(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】化粧用シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A45D 44/00 20060101AFI20230317BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230317BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20230317BHJP
A61F 13/00 20060101ALN20230317BHJP
A61F 13/02 20060101ALN20230317BHJP
【FI】
A45D44/00 Z
A61K8/02
A61Q1/00
A61F13/00 355G
A61F13/02 370
(21)【出願番号】P 2019560907
(86)(22)【出願日】2018-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2018043360
(87)【国際公開番号】W WO2019123984
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2017245466
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 真里
(72)【発明者】
【氏名】篠田 雅世
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-162118(JP,A)
【文献】特開平08-081333(JP,A)
【文献】特開2015-093973(JP,A)
【文献】特表2017-523106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 44/00
A61K 8/02
A61Q 1/00
A61F 13/00
A61F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌に貼付する化粧用シートであって、
一方の面が肌に貼付される薄膜と、
前記薄膜上に配置された、肌の変色部位を目立ち難くするために用いられ、前記変色部位の色と補色の関係にある色材を含む補色層と、
前記補色層上に配置された、反射材料を含む光散乱層と、
前記光散乱層上に配置された、色材を含む着色層と、
前記着色層上に配置された、光沢剤を含む光沢層と、
を
この順に有する化粧用シート。
【請求項2】
前記光沢層が、前記着色層の全面を覆うように配置されている、
請求項1に記載の化粧用シート。
【請求項3】
前記光沢層が、前記着色層の一部領域のみ覆うように配置されている、
請求項1に記載の化粧用シート。
【請求項4】
前記光沢層が、最表層に配置されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の化粧用シート。
【請求項5】
前記光沢層の厚みが、10nm以上60μm以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の化粧用シート。
【請求項6】
肌に貼付する化粧用シートの製造方法であって、
一方の面が肌に貼付される薄膜の他方の面に、肌の変色部位を目立ち難くするために用いられ、前記変色部位の色と補色の関係にある色材を含む補色層を形成する工程と、
前記補色層上に、反射材料を含む光散乱層用インクを塗布して光散乱層を形成する工程と、
前記光散乱層上に、色材を含む着色層用インクを塗布して着色層を形成する工程と、
前記着色層上に、光沢剤を含む光沢層用インクを塗布して光沢層を形成する工程と、
を含む、化粧用シートの製造方法。
【請求項7】
前記着色層用インクおよび前記光沢層用インクが、炭素数3以上の高級アルコール、精製水、およびバインダをそれぞれ含み、
前記光沢層用インクにおける前記バインダおよび前記光沢層用インクにおける前記バインダが、共通の構造を有する化合物を含む、
請求項6に記載の化粧用シートの製造方法。
【請求項8】
前記光沢層用インクが、皮膜形成剤をさらに含む、
請求項6に記載の化粧用シートの製造方法。
【請求項9】
前記光沢層用インクにおける、前記皮膜形成剤の量が、0.1~10質量%である、
請求項8に記載の化粧用シートの製造方法。
【請求項10】
前記光沢層用インクが、分散剤をさらに含む、
請求項6に記載の化粧用シートの製造方法。
【請求項11】
前記光散乱層用インクの塗布、および前記着色層用インクの塗布をインクジェット印刷法で行う、
請求項6に記載の化粧用シートの製造方法。
【請求項12】
前記光沢層用インクの塗布を、スプレー法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、フレキソ印刷法、ゼログラフィ、転写、熱転写、シルクスクリーン印刷法、およびグラビア板を用いたリバースロールコーティング法から選ばれる少なくとも一種の方法で行う、
請求項6に記載の化粧用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は化粧用シートおよびその製造方法、化粧料インク、インクジェット印刷用インク、ならびに化粧用シートの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜に各種色材を含むインクを塗布し、これを人体に貼り付けて、肌に生じたシミや痣、傷跡(以下、「変色領域」とも称する)等を目立ち難くすることが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術では、肌を撮像し、変色領域を識別する。そして、変色領域の周囲の色と同様の色を薄膜に印刷し、これを肌に貼り付けることで、変色領域を目立ち難くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
特許文献1の技術では、薄膜上に濃い色調の塗膜を形成し、変色領域の色を隠蔽している。しかしながら、このように化粧用シートを作製すると、厚塗り感が生じやすく、化粧用シートを貼付した領域が目立ちやすい、という課題があった。
【0005】
また、化粧用シートを貼付した際に、ツヤ感や透明感があると、シートを貼付した領域の美観性が高まったり、化粧用シートを貼付していない領域との差が目立ちにくくなる。これに対し、所定の色の塗膜を形成するだけの特許文献1の技術では、ツヤ感や透明感を有する化粧用シートを得ることは困難であった。
【0006】
本開示の一態様は、貼付した際に、ツヤ感や透明感を有し、美観性に優れる化粧用シートの提供、およびその製造方法を提供する。
【0007】
本開示の一態様の化粧用シートは、肌に貼付する化粧用シートであって、一方の面が肌に貼付される薄膜と、前記薄膜上に配置された、肌の変色部位を目立ち難くするために用いられ、前記変色部位の色と補色の関係にある色材を含む補色層と、前記補色層上に配置された、反射材料を含む光散乱層と、前記光散乱層上に配置された、色材を含む着色層と、前記着色層上に配置された、光沢剤を含む光沢層と、を有する。
【0008】
本開示の一態様によれば、貼付した際に、ツヤ感や透明感を有し、美観性に優れる化粧用シートとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、化粧用シートを貼付しない場合の光の反射を説明する図である。
【
図1B】
図1Bは、化粧用シートを貼付した場合の光の反射を説明する図である。
【
図2】
図2は、本開示の化粧用シートの一実施形態を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.化粧用シート
本開示の化粧用シートは、肌の彩色や美化のために、肌に貼付するシートである。当該化粧用シートは、公知のメイク支援システム等を通じて、特定の個人の肌の変色部位に応じて作製された、特定の人が使用するためのシート(オンデマンドで作製されるシート)であってもよい。一方で、当該化粧用シートは、不特定多数の人の平均的な肌の色に合わせて作製された、不特定多数の人が使用するためのシート等であってもよい。当該化粧用シートは、肌の彩色等のためだけでなく、肌の変色部位の上に貼付することで、変色部位を目立たなくしたり、当該変色部位を装飾したりする用途にも用いることもできる。
【0011】
上述のように、従来、薄膜上に着色層が配置された化粧用シートが知られており、当該化粧用シートでは、着色層の色調を濃くすることで、肌本来の色を隠蔽し、化粧用シートを貼付した部分の色相や色調が所望の範囲となるように調整していた。しかしながら、単に着色層の色を濃くしただけでは、厚塗り感が生じやすく、化粧用シートを貼付したときに目立ちやすかった。また、このような化粧用シートでは、ツヤ感や透明感が少なく、より美観性の高い化粧用シートの提供が望まれていた。
【0012】
これに対し、本開示の化粧用シートでは、薄膜上に、光散乱層、着色層、および光沢層がこの順に積層されており、このような層構成とすることで、厚塗り感を生じさせることなく、化粧用シートを貼付した部分の色相や色調を所望の範囲とすることが可能である。また特に、当該化粧用シートは、ツヤ感や透明感に優れており、化粧用シートを貼付した部分の美観性を非常に高めることが可能である。その理由について、具体的に説明する。
