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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】蓄電システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/32 20060101AFI20230324BHJP
   H02J 9/06 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
H02J3/32
H02J9/06 120
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019210810
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021083264
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】遠矢 正一
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/036767(WO,A1)
【文献】特開2014-027828(JP,A)
【文献】特開平03-164038(JP,A)
【文献】特開平01-012828(JP,A)
【文献】特開平09-182316(JP,A)
【文献】特開2013-233070(JP,A)
【文献】特開平08-154348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/32
H02J 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電部と、
前記蓄電部から供給される直流電力を交流電力に変換するインバータと、
電力系統と負荷との間の電流経路に挿入された第1スイッチと、
前記第1スイッチより前記負荷側の位置の前記電流経路上のノードと、前記インバータの交流側端子との間の電流経路に挿入される第2スイッチと、
前記電力系統から前記負荷に流れている電流又は前記負荷に流れている電流全体を計測する第1電流計測部と、
前記蓄電部から前記ノードに流れている電流を計測する第2電流計測部と、
前記第1電流計測部により計測された第1電流値、及び前記第2電流計測部により計測された第2電流値をもとに、前記インバータ、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
通常時において、前記第1スイッチをオン状態及び前記第2スイッチをオフ状態に制御し、
予め設定された前記蓄電部の放電時間帯において、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチをオン状態に制御し、前記第1電流値に対する前記第2電流値の比率が、予め設定された目標値(当該目標値は0を含まず)を維持するように前記インバータを制御することを特徴とする蓄電システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記放電時間帯の開始時刻の所定時間前に、前記第2スイッチをターンオンすることを特徴とする請求項1に記載の蓄電システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記放電時間帯の開始時において、前記比率が、前記目標値より低い値から前記目標値に漸次的に上昇するように、前記インバータを制御することを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記放電時間帯の終了時刻の所定時間後に、前記第2スイッチをターンオフすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記放電時間帯の終了時において、前記比率が、前記目標値から零に漸次的に低下するように、前記インバータを制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【請求項6】
前記制御部は、
前記放電時間帯において、前記第1電流値の変動率が大きいほど、前記目標値を下げることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【請求項7】
前記制御部は、
前記放電時間帯において、前記第1電流値の変動率が設定値を超えているとき、前記インバータからの電流出力を保留させることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【請求項8】
前記制御部は、
前記電力系統の停電時において、前記第1スイッチをオフ状態及び前記第2スイッチをオン状態に制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【請求項9】
