IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】固相点接合方法及び固相点接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
B23K20/00 340
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022507207
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009182
(87)【国際公開番号】W WO2021182444
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2020043958
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業「難接合材料を可能にする革新的接合技術の確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】釜井 正善
(72)【発明者】
【氏名】相原 巧
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-031266(JP,A)
【文献】特開2018-114536(JP,A)
【文献】特開2008-284570(JP,A)
【文献】特開平9-225648(JP,A)
【文献】特開2014-166646(JP,A)
【文献】特開2009-700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板材を重ね合わせて点接合する固相接合方法であって、
2枚以上の前記金属板材を重ね合わせた状態で挟持し、被接合界面を形成する接合準備工程と、
1対の電極による通電によって被接合界面を昇温し、前記被接合界面近傍に軟化領域を形成する昇温工程と、
所望の接合温度における前記金属板材の降伏強度以上の外部応力を前記軟化領域に印加する応力印加工程と、を有し、
前記1対の電極のうちの少なくとも一方において、前記金属板材に当接する部分の内部又は周囲に配置された押圧部によって、前記外部応力を印加し、
前記電極と前記押圧部を別々に構成し、
前記軟化領域を局所変形させて前記金属板材同士を接合すること、
を特徴とする金属板材の固相点接合方法。
【請求項2】
前記外部応力を前記接合温度における前記金属板材の流動応力とすること、
を特徴とする請求項に記載の金属板材の固相点接合方法。
【請求項3】
前記昇温工程における前記通電を、ダイレクト方式、インダイレクト方式又はシリーズ方式とすること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の金属板材の固相点接合方法。
【請求項4】
少なくとも一方の前記金属板材に凸部を設け、
前記凸部を他方の前記金属板に当接させて前記被接合界面を形成すること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載の金属板材の固相点接合方法。
【請求項5】
前記昇温の後の冷却によって、前記応力印加工程における前記金属板材の表面の温度を低下させること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載の金属板材の固相点接合方法。
【請求項6】
前記電極を内包するように配置された円筒状の成形治具を有し、
前記応力印加工程の後、前記成形治具を前記金属板材に押圧し、前記局所変形に起因して生じる前記金属板材間の間隙を減少させること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載の金属板材の固相点接合方法。
【請求項7】
前記金属板材に鉄系金属板材が含まれ、
前記接合温度を前記鉄系金属板材のA点以下とすること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載の金属板材の固相点接合方法。
【請求項8】
異材接合であること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載の金属板材の固相点接合方法。
【請求項9】
下記の(1)及び/又は(2)によって、接合温度の変化を抑制すること、
を特徴とする請求項1~のうちのいずれかに記載の金属板材の固相点接合方法。
(1)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記通電の電流値を増加させる電流密度一定制御
(2)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記応力印加工程における外部荷重を増加させる外部応力一定制御
【請求項10】
前記押圧部の先端部底面に突起部を有すること、
を特徴とする請求項1~9のうちのいずれかに記載の金属板材の固相点接合方法。
【請求項11】
ダイレクト方式、インダイレクト方式又はシリーズ方式による通電が可能な1対の電極を含む通電機構と、
前記通電機構によって昇温した金属板材の被接合界面に圧力を印加できる加圧機構と、を有し、
前記加圧機構は、前記1対の電極のうちの少なくとも一方において、前記金属板材に当接する部分の内部又は周囲に配置された押圧部によって、前記応力を印加し、
前記通電機構と前記加圧機構は別々に構成されていること、
を特徴とする金属板材の固相点接合装置。
【請求項12】
前記金属板材に当接する前記加圧機構の先端部が工具鋼、超硬合金、ニッケル基合金、コバルト基合金及びセラミックスのうちのいずれかであること、
を特徴とする請求項11に記載の固相点接合装置。
【請求項13】
前記通電機構によって、前記被接合界面近傍の温度を300~1000℃に昇温可能であり、
前記加圧機構によって、前記圧力を100~1200MPaの範囲で制御できること、
を特徴とする請求項11又は12に記載の固相点接合装置。
【請求項14】
所望する接合温度の設定により、前記圧力が前記接合温度における前記金属板材の流動応力となること、
を特徴とする請求項11~13のうちのいずれかに記載の固相点接合装置。
【請求項15】
前記電極が略円筒形状を有し、
前記加圧機構が前記電極の内部又は周囲に配置されていること、
を特徴とする請求項11~14のうちのいずれかに記載の固相点接合装置。
【請求項16】
下記の(1)及び/又は(2)によって、接合温度の変化を抑制する制御機構を有すること、
を特徴とする請求項11~15のうちのいずれかに記載の固相点接合装置。
(1)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記通電の電流値を増加させる電流密度一定制御
(2)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記加圧機構による外部荷重を増加させる外部応力一定制御
【請求項17】
前記加圧機構の前記先端部の底面に突起部を有すること、
を特徴とする請求項12~16のうちのいずれかに記載の固相点接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材同士を固相点接合する方法及び当該固相点接合方法に好適に用いることができる固相点接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来金属板の点接合には抵抗溶接法の一種である抵抗スポット溶接が広く活用されている。抵抗スポット溶接では、重ね合わせた2枚の金属板を上下から電極で挟み込み、電極から金属板に大電流を流すことで生じるジュール熱によって被接合領域を溶融させ、接合部を形成させる。
【0003】
