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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】保形性付与剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/231 20160101AFI20230316BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20230316BHJP
   A23L 9/20 20160101ALN20230316BHJP
【FI】
A23L29/231
A23L29/00
A23L9/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018113545
(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公開番号】P2019213506
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-04-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306007864
【氏名又は名称】ユニテックフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】建部 七海
(72)【発明者】
【氏名】戸田 拓士
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】Food Hydrocolloids, 2007年,Vol.21,p.480-486,doi:10.1016/j.foodhyd.2006.07.005
【文献】Biomacromolecules, 2002年,Vol.3,p.1144-1153
【文献】LWT - Food Science and Technology, 2009年,Vol.42,p.788-795,doi:10.1016/j.lwt.2008.08.014
【文献】Danisco breaks ground on pectin plant in Brazil,DAIRY report.com, 2008年,p.1-2,https://www.dairyreporter.com/Article/2004/10/14/Danisco-breaks-ground-on-pectin-plant-in-Brazil, 検索日:2022年2月2日
【文献】Carbohydrate Polymers, 2013年,Vol.92,p.1133-1142,http://dx.doi.org/10.1016/j.carbpol.2012.09.100
【文献】Scientia Iranica, 2005年,Vol.12, No.3,p.306-310
【文献】ペクチンの性状とゲル化,高分子, 1966年,Vol.15, No.169,p.294-301
【文献】ペクチンに関する調理科学的研究, 果実ペクチンの化学的性状ならびに物性,家政学雑誌, 1985年,Vol.36, No.8,p.561-576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/212-225
A23L 29/00
A23L 9/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
由来がシトラス又はアップルのいずれかである、DE値が60~70のHMペクチン及び、DE値が10~30であり、かつ、アミド化されていないLMペクチンを組み合わせてなるフィリング用の保形性付与剤であって、HMペクチンとLMペクチンの混合割合が30:70~70:30であり、フィリングに対してHMペクチン及びLMペクチンが各0.03重量%~0.07重量%となるように混合して使用される保形性付与剤。
【請求項2】
請求項1に記載の保形性付与剤を含むフィリング
【請求項3】
由来がシトラス又はアップルのいずれかである、DE値が60~70のHMペクチン及び、DE値が10~30であり、かつ、アミド化されていないLMペクチンを、30:70~70:30の混合割合で組み合わせる工程を含む、保形性付与剤の製造方法。
【請求項4】
フィリングに対してHMペクチン及びLMペクチンが各0.03重量%~0.07重量%となるように請求項1に記載の保形性付与剤を混合する工程を含む、フィリングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保形性付与剤に関する。さらに詳しくは、由来がシトラス又はアップルのいずれかである、HMペクチン及びアミド化されていないLMペクチンを組み合わせてなる保形性付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
製菓・製パン用のフィリング、マーガリン、カスタードクリーム等は軟らかいため、一定の形状を有しながらも飲食品等の製造時に形が崩れたり、菓子やパンに包んだ際に溶出したりする等の問題があった。そこで、このような問題が生じにくい様々な剤が検討されてきた。
例えば、特許文献1には生澱粉のワキシーコーンスターチ及び/又はタピオカ澱粉、脱アシル型ジェランガム及び可溶性カルシウム塩を併用して含有させることで老化が有意に抑えられ、食感・外観においても優れた耐熱性フィリング剤が開示されている。
【0003】
特許文献2には一定量の低メトキシルペクチン、ジェランガムからなるゲル化剤と二価の金属イオン、油脂及び糖質を含有するゲル状水中油型乳化組成物が開示されており、焼きこみ耐性のあるゲル構造を有することから、包餡し焼成する焼きこみ用フィリング剤として提供できるとされている。
