(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】波長変換部材、光学装置、プロジェクタ及び波長変換部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20230317BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20230317BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
G02B5/20
G03B21/00 F
G03B21/14 A
(21)【出願番号】P 2020561168
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2019039321
(87)【国際公開番号】W WO2020129357
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018236355
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】濱田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】谷 直幸
(72)【発明者】
【氏名】大林 孝志
(72)【発明者】
【氏名】長崎 純久
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-018010(JP,A)
【文献】特開2017-215459(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159268(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0289271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
G02F 1/13357
G03B 21/14
H01S 5/022
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料を含むマトリクスと、
前記マトリクスに埋め込まれた蛍光体と、
前記マトリクスに埋め込まれてかつ樹脂材料を含む複数のフィラー粒子と、
を備え
、
前記複数のフィラー粒子は、エラストマーである波長変換部材。
【請求項2】
前記マトリクスを支持する基板をさらに備え、
前記複数のフィラー粒子は前記蛍光体と前記基板との間に位置する、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記基板は、ステンレス鋼、アルミニウムと炭化ケイ素との複合材料、アルミニウムとシリコンとの複合材料、アルミニウムと炭素との複合材料、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記マトリクスは無機結晶を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記無機結晶は酸化亜鉛を含む、請求項4に記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記酸化亜鉛はc軸に配向している、請求項5に記載の波長変換部材。
【請求項7】
前記樹脂材料は熱可塑性樹脂を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項8】
前記樹脂材料は熱硬化性樹脂を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項9】
前記複数のフィラー粒子はゴム弾性を有する
シリコーンゴムを含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項10】
前記樹脂材料はシロキサン結合を有する高分子化合物を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項11】
前記複数のフィラー粒子は、コアと、前記コアを被覆しているシェルとを有する、請求項1から10のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項12】
前記複数のフィラー粒子は官能基で修飾された表面を有している、請求項1から11のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項13】
550nmの波長の光に対する前記複数のフィラー粒子の吸収率が25%以下である、請求項1から12のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項14】
前記蛍光体の体積V1と、前記複数のフィラー粒子の合計体積V2とで定義されるV2/(V1+V2)の値は0.05以上0.16以下である、請求項1から13のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の波長変換部材と、
前記波長変換部材に励起光を照射する励起光源と、
を備えた光学装置。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか1項に記載の波長変換部材を備えたプロジェクタ。
【請求項17】
樹脂材料を含む複数のフィラー粒子
を加熱することで、前記複数のフィラー粒子によって蛍光体を基板に固定することと、
前記複数のフィラー粒子と前記蛍光体とが、無機材料を含むマトリクスに埋め込まれるように前記マトリクスを形成することと、
を含む、波長変換部材の製造方法。
【請求項18】
前記蛍光体を前記基板に固定することは、
前記複数のフィラー粒子を加熱することによって前記蛍光体と前記基板とに前記複数のフィラー粒子を接着させることを含む、請求項17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波長変換部材、光学装置、プロジェクタ及び波長変換部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光源及び波長変換部材を備えた光学装置が開発されている。波長変換部材は、マトリクスに埋め込まれた蛍光体を有する。励起光源の光が励起光として蛍光体に照射され、励起光の波長よりも長い波長の蛍光の光が蛍光体から放射される。このタイプの光学装置において、光の輝度及び出力を高めるための試みがなされている。
【0003】
特許文献1は、マトリクスの材料として酸化亜鉛(ZnO)が使用された波長変換素子を開示している。ZnOは、多くの蛍光体の屈折率に近い屈折率を有する無機材料であるとともに、優れた透光性及び熱伝導性を有する。特許文献1の波長変換素子によれば、蛍光体とZnOマトリクスとの界面での光散乱が抑制され、高い光出力が達成されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
波長変換部材は、無機材料を含むマトリクスと、マトリクスに埋め込まれた蛍光体と、マトリクスに埋め込まれてかつ樹脂材料を含む複数のフィラー粒子とを備え、複数のフィラー粒子はエラストマーである。
【0006】
この波長変換部材は、蛍光体の脱落を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は本開示の実施形態1にかかる波長変換部材の概略断面図である。
【
図2】
図2は
図1に示す波長変換部材のフィラー粒子の断面図である。
【
図3A】
図3Aは実施形態1にかかる波長変換部材の製造方法に用いられる基板の断面図である。
【
図3B】
図3Bは
図3Aに示す基板の上に、蛍光体部の前駆体が形成された状態を示す図である。
【
図4】
図4は本開示の実施形態2にかかる波長変換部材の概略断面図である。
【
図5】
図5は本開示の実施形態3にかかる波長変換部材の概略断面図である。
【
図6】
図6は本開示の実施形態4にかかる波長変換部材の概略断面図である。
【
図7】
図7は本開示の実施形態5にかかる波長変換部材の概略断面図である。
【
図8】
図8は本開示の波長変換部材を用いた反射型光学装置の概略断面図である。
【
図9】
図9は本開示の波長変換部材を用いた透過型光学装置の概略断面図である。
【
図10】
図10は本開示の変形例にかかる光学装置の概略構成図である。
【
図12】
図12は本開示の光学装置を用いたプロジェクタの概略構成図である。
【
図14】
図14は本開示の光学装置を用いた照明装置の概略構成図である。
【
図15A】
図15Aは振動試験を実施する前における実施例2の蛍光体部の前駆体の顕微鏡画像を示す図である。
【
図15B】
図15Bは振動試験を実施した後における実施例2の蛍光体部の前駆体の顕微鏡画像を示す図である。
【
図16A】
図16Aは振動試験を実施する前における実施例3の蛍光体部の前駆体の顕微鏡画像を示す図である。
【
図16B】
図16Bは振動試験を実施した後における実施例3の蛍光体部の前駆体の顕微鏡画像を示す図である。
【
図17A】
図17Aは実施例2の波長変換部材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見)
波長変換部材は、例えば、基板の上に蛍光体を配置した後に、マトリクスを形成することによって作製できる。しかし、基板の上に蛍光体を配置した状態で基板が振動すると、蛍光体が基板から脱落することがある。溶液成長法によって無機結晶のマトリクスを形成する場合、基板を結晶成長用の溶液に浸漬しているときに、蛍光体が基板から脱落することもある。特に、蛍光体のサイズが大きい場合、蛍光体が高く積まれている場合、又は、蛍光体が配置されている範囲が広い場合に、蛍光体は、基板から脱落しやすい。
