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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-16
(45)【発行日】2023-03-27
(54)【発明の名称】インキ吸入器
(51)【国際特許分類】
   B43K 5/06 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
B43K5/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020563381
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050991
(87)【国際公開番号】W WO2020138227
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2018243321
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】芳野 清隆
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-182181(JP,U)
【文献】特開2010-149379(JP,A)
【文献】特開2010-099928(JP,A)
【文献】米国特許第02218536(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 1/12
B43K 5/00- 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に縮径部を有し、前記縮径部の後方にインキ収容部を画定する主筒と、
前記主筒に対して前後動可能に配置されたピストン部材と、
前記縮径部内を通って前記主筒内を延びるとともに前記ピストン部材に対して前後動可能に保持されたパイプと、
前記縮径部の後方において前記パイプに固定された固定駒部材と、を備え、
前記主筒は、前記縮径部の前方における内面に、軸線方向及び径方向に対して傾斜した前方傾斜面を有し、
前記前方傾斜面は、前記主筒の中心軸線を含む面内に延びる溝部を有する、インキ吸入器。
【請求項2】
前記主筒は、周方向に配列された複数の前記溝部を有する、請求項に記載のインキ吸入器。
【請求項3】
前記溝部の周方向の幅は、前方に向かうにつれて小さくなる、請求項又はに記載のインキ吸入器。
【請求項4】
内面に縮径部を有し、前記縮径部の後方にインキ収容部を画定する主筒と、
前記主筒に対して前後動可能に配置されたピストン部材と、
前記縮径部内を通って前記主筒内を延びるとともに前記ピストン部材に対して前後動可能に保持されたパイプと、
前記縮径部の後方において前記パイプに固定された固定駒部材と、を備え、
前記主筒は、前記縮径部の前方における内面に、前記主筒の中心軸線を含む面内に延びる前方リブ部を有し、
前記中心軸線と直交する断面において、前記前方リブ部は、前記中心軸線に対面する角部を有する、インキ吸入器。
【請求項5】
内面に縮径部を有し、前記縮径部の後方にインキ収容部を画定する主筒と、
前記主筒に対して前後動可能に配置されたピストン部材と、
前記縮径部内を通って前記主筒内を延びるとともに前記ピストン部材に対して前後動可能に保持されたパイプと、
前記縮径部の後方において前記パイプに固定された固定駒部材と、を備え、
前記主筒は、前記縮径部の前方における内面に、前記主筒の中心軸線を含む面内に延びる前方リブ部を有し、
前記内面のうち前記中心軸線と平行をなす前方平行部において、前記前方リブ部は、後方に向かうにつれて径方向に沿った前記中心軸線からの距離が小さくなる部分を含む、インキ吸入器。
【請求項6】
前記主筒は、周方向に配列された複数の前記前方リブ部を有する、請求項又はに記載のインキ吸入器。
【請求項7】
周方向に隣り合う2つの前記前方リブ部の間隔は、2.7mm以上である、請求項に記載のインキ吸入器。
【請求項8】
前記主筒は、前記インキ収容部の内面に、前記主筒の中心軸線を含む面内に延びる後方リブ部を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のインキ吸入器。
【請求項9】
前記主筒は、周方向に配列された複数の前記後方リブ部を有する、請求項に記載のインキ吸入器。
【請求項10】
周方向に隣り合う2つの前記後方リブ部の間隔は、2.7mm以上である、請求項に記載のインキ吸入器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、万年筆等の筆記具に用いられるインキ吸入器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、万年筆等の筆記具では、内部にインキを吸入して当該インキを収容し、筆記の際には当該インキをペン先へ供給するインキ吸入器が使用されている。インキ吸入器は、インキ収容部と当該インキ収容部へインキを吸入するためのインキ吸入機構とを有している。
【0003】
