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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】密閉型圧縮機、および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/02 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
F04C29/02 A
F04C29/02 311A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021536563
(86)(22)【出願日】2019-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2019030101
(87)【国際公開番号】W WO2021019750
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】志田 勝吾
(72)【発明者】
【氏名】戸田 隼
(72)【発明者】
【氏名】川辺 功
(72)【発明者】
【氏名】平山 卓也
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-165502(JP,A)
【文献】特開平09-250483(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0053371(KR,A)
【文献】実開昭61-094296(JP,U)
【文献】特開2017-150424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ室を形成するシリンダと、
前記シリンダ室内に配置される偏心部を有する回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持し、前記シリンダ室における前記回転軸の軸芯方向の一端側の端面を規定する第1の軸受および他端側の端面を規定する第2の軸受と、を備える圧縮機構部を収容し、
前記圧縮機構部の摺動部分を潤滑する潤滑油を貯留する密閉容器を備え、
前記回転軸は、前記偏心部を境に前記軸芯方向の一端側で前記第1の軸受に支持される主軸部と、他端側で前記第2の軸受に支持される副軸部と、を有し、
前記副軸部は、前記軸芯方向の他端よりも一端側を基端として、前記回転軸の回転方向に沿って前記軸芯方向の一端側へ螺旋状に連続する前記潤滑油の通油溝を外周面に有し、
前記第2の軸受は、フランジ部と前記フランジ部から突出する筒部とを有し、前記フランジ部の前記軸芯方向の一端面および前記筒部の前記軸芯方向の他端面には、周方向に連続する溝がそれぞれ設けられ、
前記筒部の前記他端面に設けられた前記溝の内壁部は、前記回転軸の径方向からみて前記通油溝の基端とラップし、前記内壁部の前記径方向の肉厚は、前記筒部の前記内壁部以外の部分の前記径方向の肉厚よりも薄く、前記第1の軸受が前記主軸部を支持する前記第1の軸受における前記軸芯方向の一端部分の前記径方向の肉厚よりも薄い
密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記回転軸の前記軸芯方向の他端部に設けられたバランサと、
前記バランサを覆うバランサカバーと、をさらに備え、
前記第2の軸受は、前記シリンダ室で圧縮された作動流体を前記バランサカバーのカバー空間に吐出する吐出孔と、前記カバー空間と前記密閉容器内の潤滑油貯留面の上方空間とを連通する連通路と、を有し、
前記バランサカバーは、前記回転軸の他端側から前記連通路に向けて傾斜する傾斜部を有する
請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
前記バランサカバーは、前記第2の軸受にボルトで固定され、前記ボルトによる固定部を避けて前記カバー空間を区画するとともに前記カバー空間で互いに連通する複数の分室部を有し、
複数の前記分室部のうち、少なくとも一つは、前記連通路と連通し、
前記連通路と連通する前記分室部には、前記径方向の外側へ向かうに従って前記連通路に近づく傾斜面を有する前記傾斜部が設けられている
請求項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
前記傾斜面は、水平面に対する傾斜角度が70°以下である
請求項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項5】
前記軸芯方向からみて、前記回転軸の回転方向において前記吐出孔の開口中心から前記連通路の開口中心までの前記回転軸の軸芯に対する中心角度は、前記吐出孔の開口中心から最初に位置する前記ボルトの回転中心までの前記軸芯に対する中心角度よりも大きい
請求項またはに記載の密閉型圧縮機。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれかに記載された密閉型圧縮機と、
前記密閉型圧縮機に接続された凝縮器と、
前記凝縮器に接続された膨張装置と、
前記膨張装置に接続された蒸発器と、を備える
冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、密閉型圧縮機、および該密閉型圧縮機を備えた冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機などの冷凍サイクル装置には、密閉型圧縮機が搭載されている。密閉型圧縮機は、主たる要素として圧縮機構部および電動機部を備えている。これらは、電動機部を上方に、圧縮機構部を下方に位置付けて、密閉容器に収容されている。圧縮機構部は、偏心部を持つ回転軸を有するとともに、回転軸を介して電動機部と連結されている。回転軸は、上方の第1の軸受(主軸受)と下方の第2の軸受(副軸受)でそれぞれ支持され、電動機部の回転駆動力により回転する。電動機部は、回転軸に取り付けられた回転子(ロータ)と、回転子を取り囲んで配置された固定子(ステータ)とを備えている。
【0003】
