(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】節輪構造体および可動型カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20230322BHJP
A61M 25/092 20060101ALI20230322BHJP
A61B 1/018 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
A61M25/00 540
A61M25/092 500
A61B1/018 515
(21)【出願番号】P 2019037058
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】嶋 辰也
(72)【発明者】
【氏名】米道 渉
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-527653(JP,A)
【文献】特開2015-002858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/092
A61B 1/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状の円筒部を有する複数の節輪を軸心方向に沿って順次隣接して基端から先端にわたって延在するように配設してなる節輪構造体であって、
前記複数の節輪の各節輪は、
前記円筒部の両端面のうちの少なくとも一方に突出するように形成され、軸心に関して互いに略対称な位置に配置された一対の山部と、
前記円筒部の側壁内に軸心方向に沿って形成されるとともに、該山部の一方に形成された第1貫通孔、該山部の他方に形成された第2貫通孔、該山部のそれぞれの頂点を結ぶ揺動中心線の一側に形成された第3貫通孔、および該揺動中心線の他側に形成された第4貫通孔とを備え、
先端部が最先端の節輪に係合し、各第1貫通孔により構成される第1ワイヤ用通路に挿通され、基端部が当該節輪構造体の基端に至る第1ワイヤ、
先端部が最先端の節輪に係合し、各第2貫通孔により構成される第2ワイヤ用通路に挿通され、基端部が当該節輪構造体の基端に至る第2ワイヤ、
先端部が最先端の節輪に係合し、各第3貫通孔により構成される第3ワイヤ用通路に挿通され、基端部が当該節輪構造体の基端に至る第3ワイヤ、および
先端部が最先端の節輪に係合し、各第4貫通孔により構成される第4ワイヤ用通路に挿通され、基端部が当該節輪構造体の基端に至る第4ワイヤを設け、
前記各節輪はX線透過性の
樹脂材料で形成され、
前記第1ワイヤおよび前記第2ワイヤはX線透過性の
樹脂材料で形成され、
前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤはX線不透過性の材料
である、金属材料または金属を含有する樹脂材料で形成された節輪構造体。
【請求項2】
請求項
1に記載の節輪構造体を有する可動型カテーテルであって、
メインルーメンと、前記第3ワイヤ用通路および前記第4ワイヤ用通路のそれぞれに対応して側壁内に形成された2本のワイヤ用ルーメンとを備える可撓性のチューブを有し、
前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤの前記節輪構造体の基端に至っている端部は、それぞれ対応する前記ワイヤ用ルーメンに挿通されて、前記チューブの近位端に至っている可動型カテーテル。
【請求項3】
前記チューブは、前記第1ワイヤ用通路および前記第2ワイヤ用通路のそれぞれに対応して側壁内に形成された2本のワイヤ用ルーメンをさらに備え、
