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特許7251547架橋性ニトリルゴム組成物およびゴム架橋物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】架橋性ニトリルゴム組成物およびゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/02 20060101AFI20230328BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230328BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230328BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20230328BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20230328BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20230328BHJP
   C08F 236/12 20060101ALI20230328BHJP
   C08C 19/02 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C08L9/02
C08K3/36
C08K3/34
C08K3/26
C08K5/17
C08K9/06
C08F236/12
C08C19/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020527488
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024802
(87)【国際公開番号】W WO2020004284
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018121727
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福峯 義雄
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-111048(JP,A)
【文献】特開2008-179671(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148055(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02,33/00-35/08
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位、およびカルボキシル基含有単量体単位を含有し、前記α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が8~18重量%である、ヨウ素価が120以下であるニトリル基含有共重合体ゴム(A)と、
シリカ(B1)と、
クレー(B2)と、
炭酸カルシウム(B3)と、
ポリアミン系架橋剤(C)と、を含有する架橋性ニトリルゴム組成物であって、
前記ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記シリカ(B1)、前記クレー(B2)、および前記炭酸カルシウム(B3)の合計の含有量が150~200重量部であり、
前記シリカ(B1)、前記クレー(B2)、および前記炭酸カルシウム(B3)の合計に占める、前記シリカ(B1)の含有割合が、0重量%超、50重量%以下であり、
前記クレー(B2)と、前記炭酸カルシウム(B3)との含有割合が、「クレー(B2):炭酸カルシウム(B3)」の重量比率で、30:70~90:10である架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項2】
前記クレー(B2)が、下記一般式(1)で表される化合物を主成分とする請求項1に記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
(M O)(MIIO)(MIII(MIV ・xSiO・mHO (1)
(上記一般式(1)中、Mはアルカリ金属、MIIはアルカリ土類金属、MIIIは周期表第4族の元素、MIVは周期表第13族の元素、a+b+c+d=1であり、xは8以下の正の実数であり、mは0または12以下の正の実数である。)
【請求項3】
前記クレー(B2)が、表面処理剤で表面処理された表面処理クレーである請求項1または2に記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項4】
可塑剤(D)をさらに含有し、
前記ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記可塑剤(D)の含有量が、21~50重量部である請求項1~3のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項5】
前記シリカ(B1)の含有量が、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、10~60重量部である請求項1~4のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項6】
前記クレー(B2)の含有量が、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、30~130重量部である請求項1~5のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項7】
前記炭酸カルシウム(B3)の含有量が、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、10~70重量部である請求項1~6のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項8】
前記シリカ(B1)が、カップリング剤で表面処理されたカップリング剤処理シリカである請求項1~7のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた加工性を有し、かつ、常態物性が良好で、耐圧縮永久歪み性、耐油中膨潤性(油中における体積変化が小さいこと)、および耐油中硬化性(油中における硬度変化が小さいこと)に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ニトリルゴム組成物、ならびに、該架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴムに代表される飽和化ニトリル基含有共重合体ゴムは、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴムなどの、主鎖構造に炭素-炭素間不飽和結合の多い、一般的なニトリル基含有共重合体ゴムに比べて、耐熱性、耐油性、耐オゾン性などに優れているため、自動車用のシール、ホース、チューブなどのゴム部品として好適に用いられている。これに対し、近年においては、自動車用のシール、ホース、チューブなどのゴム部品に求められる耐油性能として、耐油中膨潤性に加えて、耐油中硬化性にも優れていることも求められている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、α、β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位およびα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下であるニトリルゴム(a)、周期表第2族または第13族の元素の珪酸塩(b)、および、ポリアミン系架橋剤(c)を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物が開示されている。特許文献1に開示された架橋性ニトリルゴム組成物によれば、耐圧縮永久歪み性および耐油中膨潤性に優れたゴム架橋物を得ることができるものの、耐油中硬化性が十分でなく、そのため、耐油中硬化性の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-179671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、優れた加工性を有し、かつ、常態物性が良好で、耐圧縮永久歪み性、耐油中膨潤性(油中における体積変化が小さいこと)、および耐油中硬化性(油中における硬度変化が小さいこと)に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ニトリルゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を8~18重量%の割合で含有する、特定のニトリル基含有共重合体ゴムと、ポリアミン系架橋剤とを含有する架橋性ニトリルゴム組成物に、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)を特定の割合で配合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位、およびカルボキシル基含有単量体単位を含有し、前記α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が8~18重量%である、ヨウ素価が120以下であるニトリル基含有共重合体ゴム(A)と、シリカ(B1)と、クレー(B2)と、炭酸カルシウム(B3)と、ポリアミン系架橋剤(C)と、を含有する架橋性ニトリルゴム組成物であって、
