(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/40 20160101AFI20230317BHJP
H02P 29/10 20160101ALI20230317BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20230317BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
H02P29/40
H02P29/10
G05D3/12 304
G05B11/36 B
(21)【出願番号】P 2019564595
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046683
(87)【国際公開番号】W WO2019138808
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2018000989
(32)【優先日】2018-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘
(72)【発明者】
【氏名】田澤 徹
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-043132(JP,A)
【文献】特開2006-158026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/40
H02P 29/10
G05D 3/12
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷を駆動する電動機の制御装置であって、
前記負荷の目標位置を指定する位置指令信号と前記負荷を駆動する前記電動機の位置を示す電動機位置信号を入力し、トルク指令信号を出力する位置制御部と、
前記位置指令信号を入力し、前記位置指令信号の加速度を示す指令加速度信号を出力する指令加速度算出部と、
前記負荷の加速度を示す負荷加速度信号から前記指令加速度信号を減算し、負荷加速度補正信号を出力する第1の減算器と、
前記トルク指令信号から前記負荷加速度補正信号に所定の重み係数を乗じた値を減算し、トルク指令補正信号を出力する第2の減算器と、を含み、
前記トルク指令補正信号は、前記電動機の固定子巻線に通電する電流を制御する
電動機の制御装置において、
前記指令加速度算出部は、前記指令加速度信号に、前記位置指令信号に対する前記電動機位置信号の伝達特性と等価なフィルタ処理を施した信号に重み係数を乗じることによって、負荷速度信号を生成する、電動機の制御装置。
【請求項2】
負荷を駆動する電動機の制御装置であって、
前記負荷の目標位置を指定する位置指令信号と前記負荷を駆動する前記電動機の位置を示す電動機位置信号を入力し、トルク指令信号を出力する位置制御部と、
前記位置指令信号を入力し、前記位置指令信号の加速度を示す指令加速度信号を出力する指令加速度算出部と、
前記負荷の加速度を示す負荷加速度信号から前記指令加速度信号を減算し、負荷加速度補正信号を出力する第1の減算器と、
前記トルク指令信号から前記負荷加速度補正信号に所定の重み係数を乗じた値を減算し、トルク指令補正信号を出力する第2の減算器と、を含み、
前記トルク指令補正信号は、前記電動機の固定子巻線に通電する電流を制御する電動機の制御装置において、
前記指令加速度算出部は、前記指令加速度信号に、前記負荷と前記電動機とを剛体とした場合の前記位置指令信号に対する前記電動機位置信号の伝達特性と等価なフィルタ処理
を施した信号に重み係数を乗じることによって、負荷速度信号を生成する、電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機および電動機で駆動される機械負荷に対し、電動機の速度または位置などの駆動動作を制御する電動機の制御装置に関する。特に、駆動時などに発生する機械負荷の反共振に起因する振動を抑制する制御構成を備えた電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動機の制御装置は、上位コントローラから入力された位置指令と電動機および被制御対象の負荷(機械負荷)の位置が一致するように、内部にフィードバック制御系を有している。このような電動機の制御装置は、位置指令と電動機の位置検出値から、位置指令と電動機位置を一致させるためのトルク指令値を算出し、電動機でトルク指令値と同じトルクが生じるよう電動機の固定子巻線に通電する電流を制御することで、電動機および被制御対象の負荷(機械負荷)の位置を制御している。しかしながら、電動機と被制御対象の負荷(機械負荷)との接合部の機械剛性が低い場合は、加減速時または外乱印加時において、被制御対象の負荷(機械負荷)に反共振に起因する振動が生じやすく、整定性および外乱抑圧性を従来よりも更に高めることが課題として認識されていた。
