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特許7241768アセチル化軟材の製造方法、アセチル化軟材木質要素、パネル、及び中密度繊維板
<図1>
  • 特許-アセチル化軟材の製造方法、アセチル化軟材木質要素、パネル、及び中密度繊維板 図1
  • 特許-アセチル化軟材の製造方法、アセチル化軟材木質要素、パネル、及び中密度繊維板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】アセチル化軟材の製造方法、アセチル化軟材木質要素、パネル、及び中密度繊維板
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20230310BHJP
   B27K 3/02 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
B27K5/00 B
B27K3/02 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020555770
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2018059562
(87)【国際公開番号】W WO2019197041
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-04-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517357170
【氏名又は名称】トライコヤ テクノロジーズ エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】TRICOYA TECHNOLOGIES LTD
【住所又は居所原語表記】Brettenham House, 19 Lancaster Place, London WC2E 7EN, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】カッペン、テオドルス ゲラルドゥス マリヌス マリア
(72)【発明者】
【氏名】ファン ドンメレン、ステファン
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-290001(JP,A)
【文献】特開平07-132504(JP,A)
【文献】特開平07-232309(JP,A)
【文献】特表2014-531348(JP,A)
【文献】特開昭62-202986(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0258941(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 5/00
B27K 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟材を提供することと、抽出木材を提供するように前記軟材を、ヘミセルロースを抽出する抽出ステップにかけることと、前記抽出木材をアセチル化剤と接触させることとを含み、前記ヘミセルロースを抽出する抽出ステップは、前記軟材を、120℃から250℃の温度で前記抽出を実施する圧力と温度を有する抽出流体と接触させることを含み、前記抽出流体は水であり、アセチル化流体を含浸させる前に前記軟材を乾燥させる、アセチル化軟材の製造方法。
【請求項2】
前記軟材が針葉樹からなる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記軟材が8%未満の範囲の含水量まで乾燥される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記軟材が木質要素という形である、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記木質要素が木材チップ、木材ストランド、木材パーティクル、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記軟材が無垢木材または合板という形である、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記抽出の温度が140℃から160℃である、請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記軟材が0.5%から4%の範囲の含水量まで乾燥される、請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
