(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-22
(45)【発行日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ダブル丸編地及び該ダブル丸編地を用いた衣料
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20230323BHJP
A41D 1/02 20060101ALI20230323BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20230323BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20230323BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20230323BHJP
A41D 31/14 20190101ALI20230323BHJP
A41D 31/18 20190101ALI20230323BHJP
【FI】
D04B1/00 A
A41D1/02 Z
A41D31/00 502D
A41D31/00 503E
A41D31/02 A
A41D31/04 E
A41D31/14
A41D31/18
D04B1/00 B
(21)【出願番号】P 2019066749
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597052053
【氏名又は名称】ミツカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】鈴間 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 直哉
(72)【発明者】
【氏名】森 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】澤田 幸宏
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-102175(JP,A)
【文献】特開2000-256948(JP,A)
【文献】特開昭51-102172(JP,A)
【文献】特開2018-044271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D1/02-1/04
3/00-3/08
29/00-31/32
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維マルチフィラメント
ウーリー加工糸または合成繊維マルチフィラメントウーリー加工杢糸からなるニット編目が編地の表面の総ニット編目の内の60%以上を構成し、編地の裏面を構成するニット編目は全て合成繊維マルチフィラメントの生糸からなり、その生糸の50%以上が総繊度40~100デシテックス、単糸繊度5~10デシテックス及び沸水収縮率が15~25%である高収縮糸である
ジャケット用ダブル丸編地。
【請求項2】
下記の条件で平均摩擦係数を測定したとき、前記ダブル丸編地の裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の和が0.4以下であることを特徴とする請求項1に記載の
ジャケット用ダブル丸編
地。
KES風合いシステムに基づき、表面試験機KES-FB4(カトーテック(株)製)を用いて測定した。20℃で相対湿度65%の環境下で20×20cmの正方形状の試験片に20gf/cmの張力を負荷して上記試験機に取り付け、直径が0.5mmのピアノ線を5×5mmの正方形状の接触子に10本平面状に巻きつけ、この接触子を50gfの力で上記試験片に圧着させ、0.1cm/secの一定速度で接触子を水平方向に移動させて摩擦係数を測定した。上記方法で試験片の縦方向と横方向の摩擦係数を測定し、縦方向と横方向でそれぞれ各3回ずつ測定した摩擦係数の算術平均値を平均摩擦係数とする。平均摩擦係数の和とは、縦方向の平均摩擦係数に横方向の平均摩擦係数を加えたものをいう。
【請求項3】
下記の条件で平均摩擦係数を測定したとき、前記ダブル丸編地の裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の変動率の和が0.05以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の
ジャケット用ダブル丸編地。