【0003】
この課題に対し、従来の送り制御装置は、被制御対象の負荷(機械負荷)であるスライダに加速度センサを設置し、被制御対象の負荷(機械負荷)の加速度検出値に重み係数である加速度フィードバックゲインを乗じたものを、トルク指令値から減算する加速度フィードバックループを備えることで、加減速時または外乱印加時に被制御対象の負荷(機械負荷)に生じる振動を抑制するように構成されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1等で代表される構成では、加速度フィードバックゲインを大きくするほど機械剛性に起因する振動が小さくなる。一方、負荷の加減速動作に必要なトルクがトルク指令値から減算される。このため、指令追従性能が劣化し、停止間際に動作遅れ、オーバーシュート、またはアンダーシュートなどが生じてしまい、整定性と振動抑制が両立できない、という問題を有していた。換言すると、加速度フィードバックゲイン(加速度フィードバック量)と指令追従性能との間には、トレードオフの関係があり、整定性と振動抑制の両立については、更なる改良が希求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、従来の課題を解決する。本発明は、負荷加速度フィードバック系を有する電動機の制御装置において、指令追従性能を保ちつつ、負荷加速度フィードバックによる振動抑制効果を得ることで、整定性と振動抑制の両立が可能となる電動機の制御装置を提供することを目的とする。即ち、本発明は、負荷加速度フィードバックゲイン(加速度フィードバック量)と指令追従性能との間の、トレードオフの関係を、緩和、或いは回避を図り、指令追従性能を保ちつつ、負荷側からの加速度フィードバックによる振動抑制効果を高めた電動機の制御装置を提供する。
【0007】
上述の課題を解決するために、本出願の発明者らは、試行錯誤を重ね且つ鋭意検討を行った。そして、指令追従性能を保ちつつ、負荷側からの加速度フィードバックによる振動抑制効果を高めた新規な電動機の制御装置を見出した。その詳細を下記に述べる。
【0008】
課題を解決するための第1の態様は、負荷(機械負荷)を駆動する電動機の制御装置であって、位置制御部と、指令加速度算出部と、第1の減算器と、第2の減算器と、を含む。位置制御部は、負荷の目標位置を指定する位置指令信号と負荷を駆動する電動機の位置を示す電動機位置信号を入力し、トルク指令信号を出力する。指令加速度算出部は、位置指令信号を入力し、位置指令信号の加速度を示す指令加速度信号を出力する。第1の減算器は、負荷の加速度を示す負荷加速度信号から指令加速度信号を減算し、負荷加速度補正信号を出力する。第2の減算器は、トルク指令信号から負荷加速度補正信号に所定の重み係数を乗じた値を減算し、トルク指令補正信号を出力する。トルク指令補正信号は、電動機の固定子巻線に通電する電流を制御する。
【0009】
また、第2の態様は、第1の態様の電動機の制御装置において、指令加速度算出部は、指令加速度信号に、位置指令信号に対する電動機位置信号の伝達特性と等価なフィルタ処理を施した信号に重み係数を乗じることによって、負荷速度信号を生成する。
【0010】
また、第3の態様は、第1の態様の電動機の制御装置において、指令加速度算出部は、指令加速度信号に、負荷と電動機とを剛体とした場合の位置指令信号に対する電動機位置信号の伝達特性と等価なフィルタ処理を施した信号に重み係数を乗じることによって、負荷速度信号を生成する。
【0011】
上述の課題解決によって、負荷加速度フィードバック系を有する電動機の制御装置において、フィードバックされる負荷加速度情報から予め指令加速度情報を減じることで、負荷加速度フィードバックによる加減速トルクの減算を防ぐことができる。よって、負荷加速度フィードバックによる指令追従性能の低下を招くことも無く、指令追従性能を保ったまま、負荷加速度フィードバックによる振動抑制効果を高めることができる。したがて、整定性と振動抑制の両立が実現可能である。
【0012】