前記第1ワイヤおよび前記第2ワイヤの前記節輪構造体の基端に至っている端部は、それぞれ対応する前記ワイヤ用ルーメンに挿通されて、前記チューブの近位端に至っている請求項2に記載の可動型カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用処置具に好適に用いることができる節輪構造体、およびこれを備える可動型カテーテル(Steerable Catheter)に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の体内に挿入される先端部を偏向させる技術として、特許文献1に記載の節輪構造体が知られている。この節輪構造体は、互いに180°対向位置に形成された揺動支点となる一対の山部を有する金属製の複数の節輪を軸心方向に沿って配設して構成されている。各節輪は、略90°の角度ピッチで形成された4つの貫通孔を有しており、これら4つの貫通孔のうちの互いに180°対向する一対の貫通孔は連結ワイヤが挿通される連結ワイヤ挿通孔として一対の山部に形成されており、他の一対の貫通孔は偏向ワイヤ(首振ワイヤ)が挿通される偏向ワイヤ挿通孔となっている。
【0003】
各節輪は、一対の連結ワイヤ挿通孔にそれぞれ挿通された金属製の連結ワイヤを適宜にレーザ溶接して接続(固定)することにより連結されており、一対の偏向ワイヤ挿通孔にそれぞれ挿通された偏向ワイヤの一方を引っ張ることにより、山部を支点として各節輪が一側に回動し、他方を引っ張ることにより、山部を支点として各節輪が他側に回動することで、偏向(湾曲)できるようにしている。
【0004】
しかしながら、従来の節輪構造体では、金属製の節輪に連結ワイヤを溶接することにより各節輪を連結するようにしているため、この節輪構造体を偏向部として備える医療用処置具を体内に挿入して体外からX線透視する場合に、医療用処置具の軸心周りの姿勢を把握することが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、体内に挿入してX線透視した際に、軸心周りの姿勢を容易に把握することができる節輪構造体およびこれを備える可動型カテーテルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る節輪構造体は、
略円筒状の円筒部を有する複数の節輪を軸心方向に沿って順次隣接して基端から先端にわたって延在するように配設してなる節輪構造体であって、
前記複数の節輪の各節輪は、
前記円筒部の両端面のうちの少なくとも一方に突出するように形成され、軸心に関して互いに略対称な位置に配置された一対の山部と、
前記円筒部の側壁内に軸心方向に沿って形成されるとともに、該山部の一方に形成された第1貫通孔、該山部の他方に形成された第2貫通孔、該山部のそれぞれの頂点を結ぶ揺動中心線の一側に形成された第3貫通孔、および該揺動中心線の他側に形成された第4貫通孔とを備え、
先端部が最先端の節輪に係合し、各第1貫通孔により構成される第1ワイヤ用通路に挿通され、基端部が当該節輪構造体の基端に至る第1ワイヤ、
先端部が最先端の節輪に係合し、各第2貫通孔により構成される第2ワイヤ用通路に挿通され、基端部が当該節輪構造体の基端に至る第2ワイヤ、
先端部が最先端の節輪に係合し、各第3貫通孔により構成される第3ワイヤ用通路に挿通され、基端部が当該節輪構造体の基端に至る第3ワイヤ、および
先端部が最先端の節輪に係合し、各第4貫通孔により構成される第4ワイヤ用通路に挿通され、基端部が当該節輪構造体の基端に至る第4ワイヤを設け、
前記各節輪はX線透過性の材料で形成され、
前記第1ワイヤおよび前記第2ワイヤはX線透過性の材料で形成され、
前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤはX線不透過性の材料で形成された節輪構造体である。
【0008】
本発明の第1の観点に係る節輪構造体では、各節輪がX線透過性の材料で形成されているため、X線不透過性の材料で形成された第3ワイヤおよび第4ワイヤを、X線透視画像において視認することができる。そして、第1ワイヤおよび第2ワイヤはX線透過性の材料で形成されているため(X線不透過性の材料で形成されていないため)、X線透視画像において第3ワイヤおよび第4ワイヤと視覚的に混同を生じることが少ない。このため、第3ワイヤおよび第4ワイヤの互いの間隔の大小から、節輪構造体の軸心周りの回転姿勢を容易に把握することができる。