KES風合いシステムに基づき、表面試験機KES-FB4(カトーテック(株)製)を用いて測定した。20℃で相対湿度65%の環境下で20×20cmの正方形状の試験片に20gf/cmの張力を負荷して上記試験機に取り付け、直径が0.5mmのピアノ線を5×5mmの正方形状の接触子に10本平面状に巻きつけ、この接触子を50gfの力で上記試験片に圧着させ、0.1cm/secの一定速度で接触子を水平方向に移動させて摩擦係数を測定した。上記方法で試験片の縦方向と横方向の摩擦係数を測定し、縦方向と横方向でそれぞれ各3回ずつ測定した摩擦係数の算術平均値を平均摩擦係数とする。平均摩擦係数の変動率C(%)は、以下のようにして求められる。いま、摩擦係数の各測定値をX(1回目をX1、2回目をX2、3回目をX3と表記する)とし、平均摩擦係数をaとし、測定回数をnとすれば、
C=[[(X1-a)
2
/(n-1)+(X2-a)
2
/(n-1)+(X3-a)
2
/(n-1)]/a]×100
で求められる。平均摩擦係数の変動率の和とは、このようにして求められる縦方向の平均摩擦係数の変動率に横方向の平均摩擦係数の変動率を加えたものをいう。
【請求項4】
前記ダブル丸編地の裏面が高収縮糸および前記高収縮糸より総繊度が20%以上60%以下細い合成繊維マルチフィラメントの生糸で構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の
ジャケット用ダブル丸編地。
【請求項5】
前記ダブル丸編地の裏面のニット編目がコース方向に均等に並んでいることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の
ジャケット用ダブル丸編
地。
【請求項6】
染色加工後の通気度が50cm
3/cm
2・sec以上
のダブル丸編地であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の
ジャケット用ダブル丸編
地。
【請求項7】
染色加工後のウェル密度が30~60ウェル/2.54cmかつコース密度が30~70コース/2.54cm
のダブル丸編地であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の
ジャケット用ダブル丸編地。
【請求項8】
染色加工後の目付が130~270g/m
2
のダブル丸編地であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の
ジャケット用ダブル丸編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブル丸編地及び該ダブル丸編地を用いた衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストレッチ性や通気性等の着心地の良さからアウター素材での丸編地の要望が高まっている。しかしながら、丸編地はストレッチ性や通気性に優れているが、一般的にハリコシが出にくい生地であり、ハリコシを出すために密度を詰めていくと目付が重くなったり、分厚くなりすぎたり、通気性が低下するなどの課題があった。また、ジャケットなどに使用する場合は、着易さを高めるために裏地を使用するが、一般的に裏地は織物であるため、ストレッチ性や通気性を阻害し、更に重い製品に仕上がってしまう。
【0003】
特許文献1には、ハリ、コシに優れたダブル丸編地の製造方法として、シリンダー針とダイヤル針を有する両面丸編機にてダブル丸編地を編成するに際して、シリンダー針のみあるいはダイヤル針のみでニットする給糸口には熱水収縮率が10%未満のポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸のみを給糸し、シリンダー針とダイヤル針の両方の針でニットあるいはタックする給糸口には熱水収縮率が15%以上の高収縮ポリエステルマルチフィラメント糸のみを給糸して編成し、高収縮ポリエステルマルチフィラメント糸の交編率を編地の20%以上、60%以下とする、ダブル丸編地の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、着やすく、動きやすい三層積層体布帛の裏面層の編糸として、33デシテックス以下の捲縮を有さない合成繊維マルチフィラメント糸条のストレートヤーンが使用されてかつ6.45cm2当たりの編目数が5,500~12,000個である天竺組織のシングル丸編地のみを使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4306870号公報
【文献】特許第4805408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された方法で製造されるダブル丸編地は、熱水収縮率が15%以上の高収縮ポリエステルマルチフィラメント糸で表面と裏面を厚み方向に締め付けるため、密度が高くなって目付が重くなる。また、表面と裏面を構成する低収縮ポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント糸が編地より浮き立つので、肌面(裏面)の平滑性が低く、ジャケットなどに使用する際には引っ掛かりが大きくなるので、裏地が必要となるという不都合がある。