【0013】
図1Aに、化粧用シートを貼付しない場合の光の反射を説明する図を示し、
図1Bに、本開示の化粧用シートを貼付した場合の光の反射を説明する図を示す。例えば
図1Aに示すように、肌510に化粧用シート50が貼付されていない場合、肌510表面で反射した光C1がそのまま視認される。
【0014】
これに対し、薄膜520、光散乱層522、着色層523、および光沢層524がこの順に積層された化粧用シート50を肌510に貼付した場合、化粧用シート50に入射する光C2のうちの大部分が光散乱層522表面で反射される(
図1B参照)。また、光散乱層522を透過し、肌510表面で反射された光C3は、化粧用シート50の表面に向かう際、光散乱層522で反射されたり、散乱されたりする。つまり、肌510表面まで、入射光C2が届き難く、届いたとしても、その反射光C3の多くは、化粧用シート50の表面に到達しない。したがって、肌510の色ムラや変色等が化粧用シート50表面側から視認され難い。また、このような光散乱層522の表面では、色ムラや濁りが少ない。したがって、この上に配置される着色層523の発色が非常に良好となり、着色層523の色調を濃くしなくとも、所望の色相や色調を再現することが可能となる。
【0015】
またさらに、本開示の化粧用シート50では、着色層523より表面側に、さらに光沢層524が配置されている。そのため、光沢層524表面に入射する光や、着色層523側から化粧用シート50の表面に向かう光が適度に散乱され、化粧用シート50を貼付した領域の光沢感が高まり、ツヤ感や透明感が発現する。その結果、化粧用シート50を貼付した領域の質感を、実際の肌510の質感に近づけたり、さらには美観性を高めたりすることが可能となる。
【0016】
なお、化粧用シートには、薄膜、光散乱層、着色層、および光沢層以外の層が含まれていてもよい。例えば、肌の変色部位に貼付するための化粧用シートには、薄膜と、光散乱層との間に、肌の変色部位の色と補色の関係にある色材を含む補色層が配置されていてもよい。以下、本開示の化粧用シートの各層について、詳しく説明する。
【0017】
1.薄膜
薄膜520は、人の肌に貼付しても違和感が無く、生体適合性を有するシート状部材であることが好ましい。また、本開示の目的および効果を損なわない範囲で着色されていてもよく、無色透明、または半透明であってもよい。
【0018】
このような薄膜520の厚さは、10nm~10μmであることが好ましく、10nm~1000nmであることがより好ましい。また特に、薄膜520が疎水性の性質を有する場合は、特に10nm~800nmであることが好ましい。薄膜520を平面視したときの形状は特に制限されず、例えば、矩形状とすることができる。また、化粧用シート50の貼付部位の形状や、着色層523のパターンに合わせた形状とすることもできる。さらに、薄膜520には、化粧用シート50の貼付部位の形状に適合するように、外周部および/または面内に切れ込みが形成されてもよい。
【0019】
なお、薄膜520は、スピンコート法もしくはロールツーロール法、LB法(ラングミュア・ブロジェット法)等で形成されるシートであってもよく、電界紡糸法等で生成されるファイバーが折り重なるファイバーシート等であってもよい。
【0020】
薄膜520の材料の例には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、またはこれらの共重合体に代表されるポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールに代表されるポリエーテル類;ナイロン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、またはこれらの塩に代表されるポリアミド類;プルラン、セルロース、デンプン、キチン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、コーンスターチに代表される多糖類またはこれらの塩;アクリルシリコーン、トリメチルシロキシケイ酸に代表されるシリコーン類;アクリル酸アルキル、アクリル酸シリコーン、アクリル酸アミドや、これらの共重合体に代表されるアクリル酸類;ポリビニルアルコール;ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリ酸無水物;ポリエチレン;ポリプロピレン;多孔質層コーティングシート、ナノファイバーシート、等が含まれる。薄膜520の材料は、ポリ乳酸、セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、デンプン、キチン、キトサン、アルギン酸、コーンスターチ、またはポリウレタンであることが、生体適合性や入手容易性、取り扱い性等の観点から好ましい。
【0021】
2.光散乱層
光散乱層522は、薄膜520上に配置される層であり、反射材料を少なくとも含む層である。光散乱層522は、薄膜520と隣接して配置されていてもよく、後述の補色層521等を介して、薄膜520上に配置されていてもよい。
【0022】
光散乱層522は、反射材料とバインダとを含む層等とすることができ、光散乱層522には、皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤等がさらに含まれていてもよい。光散乱層522は、一層からなるものであってもよく、二層以上から構成されていてもよい。光散乱層522が複数層から構成される場合、各層に含まれる反射材料の種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、各層に含まれる反射材料の量は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0023】
光散乱層522に含まれる反射材料は、紫外光および可視光(例えば、波長200~780nmの光)を散乱もしくは反射する粒子であればよく、例えば、パール剤や、ソフトフォーカス剤、ラメ剤等とすることができる。パール剤、ソフトフォーカス剤、およびラメ剤は、皮膚刺激性がないものであることが好ましい。
【0024】
パール剤の例には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、硫酸バリウム等の白色顔料;タルク、白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、合成雲母、絹雲母(セリサイト)、合成セリサイト、カオリン、炭化珪素、ベントナイト、スメクタイト、無水ケイ酸、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、珪ソウ土、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、窒化ホウ素等の白色体質粉体;ホウケイ酸カルシウムアルミニウム、二酸化チタン被覆雲母、二酸化チタン被覆ガラス末、二酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、二酸化チタン被覆マイカ、二酸化チタン被覆タルク、酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、酸化鉄被覆ガラス末、紺青処理雲母チタン、カルミン処理雲母チタン、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末、ポリエチレンテレフタレート・ポリオレフィン積層フィルム末等の光輝性粉体;N-アシルリジン等の有機低分子性粉体;アルミニウム粉、金粉、銀粉等の金属粉体;微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体;非架橋アクリル粒子等;が含まれる。
【0025】
また、ソフトフォーカス剤の例には、カポック繊維;ポリメタクリル酸メチルクロスポリマー;ポリメタクリル酸メチル;(アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル)クロスポリマー;シルク粉末、セルロース粉末等の天然有機粉体;等が含まれる。
【0026】
ラメ剤の例には、ホウケイ酸カルシウムアルミニウム、二酸化チタン被覆雲母、二酸化チタン被覆ガラス末、二酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、二酸化チタン被覆マイカ、二酸化チタン被覆タルク、酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、酸化鉄被覆ガラス末、紺青処理雲母チタン、カルミン処理雲母チタン、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末、ポリエチレンテレフタレート・ポリオレフィン積層フィルム末等の光輝性粉体;等とすることができる。また、ラメ剤は、屈折率の異なる複数の樹脂、例えばポリメチルメタクリレートからなる薄膜と、ポリエチレンテレフタレートからなる薄膜とを100層程度積層することにより、干渉色によってパール光沢を持たせた粉末等であってもよい。
【0027】
