
【0076】
本出願は、日本国特許出願第2019-164418号(出願日:2019年9月10日、発明の名称:「三次元形状造形物の製造方法、三次元形状造形物、および三次元形状造形物の製造のために用いられる酸化粉末」)に基づくパリ条約上の優先権を主張する。当該出願に開示された内容は全て、この引用により、本明細書に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0077】
100、100’ 三次元形状造形物
101 三次元形状造形物の基部(メインボディ部)
19A 酸化粉末
19A 酸化粉末のメイン成分
19A 酸化粉末のサブ成分
19A 酸化物がリッチな層
24A、24B 固化層
200 酸化物
201 三次元形状造形物の基部の内部領域に点在する酸化物
202 三次元形状造形物の基部の表面領域に生成される酸化物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11