主軸受および副軸受と回転軸との摺動部分は、例えば回転軸の回転力を利用して潤滑されている。潤滑構造の一例として、回転軸を軸方向に中空とし、該中空部分(中空孔)と連通する放射孔と、該放射孔と連通する油溝を設けた構造が知られている。中空孔は、回転軸の回転力により、密閉容器の底部に貯留した冷凍機油(潤滑油)を放射孔まで吸い上げる。放射孔は、軸方向と垂直に回転軸に設けられ、中空孔に吸い上げられた潤滑油を軸受と回転軸との摺動部分に給油する。油溝は、例えば回転軸の外周面もしくは軸受の内周面のいずれかに設けられ、潤滑油を軸受と回転軸との摺動部分全体に行き渡らせる。摺動部分を潤滑した潤滑油は、密閉容器の底部に返油される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭61-45079号公報
【文献】実開昭61-94296号公報
【文献】特開2018-165502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸受と回転軸との摺動部分の潤滑性は、軸受と回転軸との間の極小隙間に潤滑油を供給し、油膜を形成することで維持される。しかしながら、圧縮機構部で冷媒を圧縮する過程で、回転軸には圧縮荷重が作用し、これにより回転軸に撓み変形が生じるため、油膜が存在するこの極小隙間を適切に管理することは容易ではない。特に、回転軸の偏心部よりも下側の部分であり、副軸受で支持される部分と副軸受との摺動部分における潤滑性の向上を図るためには、これらの間の極小隙間をより一層適切に管理することが求められる。
【0006】
本発明の目的は、副軸受と回転軸との摺動部分への給油を促進し、該摺動部分における潤滑性の向上を図った密閉型圧縮機、および該密閉型圧縮機を備えた冷凍サイクル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、密閉型圧縮機は、シリンダ室を形成するシリンダと、シリンダ室内に配置される偏心部を有する回転軸と、回転軸を回転可能に支持し、シリンダ室における回転軸の軸芯方向の一端側の端面を規定する第1の軸受および他端側の端面を規定する第2の軸受と、を備える圧縮機構部を収容し、圧縮機構部の摺動部分を潤滑する潤滑油を貯留する密閉容器を備える。回転軸は、偏心部を境に軸芯方向の一端側で第1の軸受に支持される主軸部と、他端側で第2の軸受に支持される副軸部とを有する。副軸部は、軸芯方向の他端よりも一端側を基端として、回転軸の回転方向に沿って軸芯方向の一端側へ螺旋状に連続する潤滑油の通油溝を外周面に有する。第2の軸受は、フランジ部とフランジ部から突出する筒部とを有する。フランジ部の軸芯方向の一端面および筒部の軸芯方向の他端面には、周方向に連続する溝がそれぞれ設けられている。筒部の他端面に設けられた溝の内壁部は、回転軸の径方向からみて通油溝の基端とラップする。内壁部の径方向の肉厚は、筒部の内壁部以外の部分の径方向の肉厚よりも薄く、第1の軸受が主軸部を支持する第1の軸受における軸芯方向の一端部分の径方向の肉厚よりも薄い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る密閉型圧縮機を備えた冷凍サイクル装置(空気調和機)を概略的に示す図である。
図2】実施形態に係る密閉型圧縮機の圧縮機構部を拡大して示す図である。
【0009】
空気調和機の室内ユニットを分解して示す斜視図である。
図3】実施形態に係る密閉型圧縮機の第2の軸受の構成の一例を示す縦断面図である。
図4】実施形態に係る密閉型圧縮機の第2の軸受の構成の別例を示す縦断面図である。
図5】実施形態に係る密閉型圧縮機のバランサカバーを下方から示す平面図である。
図6】実施形態に係る密閉型圧縮機において、傾斜面を潤滑油の粒子が上昇するための条件を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態について、図1から図6を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る冷凍サイクル装置の一例である空気調和機1を概略的に示す図である。空気調和機1は、主たる要素として、密閉型圧縮機2と、凝縮器3と、膨張装置4と、蒸発器5と、アキュムレータ6とを備えている。空気調和機1においては、作動流体である冷媒が気相冷媒と液相冷媒とに相変化しながら循環回路7を循環する。循環回路7は、密閉型圧縮機2の吐出側(吐出管10b)から凝縮器3、膨張装置4、蒸発器5、およびアキュムレータ6を経由し、吸込側(吸込管36)に至る回路である。冷媒としては、R410AやR32などのHFC系冷媒、R1234yfやR1234zeなどのHFO系冷媒、二酸化炭素(CO)などの自然冷媒を適宜使用可能である。
【0011】
凝縮器3は、密閉型圧縮機2から吐出される高温・高圧の気相冷媒を放熱させ、高圧の液相冷媒に変化させる。
膨張装置4は、凝縮器3から導かれた高圧の液相冷媒を減圧し、低圧の気液二相冷媒に変化させる。
蒸発器5は、凝縮器3から導かれた低圧の気液二相冷媒を空気と熱交換させる。その際、気液二相冷媒は、空気から熱を奪って蒸発し、低温・低圧の気相冷媒に変化する。蒸発器5を通過する空気は、液相冷媒の蒸発潜熱により冷やされ、冷風となって空調(冷房)すべき場所に送られる。
【0012】
蒸発器5を通過した低温・低圧の気相冷媒は、アキュムレータ6に導かれる。蒸発し切れなかった液相冷媒が冷媒中に混入している場合は、ここで液相冷媒と気相冷媒とに分離される。液相冷媒から分離された低温・低圧の気相冷媒は、アキュムレータ6から吸込管36を通って密閉型圧縮機2に吸い込まれるとともに、密閉型圧縮機2で再び高温・高圧の気相冷媒に圧縮されて吐出管10bから吐出される。
【0013】
次に、空気調和機1に用いられる密閉型圧縮機2の具体的な構成について説明する。図1に示すように、密閉型圧縮機2は、いわゆる縦形のロータリーコンプレッサであって、主たる要素として、密閉容器10、電動機部11および圧縮機構部12を備えている。なお、図1には、後述する密閉容器10の中心軸線O1を含む所定の二面で密閉型圧縮機2を縦断した状態を示す。
【0014】