前記制御部は、
前記放電時間帯において、前記インバータに、系統電圧の位相と周波数に同期した電圧の交流電力を出力させ、
前記電力系統の停電時において、前記インバータに、自立的に生成された位相と周波数を持つ電圧の交流電力を出力させることを特徴とする請求項8に記載の蓄電システム。
【請求項10】
前記負荷は、ユーザにより選択された特定負荷であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電時間のタイマー設定が可能な蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用の蓄電システムが普及してきている。一般的に、家庭用の蓄電システムは停電時の電力バックアップを主目的に導入される(例えば、特許文献1参照)。家庭用の蓄電システムは、タイマー放電機能を保有しているものが多い。タイマー放電機能は、安価な深夜電力で充電し、電気の使用量が多くなる朝、昼間、夜などに放電することにより電気料金を節約することに利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-154348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タイマー放電機能により、系統給電から蓄電池給電に切り替わる時に発生する瞬断が一部の家電製品との整合性が悪く、例えばテレビでは電源が落ちてしまったり、映像が不安定になったりする事例が報告されている。毎日決まった時間にテレビの映像が不安定になるとの苦情も少なくない。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、タイマー放電の開始時または終了時の瞬断が抑制された蓄電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の蓄電システムは、蓄電部と、前記蓄電部から供給される直流電力を交流電力に変換するインバータと、電力系統と負荷との間の電流経路に挿入された第1スイッチと、前記第1スイッチより前記負荷側の位置の前記電流経路上のノードと、前記インバータの交流側端子との間の電流経路に挿入される第2スイッチと、前記電力系統から前記負荷に流れている電流又は前記負荷に流れている電流全体を計測する第1電流計測部と、前記蓄電部から前記ノードに流れている電流を計測する第2電流計測部と、前記第1電流計測部により計測された第1電流値、及び前記第2電流計測部により計測された第2電流値をもとに、前記インバータ、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを制御する制御部と、を備える。前記制御部は、通常時において、前記第1スイッチをオン状態及び前記第2スイッチをオフ状態に制御し、予め設定された前記蓄電部の放電時間帯において、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチをオン状態に制御し、前記第1電流値に対する前記第2電流値の比率が、予め設定された目標値(当該目標値は0を含まず)を維持するように前記インバータを制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、タイマー放電の開始時または終了時の瞬断を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例に係る蓄電システムの外観の概略を示す斜視図である。
図2図1の蓄電システムの使用例を示す斜視図である。
図3】実施例に係る蓄電システムの回路構成を示す図である。
図4図4(a)-(b)は、比較例と実施例に係る蓄電システムのスイッチ状態をまとめた図である。
図5図5(a)-(b)は、比較例と実施例に係る、通常状態からタイマー放電状態に切り替わる際の、特定負荷に流れる電流波形を模式的に示した図である。
図6】実施例に係るタイマー放電時の動作の流れを示すフローチャートである。
図7】実施例に係るタイマー放電時の追加制御を示すフローチャートである。
図8】実施例に係るタイマー充電時の動作の流れを示すフローチャートである。
図9】充電目標値の自動変更処理を示すフローチャートである。
図10】変形例1に係る蓄電システムの回路構成を示す図である。
図11】変形例2に係る蓄電システムの回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、実施例に係る蓄電システム1の外観の概略を示す斜視図である。図2は、図1の蓄電システム1の使用例を示す斜視図である。実施例に係る蓄電システム1は、蓄電容量が1~5kWh程度の小型の蓄電システムである。小型の蓄電システムは、部屋のコーナーや空きスペースに設置することが容易である。またキャスターを取り付けることにより、ユーザが部屋の中を移動させることもできる。