【0009】
本発明の第1の観点に係る節輪構造体において、前記第1ワイヤおよび前記第2ワイヤを樹脂材料で形成し、前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤを金属材料または金属を含有する樹脂材料で形成することができる。X線透視画像において、第3ワイヤおよび第4ワイヤを第1ワイヤおよび第2ワイヤから視覚的に明確に区別し、あるいは第1ワイヤおよび第2ワイヤを視覚的に見えなくすることができる。
【0010】
本発明の第2の観点に係る可動型カテーテルは、本発明の第1の観点に係る節輪構造体を有する可動型カテーテルであって、メインルーメンと、前記第3ワイヤ用通路および前記第4ワイヤ用通路のそれぞれに対応して側壁内に形成された2本のワイヤ用ルーメンとを備える可撓性のチューブを有し、前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤの前記節輪構造体の基端に至っている端部は、それぞれ対応する前記ワイヤ用ルーメンに挿通されて、前記チューブの近位端に至っている可動型カテーテルである。軸心周りの回転姿勢を容易に把握することができる可動型カテーテルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態の節輪構造体を備える可動型カテーテルの外観構成を示す正面図である。
【
図2A】
図2Aは、
図1Aの可動型カテーテルの遠位端部の正面図であって、偏向部を偏向(湾曲)させていない状態を示す図である。
【
図2D】
図2Dは、
図2Aの可動型カテーテルの遠位端部の正面図であって、偏向部を偏向(湾曲)させた状態を示す図ある。
【
図4A】
図4Aは、
図1Aの可動型カテーテルの遠位端部をX線透視したX線透視画像を模式的に示す図である。
【
図4B】
図4Bは、
図4AのX線透視画像において、可動型カテーテルを軸心周りに略45°回転した状態を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、
図4AのX線透視画像において、可動型カテーテルを軸心周りに略90°回転した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態として、節輪構造体からなる偏向部(可動部)を備える医療用処置具としての可動型カテーテルについて、図面を参照して具体的に説明する。本実施形態の可動型カテーテルは、たとえば、内視鏡の処置具案内管を介して経十二指腸乳頭的に胆管内に挿入し、胆管内の検査のためのX線造影剤を注入するためなどに用いられる可動型内視鏡用カテーテルとして用いることができる。
【0013】
ただし、本発明は内視鏡を介して体内に挿入される内視鏡用カテーテルに限定されることはなく、たとえば、カテーテルアブレーションを行う際に、心電を検出するための電極カテーテルや患部を焼灼するためのアブレーションカテーテル等に先行して挿入され、これらの電極カテーテルやアブレーションカテーテル等を案内するカテーテルシースに適用することができる。また、カテーテルシース等の案内部材を介して体内に挿入される電極カテーテルやアブレーションカテーテル等のカテーテル、あるいは内視鏡やカテーテルシース等の案内部材を介さずに直接的に体内管腔等に挿入されるカテーテルにも本発明を適用することができる。
【0014】
なお、カテーテルアブレーションとは、心臓に生じる不整脈を治療するための治療法であり、その先端部に高周波電極を有するアブレーションカテーテルを血管を経由して心臓内の不整脈の原因となっている異常な電気信号を発する心筋組織まで挿入し、該心筋組織またはその近傍を60~70℃程度で焼灼して凝固壊死せしめ、不整脈の原因となる異常な電気信号の伝達経路を遮断する治療法である。
【0015】
まず、
図1Aおよび
図1Bを参照する。可動型内視鏡用カテーテル(可動型カテーテル)1は、シース部2、操作部3、グリップ部4、一対のワイヤW1,W2、および他の一対のワイヤW3,W4を概略備えて構成されている。
