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特許7244814加速器の制御方法、加速器の制御装置、及び粒子線治療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】加速器の制御方法、加速器の制御装置、及び粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/04 20060101AFI20230315BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20230315BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
H05H13/04 N
G21K5/04 A
G21K5/04 D
A61N5/10 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019072184
(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公開番号】P2019186214
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018074908
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【弁理士】
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】松本 宗道
(72)【発明者】
【氏名】古川 卓司
(72)【発明者】
【氏名】水島 康太
(72)【発明者】
【氏名】塙 勝詞
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-226740(JP,A)
【文献】特開2017-112021(JP,A)
【文献】特開2014-110168(JP,A)
【文献】特開2007-018756(JP,A)
【文献】国際公開第2012/117563(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00 - 15/00
G21K 5/04
A61N 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子の加速エネルギに応じて主加速器内を周回させる磁場を発生させる複数の偏向電磁石と、電流値の指令信号に基づき、前記磁場を発生させる電流を前記複数の偏向電磁石に供給する電源とを有する加速器の制御方法であって、
ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴う加速サイクルの場合には、前記電流値の指令信号に、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギに対応させて前記偏向電磁石の電流値を一定にさせるフラット領域を設け、
前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルの場合には、前記電流値の指令信号に、前記フラット領域を設けず、
前記偏向電磁石の電流値の前記フラット領域への移行時、または前記フラット領域からの移行時に電流値の時間変化を平滑化させ、
前記平滑化に要する時間を、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギ、または、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づいて決定する、加速器の制御方法。
【請求項2】
荷電粒子を入射エネルギまで加速して主加速器に入射する入射器と、主加速器に入射された前記荷電粒子に加速エネルギを与える高周波加速空洞と、前記荷電粒子の前記加速エネルギに応じて前記主加速器内を周回させる磁場を発生させる複数の偏向電磁石と、電流値の指令信号に基づき、前記磁場を発生させる電流を前記複数の偏向電磁石に供給する電源と、前記荷電粒子を前記主加速器からビーム輸送系に出射させるための出射用機器とを備える加速器の制御方法であって、
前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルにおける前記偏向電磁石の電流値の時間変化には、前記荷電粒子の最低エネルギに対応したフラットボトム区間と、最高エネルギに対応したトップ地点またはフラットトップ区間と、前記フラットボトム区間から加速するための加速区間と、前記トップ地点または前記フラットトップ区間からフラットボトムに減速するための減速区間とを生じさせ、所定の取り出しエネルギに対応させて前記偏向電磁石の電流値を一定にさせるフラット領域を生じさせず、
前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴う加速サイクルにおける前記偏向電磁石の電流値の時間変化には、前記減速区間及び前記加速区間の少なくともいずれかに対応する区画の途中に所定の取り出しエネルギに対応して前記電流値が一定となるフラット領域を生じさせ、
前記対応する区画から前記フラット領域への移行の際、または前記フラット領域から前記対応する区画への移行の際に、前記電流値の時間変化を平滑化し、また、前記平滑化に要する時間を、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギ、または、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づいて決定する、加速器の制御方法。
【請求項3】
荷電粒子の加速エネルギに応じて主加速器内を周回させる磁場を発生させる複数の偏向電磁石と、電流値の指令信号に基づき、前記磁場を発生させる電流を前記複数の偏向電磁石に供給する電源とを有する加速器の制御装置であって、
ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴う加速サイクルの場合には、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギに対応させて前記偏向電磁石の電流値を一定にさせるフラット領域を設けた前記電流値の指令信号を生成し、
前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルの場合には、前記フラット領域を設けていない前記電流値の指令信号を生成する電流信号生成部を有し、
前記電流値の指令信号は、前記偏向電磁石の電流値の前記フラット領域への移行時、または前記フラット領域からの移行時に電流変化を平滑化させるスムージング区間を有し、
前記スムージング区間の時間長さは、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギ、または、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づいて決定する加速器の制御装置。
【請求項4】
クロック信号を生成するクロック信号生成部と、
前記クロック信号に対応付けられ、電流値の情報を有する時系列な基準信号を記憶する記憶部と、
を更に備え、
前記電流信号生成部は、前記クロック信号の受信に応じて、前記時系列な基準信号を順に出力して、前記電流値の指令信号を生成し、また、クロック周期の連続的な増加または減少に応じて、前記スムージング区間を生成する、請求項3に記載の加速器の制御装置。
【請求項5】
前記記憶部は、
前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギまたは、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差と、前記スムージング区間の時間長さとを対応させたデータテーブルを記憶し、
前記クロック信号生成部は、前記データテーブルに基づいて、前記クロック信号を出力する、請求項4に記載の加速器の制御装置。
【請求項6】
前記クロック信号生成部は、
所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づき、前記スムージング区間の設定に用いるクロック数を演算する第1演算式、及び、前記所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づき、前記スムージング区間の設定を開始した時点からのクロック数に対応するクロック周期を演算する第2演算式の少なくともいずれかを用いて前記クロック信号を出力する、請求項4に記載の加速器の制御装置。
【請求項7】