インキ吸入機構は、通常、インキ吸入器内に負圧を生じさせて、インキ吸入器内と外部との気圧差を利用してインキを吸入する機構を有している。インキ吸入器内に負圧を生じさせる方式としては、例えば、操作部材を後方に直線的に操作して操作部材の前方に連結されたピストン部材を後方に移動させることでインキ吸入器内に負圧を生じさせるスライド式、操作部材を軸線周りに回転させて操作部材と螺合したピストン部材を後方に移動させることでインキ吸入器内に負圧を生じさせる回転式、インキ吸入器の後部に設けられたピストン部材を前方へ押圧した後に開放することでインキ吸入器内に負圧を生じさせるプッシュ式等を挙げることができる。とりわけプッシュ式のインキ吸入器では、スライド式や回転式のインキ吸入器と比較して、操作部材の長さを小さくすることができる。これにより、同容量のインキ吸入器を小型化したり、同寸法のインキ吸入器を大容量化したりすることが可能になる。
【0004】
JP2017-209863Aには、縮径部(内段)とインキ収容室とを有するインキ収容筒と、インキ収容筒の後部に配置されたピストン部材と、インキ収容筒内に配置されピストン部材に保持されたパイプと、パイプに固定された駒と、を備えたインキ吸入装置が開示されている。
【0005】
従来のプッシュ式のインキ吸入器では、インキ収容部(インキ収容室)からペン先へのインキの流出が円滑に行われないことがあった。この原因について本件発明者らが鋭意検討したところ、従来のプッシュ式のインキ吸入器には、以下のような課題があることがわかった。
【0006】
インキが前進し縮径部を通ってペン先へ向かう際には、インキ収容部から流出するインキに替わって、空気が縮径部を通ってインキ収容部内に流入する。ところが、この際に空気が適切にインキ収容部内に流入せず、インキのインキ収容部からのスムーズな流出が阻害され得ることがある。この問題についてさらに検討したところ、インキ収容部内へ向かう空気が縮径部の前方で滞留することで当該空気のインキ収容部内への流入が妨げられることが知見された。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、空気のインキ収容部内への流入を促進し、インキを円滑に流出させることが可能なインキ吸入器を提供することを目的とする。
【0008】
本発明によるインキ吸入器は、
内面に縮径部を有し、前記縮径部の後方にインキ収容部を画定する主筒と、
前記主筒に対して前後動可能に配置されたピストン部材と、
前記縮径部内を通って前記主筒内を延びるとともに前記ピストン部材に対して前後動可能に保持されたパイプと、
前記縮径部の後方において前記パイプに固定された固定駒部材と、を備え、
前記主筒は、前記縮径部の前方における内面に、軸線方向及び径方向に対して傾斜した前方傾斜面を有する、又は、前記主筒の中心軸線を含む面内に延びる前方リブ部を有する。
【0009】
本発明のインキ吸入器において、
前記主筒は、前記前方傾斜面を有し、
前記前方傾斜面は、前記主筒の中心軸線を含む面内に延びる溝部を有してもよい。
【0010】
本発明のインキ吸入器において、
前記主筒は、周方向に配列された複数の前記溝部を有してもよい。
【0011】
本発明のインキ吸入器において、
前記溝部の周方向の幅は、前方に向かうにつれて小さくなってもよい。
【0012】
本発明のインキ吸入器において、
前記主筒は、前記前方リブ部を有し、
前記中心軸線と直交する断面において、前記前方リブ部は、前記中心軸線に対面する角部を有してもよい。
【0013】
本発明のインキ吸入器において、
前記主筒は、前記前方リブ部を有し、
前記内面のうち前記中心軸線と平行をなす前方平行部において、前記前方リブ部は、後方に向かうにつれて径方向に沿った前記中心軸線からの距離が小さくなる部分を含んでもよい。
【0014】
本発明のインキ吸入器において、
前記主筒は、周方向に配列された複数の前記前方リブ部を有してもよい。
【0015】
本発明のインキ吸入器において、
周方向に隣り合う2つの前記前方リブ部の間隔は、2.7mm以上であってもよい。
【0016】
本発明のインキ吸入器において、
前記主筒は、前記インキ収容部の内面に、前記主筒の中心軸線を含む面内に延びる後方リブ部を有してもよい。
【0017】
本発明のインキ吸入器において、
前記主筒は、周方向に配列された複数の前記後方リブ部を有してもよい。
【0018】
本発明のインキ吸入器において、
周方向に隣り合う2つの前記後方リブ部の間隔は、2.7mm以上であってもよい。
【0019】
[発明の効果]
本発明によれば、空気のインキ収容部内への流入を促進し、インキを円滑に流出させることが可能なインキ吸入器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であって、インキ吸入器が組み込まれた筆記具の断面を示す図である。
図2図2は、インキ吸入器を拡大して示す断面図であり、とりわけインキ吸入器を開放状態で示している。
図3図3は、インキ吸入器をその操作部材が前方へ向けて押された状態で示す断面図である。
図4図4は、インキ吸入器をペン先が上方を向くように配置した状態で示す図である。
図5図5は、中心軸線が垂直方向に対して傾斜した状態におけるインキ吸入器を示す断面図である。
図6図6は、図5のVI-VI線に対応する断面を示す図である。
図7A図7Aは、図5のVII-VII線に対応する断面の一例を示す図である。
図7B図7Bは、図5のVII-VII線に対応する断面の他の例を示す図である。
図8図8は、インキ吸入器の一変形例を示す断面図である。
図9図9は、図8のIX-IX線に対応する断面図である。
図10図10は、図8のX-X線に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0022】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0023】
