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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】超電導コイル装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20230320BHJP
   H01F 6/02 20060101ALI20230320BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/02 ZAA
H01B12/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019222177
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021093421
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103352(JP,A)
【文献】特開2014-022543(JP,A)
【文献】特開2018-101465(JP,A)
【文献】特表2021-535622(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061563(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00-12/16
H01B 13/00
H01F 6/00- 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材が巻回により重ね合わされることで形成されて径方向に沿う一対の側面を備えた巻線部材と、前記巻線部材の片方の前記側面に設けられて異なるターンの前記超電導線材同士を前記巻線部材の径方向に電気的に接続する迂回路と、前記迂回路に電気的に絶縁された状態で接して設けられた伝熱板と、を有してなる超電導コイルが、この超電導コイルの巻回軸方向に偶数枚積層され、
その積層方向中央位置で隣り合う2枚の前記超電導コイルは、迂回路が設けられた方の側面同士が、または前記迂回路が設けられていない方の側面同士がそれぞれ対向するように配置され、
それ以外の位置での前記超電導コイルは、前記迂回路が設けられた方の側面が、隣り合う前記超電導コイルの前記迂回路が設けられていない方の側面と対向するように配置されたことを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
隣り合う前記超電導コイル間の間隙のうちで伝熱板が設けられていない側の前記間隙に、または積層方向の端部に配置された前記超電導コイルに、均熱板が電気的に絶縁された状態で設けられたことを特徴とする請求項に記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
隣り合う前記超電導コイルでは、対向する伝熱板が共有化されたことを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
前記迂回路が、導電性樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【請求項5】
前記伝熱板が、無酸素銅と高純度アルミニウムのいずれかからなることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の超電導コイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導線材の巻回により形成された超電導コイルが、巻回軸方向に複数個を積層された超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材には、超電導状態を維持可能な電流、温度及び磁場の範囲、いわゆる臨界電流、臨界温度及び臨界磁場が存在する。従って、超電導線材は、電気抵抗がほぼゼロといえども無限に電流が流せるわけではなく、いずれかの臨界値を超えると、常電導状態への転移現象、即ちクエンチが発生する。このようなクエンチによる常電導転移領域のジュール発熱は、瞬時に超電導コイルを熱暴走させ、最悪の場合には焼損に至らせる危険性があるため、クエンチに対する保護技術が不可欠である。
【0003】
クエンチ保護に関する従来技術としては、例えば超電導コイルと並列に保護抵抗を接続する方法がある。この方法は、常電導状態に転移することで発生するコイル電圧やコイル温度の上昇を検出し、これをトリガーとして励磁電源を遮断するものである。遮断後には超電導コイルと保護抵抗との閉回路になるため、室温部に配置した保護抵抗のジュール発熱で超電導コイルの蓄積エネルギーが消費され、コイルに流れる電流を減衰させることができる。
