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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】固体電解質及びそれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20230324BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230324BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230324BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20230324BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/054
H01M4/62 Z
H01M10/0585
H01B3/12 336
H01B3/12 330
H01B3/12 337
H01B3/12 331
H01B3/12 334
H01B3/12 325
H01B3/12 304
H01B3/12 338
H01B3/12 329
H01B3/12 328
H01B3/12 341
H01B3/12 333
H01B3/12 335
H01B3/12 326
H01B3/12 316
H01B3/12 318
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019037544
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2019169464
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2018054011
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】藤ノ木 紀仁
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-041572(JP,A)
【文献】特開昭49-049120(JP,A)
【文献】特開2014-028717(JP,A)
【文献】特開2018-010849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/054
H01M 4/62
H01M 10/0585
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムと、
前記マグネシウムよりも大きいイオン半径を有するアルカリ土類金属と、
ガリウムと、
ハロゲンと、を含有する複合金属ハロゲン化物を備え、
前記複合金属ハロゲン化物が、一般式Mg 1-a a Ga 2 8 (ここで、MはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、XはCl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種であり、かつ、0<a<0.2)で表される、
固体電解質。
【請求項2】
前記aが、0.02≦a≦0.15を満たす、
請求項に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記Xが、Clである、
請求項またはに記載の固体電解質。
【請求項4】
前記Mが、Ca、Sr、またはBaである、
請求項からのいずれか一項に記載の固体電解質。
【請求項5】
正極と、
負極と、
請求項1からのいずれか一項に記載の固体電解質と、を備える、
マグネシウム二次電池。
【請求項6】
前記正極と前記負極との少なくとも一方は、合剤層を含み、
前記合剤層は、複数の活物質粒子と、複数の固体電解質粒子とを含み、
前記複数の固体電解質粒子は、前記固体電解質の粒子である、
請求項に記載のマグネシウム二次電池。
【請求項7】
前記正極と前記負極との少なくとも一方は、合剤層を含み、
前記合剤層は、複数の活物質粒子と、前記複数の活物質粒子をそれぞれ被覆する複数の固体電解質被膜と、複数の固体電解質粒子と、を含み、
前記固体電解質被膜は、前記固体電解質の被膜である、
請求項に記載のマグネシウム二次電池。
【請求項8】
前記合剤層に含まれる前記複数の固体電解質粒子と同種の複数の粒子を含み、かつ、前記正極または前記負極に含まれるいずれの活物質粒子も含まない、固体電解質層をさらに備える、
請求項またはに記載のマグネシウム二次電池。
【請求項9】