図1図10は、本発明による一実施の形態を説明するための図である。このうち図1は、インキ吸入器20が組み込まれた筆記具10の断面を示す図であり、図2は、インキ吸入器20を拡大して示す図であり、図3は、インキ吸入器20をその操作部材60が前方に向けて押された状態で示す断面図である。本実施の形態では、筆記具10が万年筆である例について説明するが、筆記具10は万年筆に限られない。本明細書では、インキ吸入器20の主筒30の中心軸線Aが延びる方向(長手方向)を軸線方向、中心軸線Aと直交する方向を径方向、中心軸線A周りの円周方向を周方向とする。また、筆記具10及びインキ吸入器20において、軸線方向に沿って、筆記する際に紙面等の被筆記面に近接する側(例えば図1では下側)を前方とし、被筆記面から離間する側(例えば図1では上側)を後方とする。
【0024】
図1に示された筆記具10は、軸筒11と、ペン先12と、軸筒11の前方に位置しペン先12を支持するペン先支持部13と、を備えている。軸筒11は、中心軸線Aに沿って長手方向を有する部材であり、内部に前方に向かって開口する空洞を有している。本実施の形態では、軸筒11の空洞内にインキ吸入器20の少なくとも一部が収容される。ペン先12は、インキ吸入器20から供給されたインキにより被筆記面に筆跡を形成する部材である。ペン先支持部13は、内部にインキ流通孔14及び空気流通孔15を有している。インキ流通孔14は、ペン先12に連通しており、インキ吸入器20から供給されたインキをペン先12へ向けて案内する通路として機能する。空気流通孔15は、概ね軸線方向に沿って延び、ペン先12の近傍に開口している。空気流通孔15は、開口から流入した外部の空気をインキ吸入器20へ向けて案内する通路として機能する。ペン先支持部13には、インキ吸入器20が取り付けられる取付部16が形成されている。本実施の形態では、取付部16は後方を向く突出部として構成されており、インキ吸入器20の前端部が取付部16に外嵌することにより、インキ吸入器20がペン先支持部13に着脱可能に取り付けられる。なお、これに限られず、取付部16は、後方に開口する溝部として構成され、インキ吸入器20の前端部が取付部16に圧入されることにより、インキ吸入器20がペン先支持部13に取り付けられてもよい。ペン先支持部13の後部外面には雄ねじ部が形成されており、軸筒11の前方内面には対応する雌ねじ部が形成されている。そして、軸筒11の雌ねじ部がペン先支持部13の雄ねじ部に螺合することにより、ペン先支持部13に対して軸筒11が取り付けられる。
【0025】
本実施の形態のインキ吸入器20は、プッシュ式のインキ吸入器であり、ペン先12へ供給するためのインキを収容するインキ収容部21を内部に有している。インキ吸入器20は、インキ収容部21を画定する主筒30と、主筒30に対して前後動可能に配置されたピストン部材50と、ピストン部材50に対して前後動可能に保持されたパイプ70と、パイプ70に固定された固定駒部材80と、を備えている。図示された例では、インキ吸入器20は、主筒30の後部に取り付けられた尾筒40と、ピストン部材50の後部に取り付けられた操作部材60と、固定駒部材80の後方においてパイプ70に遊嵌された可動駒部材90と、をさらに有している。以下、本実施の形態のインキ吸入器20を構成する各部材について、順に説明していく。
【0026】
主筒30は、略円筒状の形状を有する部材であり、軸線方向に延びる内面30a及び外面30bを有している。内面30aは、内径が縮小された縮径部31を有している。縮径部31は、内面30aに周方向に沿って環状に形成された突出部である。とりわけ、縮径部31は、内面30aが中心軸線Aに向かって突出した突出部である。インキ収容部21は、縮径部31の後方に形成される。縮径部31の最も中心軸線Aに近接する頂部よりも後方には、インキ収容部21に面するとともに軸線方向及び径方向に対して傾斜した後方傾斜面31aが形成され、当該頂部よりも前方には、軸線方向及び径方向に対して傾斜した前方傾斜面31bが形成されている。後方傾斜面31aは、後方に向かうにつれて径方向の外側に向かうように延びる面であり、前方傾斜面31bは、前方に向かうにつれて径方向の外側に向かうように延びる面である。
【0027】
主筒30の外面30bには、凹凸部36が設けられている。凹凸部36は、一例として周方向に延びる凸部及び/又は凹部を含んでいる。凹凸部36は、インキ吸入器20をペン先支持部13の取付部16に対して着脱する際に、滑り止めとして機能する。すなわち、使用者が凹凸部36を把持することにより、容易に且つ安定してペン先支持部13への着脱を行うことができる。
【0028】
主筒30の後部には、尾筒40が取り付けられている。尾筒40は、操作部材60の少なくとも一部を収容する。尾筒40の後端開口部42には、内方に突出した鍔部44が形成されており、鍔部44は、操作部材60の開放状態において、操作部材60の後述の凸部64と当接する。鍔部44は、周方向に沿って全周にわたって設けられた1つの突出部であってもよいし、周方向に離散して配列された複数の突出部であってもよい。
【0029】