前記ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記シリカ(B1)、前記クレー(B2)、および前記炭酸カルシウム(B3)の合計の含有量が150~200重量部であり、前記シリカ(B1)、前記クレー(B2)、および前記炭酸カルシウム(B3)の合計に占める、前記シリカ(B1)の含有割合が、0重量%超、50重量%以下であり、前記クレー(B2)と、前記炭酸カルシウム(B3)との含有割合が、「クレー(B2):炭酸カルシウム(B3)」の重量比率で、30:70~90:10である架橋性ニトリルゴム組成物が提供される。
【0008】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、前記クレー(B2)が、下記一般式(1)で表される化合物を主成分とするものであることが好ましい。
(M O)(MIIO)(MIII(MIV ・xSiO・mHO (1)
(上記一般式(1)中、Mはアルカリ金属、MIIはアルカリ土類金属、MIIIは周期表第4族の元素、MIVは周期表第13族の元素、a+b+c+d=1であり、xは8以下の正の実数であり、mは0または12以下の正の実数である。)
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、前記クレー(B2)が、表面処理剤で表面処理された表面処理クレーであることが好ましい。
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、可塑剤(D)をさらに含有し、前記ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記可塑剤(D)の含有量が、21~50重量部であることが好ましい。
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、前記シリカ(B1)の含有量が、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、10~60重量部であることが好ましい。
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、前記クレー(B2)の含有量が、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、30~130重量部であることが好ましい。
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、前記炭酸カルシウム(B3)の含有量が、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、10~70重量部であることが好ましい。
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、前記シリカ(B1)が、カップリング剤で表面処理されたカップリング剤処理シリカであることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、上記本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた加工性を有し、かつ、常態物性が良好で、耐圧縮永久歪み性、耐油中膨潤性(油中における体積変化が小さいこと)、および耐油中硬化性(油中における硬度変化が小さいこと)に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ニトリルゴム組成物、ならびに、このような架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られ、常態物性が良好であり、耐圧縮永久歪み性、耐油中膨潤性、および耐油中硬化性に優れたゴム架橋物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位、およびカルボキシル基含有単量体単位を含有し、前記α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が8~18重量%である、ヨウ素価が120以下であるニトリル基含有共重合体ゴム(A)と、
シリカ(B1)と、
クレー(B2)と、
炭酸カルシウム(B3)と、
ポリアミン系架橋剤(C)と、を含有する架橋性ニトリルゴム組成物であって、
前記ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記シリカ(B1)、前記クレー(B2)、および前記炭酸カルシウム(B3)の合計の含有量が150~200重量部であり、
前記シリカ(B1)、前記クレー(B2)、および前記炭酸カルシウム(B3)の合計に占める、前記シリカ(B1)の含有割合が、0重量%超、50重量%以下であり、
前記クレー(B2)と、前記炭酸カルシウム(B3)との含有割合が、「クレー(B2):炭酸カルシウム(B3)」の重量比率で、30:70~90:10の範囲とされたものである。
【0012】
<ニトリル基含有共重合体ゴム(A)>
本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位、およびカルボキシル基含有単量体単位を含有し、前記α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が8~18重量%であり、ヨウ素価が120以下の範囲にあるものである。
本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体、カルボキシル基含有単量体、および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られる。
【0013】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば限定されず、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体として、これらの複数種を併用してもよい。
【0014】
本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)中における、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、8~18重量%であり、好ましくは10~18重量%、より好ましくは12~17重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物が耐油性に劣るものとなるおそれがあり、逆に多すぎると耐油中硬化性が低下する可能性がある。
【0015】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0016】
本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)中における、共役ジエン単量体単位(水素化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは20~60重量%、より好ましくは25~55重量%、さらに好ましくは30~50重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物を、耐熱性や耐化学的安定性を良好に保ちながら、ゴム弾性に優れたものとすることができる。