【0009】
特許文献1に開示されている波長変換素子では、波長変換素子を作製しているときに蛍光体が脱落することがある。
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0011】
(実施形態1)
図1は、実施形態1にかかる波長変換部材100の概略断面図である。
図1に示すように、波長変換部材100は、蛍光体部20を備えている。蛍光体部20は、マトリクス21、蛍光体22及び複数のフィラー粒子23を有する。蛍光体22は、例えば、複数の粒子122よりなる。蛍光体22の粒子122及び複数のフィラー粒子23は、マトリクス21に埋め込まれている。言い換えれば、蛍光体22の粒子122及び複数のフィラー粒子23は、マトリクス21に分散されている。蛍光体22の粒子122及び複数のフィラー粒子23は、マトリクス21に囲まれている。
【0012】
蛍光体部20の形状は、例えば、層状である。蛍光体部20の厚さは、例えば、20μm以上200μm以下である。蛍光体部20の厚さは、50μmより大きくてもよい。蛍光体部20の形状が層状であるとき、平面視での蛍光体部20の面積は、例えば、0.5mm2以上1500mm2以下である。
【0013】
波長変換部材100は、基板10をさらに備えていてもよい。基板10は、蛍光体部20を支持している。蛍光体部20は、基板10の上に配置されている。
【0014】
第1の波長帯域を有する励起光が波長変換部材100に照射されたとき、波長変換部材100は、励起光の一部を第2の波長帯域を有する光に変換して放射する。波長変換部材100は、励起光の波長よりも長い波長の光を放射する。第2の波長帯域は、第1の波長帯域と異なる帯域である。ただし、第2の波長帯域の一部が第1の波長帯域に重なっていてもよい。波長変換部材100から放射された光には、蛍光体22から放射された光だけでなく、励起光そのものが含まれていてもよい。
【0015】
基板10は、例えば、基板本体11及び薄膜12を有する。基板10の厚さは、例えば、蛍光体部20の厚さよりも大きい。基板本体11は、ステンレス鋼、アルミニウムと炭化ケイ素との複合材料(Al-SiC)、アルミニウムとシリコンとの複合材料(Al-Si)、アルミニウムと炭素との複合材料(Al-C)、銅(Cu)、サファイア(Al2O3)、アルミナ、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ガラス、石英(SiO2)、炭化ケイ素(SiC)及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1つの材料で作られている。銅(Cu)を含む基板本体11は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)などの他の元素をさらに含んでいてもよい。基板本体11がステンレス鋼、アルミニウムと炭化ケイ素との複合材料(Al-SiC)、アルミニウムとシリコンとの複合材料(Al-Si)、アルミニウムと炭素との複合材料(Al-C)、及び銅(Cu)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むとき、基板本体11は、小さい熱膨張係数を有する。ステンレス鋼、アルミニウムと炭化ケイ素との複合材料(Al-SiC)、アルミニウムとシリコンとの複合材料(Al-Si)、アルミニウムと炭素との複合材料(Al-C)、及び銅(Cu)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む基板10は、プロジェクタの用途に適している。基板本体11は、例えば、励起光及び蛍光体22から放射された光を透過する透光性を有する。この場合、波長変換部材100は、透過型光学装置に好適に使用されうる。基板10が透光性を有していない場合、波長変換部材100は、反射型光学装置に使用されうる。基板本体11は、鏡面研磨された表面を有していてもよい。
【0016】
基板本体11の表面は、反射防止膜、ダイクロイックミラー、金属反射膜、増反射膜、保護膜などによって被覆されていてもよい。反射防止膜は、励起光の反射を防止するための膜である。ダイクロイックミラーは、誘電体多層膜によって構成されうる。金属反射膜は、光を反射させるための膜であり、銀、アルミニウムなどの金属材料で作られている。増反射膜は、誘電体多層膜によって構成されうる。保護膜は、これらの膜を物理的又は化学的に保護するための膜でありうる。
【0017】
薄膜12は、蛍光体部20を形成するための下地層として機能する。蛍光体部20のマトリクス21が結晶質であるとき、薄膜12は、マトリクス21の結晶成長過程における種結晶として機能する。つまり、薄膜12は、単結晶薄膜又は多結晶薄膜である。マトリクス21がZnO単結晶又はZnO多結晶によって構成されているとき、薄膜12は、ZnO単結晶薄膜又はZnO多結晶薄膜でありうる。薄膜12には、Zn以外の他の元素が添加されていてもよい。薄膜12にGa、Al、Bなどの元素が添加されているとき、薄膜12は、低い電気抵抗を有する。薄膜12は、アモルファスのZn化合物又はアモルファスのZnOを含んでいてもよい。薄膜12の厚さは、5nm以上2000nm以下であってもよく、5nm以上200nm以下であってもよい。薄膜12が薄ければ薄いほど、蛍光体部20と基板本体11との間の距離が短いため、優れた熱伝導性が得られる。ただし、基板本体11が種結晶の機能を発揮できる場合、薄膜12は省略されて蛍光体部20が基板本体11と直接当接していてもよい。例えば、基板本体11が結晶質のGaN又は結晶質のZnOによって構成されているとき、結晶質のZnOによって構成されたマトリクス21を基板本体11の上に直接形成することができる。マトリクス21が結晶質でないときにも、薄膜12は省略されて蛍光体部20が基板本体11と直接当接していてもよい。
【0018】
蛍光体部20において、蛍光体22の粒子122は、マトリクス21に分散されている。
図1において、蛍光体22の粒子122は、互いに離れている。ただし、蛍光体22の粒子122は、互いに接していてもよい。フィラー粒子23は、蛍光体22の2つの粒子122の間に位置していてもよく、蛍光体22の粒子122と基板10との間に位置していてもよい。フィラー粒子23は、例えば、蛍光体22の粒子122に接している。詳細には、フィラー粒子23は、蛍光体22の粒子122に接着している。本開示において、「接着(adhesion)」は、2つの物が互いにくっつき合っている状態を意味する。本開示において、「接着」は、「粘着」、「密着」、「付着」などを包含する用語として使用される。波長変換部材100は、例えば、(i)1つのフィラー粒子23が蛍光体22の2つの粒子122の双方と接着している、(ii)1つのフィラー粒子23が蛍光体22の粒子122及び基板10の双方と接着している、及び、(iii)1つのフィラー粒子23が蛍光体22の粒子122及びマトリクス21の双方と接着している、からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす。複数のフィラー粒子23は、互いに離れていてもよく、互いに接していてもよい。複数のフィラー粒子23が互いに接着していることによって、複数のフィラー粒子23が塊状の形状を有していてもよい。フィラー粒子23は、蛍光体22の粒子122に接着することによって、蛍光体22の粒子122の表面を部分的に被覆していてもよい。蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23は、石垣のように積まれていてもよい。
【0019】
蛍光体22の材料は、特に限定されない。種々の蛍光物質が蛍光体22の材料として使用されうる。具体的には、Y
3
Al
5
O
12
:Ce(YAG)、Y3(Al,Ga)5O12:Ce(GYAG)、Lu3Al5O12:Ce(LuAG)、(Si,Al)6(O,N)8:Eu(β-SiAlON)、(La,Y)3Si6N11:Ce(LYSN)、Lu2CaMg2Si3O12:Ce(LCMS)などの蛍光物質が使用されうる。蛍光体22は、蛍光物質以外の他の材料をさらに含んでいてもよい。他の材料としては、例えば、透光性を有する材料が挙げられる。透光性を有する材料としては、例えば、ガラス、SiO2、Al2O3などが挙げられる。蛍光体22は、互いに異なる組成を有する複数の種類の蛍光体を含んでいてもよい。蛍光体22の材料は、波長変換部材100から放射されるべき光の色度に応じて選択される。
【0020】
蛍光体22の粒子122の平均粒径は、例えば、0.1μm以上50μm以下の範囲にある。蛍光体22の粒子122の平均粒径は、10μmより大きくてもよい。蛍光体22の粒子122の平均粒径は、例えば、次の方法によって特定することができる。まず、波長変換部材100の断面を走査電子顕微鏡で観察する。得られた電子顕微鏡像において、特定の蛍光体22の粒子122の面積を画像処理によって算出する。算出された面積と同じ面積を有する円の直径をその特定の蛍光体22の粒子122の粒径(粒子の直径)とみなす。任意の個数(例えば50個)の蛍光体22の粒子122の粒径をそれぞれ算出し、算出値の平均値を蛍光体22の粒子122の平均粒径とみなす。本開示において、蛍光体22の粒子122の形状は限定されない。蛍光体22の粒子122の形状は、球状であってもよく、楕円体状であってもよく、鱗片状であってもよく、繊維状であってもよい。本開示において、平均粒径の測定方法は、上記の方法に限定されない。
