(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-15
(45)【発行日】2023-03-24
(54)【発明の名称】寸切りボルトと部品の平面の接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/14 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
B23K11/14
(21)【出願番号】P 2019113946
(22)【出願日】2019-06-19
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】503267858
【氏名又は名称】有限会社 広島金具製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】水ノ上 貴史
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-148422(JP,U)
【文献】特開昭58-006782(JP,A)
【文献】特開2002-356922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寸切りボルトを部品の平面に接合する方法において、
間隔を開けて設けられた凹み部の間に複数ピッチのネジ山を押し潰す押し潰し領域と当該押し潰し領域を挟んで凹み部の前後に、寸切りボルトの数ピッチのネジ山を押しつぶす拡張領域とを有する金型と、平坦な金型との間に挟んで、プレス機により寸切りボルトのネジ山を選択的に押し潰し、
上側電極と下側電極の間に、前記寸切りボルトのネジ山が選択的に押し潰された側と平板が当接するように配置し、前記寸切りボルトが上側金型により押し潰されて平坦化されたネジ山に前記上側電極を当接させて、前記上側電極と下側電極とにより前記寸切りボルトと平板とを加圧しながら電流を流してプロジェクション溶接を行うことを
特徴とする寸切りボルトと部品の平面の接合方法。
【請求項2】
請求項1の寸切りボルトと部品の平面の接合方法において、
上側電極と下側電極の間に配置される平板に、前記押し潰し領域により押し潰されたネジ山に対向する位置に開口を設け、
前記プロジェクション溶接の後に、酸で洗うことを特徴とする寸切りボルトと部品の平面の接合方法。
【請求項3】
寸切りボルトと部品の平面との接合構造において、
寸切りボルトの一側面に、押し潰されていないネジ山を有する領域を離散的に有し、その前後を押し潰されたネジ山により平坦化された領域が挟む重複領域が設けられ、かつ当該重複領域の反対側の側面には、前記重複領域と同様の範囲で押し潰されてネジ山が平坦化された電極当接領域を有する寸切りボルトと、
前記重複領域に面が重ね合わされて、前記押し潰されていないネジ山が溶けて接合されている部品の平面とを有する接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸切りボルトの側面に部品の平面を溶接する寸切りボルトと部品の平面の接合方法とその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
寸切りボルトは頭部の無いねじであり、長ねじ、全ねじ、棒ねじとも呼ばれている。
寸切りボルトは、使用直前にならないとねじの長さが決まらない場合、両側がナットでも支障が無い場合等に用いられる。また、寸切りボルトは、その一端が建具などの取付金具に溶接され、他端がコンクリートに埋められて使用されたりする。
【0003】
例えば、特許文献1においては、棒ねじの両端にナットが締結される構造が示されている。また、特許文献2では、パイプ抱持バンド取付具に用いられる棒ねじが開示されており、棒ねじの一端が他の部材に溶接され、他端が建築構造物に埋め込まれる。また、特許文献3によれば、棒ねじの側面が部品の平面に溶接された金具が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭59-131401号公報
【文献】特許第6383816号公報
【文献】特許第6202549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