【0017】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体としては、特に限定されないが、たとえば、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルコキシアルキルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アミノアルキルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシアルキルエステル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸フルオロアルキルエステル単量体などが挙げられる。
これらのなかでも、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単量体、またはα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルコキシアルキルエステル単量体が好ましく、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単量体がより好ましい。
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位を含有させることにより、得られるゴム架橋物の耐寒性を向上させることができ、これにより、低温でのシール性の向上が可能となる。
【0018】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のアルキルエステル単量体としては、アルキル基として、炭素数が3~10であるアルキル基を有するものが好ましく、炭素数が3~8であるアルキル基を有するものがより好ましく、炭素数が4~6であるアルキル基を有するものがさらに好ましい。
【0019】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-ドデシルなどのアクリル酸アルキルエステル単量体;アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル単量体;アクリル酸メチルシクロペンチル、アクリル酸エチルシクロペンチル、アクリル酸メチルシクロヘキシルなどのアクリル酸アルキルシクロアルキルエステル単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-オクチルなどのメタクリル酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロペンチルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル単量体;メタクリル酸メチルシクロペンチル、メタクリル酸エチルシクロペンチル、メタクリル酸メチルシクロヘキシルなどのメタクリル酸アルキルシクロアルキルエステル単量体;クロトン酸プロピル、クロトン酸n-ブチル、クロトン酸2-エチルヘキシルなどのクロトン酸アルキルエステル単量体;クロトン酸シクロペンチル、クロトン酸シクロヘキシル、クロトン酸シクロオクチルなどのクロトン酸シクロアルキルエステル単量体;クロトン酸メチルシクロペンチル、クロトン酸メチルシクロヘキシルなどのクロトン酸アルキルシクロアルキルエステル単量体;などが挙げられる。
【0020】
また、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、アルコキシアルキル基として、炭素数が2~8であるアルコキシアルキル基を有するものが好ましく、炭素数が2~6であるアルコキシアルキル基を有するものがより好ましく、炭素数が2~4であるアルコキシアルキル基を有するものがさらに好ましい。
【0021】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アルコキシアルキルエステル単量体の具体例としては、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸メトキシブチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸エトキシプロピル、アクリル酸エトキシドデシル、アクリル酸n-プロポキシエチル、アクリル酸i-プロポキシエチル、アクリル酸n-ブトキシエチル、アクリル酸i-ブトキシエチル、アクリル酸t-ブトキシエチル、アクリル酸メトキシプロピル、アクリル酸メトキシブチルなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体;メタクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸エトキシペンチル、メタクリル酸n-プロポキシエチル、メタクリル酸i-プロポキシエチル、メタクリル酸n-ブトキシエチル、メタクリル酸i-ブトキシエチル、メタクリル酸t-ブトキシエチル、メタクリル酸メトキシプロピル、メタクリル酸メトキシブチルなどのメタクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体;などが挙げられる。
【0022】
これらα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体のなかでも、本発明の効果をより一層顕著なものとすることができるという点より、アクリル酸アルキルエステル単量体、アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体が好ましく、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸メトキシエチルがより好ましく、アクリル酸n-ブチルが特に好ましい。また、これらα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)中における、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは10~60重量%であり、より好ましくは15~55重量%、さらに好ましくは20~50重量%である。α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の耐寒性をより適切に高めることができる。
【0024】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体、およびα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化等されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。カルボキシル基含有単量体を用いることにより、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)に、カルボキシル基を導入することができる。
【0025】
カルボキシル基含有単量体としては、たとえば、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0026】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0027】
α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β-不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0028】
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn-ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn-ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn-ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn-ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0029】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル単量体がより好ましく、マレイン酸モノアルキルエステルがさらに好ましく、マレイン酸モノn-ブチルが特に好ましい。なお、上記アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、2~8が好ましい。
【0030】
カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.1~20重量%、より好ましくは0.5~15重量%、さらに好ましくは1~10重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の機械特性および耐圧縮永久歪み性をより良好なものとすることができる。
