(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】手持ち型・手動誘導型ランダム軌道ポリッシングまたはサンダー仕上げ動力駆動工具
(51)【国際特許分類】
B24B 23/04 20060101AFI20230327BHJP
B24B 47/12 20060101ALI20230327BHJP
B24B 55/06 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
B24B23/04
B24B47/12
B24B55/06
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020018468
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2020-06-03
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519099036
【氏名又は名称】グイド ヴァレンティーニ
【氏名又は名称原語表記】Guido Valentini
【住所又は居所原語表記】4, Via Corridoni,20122 Milano, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100175617
【氏名又は名称】三崎 正輝
(72)【発明者】
【氏名】グイド ヴァレンティーニ
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-288657(JP,A)
【文献】特表平07-501756(JP,A)
【文献】特開平07-180749(JP,A)
【文献】特開平06-137409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 23/00 - 23/08
B24B 47/12
B24B 55/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止本体(31)と、
モータ(15)と、
前記モータ(15)によって駆動されて第一回転軸(10)回りに回転運動を行う偏心要素(17)と、
前記偏心要素(17)に第二回転軸(16)回りに回転可能に接続される板状のバッキングパッド(9)と、
を備え、
前記第一回転軸(10)および前記第二回転軸(16)が互いから間隔を空けてかつ互いに略平行に延びている、手持ち型・手動誘導型ランダム軌道ポリッシングまたはサンダー仕上げ動力駆動工具(1)において、
前記偏心要素(17)の外周面の少なくとも一部が前記第一回転軸(10)に関して回転対称性を有しており、
前記動力駆動工具(1)は、前記偏心要素(17)の前記外周面の回転対称部分と前記動力駆動工具(1)の前記静止本体(31)との間に配置される少なくとも1つの第一軸受(30)を備えており、これにより、前記偏心要素(17)が前記本体(31)に対して前記第一回転軸(10)回りに回転可能にガイドされており、
前記動力駆動工具(1)は、少なくとも2つの噛合するギアホイール(27,28,29.1,29.2)を有する機械的ギア機構(21)を備えており、
前記ギア機構(21)は、機能的に、前記モータ(15)によって駆動される駆動シャフト(18)と前記偏心要素(17)との間に配置されており、
前記ギアホイール(27)のうちの少なくとも1つは、前記偏心要素(17)にトルクを伝達するよう前記偏心要素(17)に取り付けられ、
前記機械的ギア機構(21)は、第一中央ギアホイール(28)と、前記第一中央ギアホイール(28)と噛合する複数の第一ピニオンギアホイール(29.1)と、それぞれが前記第一ピニオンギアホイール(29.1)の1つと同軸状に配置されるとともにトルクを受けることができるよう取り付けられている、または、各前記第一ピニオンギアホイール(29.1)と一体化した部分を形成している、複数の第二ピニオンギアホイール(29.2)と、前記第二ピニオンギアホイール(29.2)と噛合する第二中央ギアホイール(27)と、を有しており、前記第二中央ギアホイール(27)は、トルクを受けることができるよう前記偏心要素(17)に取り付けられる、または、前記第二中央ギアホイール(27)は、前記偏心要素(17)と一体化した部分を形成する、
動力駆動工具。
【請求項2】
静止本体(31)と、
モータ(15)と、
前記モータ(15)によって駆動されて第一回転軸(10)回りに回転運動を行う偏心要素(17)と、
前記偏心要素(17)に第二回転軸(16)回りに回転可能に接続される板状のバッキングパッド(9)と、
を備え、
前記第一回転軸(10)および前記第二回転軸(16)が互いから間隔を空けてかつ互いに略平行に延びている、手持ち型・手動誘導型ランダム軌道ポリッシングまたはサンダー仕上げ動力駆動工具(1)において、
前記偏心要素(17)の外周面の少なくとも一部が前記第一回転軸(10)に関して回転対称性を有しており、
前記動力駆動工具(1)は、前記偏心要素(17)の前記外周面の回転対称部分と前記動力駆動工具(1)の前記静止本体(31)との間に配置される少なくとも1つの第一軸受(30)を備えており、これにより、前記偏心要素(17)が前記本体(31)に対して前記第一回転軸(10)回りに回転可能にガイドされており、
前記動力駆動工具(1)は、少なくとも2つの噛合するギアホイール(27,28,29)を有する機械的ギア機構(21)を備えており、
前記ギア機構(21)は、機能的に、前記モータ(15)によって駆動される駆動シャフト(18)と前記偏心要素(17)との間に配置されており、
前記ギアホイール(27)のうちの少なくとも1つは、前記偏心要素(17)にトルクを伝達するよう前記偏心要素(17)に取り付けられ、
前記機械的ギア機構(21)は、太陽ギアホイール(28)と、リングギアホイール(29)と、前記太陽ギアホイール(28)と前記リングギアホイール(29)と噛合する複数の遊星ギアホイール(27)と、を有する遊星ギア機構として設計されており、前記遊星ギアホイール(27)は、前記偏心要素(17)に回転可能に取り付けられ
