(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】走行データ表示方法、プログラム及びシステム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20230315BHJP
G08G 1/0968 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
G08G1/00 D
G08G1/0968 B
(21)【出願番号】P 2018184199
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-04-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳永 寿慧
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-085905(JP,A)
【文献】特開2009-023655(JP,A)
【文献】特開2011-166371(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099246(WO,A1)
【文献】特開2012-133023(JP,A)
【文献】特開2002-048581(JP,A)
【文献】特開2016-219864(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0172517(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
G08G 1/0968
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサによって、
車体を左右方向に傾斜させて旋回するリーン車両
の旋回時における前記車体のリーン姿勢を反映させた前記車両を斜視図として示す車両画像を表示装置に表示させ、
前記プロセッサによって、前記車両に設けられる検出装置で検出された走行データに基づいて求められる走行中に前記車両に作用した力を示す力画像を、前記車両画像に重ねて前記表示装置に表示させ
、
前記力画像は、前記車両の車輪に路面から作用するタイヤ力を示すタイヤ力画像を含み、
前記プロセッサによって、前記車両画像に示された前記車両の対応する車輪と路面との間の接点を中心とした楕円又は円で前記タイヤ力を表現した前記タイヤ力画像を前記表示装置に表示させる、走行データ表示方法。
【請求項2】
前記
タイヤ力画像は、前記車両の前輪タイヤに作用する前輪タイヤ力を示す前輪タイヤ力画像と、前記車両の後輪タイヤに作用する後輪タイヤ力を示す後輪タイヤ力画像と、を含み、
前記プロセッサによって、前記前輪タイヤ力画像及び前記後輪タイヤ力画像を、互いに区別して視認可能な態様で前記表示装置に表示させる、請求項
1に記載の走行データ表示方法。
【請求項3】
前記プロセッサによって、前記路面に対して前記車輪が空転するまでの余裕度に応じて、前記表示装置に前記タイヤ力画像の表示色を変化させる、請求項1
又は2に記載の走行データ表示方法。
【請求項4】
前記プロセッサによって、走行経路とともに走行位置を示す経路情報を、前記力画像及び前記車両画像と併せて前記表示装置に表示させる、請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の走行データ表示方法。
【請求項5】
前記プロセッサによって、前記車両画像として前記車両を複数の視点から見た画像を選択可能に前記表示装置に表示させる、請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の走行データ表示方法。
【請求項6】
プロセッサによって、車両を示す車両画像を表示装置に表示させ、
前記プロセッサによって、前記車両に設けられる検出装置で検出された走行データに基づいて求められる走行中に前記車両に作用した力を示す力画像を、前記車両画像に重ねて前記表示装置に表示させ、
前記力画像は、前記車両の前輪タイヤに作用する前輪タイヤ力を示す前輪タイヤ力画像と、前記車両の後輪タイヤに作用する後輪タイヤ力を示す後輪タイヤ力画像と、を含み、
前記プロセッサによって、前記前輪タイヤ力の実際値を補正して得られる補正値に基づいて前記前輪タイヤ力画像を生成させ、前記後輪タイヤ力の実際値を補正して得られる補正値に基づいて前記後輪タイヤ力画像を生成させ、
前記プロセッサによって、前記前輪タイヤ力画像と前記後輪タイヤ力画像とで前記補正値の増減比率を異ならせる
、走行データ表示方法。
【請求項7】
車体を左右方向に傾斜させて旋回するリーン車両
の旋回時における前記車体のリーン姿勢を反映させた前記車両を斜視図として示す車両画像を表示装置に表示させると共に、前記車両に作用した力を示す力画像を前記車両画像に重ねて前記表示装置に表示させ
、
前記力画像は、前記車両の車輪に路面から作用するタイヤ力を示すタイヤ力画像を含み、
前記車両画像に示された前記車両の対応する車輪と路面との間の接点を中心とした楕円又は円で前記タイヤ力を表現した前記タイヤ力画像を前記表示装置に表示させることをプロセッサに実行させる、走行データ表示プログラム。
【請求項8】
車体を左右方向に傾斜させて旋回するリーン車両
の車輪に路面から作用する
タイヤ力に関連する力関連値を検出する力関連値検出装置と、
前記検出装置の検出結果に基づいて前記
タイヤ力を演算する演算装置と、
前記車両のリーン姿勢を検出するリーン姿勢検出装置と、
走行中の予め定める間隔ごとに前記
タイヤ力及び前記リーン姿勢をそれぞれ記憶する記憶装置と、
前記記憶装置から記憶情報を読み出し、前記車両
の旋回時における前記車体のリーン姿勢を反映させた前記車両を斜視図として示す車両画像を表示装置に表示させると共に、
前記車両画像に示された前記車両の対応する車輪と路面との間の接点を中心とした楕円又は円で前記
タイヤ力を
表現したタイヤ力画像を前記車両画像と重ねて前記表示装置に表示させる制御装置と、を備える、走行データ表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行データを表示する方法、プログラム及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の走行中の速度、ブレーキ量及びバンク角を収集し、走行後に走行データの時間変化をグラフ表示させる技術が存在する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行中に収集した走行データが示す走行状態を走行後に表示するにあたっては、運転者へ分かり易い方法で表示することが望まれる。
【0005】
