(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-14
(45)【発行日】2023-03-23
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230315BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20230315BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20230315BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20230315BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230315BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20230315BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/06
C22C38/50
C21D8/12 A
H01F1/147 175
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2021517635
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 KR2019012473
(87)【国際公開番号】W WO2020067723
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】10-2018-0115273
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,セ イル
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1728028(KR,B1)
【文献】特開2013-044010(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115657(WO,A1)
【文献】特開2017-128801(JP,A)
【文献】特開2014-091850(JP,A)
【文献】特開2014-196538(JP,A)
【文献】米国特許第06524380(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.001~0.011%、Mn:0.05~0.40%、S:0.0001~0.01%、As:0.003~0.015%およびMg:0.0007~0.003%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からな
り、 下記式1および式2を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
〔式1〕
[As]>[Al]
〔式2〕
3×[Mg]>[Al]
(式1および式2中、[As]、[Al]および[Mg]は、それぞれAs、AlおよびMgの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
Asを0.0034~0.01重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
Mgを0.0009~0.002重量%含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
Snを0.02~0.09重量%およびPを0.01~0.15重量%をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項
3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
下記式3を満たすことを特徴とする請求項
4に記載の無方向性電磁鋼板。
〔式3〕
0.03≦[Sn]+[P]≦0.15
(式3中、[Sn]および[P]は、それぞれSnおよびPの含有量(重量%)を示す
。)
【請求項6】
Cを0.004重量%以下、Nを0.003重量%以下、およびTiを0.003重量%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項
5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
Cu、NiおよびCrのうちの1種以上をそれぞれ0.05重量%以下でさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
Zr、MoおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.01重量%以下でさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項
7のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項9】
As析出物を0.0001~0.003面積%含むことを特徴とする請求項1乃至請求項
8のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項10】
As析出物の平均粒径が3~100nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項
9のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項11】
MgS析出物を0.0002~0.005面積%含むことを特徴とする請求項1乃至請求項
10のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項12】
MgS析出物の平均粒径が3~30nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項
11のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項13】
平均結晶粒径が60~300μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項
12のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項14】
重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.001~0.011%、Mn:0.05~0.40%、S:0.0001~0.01%、As:0.003~0.015%およびMg:0.0007~0.003%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からな
り、 下記式1および式2を満たすスラブを加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
〔
式1〕
[As]>[Al]
〔式2〕
3×[Mg]>[Al]
(式1および式2中、[As]、[Al]および[Mg]は、それぞれAs、AlおよびMgの含有量(重量%)を示す。)
【請求項15】
前記スラブを1,100℃~1,250℃に加熱することを特徴とする請求項
14に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記熱延板を製造する段階の後、前記熱延板を950~1,200℃の温度で焼鈍する熱延板焼鈍段階をさらに含むことを特徴とする請求項
14又は請求項
15に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記最終焼鈍する段階は、前記冷延板を950~1,150℃で焼鈍することを特徴とする請求項
14乃至請求項
16のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、鋼板にAs、Mg元素を適正量添加して、結晶粒界にAsおよびMgを適切に偏析させることによって、低磁場領域で鉄損が低く磁束密度が高い無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、モータ、発電機などの回転機器と小型変圧器などの静止機器において鉄心用材料として用いられ、電気機器のエネルギー効率を決定するのに重要な役割を果たす。
電磁鋼板の特性には代表的に鉄損と磁束密度が挙げられるが、鉄損は小さく、磁束密度は高いほど好ましいが、これは、鉄心の巻線に電流を流して磁場を誘導する時、鉄損が低いほど熱で損失するエネルギーを低減することができ、磁束密度が高いほど同じエネルギーでより大きな磁場を誘導できるからである。
従来は、モータなどに用いられる無方向性電磁鋼板の磁気特性のうち、鉄損は、W15/50を指標として、50Hzの周波数で1.5Tまで磁化される時のエネルギー損失で評価し、磁束密度は、B50を指標として、5000A/mでの電磁鋼板の磁束密度で評価したが、インバータ駆動のACモータなどでは電磁鋼板が1.0T前後の磁束密度を有するように磁化が起こるため、低磁場領域での磁気特性も重要になってきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。より詳しくは、鋼板にAs、Mg元素を適正量添加して、結晶粒界にAsおよびMgを適切に偏析させることによって、低磁場領域で鉄損が低く磁束密度が高い無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.001~0.011%、Mn:0.05~0.40%、S:0.0001~0.01%、As:0.003~0.015%およびMg:0.0007~0.003%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Asを0.0034~0.01重量%含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Mgを0.0009~0.002重量%さらに含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、下記式1を満足できる。
〔式1〕
[As]>[Al]
(式1中、[As]および[Al]は、それぞれAsおよびAlの含有量(重量%)を示す。)
本発明の無方向性電磁鋼板は、さらに下記式2を満足できる。
〔式2〕
3×[Mg]>[Al]
(式2中、[Mg]および[Al]は、それぞれMgおよびAlの含有量(重量%)を示す。)
本発明の無方向性電磁鋼板は、Sn:0.02~0.15重量%およびP:0.01~0.15重量%をさらに含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、下記式3を満足できる。
〔式3〕
0.03≦[Sn]+[P]≦0.15
(式3中、[Sn]および[P]は、それぞれSnおよびPの含有量(重量%)を示す。)
本発明の無方向性電磁鋼板は、C:0.004重量%以下、N:0.003重量%以下、およびTi:0.003重量%以下をさらに含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Cu、NiおよびCrのうちの1種以上をそれぞれ0.05重量%以下でさらに含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、Zr、MoおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.01重量%以下でさらに含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、As析出物を0.0001%~0.003面積%含むことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、平均As析出物の粒径が3nm~100nmであることがよい。