ヘミセルロースを抽出された、10-15%のアセチル基含有量で、最高2%の軟材の接線方向で測定した線形膨潤を反映させた寸法安定性を示す、アセチル化軟材木質要素。
【請求項10】
アセチル化軟材が、針葉樹からなる、請求項9に記載のアセチル化軟材木質要素。
【請求項11】
アセチル化軟材が、松からなる、請求項9に記載のアセチル化軟材木質要素。
【請求項12】
木質要素およびバインダーを含み、前記木質要素が請求項9から11のいずれか1項に記載のアセチル化軟材木質要素である、パネル。
【請求項13】
木質繊維および樹脂を含み、前記木質繊維が精製された請求項9から11のいずれか1項に記載のアセチル化軟材木質要素である、中密度繊維板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無垢木材、合板、および木材チップまたは木質繊維などの木質要素を含む、木材などのリグノセルロース物質のアセチル化の分野である。本発明は、木材のアセチル化の工程、および、それによって得られるアセチル化木材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材ベースの素材などの長寿命なリグノセルロース物質を生産するために、木材を化学修飾し、特に木材をアセチル化することが知られている。それにより、改善された材料特性、例えば寸法安定性、硬さ、耐久力などを持つ素材が得られる。本明細書に言及された木材は、木質要素および無垢木材からなる群から選ばれる。
【0003】
背景技術の参考文献は、国際公開第2009/095687号である。本明細書では、反応圧力容器中で木材をアセチル化液に沈め、含浸手順を行い、過剰なアセチル化流体を取り除き、容器中に不活性な流体(典型的には窒素ガス、不活性ではない無水酢酸および/または酢酸を含むことができる不活性な流体)を導入し、適切な木材のアセチル化をもたらすように加熱領域に従動して不活性な流体を循環加熱し、循環している流体を取り除きアセチル化木材を冷却させるステップを含む、木材のアセチル化の工程を説明する。
【0004】
他の背景技術の参考文献は、国際公開第2013/139937号である。この開示は、木材そして特に木質要素について高いアセチル化度を得るために、一般的な困難を解決する。国際公開第2013/139937号は含浸ステップに焦点をあてて、これを解決する。高いアセチル基含有量を達成することを目的としている、さらなる参考文献は、国際公開第2016/008995号である。そこでは、焦点は、アセチル化ステップを最適化することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2009/095687号
【文献】国際公開第2013/139937号
【文献】国際公開第2016/008995号
【文献】国際公開第2011/95824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アセチル基含有量は、最終的には、耐久性と寸法安定性のような好ましい木材の特性の最重要の目標を達成するために役立つ技術的手段であると理解される。従来技術から著しく逸脱し、低アセチル基含有量によってそのような特性を達成することは、実際のところ望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、本発明は木材(木質要素という形など)を提供することと、抽出木材(特にヘミセルロース削減木材)を提供するように木材を抽出ステップにかけることと、抽出木材をアセチル化剤と接触させることとを含む、木材のアセチル化のための工程を示す。特に、それに関して、抽出ステップは、木材を、水、アセトン、エタノール、メタノール、および酢酸からなる群から選ばれる抽出流体と接触させることを含み、溶媒は、120℃から250℃、好ましくは140℃から160℃の温度で抽出を行う圧力と温度を有する。
【0008】
別の態様では、本発明は、前述の段落の中で説明した工程によって得られるアセチル化木材(アセチル化木質要素など)を提供する。
【0009】
特に、さらなる態様では、本発明は、木材(木質要素など)を提供することと、木材を100℃から250℃の温度の抽出流体水で熱水抽出ステップにかけることと、アセチル化流体が抽出によりもたらされた木材を、120℃から200℃の温度の無水酢酸、酢酸、およびそれらの混合物から選ばれるアセチル化にかけることを含む工程によって得られるアセチル化木材、特に木質要素を提供する。