前記正極、前記固体電解質層、及び前記負極が、この順で積層されている、
請求項に記載のマグネシウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質及びそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多価イオン伝導性を有する二次電池の実用化が期待されている。その中でも、マグネシウム二次電池は、従来のリチウムイオン電池に比べて、高い理論容量密度を有する。
【0003】
非特許文献1は、MgM28(M=Al、Ga;X=Cl,Br)で示される固体電解質を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】冨田靖正ほか「MgM2X8(M=Al、Ga;X=Cl,Br)の合成とその構造およびマグネシウムイオン伝導」、第9回分子科学討論会予稿集、2015年9月、1P024。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、マグネシウムイオン伝導性を有する新規な固体電解質及びそれを用いた二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る固体電解質は、マグネシウムと、前記マグネシウムよりも大きいイオン半径を有するアルカリ土類金属と、ガリウムと、ハロゲンと、を含有する複合金属ハロゲン化物を含む。前記複合金属ハロゲン化物において、前記マグネシウムと前記アルカリ土類金属との総和に対する、前記アルカリ土類金属のモル比が、0.2よりも小さい。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、マグネシウムイオン伝導性を有する新規な固体電解質及びそれを用いた二次電池が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る二次電池の構成例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係る二次電池における正極合剤層の構成例を模式的に示す拡大断面図である。
図3図3は、実施形態に係る二次電池における正極合剤層の別の構成例を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る固体電解質について、図面を用いて詳細に説明する。
【0010】
以下の説明は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下に示される数値、組成、形状、膜厚、電気特性、二次電池の構造、電極材料などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。加えて、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、任意の構成要素である。
【0011】
以下では、主に、二次電池に用いられる固体電解質について説明されるが、本開示の固体電解質の用途はこれに限定されない。固体電解質は、例えば、イオン濃度センサーなどの電気化学デバイスに用いられてもよい。
【0012】
[1.固体電解質]
[1-1.固体電解質の組成]
二価のマグネシウムイオンは、一価のリチウムイオンに比べて、固体電解質中のアニオンとの静電相互作用が大きく、したがって、固体電解質中で拡散しにくい。そのため、マグネシウムイオンを伝導する固体電解質において、イオン伝導率の向上が望まれる。
【0013】
これに対して、本発明者は、以下の新規の固体電解質を見出した。
【0014】
本実施形態に係る固体電解質は、複合金属ハロゲン化物を含む。複合金属ハロゲン化物は、マグネシウムと、マグネシウムよりも大きいイオン半径を有するアルカリ土類金属と、ガリウムと、ハロゲンと、を含有する。複合金属ハロゲン化物において、マグネシウムを含めたアルカリ土類金属の総和に対する、マグネシウムを除いたアルカリ土類金属のモル比が、0.2よりも小さい。
【0015】
この複合金属ハロゲン化物は、一般式Mg1-aaGa28で表されてもよい。ここで、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、Xは、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種である。aは、0<a<0.2を満たす。
【0016】
固体電解質を構成する各元素の組成比は、例えば、X線電子分光分析法(X‐Ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)で定量することができる。