そこで本発明は、運転者に車両の走行状態を走行後に分かり易く伝えることができるようにすることを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る走行データ表示方法は、車両を示す車両画像を表示すると共に、前記車両に設けられる検出装置で検出された走行データに基づいて求められる走行中に前記車両に作用した力を示す力画像を前記車両画像と一緒に表示する。
【0007】
前記方法によれば、走行中に実際に車両に作用した力を力画像として可視化し、それを車両画像と共に表示することで、運転者による走行状態の認識を容易にすることができる。
【0008】
前記力画像は、前記力の大きさを可視化する表示を有するようにしてもよい。
【0009】
前記方法によれば、運転者が車両に作用した力の情報を的確に認識することができる。
【0010】
前記力画像は、前記車両の車輪に路面から作用する力の情報を含むようにしてもよい。
【0011】
前記方法によれば、走行中の車輪が空転するまでの余裕度を認識しやすくすることができる。
【0012】
前記力画像は、前記車両の前輪タイヤに作用する前輪タイヤ力を示す前輪タイヤ力画像と、前記車両の後輪タイヤに作用する後輪タイヤ力を示す後輪タイヤ力画像とを含むようにしてもよい。
【0013】
前記方法によれば、前輪の力情報と後輪の力情報とが別々に表示されることで、それぞれの力を容易に把握することができる。
【0014】
前記力画像を走行状態の変化に応じて表示変化させるようにしてもよい。
【0015】
前記方法によれば、力の時間変化を視覚的に把握でき、過渡的な状況変化を容易に認識することができる。
【0016】
前記車両は、車体を車幅方向に傾斜させて旋回するリーン車両であって、前記車両画像は、前記車両の旋回時における前記車体のリーン姿勢を反映させて表示されるようにしてもよい。
【0017】
前記方法によれば、車両のリーン姿勢に応じた力の変化を容易に認識することができる。
【0018】
前記検出装置の検出結果とは別に生成されて前記車両に作用した前記力と比較するための力の参照値を示す参照力画像を前記力画像と共に更に表示するようにしてもよい。
【0019】
前記方法によれば、運転者は、自己の走行データに対応する力画像とモデルデータに対応する参照力画像とを比較して見ることで、自己の運転スキルとモデルとなる運転スキルとの違いを容易に認識することができる。
【0020】
前記車両に作用した前記力の実際値を補正して得られる補正値に基づいて前記力画像を生成するようにしてもよい。
【0021】
前記方法によれば、補正によって力画像が示す情報を強調又は省略することで、運転者が走行中に車両に作用した力の傾向を容易に認識することができる。
【0022】
本発明の一態様に係る走行データ表示プログラムは、車両を示す車両画像を表示装置に表示させると共に、前記車両に作用した力を示す力画像を前記車両画像と一緒に前記表示装置に表示させる。
【0023】
前記構成によれば、走行中に実際に車両に作用した力を力画像として可視化し、それを車両画像と共に表示することで、運転者による走行状態の認識を容易にすることができる。
【0024】
本発明の一態様に係る走行データ表示システムは、車両に作用する力に関連する力関連値を検出する検出装置と、前記検出装置の検出結果に基づいて前記力を演算する演算装置と、前記車両のリーン姿勢を検出するリーン姿勢検出装置と、走行中の予め定める間隔ごとに前記力及び前記リーン姿勢をそれぞれ記憶する記憶装置と、前記記憶装置から記憶情報を読み出し、前記車両を示す車両画像を表示装置に表示させると共に、前記車両に作用した前記力を示す力画像を前記車両画像と一緒に前記表示装置に表示させる制御装置と、を備える。
【0025】
前記構成によれば、走行中に実際に車両に作用した力を力画像として可視化し、それを車両画像と共に表示することで、運転者による走行状態の認識を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、運転者に車両の走行状態を走行後に分かり易く伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態に係る走行データ表示システムの全体図である。
【
図2】
図1に示す走行データ表示システムのブロック図である。
【
図4】
図2に示す携帯情報端末の表示画面の第1例を示す図面である。
【
図5】
図2に示す携帯情報端末の表示画面の第2例を示す図面である。
【
図6】
図2に示す携帯情報端末の表示画面の第3例を示す図面である。
【
図7】
図2に示す携帯情報端末の表示画面の第4例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0029】
図1は、実施形態に係る走行データ表示システム1の全体図である。
図1に示すように、走行データ表示システム1は、自動二輪車2の走行中に得られた走行データに基づいて走行中の自動二輪車2に作用した力を求め、当該力を走行後に携帯情報端末11(例えば、スマートフォン)に画像で表示させ、運転者が自己の運転スキルを評価できるようにするものである。なお、走行データ表示システム1の適用対象は、車体を左右方向に傾斜(リーン)させて旋回するリーン車両である。リーン車両は、運転者と車両とを合わせた移動体全体が遠心力と釣り合う傾斜角で走行することで、車体傾斜状態(リーン姿勢状態)を維持して旋回走行する。自動二輪車2は、そのリーン車両の好適例である。
【0030】
自動二輪車2は、従動輪である前輪3と、駆動輪である後輪4とを備える。自動二輪車2は、前輪接地点と後輪接地点とを通過する前後軸AX周りに左右方向に車体5を傾斜させた状態(リーン姿勢状態)で旋回走行する。車体5が直立した状態を基準とした前後軸AX周りの車体5の傾斜角をリーン角θという(直立状態のリーン角θはゼロ)。
【0031】
自動二輪車2は、走行用の駆動力を発生する原動機を備える。本実施形態では、原動機としてエンジンE(内燃機関)が採用されるが、エンジンに代えて電動モータを採用してもよいし、エンジン及び電動モータの両方を採用してもよい。エンジンEの駆動力は、動力伝達機構を介して後輪4に付与される。
【0032】
自動二輪車2は、前輪3及び後輪4を制動する油圧式のブレーキ装置を備える。当該ブレーキ装置は、前輪3を制動する前ブレーキユニット6と、後輪4を制動する後ブレーキユニット7と、前ブレーキユニット6及び後ブレーキユニット7を制御するブレーキ制御ユニット8とを有する。前ブレーキユニット6及び後ブレーキユニット7は、互いに独立して動作し、それぞれブレーキ圧に比例した制動力を前輪3及び後輪4に付与する。
【0033】
自動二輪車2は、車両制御装置9(ECU)を備える。車両制御装置9は、駆動源(例えば、エンジンE)の駆動力を制御するものでよいし、車輪の制動動作を制御(ABS制御)するものでもよいし、車体挙動(サスペンションやステアリング)を制御するものでもよい。車両制御装置9には、車両を制御するために各種センサから検出情報が与えられる。例えば、スロットル開度、車速、エンジン回転数、ブレーキ圧等の検出情報が、車両制御装置9に入力される。