光散乱層522には、反射材料が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。これらの中でも、肌510の色が(後述の補色層521が形成されている場合には、補色層521の色も)視認され難くなる等の観点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化アルミニウム、および酸化マグネシウムが好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化セリウムが特に好ましい。また、光散乱層522には、必要に応じて蛍光剤やスワロフスキー、ビーズ、スパンコール、真珠等が含まれていてもよい。
【0028】
上記反射材料の形状は特に制限されず、球状であってもよく、板状や針状等であってもよい。ただし、反射材料の平均粒子径は125nm以上2μm以下であることが好ましい。平均粒子径が125nm以上であると、肌510の色等が視認され難くなる。上記平均粒子径は、レーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)である。なお、反射材料の平均粒子径は、平均粒子径(D50)が125nm以上1000nm以下であることがより好ましく、平均粒子径(D50)が125nm以上1000nm以下、かつ当該粒度分布の積算値の90%の値(D90)が3000nm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
一方、光散乱層522に含まれるバインダの例には、(メタ)アクリル酸アルキル重合体、スチレン・(メタ)アクリル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリルアルキル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルジメチコン重合体等の(メタ)アクリル系樹脂;酢酸ビニル重合体;ビニルピロリドン・スチレン共重合体;等からなる粒子が含まれる。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル、またはアクリルとメタクリルとの混合体を表すものとする。
【0030】
また、バインダの形状は特に制限されないが、粒子状であることが好ましく、特に(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子(以下、単に「アクリル系粒子」とも称する)であることが好ましい。バインダが、アクリル系粒子からなると、上述の反射材料の定着性が良好になりやすく、光散乱層522の耐久性が良好になりやすい。バインダは、皮膚刺激性のない(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子であることがさらに好ましい。そこで、上記アクリル系粒子は、日本の薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載のある成分や、EU化粧品規制(Cosmetics Directive 76/768/EEC)に則った成分、米国CTFA(Cosmetic,Toiletry & Fragrance Association,U.S.)によるInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(2002年1月1日、9th版)に記載されている成分等から選択されることが好ましく、公知の化粧料等に適用されているアクリル系樹脂の粒子とすることが好ましい。
【0031】
アクリル系粒子を構成する(メタ)アクリル系樹脂の具体例には、(メタ)アクリル系モノマーの単独重合体や、二種以上の(メタ)アクリル系モノマーの共重合体、(メタ)アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体等が含まれる。
【0032】
上記(メタ)アクリル系モノマーの例には、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸アミド、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸アミド、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ハイドロキシエチル、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート等が含まれる。
【0033】
また、上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマーの例には、スチレン、酢酸ビニル、シリコーンマクロマー、フッ素系モノマー、アルコキシシラン不飽和単量体等が含まれる。
【0034】
ここで、バインダが粒子状である場合、その平均粒子径は、30nm~150nmであることが好ましい。上記平均粒子径は、レーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)である。また、平均粒子径(D50)が30nm~150nm、かつ当該粒度分布の積算値の90%の値(D90)が250nm以下であることがさらに好ましい。バインダの平均粒子径が当該範囲であると、反射材料の定着性が高まる。
【0035】
光散乱層522に含まれるバインダの量は、上記反射材料の量を10質量部としたとき、0.5~10質量部であることが好ましく、1.5~5.7質量部であることがより好ましい。反射材料の量に対するバインダの量が上記範囲であると、反射材料の定着性が高まる。また、バインダの量が当該範囲であると、相対的に反射材料の量が十分になりやすく、光散乱層522によって、十分に光を反射したり散乱させたりすることができる。
【0036】
なお、光散乱層522に含まれる皮膜形成剤や、分散剤、各種添加剤については、後述の化粧料インクの項で詳しく説明するため、ここでの説明は省略する。
【0037】
光散乱層522の厚さは、10nm~120μmであることが好ましく、10nm~100μmであることがより好ましい。光散乱層522の厚みが当該範囲であると、肌510の表面で反射された光が(後述の補色層521が形成されている場合には、補色層521表面で反射された光も)光散乱層522で十分に反射されやすくなる。
【0038】
3.着色層
着色層523は、光散乱層522の上に配置された、色材を含む層であり、例えば色材とバインダとを含む層等とすることができる。着色層523にも、皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤等が含まれていてもよい。上記光散乱層522上に、着色層523によって肌色、もしくは所望の色を重ねることで、化粧用シート50の表面から正常な肌色もしくは所望の色が観察される。
【0039】
着色層523の色は通常、肌に合わせた色とすることができるが、化粧用シート50を、チーク、アイシャドウまたはボディペインティングなど、化粧用品として使用する場合は、任意の色とすることができる。また、化粧用シート50では、着色層523全体が同一の色、すなわち化粧用シート50の色が全て均一であってもよいが、着色層523の一部に、色が異なる領域が配置されていてもよい。
【0040】
また、着色層523は、一層からなるものであってもよく、二層以上から構成されていてもよい。着色層523が複数層から構成される場合、各層に含まれる色材の種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、各層に含まれる色材の量は同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、肌色の着色層の上に、任意の色の着色層が積層されたような構成であってもよい。
【0041】
着色層523の色や明度は、着色層523に含まれる色材の組み合わせ等によって調整することが可能である。例えば、白色、赤色、および黄色の色材に、さらに青色や黒色の色材等を組み合わせることで、着色層の色や明度が所望の範囲に調整されやすくなる。
【0042】
着色層523に含まれる色材の例には、酸化鉄、水酸化鉄等のチタン酸鉄等の無機赤色顔料;γ-酸化鉄等の無機褐色系顔料;黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料;黒酸化鉄、カーボンブラック等の無機黒色顔料;マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色顔料;水酸化クロム、酸化クロム、酸化コバルト、チタン酸コバルト等の無機緑色顔料;紺青(フェロシアン化第二鉄)、群青(ウルトラマリン青)、瑠璃、岩群青、アルミ-コバルト酸化物、アルミ-亜鉛-コバルト酸化物、ケイ素-コバルト酸化物、ケイ素-亜鉛-コバルト酸化物、コバルト顔料、花紺青、コバルト青、錫酸コバルト、コバルトクロム青、コバルト-アルミニウム-ケイ素酸化物、マンガン青等の無機青色系顔料;インディゴ、フタロシアニン、インダンスレンブルー、およびこれらのスルホン化物等の有機青色顔料もしくは青色染料;各種タール系色素をレーキ化したもの、各種天然色素をレーキ化したもの、これらの粉体を複合化した合成樹脂粉体等が含まれる。
【0043】
一方、着色層523に含まれるバインダは、上述の光散乱層522に含まれるバインダと同様とすることができる。また、着色層523に含まれるバインダの量は、上記色材の量を10質量部としたとき、0.5~10質量部であることが好ましく、1.5~5.7質量部であることがより好ましい。色材の量に対するバインダの量が上記範囲であると、色材の定着性が高まる。また、バインダの量が上記範囲であると、相対的に色材の量が十分になりやすく、着色層523を所望の色とすることができる。