【0016】
シース部2は、体内に挿入される遠位端および体外に配置される近位端を有する長尺の部材からなり、メインルーメン22を有する可撓性で長尺のチューブからなるシース本体部(チューブ)20およびシース本体部20の遠位端部に連続(隣接)して設けられた可動部としての偏向部(節輪構造体)21から構成されている。
【0017】
シース本体部20としては、たとえば網状のステンレス鋼等からなるブレード層および複数の樹脂層を含む多層チューブが用いられる。シース本体部20に用いる樹脂材料としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーを用いることが好ましく、たとえば、ポリエーテルブロックアミド共重合体などのポリアミド系エラストマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などが用いられる。
【0018】
シース本体部20の管壁内には、メインルーメン22の外側を取り囲むように、メインルーメン22に略平行する4つのワイヤ用ルーメン(サブルーメン)23a~23dが形成されている。ワイヤ用ルーメン23a~23dは、シース本体部20の近位端部から遠位端(偏向部21の近位端)に至って形成されている。ワイヤ用ルーメン23a~23dは、シース本体部20の軸心を中心として、メインルーメン22の外側に、略90°の角度ピッチ(角度間隔)で互いに離間して形成されている。ワイヤ用ルーメン23a~23dの遠位端は、シース本体部20の遠位端面に開口している。
【0019】
ワイヤ用ルーメン23aは、ワイヤW1が摺動可能に挿通されるルーメンであり、ワイヤ用ルーメン23bは、ワイヤW2が摺動可能に挿通されるルーメンである。ワイヤ用ルーメン23cは、ワイヤW3が摺動可能に挿通されるルーメンであり、ワイヤ用ルーメン23dは、ワイヤW4が摺動可能に挿通されるルーメンである。
【0020】
シース本体部20の外径は1~10mmの範囲内で設定することができ、内径は0.5~9.5mmの範囲内で設定することができる。シース部2の全長は100~3000mmの範囲内で設定することができる。ワイヤ用ルーメン23a~23dの直径はφ0.05~5mmの範囲内で設定することができる。
【0021】
偏向部21は、
図2A~
図2Dに示すように、略円筒状の円筒部51を有する複数の節輪5を軸心方向に沿って互いに略同一の姿勢で順次隣接して基端から先端にわたって延在するように配設してなる節輪構造体から構成されており、基端側がシース本体部20の遠位端に連続するように隣接して配置されている。偏向部21を構成する節輪51の数は、特に限定されないが、
図2Aに示す実施形態では、一例として、12個としている。
【0022】
節輪5は、
図3A~
図3Cに示すように、円筒部51の両端面のうちの一方(本実施形態では、基端側の面)に突出するように形成され、軸心に関して互いに略対称な位置(180°対向する位置)に配置された一対の山部52,52を有している。節輪5は、山部52,52のそれぞれの頂点52a,52aが当接する節輪5の先端側の面またはシース本体部20の遠位端面に対して、頂点52a,52aを結んだ線(揺動中心線L1)を中心として、一側および他側に揺動(回動)し得るようになっている。頂点52a,52aは正確には円筒部51の肉厚相当の長さを有する稜線(頂部)である。なお、一対の山部は、円筒部51の基端側ではなく、先端側の面に設けてもよく、基端側の面に加えて、先端側の面にも設けるようにしてもよい。
【0023】
節輪5の円筒部51の側壁内には、軸心方向に沿って4つのワイヤ用貫通孔(第1~第4貫通孔)53a~53dが形成されている。ワイヤ用貫通孔(第1貫通孔)53aは山部52,52の一方に形成されており、ワイヤ用貫通孔(第2貫通孔)53bは山部52,52の他方に形成されている。本実施形態では、ワイヤ用貫通孔53aは一方の山部52の頂点52aの一部をその内側に含むように形成されており、ワイヤ用貫通孔53bは他方の山部52の頂点52aの一部をその内側に含むように形成されている。ワイヤ用貫通孔(第3貫通孔)53cは、山部52,52のそれぞれの頂点52a,52aを結ぶ揺動中心線L1の一側(