抵抗スポット溶接は自動車産業を初めとして、様々な金属構造物の製造に不可欠な技術であるが、点接合部は溶融凝固組織となることから一般的に母材(被接合材)と比較して強度及び靭性に乏しく、接合領域の外縁には熱影響部と呼ばれる軟化領域が形成される。これらの特徴は被接合材の強度が低い場合や金属構造体に要求される強度及び信頼性が高くない場合には大きな問題とはならないが、近年では鋼板等の高強度化が急速に進められているところ、溶接部の機械的性質の低下は深刻な問題となっている。
【0004】
これに対し、例えば、特許文献1(特開2013-103273号公報)では、二枚以上の鋼板を重ね合せた板組を、一対の溶接電極で挟持し、加圧し、通電して溶接する抵抗スポット溶接方法であって、通電により所定の径のナゲットを形成する本工程と、加圧しつつ無通電とする中間工程と、再通電を行なう後工程とを有し、当該後工程において、ナゲットとコロナボンドの界面の非溶融部側における最高温度TTが、TT>Ac3となることを特徴とする抵抗スポット溶接方法が提案されている。
【0005】
上記特許文献1に記載の抵抗スポット溶接方法においては、電極で溶接部を加圧しながら無通電で冷却して凝固させることや、再通電によって融点を超えない程度において十分な高温に昇温すること等によって、少なくとも一枚以上の高張力鋼板を含む二枚以上の板組に対して、従来のテンパー通電よりも短時間で十字引張強度の高い抵抗スポット溶接継手を作製することができる、としている。
【0006】
また、特許文献2(特開2007-332452号公報)では、質量比で、C:0.15~0.25%、Si:0.1~2.5%、Mn:0.10~1.0%、Cr:0.5~3.5%を含有し、残部Fe及び不可避不純物から成り、1180MPa以上の引張強度を有すると共に、Mn及びCrの含有量がMn/(Mn+Cr)<0.50を満足することを特徴とする抵抗溶接用高張力鋼板、及び当該抵抗溶接用高張力鋼板の抵抗溶接方法が提案されている。
【0007】
上記特許文献2に記載の抵抗溶接用高張力鋼板においては、Mnの添加量を抑えると共に、Mnの減少に応じてCrを添加することによって、Cを0.25%まで添加しても接合強度がほとんど低下せず、抵抗溶接部の強度と鋼板の高強度化を両立することができ、1180MPa級以上の高張力鋼板でありながら、抵抗溶接による接合部の接合強度を確保することができる抵抗溶接性に優れた高張力鋼板を提供することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-103273号公報
【文献】特開2007-332452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている抵抗スポット溶接方法では熱履歴等によって高張力鋼板点接合部の機械的性質がある程度改善されるものの、当該点接合部における溶融凝固組織及び熱影響部の形成を抑制することはできず、高張力鋼板の強度及び靭性を十分に活用することは極めて困難である。
【0010】
また、上記特許文献2に開示されている抵抗溶接用高張力鋼板は抵抗溶接部の強度が担保されるように設計されているが、当該抵抗溶接用高張力鋼板を多種多様な特性が要求される各種金属構造部材の全てに適用することは現実的ではないことに加え、引張強度も1180MPa級に留まっている。
【0011】
更に、抵抗溶接(抵抗スポット溶接)では被接合領域を溶融させることが必須の要件となっており、溶融凝固に伴って溶接部に割れ等が生じることも大きな問題である。特に、当該問題によって炭素含有量の多い鋼には適用することができず、安価な炭素によって高強度化が図られた鋼材を効果的に産業利用することができない。
【0012】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、被接合材である金属材の種類を問わず、接合温度の正確な制御が可能であり、接合温度を低温化することができる固相点接合方法、及び当該固相点接合方法に好適に用いることができる固相点接合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記目的を達成すべく、金属材の固相点接合方法について鋭意研究を重ねた結果、被接合領域を局所的に通電加熱して軟化させると共に、固相状態の被接合界面に応力を印加して新生面を形成させること等が極めて効果的であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は、
金属板材を重ね合わせて点接合する固相接合方法であって、
2枚以上の前記金属板材を重ね合わせた状態で挟持し、被接合界面を形成する接合準備工程と、
1対の電極による通電によって被接合界面を昇温し、前記被接合界面近傍に軟化領域を形成する昇温工程と、
所望の接合温度における前記金属板材の降伏強度以上の外部応力を前記軟化領域に印加する応力印加工程と、を有し、
前記軟化領域を局所変形させて前記金属板材同士を接合すること、
を特徴とする金属板材の固相点接合方法、を提供する。
【0015】
本発明の接合方法は固相点接合方法であり、通電によって被接合界面を昇温するが、従来の抵抗スポット溶接とは異なり被接合界面を溶融させることはない。被接合界面を溶融させることなく、固相状態で接合すること(より低温で接合すること)により、接合部表面に形成される溶接焼けを抑制することができ、接合部の美観を向上させることもできる。ここで、通電の方法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のダイレクト方式、インダイレクト方式又はシリーズ方式等を用いることができ、これらに類似する通電方式を用いることもできる。
【0016】
本発明の固相点接合方法では、接合プロセスにおいて、単に被接合材の固定や被接合界面の密着性を担保するために電極から小さな圧力を印加するのではなく、接合温度の決定を目的として、大きな圧力を印加することにある。当該接合温度決定のメカニズムを模式的に図1に示す。図1は金属材の降伏応力と温度の関係を模式的に示したグラフである。金属材の降伏応力は温度に依存して変化し、当該降伏応力と温度の関係は金属材毎に異なる。
【0017】
図1に示す被接合材である金属板材の変形抵抗(降伏応力)に着目すると、温度が高い場合は低く、温度が低い場合は高くなる。即ち、被接合界面近傍に圧力を印加する場合、より高い圧力を印加することによって低い温度で変形が開始し、結果として低温で新生面が形成されて接合が達成されることになる。図1において、具体的には、被接合界面に圧力Pを印加すると、材料Aの接合温度はtとなり、圧力をPに増加させると接合温度はtに低下する。また、材料Bに関しても、圧力をPからPに増加させることで、接合温度はTからTに低下する。
【0018】
即ち、被接合材である金属板材の変形抵抗に着目すると、温度が高い場合は低く、温度が低い場合は高くなる。被接合界面近傍に圧力を印加する場合、より高い圧力を印加することによって低い温度で変形が開始し、結果として低温で接合が達成されることになる。本発明の金属板材の固相点接合方法は、本発明者が明らかにした当該メカニズムに基づいており、特定の金属板材における変形抵抗と温度は略一定の関係を有するため、被接合界面近傍に印加する圧力によって、接合温度を正確に制御することができる。なお、被接合界面近傍を局所変形させるために必要な押圧力は金属板材の厚さにも影響され、厚板の場合は大きく、薄板の場合は小さくなる。
【0019】