前記クロック信号は、前記主加速器の4極電磁石の電流信号、及び前記主加速器の高周波加速空洞の周波数指令信号と同期している、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の加速器の制御装置。
【請求項8】
基準となる時系列な電流値の情報を有する時系列な基準信号と、前記偏向電磁石に流れる電流を時間あたりに変動可能な範囲内に制限するためのスムージング領域に対応する時系列な補正信号とを記憶する記憶部を更に備え、
前記電流信号生成部は、前記時系列な基準信号と前記時系列な補正信号に基づき、前記電流変化を平滑化する前記電流値の指令信号を生成する、請求項3に記載の加速器の制御装置。
【請求項9】
前記電流信号生成部は、前記基準信号の指令値と、前記補正信号の指令値との加算値に基づく前記電流値の指令信号を生成する、請求項8に記載の加速器の制御装置。
【請求項10】
前記電流信号生成部は、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に応じた係数を前記補正信号の指令値に乗算した値を前記基準信号の指令値に加算して、前記電流値の指令信号を生成する、請求項9に記載の加速器の制御装置。
【請求項11】
荷電粒子を入射エネルギまで加速して主加速器に入射する入射器と、
前記主加速器に入射された前記荷電粒子に加速エネルギを与える高周波加速空洞と、
前記荷電粒子の前記加速エネルギに応じて前記主加速器内を周回させる磁場を発生させる複数の偏向電磁石と、
電流値の指令信号に基づき、前記磁場を発生させる電流を前記複数の偏向電磁石に供給する電源と、
前記荷電粒子を前記主加速器からビーム輸送系に出射させるための出射用機器と、
前記入射器、前記高周波加速空洞、前記電源、及び前記出射用機器の内の少なくとも前記電源を制御する制御装置と、
を備える粒子線治療システムであって、
前記制御装置は、
前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴う加速サイクルの場合には、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギに対応させて前記偏向電磁石の電流値を一定にさせるフラット領域を設けた前記電流値の指令信号を生成し、
前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルの場合には、前記フラット領域を設けていない前記電流値の指令信号を生成し、
前記フラット領域への移行時、または前記フラット領域からの移行時に電流変化を平滑化させるスムージング区間を生成し、
前記スムージング区間の時間長さを、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギ、または、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づいて決定する電流信号生成部を有する、粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、加速器の制御方法、加速器の制御装置、及び粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粒子線治療システムに用いる加速器は、イオン源から入射器で加速された荷電粒子を入射エネルギで主加速器に入射し、主加速器で目的のエネルギに加速する。この主加速器における偏向電磁石の生成する磁界により、荷電粒子を所定の軌道に沿って周回させている。この偏向電磁石の電源から供給される電流の増加により磁場強度を増加させつつ、磁場強度に対応した周波数を有する高周波電力を高周波加速空洞に与えることにより、荷電粒子を所定の軌道に沿って加速させている。
【0003】
主加速器から荷電粒子を取り出す際には、例えば所定のエネルギまで加速後、一定のエネルギまで減速し、荷電粒子のエネルギを一定に保った状態で、主加速器から荷電粒子の取り出しを行う。取り出された荷電粒子は、ビーム輸送系を経て、治療室へ導入される。また、この方法では所定のエネルギでの照射が終了した後、次の異なるエネルギまで減速し、エネルギを一定に保った状態で、再び荷電粒子の取り出しを行う。
【0004】
荷電粒子を減速中に所定のエネルギ状態で一定に保つには、偏向電磁石の電流値とこれに対応した高周波電力の周波数を減少変化から一定値に移行する必要がある。ところが、偏向電磁石の電流を減少変化中に急峻に一定値にすると、電流応答が間に合わず、電流偏差が大きくなり、荷電粒子の位置飛びや荷電粒子の消失が発生してしまう。このため、偏向電磁石の電流値を一定値にする前後には電流が滑らかに一定値に移行するように、スムージング領域が設けられている。
【0005】
従来の加速器制御において、このような運転方法を実現する偏向電磁石の電流制御は、予め計算された時間軸に対する電流値の指令信号(電流信号)がメモリに記憶されており、時間経過とともに、電流値の指令信号を偏向電磁石の電源に逐次出力する方法をとっている。この場合、所定の取り出しエネルギに対応する部分では、電流値が一定になるような短いフラット領域が設けられている。このように、短いフラット領域と、短いフラット領域の前後のスムージング領域が電流値の指令信号の指令パターンに組み込まれている。そして、偏向電磁石の電流値がこの短いフラット領域になったタイミングで、電流値の出力の更新をストップし、保持することで、エネルギの一定状態を保っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4873563号公報
【文献】特開2017-112021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の加速器で実現していた荷電粒子の取り出しエネルギの種類は10種類程度であり、レンジシフタ等のハードウェア機器を用いて、さらに細分化したエネルギ種類を作っていた。一方で、レンジシフタの切り替え等には時間を要し、ハードウェアのメンテナンス等も必要になってしまう。このため、加速器だけで細分化した荷電粒子の取り出しエネルギを作り出すことも求められている。他方で、治療時間短縮のために加速サイクルの短縮化が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態による加速器の制御方法は、荷電粒子の加速エネルギに応じて主加速器内を周回させる磁場を発生させる複数の偏向電磁石と、電流値の指令信号に基づき、前記磁場を発生させる電流を前記複数の偏向電磁石に供給する電源とを有する加速器の制御方法であって、ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴う加速サイクルの場合には、前記電流値の指令信号に、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギに対応させて前記偏向電磁石の電流値を一定にさせるフラット領域を設け、前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルの場合には、前記電流値の指令信号に、前記フラット領域を設けず、前記偏向電磁石の電流値の前記フラット領域への移行時、または前記フラット領域からの移行時に電流値の時間変化を平滑化させ、前記平滑化に要する時間を、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギ、または、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づいて決定するものである。
【0009】
本実施形態による加速器の制御方法は、荷電粒子を入射エネルギまで加速して主加速器に入射する入射器と、主加速器に入射された前記荷電粒子に加速エネルギを与える高周波加速空洞と、前記荷電粒子の前記加速エネルギに応じて前記主加速器内を周回させる磁場を発生させる複数の偏向電磁石と、電流値の指令信号に基づき、前記磁場を発生させる電流を前記複数の偏向電磁石に供給する電源と、前記荷電粒子を前記主加速器からビーム輸送系に出射させるための出射用機器とを備える加速器の制御方法であって、前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルにおける前記偏向電磁石の電流値の時間変化には、前記荷電粒子の最低エネルギに対応したフラットボトム区間と、最高エネルギに対応したトップ地点またはフラットトップ区間と、前記フラットボトム区間から加速するための加速区間と、前記トップ地点または前記フラットトップ区間からフラットボトムに減速するための減速区間とを生じさせ、所定の取り出しエネルギに対応させて前記偏向電磁石の電流値を一定にさせるフラット領域を生じさせず、前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴う加速サイクルにおける前記偏向電磁石の電流値の時間変化には、前記減速区間及び前記加速区間の少なくともいずれかに対応する区画の途中に所定の取り出しエネルギに対応して前記電流値が一定となるフラット領域を生じさせ、前記対応する区画から前記フラット領域への移行の際、または前記フラット領域から前記対応する区画への移行の際に、前記電流値の時間変化を平滑化し、また、前記平滑化に要する時間を、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギ、または、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づいて決定するものである。