特許文献3には耐熱性フィリングの製造方法として、LMペクチン、糖、20μm以下の食物繊維及び油脂からなるフィリング剤原料を用いることが開示されており、特許文献4にはLMペクチン、糖及びジェランガム・澱粉・デキストリン・食物繊維類の一種以上をフィリング材原料とすること等が開示されている。
【0004】
特許文献5にはたん白及びたん白含有エマルジョン用熱安定性組成物として、リゾレシチン、ペクチン、食品品質ガム及びその混合物から選択したグルシドポリマーを含有することが開示されており、特許文献6にはペクチン、二価金属イオン及び水を含有する不均一系ゲル組成物が開示されている。さらに、特許文献7には焼成複合菓子の製造にあたり、チョコレートと焼成してもダレない耐熱性を有している水系柔軟性食品素材として、グリセリン、ソルビトール、ゲル状にセットしたゼリー又はその粉砕流動物、増粘剤含有ソース等が挙げられている。
【0005】
このように飲食品等の製造時に形が崩れたり、菓子やパンに包んだ際に溶出したりする等の問題が生じにくい様々なフィリング剤や耐熱性の素材等が開示されているものの、複数の成分を組み合わせる必要があるものが多く、より少ない成分で簡便かつ安価に保形性を付与できる剤の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-102617号公報
【文献】特開2004-298061号公報
【文献】特開2005-185258号公報
【文献】特開2001-231468号公報
【文献】特開平7-147906号公報
【文献】国際公開第01/095742号パンフレット
【文献】特開2018-7624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来のフィリング剤や耐熱性の素材等と比べて、より少ない成分で簡便かつ安価に保形性を付与できる新たな剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、シトラス又はアップル由来のHMペクチンと、同じくシトラス又はアップル由来のアミド化されていないLMペクチンを組み合わせることにより、従来のフィリング剤や耐熱性の素材等と比べて、より少ない成分で簡便かつ安価に保形性を付与できる新たな剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)~(5)に示される保形性付与剤等に関する。
(1)由来がシトラス又はアップルのいずれかである、HMペクチン及びアミド化されていないLMペクチンを組み合わせてなる保形性付与剤。
(2)DE値が60以上のHMペクチンと、DE値が30以下であり、かつ、アミド化されていないLMペクチンを組み合わせてなる上記(1)に記載の保形性付与剤。
(3)HMペクチンとLMペクチンの混合割合が30:70~70:30である上記(1)又は(2)に記載の保形性付与剤。
(4)飲食品用である上記(1)~(3)のいずれかに記載の保形性付与剤。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の保形性付与剤を含む飲食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従来のフィリング剤や耐熱性の素材等と比べてより少ない成分で簡便かつ安価に保形性を付与できる新たな剤の提供が可能となった。本発明の保形性付与剤は、製菓・製パン用のフィリング、マーガリン、カスタードクリーム等の軟らかく、形が崩れやすい飲食品や、飲食品を製造するための材料等の形を保つことに役立つ。また、同様に軟らかく崩れやすい物性の医薬品、医薬部外品等に適用することもできる。
【0011】
本発明の「保形性付与剤」とは、物理的、化学的な作用によって形が崩れやすい飲食品、医薬品、医薬部外品等や飲食品、医薬品、医薬部外品等を製造するための材料に対して、これらの作用によっても形が崩れにくい性質を付与するための剤のことをいう。本発明の「保形性付与剤」はさらに、焼成等された場合でも形が崩れにくい耐熱性の保形性付与剤であることが好ましい。
本発明の「保形性付与剤」は由来がシトラス又はアップルのいずれかであるHMペクチンと、由来がシトラス又はアップルのいずれかであるアミド化されていないLMペクチンを組み合わせてなるものであれば良く、保形性付与するために有用なその他の成分や、剤形を維持するために有用なその他の成分をさらに含むものであっても良い。
また、由来がシトラス又はアップルのいずれかであるHMペクチンを一種類以上と、由来がシトラス又はアップルのいずれかであるアミド化されていないLMペクチンを一種類以上含んでいれば良く、二種以上の当該HMペクチンや当該LMペクチンを含むものであっても良い。
【0012】
本発明の「保形性付与剤」に含まれる「由来がシトラス又はアップルのいずれかである」HMペクチンはDE値が60以上のHMペクチンであることが好ましく、また「由来がシトラス又はアップルのいずれかである」アミド化されていないLMペクチンはDE値が30以下であることが好ましい。
本発明の「保形性付与剤」に含まれるHMペクチン及びアミド化されていないLMペクチンは市販のものであってもよく、独自に調製されたものであっても良い。市販のものとしては、例えば、HMペクチンであればUTHP-510(シトラス由来/DE70以上/UTFC社)、UTHP-410(シトラス由来/DE60/UTFC社)又はUTHP-210(アップル由来/DE60/UTFC社)等を挙げることができる。またアミド化されていないLMペクチンとしては、UTLP-300(シトラス由来/DE30/アミド化割合0%/UTFC社)又はUTLP-100(シトラス由来/DE10/アミド化割合0%/UTFC社)等を挙げることができる。