また、本発明の固相点接合方法においては、少なくとも一方の前記電極の内部又は周囲に配置された押圧部によって前記外部応力を印加すること、が好ましい。電極を用いて当該外部圧力を印加してもよいが、電極の寿命に留意する必要がある。従来の抵抗スポット溶接で使用される電極では、被接合材同士を当接させる程度に応力が印加されるため、当該応力印加が電極の寿命に及ぼす影響は大きくない。これに対し、本発明の固相点接合方法で印加される応力は、通電加熱による昇温によって形成される軟化領域を局所変形させて、前記金属板材同士を接合することを目的としており、所望の接合温度における前記金属板材の降伏強度以上の外部応力とする必要がある。その結果、従来の抵抗スポット溶接で使用されている電極を使用する場合、室温~接合温度における当該電極の強度及び硬度が十分でなく、極めて寿命が短くなってしまう。
【0020】
加えて、電極と押圧部を別々に構成することにより、被接合界面に外部応力を印加するタイミングも容易に制御することができる。ここで、当該外部応力を印加するタイミングは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、被接合界面への新生面形成の観点から、適宜設定すればよい。外部応力は通電後に印加してもよく、通電中に印加してもよく、通電前から印加してもよい。ここで、通電前から外部応力を印加することで、接合温度は当該外部応力に対応した値となり、外部応力を接合開始のタイミングを決定するトリガーとして使用することができる。加えて、通電前から外部応力を印加することで、被接合界面がより密着して電気抵抗が低下するため、当該領域に積極的に通電パスを形成させることができ、被接合界面近傍をより効率的に昇温させることができる。また、外部応力は一定圧力を継続的に印加してもよく、瞬間的に印加してもよく、例えば、パルス状に印加してもよい。
【0021】
更に、電極と押圧部を別々に構成することにより、押圧部による押込み量等について、適当に制御することができる。被接合界面の変形量は押圧部の押込み量に依存するため、当該押込み量を増加させることで新生面の形成を促進することができる。一方で、押圧部の押込み量が増加すると、接合部表面に凹状の窪みが形成されることから、外観上は押込み量を低減することが好ましい。即ち、新生面形成の観点と接合部表面形状の観点から、押込み量を最適化することが好ましい。
【0022】
また、本発明の固相点接合方法においては、少なくとも一方の前記電極の周囲又は内部に配置された押圧部によって前記外部応力を印加すること、が好ましい。上述の通り、従来の抵抗スポット溶接で使用されている電極を用いると、電極寿命が短くなってしまうことから、外部応力を印加する押圧部と通電する電極部は別々とすることが好ましい。この場合、押圧部には「通電」の観点から材料及び形状等の設計を行う必要がなく、「寿命」の観点から材料及び形状等を最適化することができる。
【0023】
ここで、本発明の効果を損なわない限りにおいて、押圧部の材料は特に限定されないが、例えば、各種工具鋼、超硬合金、耐熱鋼及びセラミックス等を用いることができ、一般的なパンチ及びダイス等を用いることもできる。また、被接合材との凝着及び反応等を抑制するためには、押圧部の表面に適当な硬質セラミックス被膜を形成させることが好ましい。本発明の効果を損なわない限りにおいて、硬質セラミックス被膜は特に限定されないが、例えば、各種切削工具等に用いられているPVD膜等を使用することができる。
【0024】
また、本発明の固相点接合方法においては、前記外部応力を前記接合温度における前記金属板材の流動応力とすること、が好ましい。外部応力を接合温度における金属板材の流動応力とすることで、設定した接合温度において被接合界面近傍における連続的な変形が開始され、最小限の圧力で新生面同士の当接による固相接合を安定して達成することができる。
【0025】
また、本発明の固相点接合方法においては、少なくとも一方の前記金属板材に凸部を設け、 前記凸部を他方の前記金属板に当接させて前記被接合界面を形成すること、が好ましい。金属板材の被接合部に凸部を設けることで、通電時に当該凸部に電流が集中し、効率的に被接合界面近傍の温度を上昇させることができる。加えて、押圧部から印加される外部応力によって凸部が塑性変形し、容易に固相接合部を形成することができる。
【0026】
凸部の形成方法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の加工方法を用いることができる。例えば、金属板材の表面に円環状の凹部を設け、その中心に凸部を形成してもよく、適当なプレス加工等を用いて凹部を形成してもよい。また、凹部の形状及びサイズは、接合部の形状や所望の継手特性等に応じて適宜調整すればよい。
【0027】
また、本発明の固相接合方法においては、前記昇温の後の冷却によって、前記応力印加工程における前記金属板材の表面の温度を低下させること、が好ましい。応力印加工程では被接合界面近傍の軟化領域を塑性変形させ、新生面同士の接合を達成する必要があるが、押圧部を圧入する金属板材の表面が軟化している場合、押圧部を圧入しても軟化した金属材がバリ状に排出され、被接合界面近傍の軟化領域を十分に塑性変形させることができず、新生面同士の接合を達成することが困難である。
【0028】
これに対し、昇温工程の通電によって被接合領域を加熱した後に、冷却時間を設けることで、金属板材の表面近傍の温度を低下させることができる。ここで、冷却時には被接合界面近傍の温度も低下するが、表面近傍の冷却速度は被接合界面近傍の冷却速度よりも大きいため、被接合界面近傍の軟化領域はある程度維持した状態で、金属板材表面を硬化させることができる。その結果、ある程度硬化した金属板材表面から押圧部を圧入することで、応力が十分に伝達して、被接合界面近傍の軟化領域を塑性変形させることができる。通電後の冷却に関しては、通電を停止した後にそのまま放置して空冷してもよく、送風等の従来公知の種々の方法で強制冷却してもよい。
【0029】
また、本発明の固相点接合方法においては、前記電極を内包するように配置された円筒状の成形治具を有し、前記応力印加工程の後、前記成形治具を前記金属板材に押圧し、前記局所変形に起因して生じる前記金属板材間の間隙を減少させること、が好ましい。
【0030】
本発明の固相接合方法では、通電による昇温で形成された軟化領域に外部応力を印加し、軟化領域を局所変形させて新生面を形成する必要があるため、当該局所変形によって被接合材が接合領域の周囲に流れ出し、上下の金属板材の間に隙間が形成される。これに対し、電極を内包するように配置された円筒状の成形治具によって接合領域の外周を押圧することにより、金属板材間の隙間を減少させることができる。本発明の効果を損なわない限りにおいて、成形治具の材質、形状及びサイズは特に限定されず、被接合材の材質、形状及びサイズ等に応じて適宜選定すればよい。また、成形治具による押圧力についても、被接合材の材質、形状及びサイズ等に応じて、接合プロセスによって形成される隙間が低減されるように、適宜設定すればよい。
【0031】
また、本発明の固相点接合方法においては、前記金属板材に鉄系金属板材が含まれ、前記接合温度を前記鉄系金属板材のA点以下とすること、が好ましい。従来の抵抗スポット溶接では被接合材が溶融するため、点接合部における溶融凝固組織及び熱影響部の形成を抑制することはできず、高張力鋼板等の高い強度を有する鉄系金属板材の強度及び靭性を十分に活用することは極めて困難である。また、炭素含有量の多い鋼では、溶融凝固に伴って溶接部に割れ等が生じることから、安価な炭素によって高強度化が図られた鋼材を効果的に産業利用することができない。これらに対し、本発明の固相点接合方法においては被接合材である金属板材が溶融することがないため、高張力鋼板や中高炭素鋼板であっても接合プロセスによる強度低下を極めて効率的に抑制することができる。
【0032】