【0010】
蓄電システム1は、屋内のACコンセント2cに挿入するためのACプラグ1pを有する。ACプラグ1pを屋内のACコンセント2cに挿入することにより、商用電力系統から電力を引き込むことができる。
【0011】
蓄電システム1は、蓄電システム1に接続された特定負荷3に電力を供給することができる。蓄電システム1の筐体の前面にはACコンセント1cが設けられる。ユーザは、特定負荷3(図2に示す例では、テレビ3t)のACプラグ3pを、蓄電システム1のACコンセント1cに挿入することにより、特定負荷3の電力を賄うことができる。例えば、停電時において、使用したい電気機器のACプラグをACコンセント1cに挿入することにより、当該電気機器を一定時間、使用することができる。
【0012】
なお図示していないが、電気配線工事により予め特定負荷3を、蓄電システム1のAC出力端子台に接続しておくこともできる。特定負荷3はユーザにより選定された負荷であり、停電時において蓄電システム1から一定時間のバックアップ電力の供給を受けることができる。例えば、照明器具などが選定される。また特定負荷3は、タイマー充電とタイマー放電を活用して電気料金の削減を行うために利用される負荷となる。
【0013】
蓄電システム1の筐体の前面には操作部1oが設けられる。図1に示す操作部1oは、タッチパネルディスプレイと物理ボタンを含む。タッチパネルディスプレイには、残容量、充電量、放電量などの蓄電システム1の状態を示す情報が表示される。ユーザは、操作部1oを操作して、動作モードの設定やタイマー設定を行うことができる。
【0014】
図3は、実施例に係る蓄電システム1の回路構成を示す図である。蓄電システム1は、蓄電部10、制御部11、放電用DC/ACインバータ12、充電用AC/DCコンバータ13、第1電圧計測部14、第1電流計測部15、第2電圧計測部16、第2電流計測部17、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2、及び第3スイッチSW3を備える。
【0015】
蓄電部10は、蓄電池および監視部を含む。当該蓄電池は、直列または直並列接続された複数の蓄電池セルにより構成される。蓄電池セルにはリチウムイオン蓄電池、ニッケル水素蓄電池、鉛蓄電池などを使用できる。なお蓄電池の代わりに、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタを使用してもよい。本明細書では、複数のリチウムイオン蓄電池セルを接続して、蓄電容量が1~5kWhの蓄電池を構成する例を想定する。当該監視部は当該複数の蓄電池セルの状態(例えば、電圧、電流、温度)を監視し、当該複数の蓄電池セルの監視データを通信線を介して制御部11に送信する。
【0016】
商用電力系統(以下、単に系統2という)と特定負荷3は、蓄電システム1内の第1電流経路P1を介して電気的に接続される。第1電流経路P1に第1スイッチSWが挿入される。
【0017】
第1スイッチSW1より特定負荷3側の位置の第1電流経路P1上の第1ノードN1と、蓄電部10との間に放電用DC/ACインバータ12が接続される。第1電流経路P1上の第1ノードN1と、放電用DC/ACインバータ12の交流側端子との間の第2電流経路P2に第2スイッチSW2が挿入される。
【0018】
放電用DC/ACインバータ12は、蓄電部10から供給される直流電力を交流電力に変換して、第1電流経路P1に出力する。放電用DC/ACインバータ12は、4個又は6個のスイッチング素子をブリッジ接続したブリッジ回路を含む。単相交流の場合は4個で構成され、三相交流の場合は6個で構成される。スイッチング素子には例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)又はMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)を使用することができる。制御部11は、ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子のデューティ比を制御することにより、放電用DC/ACインバータ12の出力電流または出力電圧を調整することができる。
【0019】
第1スイッチSW1より系統2側の位置の第1電流経路P1上の第2ノードN2と、蓄電部10との間に充電用AC/DCコンバータ13が接続される。第1電流経路P1上の第2ノードN2と、充電用AC/DCコンバータ13の交流側端子との間の第3電流経路P3に第3スイッチSW3が挿入される。
【0020】
充電用AC/DCコンバータ13は、系統2から供給される交流電力を直流電力に変換して、蓄電部10に出力する。充電用AC/DCコンバータ13は、4個または6個のスイッチング素子をブリッジ接続したブリッジ回路を含む。制御部11は、当該ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子のデューティ比を制御することにより、充電用AC/DCコンバータ13の出力電流または出力電圧を調整することができる。例えば、CC-CV充電を行うことができる。