本発明の電動機の制御装置は、フィードバックされる負荷加速度情報から予め指令加速度情報を減じる。本発明の電動機の制御装置は、負荷加速度フィードバックによる加減速トルクの減算を防ぎ、指令追従性能を保ちつつ、負荷加速度フィードバックによる振動抑制効果を高めることを可能にし、産業的価値の大いなるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態における電動機の制御装置の構成の一例を示す図
【
図2】本発明の実施の形態における負荷加速度補正部の構成の一例を示す図
【
図3】本発明の実施の形態における電動機の制御装置の構成の別の例を示す図
【
図4】本発明の実施の形態における電動機の制御装置の構成のまた別の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における電動機の制御装置の構成の一例を示す図である。
図1に示す電動機の制御装置100は、電動機201と電動機201の位置を検出する位置検出器202と、接合部203を介して電動機201に繋がれた駆動対象である負荷204の加速度を検出する加速度検出器205に接続されている。電動機の制御装置100は、図示しない上位コントローラから位置指令信号が入力され、位置指令信号と電動機および負荷機械の位置が一致するように電動機の固定子巻線に通電する電流を制御する。
【0016】
位置検出器202は電動機の位置を検出し、電動機位置信号θmとして電動機の制御装置100へ出力する。加速度検出器205は負荷の加速度を検出し、負荷加速度信号ALとして電動機の制御装置100へ出力する。
【0017】
電動機の制御装置100の構成を説明する。電動機の制御装置100は、内部に位置制御部101、速度制御部102、トルク制御部103、速度変換部104、負荷加速度補正部105、指令加速度算出部106、減算器107、減算器108を有している。
【0018】
位置制御部101は、位置指令信号θSと電動機位置信号θmを入力し、速度指令信号ωSを出力する。速度制御部102は、速度指令信号ωSと、電動機位置信号θmから速度変換部104によって算出された電動機速度信号ωmを入力し、トルク指令信号τSを出力する。トルク制御部103は、トルク指令信号τSから後述する負荷加速度フィードバックトルク信号τaccを減じたトルク指令補正信号τinを入力し、電動機でトルク指令補正信号τinと同じトルクが生じるように、電動機の固定子巻線に通電する電流を制御する。
【0019】
指令加速度算出部106は、位置指令信号θSを入力し、位置指令の加速度を示す指令加速度信号ASを出力する。
【0020】
負荷加速度補正部105は、負荷加速度信号ALから指令加速度信号ASを減じた負荷加速度補正信号A’Lを入力し、負荷加速度フィードバックトルク信号τaccを出力する。
【0021】
このようにして、電動機の制御装置100は内部に、位置指令と電動機および負荷の位置が一致するにように、電動機位置と電動機速度と負荷速度をフィードバックしたカスケード型のフィードバック制御系を有している。
【0022】
次に、電動機の制御装置の構成の詳細を説明する。位置制御部101は、位置指令信号θSと電動機位置信号θmを入力し、両者の差異を小さくするための速度指令信号ωSを出力する。位置制御部101は、例えば、位置指令信号θSと電動機位置信号θmに重み係数を乗じたものを、速度指令信号ωSとして出力する比例制御演算を行う。位置制御部101は、例えば、位置指令信号θSと電動機位置信号θmの差分値に重み係数を乗じたものを、速度指令信号ωSとして出力する比例制御演算を行う。
【0023】
速度制御部102は、速度指令信号ωSと電動機速度信号ωmを入力し、両者の差異を小さくするためのトルク指令信号τSを出力する。速度制御部102は、例えば、速度指令信号ωSと電動機速度信号ωmの差分値に重み係数を乗じたものと、速度指令信号ωSと電動機速度信号ωmの差分値の積分値に重み係数を乗じたものとの加算値をトルク指令信号τSとして出力する比例積分演算を行う。
【0024】
速度変換部104は、電動機位置信号θmを入力し、電動機速度を示す電動機速度信号ωmを出力する。速度変換部104は、例えば、電動機位置信号θmに対して微分演算を行い、その算出結果を電動機速度信号ωmとして出力する。
【0025】
指令加速度算出部106は、位置指令信号θSを入力し、位置指令信号θSの加速度を示す指令加速度信号ASを出力する。指令加速度算出部106は、例えば、位置指令信号θSに二階微分演算処理を施すことで、指令加速度信号ASを算出する。
【0026】
