(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20230317BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230317BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230317BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20230317BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20230317BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230317BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20230317BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/134
H01M4/64 A
H01M4/66 A
H01M50/107
(21)【出願番号】P 2019550959
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2018037637
(87)【国際公開番号】W WO2019087708
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2017209822
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】南 博之
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-243957(JP,A)
【文献】特開平11-185818(JP,A)
【文献】特開2004-063410(JP,A)
【文献】特開2000-285959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01M 4/64- 4/84
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有遷移金属酸化物からなる正極活物質を有する正極と、
負極集電体を有し、充電時に前記負極集電体上にリチウム金属が析出する負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、で構成される電極体
、
非水電解質、並びに、
前記電極体及び前記非水電解質を収容するケース、
を備える非水電解質二次電池であって、
前記電極体が巻回型であり、かつ前記ケースが円筒形であり、
前記正極及び前記負極が有するリチウムの総量の、前記正極に含まれる遷移金属量に対するモル比が1.1以下であり、
放電状態において、前記正極の正極容量α(mAh)と前記電極体の中央に形成される空間の体積X(mm
3)とが0.5≦X/α≦4.0を満たし、
放電状態において、前記ケースの内径Y(mm)と前記電極体の内径Z(mm)とが0.4≦Z/Y≦0.8を満たす、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極集電体が銅箔である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関し、より詳しくはリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、スマートフォン等のICT分野に加え、車載分野、蓄電分野等においても非水電解質二次電池の更なる高容量化が求められている。高容量の非水電解質二次電池としては、もっぱらリチウムイオン電池が使用されている。リチウムイオン電池としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物を正極に使用し、黒鉛とシリコン化合物等からなる負極活物質を負極に使用した構成が知られているが、この構成は高容量化の点に関しては限界に達しつつある。
【0003】
特許文献1には、正極の一部が逆スピネル型構造を有するリチウム遷移金属酸化物で構成され、負極がリチウム金属、リチウム合金、リチウム挿入化合物とから成る群から選択されるリチウム電池が開示されている。
【0004】
特許文献2には、正極の一部が特定のリチウムマンガン酸化物挿入化合物からなり、負極がリチウムマンガン酸化物挿入化合物からなり、電解質が非水系溶剤に溶解したリチウム塩からなる再充電可能電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
特許文献1に開示された技術のように、正極にリチウム含有遷移金属酸化物を使用し、負極にもリチウム金属を使用している電池系では、系内のリチウム金属量が増加するものの、系内の遷移金属量に対するリチウム金属量が過剰になるため、容量向上効果の点で十分とは言えなかった。また、高容量化の点で有望な非水電解質二次電池として、充電時にリチウム金属を負極上に析出させ、放電時に当該リチウム金属を非水電解質中に溶解させるリチウム二次電池がある。しかしながら、このようなリチウム二次電池では、リチウム金属析出による負極の膨張、及び、負極表面におけるリチウム金属の不均一な析出によって、電極内に応力が生じ、充放電サイクル毎に電極内での応力の発生が繰り返されることで、やがて電極が破断するという問題があった。