【0031】
また、本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位、およびカルボキシル基含有単量体単位に加えて、これらを形成する単量体と共重合可能なその他の単量体の単位を含有するものであってもよい。このようなその他の単量体としては、前記以外のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体、エチレン、α-オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0032】
前記以外のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体としては、アクリル酸α-シアノエチル、メタクリル酸α-シアノエチル、メタクリル酸シアノブチルなどの炭素数2~12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1~12のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;などが挙げられる。
【0033】
α-オレフィン単量体としては、炭素数が3~12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどが挙げられる。
【0034】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0035】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0036】
共重合性老化防止剤としては、N-(4-アニリノフェニル)アクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)シンナムアミド、N-(4-アニリノフェニル)クロトンアミド、 N-フェニル-4-(3-ビニルベンジルオキシ)アニリン、N-フェニル-4-(4-ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0037】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0038】
本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)のヨウ素価は、120以下であり、好ましくは80以下、より好ましくは50以下、特に好ましくは30以下である。ニトリル基含有共重合体ゴム(A)のヨウ素価が高すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0039】
本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)のポリマー・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10~200、より好ましくは15~150、さらに好ましくは15~100、特に好ましくは30~70である。ニトリル基含有共重合体ゴム(A)のポリマー・ムーニー粘度を上記範囲とすることにより、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性を良好に保ちながら、得られるゴム架橋物の機械特性をより高めることができる。
【0040】
本発明で用いるニトリル基含有共重合体ゴム(A)の製造方法は、特に限定されないが、上述した単量体を共重合し、必要に応じて、得られる共重合体中の炭素-炭素二重結合を水素化することによって製造することができる。重合方法は、特に限定されず公知の乳化重合法や溶液重合法によればよいが、工業的生産性の観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤に加えて、通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0041】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸およびリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β-不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β-不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。
【0042】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムなどのスルフィン酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アルデヒド亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムの亜硫酸塩;などが挙げられる。重合開始剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01~2重量部である。
【0043】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは80~500重量部、より好ましくは80~300重量部である。
【0044】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0045】
また、本発明においては、得られた共重合体について、必要に応じて、共重合体の水素化(水素添加反応)を行ってもよい。水素添加は公知の方法によればよく、乳化重合で得られた共重合体のラテックスを凝固した後、油層で水素添加する油層水素添加法や、得られた共重合体のラテックスをそのまま水素添加する水層水素添加法などが挙げられる。
【0046】
水素添加を油層水素添加法で行う場合、好適には上記乳化重合により調製した共重合体のラテックスを塩析やアルコールによる凝固、濾別および乾燥を経て、有機溶媒に溶解する。次いで水素添加反応(油層水素添加法)を行い、得られた水素化物を大量の水中に注いで凝固、濾別および乾燥を行うことによりニトリル基含有共重合体ゴム(A)を得ることができる。
【0047】
ラテックスの塩析による凝固には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムなど公知の凝固剤を使用することができる。また、塩析による凝固に代えて、メタノールなどのアルコールを用いて凝固を行ってもよい。油層水素添加法の溶媒としては、乳化重合により得られた共重合体を溶解する液状有機化合物であれば特に限定されないが、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、シクロヘキサノンおよびアセトンなどが好ましく使用される。
【0048】
油層水素添加法の触媒としては、公知の選択的水素化触媒であれば限定なく使用でき、パラジウム系触媒およびロジウム系触媒が好ましく、パラジウム系触媒(酢酸パラジウム、塩化パラジウムおよび水酸化パラジウムなど)がより好ましい。これらは2種以上併用してもよいが、その場合はパラジウム系触媒を主たる活性成分とすることが好ましい。これらの触媒は、通常、担体に担持させて使用される。担体としては、シリカ、シリカ-アルミナ、アルミナ、珪藻土、活性炭などが例示される。触媒使用量は、共重合体に対して好ましくは10~5000重量ppm、より好ましくは100~3000重量ppmである。
【0049】
あるいは、水素添加を水層水素添加法で行う場合、好適には上記乳化重合により調製した共重合体のラテックスに、必要に応じて水を加えて希釈し、水素添加反応を行う。水層水素添加法は、水素化触媒存在下の反応系に水素を供給して水素化する水層直接水素添加法と、酸化剤、還元剤および活性剤の存在下で還元して水素化する水層間接水素添加法とが挙げられるが、これらの中でも、水層直接水素添加法が好ましい。
【0050】
水層直接水素添加法において、水層における共重合体の濃度(ラテックス状態での濃度)は、凝集を防止するため40重量%以下であることが好ましい。水素化触媒は、水で分解しにくい化合物であれば特に限定されない。その具体例として、パラジウム触媒では、ギ酸、プロピオン酸、ラウリン酸、コハク酸、オレイン酸、フタル酸などのカルボン酸のパラジウム塩;塩化パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウムなどのパラジウム塩素化物;ヨウ化パラジウムなどのヨウ素化物;硫酸パラジウム・二水和物などが挙げられる。これらの中でもカルボン酸のパラジウム塩、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウムおよびヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウムが特に好ましい。水素化触媒の使用量は、適宜定めればよいが、重合により得られた共重合体に対し、好ましくは5~6000重量ppm、より好ましくは10~4000重量ppmである。