、前記リングギアホイール(29)は前記動力駆動工具(1)の前記静止本体(31)と一体化した部分を形成する、
動力駆動工具。
【請求項3】
前記偏心要素(17)の前記外周面の前記回転対称部分は、前記第一回転軸(10)回りの任意の角度の回転に関する回転対称性を有している、
請求項1又は2に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第一軸受(30)はボールレースである、
請求項1から3のいずれか1項に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項5】
前記動力駆動工具(1)は、前記偏心要素(17)の前記外周面の回転対称部分と前記動力駆動工具(1)の前記静止本体(31)との間に配置される少なくとも2つの第一軸受(30)を備えており、前記少なくとも2つの第一軸受(30)は、前記第一回転軸(10)に沿った方向に互いから間隔を空けて配置される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項6】
前記偏心要素(17)は、前記偏心要素(17)に前記第二回転軸(16)回りに回転可能に接続される支点ピン(19)を有しており、前記支点ピン(19)は、前記支点ピン(19)に前記バッキングパッド(9)を取り外し可能に取り付けるよう前記バッキングパッド(9)の上面に設けられる各凹部(22)内に挿入されるよう構成される拡張ヘッド部分(20)を有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項7】
前記偏心要素(17)は、前記偏心要素(17)と前記支点ピン(19)との間に配置される少なくとも1つの第二軸受(37;37.1,37.2)を有しており、これにより、前記支点ピン(19)が前記偏心要素(17)に対して前記第二回転軸(16)回りに回転可能にガイドされる、
請求項6に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項8】
前記第一軸受(30)または複数の前記第一軸受(30)のうちの少なくとも1つが、前記少なくとも1つの第二軸受(37;37.1,37.2)の少なくとも一部分を囲繞するよう、前記偏心要素(30)の前記外周面の前記回転対称部分に配置される、
請求項7に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項9】
前記動力駆動工具(1)は、接続される前記バッキングパッド(9)に面する前記偏心要素(17)の側に、前記偏心要素(17)に取り付けられるまたは前記偏心要素(17)と一体化した部分を形成するタービンを備える、
請求項1から8のいずれか1項に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項10】
前記動力駆動工具(1)は、接続される前記バッキングパッド(9)に面する前記偏心要素(17)の側に、前記偏心要素(17)に取り付けられるまたは前記偏心要素(17)と一体化した部分を形成するカウンタウェイト(38)を備える、
請求項1から8のいずれか1項に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項11】
前記太陽ギアホイール(28)は、トルクを受けることができるよう前記駆動シャフト(18)に取り付けられ、または、前記駆動シャフト(18)と一体化した部分を形成している、
請求項2に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項12】
前記第一中央ギアホイール(28)は、トルクを受けることができるよう前記駆動シャフト(18)に取り付けられ、または、前記駆動シャフト(18)と一体化した部分を形成しており、
前記複数の第一ピニオンギアホイール(29.1)のそれぞれは、各前記第二ピニオンギアホイール(29.2)とともに、前記動力駆動工具(1)の前記本体(31)に回転可能に取り付けられる、
請求項1に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項13】
前記動力駆動工具(1)は、接続される前記バッキングパッド(9)に面する前記偏心要素(17)の側に、前記偏心要素(17)または前記タービンに取り付けられるまたは前記偏心要素(17)または前記タービンと一体化した部分を形成するカウンタウェイト(38)を備える、
請求項9に記載の動力駆動工具(1)。
【請求項14】
前記モータ(15)は、電気モータである、
請求項1から13のいずれか1項に記載の動力駆動工具(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持ち型・手動誘導型ランダム軌道ポリッシングまたはサンダー仕上げ動力駆動工具(Hand-Held and Hand-Guided Random Orbital Polishing or Sanding Power Tool)に関する。動力駆動工具は、静止本体と、モータと、モータによって駆動されて第一回転軸回りに回転運動を行う偏心要素と、第二回転軸回りに回転可能な態様で偏心要素に接続される板状バッキングパッドと、を備える。第一回転軸および第二回転軸は、互いから間隔を空けてかつ互いに略平行に延びている。
【背景技術】
【0002】