【0021】
上述した第1スイッチSW1-第3スイッチSW3には、リレー又は半導体スイッチを使用することができる。
【0022】
第1電圧計測部14は、第1電流経路P1の電圧(系統電圧)を計測して制御部11に出力する。第1電圧計測部14は、例えば抵抗分圧回路と差動アンプで構成することができる。第1電流計測部15は、第1電流経路P1上の第1ノードN1より特定負荷3側の位置に設置される。第1電流計測部15は、特定負荷3に流れている電流全体を計測して制御部11に出力する。第1電流計測部15は、例えばCTセンサで構成することができる。
【0023】
第2電圧計測部16は、第2電流経路P2の電圧を計測して制御部11に出力する。第2電圧計測部16は、例えば抵抗分圧回路と差動アンプで構成することができる。第2電流計測部17は、第2電流経路P2上に設置される。第2電流計測部17は、蓄電部10から第1ノードN1に流れている電流を計測して制御部11に出力する。第2電流計測部17は、例えばCTセンサで構成することができる。
【0024】
制御部11は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、またはハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源としてアナログ素子、マイクロコンピュータ、DSP、ROM、RAM、ASIC、FPGA、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてファームウェア等のプログラムを利用できる。
【0025】
制御部11は、蓄電部10の監視部から蓄電池の監視データを受信する。制御部11は、第1電圧計測部14から第1電流経路P1の電圧値を取得し、第1電流計測部15から特定負荷3に流れる電流の値(以下、第1電流値という)を取得する。制御部11は、第2電圧計測部16から第2電流経路P2の電圧値を取得し、第2電流計測部17から放電用DC/ACインバータ12の出力電流値(以下、第2電流値という)を取得する。
【0026】
制御部11は、操作部1oからユーザに入力された情報を取得する。ユーザは、操作部1oから蓄電システム1の運転モードを設定することができる。ユーザは、経済モードと蓄電モードのどちらかを選択することができる。
【0027】
経済モードは、設定した充放電時間に従って運転するモードである。電気料金が割引される時間帯(日本の主な電力会社では、23:00~翌7:00)に充電し、電気料金が割引されない時間帯に放電するモードである。充電時間帯および放電時間帯は、ユーザが設定することができる。経済モードは、電気料金の従量制部分を削減することを主な目的としたモードである。
【0028】
蓄電モードは、蓄電システム1の蓄電容量を常に充電目標値に維持するモードである。充電完了後は停電に備えて待機する。蓄電モードは、停電時のバックアップを主な目的としたモードである。以下、本明細書では経済モードが選択されていることを想定する。
【0029】
制御部11は、ルータ装置4を介してインターネット5上の各種サーバと接続することができる。制御部11とルータ装置4間は無線通信で接続される。例えば、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)に準拠した通信が実行される。なお、両者の間を有線で接続してもよい。
【0030】
制御部11は、インターネット5に接続された送配電事業者サーバ、DR(Demand Response)サーバ、VPP(Virtual Power Plant)事業者サーバ、蓄電システム1のメーカのサーバ、気象事業者サーバ等から情報を受信することができる。例えば、送配電事業者サーバ、DRサーバ又はVPPサーバから充電指令や放電指令を受信する。なお、制御部11がルータ装置4を介して外部通信する構成は必須ではなく、スタンドアロン型のシステムでもよい。
【0031】
制御部11は取得した情報をもとに、放電用DC/ACインバータ12、充電用AC/DCコンバータ13、第1スイッチSW1-第3スイッチSW3を制御する。
【0032】
図4(a)-(b)は、比較例と実施例に係る蓄電システム1のスイッチ状態をまとめた図である。図4(a)は比較例に係るスイッチ状態を、図4(b)は実施例に係るスイッチ状態をそれぞれ示している。
【0033】
通常時、制御部11は、第1スイッチSW1をオン状態、第2スイッチSW2をオフ状態、第3スイッチSW3をオフ状態にそれぞれ制御する。この状態では、系統2のみから特定負荷3に電力が供給される。通常時のスイッチ制御は、比較例と実施例で同じである。
【0034】