【0010】
よりさらなる態様で、本発明は、10-15%のアセチル基含有量で、最高2%の線形膨潤を反映させた寸法安定性を示すアセチル化木質要素を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】木質要素(未処理、アセチル化、および抽出とアセチル化)のEMC(平衡水含有量)をアセチル基含有量に対して表しているグラフである。
図2】木質要素(未処理、アセチル化、および抽出とアセチル化)の線形膨潤(接線の方向)をアセチル基含有量に対して表しているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
広い意味で、本発明は、アセチル化される木質要素の中で、アセチル化することができる成分の相対的バランスをリグニンおよびセルロースの方へシフトするという賢明な知見に基づく。したがって、アセチル化される木材は、最初にヘミセルロースの抽出にかけられる。
【0013】
理論に拘束されることを望まず、本発明者らは、ヘミセルロースの大部分の抽出のために、アセチル化が予期しない有利な方法で行われることを認める。例えば、抽出木材のアセチル基含有量は非抽出木材に比べて著しく低くなるが、寸法安定性(湿気下の線形膨潤)などの特性は同じレベルにある。したがって、本発明に係る例えば14%のアセチル基含有量を有する木材の膨潤は、典型的には19%のアセチル基含有量を有する従来のアセチル化木質要素の膨潤と同様である。
【0014】
本発明のアセチル化木材は、さらに興味深く、予期しない挙動を示す。これは、例えば、平衡水含有量(EMC)に反映される。この分野で、EMCは、耐久性の尺度と間接的に考えられ、耐久性が高いほど対応するEMCが低い。本発明の工程の結果として、得られるアセチル化木材は、低いアセチル基含有量(例えば14%)において、標準的な(典型的な19%のアセチル基含有量を有する)材料よりも低いEMCを有する。
【0015】
本発明の抽出ステップはまた、工程の利点をもたらす。例えば、所望のアセチル基含有量は低くすることが可能であり、従来のアセチル化の高いアセチル基含有量より速く達するので、前述の抽出は、より速い工程を可能にする。例えば、比較して、標準的な材料(木質要素)は、典型的な19%のアセチル基含有量を得るために、例えば、130℃で4時間必要である。対応する抽出材料の場合、対応する所望のアセチル基含有量(14%)-同様のEMC値と寸法安定性をもたらす-に130℃で60分以内に達する。
【0016】
本発明の工程によって抽出され、アセチル化される木材は、木質要素または無垢木材のどちらかであり、また、合板を含む。木質要素は、好ましくは、例えば、木材チップ、木材ストランド、木材パーティクルであってもよい。工程は、しかし、驚くことに、無垢木材またはベニヤに適用することができる。木材は、好ましくは、軟材などの非耐久性の木材種、例えば、針葉樹、典型的にはトウヒ、松、またはモミ、または非耐久性の広葉樹に属する。木材の適切な種類の非限定的な例は、トウヒ、シトカスプルース、海岸松、ヨーロッパアカマツ、ラジアータパイン、ユーカリ、レッドアルダー、欧州アルダー、ブナ、樺の木、テーダマツ、ロッジポールパイン、リギダマツ、アカマツ、サザンイエローパイン、ニッポンスギ(スギ)、およびヘムロックである。また、ヤシなどの単子葉類、および、キリ、ラバーウッド、チーク、カエデ、オーク、ホワイトオークなどの他の堅木も適している。
【0017】
本発明に従って定義された木質要素の典型的な寸法は、以下の表で示される。
【0018】
【表1】
【0019】
いくつかの実施形態において、木質要素は、長さ1.0-75mm、幅0.05-75mm、および厚さ0.05-15mmを有する。
【0020】
もう一方の実施形態において、木材は、無垢木材または合板であり、好ましくは、少なくとも8cmの長さまたは幅を有する。厚さは、好ましくは、少なくとも1mmである。いくつかの実施形態において、木材は、幅2cmから30cm、厚さ2cmから16cm、および長さ1.5から6.0mを有する。他の実施形態において、木材は、少なくとも厚さ1mm、幅20cmから2.5m、および長さ20cmから6mを有する。
【0021】