寸切りボルトを板材に取り付ける際には、特許文献1のようにナットを用いるか、特許文献2、3のように溶接することが一般的であるが、ナットを用いる場合には部品点数が多くなる問題がある。また、溶接を用いる場合には寸切りボルトの端部の周囲を溶接しようとすると手間で有り、また、寸切りボルトの側面を溶接する場合にも、両サイドの2箇所の溶接が必要である。
本発明の目的は、手間をかけずに寸切りボルトの側面に板材を溶接する寸切りボルトと平板の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
溶接の手法として、プロジェクション溶接が知られている。プロジェクション溶接とは、一般的に、平板にプレス加工などでプロジェクション(突起部)を押し出して成形して、そのプロジェクション(突起)部を加圧し、大電流を突起部に集中して流すことによって生じる発熱で、プロジェクション(突起部)を溶かし、部品同士の溶着を行う抵抗溶接と説明されている。プロジェクション溶接は、スポット溶接多点数を抵抗溶接機一工程に収める極めて効率の良い工法である。また、ナットの底面やボルトの頭部に多数の突起を設けて平板と接触させてプロジェクション溶接を行うことも知られている。
【0007】
本発明はこのようなプロジェクション溶接を、寸切りボルトと平板の接続に利用可能とするものであり、本発明の寸切りボルトを部品の平面に接合する方法は、
間隔を開けて設けられた凹み部の間に複数ピッチのネジ山を押し潰す押し潰し領域と当該押し潰し領域を挟んで凹み部の前後に、寸切りボルトの数ピッチのネジ山を押しつぶす拡張領域とを有する金型と、平坦な金型との間に挟んで、プレス機により寸切りボルトのネジ山を選択的に押し潰し、
上側電極と下側電極の間に、前記寸切りボルトのネジ山が選択的に押し潰された側と平板が当接するように配置し、前記寸切りボルトが上側金型により押し潰されて平坦化されたネジ山に前記上側電極を当接させて、前記上側電極と下側電極とにより前記寸切りボルトと平板とを加圧しながら電流を流してプロジェクション溶接を行うことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の寸切りボルトと部品の平面との接合構造は、寸切りボルトの一側面に、押し潰されていないネジ山を有する領域を離散的に有し、その前後を押し潰されたネジ山により平坦化された領域が挟む重複領域が設けられ、かつ当該重複領域の反対側の側面には、前記重複領域と同様の範囲で押し潰されてネジ山が平坦化された電極当接領域を有する寸切りボルトと、
前記重複領域に面が重ね合わされて、前記押し潰されていないネジ山が溶けて接合されている平板とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プレス機により押し潰すことにより、プロジェクション溶接の上電極が、寸切りボルトの上側の電極当接面はプレス機により広い面積で平坦にされており広い面により接触する。一方、寸切りボルトと板材の間は、押しつぶされなかったネジ山が、板材に対して点接触している。ネジ山の山頂は、寸切りボルトの円周に沿っているので、部品の平面と当接する箇所を点とすることができる。また、プロジェクション溶接された箇所は、寸切りボルトと部品の平面の間であって、寸切りボルトの側面の円筒面の奥側に隠れてしまい観察することが難しい。このため、溶接焼けも殆ど外観から観察できず、後処理をする必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施例により作成された軒樋吊り金具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の寸切りボルトと平板の溶接方法とその構造について、スレートの軒先に配置される軒樋を支持する軒樋吊り金具を本実施例の適用例として説明する。
まず、従来の軒樋吊り金具について説明する。
図3Aにおいて、軒樋吊り金具100は、帯状の支持本体部6、平板2、平板2を支持本体部6に接続する寸切りボルト7からなっている。支持本体部6は、樋(図示せず)を直接支持するための金具である。支持本体部6の両端は、固定されるべき軒樋の形態に応じて様々な形状を取りうるものである。