【0007】
また、特許文献2に記載された三層積層体布帛のシングル丸編地は裏材として使用されるものであり、単独で衣料用生地として使用するには薄すぎるという不都合がある。
【0008】
本発明は、従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、丸編地でありながら適度なハリコシを有するとともに、ジャケット等に使用する際に求められるストレッチ性、通気性を有すると共に、裏(肌)面を平滑にすることで裏地を使用せず軽量なアウターを縫製することができるダブル丸編地及び該ダブル丸編地を用いた衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の第一発明のダブル丸編地は、合成繊維マルチフィラメント加工糸および/又は合成繊維紡績糸からなるニット編目が編地の表面の総ニット編目の内の60%以上を構成し、編地の裏面を構成するニット編目は全て合成繊維マルチフィラメントの生糸からなり、その生糸の50%以上が総繊度40~100デシテックス、単糸繊度5~10デシテックス及び沸水収縮率が15~25%である高収縮糸であることを特徴とする。
【0010】
本願の第二発明は、本願の第一発明において、前記ダブル丸編地の裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の和が0.4以下であることを特徴とするダブル丸編地である。
【0011】
本願の第三発明は、本願の第一又は第二発明において、前記ダブル丸編地の裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の変動率の和が0.05以下であることを特徴とするダブル丸編地である。
【0012】
本願の第四発明は、本願の第一ないし第三のいずれかの発明において、前記ダブル丸編地の裏面が高収縮糸および前記高収縮糸より総繊度が20%以上60%以下細い合成繊維マルチフィラメントの生糸で構成されていることを特徴とするダブル丸編地である。
【0013】
本願の第五発明は、本願の第一ないし第四のいずれかの発明において、前記ダブル丸編地の裏面のニット編目がコース方向に均等に並んでいることを特徴とするダブル丸編地である。
【0014】
本願の第六発明は、本願の第一ないし第五のいずれかの発明において、通気度が50cm3/cm2・sec以上であることを特徴とするダブル丸編地である。
【0015】
本願の第七発明は、本願の第一ないし第六のいずれかの発明において、ウェル密度が30~60ウェル/2.54cmかつコース密度が30~70コース/2.54cmであることを特徴とするダブル丸編地である。
【0016】
本願の第八発明は、本願の第一ないし第七のいずれかの発明において、目付が130~270g/m2であることを特徴とするダブル丸編地である。
【0017】
本願の第九発明は、本願の第一ないし第八のいずれかの発明のダブル丸編地を用いてなるジャケットである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るダブル丸編地は表面が合成繊維のマルチフィラメントおよび/又は合成繊維の紡績糸で総ニット編目の60%以上が構成され、裏面は全て合成繊維マルチフィラメントの生糸で構成され、且つ裏面の合成繊維マルチフィラメントの50%以上が高収縮糸で構成されている。このような構成とすることで、表面はジャケット等のアウター衣料として必要な表面感を表現しながら、裏面が平滑であるから、裏地を使用せず軽量なアウターを縫製することができるダブル丸編地を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は天竺組織の丸編地を示す模式図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例1及び比較例2のダブル丸編地の編方図を示す組織図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例2のダブル丸編地の編方図を示す組織図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例3のダブル丸編地の編方図を示す組織図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例4のダブル丸編地の編方図を示す組織図である。
【
図6】
図6は本発明の比較例1のダブル丸編地の編方図を示す組織図である。
【
図7】
