(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】傾斜型保持器及びアンギュラ玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20230314BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230314BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20230314BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20230314BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/18
F16C33/66 Z
B60B35/14 V
B60B35/02 L
(21)【出願番号】P 2019030078
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】藤川 雄兵
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-198825(JP,U)
【文献】特開2005-180630(JP,A)
【文献】特開2017-125560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/41,33/66
B60B 35/02,35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂により全体を一体に構成されており、
円環状の小径リム部と、
前記小径リム部の円周方向等間隔となる複数箇所から軸方向片側に向かうほど径方向外側に向かう方向に傾斜して延出した柱部とを備え、
前記小径リム部と円周方向に隣り合う1対の前記柱部とにより囲まれた部分を、玉を転動自在に保持するためのポケットとしており、
前記ポケットの内面は、前記小径リム部の軸方向片側面を含み、径方向内側部の軸方向他側部を構成する凹曲面である内側案内面と、径方向外側部の軸方向片側部を構成する凹曲面である外側案内面とを有するとともに、前記内側案内面及び前記外側案内面から外れた部分が、前記内側案内面及び前記外側案内面よりも前記玉の転動面から退避した位置に存在する退避面であり、前記内側案内面と前記外側案内面は、
互いに接することなく、前記退避面により離隔されて
おり、
前記内側案内面の曲率半径を、円周方向中間部で最も大きくし、円周方向両側部で円周方向中間部から離れるほど小さくしている、
傾斜型保持器。
【請求項2】
前記柱部の軸方向片側端部は自由端であり
、
前記外側案内面の曲率半径を、前記内側案内面の円周方向中間部の曲率半径よりも小さくしている、
請求項1に記載の傾斜型保持器。
【請求項3】
前記小径リム部よりも大径の円環状に構成され、前記小径リム部と同軸に配置されるとともに、前記柱部の軸方向片側端部が接続された、大径リム部をさらに備え、
前記小径リム部と前記大径リム部と円周方向に隣り合う1対の前記柱部とにより囲まれた部分を、前記ポケットとしており、
前記外側案内面は、前記大径リム部の軸方向他側面を含む凹曲面であり、
前記外側案内面
の曲率半径を、円周方向中間部で最も大きくし、円周方向両側部で円周方向中間部から離れるほど小さくしている、
請求項1に記載の傾斜型保持器。
【請求項4】
内周面にアンギュラ型の外輪軌道を有する外輪部材と、
外周面にアンギュラ型の内輪軌道を有する内輪部材と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数個の玉と、
前記複数個の玉を保持するための保持器と、を備え、
前記保持器が、請求項1~3のうちの何れか1項に記載の傾斜型保持器である、
アンギュラ玉軸受。
【請求項5】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受として用いられる、
請求項4に記載のアンギュラ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンギュラ玉軸受を構成する複数個の玉を保持するための傾斜型保持器、及び、該傾斜型保持器を備えたアンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
アンギュラ玉軸受を構成する複数個の玉を転動自在に保持するための保持器として、合成樹脂により全体を略円すい筒状に構成された傾斜型保持器が知られている。
【0003】