【0010】
本実施形態による加速器の制御装置は、荷電粒子の加速エネルギに応じて主加速器内を周回させる磁場を発生させる複数の偏向電磁石と、電流値の指令信号に基づき、前記磁場を発生させる電流を前記複数の偏向電磁石に供給する電源とを有する加速器の制御装置であって、ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴う加速サイクルの場合には、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギに対応させて前記偏向電磁石の電流値を一定にさせるフラット領域を設けた前記電流値の指令信号を生成し、前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルの場合には、前記フラット領域を設けていない前記電流値の指令信号を生成する電流信号生成部を有し、前記電流値の指令信号は、前記偏向電磁石の電流値の前記フラット領域への移行時、または前記フラット領域からの移行時に電流変化を平滑化させるスムージング区間を有し、前記スムージング区間の時間長さは、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギ、または、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づいて決定するものである。
【0011】
本実施形態による粒子線治療システムは、荷電粒子を入射エネルギまで加速して主加速器に入射する入射器と、前記主加速器に入射された前記荷電粒子に加速エネルギを与える高周波加速空洞と、前記荷電粒子の前記加速エネルギに応じて前記主加速器内を周回させる磁場を発生させる複数の偏向電磁石と、電流値の指令信号に基づき、前記磁場を発生させる電流を前記複数の偏向電磁石に供給する電源と、前記荷電粒子を前記主加速器からビーム輸送系に出射させるための出射用機器と、前記入射器、前記高周波加速空洞、前記電源、及び前記出射用機器の内の少なくとも前記電源を制御する制御装置と、を備える粒子線治療システムであって、前記制御装置は、前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴う加速サイクルの場合には、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギに対応させて前記偏向電磁石の電流値を一定にさせるフラット領域を設けた前記電流値の指令信号を生成し、前記ビーム輸送系への前記荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルの場合には、前記フラット領域を設けていない前記電流値の指令信号を生成し、前記フラット領域への移行時、または前記フラット領域からの移行時に電流変化を平滑化させるスムージング区間を生成し、前記スムージング区間の時間長さを、前記荷電粒子の所定の取り出しエネルギ、または、所定の取り出しエネルギへの変更前後のエネルギの差に基づいて決定する電流信号生成部を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加速サイクルをより短くすることが可能となり、治療時間をより短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る粒子線治療システム1の概略的な全体構成を示す図。
図2】加速サイクル間における電流の基準信号を例示する図。
図3図2で示した基準信号に基づき生成される電流信号とクロック信号との関係を示す図。
図4】クロック信号の停止時に生成される電流信号を示す図。
図5】基準信号の一部を拡大した図。
図6】基準信号に基づき出力される電流信号を例示する図。
図7】クロック信号と電流信号とを説明するタイムチャート。
図8】荷電粒子の減速期間中の基準信号からスムージング領域を生成する例を示す図。
図9】エネルギ定常状態と、クロック数との関係を示す図。
図10】スムージングを開始してからのクロック数とクロック間隔との関係を示す図。
図11】クロックの可変周期に従いスムージング領域を生成した例を示す図。
図12】スムージングを開始してからのクロック数と経過時間との関係を示す図。
図13】スムージングを開始してからの期間に従いスムージング領域を生成した例を示す図。
図14】可変クロック信号を用いた電流信号の生成を説明するフローチャート。
図15】第2実施形態に係る粒子線治療システムの概略的な全体構成を示す。
図16】基準信号に基づき生成される補正前の電流信号と補正信号との関係を示す図。
図17】補正信号を用いた電流信号の生成を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る粒子線治療システムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0015】
(第1実施形態)
まず、図1に基づき、粒子線治療システム1の全体の構成を説明する。図1は、第1実施形態に係る粒子線治療システム1の概略的な全体構成を示す図である。この図1に示すように粒子線治療システム1は、炭素イオン等の荷電粒子を患者の患部に照射して治療を行うシステムである。より具体的には、この粒子線治療システム1は、加速器システム10と、ビーム輸送系20と、照射装置30と、照射制御装置42と、出射制御装置40と、計算機システム50とを、備えて構成されている。
計算機システム50は、PCやサーバから構成され、保持する治療計画等のデータから各種制御装置の設定値を作成し、設定する。各制御装置は、高性能なCPUやFPGAから構成され、設定された設定値どおりに各種機器が動作するように制御を行う。
【0016】
加速器システム10は、荷電粒子を加速する。この加速器システム10は、加速器100と、制御装置200と、を備えて構成されている。この加速器100は、入射器102と、主加速器104と、高周波加速空洞106と、複数の偏向電磁石108と、複数の四極電磁石110と、出射用機器112とを、備えて構成されている。
【0017】
入射器102は、主加速器104に接続されている。この入射器102は、例えばライナックであり、生成した陽子、ヘリウム、炭素、窒素、酸素、ネオン、シリコン、アルゴンなどの荷電粒子を入射エネルギまで加速して、主加速器104に供給する。
【0018】
主加速器104には、入射器102が接続され、入射器102から荷電粒子が入射される。この主加速器104は、例えばシンクロトロンであり、円環状の真空のダクトを有している。これにより、入射器102から入射された荷電粒子は、主加速器104のダクト内の所定軌道を周回する。すなわち、高周波加速空洞106と、複数の偏向電磁石108と、複数の四極電磁石110とは、主加速器104における円環状の真空のダクトに沿って配置されている。
【0019】
高周波加速空洞106は、高周波加速空洞106内に高周波電圧を印加し、主加速器104のダクト内を周回する荷電粒子を加速する。この高周波加速空洞106は、内部に設けられている電極の間で発生する電界により、周回軌道上を周回する荷電粒子を加速する。このように、高周波加速空洞106は、主加速器104内を周回する荷電粒子を、患者に照射する荷電粒子のエネルギに応じた複数の定常エネルギまで加速又は減速させる。
【0020】
偏向電磁石108は、主加速器104内を周回する荷電粒子の加速エネルギに応じた磁場を発生させる。この偏向電磁石108が生成した磁場は、主加速器104内の所定軌道に沿って荷電粒子を周回させるように作用する。また、四極電磁石110が生成する磁場は、主加速器104内を周回する荷電粒子を収束又は発散させるように作用する。すなわち、偏向電磁石108、及び四極電磁石110は、高周波加速空洞106における荷電粒子の加速または減速に同期しており、加速または減速された荷電粒子のエネルギに応じた強度の磁場を生成するように制御されている。