減算器107は、負荷加速度信号ALから指令加速度信号ASを減じて、負荷加速度補正信号A’Lを出力する。負荷加速度補正部105は、負荷加速度補正信号A’Lを入力し、負荷加速度補正信号A’Lに重み係数を乗じた値を負荷加速度フィードバックトルク信号τaccとして出力する。
【0027】
減算器108は、トルク指令信号τSから負荷加速度フィードバックトルク信号τaccを減じた値をトルク指令補正信号τinとしてトルク制御部103に出力する。
【0028】
負荷加速度補正部105は、負荷加速度信号ALから指令加速度信号ASを減じた負荷加速度補正信号A’Lに重み係数を乗じた値を負荷加速度フィードバックトルク信号τaccとして出力する構成としている。仮に負荷加速度信号ALに重み係数を乗じた値を負荷加速度フィードバックトルク信号τaccとして出力した場合、電動機位置信号θmまたは負荷位置θLを位置指令信号θSに追従させるために電動機または負荷を加減速動作させる際に、負荷加速度フィードバックトルク信号τaccをトルク指令信号τSから減じるとする。この場合、トルク指令信号τSに含まれる、加減速動作に必用なトルクから負荷加速度フィードバックトルク信号τaccが減じられてしまう。トルク指令信号τSから負荷加速度フィードバックトルク信号τaccが減じられた場合の作用について、負荷加速度補正部105の動作原理と合わせて説明する。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態における負荷加速度補正部105の構成の一例を示す図である。負荷加速度補正部105は、負荷加速度補正信号A’
Lを入力し、負荷加速度補正信号A’
Lに重み係数である負荷加速度フィードバックゲインK
accを乗じた値を負荷加速度フィードバックトルク信号τ
accとして出力する。このとき、指令加速度信号A
S=0とすると、トルク指令信号τ
Sに対する電動機位置信号θ
mの伝達関数G
τS→θm(s)は、式(1)で示される。トルク指令信号に対する負荷位置θ
Lの伝達関数G
τS→θL(s)は、式(2)で示される。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
各式における変数及び演算子について説明する。sはラプラス演算子である。Jmは電動機201のイナーシャである。JLは負荷204のイナーシャである。ω’Pはトルク指令信号τSから電動機位置信号θmへの伝達特性における共振周波数である。ωZはトルク指令信号τSから電動機位置信号θmへの伝達特性における反共振周波数である。負荷加速度フィードバックゲインKaccと共振周波数ω’Pとの関係は、式(3)として示される。弾性係数KSおよび負荷204のイナーシャJLと反共振周波数ωZとの関係は式(4)の式で示される。式(3)及び式(4)において、KSは接合部203の弾性係数を示している。電動機の制御装置100で電動機201を介して負荷204を駆動する場合、加減速動作によって負荷204に反共振周波数ωZの振動が励起され、停止時の整定性を妨げる要因となる。
【0035】
式(1)に着目すると、負荷加速度フィードバックゲインKaccを大きくすると、共振周波数ω’Pは大きくなり、反共振周波数ωZは変化しないことが分かる。共振周波数と反共振周波数の差異が大きくなるほど、反共振周波数におけるゲインは小さくなるので、反共振の影響は小さくなる。一方、式(1)と式(2)とによって、トルク指令信号τSに対する、電動機位置信号θmと負荷位置θLとの関係は、次の式(5)の関係にあることが分かる。
【0036】
【0037】
式(5)によって、電動機位置信号θmと負荷位置θLとの関係は、負荷加速度フィードバックゲインKaccに関わらず、常に一定である。よって、式(1)において、負荷加速度フィードバックゲインKaccを上げることで、トルク指令信号τSに対する電動機位置信号θmの伝達特性の反共振周波数ωZにおけるゲインが小さくなると、トルク指令信号τSに対する負荷位置θLの伝達特性の反共振周波数ωZにおけるゲインも同様に小さくなる。よって、加減速動作によって生じる負荷204の反共振周波数ωZの振動も小さくなる。
【0038】
上述のとおり、負荷加速度補正部105によって負荷加速度をフィードバックすることで、上記の各式で示されるように、反共振周波数におけるゲイン、つまり感度を下げる作用がある。これによって、電動機の制御装置100によって電動機201または負荷204を駆動する際に、加減速動作時に負荷204に生じる反共振振動を減じることができる。
【0039】