図7は本発明の比較例3のダブル丸編地の編方図を示す組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明のダブル丸編地は、合成繊維マルチフィラメント加工糸および/又は合成繊維紡績糸からなるニット編目が編地の表面の総ニット編目の内の60%以上を構成し、編地の裏面を構成するニット編目は全て合成繊維マルチフィラメントの生糸からなり、その生糸の50%以上が総繊度40~100デシテックス、単糸繊度5~10デシテックス及び沸水収縮率が15~25%である高収縮糸である。合成繊維マルチフィラメント加工糸および/又は合成繊維紡績糸からなるニット編目が編地の表面の総ニット編目の内の60%未満であると、生糸の比率が高すぎて、表面に光沢感が強く出過ぎてしまい、ジャケット用途としてふさわしくない。
【0021】
より具体的には、本実施形態のダブル丸編地の表面で使用される糸は合成繊維マルチフィラメント加工糸および/又は合成繊維紡績糸であることが好ましい。合成繊維の成分としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系合成繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系合成繊維が上げられ、これら成分をサイドバイサイドに貼り合わせた複合成分であっても問題はない。
【0022】
合成繊維マルチフィラメント加工糸の形状としては、糸加工がされた仮撚り加工糸や空気混繊糸、空気交絡糸など公知の糸が使用でき、断面形状も丸、三角、中空、十字断面等、特に限定されるものではない。
【0023】
合成繊維紡績糸としてはリング、MVS等、公知の糸が使用でき特に限定されるものではないが、抗ピリングを目的としてMVSを用いることが好ましい。また、合成繊維紡績糸には綿、麻、羊毛等の天然繊維が含まれていても問題はない。
【0024】
本発明のダブル丸編地の裏面は合成繊維マルチフィラメントの生糸のみで構成されていることが好ましく、その生糸の50%以上が総繊度40~100デシテックス、単糸繊度5~10デシテックス及び沸水収縮率が15~25%である高収縮糸であることが好ましい。
【0025】
裏面の高収縮糸の比率が50%未満の場合、染色加工時に生地が十分に収縮せず、表面の凹凸が大きくなり平滑性が得られにくくなると共に、ハリコシ感が不足する。ハリコシ感を重視する場合は、高収縮糸の比率は100%であることが好ましいが、ストレッチ性を出したい場合、高収縮糸の比率は50~80%であることが好ましく、より好ましくは50~70%であり、さらに好ましくは50~67%である。
【0026】
裏面の高収縮糸の総繊度が40デシテックス未満の場合、染色加工時に生地が十分に収縮せず、ハリコシ感が不足する。総繊度が100デシテックスを超える場合は目付が重くなりすぎてしまう。そこで、高収縮糸の総繊度は40~100デシテックスが好ましく、より好ましくは50~95デシテックス、さらに好ましくは60~90デシテックスである。
【0027】
裏面の高収縮糸の単糸繊度が5デシテックス未満の場合、染色加工時に生地が十分に収縮せず、ハリコシ感が不足する。単糸繊度が10デシテックスを超える場合は逆に生地が硬くなりすぎてしまう。そこで、高収縮糸の単糸繊度は5~10デシテックスが好ましく、より好ましくは5~9デシテックス、さらに好ましくは5~8デシテックスである。
【0028】
裏面の高収縮糸の沸水収縮率が15%未満の場合、染色加工時に生地が十分に収縮せず、ハリコシ感が不足する。沸水収縮率が25%を超える場合は生地が硬くなりすぎると共に通気性が低下してしまう。そこで、高収縮糸の沸水収縮率は15~25%が好ましく、より好ましくは17~25%、さらに好ましくは17~23%である。
【0029】
本発明のダブル丸編地の裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の和は0.4以下であることが好ましい。その平均摩擦係数の和が0.4を超える場合は着用時、袖を通す際などに滑りが悪く着用性が低下する。そこで、上記平均摩擦係数の和は0.4以下が好ましく、より好ましくは0.39以下、さらに好ましくは0.38以下である。
【0030】
本発明のダブル丸編地の裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の変動率の和は0.05以下であることが好ましい。その平均摩擦係数の変動率の和が0.05を超える場合、着用時、袖を通す際などに引っかかり感が強く着用性が低下する。そこで、上記平均摩擦係数の変動率の和は0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.045以下、さらに好ましくは0.04以下である。
【0031】