このような傾斜型保持器の具体的な構造として、例えば特開2010-127323号公報(特許文献1)には、玉を保持するための複数のポケットの小径側にのみ円環状のリム部を備え、複数のポケットの大径側を開口させた冠形の構造が記載されている。また、例えば特開2018-59546号公報(特許文献2)には、複数のポケットの小径側と大径側との双方に円環状のリム部を備えた構造が記載されている。これらの傾斜型保持器はいずれも、ポケットの内面を、その曲率半径が玉の転動面の曲率半径よりも僅かに大きい球状の凹面としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-127323号公報
【文献】特開2018-59546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来の傾斜型保持器は、次のような面から改良の余地がある。
【0006】
すなわち、アンギュラ玉軸受の寿命を延ばすためには、外輪軌道及び内輪軌道と玉の転動面との接触部をグリースなどの潤滑剤により潤滑し、該接触部の潤滑状態を長期にわたり良好に維持することが有効である。そのために、例えば、玉が転動する際に、玉の転動面に付着した潤滑剤を外輪軌道と内輪軌道との間で効率良く還流させることが望ましい。
【0007】
しかしながら、従来の傾斜型保持器の場合では、例えば、アンギュラ玉軸受の組立時に玉がポケットから脱落するのを防いだり、アンギュラ玉軸受の運転時に傾斜型保持器の姿勢が不安定になるのを防いだりするために、ポケットの内径を玉の外径に近づけると、玉が転動する際に、玉の転動面に付着した潤滑剤がポケットの開口縁部で掻き取られやすくなる。そして、その分、玉の転動面に付着した潤滑剤を、外輪軌道と内輪軌道との間で効率良く還流させにくくなる。
【0008】
本発明の目的は、上述のような事情に鑑み、ポケットの内径を玉の外径に近づけた場合でも、玉の転動面に付着した潤滑剤を外輪軌道と内輪軌道との間で効率良く還流させることができる構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の傾斜型保持器は、合成樹脂により全体を一体に構成されており、円環状の小径リム部と、前記小径リム部の円周方向等間隔となる複数箇所から軸方向片側に向かうほど径方向外側に向かう方向に傾斜して延出した柱部とを備え、前記小径リム部と円周方向に隣り合う1対の前記柱部とにより囲まれた部分を、玉を転動自在に保持するためのポケットとしている。
前記ポケットの内面は、前記小径リム部の軸方向片側面を含み、径方向内側部の軸方向他側部を構成する凹曲面である内側案内面と、径方向外側部の軸方向片側部を構成する凹曲面である外側案内面とを有するとともに、前記内側案内面及び前記外側案内面から外れた部分が、前記内側案内面及び前記外側案内面よりも前記玉の転動面から退避した位置に存在する退避面であり、前記内側案内面と前記外側案内面は、前記退避面により離隔されている。
【0010】
本発明の傾斜型保持器では、前記柱部の軸方向片側端部を自由端とすることができる。
また、この場合に、前記内側案内面の曲率半径を、円周方向中間部で最も大きくし、円周方向両側部で円周方向中間部から離れるほど小さくすることができる。
また、前記外側案内面の曲率半径を、前記内側案内面の円周方向中間部の曲率半径よりも小さくすることができる。
【0011】
本発明の傾斜型保持器では、前記小径リム部よりも大径の円環状に構成され、前記小径リム部と同軸に配置されるとともに、前記柱部の軸方向片側端部が接続された、大径リム部をさらに備え、前記小径リム部と前記大径リム部と円周方向に隣り合う1対の前記柱部とにより囲まれた部分を、前記ポケットとしており、前記外側案内面を、前記大径リム部の軸方向他側面を含む凹曲面とした構成を採用することができる。
また、この場合に、前記内側案内面及び前記外側案内面のそれぞれの曲率半径を、円周方向中間部で最も大きくし、円周方向両側部で円周方向中間部から離れるほど小さくすることができる。
【0012】
本発明のアンギュラ玉軸受は、内周面にアンギュラ型の外輪軌道を有する外輪部材と、外周面にアンギュラ型の内輪軌道を有する内輪部材と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数個の玉と、前記複数個の玉を保持するための保持器とを備える。
また、前記保持器が、本発明の傾斜型保持器である。
【0013】
本発明のアンギュラ玉軸受は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受として用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、傾斜型保持器のポケットの内径を玉の外径に近づけた場合でも、玉の転動面に付着した潤滑剤を外輪軌道と内輪軌道との間で効率良く還流させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例に係るハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例に係る傾斜型保持器を、軸方向片側(柱部側)から見た側面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例に係る傾斜型保持器を、軸方向他側(小径リム部側)から見た側面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第1例に係る傾斜型保持器の円周方向一部を、軸方向片側(柱部側)の内径側から見た斜視図である。