【0007】
そこで、電池の高容量化を実現しながら、充放電サイクルを繰り返した場合に起こり得る電極の破断を抑制することができる非水電解質二次電池が求められている。
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、リチウム含有遷移金属酸化物からなる正極活物質を有する正極と、負極集電体を有し、充電時に負極集電体上にリチウム金属が析出する負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータと、で構成される電極体、及び、非水電解質を備え、正極及び負極が有するリチウムの総量の、正極に含まれる遷移金属量に対するモル比が1.1以下であり、放電状態において、正極の正極容量α(mAh)と電極体の中央に形成される空間の体積X(mm3)とが0.5≦X/α≦4.0を満たすことを特徴とする。
【0009】
本開示の別の態様である非水電解質二次電池は、リチウム含有遷移金属酸化物からなる正極活物質を有する正極と、負極集電体を有し、充電時に負極集電体上にリチウム金属が析出する負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータと、で構成される電極体、非水電解質、並びに、前記電極体及び非水電解質を収容するケース、を備え、正極及び負極が有するリチウムの総量の、正極に含まれる遷移金属量に対するモル比が1.1以下であり、放電状態において、ケースの内径Yと電極体の内径Zとが0.4≦Z/Y≦0.8を満たすことを特徴とする。
【0010】
本開示によれば、電池の高容量化を実現しながら、充放電サイクルを繰り返した場合に起こり得る電極の破断を抑制することができる非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池を示す縦断面図である。
【
図2】実施形態の一例である非水電解質二次電池を構成する電極体の一部横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述のように、充電時にリチウム金属が負極上に析出し、放電時に当該リチウム金属が非水電解質中に溶解する非水電解質二次電池(リチウム二次電池)は、高容量化が期待できるものの、負極上に析出するリチウム金属によって膨化するとともに、発生する応力により電極が破断するという課題がある。本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、正極、負極及びセパレータからなる電極体の巻回軸の軸中心部に予め空間を形成することにより、充電時にリチウム金属が負極上に析出し、析出したリチウム金属によって電極(正極及び負極)に応力が発生した場合であっても、その応力を当該空間に逃がすことで、電極の破断を抑制できることを見出した。
【0013】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の縦断面図であり、電極体14の巻回軸に沿った方向を含む断面を示す。
図2は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10を構成する電極体14の巻回軸に垂直な面での横断面図であり、電極体14を構成する正極11、負極12及びセパレータ13の配置を模式的に示す。
【0014】
実施形態として例示する非水電解質二次電池10は、円筒形の金属製ケースを備えた円筒形電池であるが、本開示の非水電解質二次電池はこれに限定されない。本開示の非水電解質二次電池は、例えば角形の金属製ケースを備えた角形電池、アルミニウムラミネートシート等からなる外装体を備えたラミネート電池などであってもよい。
【0015】
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回構造を有する電極体14と、非水電解質(図示せず)とを備える。
図1及び
図2に示すように、電極体14は、正極11と、負極12と、セパレータ13とで構成され、正極11及び負極12がセパレータ13を介して渦巻状に巻回されてなる。非水電解質二次電池10は、充電時に負極12上にリチウム金属が析出し、放電時に当該リチウム金属が非水電解質中に溶解するリチウム二次電池である。
【0016】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状に形成され、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層された状態となる。電極体14において、各電極の長手方向が巻回方向となり、各電極の幅方向が軸方向となる。また、電極体14には、巻回軸の軸中心部を含み、軸方向に沿って延びる空間(中空部50)が形成されている。中空部50については後で詳述する。
【0017】