本発明のダブル丸編地の裏面は高収縮糸および前記高収縮糸より総繊度が20%以上細い合成繊維マルチフィラメントの生糸で構成されていることが好ましい。合成繊維マルチフィラメントの総繊度を高収縮糸より20%以上細くすることで、軽量感と程良いストレッチ性を得ることができる。しかし、合成繊維マルチフィラメントの生糸の総繊度が高収縮糸より60%を超えて細いと(細すぎると)、裏面に凹凸感が出やすくなる。合成繊維マルチフィラメントの生糸の総繊度が高収縮糸より20%未満で細いと(相対的に太いと)、目付が重くなってしまう。そこで、合成繊維マルチフィラメントの総繊度は高収縮糸より20~60%細いことが好ましく、20~50%細いことがより好ましくは、20~40%細いことがさらに好ましい。
【0032】
本発明のダブル丸編地の裏面のニット編目がコース方向に均等に並んでいることが好ましい。ニット編目がコース方向に均等に並んでいることで高い平滑性を得ることができる。なお、ニット編目がコース方向に均等に並んでいるとは、
図1のようにニット編目のウェル方向の大きさか全てのコースで同一であることをいう。ニット編目をコース方向に均等に並べるには天竺編みで構成することが最も好ましいが、
図2や
図3に示す組織のように2フィーダーで1コースを形成する組織でもコース方向に均等に並べることが出来る。ニット編目がコース方向に均等に並ぶことでニット編目を形成する糸に等しく力がかかるため、ニット編目の浮き具合が等しくなり高い平滑性を得ることが出来る。また、高い平滑性を得るためにはコース方向に隣り合うニット編目の繊度差を5%以内にすることや裏面でニット編目を形成する糸ではタック編目を編成しないことも有効である。
【0033】
本発明のダブル丸編地の通気度は50cm3/cm2・sec以上であることが好ましい。通気度が200cm3/cm2・sec超であると、通気性が良すぎて、ジャケット用途に適さない。そこで、ダブル丸編地の通気度は50~200cm3/cm2・secであることが好ましく、50~190cm3/cm2・secであることがより好ましく、50~180cm3/cm2・secであることがさらに好ましい。
【0034】
本発明のダブル丸編地のウェル密度が30~60ウェル/2.54cmかつコース密度が30~70コース/2.54cmであることが好ましい。ウェル密度及びコース密度が前記より低くなるとハリコシ感が低下し、逆にウェル密度及びコース密度が前記より高くなると目付が重くなりすぎてしまう。生地の密度は編機と編み条件を所望の条件等に適合させて製編された後、染色加工においてもウェル数とコース数の最終調整を行うことで、目的の編密度に仕上げられる。
【0035】
編機は、ダブル丸編機であればよく、特に限定されないが、目的の編密度を得るには、22ゲージ以上のダブル丸編機が好ましく、28ゲージ以上であることがより好ましい。
【0036】
染色加工法は、従来から知られている染色方法で加工することができる。また、染色段階での付帯加工は、撥水加工、防汚加工、吸水加工、抗菌加工、消臭加工、防臭加工、難燃加工などがある。これらの付帯加工は、目的とする狙いに応じて適宜付与されることが好ましい。
【0037】
本発明のダブル丸編地の目付は130~270g/m2であることが好ましい。目付が130g/m2未満の場合、生地を薄くする必要があり、ハリコシ感が低下してしまう。目付が270g/m2を超える場合は衣料を縫製した際の重量が重くなりすぎてしまう。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に従って本発明を具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されないことは言うまでもない。本発明の実施例における各物性値の測定方法は以下のとおりである。
【0039】
(1)平均摩擦係数
KES風合いシステムに基づき、表面試験機KES-FB4(カトーテック(株)製)を用いて測定した。20℃で相対湿度65%の環境下で20×20cmの正方形状の試験片に20gf/cmの張力を負荷して上記試験機に取り付け、直径が0.5mmのピアノ線を5×5mmの正方形状の接触子に10本平面状に巻きつけ、この接触子を50gfの力で上記試験片に圧着させ、0.1cm/secの一定速度で接触子を水平方向に移動させて摩擦係数を測定した。上記方法で試験片の縦方向と横方向の摩擦係数を測定し、縦方向と横方向でそれぞれ各3回ずつ測定した摩擦係数の算術平均値を平均摩擦係数とする。平均摩擦係数の和とは、縦方向の平均摩擦係数に横方向の平均摩擦係数を加えたものをいう。
【0040】
(2)平均摩擦係数の変動率
KES風合いシステムに基づき、表面試験機KES-FB4(カトーテック(株)製)を用いて測定した。20℃で相対湿度65%の環境下で20×20cmの正方形状の試験片に20gf/cmの張力を負荷して上記試験機に取り付け、直径が0.5mmのピアノ線を5×5mmの正方形状の接触子に10本平面状に巻きつけ、この接触子を50gfの力で上記試験片に圧着させ、0.1cm/secの一定速度で接触子を水平方向に移動させて摩擦係数を測定した。上記方法で試験片の縦方向と横方向の摩擦係数を測定し、縦方向と横方向でそれぞれ各3回ずつ測定した摩擦係数の算術平均値を平均摩擦係数とする。平均摩擦係数の変動率C(%)は、以下のようにして求められる。いま、摩擦係数の各測定値をX(1回目をX1、2回目をX2、3回目をX3と表記する)とし、平均摩擦係数をaとし、測定回数をnとすれば、