図3Bにおいて上側)に形成されており、ワイヤ用貫通孔53d(第4貫通孔)は、該揺動中心線L1の他側(
図3Bにおいて下側)であって、揺動中心線L1に関してワイヤ用貫通孔53cと略対称な位置に形成されている。
【0024】
本実施形態では、各ワイヤ用貫通孔53a~53dは、互いに略90°の角度ピッチで配置されている。すなわち、揺動中心線L1とワイヤ用貫通孔53aおよびワイヤ用貫通孔53bのそれぞれの中心を結ぶ線とが略一致し、揺動中心線L1とワイヤ用貫通孔53cおよびワイヤ用貫通孔53dのそれぞれの中心を結ぶ線とが略90°で交差するように形成されている。また、ワイヤ用貫通孔53aはシース本体部20のワイヤ用ルーメン23aに対応し、ワイヤ用貫通孔53bはシース本体部20のワイヤ用ルーメン23bに対応し、ワイヤ用貫通孔53cはシース本体部20のワイヤ用ルーメン23cに対応し、ワイヤ用貫通孔53dはシース本体部20のワイヤ用ルーメン23dに対応して形成されている。
【0025】
なお、本実施形態では、節輪5の軸心方向に沿って延在し、節輪5の内壁面から内側を指向して突出するように厚肉とした4つの厚肉部55a~55dを設けて、各ワイヤ用貫通孔53a~53dを対応する厚肉部55a~55dに形成するようにしている。これは、節輪5の軽量化を図る観点から円筒部51の肉厚(側壁の厚さ)を小さく(薄く)するためであるが、円筒部51の側壁が十分な肉厚を有する場合には、そのような厚肉部55a~55dを設けることなく、各ワイヤ用貫通孔53a~53dを円筒部51の側壁内に形成するようにしてもよい。
【0026】
各節輪5の材料としては、X線透過性の材料が用いられ、特に限定されないが、X線吸収が小さい樹脂材料を用いることが好ましく、たとえば、ポリエーテルブロックアミド共重合体などのポリアミド系エラストマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などを用いることができる。ここで、「X線透過性の材料」とは、X線透視画像において形状を識別し得ない程度にX線透過性が高く(X線造影性が低く)、具体的にはX線透視画像(ネガ画像)において、黒または黒っぽく視認される程度のX線透過性を有する材料である。
【0027】
特に限定されないが、節輪5の円筒部51の外径は、本実施形態では、シース本体部20の外径と略同一とし、節輪5の円筒部51の厚肉部55a~55dにおける内径は、シース本体部20の内径と略同一としている。節輪5の円筒部51の厚肉部55a~55d以外の部分の内径は、0.5~9.5mmの範囲内で設定することができる。節輪5の軸心方向の長さ(先端面から基端側の山部52の頂点52aまでの寸法)は、1.0~5.0mmの範囲内で設定することができる。山部52の傾斜角度(軸心に対して直交する面に対する角度)θは、1~45°の範囲で設定することができ、5~20°の範囲内で設定することがより好ましい。ワイヤ用貫通孔53a~53dの直径は、本実施形態では、シース本体部20のワイヤ用ルーメン23a~23dと略同一としている。
【0028】
図1Aに示すように、偏向部21の遠位端(最先端の節輪5の先端)には、樹脂からなり、遠位端側が半球状(または先細の円錐台状)とされた略円筒状の先端保護部材24が設けられている。先端保護部材24は、メインルーメン22と略同径の内腔を有し、偏向部21の遠位端部に熱融着等により一体的に接合(固着)されている。ただし、先端保護部材24は省略してもよい。
【0029】
図2A~