本発明の工程は、驚くことに、無垢木材、木質要素、および合板によく適用可能である。本発明の工程の利点は、チップ、ストランド、またはパーティクルなどの木質要素の場合に、大きく示される。最も好ましくは、木質要素は、木材チップである。均質な質量流量を促進するために、単独サイズの範囲の木質要素が好ましい。驚くことに、本発明の工程はまた、そのような無垢木材の寸法安定性に実質的に影響することなく、合板、そして特に無垢木材(木質梁、厚板、または単板など)に適用することができる。木材からのヘミセルロースなどの成分の除去が木材の完全性に影響することは理解される。梁または単板などの無垢木材製品の場合、そのような木材製品の寸法は、一般に、成分の除去によって悪影響を受けると予想される(例えば、木材はより容易に所望の直線形状を逸脱し、および/または、木材の構造がより脆くなる)。しかし、意外なことに、アセチル化された抽出木材は、低下しない寸法安定性を有し、脆性の増加を示さない製品をもたらした。
【0022】
本発明の工程は、一般に、この分野で知られている最適化されたアセチル化工程に従って実施される。好ましい工程は、以下のステップを含む。
-木質要素を提供し、
-本発明に従って実施される抽出ステップを考慮して、木材が、一般に、抽出の結果として完全に湿り、アセチル化流体に含浸させる前に所望の含水量まで乾燥させることが理解でき、木質要素の含水量をコントロールし、必要に応じて調整し、
-アセチル化流体を木質要素に含浸させ、
-木質要素のアセチル化を実施するために、含浸された木質要素を1回以上加熱ステップにかけ、
-過剰なアセチル化流体からアセチル化木質要素を分離する。
【0023】
そのようにして得られたアセチル化木質要素は、さらに直接処理する(例えば、アセチル化木質要素を含むパネルの製造が、アセチル化工程に続いて実施される場合)ことができる、または、保管および/もしくは輸送のために後処理する(乾燥などによって)ことができる。
【0024】
本発明では、木材は、アセチル化流体との接触させる前に抽出にかける。すなわち、アセチル化される木材にアセチル化流体を含浸するステップを含む好ましい工程において、抽出は、そのような含浸の前に実施される。
【0025】
抽出ステップは、木材からヘミセルロースを含む画分を抽出することを目的とするように実施される。そのような抽出は、抽出液体として適切な溶媒を使用して実施することができる。そのような溶媒の非限定的な例は、水、アセトン、エタノール、メタノール、または酢酸である。水は水道水または脱塩水などの純粋な水であってもよく、希薄塩溶液(例えば、シュウ酸アンモニウムまたは亜硫酸ナトリウムを含む水)であってもよい。
【0026】
当業者が理解するように、抽出ステップは、ヘミセルロースに加えて、他の抽出物の抽出をもたらすことに注意されたい。これは、本発明に必須でないと考えられる。木材の主要な化学成分はリグニン、セルロース、および様々なヘミセルロースであることが知られている。ヘミセルロースは、一般的に、不確定な部分であり、その正確な化学組成は、木材種により異なる。参照を容易にするために、抽出ステップは、ヘミセルロースの抽出と呼ばれる。しかし、本発明の抽出ステップの結果は、リグニンとセルロースへのアセチル化される木質成分の平衡シフトにおいて重要性を有すると考えられる。対応する天然木材の組成と比較して、本発明の木質要素のヘミセルロース含有量は、10-40%など、20-30%など、約25%など、最大50%の量だけ減少する。したがって、アセチル化される木材(このようにまた、結果として得られるアセチル化木材)に存在するセルロースおよびリグニンの相対量は、それぞれ5-20%など、それぞれ10-15%など、それぞれ12.5%など、それぞれ最大25%増加する。
【0027】
いくつかの木材種の化学組成は、次のように知られている。(Sjostrom,E、「Wood Chemistry Fundamentals and Applications」、第2版、1993年編、サンディエゴ、Academic press 292、参照)
【0028】
【表2】
【0029】
好ましくは、抽出は、熱水抽出である。これは、当技術分野で十分に確立している工程を参照する。その通常の目的は、木材から抽出物を得て、これらをバイオベースの化学物質として他の目的のために使用することである。しかしながら、本発明は、抽出木材を残すことを目的として、熱水抽出の工程を慎重に適用し、その後、アセチル化にかける。熱水抽出は、一般的に、120℃から180℃など、約160℃などの、100℃から250℃の温度で実施される。これらの温度は、典型的には4-6バールなど、5バールなど、2バールから8バールの範囲の高圧を意味していると理解される。
【0030】