密閉容器10は、円筒状の周壁10aを有するとともに、鉛直方向に沿うように起立されている。密閉容器10の上端には、吐出管10bが設けられている。吐出管10bは、循環回路7を介して凝縮器3に接続されている。さらに、密閉容器10の下部には、潤滑油Iを貯留する油溜まり部10cが設けられている。
【0015】
潤滑油Iとしては、例えばポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油、ポリアルキレングリコール油、鉱物油などが適用可能である。
【0016】
電動機部11は、圧縮機構部12と吐出管10bとの間に位置するように密閉容器10の中心軸線O1に沿う中間部に収容されている。電動機部11は、いわゆるインナーロータ型のモータを含み、回転子21および固定子22を備えている。
【0017】
図2は、図1における圧縮機構部12の構成を拡大して示す図である。図1および図2に示すように、圧縮機構部12は、潤滑油Iに浸かるように密閉容器10の下部に収容されている。圧縮機構部12は、シングル型のシリンダ構造を有し、シリンダ31、回転軸32、第1の軸受33および第2の軸受34を主たる要素として備えている。なお、圧縮機構部12は、シングル型に限らず、二つ以上のシリンダを備えたものであってもよい。
【0018】
シリンダ31は、密閉容器10の周壁10aの内周面に固定されている。シリンダ31の上方には第1の軸受33、シリンダ31の下方には第2の軸受34がそれぞれ固定されている。シリンダ31の内径部、第1の軸受33および第2の軸受34で囲まれた空間は、シリンダ室35を構成する。シリンダ室35は、密閉容器10の中心軸線O1と同軸状に配置されている。シリンダ室35は、循環回路7の一部である吸込管36を介してアキュムレータ6に接続されている。アキュムレータ6で液相冷媒から分離された気相冷媒は、吸込管36を通ってシリンダ室35に導かれる。
【0019】
シリンダ31には、シリンダ室35を吸入室と圧縮室に区画するベーン(図示省略)が配置されている。シリンダ31の内周部には、径方向の外側に向けて延びたベーン溝(図示省略)が形成されている。ベーンは、径方向の内側へ付勢手段(図示省略)で付勢され、先端部を後述するローラ37の外周面に押し付けた状態でシリンダ31に支持されている。ローラ37の偏心回転に伴って、ベーンはシリンダ室35に進退する。これにより、シリンダ室35の吸入室および圧縮室の容積が変化し、吸込管36からシリンダ室35に吸い込まれた気相冷媒が圧縮される。
【0020】
回転軸32は、軸芯が密閉容器10の中心軸線O1と同軸状に位置し、第1の軸受33、シリンダ室35、第2の軸受34を貫通している。本実施形態において、回転軸32の軸芯(中心軸線O1)は鉛直に伸びており、回転軸32の軸芯に沿った一端側が上、他端側が下に相当する。
【0021】
回転軸32は、主軸部32aおよび副軸部32b、これらの間に介在する偏心部32cを有している。
主軸部32aは、偏心部32cを境に回転軸32の軸芯方向(以下、単に軸芯方向という)の一端(上端)へ向けて伸長している。主軸部32aの上部には、電動機部11の回転子21が取り付けられている。副軸部32bは、偏心部32cを境に軸芯方向の他端(下端)へ向けて伸長している。回転軸32の回転時、主軸部32aは第1の軸受33と摺接しながら回転(摺動)し、副軸部32bは第2の軸受34と摺動する。すなわち、主軸部32aは、偏心部32cよりも軸芯方向の一端側(上端側)で第1の軸受33と摺動する回転軸32の一部分である。副軸部32bは、偏心部32cよりも軸芯方向の他端側(下端側)で第2の軸受34と摺動する回転軸32の一部分である。
【0022】
偏心部32cは、回転軸32(主軸部32aおよび副軸部32b)の軸芯(中心軸線O1)に対して偏心し、シリンダ室35に配置されている。偏心部32cの外周面には、ローラ37が嵌着されている。ローラ37の内周面と偏心部32cの外周面との間には、偏心部32cに対するローラの37の回転を許容する僅かな隙間が設けられている。これにより、ローラ37は、回転軸32が回転した時に、シリンダ室35内で回転軸32の軸芯に対して偏心回転し、外周面の一部がシリンダ室35の内周面に油膜を介して接触する。
【0023】
回転軸32には、軸芯方向の他端部にバランサ38が設けられている。本実施形態において、副軸部32bは第2の軸受34よりも下方に突出しており、バランサ38はその突出部分32dに配置されている。バランサ38の形状は特に限定されないが、例えば円板状や半円板状などである。バランサ38には、軸芯方向の貫通孔38aが形成されている。貫通孔38aには、副軸部32bの突出部分32dが圧入やねじ止めなどにより固定されている。バランサ38の中心は、回転軸32の軸芯(中心軸線O1)に対して偏心部32cの偏心方向と逆方向に偏心している。すなわち、バランサ38および偏心部32cは、回転軸32の周方向に180°の位相差で配置されている。なお、偏心部の数により、バランサ38の配置角度は異なる。
【0024】
本実施形態において、副軸部32bは、主軸部32aと比べ、軸芯方向の長さが短い。したがって、副軸部32bにバランサ38を設けることで、例えば電動機部11の回転子21の上面にバランサを設ける場合と比べ、バランサ38の配設部分である副軸部32bを支持する第2の軸受34とバランサ38との距離を短縮できる。この結果、偏心部32cを有する回転軸32の回転バランスが安定し、回転子21の撓みなどが抑制される。
【0025】
バランサ38は、バランサカバー39で覆われている。バランサカバー39は、第2の軸受34にボルト40(図5参照)で固定され、バランサ38を下方から覆っている。バランサカバー39は、底部39aと、底部39aから起立する壁部39bと、壁部39bに連続するフランジ部39cとを備えている。
【0026】