【0044】
着色層523の厚さは、所望の色の濃さ等に合わせて適宜選択されるが、10nm~15μmであることが好ましく、10nm~3μmであることがより好ましい。着色層の厚みが当該範囲であると、厚塗り感を生じさせることなく、所望の発色が得られやすくなる。なお、着色層523を複数積層する場合、これらの合計の厚みが、当該範囲であることが好ましい。
【0045】
4.光沢層
光沢層524は、着色層523の上に配置された、光沢剤を含む層であり、例えば光沢剤とバインダとを含む層等とすることができる。光沢層524にも、皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤等が含まれていてもよい。光沢層524において、光沢剤524が光を散乱させたり反射させたりすることで、化粧用シート50を貼り合わせた領域に、ツヤ感や透明感を付与することが可能となる。なお、光沢層524は、化粧用シート50の最表層、すなわち薄膜520と反対側の表面に配置されていることが好ましい。
【0046】
光沢層524は、着色層523の全面を覆うように形成されていてもよく、一部の領域のみを覆うように形成されていてもよい。光沢層524が、一部の領域にのみ配置されている場合、光沢層524が配置された箇所がハイライト等として作用し、化粧用シート50を貼付した領域を立体的に見せたり、一部を明るく見せたりすることが可能となる。
【0047】
なお、光沢層524は、一層からなるものであってもよく、二層以上から構成されていてもよい。光沢層524が複数層から構成される場合、各層に含まれる光沢剤の種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、各層に含まれる光沢剤の量は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0048】
光沢層524に含まれる光沢剤は、紫外光および可視光(例えば、波長200~780nmの光)を散乱もしくは反射する粒子とすることができる。光沢剤の例には、白色顔料、パール剤、ソフトフォーカス剤、ラメ剤、その他発光/光沢材料等とすることができ、これらは、皮膚刺激性がないものであることが好ましい。
【0049】
パール剤、ソフトフォーカス剤、およびラメ剤は、上述の光散乱層522に含まれるパール剤、ソフトフォーカス剤、およびラメ剤等と同様とすることができる。一方、その他発光/光沢材料の例には、蛍光剤やスワロフスキー、ビーズ、スパンコール、真珠等が含まれる。
【0050】
光沢層524には、これらが一種のみ含まれていてもよく、二種以上が含まれていてもよい。また、光沢剤の形状は特に制限されず、球状や多角柱状、鱗片状等、いずれの形状であってもよい。さらに、光沢剤の平均粒子径は、10nm~10μmであることが好ましい。上記平均粒子径は、レーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)である。なお、光沢剤の平均粒子径は、平均粒子径(D50)が20nm以上6μm以下であることがより好ましく、平均粒子径(D50)が20nm以上4μm以下であることがより好ましい。また、当該粒度分布の積算値の90%の値(D90)が10μm以下であることがさらに好ましい。
【0051】
一方、光沢層524に含まれるバインダは、上述の光散乱層522に含まれるバインダと同様とすることができる。ここで、光沢層524におけるバインダ、および着色層523におけるバインダは、共通の構造を有する化合物を含んでいることが好ましく、同一の化合物を含んでいることが特に好ましい。本明細書において「共通の構造を有する化合物」とは、骨格や官能基が共通する化合物をいう。光沢層524におけるバインダと着色層523におけるバインダが、共通の構造を有すると、着色層523上に光沢層524を形成する際、光沢層524を形成するための光沢層用インクが十分に濡れ広がりやすくなる。その結果、所望の領域に光沢層524をムラ無く形成することが可能となる。また、これらのバインダが相互作用することで、光沢層524と着色層523との密着性が非常に良好になりやすい。
【0052】
なお、光沢層524に含まれるバインダの量は、上記光沢剤の量を10質量部としたとき、0.5~10質量部であることが好ましく、1.5~5.7質量部であることがより好ましい。光沢剤の量に対するバインダの量が上記範囲であると、光沢剤の定着性が高まる。また、バインダの量が上記範囲であると、光沢剤の光の反射や散乱を妨げにくく、所望のツヤ感や透明感が得られやすくなる。
【0053】
光沢層524の厚さは、所望の効果に合わせて適宜選択されるが、10nm~60μmであることが好ましく、1μm~50μmであることがより好ましい。光沢層524の厚みが当該範囲であると、所望のツヤ感や透明感が得られやすくなる。なお、光沢層524を複数積層する場合、これらの合計の厚みが、当該範囲であることが好ましい。
【0054】
5.補色層
前述のように、本開示の化粧用シート50を、肌510の変色部位に貼付する場合、
図2の模式断面図に示すように、薄膜520と光散乱層522との間に補色層521が配置されていてもよい。補色層521は、変色部位と補色の関係にある色材とバインダとを含む層とすることができる。補色層521にも、皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0055】
本明細書において、補色の関係にある色とは、色度図において白色点を通る直線上で、白色点を間に相向きあう2つの色である。言い換えれば、適当な割合で混合すれば無彩色(白色、灰色、または黒色)に見える異なった2色を互いに補色の関係という。また、スペクトルの一部の色Aを遮ったとき、残りの光を集めた色Bが、色Aと補色の関係となる。例えば、変色領域の色が、赤~橙、橙~黄、もしくは明度を下げた茶色である場合には、補色層を緑~青の色調を有する層とすることができる。なお、本明細書において、変色領域の色と「補色の関係にある色調」には、変色領域の完全な補色だけでなく、それに近似する色も含むものとする。
【0056】
なお、肌の変色部位の例には、色素斑、肝斑、扁平母斑、色素細胞性母斑、太田母斑、後天性真皮メラノサイトーシス、紅斑、紫斑、白斑、青あざ、ほくろ、毛穴の黒ずみ、日焼け領、域、ざ瘡(ニキビ)、ニキビ痕、摩擦や炎症による色素沈着、しわ、雀卵斑(そばかす)、タトゥー、疣贅、瘢痕等が含まれる。
【0057】
化粧用シート50に、補色層521が配置されていると、肌510の変色領域で反射する光と、補色層521の反射光とが干渉し、変色領域の反射光が無彩色化される。また一般的には、変色部位と補色の関係にある色(例えば青色等)の層を形成すると、当該色が表面側から視認されやすく、化粧用シートの色を所望の色とすることが難しい。しかしながら、補色層521を薄膜520と光散乱層522との間に配置することで、補色層521表面で反射した光は、光散乱層522により散乱されたり反射されたりする。したがって、本開示の化粧用シート50では、補色層521がいずれの色の層であったとしても、化粧用シート50の表面側から視認され難く、化粧用シート50の色相や色度を所望の範囲とすることが可能となる。
【0058】
ここで、補色層521は、一層からなるものであってもよく、二層以上から構成されていてもよい。補色層521が複数層から構成される場合、各層に含まれる色材の種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、各層に含まれる色材の量は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0059】
補色層521に含まれる色材は、着色層523に含まれる着色材と同様とすることができる。補色層521には、色材が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。また、これらの色材の形状は特に制限されず、例えば針状形状、不定形、球状形状、および、板状形状など、いずれの形状であってもよい。
【0060】
また、そのレーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)は、125nm以上2μm以下であることが好ましく、125nm~1000nmであることがより好ましい。さらに、平均粒子径(D50)が125nm~1000nm、かつ当該粒度分布の積算値の90%の値(D90)が3000nm以下であることがさらに好ましい。色材の粒度分布の平均粒子径(D50)が上記範囲であると、補色層521の厚みを所望の範囲とすることができ、上述のように補色層521の色が視認され難くなる。
【0061】
一方、補色層521に含まれるバインダは、上述の光散乱層522に含まれるバインダと同様とすることができる。また、補色層521に含まれるバインダの量は、上記着色材の量を10質量部としたとき、0.5~10質量部であることが好ましく、1.5~5.7質量部であることがより好ましい。色材の量に対するバインダの量が上記範囲であると、色材の定着性が高まる。また、バインダの量が上記範囲であると、相対的に色材の量が十分になりやすく、補色層521を所望の色とすることができる。
【0062】