また、本発明の固相点接合方法においては、異材接合であること、が好ましい。一般的に、異材金属を溶融溶接した場合、接合界面に脆弱な金属間化合物層が形成し、継手の機械的性質が大幅に低下してしまう。当該現象は、例えば、産業的な用途が広い鋼-アルミニウム、銅-アルミニウム、チタン-アルミニウム、及びチタン-鋼等において顕著であることから、抵抗スポット溶接によってこれらの良好な点接合部を形成させることは困難である。これに対し、本発明の固相点接合方法では金属板材を溶融させず、新生面同士の当接による低温接合によって接合が達成されるため、金属間化合物の形成を極めて効果的に抑制することができる。
【0033】
また、本発明の固相点接合方法においては、下記の(1)及び/又は(2)によって、接合温度の変化を抑制すること、が好ましい。
(1)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記通電の電流値を増加させる電流密度一定制御
(2)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記応力印加工程における外部荷重を増加させる外部応力一定制御
【0034】
金属板材の被接合領域に、所望の接合温度における当該金属板材の降伏応力以上の外部応力を印加した状態で、通電によって被接合界面近傍を昇温した場合、被接合界面における金属板材表面同士の密着状況は刻々と変化する。より具体的には、密着面積は増加していくことから、電流密度は減少することとなる。また、外部荷重を一定とする場合、密着面積の増加に起因して、外部応力は減少することとなる。ここで、電流密度の減少は昇温速度を低下させ、被接合界面近傍を所望の接合温度とすることが困難な場合が生じる。また、外部応力の減少は、当該外部応力で決定される接合温度を上昇させることになり、所望の接合温度を正確に制御することが困難な場合が生じる。
【0035】
これに対し、被接合界面における密着面積の増加に伴って通電の電流値を増加させる電流密度一定制御によって、被接合界面近傍を所望の接合温度まで短時間かつ均一に昇温することができる。また、被接合界面における密着面積の増加に伴って外部荷重を増加させる外部応力一定制御によって、所望の接合温度をより正確に制御することができる。電流密度一定制御及び外部応力一定制御の具体的な方法については、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができる。例えば、電流値や外部荷重を多段階に設定すればよい。
【0036】
更に、本発明の固相点接合方法においては、前記押圧部の先端部底面に突起部を有すること、が好ましい。被接合領域に突起部を挿入後、それ以外の領域で更に押圧することにより、被接合界面近傍における塑性変形を促進することができ、欠陥の形成を抑制することができる。当該先端部底面の形状は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、摩擦攪拌接合用ツールや金属加工工具として提案されている形状を使用することができる。
【0037】
なお、本発明の固相点接合方法で接合を施す金属板材の材質、形状及びサイズは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、従来の抵抗スポット溶接で対象となる金属板材は全てが対象となる。
【0038】
また、本発明は、
ダイレクト方式、インダイレクト方式又はシリーズ方式による通電が可能な1対の電極を含む通電機構と、
前記通電機構によって昇温した金属板材の被接合界面に圧力を印加できる加圧機構と、を有すること、
を特徴とする金属板材の固相点接合装置、も提供する。
【0039】
本発明の金属板材の固相点接合装置の最大の特徴は、通電機構とは別に、金属板材の被接合界面に圧力を印加できる加圧機構を有していることにある。ここで、従来の抵抗スポット溶接装置において加圧機構を有する場合、当該加圧機構は主として被接合材を当接させて位置を固定するために使用される(即ち、被接合界面に圧力を印加するものではない)。これに対し、本発明の金属材の固相点接合装置における加圧機構は、通電による昇温で形成される軟化領域(被接合界面)に圧力を印加し、軟化領域を局所変形させて前記金属板材同士を接合することを目的としている。
【0040】
また、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、前記金属板材に当接する前記加圧機構の先端部が工具鋼、超硬合金、ニッケル基合金、コバルト基合金及びセラミックスのうちのいずれかであること、が好ましい。加圧機構には軟化領域を局所変形させて被接合界面に新生面を形成させる能力を有することと、長寿命であることが要求される。ここで、加圧機構の先端部を工具鋼、超硬合金、ニッケル基合金、コバルト基合金及びセラミックスのうちのいずれかとすることで、十分な強度及び硬度を担保することができる。ここで、接合温度が比較的低い場合は工具鋼や超硬合金を用いることが好ましく、接合温度が比較的高い場合はニッケル基合金やコバルト基合金、接合温度がより高い場合はセラミックスを用いることが好ましい。また、セラミックスを用いることで、被接合材の凝着及び被接合材との反応を抑制することができる。加圧機構の先端部にこれらの材料のバルク材を用いてもよく、例えば、工具鋼の表面にセラミックス被膜を形成させてもよい。
【0041】
また、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、前記通電機構によって、前記被接合界面近傍の温度を300~1000℃に昇温可能であり、前記加圧機構によって、前記圧力を100~1200MPaの範囲で制御できること、が好ましい。被接合界面の温度を300~1000℃に昇温することで、種々の金属板材に関して、当該被接合界面を小型の加圧機構による外力印加(100~1200MPa)によって局部変形が生じる程度に、十分に強度を低下させることができる。
【0042】
また、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、所望する接合温度の設定により、前記圧力が前記接合温度における前記金属板材の流動応力となること、が好ましい。外部応力を接合温度における金属板材の流動応力とすることで、設定した接合温度において被接合界面近傍における連続的な変形が開始され、最小限の圧力で新生面同士の当接による固相接合を安定して達成することができる。
【0043】
流動応力の温度依存性は各金属材に固有のものであり、固相点接合装置が各温度における流動応力をデータベースとして保有しておくことで、金属材の種類と所望の接合温度を設定すれば、対応する圧力を決定することができる。なお、固相点接合装置には少なくとも各種鉄系材料のデータベースを記録させておくことが好ましい。
【0044】
また、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、前記電極が略円筒形状を有し、 前記加圧機構が前記電極の内部又は周囲に配置されていること、が好ましい。略円筒形状の電極の内部又は周囲に加圧機構を有することで、当該電極によって通電加熱された軟化領域(被接合界面)に対して効率的に外部応力を印加することができる。加えて、電極と加圧機構をコンパクトに一体化させることができ、金属板材に当接させる機構を小型化することができる。ここで、電極の形状及び仕様は、金属板材の表面から被接合界面までを均質に加熱できるように設計することが好ましい。被接合界面だけでなく、金属板材の表面から被接合界面までを均質に軟化させることで、加圧機構による局所変形を容易に達成することができる。
【0045】