【0051】
水層直接水素添加法においては、水素添加反応終了後、ラテックス中の水素化触媒を除去する。その方法として、たとえば、活性炭、イオン交換樹脂などの吸着剤を添加して攪拌下で水素化触媒を吸着させ、次いでラテックスを濾過または遠心分離する方法を採ることができる。水素化触媒を除去せずにラテックス中に残存させることも可能である。
【0052】
そして、水層直接水素添加法においては、このようにして得られた水素添加反応後のラテックスについて、塩析による凝固、濾別および乾燥などを行なうことにより、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)を得ることができる。この場合における、凝固に続く濾別および乾燥の工程はそれぞれ公知の方法によって行なうことができる。
【0053】
<シリカ(B1)、クレー(B2)、炭酸カルシウム(B3)>
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、充填剤として、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)を含有する。
【0054】
本発明で用いるシリカ(B1)としては、特に限定されないが、石英粉末、珪石粉末等の天然シリカ;無水珪酸(シリカゲル、アエロジル等)、含水珪酸等の合成シリカ;等が挙げられ、これらの中でも、合成シリカが好ましい。また、これらシリカはシランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、チタネート系カップリング剤などのカップリング剤で表面処理されたものであってもよい。カップリング剤で表面処理することにより、架橋性ニトリルゴム組成物中における、シリカ(B1)の分散性をより高めることができ、これにより、シリカ(B1)の配合効果をより高めることができる。
【0055】
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルファンなどの硫黄を含有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシ基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピル基含有シランカプリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカプリング剤;p-スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基含有シランカップリング剤;3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基含有シランカップリング剤;ジアリルジメチルシラン等のアリル基含有シランカップリング剤;テトラエトキシシラン等のアルコキシ基含有シランカップリング剤;ジフェニルジメトキシシラン等のフェニル基含有シランカップリング剤;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のフロロ基含有シランカップリング剤;イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン等のアルキル基含有シランカップリング剤;などが挙げられる。
アルミニウム系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキシモノエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、 アルミニウムトリスアセチルアセトネートなどが挙げられる。
チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデジル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートなどが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0056】
本発明で用いるシリカ(B1)のBET法による比表面積は、特に限定されないが、好ましくは10~600m/g、より好ましくは50~350m/g、さらに好ましくは100~200m/gである。また、本発明で用いるシリカ(B1)の体積平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは0.1~50μm、より好ましくは0.3~40μm、さらに好ましくは0.5~30μmである。
【0057】
本発明で用いるクレー(B2)としては、珪酸塩を主成分とする化合物であればよく、特に限定されないが、下記一般式(1)で表される化合物を主成分とするものであることが好ましい。また、クレー(B2)としては、その表面を表面処理剤で表面処理してなるものであることが好ましい。
(M O)(MIIO)(MIII(MIV ・xSiO・mHO (1)
(上記一般式(1)中、Mはアルカリ金属、MIIはアルカリ土類金属、MIIIは周期表第4族の元素、MIVは周期表第13族の元素、a+b+c+d=1であり、xは8以下の正の実数であり、mは0または12以下の正の実数である。)
なお、クレー(B2)としては、上記一般式(1)で表される化合物を主成分とするもの(たとえば、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上の割合で含有するもの)であることが好ましいが、たとえば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第4族の元素、および周期表第13族の元素以外の金属元素を不純物量程度(たとえば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第4族の元素、および周期表第13族の元素の合計に対し、100重量ppm程度)含有するものを含むものであってもよい。
【0058】
上記一般式(1)中、Mを構成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。上記一般式(1)中、MIIを構成するアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられ、これらのなかでも、マグネシウムが好ましい。上記一般式(1)中、MIIIを構成する周期表第4族の元素としては、チタン、ジルコニウムなどが挙げられ、これらのなかでも、チタンが好ましい。また、上記一般式(1)中、MIVを構成する周期表第13族の元素としては、ホウ素、アルミニウムなどが挙げられ、これらのなかでも、アルミニウムが好ましい。
【0059】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、珪酸マグネシウム、珪酸マグネシウム水和物、珪酸カルシウム、珪酸カルシウム水和物、珪酸ホウ素、珪酸ホウ素水和物、珪酸アルミニウム、珪酸アルミニウム水和物などが挙げられ、これらのなかでも、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウムがより好ましく、珪酸アルミニウムが特に好ましい。
【0060】
また、クレー(B2)は、その表面を、表面処理剤で表面処理されたものであることが好ましく、表面処理剤で表面処理されたものとすることにより、架橋性ニトリルゴム組成物中における、クレー(B2)の分散性をより高めることができ、これにより、クレー(B2)の配合効果をより高めることができる。この際に、表面処理に用いる表面処理剤としては、特に限定されないが、シランカップリング剤が好適に用いられ、シランカップリング剤の具体例としては、上述したシリカ(B1)の表面処理に用いられるものとして例示したものを用いることができ、1種または複数種併せて用いることができる。
【0061】
クレー(B2)の表面処理に用いる表面処理剤としては、上述したシリカ(B1)の表面処理に用いられるものとして例示したシランカップリング剤の中でも、ビニル基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤またはエポキシ基含有シランカップリング剤が好ましい。
【0062】