【
図7】
図7(a)は、実施の形態の第1例に係る傾斜型保持器の部分断面図であり、
図7(b)は、
図7(a)の左右方向位置とポケットの内面の曲率半径との関係を示す線図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第2例に係るハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の第2例に係る傾斜型保持器の部分断面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施の形態の第2例に係る傾斜型保持器の部分断面図であり、
図10(b)は、
図10(a)の左右方向位置とポケットの内面の曲率半径との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図7を用いて説明する。
【0017】
本例では、本発明の傾斜型保持器を備えたアンギュラ玉軸受を、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受(複列のアンギュラ玉軸受)に適用した場合について説明する。
【0018】
本例のハブユニット軸受1は、いわゆる第1世代のハブユニット軸受と呼ばれるものであり、外輪部材に相当する1個の外輪2と、内輪部材に相当する1対(2個)の内輪3と、複数個の玉4と、2個の傾斜型保持器5とを備えている。
【0019】
外輪2は、内周面にそれぞれがアンギュラ型である複列の外輪軌道6を有している。1対の内輪3のそれぞれは、外周面にアンギュラ型の内輪軌道7を有している。1対の内輪3は、互いの小径側端面同士を突き合わせた状態で、外輪2の内径側に、外輪2と同軸に配置されている。この状態で、1対の内輪3の内輪軌道7は、複列の外輪軌道6と径方向に対向する位置に、複列に配置されている。玉4は、複列の外輪軌道6と複列の内輪軌道7との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、円周方向に離隔して配置されるとともに、それぞれの列の傾斜型保持器5により転動自在に保持されている。この状態で、複列に配置された玉4には、背面組み合わせ型(DB型)の接触角αが付与されている。
【0020】
車両への組み付け状態で、外輪2は、図示しない懸架装置を構成するナックルに内嵌固定される。一方、1対の内輪3は、車輪を支持するためのハブフランジを有する図示しないハブ輪に外嵌固定される。したがって、本例のハブユニット軸受1では、外輪2が使用時にも回転しない静止輪となり、1対の内輪3が使用時に回転する回転輪となる。
【0021】
外輪2の内周面と1対の内輪3の外周面との間に存在する内部空間8の軸方向両端開口のそれぞれは、組み合わせシールリング9により塞がれている。そして、これらの組み合わせシールリング9によって、内部空間8に封入された潤滑剤であるグリースが、内部空間8の軸方向両端開口を通じて外部空間に漏洩することを防止するとともに、外部空間に存在する泥水などの異物が、内部空間8の軸方向両端開口を通じて内部空間8に侵入することを防止している。
【0022】
傾斜型保持器5は、合成樹脂の射出成形によって全体を一体にかつ略円すい筒状に造られている。特に、本例の傾斜型保持器5は、冠形と呼ばれる構造を有している。すなわち、傾斜型保持器5は、円環状の小径リム部10と、小径リム部10の円周方向等間隔となる複数箇所から軸方向片側に向かうほど径方向外側に向かう方向に傾斜して延出した柱部11とを備えており、柱部11の軸方向片側端部を自由端としている。そして、小径リム部10と円周方向に隣り合う1対の柱部11とにより三方を囲まれた部分を、玉4を転動自在に保持するためのポケット12としている。
【0023】
なお、2個の傾斜型保持器5は、軸方向に関して互いに逆向きに組み付けられている。傾斜型保持器5に関して、軸方向片側は、
図1の右側列の傾斜型保持器5については右側であり、
図1の左側列の傾斜型保持器5については左側である。また、傾斜型保持器5に関して、軸方向他側は、
図1の右側の列の傾斜型保持器5については左側であり、
図1の左側の列の傾斜型保持器5については右側である。
【0024】