底部39aは、回転軸32の他端面、つまり副軸部32bの下端面32eに当接している。かかる当接部分は、回転軸32に作用する軸芯方向の荷重を受け止め、下端面32eを摺動可能に支持するスラスト支持部39dとなっている。スラスト支持部39dは、底部39aを上方に隆起させるように設けられている。スラスト支持部39dにおける上面(下端面32eとの当接面)は、軸芯方向と直交する平坦状となっている。スラスト支持部39dの中央部には、上下方向に貫通する給油孔39eが形成され、その下端は密閉容器10の油溜まり部10cに貯留された潤滑油Iに臨んでいる。壁部39bは、バランサ38の外周を覆う部分である。フランジ部39cは、ボルト40による第2の軸受34との固定部分であり、後述する第2フランジ部34bを周方向から支持する爪39fを有している。
【0027】
第1の軸受33および第2の軸受34は、回転軸32を回転可能に支持する。第1の軸受33はシリンダ室35の上面35aを規定し、第2の軸受34はシリンダ室35の下面35bを規定する。上面35aは、回転軸32の軸芯方向の一端側の端面であり、下面35bは回転軸32の軸芯方向の他端側の端面である。すなわち、第1の軸受33はシリンダ室35を上方から閉塞する部材に相当し、第2の軸受34はシリンダ室35を下方から閉塞する部材に相当する。
【0028】
第1の軸受33は、第1フランジ部33bと、第1フランジ部33bから突出する第1筒部33aとを備えている。
第1フランジ部33bは、第1筒部33aの下端に位置し、径方向の外側に向けて延びている。第1フランジ部33bは、主軸部32aを挿通して回転可能に支持する部分を内周に有している。第1フランジ部33bには、シリンダ室35の圧縮室から冷媒を吐出させる第1吐出孔33dが形成されている。第1吐出孔33dは、第1フランジ部33bの一部を上下に貫通し、シリンダ室35の圧縮室内に連通している。第1吐出孔33dは、第1吐出弁機構33eによって開閉される。第1吐出弁機構33eは、圧縮室内の圧力上昇に伴って第1吐出孔33dを開放し、シリンダ室35から高温・高圧の気相冷媒を吐出させる。
【0029】
第1の軸受33の上方には、第1の軸受33を覆うマフラ41が備えられている。マフラ41は、マフラ41の内外(上下)を連通する連通孔41aを有している。第1吐出孔33dを通して吐出された高温・高圧の気相冷媒は、連通孔41aを通して密閉容器10内に吐出される。
【0030】
第1筒部33aは、第1フランジ部33bの上端から突出し、第1の軸受33において回転軸32、具体的には主軸部32aを挿通して回転可能に支持する部分である。主軸部32aは、第1筒部33aに挿通された状態で、外周面32fが第1筒部33aの内周面33cに対して摺動する。
【0031】
第2の軸受34は、第2フランジ部34bと、第2フランジ部34bとから突出する第2筒部34aとを備えている。
第2フランジ部34bは、第2筒部34aの上端に位置し、径方向の外側に向けて延びている。第2フランジ部34bは、副軸部32bを挿通して回転可能に支持する部分を内周に有している。第2フランジ部34bには、シリンダ室35の圧縮室から冷媒を吐出させる第2吐出孔(以下、吐出ポートという)34dが形成されている。吐出ポート34dは、第2フランジ部34bの一部を上下に貫通し、シリンダ室35の圧縮室内に連通している。吐出ポート34dは、第2吐出弁機構34eによって開閉される。第2吐出弁機構34eは、圧縮室内の圧力上昇に伴って吐出ポート34dを開放し、シリンダ室35から高温・高圧の気相冷媒を吐出させる。吐出ポート34dを通して吐出された高温・高圧の気相冷媒は、バランサカバー39のカバー空間42に吐出される。カバー空間42は、バランサカバー39がバランサ38を下方から覆う空間であり、底部39aおよび壁部39bで囲まれた空間である。
【0032】
第2筒部34aは、第2フランジ部34bの下端から突出し、第2の軸受34において回転軸32、具体的には副軸部32bを挿通して回転可能に支持する部分である。副軸部32bは、第2筒部34aに挿通された状態で、外周面32gが第2筒部34aの内周面34cに対して摺動する。
【0033】
第1の軸受33、シリンダ31、および第2の軸受34は、密閉容器10内の潤滑油貯留面Isの上方空間とカバー空間42とを連通する連通路43を有している。連通路43は、第1フランジ部33b、シリンダ31、および第2フランジ部34bを上下に貫通している。連通路43は、例えば第1フランジ部33b、シリンダ31、および第2フランジ部34bを貫く管体として、もしくはこれら各部に形成された貫通孔を連通させて構成される。連通路43の一端(上端)側の開口部43aは、マフラ41内に臨み、他端(下端)側の開口部43bは、カバー空間42に臨んでいる。
【0034】
連通路43の本数は特に限定されない。本実施形態では一例として、二つの連通路431,432が備えられている(図5参照)。これらの連通路431,432の詳細については後述する。
【0035】
上述したような構成をなす圧縮機構部12は、要素間の各摺動部分が潤滑油Iによって潤滑されている。次に、本実施形態における圧縮機構部12の潤滑構造、具体的には回転軸32と第1の軸受33および第2の軸受34との摺動部分(以下、軸受潤滑部という)に対する潤滑構造について説明する。
【0036】
回転軸32は、密閉容器10の油溜まり部10cから潤滑油Iを軸受潤滑部に供給するための給油路51を有している。給油路51は、主給油路52および副給油路53a,53bを含んで構成されている。
【0037】
主給油路52は、回転軸32の一部を軸芯方向に中空として構成されている。
主給油路52の下端部は、回転軸32(副軸部32b)の下端面32eで開口している。開口部52aは、バランサカバー39の給油孔39eと連通している。すなわち、主給油路52の下端部は、開口部52aおよび給油孔39eを介して密閉容器10内、具体的には油溜まり部10cと連通している。これにより、回転軸32が回転することにより、油溜まり部10cから潤滑油Iが主給油路52に吸い上げられる。
【0038】
主給油路52の上端部52bは、回転軸32の軸芯方向の中途部分、具体的には主軸部32aの下端部近傍で終止している。上端部52bの位置(軸芯方向における下端部からの高さ)は、少なくともシリンダ31の位置まで達していればよい。例えば、主給油路52は、回転軸32(主軸部32a)の上端面で開口していてもよい。また、主給油路52の内周面には、回転軸32の回転に伴って潤滑油Iの上昇を促す螺旋状のガイドなどを設けてもよい。