【0034】
路面から前輪3又は後輪4のタイヤに作用する力には、そのタイヤに縦方向(前後方向)に作用する「縦タイヤ力Fx」と、そのタイヤに横方向(左右方向)に作用する「横タイヤ力Fy」と、タイヤに鉛直上向きに作用する「垂直抗力FV」とが含まれる。即ち、駆動輪(後輪4)の縦タイヤ力Fxは、加速時には前方向に向いて減速時には後方向に向く力であり、従動輪(前輪3)の縦タイヤ力Fxは、減速時に後方向に向く力である。
【0035】
後輪4に縦力Fxを発生させる主要因には、エンジンEから後輪4に伝達される駆動力と、後ブレーキユニット7から後輪4に付与される制動力とが挙げられ、前輪3に縦力Fxを発生させる主要因には、前ブレーキユニット6から前輪3に付与される制動力が挙げられる。横タイヤ力Fyは、旋回走行中に発生する。前輪3及び後輪4に横タイヤ力Fyを発生させる主要因には、走行速度及び旋回半径に基づく遠心力の反力が挙げられる。
【0036】
自動二輪車2には、走行状態を検出する後述する各種のセンサが搭載されており、その各センサの検出信号を受信する走行データ管理装置10が搭載されている。自動二輪車2の運転者は、携帯情報端末11(例えば、スマートフォン)を所持するか、あるいは、自動二輪車2の所定の位置に携帯情報端末11を取り付ける。携帯情報端末11は、走行データ管理装置10と通信すると共に、通信ネットワークN(例えば、インターネット)を介して外部のサーバ12及びデータベース13と通信する。
【0037】
図2は、
図1に示す走行データ表示システム1のブロック図である。
図2に示すように、走行データ管理装置10の入力側には、GPS受信機21、IMU22、エンジン回転数センサ23、車速センサ24、駆動輪速度センサ25、ブレーキ圧センサ26、リーン角センサ27(リーン姿勢検出装置)及び入力操作器28が接続されている。GPS受信機21は、GPS衛星から自車位置情報を受信する。なお、このGPS受信機21に代えて携帯情報端末11の位置検出機能を用いてもよい。また、GPS受信器21に代えて、速度センサ及び方向センサから移動距離及び方向を累積演算して現在位置座標を取得してもよい。また、走行位置を取得可能であれば、既存の他の検出装置を用いてもよい。
【0038】
IMU22は、3軸のジャイロと3方向の加速度計によって、3次元の角速度及び加速度をそれぞれ検出する慣性計測装置であり、互いに直交する3軸方向の加速度と当該3軸回りの角速度とを検出することができる。なお、IMUの代わりに、一般的な加速度センサが用いられてもよい。例えば、携帯情報端末11に加速度センサが搭載されている場合、IMU22の代わりに携帯情報端末11の加速度センサが用いられてもよい。
【0039】
エンジン回転数センサ23は、エンジンEのクランク軸の回転数を検出する。車速センサ24は、例えば、従動輪である前輪3の回転数を検出することにより自動二輪車2の走行速度を検出する。駆動輪速度センサ25は、駆動輪である後輪4の回転数を検出する。ブレーキ圧センサ26は、前ブレーキユニット6及び後ブレーキユニット7に発生するブレーキ圧力(例えば、ブレーキ油圧)をそれぞれ検出する。リーン角センサ27は、車体5が直立状態から左右方向へ傾斜した角度(リーン角)を検出する。入力操作器28は、運転者が入力操作を行うタッチパネルやボタン等である。
【0040】
走行データ管理装置10は、ハードウェア面において、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。走行データ管理装置10は、機能面において、入力部31、走行位置履歴取得部32、タイヤ力演算部33(演算装置)、遠心力演算部34(演算装置)、制御部36(制御装置)、記憶部37(記憶装置)及び出力部38を備える。記憶部37は、揮発性メモリ及び不揮発性メモリにより実現される。入力部31及び出力部38は、I/Oインターフェースにより実現される。走行位置履歴取得部32、タイヤ力演算部33及び遠心力演算部34は、不揮発性メモリに保存された走行情報処理プログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。制御部36は、不揮発性メモリに保存された走行データ処理プログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
【0041】
位置履歴取得部32は、GPS受信機21で検出される自動二輪車2の位置情報から自動二輪車2の走行位置の履歴を求める。なお、走行位置履歴は、自動二輪車2の走行軌跡でもよいし、自動二輪車2の走行した位置座標でもよい。タイヤ力演算部33は、後述するように前輪3及び後輪4の各々にかかる横タイヤ力Fyを求める。遠心力演算部34は、後述するように旋回走行時に車体5にかかる遠心力を求める。制御部36は、位置履歴取得部32、タイヤ力演算部33、及び遠心力演算部34で得られた走行データを記憶部37に書込みすると共に、当該走行データを記憶部37から読み出して出力部38を介して携帯情報端末11又は表示器39に表示させる。なお、制御部36は、出力部38を介して走行データを外部メモリ40にも記憶させることが可能である。
【0042】
出力部38は、自動二輪車2の運転者が所有する携帯情報端末11に近距離無線通信(例えば、Bluetooth(登録商標))によりデータを送信する。携帯情報端末11は、走行データを表示するためのアプリケーションプログラムを有し、そのプログラムに従ってネットワークNを介して遠隔地のサーバ12及びデータベース13との間でデータを送受信可能である。サーバ12は、自動二輪車2と同様に他のユーザの自動二輪車の携帯情報端末と通信し、データベース13には多数のユーザの走行データが蓄積される。
【0043】
携帯情報端末11は、ハードウェア面において、演算部(CPU)と、入力インターフェース(アンテナ、ボタン等)と、記憶部(ROM/RAM)と、出力インターフェース(表示画面50)とを有する。携帯情報端末11は、例えばスマートフォンであり得る。携帯情報端末11は、自動二輪車2に搭載された走行データ管理装置10から受信した情報に基づき、その表示画面50に後述する力画像及び車両画像を同時に表示する。
【0044】
図3は、後輪4の摩擦円を示す平面図である。
図3に示すように、後輪4の摩擦円C
fは、路面に対する後輪4のタイヤのグリップ限界を示す円である。即ち、摩擦円C
fは、鉛直方向に垂直な水平面上において後輪接地点を中心とし、最大摩擦力(路面と後輪との間の摩擦係数μと後輪タイヤの垂直抗力F
vとの積μ・F
v)の大きさを半径とする円である。後輪4と路面との間に生じるタイヤ力は、後輪4の進行方向成分である縦タイヤ力F
xと、当該進行方向に直交する横方向成分である横タイヤ力F
yとを有する。
【0045】