【0013】
本発明の「保形性付与剤」はHMペクチンとLMペクチンの混合割合が30:70~70:30であることが好ましい。特に40:60~60:40であることが好ましく、さらに50:50であることが好ましい。
【0014】
本発明の「保形性付与剤」は飲食品用であることが好ましい。ここで、「飲食品用」には飲食品そのものに用いるものに加えて、飲食品を製造するための材料に用いるものも含まれる。このような材料としては例えば、製菓・製パン用のフィリング剤やフラワーペースト等が挙げられる。
本発明の「保形性付与剤を含む飲食品」も飲食品そのものに加えて、飲食品を製造するための材料も含まれる。このような「飲食品」として、例えば、カスタードクリーム、ミルククリーム、チョコレートクリーム、青果物を原料に含むクリーム、フィリング、ソース、ジャム、マヨネーズ、チーズ、マーガリン、ゼリー、ドレッシング、フラワーペースト、焼成食品、ゾル状食品やゲル状食品等の物理的、化学的な作用によって形が崩れやすい飲食品が挙げられる。
【実施例
【0015】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
本発明の実施例、比較例では次の試料を共通して使用した。
1.HMペクチン
1)UTHP-510(シトラス由来/DE70以上/UTFC社)
2)UTHP-410(シトラス由来/DE60/UTFC社)
3)UTHP-210(アップル由来/DE60/UTFC社)
2.LMペクチン
1)UTLP-40(シトラス由来/DE30/アミド化割合18%/UTFC社)
2)UTLP-20(アップル由来/DE30/アミド化割合18%/UTFC社)
3)UTLP-300(シトラス由来/DE30/アミド化割合0%/UTFC社)
4)UTLP-100(シトラス由来/DE10/アミド化割合0%/UTFC社)
3.油
サラダ油(食用大豆油、食用なたね油ブレンド品/日清オイリオ社)
4.増粘多糖類
1)キサンタンガムSATIAXANE(商標)CX90(キサンタンガム/UTFC社)
2)VIDOGUM L175HQ(ローカストビーンガム/UTFC社)
【0017】
[実施例1、2]
保形性付与効果の検討
表1、2に記載の量となるようにHMペクチン、LMペクチンを組み合わせ保形性付与剤とし、次の工程によりカスタードクリームを製造した。なお、比較としてキサンタンガム及びローカストビーンガムを用いた。
1)グラニュー糖 20.0重量%、脱脂粉乳 2.0重量%、加工澱粉(コーン由来安定架橋化澱粉) 3.0重量%、薄力粉 3.0重量%に、表1、2に記載の濃度となるようにHMペクチン、LMペクチン、キサンタンガム、又はローカストビーンガムのいずれか一種以上の各粉体を混合した。
2)上記1)の工程によって得た粉体混合物をイオン交換水16.9重量%、水飴 15.0重量%、サラダ油 10.0重量%及び全卵 10.0重量%と混合し撹拌機EYELA NZ-1100(東京理科器械株式会社)を用いて500rpmで10分間攪拌した。
3)上記2)の工程を経た後、加熱して90℃でさらに10分間攪拌した。
4)上記3)の工程を経て得た攪拌物に脱イオン水を加えて重量を調整し、得られたカスタードクリームを容器(素材:耐熱PP、容量:90cc、上面(直径):64mm、高さ:35mm、下面(直径):45mm)に充填し冷蔵保存(10℃)した。
【0018】
評価方法
上記にて保管した後、1日経過後の各カスタードクリームを型(内径30mm、高さ20mm)に充填し、型から外し、定規で高さを測定した(焼成前の高さ)。その後、ろ紙の上にカスタードクリームを乗せ、乾燥を防ぐ為にアルミカップで覆い、180℃で10分間焼成した。焼成後のカスタードクリームの高さも定規で測定し(焼成後の高さ)、焼成前後の高さから次の計算式により残存率を調べ加熱によって形がどれだけ保たれているかを評価した。結果は表1、2に示した。
【0019】
[式1]
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
表1に示されるように、シトラス又はアップル由来のHMペクチン及び、シトラス又はアップル由来のアミド化されていないLMペクチンを組み合わせることにより、これらのHMペクチン、アミド化されていないLMペクチンを単独で用いた場合やキサンタンガム、ローカストビーンガムを用いた場合と比べてカスタードクリームの形状が維持されることが確認できた。表2に示されるように、形状が維持できるという効果は、シトラス又はアップル由来のHMペクチン及び、シトラス又はアップル由来のアミド化されていないLMペクチンを用いた場合に顕著であった。
したがって、シトラス又はアップル由来のHMペクチン及び、シトラス又はアップル由来のアミド化されていないLMペクチンを組み合わせることにより保形性付与剤が提供できることが確認できた。この剤は焼成前後でもカスタードクリームの形状が維持できることから耐熱性の保形性付与剤であった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明により、従来のフィリング剤や耐熱性の素材等と比べて、より少ない成分で簡便かつ安価に保形性を付与できる新たな剤の提供が可能となった。本発明の保形性付与剤は、製菓・製パン用のフィリング、マーガリン、カスタードクリーム等の軟らかく、形が崩れやすい飲食品や、飲食品を製造するための材料等の形を保つことに役立つ。また、同様に軟らかく崩れやすい物性の医薬品、医薬部外品等に適用することもできる。