【0021】
蛍光体部20において、フィラー粒子23は、マトリクス21に分散されている。フィラー粒子23は、樹脂材料を含む。フィラー粒子23は、樹脂材料を主成分として含んでいてもよい。「主成分」とは、フィラー粒子23に重量比で最も多く含まれた成分を意味する。フィラー粒子23は、例えば、実質的に樹脂材料からなる。「実質的に~からなる」は、言及された材料の本質的特徴を変更する他の成分を排除することを意味する。ただし、フィラー粒子23は、樹脂材料の他に不純物を含んでいてもよい。樹脂材料は、熱可塑性樹脂を含んでいてもよく、熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリスチレン(PS)、メタクリル樹脂及びポリカーボネート(PC)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。メタクリル樹脂は、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を含む。フィラー粒子23が熱可塑性樹脂を含むとき、波長変換部材100の強度が向上する。熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマーを含んでいてもよい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー及びアミド系エラストマーが挙げられる。エラストマー(elastomer)とは、ゴム弾性を有する材料を意味する。
【0022】
熱硬化性樹脂は、例えば、シリコーン樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。シリコーン樹脂は、例えば、シロキサン結合を有する高分子化合物である。シリコーン樹脂は、例えば、シロキサン結合を主骨格に有する。シリコーン樹脂としては、例えば、ジメチルポリシロキサン及びポリオルガノシルセスキオキサンなどが挙げられる。ポリオルガノシルセスキオキサンは、例えば、シロキサン結合によって三次元網目状に架橋した構造を有する。この構造は、例えば、一般式(RSiO3/2)nで表される。この一般式において、Rは、例えば、アルキル基である。
【0023】
熱硬化性樹脂は、熱硬化性エラストマーを含んでいてもよい。熱硬化性エラストマーとしては、例えば、ウレタンゴム、シリコーンゴム及びフッ素ゴムなどが挙げられる。シリコーンゴムは、ゴム弾性を有するシリコーン樹脂である。シリコーンゴムは、例えば、ジメチルポリシロキサンを架橋した構造を有する。
【0024】
シリコーン樹脂又はシリコーンゴムを含むフィラー粒子としては、例えば、信越化学工業社からKMPシリーズ、KSPシリーズ、X-52シリーズなどが市販されており、東レ・ダウコーニング社からEPシリーズ、TREFILシリーズ、30-424 Additiveなどが市販されている。樹脂材料がシロキサン結合を有する高分子化合物を含むとき、フィラー粒子23は、優れた耐熱性を有する。
【0025】
フィラー粒子23は、官能基で修飾された表面24を有していてもよい。このとき、フィラー粒子23は、優れた分散性を有する。すなわち、官能基で修飾された表面24によって、フィラー粒子23が凝集することを抑制できる。表面24を修飾している官能基としては、例えば、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メチル基などが挙げられる。
【0026】
フィラー粒子23の平均粒径は、0.1μm以上20μm以下であってもよく、1.0μm以上10μm以下であってもよい。フィラー粒子23の平均粒径は、例えば、蛍光体22の粒子122の平均粒径よりも小さい。蛍光体22の粒子122の平均粒径D1に対するフィラー粒子23の平均粒径D2の比率(D2/D1)は、例えば、0.01以上0.90以下である。フィラー粒子23の平均粒径は、蛍光体22の粒子122の平均粒径と同じ方法によって測定されうる。蛍光体22の粒子122の合計体積V1と、フィラー粒子23の合計体積V2とで定義されるV2/(V1+V2)の値は、0.01以上0.70以下であってもよく、0.05以上0.16以下であってもよい。フィラー粒子23の比重は、例えば、0.5g/cm3以上1.5g/cm3以下である。蛍光体22の粒子122の合計体積V1は蛍光体22の全体の体積である。
【0027】
本開示において、フィラー粒子23の形状は特に限定されない。フィラー粒子23の形状は、球状であってもよく、楕円体状であってもよく、鱗片状であってもよく、繊維状であってもよい。
図2は、フィラー粒子23の断面の一例を示している。
図2に示すように、フィラー粒子23は、コア30とコア30を被覆しているシェル31とを有していてもよい。シェル31は、コア30の表面全体を被覆していてもよく、コア30の表面を部分的に被覆していてもよい。シェル31は、例えば、コア30に接している。コア30の組成は、例えば、シェル31の組成と異なる。一例として、コア30がシリコーンゴムでできており、シェル31がシリコーンゴム以外の他のシリコーン樹脂でできている。コア30の形状は、例えば、球状である。
図2では、シェル31は、複数の粒子によって構成されている。ただし、シェル31の形状は、層状であってもよい。シェル31を構成する粒子の平均粒径は、例えば、1nm以上1μm以下である。フィラー粒子23がシェル31を有しているとき、フィラー粒子23は、優れた分散性を有する。すなわち、シェル31によって、フィラー粒子23が凝集することを抑制できる。
【0028】
樹脂材料が熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーを含むとき、フィラー粒子23は、ゴム弾性を有する。フィラー粒子23のゴム硬度は、10以上90以下であってもよく、30以上75以下であってもよい。フィラー粒子23のゴム硬度は、例えば、JIS(日本工業規格) K6253-3:2012に準拠した方法によって、次のように測定することができる。まず、フィラー粒子23と同じ組成を有する試験片を準備する。試験片の形状は、JIS K6253-3:2012に規定されている。例えば、JIS K6253-3:2012に規定されたタイプAデュロメータを用いた方法によって、試験片のゴム硬度を測定する。得られた試験片のゴム硬度をフィラー粒子23のゴム硬度とみなすことができる。ただし、本開示において、ゴム硬度の測定方法は、上記の方法に限定されない。
【0029】
フィラー粒子23のガラス転移温度Tgは、特に限定されない。フィラー粒子23が熱可塑性樹脂を含むとき、フィラー粒子23のガラス転移温度Tgは、例えば、50℃以上300℃以下であってもよい。フィラー粒子23が熱硬化性エラストマーを含むとき、フィラー粒子23のガラス転移温度Tgは、30℃以下であってもよく、0℃以下であってもよい。一例として、シリコーンゴムのガラス転移温度Tgは、-125℃である。フィラー粒子23のガラス転移温度Tgの下限値は、例えば、-273℃である。フィラー粒子23のガラス転移温度Tgが室温よりも低いとき、フィラー粒子23は、室温で優れた接着性を有する。本開示において、室温は、25℃以上30℃以下を意味する。フィラー粒子23のガラス転移温度Tgは、例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて、JIS K7121:1987に準拠した方法によって測定できる。シリコーンゴムなどを含み、かつ0℃以下のガラス転移温度Tgを有するフィラー粒子23に関して、フィラー粒子23の具体的なガラス転移温度Tgを特定する場合には、0℃以下の温度でもガラス転移温度Tgを測定することができるDSCを用いる。ただし、本開示において、ガラス転移温度Tgの測定方法は、上記の方法に限定されない。
【0030】
フィラー粒子23に励起光が照射されたとき、フィラー粒子23は、蛍光の光を放射しないか、無視できる強度の蛍光の光のみを放射する。フィラー粒子23の光の吸収率は、特に限定されない。550nmの波長の光に対するフィラー粒子23の吸収率は、好ましくは25%以下であり、よりこのましくは10%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。フィラー粒子23は、550nmの波長の光を実質的に吸収しなくてもよい。450nmの波長の光に対するフィラー粒子23の吸収率は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。フィラー粒子23は、450nmの波長の光を実質的に吸収しなくてもよい。
【0031】
フィラー粒子23の光の吸収率は、例えば、市販の絶対PL量子収率測定装置を用いて測定することができる。絶対PL量子収率測定装置は、フォトルミネッセンス(PL)法により、発光ダイオード(LED)用蛍光材料などのサンプルの発光量子収率の絶対値を測定する装置である。サンプルの発光量子収率は、計測用のサンプルホルダ及び粉体計測用のシャーレを用いて、次の方法によって測定できる。まず、シャーレの内部にサンプルを配置する。次に、このシャーレを積分球の内部に配置する。キセノン光源から分光され、特定の波長を有する励起光をサンプルに照射する。このとき、サンプルから放射された光について測定することによって、サンプルの発光量子収率を測定できる。フィラー粒子23の光の吸収率は、例えば、次の方法によって測定できる。まず、サンプルが配置されていない空のシャーレを積分球の内部に配置する。空のシャーレについて発光量子収率の測定を行う。これにより、サンプルが配置されていない状態での励起光の光子数を測定できる。次に、サンプルとしてフィラー粒子23が配置されたシャーレを積分球の内部に配置する。フィラー粒子23について発光量子収率の測定を行う。これにより、フィラー粒子23が配置された状態での励起光の光子数を測定できる。これらの測定結果から、フィラー粒子23に照射された励起光の光子数に対する、フィラー粒子23に吸収された光子数の比率を算出できる。この比率をフィラー粒子23の光の吸収率とみなすことができる。シャーレは、例えば、測定波長範囲での光の吸収が少ない合成石英でできている。シャーレの底面は、例えば、平面視で円の形状を有している。平面視でのシャーレの底面の直径は、例えば、約17mmである。シャーレの厚さは、例えば、約5mmである。シャーレは、例えば、蓋を備えている。