縦タイヤ力Fxと横タイヤ力Fyとの合力Ftの起点は摩擦円Cfの中心にあり、合力Ftの終点が摩擦円Cfの内側に収まっているときには、合力Ftが摩擦力と釣り合い得るので、後輪4のスリップが防がれる。合力Ftが摩擦円Cfを超えるときには、合力Ftが最大摩擦力よりも大きいので、後輪4が最大摩擦力に抗してスリップする。即ち、合力Ftの終点が摩擦円Cfの内側にあるときにおける合力Ftの終点と摩擦円Cfとの間の距離Lに相関する値が、後輪4の路面に対する滑りが発生するまでの余裕度FSとして設定される。余裕度FSは、例えば、試験結果等に基づいて、合力Ftの終点と摩擦円Cfとの距離Lを段階的に表した値に設定されてもよい。例えば、距離Lごとに5段階のレベルが予め設定されてもよい。また、摩擦円Cfの半径をFmaxとした場合には、余裕度FSは、L/Fmaxとしてもよい。
【0046】
本実施形態では、タイヤ力演算部33は、自動二輪車2に作用する力としての後輪4の横タイヤ力Fy及び縦タイヤ力Fxを算出する。横タイヤ力Fyは、旋回走行中に主に走行速度及び旋回半径に基づく遠心力の反力として発生し、車体バンク角β(=90°-θ)の時間変化に関連する値(例えば、バンク角速度やバンク角加速度)に応じて発生する成分を含む。そのため、横タイヤ力Fyは、IMU22で検出される横加速度とバンク角とを入力とした関数として求めることができる。例えば、横タイヤ力Fyは、横加速度及びバンク角の各々が増加するにつれて増加する関数により算出できる。横タイヤ力Fyの向きは、横加速度の向きと同じである。
【0047】
縦タイヤ力Fxは、車輪に付与された駆動力及び制動力の反力として発生する。そのため、縦タイヤ力Fxは、エンジン回転数とブレーキ圧とを入力とした関数として求めることができる。例えば、縦タイヤ力Fxは、後方に向けた力を正値として前方に向けた力を負値とした場合には、エンジン回転数が増加するにつれて増加し且つブレーキ圧が増加するにつれて減少する関数により算出できる。
【0048】
なお、前記した縦タイヤ力Fx及び横タイヤ力Fyの求め方は一例である。タイヤ力演算部33は、遠心力等の力の釣り合いによる運動方程式から求められる他の既知の計算式を用いてタイヤ力を演算してもよい(WO2018/073912)。またタイヤ力演算部33は、具体的にタイヤに作用する力をセンサによって検出した情報に基づいて取得してもよい。例えば、タイヤ力について、特開2017-161395号公報に開示されたように、ホイールに取り付けられてタイヤに作用する力を検出するひずみゲージに基づいて、取得してもよい。
【0049】
遠心力演算部34は、自動二輪車2に作用する力としての遠心力FcをIMU22及びリーン角センサ27の検出信号から求める。具体的には、車体5がリーン状態にあるときはIMU22の検出方向も車体5と一体に水平面に対して傾斜するため、Fc=m・αの数式4で遠心力Fcを算出する。mは、車体5の質量である。このように、横加速度は、遠心力Fcに関連する力関連値であり、IMU22は、力関連値検出装置である。なお、遠心力は、走行軌跡(カーブ軌跡)の曲率及び車速データから算出されてもよい。又は、遠心力は、IMU22で検出されたヨー方向の加速レート及びロール方向の加速レートに基づいて算出されてもよい。
【0050】
遠心力Fcの演算方法は一例であって、他の演算式で遠心力を求めてもよい。例えば、特開2017-65561号公報に開示されたように車両及び運転者を含む移動体全体の車幅方向の傾斜角(移動体リーン角)に釣り合う力を遠心力として求めてもよい。
【0051】
走行データ管理装置10の制御部36は、タイヤ力演算部33で求められたタイヤ力Ft(Fy,Fx)及び/又は遠心力演算部34で求められた遠心力Fcを、位置履歴取得部32で取得された走行位置履歴に関連付けて所定の間隔(例えば、一定距離ごと又は一定時間ごと)ごとに記憶部37に記憶させる。また、制御部36は、車体5のリーン姿勢に関する情報も走行位置履歴に関連付けて前記所定の間隔ごとに記憶部37に記憶させる。例えば、制御部36は、車体5が所定のリーン角以上のリーン姿勢になったことを示す情報又はリーン角自体を走行位置履歴に関連付けて記憶部37に記憶させる。即ち、横タイヤ力Fy及び/又は遠心力Fcは、走行位置履歴の情報を介してリーン姿勢に関する情報に関連付けられる。また、制御部36は、前記した余裕度FSも走行位置の情報に関連付けて記憶部37に記憶させる。
【0052】
制御部36は、記憶部37に記憶された情報を出力部38から出力させ、携帯情報端末11及びネットワークNを介してサーバ12に送信してデータベース13に蓄積させる。走行データ管理装置10から携帯情報端末11を介してサーバ12に送信されるデータには、送信元の自動二輪車2及び運転者の各識別情報が付加されている。自動二輪車2の識別情報は、走行データ管理装置10に予め記憶されている。運転者の識別情報は、例えば、携帯情報端末11に登録されている。
【0053】
サーバ12には、各自動二輪車又はそれら運転者の識別情報を取得する識別情報取得部14が設けられ、サーバ12にインストールされたプログラムは、種々の走行分析を行い、出力制御部15により当該識別情報ごとにタイヤ力Ft(Fy,Fx)及び遠心力Fcを含む各種走行情報や分析結果等を走行位置に関連付けた状態で携帯情報端末11に表示させることが可能である。また携帯情報端末11に走行データに関する情報を走行後に表示させる情報は、走行データ管理装置10の出力部38から送られてもよいし、サーバ12の出力制御部15から送られてもよい。
【0054】
図4は、
図2に示す携帯情報端末11の表示画面50の第1例を示す図面である。携帯情報端末11は、走行データを表示するための表示装置として機能する。携帯情報端末11は、走行データを表示するためのアプリケーションプログラムとして走行データ表示プログラムを有する。当該走行データ表示プログラムは、ユーザ(運転者)の入力に応じて、走行データ管理装置10又はサーバ12から受信した情報を処理して携帯情報端末11の表示画面50に所望の表示を行わせる。ユーザが携帯情報端末11を操作して過去の走行データのタイヤ力の表示を要求すると、表示画面50は
図4に示すような表示が行われる。
【0055】
本実施形態の表示画面50は、複数のセグメント50a,50bに分割されている。但し、表示画面50は複数のセグメントに分割されずに単一の画面としてもよい。表示画面50の1つのセグメントである動画領域50aには、自動二輪車2を示す車両画像51と、受信した走行データに基づいてタイヤ力を示す力画像52A,52Bとが一緒に重ねて表示されている。
【0056】
車両画像51は、対象とする車両、例えば自動二輪車2の画像を含む。本実施形態では、車両画像51は、車両を前方かつ左右方向一方側から見た画像として表示される。即ち、車両の前方面及び一方の側方面を示す斜視図として表示される。車両画像51は、自動二輪車2の旋回時における車体5のリーン姿勢を反映させて表示される。即ち、車両画像51上において、自動二輪車2が直進走行しているときには車体5が直立状態で表示され、自動二輪車2が旋回走行しているときには車体5がリーン姿勢で表示される。