図2Dに示すように、偏向部21を構成する複数の節輪5(円筒部51)の各ワイヤ用貫通孔53aにより構成されるワイヤ用通路(第1ワイヤ用通路)54aおよびこれに対応するワイヤ用ルーメン23aにはワイヤW1が挿通されており、偏向部21を構成する複数の節輪5(円筒部51)の各ワイヤ用貫通孔53bにより構成されるワイヤ用通路(第2ワイヤ用通路)54bおよびこれに対応するワイヤ用ルーメン23bにはワイヤW2が挿通されている。また、偏向部21を構成する複数の節輪5(円筒部51)の各ワイヤ用貫通孔53cにより構成されるワイヤ用通路(第3ワイヤ用通路)54cおよびこれに対応するワイヤ用ルーメン23cにはワイヤW3が挿通されており、偏向部21を構成する複数の節輪5(円筒部51)の各ワイヤ用貫通孔53dにより構成されるワイヤ用通路(第4ワイヤ用通路)54dおよびこれに対応するワイヤ用ルーメン23dにはワイヤW4が挿通されている。
【0030】
本実施形態では、各ワイヤW1~W4の遠位端部(先端部)は、ワイヤ用貫通孔53a~53dよりも大径の略円板状の接続部材56a~56dを介して、最先端の節輪5(円筒部51)に接続(または係合)されている。なお、接続部材56a~56dを設けずに、ワイヤW1~W4の遠位端部を最先端の節輪5(円筒部51)に直接接続するようにしてもよい。これらの接続の方法としては、接着や融着等を用いることができる。
【0031】
これらのワイヤのうち、ワイヤW1およびワイヤW2は、偏向部21を構成する各節輪5を互いに連結するとともに、偏向部21の基端(最基端の節輪5)をシース本体部20の遠位端に連結する機能を担ういわゆる連結ワイヤである。また、ワイヤW3およびワイヤW4は、いずれか一方を基端側(近位端側)に引っ張ることにより、各節輪5をそれぞれの揺動中心線L1を中心として一側または他側に回動させて、各節輪5全体として一側または他側に偏向(湾曲)させる機能を担う偏向ワイヤである。
【0032】
ワイヤW1はワイヤ用通路54aおよびワイヤ用ルーメン23aに挿通され、近位端部がシース部2(シース本体部20)の近位端側の操作部3に位置するように配置されており、ワイヤW2はワイヤ用通路54bおよびワイヤ用ルーメン23bに挿通され、近位端部がシース部2(シース本体部20)の近位端側の操作部3に位置するように配置されている。また、ワイヤW3はワイヤ用通路54cおよびワイヤ用ルーメン23cに挿通され、近位端部がシース部2(シース本体部20)の近位端側の操作部3に位置するように配置されており、ワイヤW4はワイヤ用通路54dおよびワイヤ用ルーメン23dに挿通され、近位端部がシース部2(シース本体部20)の近位端側の操作部3に位置するように配置されている。
【0033】
ワイヤW1~W4としては、シース部2(シース本体部20および偏向部21)の湾曲に追従して湾曲し得る程度の柔軟性を有するとともに、偏向部21を構成する各節輪5を連結または偏向し得る程度の強度を有する線材が用いられる。ワイヤW1~W4を構成する線材の直径は、φ0.05~1.00mm程度の範囲で設定することができる。
【0034】
ワイヤW1およびワイヤW2を構成する線材の材料としては、X線透過性の材料が用いられ、特に限定されないが、X線吸収が小さい樹脂材料を用いることが好ましく、たとえば、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などを用いることができる。ここで、「X線透過性の材料」とは、既述した通りである。
【0035】
ワイヤW3およびワイヤW4を構成する線材の材料としては、X線不透過性の材料が用いられ、特に限定されないが、X線吸収が大きい金属材料を用いることが好ましく、たとえば、ステンレス、白金、プラチナ、パラジウム、金、銀、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、銅、コバルト、ニッケル、鉄などを用いることができる。ここで、「X線不透過性の材料」とは、X線透視画像において形状を識別し得る程度にX線透過性が低く(X線造影性が高く)、X線透視画像(ネガ画像)において、白または白っぽく造影される程度のX線透過性を有する材料である。ただし、ワイヤW3およびワイヤW4としては、金属材料からなるものに限定されず、金属を含有する樹脂材料からなる線材を用いてもよい。
【0036】