【0017】
上記一般式において、置換比率を表すaは、0<a<0.2を満たす。これにより、固体電解質の構造安定性を損なわない範囲で、格子サイズを広げることができる。そのため、固体電解質内におけるマグネシウムイオンの伝導率を向上させることができる。
【0018】
上記一般式において、aは、0.02≦a≦0.15を満たしてもよく、さらに、0.05≦a≦0.10を満たしてもよい。
【0019】
上記一般式において、Xは、Clであってもよい。
【0020】
上記一般式において、Mは、Ca、Sr、またはBaであってもよい。
【0021】
マグネシウムイオンのイオン半径(すなわち結晶半径)が0.86Åである。カルシウムイオン、ストロンチウムイオン及びバリウムイオンのイオン半径(すなわち結晶半径)は、それぞれ、1.14Å、1.32Å及び1.49Åである。
【0022】
固体電解質は、例えば、層として形成される。層の厚さは、例えば、0.5μm以上、かつ、200μm以下である。これにより、短絡防止等の安全性を確保しながら、マグネシウムイオンの伝導に対する抵抗値を低減できる。例えば、固体電解質のイオン伝導率が1×10-6S/cmであり、かつ、層の厚さが1μmである場合、固体電解質の単位面積あたりの抵抗値は、100Ω・cm2以下となりうる。
【0023】
[1-2.マグネシウムイオン伝導の向上]
典型的に、マグネシウム化合物は、マグネシウムイオン伝導性を示さない、又は、極めて低いイオン伝導性しか示さない傾向がある。これは、二価のマグネシウムイオンが、一価のアルカリ金属イオン(例えばリチウムイオン)に比べて、周囲のアニオンから大きな静電相互作用を受けるためである。これに対して、本実施形態に係る固体電解質は、優れたマグネシウムイオンの伝導率を示しうる。これは、以下の2つの理由によるものと推察される。
【0024】
第1に、本実施形態に係る複合金属ハロゲン化物は、ガリウムを含むことにより、マグネシウムイオンの解離を促進することができる。MgGa28は、少なくとも短距離秩序の領域において、マグネシウムイオンの周りにハロゲンイオンが6配位した八面体と、ガリウムイオンの周りにハロゲンイオンが4配位した四面体とで構成される。ガリウムはマグネシウムによりも電気陰性度が大きいため、ガリウムイオンは、周囲のハロゲンイオンの電荷を引き付けることができる。これにより、マグネシウムイオンの解離を促進させることができる。
【0025】
第2に、Mg1-aaGa28は、上記のMgGa28のMgの一部が、Ca、Sr及び/又はBaで置換された構造を有する。Ca、Sr、及びBaは、いずれもMgよりも大きなイオン半径を有するため、この置換は、配位多面体の格子のサイズ、及び/又は、配位多面体同士の間隔を拡げる。これにより、マグネシウムイオンが移動する空間が拡大し、マグネシウムイオン間に働くクーロン斥力が弱まる。その結果、マグネシウムイオンがさらに動きやすくなる。
【0026】
以上より、ガリウムによる作用と、Ca、Sr及び/又はBaによる作用とにより、本実施形態に係る固体電解質は、優れたマグネシウムイオン伝導率を示すと考えられる。
【0027】
[1-3.固体電解質の製造方法]
本実施形態に係る固体電解質は、例えば、複数種の金属ハロゲン化物を混合し、焼成することによって作製されうる。
【0028】
例えば、原料として、ハロゲン化マグネシウムと、ハロゲン化ガリウムと、ハロゲン化アルカリ土類金属とが用いられる。ハロゲン化マグネシウムの例としては、MgCl2、MgBr2、及びMgI2が挙げられる。ハロゲン化ガリウムの例としては、GaCl3、GaBr3、及びGaI3が挙げられる。ハロゲン化アルカリ土類金属の例としては、CaCl2、CaBr2、CaI2、SrCl2、SrBr2、SrI2、BaCl2、BaBr2、及びBaI2が挙げられる。各原料の分量は、目標とする固体電解質の組成に応じて適宜調整される。
【0029】
これらの原料は、公知の方法を用いて混合される。混合方法の例としては、乳鉢で混合する方法、メカニカルミリング法で混合する方法、ビーズミルで混合する方法、及びジェットミルで混合する方法が挙げられる。混合方法は、乾式混合であってもよく、湿式混合であってもよい。
【0030】
混合された原料は、例えば、不活性雰囲気下、200~500℃、12~24時間の条件で加熱されることによって、焼結される。
【0031】
以上の製造方法により、本実施形態に係る固体電解質が得られる。
【0032】