【0012】
寸切りボルト7は支持本体部6と垂直に交差し、支持本体部6の長さ方向中央付近で固定されている。寸切りボルト7を用いることで、支持本体部6の高さ方向の位置調整が可能である。平板2は、帯状の金属製の部品であり、寸切りボルト7が溶接される平面を有している。平板2は、屈曲されることにより所定の形状に成形されている。本例においては、互い折り重ね合わされた第1辺部2aと第2辺部2bと、第2辺部2bから屈曲され鉛直向きの第3辺部2cからなる形状である。第3辺部2cには、寸切りボルト7が溶接(Weで示す)されている。第2辺部2bと第3辺部2cの形状により、スレート屋根Y1を挟む機能が付与される。
【0013】
図3Bは、他のタイプの軒樋吊り金具200である。軒樋吊り金具200は、いわゆる「軒先曲げ」と呼ばれる軒先を垂直方向に壁と平行に曲げた波板先曲がりスレート屋根Y2を対象としている。
図3Aの軒樋吊り金具100との相違は、平板2の形状が異なる点であり、他の構成は同じである。この軒樋吊り金具200においても、平板2は帯状の金属製の板材であり、これを屈曲することにより一体状に成形されている。本例では、第1辺部2aが第2辺部2bと重ね合わさるように折曲げられて、第2辺部2bに対して寸切りボルト7が溶接(Weで示す)されている。
【0014】
溶接は熟練を必要とする作業である。また、溶接では、寸切りボルト7と平板2との溶接には溶接焼け(スケール)が生じるため、これを除去する作業が必要である。例えば寸切りボルト7と平板2の材質としてステンレス鋼を使用すると、生じるスケールは炭素鋼のスケールに比べて非常に緻密で堅く,ワイヤブラシで除去することは困難である。よって、ディスクサンダーなどにより削り取る作業が必要となる。
【0015】
本発明の寸切りボルトと平板の溶接方法では、従来に見られるようなプレス機を用いて板材から押し出して突起部を成形するようなことは行わないが、プロジェクションを別の手法で作成する。
【0016】
図1は、
図3Bに示した軒樋吊り金具200を例として、本発明の寸切りボルトと平板の溶接方法による軒樋吊り金具の作成工程を示す。まず、寸切りボルト7は、プロジェクション溶接可能な金属製であり、本例ではステンレス綱である。
図1Aにおいて、プレス機の上側の金型10は、ネジ山を一様に押し潰して平坦化して電極当接領域71(プロジェクション溶接の電極が当接する範囲)を作る金型である。そして、下側の金型20は、ネジ山を選択的に押し潰して重複領域72(平板と重複する範囲)を作る金型であり、間隔を開けてネジ山に当たらない凹み部21、22を有している、1又は2以上のピッチのネジ山を押し潰さない領域(実施例では2つ)を作るものである。凹み部21と凹み部22の間には、押し潰し領域23を設けて、ネジ山のピッチが複数個に相当する範囲でネジ山が押し潰されるようになっている。また、押し潰し領域23を挟んで凹み部21、22の前後には、数ピッチのネジ山が押し潰される拡張領域24、25を有している。押し潰し領域を23、凹み部21、22、及び拡張領域24、25の全長が、平板2と重ね合わされる重複領域72である。
【0017】
図1Bに示すように、寸切りボルト7をプレス機の上下の金型10、20に挟んで、押し潰す。
図1Cにおいて、下側の金型20により寸切りボルト7が押し潰される範囲に、平板2と重ね合わされる重複領域72が作られる。重複領域72であっても凹み部21、22においては、ネジ山は金型20により押し潰されないが、その他の領域23、24、25ではネジ山は押し潰される。この結果、押し潰されなかったネジ山が夫々2つずつ前後に離散的に残った重複領域72が設けられる。
【0018】
一方、上側の金型10により、寸切りボルト7の側面に平坦にされた電極当接領域71が設けられる。なお、ネジ山の押し潰しは、ネジ谷が判別不能になるまでは押し潰す必要は無い。電極当接領域71と重複領域72において、それぞれにおいて、ネジ山が押し潰されて作られた面は互いに平行になっている。
【0019】