なお、ワイヤW3およびワイヤW4を構成する線材の材料としては、X線透過性(X線透過率)が絶対的に高い材料を用いることが好ましいが、X線透視画像においてワイヤW1およびワイヤW2と区別し得る程度に、ワイヤW1およびワイヤW2のX線透過性(X線透過率)よりも相対的に低いX線透過性(X線透過率)を有する材料を用いてもよい。
【0037】
偏向部21を各節輪5のそれぞれの軸心が略直線状に配置される直線形体(
図2A参照)とした状態から、ワイヤW3をシース部2の近位端部において近位端側に引っ張ることにより、各節輪5のそれぞれの軸心が順次互いに交差するように湾曲して配置される湾曲形体(
図2D参照)にすることができる。これと逆に、ワイヤW4をシース部2の近位端部において近位端側に引っ張ることにより、偏向部21を
図2Aに示した直線形体に戻し、さらに引っ張ることにより、偏向部21を
図2Dとは逆向きに湾曲した湾曲形体にすることができる(
図1Aの矢印A3参照)。
【0038】
図1Aにおいて、シース部2の近位端側に取り付けられた操作部3およびグリップ部4には、シース本体部20の近位端側の部分が挿通される挿通孔(不図示)が形成されていて、グリップ部4の近位端側には、ポート41が設けられている。
【0039】
ポート41は内腔を有していて、ポート41の近位端側にはグリップ部4内のシース本体部20が、ポート41の内腔とシース本体部20のメインルーメン22とが連通するように取り付けられている。また、ポート41は、止血弁を備えた挿入口を有している。この挿入口にシリンジを接続して、体内(胆管内)に造影剤やその他の薬液等を、メインルーメン22を介して注入し、あるいは体内(胆管内)の液体を吸引することができる。
【0040】
ワイヤW1およびワイヤW2の近位端部は、シース部2の近位端側に設けられたグリップ部4の内部においてシース本体部20に設けられた側孔から引き出されて、偏向部21を構成する各節輪5の連結に適した所定の張力が印加された状態でグリップ部4にそれぞれ固定されている。
【0041】
ワイヤW3およびワイヤW4の近位端部は、シース部2の近位端側に設けられたグリップ部4の内部においてシース本体部20に設けられた側孔から引き出されて、グリップ部4の近位端側に設けられた操作部3(回転操作部材31)にそれぞれ接続されている。回転操作部材31は、グリップ部4に対して回転可能に設けられており、術者が手で回転操作部材31を握って一方向または逆方向に回転させて、ワイヤW3およびワイヤW4の一方を引っ張り、他方を緩めることにより、偏向部21を選択的に偏向させることができる。
【0042】
図1Aに示したニュートラル状態では、ワイヤW3およびワイヤW4の両者に均等に初期張力が作用した状態となっており、シース部2の先端の偏向部21は、直線状に延びた状態(直線形体)となる(
図2Aおよび
図2Cも参照)。
【0043】
ニュートラル状態から、回転操作部材31を操作して、回転操作部材31を
図1において矢印A1の方向に回転させると、この回転に伴い、ワイヤW3が緩められ、ワイヤW4が引っ張られることにより、先端の偏向部21が
図1Aにおいて矢印A3に示すように偏向される。
【0044】
これと反対に、回転操作部材31を操作して、回転操作部材31を
図1において矢印A2方向に回転させると、ワイヤW3が引っ張られ、ワイヤW4が緩められることにより、先端の偏向部21が
図1Aにおいて矢印A4に示すように偏向される(
図2Dも参照)。
【0045】
上述した実施形態では、偏向部21を構成する各節輪5がX線透過性の材料で形成されているため、X線不透過性の材料で形成された偏向ワイヤとしてのワイヤW3およびワイヤW4を、X線透視画像において視認することができる。
【0046】
また、連結ワイヤとしてのワイヤW1およびワイヤW2をX線不透過性の材料で形成したとすると、これらと同じくX線不透過性の材料で形成された偏向ワイヤとしてのワイヤW3およびワイヤW4とをX線透視画像において識別することができない(または難しい)。しかし、上述した実施形態では、連結ワイヤとしてのワイヤW1およびワイヤW2がX線透過性の材料で形成されているため、偏向ワイヤとしてのワイヤW3およびワイヤW4と視覚的に混同を生じることがない(または少ない)。このため、