ピストン部材50は、フランジ部51とフランジ部51の後方に設けられた連結凸部55とを有している。フランジ部51は、主筒30の内部に位置しており、フランジ部51の径方向の最外端部は、主筒30の内面30aに対して液密に当接している。これにより、インキ収容部21は、主筒30の内面30a及び縮径部31並びにピストン部材50のフランジ部51で囲まれた空間として画定される。フランジ部51は、前端面51aから後方へ向けて窪んだ凹部53を有している。連結凸部55は、ピストン部材50を操作部材60に対して連結する連結部として機能する。連結凸部55には、後方に開口する穴57が設けられている。ピストン部材50は、中心軸線A上に凹部53と穴57とを連通する貫通孔59を有している。貫通孔59には、パイプ70が遊挿される。すなわち、貫通孔59の内径はパイプ70本体の外径よりも大きくなっており、これによりパイプ70は、ピストン部材50に対して前後動可能に保持される。穴57は、パイプ70を貫通孔59に挿入する際の導入部となるとともに、パイプ70がピストン部材50に対して前後動する際の可動範囲を画定する。なお、貫通孔59は、インキ収容部21と穴57との間のインキや空気の円滑な流通を確保するために、径方向に切り欠いた切欠き部を有していてもよい。
【0030】
操作部材60は、ピストン部材50に対して前後動が規制されており、ピストン部材50を主筒30に対して前後動させる際に、使用者によって操作される部材である。操作部材60は、前端面に開口しピストン部材50の連結凸部55と嵌合する連結凹部62を有している。図示された例では、連結凹部62の側面には係合凹部が設けられており、連結凸部55の側面には、連結凹部62の係合凹部に対応する係合凸部が設けられている。そして、連結凸部55が連結凹部62内に挿入され、連結凸部55の係合凸部と連結凹部62の係合凹部とが係合することにより、ピストン部材50が操作部材60に対して連結される。ピストン部材50の連結凸部55は、穴57内に流入したインキが外部へ漏れることがないように、連結凹部62に対して液密に取り付けられる。操作部材60の外周面には、径方向の外側に突出する凸部64が設けられている。主筒30と凸部64との間には、付勢部材25が配置されている。図示された例では、付勢部材25はコイルスプリングであり、軸線方向に圧縮された状態で主筒30の後端部と凸部64の前端部との間に介挿されている。これにより、操作部材60は、主筒30に対して後方に向けて付勢されている。凸部64は、操作部材60の開放状態(使用者により前方に押圧されない状態)において、尾筒40の鍔部44に対して前方から当接する。したがって、操作部材60の可動範囲の後端は鍔部44により画定される。
【0031】
パイプ70は、縮径部31を通って主筒30内を延びるように配置されている。操作部材60の開放状態(図2参照)及び押圧状態(使用者により前方に押圧された状態、図3参照)のいずれにおいても、パイプ70の前端部72は縮径部31の前方に位置する。パイプ70の後端部74には、パイプ70の本体が径方向に拡げられた拡径部76が形成されている。拡径部76の外径は、ピストン部材50の貫通孔59の内径よりも大きい。なお、パイプ70の拡径部76以外の部分の外径は、貫通孔59の内径よりも小さい。したがって、パイプ70は、貫通孔59に挿通された状態において前後方向に移動可能であり、拡径部76が貫通孔59に後方から係止した状態において、ピストン部材50に対して最も前方に位置する。パイプ70は内部が空洞になっており、パイプ70を介して、主筒30の縮径部31よりも前方の部分とピストン部材50の穴57とが連通している。パイプ70を形成する材料は特に限られないが、一例としてステンレス材等の金属材料を用いることができる。
【0032】
固定駒部材80は、縮径部31の後方においてパイプ70に対して固定されている。より詳細には、固定駒部材80は、縮径部31の後方においてパイプ70の外面に固定されている。固定駒部材80は弾性材料で形成されている。この弾性材料としては、一例としてフッ素ゴムを用いることができる。固定駒部材80は、前方に閉塞面82を有している。図示された例では、閉塞面82は、後方に向かうにつれて径方向にパイプ70から離間するように軸線方向及び径方向に対して傾斜した面を含んでいる。閉塞面82は、パイプ70及び固定駒部材80が前方に移動した際に、縮径部31の後方傾斜面31aに当接して縮径部31を閉塞する。
【0033】
可動駒部材90は、固定駒部材80の後方においてパイプ70に遊嵌されている。すなわち、可動駒部材90は、固定駒部材80の後方においてパイプ70に沿って前後方向に移動可能である。可動駒部材90は全体として円筒状に形成されており、内部にパイプ70が挿通されている。可動駒部材90を形成する材料は特に限られないが、一例としてステンレス材等の金属材料を用いることができる。
【0034】
上述したインキ吸入器20は、図2に示した開放状態では、付勢部材25により、操作部材60が後方に向けて付勢される。操作部材60の外周面に設けられた凸部64が、尾筒40の後端開口部42に設けられた鍔部44に前方から当接することにより、操作部材60の後方へのさらなる移動が規制されている。このとき、操作部材60と連結されたピストン部材50、ピストン部材50に保持されたパイプ70、パイプ70に固定された固定駒部材80及びパイプ70に遊嵌された可動駒部材90も、後方に位置している。
【0035】
インキ吸入器20のインキ収容部21内にインキを吸入する際には、インキが貯留されたインキ瓶等を準備し、インキ吸入器20がペン先支持部13に取り付けられた状態で、ペン先12が下方を向くようにして、インキ流通孔14及び空気流通孔15がインキの液面下に位置するまでペン先支持部13をインキに浸漬する。
【0036】