【0039】
副給油路53a,53bは、主給油路52から分岐して軸芯方向と直交する方向(径方向)に伸長し、回転軸32の外周面32f,32gに開口している。すなわち、副給油路53a,53bは、主給油路52から伸長する放射路である。
【0040】
主給油路52から分岐する2つの副給油路53a,53bのうち、一方は主軸部32aに形成された第1の副給油路53aであり、他方は副軸部32bに形成された第2の副給油路53bである。
【0041】
第1の副給油路53aは、主軸部32aにおける偏心部32cとの接続部分に形成されている。第1の副給油路53aは主軸部32aの外周面32fに開口し、その開口部53cは第1の軸受33の第1フランジ部33bの内周面33cに臨んでいる。
【0042】
第2の副給油路53bは、回転軸32の径方向からみて、副軸部32bの下端(下端面32eの位置)よりも上方に形成されている。第2の副給油路53bは副軸部32bの外周面32gに開口し、その開口部53dは第2の軸受34の第2筒部34aの内周面34cに臨んでいる。
【0043】
これらの主給油路52および副給油路53a,53bに加えて、副軸部32bは、第2の軸受34との摺動部分に潤滑油Iを行き渡らせる通油溝54を有している。通油溝54は、副軸部32bの外周面32gに形成されている。通油溝54は、第2の副給油路53bを起点に副軸部32b(端的には回転軸32)の回転方向(図2に示す矢印Rで示す方向)に沿って、軸芯方向の一端(上端)側へ螺旋状に連続する溝である。螺旋は、副軸部32bの回転方向へ外周面32gを上昇するように連続している。通油溝54が連続する長さは任意であり、副軸部32bを巻回していなくともよいし、一周以上巻回していてもよい。図2には、副軸部32bを巻回しない通油溝54を一例として示す。通油溝54は、全長に亘って第2の軸受34の第2筒部34aから第2フランジ部34bの内周面34cに臨んでいる。
【0044】
通油溝54の基端54aは、第2の副給油路53bの外周面32g上の開口部53dと連通している。すなわち、第2の副給油路53bは通油溝54の溝底に開口しており、その開口部53dが通油溝54の基端54aとなっている。したがって、基端54aは、回転軸32の径方向からみて、副軸部32bの下端(下端面32eの位置)よりも上方に位置する。基端54aの位置は、開口部53dの中心位置として規定される。通油溝54の先端は、副軸部32bの上端部、換言すれば偏心部32cとの接続部に達している。
【0045】
回転軸32が回転すると、給油孔39eを介して主給油路52に吸い上げられた潤滑油Iは、第1の副給油路53aを通って開口部53cから第2の軸受34の第2筒部34aの内周面34cに向けて吐出される。そして、潤滑油Iは、回転軸32(主軸部32a)の回転に伴って、第1の軸受33の第1筒部33aおよび第1フランジ部33bと主軸部32aとの摺動部分(内周面33cと外周面32f)S1に行き渡り、摺動部分S1を潤滑する。
【0046】
また、主給油路52に吸い上げられた潤滑油Iは、第2の副給油路53bから開口部53dを通って通油溝54に導かれる。通油溝54に導かれた潤滑油Iは、基端54aから先端まで通油溝54を伝って上昇する。その間、潤滑油Iは、回転軸32(副軸部32b)の回転に伴って、第2の軸受34の第2筒部34aおよび第2フランジ部34bと副軸部32bとの摺動部分(内周面34cと外周面32g)S2に行き渡り、摺動部分S2を潤滑する。
【0047】
本実施形態において、第1の軸受33は軸芯方向の一端部(上端部)に第1支持端部61を有し、第2の軸受34は軸芯方向の他端部(下端部)に第2支持端部62を有している。第2の軸受34の第2支持端部62の肉厚(図2に示すT1)は、第1の軸受33の第1支持端部61の肉厚よりも薄い。第2支持端部62の肉厚T1は、第2支持端部62の最も薄い位置の肉厚である。
【0048】
第1支持端部61は、第1の軸受33における主軸部32aの支持部分のうち、軸芯方向の一端部分である。換言すれば、第1筒部33aにおいて主軸部32aが摺動する部分の一部分であり、軸芯方向の上端部分である。本実施形態では一例として、第1支持端部61は、第1筒部33aが上端部に向かって先細りするように形成された薄肉部分に相当する。
【0049】
このように、主軸部32aが摺動する第1筒部33aの他の部分に比べて第1支持端部61を薄肉とすることで、摺動する主軸部32aに対する第1筒部33aの支持圧が過剰とならず、適当に維持される。
【0050】
第2支持端部62は、第2の軸受34における副軸部32bの支持部分のうち、軸芯方向の他端部分である。換言すれば、第2筒部34aにおいて副軸部32bが摺動する部分の一部分であり、軸芯方向の下端部分である。以下、第2支持端部62の具体的構成について説明する。
【0051】
図3および図4は、第2の軸受34の構成例を示す縦断面図である。なお、図3および図4には、密閉容器10の中心軸線O1を含む所定の二面で第2の軸受34を縦断した状態を示す。
【0052】
図3に示す構成例において、第2支持端部62は、第2筒部34aの下端面34fに設けられた溝63の内壁部63aとして構成されている。溝63は、下端面34fに周方向へ連続して設けられ、内壁部63a、外壁部63b、および底部63cによって構成されている。内壁部63aは、径方向の内側の溝壁(内周面)を規定する部分であり、外壁部63bは径方向の外側の溝壁(外周面)を規定する部分である。底部63cは、内壁部63aと外壁部63bとに挟まれた溝底(底面)を規定する部分である。これにより、第2筒部34aの下端部は、溝63によって内壁部63aと外壁部63bに二分される。内壁部63aは、第2筒部34aの下端部において副軸部32bが摺動する部分である。内壁部63aは、第2の軸受34の第2筒部34aにおける副軸部32bの支持部分の他の部分の肉厚よりも薄い。
【0053】