タイマー充電時、制御部11は、第1スイッチSW1をオン状態、第2スイッチSW2をオフ状態、第3スイッチSW3をオン状態にそれぞれ制御する。この状態では、系統2のみから特定負荷3に電力が供給される。また系統2から供給される電力で蓄電部10が充電される。タイマー充電時のスイッチ制御も、比較例と実施例で同じである。
【0035】
タイマー放電時は、比較例と実施例でスイッチ制御が異なる。比較例では、制御部11は、第1スイッチSW1をオフ状態、第2スイッチSW2をオン状態、第3スイッチSW3をオフ状態にそれぞれ制御する。この状態では、蓄電システム1のみから特定負荷3に電力が供給される。実施例では、制御部11は、第1スイッチSW1をオン状態、第2スイッチSW2をオン状態、第3スイッチSW3をオフ状態にそれぞれ制御する。この状態では、系統2と蓄電システム1の両方から特定負荷3に電力が供給される。
【0036】
実施例ではタイマー放電時、制御部11は放電用DC/ACインバータ12に、系統電圧の位相と周波数に同期した電圧の交流電力を出力させる(同期モード)。系統電圧の位相と周波数は、第1電圧計測部14から取得される系統電圧のゼロクロスタイミングをもとに検出することができる。
【0037】
また実施例ではタイマー放電時、制御部11は、第1電流計測部15から取得される第1電流値に対する第2電流計測部17から取得される第2電流値の電流比率Rが、予め設定された目標値T(0<T<1)を維持するように、放電用DC/ACインバータ12を制御する。具体的には電流比率Rが目標値Tより低いとき、制御部11は、放電用DC/ACインバータ12に含まれる複数のスイッチング素子のデューティ比を上げる。反対に電流比率Rが目標値Tより高いとき、制御部11は、放電用DC/ACインバータ12に含まれる複数のスイッチング素子のデューティ比を下げる。
【0038】
目標値Tが高く設定されるほど、特定負荷3に供給される電流全体に対する蓄電システム1から放電される電流の寄与が大きくなり、系統2から供給される電流の寄与が小さくなる。蓄電システム1から放電される電流の寄与が大きくなるほど、電気料金の節約の効果は大きくなる。しかしながら、特定負荷3から見える容量が小さくなるため電圧や周波数が変動しやすくなる。設計者は、蓄電部10の蓄電容量、蓄電システム1に使用されている電子部品の仕様などを考慮して目標値Tを設定する。
【0039】
系統2の停電時、制御部11は第1スイッチSW1をオフ状態、第2スイッチSW2をオン状態、第3スイッチSW3をオフ状態にそれぞれ制御する。この状態では、蓄電システム1のみから特定負荷3に電力が供給される。停電時のスイッチ制御は、比較例と実施例で同じである。系統2の停電時、制御部11は放電用DC/ACインバータ12に、自立的に生成した位相と周波数を持つ電圧の交流電力を出力させる(非同期モード)。
【0040】
図5(a)-(b)は、比較例と実施例に係る、通常状態からタイマー放電状態に切り替わる際の、特定負荷3に流れる電流波形を模式的に示した図である。図5(a)は比較例に係る電流波形を、図5(b)は実施例に係る電流波形をそれぞれ示している。比較例では、通常状態からタイマー放電状態に切り替わるタイミングで瞬断が発生している。一方、実施例では、通常状態からタイマー放電状態に切り替わるタイミングで瞬断が発生せず、滑らかに切り替わる。
【0041】
図6は、実施例に係るタイマー放電時の動作の流れを示すフローチャートである。タイマー放電の開始時刻の所定時間前(例えば、0.5~10分前)になると(S10のY)、制御部11は第2スイッチSW2をターンオンする(S11)。その後、タイマー放電の開始時刻が到来すると(S12のY)、制御部11は放電用DC/ACインバータ12に、電流出力を開始させる(S13)。その際、制御部11は電流比率Rが、目標値Tより低い初期値から目標値Tに漸次的に上昇するように、放電用DC/ACインバータ12を制御する。初期値は零であってもよいし、零と目標値Tの間の値であってもよい。初期値の値、及び初期値から目標値Tまでの上昇速度は、設計者により設定される。電流比率Rが目標値Tに到達後、制御部11は電流比率Rが目標値Tを維持するように、放電用DC/ACインバータ12を制御する(S14)。
【0042】
タイマー放電の終了時刻が到来すると(S15のY)、制御部11は放電用DC/ACインバータ12に、電流出力を終了させる(S16)。その際、制御部11は電流比率Rが、目標値Tから零に漸次的に低下するように、放電用DC/ACインバータ12を制御する。目標値Tから零までの低下速度は、設計者により設定される。タイマー放電の終了時刻の所定時間後(例えば、5~30秒後)になると(S17のY)、制御部11は第2スイッチSW2をターンオフする(S18)。
【0043】