また、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、下記の(1)及び/又は(2)によって、接合温度の変化を抑制する制御機構を有すること、が好ましい。
(1)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記通電の電流値を増加させる電流密度一定制御
(2)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記加圧機構による外部荷重を増加させる外部応力一定制御
【0046】
金属板材の被接合領域に、所望の接合温度における当該金属板材の降伏応力以上の外部応力を印加した状態で、通電によって被接合界面近傍を昇温した場合、被接合界面における金属板材表面同士の密着状況は刻々と変化する。より具体的には、密着面積は増加していくことから、電流密度は減少することとなる。また、外部荷重を一定とする場合、密着面積の増加に起因して、外部応力は減少することとなる。ここで、電流密度の減少は昇温速度を低下させ、被接合界面近傍を所望の接合温度とすることが困難な場合が生じる。また、外部応力の減少は、当該外部応力で決定される接合温度を上昇させることになり、所望の接合温度を正確に制御することが困難な場合が生じる。
【0047】
これに対し、被接合界面における密着面積の増加に伴って通電の電流値を増加させる電流密度一定制御によって、被接合界面近傍を所望の接合温度まで短時間かつ均一に昇温することができる。また、被接合界面における密着面積の増加に伴って外部荷重を増加させる外部応力一定制御によって、所望の接合温度をより正確に制御することができる。電流密度一定制御及び外部応力一定制御の具体的な制御機構については、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の制御機構を用いることができる。例えば、電流値や外部荷重を多段階に設定できる制御機構を適用すればよい。
【0048】
更に、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、前記押圧部の先端部底面に突起部を有すること、が好ましい。被接合領域に突起部を挿入後、それ以外の領域で更に押圧することにより、被接合界面近傍における塑性変形を促進することができ、欠陥の形成を抑制することができる。当該先端部底面の形状は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、摩擦攪拌接合用ツールや金属加工工具として提案されている形状を使用することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、被接合材である金属材の種類を問わず、接合温度の正確な制御が可能であり、接合温度を低温化することができる固相点接合方法、及び当該固相点接合方法に好適に用いることができる固相点接合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】金属材の降伏応力と温度の関係を模式的に示したグラフである。
図2】ダイレクト方式を用いた場合の接合準備工程の一態様を示す断面模式図である。
図3】インダイレクト方式を用いた場合の接合準備工程の一態様を示す断面模式図である。
図4】シリーズ方式を用いた場合の接合準備工程の一態様を示す断面模式図である。
図5】ダイレクト方式を用いた場合の昇温工程の一態様を示す断面模式図である。
図6】インダイレクト方式を用いた場合の昇温工程の一態様を示す断面模式図である。
図7】シリーズ方式を用いた場合の昇温工程の一態様を示す断面模式図である。
図8】ダイレクト方式で一方の溶接電極にのみ押圧部を備えた場合の応力印加工程の一態様を示す断面模式図である。
図9】ダイレクト方式で両方の溶接電極に押圧部を備えた場合の応力印加工程の一態様を示す断面模式図である(パターン1)。
図10】ダイレクト方式で両方の溶接電極に押圧部を備えた場合の応力印加工程の一態様を示す断面模式図である(パターン2)。
図11】押圧部12の代表的な形状を示す模式図である。
図12】ダイレクト方式を用いる場合の固相点接合装置の一態様を示す概略図である。
図13図11に示す固相接合装置の溶接電極近傍の拡大図である。
図14】実施例で用いた固相点接合装置の電極近傍の概略断面図である。
図15】実施例(外部荷重一定)で用いた中心加圧軸の模式図である。
図16】実施例で得られた継手の外観写真である。
図17】実施例で得られた継手の断面マクロ写真である。
図18】実施例で得られた継手の母材のSEM像である。
図19】実施例で得られた継手の接合部のSEM像である。
図20】実施例(多段階荷重制御)で用いた中心加圧軸の模式図である。
図21】実施例で得られた継手の断面マクロ写真である。
図22】実施例で得られた継手の接合部の微細組織写真である。
図23】3750Aで得られた継手の接合部端部のSEM像である。
図24】3750Aで得られた継手の接合部端部の結晶方位マップである。
図25】実施例で得られた継手の接合部の硬度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、図面を参照しながら本発明の金属材の固相点接合方法及び固相点接合装置の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0052】
(1)金属材の固相点接合方法
本発明の金属材の固相点接合方法は、2枚以上の金属板材を重ね合わせた状態で挟持し、被接合界面を形成する接合準備工程と、1対の電極を用い、ダイレクト方式、インダイレクト方式又はシリーズ方式による通電で被接合界面を昇温し、被接合界面近傍に軟化領域を形成する昇温工程と、所望の接合温度における金属板材の降伏強度以上の外部応力を軟化領域に印加する応力印加工程と、を有している。以下、押圧部を溶接電極の内部に備える場合を代表例として、各工程について詳述する。
【0053】
(1-1)接合準備工程
接合準備工程では、2枚以上の金属板材を重ね合わせた状態で挟持し、被接合界面を形成させる。2枚以上の金属板材を少なくとも被接合領域で重畳させた状態で密着させ、接合行程において移動しないように固定すればよい。
【0054】
図2はダイレクト方式を用いた場合の接合準備工程の一態様を示す断面模式図である。金属板材2と金属板材4を重畳させて被接合界面6を形成し、被接合界面6の上下から溶接電極8及び溶接電極10で金属板材2と金属板材4を挟持している。ここで、図2においては溶接電極8及び溶接電極10のみで金属板材2と金属板材4の位置が固定されているが、これら以外に適当な固定治具を用いてもよい。なお、本発明における溶接電極とは、通電によって被接合領域を昇温するためのものであり、通常の溶接電極のように被接合材を溶かすものではない。
【0055】
また、図2においては、金属板材2の表面に配置された溶接電極8の内部に押圧部12が備わっているが、溶接電極10のみに押圧部12を設けてもよく、溶接電極8及び溶接電極10に押圧部12を設けてもよい。接合準備工程においては、押圧部12は溶接電極8,10の外に出ないように制御されている。
【0056】
接合準備工程において溶接電極から印加する加圧力は金属板材2と金属板材4を密着させることが目的であり、通常の抵抗スポット溶接と同様に0.1~数MPa程度で十分である。また、溶接電極8及び溶接電極10の材質、形状及びサイズは特に限定されず、従来公知の種々の抵抗スポット溶接用電極と同様の電極を用いることができるが、押圧部12を内部に設ける場合は貫通孔を形成させる必要がある。
【0057】