【0021】
出射用機器112は、荷電粒子の進行方向に対して直交方向に高周波電界を与えて加速器100内を周回している荷電粒子のビームの幅を広げる。これによって安定領域から共鳴領域に外れた荷電粒子ビームの粒子は出射軌道へ導かれてビーム輸送系20に出射される。出射用機器112は、電場の強度を変更することにより、ビーム輸送系20への荷電粒子の出射と出射停止を制御する。
【0022】
電源114は、電力系統から供給された電力を複数の偏向電磁石108と、複数の四極電磁石110とに供給する。より詳細には、電源114は、制御装置200が生成する時系列な電流信号に基づき、荷電粒子のエネルギに応じた磁場を発生させるための電流を複数の偏向電磁石108、及び複数の四極電磁石110に供給する。
【0023】
制御装置200は、粒子線治療システム1全体の制御を行う。なお、制御装置200の詳細な構成は後述する。
【0024】
照射装置30は、治療室の壁面などの構造物や回転ガントリなどに設けられており、ビーム輸送系20により輸送された荷電粒子を患者に照射する。荷電粒子は、患者の体内を通過する際に運動エネルギを失って停止して、停止位置の近傍にブラッグピークと呼ばれる高エネルギを放出する。このため、荷電粒子の停止位置を患者荷電粒子の患部に合わせることで、正常な組織への影響を抑制しつつ、患部細胞、例えば癌細胞にダメージを与えることが可能となる。
【0025】
出射制御装置40は、照射制御装置42からの荷電粒子ビームの要求信号に基づき、荷電粒子のビーム輸送系20への出射と出射停止をするように出射用機器112を制御する。
【0026】
次に、制御装置200の詳細な構成を説明する。図1に示すように制御装置200は、タイミング制御部210と、高周波加速空洞制御部240と、電源制御部250とを、有している。
【0027】
タイミング制御部210は、高周波加速空洞制御部240、及び電源制御部250のタイミング制御を行う。より具体的には、このタイミング制御部210は、第1記憶部212と、第1クロック生成部214と、第2クロック生成部216とを、備えて構成されている。第1記憶部212は、患者400に照射する荷電粒子のエネルギに基づき定められたクロック信号の停止条件、及びクロック信号の解除条件などを記憶する。患者400に照射する荷電粒子のエネルギは、照射制御装置42から出力される。なお、本実施形態に係る第2クロック生成部216が、クロック信号生成部に対応する。
【0028】
第1クロック生成部214は、時間計測用の内部クロックであり、例えば10MHz(100ns周期)の基準クロック信号を生成する。この第1クロック生成部214は、例えばクロック生成回路を有している。
【0029】
第2クロック生成部216は、第1クロック生成部214が生成する基準クロック信号に同期する制御用のクロック信号を生成する。クロック信号の周期は例えば100kHz(10μs)である。この第2クロック生成部216は、例えばクロック生成回路を有している。
【0030】
第2クロック生成部216は、リセット信号を高周波加速空洞制御部240、及び電源制御部250に出力する。これにより、高周波加速空洞制御部240、及び電源制御部250は、第2クロック生成部216が生成するクロック信号に同期した制御を開始する。
【0031】
照射制御装置42は、出射制御装置40に対して照射要求信号を出力して荷電粒子ビームの出射要求を行う。具体的には、患者400へ照射する荷電粒子のエネルギの信号と、実際に荷電粒子ビームを患者400に照射するために加速器100から荷電粒子ビームを出射するように要求信号を出力する。また、照射制御装置42は、患者に照射する荷電粒子ビームのスキャニング制御を行う。
【0032】
高周波加速空洞制御部240は、高周波加速空洞106の電極に印加する高周波電界の周波数、振幅を制御する。より詳細には、高周波加速空洞制御部240は、第2記憶部242と、高周波信号生成部244と、第1出力部246と、高周波アンプ247とを備えて構成されている。第2記憶部242は、時系列な番号に関連付けられた周波数の基準信号、振幅の基準信号を記憶している。
【0033】
高周波信号生成部244は、第2クロック生成部216が生成するクロック信号の受信に応じて、第2記憶部242に記憶される周波数の基準信号、振幅の基準信号を用いて高周波信号を生成し、第1出力部246に順に供給する。また、高周波信号生成部244は、第2クロック生成部216のクロックが停止すると、出力中の高周波信号を継続して出力する。
【0034】
第1出力部246は、高周波信号生成部244が生成した高周波信号に基づいて正弦波の指令信号を生成し、正弦波の指令信号を増幅する高周波アンプ247を介して、高周波加速空洞106に出力する。これにより、高周波加速空洞106は、これらの高周波信号に基づき、電極に印加する高周波電界を生成する。
【0035】
電源制御部250は、電源114が偏向電磁石108に供給する電流を制御する。より具体的には、電源制御部250は、第3記憶部252と、電流信号生成部254と、第2出力部256とを備えて構成されている。
【0036】
第3記憶部252は、例えば連続した番号に関連付けられた電流の基準信号を記憶したパターンメモリである。この基準信号の指令値は、電源114が偏向電磁石108に供給する電流の値に対応する。また、この電流の基準信号と、高周波加速空洞106の制御に用いられる基準信号とは、加速される荷電粒子が所定の軌道を周回するように関連付けられている。これにより、荷電粒子が所定の軌道を周回する。
【0037】
電流信号生成部254は、ビーム輸送系20への荷電粒子の出射を伴う加速サイクルの場合には、荷電粒子の所定の取り出しエネルギに対応させて偏向電磁石108の電流値を一定にさせるフラット領域を設けた電流信号を生成し、ビーム輸送系20への荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルの場合には、フラット領域を設けていない電流信号を生成する。この電流信号生成部254は、第2クロック生成部216が生成するクロック信号の受信に応じて、第3記憶部252に記憶される電流の基準信号を電流信号としてし、第2出力部256に順に出力する。また、電流信号生成部254は、第2クロック生成部216のクロックが停止すると、出力中の電流信号を継続して出力する。なお、電流信号生成部254のより詳細な構成は後述する。
【0038】
第2出力部256は、電流信号生成部254が生成した電流信号を電源114に出力する。これにより、電源114は、この電流信号に基づき、偏向電磁石108に流させる電流を生成する。なお、本実施形態に係る第1記憶部212と、第2記憶部242と、第3記憶部252とが、記憶部に対応し、本実施形態に係る第2出力部256が、出力部に対応する。
【0039】
次に、図2乃至図7に基づき、電流信号生成部254における電流信号の生成例を詳細に説明する。まず、図5を用いて電流指令信号のスムージングについて説明する。上述のフラット領域の前後には、偏向電磁石108における電流の応答が可能な範囲で電流が平滑化されるようにスムージング領域(スムージング区間)を形成する。電流信号の指令値に対して偏向電磁石108の電流応答が間に合わないと、荷電粒子の位置飛びや消失が発生してしまう可能性があるが、スムージングによりこれらを回避することができる。
【0040】
次に、図2を用いて加速サイクル間における電流の基準信号例を説明する。図2では、横軸は時間を示し、縦軸は、基準信号を示している。加速サイクルは、入射器102から荷電粒子が入射され、再び入射器102から荷電粒子が入射されるまでの期間を意味する。この加速サイクルの間に荷電粒子は、フラットボトムのエネルギからトップエネルギまで加速され、再び元のフラットボトムのエネルギまで減速される。
【0041】
図2に示すように、複数の停止点500は、第2クロック生成部216が生成するクロック信号を停止させることが可能な点を示している。これらの停止点500のそれぞれは、主加速器104を周回する荷電粒子の定常エネルギに対応している。また、停止点500の前後にはスムージング領域が形成される。
【0042】
図3は、図2で示した基準信号に基づき生成される電流信号、すなわち、電流信号とクロック信号との関係を示す図である。横軸は時間を示し、(1)~(3)のそれぞれの縦軸は、(1)は、電流信号の指令値、すなわち電流値を示し、(2)は、リセット信号を示し、(3)は、クロック信号を示している。図3で示す電流信号は、第2クロック生成部216が生成するクロック信号を一度も停止していないので、電流の基準信号と同等の信号を出力している。なお、本実施形態に係る電流信号は、電流値の指令信号に対応している。