【0004】
このような超電導コイルに使用される超電導線材としては、例えばBi2Sr2Ca2Cu3O10+x線材やRE1B2C3O7線材といった高温超電導線材がある。この高温超電導線材を用いた超電導コイルでは、従来のNbTiなどの低温超電導線材に比べ、20K~50Kといった高い温度でも高い臨界電流密度を有するため、高温での高電流密度運転が可能になる。
【0005】
しかしながら、高電流密度運転時にクエンチが生じた場合、高温超電導線材は、20K~50Kの温度範囲では、低温超電導線材を使った超電導コイルの運転温度よりも比熱が大きいために常電導転移領域の拡大が遅く、また、高電流密度運転をすると発熱密度も高くなる。このため、前記従来技術のクエンチ保護方法では、コイル電圧やコイル温度の上昇を検知する前に局所的に熱暴走が発生して、超電導コイルが焼損してしまう。
【0006】
超電導コイル内部の異なるターンの超電導線材同士をターン間で短絡させるようにすれば、常電導転移した部分に流れる電流を異なるターンの超電導線材に迂回させることができる。電流が常電導部分を迂回することで、常電導転移領域での局所的な発熱及び熱暴走を抑制することが可能になる。具体的には、超電導コイルのコイル径方向に沿った巻線部材の側面に、超電導線材と電気的に接続された迂回路を設けることにより、この迂回路を介して異なるターンの超電導線材同士を短絡させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-103352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記開示技術では、超電導コイルを流れる電流の一部が迂回路へ転流した際に、迂回路でエネルギーが消費されて熱を発生し、超電導コイルの温度を上昇させて超電導線材にクエンチを引き起こす恐れがある。超電導コイルが複数個積層されてなる超電導コイル装置においても同様であり、各超電導コイルの迂回路で発生する熱を速やかに取り除く必要がある。
【0009】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、超電導線材のクエンチまたは超電導コイルの熱暴走を防止できる超電導コイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態における超電導コイル装置は、超電導線材が巻回により重ね合わされることで形成されて径方向に沿う一対の側面を備えた巻線部材と、前記巻線部材の片方の前記側面に設けられて異なるターンの前記超電導線材同士を前記巻線部材の径方向に電気的に接続する迂回路と、前記迂回路に電気的に絶縁された状態で接して設けられた伝熱板と、を有してなる超電導コイルが、この超電導コイルの巻回軸方向に偶数枚積層され、その積層方向中央位置で隣り合う2枚の前記超電導コイルは、迂回路が設けられた方の側面同士が、または前記迂回路が設けられていない方の側面同士がそれぞれ対向するように配置され、それ以外の位置での前記超電導コイルは、前記迂回路が設けられた方の側面が、隣り合う前記超電導コイルの前記迂回路が設けられていない方の側面と対向するように配置されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、超電導線材のクエンチまたは超電導コイルの熱暴走を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る超電導コイル装置を示す部分断面図。
図2図1の超電導コイル装置を構成する超電導コイルを示す部分断面図。
図3図2の超電導コイルを示す概略斜視図。
図4図3の超電導コイルの平面図。
図5図3のV-V線に沿う断面図。
図6図2図5の超電導コイルの巻線部材を形成する高温超電導線材(薄膜線材)の構成を示す斜視図。
図7図2の一部を拡大して示す断面図。
図8図2及び図7の迂回路を構成する導電性樹脂を示す断面図。
図9図1の第1実施形態における第1変形形態の超電導コイル装置を示す部分断面図。
図10図1の第1実施形態における第2変形形態の超電導コイル装置を示す部分断面図。
図11図1の第1実施形態における第3変形形態の超電導コイル装置を示す部分断面図。
図12図1の第1実施形態における第4変形形態の超電導コイル装置を示す部分断面図。
図13図12の第4変形形態における他の例の超電導コイル装置を示す部分断面図。
図14】第2実施形態に係る超電導コイル装置を示す部分断面図。