ここで、補色層521の厚みは、0.1~6μmであることが好ましく、0.1~1μmであることがより好ましい。補色層521の厚みが当該範囲であると、肌510の変色領域上に化粧用シート50を貼付した場合に、変色領域の色が、無彩色化されやすい。なお、補色層521が、複数からなる場合、これらの合計の厚みが、当該範囲であることが好ましい。
【0063】
6.その他の構成
化粧用シート50には、本開示の目的および効果を損なわない範囲で、上述の薄膜520、光散乱層522、着色層523、光沢層524、および補色層521以外の層が含まれていてもよい。例えば、着色層523と光散乱層524との間に、吸湿剤が含まれ、化粧用シート50の表面側の湿度を制御し、快適性を高めるための吸湿層等が配置されていてもよい。吸湿剤の例には、真球状シリカ、多孔質アクリル粒子、ナイロン6(ポリアミド6)等が含まれる。
【0064】
また、上記では、薄膜520/光散乱層522/着色層523/光沢層524の順に積層されている態様、もしくは薄膜520/補色層521/光散乱層522/着色層523/光沢層524の順に積層されている態様を説明したが、例えば、光散乱層522と着色層523とが繰り返し積層された構造の上に、光沢層524が配置されていてもよい。また、補色層521と光散乱層522とが繰り返し積層された構造の上に、着色層523や光沢層524が配置されていてもよい。いずれの構成においても、最表層には、上述の光沢層524が配置されていることが好ましい。これにより、化粧用シート50の貼付部位にツヤ感や透明感を付与することが可能となる。
【0065】
7.化粧用シートの製造方法
上述の化粧用シートの製造方法について、以下説明する。例えば、一方の面が肌に貼付される薄膜(上述の薄膜)の他方の面に、反射材料を含む光散乱層用インクを塗布して光散乱層を形成する工程と、当該光散乱層上に、色材を含む着色層用インクを塗布して着色層を形成する工程と、光沢剤を含む光沢層用インクを塗布して光沢層形成工程と、を行うことで、上述の化粧用シートを作製することができる。なお、補色層を形成する場合、光散乱層を形成する前に、色材を含む補色層用インクを塗布して補色層を形成する工程を行う。
【0066】
ここで、光散乱層の形成工程で塗布する光散乱層用インクは、反射材料を含むインクであればよく、例えば上述の反射材料と、上述のバインダと、高級アルコールと、精製水と、を含むインクとすること等ができる。また当該インクには、必要に応じて皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0067】
また、着色層の形成工程で塗布する着色層用インクは、色材を含むインクであればよく、例えば上述の色材と、上述のバインダと、高級アルコールと、精製水と、を含むインクとすること等ができる。また当該インクには、必要に応じて皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0068】
さらに、光沢層の形成工程で塗布する光沢層用インクは、光沢剤を含むインクであればよく、例えば上述の光沢剤と、上述のバインダと、高級アルコールと、精製水と、を含むインクとすること等ができる。また当該インクには、必要に応じて皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤が含まれていてもよい。
【0069】
また、補色層の形成工程で塗布する補色層用インクは、色材を含むインクであればよいが、例えば上述の色材と、上述のバインダと、高級アルコールと、精製水と、を含むインクとすること等ができる。また当該インクには、必要に応じて皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤が含まれていてもよい。
【0070】
なお、上記光散乱層用インク、着色層用インク、光沢層用インク、および補色層用インクとして、それぞれ異なるインクを準備して、各工程で塗布してもよいが、光散乱層用インク、着色層用インク、光沢層用インク、および補色層用インクとして共通のインクを準備し、これらを各工程で塗布してもよい。具体的には、白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、黒色インク等を準備し、これらを適宜組み合わせて所望の層を形成してもよい。化粧用シートの種類によっては、白色インクを、光散乱層用インクおよび光沢層用インクとして用いることが可能である。
【0071】
ここで、化粧用シートを作製する際に、光散乱層用インク、着色層用インク、光沢層用インク、および補色層用インク(以下、これらをまとめて化粧料インクとも称する)を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法とすることができる。補色層用インク、光散乱層用インク、および着色層用インクの塗布方法の例には、インクジェット印刷法や、スクリーン印刷法、オフセット印刷、グラビア印刷等が含まれる。これらの中でも、オンデマンド印刷を行いやすかったり、化粧料インクを複数回に亘って塗布する、積層印刷を行うことができる等の観点から、インクジェット法が好ましい。
【0072】
例えば、化粧料インクをインクジェット法で塗布する場合のインクジェット装置は特に制限されず、公知のピエゾ方式、サーマル方式、静電方式のいずれの装置を用いることが可能である。これらの中でも、ピエゾ素子方式のインクジェット装置であることが、サーマルインクジェット方式のような加熱が不要であるという点で好ましい。
【0073】
また、化粧料インクは、上記各工程で各層を形成する際、一回のみ塗布してもよく、二回以上塗布してもよい。なお、化粧料インクを上記各工程で複数回塗布する場合、化粧料インクを一回塗布する毎に、乾燥させてもよく、複数回塗布した後、乾燥させてもよい。
【0074】
一方、光沢層用インクには、比較的粒径の大きい粒子が含まれることもある。そこで、光沢層用インクの塗布方法は、光沢層用インクに含まれる粒子の粒径や、光沢層用インクの塗布パターン等に合わせて、適宜選択される。光沢層用インクの形成方法の例には、インクジェット印刷法や、スクリーン印刷法、オフセット印刷、グラビア印刷だけでなく、スプレー印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、ゼログラフィ、転写、熱転写、シルクスクリーン印刷、およびグラビア板を用いたリバースロールコーティング等も含まれる。
【0075】
上記光散乱層用インク、着色層用インク、光沢層用インク、および補色層用インクは、別々の装置から塗布してもよいが、同一の装置から塗布してもよい。例えば、光散乱層用インク、着色層用インク、および補色層用インクをインクジェット印刷法で塗布し、光沢層用インクをスプレー印刷法で塗布する場合、各化粧料インクを収容するためのインクタンクと、当該インクタンクに接続されたインクジェットノズルと、当該インクタンクに接続されたスプレーノズルと、を備える装置によって、各化粧料インクを塗布してもよい。なお、薄膜を所定の位置に固定して、上記インクジェットノズルによる化粧料インクの塗布や、スプレーノズルによる化粧料インクの塗布を行ってもよいが、薄膜を一定方向に移動させながら、インクジェットノズルやスプレーノズルから化粧料インクを順次塗布してもよい。このような装置としては、例えば薄膜を搬送するための搬送部と、当該搬送手段によって搬送される薄膜に化粧料インクを塗布するためのインクジェット印刷部と、インクジェット印刷部より薄膜の搬送方向下流側に配置され、インクジェット装置によって形成された塗膜(補色層や光散乱層、着色層等)上に、さらに光沢層用インクを塗布するためのスプレー印刷部とを備える装置等とすることができる。なお、当該装置には、インクジェット印刷部やスプレー印刷部で形成された塗膜を乾燥させるための加熱部等を備えていてもよい。
【0076】
また、上記各化粧料インクを乾燥させる方法は、化粧料インク中の溶媒(例えば後述の高級アルコールや精製水等)を除去することが可能な方法であれば特に制限されない。例えば、大気圧下、室温で乾燥させる方法であってもよく、所定の温度に加熱および/または減圧して乾燥させる方法であってもよい。加熱を行う場合、例えば25~50℃に加熱することが好ましい。当該範囲であれば、上述の薄膜や化粧料インク中の固形分を劣化させることなく、効率良く乾燥させることができる。一方、減圧する場合、-0.1~0MPa減圧することが好ましい。当該範囲減圧することで、効率良く化粧料インクを乾燥させることができる。乾燥時間は、化粧料インクの種類等に応じて適宜選択される。
【0077】
なお、化粧料インクを乾燥させるタイミングは特に制限されず、例えば全ての化粧料インク(補色層用インク、光散乱層用インク、着色層用インク、および光沢層用インク)を塗布し終えた後に、上記方法で乾燥させてもよい。また、各化粧料インクを塗布するごとに乾燥させてもよい。
【0078】
・化粧料インクの調製方法
上述の各化粧料インクは、色材や反射材料、光沢剤、バインダ、高級アルコール、および精製水等と、必要に応じて他の成分とを分散機で混合すること等により得られる。各成分の混合は、公知のボールミル、サンドミル、ロールミル、ホモミキサー、アトライターなど分散機等で行うことができる。以下、上記化粧料インクに共通して含まれる高級アルコール、精製水、皮膜形成剤、分散剤、および各種添加剤について説明する。
【0079】
(高級アルコール)