興味深い実施形態では、熱水などの抽出流体は、含浸工程、特にベテル含浸工程によって木質要素に適用される。その中で、抽出にかけられる木質要素は、真空チャンバーに入れられ、真空は、木材から空気を吸引するために適用される。抽出流体(水など)は、次に真空下でチャンバーに加えられる。液体でチャンバーを満たした後に、一般的に1平方インチあたり最高250ポンド(psi)までの圧力、好ましくは150psiから200psiをかけることができる。木材が再び大気圧にかけられるように、圧力は取り除かれる。このタイプの工程は、通常、所望の最大のアセチル基レベルとの直接関係すると考えられている最大の含浸量をもたらすので、普段から好まれる。典型的には、適切な加圧を伴う水の加熱は、含浸工程の完了後に実施される。抽出流体は、前記の条件下(典型的には、オートクレーブ内)で、一般に、2~8時間など、4~6時間など、例えば約5時間などの1~10時間、木質要素と接触したままにしてもよい。この一群の抽出工程に加えて、代わりの抽出工程-同様の連続抽出-もまた使用することができる。
【0031】
抽出の終わった後、その中に抽出物を含んだ抽出流体が、取り除かれる。アセチル化の前に、抽出された木質要素は、典型的には、木質要素の含水量を制御可能にするステップにかけられる。一般的に、アセチル化前の所望の含水量は15重量%未満である。水による適切な抽出の場合、含水量を制御することが、実際には乾燥ステップを含むことが理解される。このような乾燥は、木材産業で知られている任意の方法によって、連続的な、または一群の工程で行うことができる。好ましくは、木材の含水量は、0.01%から5%の範囲など、0.5%から4%の範囲などの8%未満の値になる。
【0032】
当業界で周知なように、アセチル化工程自体は、液体および/または気体のアセチル化流体を使って、実施することができる。典型的なアセチル化流体は、酢酸、無水酢酸、およびそれらの混合物である。好ましくは、使用される最初のアセチル化流体は、無水酢酸である(アセチル化反応の結果として、酢酸がそれによって形成されるため、アセチル化流体の組成は工程の間に変化する)。一般的に、抽出された木質要素のアセチル化流体との接触は、再度の含浸ステップ(無水酢酸などでの)を含む。
【0033】
興味深い実施形態において、この含浸ステップは、抽出ステップに関して上記で議論されるように、ベテルタイプの含浸工程を含む。しかしながら、含浸後の最大のアセチル化流体の取り込みが主要目的ではない場合、より経済的な含浸工程を使用することもできる。木材の含浸の当業者に知られているそれらの例は、いわゆるLowry工程およびRueping工程である。これらの工程は、最初の真空を必要としない。代わりに、含浸流体は圧力下で木材に深く押し込まれる。圧力が開放されると、木材内の圧縮ガスは、その後、膨張し、過剰な防腐剤の木材からの押し出しを引き起こす。上記のように、本発明の工程の利点は、低いアセチル基含有量が、所望の製品特性を得るために必要とされていることである。したがって、本発明はまた、より経済的な含浸工程を使用することができる。
【0034】
興味深い実施形態において、国際公開第2009/095687号、国際公開第2011/95824号、国際公開第2013/117641号、国際公開第2013/139937号、または国際公開第2016/008995号において説明されるように、アセチル化はアセチル化工程のいずれか1つにしたがって実施され、これらの開示は、本明細書に参照によって含まれている。例えば、国際公開第2016/008995号に記載されているように、高いアセチル基含有量を得るための好ましい工程は、三段工程である。本発明の利点は、アセチル化の工程所要時間が、国際公開第2016/008995号の工程と比較して大幅に短縮できることである。
【0035】
アセチル化反応は、一般的に、160℃から180℃などの120℃から200℃の温度で実施される。好ましくは、本発明に係る抽出された木質要素のアセチル化工程は、当業界で既存の最適化された範囲(120℃から150℃、好ましくは130℃から140℃の温度など)よりも一般的に低い温度範囲で、当業界で既存の最適化された継続時間(20分から1時間、好ましくは30から40分の期間など)よりも一般的に短い継続時間で、単独の加熱ステップで実行する。当業者は、与えられた反応装置とアセチル化される木材種に依存して、選ばれた時間および温度の条件を最適化することができる。特に、本開示は、それにより、当業界の最適化された工程のアセチル基含有量より低いアセチル基含有量が必要とされているという事実を当業者に知らせるために役立つ。当業者は、適宜、既知の条件を適応させることができる。
【0036】