【0043】
図4は、クロック信号が停止された場合に基準信号に基づき生成される電流信号とクロック信号との関係を示す図である。横軸は時間を示し、(1)~(4)のそれぞれの縦軸は、(1)は、電流信号の指令値、すなわち電流値を示し、(2)は、リセット信号を示し、(3)は、クロック信号を示し、(4)の縦軸は、照射信号を示している。照射信号は、患者へ荷電粒子ビームを照射するために照射制御装置42が出力し、この照射信号に応じて加速器100からビーム輸送系20へ荷電粒子が出射される。
【0044】
図4に示すように、第2クロック生成部216は、第1記憶部に記憶される停止条件に基づき、予め定められた停止点に対応するクロック数になるとクロック信号の出力を停止する。電流信号生成部254は、クロック信号が停止した時点に対応する基準信号を電流信号として連続して出力する。なお、図3の例では荷電粒子を減速する過程で停止点を設定しているが、荷電粒子を加速する過程に停止点を設定してもよい。停止条件とは患者400に照射する荷電粒子のエネルギであり、照射制御装置42から出力される信号や計算機システム50からの設定に基づいて記憶される。
【0045】
このように、荷電粒子の取り出しエネルギそれぞれに停止点500とスムージング領域を設けた基準信号である場合、ビーム取り出しエネルギの数に比例して加速サイクルが長くなり、治療時間が増加してしまう。
【0046】
ここで、図6に基づき、スムージング領域に該当する領域を設けない基準信号について説明する。図6は、加速サイクル内の本実施形態に係る基準信号に基づき出力される電流信号を例示する図である。横軸は時間を示し、(1)~(3)のそれぞれの縦軸は、(1)は、電流信号の指令値、すなわち電流値を示し、(2)は、リセット信号を示し、(3)は、クロック信号を示している。
【0047】
図6の(1)における電流信号の指令値は、クロック信号を停止していないので基準信号の指令値と同等の値を示している。この時系列な基準信号は、第3記憶部252(図1)に予め記憶されている。
【0048】
この図6に示すように、この基準信号は、スムージング領域を有していないので、加速サイクル期間はスムージング領域を設ける場合よりも短くなる。この加速サイクルにおける電流値の時間変化には、最低エネルギに対応したフラットボトム区間と、最高エネルギに対応したトップ地点またはフラットトップ区間と、フラットボトム区間から加速するための加速区間と、トップ地点またはフラットトップ区間からフラットボトム区間に減速するための減速区間とが設けられている。
【0049】
次に、図7に基づき、本実施形態に係る第2クロック生成部216(図1)が出力するクロック信号と、電流信号生成部254(図1)が生成する電流信号について説明する。
【0050】
図7は、本実施形態に係る第2クロック生成部216(図1)が出力するクロック信号と、電流信号生成部254(図1)が生成する電流信号とを説明するタイムチャートである。横軸は時間を示し、(1)~(4)のそれぞれの縦軸は、(1)は、電流信号の指令値、すなわち電流値を示し、(2)は、リセット信号を示し、(3)は、クロック信号を示し、(4)の縦軸は、照射信号を示している。
【0051】
この図7に示すように、本実施形態に係る第2クロック生成部216(図1)は、荷電粒子のエネルギが定常状態になる前後にクロック信号の周期を連続的に変更する。すなわち、第2クロック生成部216は、スムージング領域に対応するクロック信号の周期を連続的に変更する。このスムージング領域に対応するクロック信号の周期は、偏向電磁石108における電流の過度特性に基づき、予め演算されている。すなわち、第2クロック生成部216は、クロック周期を連続的に増加または減少させる時系列なスムージング区間を設けることにより、偏向電磁石108に流れる電流の時間に対する変動を所定値よりも小さくする。ここで、電流の平滑化は、偏向電磁石108に流れる電流の時間に対する変動を所定値よりも小さくすることを意味する。
【0052】
本実施形態に係る電流信号生成部254(図1)は、第2クロック生成部216が出力するクロック信号に応じて、第3記憶部252に記憶される基準信号(例えば図6)を順に出力する。これにより、電流信号にスムージング領域510~516などが生成される。
【0053】
このように、荷電粒子の加速サイクルにおける偏向電磁石108の電流値の時間変化には、最低エネルギに対応したフラットボトム区間と、最高エネルギに対応したトップ地点またはフラットトップ区間と、フラットボトムから加速するための加速区間と、フラットトップからフラットボトムに減速するための減速区間とが設けられている。
【0054】
一方で、ビーム輸送系20への荷電粒子の出射を伴う加速サイクルにおける偏向電磁石108の電流の時間変化には、減速区間及び加速区間の少なくともいずれかの途中に所定の取り出しエネルギに対応した電流値を一定にするためのフラット領域が設けられている。また、減速区間及び加速区間の少なくともいずれかからフラット領域への移行の際、またはフラット領域から減速区間及び加速区間の少なくともいずれかへの移行の際に、電流値の変化を平滑化している。これにより、偏向電磁石108の電流値の時間に対する変動は、偏向電磁石108の電流応答が可能な範囲に抑制される。このため、荷電粒子の位置飛びや、荷電粒子の消失の発生を抑制できる。
【0055】
また、本実施形態に係る基準信号には、スムージング領域を設けていないため、荷電粒子の加速領域、減速領域に対する電流信号にはスムージング領域が発生しない。これにより、基準信号に予めスムージング領域を設ける場合よりも電流信号の加速サイクルを短縮できる。このように、電流信号生成部254は、患者への照射を行わない場合には、荷電粒子を所定のエネルギにおいて定常状態にするフラット領域を設けず、患者へ荷電粒子の照射を行う場合に、前記荷電粒子を所定のエネルギにおいて定常状態にするフラット領域を設ける。これにより、粒子線治療システム1全体の処理効率を上げることが可能となり、治療時間をより短くすることができる。
【0056】
次に、図8に基づき、荷電粒子の減速期間中の基準信号から電流信号のスムージング領域を生成する例をより詳細に説明する。図8は、荷電粒子の減速期間中の基準信号から電流信号のスムージング領域を生成する例を示す図である。縦軸は電流信号、横軸は時間である。(1)はクロック信号の出力周期を固定している場合の電流信号(つまり、基準信号そのまま)、(2)クロック信号の出力周期を連続的に延長させる場合の電流信号を示している。
【0057】
この図8に示すように、第2クロック生成部216(図1)が出力するクロック信号の周期を連続的に増加させると、電流信号生成部254(図1)が出力する指令信号の指令値の時間変化がなだらかになり、スムージング領域が生成される。逆に、第2クロック生成部216が出力するクロック信号の周期を連続的に短縮させると、電流信号生成部254(図1)が出力する電流信号の指令値の時間変化がなだらかになり、フラット領域から直線減速領域に滑らかに移行するスムージング領域が生成される。
このスムージング領域の設定に用いる時間(スムージング時間)は、荷電粒子の取り出しエネルギに基づいて設定することが望ましい。また、エネルギ変更を行う場合に、つまり、次に荷電粒子の出射を行うエネルギへ変更する場合に変更前後のエネルギの差に対応する指令信号の指令値の電流差が大きいほどスムージング時間を長くすることが望ましい。ここで、エネルギ変更前のエネルギとは、その加速サイクルで最初の荷電粒子の出射となる場合はフラットトップを、二回目以降の出射の場合は直前に荷電粒子の出射を行ったエネルギを指す。エネルギの変更幅が大きいと、荷電粒子のエネルギが指令信号の変化に追随し難くなるので、よりなだらかなスムージング領域とすることで、荷電粒子の位置飛びや荷電粒子の消失の発生をより確実に抑制することができる。
【0058】
次に、図9図10図12に基づき、本実施形態に係るタイミング制御部210が制御に用いるクロック信号に関する情報について説明する。図9は、荷電粒子のエネルギ定常状態と、クロック停止時のクロック数と、スムージング領域の生成に必要なスムージングクロック数との関係を示す図である。左の列が荷電粒子のエネルギ定常状態のナンバーを示し、中列が停止時のクロック数を示し、右列がスムージングクロック数を示している。この図9に示す荷電粒子のエネルギ定常状態と、クロック停止時のクロック数と、スムージング領域の生成に必要なスムージングクロック数との関係は、テーブルとしてタイミング制御部210の第1記憶部212(図1)に記憶されている。