クレー(B2)の体積平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.01~100μmであり、より好ましくは0.05~50μmである。
【0063】
本発明で用いる炭酸カルシウム(B3)としては、特に限定されず、天然の石灰石を機械的に粉砕した重質炭酸カルシウム、化学反応によって製造された沈降法炭酸カルシウムのいずれでもよい。また、炭酸カルシウム(B3)としては、その表面を、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、樹脂酸、樹脂酸塩および樹脂酸エステルから選択される少なくとも1種により、表面処理されたものを用いることが好ましく、脂肪酸により表面処理されたものを用いることがより好ましい。炭酸カルシウム(B3)として、その表面が表面処理されたものとすることにより、架橋性ニトリルゴム組成物中における、炭酸カルシウム(B3)の分散性をより高めることができ、これにより、炭酸カルシウム(B3)の配合効果をより高めることができる。
【0064】
本発明で用いる炭酸カルシウム(B3)のBET法による比表面積は、特に限定されないが、好ましくは1~600m/g、より好ましくは5~350m/g、さらに好ましくは10~200m/gである。また、本発明で用いる炭酸カルシウム(B3)の個数平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは0.1~500nm、より好ましくは0.3~400nm、さらに好ましくは0.5~300nmである。
【0065】
<シリカ(B1)、クレー(B2)、炭酸カルシウム(B3)の含有量>
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中においては、
シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)の合計の含有量が、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、150~200重量部であり、
シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)の合計に占める、シリカ(B1)の含有割合が、0重量%超、50重量%以下であり、
また、クレー(B2)と、炭酸カルシウム(B3)との含有割合が、「クレー(B2):炭酸カルシウム(B3)」の重量比率で、30:70~90:10の範囲である。
【0066】
本発明によれば、架橋性ニトリルゴム組成物を、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)を含有するものとし、かつ、これらの含有量を上記範囲に制御することにより、架橋性ニトリルゴム組成物を、優れた加工性を有するものとしながら、このような架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物を、常態物性が良好であり、耐圧縮永久歪み性、耐油中膨潤性(油中における体積変化が小さいこと)、および耐油中硬化性(油中における硬度変化が小さいこと)に優れたものとすることができるものである。
【0067】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)の合計の含有量は、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、150~200重量部であり、好ましくは155~195重量部、より好ましくは160~190重量部、さらに好ましくは165~185重量部である。シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)の合計の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油中膨潤性が低下してしまい、一方、多すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下してしまう。
【0068】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)の合計に占める、シリカ(B1)の含有割合は、0重量%超、50重量%以下であり、好ましくは5~45重量%、より好ましくは8~40重量%、さらに好ましくは10~35重量%、特に好ましくは12~31重量%である。シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)の合計に占める、シリカ(B1)の含有割合、すなわち、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)の合計量に対する、シリカ(B1)の含有量の重量比率(重量%)が、少なすぎると、得られるゴム架橋物は、機械的強度に劣るものとなってしまい、一方、多すぎると、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下したり、得られるゴム架橋物の硬度が高くなりすぎてしまう。
【0069】
さらに、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、クレー(B2)と、炭酸カルシウム(B3)との含有割合は、「クレー(B2):炭酸カルシウム(B3)」の重量比率で、30:70~90:10であり、好ましくは35:65~90:10、より好ましくは40:60~85:15、さらに好ましくは45:55~80:20である。炭酸カルシウム(B3)に対する、クレー(B2)の含有割合が低すぎると、得られるゴム架橋物は、耐圧縮永久歪み性に劣るものとなってしまい、一方、炭酸カルシウム(B3)に対する、クレー(B2)の含有割合が大きすぎると、得られるゴム架橋物は、機械的強度に劣るとともに、硬度が高くなりすぎてしまう。
【0070】
なお、本発明において、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)のそれぞれの含有量は、特に限定されず、上記範囲内となるように、適宜、設定すればよいが、シリカ(B1)の含有量は、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、好ましくは10~60重量部、より好ましくは15~55重量部、さらに好ましくは20~50重量部である。また、クレー(B2)の含有量は、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、好ましくは30~130重量部、より好ましくは40~120重量部、さらに好ましくは50~110重量部であり、炭酸カルシウム(B3)の含有量は、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、好ましくは10~70重量部、より好ましくは15~65重量部、さらに好ましくは20~60重量部である。
【0071】
<ポリアミン系架橋剤(C)>
ポリアミン系架橋剤(C)としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物、または、架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基またはヒドラジド構造(-CONHNHで表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物および架橋時にその化合物の形態になるものが好ましい。
【0072】