正極11と正極端子とを電気的に接続する正極リード19は、例えば正極11の長手方向中央部に接続され、電極体14の一端から延出している。負極12と負極端子とを電気的に接続する負極リード20は、例えば負極12の長手方向端部に接続され、電極体14の他端から延出している。電極体14において、負極リード20が負極12の径方向外側に位置する端部に接続すると、負極12に応力が発生したときに負極12が巻回方向に延びることで応力を逃がすことができる範囲が広がるため、好ましい。
【0018】
図1に示す例では、ケース本体15と封口体16によって、電極体14及び非水電解質を収容する金属製の電池ケースが構成されている。電極体14の上下には、絶縁板17,18がそれぞれ設けられる。正極リード19は絶縁板17の貫通孔を通って封口体16側に延び、封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接される。非水電解質二次電池10では、フィルタ22と電気的に接続された封口体16のキャップ26が正極端子となる。他方、負極リード20はケース本体15の底部側に延び、ケース本体15の底部内面に溶接される。非水電解質二次電池10では、ケース本体15が負極端子となる。
【0019】
ケース本体15は、有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体15と封口体16の間にはガスケット27が設けられ、電池ケース内の密閉性が確保されている。ケース本体15は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する張り出し部21を有する。張り出し部21は、ケース本体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体16を支持する。
【0020】
封口体16は、電極体14側から順に、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、及びキャップ26が積層された構造を有する。封口体16を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体23と上弁体25は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材24が介在している。下弁体23には通気孔が設けられているため、異常発熱で電池の内圧が上昇すると、上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体25が破断し、キャップ26の開口部からガスが排出される。
【0021】
[中空部]
本開示に係る電極体14には、巻回軸の軸中心部を含み、軸方向に沿って延びる空間である中空部50が形成されている。リチウム二次電池において、負極集電体40上に負極合剤層を有さない負極12を用いた場合、充電時に電解液に溶解していたリチウム金属が負極12の表面に析出する。本開示の非水電解質二次電池10に形成された中空部50は、この負極12上に析出したリチウムに起因する電極の破断を抑制することができる。その原理は以下の通りであると考えられる。
【0022】
斯かるリチウムの析出は、負極12の表面において不均一に発生する。そのため、電極体14において局所的な歪みが発生し、特に金属製の集電体を有する正極11及び負極12(本明細書では、正極11及び負極12を区別しない場合に両者を「電極」と総称する)に応力が発生する。また、充電が進むほど、リチウムの析出量が増加し(膨化)、電極に生じた応力を増強させる。中空部50を有さない電池では、高容量化のため、ケース本体内において電極及びセパレータが密に積層されるため、電極内に発生した応力が解放されない。そのため、充放電サイクルが繰り返される度に生じる応力により、電極内に疲労が蓄積し、やがて破断に至ってしまう。
【0023】
それに対して、本開示の非水電解質二次電池10では、電極体14の中央に、各電極及びセパレータ13の移動を許容し得る中空部50が確保されている。これにより、充電時に電極内に応力が発生した場合、当該電極が巻回方向(
図2の矢印Aの方向)に沿って螺旋を描くように延びて、或いは、軸中心に近い電極等であれば積層方向内側(
図2の矢印Bの方向)に向かってわずかに移動することで、その発生した応力を逃がすことができる。そのため、充放電サイクルが繰り返されても、各電極内に応力の発生による疲労が蓄積せず、結果として、リチウムの析出に起因する電極の破断を抑制することができると考えられる。
【0024】
リチウム二次電池における中空部50の形成は、電池の容量向上の点では不利であると言える。しかしながら、本開示の非水電解質二次電池10では、負極集電体の両面に負極合剤層を設ける従来のリチウム二次電池と比較して、負極合剤層を設けない分のスペースを、電池当たりの正極11及び負極12の面積の拡大、及び、正極活物質であるリチウム含有遷移金属酸化物の電池当たり含有量の増加に使用することができる。そのため、電池当たりの正極容量が中空部の形成による容量低下分を超えて増加し、電池の高容量化を実現することが可能となる。
【0025】
本開示の一態様によれば、中空部50は、非水電解質二次電池10が放電状態にあるときに、正極11の正極容量α(mAh)と中空部50の体積X(mm