操作部材60が上方を向いた状態で、例えば使用者の指により操作部材60が前方(下方)に向けて押圧されると、図3に示す押圧状態となる。開放状態から押圧状態に移行する際には、操作部材60の前方への移動にともなって、ピストン部材50、パイプ70、固定駒部材80及び可動駒部材90も前方へ向けて移動する。この移動中に、まず、固定駒部材80の閉塞面82が、縮径部31の後方傾斜面31aに当接して縮径部31を閉塞する。これにより、パイプ70、固定駒部材80及び可動駒部材90は停止する。さらに操作部材60が前方へ向けて移動すると、ピストン部材50がさらに前方へ移動する。このとき、インキ収容部21内で圧縮された空気は、ピストン部材50の貫通孔59とパイプ70との間の隙間を通り、穴57及びパイプ70内の空洞を通って、パイプ70の前端部72から流出する。パイプ70から流出した空気は、ペン先支持部13を介して外部に排出される。なお、ピストン部材50の貫通孔59が、径方向に切り欠いた切欠き部を有している場合、インキ収容部21と穴57との間の空気の流通が十分に確保されることから、インキ収容部21からの空気の排出を迅速に且つ安定して行うことができる。
【0037】
この状態で、例えば操作部材60を前方へ押圧していた使用者の指を離すことにより、操作部材60へ付加されていた押圧力が解除されると、付勢部材25の付勢力により操作部材60が急激に後退する。これにともなって、ピストン部材50も急激に後退し、インキ収容部21内の圧力が負圧となる。操作部材60及びピストン部材50がさらに後退すると、パイプ70の後端部74に設けられた拡径部76がピストン部材50の貫通孔59に係止され、パイプ70、固定駒部材80及び可動駒部材90がピストン部材50とともに後退する。固定駒部材80の閉塞面82が、縮径部31の後方傾斜面31aから離間すると、インキ収容部21内と外部との間の圧力差により、ペン先支持部13及び縮径部31を介してインキ瓶内のインキがインキ収容部21内へ流入する。
【0038】
これを繰り返すことにより、インキ収容部21内にインキが吸入される。なお、インキ収容部21内にインキがある状態で操作部材60が前方に向けて押圧されると、インキ収容部21から少量のインキが縮径部31を通って流出し得るが、固定駒部材80により縮径部31が閉塞された後は、インキ収容部21内からインキは流出せず、インキ収容部21内の上部に存在する空気がパイプ70を通って流出する。インキ吸入器20へのインキの吸入の終了後、ペン先支持部13に軸筒11が取り付けられることにより、筆記具10が筆記可能な状態となる。
【0039】
図4は、インキ吸入器20をペン先12が上方を向くように配置した状態で示す図である。この状態では、重力の作用により、パイプ70が後方に移動し後端部74が操作部材60の連結凹部62の最下部(最後部)に当接している。固定駒部材80は縮径部31に対して大きく後退しており、縮径部31は連通(非閉塞)状態にある。可動駒部材90は、インキ収容部21の最下部(最後部)に位置し、ピストン部材50に当接している。本実施の形態では、可動駒部材90の外径D90Bがピストン部材50の凹部53の内径D53Aよりも小さくなっている。したがって、可動駒部材90は、凹部53内に入り込み、凹部53の最下部(最後部)に当接する。
【0040】
筆記具10を用いた筆記は、通常、ペン先12を下方に向け且つ当該筆記具10の長手方向を垂直方向(重力が作用する方向)に対して傾斜させて行われる。このとき、インキ吸入器20の中心軸線Aも垂直方向に対して傾斜する。図5は、中心軸線Aが垂直方向に対して傾斜した状態におけるインキ吸入器20を示す断面図である。インキ吸入器20が図4に示す状態から図5に示す状態へ遷移する過程において、固定駒部材80が重力の作用により前方に移動し、これによりインキ収容部21内のインキが縮径部31に向かって押し出される。
【0041】
とりわけインキ収容部21内のインキが減少した場合には、インキ吸入器20を図4に示す状態から図5に示す状態へ遷移させても、表面張力の作用によりインキがインキ収容部21の後部に留まり前方へ移動しないことがある。本実施の形態では、インキ吸入器20が可動駒部材90を有しているため、この可動駒部材90がインキ収容部21の最後部から前方に移動することによって、インキ収容部21の後部に留まったインキが前方へ向かって押し出される。とりわけ、可動駒部材90の外径D90Bがピストン部材50の凹部53の内径D53Aよりも小さい場合には、可動駒部材90の前方への移動にともなって凹部53内に留まったインキも前方へ向かって押し出される。
【0042】
図5に示した筆記状態において、インキ吸入器20の中心軸線Aが垂直方向に対して傾斜していることから、重力により固定駒部材80は主筒30の内面30aに接触する。筆記の際には、インキが、インキ収容部21から縮径部31及びインキ流通孔14を介してペン先12へ連続的に供給される。インキ収容部21内のインキが減少することにともなって、インキ収容部21内の圧力は負圧となる。したがって、インキ収容部21内と外部との間の圧力差により、空気流通孔15及び縮径部31を介して外部の空気がインキ収容部21内へ流入する。このとき、インキは相対的に下方を前方に向けて移動し、空気はインキの上方を後方に向けて移動する。
【0043】
この際、従来のプッシュ式のインキ吸入器では、空気が適切にインキ収容部内に流入せず、インキのインキ収容部からのスムーズな流出が阻害され得ることがあった。この問題について本件発明者らが検討したところ、可動駒部材が空気のインキ収容部内への流入を妨げる場合があることがわかった。
【0044】