【0059】
この図9に示すように本実施形態では、1000種類の荷電粒子のエネルギ定常状態が設けられている。これら1000種類の荷電粒子のエネルギ定常状態それぞれにクロック停止時のクロック数と、スムージングクロック数とが関連付けられている。例えば、エネルギ定常状態のナンバーが4の場合、第2クロック生成部216は、第1記憶部212に記憶されたテーブルに基づき、リセット信号の出力から数えて1550クロック数になるとクロック信号を停止する。また、第2クロック生成部216は、クロック信号を停止する60クロック前、つまり、1550-60=1490にクロック数が達すると、クロック信号の出力モードを定周期出力モードから可変周期出力モードへ移行する。
【0060】
図10は、スムージングを開始してからのクロック数とクロック間隔との関係を示す図である。左列はスムージング処理を開始した時点、すなわち、可変周期出力モードへ移行する際に、クロック周期の変更を開始した時点からのクロック数を示し、中列は、エネルギナンバー4の場合のクロック間隔を示している。図9を参照すると、スムージングクロック数は60であるが、図10では、クロック数を最長の100まで記載している。また、右列は、その他のエネルギナンバーの例を例示的にエネルギナンバーNで示している。この図10に示すスムージングを開始してからのクロック数とクロック間隔との関係は、テーブルとしてタイミング制御部21の第1記憶部212(図1)に記憶されている。
【0061】
図11は、図10のエネルギナンバー4のクロック間隔、すなわちクロックの可変周期に従いスムージング領域を生成した例を示す図である。横軸は時間を示し、縦軸は、電流信号を示している。
【0062】
この図11に示すように、第2クロック生成部216は、第1記憶部212(図1)に記憶されテーブルに基づき、1個目のクロック信号をスムージングの開始から12マイクロセカンド後に出力し、2個目のクロック信号を更にその16マイクロセカンド後に出力し、3個目のクロック信号をその更に22マイクロセカンド後に出力する。また、電流信号生成部254(図1)は、第3記憶部252に記憶される基準信号(図7)をこれらのクロック信号に応じて順に電流信号として出力する。このように、スムージングの開始時点からのクロック信号の周期を変更することにより、電流信号にスムージング領域が生成される。
【0063】
図12は、スムージングを開始してからのクロック数と経過時間との関係を示す図である。左列はスムージングを開始した時点、すなわち、クロック周期の変更を開始した時点からのクロック数を示し、中列は、エネルギナンバー4の場合のスムージングを開始時からの経過時間を示している。図9を参照するすると、スムージングクロック数は60であるが、図12では、クロック数を最長の100まで記載している。また、右列は、その他のエネルギナンバーの例を例示的にエネルギナンバーNで示している。図12は、図10と同等の内容をスムージングの開始時点からのクロック数と経過時間との関係として示している。この図12に示すスムージングを開始してからのクロック数と経過時間との関係は、テーブルとしてタイミング制御部21の第1記憶部212(図1)に記憶されている。
【0064】
図13は、図12のエネルギナンバー4のスムージング開始からのクロック出力時間、すなわちクロック周期に従いスムージング領域を生成した例を示す図である。横軸は時間を示し、縦軸は、電流信号を示している。
【0065】
この図13に示すように、第2クロック生成部216は、第1記憶部212(図1)に記憶されたテーブルに基づき、例えば1個目のクロック信号をスムージングの開始から12マイクロセカンド後に出力し、2個目のクロック信号を、スムージングの開始から28マイクロセカンド後に出力し、3個目のクロック信号を、スムージングの開始から50マイクロセカンド後に出力する。また、電流信号生成部254(図1)は、第3記憶部252に記憶される基準信号(図7)をこれらのクロック信号に応じて順に電流信号として出力する。このように、スムージングの開始時点からのクロック信号の周期を変更することにより、電流信号にスムージング領域を生成可能となる。
【0066】
このように、タイミング制御部210の第1記憶部212は、図9図10図12などで例示したクロックに関する情報をテーブル化して記憶している。そして、第2クロック生成部216は、出射の要求があった定常エネルギナンバーに基づき、クロック信号を電源制御部252に出力する。
上述した例では定常エネルギごとにクロック数、クロック間隔を規定したテーブルとしていた。別の例として、設定された定常エネルギごとにクロック数、クロック間隔を設定するのではなく、荷電粒子が変更する定常エネルギ間に対応する指令信号の指令値の差分に応じてクロック数、クロック間隔を規定したテーブルとすることも可能である。すなわち、例えば、エネルギナンバー100で荷電粒子を出射する場合、その前に荷電粒子の出射を行ったエネルギナンバーによって、エネルギナンバー100のフラット領域への移行時のスムージングクロック数、クロック間隔が異なるテーブルとする。
このような規定を実現するテーブルの構成は問わないが、例えば、エネルギナンバー間のエネルギの差が一定である場合は、エネルギナンバーの差ごとにスムージングのクロック数とクロック間隔を規定すればよい。例えば、エネルギナンバーを1から101に変更する場合は、テーブルのエネルギナンバー差100に対応するクロック数とクロック間隔を参照する。エネルギナンバーの差に対してクロック数とクロック間隔を設定することで、変更前のエネルギナンバーと変更後のエネルギナンバーの組み合わせ全てについてクロック数とクロック間隔を設定するよりも小さいテーブルとすることができる。ここで、変更前のエネルギはフラットトップの場合も有り得るので、フラットトップ相当をエネルギナンバー0としてテーブルに登録してもよい。
なお、スムージングクロック数とクロック間隔が決まればスムージング時間も決まるため、データテーブルは、定常エネルギ、または定常エネルギの差に対応する電流差とスムージング時間を対応させたテーブルともいえる。
【0067】
タイミング制御部210は、以下の式に従い、クロック信号の周期を演算してもよい。図7に示すように、荷電粒子が変更する定常エネルギ間に対応する指令信号の指令値の差分である電流差が大きくなるに従いスムージングクロック数を増加させる必要がある。
【0068】
このためスムージングクロック数をNmaxとし、K1を任意の定数とし、定常エネルギ間に対応する指令信号の指令値の差分である電流差をDifとすると例えば(1式)であらわすことが可能となる。
【0069】
Nmax=K1×Dif (1式)
【0070】
スムージングの開始からn番目のクロック間隔をTnとし、C1、C2、C3を任意の定数とし、定常エネルギ間に対応する指令信号の指令値の差分である電流差をDifとすると(2式)であらわすことが可能となる。
【0071】
Tn=C1×n×Dif×Dif+C2×n×Dif+C3×n (2式)
ここで、nは0からNmaxまでの整数である。
【0072】
また、スムージングクロック数Nmaxを一般的な関数形式でNmax=f(Dif)として、あらわすことも可能である。f( )は任意の一次関数である。また、スムージングの開始からn番目のスムージング時クロック間隔Tnを一般的な関数形式でT(n,Dif)として、あらわすことも可能である。T( )は任意の二次関数である。このような関数を偏向電磁石108(図1)の電流特性に応じて定義し、タイミング制御部210にスムージングクロック数とスムージング時間をリアルタイムに演算させてもよい。
なお、スムージング領域の設定に用いるクロック数およびクロックの間隔を求める上記演算式は一例であり、これに限定されない。例えば、荷電粒子が変更する定常エネルギの差に対応する指令信号の指令値の電流差に基づいて、まずスムージング領域の設定に用いるスムージング時間を演算し、このスムージング時間に基づいてスムージングの設定に用いるクロック数とクロック間隔を演算することでもよい。すなわち、上記演算式の例ではクロック数とクロック間隔を求めることでスムージング時間が決定されるが、電流差に基づいてスムージング時間を演算して求め、求めたスムージング時間からクロック数とクロック間隔を決定してもよい。電流差が大きいほど、スムージング時間が長くなる演算であればよい。
また、荷電粒子が変更する定常エネルギ間の差として説明したが、その加速サイクルで最初の荷電粒子の出射する場合においては、フラットトップとのエネルギと、荷電粒子の出射を行う定常エネルギの差に対応する指令信号の指令値の電流差Difとする。すなわち、荷電粒子のエネルギの変更前後の電流差に基づいて、スムージング時間を決定する。