本発明の無方向性電磁鋼板は、MgS析出物を0.0002~0.005面積%含むことができる。
MgS析出物の平均粒径が3~30nmであることがよい。
本発明の無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒径が60~300μmであることがよい。
【0005】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.001~0.011%、Mn:0.05~0.40%、S:0.0001~0.01%、As:0.003~0.015%およびMg:0.0007~0.003%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
スラブを1,100℃~1,250℃に加熱することができる。
熱延板を製造する段階の後、前記熱延板を950~1,200℃の温度で焼鈍する熱延板焼鈍段階をさらに含むことができる。
最終焼鈍する段階は、冷延板を950~1,150℃で焼鈍することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の無方向性電磁鋼板は、鋼板にAsおよびMg元素を適正量添加し、結晶粒界にAsおよびMgを適切に偏析させることによって、磁性に優れた無方向性電磁鋼板を得ることができる。
特に、本発明では、低磁場領域での鉄損が低く磁束密度が高い無方向性電磁鋼板を得ることができる。
また、本発明の無方向性電磁鋼板は、インバータ駆動のACモータなどに最適化された特性を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本実施例で使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。本実施例で使用される単数形態は、文章がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これはまさに他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴ってもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
他に定義しない限り、本実施例に使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施例において、鋼成分に追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ、残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、本実施例で説明する実施例に限定されない。
【0008】
本発明の一実施例では、無方向性電磁鋼板内の組成、特に主要添加成分であるAs、Mgの範囲を最適化して、結晶粒界にAsおよびMgを適切に偏析させることによって、低磁場領域で鉄損が低く磁束密度が高い無方向性電磁鋼板を得ることができる。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.001~0.011%、Mn:0.05~0.40%、S:0.0001~0.01%、As:0.003~0.015%およびMg:0.0007~0.003%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる。
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
【0009】
Si:1.5~4.0重量%
シリコン(Si)は、鋼の比抵抗を増加させて鉄損中の渦流損失を低くする成分であり、無方向性電磁鋼板に添加される主要元素である。Siが過度に少なく添加される場合、低鉄損特性を得にくく、1000℃以上で焼鈍すれば、相変態をという問題が発生する。Siが過度に多く添加されると、圧延性に劣る虞がある。したがって、本発明の一実施例では、Siの添加量を1.5~4.0重量%に限定する。さらに詳しくは、Siの添加量は2.0~3.5重量%であることがよい。
【0010】
Al:0.001~0.011重量%
アルミニウム(Al)は、製鋼工程で鋼の脱酸のために不可避に添加される元素である。一般的な製鋼工程では、0.001重量%以上のAlが鋼中に存在する。しかし、Alを過剰に添加した時、飽和磁束密度を減少させる。また、微細なAlNを形成させて結晶粒成長を抑制し、窮極的に磁性を低下させるため、本発明の一実施例において、Alの添加量を0.001~0.011重量%に限定する。さらに詳しくは、Alの添加量は0.0015~0.005重量%であることがよい。
【0011】
Mn:0.05~0.40重量%
マンガン(Mn)は、Si、Alなどと共に比抵抗を増加させて鉄損を低くする効果があるため、既存の技術ではMnを多量添加することによって鉄損を改善しようとしたが、Mn添加量が増加するほど飽和磁束密度が減少するため、一定の電流が印加された時の磁束密度が減少する。また、Mnは硫化物を形成し易い元素であるので、これを多量添加する時には、本発明の一実施例で活用しようとするMgおよびAsの効果が低減される。したがって、磁束密度の向上および介在物による鉄損増加の防止のために、本発明の一実施例では、Mn添加量を0.05~0.40重量%に限定する。さらに詳しくは、Mnを0.05~0.30重量%添加することができる。