なお、本実施形態に係る固体電解質の製造方法は、上記の例に限定されない。例えば、原料は、単体であってもよい。例えば、原料は、金属酸化物や、有機物であってもよい。あるいは、固体電解質は、公知の成膜法を用いて形成されてもよい。成膜法の例としては、ゾルゲル法、金属有機化合物分解法(MOD)、原子層堆積法(ALD)、化学気相蒸着法(CVD)、及び液相成膜法が挙げられる。
【0033】
[2.二次電池]
[2-1.全体構成]
図1は、本実施形態に係る二次電池10の構成例を模式的に示す断面図である。
【0034】
二次電池10は、基板11と、正極12と、固体電解質層13と、負極14とを備える。固体電解質層13は、正極12と負極14の間に配置される。マグネシウムイオンは、固体電解質層13を通って正極12及び負極14の間を移動しうる。
【0035】
二次電池10の構造は、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、又は扁平型であってもよい。
【0036】
二次電池10は、例えば、電池ケースの内部に収納されている。二次電池10及び/又は電池ケースの上面視における形状は、例えば、矩形、円形、楕円形、又は六角形であってもよい。
【0037】
[2-2.固体電解質]
固体電解質層13の材料は、例えば、[1.固体電解質]で説明された固体電解質と同様である。
あるいは、固体電解質層13の材料は、その他の固体電解質であってもよい。その他の固体電解質の例としては、窒化リン酸マグネシウム、MgxSiOyz(ただし、1<x<2、 3<y<5、 0≦z<1)、MgxySiOz(ただし、MはTi、Zr、Hf、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、0<x<2、 0<y<2、 3<z<6)、Mg2-1.5xAlxSiO4(ただし、0.1≦x≦1)、Mg2-1.5x-0.5yAlx-yZnySiO4(ただし、0.5≦x≦1、 0.5≦y≦0.9、 x-y≧0、 x+y≦1)、MgZr4(PO46、MgMPO4(ただし、Mは、Zr、Nb及びHfから選択される少なくとも1種である)、Mg1-xxM(M’O43(ただし、Aは、Ca、Sr、Ba及びRaから選択される少なくとも1種であり、Mは、Zr及びHfから選択される少なくとも1種であり、M’は、W及びMoから選択される少なくとも1種であり、0≦x<1)、及びMg(BH4)(NH2)が挙げられる。
固体電解質層13に代えて、ポリマー電解質、ゲル電解質、又は、電解液が用いられてもよい。
【0038】
[2-3.基板]
基板11は、絶縁性基板であってもよく、導電性基板であってもよい。基板11の例としては、ガラス基板、プラスチック基板、高分子フィルム、シリコン基板、金属板、金属箔シート、及びこれらを積層したものが挙げられる。基板は、市販のものであってもよく、又は、公知の方法により製造されてもよい。
【0039】
二次電池10において、基板11は省略されてもよい。
【0040】
[2-4.正極]
正極12は、例えば、正極活物質を含有する正極合剤層12aと、正極集電体12bとを含む。
【0041】
正極合剤層12aは、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質を含有する。
【0042】
正極活物質の例としては、金属酸化物、ポリアニオン塩化合物、硫化物、カルコゲナイド化合物、及び、水素化物が挙げられる。金属酸化物の例としては、V25、MnO2、MoO3などの遷移金属酸化物、並びに、MgCoO2、MgNiO2などのマグネシウム複合酸化物が挙げられる。ポリアニオン塩化合物の例としては、MgCoSiO4、MgMnSiO4、MgFeSiO4、MgNiSiO4、MgCo24、及び、MgMn24が挙げられる。硫化物の例としては、Mo68が挙げられる。カルコゲナイド化合物の例としては、Mo9Se11が挙げられる。
【0043】
正極活物質は、例えば結晶質である。正極合剤層12aは、2種類以上の正極活物質を含有していてもよい。
【0044】
正極合剤層12aは、必要に応じて、導電材及び/又は結着剤をさらに含んでいてもよい。後述するように、正極合剤層12aは、固体電解質粒子をさらに含んでいてもよい。
【0045】
導電材は、電子伝導性材料であればよく、特に限定されない。導電材の例として、炭素材料、金属、及び導電性高分子が挙げられる。炭素材料の例としては、天然黒鉛(例えば塊状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、及び、炭素繊維が挙げられる。金属の例としては、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、及び金が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。導電材の材料は、電子伝導性及び塗工性の観点より、例えば、カーボンブラック又はアセチレンブラックであってもよい。