図3はインダイレクト方式を用いた場合の接合準備工程の一態様を示す断面模式図である。金属板材2と金属板材4を重畳させて被接合界面6を形成し、被接合界面6の上方(金属板材2側)から溶接電極8を当接させ、金属板材4の金属板材2と重畳していない領域に溶接電極10を当接させている。この場合、被接合界面6の下側(金属板材4側)には溶接電極が配置されていないため、溶接電極8及び押圧部12による印加応力に耐えるため、適当な治具等によって被接合界面6の下側(金属板材4側)を支持するか、金属板材4自体に十分な強度を付与する必要がある。
【0058】
図4はシリーズ方式を用いた場合の接合準備工程の一態様を示す断面模式図である。金属板材2と金属板材4を重畳させるのは他の通電方式と同様であるが、シリーズ方式を用いる場合は被接合界面6が2箇所形成されることになる。シリーズ方式の場合、溶接電極8及び溶接電極10を一方の金属板材側から当接させることになるため、溶接電極以外の手段で金属板材2,4を支持する必要がある。また、両方の溶接電極の下側に加熱部が形成されることから、溶接電極8及び溶接電極10の両方に押圧部12を設ける必要がある。
【0059】
(1-2)昇温工程
昇温工程は、溶接電極8及び溶接電極10を用いた通電によって被接合界面6を昇温し、被接合界面6近傍に軟化領域を形成する工程である。
【0060】
図5はダイレクト方式を用いた場合の昇温工程の一態様を示す断面模式図である(図中の矢印は電流を示している。)。ダイレクト方式を用いた場合、溶接電極8から対抗して配置された溶接電極10に通電され、被接合界面6の近傍に軟化領域20が形成される。ここで、ダイレクト方式の場合は電流の状態を溶接電極8のみならず溶接電極10によっても制御することが容易であることから、押圧部12で圧力を印加する領域(金属板材の表面~被接合界面6)を的確に軟化させることができる。ここで、本発明の金属材の固相点接合方法においては、最終的に接合界面となる領域が溶融することはないが、例えば、界面にフラックス等を配置した場合は当該フラックス等を溶融させることは本発明の技術的な範囲に含まれる。また、例えば、異材接合を行う場合、被接合界面において低融点の化合物が生成する場合も存在するが、最終的に当該溶融領域が接合界面から排出される場合は、本発明の技術的な範囲に含まれる。
【0061】
図6はインダイレクト方式を用いた場合の昇温工程の一態様を示す断面模式図である(図中の矢印は電流を示している。)。インダイレクト方式を用いた場合、溶接電極10を溶接電極8と対応して配置する必要がないため、例えば、金属板材4の下方に溶接電極10を配置するスペースがない場合に好適に用いることができる。なお、インダイレクト方式を用いた場合は、溶接電極8の下方に軟化領域20が形成される。
【0062】
図7はシリーズ方式を用いた場合の昇温工程の一態様を示す断面模式図である(図中の矢印は電流を示している)。シリーズ方式を用いた場合、溶接電極8及び溶接電極10の下方における被接合界面6を同時に昇温することができ、軟化領域20を効率的に形成させることができる。ここで、2カ所の軟化領域20に対して加圧する必要があることから、溶接電極8及び溶接電極10の両方に押圧部12が備わっている。
【0063】
通電する電流値は一定としてもよいが、昇温及び押圧によって被接合界面6における金属板材4表面同士の密着状況は刻々と変化することから、密着面積の増加に伴って電流値を増加させることが好ましい。電流値は多段階に増加させてもよく、連続的に増加させてもよい。被接合界面6における密着面積の増加に伴って通電の電流値を増加させる電流密度一定制御によって、被接合界面6近傍を所望の接合温度まで短時間かつ均一に昇温することができる。
【0064】
(1-3)応力印加工程
応力印加工程は、所望の接合温度における金属板材(2,4)の降伏強度以上の外部応力を軟化領域20に印加する工程である。応力印加工程に関しては、ダイレクト方式による通電を用いる場合を代表例として説明する。
【0065】
図8はダイレクト方式で一方の溶接電極にのみ押圧部を備えた場合の応力印加工程の一態様を示す断面模式図である。金属板材2の表面側から軟化領域20に押圧部12を圧入することで、被接合界面6近傍を局所変形させ、新生面同士の当接による固相接合を達成する。この場合、押圧部12を圧入した金属板材2の表面に凹部が形成されることになる。ここで、押圧部12への外部荷重は、通電前に印加しておくことが好ましい。金属板材2の表面に凹部が形成される場合であっても、接合部に外部応力が印加された場合において、亀裂の発生位置から凹部表面までの最短の距離を、被接合材の板厚よりも長くすることによって、接合部の強度及び信頼性を十分に担保することができる。
【0066】
図9及び図10はダイレクト方式で両方の溶接電極に押圧部を備えた場合の応力印加工程の一態様を示す模式図である。溶接電極8及び溶接電極10の両方に押圧部12を備えた場合、主として、2つの押圧部12を同時に金属板材の表面から軟化領域20に圧入するパターン(パターン1)と、一方の押圧部12の圧入に伴って他方の押圧部12を溶接電極中に引き込んだ後、両方の押圧部12を金属板材の表面まで移動させるパターン(パターン2)が存在する。パターン1の一態様を示す断面模式図を図9に、パターン2の一態様を示す断面模式図を図10に、それぞれ示す。
【0067】
パターン1においては、金属板材2の表面から溶接電極8に備わった押圧部12を軟化領域20に圧入すると共に、金属板材4の表面から溶接電極10に備わった押圧部12を軟化領域20に圧入する。その結果、一方から押圧部12を圧入する場合と比較して被接合界面6近傍での局所変形が促進され、より効果的に接合部を形成することができる。この場合、押圧部12を圧入した金属板材2及び金属板材4の表面に凹部が形成されることになる。
【0068】
また、パターン2においては、金属板材2の表面から溶接電極8に備わった押圧部12を軟化領域20に圧入すると共に、溶接電極10に備わった押圧部12を溶接電極10の内部に引き下げる。圧入する押圧部12の下方に凹部を設けることで、当該押圧の効果が促進されることに加え、被接合界面6が屈曲することから、より強固な接合界面を得ることができる。ここで、押圧部12を溶接電極10に引き下げる距離は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、接合部の強度及び外観等を考慮して適宜決定すればよいが、押圧部12を押し込む距離と同程度にすることが好ましい。
【0069】
加えて、パターン2においては、最終的に上下の押圧部12が金属板材(2,4)の表面に位置するため、金属板材(2,4)の表面における凹部の形成が抑制され、平滑な接合部表面を得ることができる。
【0070】
また、図には示していないが、溶接電極(8,10)を内包するように配置された円筒状の成形治具を設け、応力印加工程の後、成形治具を金属板材(2,4)の表面から押圧し、押圧部12の圧入による局所変形に起因して生じる金属板材間の間隙を減少させることが好ましい。一方で、応力印加工程の前から成形治具による大きな圧力が印加されると、局所変形した材料が移動するスペースが減少することから、圧力の大きさ及び印加タイミングは局所変形挙動に応じて適宜調整することが好ましい。
【0071】
押圧部12を押圧する外部荷重は一定としてもよいが、昇温及び押圧によって被接合界面6における金属板材4表面同士の密着状況は刻々と変化することから、密着面積の増加に伴って外部荷重を増加させることが好ましい。外部荷重は多段階に増加させてもよく、連続的に増加させてもよい。被接合界面6における密着面積の増加に伴って外部荷重を増加させる外部応力一定制御によって、外部応力によって決定される接合温度をより正確に制御することができる。また、通電の電流値を一定とした場合、密着面積の増加に伴う電流密度の低下により、押圧部12の圧入が困難な状況となる場合が存在するが、外部荷重を増加させることにより、押圧部12を円滑に圧入することができる。