木材のアセチル化度の決定において、2つの異なるアプローチが当該分野で存在していることに注意する必要がある。1つは、WPG(重量増加率)に基づく。WPGは、アセチル化処理の前後の(抽出後の木材の)サンプルを比較し、結果として、追加された物質(そして木材にまだ存在する残留物)は値を増加させる。WPGは、以下の式で説明される。WPG=(M増加量/M反応前のサンプル)x100%。ここで、Mは質量を表し、M増加量=M反応後のサンプル-M反応前のサンプルである。
【0037】
他のアプローチは、実際にアセチル基含有量(AC)を測定することである。これはAC=(Macetyls/M反応後のサンプル)x100%で与えられる。典型的には、HPLC(高圧液体クロマトグラフィー)は、木材からアセチル基の鹸化によりもたらされる酢酸イオン濃度を定量化するために使用することができる。このことから、アセチル化後のアセチル基の総質量はMacetylsとすることができる。
【0038】
WPGとACの異なる結果は、以下の理論的な例を参照して説明できる。例えば1gの木材のサンプルがアセチル化されて、反応後は質量1.25gとなる。したがって、Macetylsは0.25gである。結果として生じるWPGは、(1.25-1.00)/1.00*100%=25%である。アセチル基含有量として計算すると、ACは、=(1.25-1.00)/1.25の*100%=20%である。
【0039】
したがって、WPGで表されたアセチル化度をACで表されたアセチル化度と直接比較しないように注意すべきである。本開示では、AC値は、アセチル化度を識別するために選択される。
【0040】
本発明に係るアセチル化された抽出木質要素について得られる好ましいアセチル基含有量(AC)は、8-16%、好ましくは10-15%、より好ましくは13-14%である。
【0041】
アセチル化された天然木材(非抽出木質要素)との明確な区別は、アセチル基含有量のとても低いパーセンテージであり、木質要素は、2-8%高い、特に4-6%高い、および最も典型的には5%高いアセチル基含有量を有するアセチル化された非抽出木材と一般的に同規模の寸法安定性を有する。これは、既存の工程によって得られる木質要素から、本発明の工程によって得られる木質要素を識別する。
【0042】
別の態様で、本発明は、先述のとおり説明された工程によって得られるアセチル化木質要素を提供する。本発明のアセチル化木質要素は、それにより、アセチル化前に実施された抽出ステップの目に見える結果によって、標準的なアセチル化木質要素と区別することができる。したがって、本発明の工程では得られない標準的なアセチル化木質要素は、アセチル化形態のリグニン、セルロース、およびヘミセルロースを特に含む木材の天然組成を有することを特徴とする。本発明の工程により得られるアセチル化木質要素は、とりわけ、対応する天然木材と比較して、リグニンおよびセルロースの相対量が増大した(抽出物、特にヘミセルロースを除去した結果)組成を有することによって、前記標準的なアセチル化木質要素と区別することができる。興味深いことに、抽出は、典型的にテルペンや他の松脂も除去し、明るい色の木材を提供する可能性などのいくつかのさらなる利点がある。
【0043】
特に、さらなる態様で、本発明は、木質要素を提供し、100℃から200℃の温度の抽出流体水として使用する熱水抽出ステップに木質要素をかけ、抽出によりもたらされた木質要素を120℃から200℃の範囲の温度の無水酢酸、酢酸、およびそれらの混合物から選ばれたアセチル化流体によるアセチル化にかけることを含む工程により、アセチル化木質要素を提供する。
【0044】
興味深い態様において、本発明の木質要素は、10-15%のアセチル基含有量で、最高2%の線形膨潤によって反映された寸法安定性を示すアセチル化木質要素として特徴付けることができる。線形膨潤は、実施例において説明されるように、当業界で周知の手順に従って決定される。木の成長のため、3つの異なる方向/方位が、木材で定義され、接線方向、径方向、長さ方向である。木材は接線方向で最大の量を収縮し、膨潤する。接線方向の膨潤は、典型的には径方向の膨潤のおよそ2倍の大きさである。長さ方向の膨潤は、典型的には、接線方向の膨潤の約0.1-0.2%であり、したがって実質的にゼロである。本開示では、線形膨潤は、接線方向で最大の膨潤であるため、接線方向で測定される。
【0045】