【0012】
S:0.0001~0.01重量%
硫黄(S)は、磁気的特性に有害なMnS、CuSおよび(Cu、Mn)Sなどの硫化物を形成する元素であるので、鉄損の増加を抑制するためには少なく添加することが好ましいことがと知られている。しかし、Sが鋼の表面に偏析した時、{100}面の表面エネルギーを低下させる効果があるので、Sの添加によって磁性に有利な{100}面が強い集合組織を得ることもできる。特に、MgおよびAsと反応するSの量はMgおよびAsの全体原子の数に比例するため、その添加は、MgおよびAsと結合して硫化物を形成する原子を十分に提供できるようにその範囲を決定しなければならない。ただし、過剰添加の場合は、結晶粒界の偏析によって加工性が大きく低下し、表面偏析による問題が発生する。したがって、本発明の一実施例において、S添加量を0.0001~0.01重量%に限定する。さらに詳しくは、Sを0.0005~0.005重量%添加することができる。
【0013】
As:0.003~0.015重量%
砒素(As)は、本発明の一実施例において、結晶粒界偏析元素として活用される。これによって、鋼中の他の偏析元素であるPとSn、Sなどとの競争により偏析量が決定される。PやSによる偏析は、結晶粒界の強度を低下させて、常温から900℃の間の区間で加工性を大きく悪化させることがある。したがって、その添加量は0.003重量%以上とする方が、加工性の側面から好ましい。過剰添加時には、{100}面を形成するのに役立つPとSの偏析効果を妨げることがあるため、その添加量を制限する。さらに詳しくは、Asを0.0034~0.01重量%含むことができる。
【0014】
Mg:0.0007~0.003重量%
マグネシウム(Mg)は、本発明の一実施例において、連続鋳造中にSと結合してMgSを形成し、これによって熱延板の結晶成長速度を鈍化させる役割を果たす。また、電磁鋼板の製造工程中にMnSなどと複合結合して粗大化されるため、結晶成長速度の鈍化効果は最終焼鈍では現れなくなる。ただし、過剰添加時には、Pによる焼鈍中の集合組織の制御効果を抑制することができる。この時、適正なMgの添加範囲は、硫化物を粗大化して粒子成長を促進させる効果が期待できる。したがって、本発明の一実施例では、Mgの添加量を0.0007~0.003重量%に限定することができる。さらに詳しくには、Mgの添加量は0.0009~0.002重量%になることがよい。
【0015】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、下記式1を満足できる。
〔式1〕
[As]>[Al]
(式1中、[As]および[Al]は、それぞれAsおよびAlの含有量(重量%)を示す。)
Alは、窒化物を形成する元素で、鋼中に窒化物が形成されると結晶成長に非常に不利である。特に、結晶粒界に形成されるAlによって結晶成長が妨げられる。この時、結晶粒界偏析元素であるAsが結晶粒界に存在すれば、Alは結晶粒界に微細に析出しないため、結晶成長が妨げられない。したがって、本発明の一実施例において、AsとAlとの関係を上記式1のように調節する。
【0016】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、下記式2を満足できる。
〔式2〕
3×[Mg]>[Al]
(式2中、[Mg]および[Al]は、それぞれMgおよびAlの含有量(重量%)を示す。)
硫化物を形成するMgの場合には、Sが結晶粒界に偏析する元素であるため、Sと結合して硫化物を形成して結晶粒界に位置する。これによって、Alによる窒化物を熱延中には結晶粒界に形成されない。MgSは、電磁鋼板の製造工程でMnとSが結合することによって、(Mn、Mg)Sになって粗大化され、これによって結晶成長の抑制効果が弱くなる。このような効果を示すためには、MgがAlの1/3以上でなければならない。
【0017】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、Sn:0.02~0.09重量%およびP:0.01~0.15重量%をさらに含むことができる。前述のように、追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含むようになる。つまり、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.001~0.011%、Mn:0.05~0.40%、S:0.0001~0.01重量%、As:0.003~0.015%、Mg:0.0007~0.003%、Sn:0.02~0.09重量%、およびP:0.01~0.15重量%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる。
【0018】
Sn:0.02~0.09重量%
スズ(Sn)は、鋼板の表面および結晶粒界に偏析して、焼鈍時に表面酸化を抑制し集合組織を改善する役割を果たす。Snが過度に少なく添加されると、その効果が十分でないことがある。Snが過度に多く添加されると、結晶粒界に偏析して、靭性を低下させて磁性改善対比の生産性が低下するので、好ましくない。したがって、Snがさらに添加される場合、0.02~0.09重量%の範囲で添加可能である。さらに詳しくは、Snは0.03~0.07重量%含まれる。
【0019】
P:0.01~0.15重量%