図7は、実施例に係るタイマー放電時の追加制御を示すフローチャートである。タイマー放電の開始時刻の所定時間前になると(S20のY)、制御部11は第1電流計測部15からの第1電流値の取得を開始する(S21)。制御部11は取得した第1電流値の変動率を算出する(S22)。例えば、第1電流値の所定時間におけるピークピーク値の標準偏差を算出してもよい。
【0044】
制御部11は、算出した第1電流値の変動率が設定値を超えるとき(S23のY)、放電用DC/ACインバータ12に、電流出力を一時停止させる(S24)。ステップS21に遷移する。第1電流値の変動率が設定値を超えていないとき(S23のN)、制御部11は、第1電流値の変動率に応じて目標値Tを補正する(S25)。具体的には、第1電流値の変動率が大きいほど、目標値Tを下げる補正を加える。設定値の値、及び変動率と目標値Tの補正係数を対応させたマップ又は関数は、設計者により設定される。タイマー放電の終了時刻が到達すると(S26のY)、当該追加制御を終了する。タイマー放電の実行中(S26のN)、ステップS21-ステップS25の処理が繰り返し実行される。
【0045】
なお、図7に示した追加制御はオプションであり必須ではない。図6に示した基本制御のみが実行される場合、目標値Tは固定となり、タイマー放電の期間中、蓄電システム1からの放電が中断することはない。
【0046】
図8は、実施例に係るタイマー充電時の動作の流れを示すフローチャートである。タイマー充電の開始時刻が到来すると(S30のY)、制御部11は第3スイッチSW3をターンオンする(S31)。制御部11は充電用AC/DCコンバータ13に、設定された充電終了時刻に充電が終了する電流レートで、充電動作を開始させる(S32)。
【0047】
制御部11は、蓄電部10内の蓄電池のSOC(State Of Charge)が充電目標値に到達すると(S33のY)、充電用AC/DCコンバータ13の動作を終了させ(S34)、第3スイッチSW3をターンオフする(S35)。制御部11は、蓄電部10内の監視部から通知される蓄電池セルの電圧および電流をもとに、蓄電池のSOCを推定する。SOCは例えば、電流積算法またはOCV(Open Circuit Voltage)法により推定できる。
【0048】
一般的に蓄電池には、保存劣化とサイクル劣化による寿命がある。保存劣化は、蓄電池の各時点における温度、各時点におけるSOCに応じて経時的に進行する劣化である。充放電中であるか否かを問わず時間経過とともに進行する。保存劣化は主に、負極に被膜(SEI(Solid Electrolyte Interphase)膜)が形成されることに起因して発生する。保存劣化は、各時点におけるSOCと温度に依存する。一般的に、各時点におけるSOCが高いほど、また各時点における温度が高いほど、保存劣化速度は増加する。
【0049】
サイクル劣化は、充放電の回数が増えるにつれ進行する劣化である。サイクル劣化は主に、活物質の膨張または収縮による割れや剥離などに起因して発生する。サイクル劣化は、電流レート、使用するSOC範囲、温度に依存する。一般的に、電流レートが高いほど、また使用するSOC範囲が広いほど、また温度が高いほど、サイクル劣化速度は増加する。
【0050】
蓄電モードでも経済モードでも、蓄電池を満充電容量(SOC=100%)まで充電したほうが、停電時のバックアップ容量を多く確保することができる。しかしながら、蓄電池の劣化抑制の観点では、蓄電池のSOCは低いほうが望ましい。設計者は、両者の要請を考慮して充電目標値のデフォルト値を設定する。例えば、SOCが70-90%の範囲内において、保存劣化速度曲線の傾きを考慮して、できるだけコストパフォーマンスがよい位置に充電目標値のデフォルト値を設定する。
【0051】
図9は、充電目標値の自動変更処理を示すフローチャートである。充電目標値に対するユーザの指定がある場合(S40のY)、制御部11は、充電目標値にユーザにより指定された値を設定する(S41)。充電目標値に対するユーザの指定がない場合(S40のN)、制御部11は、充電目標値にデフォルト値(例えば、80%)を設定する(S42)。
【0052】
制御部11は、インターネット5に接続された気象事業者サーバから気象警戒情報を受信すると(S43のY)、制御部11は、充電目標値を100%に変更する(S44)。気象警戒情報は例えば、大雨、洪水、土砂災害、高潮、暴風に関する注意報または警報に基づく情報である。気象条件の悪化により停電が発生するリスクが上昇するため、制御部11は、蓄電池を満充電容量まで充電するモードに切り替える。
【0053】
制御部11は、気象事業者サーバから気象警戒情報の解除情報を受信すると(S45のY)、ステップS40に遷移し、元の値に復帰する。なお、ステップS43において、送配電事業者サーバから計画停電情報を受信した場合も、制御部11は、充電目標値を100%に変更する。計画停電が終了すると充電目標値を元の値に復帰させる。
【0054】