以上のとおり、負荷加速度補正部105による負荷加速度信号ALをフィードバックすることで、反共振に起因する振動を抑制する効果が得られる。
【0040】
一方、電動機位置信号θmおよび負荷加速度信号ALを位置指令信号θSに追従させるために加減速動作させる際に、負荷加速度信号ALから指令加速度信号ASを減ずることなく、負荷加速度信号ALを直接に負荷加速度補正部105に入力し、負荷加速度フィードバックトルク信号τaccを算出した場合、負荷加速度フィードバックによって、整定性が悪化する問題が生じる。
【0041】
加減速動作を行うには所望の加速度に比例したトルクが電動機で生じるように制御する必要がある。電動機の制御装置100では、加減速動作に必要なトルクを位置制御部101と速度制御部102によって算出し、トルク指令信号τSとして出力する。しかしながら、負荷加速度信号ALから指令加速度信号ASを減ずることなく、負荷加速度信号ALを直接に負荷加速度補正部105に入力し、負荷加速度フィードバックトルク信号τaccを算出した場合、トルク指令信号τSから負荷加速度フィードバックトルク信号τaccを減じることで、加減速動作に必要なトルクも減じられてしまい、指令追従性能が低下する。加減速動作に必用なトルクの不足分は、位置制御部101および速度制御部102によって再度補償されることで、電動機位置信号θmおよび負荷位置θLが位置指令信号θSと一致するように制御される。しかし、位置制御部101および速度制御部102はフィードバック制御であるため、制御に遅れが生じる。この制御遅れによって、停止間際に動作遅れ、オーバーシュート、またはアンダーシュートなどが発生し、整定性が低下してしまう。つまり、負荷加速度フィードバックゲイン(加速度フィードバック量)を大きくするほど、指令追従性能は低下する。負荷加速度フィードバックゲイン(加速度フィードバック量)と指令追従性能とはトレードオフの関係にある。
【0042】
フィードバックされる負荷加速度信号ALから、加減速動作時の加速度を示す指令加速度信号ASを予め減じた負荷加速度補正信号A’Lを負荷加速度補正部105に入力して負荷加速度フィードバックトルク信号τaccを算出することで、電動機201および負荷204の加減速動作に必要なトルクが負荷加速度フィードバックによって減じられることが無くなる。よって、停止間際の動作遅れ、オーバーシュート、またはアンダーシュートなどを改善する効果が得られる。
【0043】
以上のように、本実施の形態においては、負荷加速度フィードバック系を内部に有する電動機の制御装置において、フィードバックされる負荷加速度情報から予め指令加速度情報を減じることで、負荷加速度フィードバックによる加減速トルクの減算を防ことができる。よって、指令追従性能を保ちつつ、負荷加速度フィードバックによる振動抑制効果が得られる。したがって、整定性と振動抑制の両立が可能となる。
【0044】
本実施の形態では、負荷加速度から指令加速度を減じたものをフィードバックする構成とした。しかし、指令加速度に位置指令信号に対する電動機位置信号の伝達特性と等価なフィルタ処理を施した加速度情報を負荷加速度から減じる構成としても良い。
図3は、本発明の実施の形態における電動機の制御装置の構成の別の例を示す図である。
図3において、
図1に示す構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付して、説明を省略する。
図3に示す電動機の制御装置100のフィルタ処理部109において、位置指令信号に対する電動機位置信号の伝達特性と等価なフィルタ処理を施して、加速度情報を出力する。このような構成を取ることで、フィードバックされる負荷加速度情報から予め実際に加減速動作が為される時の加速度を減じられ、負荷加速度フィードバックによる加減速トルクの減算を防ぐことができる。よって、より指令追従性能を保ちつつ、負荷加速度フィードバックによる振動抑制効果が得られる。したがって、整定性と振動抑制の両立が可能となる。
【0045】
本実施の形態では、負荷加速度から指令加速度を減じたものをフィードバックする構成とした。しかし、指令加速度に対し、電動機と負荷の接合部の剛性が高い、つまり電動機と負荷とを剛体とした場合の位置指令信号に対する電動機位置の伝達特性と等価なフィルタ処理を施した加速度情報を負荷加速度から減じる構成としても良い。この場合、