【0057】
例えば、リーン角θに応じて複数用意される右リーン状態の車両をそれぞれ示す複数種類の車体画像と、リーン角θに応じて複数用意される左リーン状態の車両をそれぞれ示す複数種類の車体画像とが携帯情報端末11に記憶されている。携帯情報端末11は、走行データ管理装置10から受信したリーン角θの情報に基づいて、適切な車体画像51aを選択して表示する。
【0058】
また本実施形態では、車両画像51は、自動二輪車2の背景の画像を含んでいる。背景の画像として、路面画像51bと路面外画像51cとが表示される。路面画像51bとして、直進路/曲線路に関する情報や走行路の曲率半径に応じて複数用意される路面画像とが携帯情報端末11に記憶されている。携帯情報端末11は、受信した位置情報や走行軌跡情報に基づいて適切な路面画像51bを選択して表示する。路面外画像51cとしては、予め定める初期画面が携帯情報端末11に記憶されている。例えば、路面外画像51cとして、走行時間帯(日中、夜間、早朝、夕方等)ごとに異なる画像が記憶されてもよいし、天候情報(雨天、曇天、晴天等)、走行路情報(高速道路、市街地、サーキット、ドライブウェイ等)などに応じて画像が記憶されてもよい。このような情報は、GPSや通信ネットワークNを介して得られるサーバ12の情報に基づいて入手することができる。
【0059】
携帯情報端末11は、路面外画像51c、路面画像51b、車体画像51aの順(即ち、車両画像が最表面となる順で)で合成し、その合成画像を車両画像51として動画領域50aに表示する。具体的には、自動二輪車画像が一番前面に見えるように車両画像51を生成する。これによって前方で且つ左右方向一方の斜め位置から車両を撮影した画像を模した画像を生成することができる。
【0060】
力画像52Aは、自動二輪車2の後輪4のタイヤに作用する後輪タイヤ力を示す前輪タイヤ力画像である。力画像52Bは、自動二輪車2の前輪3のタイヤに作用する前輪タイヤ力を示す前輪タイヤ力画像である。なお、力画像52が表示する力は、自動二輪車2の走行データに基づいて求められる走行中に自動二輪車2に作用した力であればタイヤ力に限られず、例えば自動二輪車2に作用する遠心力Fcでもよい。
【0061】
力画像52A,52Bは、車両に作用した力を可視化して表したものである。力画像52A,52Bは、数値や文字とは異なる非文字情報であることが好ましい。具体的には、力画像52A,52Bは、色、形状、大きさ、向きなどの画像として認識される情報の視覚的変化によって表される。これにより、数値や文字で力を表す場合に比べ、走行状態を直感的に認識しやすくすることができる。
【0062】
具体的には、各タイヤ力画像52A,52Bは、対応する車輪と路面との間の接点を中心とした楕円としてそれぞれ描かれ、タイヤ力の大きさを楕円形の大きさ(面積)により表現している。本実施形態では、各タイヤ力画像52A,52Bは、縦タイヤ力Fxを自動二輪車2の前後方向の軸とし、横タイヤ力Fyを自動二輪車2の左右方向の軸とした楕円形状である。したがって、その楕円形状、すなわち長軸及び短軸の長さによって、タイヤ力の向き(縦タイヤ力と横タイヤ力のベクトル和)として表される。例えば、力画像52A,52Bは、横タイヤ力Fyと縦タイヤ力Fxとが互いに等しいときは真円となることで、タイヤ力の向きについて認識することができる。後輪タイヤ力画像52Aと前輪タイヤ力画像52Bとは、互いに重ねて表示可能である。後輪タイヤ力画像52Aと前輪タイヤ力画像52Bとは、互いに区別して視認可能な態様(例えば、異なる色)で表示される。
【0063】
携帯情報端末11は、走行位置変化、走行時間変化などの走行状態の変化に伴って車両画像51および各タイヤ力画像52A,52Bが変化するよう動画表示、いわゆるアニメーション表示するように表示画面50を制御する。すなわち走行状態の変化ごとに、走行状態に応じて記憶される画像が順次選択されて表示される。言い換えると、各タイヤ力画像52A,52Bは、車両画像51の変化に伴って動的に変化するように表示される。即ち、車両画像51が表示する自動二輪車2の走行位置の変化に伴って(車両画像51が表示する自動二輪車2の進行に伴って)、当該走行位置に関連付けられたタイヤ力が各タイヤ力画像52A,52Bに表示される。
【0064】
表示画面50の別のセグメントであるグラフ領域50bには、走行データに関する詳細データ画像53が表示される。例えば、
図4の例では、前輪3及び後輪4のタイヤ力の大きさがグラフ表示されている。
図4の例では、当該グラフには、横タイヤ力F
yと縦タイヤ力F
xとの合力F
tの大きさが表示されているが、横タイヤ力F
y及び縦タイヤ力F
xの夫々の大きさが個別に表示されてもよい。
【0065】
また、グラフ領域50bは、色が変化するように表示されてもよい。具体的には、グラフ領域50bのグラフは、力が小さい場合には、青色であり、力が大きくなるにつれて、緑色、黄色、橙色、赤色と色が順番にグラデーション変化してもよい。好ましくは、グラフ領域50bの色とグラフの長さとで力の大きさが表現されることが好ましい。また、力の大きさを表すグラフ領域50bのグラフの色に合わせて、動画領域50aに示される楕円の色が着色されてもよい。この場合、たとえば前輪のタイヤ力として、グラフ領域50bの前輪タイヤ力の大きさを表すグラフが黄色で表される場合、動画領域50aに示される前輪タイヤ力の領域を表す色が同色、すなわち黄色で表される。同様に、後輪のタイヤ力として、グラフ領域50bの後輪タイヤ力の大きさを表すグラフが赤色で表される場合、動画領域50aに示される後輪タイヤ力の領域を表す色が同色、すなわち赤色で表される。言い換えると、動画領域50aのタイヤ力は、力が小さい場合には、青色であり、力が大きくなるにつれて面積が広がるとともに、緑色、黄色、橙色、赤色と色が順番にグラデーション変化することになる。
【0066】
以上に説明した形態によれば、走行中に実際に車両に作用した力を力画像52A,52Bとして可視化し、それを車両画像51と共に表示することで、運転者による走行状態の認識を容易にすることができる。また、力画像52A,52Bは、力の大きさを可視化する表示であるので、運転者が車両に作用した力の情報を的確に認識することができる。また、力画像52A,52Bは、車両の車輪に路面から作用する力の情報を含むので、走行中の車輪が空転するまでの余裕度FSを認識しやすくすることができる。また、前輪の力情報と後輪の力情報とが別々に表示されることで、それぞれの力を容易に把握することができる。また、力画像52A,52Bは、走行状態の変化に応じて表示状態が変化するので、力の時間変化を視覚的に把握でき、過渡的な状況変化を容易に認識することができる。また、車両画像51は、旋回走行時に車両をリーン姿勢で表示するので、車両のリーン姿勢に応じた力の変化を容易に認識することができる。
【0067】