以上説明したように本実施例によれば、タイマー放電時において、系統2から特定負荷3への電力供給を遮断せずに、系統2からの電力供給を一定の割合で維持する。これにより、タイマー放電の開始時または終了時に、瞬断が発生することを防止することができる。また、タイマー放電の開始時または終了時において、電流比率Rを初期値から目標値Tまで、または電流比率Rを目標値Tから零まで、徐々に変化させることにより、タイマー放電の開始時または終了時の電流変化を滑らかにすることができる。また、特定負荷3に流れる電流の変動率をもとに、電流比率Rを適応的に変化させることにより、負荷変動に伴う電圧や周波数の変動を緩やかにすることができる。
【0055】
また、充電目標率を停電の発生リスクに応じて切り替えることにより、蓄電池の劣化抑制の要請と、バックアップ容量の確保の要請を両立させることができる。
【0056】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に容易に理解されるところである。
【0057】
図10は、変形例1に係る蓄電システム1の回路構成を示す図である。図3に示した回路構成では、第1電流計測部15を、第1電流経路P1上の第1ノードN1より特定負荷3側の位置に設置した。変形例1では、第1電流計測部15を、第1電流経路P1上の、第1スイッチSW1と第1ノードN1との間の位置に設置する。この場合、第1電流計測部15により計測される第1電流値は、系統2から特定負荷3に流れている電流を示す値となる。この場合、目標値T(0<T)は(第2電流値/第1電流値)で定義されてもよいし、目標値T(0<T<1)は(第2電流値/(第1電流値+第2電流値))で定義されてもよい。
【0058】
図11は、変形例2に係る蓄電システム1の回路構成を示す図である。上記実施例では、蓄電システム1から、ユーザにより選定された特定負荷3に電力を供給する例を説明した。変形例2では、特定負荷3ではなく、一般負荷3aに電力を供給する例を説明する。一般負荷3aは、系統2から電力が供給される屋内の全ての負荷を含む概念である。
【0059】
この構成では、幹線となる第1電流経路P1は、蓄電システム1の筐体の外に存在することになる。そのため第1電圧計測部14と第1電流計測部15を、蓄電システム1の筐体の外に設置する必要がある。第1電圧計測部14と制御部11間、及び第1電流計測部15と制御部11間をそれぞれ有線で接続すると配線が煩雑となる。ユーザが蓄電システム1を移動させる場合、それらの配線が邪魔になる。
【0060】
変形例2では、制御部11は、系統2から屋内への引き込み口に設置されたスマートメーター6から無線通信で、第1電流経路P1の電圧値(系統電圧値)と電流値(第1電流値)を取得する。例えば、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、又は920MHz帯を使用した特定小電力無線を使用して取得する。なお、第1電流経路P1を利用した電力線通信(PLC:Power Line Communication)を使用して取得してもよい。以上により、変形例2においても信号線を排したシステムを構築することができる。なお、スマートメーター6の代わりに、スマート分電盤から第1電流経路P1の電圧値と電流値を取得してもよい。
【0061】
図3に示した回路構成では、放電用DC/ACインバータ12と充電用AC/DCコンバータ13を別々に設けたが、一体化してもよい。例えば、放電用DC/ACインバータ12を双方向インバータに変更して、充電用AC/DCコンバータ13及び第3スイッチSW3を省略してもよい。
【0062】
なお、実施例は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0063】
[項目1]
蓄電部(10)と、
前記蓄電部(10)から供給される直流電力を交流電力に変換するインバータ(12)と、
電力系統(2)と負荷(3)との間の電流経路(P1)に挿入された第1スイッチ(SW1)と、
前記第1スイッチ(SW1)より前記負荷(3)側の位置の前記電流経路(P1)上のノード(N1)と、前記インバータ(12)の交流側端子との間の電流経路(P2)に挿入される第2スイッチ(SW2)と、
前記電力系統(2)から前記負荷(3)に流れている電流又は前記負荷(3)に流れている電流全体を計測する第1電流計測部(15)と、
前記蓄電部(10)から前記ノード(N1)に流れている電流を計測する第2電流計測部(17)と、
前記第1電流計測部(15)により計測された第1電流値、及び前記第2電流計測部(17)により計測された第2電流値をもとに、前記インバータ(12)、前記第1スイッチ(SW1)及び前記第2スイッチ(SW2)を制御する制御部(11)と、を備え、
前記制御部(11)は、
通常時において、前記第1スイッチ(SW1)をオン状態及び前記第2スイッチ(SW2)をオフ状態に制御し、