本発明に係るアセチル化木質要素は、単板またはパネルの構成要素として使用することができる。このような単板またはパネルは、一般的に、樹脂などのバインダーによって結合された木質要素を含む。これは、当業界で確立している技術および樹脂素材を参照する。本発明は、そのようなパネルを作製するための技術をさらに頼りにする一方で、前述の比較的低いアセチル基含有量で、前述の所望の特性を有するアセチル化木質要素を使用する利点を追加する。そのような板、特にMDF(中密度繊維板パネル)の作製において、本発明の木質要素は、有効に精製され得る(例えば、アセチル化木材チップからアセチル化木質繊維を製造するために)。したがって、アセチル化木質要素は、そのまま、または精製されて、中密度繊維板、MDF、またはオリエンテッドストランドボード、OSB、またはパーティクルボードに変換することができる。これらの単板は、非アセチル化木質要素由来の板と比較して、優れた寸法安定性、耐久性、紫外線に対する安定性、および熱伝導性を備える。特に、これらの単板は、まだ比較的低いアセチル基含有量で、アセチル化木質要素で製造された既存の板と同様にこれらの特性を備えている。
【0046】
要約すると、工程は、木材のアセチル化のために開示される。アセチル化される木材は、最初に抽出ステップにかけられる。結果として得られた抽出木材は、特に減少したヘミセルロース含有量を有する。この抽出木材は、アセチル化剤と接触させられる。抽出は、例えば、水、アセトン、エタノール、メタノール、または酢酸である抽出流体によって行われ得る。水は水道水または脱塩水などの純粋な水であってもよく、希薄塩溶液(例えば、シュウ酸アンモニウムまたは亜硫酸ナトリウムを含む水)であってもよい。熱水抽出が好ましい。結果として得られたアセチル化された抽出木材、特に木質要素は、従来のアセチル化木材より低いアセチル基含有量で、所望の膨潤挙動を有する。木材は、木質要素、無垢木材の、または合板という形であってもよい。
【0047】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって説明される。
【0048】
(実施例1)
ラジアータパインから作られた無垢木材のサンプルが、提供された。寸法は、
-長さ:100cm、
-幅:14cm、
-厚さ:2.5cm。
【0049】
熱水抽出のために、サンプルは、容器中の脱塩水に含浸された。この含浸のため、システムが50mbaraに排気されている間、サンプルは水中に沈められ、その後、圧力は雰囲気に戻された。その後、圧力は増加した。適用された抽出条件は、
-圧力:2.5Barg、
-温度:135℃、
-期間:4時間。
【0050】
この工程の後、システムは冷え、水画分は、デカントされた。その後、ヘミセルロース画分を含む残りの水の大部分を除去するために、湿った木材を真空引きした。その後、木材は、含水量5重量%未満まで熱乾燥される。
【0051】
これは抽出無垢木材をもたらし、そこから、ヘミセルロース13重量%から15重量%が除去された。その後すぐに、抽出された木材サンプルにアセチル化流体を含浸させ、アセチル化にかけた。システムを50mbaraに排気する間、アセチル化流体での含浸は、アセチル化流体中にサンプルを沈めることによって実行された。その後、圧力は雰囲気に戻された。適用されたアセチル化条件は、
-92重量%の無水酢酸と8重量%の酢酸を含むアセチル化流体、
-圧力:1.5Barg、
-温度:135℃、
-期間:4時間。
【0052】
結果として、アセチル化流体の除去および乾燥の後、歪み、反り、膨潤のない、顕著な機械的完全性を示すアセチル化無垢木材のサンプルが得られた。サンプルのアセチル基含有量は、16%だった。
【0053】
この実施例において、抽出条件およびアセチル化条件のどちらも特に最適化されていないことに注意する。例えば、(対応するより高い圧力での)より高い抽出温度が好ましい。
【0054】
(実施例2)
サンプル(50x50x5mmの寸法)はラジアータパインから準備された。熱水抽出のために、以下のようにサンプルに脱塩水を含浸した。サンプルは、ビーカー内で環境温度の水に沈められ、その後、ビーカーは、チップを沈めたまま、排気された乾燥器内に配置された。50mbar(a)の真空が1時間適用され、その後、システムは大気条件に戻された。その後、サンプルはオートクレーブに移され、過剰な水がサンプルを沈めるために加えられた。オートクレーブは、閉じられ、排気され、1bar(g)の圧力に達するために窒素が追加された。その後、システムは160℃まで加熱され、圧力はおよそ5bar(g)に増加した。サンプルは5時間処理された。その後、水は除去された。サンプルは、オートクレーブから取り出され、105℃のオーブンで16時間乾燥された。その後、サンプルは、重量測定され、後で使用するために密封されたバッグに保存された。
【0055】