【0032】
フィラー粒子23が周囲温度200℃で24時間加熱された場合において、550nmの波長の光に対するフィラー粒子23の吸収率は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。フィラー粒子23が周囲温度240℃で24時間加熱された場合において、550nmの波長の光に対するフィラー粒子23の吸収率は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
【0033】
マトリクス21は、無機材料を含む。無機材料は、無機結晶を含んでいてもよい。無機材料は、例えば、ZnO、SiO2、Al2O3、SnO2、TiO2、PbO、B2O3、P2O5、TeO2、V2O5、Bi2O3、Ag2O、Tl2O及びBaOからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。マトリクス21は、無機材料としてガラスを含んでいてもよい。
【0034】
マトリクス21は、例えば、酸化亜鉛(ZnO)を含む。ZnOは、透明性及び熱伝導性の観点から、マトリクス21の材料に適している。ZnOは、高い熱伝導性を有する。そのため、ZnOがマトリクス21の材料として使用されているとき、蛍光体部20の熱を外部(主に基板10)に容易に逃がすことができる。これにより、蛍光体22の温度の上昇を抑制することができる。マトリクス21は、ZnOを主成分として含んでいてもよい。マトリクス21は、例えば、実質的にZnOからなる。ただし、マトリクス21は、ZnOの他に不純物を含んでいてもよい。
【0035】
マトリクス21の材料としてのZnOは、詳細には、ZnOの単結晶又はZnOの多結晶である。ZnOは、ウルツ鉱型の結晶構造を有する。結晶成長によってマトリクス21を形成したとき、マトリクス21は、例えば、薄膜12の結晶構造に応じた結晶構造を有する。すなわち、薄膜12として、c軸に配向したZnOの多結晶を用いたとき、マトリクス21は、c軸に配向したZnOの多結晶を有する。「c軸に配向したZnO」とは、基板10の主面に平行な面がc面であることを意味する。「主面」とは、基板10の最も広い面積を有する面を意味する。マトリクス21がc軸に配向したZnO多結晶を含むとき、蛍光体部20の内部において光散乱が抑制され、高い光出力を達成できる。
【0036】
c軸に配向したZnO多結晶は、c軸に配向した複数の柱状の結晶粒を含む。c軸に配向したZnO多結晶において、c軸方向の結晶粒界が少ない。「柱状の結晶粒がc軸に配向している」とは、c軸方向のZnOの成長がa軸方向のZnOの成長よりも速く、基板10の上に縦長のZnO結晶粒が形成されていることを意味する。ZnO結晶粒のc軸は、基板10の法線方向に平行である。言い換えると、ZnO結晶粒のc軸は、蛍光体部20の励起光を受光する表面の法線方向に平行である。ZnOがc軸配向の結晶であるかどうかは、X線回折(XRD)測定(2θ/ωスキャン)によって確認できる。XRD測定結果から得られたZnOの回折ピークにおいて、ZnOのc面に起因する回折ピークが、ZnOのc面以外に起因する回折ピークよりも大きい強度を有する場合、ZnOがc軸配向の結晶であると判断できる。国際公開第2013/172025号は、c軸に配向したZnO多結晶によって構成されたマトリクスを詳しく開示している。
【0037】
波長変換部材100の発光効率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。本開示において、波長変換部材100の発光効率とは、波長変換部材100に照射された励起光のうち、波長変換部材100に吸収された励起光の光子数に対する、波長変換部材100から放射された蛍光の光の光子数の比率を意味する。波長変換部材100の発光効率は、例えば、マルチチャンネル分光器によって測定できる。波長変換部材100の発光効率は、例えば、2W/mm2のエネルギー密度を有する励起光を波長変換部材100に照射したときの値である。
【0038】
さらに、波長変換部材100が周囲温度240℃で24時間加熱された場合において、波長変換部材100の発光効率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。
【0039】
次に、波長変換部材100の製造方法を説明する。
【0040】
まず、基板10を作製する方法について説明する。
図3Aは、波長変換部材100の製造方法に用いられる基板10の断面を示している。例えば、基板本体11の上に薄膜12として結晶性のZnO薄膜を形成する。ZnO薄膜を形成する方法としては、蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性プラズマ蒸着法、イオンアシスト蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザ堆積法などの気相成膜法が用いられる。薄膜12は、次の方法によって形成してもよい。まず、亜鉛アルコキシドなどの前駆体を含むゾルを調製する。印刷法によって、ゾルを基板本体11に塗布し、塗膜を形成する。次に、塗膜を加熱処理することによって薄膜12が得られる。薄膜12は、ZnO単結晶薄膜又はZnO多結晶薄膜でありうる。
【0041】
次に、基板10の上(薄膜12の上)に蛍光体部20の前駆体25を作製する方法について説明する。
図3Bは、
図3Aに示す基板の上に、蛍光体部20の前駆体25が形成された状態を示す図である。まず、基板10の上に蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23を配置する。例えば、蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23を含む分散液を調製する。基板10を分散液中に配置し、電気泳動法を用いて蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23を基板10の上に堆積させる。これにより、基板10の上に蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23を配置することができる。もしくは、基板10を分散液中に配置し、蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23を沈降させることによって基板10の上に蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23を配置することもできる。もしくは、蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23を含む塗布液を用い、印刷法などの厚膜形成方法によって蛍光体22の粒子122及びフィラー粒子23を基板10の上に配置することもできる。
【0042】
次に、フィラー粒子23によって蛍光体22の粒子122を基板10に固定する。例えば、フィラー粒子23を加熱すると、フィラー粒子23に含まれる樹脂が軟化する。これにより、フィラー粒子23が蛍光体22の粒子122及び基板10の双方に接着し、蛍光体22の粒子122を基板10に固定することができる。フィラー粒子23がゴム弾性を有するとき、フィラー粒子23と蛍光体22の粒子との接触面積が広い。このとき、フィラー粒子23は、蛍光体22の粒子122を強固に固定できる。フィラー粒子23は、基板10に直接接着せずに、基板10に固定された蛍光体22の粒子122、及び、他の蛍光体22の粒子122の双方と接着していてもよい。フィラー粒子23が室温で接着性を有するとき、フィラー粒子23の加熱処理は省略されてもよい。フィラー粒子23によって蛍光体22の粒子122を基板10に固定することによって、前駆体25が得られる。前駆体25は、フィラー粒子23及び蛍光体22の粒子122で構成された多孔質構造を有している。言いかえると、前駆体25に対向している薄膜12の表面は、フィラー粒子23で被覆されている領域と、フィラー粒子23で被覆されていない領域との双方を有する。
【0043】
フィラー粒子23を加熱する条件は、特に限定されない。フィラー粒子23を加熱するときの周囲温度は、50℃以上400℃以下であってもよく、100℃以上300℃以下であってもよい。フィラー粒子23の加熱時間は、5分以上5時間以下であってもよい。
【0044】
次に、フィラー粒子23及び蛍光体22の粒子122のそれぞれがマトリクス21に埋め込まれるように、マトリクス21を形成する。これにより、蛍光体部20を作製できる。マトリクス21がガラスを含む場合、次の方法によって、蛍光体部20を作製できる。まず、シリコンアルコキシドを含むゾルを調製する。ゾルを前駆体25の上に塗布する。これにより、前駆体25の多孔質構造にゾルを充填することができる。ゾルをゲル化させ、焼成する。これにより、蛍光体部20が得られる。マトリクス21がガラス以外の他の無機材料を含む場合も、上記の方法と同様に、アルコキシドを含むゾルを用いて、蛍光体部20を形成することができる。さらに、無機材料を含む低融点のガラスを前駆体25の内部に充填することによって、蛍光体部20を形成することもできる。