また、第2フランジ部34bの上端面34gには、軸芯方向に溝63とほぼ対向して溝64が設けられている。溝64は、上端面34gに周方向へ連続して設けられ、溝63と同様に各部を規定する内壁部64a、外壁部64b、および底部64cによって構成されている。これにより、第2フランジ部34bの上端部は、溝64によって内壁部64aと外壁部64bに二分される。内壁部64aは、第2フランジ部34bの上端部において副軸部32bが摺動する部分である。外壁部64bは、第2フランジ部34bにおける回転軸32の径方向に拡がる部分に連続している。
【0054】
図4に示す構成例において、第2支持端部62は、第2筒部34aが下端部に向かって先細りするように形成された薄肉部65として構成されている。薄肉部65は、第2筒部34aの下端部に周方向へ連続して形成されている。これにより、図3に示す内壁部63aと異なり、薄肉部65は、第2筒部34aが下端部自体の肉厚が全周に亘って薄肉とされた部分となっている。薄肉部65は、第2筒部34aの下端部において副軸部32bが摺動する部分である。薄肉部65は、第2の軸受34の第2筒部34aにおける副軸部32bの支持部分の他の部分の肉厚よりも薄い。
【0055】
また、第2筒部34aの上端面34gには、図3に示す構成例と同様に、内壁部64a、外壁部64b、および底部64cによって構成される溝64が設けられている。この場合、溝64は、軸芯方向からみて、内壁部64aが薄肉部65とほぼ重なって配置されるように設けられている。
【0056】
このように、溝64に加えて、第2筒部34aの他の肉厚よりも薄い肉厚を有する第2支持端部62として内壁部63a(別の捉え方をすれば溝63)や薄肉部65を第2の軸受34が有することで、第2筒部34aの可撓性を高め、弾性変形しやすい構造とすることができる。これにより、副軸部32bから径方向の外向きの荷重が第2筒部34aに作用された際、内壁部64aに加えて、第2支持端部62を微小変形させることができる。その結果、第2筒部34aと副軸部32bとの摺動部分(内周面34cと外周面32g)S2の隙間を拡大させることができる。
【0057】
このため、回転軸32の径方向からみて、通油溝54の基端54aが副軸部32bの下端(下端面32eの位置)よりも上方に位置している場合であっても、摺動部分S2の隅々まで潤滑油Iを行き渡らせ、潤滑性能を高めることができる。その際、基端54aが副軸部32bの下端よりも上方に位置しているため、潤滑油Iが摺動部分S2の潤滑に寄与せずに油溜まり部10cに落下してしまうことを抑止できる。これらによって潤滑性能が高められることで、密閉型圧縮機2の信頼性向上を図ることが可能となる。
【0058】
さらに、第2支持端部62は、通油溝54の基端54aが回転軸32、具体的には副軸部32bの径方向からみて、第2支持端部62とラップするように配置されている。
【0059】
例えば、第2支持端部62が内壁部63aである場合、副軸部32bの径方向からみて、基端54a、具体的には開口部53dの軸芯方向における中心位置が内壁部63aの軸芯方向の位置とラップする。別の捉え方をすれば、副軸部32bの径方向からみて、開口部53dの中心位置が内壁部63aの先端よりも上方で、基端部分に相当する底部63cよりも下方に位置していればよい。
また、第2支持端部62が薄肉部65である場合、副軸部32bの径方向からみて、開口部53dの中心位置が薄肉部65の軸芯方向の位置とラップする。別の捉え方をすれば、副軸部32bの径方向からみて、開口部53dの中心位置が薄肉部65の先端よりも上方で、基端部分65aよりも下方に位置していればよい。
【0060】
第2支持端部62(内壁部63aもしくは薄肉部65)をこのように配置することで、開口部53dから吐出された潤滑油Iを第2筒部34aと副軸部32bとの摺動部分(内周面34cと外周面32g)S2に対し、摺動部分S2の上方へは通油溝54を伝って潤滑油Iを給油することができ、下方へは基端54aから潤滑油Iを給油することができる。その際、内壁部64aおよび第2支持端部62を微小変形させて摺動部分S2の隙間を拡大させることができるので、摺動部分S2の上方および下方のいずれに対しても、潤滑油Iを満遍なく行き渡らせることが可能となる。また、副軸部32bの径方向からみて、通油溝54の基端54aと第2支持端部62とがラップするように配置されているため、内壁部64aおよび第2支持端部62の微小変形により、摺動部分S2の下方に潤滑油Iを給油しやすくしている。さらに、通油溝54の基端54aが副軸部32bの下端まで達しておらず、また、内壁部64aおよび第2支持端部62の変形が微小なため、副軸部32bの下端からの過度な潤滑油Iの流出を防ぐことができる。
【0061】
副軸部32bは主軸部32aよりも軸芯方向に短いため、副軸部32bを回転可能に支持する第2の軸受34の第2筒部34aは、主軸部32aを回転可能に支持する第1の軸受33の第1筒部33aよりも短い。したがって、軸芯方向の長さの観点では、第2筒部34aは第1筒部33aよりも撓み難い。しかしながら、本実施形態では、第1の軸受33の第1支持端部61よりも薄肉の第2支持端部62を第2の軸受34に設けているため、第2筒部34aを第1筒部33aと同等に撓ませることが可能となる。このため、摺動部分S2の隙間を摺動部分S1の隙間と同等に確保し、これらを満遍なく潤滑させることが可能となる。
【0062】
その際、摺動部分S2を潤滑する潤滑油Iは、第2筒部34a(内壁部64aおよび第2支持端部62)の微小変形により生じた隙間へ給油されるため、摺動部分S2の摺動信頼性に必要な僅かな油量にとどめることができる。したがって、摺動部分S1やその他の摺動部分への給油量を不足させずに済む。すなわち、摺動部分S1やその他の摺動部分に対する潤滑性能の低下を防止するとともに、摺動部分S2の潤滑性能を高めることができる。
【0063】
このように、本実施形態によれば、圧縮機構部12の軸受潤滑部、特に第2の軸受34(第2筒部34a)と副軸部32bとの摺動部分S2の潤滑性能を高めることができる。その一方で、給油孔39eから主給油路52に吸い上げられた潤滑油Iは、バランサカバー39のスラスト支持部39dと副軸部32bの下端面32eとの間の摺動隙間からカバー空間42に浸入する場合がある。この場合、例えば浸入した潤滑油Iをバランサ38が撹拌すると、その抵抗の大きさによっては回転軸32の回転に余計な抵抗が生じるおそれがある。