3)とが0.5≦X/α≦4.0を満たすように、形成される。非水電解質二次電池10の放電時における、正極11の正極容量αは、リチウム金属の理論容量(3860mAh/g)と、正極11、より具体的には正極合剤層31に含まれるリチウムの総質量との積により求められる。正極合剤層31に含まれるリチウムの総質量は、例えば、正極合剤層31の組成及び厚さ、並びに巻回された正極合剤層31の総面積に基づいて算出してもよい。一方、中空部50の体積Xは、電極体14の巻回軸中心を含み、軸方向に延びる空間であって、電極体14の軸方向の端面と、電極体14の最も内側にある層(
図1及び
図2ではセパレータ13)とで囲われる空間の体積である。
【0026】
正極11の正極容量αに対する中空部50の体積Xの比率は、充電時に負極12に析出されるリチウム金属の析出量と中空部50を占める空間との関係を表すとも言える。比率X/αが小さすぎると、リチウム金属の析出により発生した応力を逃がすために正極11及び負極12が移動するスペースを確保できず、電極破断を防止する効果が十分得られない。また、比率X/αが大きすぎると、電池当たりのリチウム含有量が低下し、負極合剤層を有する負極を用いて作製された従来型電池に対する容量向上効果が失われてしまう。正極11の正極容量αと中空部50の体積Xとは、上記の観点から、0.5≦X/α≦4.0を満たすことが好ましく、0.5≦X/α≦1.9を満たすことがより好ましい。
【0027】
本開示の別の態様によれば、中空部50は、非水電解質二次電池10が放電状態にあるときに、ケース本体15の内径Yと電極体14の内径Zとが0.4≦Z/Y≦0.8を満たすように、形成される。ケース本体15の内径Y及び電極体14の内径Zはいずれも、巻回軸に垂直な横断面における平均値であると共に、巻回軸方向に沿った平均値である。比率Z/Yが小さすぎると、リチウム金属の析出により発生した応力を逃がすために正極11及び負極12が移動するスペースを確保できず、電極破断を防止する効果が十分得られない。また、比率Z/Yが大きすぎると、ケース本体15内を電極体14が占める割合が低くなり、電池当たりのリチウム含有量が低下し、負極合剤層を有する負極を用いて作製された従来型電池に対する容量向上効果が失われてしまう。本態様では、上記の観点から、放電状態におけるケース本体15の内径Yと電極体14の内径Zとが、0.40≦Z/Y≦0.80を満たすことが好ましく、0.40≦Z/Y≦0.60を満たすことがより好ましい。
【0028】
非水電解質二次電池10における中空部50の体積X、ケース本体15の内径Y及び電極体14の内径Zは、例えば、X線CT装置(例えば株式会社島津製作所社製「マイクロフォーカスX線透視装置SMX-2000」)を用いて、測定すればよい。また、正極11の正極容量αは、上述の通り、リチウム金属の理論容量(3860mAh/g)と正極合剤層31に含まれるリチウムの総質量との積として算出され、正極合剤層31に含まれるリチウムの総質量は、例えば、正極合剤層31の組成、厚さ及び総面積に基づいて算出される。ここで、正極合剤層31の厚さ及び総面積は、上記のX線CT装置を用いて測定すればよい。また、正極合剤層31に含まれるリチウム含有遷移金属酸化物の組成は、ICP発光分光分析装置(例えばSpectro社製「CIROS-120」)等の公知の分析装置を用いて定性及び定量される。なお、中空部50の体積X、ケース本体15の内径Y及び電極体14の内径Zは、サイクル初期時に測定される値であり、例えば10サイクル以下の電池を用いて測定される。
【0029】
本開示の非水電解質二次電池10では、正極11及び負極12が有するリチウムの総量の、正極11に含まれる遷移金属量に対するモル比が1.1以下である。非水電解質二次電池10に含まれるリチウム及び遷移金属が上記の範囲にあると、正極活物質において放電時にリチウムが過剰に正極活物質内に挿入されて、正極構造にゆがみが生じることを防止し、抵抗の上昇をおさえることができる。なお、正極11及び負極12が有するリチウムの総量(総含有量)は、非水電解質二次電池10において、正極11の正極合剤層31に正極活物質として含まれるリチウム含有遷移金属酸化物を構成するリチウムと、負極12の負極集電体40がリチウム金属を有する場合の当該リチウムとの合計量である。
【0030】
以下、電極体14の各構成要素(正極11、負極12、セパレータ13)及び非水電解質について詳説する。
【0031】
[正極]
正極11は、正極集電体30と、当該集電体上に形成された正極合剤層31とを備える。正極集電体30には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層31は、正極活物質と、導電材と、結着材とで構成される。正極合剤層31は、一般的に正極集電体30の両面に形成される。正極11は、例えば正極集電体30上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して正極合剤層31を集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0032】