【0045】
マトリクス21が酸化亜鉛を含む場合、マトリクス21を形成する方法としては、Znイオンを含有する溶液を使用した溶液成長法を利用できる。溶液成長法には、大気圧下で行われる化学溶液析出法(chemical bath deposition)、大気圧以上の圧力下で行う水熱合成法(hydrothermal synthesis)、電圧又は電流を印加する電解析出法(electrochemical deposition)などが用いられる。結晶成長用の溶液として、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(Hexamethylenetetramine:C6H12N4)を含有する硝酸亜鉛(Zinc nitrate:Zn(NO3)2)の水溶液が用いられる。硝酸亜鉛の水溶液のpHは、例えば、5以上7以下である。溶液成長法によって、マトリクス21が薄膜12の上に結晶成長する。マトリクス21は、前駆体25の多孔質構造の内部においても結晶成長する。これによって、蛍光体部20が得られる。溶液成長法の詳細は、例えば、特開2004-315342号公報に開示されている。
【0046】
本実施形態の製造方法は、マトリクス21を形成した後に、波長変換部材100から基板10を除去することをさらに含んでいてもよい。例えば、基板本体11を加熱することによって、基板本体11と薄膜12とを分離してもよい。これにより、波長変換部材100から基板10を除去することができる。レーザー光を基板本体11と薄膜12との界面に集光させることによって、基板本体11と波長変換部材100とを分離してもよい。
【0047】
前駆体25において、蛍光体22の粒子122は、フィラー粒子23によって基板10に固定されている。そのため、マトリクス21が形成されるまでに、蛍光体22の粒子122が基板10から脱落することを抑制できる。すなわち、本実施形態の波長変換部材100において、蛍光体22の粒子122の脱落が抑制されている。これにより、波長変換部材100の歩留まりを向上することができる。蛍光体22の粒子122の脱落が抑制されているため、波長変換部材100の蛍光体部20は、実用上十分な量の蛍光体22の粒子122を含んでいる。
【0048】
(実施形態2)
図4は、実施形態2にかかる波長変換部材110の概略断面図である。
図4に示すように、波長変換部材110の蛍光体22は、ブロック222の形状を有している。蛍光体部20に含まれた複数の蛍光体22のうち、一部の蛍光体22が蛍光体部20から部分的に露出している。以上を除き、波長変換部材110の構造は、実施形態1の波長変換部材100の構造と同じである。したがって、実施形態1の波長変換部材100と本実施形態の波長変換部材110とで共通する要素には同じ参照符号を付し、それらの説明を省略することがある。すなわち、以下の各実施形態に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、相互に適用されうる。さらに、技術的に矛盾しない限り、各実施形態は、相互に組み合わされてもよい。
【0049】
蛍光体22のブロック222は、例えば、多面体の形状を有する。蛍光体22の形状は、直方体状であってもよく、立方体状であってもよい。蛍光体22の形状は、塊状であってもよい。ブロック状の蛍光体22のブロック222は、例えば、板状の蛍光体を破砕することによって作製することができる。蛍光体22のブロック222のサイズは、蛍光体の粒子122のサイズより大きくてもよい。
【0050】
波長変換部材110において、複数の蛍光体22のうち、一部の蛍光体22は、蛍光体部20の側面から部分的に露出している。蛍光体22は、蛍光体部20の上面から露出していてもよい。すなわち、蛍光体22は、マトリクス21に部分的に埋め込まれてもよく、完全には埋め込まれていなくてもよい。
【0051】
(実施形態3)
実施形態2の波長変換部材110において、複数の蛍光体22は、規則的に並んでいてもよい。
図5は、実施形態3にかかる波長変換部材120の概略断面図である。
図5に示すように、波長変換部材120では、複数の蛍光体22は、蛍光体部20の厚さ方向と直交する方向に等間隔で並んでいる。蛍光体22の上面及び下面は、蛍光体部20の厚さ方向と直交する方向に延びていてもよい。蛍光体22の上面及び下面は、互いに平行であってもよい。蛍光体22の側面は、蛍光体部20の厚さ方向に延びていてもよい。蛍光体22の側面は、互いに平行であってもよい。
【0052】
フィラー粒子23は、例えば、蛍光体22の下面及び基板10の双方と接着している。フィラー粒子23は、蛍光体22の側面及び他の蛍光体22の側面の双方と接着していてもよい。
【0053】
波長変換部材120において、複数の蛍光体22のうち、一部の蛍光体22は、蛍光体部20から露出していてもよい。蛍光体22は、蛍光体部20の上面から露出していてもよい。すなわち、蛍光体22は、マトリクス21に部分的に埋め込まれてよく、完全には埋め込まれていなくてもよい。
【0054】
(実施形態4)
図6は、実施形態4にかかる波長変換部材130の概略断面図である。
図6に示すように、波長変換部材130の蛍光体部20は、1つの蛍光体22を有している。蛍光体22の形状は、例えば、板状である。板状の蛍光体22のサイズは、蛍光体の粒子122のサイズより大きくてもよい。以上を除き、波長変換部材130の構造は、実施形態1にかかる波長変換部材100の構造と同じである。
【0055】
蛍光体22は、複数の孔22aを有していてもよい。複数の孔22aは、例えば、蛍光体22を厚さ方向に貫通する貫通孔である。複数の孔22aのそれぞれには、例えば、マトリクス21が充填されている。
図6では、説明のため、マトリクス21のハッチングが省略されている。
【0056】
複数の孔22aは、例えば、板状の蛍光体22に対して、レーザー光又はイオンビームを照射することによって形成することができる。複数の孔22aは、例えば、板状の蛍光体22をエッチングすることによって形成することもできる。
【0057】
フィラー粒子23は、例えば、蛍光体22の下面及び基板10の双方と接着している。蛍光体部20は、複数の板状の蛍光体22を含んでいてもよい。蛍光体部20において、複数の板状の蛍光体22が蛍光体部20の厚さ方向に並んでいてもよい。このとき、フィラー粒子23は、蛍光体22の上面及び他の蛍光体22の下面のそれぞれと接着していてもよい。
【0058】
波長変換部材130において、板状の蛍光体22の上面は、蛍光体部20から露出していてもよい。板状の蛍光体22の側面が蛍光体部20から露出していてもよい。すなわち、板状の蛍光体22は、マトリクス21に部分的に埋め込まれてもよく、完全には埋め込まれていなくてもよい。
【0059】
(実施形態5)
実施形態4にかかる波長変換部材130において、複数の孔22aは、貫通孔でなくてもよい。
図7は、実施形態5にかかる波長変換部材140の概略断面図である。
図7に示すように、波長変換部材140において、複数の孔22aのそれぞれは、蛍光体22の下面のみに開口しており、上面には開口していない。複数の孔22aは、蛍光体22の上面のみに開口し、下面に開口してい
なくてもよい。
【0060】
波長変換部材140において、板状の蛍光体22の上面は、蛍光体部20から露出していてもよい。板状の蛍光体22の側面が蛍光体部20から露出していてもよい。すなわち、板状の蛍光体22は、マトリクス21に部分的に埋め込まれてもよく、完全には埋め込まれていなくてもよい。
【0061】
(光学装置の実施形態)
図8は、実施形態にかかる光学装置200の概略断面図である。
図8に示すように、光学装置200は、波長変換部材100及び励起光源40を備えている。励起光源40は、励起光を放射する。波長変換部材100は、励起光源40から放射された励起光が進む光路上に配置されている。励起光源40と波長変換部材100の基板10との間に波長変換部材100の蛍光体部20が位置している。光学装置200は、反射型光学装置である。波長変換部材100に代えて、
図4を参照して説明した波長変換部材110、
図5を参照して説明した波長変換部材120、
図6を参照して説明した波長変換部材130及び
図7を参照して説明した波長変換部材140も使用可能である。波長変換部材100、110、120、130、140の組み合わせを光学装置200に使用することも可能である。
【0062】
励起光源40は、典型的には、半導体発光素子である。半導体発光素子は、例えば、発光ダイオード(LED)、スーパールミネッセントダイオード(SLD)又はレーザーダイオード(LD)である。
【0063】
励起光源40は、1つのLDによって構成されていてもよく、複数のLDによって構成されていてもよい。複数のLDは、光学的に結合されていてもよい。励起光源40は、例えば、青色光を放射する。本開示において、青色光は、420nm以上470nm以下のピーク波長を有する光である。
【0064】
光学装置200は、光学系50をさらに備えている。励起光源40から放射された励起光の光路上に光学系50が位置していてもよい。光学系50は、レンズ、ミラー、光ファイバーなどの光学部品を含む。
【0065】
(光学装置の変形例)
蛍光体部20は、励起光源40と波長変換部材100の基板10との間に位置していなくてもよい。
図9は、変形例にかかる光学装置210の概略断面図である。