上述した種類の動力駆動工具は、従来の技術においてよく知られている。動力駆動工具の静止本体は、動力駆動工具の動作の際の第二回転軸回りのバッキングパッドの回転の際に動かない動力駆動工具の固定部である。静止本体は、動力駆動工具のハウジングに固定することができる、あるいは、ハウジング自体であってもよい。偏心要素を駆動するモータは、電気モータであってもよいし、空気圧式モータであってもよい。電気モータの場合、電気整流ブラシレスモータとして実現することができる。電気モータは、静止外部固定子と内部回転子とを有するインランナー型であっても、あるいは静止内部固定子と外部回転子とを有するアウトランナー型であってもよい。偏心要素は、モータによって直接、または、間接的に例えば動力伝達装置もしくはギア機構を介して、駆動することができる。偏心要素は、動力伝達装置またはギア機構からのモータシャフトまたは出力シャフトとすることができる駆動シャフトに取り付けられる。駆動シャフトの回転軸は、偏心要素の第一回転軸に対応する。バッキングパッドは、偏心要素に第二回転軸回りに回転可能に接続される。動力駆動工具の動作の際に、偏心要素は第一回転軸回りに回転する。また第一回転軸から間隔を空けて配置される第二回転軸も、第一回転軸回りの回転運動を行う。これにより、動力駆動工具の動作の際に、バッキングパッドはその平面の延長面内において偏心運動または軌道運動を行う。バッキングパッドを第二回転軸回りに回転可能とすることによって、偏心運動または軌道運動をランダム軌道運動とすることができる。例えば、上述した種類の空気圧式ランダム軌道動力駆動工具が、米国特許出願公開第2004/102145号明細書(US 2004/0102145A1)および米国特許第5319888号明細書(US5,319,888)において知られている。対応する電動工具が、例えば欧州特許出願公開第694365号明細書(EP0694365A1)において知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2004/102145号明細書
【文献】米国特許第5319888号明細書
【文献】欧州特許出願公開第694365号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
すべての既知のランダム軌道動力駆動工具においては、第一回転軸回りに偏心要素を回転可能とするために、偏心要素に取り付けられる駆動シャフトが、動力駆動工具の静止本体に関して1つ以上の軸受によってガイドされることが一般的である。トルクを受けることができるよう(in a torque proof manner)駆動シャフトに取り付けられる偏心要素は、別の軸受を有していない。第一回転軸回りの回転の際には、偏心要素は駆動シャフトに割り当てられた軸受によってガイドされるだけである。既知の動力駆動工具のこの従来の構成において、偏心要素は、駆動シャフトに割り当てられた軸受からかなり離れた距離にある。このことは、偏心要素が横方向の力を受けず第一回転軸回りの回転運動だけを行う場合には、問題にはならないかもしれない。しかしながら、このようなことはランダム軌道動力駆動工具ではありえない。偏心要素が(バッキングパッドと、それに接続されるカウンタウェイトと、を含めると)かなり重いので、かなりの高速(12,000rpmにも達する)での第一回転軸回りの偏心運動と相俟って、偏心要素と、偏心要素が取り付けられる駆動シャフトと、には相当大きな横方向の力が作用する。これにより、駆動シャフトと、駆動シャフトをガイドする軸受と、に作用するモーメントがかなり大きくなる。
【0005】
さらに、既知のランダム軌道動力駆動工具では、偏心要素は、トルクを受けることができるよう駆動シャフトに固定されるよう取り付けられるか、駆動シャフトと一体化した部分を形成する必要がある。このことは、新しい動力駆動工具の開発や既存の動力駆動工具のさらなる改良において大きな制約となる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、上述の問題を克服する上述した種類の動力駆動工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の特徴を備える動力駆動工具によって達成される。特に、上述した種類の動力駆動工具において、
偏心要素の外周面の少なくとも一部が第一回転軸に関して少なくとも離散的な回転対称性を有しており、
動力駆動工具は、偏心要素の外周面の回転対称部分と動力駆動工具の静止本体との間に配置される少なくとも1つの第一軸受を備えており、これにより、偏心要素が本体に対して第一回転軸回りに回転可能にガイドされており、
動力駆動工具は、少なくとも2つの噛合するギアホイールを有する機械的ギア機構を備えており、
ギア機構は、機能的に、モータによって駆動される駆動シャフトと偏心要素との間に配置されており、
ギアホイールのうちの少なくとも1つは、偏心要素にトルクを伝達するよう偏心要素に取り付けられる動力駆動工具を提案する。
【0008】
本発明の重要な面では、静止本体に対する第一回転軸回りの回転の際に偏心要素を直接ガイドするための少なくとも1つの別の軸受を有する、ランダム軌道動力駆動工具の偏心要素が設けられる。少なくとも1つの軸受は、回転する偏心要素(バッキングパッドと、これに接続されるカウンタウェイトと、を有する)から横方向の力を直接吸収することができる。これには、高速(12,000rpmにも達する)での動作の際に偏心要素(バッキングパッドと、これに接続されるカウンタウェイトと、を有する)によって生じる動力駆動工具の振動を大幅に低減できる利点がある。好ましくは、偏心要素には、第一回転軸の方向に互いから間隔を空けて配置される、特には第一回転軸に沿って偏心要素の両端部に配置される、少なくとも2つの軸受が、設けられる。これにより、2つの支持軸受間に十分な実効距離が得られ、大きな傾斜モーメント(tilting moment)を吸収することができる。少なくとも1つの軸受は好ましくは、環状ボールレースである。特に、少なくとも2つの傾斜支持軸受をO型配置として構成することが提案される。これにより、2つの支持軸受間の実効距離をさらに増加でき、さらに大きな傾斜モーメントを吸収することができる。
【0009】
偏心要素の外周面の直径は、従来の技術動力駆動工具の駆動シャフトより大きい。したがって、偏心要素の外周面の回転対称部分に配置される少なくとも1つの軸受の直径もまた、従来の技術における駆動シャフトの外面に配置される軸受より大きい。直径が大きいので、偏心要素と静止本体との間に配置される少なくとも1つの軸受は、偏心要素の振動をより良好に受けて吸収できる。
【0010】