小径リム部10は、内周部の円周方向複数箇所に、周囲の部分よりも径方向内方に突出した係止突起24を有する。そして、該係止突起24を内輪3の小径側部の外周面に全周にわたって備えられた係止溝25に係合させている。これにより、ハブユニット軸受1を組み立てた状態で、外輪2の内径側から内輪3が軸方向に抜け出ることを防止している。ただし、本発明を実施する場合、係止突起24及び係止溝25を省略することもできる。
【0025】
また、本例の傾斜型保持器5は、
図5に仮想線(二点鎖線)で示すような、固定型13と、固定型13に対する軸方向移動が可能な移動型14とを用いた、アキシアルドローによる射出成形によって造られている。ポケット12の内面は、径方向外側部が固定型13により成形され、径方向内側部が移動型14により成形されている。このため、ポケット12の内面の径方向外側部と径方向内側部との境界には、射出成形時に固定型13と移動型14との突き合わせ部に位置していたパーティングライン15が存在している。パーティングライン15は、小径リム部10の径方向外端縁28から柱部11の軸方向片側端縁の径方向内端縁29まで、ポケット12の内面に沿って軸方向に延びていて、軸方向片側に向かうほど径方向外側に向かう方向に少しだけ傾斜している。なお、射出成形後において、
図5に示した傾斜型保持器5に対して移動型14を右側に移動させた後、エジェクターピン(不図示)で成形品である傾斜型保持器5を右側に押し出すことにより、固定型13から傾斜型保持器5を取り外す。
【0026】
ポケット12の内面の径方向内側部(パーティングライン15よりも径方向内側に位置する部分)は、小径リム部10の軸方向片側面と柱部11の円周方向側面の径方向内側部とによって構成されている。このようなポケット12の内面の径方向内側部は、軸方向他側部を構成する内側案内面16と、軸方向片側部を構成する内側退避面17とからなる。
【0027】
本例では、内側案内面16と内側退避面17との境界線18は、外輪軌道6と玉4の接触部の中心位置C
oと内輪軌道7と該玉4の接触部の中心位置C
iとを結ぶ直線(該玉4の中心を通り接触角αの方向に伸長する直線)である接触角線γ(
図1参照)よりも軸方向他側に位置している。したがって、内側案内面16は、その全体が接触角線γよりも軸方向他側に位置している。内側案内面16は、玉4の転動面に沿って湾曲し、かつ、その曲率半径が玉4の曲率半径よりも僅かに大きい凹曲面である。ただし、該凹曲面は、曲率半径が全体的に一定の凹曲面(凹球面)ではない。すなわち、本例の内側案内面16は、円周方向中間部に位置する底部30と円周方向両側部に位置する1対の側部31とに3分割されており、底部30と側部31とは境界線32を介して接している。そして、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、底部30の曲率半径は、側部31の曲率半径よりも大きくなっている。また、側部31の曲率半径は、玉4の自転軸βの方向に関して、底部30から遠ざかるほど小さくなっている。ここで、玉4の自転軸βは、玉4の中心を通り接触角線γと直交する軸である。なお、本発明を実施する場合、底部30と側部31との境界線32は、図示の位置とは異なる位置に配置することもできる。また、本発明を実施する場合、内側案内面は、曲率半径が全体的に一定の凹曲面(凹球面)とすることもできる。
【0028】
内側退避面17は、傾斜型保持器5の中心軸と平行な中心軸を中心とする円筒状の凹面である。このような内側退避面17と内側案内面16との境界線18は、傾斜型保持器5の中心軸と直交する仮想平面内に存在する円弧曲線である。
【0029】
一方、ポケット12の内面の径方向外側部(パーティングライン15よりも径方向外側に位置する部分)は、柱部11の円周方向側面の径方向外側部によって構成されている。このようなポケット12の内面の径方向外側部は、軸方向片側部を構成する外側案内面19と、軸方向他側部を構成する外側退避面20とからなる。
【0030】
外側案内面19と外側退避面20との境界線21は、接触角線γよりも軸方向片側に位置している。したがって、外側案内面19は、その全体が接触角線γよりも軸方向片側に位置している。すなわち、外側案内面19は、内側案内面16よりも軸方向片側かつ径方向外側に位置するとともに、内側案内面16に対して離隔している。外側案内面19は、玉4の転動面に沿って湾曲し、かつ、その曲率半径が玉4の曲率半径よりも僅かに大きい凹曲面である。また、該凹曲面は、曲率半径が全体的に一定の凹曲面(凹球面)である。本例では、外側案内面19の曲率半径は、
図7(b)に示すように、内側案内面16の底部30の曲率半径(内側案内面16の曲率半径の最大値)よりも小さい。さらに、本例では、外側案内面19の曲率半径は、内側案内面16の側部31の曲率半径の最小値(内側案内面16の曲率半径の最小値)よりも小さい。ただし、本発明を実施する場合、外側案内面の曲率半径は、内側案内面の曲率半径の最大値以下かつ最小値以上の大きさとすることもできる。