高級アルコールは、炭素数が3以上であり、精製水と相溶する高級アルコールであれば特に制限されない。高級アルコールは化粧料インクの溶媒としての機能を果たす。なお、高級アルコールは、化粧料インクの塗布後、薄膜に吸収されたり、揮発したりする。
【0080】
高級アルコールの炭素数は、3~5であることが好ましく、3または4であることがより好ましい。高級アルコールの炭素数が当該範囲であると、精製水と相溶しやすくなる。
【0081】
また、高級アルコールには、3価のアルコールが含まれることが好ましい。高級アルコールとして、3価のアルコールが含まれると、各種印刷装置内部で、高級アルコールや精製水が過度に揮発し難くなる。その結果、安定して印刷装置から印刷することが可能となる。またこの場合、化粧料インクの粘度が一定に保持されるため、安定して所望の画像を形成することが可能となる。
【0082】
ここで、3価のアルコールは、皮膚刺激性がないものであれば特に制限されないが、グリセリンであることが好ましい。グリセリンは生体安全性が高い。また、化粧料インクにグリセリンが含まれると、色材や反射材料、光沢剤等の凝集が抑制されやすく、化粧料インクを長期間保存しても、インクの増粘等が生じ難くなる。
【0083】
一方で、高級アルコールには、2価のアルコールや1価のアルコールが含まれていてもよい。2価のアルコールの例には、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール等が含まれる。1価のアルコールの例には、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール等が含まれる。これらの中でも、好ましくは2価のアルコールであり、特にプロピレングリコールが好ましい。2価のアルコールは、精製水や3価のアルコールより粘度が低く、さらに表面張力が低い。したがって、化粧料インクに2価のアルコールが含まれると、化粧料インクの薄膜等に対する濡れ性が良好になり、得られる画像にムラが生じ難くなる。
【0084】
上記各化粧料インク100質量部に含まれる高級アルコールの総量は、20質量部以下であることが好ましく、10~20質量部であることがより好ましい。高級アルコール量が過剰になると、色材や反射材料、光沢剤等が凝集しやすくなる傾向がある。これに対し、高級アルコール量が20質量部以下であれば、反射材料や色材、光沢剤等の凝集等が生じ難く、化粧料インクを各種印刷装置から安定して吐出させることが可能となる。
【0085】
また、化粧料インク100質量部に対する3価のアルコールの量は、化粧料インクの印刷方法に応じて適宜選択される。例えば、化粧料インクをインクジェット装置から印刷する場合には、その量が20質量部以下であることが好ましく、10~20質量部であることがより好ましい。3価のアルコール量が上記範囲であると、化粧料インクにおいて、高級アルコールや精製水の揮発性が適度に調整されて、化粧料インクをインクジェット装置から安定して吐出させやすくなる。
【0086】
さらに、化粧料インク100質量部に対する2価のアルコールの量も、化粧料インクの印刷方法に応じて適宜選択される。例えば、化粧料インクをインクジェット装置から印刷する場合には、その量が20質量部以下であることが好ましく、10~20質量部であることがより好ましい。2価のアルコール量が上記範囲であると、化粧料インクの粘度が所望の範囲に収まりやすくなる。
【0087】
(精製水)
精製水も化粧料インクの溶媒としての機能を果たし、化粧料インクの印刷後、薄膜に吸収されたり、揮発したりする。
【0088】
精製水は、化粧料に一般的に用いられるものであれば特に制限されず、蒸留やイオン交換等、各種方法によって精製した水であってもよく、例えば温泉水、深層水、植物の水蒸気蒸留水等であってもよい。
【0089】
化粧料インク100質量部に対する精製水の量は、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。
【0090】
(皮膜形成剤)
皮膜形成剤は、化粧料インクの皮膜形成性(例えば乾燥性等)を高めるための化合物である。本明細書では、「皮膜形成剤」は、室温で水分散可能な化合物とする(ただし、上述のバインダに相当する成分は除く)。化粧料インクには、皮膜形成剤が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0091】
皮膜形成剤は、高級アルコールおよび/または精製水に分散もしくは溶解可能な化合物とすることができ、例えばアクリル系ポリマー、多糖類系ポリマー、糖アルコール、ステロール類、エスエル類、および変性コーンスターチからなる群から選ばれる、一種以上の化合物とすることができる。化粧料インクには、皮膜形成剤が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。皮膜形成剤が、上記群から選ばれる化合物であると、化粧料インクから形成される塗膜の乾燥が非常に早くなる。
【0092】
ここで、皮膜形成剤のHLB値は、8以上であることが好ましく、8~19であることがより好ましい。皮膜形成剤のHLB値が8以上であると、皮膜形成剤が、高級アルコールや精製水等に均一に分散もしくは溶解されやすくなる。HLB値とは、油-水系で両液体に対する相対的親和力の比を表す指標であり、一般にHLB値の大きいものは、水に対する親和性が高い。なお、本明細書におけるHLB値はグリフィン法より算出される値とする。
【0093】
皮膜形成剤も、皮膚刺激性のない材料であることが好ましく、上記アクリル系ポリマーの例には、アクリル酸アルキルコポリマー、アクリル酸アルキルコポリマーの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール塩(以下、「AMP」とも称する)、アクリル酸アルキルコポリマーのナトリウム塩(以下、「Na」とも称する)、アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、アクリル酸・アクリル酸アルキルコポリマー、アクリル酸アルキル・ジアセトンアクリルアミドコポリマー、アクリル酸アルキル・ジアセトンアクリルアミドコポリマーAMP、アクリル酸アルキル・ジアセトンアクリルアミドコポリマーの2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール塩(以下、「AMPD」とも称する)、アクリル酸ヒドロキシエチル・アクリル酸メトキシエチルコポリマー、アクリル酸ヒドロキシエチル・アクリル酸ブチル・アクリル酸メトキシエチルコポリマー、アクリレーツ・アクリル酸アルキル(炭素数1~18)・アルキル(炭素数1~8)アクリルアミドコポリマーAMP、アクリル酸アルキル・オクチルアクリルアミドコポリマー、アクリレーツ・t-ブチルアクリルアミドコポリマー、アクリレーツ・アクリル酸エチルヘキシルコポリマー、アクリレーツコポリマー、アクリレーツコポリマーAMP、アクリレーツコポリマーNa、ポリウレタン-14・アクリレーツコポリマーAMP、酢酸ビニル・マレイン酸ブチル・アクリル酸イソボロリルコポリマー、スチレン・アクリル酸アルキルコポリマー、スチレン・アクリレーツコポリマー、スチレン・アクリル酸アミドコポリマー、ポリウレタン-1(INCI名:POLYURETHANE-1で表記される化合物)、ポリアクリレート-22(INCI名:POLYACRYLATE-22で表記される化合物)、トリコンタニルポリビニルピロリドン(PVP)、(エイコセン/ビニルピロリドン)コポリマー、(ビニルピロリドン/ヘキサデセン)コポリマー等が含まれる。
【0094】
また、多糖類系ポリマーの例には、アラビアガム、グルカン、サクシノグリカン、カラギーナン、カラヤガム、トラガカントガム、グアガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナンガム、キサンタンガム、デンプン、キャロブガム、クインスシード(マルメロ)、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、ペクチン酸ナトリウム、アラギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]グアガム、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ローカストビーンガム、塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムでんぷん、グリセリルグルコシド、グリコシルトレハロース、シロキクラゲ多糖体、イソステアリン酸デキストリン等が含まれる。
【0095】