【0064】
このため、本実施形態では、浸入した潤滑油Iをカバー空間42から効率的に排出するための排出構造を備えている。これにより、例えばバランサ38の潤滑油の撹拌抵抗に起因する回転軸32の回転性能の低下などの抑制が図られる。以下、かかる排出構造について説明する。
【0065】
図2に示すように、バランサカバー39は、回転軸32の他端(下端)側から連通路43に向けて傾斜する傾斜部71を有する。傾斜部71は、底部39aに対して回転軸32の径方向へ壁部39bの少なくとも一部を傾斜させた部位である。例えば、傾斜部71は、壁部39bの全周に亘って設けられていてもよいし、周方向の一部に設けられていてもよい。
【0066】
図5は、バランサカバー39の構成を下方から示す平面図である。図5に示すように、バランサカバー39は、複数の分室部72および固定部73を有する。
分室部72は、ボルト40による固定部73を避けて、カバー空間42を区画している。固定部73は、ボルト40を介した第2の軸受34への固定部分である。図5に示す構成例では、バランサカバー39は、五本のボルト40で第2の軸受34に固定されており、これに対応して五つの固定部73a~73fを有している。このため、バランサカバー39は、これら五つの固定部73a~73fを避けて五つの分室部72a~72eを有している。これらの分室部72と固定部73とは、周方向へ交互にほぼ等間隔(同一位相)で配置されている。したがって、図5に示すような平面視において、バランサカバー39は、頂点が五つの略星形の形態をなしている。なお、分室部72の数、ボルト40の本数および固定部73の数は、五つに限定されず、二つ以上四つ以下、あるいは六つ以上であってもよい。
【0067】
これら複数(一例として五つ)の分室部72は、カバー空間42で連通している。図5に示す構成例において、カバー空間42は、五つの分室部72a~72eによって五つに区画された状態で、全体として一つの空間を形成している。
【0068】
五つの分室部72a~72eのうち、第1の分室部72aは、第2の軸受34の吐出ポート34dと連通している。すなわち、第1の分室部72aは、吐出ポート34dを介してシリンダ室35の圧縮室と連通可能となっている。したがって、第2吐出弁機構34eによって吐出ポート34dが開放されることで、シリンダ室35の圧縮室から第1の分室部72aに高温・高圧の気相冷媒が吐出される。吐出された高温・高圧の気相冷媒は、第1の分室部72aからその他の連通する分室部72b~72eに流入する。
【0069】
また、五つの分室部72a~72eのうち、少なくとも一つは、連通路43と連通している。上述したように、本実施形態では一例として、二つの連通路431,432が備えられている。図5に示すように、これらの連通路431,432は、周方向に所定の位相差(中心角度差)で配置されている。具体的には、軸芯方向からみて、連通路431,432は、回転軸32の回転方向(図5に示す矢印Rで示す方向)において吐出ポート34dから最初に位置する固定部(第1の固定部)73aまでの中心角度(α1)よりも大きな中心角度の位置で分室部72b,72cと連通している。
【0070】
すなわち、これらの連通路431,432は、周方向に所定の位相差(中心角度差)、つまりほぼ等間隔で配置された五つの分室部72のうちの隣り合う二つ(分室部72b,72c)の配置間隔に合わせて(位相差が72°程度で)配置されている。これにより、第2の分室部72bが連通路431と、第3の分室部72cが連通路432とそれぞれ連通している。したがって、第2の分室部72bは連通路431を介して、第3の分室部72cは連通路432を介して、密閉容器10内の潤滑油貯留面Isの上方空間とそれぞれ連通している。
【0071】
この場合、回転軸32の回転方向において、吐出ポート34dから連通路431までの中心角度(α2)は、第1の固定部73aのボルト40までの中心角度(α1)よりも大きい。また、吐出ポート34dから連通路432までの中心角度(α3)は、連通路431までの中心角度(α2)よりもさらに大きい(α1<α2<α3)。中心角度の規定位置は、回転軸32の軸芯(中心軸線O1)の位置、ボルト40の回転中心Cb、吐出ポート34dの開口部34hの開口中心C1、および連通路431,432の開口部43bの開口中心C2,C3である。
【0072】
第2の分室部72bおよび第3の分室部72cには、傾斜部71がそれぞれ設けられている。第2の分室部72bの傾斜部71は、回転軸32(副軸部32b)の径方向の外側へ向かうに従って連通路431に近づく傾斜面74bを有している。また、第3の分室部72cの傾斜部71は、回転軸32(副軸部32b)の径方向の外側へ向かうに従って連通路432に近づく傾斜面74cを有している。
【0073】
本実施形態においては、回転軸32の回転により、ローラ37がシリンダ室35において偏心回転する。これにより、シリンダ室35の圧縮室で圧縮された高温・高圧の気相冷媒が吐出ポート34dからバランサカバー39のカバー空間42に吐出される。また上述したように、給油孔39eから主給油路52に吸い上げられた潤滑油Iは、バランサカバー39のスラスト支持部39dと副軸部32bの下端面32eとの間の摺動隙間からカバー空間42に浸入する場合がある。
【0074】
この場合、潤滑油Iには、吐出ポート34dから吐出された高温・高圧の気相冷媒(以下、吐出ガスという)の流速によるカバー空間42への引込力が作用する。また、カバー空間42に浸入した潤滑油Iには、バランサ38からの遠心力が作用するとともに、吐出ガスによる引込力が引き続き作用する。
【0075】
このため、潤滑油Iは、図2中の矢印A2で示すように、傾斜面74b,74cを伝って上昇し、開口部43bから連通路43(431,432)に導かれる。連通路43(431,432)に導かれた潤滑油Iは、開口部43aからマフラ41内に吐出され、密閉容器10内の潤滑油貯留面Isの上方空間に排出される。
【0076】