次に、サンプルは、上記のような乾燥器および同じ方法の真空下で、10/90の酢酸/無水酢酸混合物で含浸された。
【0056】
サンプルは、130℃で60分および150分間アセチル化された。反応後、サンプルは、反応を止め、無水酢酸を酢酸に変換するために水に沈められた。その後、サンプルは、105℃のオーブンで16時間乾燥された。
【0057】
(実施例3)
実施例において使用されているラジアータパインから作られた一連の同一のサンプルが提供された。これらのサンプルは、抽出にかけられなかった。それらは、105℃で16時間同じ方法で乾燥され、実施例2のサンプルと同じ方法で10/90の酢酸/無水酢酸によって処理された。
【0058】
(実施例4)
実施例2(本発明に係るアセチル化され、抽出された木材チップ)および実施例3(本発明に係るものではないアセチル化された天然木材チップ)において得られたサンプルは、20℃および90%の相対湿度に調整された人工気候室に配置された。また、10個の未処理および非アセチル化サンプルは、同じ方法で順応させた。
【0059】
サンプルが安定した質量に達するまで、サンプルは人工気候室内に留められた。その後、サンプルは、化学天秤で重量測定され、寸法(径方向および接線方向)が測定された。測定後、すべてのサンプルは、105℃でオーブンに16時間配置し、その後、質量および寸法は再び決定された。これらの測定により、平衡水含有量(EMC)および線形膨潤は計算された。
【0060】
EMCの結果は、図1、線形膨潤(接線の方向)の結果を図2に示す。ここで、テストされた木材サンプルは次の通り示される。
▲抽出されたアセチル化木材(本発明に係る)
+アセチル化木材(従来の方式では抽出されない)
○未処理の木材。
【0061】
図1において、本発明のアセチル化された抽出木質要素のEMCは、低いアセチル基含有量でも、アセチル化された非抽出の標準的な木質要素のEMCよりも低いことがわかる。
【0062】
図2において、本発明のアセチル化された抽出木質要素の1%から2%の間の所望の値の線形膨潤は、15%未満のアセチル基含有量で得られることがわかる。線形膨潤の同じ値のため、アセチル化された、非抽出の標準的な木質要素は、20%近いアセチル基含有量を必要としている。
【0063】
(付記)
(付記1)
木材を提供することと、抽出木材を提供するように前記木材を抽出ステップにかけることと、前記抽出木材をアセチル化剤と接触させることとを含み、前記抽出ステップは、前記木材を、水、アセトン、エタノール、メタノール、および酢酸からなる群から選ばれる抽出流体と接触させることを含み、溶媒は、120℃から250℃、好ましくは140℃から160℃の温度で前記抽出を実施する圧力と温度を有する、木材のアセチル化の工程。
【0064】
(付記2)
前記抽出流体が水である、付記1に記載の工程。
【0065】
(付記3)
前記木材がアセチル化流体を含浸させる前に乾燥される、付記1または2に記載の工程。
【0066】
(付記4)
前記木材が8%未満、好ましくは0.5%から4%の範囲の含水量まで乾燥される、付記3に記載の工程。
【0067】
(付記5)
前記木材が木質要素という形である、付記1から4のいずれか1つに記載の工程。
【0068】
(付記6)
前記木質要素が木材チップ、木材ストランド、木材パーティクル、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる、付記5に記載の工程。
【0069】
(付記7)
木材が無垢木材または合板という形である、付記1から4のいずれか1つに記載の工程。
【0070】
(付記8)
付記1から7のいずれか1つに記載の工程によって得られるアセチル化木材。
【0071】
(付記9)
木材を提供することと、前記木材を100℃から250℃の温度の抽出流体水で熱水抽出ステップにかけることと、前記抽出によりもたらされた前記木材を、アセチル化流体が120℃から200℃の範囲の温度の無水酢酸、酢酸、およびそれらの混合物から選ばれるアセチル化にかけることを含む工程により得られる、アセチル化木材。
【0072】
(付記10)
10-15%のアセチル基含有量で、最高2%の線形膨潤を反映させた寸法安定性を示す、好ましくは付記8または9に記載のアセチル化木質要素。
【0073】
(付記11)
木質要素およびバインダーを含み、前記木質要素が付記8から10のいずれか1つに記載のアセチル化木質要素である、パネル。
【0074】
(付記12)
木質繊維および樹脂を含み、前記木質繊維が精製された付記8から10のいずれか1つに記載のアセチル化木質要素である、中密度繊維板。
図1
図2