本実施の形態では、可動駒部材90の内径D90Aは、パイプ70の外径D70Bの1.5倍以上3.5倍以下となっている。内径D90Aが外径D70Bの1.5倍以上であることにより、可動駒部材90は、固定駒部材80に対して大きく下方に移動することができる。すなわち、可動駒部材90は、その中心軸線がパイプ70の中心軸線に対して大きく下方に移動することができる。これにより、相対的に下方を移動するインキを可動駒部材90で前方へ向けて押し出すことができる。また、可動駒部材90の上部と主筒30の内面30aの上部との間の間隙G1の寸法が大きくなる。これにより、縮径部31を通ってインキ収容部21内へ流入する空気の流れが可動駒部材90によって阻害されることを効果的に抑制することが可能になる。また、内径D90Aが外径D70Bの3.5倍以下であることにより、可動駒部材90の外径D90Bが過大になることを防止し、これによっても縮径部31を通ってインキ収容部21内へ流入する空気の流れが可動駒部材90によって阻害されることを効果的に抑制することが可能になる。
【0045】
とりわけ本実施の形態では、可動駒部材90の径方向の厚さT90は、固定駒部材80の後端部84における径方向の厚さT80と同じか、固定駒部材80の後端部84における径方向の厚さT80より小さい。この場合、図5に示した筆記状態において、間隙G1の寸法が固定駒部材80の上部と主筒30の内面30aの上部との間の間隙よりも大きくなる。したがって、縮径部31を通ってインキ収容部21内へ流入する空気の流れが可動駒部材90によって阻害されることをさらに効果的に抑制することが可能になる。なお、厚さT80及び厚さT90が固定駒部材80内及び可動駒部材90内で一定である場合、当該厚さT80及び厚さT90は、それぞれ固定駒部材80及び可動駒部材90の外径と内径との差の1/2として定義される。
【0046】
とりわけ本実施の形態では、固定駒部材80及び可動駒部材90が最も前方に位置した状態で、中心軸線Aを水平方向と平行に配置したとき、可動駒部材90の前端部92の上端縁94が固定駒部材80の後端部84の上端縁86よりも低い。この場合にも、図5に示した筆記状態において、間隙G1の寸法が固定駒部材80の上部と主筒30の内面30aの上部との間の間隙よりも大きくなる。したがって、縮径部31を通ってインキ収容部21内へ流入する空気の流れが可動駒部材90によって阻害されることをさらに効果的に抑制することが可能になる。
【0047】
別の課題として、従来のプッシュ式のインキ吸入器では、インキ収容部からペン先へのインキの流出が円滑に行われないことがあった。本件発明者らの検討によれば、インキが前進し縮径部を通ってペン先へ向かう際に、縮径部の後方においてインキが滞留し当該インキの流出が妨げられることが原因となり得る。
【0048】
図6は、図5のVI-VI線に対応する断面を示す図である。本実施の形態では、主筒30は、インキ収容部21の内面30aに、中心軸線Aを含む面内に延びる後方リブ部33を有している。とりわけ主筒30は、周方向に配列された複数の後方リブ部33を有している。より詳細には、複数の後方リブ部33は、周方向に沿って等角度ピッチ(等角度間隔)を有して配置されている。後方リブ部33は、インキ収容部21におけるピストン部材50の可動範囲を除いて設けられている。また、後方リブ部33は、縮径部31の後方傾斜面31aのうち固定駒部材80の閉塞面82が当接する範囲を除いて設けられている。各後方リブ部33は、中心軸線Aから見て軸線方向に沿って直線状に延びている。なお、これに限られず、各後方リブ部33は、中心軸線Aから見て軸線方向に対して傾斜する方向に直線状に延びてもよいし、中心軸線Aから見て曲線状に延びてもよい。
【0049】
主筒30がこのような後方リブ部33を有していることにより、筆記状態において、インキ収容部21内のインキが後方リブ部33に沿って縮径部31へ向けて誘導される。また、図5に示した筆記状態において、固定駒部材80の下部は、後方リブ部33に当接し、固定駒部材80の下部と主筒30の内面30aの下部との間には間隙G2が形成される。したがって、インキ収容部21内のインキが間隙G2を通って縮径部31へ向けて円滑に流れることができる。これにより、縮径部31の後方においてインキが滞留することを効果的に抑制することが可能になる。
【0050】
また、従来のプッシュ式のインキ吸入器では、固定駒部材80が主筒30の内面30aに張り付いてしまい、固定駒部材80の縮径部31へ向かう移動が妨げられることがあった。本実施の形態では、主筒30がこのような後方リブ部33を有し、固定駒部材80の下部と主筒30の内面30aの下部との間に間隙G2が形成されることにより、固定駒部材80が、主筒30の内面30aに対して張り付いてしまうことを抑制することも可能になる。
【0051】
さらに、従来のプッシュ式のインキ吸入器では、固定駒部材80が縮径部31の後方傾斜面31aと、主筒30の内面30aのうち中心軸線Aと平行をなす部分である後方平行部30a1と、の境界部分に固定駒部材80が嵌まり込んでしまい、これによっても固定駒部材80の縮径部31へ向かう移動が妨げられることがあった。本実施の形態では、主筒30がこのような後方リブ部33を有することにより、固定駒部材80が縮径部31の後方傾斜面31aと後方平行部30a1との境界部分に固定駒部材80が嵌まり込んでしまうことを抑制し、固定駒部材80を縮径部31へ向けて安定して誘導することも可能になる。
【0052】
とりわけ本実施の形態では、後方リブ部33の少なくとも一部は、縮径部31の後方傾斜面31aに設けられている。この場合、インキ収容部21内のインキが後方リブ部33に沿って縮径部31へ向けてさらに効果的に誘導される。