図15図14の超電導コイル装置を構成する超電導コイルを示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図13
図1は、第1実施形態に係る超電導コイル装置を示す部分断面図である。この図1に示す超電導コイル装置100は、図2図5に示す超電導コイル10が、この超電導コイル10の巻回軸O(図3図5)の方向に複数個を積層されて構成された積層超電導コイルである。超電導コイル10は、特に図2及び図5に示すように、巻線部材11、迂回路12及び伝熱板13を有して構成される。
【0014】
このうちの巻線部材11は、図6に示す高温超電導線材である薄膜線材20から形成される。ここで、高温超電導線材は一般に、薄膜状の層が積層されたテープ形状の薄膜線材20を構成している。この薄膜線材20は、例えばレアメタル酸化物(RE酸化物)からなる後述の超電導層25を含むREBCO線材などの線材である。
【0015】
つまり、薄膜線材20は、例えば、ニッケル基合金、ステンレスまたは銅などの高強度の金属材質である基板22と、この基板22の上に形成される中間層24と、この中間層24を基板22の表面に配向させるマグネシウムなどからなる配向層23と、中間層24の上に形成されるレアメタル酸化物からなる超電導層25と、銀、金または白金などで組成される保護層26と、銅またはアルミニウムなどの良伝導性金属である安定化層21と、を有して構成される。
【0016】
中間層24は、基板22と超電導層25の熱収縮の際に起因する熱歪みを防止する。保護層26は、超電導層25に含まれる酸素が超電導層25から拡散することを防止して超電導層25を保護する。安定化層21は、超電導層25への過剰な通電電流の迂回経路となって熱暴走を防止する。但し、薄膜線材20を構成する各層の種類及び数はこれに限定されるものではなく、必要に応じて多くても少なくてもよい。
【0017】
図2及び図5に示す超電導コイル10は、薄膜線材20が巻枠14に巻回されることにより、超電導コイル10の巻回軸Oを貫通する空間を有するパンケーキ状の巻線部材11を形成することにより得られる。薄膜線材20を同心円状に巻回してパンケーキ状に形成されたコイルをパンケーキコイルと呼称する。
【0018】
巻線部材11は、薄膜線材20が巻回により重ね合されることで形成されて、径方向に沿う一対の側面15を有する。また、超電導コイル10において隣接する別のターンの薄膜線材20との間隙のことをコイルターン隙間と称する。図7に示すように、この薄膜線材20のコイルターン隙間には、隣接する薄膜線材20のターン間を絶縁するために、絶縁性部材16が挿入される。この絶縁性部材16としては、例えばポリイミド等により形成された絶縁性のテープが好適に用いられる。テープ状の絶縁性部材16は、薄膜線材20と共巻することによりコイルターン隙間に挿入される。
【0019】
また、超電導コイル10は、エポキシ樹脂などの粘着性を有する絶縁材料で含浸されることもある。この粘着性の絶縁材料で含浸されることにより、超電導コイル10内の隣接する薄膜線材20と絶縁性部材16とが固着されて、超電導コイル10の熱伝導度及び機械的強度を向上させることが可能になる。なお、エポキシ樹脂などの粘着性を有する絶縁材料も、コイルターン隙間に挿入されることで絶縁性部材16として機能し得るが、コイルターン隙間の確実な絶縁のためには、テープ状の絶縁性部材16を用いて確実にコイルターン隙間を絶縁することが好ましい。
【0020】
超電導コイル10は、図2図5及び図7に示すように、巻線部材11の片方の側面15に、超電導コイル10内の異なるターンの薄膜線材20同士を径方向に電気的に接続する迂回路12を備える。この迂回路12の材料は、通常運転時における超電導コイル10の抵抗よりも大きく、且つ超電導コイル10の常電導転移時の抵抗よりも小さい抵抗の材料が選択される。例えば、迂回路12の材料は、銅、ステンレス、アルミもしくはインジウムなどの常電導金属、半導体、導電性プラスチック、セラミックス材、導電性樹脂または超電導材料などである。また、グラファイト、炭素繊維または炭素繊維複合材などのカーボン材料なども迂回路12の材料として好適に用いられる。
【0021】
これらの迂回路12の材料は、板材または箔などにして圧着またはハンダ接続などにより電気的に巻線部材11に接続される。また、迂回路12の材料を、巻線部材11の片方の側面15にメッキまたは塗布して迂回路12を形成してもよい。特にメッキにより迂回路12を形成すると、迂回路12を薄くすることができ、超電導コイル10の自由な変形を阻害しない。
【0022】