正極合剤層31に含まれる正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物からなる。リチウム含有遷移金属酸化物を構成するリチウム以外の金属元素は、例えばマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、タングステン(W)、鉛(Pb)、及びビスマス(Bi)から選択される少なくとも1種である。本開示では、便宜上、これらリチウム含有遷移金属酸化物を構成するリチウム以外の金属元素を「リチウム含有遷移金属を構成する遷移金属」とみなすことにする。正極合剤層31に含まれるリチウム含有遷移金属酸化物は、当該遷移金属として、Co、Ni、Mn及びAlから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。また、リチウム含有遷移金属を構成するリチウムと遷移金属とのモル比が1.1:1以下であることが好ましい。
【0033】
正極合剤層31を構成する導電材の例としては、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料などが挙げられる。また、正極合剤層31を構成する結着材の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
正極合剤層31に含まれるリチウム含有遷移金属酸化物は、空間群R-3mに属する結晶構造を有することが好ましい。空間群R-3mに属する結晶構造は、リチウム-酸素八面体層と遷移金属-酸素八面体層とが積層してなる構造であり、例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、及びコバルト酸リチウム(LiCoO2)が有する結晶構造である。正極活物質が空間群R-3mに属する結晶構造を有する場合、二次電池において高い充放電容量が得られるためである。正極活物質が空間群R-3mに属する結晶構造を有することは、例えば、正極活物質について粉末X線回折法に基づく解析を行い、X線回折パターンを得ることにより、確認することができる。
【0035】
[負極]
負極12は、充電時にリチウム金属を析出させる電極であって、負極集電体40を有する。充電により負極12上に析出するリチウム金属は、非水電解質中のリチウムイオンに由来するものであり、析出したリチウム金属は放電により電解液中に溶解する。
【0036】
負極集電体40は、例えば銅、ニッケル、鉄、ステンレス合金(SUS)等の金属箔で構成され、中でも導電性の高い銅箔が好ましい。銅箔は、銅を主成分とする金属箔であって、実質的に銅のみで構成されてもよい。銅箔の厚みは、5mm以上20mm以下が好ましい。負極12は、例えば電池の充放電前において、厚みが5mm以上20mm以下の銅箔のみで構成され、充電により銅箔の両面にリチウム金属が析出してリチウム金属層が形成される。また、負極集電体40は、リチウム金属層を含有してもよく、例えばリチウム金属箔であるか、或いは蒸着等により表面にリチウム金属層を形成したものであってもよい(この場合、リチウムは活物質となる)。負極集電体40は、初期状態において負極活物質を有さないことが好ましい。
【0037】
負極12は、初期状態において負極集電体40のみで構成されることが好ましい。これにより、電池の体積エネルギー密度を高めることができる。なお、負極集電体40として、リチウム金属箔、リチウム金属層を有する集電体等を用いた場合は、リチウム層の厚み分だけ電池の体積エネルギー密度が低下することになる。
【0038】
負極集電体40は、表面に固体電解質、有機物や無機物を含む層(保護層)を有していてもよい。保護層は、電極表面反応を均一にする効果があり、負極上にリチウム金属が均一に析出し、負極12の膨化を抑制することができる。固体電解質としては、例えば硫化物系固体電解質、リン酸系固体電解質、ペロブスカイト系固体電解質、ガーネット系固体電解質等を挙げることができる。
【0039】
上記硫化物系固体電解質としては、硫黄成分を含有し、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されない。硫化物系固体電解質の原料としては、具体的には、Li、S、及び第三成分Aを有するもの等を挙げることができる。第三成分Aとしては、例えばP、Ge、B、Si、I、Al、Ga、及びAsからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。硫化物系固体電解質としては、具体的には、Li2S-P2S5、70Li2S-30P2S5、80Li2S-20P2S5、Li2S-SiS2、LiGe0.25P0.75S4等を挙げることができる。
【0040】
上記リン酸系固体電解質としては、リン酸成分を含有し、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。リン酸系固体電解質としては、例えばLi1.5Al0.5Ti1.5(PO4)3等のLi1+XAlXTi2-X(PO4)3(0<X<2、中でも0<X≦1が好ましい。)、及びLi1+XAlXGe2-X(PO4)3(0<X<2、中でも0<X≦1が好ましい。)等を挙げることができる。
【0041】