偏心要素を駆動するモータを、電気モータまたは空気圧式モータとすることができる。偏心要素は、間接的に例えば機械的ギア機構を介して、モータにより駆動される。偏心要素は、機械的ギア機構の出力に取り付けられる。機械的ギア機構は、機能的に、モータによって駆動される駆動シャフトと偏心要素との間に配置される。駆動シャフトを、モータシャフトまたは、モータによって駆動される他の任意のシャフトとすることができる。機械的ギア機構は、少なくとも2つの噛合するギアホイールを有する。ギアホイールのうちの少なくとも一つは、偏心要素にトルクを伝達するよう偏心要素に取り付けられる。機械的ギア機構は偏心要素に実質的に一体化され、これにより、動力駆動工具を非常にコンパクトな、特に高さが低い偏心構造とできる。さらに、動力駆動工具の部品数を、従来の技術と比べて大幅に低減することができる。
【0011】
第一の好ましい態様では、機械的ギア機構は、太陽ギアホイールと、リングギアホイールと、太陽ギアホイールとリングギアホイールと噛合する複数の遊星ギアホイールと、を有する遊星ギア機構として設計される。遊星ギアホイールは、偏心要素に回転可能に取り付けられる。好ましくは、太陽ギアホイールは、トルクを受けることができるよう駆動シャフトに取り付けられており、リングギアホイールは、トルクを受けることができるよう動力駆動工具の静止本体に取り付けられるまたはリングギアホイールは動力駆動工具の静止本体と一体化した部分を形成する。動力駆動工具の動作の際に、すなわち、駆動シャフトの回転の際に、太陽ギアホイールは回転し、静止リングギアホイール上を転がる遊星ギアホイールに回転運動を伝達する。これにより、遊星ギアホイールの遊星キャリアが第一回転軸回りに回転する。偏心要素が遊星キャリアとして機能するので、偏心要素が第一回転軸回りに運動する。偏心要素の回転速度は、駆動シャフトおよび太陽ギアホイールの回転速度にそれぞれ応じて変化し、種々のギアホイールの歯の数によっても変わる。好ましくは、高いトルク出力が得られるよう、偏心要素は太陽ギアホイールの速度よりも低速で回転する。
【0012】
他の好ましい態様では、機械的ギア機構は、第一中央ギアホイールと、第一中央ギアホイールと噛合する複数の第一ピニオンギアホイールと、それぞれがトルクを受けることができるよう第一ピニオンギアホイールの1つに取り付けられるまたは各第一ピニオンギアホイールと一体化した部分を形成している複数の第二ピニオンギアホイールと、第二ピニオンギアホイールと噛合する第二中央ギアホイールと、を有する。第二中央ギアホイールは、トルクを受けることができるよう偏心要素に取り付けられる。または、第二中央ギアホイールは偏心要素と一体化した部分を形成する。好ましくは、第一中央ギアホイールはトルクを受けることができるよう駆動シャフトに取り付けられるまたは駆動シャフトと一体化した部分を形成しており、そして、複数の第一ピニオンギアホイールのそれぞれは、対応する第二ピニオンギアホイールとともに、動力駆動工具の本体に回転可能に取り付けられる。第一中央ギアホイールおよび第二中央ギアホイールは、ギア機構において同軸上に配置される。動力駆動工具の動作の際に、すなわち駆動シャフトの回転の際に、第一中央ギアホイールは第一回転軸と同軸状の回転軸回りに回転し、これにより、第二ピニオンギアホイールを回転させる第一ピニオンギアホイールを回転させ、その結果、第二中央ギアホイールと偏心要素とが第一回転軸回りに運動する。第一ピニオンギアホイールおよび第二ピニオンギアホイールが回転可能に動力駆動工具の本体に取り付けられているので、第二中央ギアホイールは第二中央ギアホイールが固定されるよう取り付けられている偏心要素とともに回転することになる。偏心要素の回転速度は、駆動シャフトおよび第一中央ギアホイールの回転速度にそれぞれ応じて変化し、種々のギアホイールの歯の数によっても変わる。好ましくは、高いトルク出力が得られるよう、偏心要素は第一中央ギアホイールの速度よりも低速で回転する。
【0013】
本発明のさらに他の好ましい態様では、機械的ギア機構は、ベベルピニオンホイールと、ベベルピニオンホイールと噛合するクラウンホイールと、を有するベベルギア機構として設計される。クラウンホイールは、トルクを受けることができるよう偏心要素に取り付けられる。または、クラウンホイールは、偏心要素と一体化した部分を形成する。好ましくは、ベベルピニオンホイールは、トルクを受けることができるよう駆動シャフトに取り付けられる、または駆動シャフトと一体化した部分を形成する。この態様では、駆動シャフトの回転軸は、第一回転軸に対してある角度で延びている。好ましくは、その角度は約90°である。このギア機構は、特にはアンギュラ(角度が付いた)動力駆動工具を、特にアンギュラグラインダおよびアンギュラポリッシャを実現するよう構成される。動力駆動工具の動作の際に、すなわち駆動シャフトの回転の際に、ベベルピニオンホイールは、第一回転軸に対してある角度で延びる回転軸回りで回転し、クラウンホイールと偏心要素とが第一回転軸回りに運動する。偏心要素の回転速度は、駆動シャフトおよびベベルピニオンホイールの回転速度にそれぞれ応じて変化し、ベベルピニオンホイールおよびクラウンホイールの歯の数によっても変わる。好ましくは、高いトルク出力が得られるよう、偏心要素は第一中央ギアホイールの速度よりも低速で回転する。
【0014】
少なくとも1つの軸受を用いて偏心要素を直接ガイドするために、少なくとも1つの軸受が配置される偏心要素の外周面の少なくとも一部は、第一回転軸に関して少なくとも離散的な回転対称性を有する。特定点(2D)あるいは特定軸(3D)に関する対象物のn回回転対称性(またn回対称やn回の離散的な回転対称性ともいう)は、対象物を(360/n)°回転させてもその対象物が変わらないことを意味する。すべての対象物は360°回転させた後には同じに見えるので、「1回」対称は対称性ではない。好ましくは、偏心要素の外周面の回転対称部分は、第一回転軸回りの任意の角度の回転に関する回転対称性(いわゆる円対称性)を有する。これは、偏心要素の外周面の回転対称部分が、円筒軸が偏心要素の第一回転軸に対応している、円筒形状を有することを意味する。少なくとも1つの軸受は、偏心要素の円筒部分に配置され、動力駆動工具の静止本体(例えばハウジング、あるいはハウジングに取り付けられる別体のシャーシ)に関して偏心要素をガイドする。
【0015】