プレス機によりネジ山を押し潰すことにより、作業は簡略化することができる。また、押し潰し作業により、ネジ山がネジ谷側に広がり、平坦な面が形成される。例えば、ネジ山を削るのでは、ネジ山の山腹の広さの面しか形成されず。広い平坦面を作るにはネジ谷近くまで削り込む必要がある。また、寸切りボルトのネジ山を削る場合には、削りにより発生する鉄粉の処理が必要であり、また研磨機が摩耗する。
【0020】
図1Dにおいて、プロジェクション溶接の上下の電極81、82に、寸切りボルト7とステンレス鋼による平板2を配置する。平板2は、第1辺部2aが第2辺部2bと重ね合わさるように折曲げられているため、プロジェクション溶接の際の加圧により、折曲げ部CNが潰れないように、第1辺部2aと第2辺部2bとの間に鋼板SPを挟んでいる。寸切りボルトの上側の電極当接面はプレス機により広い面積で平坦にされており広い面により接触する。また、平板2(第1辺部2a)は、下側の電極82に対して面接触している。一方、寸切りボルト7と平板2(第2辺部2b)の間は、押し潰されなかったネジ山(以下、ネジ山Pとする)が、平板2に対して点接触している。ネジ山Pの山頂は、寸切りボルトの円周に沿っているので、平板2と当接するのは、点になるのである。また、上側の電極81が寸切りボルト7の電極当接領域71に当接することにより寸切りボルト7の軸方向cに対する回転rは規制され、平板2と当接するネジ山Pの点は最も高い位置になる。
【0021】
電極81、82間に通電と加圧を開始すると通電箇所となるネジ山Pが昇温軟化し、軟化に伴い,ネジ山Pは圧潰し通電する範囲が拡大し,電流密度が低下する。電流密度の低下が生じても,温度上昇により電気抵抗が増加しているので,発熱が継続される。また,ネジ山Pは固体のままで圧潰していくので圧接が得られる。そして、押し潰し領域23により押し潰された部分が平板2(第2辺部2b)に接触すると、一気に電流密度が低下して、溶接が継続できなくなる。この結果、
図1Eに示すように、ネジ山Pがプロジェクション溶接の突起として平板2に溶接される。
【0022】
図2Aは、本実施例の接合方法により作成された軒樋吊り金具300を示している。寸切りボルト7には、プレス機により押しつぶされて平面化した電極当接領域71のネジ山を観察することができる。一方で、プロジェクション溶接された箇所は、寸切りボルトと平板2(第2辺部2b)の間であって、寸切りボルト7の側面の円筒面の奥側に隠れてしまい観察することが難しい。このため、溶接焼けも殆ど外観から観察できず、後処理をする必要がない。
【0023】
図2Bは、寸切りボルト7と平板2を、スチールにした場合の例である。プロジェクション溶接に到る工程については、
図1A-Eに示した工程と同じである。スチール製の寸切りボルト7と平板2を使用した場合、錆に対するメッキ処理を行うのが一般的である。メッキ処理においては、メッキ前に酸で洗い酸化膜を除去するが、このとき、寸切りボルト7と平板2の間には、ネジ山を圧潰した際に潰しきらなかったネジ谷の部分が存在しており、ここに酸が残留する可能性がある。酸が残ると、その部分から腐食が進むことになる。そこで、下側の金型20による押し潰し領域23により押し潰されたネジ山に対向する位置に、平板2側へ開口2dを設けて、ネジ山を潰しきらなかったネジ谷の部分が露出するようにしている。その結果、開口2dを設けることにより、酸の残留が抑止される(
図2C参照)。尚、このような開口2dは、拡張領域24、25に対応して設けても良い。
【0024】
本実施例では、軒樋吊り金具を例として示したが他の用途にも寸切りボルトは使用される。例えば、使用直前にならないとねじの長さが決まらない寸切りボルトの用途としては、天井板を支持する吊り金具や、照明の吊り下げ金具等があり、寸切りボルトと平板を接合する際に適用することが出来る。また、他の寸切りボルトの使用例としては、寸切りボルトをコンクリート等に埋め込む使用方法もあり、このような使用方法における寸切りボルトについても、平板を接合する際に適用可能である。
【符号の説明】
【0025】
2 平板
2a 第1辺部
2b 第2辺部
2c 第3辺部
2d 開口
6 支持本体部
7 寸切りボルト
10、20 金型
21、22 凹み部
23 押し潰し領域
24、25 拡張領域
71 電極当接領域
72 重複領域
81、82 電極
100、200、300 軒樋吊り金具