糖アルコールの例には、ソルビトール、マルチトール、グルコース等が含まれる。ステロール類は、ステロール骨格を有する化合物であればよく、その例には、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、22-デヒドロカンペステロール、スティグマステロール、スチグマスタノール、22-ジヒドロスピナステロール、22-デヒドロスチグマスタノール、7-デヒドロスチグマステロール、シトステロール、チルカロール、オイホール、フコステロール、イソフコステロール、コジステロール、クリオナステロール、ポリフェラステロール、クレロステロール、22-デヒドロクレロステロール、フンギステロール、コンドリラステロール、アベナステロール、ベルノステロール、ポリナスタノール等のフィトステロール;コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレスタノール、コプロスタノール、エピコプロステロール、エピコプロスタノール、22-デヒドロコレステロール、デスモステロール、24-メチレンコレステロール、ラノステロール、24,25-ジヒドロラノステロ-ル、ノルラノステロ-ル、スピナステロール、ジヒドロアグノステロール、アグノステロール、ロフェノール、ラトステロール等の動物性ステロール;デヒドロエルゴステロール、22,23-ジヒドロエルゴステロール、エピステロール、アスコステロール、フェコステロール等の菌類性ステロール;およびこれらの水添物等が含まれる。
【0096】
エスエル類の例には、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、テトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル、(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル等のジペンタエリトリット脂肪酸エステル;ステアリン酸硬化ヒマシ油、イソステアリン酸硬化ヒマシ油、ヒドロキシステアリン酸硬化ヒマシ油等の硬化ヒマシ油脂肪酸エステル;ヒドロキシステアリン酸コレステリル等のコレステロール脂肪酸エステル;オレイン酸フィトステリル、マカデミアンナッツ油脂肪酸フィトステリル等のフィトステロール脂肪酸エステル;水添ヤシ油、水添パーム油等の水添植物油;ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステリル/セチル/ステアリル/ベヘニル);ペンタヒドロキシステアリン酸スクロース;ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)等が含まれる。
【0097】
変性コーンスターチは、本開示の目的および効果を損なわない範囲において、コーンスターチを任意の化合物で変性した化合物とすることができ、例えば、コーンスターチに3-(ドデセニル)ジヒドロ2,5-フランジオンを反応して得られるヒドロキシプロピル変性デンプン等とすることができる。
【0098】
上記の中でも、化粧料インクの乾燥性が良好になるとの観点から、アクリレーツコポリマー、アクリレーツ(アクリル酸エチルヘキシル)コポリマー、ポリウレタン-14・アクリレーツコポリマーAMP、アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)・水添ロジン酸トリグリセリル、キサンタンガムクロスポリマー・ヒドロキシエチルセルロース、シロキクラゲ多糖体、変性コーンスターチ、イソステアリン酸デキストリンが好ましく、アクリレーツコポリマー、アクリレーツ(アクリル酸エチルヘキシル)コポリマー、ポリウレタン-14・アクリレーツコポリマーAMP、アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)・水添ロジン酸トリグリセリル、キサンタンガムクロスポリマー・ヒドロキシエチルセルロース、シロキクラゲ多糖体がより好ましい。
【0099】
なお、化粧料インク100質量部に含まれる皮膜形成剤の量は、20質量部以下であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましく、0.3~5質量部であることがさらに好ましい。皮膜形成剤の量が0.1質量部以上であると、上述のように、化粧料インクの乾燥性が良好になる。一方、皮膜形成剤の量が過度に多いと、化粧料インクの粘度が過度に高くなることがあるが、20質量部以下であれば、化粧料インクを、各種印刷法により印刷しやすい粘度とすることができる。
【0100】
また、化粧料インク調製の際、通常、皮膜形成剤は溶媒に溶解した溶液の状態で、色材や反射材料、光沢剤、バインダ、高級アルコール、精製水等と混合される。このときに用いられる溶媒についても、皮膚刺激性がない溶媒であることが好ましく、上述の高級アルコールや水であることが好ましい。
【0101】
なお、本開示の目的および効果を損なわない範囲において、化粧料インクには、反射材料や色材、光沢剤等を、被印刷体に結着するための水溶性ポリマー(上述の皮膜形成剤に相当しないポリマー)等をさらに含んでいてもよい。
【0102】
(分散剤)
分散剤は、化粧料インク中の各成分を均一に分散させたり、分散状態を長期間に亘って維持するために添加される成分である。分散剤は、このような機能を発揮することが可能であれば、その種類は特に制限されない。ここで、化粧料インクにおいて、特に色材や反射材料、光沢剤(以下、これらをまとめて「各種粒子」とも称する)等が経時で沈降しやすい。そこで、分散剤は、これらの沈降を抑制可能な材料であることが好ましい。
【0103】
具体的には、各種粒子の周囲に吸着し、分散剤どうしの静電気的反発や立体障害による反発により、各種粒子の沈降を抑制可能な化合物であることが好ましい。上記各種粒子は、生成水や高級アルコールに対する分散性を高めるために、塩基性に調整された分散液に分散されていることがある。このような処理がなされた各種粒子を含む化粧料インクには、アニオン性の分散剤が含まれることが好ましく、特に立体障害等による反発力を得やすいとの観点から、有機高分子からなる分散剤が含まれることが好ましい。なお、有機高分子の炭素数は8以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましい。
【0104】
アニオン性の有機高分子からなる分散剤の具体例には、ステアレス-2-リン酸、ステアレス-3-リン酸等のポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸;オレス-4-リン酸等のポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸;ポリオキシエチレンアルキル(12~15)エーテルリン酸(括弧内は炭素数);ショ糖脂肪酸エステル;ラウレス-11カルボン酸ナトリウム等が含まれる。
【0105】
分散剤の添加量は、分散剤の種類により適宜選択されるが、化粧料インクに対して2~50質量%含まれることが好ましく、2~10質量%含まれることがより好ましい。分散剤の添加量が当該範囲であると、各種粒子の沈降等が抑制され、長期間に亘って相分離や沈降等を生じ難くさせることができる。
【0106】
(各種添加剤)
各種添加剤についても、皮膚刺激性が陰性である化合物であることが好ましい。各種添加剤の例には、pH調整剤、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、防腐防カビ剤、脱酸素剤、酸化防止剤、防腐剤、褪色防止剤、消泡剤、香料、高級アルコールおよび精製水以外の溶媒等が含まれる。
【0107】
pH調整剤の例には、塩酸、クエン酸、酢酸、リン酸、硫酸、グルコン酸、コハク酸等の酸;炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;およびこれらの塩を含む緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液等)が含まれる。
【0108】
・化粧料インクの物性
上述の各化粧料インクは、コーンプレート型粘度計にて、速度100(1/s)で測定したときの25℃における粘度が、50mPa・s以下であることが好ましく、1~20mPa・sであることがより好ましく、3.5~8mPa・sであることがさらに好ましい。化粧料インクの粘度が上記範囲であると、化粧料インクを、各種印刷装置を用いて印刷しやすくなる。また特に、粘度が上記範囲であると、インクジェット装置からから安定して吐出しやすくなる。
【0109】
各化粧料インクのpHは、6~10であることが好ましく、7.5~9.5であることがより好ましい。化粧料インクのpHが上記範囲であると、化粧料インクが、各種印刷装置の部材を侵食すること等がなく、さらには、化粧料インクを長期間保存しても、色材や反射材料、光沢剤の凝集等が生じ難くなり、所望の塗膜が得られやすくなる。
【0110】
また、化粧料インクの25℃における表面張力は、50mN/m以下であることが好ましく、32mN/m~46mN/mであることがより好ましい。表面張力が50mN/m以下であると、各種印刷装置から化粧料インクを各種被印刷体に塗布した際、化粧料インクの濡れ性が良好になり、厚みが均一な膜を形成することができる。なお、表面張力は、種々の計測方法が適用可能であるが、上記値は、汎用機器に展開されている懸滴法(ペンダント・ドロップ法)にて測定される値である。
【0111】
さらに、化粧料インク(ただし、光沢層用インクは除く)に含まれる粒子の平均粒子径、すなわちレーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)は、125nm以上2μm以下であることが好ましく、平均粒子径(D50)が125nm以上1000nm以下であることがより好ましく、平均粒子径(D50)が125nm以上1000nm以下、かつ当該粒度分布の積算値の90%の値(D90)が3000nm以下であることがさらに好ましい。化粧料インクに含まれる粒子の平均粒子径が上記範囲であると、各種印刷装置、特にインクジェット装置から安定して吐出することが可能となる。D50やD90の値が上記範囲であると、化粧料インクをインクジェット装置等から安定して吐出させることが可能となる。