タイヤ力が摩擦限界内に維持されることで、スリップが防がれた走行が可能であるため、運転者は、タイヤ力を視覚で確認することで、タイヤ力を大きくしてもスリップまで余裕があるかどうかを判断することができ、運転の復習に極めて有効となる。例えば、サーキットなどでは、タイヤ力を大きくする余裕があるようであれば、次回の走行についてさらに加減速を高めることができ、走行タイムの短縮化を図り易い。
【0068】
縦タイヤ力と横タイヤ力との両方を認識可能とすることで、どちらのほうがスリップに対する影響が大きいかを認識することができ、スリップを抑える走行操作を認識しやすくできる。たとえば横タイヤ力のほうがスリップに与える余裕度に影響がある場合には、横タイヤ力を下げることで、スリップに対する余裕度を得ることができる。また逆に摩擦限界に近い状況までタイヤ力を利用しようとした場合には、縦タイヤ力および横タイヤ力をどの程度高めることができるかを認識しやすくすることができる。
【0069】
また、走行後に携帯情報端末11を用いて走行データを確認することができるので、走行状態を認識しやすい。また、通常は目で見えない力を画像表示することで、力のかかり方を意識して次回の運転にフィードバックし易い。また、画像表示で力を表すことで、直感的に認識しやすい。携帯情報端末11によって情報が保存・表示されることで、車両から離れた位置でも走行データを表示でき、走行状態の把握が簡便になると共に、通信ネットワークNを介して他の運転者とのコミュニケーションも図れることができる。また、自身の走行データを外部記憶装置に記憶させたり、携帯情報端末11から通信ネットワークNを介して他者に転送して他者からアドバイスを受けることができる。
【0070】
また、力画像及び車両画像がアニメーション表示されることで、時間的に前後の走行状態も含めて運転を把握することができ、力のかかるタイミングや力をかけるタイミングを認識しやすい。また、記憶されているデータを表示するため、反復確認が可能であり、タイヤ力の変化を十分に認識しやすくなる。また、表示画面50には、旋回走行中の車両をリーン姿勢で表示するため、タイヤ力、特に横タイヤ力を一緒に合わせて表示させることで、タイヤ力に対するリーン姿勢変化の影響を運転者が把握しやすい。
【0071】
また、本実施形態では、縦タイヤ力および横タイヤ力の大きさを、楕円表示の長軸及び短軸として表現するので、縦タイヤ力と横タイヤ力とのそれぞれを把握することができる。また、上述のように大きさ(形状)及び色(色調)の両方で力の大きさが表現されるので、どちらか一方で表現される場合に比べて、さらに視覚的に認識しやすくすることができる。また、力画像で表現される色は、タイヤ力が増加して摩擦限界に近づくにつれて、光のスペクトルにおいて危険色として認識されやすい赤色側に近づく。これによってスリップ限界に近づいていることを運転者に直感的に認識させやすくすることができる。また、車両を斜めから見た車両画像51を表示することで、車両の正面視または背面視による画像に比べて、前輪と後輪の路面との接地点をずらして表示することができる。これによって前輪及び後輪それぞれのタイヤ力を1つの画面に表示しやすくすることができる。
【0072】
また、自動二輪車の識別情報ごとに、自動二輪車の重量、前後長さ、重心位置などのタイヤ力の演算に必要な情報がサーバ12に記憶される。サーバ12に記憶された識別情報に応じて、走行データ管理装置10又は携帯情報端末11が演算に必要な情報を取得してタイヤ力を推定することで、より精度よくタイヤ力を求めることができる。また自動二輪車の識別情報ごとに、車両の外観情報がサーバ12に記憶される。サーバ12に記憶された識別情報に応じて、走行データ管理装置10又は携帯情報端末11が車両の外観情報を取得することで、実際の自動二輪車に合った外観画像を車体画像51aとして表示することができる。
【0073】
携帯情報端末11には、運転者の識別情報とともに、運転者の体重、身長などのタイヤ力の演算に必要な情報を記憶されてもよい。識別情報とともにこれらの情報が用いられることで、更に精度よくタイヤ力を推定することができる。また運転者の好みの車両のカラーリングなどが予め選択される場合には、運転者の好みに応じた車両画像を表示させることができ、利便性をさらに高めることができる。また、携帯情報端末11には、運転者の識別情報とともに、運転暦、経験年数、運転スタイルなどの運転アドバイスのために必要な情報が記憶されてもよい。識別情報とともにこれらの情報が用いられることで、運転スタイルに応じたアドバイスを表示させることができる。
【0074】
タイヤ力画像52A,52Bは、横タイヤ力Fy及び縦タイヤ力Fxの実際値を補正して得られる補正値を用いて生成されてもよい。例えば、横タイヤ力Fyの実際値と縦タイヤ力Fxの実際値との増減比率を異ならせて補正してタイヤ力画像52A,52Bを表示することで、横タイヤ力Fyの大きさと縦タイヤ力Fxの大きさとの違いが強調され、タイヤ力の傾向の認識が容易になる。その際、詳細表示画像53に表示されるタイヤ力は、補正前の実際値に基づいて表示されるとよい。
【0075】
これにより、走行に影響の大きい方向のタイヤ力を強調することができ、タイヤ力の傾向の認識の容易化を図りやすくすることができる。また、前輪と後輪とで、実際値との増減比率を異ならせてもよい。また、タイヤ力の表示のうちタイヤ力が大きい方向の領域とそれ以外の領域とで、実際値に対する補正値の増減比率を異ならせて表示してもよい。タイヤ力の表示のうちタイヤ力が大きい方向の領域は、それ以外の領域に比べて大きく表示されるようにすることで、走行操作に大きく影響する大きいタイヤ力領域での変化を把握しやすくすることができる。また、車両画像51の車体のリーン姿勢についても、実際のリーン角よりも大きく又は小さく補正したリーン角にて強調して表示してもよい。
【0076】
図5は、
図2に示す携帯情報端末11の表示画面50の第2例を示す図面である。
図5に示すように、表示画面50の1つの動画領域セグメント50aには、車両画像51と、タイヤ力画像52A,52Bとが一緒に重ねて表示されると共に、参照車両画像61及び参照タイヤ力画像62A,62B(参照力画像)も一緒に表示される。参照車両画像61は、参照用の運転者の自動二輪車の画像である。参照タイヤ力画像62A,62Bは、参照用の運転者のタイヤ力(参照値)をタイヤ力画像52A,52Bと同じ形式で表示した画像である。本実施形態では、参照車両画像61は、車両画像51の路面画像51b及び路面外画像51cに重ねて車両のみを表示する車体画像である。
【0077】