【0046】
結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たせばよく、特に限定されない。結着材の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、並びに、天然ブチルゴム(NBR)が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。結着材は、例えば、セルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体であってもよい。
【0047】
正極活物質、導電材、及び、結着材を分散させる溶剤の例としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、及びテトラヒドロフランが挙げられる。例えば、分散媒に増粘剤を加えてもよい。増粘剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、及び、メチルセルロースが挙げられる。
【0048】
正極合剤層12aは、例えば、次のように形成される。まず、正極活物質と導電材と結着材とが混合される。次に、この混合物に適当な溶剤が加えられ、これによりペースト状の正極合剤が得られる。次に、この正極合剤が正極集電体12bの表面に塗布され、乾燥される。これにより、正極集電体12bの上に正極合剤層12aが形成される。なお、正極合剤は、電極密度を高めるために、圧縮されてもよい。
【0049】
正極合剤層12aの膜厚は、特に限定はされないが、例えば、1μm以上、100μm以下である。
図2は、正極合剤層12aの構造の一例を拡大断面図として模式的に示している。図2において、正極合剤層12aは、正極活物質粒子12Pと、固体電解質粒子13Pを含む。この例の場合、固体電解質層13は固体電解質粒子13Pと同種の粒子を含み、これらの粒子は上記[1.固体電解質]で説明された材料で構成されうる。なお、図2において、導電材及び結着剤は省略されている。
図3は、正極合剤層12aの構造の他の例を拡大断面図として模式的に示している。図3において、正極合剤層12aは、正極活物質粒子12Pと、固体電解質粒子13Pを含む。正極活物質粒子12Pは、固体電解質被膜13Cによって被覆されている。この例の場合、固体電解質層13は固体電解質粒子13Pと同種の粒子を含み、これらの粒子は例えば上記[2-2.固体電解質]で説明された「その他の固体電解質」の材料で構成され、固体電解質被膜13Cは上記[1.固体電解質]で説明された材料で構成されうる。固体電解質被膜13Cは、例えば、正極活物質粒子を導電材及び結着材と混合する前に、正極活物質粒子の表面上に形成されうる。なお、図3において、導電材及び結着剤は省略されている。
【0050】
正極12は、正極合剤層12aの代わりに、正極活物質のみからなる正極活物質層を有してもよい。この場合、図1における層12aが、正極活物質層に相当する。
【0051】
正極集電体12bは、二次電池10の動作電圧の範囲内において、正極合剤層12aと化学変化を起こさないような、電子導電体で構成される。マグネシウム金属の標準酸化還元電位に対する正極集電体12bの動作電圧は、例えば、+1.5V~+4.5Vの範囲内にあってもよい。
【0052】
正極集電体12bの材料は、例えば、金属又は合金である。より具体的には、正極集電体12bの材料は、銅、クロム、ニッケル、チタン、白金、金、アルミニウム、タングステン、鉄、及び、モリブデンからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属又は合金であってもよい。正極集電体12bの材料は、電子伝導性、イオン導電体に対する耐性、及び酸化還元電位の観点から、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、白金又は金であってもよい。
【0053】
正極集電体12bは、透明な導電膜であってもよい。透明な導電膜の例として、インジウム・錫酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化インジウム(In23)、酸化錫(SnO2)、及び、Alを含有するZnOが挙げられる。
【0054】