本発明の好ましい実施形態は、偏心要素が、支点ピンが挿入されて第二回転軸回りに回転可能にガイドされる偏心受け部を有することを提案する。支点ピンは、バッキングパッドが取り外し可能に取り付けられる取り付け手段、例えば拡張ヘッド部分を備える。このために、凹部がバッキングパッドの上面に形成される。凹部の内側周辺形状は取り付け手段の外側周辺形状に対応している。取り付け手段は、ネジまたは磁力を用いてバッキングパッドの凹部内において軸方向に保持される。好ましくは、偏心要素は、支点ピンが第二回転軸回りに回転可能に偏心要素に関してガイドされるよう、偏心受け部において偏心要素と支点ピンとの間で作動する少なくとも1つの第二軸受を備える。あるいは、また、支点ピンは、バッキングパッドの上面の円筒部に形成される内ネジに対応する外ネジを有してもよい。この場合、支点ピンをバッキングパッドの円筒部にネジ締めすることによって、バッキングパッドを支点ピンに取り付けることができる。
【0016】
本発明の他の好ましい態様では、第一軸受または複数の第一軸受のうちの少なくとも一つを、少なくとも1つの第二軸受の少なくとも一部分を囲繞するよう、偏心要素の外周面の回転対称部分に配置することを提案する。言い換えると、第一軸受または複数の第一軸受のうちの少なくとも一つと第二軸受とが、第一回転軸に対して垂直なかつバッキングパッドの延長平面と平行に延びる同一水平面内に配置される。これにより、少なくとも1つの第二軸受においてガイドされる支点ピンを通じてバッキングパッドによって偏心要素に作用させられる横方向の力を特に良好にかつ効果的に吸収できる。
【0017】
本発明の好ましい態様では、動力駆動工具のモータを、巻線を有する固定子と、永久磁石を有する回転子と、を備える電気モータとすることを提案する。電気モータは好ましくは、電気整流ブラシレスモータである。好ましくは、電気モータは、電気固定子巻線と回転子の永久磁石との間の磁界が実質的に放射状方向に延びるラジアルタイプである。電気モータを、いわゆるアウトランナーとすることも、いわゆるインランナーとすることもできる。
【0018】
さらに、本発明の他の好ましい実施形態では、動力駆動工具が、接続されるバッキングパッドに面する偏心要素の一部分に、偏心要素に取り付けられるまたは偏心要素と一体化した部分を形成するファンすなわちタービンを有することを提案する。このようなタービンは、第一回転軸回りのタービンの回転に応じて径方向または軸方向の気流を生じさせる複数のフィンを備える。気流を、動力駆動工具の内部部品(例えば電気モータ、電子制御装置、電子弁・スイッチ、電気コイル等の電子部品、または空気圧式モータ、空気圧式弁・スイッチ等の空気圧式部品)を冷却するために、かつ/または、埃や他の微粒子(例えば研磨埃、ポリッシング埃、ポリッシング剤からの微粒子)を動力駆動工具が加工している面からおよび/または周辺環境から吸引し、そして吸引した埃や他の微粒子をフィルタユニットまたは動力駆動工具に取り付けられるカートリッジにまたは外部埃取り出しシステム(例えば掃除機)に運ぶために、用いることができる。この態様には、偏心要素と機械的ギア機構とタービンを備えるユニットを特にコンパクトとしかつ扁平な設計とできる利点がある。ユニットは、複数の異なる部品を非常に小さい空間に統合している。
【0019】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、動力駆動工具が、接続されるバッキングパッドに面する偏心要素の一部分に、偏心要素もしくはタービンに取り付けられるまたは偏心要素もしくはタービンと一体化した部分を形成するカウンタウェイトを、備えることを提案する。カウンタウェイトは、例えばネジを用いて、偏心要素に取り付けられ固定される別体要素とすることができる。あるいは、カウンタウェイトを偏心要素と一体化した部分として、またはタービンが備えられる場合にはタービンと一体化した部分として、形成することもできる。
【0020】
本発明のさらなる特徴および利点を、添付図面を参照してより詳細に説明する。添付図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明にかかる手持ち型・手動誘導型ランダム軌道動力駆動工具の一例の斜視図。
【
図3】機械的ギア機構とカウンタウェイトとを備える第一実施形態にかかる
図1の動力駆動工具の偏心機構の斜視図。
【
図5】機械的ギア機構とカウンタウェイトとを備える第二実施形態にかかる
図1の動力駆動工具の偏心機構の斜視図。
【
図7】機械的ギア機構とカウンタウェイトとを備える第三実施形態にかかる
図1の動力駆動工具の偏心機構の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明にかかる手持ち型・手動誘導型電動工具1の一例を斜視図で示す。
図2に、
図1の動力駆動工具1を長手方向概略断面図で示す。動力駆動工具1は、ランダム軌道ポリッシング機械(すなわちポリッシャ)として実現される。もちろん、動力駆動工具1を、ランダム軌道サンダー仕上げ機械(すなわちサンダー)として、または動力駆動工具1の動作の際にランダム軌道運動を行うバッキングパッドを有するあらゆる動力駆動工具1として、実現することもできる。ポリッシャ1は、基本的にプラスチック材料で形成される、ハウジング2を有する。工具1のユーザが両手で工具1を掴むことを可能とするとともに、工具1の意図する使用の際にグリップ4にある程度の下向き圧力を加えることができるよう、ハウジング2には、後端部にハンドル3が、前端部にグリップ(握り部)4が設けられる。遠端部に電気プラグを有する電源ライン5が、ハンドル3の後端部においてハウジング2から延出されている。ハンドル3の底部側には、動力駆動工具1を作動・停止させるためのスイッチ6が配置される。スイッチ6を、横方向プッシュ(押し)ボタン7によって連続的に作動位置に保持することができる。動力駆動工具1は、工具の電気モータ15(
図2参照)の回転速度を所望の値に設定するための調整手段13(例えば回転式ポテンシオメーターを制御するローレットホイール)を有してもよい。ハウジング2は、電子部品および/または電気モータ15(どちらもハウジング2内に配置されている)からの熱を外部環境に放散可能とするための、かつ/または、外部環境から冷却空気をハウジング2へと取り込み可能とするための冷却開口部8を有してもよい。
【0023】