図9の光学装置210において、励起光源40は、波長変換部材100の基板10に向かい合っている。光学装置210において、基板10は、励起光に対して透光性を有する。励起光は、基板10を透過して蛍光体部20に到達する。光学装置210は、透過型光学装置である。
【0066】
図10は、別の変形例にかかる光学装置220の概略断面図である。
図10に示すように、
本変形例の光学装置220は、複数の励起光源40及び波長変換部材100を備えている。
図10では、波長変換部材100の蛍光体部20は、複数の励起光源40のそれぞれと波長変換部材100の基板10との間に位置している。複数の励起光源40は、波長変換部材100の蛍光体部20に向かい合っている。光学装置220は、プロジェクタの用途に適している。
【0067】
図11は、光学装置220が備える波長変換部材100の斜視図である。
図11に示すように、光学装置220の波長変換部材100は、ホイールの形状を有する。詳細には、光学装置220の波長変換部材100の基板10は、円板の形状を有する。基板10は、貫通孔13及び透光部14を有する。貫通孔13は、基板10の厚さ方向に延びている。貫通孔13は、例えば、基板10の外周面によって規定された仮想円の中心に位置する。光を透過する透光部14は、円弧の形状すなわち円環扇形状を有する。透光部14は、蛍光体部20に接していてもよい。透光部14は、例えば、貫通孔である。透光部14は、透明樹脂又はガラスでできていてもよい。透光部14は、サファイア、石英などの透光性を有する材料でできていてもよい。
【0068】
蛍光体部20は、円弧の形状すなわち円環扇形状を有している。蛍光体部20の外周面によって規定された仮想円に沿って、蛍光体部20と透光部14とが並んでいる。蛍光体部20は、基板10の主面を部分的に被覆している。光学装置220において、波長変換部材100は、複数の蛍光体部20を含んでいてもよい。特定の蛍光体部20の外周面によって規定された仮想円に沿って、複数の蛍光体部20が並んでいてもよい。複数の蛍光体部20に含まれる蛍光体22は、それぞれ、互いに異なる組成を有していてもよい。
【0069】
図10に示すように、光学装置220は、モーター60をさらに備える。波長変換部材100は、モーター60に配置されている。詳細には、モーター60のシャフトが基板10の貫通孔13に挿入されている。波長変換部材100は、例えば、ネジなどの固定部材によって、モーター60に固定されている。モーター60によって波長変換部材100が回転させられ、複数の励起光源40から放射された励起光が波長変換部材100に照射される。これにより、励起光が蛍光体部20に局所的に照射されることを防ぐことができる。そのため、励起光及び蛍光の光によって、蛍光体部20の温度が上昇することを抑制できる。
【0070】
光学装置220は、コリメートレンズ51、ダイクロイックミラー52、レンズ53及び54、並びに、反射ミラー55、56、57をさらに備える。コリメートレンズ51、ダイクロイックミラー52及びレンズ53は、複数の励起光源40のそれぞれと波長変換部材100との間に位置する。コリメートレンズ51、ダイクロイックミラー52及びレンズ53は、複数の励起光源40から放射された励起光が進む光路上にこの順番で並んでいる。レンズ54、反射ミラー55,56、57とダイクロイックミラー52は、波長変換部材100を透過した励起光が進む光路上に、この順番で並んでいる。
【0071】
コリメートレンズ51は、複数の励起光源40から放射された励起光を集光する。コリメートレンズ51により、平行光が得られる。ダイクロイックミラー52は、励起光を透過し、かつ、波長変換部材100から放射された光を効率的に反射できる。レンズ53は、励起光及び波長変換部材100から放射された光を集光する。レンズ54は、波長変換部材100を透過した励起光を集光する。レンズ54により、平行光が得られる。反射ミラー55,56、57のそれぞれは、励起光を反射する。
【0072】
光学装置220は、ヒートシンク41をさらに備える。ヒートシンク41は、複数の励起光源40に接している。ヒートシンク41により、複数の励起光源40の熱を外部に容易に逃がすことができる。これにより、複数の励起光源40の温度が上昇することを抑制できるため、複数の励起光源40におけるエネルギーの変換効率の低下を抑制できる。
【0073】
次に、光学装置220の動作を説明する。
【0074】
まず、複数の励起光源40が励起光を放射する。励起光は、コリメートレンズ51によって集光され、平行光に変換される。次に、励起光は、ダイクロイックミラー52を透過し、レンズ53によってさらに集光される。レンズ53により、蛍光体部20に入射するべき励起光のスポット径を調節できる。次に、励起光が波長変換部材100に入射する。波長変換部材100は、モーター60によって回転されている。そのため、光学装置220の動作には、励起光が蛍光体部20に入射する期間と、励起光が透光部14を透過する期間とが存在する。励起光が蛍光体部20に入射する期間には、波長変換部材100は、励起光の波長よりも長い波長の光を放射する。励起光が透光部14を透過する期間には、励起光がレンズ54に入射する。波長変換部材100から放射された光は、レンズ53によって集光され、平行光に変換される。波長変換部材100から放射された光は、ダイクロイックミラー52によって反射され、光学装置220の外部へ送られる。
【0075】
励起光が透光部14を透過するとき、励起光は、レンズ54によって集光され、平行光に変換される。レンズ54を通過した励起光は、反射ミラー55,56、57によって反射される。次に、励起光は、ダイクロイックミラー52を透過する。これにより、励起光は、光学装置220の外部へ送られる。このとき、励起光は、波長変換部材100から放射された光と混ざる。
【0076】
(プロジェクタの実施形態)
図12は、本実施形態にかかるプロジェクタ500の概略構成図である。
図12に示すように、プロジェクタ500は、光学装置220、光学ユニット300及び制御部400を備える。光学ユニット300は、光学装置220から放射された光を変換し、プロジェクタ500の外部の対象物に画像又は映像を投射する。対象物としては、例えば、スクリーンが挙げられる。光学ユニット300は、集光レンズ70、ロッドインテグレータ71、レンズユニット72、表示素子73及び投射レンズ74を備える。
【0077】
集光レンズ70は、光学装置220から放射された光を集光させる。これにより、光学装置220から放射された光は、ロッドインテグレータ71の入射端面に集光する。
【0078】
ロッドインテグレータ71は、例えば、四角柱の形状を有する。ロッドインテグレータ71の入射端面に入射した光は、ロッドインテグレータ71内で全反射を繰り返し、ロッドインテグレータ71の出射端面から出射される。ロッドインテグレータ71から出射した光は、均一な輝度分布を有する。
【0079】
レンズユニット72は、複数のレンズを有する。レンズユニット72が有する複数のレンズとしては、例えば、コンデンサレンズ及びリレーレンズが挙げられる。レンズユニット72は、ロッドインテグレータ71から出射した光を表示素子73に導く。
【0080】
表示素子73は、レンズユニット72を通過した光を変換する。これにより、プロジェクタ500の外部の対象物に投射されるべき画像又は映像が得られる。表示素子73は、例えば、デジタルミラーデバイス(DMD)である。
【0081】
投射レンズ74は、表示素子73によって変換された光をプロジェクタ500の外部に投射する。これにより、表示素子73によって変換された光を対象物に投射することができる。投射レンズ74は、1又は2以上のレンズを有する。投射レンズ74が有するレンズとしては、例えば、両凸レンズ及び平凹レンズが挙げられる。
【0082】
制御部400は、光学装置220及び光学ユニット300の各部を制御する。制御部400は、例えば、マイクロコンピュータ又はプロセッサである。
【0083】
図13は、プロジェクタ500の斜視図である。
図13に示すように、プロジェクタ500は、筐体510をさらに備える。筐体510は、光学装置220、光学ユニット300及び制御部400を収容している。光学ユニット300の投射レンズ74の一部は、筐体510の外部に露出している。
【0084】
(照明装置の実施形態)
図14は、本実施形態にかかる照明装置600の概略構成図である。
図14に示すように、照明装置600は、光学装置200及び光学部品80を備えている。光学装置200に代えて、
図9を参照して説明した光学装置210も使用可能である。光学部品80は、光学装置200から放射された光を前方に導くための部品であり、具体的には、リフレクタである。光学部品80は、例えば、Al、Agなどの金属膜又は表面に誘電体層が形成されたAl膜を有する。光学装置200の前方には、フィルタ81が設けられていてもよい。フィルタ81は、光学装置200の励起光源からのコヒーレントな青色光が直接外部に出ないように、青色光を吸収又は散乱させる。照明装置600は、いわゆるリフレクタータイプであってもよく、プロジェクタータイプであってもよい。照明装置600は、例えば、車両用ヘッドランプである。
【実施例】
【0085】
本開示を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0086】
[フィラー粒子]
(サンプル1~5)