また、迂回路12は、図8に示すような導電性樹脂17を塗布して形成してもよい。この導電性樹脂17は例えば、導電性を持たない樹脂28に導電性粉末18を混入させたものを用いてもよい。この場合は、導電性樹脂17に配合される導電性粉末18の割合や種類を変更することにより、導電性樹脂17の体積抵抗率を容易に調整することが可能になる。
【0023】
導電性粉末18としては、例えばカーボンブラック、炭素繊維またはグラファイトなどのカーボン系の粉末が用いられる。この導電性粉末18には、金属微粒子、金属酸化物、金属繊維またはウィスカーなどの金属系の粉末が用いられてもよい。また、微粒子または合成繊維を金属コートすることで導電性粉末18としてもよい。更に、巻線部材11の側面15の径方向または周方向の位置ごとに異なる組成の導電性樹脂17を塗布して、迂回路12を形成してもよい。
【0024】
図2及び図5に示すように、超電導コイル10では、迂回路12と、この迂回路12が設けられていない巻線部材11の側面15に絶縁板19が設けられている。この絶縁板19は、超電導コイル装置100における各超電導コイル10の巻線部材11及び迂回路12を、積層されて隣り合う他の超電導コイル10から絶縁する。この絶縁板19としては、エポキシ樹脂や繊維強化プラスチックなどが好適に用いられる。
【0025】
上記迂回路12を設けることで、超電導コイル10に熱暴走の発生等を抑制できる効果について述べる。薄膜線材20は、超電導状態に維持可能な通電電流の限界である臨界電流に近づくにつれて、徐々に外部磁場が侵入し、局所的に超電導状態が破壊された部分が常電導転移する。この常電導転移した部分を常電導箇所30と称する。この局所的な常電導転移に伴うフラックスフロー抵抗は、ジュール損失による発熱を発生するため、超電導コイル10の温度上昇などでフラックスフロー抵抗が増大すると、超電導コイル10に熱暴走を誘引し、または薄膜線材20にクエンチを誘引する。
【0026】
そこで、迂回路12を設けることで、薄膜線材20の一部で常電導転移による局所的なフラックスフロー抵抗が発生したとき、巻線部材11を周方向に流れていた通電電流Iの一部Iaは、迂回路12を経て、隣接する他のターンの薄膜線材20に径方向に沿って迂回する。このとき、巻線部材11を周方向に流れる通電電流は、IからI-Iaに減少する。迂回路12の抵抗をRa、フラックスフロー抵抗をRとすると、巻線部材11の径方向に迂回する電流Iaは、R/(R+Ra)に比例する。従って、フラックスフロー抵抗の増大に伴い、より多くの通電電流が迂回路12に迂回することになる。この電流の迂回によって、局所的に常電導状態に転移した常電導箇所30に多量の通電電流Iが流れることを未然に防止でき、超電導コイル10の熱暴走、または薄膜線材20のクエンチの発生が抑制される。
【0027】
なお、巻線部材11の異なるターンの薄膜線材20同士を、迂回路12により電気的に接続すると、フラックスフロー抵抗が発生したときだけでなく、超電導コイル10を非通電状態から定格電流値まで励磁する際にも、誘導電圧により、電源から供給される通電電流Iの一部I’が、迂回路12を経て他のターンの薄膜線材20に迂回してしまう。励磁完了後は誘導電圧が発生しないため、迂回路12に流れた電流I’は巻線部材11の周方向に徐々に流れることとなるが、超電導コイル10は設計した磁場の値に到達するまでに時間を要することになる。迂回路12の抵抗を低くすればする程より多くの電流が励磁中に迂回してしまい、励磁時間が不要に長くなってしまう。
【0028】
従って、迂回路12の抵抗Raは、フラックスフロー抵抗の発生時に十分な量の電流が迂回路12へ転流できる程度に小さな抵抗で、且つ超電導コイル10を非通電状態から定格電流値まで励磁する際に励磁時間が不要に長くならないほどに大きな抵抗となるように設定されることが好ましい。
【0029】
ところで、薄膜線材20が全長にわたり常電導転移したときの、超電導コイル10の全長にわたるフラックスフロー抵抗をRとし、迂回路12の抵抗Raを例えばRa=R/10とした場合、抵抗比R/(R+Ra)がR/(R+Ra)=10/11=0.9となるので、このR/(R+Ra)に比例する迂回路12を流れる電流は通電電流の約90%になる。このときのフラックスフロー抵抗Rでの発熱は、通電電流をIとして、R×{I×(1/11)}=(1/121)RIとなり、迂回路12の発熱は、(R/10)×{I×(10/11)}=(10/121)RIとなる。つまり、迂回路12の発熱が、巻線部材11で生じる発熱の10倍大きな値となる。
【0030】