以上のように、荷電粒子が変更する定常エネルギ間の差に応じてスムージング領域の設定に用いるクロック数、間隔を演算により求めることで、エネルギの変更前後の差が大きいほどスムージング時間を長くすることができる。
【0073】
図14は、可変のクロック信号を用いた電流信号の生成を説明するフローチャートである。ここでは、図6に例示する基準信号を用いた電流信号の生成例を説明する。
【0074】
計算機システム50は、あらかじめ計算および調整済みの周波数の基準信号、振幅の基準信号を高周波加速空洞制御部240の第2記憶部242に設定し、電流の基準信号を電源制御部250の第3記憶部252に設定する(ステップS100)。
【0075】
第2クロック生成部216は、計算機システム50からの出力許可信号を受けて、クロック信号とリセット信号の出力を開始する。または、計算機システム50の動作スタート信号を受けてあらかじめクロック信号とリセット信号を出力する(ステップS102)。
【0076】
次に、入射器102は、リセット信号に同期して、リセット信号の一定時間後に、荷電粒子を主加速器104内に入射する(ステップS103)。続けて、高周波加速空洞制御部240はクロック信号に応じて、第2記憶部242に設定された周波数の基準信号、振幅の基準信号を順に周波数信号、振幅信号として高周波加速空洞106に出力する。同様に、電源制御部250は、クロック信号に応じて、第3記憶部252に設定された電流の基準信号を順に電流信号として電源114に出力する。これにより荷電粒子は、主加速器104内の所定軌道を周回しながら加速していく。
【0077】
タイミング制御部210は、第1記憶部212に設定された停止条件及びテーブルを参照し、クロック信号の周期を変更するか否かを判定する(ステップS200)。タイミング制御部210は、第1記憶部212に設定された停止条件及びクロックに関するテーブル(例えば図9図10図12などで示したクロックに関する情報)を参照し、クロック数がエネルギナンバーに対応するスムージング開始クロック数である場合に(ステップS200のYES)、クロック信号の周期の変更を開始する(ステップS202)。電源制御部250の電流信号生成部254は、クロック信号に応じて第3記憶部252に記憶される基準信号を順に電流信号として出力する。これにより、例えば図7に示すようにスムージング領域510が生成される。
【0078】
次に、タイミング制御部210は、第1記憶部212に設定された停止条件及びクロックに関するテーブルを参照し、クロック信号を停止するか否かを判定する(ステップS204)。タイミング制御部210は、クロック数が停止条件に該当するクロック数でない場合(ステップS206のNO)、ステップS202からの処理を繰り返す。
【0079】
一方で、タイミング制御部210は、クロック数が停止条件に該当するクロック数であれば(ステップS206のYES)、クロック信号の出力を停止する(ステップS208)。電流信号生成部254は、クロック信号の停止時の電流信号を継続して電源制御部250に出力する。これにより、例えば図7に示すように第1エネルギでの定常状態に該当するフラット領域が生成される。
【0080】
次に、タイミング制御部210は、クロック信号の出力を再開するか否かを判定する(ステップS212)。タイミング制御部210は、照射制御装置42から照射終了信号または異なるエネルギでの照射要求信号を受信していなければ、クロック信号の停止を維持すると判定し(ステップS212のNO)、ステップS208からの処理を繰り返す。
【0081】
一方で、タイミング制御部210は、照射制御装置42から照射終了信号または異なるエネルギでの照射要求信号を受信すると、クロック信号の出力の再開と判定する(ステップS212のYES)。続けて、クロック信号の周期の変更を開始する(ステップS214)。
【0082】
次に、タイミング制御部210は、第1記憶部212に設定された停止条件及びテーブルを参照し、クロック信号の周期の変更を停止するか否かを判定する(ステップS218)。クロック数が変更停止に該当するクロック数でない場合(ステップS218のYES)、ステップS214からの処理を繰り返す。電流信号生成部254は、クロック信号に応じて第3記憶部に記憶される基準信号を順に電流信号として出力する。これにより、例えば図7に示すようにスムージング領域512が生成される。
【0083】
一方で、クロック数が変更停止に該当するクロック数である場合(ステップS218のNO)、全体処理が終了か否かを判定し(ステップS220)、終了でなければ(ステップS220のNO)、ステップS200からの処理を繰り返す。
【0084】
タイミング制御部210は、クロック数がエネルギナンバーに対応するスムージング開始クロック数でない場合(ステップS200のNO)、定周期のクロック信号を電源制御部250に出力する。電源制御部250の電流信号生成部254は、クロック信号に応じて、第3記憶部252に設定された電流の基準信号を順に電流信号として電源114に出力する(ステップS222)。一方で、全体処理が終了であれば(ステップS220のYES)、全体の制御処理を終了する。このように、タイミング制御部210は、クロック信号の周期を連続的に変化させ、スムージング領域を生成する。
【0085】
以上の様に本実施形態によれば、電流信号生成部254は、クロック信号の受信に応じて基準信号を時系列な電流信号として出力する場合に、クロック信号の停止を行う前にクロック信号の周期を連続的に変化させることとした。これにより、時系列指令信号の指令値の時間に対する変化が平滑化されるので、スムージング領域を設けられていない基準信号から、スムージング領域が形成された電流信号を出力することができる。
【0086】
また、実際に治療を実施する際に、荷電粒子の取り出しを行わないビームエネルギでは偏向電磁石108の電流値を一定にするフラット領域を設ける必要がなく、実際に荷電粒子の取り出しを行うビームエネルギでのみフラット領域を設けることが可能である。これにより荷電粒子の加速サイクルがより短縮化され、患者の治療時間の短縮化に寄与する。特に、加速器で実現する荷電粒子の取り出しエネルギを従来よりも多くした場合(例えば600種類)でも、それによって加速サイクルが長大化することがない。このため、レンジシフタ等のハードウェアを用いることなく従来と同程度かそれ以上の照射エネルギの種類を使用することができるため、治療時間の短縮に寄与する。
また、荷電粒子のエネルギの変更前後の差が大きいほどスムージング時間を長くすることができる。
【0087】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る粒子線治療システム1は、第2クロック生成部216のクロック信号の周波数を変更させて電流信号にスムージング領域を生成する代わりに、電流の補正信号を用いて電流信号にスムージング領域を生成する点で、第1実施形態と相違する。以下では、第1実施形態と相違する点を説明する。
【0088】
図15は、第2実施形態に係る粒子線治療システム1の概略的な全体構成を示す図である。この図15に示すように、第2記憶部242に高周波補正用パターンメモリ領域242aを設け、第3記憶部252に電流補正用パターンメモリ領域252aを設けたことで、第2実施形態と相違する。高周波補正用パターンメモリ領域242aには、周波数の基準信号、振幅の基準信号をそれぞれ補正する周波数の補正信号、振幅の補正信号が記憶されている。また、電流補正用パターンメモリ領域252aには、電流の基準信号を補正する補正信号が記憶されている。
【0089】
図16は、基準信号に基づき生成される補正前の電流信号と補正信号との関係を示す図である。横軸は時間を示し、(1)~(5)のそれぞれの縦軸は、(1)は、補正前の電流信号を示し、(2)は、クロック信号を示し、(3)は、補正信号を示し、(4)は、補正開始信号を示し、(5)は、補正後の電流信号を示している。図16に基づき、スムージング処理を行う場合の本実施形態に係るタイミング制御部210の処理と、電源制御部250の処理例を説明する。
【0090】
まず、電流信号生成部254が出力する補正前の電流信号について説明する。電流信号生成部254は、例えば図16の減少領域1、減少領域2などとして示すように、クロック信号の受信に応じて、第3記憶部252に記憶される電流の基準信号を補正前の電流信号として順に出力する。また、電流信号生成部254は、例えばフラット領域として示すように、クロック信号が停止すると、クロック信号の停止時の基準信号を電流信号として継続して出力する。
【0091】