図1に示す動力駆動工具1は、電気モータ15を有する。あるいは、動力駆動工具1は、空気圧式モータを有することもできる。そのような場合、電気ケーブル5の代わりに、動力駆動工具1には、空気圧式モータを駆動するための高圧空気が空気チューブ等を通じて供給される。電気モータ15は好ましくは、ブラシレス型である。電気ケーブル5を用いる電源への動力駆動工具1の接続の代わりに、工具1は、少なくとも部分的にハウジング2内に配置される充電可能または取り替え可能な電池(図示せず)を追加的にまたは代わりに有することもできる。そのような場合、電気モータ15を駆動するために、そして工具1の他の電子部品を動作させるエネルギーが電池から供給されることになる。電池が備えられており、しかも電気ケーブル5も備えられている場合には、動力駆動工具1の動作の前、動作の際および動作の後に、電池を電源からの電流で充電することができる。電池が備えられることにより、電気モータ15を、電源電圧(欧州では230V、または米国や他の国では110V)ではなく、電池によって供給される電圧に応じた低い電圧で、例えば12V、24V、36Vまたは42Vで、動作させることができる。
【0024】
動力駆動工具1は、第一回転軸10回りに回転可能なプレート状(板状)のバッキングパッド9を有する。特に、
図1で示す工具1のバッキングパッド9は、第一回転軸10回りにランダムな軌道回転運動11を行う。ランダムな軌道運動11により、バッキングパッド9は第一回転軸10回りに第一の回転運動を行う。第一回転軸10から間隔を空けて配置される第二回転軸16(
図2参照)が形成されている。バッキングパッド9は、第一回転軸10回りのバッキングパッド9の回転から独立して、第二回転軸16回りに回転可能である。第二軸16は、バッキングパッド9の平衡点(バランスポイント)を通るように、第一回転軸10と平行に延びている。ランダムな軌道運動11は、モータ15によって直接または間接的に駆動されて工具1の動作の際に第一回転軸10回りの回転運動を行う偏心要素17を用いて実現される。支点ピン19は、偏心要素17において、第二回転軸16回りに回転可能に保持される。支点ピン19の取り付け部材20(例えば拡張ヘッド部分)は、バッキングパッド9の上面で形成される凹部22に挿入され、例えばネジ(図示せず)または磁力を用いて、取り外し可能にバッキングパッド9に取り付けられる。偏心要素17を、偏心要素17にトルクを伝達するよう、機械的ギア機構21の少なくとも1つのギアホイールに直接取り付けることもできる。機械的ギア機構21は、機能的に、駆動シャフト18と偏心要素17との間に配置され、これにより、回転運動をそしてさらにトルクを駆動シャフト18から偏心要素17へと伝達する。
【0025】
バッキングパッド9は、剛性材料、好ましくは、一方では動力駆動工具1の使用の際に表面への所望の作業(例えば、車体、船または航空機外殻の表面のポリッシングまたはサンダー仕上げ)を行うための工具付属品(アクセサリ)12を担持し支持するとともに工具1の意図する使用の際にバッキングパッド9および工具アクセサリ12に力を下向きかつ第一回転軸10と略平行な方向に作用させるのに十分な剛性があり、他方ではそれぞれバッキングパッド9あるいは工具アクセサリ12が作用する面の破損または引っ掻きを回避するのに十分な可撓性がある、プラスチック材料で形成される。例えば、動力駆動工具1がポリッシャである場合、工具アクセサリ12を、限定するものではないが、発泡体すなわちスポンジパッド、マイクロファイバーパッド、および本羊毛もしくは合成羊毛パッドを有するポリッシング材料とすることができる。
図1においては、工具アクセサリ12は発泡体すなわちスポンジパッドとして実現されている。動力駆動工具1がサンダーである場合、工具アクセサリ12を、限定するものではないが、紙やすりおよびサンダー仕上げ用の繊維素材または織物を有するサンダー仕上げまたは研磨材料とすることができる。バッキングパッド9および工具アクセサリ12は、それぞれ、回転軸16と平行に見て、好ましくは円形形状を有する。
【0026】
バッキングパッド9の底面には、工具アクセサリ12を取り外し可能に取り付けるための手段が配置される。取り付け手段は、バッキングパッド9の底面に、フック・アンド・ループ留め具(ファスナー)(すなわちベルクロ(登録商標))の第一層を有することができる。工具アクセサリ12の上面には、フック・アンド・ループ・ファスナーの対応する第二層が配置される。取り外し可能にしかも安全にバッキングパッド9の底面に工具アクセサリ12を取り付けるために、フック・アンド・ループ・ファスナーの2つの層は互いに作用し合う。もちろん、他のタイプの動力駆動工具1では、バッキングパッド9および工具アクセサリ12を種々に実現することができる。
【0027】
次に、
図2に示す動力駆動工具1の内部に戻ると、電気モータ15が偏心要素17を直接には駆動していないことが分かるであろう。モータ15のモータシャフト23は、またはここではトルクを受けることができるようモータシャフト23に直接連結される駆動シャフト18は、機械的ベベルギア機構21に対する入力シャフトを構成する。ベベルギア機構21の出力ギアホイール27の回転出力運動は、偏心要素17に伝達される。ベベルギア機構21は、長手方向軸24回りのモータシャフト23の回転運動を、第一回転軸10回りの偏心要素17の回転運動に変換するよう機能する。モータシャフト23と偏心要素17の回転速度を同じとすることができ(ベベルギア機構21のギア比が1である)、または互いに異なる速度とすることもできる(ベベルギア機構21のギア比≠1)。図示の動力駆動工具1が、アンギュラポリッシャであるので、ベベルギア機構21が必要である。モータシャフト23の長手方向軸24は、偏心要素17の第一回転軸10に対してある角度α(好ましくは90°と180°未満との間の角度)で延びている。図示の実施形態で角度はちょうど90°である。もちろん、他の動力駆動工具1では、2つの軸24,10を平行とするまたは同軸状とすること、したがって、ベベルギア機構21を不要とすることもできる。
【0028】
本発明は特に、偏心要素17の特別な設計に関する。従来の技術においては、偏心要素17は、トルクを受けることができるよう、駆動シャフト25に固定されるよう取り付けられる。駆動シャフト25は、1以上の軸受によって動力駆動工具1の静止本体31(