その際、潤滑油Iは、ミスト化されて傾斜面74b,74cを上昇する。図6には、水平面GSに対する傾斜角度がθである傾斜面SSをミスト化された潤滑油Iの粒子Pが上昇するための条件を示す。図6に示すように、ミスト化された潤滑油Iの粒子Pが遠心力によって傾斜面SSを上昇するためには、次のような関係式(1)を満たす必要がある。
Fcosθ>μ×Fsinθ すなわち、tanθ<1/μ …(1)
Fは、ミスト化された潤滑油Iの粒子Pに作用する遠心力、θは、傾斜面SSの水平面GSに対する傾斜角度であり、図2に示す傾斜面74b,74cの傾斜角度θ1の値を規定する角度である。μは、ミスト化された潤滑油Iの粒子Pと傾斜面SSとの摩擦係数である。
【0077】
摩擦係数(μ)の値は、潤滑油Iおよび傾斜面SSに対する各種条件によって異なる。本実施形態では、一般的な値として0.25から0.3程度として試算すると、傾斜角度(θ)が70°以下であれば、潤滑油Iの粒子Pは遠心力によって傾斜面SSを上昇可能となる。したがって、本実施形態では、傾斜面74b,74cの傾斜角度(図2に示す角度θ1)を、一例として水平面に対して70°以下とする。
【0078】
このような潤滑油Iの排出構造によれば、カバー空間42に潤滑油Iが浸入した場合であっても、バランサ38の遠心力および吐出ガスの引込力によって、潤滑油Iを傾斜面74b,74cに導くことができる。傾斜面74b,74cの傾斜角度(θ1)が所定角度とされているため、傾斜面74b,74cを伝って潤滑油Iを上昇させることができる。これにより、傾斜面74b,74cから連通路431,432を通して、潤滑油Iをカバー空間42から排出できる。その結果、バランサ38の周辺の雰囲気を吐出ガスで保つことができる。このため、例えばバランサ38の潤滑油の撹拌抵抗を低減でき、回転軸32の回転性能の低下などを抑制できる。
【0079】
一例として、傾斜面74b,74cは、水平面に対して70°以下とされている。このため、カバー空間42に飛散している潤滑油Iの油滴(ミスト)と傾斜面74b,74cとの摩擦係数(μ)が比較的高い場合、一例として0.25から0.3程度であっても、傾斜面74b,74cを伝って潤滑油Iをカバー空間42から排出させることができる。
【0080】
また、傾斜面74b,74cは、ボルト40の固定部73を避けて配置された分室部72(72b,72c)に設けられている。したがって、ボルト40によってバランサカバー39を第2の軸受34に対して強固に固定できるだけでなく、潤滑油Iをカバー空間42から効率的に排出できる。
【0081】
すなわち、本実施形態において、連通路431,432は、ボルト40の固定部73を避けた分室部72b,72cと連通して配置されている。このため、連通路431,432を分室部72b,72cの外周寄り、つまり傾斜面74b,74cに寄せて配置して開口させることができる。ミスト化された潤滑油Iの粒子および吐出ポート34dからの吐出ガスには、バランサ38からの遠心力に加えて、回転軸32(副軸部32b)の回転の接線方向に推進力が作用する。したがって、連通路431,432を傾斜面74b,74cに寄せて配置することで、潤滑油Iおよび吐出ガスに対してより大きな遠心力および推進力を作用させることができる。このため、潤滑油Iを吐出ガスに乗せることで、さらに効率的にカバー空間42から排出できる。
【0082】
また、吐出ポート34dから連通路431,432までの中心角度(α2,α3)は、いずれも第1の固定部73aのボルト40までの中心角度(α1)よりも大きい。このため、潤滑油Iの粒子および吐出ガスに遠心力と推進力をそれぞれ作用させて、潤滑油Iを連通路431,432まで確実に導くことができる。併せて、固定部73を所定間隔で配置し、ボルト40による安定したバランサカバー39の固定位置を確保できる。
【0083】
このように、本実施形態によれば、軸受潤滑部に対する潤滑性能が高められることに加えて、カバー空間42から潤滑油Iを効率的に排出できることで、さらなる密閉型圧縮機2の信頼性向上を図ることが可能となる。
【0084】
以上、本発明の実施形態を説明したが、かかる実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0085】
例えば、上述した実施形態において、密閉型圧縮機2は、シリンダ31が一つのシングルロータリコンプレッサモデルとしているが、二つ以上のシリンダを備えた多気筒ロータリコンプレッサモデルであってもよい。この場合、各シリンダは、シリンダ室の容積が同等であってもよいし、異なっていてもよい。また、密閉型圧縮機は、ベーンとローラが一体となったスイングタイプであってもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…冷凍サイクル装置(空気調和機)、2…密閉型圧縮機、3…凝縮器、4…膨張装置、5…蒸発器、6…アキュムレータ、7…循環回路、10…密閉容器、10c…油溜まり部、11…電動機部、12…圧縮機構部、31…シリンダ、32…回転軸、32a…主軸部、32b…副軸部、32c…偏心部、32e…下端面、32f,32g…外周面、33…第1の軸受、33a…第1筒部、33b…第1フランジ部、34…第2の軸受、34a…第2筒部、34b…第2フランジ部、34d…第2吐出孔(吐出ポート)、34h…開口部、35…シリンダ室、35a…上面、35b…下面、38…バランサ、39…バランサカバー、39a…底部、39b…壁部、39c…フランジ部、39e…給油孔、40…ボルト、42…カバー空間、43(431,432)…連通路、43a,43b…開口部、51…給油路、52…主給油路、53a…第1の副給油路、53b…第2の副給油路、53c,53d…開口部、54 …通油溝、54a…基端、61…第1支持端部、62…第2支持端部、63,64…溝、63a,64a…内壁部、63b,64b…外壁部、63c,64c…底部、65…薄肉部、71…傾斜部、72(72a~72f)…分室部、73(73a~73f)…固定部、74b,74c…傾斜面、C1,C2,C3…開口中心、Cb…ボルト回転中心、I…潤滑油、Is…潤滑油貯留面、O1…密閉容器の中心軸線、S1,S2…摺動部分、T1…第2支持端部の肉厚。
図1
図2
図3
図4
図5
図6