上記有機物層としては、ポリエチレンオキサイドやポリメタクリル酸メチル等のリチウム導電性物質が好ましい。無機物層としては、SiO2やAl2O3、MgOなどのセラミック材が好ましい。
【0042】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン及びプロピレンの少なくとも一方を含む共重合体等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータ13の表面にアラミド系樹脂等が塗布されたものを用いてもよい。また、セパレータ13と正極11及び負極12の少なくとも一方との界面には、無機化合物のフィラーを含む耐熱層が形成されていてもよい。
【0043】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0044】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0045】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0046】
非水電解質に含まれる電解質塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiN(SO2CF3)2、LiN(ClF2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは1以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。中でも、LiPF6を用いることが好ましい。
【0047】
非水電解質は、負極12で分解する添加剤を含むことが好ましい。非水電解質は、例えばビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、及びビニルエチルカーボネート(VEC)から選択される少なくとも1種を含む。VC等を添加することで、負極の膨化がさらに抑制され、サイクル特性がより良好になる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本開示をさらに詳説するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質としてアルミニウム、ニッケル、コバルトを含有するリチウム含有遷移金属酸化物と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて撹拌することで正極合剤スラリーを調製した。次に、当該正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。ローラーを用いて塗膜を圧延した後、所定の電極サイズに切断し、正極集電体の両面に正極合剤層が順に形成された正極を作製した。正極活物質として使用したリチウム含有遷移金属酸化物における遷移金属の合計に対するリチウムのモル比は、1.0であった。
【0050】
[負極の作製]
電解銅箔(厚み10mm)を所定の電極サイズに切断して負極(負極集電体)とした。なお、銅箔上には負極合剤の塗工は行わなかった。
【0051】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:7の容積比で混合した。当該混合溶媒に、LiPF6を1.0M(モル/L)の濃度で、LiBF2(C2O4)を0.1M(モル/L)の濃度でそれぞれ溶解させて非水電解液を調製した。
【0052】
[電池の作製]
不活性ガス雰囲気中で、アルミニウム製のタブを取り付けた上記正極、及びニッケル製のタブを取り付けた上記負極をポリエチレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回し、電極体を作製した。実施例1の電極体には、巻回軸の軸中心を含み、巻回軸方向に延びる空間が形成されていた。当該電極体をアルミニウムラミネートで構成される外装体(平均内径Y=20.0mm)内に収容し、上記非水電解液を注入後、外装体の開口部を封止して、体積が5000mm3である中空部を有し、正極容量αが7500mAhである円筒型の電池T1を作製した。また、電池T1に含まれるリチウムの総量の、正極に含まれる遷移金属量に対するモル比は1.0であった。
【0053】
<実施例2>
電池の作製において、帯状の正極、負極及びセパレータのそれぞれにつき、長手方向(巻回方向)の長さが異なるものを使用し、中空部の体積を変えたこと以外は実施例1と同様にして、体積が7250mm3である中空部を有し、正極容量αが3900mAhである円筒型の電池T2を作製した。
【0054】
<比較例1、比較例2>
同様に、電池の作製において、帯状の正極、負極及びセパレータのそれぞれにつき、長手方向(巻回方向)の長さが異なるものを使用し、中空部の体積を変えたこと以外は実施例1と同様にして、中空部を有する円筒型の電池T3及びT4を作製した。電池T3の中空部の体積は800mm3であり、正極容量αは7500mAhであった。また、電池T4の中空部の体積は15000mm3であり、正極容量αは3400mAhであった。
【0055】
<参考例>