図3~
図8参照)に関してガイドされる。静止本体31は、動力駆動工具1のハウジング2に固定することができ、または、静止本体31は、ハウジング2自体と一体化した部分を形成することができる。軸受により、第一回転軸10回りの駆動シャフト25の回転が可能となる。偏心要素17は、別の軸受を有していない。第一回転軸10回りの回転の際には、偏心要素17は、駆動シャフト25に割り当てられた軸受によってガイドされるだけである。既知の動力駆動工具1のこの従来の構成においては、偏心要素17は、駆動シャフト25に割り当てられた軸受からかなり離れた距離に配置される。偏心要素17(バッキングパッド9と、バッキングパッド9に接続される工具アクセサリ12およびカウンタウェイトと、を含む)がかなり重いので、かなりの高速(12,000rpmに達する)での第一回転軸10回りの偏心運動と相俟って、偏心要素17には相当大きな横方向の力が作用し、偏心要素17が取り付けられる駆動シャフト25には相当大きなモーメントが作用する。これにより、相当大きな振動が生じる可能性があり、そのため、駆動シャフト25と、駆動シャフト25をガイドする対応する軸受と、に作用する機械的負荷がかなり大きくなる。
【0029】
これらの欠点は、本発明にかかる動力駆動工具1およびその特別な偏心要素17によって克服される。特に、機械的ギア機構21のギアホイール27のうちの少なくとも一つは、偏心要素17にトルクを伝達できるよう、偏心要素17に取り付けられる。少なくとも1つのギアホイール27を、トルクを受けることができるよう第一回転軸10と同軸状に、または第一回転軸10と平行に延びるとともにかつ横方向にずれている回転軸回りに回転可能に、偏心要素17に取り付けることができる。こうして、ギア機構21は、偏心要素17に少なくとも部分的に一体化されており、その結果、特にコンパクトな偏心構造(偏心要素17と機械的ギア機構21とを含む)とでき、したがって、特に扁平な構成を有する非常にコンパクトな動力駆動工具1とできる。本発明では、ギア機構21と偏心要素17との間に配置される従来技術の動力駆動工具1の駆動シャフト25が省略される。
【0030】
種々の実施形態の偏心構造を、
図3~
図8を参照して、以下により詳細に説明する。
図3および
図4に示す第一の好ましい実施形態では、機械的ギア機構21は、太陽ギアホイール28と、リングギアホイール29と、太陽ギアホイール28とさらにリングギアホイール29と噛合する複数の遊星ギアホイール27と、を備える遊星ギア機構として設計される。遊星ギアホイール27は、偏心要素17が、回転軸40回りに回転可能に取り付けられる。好ましくは、太陽ギアホイール28は、トルクを受けることができるよう駆動シャフト18に取り付けられる。あるいは、太陽ギアホイール28は、駆動シャフト18と一体化した部分を形成することもできる。リングギアホイール29は、好ましくは、トルクを受けることができるよう、動力駆動工具1の静止本体31に取り付けられる。あるいは、リングギアホイール29は、静止本体31と一体化した部分を形成することもできる。動力駆動工具1の動作の際に、すなわち、第一回転軸10回りの駆動シャフト18の回転の際に、太陽ギアホイール28は回転し、静止リングギアホイール29上を転がる遊星ギアホイール27に回転運動を伝達する。これにより、遊星ギアホイール27の遊星キャリアが第一回転軸10回りに回転する。偏心要素17が遊星キャリアとして機能するので、偏心要素17が第一回転軸10回りに運動する。偏心要素17の回転速度は、駆動シャフト18および太陽ギアホイール28の回転速度にそれぞれ応じて変化し、種々のギアホイール27,28,29の歯の数によっても変わる。好ましくは、高いトルク出力が得られるよう、偏心要素17は、太陽ギアホイール28の速度よりも低速で回転する。
図3には、動力駆動工具1の静止本体31を示していない。
【0031】
本発明では、偏心要素17が本体31に対して第一回転軸10回りに回転可能にガイドされるように、偏心要素17の外周面の少なくとも一部が第一回転軸10に関して少なくとも離散的な回転対称性を有し、かつ、動力駆動工具1が、偏心要素17の外周面の回転対称部分と動力駆動工具1の静止本体31との間に配置される少なくとも1つの第一軸受30を有すること(
図4参照)、が提案される。
【0032】
本発明の重要な面では、ランダム軌道動力駆動工具1の偏心要素17を備えており、偏心要素は、第一回転軸10回りの回転の際に偏心要素17を直接ガイドするための少なくとも1つの別の軸受30を有する。軸受30は、回転する偏心要素17(バッキングパッド9と、バッキングパッド9に接続される工具アクセサリ12およびカウンタウェイトと、を含む)から横方向の力を直接吸収することができる。これには、高速(12,000rpmに達する)の偏心要素17(バッキングパッド9と、バッキングパッド9に接続される工具アクセサリ12およびカウンタウェイトと、を含む)によって生じる運転中の動力駆動工具1の振動を大幅に低減できる利点がある。好ましくは、第一回転軸10の方向に互いから間隔を空けて少なくとも2つの軸受30が配置され、特に、少なくとも2つの軸受30は、第一回転軸10に沿った偏心要素17の両端部に配置される。軸受30は好ましくは、環状ボールレース(annular ball races)として実現される。具体的には、2つの軸受30は、O型配置(背面組合せ形)として構成される傾斜支持軸受(アンギュラ玉軸受)である。これにより、2つの軸受30間の実効距離(作用点位置寸法)を増加でき、より大きな傾斜モーメントを吸収することができる。
【0033】
軸受30を用いて偏心要素17を直接ガイドするために、軸受30が配置される偏心要素17の外周面の少なくとも一部は、第一回転軸10に関して少なくとも離散的な回転対称性を有する。好ましくは、偏心要素17の外周面の回転対称部分は、第一回転軸10回りの任意の角度の回転に関する回転対称性(いわゆる円対称性)を有する。このことは、偏心要素17の外周面の回転対称部分が、円筒軸が偏心要素17の第一回転軸10に対応している円筒形状を有することを意味する。軸受30は、偏心要素17の円筒部分に配置され、動力駆動工具1の静止本体31(例えばハウジング、あるいはハウジングに取り付けられる別体のシャーシ(基体))に関して偏心要素17をガイドする。