上述の迂回路12の発熱を取り除くために、図2及び図5に示すように、超電導コイル10では伝熱板13が、迂回路12に電気的に絶縁された状態で接するように設けられている。好ましくは、迂回路12と伝熱板13とが絶縁板19により電気的に絶縁されている。伝熱板13は、図示しない冷凍機に熱的に直接、もしくは他の伝熱部材を介して間接的に接続されて、伝導冷却により、超電導コイル10で発生した熱(迂回路12で発生した熱を含む)を取り除く。
【0031】
伝熱板13の材料としては熱伝導率が高い物質が好ましく、アルミニウム(例えば高純度アルミニウム)、銅(例えば無酸素銅)のいずれかの金属が好適に用いられる。これらの材料は、板材または箔などにして、迂回路12または絶縁板19に接着される。伝熱板13は、図3及び図4に示すように、超電導コイル10の周方向に分割され、または超電導コイル10の径方向に分割されて複数配置されていてもよい。
【0032】
迂回路12を含む巻線部材11と伝熱板13とを電気的に絶縁する方法としては、エポキシ樹脂等のように電気的に絶縁性の高い接着剤を用いて、迂回路12に伝熱板13を接着する。また、上述のように迂回路12と伝熱板13との間に挿入される絶縁板19としては、繊維強化プラスチック等が好適に用いられる。このように迂回路12と伝熱板13との間に絶縁板19が挿入される場合、迂回路12、絶縁板19、伝熱板13を互いにエポキシ樹脂等の絶縁性の高い接着剤で接着することで、迂回路12と伝熱板13とを熱的に接続しつつ、電気的な絶縁性を向上させることが可能になる。
【0033】
上述のように構成された超電導コイル10は、この超電導コイル10の巻回軸O方向に複数個を積層されて、図1に示す超電導コイル装置100が構成される。この超電導コイル装置100では、超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13が、巻線部材11における迂回路12が設けられていない方の側面15側の絶縁板19と対向するように積層されている。
【0034】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)図1図2及び図7に示すように、超電導コイル装置100を構成する超電導コイル10は、薄膜線材20が巻回により重ね合されてなる巻線部材11の片方の側面15に迂回路12が設けられ、この迂回路12に伝熱板13が接して構成されている。従って、超電導コイル10の常電導転移時に薄膜線材20を流れる通電電流Iの一部Iaが迂回路12に流れて、この迂回路12が発熱した場合でも、迂回路12は、この迂回路12に接して設けられた伝熱板13を介して、冷凍機(不図示)により伝導冷却されて直接冷却される。この結果、迂回路12の温度上昇を抑制することができるので、薄膜線材20のクエンチの発生または超電導コイル10の熱暴走の発生等を未然に防止できる。
【0035】
(2)図1に示す超電導コイル装置100では、超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13が、隣り合う超電導コイル10の巻線部材11における迂回路12が設けられていない方の側面15側の絶縁板19と対向するように積層されている。このため、超電導コイル装置100では、各超電導コイル10の伝熱板13が、超電導コイル装置100の積層方向(超電導コイル10の巻回軸Oと同方向)に沿って等間隔に並ぶことになるので、超電導コイル装置10の温度を、その積層方向に均一に保持することができる。
【0036】
次に、第1実施形態の変形形態を、図9図13を用いて以下に述べる。
図9に、第1実施形態の第1変形形態における超電導コイル装置101を示す。この超電導コイル装置101では、隣り合う超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13同士が対向し、且つ巻線部材11における迂回路12が設けられていない方の側面15側の絶縁板19同士が対向するように積層されている。そしてこの対向する伝熱板13は、共有化して1枚の伝熱板13とすることもできる。
【0037】
従って、この第1実施形態の超電導コイル装置101においても、第1実施形態の超電導コイル装置100の効果(1)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)を奏する。
【0038】
(3)超電導コイル装置101における隣り合う超電導コイル10では、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13同士が対向して積層されているので、この伝熱板13同士が対向する隣り合う超電導コイル10において、伝熱板13を共有化して1枚の伝熱板とすることで、必要な伝熱板13の枚数を減少させることができる。
【0039】