【0053】
とりわけ本実施の形態では、後方平行部30a1において、後方リブ部33は、前方に向かうにつれて径方向に沿った中心軸線Aからの距離が小さくなる部分を含んでいる。この場合、当該部分において、固定駒部材80が前方に向かうにつれて中心軸線Aに近づくように誘導される。したがって、固定駒部材80を縮径部31へ向けてさらに安定して誘導することが可能になる。
【0054】
従来のプッシュ式のインキ吸入器において、空気が適切にインキ収容部内に流入せず、インキのインキ収容部からのスムーズな流出が阻害され得ることがあるという課題について、本件発明者らが検討したところ、インキ収容部内へ向かう空気が縮径部の前方で滞留することで当該空気のインキ収容部内への流入が妨げられることが知見された。
【0055】
図7Aは、図5のVII-VII線に対応する断面の一例を示す図であり、図7Bは、図5のVII-VII線に対応する断面の他の例を示す図である。とりわけ図7A及び図7Bは、中心軸線Aに直交する断面においてインキ吸入器20を示している。本実施の形態では、主筒30は、縮径部31の前方における内面30aに、軸線方向及び径方向に対して傾斜した前方傾斜面31bを有する、又は、主筒の中心軸線Aを含む面内に延びる前方リブ部34を有する。
【0056】
図7Aに示された例では、主筒30は前方リブ部34を有している。とりわけ図示された例では、主筒30は周方向に配列された複数の前方リブ部34を有している。より詳細には、複数の前方リブ部34は、周方向に沿って等角度ピッチ(等角度間隔)を有して配置されている。各前方リブ部34は、中心軸線Aから見て軸線方向に沿って直線状に延びている。なお、これに限られず、各前方リブ部34は、中心軸線Aから見て軸線方向に対して傾斜する方向に直線状に延びてもよいし、中心軸線Aから見て曲線状に延びてもよい。
【0057】
主筒30がこのような前方リブ部34を有していることにより、筆記状態において、インキ収容部21へ向かう空気(気泡)が前方リブ部34に沿って縮径部31へ向けて誘導される。これにより、インキ収容部21へ向かう空気が縮径部31の前方で滞留することを抑制することができ、当該空気のインキ収容部21内への流入を促進することができる。また、インキ収容部21から流出するインキが前方リブ部34に沿ってペン先支持部13へ向けて誘導される。これにより、インキのインキ収容部21からの流出を促進することもできる。
【0058】
発明者らは、このような効果が生じる原理を以下のように推測している。主筒30がこのような前方リブ部34を有していると、ペン先12を下方に向け且つ当該筆記具10の長手方向を垂直方向に対して傾斜させて筆記を行う際に、パイプ70の前方部分と主筒30の内面30aとの間の距離が小さくなる。ここで、インキの表面張力Tに起因して生じるインキの引張り力Pは、パイプ70と内面30aとの間の距離をrとし、インキと内面30aとの間の接触角をθとして、
P=(2×T×cosθ)/r
と表せる。したがって、パイプ70と内面30aとの間の距離rが小さくなることにより、インキの引張り力Pが増大するものと推測できる。
【0059】
とりわけ図示された例では、中心軸線Aと直交する断面において、前方リブ部34は、中心軸線Aに対面する角部35を有している。前方リブ部34がこのような角部35を有していることにより、角部35に接触した気泡に働く表面張力の作用により、当該気泡が主筒30の内面30aに張り付いて縮径部31の前方で滞留することを抑制することができる。
【0060】
とりわけ図示された例では、内面30aのうち中心軸線Aと平行をなす前方平行部30a2において、前方リブ部34は、後方に向かうにつれて径方向に沿った中心軸線Aからの距離が小さくなる部分を含んでいる。この場合、縮径部31の前方において、インキ収容部21へ向かう空気が、前方リブ部34に沿って、後方に向かうにつれて中心軸線Aに近づくように誘導される。したがって、当該空気が縮径部31の前方で滞留することをさらに効果的に抑制することができる。
【0061】
図7Bに示された例では、主筒30は前方傾斜面31bを有している。前方に向かうにつれて径方向の外側に向かうように、軸線方向及び径方向に対して傾斜して延びる面である。主筒30がこのような前方傾斜面31bを有していることにより、筆記状態において、インキ収容部21へ向かう空気(気泡)が前方傾斜面31bに沿って縮径部31へ向けて誘導される。これにより、インキ収容部21へ向かう空気が縮径部31の前方で滞留することを抑制することができ、当該空気のインキ収容部21内への流入を促進することができる。また、インキ収容部21から流出するインキが前方傾斜面31bに沿ってペン先支持部13へ向けて誘導される。これにより、インキのインキ収容部21からの流出を促進することもできる。
【0062】
とりわけ図示された例では、前方傾斜面31bは、主筒30の中心軸線Aを含む面内に延びる溝部32を有している。とりわけ図示された例では、前方傾斜面31bは周方向に配列された複数の溝部32を有している。より詳細には、複数の溝部32は、周方向に沿って等角度ピッチ(等角度間隔)を有して配置されている。各溝部32は、中心軸線Aから見て軸線方向に沿って直線状に延びている。なお、これに限られず、各溝部32は、中心軸線Aから見て軸線方向に対して傾斜する方向に直線状に延びてもよいし、中心軸線Aから見て曲線状に延びてもよい。
【0063】