【0031】
外側退避面20は、傾斜型保持器5の中心軸と平行な中心軸を中心とする円筒状の凹面である。このような外側退避面20と外側案内面19との境界線21は、傾斜型保持器5の中心軸と直交する仮想平面内に存在する円弧曲線である。
【0032】
また、内側案内面16と外側退避面20とは、径方向外側を向いた段差面22を介して接続されている。内側案内面16と段差面22との接続部は、パーティングライン15の一部(
図5及び
図7において点Pよりも左側に位置する部分)を構成する。また、外側案内面19と内側退避面17とは、径方向内側を向いた段差面23を介して接続されている。外側案内面19と段差面23との接続部は、パーティングライン15の一部(
図5及び
図7において点Qよりも右側に位置する部分)を構成する。また、内側退避面17と外側退避面20とは、内側案内面16と外側案内面19とが最も近接した部分同士の間にある接続部27を介して接している。接続部27は、パーティングライン15の一部(
図5及び
図7において点Pと点Qとの間に位置する部分)を構成する。
【0033】
上述したようなポケット12の内面は、内側案内面16及び外側案内面19から外れた残りの部分である、内側退避面17と外側退避面20と段差面22、23とが、内側案内面16及び外側案内面19よりも玉4の転動面から退避した位置に存在している。すなわち、ポケット12の内面と玉4の転動面との間に存在する隙間であるポケット隙間は、内側退避面17及び外側退避面20に対応する箇所で、内側案内面16及び外側案内面19に対応する箇所よりも大きくなっている。また、内側案内面16と外側案内面19は、内側退避面17及び外側退避面20によって離隔されており、内側退避面17及び外側退避面20に対応する箇所の大きなポケット隙間は、常に存在している。
【0034】
以上のような構成を有する本例のハブユニット軸受1の運転時に、玉4は、外輪軌道6と内輪軌道7との間で、自転軸βを中心として回転(自転)しながら、ハブユニット軸受1の中心軸を中心として回転(公転)する。また、本例のハブユニット軸受1では、組立時に玉4がポケット12から脱落するのを防いだり、運転時に傾斜型保持器5の姿勢が不安定になるのを防いだりするために、ポケット12の内径(ポケット12の内面を構成する内側案内面16の側部31及び外側案内面19の内径)を玉4の外径に近づけて小さくした場合でも、運転時に玉4の転動面に付着したグリースを外輪軌道6と内輪軌道7との間で効率良く還流させることができる。
【0035】
すなわち、本例では、ポケット12の内径を玉4の外径に近づけて小さくした場合でも、ポケット12の内面を構成する内側退避面17及び外側退避面20と、玉4の転動面との間には、常に、比較的大きな隙間が存在している。また、内側退避面17と外側退避面20とは、接続部27を介して接している。
【0036】
したがって、本例では、ハブユニット軸受1の運転時に、例えば、外輪軌道6で玉4の転動面に付着したグリースは、
図7(a)に短い矢印で示すように、外側退避面20と玉4の転動面との間に存在する隙間を通じて、ポケット12の内側に容易に進入する。そして、該グリースのうち、内側案内面16及び外側案内面19の縁(段差面22、境界線21)によって掻き取られたグリースは、内側案内面16と外側案内面19とが最も近接した部分同士の間(内側退避面17と外側退避面20との接続部27)に集められてから、該間(接続部27)を容易に通過する。そして、該グリースは、接触角αの方向に流れて、ポケット12の外側に排出され、内輪軌道7に到達する。また、内輪軌道7で玉4に付着したグリースについても、上述した場合と同様にして、ポケット12の内側を容易に通過し、外輪軌道6に到達する。したがって、本例の構造では、ポケット12の内径を玉4の外径に近づけて小さくした場合でも、運転時に玉4の転動面に付着したグリースを外輪軌道6と内輪軌道7との間で効率良く還流させることができる。したがって、その分、ハブユニット軸受1の寿命を延ばすことができる。
【0037】
また、本例では、ハブユニット軸受1の組立時において、玉4をポケット12内に挿入する際に、ポケット12の底部が損傷することを有効に防ぐことができる。すなわち、玉4をポケット12内に挿入する際には、円周方向に隣り合う1対の柱部11の先端部(外側案内面19)同士の間隔を弾性的に拡げつつ、該先端部同士の間部分を通じて玉4をポケット12内に押し込むが、この際に生じる傾斜型保持器5の変形は、ポケット12の底部が位置する円周方向箇所に集中する傾向となる。この点に関して、本例では、ポケット12の内面を構成する内側案内面16の曲率半径を、ポケット12の底部に相当する底部30で最も大きくし、側部31で底部30から遠ざかるほど小さくなるようにしている。このため、玉4をポケット12内に挿入する際に、底部30に発生する応力を緩和して、底部30が損傷することを有効に防ぐことができる。