図10に、第1実施形態の第2変形形態における超電導コイル装置102を示す。この超電導コイル装置102では、超電導コイル10が偶数枚積層され、その積層方向(超電導コイル10の巻回軸Oと同方向)中央位置で隣り合う超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13同士が対向するように配置され、それ以外の位置での超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13が、隣り合う超電導コイル10の巻線部材11における迂回路12が設けられていない方の側面15側の絶縁板19と対向するように配置されている。
【0040】
図11に、第1実施形態の第3変形形態における超電導コイル装置103を示す。この超電導コイル装置103では、超電導コイル10が偶数枚積層され、その積層方向(超電導コイル10の巻回軸Oと同方向)中央位置で隣り合う超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられていない方の側面15側の絶縁板19同士が対向するように配置され、それ以外の位置での超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13が、隣り合う超電導コイル10の巻線部材11における迂回路12が設けられていない方の側面15側の絶縁板19と対向するように配置されている。
【0041】
従って、上述の第2変形形態の超電導コイル装置102によれば、第1実施形態及び第1変形形態の効果(1)及び(3)と同様な効果を奏し、第3変形形態の超電導コイル装置103によれば、第1実施形態及び第1変形形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、これらの超電導コイル装置102及び103は、次の効果(4)を奏する。
【0042】
(4)超電導コイル装置102、103は、その積層方向中央位置を通り且つその積層方向に対する垂直な平面を境に、超電導コイル10が超電導コイル装置102、103の積層方向に対称に配置されている。このため、例えば、超電導コイル装置100(図1)のように超電導コイル10が上記平面を境に非対称な配置の場合と比べて、発生する磁場を、超電導コイル装置102、103の積層方向に対称に形成することができる。
【0043】
図12に、第1実施形態の第4変形形態における超電導コイル装置104を示し、図13に、第4変形形態における他の例の超電導コイル装置105を示す。図12に示す超電導コイル装置104では、隣り合う超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13同士が対向し、且つ巻線部材11における迂回路12が設けられていない方の側面15側の絶縁板19同士が対向するように積層されて配置される共に、隣り合う超電導コイル10間の隙間のうちで伝熱板13が設けられていない側の絶縁板19同士が対向する隙間に、均熱板31が電気的に絶縁された状態で介装されている。
【0044】
また、図13に示す超電導コイル装置105では、超電導コイル10は、巻線部材11における迂回路12が設けられた方の側面15側の伝熱板13が、隣り合う超電導コイル10の巻線部材11における迂回路12が設けられていない方の側面15側の絶縁板19と対向するように積層されて配置されると共に、超電導コイル装置105の積層方向の端部に配置された超電導コイル10に、均熱板31が電気的に絶縁された状態で設けられている。
【0045】
均熱板31の材料としては、伝熱板13と同様にアルミニウムや銅などの熱伝導率が高い金属が好的に用いられる。均熱板31は通常、冷凍機等の超電導コイル10の外部の機器に電気的に接続されておらず、超電導コイル10内の温度を均一に保つ機能を果たすが、均熱板31を冷凍機等の外部機器に接続することで、伝熱板13と同様に超電導コイル10で発生した熱を取り除く機能を与えてもよい。また、均熱板31は、超電導コイル10の周方向または径方向に分割されて設置されてもよい。更に、均熱板31の厚さを調整することで、超電導コイル10における積層方向の間隔を調整することが可能になる。
【0046】
以上のように構成されたことから、第4実施形態の超電導コイル装置104によれば、第1実施形態及び第1変形形態の効果(1)及び(3)と同様な効果を奏し、第4実施形態の他の例の超電導コイル装置105によれば、第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、これらの超電導コイル装置104及び105は、次の効果(5)を奏する。