放電容量の対比のための参照用電池を作製した。参照用電池は、銅箔の両面に負極合剤層を有する負極を備える。当該負極は、負極活物質としてのグラファイト及び結着材(スチレン-ブタジエンゴム)を97.5:2.5の質量比で含有する負極合剤スラリーを、負極集電体である銅箔の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、塗膜を圧延ローラにより圧延することにより、調製した。負極として上記の方法で得られた負極合剤層を有する負極を使用すること、及び、中央に空間が殆ど形成されないように、帯状の正極、負極及びセパレータのそれぞれの長さを調整すること以外は、実施例1と同様にして、正極容量αが3400mAhである参照用電池T5を作製した。
【0056】
[評価試験]
実施例及び比較例の各電池について、充放電サイクル試験を実施した。各電池を用いて、25℃の電池温度条件下、0.1ITの電流で電圧値が4.3Vになるまで定電流充電を行い、続いて、4.3Vの定電圧で電流値が0.01ITになるまで定電圧充電を行った。その後、0.1ITの電流で電圧値が2.5Vになるまで定電流放電を行い、この定電流放電を行ったときの放電容量を、各電池の初期放電容量とした。
【0057】
次に、各電池につき、60℃の温度条件下において、0.1ITの電流で4.3Vになるまでの定電流充電、15分間の休止期間、0.1ITの電流で2.5Vになるまでの定電流放電、及び、15分間の休止期間からなる充放電サイクルを、5回繰り返した。その後、電圧値が3.5V以上3.6V以下の放電状態にあるときに各電池を取り出した。取り出した各電池について、X線CT装置(株式会社島津製作所社製「マイクロフォーカスX線透視装置SMX-2000」)を用いて、中空部の体積X、ケースの内径Y、及び電極体の内径Zを測定すると共に、電極の破断の有無を観察した。得られた測定結果から、「中空部体積X(mm3)/正極容量α(mAh)」及び「中空部外径Z(mm)/ケース内径Y(mm)」を算出した。ここで正極容量αは、各電池について、Li金属の理論容量(3860mAh/g)、正極合剤層の組成及び層厚、並びに正極合剤層の形成面積に基づいて算出した理論値である。各算出結果を表1に示す。
【0058】
続いて、各電池の電極破断抑制性能を評価するため、上記の充放電サイクルを1500回繰り返す充放電サイクル試験を行った。各電池について、上記で規定した電圧値及び電流値で1500回の充放電サイクルを完遂した場合、電極に破断が発生しなかったと判断し、当該電池の電極破断抑制性能を「○」と評価した。他方、充放電サイクル試験において、1500回の充放電サイクルを行う途中で規定の電圧値又は電流値が得られなくなった場合、電極に破断が発生したと判断し、当該電池の電極破断抑制性能を「×」と評価した。また、各電池について、上記X線CT装置を用いて電極体の断面を観察することにより、電極の破断の有無を確認したところ、電極破断抑制性能を「○」と評価した電池には電極の破断が観察されず、電極破断抑制性能を「×」と評価した電池には電極の破断が観察された。各評価結果を表1に示す。
【0059】
実施例及び比較例の各電池の放電容量を、参照用電池の放電容量との対比により評価した。参照用電池は、両面に負極合剤層を有する負極を備え、電極体中央に空間が殆ど形成されていない、従来型の非水電解質二次電池である。各電池について、各電池のLi金属の理論容量(3860mAh/g)、正極合剤層の組成及び層厚、並びに正極合剤層の形成面積に基づいて算出された放電容量の算出値に基づいて、参照用電池以下の放電容量を有するものを「×」と評価し、参照用電池より高い放電容量を有するものを「〇」と評価した。なお、各電池について、上記試験で測定された初期放電容量の測定値は、放電容量の算出値とよく一致していた。実施例及び比較例の各電池の放電容量の評価結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
表1に示すように、比較例1の電池では充放電サイクル試験後に電極が破断し、比較例2の電池では高容量化が実現できなかったのに対して、実施例の電池はいずれも、充放電サイクル試験後においても電極の破断を起こさず、負極集電体に負極合剤層を設けた従来の電池に対する高容量化を実現したことが確認された。つまり、負極集電体40に負極合剤層を設けないリチウム析出型のリチウム二次電池において、正極11、負極12及びセパレータ13からなる電極体14の中央に空間(中空部50)を設けることにより、充電時の負極12上におけるリチウム金属の析出に伴う応力が電極内に発生しても、当該応力を逃がすことができた結果、電極の破断を抑制したと考えられる。また、中空部50には電極体14が存在しないにも関わらず、本実施形態では負極12が負極合剤層を有さないため、電池当たりのエネルギー密度が向上し、電池の高容量化が実現されたと考えられる。
【符号の説明】
【0062】
10 非水電解質二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 ケース本体(ケース)
16 封口体
17,18 絶縁板
19 正極リード
20 負極リード
21 張り出し部
22 フィルタ
23 下弁体
24 絶縁部材
25 上弁体
26 キャップ
27 ガスケット
30 正極集電体
31 正極合剤層
40 負極集電体
50 中空部(空間)