参照用の運転者のタイヤ力は、例えば、上級運転者のタイヤ力の模範データでもよいし、自己のベスト走行時のデータでもよい。参照タイヤ力画像62A,62Bが示すタイヤ力(参照値)は、タイヤ力画像52A,52Bを構成する走行データが取得される前に生成されたものである。参照車両画像61は、車両画像51に対して識別可能に異なった色調または形状に設定されてもよい。参照タイヤ力画像62A,62Bは、タイヤ力画像52A,52Bに対して識別可能に異なった色調または形状に設定されてもよい。これにより、運転者は、自己の走行データに対応するタイヤ力画像52A,52Bとモデルデータに対応する参照タイヤ力画像62A,62Bとを比較して見ることで、自己の運転スキルとモデルとなる運転スキルとの違いを容易に認識できる。
【0078】
また、表示画面50のグラフ領域50bにも、走行データに関する詳細データ画像63として、タイヤ力画像52A,52Bに対応するタイヤ力のグラフと、参照タイヤ力画像62A,62Bに対応するタイヤ力のグラフとが比較可能に表示されるので、グラフによっても自己の運転スキルとモデル運転スキルとの違いを容易に認識できる。
【0079】
なお、複数の参照車両画像が表示されてもよい。例えば、自身のベストデータに基づく画像と、上級者のデータに基づく画像の両方が、参照車両画像として表示されてもよい。また、自身の走行データをモデルデータとして表示するために、外部記憶装置に記憶してもよいし、通信ネットワークNを介してサーバ12に転送可能としてもよい。
【0080】
図6は、
図2に示す携帯情報端末11の表示画面50の第3例を示す図面である。
図6では、タイヤ力画像72A,72Bは、縦タイヤ力及び横タイヤ力の合力(ベクトル和)を車輪の路面接地点を起点としてベクトル表示、具体的には矢印75で表示している。即ち、矢印75の長さがタイヤ力の大きさを示し、矢印75の向きがタイヤ力としてタイヤに作用する力の向きを表す。なお、車輪に作用する垂直抗力をタイヤに作用する力として矢印で表示してもよい。
【0081】
タイヤ力画像72A,72Bには、垂直抗力と摩擦係数との積である最大摩擦力が表示される。
図6の例では、タイヤ力画像72A,72Bにおいて、摩擦円C
fが表示されることで最大摩擦力として摩擦限界が表示される。摩擦円C
fは、接地点を中心として最大摩擦力の大きさを半径とする円または楕円によって表わされる。このように、各タイヤ力画像72A,72Bは、タイヤ力の作用する向き及びタイヤ力の大きさを可視化する表示であれば
図4に示した円形表示に限られず、
図6に示す矢印表示としてもよい。その場合、矢印75の向きでタイヤ力の作用する向きを表現し、矢印75の大きさでタイヤ力の大きさを表現すればよい。また、タイヤ力の作用する向きが理解できればよい。例えば、タイヤ力の向きに起因して矢印75が車体画像51aに隠れてしまう場合には、タイヤ力が反作用として路面に与える力を矢印として表示してもよいし、矢印75の表示位置を車輪の路面接地点からずらして表示してもよい。
【0082】
タイヤ力画像72A,72Bは、運転者の理解容易のために前述した余裕度FS(
図3参照)に合わせて表示形態を変えてもよい。具体的には、タイヤ力画像72A,72Bは、タイヤ力を表す矢印75、摩擦円C
fの輪郭又はその内部領域、及び、矢印75と摩擦円C
fとの間の領域の少なくとも1つの色を変化させることで余裕度FSを表す。例えば、余裕度FSが大きい場合には、当該色を青色で表示し、余裕度FSが小さくなるにつれて、当該色を緑色、黄色、橙色、赤色と順番にグラデーション変化させてもよい。
【0083】
このように走行状態に応じて変化する垂直抗力を反映して摩擦円Cf、余裕度FS及びタイヤ力を合わせてタイヤ力画像72A,72Bに表示することで、スリップ可能性についてより把握しやすくなる。また、前輪及び後輪の回転数に基づいてスリップ率を判定できる場合には、タイヤ力画像72A,72Bと併せて、スリップ発生の有無又はスリップ状態レベルを表示してもよい。これにより、車輪のグリップ状態の理解を促進することができる。また、タイヤ力画像72A,72Bと併せて、走行速度及び/又は加速度を表示してもよい。これによって、走行速度や加速度の違いによる摩擦円Cfやタイヤ力の違いを理解しやすくできる。なお、スリップ率、走行速度、加速度などの情報についても、非文字の画像情報として、色、形、向きなどで表すことが好ましい。
【0084】
また、
図6に示すように、表示画面50には、走行経路とともに走行位置を示す経路情報73を表示する経路情報領域50bを動画領域50aと併せて表示してもよい。例えば、走行経路73は、車両を上空から見た場合の比較的広い範囲の経路が示される。少なくとも走行経路における曲率半径が把握可能な走行経路が表示される。経路情報73には、動画領域50aで表示される車両の走行位置を走行経路上に表示する。即ち、経路情報領域50bにおける走行位置と、動画領域50aにおける車両画像51及びタイヤ力画像72A,72Bとは、互いに同期して関連表示される。経路情報73は、ナビゲーション情報やGPS情報に基づいて生成される。このような構成により、表示画面50を見た運転者は、曲率半径が分かる走行経路情報73を認識した上で、動画表示される車両画像51およびタイヤ力72A,72Bを把握することができ、走行状態を良好に把握することができる。
【0085】
図7は、
図2に示す携帯情報端末11の表示画面50の第4例を示す図面である。
図7では、携帯情報端末11の表示画面50には、3つのセグメント50a~cが表示される。第1セグメント50aは、動画領域であり、車両画像51とともにタイヤ力画像75が表示される。この例では、タイヤ力画像75は、車輪の接地点を起点としてベクトル表示、具体的には矢印で表示される。即ち、当該矢印の長さがタイヤ力の大きさを示し、当該矢印の向きがタイヤ力としてタイヤに作用する力の向きを表す。
【0086】
また、車輪の周囲には、車輪から路面に作用する鉛直荷重(或いは路面から車輪に作用する垂直抗力)の大きさを示す円82(例えば、楕円)で表示される。円82の大きさは、当該鉛直荷重の大きさに合わせて変化する。鉛直荷重は、上下方向の荷重であり、車体重量、加減速、ピッチ姿勢変化に基づいて設定される。例えば、加速走行状態では、駆動輪(後輪)には、車体重量による垂直荷重に、駆動輪から路面に与える垂直荷重成分が加えられた値が鉛直荷重として作用する。鉛直荷重の増加に伴って円82の半径が大きくなる。本実施形態では、鉛直荷重の増加に比例して円82の半径が大きくなる。他の例としては、荷重増加に比例して、円面積が大きくなるようにしてもよい。更に他の例として、荷重増加に比例して円の大きさ変化に加えて、その表示色も変化させてもよい。
【0087】
前輪に生じる鉛直荷重を表す円82と、後輪にかかる鉛直荷重を表す楕円82とで、表示対応(例えば、表示色)を異ならせてもよい。これによって、前後輪にそれぞれ生じる鉛直荷重を容易に区別することができる。また本実施形態では、円82は鉛直荷重を表わしているが、想定される摩擦係数を鉛直荷重に乗算した摩擦限界値を表す円82を各車輪下に表示してもよい。
【0088】