次に、電流信号生成部254が電流信号の補正に用いる補正信号について説明する。この補正信号(スムージングパターン1、スムージングパターン2など)の指令値は、予め補正前の電流信号の指令値と補正信号の指令値を加算すると、時間に対して滑らかに変化するように演算されている。このため、補正前の指令信号の指令値と補正信号の指令値を加算すると、時間に対して滑らかに変化する指令信号の指令値が得られる。すなわち、補正後の電流信号の指令値は平滑化され、時間に対する微分値は連続的に変化する。
【0092】
電流信号生成部254は、補正開始信号に基づき、補正前の指令信号の指令値と補正信号の指令値を加算した指令値を有する補正後の電流信号を生成する。より詳細には、電流信号生成部254は、例えば減少領域1から荷電粒子のエネルギ定常状態に対応するフラット領域への移行時には、補正開始信号の立ち上がり信号の検知に基づき、補正前の指令信号の指令値と補正信号(スムージングパターン1)の指令値を加算した指令値を有する補正後の電流信号を生成する。また、電流信号生成部254は、例えば荷電粒子のエネルギ定常状態に対応するフラット領域から減少領域2への移行時には、補正開始信号の立ち下がり信号の検知に基づき、補正前の電流信号の指令値と補正信号(スムージングパターン2)の指令値を加算した指令値を有する補正後の電流信号を生成する。
【0093】
減少領域1、減少領域2などでは、補正前の指令信号の指令値の時間に対する変化の度合いは所定値に維持されている。このため、図16に示すように、例えば、補正開始信号の立ち上がり時に加算される補正信号の時系列値を示すスムージングパターン1と、補正開始信号の立ち下がり時に加算される補正信号の時系列値を示すスムージングパターン2とは、正負が反転している。これにより、補正開始信号によるスムージング処理は、減少領域1からフラット領域に移行する場合にも、フラット領域から減少領域2に移行する場合にも可能となる。
【0094】
また、電流信号生成部254は、複数の定常エネルギそれぞれに対応する電流値の差分である電流差に応じた係数を補正信号(例えば、スムージングパターン1、スムージングパターン2)の指令値に乗算した値を基準信号の指令値に加算して、電流信号を生成してもよい。これにより、定常エネルギ間の大きさに対するスムージング量の調整が可能となる。特に、第1実施形態で説明したように、荷電粒子のエネルギの変更前後の差が大きいほどスムージング時間が長い補正信号とすることが可能となる。
【0095】
次に、タイミング制御部210が出力する補正開始信号について説明する。タイミング制御部210は、計算機システム50から受信したクロックの停止条件に基づき、補正開始信号をクロック信号の停止前に電源制御部250に出力する。また、タイミング制御部210は、照射制御装置42から照射の停止信号または異なるエネルギでの照射要求信号を受信すると、補正開始信号を立ち下げる。そして、タイミング制御部210は、所定のクロック数が経過した後に、クロック信号の出力を再開する。このように、タイミング制御部210は、補正開始信号を出力して所定のクロック数が経過した後に、クロック信号を停止する。また、タイミング制御部210は、補正開始信号の出力を停止して所定のクロック数が経過した後に、クロック信号の出力を再開する。
【0096】
これらから分かるように、補正前の指令信号の指令値と補正信号の指令値を加算すると、時間に対して滑らかに変化する電流信号、すなわち時間に対する変化の度合いが所定値よりも小さい電流信号が得られる。
【0097】
図17は、補正信号を用いた電流信号の生成を説明するフローチャートである。第1実施形態と同等の処理には同一の番号を付して説明を省略する。ここでは、電流信号の生成例を説明する。
【0098】
まず、タイミング制御部210は、荷電粒子が主加速器104に入射された後も、定周期のクロック信号を継続して電流信号生成部254に出力する。電流信号生成部254は、このクロック信号の受信に応じて、基準信号を補正前の電流信号として順に出力する。
【0099】
次に、タイミング制御部210は、第1記憶部212に設定された停止条件を参照し、補正信号を用いたスムージングを開始するか否かを判定する(ステップS300)。タイミング制御部210は、スムージングを開始すると判定した場合に(ステップS300のYES)、補正開始信号を電源制御部250に出力する。電源制御部250の電流信号生成部254は、補正開始信号の立ち上がり信号の検知に基づき、基準信号の指令値と補正信号(例えばスムージングパターン1)の指令値を加算した指令値を加算した電流信号を出力する(ステップS304)。また、タイミング制御部210は、補正開始信号の出力を開始した時点から所定のクロック数が経過するとクロック信号を停止する。続けて、電流信号生成部254は、クロック停止時の基準信号と補正信号を加算した電流信号を出力する。更に、所定のクロック数が経過すると電流信号生成部254は、クロック停止時の基準信号を電流信号として出力する。
【0100】
次に、タイミング制御部210は、クロック信号の出力を再開するか否かを判定する(ステップS306)。タイミング制御部210は、照射制御装置42から照射終了信号または異なるエネルギでの照射要求信号を受信していなければ、クロック信号の停止を維持すると判定し(ステップS306のNO)、ステップS302からの処理を繰り返す。
【0101】
一方で、タイミング制御部210は、照射制御装置42から照射終了信号または異なるエネルギでの照射要求信号を受信すると、クロック信号の出力の再開と判定し(ステップS306のYES)、補正開始信号の出力を停止し、さらに所定のクロック数が経過した後に、クロック信号の出力を再開する。電源制御部250の電流信号生成部254は、補正開始信号の立ち下がり信号を検知すると、基準信号の指令値と補正信号(例えばスムージングパターン2)の指令値を加算した指令値を加算した電流信号を出力する。更に、所定のクロック数が経過すると電流信号生成部254は、基準信号を電流信号として順に出力する。
【0102】
次に、タイミング制御部210は、全体処理が終了か否かを判定し(ステップS308)、終了でなければ(ステップS308のNO)、ステップS300からの処理を繰り返す。
【0103】
一方で、タイミング制御部210は、スムージングの開始でないと判定した場合に(ステップS300のNO)、定周期のクロック信号を継続して電源制御部250に出力する。電源制御部250は、クロック信号に応じて、第3記憶部252に設定された電流の基準信号を順に電流信号として出力する(ステップS310)。一方で、全体の制御処理が終了であれば(ステップS308のYES)、全体の処理を終了する。このように、タイミング制御部210は、指令信号の指令値に、指令値の変動を減少させる補正信号の指令値を加算することにより、スムージング領域を生成する。
【0104】
以上の様に本実施形態によれば、電流信号生成部254は、クロック信号の停止を行う前後に時系列な指令信号の指令値に、時間に対する指令値の変動を減少させる補正信号の指令値を加算することとした。これにより、時間に対する指令値の変化を平滑化するので、荷電粒子の位置飛びや荷電粒子の消失が回避される。
【0105】
また、ビーム輸送系20への荷電粒子の出射を伴わない加速サイクルの場合には、荷電粒子の所定の取り出しエネルギに対応させて偏向電磁石108の電流値を一定にするフラット領域を設けず、ビーム輸送系20への荷電粒子の出射を伴う加速サイクルの場合には、フラット領域を設けこととした。これにより荷電粒子の加速サイクルがより短縮化され、患者の治療時間をより短縮化できる。
【0106】
上述した各実施形態で説明した制御装置200の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御装置600の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0107】
また、制御装置200の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0108】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
1:粒子線治療システム、10:加速器システム、20:ビーム輸送系、30:照射装置、100:加速器、102:入射器、104:主加速器、106:高周波加速空洞、108:偏向電磁石、114:電源、112:出射器、200:制御装置、230:高周波制御部、250:電源制御部、252:第3記憶部、254:電流信号生成部、256:第2出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17