【0047】
(5)超電導コイル装置104では、隣り合う超電導コイル10間の隙間のうちで伝熱板13が設けられていない方の絶縁板19が対向する隙間に均熱板31が設けられたので、超電導コイル装置104の積層方向における端部以外の内側に配置された超電導コイル10の温度を均一化できる。また、超電導コイル装置105では、この超電導コイル装置105の積層方向の端部に位置する超電導コイル10に均熱板31が設けられたので、超電導コイル装置105の積層方向における端部の超電導コイル10の温度を均一化できる。
【0048】
なお、超電導コイル装置100~105は、迂回路12を備えた複数の超電導コイル10を積層してなるが、迂回路12を持たない超電導コイルを含んでいてもよい。つまり、超電導コイル装置100~105のうちで、臨界電流が高い部分では迂回路12を持たない超電導コイルとすることで、超電導コイル装置100~105を非通電状態から定格電流値まで励磁する際に、誘導電圧により、電源から供給される通電電流Iの一部I’が迂回路12を経て他のターンの薄膜線材20へ迂回する電気量を低減でき、設計した磁場の値に到達するまでの時間を短縮させることができる。
【0049】
[B]第2実施形態(図14図15
図14は、第2実施形態に係る超電導コイル装置を示す部分断面図である。また、図15は、図14の超電導コイル装置を構成する超電導コイルを示す部分断面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0050】
本第2実施形態の超電導コイル装置200が第1実施形態と異なる点は、超電導コイル40がその巻回軸O方向に複数個を積層されることで超電導コイル装置200が構成され、超電導コイル40では、巻線部材11における一対の側面15のうちの両方の側面15に迂回路12が設けられ、これらの迂回路12に電気的に絶縁された状態で伝熱板13が接して設けられた点である。
【0051】
ここで、超電導コイル装置200は、巻線部材11の両方の側面15に迂回路12が設けられた超電導コイル40のみにより構成される場合に限らず、巻線部材11の片方の側面15に迂回路12が設けられた超電導コイル10(図2)や、迂回路12が存在しない超電導コイルを含むものでもよい。
【0052】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、次の効果(6)及び(7)を奏する。
(6)超電導コイル装置200を構成する超電導コイル40では、迂回路12が巻線部材11の一対の側面のうちの両方の側面15に設けられているので、超電導コイル40の常電導転移時に、巻線部材11を形成する薄膜線材20に流れる通電電流の一部I´を迂回路12に確実に流すことができる。更に、超電導コイル40では、各迂回路12に接して伝熱板13がそれぞれ設けられているので、超電導コイル40の常電導転移時に発熱する迂回路12の熱を、伝熱板13を経て冷凍機により直接冷却でき、このため迂回路12の温度上昇を確実に抑制できる。これらのことから、超電導コイル40の熱暴走の発生、または薄膜線材20のクエンチの発生を未然に防止できる。
【0053】
(7)超電導コイル40では、迂回路12が巻線部材11の両方の側面15に設けられたので、この超電導コイル40が複数個積層された超電導コイル装置200は、その積層方向中央位置を通り且つ積層方向に対し垂直な平面を境に対称な構成になる。従って、超電導コイル装置200が発生する磁場を、超電導コイル装置200の積層方向に対称に形成することができる。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0055】
例えば、前記第1及び第2実施形態では、超電導コイル10、40の巻線部材11を形成する薄膜線材20は高温超電導線材の場合を述べたが、低温超電導線材であってもよい。また、超電導コイル10、40は、巻線部材11が所謂パンケーキ形状の場合を述べたが、巻線部材11が非円形形状であるレーストラック型、鞍型、楕円型にそれぞれ形成されたものでもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…超電導コイル、11…巻線部材、12…迂回路、13…伝熱板、15…側面、17…導電性樹脂、20…薄膜線材(高温超電導線材)、31…均熱板、40…超電導コイル、100…超電導コイル装置、101、102、103、104、105…超電導コイル装置、200…超電導コイル装置、O…巻回軸
図1
図2
図3
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図15