ポリアミン系架橋剤(C)の具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物などの脂肪族多価アミン類;4,4-メチレンジアニリン、m-フェニレンジアミン、4,4-ジアミノジフェニルエーテル、3,4-ジアミノジフェニルエーテル、4,4-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4-ジアミノベンズアニリド、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,3,5-ベンゼントリアミンなどの芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、ナフタレン酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタミン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ブラッシル酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、アセトンジカルボン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、トリメリット酸ジヒドラジド、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸ジヒドラジド、アコニット酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジドなどの多価ヒドラジド類;が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより一層顕著なものとすることができるという点より、脂肪族多価アミン類および芳香族多価アミン類が好ましく、ヘキサメチレンジアミンカルバメートおよび2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンがより好ましく、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0073】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、ポリアミン系架橋剤(C)の含有量は、特に限定されないが、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、好ましくは0.1~20重量部であり、より好ましくは0.2~15重量部、さらに好ましくは0.5~10重量部である。ポリアミン系架橋剤(C)の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の機械的特性をより良好なものとすることができる。
【0074】
<可塑剤(D)>
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)、シリカ(B1)、クレー(B2)、炭酸カルシウム(B3)、およびポリアミン系架橋剤(C)に加えて、可塑剤(D)を含有していることが好ましい。可塑剤(D)をさらに配合することにより、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性、および、耐油中硬化性をより高めることできる。
【0075】
可塑剤(D)としては、特に限定されないが、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、アルキルスルホン酸エステル化合物類可塑剤、エポキシ化植物油系可塑剤などを用いることができる。可塑剤(D)の具体例としては、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸混合直鎖アルキルエステル、ジペンタエリスリトールエステル、ピロメリット酸2-エチルヘキシルエステル、ポリエーテルエステル(分子量300~5000程度)、アジピン酸ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸系のポリエステル(分子量300~5000程度)、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジブチル、リン酸トリクレシル、セバシン酸ジブチル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、エポキシ化大豆油、ジヘプタノエート、ジ‐2-エチルヘキサノエート、ジデカノエートなどが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。これらのなかでも、エーテルエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤が好ましく、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシルがより好ましい。
【0076】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、可塑剤(D)の含有量は、特に限定されないが、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対し、好ましくは21重量部以上、より好ましくは25重量部以上、さらに好ましくは30重量部以上であり、上限は、好ましくは50重量部以下、より好ましくは45重量部以下、さらに好ましくは40重量部以下である。可塑剤(D)の含有量を上記範囲とすることにより、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性、および、耐油中硬化性をより適切に高めることができる。
【0077】
<塩基性架橋促進剤(E)>
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、塩基性架橋促進剤(E)をさらに含有していることが好ましい。
【0078】
塩基性架橋促進剤(E)の具体例としては、下記一般式(2)で表される化合物や、環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤、グアニジン系塩基性架橋促進剤、アルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤などが挙げられる。
【化1】
(上記一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、または、置換基を有していてもよい炭素数5~12のシクロアルキル基である。)
【0079】
およびRは、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、または、置換基を有していてもよい炭素数5~12のシクロアルキル基であるが、置換基を有していてもよい炭素数5~12のシクロアルキル基であることが好ましく、置換基を有していてもよい炭素数5~8のシクロアルキル基であることが特に好ましい。
また、RおよびRは、置換基を有していないことが好ましい。
【0080】
なお、RおよびRが置換基を有する場合の置換基の具体例としては、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0081】
また、上記一般式(2)で表される化合物のなかでも、加工性およびスコーチ安定性をより高めることができるという点より、下記一般式(3)で表される化合物がより好ましい。
【化2】
(上記一般式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数5~8のシクロアルキル基である。)
【0082】
およびRは、置換基を有していてもよい炭素数5~8のシクロアルキル基であるが、炭素数5または6の置換基を有していてもよいシクロアルキル基であることが好ましく、炭素数6の置換基を有していてもよいシクロアルキル基であることがより好ましい。
また、RおよびRは、置換基を有していないことが好ましい。
【0083】
なお、RおよびRが置換基を有する場合の置換基の具体例としては、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0084】
上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、ジシクロペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジシクロヘプチルアミンなどのジシクロアルキルアミン;N-メチルシクロペンチルアミン、N-ブチルシクロペンチルアミン、N-ヘプチルシクロペンチルアミン、N-オクチルシクロペンチルアミン、N-エチルシクロヘキシルアミン、N-ブチルシクロヘキシルアミン、N-ヘプチルシクロヘキシルアミン、N-オクチルシクロオクチルアミンなどのアルキル基とシクロアルキル基が窒素原子に結合した二級アミン;N-ヒドロキシメチルシクロペンチルアミン、N-ヒドロキシブチルシクロヘキシルアミンなどのヒドロキシ基を有するアルキル基とシクロアルキル基が窒素原子に結合した二級アミン;N-メトキシエチルシクロペンチルアミン、N-エトキシブチルシクロヘキシルアミンなどのアルコキシ基を有するアルキル基とシクロアルキル基が窒素原子に結合した二級アミン;N-メトキシカルボニルブチルシクロペンチルアミン、N-メトキシカルボニルヘプチルシクロヘキシルアミンなどのアルコキシカルボニル基を有するアルキル基とシクロアルキル基が窒素原子に結合した二級アミン;N-アミノプロピルシクロペンチルアミン、N-アミノヘプチルシクロヘキシルアミンなどのアミノ基を有するアルキル基とシクロアルキル基が窒素原子に結合した二級アミン;ジ(2-クロロシクロペンチル)アミン、ジ(3-クロロシクロペンチル)アミンなどのハロゲン原子を有するシクロアルキル基が窒素原子に結合した二級アミン;などが挙げられるが、加工性およびスコーチ安定性をより高めることができるという点より、ジシクロアルキルアミンが好ましく、ジシクロペンチルアミンおよびジシクロヘキシルアミンがより好ましく、ジシクロヘキシルアミンが特に好ましい。