【0072】
押圧部12の代表的な形状に関する模式図を図11に示す。押圧部12の底面には突起部30が設けられており、金属板材2の表面から突起部30が押圧された後、底面部32が押圧される。突起部30は底面部32を含む底面全体と比較して面積が小さいため、金属板材2に円滑に圧入することができる。加えて、突起部30の圧入によって被接合界面6から押し出された材料が底面部32で押し潰され、被接合界面6から排出されることで、良好な接合部を得ることができる。
【0073】
(2)金属材の固相点接合装置
本発明の金属材の固相点接合装置は、ダイレクト方式、インダイレクト方式又はシリーズ方式による通電が可能な1対の電極を含む通電機構と、通電機構によって昇温した金属板材の被接合界面に圧力を印加できる加圧機構と、を有すること、を特徴とするものである。以下、ダイレクト方式を用いる場合を代表例として、説明する。
【0074】
図12はダイレクト方式を用いる場合の固相点接合装置の一態様を示す概略図である。また、図13図12に示す固相接合装置の溶接電極近傍の拡大図である。通電機構は、溶接電極8及び溶接電極10を含み、従来一般的な抵抗スポット溶接機と同様に、溶接電源、ブスバー及び各種制御装置等から構成されている。また、加圧機構は、押圧部12をサーボプレス機で上下させる機構となっている。ここで、溶接電極の中央には貫通孔が設けられており、押圧部12を挿入できる形状となっている。
【0075】
金属板材に当接する加圧機構の先端部(押圧部12の先端部)がセラミックスであること、が好ましい。加圧機構には軟化領域20を局所変形させて被接合界面6に新生面を形成させる能力を有することと、長寿命であることが要求される。ここで、加圧機構の先端部を適当なセラミックスとすることで、十分な強度及び硬度を担保しつつ、被接合材の凝着及び被接合材との反応を抑制することができる。加圧機構の先端部にセラミックスのバルク材を用いてもよく、例えば、工具鋼の表面にセラミックス被膜を形成させてもよい。
【0076】
また、通電機構によって、被接合界面6近傍の温度を300~1000℃に昇温可能であり、加圧機構によって、印加圧力を100~1200MPaの範囲で制御できること、が好ましい。被接合界面6の温度を300~1000℃に昇温することで、種々の金属板材(2,4)に関して、被接合界面6を小型の加圧機構(プレス機)による外力印加(100~1200MPa)によって局部変形が生じる程度に、十分に強度を低下させることができる。
【0077】
また、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、所望する接合温度の設定により、印加圧力が接合温度における金属板材2,4の流動応力となること、が好ましい。外部応力を接合温度における金属板材2,4の流動応力とすることで、設定した接合温度において被接合界面6近傍における連続的な変形が開始され、最小限の圧力で新生面同士の当接による固相接合を安定して達成することができる。ここで、金属板材2と金属板材4の材質が異なる場合、両方の金属板材に局所変形が生じる印加圧力とすることが好ましい。
【0078】
流動応力の温度依存性は各金属材に固有のものであり、固相点接合装置が各温度における流動応力をデータベースとして保有しておくことで、金属材の種類と所望の接合温度を設定すれば、対応する圧力を決定することができる。なお、固相点接合装置には少なくとも各種鉄系材料のデータベースを記録させておくことが好ましい。
【0079】
また、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、溶接電極(8,10)が略円筒形状を有し、加圧機構が溶接電極(8,10)の内部又は周囲に配置されていること、が好ましい。また、加圧機構は溶接電極(8,10)の内部に配置されていることがより好ましい。略円筒形状の溶接電極(8,10)の内部に加圧機構を有することで、溶接電極(8,10)によって通電加熱された軟化領域20(被接合界面6)に対して効率的に外部応力を印加することができる。加えて、溶接電極(8,10)と加圧機構をコンパクトに一体化させることができ、金属板材(2,4)に当接させる機構を小型化することができる。ここで、溶接電極(8,10)の形状及び仕様は、金属板材(2,4)の表面から被接合界面6までを均質に加熱できるように設計することが好ましい。被接合界面6だけでなく、金属板材(2,4)の表面から被接合界面6までを均質に軟化させることで、加圧機構による局所変形を容易に達成することができる。
【0080】
また、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、下記の(1)及び/又は(2)によって、接合温度の変化を抑制する制御機構を有すること、が好ましい。
(1)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記通電の電流値を増加させる電流密度一定制御
(2)前記被接合界面における密着面積の増加に伴って前記応力印加工程における外部荷重を増加させる外部応力一定制御
【0081】
被接合界面6における密着面積の増加に伴って通電の電流値を増加させる電流密度一定制御によって、被接合界面6近傍を所望の接合温度まで短時間かつ均一に昇温することができる。また、被接合界面6における密着面積の増加に伴って外部荷重を増加させる外部応力一定制御によって、所望の接合温度をより正確に制御することができる。電流密度一定制御及び外部応力一定制御の具体的な制御機構については、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の制御機構を用いることができる。例えば、電流値や外部荷重を多段階に設定できる制御機構を適用すればよい。
【0082】
更に、本発明の金属板材の固相点接合装置においては、押圧部12の先端部底面に突起部を有することが好ましい。押圧部12の代表的な形状に関する模式図を図11に示しているが、被接合領域に突起部30を挿入後、底面部32で更に押圧することにより、被接合界面6近傍における塑性変形を促進することができ、欠陥の形成を抑制することができる。また、接合の予備処理として金属板材2に凸部を設けたい場合、突起部30を利用して、塑性加工することができる。当該先端部底面の形状は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、摩擦攪拌接合用ツールや金属加工工具として提案されている形状を使用することができる。
【0083】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0084】
《外部荷重一定による固相点接合》
被接合材に150mm×50mm×2mmの中炭素鋼(JIS-S45C)板材を用い、本発明の固相点接合を施した。当該中炭素鋼板材はフェライト・パーライト組織を有している。2枚の中炭素鋼材を十字に重ね合わせ、本発明の固相線接合によって接合した。
【0085】
図14に固相点接合に用いた固相点接合装置の電極近傍の概略断面図を示す。当該固相点接合装置は、中心加圧軸(押圧部)と、円筒形状の通電用銅電極を備えている。中心加圧軸は超硬合金製であり、最大適用推力が40kNのACサーボプレス機によって被接合領域を押圧することができる。中心加圧軸の模式図を図15に示す。また、円筒形状の銅電極はエアシリンダーにより軽荷重を印加することができ、中心加圧軸とは別駆動で制御されている。銅電極に通電するための電源には、5000Aで最長9秒の通電が可能な株式会社アマダミヤチ製のIS-300Aを用いた。
【0086】