リン(P)は、比抵抗を増加させて鉄損を低くし、結晶粒界に偏析することによって、磁性に有害な{111}集合組織の形成を抑制し、有利な集合組織である{100}を形成する。ただし、過度に多く添加されると、圧延性を低下させる。また、Pは追加的に添加される場合、鋼の板面での{100}面の表面エネルギーを低くする元素でP含有量をより多く含有させることによって、表面に偏析するPの量が多くなり、これによって磁性に有利な{100}面の表面エネルギーをさらに低くして、焼鈍中に磁性に有利な{100}面を有する結晶粒の成長速度を向上させることが可能である。したがって、本発明の一実施例において、Pを0.01~0.15重量%添加できる。さらに詳しくは、Pは0.02~0.1重量%含まれる。
【0020】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、下記式3を満足できる。
〔式3〕
0.03≦[Sn]+[P]≦0.15
SnとPは結晶粒界偏析元素で、これが結晶粒界に偏析しなければ、過度に多い微細析出物が結晶粒界に形成されて、As偏析や、(Mg、Mn)S、AlNなどの析出物の制御による結晶成長、磁束密度の向上を期待できない。したがって、SnおよびPをさらに添加する場合、SnとPをその合量で0.03重量%以上添加することが好ましい。ただし、SnおよびPを過度に多く添加する場合、鋼板の表面に多様な欠陥が引き起こされるため、その添加量を前記のように制限することができる。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、C:0.004重量%以下、N:0.003重量%以下、およびTi:0.003重量%以下をさらに含むことができる。
【0021】
C:0.004重量%以下
炭素(C)は多く添加される場合、オーステナイト領域を拡大し、相変態区間を増加させるが、焼鈍時にフェライトの結晶粒成長を抑制して鉄損を高める効果を示す。また、Tiなどと結合して炭化物を形成して磁性を劣位にし、最終製品から電気製品に加工後使用時に磁気時効によって鉄損を高めるため、Cをさらに含む場合、0.004重量%以下に制限する。
【0022】
N:0.003重量%以下
窒素(N)は、Al、Tiなどと強く結合することによって、窒化物を形成して結晶粒成長を抑制するなど磁性に有害な元素であるため、少なく含有させることが好ましい。Nをさらに含む場合、0.003重量%以下に制限する。
【0023】
Ti:0.003重量%以下
チタン(Ti)は、微細な炭化物と窒化物を形成して結晶粒成長を抑制し、多く添加されるほど増加した炭化物と窒化物によって集合組織も劣位になって磁性が悪くなる。Tiをさらに含む場合、0.003重量%以下に限定する。
【0024】
その他不純物
前述した元素以外にも、不可避に混入する不純物が含まれる。残部は鉄(Fe)であり、前述した元素以外の追加元素が添加される時、残部の鉄(Fe)を代替して含む。
不可避に添加される不純物は、Cu、Ni、Cr、Zr、Mo、Vなどであることができる。
Cu、NiおよびCrのうちの1種以上をそれぞれ0.05重量%以下で含むことができる。Cu、Ni、Crは、不純物元素と反応して微細な硫化物、炭化物および窒化物を形成して磁性に有害な影響を及ぼすので、これらの含有量をそれぞれ0.05重量%以下に制限する。
また、Zr、MoおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.01重量%以下でさらに含むことができる。Zr、Mo、Vなども強力な炭窒化物形成元素であるので、できるだけ添加されないことが好ましく、それぞれ0.01重量%以下で含有されるようにする。
【0025】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、As析出物を0.0001~0.003面積%含むことができる。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、As析出物の平均粒径が3~100nmであることがよい。
As析出物を適切に析出させることによって、Alが結晶粒界に微細に析出しないため、結晶成長が妨げられなくなる。窮極的に無方向性電磁鋼板の磁性を向上させることができる。
【0026】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、MgS析出物を0.0002~0.005面積%含むことができる。
MgS析出物の平均粒径が3~30nmであることがよい。
電磁鋼板の微細組織内における平均結晶粒径は、60~300μmであることがよい。結晶粒径が小さすぎると、履歴損が大きく増加して鉄損が増加する。また、微細析出物と偏析による効果で磁束密度の改善のためには適切な結晶粒径を有することが好ましい。ただし、結晶粒径が大きすぎる場合、焼鈍後にコーティングした製品における打抜時、加工に問題がありうる。さらに詳しくは、平均結晶粒径は90~200μmであることがよい。
【0027】
無方向性電磁鋼板をなす結晶粒は、冷間圧延工程で加工された未再結晶組織が最終焼鈍工程で再結晶された再結晶組織からなっており、再結晶された組織が99体積%以上である。
【0028】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、前述のように、磁性に優れている。特に、低磁場領域で鉄損が低く磁束密度が高い。
詳しくは、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度(B50)が1.7T以上である。さらに詳しくは、磁束密度(B50)が1.73~1.85Tである。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、前述のように、低磁場領域で鉄損が低い。詳しくは、50Hzの周波数で1.3Tの磁束密度を誘起した時の鉄損(W13/50)が1.5W/kg以下であることがよい。さらに詳しくは、鉄損(W13/50)が1.3~1.47W/kgであることがよい。鉄損の測定時、厚さの基準は0.35mmである。このように、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、インバータ駆動のACモータなどに最適化された特性を提供する。つまり、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、ACモータ用に使用できる。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、低磁場領域での鉄損だけでなく、一般の鉄損にも優れている。詳しくは、50Hzの周波数で1.5Tの磁束密度を誘起した時の鉄損(W15/50)が2.3W/kg以下であることがよい。さらに詳しくは、鉄損(W15/50)が1.5~2.15W/kgであることがよい。