予め設定された前記蓄電部(10)の放電時間帯において、前記第1スイッチ(SW1)及び前記第2スイッチ(SW2)をオン状態に制御し、前記第1電流値に対する前記第2電流値の比率が、予め設定された目標値(当該目標値は0を含まず)を維持するように前記インバータ(12)を制御することを特徴とする蓄電システム(1)。
これによれば、タイマー放電の開始時または終了時の瞬断を抑制することができる。
[項目2]
前記制御部(11)は、
前記放電時間帯の開始時刻の所定時間前に、前記第2スイッチ(SW2)をターンオンすることを特徴とする項目1に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、タイマー放電開始時の電流変動の抑制に寄与することができる。
[項目3]
前記制御部(11)は、
前記放電時間帯の開始時において、前記比率が、前記目標値より低い値から前記目標値に漸次的に上昇するように、前記インバータ(12)を制御することを特徴とする項目1または2に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、タイマー放電開始時の電流変動の抑制に寄与することができる。
[項目4]
前記制御部(11)は、
前記放電時間帯の終了時刻の所定時間後に、前記第2スイッチ(SW2)をターンオフすることを特徴とする項目1から3のいずれか1項に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、タイマー放電終了時の電流変動の抑制に寄与することができる。
[項目5]
前記制御部は、
前記放電時間帯の終了時において、前記比率が、前記目標値から零に漸次的に低下するように、前記インバータ(12)を制御することを特徴とする項目1から4のいずれか1項に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、タイマー放電終了時の電流変動の抑制に寄与することができる。
[項目6]
前記制御部は、
前記放電時間帯において、前記第1電流値の変動率が大きいほど、前記目標値を下げることを特徴とする項目1から5のいずれか1項に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、負荷(3)に供給される電力の電圧または周波数の変動を抑制することができる。
[項目7]
前記制御部は、
前記放電時間帯において、前記第1電流値の変動率が設定値を超えているとき、前記インバータ(12)からの電流出力を保留させることを特徴とする項目1から6のいずれか1項に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、負荷(3)に供給される電力の電圧または周波数の変動を抑制することができる。
[項目8]
前記制御部は、
前記電力系統(2)の停電時において、前記第1スイッチ(SW1)をオフ状態及び前記第2スイッチ(SW2)をオン状態に制御することを特徴とする項目1から4のいずれか1項に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、停電時に、負荷(3)の電力をバックアップすることができる。
[項目9]
前記制御部は、
前記放電時間帯において、前記インバータ(12)に、系統電圧の位相と周波数に同期した電圧の交流電力を出力させ、
前記電力系統(2)の停電時において、前記インバータ(12)に、自立的に生成された位相と周波数を持つ電圧の交流電力を出力させることを特徴とする項目8に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、停電時の電力バックアップ機能と、タイマー放電機能を適切に運用することができる。
[項目10]
前記負荷(3)は、ユーザにより選択された特定負荷(3)であることを特徴とする項目1から9のいずれか1項に記載の蓄電システム(1)。
これによれば、特定負荷(3)のバックアップが可能な、小型で配線レスの蓄電システム(1)を構築することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 蓄電システム、 1o 操作部、 1c ACコンセント、 1p ACプラグ、 2 系統、 2c ACコンセント、 3 特定負荷、 3t テレビ、 3p ACプラグ、 3a 一般負荷、 4 ルータ装置、 5 インターネット、 6 スマートメーター、 10 蓄電部、 11 制御部、 12 放電用DC/ACインバータ、 13 充電用AC/DCコンバータ、 14 第1電圧計測部、 15 第1電流計測部、 16 第2電圧計測部、 17 第2電流計測部、 SW1 第1スイッチ、 SW2 第2スイッチ、 SW3 第3スイッチ、 P1 第1電流経路、 P2 第2電流経路、 P3 第3電流経路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11