【0112】
また、上記化粧料インクは、皮膚刺激性が陰性である、すなわち生体安全性が高いことが好ましい。化粧料インクの皮膚刺激性を陰性とすることで、皮膚等と接触して使用される用途にも用いることが可能となる。ここで、本開示において、「皮膚刺激性が陰性である」とは、皮膚刺激性試験の代替法である三次元皮膚モデルにて試験を行った場合に、細胞の生存率が50%超であることをいう。当該皮膚刺激性試験の代替法では、5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液を刺激性コントロールとし、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を陰性コントロールとして行う。また、インクを、三次元皮膚モデルに18時間曝露した後、MTT試験によって、細胞の生存率を評価する。
【0113】
化粧料インクの皮膚刺激性を陰性にする手法の一例として、化粧料インクに含まれる全ての成分を、日本の薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載のある成分や、EU化粧品規制(Cosmetics Directive 76/768/EEC)に則った成分、米国CTFA(Cosmetic,Toiletry & Fragrance Association,U.S.)によるInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(2002年1月1日、9th版)に記載されている成分等とする手法が挙げられる。
【0114】
・メイク支援システムを用いた化粧用シートの作製について
上述のように、化粧用シートは、特定の個人の肌に応じて作製されるものであってもよい。特定の個人に応じた化粧用シートの作製は、公知のメイク支援システムによって行うことができる。公知のメイク支援システムとしては、照明部と、カメラと、タッチパネル付き液晶ディスプレイ等の表示部とを備えた画像処理装置、および画像処理装置と通信可能に接続された印刷装置とを含むシステム等とすることができる。
【0115】
当該メイク支援システムでは、例えば、画像処理装置が照明部から可視光を照射しながら、カメラによって、ユーザの肌(例えば顔)を撮影する。そして、当該肌の色や状態、ユーザの要求に応じて着色層の色や、光沢層の形成パターン等を決定し、印刷データを生成する。このとき、画像処理装置は、画像解析部で解析した個人の特徴点情報に基づいて、個人のサイズや配置に合わせた印刷データを生成する。なお、画像処理装置は、画像解析部で解析した個人の肌情報や骨格情報に基づき、着色層の色だけでなく、光沢層を形成する領域(ハイライトを入れる部分)等も判断し、印刷データを生成してもよい。そして、画像処理装置は、その印刷データを、所定のネットワークまたはケーブルで接続されている印刷装置へ送信することで、化粧用シートが作製される。
【実施例】
【0116】
以下において、実施例を参照して本開示を説明する。実施例によって、本開示の範囲は限定して解釈されない。
【0117】
1.化粧料インクの準備
1-1.材料
実施例に用いた材料は、以下の通りである。なお、各粒子の平均粒子径は、レーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)の値である。
(A)色材
赤色系色材:無機赤色系顔料(平均粒子径:150nm)
黄色系色材:無機黄色系顔料(平均粒子径:150nm)
青色系色材:無機青色系顔料(平均粒子径:150nm)
黒色系色材:無機黒色系顔料(平均粒子径:150nm)
白色系色材:無機白色系顔料(反射材料)(平均粒子径:950nm)
白色系色材:無機白色系顔料(光沢剤)(平均粒子径:3.4μm)
(B)高級アルコール
グリセリン
1,3-プロパンジオール
(C)精製水
(D)バインダ
アクリル系ポリマー粒子(平均粒子径:50nm)
(E)分散剤
ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸
ポリオキシエチレンアルキル(12~15)エーテルリン酸(括弧内は炭素数)
メタリン酸ナトリウム
ピロリン酸ナトリウム
ショ糖脂肪酸エステル
【0118】
1-2.光散乱層用インク、および着色層用インクの調製
下記表1に示す成分比で、各材料を混合し、光散乱層用インクおよび着色層用インクを調製した。なお、光散乱層用インクは、着色層用インクの白色インクと共通とした。表1には、光散乱層用インクおよび着色層用インクの物性も併せて示す。
【表1】
【0119】
1-3.光沢層用インクの調製
下記表2に示す成分比で各材料を混合し、光沢層用インクを調製した。ただし、表3に示すように、各分散剤の量を2質量部~10質量部の間で変更(分散剤の量に合わせて(C)精製水の量を調整)し、各光沢層用インクの分散性を評価した。分散性は、調製してから9日間、25℃で静置したときの目視で確認される分散状態について、以下のように評価した。結果を表3に示す。
○:各成分が均一に分散している
△:液面近傍に濃度勾配があるが、分散している
×:明らかに光沢剤が沈降している
【0120】
【0121】
【0122】
上記表3に示されるように、アニオン系高分子の分散剤を用いた場合(No.1~No.3)では、9日間静置後の分散性が良好であった。また、これらの分散剤を用いた場合、分散剤の量が多くなるにしたがい、分散性が良好になった。
【0123】
一方、分散剤を添加しなかった場合(No.7)や、アニオン系低分子の分散剤を用いた場合(No.4およびNo.5)、ノニオン系高分子の分散剤を用いた場合(No.6)には、化粧料インクの調製から時間が経過していない段階では、各成分が均一に分散していたが、9日間静置すると、添加量に関わらず光沢剤の沈殿が生じた。
【0124】
2.化粧用シートの製造
2-1.実施例
光散乱層用インクおよび着色層用インク(白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、黒色インク)をそれぞれ、パナソニックプレシジョンデバイス株式会社製LB3インクジェットヘッドを備えるインクジェット装置のインクタンクに充填した。一方、厚みが200nmのポリ乳酸シートを、ろ紙からなる支持体に貼り付けた被印刷体を準備した。
【0125】
そして、被印刷体上に、上記白色インクを印刷し、印刷後のシートを40℃、減圧下(-0.5kPa)で60分間、乾燥させて、光散乱層を形成した。さらに同様の光散乱層をもう1層重ね、光散乱層の総厚みを1600nmとした。
【0126】
続いて各色インクを印刷し、40℃、減圧下(-0.5kPa)で60分間、乾燥させて、肌色の色調を有する着色層を形成した。なお、着色層のパターンは、光散乱層と同心円状の円形状パターンとした。さらに、同様の着色層を2層重ね、着色層の総厚みを1600nmとした。
【0127】
上記着色層上に、光沢層用インク(上述のNo.2のインク(分散剤量:8質量%)を市販のファンデーションインクスプレー(商品名:ハリウッドエアー)にて塗布し、印刷後のシートを40℃、減圧下(-0.5kPa)で60分間、乾燥させて、光沢層を形成した。光沢層の厚みは、10μmとした。
【0128】
2-2.比較例1
被印刷体上に、光沢層、光散乱層、および着色層の順に形成した以外は、上記実施例と同様(各層の厚みも同様)に化粧用シートを作製した。
【0129】
2-3.比較例2
上記着色層用インク(白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、黒色インク)に、上述の光沢剤をそれぞれ混合し、均一に分散させた。なお、光沢剤の量は、それぞれ10~15質量%とし、光沢剤の添加量分、精製水の量を少なくした。
そして、被印刷体上に、上記実施例と同様に、光散乱層を形成した。続いて、当該光散乱層上に、上記光沢剤を含む着色層用インクを印刷し、印刷後のシートを40℃、減圧下(-0.5kPa)で60分間、乾燥させて、肌色の色調を有する着色層を形成した。
【0130】
3.評価
実施例、および比較例1、2で作製した化粧用シートを肌模型上に配置し、ツヤ感および透明感を、目視にて評価した。その結果、光沢層が最表層に形成された実施例の化粧用シートでは、ツヤ感(光沢感)があり、透明感も感じられた。また、厚塗り感が少なく、肌に貼付した際、化粧用シートを貼付した部分と貼付していない部分との差が目立ち難かった。一方、光沢層が着色層より薄膜側に配置された比較例1の化粧用シートでは、マットな質感となり、十分なツヤ感が得られなかった。また同様に、着色層内に光沢剤を添加した場合にも、マットな質感となった。したがって、着色層上に、他の着色材等と混合することなく、層状に光沢剤を配置することで、十分なツヤ感や透明感が発揮されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本開示の化粧用シートは、肌に貼付した際、厚塗り感を生じさせることなく、さらにはツヤ感や透明感が得られる。したがって、肌の彩色や、美化等に用いられるシートとして有用である。
【符号の説明】
【0132】
50 化粧用シート
510 肌
520 薄膜
521 補色層
522 光散乱層
523 着色層
524 光沢層
C1、C2、C3 光