銅電極の加圧力を3.4kNとして重ね合わせた被接合材を上下から挟み込み、当該被接合材を固定した。次に、銅電極から3500~5000Aの電流を通電して被接合材を加熱し、1000MPaの圧力で中心加圧軸を被接合領域の上下から圧入した。
【0087】
電流値を4500A、通電時間を2秒として得られた継手の外観写真を図16に示す。被接合材の中心に点接合部が形成されていることが分かる。当該点接合部を図中の点線で切断した断面のマクロ写真を図17に示す。中心加圧軸による押圧によって接合部の上下は凹状となっており、成形治具を用いていないことから、接合部の周囲は隆起した状態となっている。
【0088】
図17に示す1~4の各点に関して、マイクロビッカース硬度計にて硬度測定を行ったところ、測定点1:243HV、測定点2:265HV、測定点3:281HV、測定点4:274HVであった。測定点1は母材、測定点2~4は接合部であり、接合部は母材と同等の硬度を有していることが分かる。この結果は、接合部において接合の入熱に起因するマルテンサイト変態が生じなかったことを意味している。なお、ビッカース硬度測定は荷重:0.1kgf、荷重負荷時間:15sの条件とした。
【0089】
母材(測定点1)及び接合部(測定点2)に対して、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて微細組織観察を行った。なお、SEMには日本電子株式会社製のJSM-7001FAを用いた。母材及び接合部のSEM像を図18及び図19にそれぞれ示す。母材は中炭素鋼の典型的なフェライト・パーライト組織となっている。これに対し、接合部ではセメンタイトが細かく分布し、フェライト粒も扁平な形状で存在している。また一部のセメンタイトは球状化が起こっている。これは、中心加圧軸を押圧することによる塑性変形に伴い、パーライトが細かく分断されると共に、フェライト粒が扁平した結果である。また通電による加熱の影響を受け、球状セメンタイトが析出したと考えられる。これらの結果は、本発明の固相点接合方法によって、マルテンサイト変態を伴わないA点以下での点接合が達成されたことを示している。
【0090】
《多段階荷重制御による固相点接合》
図20に示す形状を有する中心加圧軸を用い、電流値を3250A、3500A、3750Aのいずれかとし、150mm×50mm×1.6mmの中炭素鋼(JIS-S45C)板材を被接合材として固相点接合を施した。接合プロセスとしては、(1):被接合材である板材を銅電極で挟み、(2):銅電極に対して任意の設定荷重を印加する。その後、(3):中心加圧軸に対し1段階目の設定荷重を印加する。(4):加圧をしたまま通電を開始し、被接合界面で温度が上昇し材料の変形が生じる。(5):変形が進行し、設定した1段階目の寄り代(中心加圧軸の押込み量設定値)の変形が完了すると、(6):中心加圧軸に対し2段階目の設定荷重を印加する。(7):(5)及び(6)のプロセスを繰り返し、9段階目まで荷重を増加させる。実際に設定した印加荷重と寄り代の値を表1に示す。1段階目から9段階目までを切れ目なく、連続的に行うことで、あたかも1つのプロセスのように接合を完了させることができる。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すように荷重を変化させ、各電流値で得られた継手の断面写真を図21に示す。電流値の増加に伴って接合界面の直径が増加している。また、図22に各継手の接合界面における微細組織を示す。いずれの電流値においても、中心部の微細組織は、母材と同様なフェライトとパーライトからなる組織であった。接合界面近傍には微細なフェライト粒が存在していた。これは大荷重の印加により巨大なひずみが導入され、かつ接合部の温度が上昇したことにより、動的再結晶が生じたと考えられる。また、接合界面近傍では、微細なセメンタイトが接合界面近傍に分布し、一部のセメンタイトは球状化していた。これは、中心加圧軸の押圧に伴う塑性変形により、パーライトが細かく分断されると共に通電による昇温により球状化したと考えられる。接合界面端部の微細組織は、電流値3250Aと3500Aの条件では中心部と同様のフェライトとパーライトからなる組織であった。中心部とは異なり、接合界面近傍で微細なセメンタイト粒は減少している。温度の上昇に伴いセメンタイトが固溶したと考えられる。
【0093】
図23に、電流値3750Aの条件で得られた継手の端部から1mm内側の領域において撮影したSEM写真を示す。当該領域においては、フェライトとセメンタイトからなる組織が形成されていることが確認できる。
【0094】
図24に、中心部および端部から1mm内側の領域における結晶方位マップ(IPF)を示す。端部の平均結晶粒径は1.7μmであった。母材の平均結晶粒径は約14μmとなっていることから、動的再結晶による微細化が生じたと考えられる。端部における微細粒の分布は、接合界面近傍のみならず界面から離れた領域においても確認されたことから、広範囲で動的再結晶が生じたことが分かる。一方で、中心部では界面のごく近傍でのみ動的再結晶が生じていた。動的再結晶は、一般的に高温または高ひずみになるほど促進されることから、端部では中心部よりも高温であったために、動的再結晶が促進され、微細な組織の形成をもたらしたと考えられる。
【0095】
図25に、各電流値で得られた継手断面の硬さ分布を示す。硬さ分布の測定は、図25に示した断面写真上の点線に沿って実施した。また、母材の平均硬さを点線で示している。全ての電流値の条件において、接合部の中心の硬度は母材と同等の250HV程度であり、中心部では、A点以上の温度に到達していなかったと考えられる。
【0096】
電流値3250Aと3500Aの条件における端部の硬度は、母材と同等の250HV程度であった。この結果より、3250Aと3500Aの条件では、接合部全体でマルテンサイト変態を伴わずA点以下での接合が達成できていることが確認できる。電流値3750Aの条件における端部の硬度は380HV程度であり、母材より高い値を示した。この接合条件における端部の微細組織はフェライトとマルテンサイトであったことから、硬質なマルテンサイトの形成により、端部において硬度上昇したと考えられる。なお、硬度が上昇した領域は端部から約1mm程度の幅であり、非常に狭い領域である。
【0097】
表2に多段階荷重制御を用いた各接合条件で得られた継手のせん断引張強度を示す。電流値の増加に伴い、せん断引張強度が向上している。電流値を増加させることで被接合界面近傍が速やかに軟化し、中心加圧軸の圧入による塑性変形で新生面同士の密着が進行する。ここで、被接合界面近傍の昇温が速やかに達成されることで塑性変形が十分に行われ、接合面積が増大したことが強度の向上に寄与した原因の一つであると考えられる。
【0098】
【表2】
【0099】
溶融溶接の場合、脆化を起こさない材料で、今回被接合材として用いた中炭素鋼(JIS-S45C)と同等の引張強度(720MPa)を持つ材料において、5√tのナゲット径を有する抵抗スポット溶接継手のせん断引張強度の予測値は15.8kNとなる(溶接学会論文集,vol.14, No.4, p.754-761 (1996))。本発明の固相接合法により、これと同等以上の値が得られており、本発明の固相接合法を用いることで、溶融溶接が極めて困難な中炭素鋼においても良好な接合部が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0100】
2,4・・・金属板材、
6・・・被接合界面、
8,10・・・溶接電極、
12・・・押圧部、
20・・・軟化領域、
30・・・突起部、
32・・・底面部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25