サンプル1~5のフィラー粒子を準備した。サンプル1のフィラー粒子は、アルミナでできていた。サンプル2のフィラー粒子は、ポリスチレンでできていた。サンプル3のフィラー粒子は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)でできていた。サンプル4のフィラー粒子は、シリコーンゴムでできたコア、及び、シリコーンゴム以外の他のシリコーン樹脂でできたシェルで構成されたシリコーン複合粒子であった。サンプル5のフィラー粒子は、シリコーンゴムでできていた。
【0087】
[フィラー粒子の接着性]
サンプル1~5のフィラー粒子のそれぞれについて、接着性試験を行った。接着性試験は、サンプルごとに、シャーレに複数のフィラー粒子を配置し、シャーレを加熱することによって行った。加熱は、乾燥器を用いて行った。複数のフィラー粒子の加熱は、周囲温度200℃で24時間行った。接着性試験の結果を表1に示す。複数のフィラー粒子を加熱した後に、複数のフィラー粒子が互いに接着し、塊状になった場合、接着性が良好(「G」で示す)であると評価した。複数のフィラー粒子が互いに接着していない場合、接着性が不良(「NG」で示す)であると評価した。複数のフィラー粒子の加熱は、周囲温度240℃で24時間の条件でも行った。
【0088】
【0089】
表1からわかるとおり、樹脂材料を含むサンプル2~5のフィラー粒子は、接着性を有していた。
【0090】
[フィラー粒子の光の吸収率]
サンプル1~5のフィラー粒子のそれぞれについて、450nmの波長の光に対する吸収率、及び、550nmの波長の光に対する吸収率を測定した。吸収率の測定には、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製のC9920-02G)を用いた。吸収率の測定には、合成石英でできたシャーレを用いた。シャーレの底面は、平面視で円形状を有していた。平面視でのシャーレの底面の直径は、約17mmであった。シャーレの厚さは、約5mmであった。シャーレは、蓋を備えていた。測定の結果を表2に示す。
【0091】
表2において、550nmの波長の光に対する吸収率が10%以下であるフィラー粒子については、耐熱性が良好(「G」でしめす)であると評価した。550nmの波長の光に対する吸収率が10%より大きく、25%以下であるフィラー粒子については、耐熱性がやや良好(「F」で示す)であると評価した。550nmの波長の光に対する吸収率が25%よりも大きいフィラー粒子については、耐熱性が不良(「NG」で示す)であると評価した。
【0092】
[フィラー粒子の200℃での耐熱性]
サンプル1~5のフィラー粒子のそれぞれを周囲温度200℃で24時間加熱した。加熱した後のフィラー粒子について、上記と同様の方法で、450nmの波長の光に対する吸収率、及び、550nmの波長の光に対する吸収率を測定した。測定の結果を表2に示す。
【0093】
表2において、550nmの波長の光に対する吸収率が10%以下であるフィラー粒子については、200℃での耐熱性が良好(「G」で示す)であると評価した。550nmの波長の光に対する吸収率が10%より大きく、25%以下であるフィラー粒子については、200℃での耐熱性がやや良好(「F」で示す)であると評価した。550nmの波長の光に対する吸収率が25%よりも大きいフィラー粒子については、200℃での耐熱性が不良(「NG」で示す)であると評価した。
【0094】
[フィラー粒子の240℃での耐熱性]
サンプル1~5のフィラー粒子のそれぞれを周囲温度240℃で24時間加熱した。加熱した後のフィラー粒子について、上記と同様の方法で、450nmの波長の光に対する吸収率、及び、550nmの波長の光に対する吸収率を測定した。測定の結果を表2に示す。
【0095】
表2において、550nmの波長の光に対する吸収率が10%以下であるフィラー粒子については、240℃での耐熱性が良好(「G」で示す)であると評価した。550nmの波長の光に対する吸収率が10%より大きく、25%以下であるフィラー粒子については、240℃での耐熱性がやや良好(「F」で示す)であると評価した。550nmの波長の光に対する吸収率が25%よりも大きいフィラー粒子については、240℃での耐熱性が不良(「NG」で示す)であると評価した。
【0096】
【0097】
表2からわかるとおり、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂を含むサンプル4、5のフィラー粒子は、優れた接着性だけでなく、優れた耐熱性を有していた。
【0098】
[蛍光体部の前駆体]
(比較例1)
次の方法によって、比較例1の蛍光体部の前駆体を作製した。まず、基板本体の上に、結晶性のZnO薄膜を形成した。基板本体としては、反射層を備えたシリコン基板を用いた。基板本体は、平面視で正方形の形状を有していた。平面視での基板本体の一辺の長さは、5mmであった。ZnO薄膜の上に、蛍光体の粒子を配置した。次に、蛍光体の粒子に対して、加熱処理を行った。加熱処理は、周囲温度200℃で10分行った後、周囲温度250℃で30分行った。これにより、基板の上に形成された比較例1の蛍光体部の前駆体を得た。蛍光体は、Y3Al5O12:Ce(YAG)でできていた。蛍光体の粒子の平均粒径は、16μmであった。前駆体の厚さは、80μmであった。前駆体は、平面視で円の形状を有していた。平面視での前駆体の直径は、3mmであった。
【0099】
(比較例2)
蛍光体の粒子とともに、サンプル1のフィラー粒子をZnO薄膜の上に配置したことを除き、比較例1と同じ方法によって比較例2の蛍光体部の前駆体を得た。比較例2の蛍光体部の前駆体において、蛍光体の粒子の合計体積V1(蛍光体の全体の体積)とフィラー粒子の合計体積V2で定義されるV2/(V1+V2)の値は、0.05であった。
【0100】
(実施例1)
サンプル1のフィラー粒子をサンプル2のフィラー粒子に変更したことを除き、比較例2と同じ方法によって実施例1の蛍光体部の前駆体を得た。
【0101】
(実施例2)
サンプル1のフィラー粒子をサンプル3のフィラー粒子に変更したことを除き、比較例2と同じ方法によって実施例2の蛍光体部の前駆体を得た。
【0102】
(実施例3)
サンプル1のフィラー粒子をサンプル4のフィラー粒子に変更したこと、及び、V2/(V1+V2)の値を0.16に調節したことを除き、比較例2と同じ方法によって実施例3の蛍光体部の前駆体を得た。
【0103】
(実施例4)
サンプル1のフィラー粒子をサンプル5のフィラー粒子に変更したことを除き、比較例2と同じ方法によって実施例4の蛍光体部の前駆体を得た。
【0104】
(実施例5)
V2/(V1+V2)の値を0.16に調節したことを除き、実施例4と同じ方法によって実施例5の蛍光体部の前駆体を得た。
【0105】
[蛍光体部の前駆体の振動試験]
比較例1、2及び実施例1~5の蛍光体部の前駆体のそれぞれについて、振動試験を行った。まず、蛍光体部の前駆体を基板とともに、チップケース(大日商事社製のCT100-066)にセットした。チップケースは、平面視で正方形の形状のポケットを有していた。平面視でのポケットの一辺の長さは、6.6mmであった。ポケットの深さは、2.54mmであった。次に、チップケースを振動試験機にセットした。振動試験機によってチップケースを振動させた。このとき、チップケースの振幅は、4.5mmであった。振動試験機では、モーターの回転を振動に変換している。振動の強度について、モーターの回転数200rpmでの振動の強さの値を1と定義し、モーターの回転数2500rpmでの振動の強さの値を10と定義した。振動試験は、1の強さから開始した。その後、20秒経過ごとに、強さの値を1ずつ増加させた。振動の強度が値10に達してから20秒経過後に振動試験を終了した。振動試験の結果を表3に示す。
【0106】
表3において、振動試験の数値は、蛍光体部の前駆体から蛍光体の粒子が脱落したときの振動の強さを示す。ただし、表3において、実施例5の蛍光体部の前駆体では、強さ10の振動でも蛍光体の粒子が脱落しなかった。
【0107】
さらに、振動試験を実施する前後において、蛍光体部の前駆体の表面を顕微鏡によって50倍の倍率で観察した。顕微鏡としては、KEYENCE社製のデジタルマイクロスコープVH-5000を用いた。
図15Aは、振動試験を実施する前における実施例2の蛍光体部の前駆体の顕微鏡画像を示している。
図15Bは、振動試験を実施した後における実施例2の蛍光体部の前駆体の顕微鏡画像を示している。
図15A及び
図15Bから、大きな振動によって、蛍光体部の前駆体から蛍光体が脱落したことがわかる。さらに、
図16Aは、振動試験を実施する前における実施例3の蛍光体部の前駆体の顕微鏡画像を示している。
図16Bは、振動試験を実施した後における実施例3の蛍光体部の前駆体の顕微鏡画像を示している。
図16A及び
図16Bからも、大きな振動によって、蛍光体部の前駆体から蛍光体が脱落したことがわかる。
【0108】
[蛍光体部の前駆体の浸漬試験]
比較例1、2及び実施例1~5の蛍光体部の前駆体のそれぞれについて、浸漬試験を行った。まず、比較例1、2及び実施例1~5の蛍光体部の前駆体をそれぞれ10個ずつ準備した。これらの前駆体は、それぞれ、基板に支持されていた。次に、蛍光体部の前駆体を支持する基板を冶具で固定した。基板を試験用の容器の内部にセットした。容器内にZnOの結晶成長用の溶液を加えた。結晶成長用の溶液としては、硝酸亜鉛及びヘキサメチレンテトラミンの水溶液を用いた。基板を結晶成長用の溶液から取り出した。浸漬試験後に、蛍光体部の前駆体が脱落した基板の個数を計数した。浸清試験の結果を表3に示す。浸漬試験によって蛍光体部の前駆体が脱落した基板の個数が0個以上3個以下のとき、浸漬試験の結果が良好(「G」で示す)であると評価した。この個数が4個以上10個以下のとき、浸漬試験の結果が不良(「NG」で示す)であると評価した。