他の例として、車輪下の円82の表示色をグリップ限界の変化に応じて異ならせる場合には、タイヤ力画像75の表示色とタイヤ力の値との間の対応関係と、グリップ限界の円82の表示色とグリップ限界の値との間の対応関係とを一致させるとよい。そうすれば、タイヤ力画像75の表示色の色相がグリップ限界の円82の表示色の色相に近づけば、余裕度FSが少ないと把握できる一方、タイヤ力画像75の表示色の色相がグリップ限界の円82の表示色の色相から遠くなれば、余裕度FSが大きいと把握できる。例えば、タイヤ力画像75の表示色が青色で、グリップ限界の円82が黄色となる場合に比べて、タイヤ力画像75の表示色が青色で、グリップ限界の円82が赤色となる場合は、余裕度FSが大きいと判断できる。
【0089】
第2セグメント50bは、詳細データ領域であり、前輪及び後輪のタイヤ力の大きさを表す棒グラフ84が表示される。棒グラフ84の大きさがタイヤ力の大きさに対応している。なお、棒グラフ84の色は、タイヤ力の大きさに応じたグラデーションで表示されてもよい。第2セグメント50bには、走行速度85も表示される。
【0090】
また、第2セグメント50bには、運転者の操作情報も表示される。例えば、当該操作情報として加減速のための操作の情報が表示される。具体的には、当該操作情報として、アクセル操作量86及びブレーキ操作量87が表示される。
図7の例では、走行速度85を表示する円の外周に沿ってアクセル操作量86及びブレーキ操作量87を長さで表現する表示領域が設けられる。それらの円弧の長さが長くなるほど、操作量が大きいことを意味する。例えば、左側にアクセル操作量が表示され、右側にブレーキ操作量が表示される。ブレーキ操作量87の表示は、前後ブレーキ操作量のいずれかであってもよいし、前後ブレーキ操作量を総合した量であってもよい。なお、前記操作情報は、クラッチ操作量、変速操作量、運転者姿勢変化などを含んでもよい。
【0091】
第3セグメント50cは、表示態様選択領域であり、第1セグメント50aの表示態様を選択するための入力エリア91~93が表示される。第1入力エリア91には、車両画像51の視点(即ち、表示される車両の向き)を選ぶための選択肢が設けられている。当該選択肢は、例えば、正面視、斜視、正面視及び斜視の二画面等としているが、その他の視点も追加してもよい。第2入力エリア92には、縦タイヤ力、横タイヤ力及び垂直抗力の各々の表示の有無を選ぶための選択肢が設けられている。本実施形態では、縦タイヤ力及び横タイヤ力の両方を選択すると、タイヤ力画像75の矢印が、縦タイヤ力及び横タイヤ力の合力となる。縦タイヤ力及び横タイヤ力の片方を選択すると、タイヤ力画像75の矢印が当該片方の力となる。第3入力エリア93には、第1セグメント50aの動画再生速度の選択肢が設けられている。例えば、当該選択肢は、実速度再生、スロー再生及び早送り再生の複数段階の選択肢を有する。なお、第1セグメント50aには、現表示時点が全体計測時間(全動画時間)のうちどの時間帯であるかを示す動画再生位置表示バーが設けられてもよい。
【0092】
なお、
図4乃至7に示す表示方法は一例であり、他の表示方法が用いられる場合も本発明に含まれる。また
図4乃至7に記載した構成を互いに組み合わせたり、一部を省略した場合も本発明に含まれる。例えば、車両画像51に重ねて表示するタイヤ力画像52A,52Bは、前輪3及び後輪4の両方について個別に表示しなくてもよく、片方だけ(例えば、後輪タイヤ力画像52Aのみ)を表示してもよいし、両者を統合(例えば、平均化)したタイヤ力を求めて表示してもよい。背景画像51c等は省略されてもよい。
【0093】
前記実施形態では、車両の前方斜めからの画像を表示したが、車両の正面視または背面視による車両画像を表示させてもよい。車両の正面視または背面視による画像を用いることで、車両のリーン状態を分かりやすく表示することができる。また車両の上面視による画像を用いることで、前後輪それぞれのタイヤ力を1つの画面に表示しやすくすることができる。また車両を複数の視点から見た画像を選択可能に表示してもよい。これによって、運転者の好む視点や認識しやすい視点で、車両の傾斜とタイヤ力を表示させることができ、理解度や利便性を向上させることができる。
【0094】
また前記実施形態では、車両に作用する力としてタイヤ力を用いたがタイヤ力以外に車両に作用する力を表示させてもよい。たとえば遠心力、操舵軸にかかる力、運転者による体重移動力などを表示してもよい。また前記した実施形態では、縦タイヤ力および横タイヤ力の合力を表示したが、縦タイヤ力、横タイヤ力および垂直抗力の少なくとも1つを表示してもよい。好ましくは、タイヤ力に相当する力(遠心力を含む)と、垂直抗力に相当する力(摩擦円、余裕度を含む)との両方が表示されると好ましい。
【0095】
また、本実施形態では、携帯情報端末11に画像を表示する構成としたが、画像を表示する表示装置は、携帯情報端末に限らない。たとえば外部のサーバ12に情報を記憶することで、サーバ12に接続される種々の表示装置で画像を表示してもよい。たとえば卓上のコンピュータやノートパソコンに画像を表示させてもよい。また自動二輪車に設けられるメータ装置などの表示装置に画像を表示させてもよい。メータ装置に画像を表示させることで、自動二輪車に搭載された通信システム内で情報のやり取りを行うことができ、システム構成を簡単化することができる。
【0096】
また、本実施形態では、車両に設けられるタイヤ力演算部33がタイヤ力を演算し、演算したタイヤ力を表示する装置である情報携帯端末11に送信する構成としたがこれに限らない。具体的には、タイヤ力を演算するための情報を、携帯情報端末11または外部サーバ12に送信することで、車両に設けられる演算部以外でタイヤ力を演算してもよい。これによって走行中の車両の演算部における演算負荷を抑えることができる。また走行中には、タイヤ力を演算するために必要な情報を順次記憶し、走行終了後に記憶した情報を携帯情報端末11または外部サーバ12に送信するようにしてもよい。これによっても走行中の演算負荷を抑えることができる。また、運転者の携帯する情報携帯端末11に画像表示のための情報を送信し、情報携帯端末11に記憶させることで、通信ネットワークNへの接続が不安定なエリアでも安定して走行情報を取得することができる。また、自動二輪車以外のリーン型車両についても同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 走行データ表示システム
2 自動二輪車(車両)
3 前輪
4 後輪
5 車体
10 走行データ管理装置
11 携帯情報端末
22 IMU(力関連値検出装置)
23 エンジン回転数センサ(力関連値検出装置)
24 車速センサ(力関連値検出装置)
25 駆動輪速度センサ(力関連値検出装置)
26 ブレーキ圧センサ(力関連値検出装置)
27 リーン角センサ(力関連値検出装置)
33 タイヤ力演算部(演算装置)
34 遠心力演算部(演算装置)
36 制御部(制御装置)
50 表示画面
51 車両画像
52A,52B タイヤ力画像(力画像)
62A,62B 参照タイヤ力画像(参照力画像)