正極集電体12bは板状または箔状であってもよい。正極集電体12bは、上記の金属及び/又は透明な導電性膜が積層された積層膜であってもよい。
【0055】
基板11が導電性材料であって、正極集電体12bを兼ねている場合は、正極集電体12bは省略されてもよい。
【0056】
[2-5.負極]
負極14は、例えば、負極活物質を含有する負極合剤層14aと、負極集電体14bとを含む。
【0057】
負極合剤層14aは、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出し得る負極活物質を含有する。
【0058】
この場合、負極活物質の例としては、炭素材料が挙げられる。炭素材料の例としては、黒鉛、ハードカーボンやコークスといった非黒鉛系炭素、黒鉛層間化合物が挙げられる。
【0059】
負極合剤層14aは、2種類以上の負極活物質を含有していてもよい。
【0060】
負極合剤層14aは、必要に応じて、導電材及び/又は結着剤をさらに含んでいてもよい。導電材、結着材、溶剤及び増粘剤は、例えば、[2-4.正極]で説明されたものを適宜利用することができる。
負極合剤層14aは、固体電解質粒子をさらに含んでいてもよい。負極合剤層14aは、上記[2-4.正極]で説明された図2及び図3の構造と同様の構造を有していてもよい。この場合、図2及び図3に示される粒子12Pが、負極活物質粒子に相当する。
【0061】
負極合剤層14aの膜厚は、特に限定はされないが、例えば、1μm以上、50μm以下である。
【0062】
あるいは、負極14は、負極合剤層14aの代わりに、マグネシウム金属を溶解及び析出させ得る金属負極層を有してもよい。この場合、図1における層14aが、金属負極層に相当する。
【0063】
この場合、金属負極層は、金属または合金で構成される。金属の例としては、マグネシウム、錫、ビスマス、及びアンチモンが挙げられる。合金は、例えば、アルミニウム、シリコン、ガリウム、亜鉛、錫、マンガン、ビスマス、及びアンチモンから選択される少なくとも1つと、マグネシウムとの合金である。
金属負極層の上に、固体電解質被膜が設けられてもよい。この場合、例えば、固体電解質層13は上記[2-2.固体電解質]で説明された「その他の固体電解質」の材料で構成され、固体電解質被膜は上記[1.固体電解質]で説明された材料で構成されうる。
【0064】
負極集電体14bは、二次電池10の動作電圧の範囲内において、負極合剤層14aまたは金属負極層と化学変化を起こさないような、電子導電体で構成される。マグネシウムの標準還元電位に対する負極集電体の動作電圧は、例えば、0V~+1.5Vの範囲内にあってもよい。
【0065】
負極集電体14bの材料は、例えば、[2-4.正極]で説明された正極集電体12bと同様の材料を適宜利用することができる。負極集電体14bは板状または箔状であってもよい。
【0066】
負極14がマグネシウム金属を溶解及び析出させ得る金属負極層を有している場合、この金属層が負極集電体14bを兼ねていてもよい。
【0067】
[2-6.補足]
正極集電体12b、負極集電体14b、正極活物質層12a、金属負極層14aは、例えば、物理堆積法又は化学堆積法によって形成することができる。物理堆積法の例としては、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、及びパルスレーザ堆積(PLD)法が挙げられる。化学堆積法の例としては、原子層堆積法(ALD)、化学気相蒸着(CVD)法、液相成膜法、ゾルゲル法、金属有機化合物分解(MOD)法、スプレイ熱分解(SPD)法、ドクターブレイド法、スピンコート法、及び、印刷技術が挙げられる。CVD法の例としては、プラズマCVD法、熱CVD法、及びレーザCVD方が挙げられる。液相成膜法は、例えば湿式メッキであり、湿式メッキの例としては、電解メッキ、浸漬メッキ、及び無電解メッキが挙げられる。印刷技術の例としては、インクジェット法及びスクリーンプリンティングが挙げられる。
【0068】
二次電池10の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、二次電池10は、正極12の材料、固体電解質層13の材料、及び負極14の材料を順次プレスすることによって作製されてもよい。
【0069】
[3.実験結果]
[3-1.サンプルの作製]
以下に説明される手順により、種々のサンプルを作製した。
【0070】