図3に示す電動機の制御装置100のフィルタ処理部109において、電動機と負荷の接合部の剛性が高い、つまり電動機と負荷とを剛体とした場合の位置指令信号に対する電動機位置の伝達特性と等価なフィルタ処理を施して、加速度情報を出力する。このような構成を取ることで、フィードバックされる負荷加速度情報から予め実際に加減速動作が為される時の加速度を減じられ、負荷加速度フィードバックによる加減速トルクの減算を防ことができる。よって、より指令追従性能を保ちつつ、負荷加速度フィードバックによる振動抑制効果が得られる。したがって、整定性と振動抑制の両立が可能となる。
【0046】
以上のように、本実施の形態の電動機の制御装置100は、負荷(機械負荷)を駆動する電動機の制御装置100であって、位置制御部101と、指令加速度算出部106と、第1の減算器に相当する減算器107と、第2の減算器に相当する減算器108と、を含む。位置制御部101は、負荷の目標位置を指定する位置指令信号θSと負荷を駆動する電動機の位置を示す電動機位置信号θmを入力し、トルク指令信号τSを出力する。指令加速度算出部106は、位置指令信号θSを入力し、位置指令信号θSの加速度を示す指令加速度信号ASを出力する。第1の減算器は、負荷の加速度を示す負荷加速度信号ALから指令加速度信号ASを減算し、負荷加速度補正信号A’Lを出力する。第2の減算器は、トルク指令信号τSから負荷加速度補正信号A’Lに所定の重み係数を乗じた値を減算し、トルク指令補正信号τinを出力する。トルク指令補正信号τinは、電動機の固定子巻線に通電する電流を制御する。
【0047】
これにより、負荷加速度フィードバック系を内部に有する電動機の制御装置100において、フィードバックされる負荷加速度情報から予め指令加速度情報を減じることで、負荷加速度フィードバックによる加減速トルクの減算を防ことができる。よって、指令追従性能を保ちつつ、負荷加速度フィードバックによる振動抑制効果が得られる。したがって、整定性と振動抑制の両立が可能となる。
【0048】
また、指令加速度算出部106は、指令加速度信号A
Sに、位置指令信号θ
Sに対する電動機位置信号θ
mの伝達特性と等価なフィルタ処理を施した信号に重み係数を乗じることによって、負荷速度信号を生成してもよい。
図4は、本発明の実施の形態における電動機の制御装置の構成のまた別の例を示す図である。
図4において、
図3に示す構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付して、説明を省略する。
図4に示す電動機の制御装置100の重み係数乗算部110において、フィルタ処理部109にてフィルタ処理を施した信号に重み係数を乗じる。なお、指令加速度算出部106は、フィルタ処理部109および重み係数乗算部110を含んでもよい。
【0049】
また、指令加速度算出部106は、指令加速度信号A
Sに、負荷と電動機とを剛体とした場合の位置指令信号θ
Sに対する電動機位置信号θ
mの伝達特性と等価なフィルタ処理を施した信号に重み係数を乗じることによって、負荷速度信号を生成してもよい。
図4に示す電動機の制御装置100のフィルタ処理部109において、電動機と負荷の接合部の剛性が高い、つまり電動機と負荷とを剛体とした場合の位置指令信号に対する電動機位置の伝達特性と等価なフィルタ処理を施して、信号を出力する。
図4に示す電動機の制御装置100の重み係数乗算部110において、フィルタ処理部109にてフィルタ処理を施した信号に重み係数を乗じる。なお、指令加速度算出部106は、フィルタ処理部109および重み係数乗算部110を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明にかかる電動機の制御装置は、指令追従性能を保ちつつ、負荷加速度フィードバックによる振動抑制効果が得られる。よって、整定性と振動抑制の両立が可能となる。負荷加速度フィードバックゲイン(加速度フィードバック量)と指令追従性能との間の、トレードオフの関係を、緩和、或いは回避を図ることで、指令追従性能を保ちつつ、負荷側からの加速度フィードバックによる振動抑制効果を高めた電動機の制御装置を提供可能である。したがって、半導体製造装置または電子部品実装機等で使用される電動機の制御装置等の用途に好適である。
【符号の説明】
【0051】
100 電動機の制御装置
101 位置制御部
102 速度制御部
103 トルク制御部
104 速度変換部
105 負荷加速度補正部
106 指令加速度算出部
107 減算器
108 減算器
109 フィルタ処理部
110 重み係数乗算部
201 電動機
202 位置検出器
203 接合部
204 負荷
205 加速度検出器