【0034】
偏心要素17は、支点ピン19が挿入されて第二回転軸16回りに回転可能にガイドされる偏心受け部33を備える。支点ピン19は、バッキングパッド9が取り外し可能に取り付けられる取り付け手段20、例えば拡張ヘッド部分、を備える。このために、凹部22がバッキングパッド9の上面に形成される。凹部22の内側周辺形状は、取り付け手段20の外側周辺形状に対応している。支点ピン19は、取り付け手段20をバッキングパッド9の凹部22に挿入した後にネジを締め込むことができる円筒部36を有し、これによりバッキングパッド9を支点ピン19に取り外し可能に固定している。好ましくは、偏心要素17は、支点ピン19が第二回転軸16回りに回転可能に偏心要素17に関してガイドされるよう、偏心要素17と支点ピン19との間に配置される少なくとも1つの第二軸受37を偏心受け部33に備える。第二軸受37は、環状ボールレースとして実現される。
【0035】
好ましくは、第一軸受30のうちの少なくとも1つは、偏心受け部33および第二軸受37の少なくとも一部分を囲繞するよう、偏心要素17の外周面の回転対称部分に配置される。言い換えると、偏心要素17の底部側にある第一軸受30、及び第二軸受37、が同一水平面内に配置される。これにより、第二軸受37においてガイドされる支点ピン19を通じてバッキングパッド9によって偏心要素17に作用する横方向の力を特に良好にかつ効果的に吸収できる。別体のカウンタウェイト38は、偏心受け部33とは反対にある第一回転軸10の側に配置することもできる。カウンタウェイト38は、偏心要素17と一体化した部分とすることもできる。好ましくは、カウンタウェイト38は、偏心要素17とは別体の部品であり、例えば1以上のネジ(図示せず)を用いて取り付けられる。
【0036】
図5および
図6に示す他の好ましい実施形態では、機械的ギア機構21は、第一中央ギアホイール28と、第一中央ギアホイール28と噛合する複数の第一ピニオンギアホイール29.1と、それぞれがトルクを受けることができるよう第一ピニオンギアホイール29.1の1つに取り付けられる、または(本件のように)各第一ピニオンギアホイール29.1と一体化した部分を形成している複数の第二ピニオンギアホイール29.2と、第二ピニオンギアホイール29.2と噛合する第二中央ギアホイール27と、を備える。第二中央ギアホイール27は、トルクを受けることができるよう、偏心要素17に取り付けられる。あるいは、第二中央ギアホイール27は、偏心要素17と一体化した部分を形成することもできる。好ましくは、第一中央ギアホイール28は、トルクを受けることができるよう駆動シャフト18に取り付けられる。あるいは、第一中央ギアホイール28は、駆動シャフト18と一体化した部分を形成することもできる。複数の第一ピニオンギアホイール29.1のそれぞれは、各第二ピニオンギアホイール29.2とともに、動力駆動工具1の本体31に、第一回転軸10に略平行に延びる回転軸40の回りに回転可能に、取り付けられる。ガイドピン41は、第一ピニオンギアホイール29.1および第二ピニオンギアホイール29.2の中央開口部を貫通するよう、本体31に取り付けられる。第一中央ギアホイール27および第二中央ギアホイール28は、ギア機構21において同心円状に配置される。動力駆動工具1の動作の際に、すなわち駆動シャフト18の回転の際に、第一中央ギアホイール28は第一回転軸10と同軸状の回転軸回りに回転し、これにより、第二ピニオンギアホイール29.2を回転させる第一ピニオンギアホイール29.1を回転させ、その結果、第二中央ギアホイール27と偏心要素17とが第一回転軸10回りに運動する。第一ピニオンギアホイール29.1および第二ピニオンギアホイール29.2が回転可能に動力駆動工具1の本体31に取り付けられているので、第二中央ギアホイール27は、第二中央ギアホイール27が固定されるよう取り付けられている偏心要素17とともに回転することになる。偏心要素17の回転速度は、駆動シャフト18および第一中央ギアホイール28の回転速度にそれぞれ応じて変化し、種々のギアホイール27,28,29.1,29.2の歯の数によっても変わる。好ましくは、高いトルク出力が得られるよう、偏心要素17は第一中央ギアホイール28の速度よりも低速で回転する。
【0037】
図7および
図8に示す本発明のさらに他の好ましい実施形態では、機械的ギア機構21は、ベベルピニオンホイール28と、ベベルピニオンホイール28と噛合するクラウンホイール27と、を有するベベルギア機構として設計されることが提案される。クラウンホイール27は、トルクを受けることができるよう、偏心要素17に取り付けられる。あるいは、クラウンホイール27は、偏心要素17と一体化した部分を形成することもできる。好ましくは、ベベルピニオンホイール28は、トルクを受けることができるよう駆動シャフト18に取り付けられる、または(本実施例のように)駆動シャフト18と一体化した部分を形成する。この実施形態では、駆動シャフト18の回転軸24は第一回転軸10に対してある角度で延びている。好ましくは、その角度は約90°である。このギア機構21は、特には、アンギュラ動力駆動工具1、特に
図1および
図2に示したようなアンギュラグラインダおよびアンギュラポリッシャを実現するよう構成される。動力駆動工具1の動作の際に、すなわち駆動シャフト18の回転の際に、ベベルピニオンホイール28は第一回転軸10に対してある角度で延びる回転軸24回りで回転し、クラウンホイール27と偏心要素17とが第一回転軸10回りに運動する。偏心要素17の回転速度は、駆動シャフト18およびベベルピニオンホイール28の回転速度にそれぞれ応じて変化し、ベベルピニオンホイール28およびクラウンホイール27の歯の数によっても変わる。好ましくは、高いトルク出力が得られるよう、偏心要素17は第一中央ギアホイール28の速度よりも低速で回転する。この実施形態では、偏心受け部33には、2つの別々の第二軸受37.1,37.2が配置される。