【0029】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:1.5~4.0%、Al:0.001~0.011%、Mn:0.05~0.40%、S:0.0001~0.01%、As:0.003~0.015%およびMg:0.0007~0.003%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
以下、各段階別に具体的に説明する。
まず、スラブを加熱する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は、前述した無方向性電磁鋼板の組成限定の理由と同一であるので、繰り返される説明を省略する。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程においてスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成が実質的に同一である。
スラブを加熱炉に装入して、1,100~1,250℃に加熱する。1,250℃を超える温度で加熱する時、スラブ内に存在するAlN、MnSなどの析出物が再固溶された後、熱間圧延時に微細に析出して結晶粒成長を抑制し、磁性を低下させることがある。
スラブが加熱すれば、2.0~2.3mmに熱間圧延を実施し、熱間圧延された熱延板を巻取る。熱間圧延時、仕上圧延での仕上圧延はフェライト相領域で終了する。また、熱間圧延時、Si、Al、Pなどのフェライト相拡張元素を多量に添加したり、フェライト相を抑制する元素であるMn、Cなどを少なく含有されるようにしてもよい。このようにフェライト相で圧延すれば、集合組織中において{100}面が多く形成され、これによって磁性を向上させることができる。
熱延板を製造する段階の後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。この時、熱延板焼鈍温度は950~1,200℃であることがよい。熱延板焼鈍温度が小さすぎると、組織が成長しなかったり、微細に成長して磁束密度の上昇効果が少なく、焼鈍温度が高すぎると、磁気特性がむしろ低下し、板形状の変形によって圧延作業性が悪くなったりする。熱延板焼鈍は、必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われるものであり、省略も可能である。
次に、熱延板を酸洗し、所定の板厚さとなるように冷間圧延する。熱延板の厚さに応じて異なって適用可能であるが、50~95%の圧下率を適用して、最終厚さが0.2~0.65mmとなるように冷間圧延することができる。冷間圧延は、1回の冷間圧延によって実施したり、あるいは必要に応じて中間焼鈍を間におく2回以上の冷間圧延を行って実施することも可能である。
冷間圧延された冷延板は、最終焼鈍(冷延板焼鈍)する。冷延板を最終焼鈍する工程で、焼鈍時の均熱温度は950~1,150℃とする。
冷延板焼鈍温度が低すぎる場合には、低鉄損を得るための十分な大きさの結晶粒を得にくいことがある。焼鈍温度が高すぎる場合、焼鈍中の板状が均一でなく、析出物が高温で再固溶された後、冷却中に微細に析出して磁性に悪い影響を及ぼすことがある。
最終焼鈍された鋼板は、絶縁被膜処理される。絶縁層の形成方法については、無方向性電磁鋼板技術分野にて広く知られているので、詳細な説明は省略する。詳しくは、絶縁層形成組成物として、クロム系(Cr-type)や無クロム系(Cr-free type)のいずれも制限なく使用可能である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1
重量%で、下記表1および表2および残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを製造した。スラブを1150℃に再加熱した後、2.5mmに熱間圧延して熱延板を製造した。製造された各熱延板は650℃で巻取った後、空気中で冷却し、1100℃で3分間熱延板焼鈍を実施した。次に、熱延板を酸洗した後、0.35mmの厚さとなるように冷間圧延を実施した。冷延板を1,050℃で1分間最終焼鈍をした。
磁性および微細組織の特性を分析して、下記表3にまとめた。析出物の密度は透過電子顕微鏡の複製法を使用して測定し、磁束密度(B50)および鉄損(W13/50、W15/50)は、60×60mm2の大きさの単板測定器を用いて、圧延方向と圧延直角方向に測定し、これを平均して求め、平均結晶粒径は光学顕微鏡写真から平均結晶粒の面積を求めて平方根を取って決定した。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
表1~表3に示したとおり、AsおよびMgの含有量を制御した発明例は、磁性、特に低磁場領域で鉄損(W13/50)に優れていることを確認できる。
これに対し、AsおよびMgの含有量を満足していない場合には、磁性特性が比較的劣位になることを確認できる。
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。