図4A~
図4Cに示すように、偏向ワイヤとしてのワイヤW3およびワイヤW4の互いの間隔の大小(広狭)から、可動型カテーテル1の遠位端部(偏向部21)の軸心周りの回転姿勢を容易に把握することができる。
【0047】
図4A~
図4Cは、本実施形態の可動型カテーテル1の遠位端部におけるX線透視画像を模式的に示しており、図示の便宜上、X線不透過性の材料で形成されたワイヤW3およびワイヤW4が黒っぽく表示されるポジ画像を模式的に示している。なお、X線透過性の材料で形成されたワイヤW1およびワイヤW2はX線透視画像において視覚的に認識できないものとして表示されていない。
図4Aに示すように、ワイヤW3とワイヤW4との間隔が広く表示されている場合には、カテーテル1を正面視またはそれに近い方向から見ていることを意味しており(
図1A、
図2A、
図2D参照)、
図4Aの紙面に略平行な面内において偏向(湾曲)させ得ることを認識することができる。
【0048】
図4Cに示すように、ワイヤW3とワイヤW4とが重複して1本の線として表示(または両者の間隔が極めて狭く表示)されている場合には、カテーテル1を平面視またはそれに近い方向から見ていることを意味しており(
図2C参照)、
図4Bの紙面に略直交する面内において偏向(湾曲)させ得ることを認識することができる。
【0049】
図4Bに示すように、ワイヤW3とワイヤW4との間隔が
図4Aおよび
図4Cの中間くらいの間隔で表示されている場合には、
図4Aまたは
図4Cの状態から軸心方向に45°程度回転した方向から見ていることを意味しており、
図4Aの紙面に略45°で交差する面内において偏向(湾曲)させ得ることを認識することができる。このように、ワイヤW3およびワイヤW4の互いの間隔の大小から、カテーテル1の遠位端部(偏向部21)の軸心周りの回転姿勢を容易に把握することができる。
【0050】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0051】
たとえば、偏向部21を構成する各節輪5の外側に、偏向部21の偏向(湾曲)に支障がない程度の柔軟性を有する外管(被覆管)を配置(外嵌)してもよい。こうすることで、偏向部21を偏向(湾曲)させた際に、各節輪5の間の部分に体内組織が挟み込まれることを防止し得る。また、たとえば、メインルーメン22に他のカテーテル等の長尺部材が挿入される可動型カテーテル(カテーテルシース)である場合には、偏向部21を構成する各節輪5の内側に、偏向部21の偏向(湾曲)に支障がない程度の柔軟性を有する内管を配置(内嵌)してもよい。こうすることで、長尺部材の挿入時に該長尺部材の遠位端が偏向部21を構成する各節輪5の間の部分に内側から干渉して円滑な挿入の支障となることを抑制し得る。なお、これらのような外管や内管を設ける場合には、X線透視画像におけるワイヤW3およびワイヤW4の視認性に影響しないように、その材料として、樹脂材料等のX線透過性の材料を用いる。
【符号の説明】
【0052】
1…可動型内視鏡用カテーテル(可動型カテーテル)
2…シース部
20…シース本体部(チューブ)
21…偏向部(節輪構造体)
22…メインルーメン
23a~23d…ワイヤ用ルーメン
24…先端保護部材
3…操作部
31…回転操作部材
4…グリップ部
41…ポート
5…節輪
51…円筒部
52…山部
52a…頂点
53a…ワイヤ用貫通孔(第1貫通孔)
53b…ワイヤ用貫通孔(第2貫通孔)
53c…ワイヤ用貫通孔(第3貫通孔)
53d…ワイヤ用貫通孔(第4貫通孔)
54a…ワイヤ用通路(第1ワイヤ用通路)
54b…ワイヤ用通路(第2ワイヤ用通路)
54c…ワイヤ用通路(第3ワイヤ用通路)
54d…ワイヤ用通路(第4ワイヤ用通路)
55a~55d…厚肉部
56a~56d…接続部材
L1…揺動中心線
W1…ワイヤ(第1ワイヤ)
W2…ワイヤ(第2ワイヤ)
W3…ワイヤ(第3ワイヤ)
W4…ワイヤ(第4ワイヤ)