前方傾斜面31bがこのような溝部32を有していることにより、インキ収容部21へ向かう空気(気泡)が溝部32に沿って縮径部31へ向けて誘導される。これにより、インキ収容部21へ向かう空気が縮径部31の前方で滞留することをさらに抑制することができ、当該空気のインキ収容部21内への流入をさらに促進することができる。また、インキ収容部21から流出するインキが溝部32に沿ってペン先支持部13へ向けて誘導される。これにより、インキのインキ収容部21からの流出をさらに促進することができる。
【0064】
とりわけ図示された例では、溝部32の周方向の幅は、前方に向かうにつれて小さくなっている。これにより、溝部32における毛管力は、前方に向かうにつれて大きくなる。したがって、インキ収容部21から流出するインキが、溝部32に沿って前方へ向けて吸引される。これにより、インキのインキ収容部21からの流出をさらに促進することができる。
【0065】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、図面を適宜参照しながら、変形例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
【0066】
図8は、インキ吸入器20の一変形例を示す縦断面図であり、図9は、図8のIX-IX線に対応する横断面図である。
【0067】
本変形例では、インキ吸入器20の主筒30は、複数の前方リブ部34を有している。とりわけ図9に示された例では、主筒30は、周方向に沿って等角度ピッチを有して配置された4つの前方リブ部34を有している。すなわち、図示された例では、周方向に隣り合う2つの前方リブ部34は、互いに90度の角度ピッチを有して配置されている。
【0068】
図9に示された例では、各前方リブ部34は、周方向に沿って互いに間隔S1を有して配置されている。ここで、間隔S1は、主筒30の内面30a上における周方向に沿った長さを指す。本変形例では、間隔S1は、2.7mm以上である。すなわち、周方向に隣り合う2つの前方リブ部34の間隔S1は、2.7mm以上である。
【0069】
間隔S1が2.7mm以上である場合、隣り合う2つの前方リブ部34の間に十分な間隔が確保されるので、この2つの前方リブ部34の間に気泡が詰まることが抑制される。すなわち、縮径部31の前方部分において気泡の滞留が抑制され、気泡の流動が促進される。これにより、気泡の後方への移動にともなって生じる、インキのインキ収容部21からの流出を促進することができる。
【0070】
周方向に隣り合う2つの前方リブ部34の間隔S1は、2.7mm以上4.7mm以下であることが好ましい。間隔S1が4.7mm以下であると、筆記具10の長手方向を垂直方向に対して傾斜させた際に、パイプ70の前方部分と主筒30の内面30aとの間の距離を適切に小さくすることができる。したがって、インキの表面張力Tに起因して生じるインキの引張り力Pを効果的に増大させることができる。また、間隔S1は、3.3mm以上3.7mm以下であることがさらに好ましい。
【0071】
図10は、図8のX-X線に対応する横断面図である。本変形例では、インキ吸入器20の主筒30は、複数の後方リブ部33を有している。とりわけ図10に示された例では、主筒30は、周方向に沿って等角度ピッチを有して配置された5つの後方リブ部33を有している。すなわち、図示された例では、周方向に隣り合う2つの後方リブ部33は、互いに72度の角度ピッチを有して配置されている。
【0072】
図10に示された例では、各後方リブ部33は、周方向に沿って互いに間隔S2を有して配置されている。ここで、間隔S2は、主筒30の内面30a上における周方向に沿った長さを指す。本変形例では、間隔S2は、2.7mm以上である。すなわち、周方向に隣り合う2つの後方リブ部33の間隔S2は、2.7mm以上である。
【0073】
間隔S2が2.7mm以上である場合、隣り合う2つの後方リブ部33の間に十分な間隔が確保されるので、この2つの後方リブ部33の間に気泡が詰まることが抑制される。すなわち、縮径部31の後方部分において気泡の滞留が抑制され、気泡の流動が促進される。これにより、気泡の後方への移動にともなって生じる、インキのインキ収容部21からの流出を促進することができる。
【0074】
周方向に隣り合う2つの後方リブ部33の間隔S2は、2.7mm以上4.7mm以下であることが好ましい。間隔S2が4.7mm以下であると、筆記具10の長手方向を垂直方向に対して傾斜させた際に、パイプ70の後方部分と主筒30の内面30aとの間の距離を適切に小さくすることができる。したがって、インキの表面張力Tに起因して生じるインキの引張り力Pを効果的に増大させることができる。また、間隔S2は、3.3mm以上3.7mm以下であることがさらに好ましい。
【符号の説明】
【0075】
10 筆記具
11 軸筒
12 ペン先
13 ペン先支持部
20 インキ吸入器
21 インキ収容部
25 付勢部材
30 主筒
30a 内面
30a1 後方平行部
30a2 前方平行部
31 縮径部
31a 後方傾斜面
31b 前方傾斜面
32 溝部
33 後方リブ部
34 前方リブ部
35 角部
40 尾筒
42 後端開口部
44 鍔部
50 ピストン部材
51 フランジ部
51a 前端面
53 凹部
55 連結凸部
57 穴
59 貫通孔
60 操作部材
62 連結凹部
64 凸部
70 パイプ
72 前端部
74 後端部
76 拡径部
80 固定駒部材
82 閉塞面
84 後端部
86 上端縁
90 可動駒部材
92 前端部
94 上端縁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10