【0109】
【0110】
表3からわかるとおり、樹脂材料を含むフィラー粒子を備えた実施例1~5の蛍光体部の前駆体では、比較例1、2の蛍光体部の前駆体に比べて、基板からの蛍光体の脱落が十分に抑制されていた。
【0111】
[波長変換部材]
次に、実施例2、3、5の蛍光体部の前駆体のそれぞれを用いて、波長変換部材を作製した。詳細には、溶液成長法によって、ZnO薄膜の上に結晶質のZnOマトリクスを作製した。結晶成長用の溶液としては、硝酸亜鉛及びヘキサメチレンテトラミンの水溶液を用いた。これにより、実施例2、3、5の波長変換部材を得た。
【0112】
次に、実施例2の波長変換部材を切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。SEMとしては、日立ハイテクノロジーズ社製のS-4300を用いた。
図17Aは、実施例2の波長変換部材の断面のSEM画像を示している。
図17Bは、
図17Aに示すフィラー粒子の拡大図である。
図17Aからわかるとおり、波長変換部材において、フィラー粒子は、蛍光体に接着していた。
図17Bからわかるとおり、波長変換部材に含まれる複数のフィラー粒子のうち、一部のフィラー粒子は、互いに接着していた。互いに接着している複数のフィラー粒子は、それぞれ、粒子の形状を維持していた。
【0113】
実施例2の波長変換部材と同様に、実施例3の波長変換部材を切断し、その切断面をSEMによって観察した。SEMとしては、日立ハイテクノロジーズ社製の卓上顕微鏡Miniscope TM4000Plusを用いた。
図18Aは、実施例3の波長変換部材の断面のSEM画像を示している。
図18Bは、
図18Aに示すフィラー粒子の拡大図である。
図18Cは、
図18Aに示す別のフィラー粒子の拡大図である。
図18Aからわかるとおり、波長変換部材において、フィラー粒子は、蛍光体に接着していた。
図18Bからわかるとおり、波長変換部材に含まれる複数のフィラー粒子のうち、一部のフィラー粒子は、蛍光体の2つの粒子のそれぞれと接着していた。
図18Cからわかるとおり、波長変換部材に含まれる複数のフィラー粒子のうち、一部のフィラー粒子は、蛍光体の粒子及び基板のそれぞれと接着していた。
【0114】
[波長変換部材の発光効率]
実施例2、3、5の波長変換部材のそれぞれについて、発光効率を測定した。発光効率の測定は、マルチチャンネル分光器(大塚電子社製のMCPD-9800)及びラブスフェア社製の積分球を用いて行った。用いたLDの励起光の波長は、445nmであった。励起光のエネルギー密度は、2W/mm2であった。測定の結果を表4に示す。
【0115】
次に、実施例2、3、5の波長変換部材のそれぞれを加熱した。波長変換部材の加熱は、周囲温度240℃で24時間行った。加熱後の波長変換部材について、上述した方法で発光効率を測定した。測定の結果を表4に示す。
【0116】
【0117】
表4からわかるとおり、実施例2、3、5の波長変換部材は、いずれも良好な発光効率を有していた。特に、実施例3、5の波長変換部材は、加熱処理された後であっても、良好な発光効率を維持していた。
【0118】
本開示の波長変換部材100(110、120、130、140)は、無機材料を含むマトリクス21と、マトリクス21に埋め込まれた蛍光体22と、マトリクス21に埋め込まれ、かつ、樹脂材料を含むフィラー粒子23とを備える。
【0119】
フィラー粒子23が樹脂材料を含むため、フィラー粒子23は、蛍光体22に接着することができる。同様に、フィラー粒子23は、波長変換部材を製造するときに用いられる基板10に接着することができる。そのため、フィラー粒子23は、蛍光体22を基板10に固定することができる。これにより、マトリクス21が形成されるまでに、蛍光体22が基板10から脱落することを抑制できる。すなわち、波長変換部材において、蛍光体22の脱落が抑制されている。
【0120】
波長変換部材は、マトリクス21を支持する基板10をさらに備え、フィラー粒子23は、蛍光体22と基板10との間に位置していてもよい。これにより、波長変換部材において、蛍光体22の脱落が抑制されている。
【0121】
波長変換部材では、基板10は、ステンレス鋼、アルミニウムと炭化ケイ素との複合材料、アルミニウムとシリコンとの複合材料、アルミニウムと炭素との複合材料、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。これにより、基板10の熱膨張係数が小さい。そのため、波長変換部材の使用によって基板10の温度が上昇しても、波長変換部材は、高い信頼性を有する。
【0122】
波長変換部材では、マトリクス21は、無機結晶を含んでいてもよい。これにより、マトリクス21は、優れた放熱性を有する。
【0123】
波長変換部材では、上記無機結晶は、酸化亜鉛を含んでいてもよい。これにより、マトリクス21は、より優れた放熱性を有する。
【0124】
波長変換部材では、上記酸化亜鉛は、c軸に配向していてもよい。これにより、マトリクス21は、より優れた放熱性を有する。
【0125】
波長変換部材では、上記樹脂材料は、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。これにより、波長変換部材において、蛍光体22の脱落が抑制されている。
【0126】
波長変換部材では、上記樹脂材料は、熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。これにより、波長変換部材において、蛍光体22の脱落が抑制されている。
【0127】
波長変換部材では、フィラー粒子23は、ゴム弾性を有していてもよい。これにより、フィラー粒子23と蛍光体22との接触面積が広い。そのため、フィラー粒子23は、蛍光体22を十分に固定できる。これにより、波長変換部材において、蛍光体22の脱落がより抑制されている。
【0128】
波長変換部材では、上記樹脂材料は、シロキサン結合を有する高分子化合物を含んでいてもよい。これにより、フィラー粒子23は、優れた耐熱性を有する。
【0129】
波長変換部材では、フィラー粒子23は、コア30と、コア30を被覆しているシェル31とを有していてもよい。これにより、フィラー粒子23は、優れた分散性を有する。
【0130】
波長変換部材では、フィラー粒子23は、官能基で修飾された表面を有していてもよい。これにより、フィラー粒子23は、優れた分散性を有する。
【0131】
波長変換部材では、550nmの波長の光に対するフィラー粒子23の吸収率が好ましくは25%以下である。これにより、波長変換部材は、高い発光効率を有する。
【0132】
波長変換部材では、蛍光体22の体積V1とフィラー粒子23の合計体積V2とで定義されるV2/(V1+V2)の値が0.05以上0.16以下であってもよい。これにより、波長変換部材において、蛍光体22の脱落がより抑制されている。
【0133】
光学装置200(210、220)は、波長変換部材100(110、120、130、140)と、波長変換部材に励起光を照射する励起光源40とを備える。これにより、光学装置が備える波長変換部材において、蛍光体22の脱落が抑制されている。
【0134】
プロジェクタ500は、上記波長変換部材を備える。これにより、プロジェクタ500が備える波長変換部材において、蛍光体22の脱落が抑制されている。
【0135】
基板10の上に蛍光体22と樹脂材料を含むフィラー粒子23とを配置する。フィラー粒子23によって蛍光体22を基板10に固定する。フィラー粒子23及び蛍光体22のそれぞれがマトリクス21に埋め込まれるように、無機材料を含むマトリクス21を形成する。これにより波長変換部材を製造できる。
【0136】
これにより、蛍光体22は、フィラー粒子23によって基板10に固定されている。そのため、マトリクス21が形成されるまでに蛍光体22が基板10から脱落することを抑制できる。
【0137】
この製造方法では、蛍光体22及び基板10のそれぞれにフィラー粒子23を接着させることによって、蛍光体22を基板10に固定してもよい。これにより、蛍光体22を基板10に容易に固定できる。
【0138】
この製造方法では、蛍光体22及び基板10のそれぞれにフィラー粒子23を接着させることは、フィラー粒子23を加熱することによって行われてもよい。これにより、蛍光体22を基板10に容易に固定できる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本開示の波長変換部材は、例えば、シーリングライトなどの一般照明装置;スポットライト、スタジアム用照明、スタジオ用照明などの特殊照明装置;ヘッドランプなどの車両用照明装置;プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイなどの投影装置;医療用又は工業用の内視鏡用ライト;デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォンなどの撮像装置;パーソナルコンピュータ(PC)用モニター、ノート型パーソナルコンピュータ、テレビ、携帯情報端末(PDX)、スマートフォン、タブレットPC、携帯電話などの液晶ディスプレイ装置などにおける光源に利用することができる。
【符号の説明】
【0140】
10 基板
11 基板本体
12 薄膜
20 蛍光体部
21 マトリクス
22 蛍光体
23 フィラー粒子
30 コア
31 シェル
40 励起光源
100,110,120,130,140 波長変換部材
200,210,220 光学装置
500 プロジェクタ
600 照明装置