C=[[(X1-a)2/(n-1)+(X2-a)2/(n-1)+(X3-a)2/(n-1)]/a]×100
で求められる。平均摩擦係数の変動率の和とは、このようにして求められる縦方向の平均摩擦係数の変動率に横方向の平均摩擦係数の変動率を加えたものをいう。
【0041】
(3)通気性
JIS L 1096:2012 8.26.1 A法(フラジール形)に準拠して、通気性(cm3/cm2・sec)を求めた。
【0042】
(4)目付
JIS L 1096:2013 8.3に準拠して、試験片の単位面積当たりの質量である目付(g/m2)を求めた。
【0043】
《実施例1》
図2の編方図に示す計12給糸口からなる編組織の4給糸口F1、F3、F7、F9の編地両面構成糸に56デシテックス24フィラメントのポリエステル生糸を、2給糸口F2、F8の編地裏面構成糸に84デシテックス12フィラメントのポリエステル生糸高収縮糸(沸水収縮率20%)を、残る6給糸口F4、F5、F6、F10、F11、F12の編地表面構成糸に110デシテックス48フィラメントウーリー加工糸を用い、28ゲージの両面丸編地にて表面ポップコーン柄、裏面フラット形状のポリエステル100%の丸編地を編成した。この生機を通常のポリエステル丸編地の染色加工方法に準じ染色加工し、44ウェル/インチ、54コース/インチに仕上げ、表面の加工糸比率が60%、裏面の生糸の50%が総繊度84デシテックス、単糸繊度7デシテックスの高収縮糸で、目付が166g/m
2である本発明の実施例1のダブル丸編地を得た。この実施例1のダブル丸編地の糸使い及び物性値の測定結果を表1~表3に示す。
【0044】
《実施例2》
図3の編方図に示す計12給糸口からなる編組織の2給糸口F1、F3の編地両面構成糸に56デシテックス24フィラメントのポリエステル生糸を、4給糸口F2、F4の編地両面構成糸およびF11、F12の編地裏面構成糸に84デシテックス12フィラメントのポリエステル生糸高収縮糸(沸水収縮率20%)を、3給糸口F5、F7、F9の編地表面構成糸に84デシテックス36フィラメントウーリー加工糸を、残る3給糸口F6,F8、F10の編地表面構成糸に110デシテックス48フィラメントウーリー加工糸を用い、28ゲージの両面丸編地にて表面ブロック柄、裏面フラット形状の丸編地を編成した。この生機を通常のポリエステル丸編地の染色加工方法に準じ染色加工し、43ウェル/インチ、36コース/インチに仕上げ、表面の加工糸比率が75%、裏面の生糸の75%が総繊度84デシテックス、単糸繊度7デシテックスの高収縮糸で、目付が175g/m
2である本発明の実施例2のダブル丸編地を得た。この実施例2のダブル丸編地の糸使い及び物性値の測定結果を表1~表3に示す。
【0045】
《実施例3》
図4の編方図に示す計10給糸口からなる編組織の2給糸口F1、F6の編地裏面構成糸に56デシテックス24フィラメントのポリエステル生糸を、4給糸口F3、F5、F8、F10の編地裏面構成糸に84デシテックス12フィラメントのポリエステル生糸高収縮糸(沸水収縮率20%)を、2給糸口F2、F7の編地表面構成糸に220デシテックス72フィラメントウーリー加工杢糸(カチオン73%)を、残る2給糸口F4,F9の編地表面構成糸に88デシテックス72フィラメントウーリー加工杢糸(カチオン50%)を用い、28ゲージの両面丸編地にて表面凹凸柄、裏面フラット形状の丸編地を編成した。この生機を通常のポリエステル丸編地の染色加工方法に準じ染色加工し、54ウェル/インチ、42コース/インチに仕上げ、表面の加工糸比率が100%、裏面の生糸の66.7%が総繊度84デシテックス、単糸繊度7デシテックスの高収縮糸で、目付が199g/m
2である本発明の実施例3のダブル丸編地を得た。この実施例3のダブル丸編地の糸使い及び物性値の測定結果を表1~表3に示す。
【0046】
《実施例4》
図5の編方図に示す計16給糸口からなる編組織の4給糸口F3、F7、F11、F15の編地裏面構成糸に56デシテックス24フィラメントのポリエステル生糸を、4給糸口F4、F8、F12、F16の編地裏面構成糸に84デシテックス12フィラメントのポリエステル生糸高収縮糸(沸水収縮率20%)を、4給糸口F1、F5、F9、F13の編地表面構成糸に88デシテックス72フィラメントウーリー加工杢糸(カチオン50%)を、残る4給糸口F2,F6、F10、F16の編地表面構成糸に135デシテックス60フィラメントウーリー加工杢糸(カチオン70%)を用い、28ゲージの両面丸編地にて表面ツイル柄、裏面フラット形状の丸編地を編成した。この生機を通常のポリエステル丸編地の染色加工方法に準じ染色加工し、42ウェル/インチ、34コース/インチに仕上げ、表面の加工糸比率が100%、裏面の生糸の50%が総繊度84デシテックス、単糸繊度7デシテックスの高収縮糸で、目付が185g/m