【0038】
また、本例では、ポケット12の内面のうち、外側案内面19の曲率半径を、内側案内面16の曲率半径の最大値(及び最小値)よりも小さくしている(
図7参照)。このため、ポケット12内に挿入した玉4を、1対の外側案内面19によって、しっかりと抱きかかえることができる。この結果、ハブユニット軸受1の組立時に、ポケット12から玉4が脱落しにくくなり、その分、ハブユニット軸受1の組立作業を効率良く行うことができる。
【0039】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図8~
図10を用いて説明する。
【0040】
本例のハブユニット軸受1aでは、傾斜型保持器5aは、軸方向片側端部に大径リム部26をさらに備えている。大径リム部26は、小径リム部10よりも大径の円環状に構成され、小径リム部10と同軸に配置されるとともに、複数の柱部11aのそれぞれの軸方向片側端部が接続されている。そして、小径リム部10と大径リム部26と円周方向に隣り合う1対の柱部11aとにより四方を囲まれた部分を、玉4を転動自在に保持するためのポケット12aとしている。本例の傾斜型保持器5aも、大径リム部26を含む全体が、アキシアルドローによる射出成形によって造られている。
【0041】
また、本例では、ポケット12aの内面の径方向外側部(パーティングライン15よりも径方向外側に位置する部分)は、大径リム部26の軸方向他側面と柱部11aの円周方向側面の径方向外側部とによって構成されている。そして、このようなポケット12aの内面の径方向外側部の軸方向片側部を、大径リム部26の軸方向他側面を含む、外側案内面19aとしている。
【0042】
外側案内面19aは、玉4の転動面に沿って湾曲し、かつ、その曲率半径が玉4の曲率半径よりも僅かに大きい凹曲面である。ただし、該凹曲面は、曲率半径が全体的に一定の凹曲面(凹球面)ではない。すなわち、本例の外側案内面19aは、内側案内面16と同様の態様で3分割されている。具体的には、外側案内面19aは、円周方向中間部に位置する底部33と円周方向両側部に位置する1対の側部34とに3分割されており、底部33と側部34とは境界線35を介して接している。そして、
図10(a)及び
図10(b)に示すように、底部33の曲率半径は、側部34の曲率半径よりも大きくなっている。また、側部34の曲率半径は、玉4の自転軸βの方向に関して、底部33から遠ざかるほど小さくなっている。なお、本発明を実施する場合、底部33と側部34との境界線35は、図示の位置とは異なる位置に配置することもできる。また、本発明を実施する場合、外側案内面は、曲率半径が全体的に一定の凹曲面(凹球面)とすることもできる。
【0043】
以上のような構成を有する本例のハブユニット軸受1aでは、内側案内面16及び外側案内面19aは、それぞれの曲率半径を、底部30、33で最も大きくし、側部31、34で底部30、33から遠ざかるほど小さくなるようにしている。このため、玉4をポケット12a内に挿入する際に、具体的には、ポケット12aの外径側(又は内径側)の開口部の幅を弾性的に拡げつつ、該開口部を通じて玉4をポケット12a内に押し込む際に、内側案内面16及び外側案内面19aのそれぞれの底部30、33に発生する応力を緩和して、底部30、33が損傷することを有効に防ぐことができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0044】
なお、本発明のアンギュラ玉軸受は、第1世代のハブユニット軸受に限らず、例えば、第2世代のハブユニット軸受、第3世代のハブユニット軸受などの、他の世代のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本発明のアンギュラ玉軸受は、ハブユニット軸受に限らず、各種機械装置に組み込まれる単列または複列のアンギュラ玉軸受に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1、1a ハブユニット軸受
2 外輪
3 内輪
4 玉
5、5a 傾斜型保持器
6 外輪軌道
7 内輪軌道
8 内部空間
9 組み合わせシールリング
10 小径リム部
11、11a 柱部
12、12a ポケット
13 固定型
14 移動型
15 パーティングライン
16 内側案内面
17 内側退避面
18 境界線
19、19a 外側案内面
20 外側退避面
21 境界線
22 段差面
23 段差面
24 係止突起
25 係止溝
26 大径リム部
27 接続部
28 径方向外端縁
29 径方向内端縁
30 底部
31 側部
32 境界線
33 底部
34 側部
35 境界線