まず、原料として、塩化マグネシウム無水物(MgCl2)、塩化カルシウム無水物(CaCl2)、及び塩化ガリウム無水物(GaCl3)を用意した。これらの原料を、Mg、Ca及びGaのモル比が0.98:0.02:2となるように秤量した。秤量された原料を乳鉢で混合し、混合物をガラス製のアンプル管に封入した。ここまでの工程は、すべてグローブボックス内の窒素雰囲気下で行われた。最後に、アンプル管を加熱炉に入れ、混合物を500℃で24時間加熱することで、実施例1のサンプルを得た。
【0071】
Mg及びCaのモル比が異なる点を除いて、実施例1と同様の方法で、実施例2~4及び比較例1のサンプルを作製した。実施例2~4及び比較例1のサンプルの組成は、それぞれ、表に示す通りであった。
【0072】
CaCl2の代わりに塩化ストロンチウム無水物(SrCl2)を用いた点と、Mg及びSrのモル比が異なる点とを除いて、実施例1と同様の方法で、実施例5及び比較例2のサンプルを作製した。実施例5及び比較例2のサンプルの組成は、それぞれ、表に示す通りであった。
【0073】
CaCl2の代わりに塩化バリウム無水物(BaCl2)を用いた点と、Mg及びBaのモル比が異なる点とを除いて、実施例1と同様の方法で、実施例6、7及び比較例3のサンプルを作製した。実施例6、7及び比較例3のサンプルの組成は、それぞれ、表に示す通りであった。
【0074】
Caを混合しなかった点と、Gaに対するMgのモル比が異なる点とを除いて、実施例1と同様の方法で、比較例4のサンプルを作製した。
【0075】
【表1】
【0076】
[3-2.イオン伝導率]
実施例1~7および比較例1~4のサンプルのイオン伝導率を、交流インピーダンス測定によって評価した。
【0077】
まず、以下に説明される手順により、各サンプルから評価用のペレットを作製した。グローブボックス内の窒素雰囲気中で、各サンプルを適量秤量し、秤量されたサンプルをポリエチレンカーボネート管(PC管、内径10mm、外径30mm、高さ20mm)に入れ、当該サンプルを、ステンレス鋼(SUS304)で形成された治具で挟持した。次に、一軸プレス機(理研精機社製P-16B)を用いて、治具を介してサンプルを圧力5N/cm2でプレスし、直径10mm、任意の厚さのペレットを成型した。そして、治具を、ペレットを挟持したままで、固定用の別の治具に設置した。これにより、ペレットは、圧力5N/cm2でプレスされた状態で固定された。この状態で、ペレットを治具とともに密閉用器内に搬入した。密閉容器の内部は窒素雰囲気に維持された。密閉容器の外側に設けられた電極端子は、リード線を介して密閉容器内の治具に電気的に接続された。
【0078】
次に、ペレット状の各サンプルに対して、交流インピーダンス測定を行った。測定装置として、電気化学測定システム(Modulab:ソーラトロン社製)を用い、恒温装置として環境試験機(エスペック製、PR-2KP)を用いた。交流電圧50~100mV、周波数範囲0.01Hz~1MHz、温度25℃の条件で、各サンプルにおける交流インピーダンスを測定した。この測定から、各サンプルにおける、ペレットの主面の法線方向に沿った抵抗値を得た。これらの抵抗値を、それぞれイオン伝導率に換算することにより、実施例1~7および比較例1~4のサンプルのイオン伝導率を得た。表に、これらの結果を示している。
【0079】
表に示されるように、実施例1~7のサンプルは、いずれも1.0×10-6S/cm以上のイオン伝導率を示した。これらの値は、MgをCa、Sr又はBaで置換していない比較例4のサンプルのイオン伝導率よりも高かった。この結果は、Ca、Sr又はBaによる置換が、イオン伝導率を向上させることを示している。一方、Mgの20%をCa、Sr又はBaで置換した比較例1~3のサンプルは、いずれも、比較例4のサンプルよりも、低いイオン伝導率を示した。これは、置換比率が高過ぎると、構造が不安定になること、及び/又は、マグネシウムの量が少なくなることによるものと考えられる。
【0080】
なお、上記[1-2.マグネシウムイオン伝導の向上]で説明した通り、マグネシウムイオン伝導率の向上は、Mgの一部を置換することによって配位多面体の格子のサイズ、及び/又は、配位多面体同士の間隔を拡げることによって得られる。そのため、Mgの置換種が2種類以上である場合や、ハロゲンが塩素以外の場合であっても、同様の効果が得られると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示に係る固体電解質は、例えば二次電池に採用されうる。
【符号の説明】
【0082】
10 二次電池
11 基板
12 正極
12a 正極合剤層,正極活物質層
12b 正極集電体
12P 正極活物質粒子
13 固体電解質層
13C 固体電解質被膜
13P 固体電解質粒子
14 負極
14a 負極合剤層,金属負極層
14b 負極集電体
図1
図2
図3