2である本発明の実施例4のダブル丸編地を得た。この実施例4のダブル丸編地の糸使い及び物性値の測定結果を表1~表3に示す。
【0047】
《比較例1》
図6の編方図に示す計28給糸口からなる編組織の4給糸口F1、F8、F15、F22の編地両面構成糸に84デシテックス36フィラメントウーリー加工糸を、4給糸口F3、F10、F17、F24の編地裏面構成糸に110デシテックス48フィラメントウーリー加工糸を、残る20給糸口F2、F4~F7、F9、F11~F14、F16、F18~F21、F23、F25~F28の編地両面構成糸に84デシテックス48フィラメントウーリー加工糸を用い、28ゲージの両面丸編地にて表面ハニカム柄、裏面フラット形状の丸編地を編成した。この生機を通常のポリエステル丸編地の染色加工方法に準じ染色加工し、45ウェル/インチ、49コース/インチに仕上げ、表面及び裏面の加工糸比率が100%で、目付が158g/m
2である比較例1のダブル丸編地を得た。この比較例1のダブル丸編地の糸使い及び物性値の測定結果を表4~表6に示す。
【0048】
《比較例2》
図2の編方図に示す計12給糸口からなる編組織の4給糸口F1、F3、F7、F9の編地両面構成糸に56デシテックス24フィラメントのポリエステル生糸を、2給糸口F2、F8の編地裏面構成糸に33デシテックス12フィラメントのポリエステル生糸高収縮糸(沸水収縮率20%)を、残る6給糸口F4、F5、F6、F10、F11、F12の編地表面構成糸に110デシテックス60フィラメントウーリー加工杢糸(カチオン50%)を用い、28ゲージの両面丸編地にて表面ポップコーン柄、裏面フラット形状の丸編地を編成した。この生機を通常のポリエステル丸編地の染色加工方法に準じ染色加工し、42ウェル/インチ、34コース/インチに仕上げ、表面の加工糸比率が60%で、裏面が生糸100%からなり、裏面の生糸の50%が総繊度33デシテックス、単糸繊度2.75デシテックスの高収縮糸で、目付が132g/m
2である比較例2のダブル丸編地を得た。この比較例2のダブル丸編地の糸使い及び物性値の測定結果を表4~表6に示す。
【0049】
《比較例3》
図7の編方図に示す計10給糸口からなる編組織の4給糸口F1、F3、F6、F8の編地両面構成糸に56デシテックス24フィラメントのポリエステル生糸を、2給糸口F5、F10の編地裏面構成糸に84デシテックス12フィラメントのポリエステル生糸高収縮糸(沸水収縮率20%)を、残る4給糸口F2、F4、F7、F9の編地表面構成糸に84デシテックス36フィラメントウーリー加工糸を用い、28ゲージの両面丸編地にて表面ツイル柄、裏面フラット形状の丸編地を編成した。この生機を通常のポリエステル丸編地の染色加工方法に準じ染色加工し、47ウェル/インチ、44コース/インチに仕上げ、表面の加工糸比率が100%で、裏面が生糸100%からなり、裏面の生糸の33.3%が総繊度84デシテックス、単糸繊度7デシテックスの高収縮糸で、目付が153g/m
2である比較例3のダブル丸編地を得た。この比較例3のダブル丸編地の糸使い及び物性値の測定結果を表4~表6に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
表1~表3に示すように、実施例1~4のダブル丸編地は、裏面が全て合成繊維マルチフィラメントの生糸からなるので裏面の平滑性に優れ、通気性や目付や裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の和や裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の変動率の和もジャケット用途に必要な数値を満たしている。また、実施例1~4のダブル丸編地は、官能評価の結果、適度なハリコシ感があることを確認した。
【0057】
しかし、比較例1のダブル丸編地は、裏面が加工糸からなるので、表5に示す裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の和が0.4を超え、裏面の縦方向と横方向の平均摩擦係数の変動率の和が0.05を超えており、裏面の平滑性が悪いことが分かる。さらに、比較例2のダブル丸編地は、裏面の生糸高収縮糸の総繊度が33デシテックスで、単糸繊度が2.75デシテックスであったため、官能評価の結果、ハリコシ感がなく、シャツ生地のような仕上がりになっており、裏地を要しないジャケット用途には不向きであることを確認した。また、比較例3のダブル丸編地は、裏面の生糸高収縮糸の比率が33.3%であったため、官能評価の結果、ハリコシ感がなく、タラタラした仕上がりになっており、仕立て映えせず、裏地を要しないジャケット用途には不向きであることを確認した。