【0085】
また、環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤としては、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(以下「DBU」と略す場合がある)および1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5(以下「DBN」と略す場合がある)、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール、1-メトキシエチルイミダゾール、1-フェニル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-メチル-2-フェニルイミダゾール、1-メチル-2-ベンジルイミダゾール、1,4-ジメチルイミダゾール、1,5-ジメチルイミダゾール、1,2,4-トリメチルイミダゾール、1,4-ジメチル-2-エチルイミダゾール、1-メチル-2-メトキシイミダゾール、1-メチル-2-エトキシイミダゾール、1-メチル-4-メトキシイミダゾール、1-メチル-2-メトキシイミダゾール、1-エトキシメチル-2-メチルイミダゾール、1-メチル-4-ニトロイミダゾール、1,2-ジメチル-5-ニトロイミダゾール、1,2-ジメチル-5-アミノイミダゾール、1-メチル-4-(2-アミノエチル)イミダゾール、1-メチルベンゾイミダゾール、1-メチル-2-ベンジルベンゾイミダゾール、1-メチル-5-ニトロベンゾイミダゾール、1-メチルイミダゾリン、1,2-ジメチルイミダゾリン、1,2,4-トリメチルイミダゾリン、1,4-ジメチル-2-エチルイミダゾリン、1-メチル-フェニルイミダゾリン、1-メチル-2-ベンジルイミダゾリン、1-メチル-2-エトキシイミダゾリン、1-メチル-2-ヘプチルイミダゾリン、1-メチル-2-ウンデシルイミダゾリン、1-メチル-2-ヘプタデシルイミダゾリン、1-メチル-2-エトキシメチルイミダゾリン、1-エトキシメチル-2-メチルイミダゾリンなどが挙げられる。これら環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤のなかでも、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7および1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5が好ましく、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7がより好ましい。
グアニジン系塩基性架橋促進剤としては、テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-オルト-トリルグアニジン、オルトトリルビグアニドなどが挙げられる。
アルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤としては、n-ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニアなどが挙げられる。
【0086】
これら塩基性架橋促進剤のなかでも、上記一般式(2)で表される化合物、グアニジン系塩基性架橋促進剤および環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤が好ましく、上記一般式(2)で表される化合物、および環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤がより好ましい。
【0087】
なお、上記一般式(2)で表される化合物は、アルキレングリコールや炭素数5~20のアルキルアルコールなどのアルコール類が混合されたものであってもよく、さらに無機酸および/または有機酸を含んでいてもよい。また、一般式(2)で表される化合物としては、一般式(2)で表される化合物と前記無機酸および/または有機酸とで塩を形成し、さらにアルキレングリコールと複合体を形成していてもよい。また、上記環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤は、有機カルボン酸やアルキルリン酸などと塩を形成していてもよい。
【0088】
塩基性架橋促進剤(E)を配合する場合における、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中の配合量は、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1~20重量部であり、より好ましくは0.2~15重量部、さらに好ましくは0.5~10重量部である。
【0089】
<その他の配合剤>
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、上記以外に、ゴム分野において通常使用される配合剤、たとえば、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)以外の充填剤、共架橋剤、架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、ジエチレングリコールなどの活性剤、可塑剤、アミン変性シリコンなどの加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料、発泡剤などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を配合することができる。
【0090】
シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)以外の充填剤としては、特に限定されないが、たとえば、カーボンブラックや、酸化マグネシウム、短繊維、(メタ)アクリル酸亜鉛や(メタ)アクリル酸マグネシウムなどのα,β-エチレン系不飽和カルボン酸金属塩などが挙げられる。
【0091】
さらに、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で上記ニトリル基含有共重合体ゴム(A)以外のゴムを配合してもよい。ニトリル基含有共重合体ゴム(A)以外のゴムとしては、アクリルゴム、エチレン-アクリル酸共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムなどを挙げることができる。ニトリル基含有共重合体ゴム(A)以外のゴムを配合する場合における配合量は、ニトリル基含有共重合体ゴム(A)100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下が特に好ましい。
【0092】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合して調製される。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を調製する方法に限定はないが、通常、架橋剤や熱に不安定な成分(たとえば、架橋助剤など)を除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、ロールなどに移して架橋剤や熱に不安定な成分などを加えて二次混練することにより調製できる。
【0093】
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を用い、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10~200℃、好ましくは25~120℃である。架橋温度は、通常、100~200℃、好ましくは130~190℃であり、架橋時間は、通常、1分~24時間、好ましくは2分~1時間である。
【0094】
また、架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0095】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られるものであり、常態物性が良好であり、耐圧縮永久歪み性、耐油中膨潤性(油中における体積変化が小さいこと)、および耐油中硬化性(油中における硬度変化が小さいこと)に優れたものである。特に、本発明によれば、耐油中硬化性については、耐油中硬化が比較的顕著に起こり易い、多環縮合芳香族化合物が含まれた油中においても、油中硬化の発生が効果的に抑えられたものとすることができるものである。
【0096】
このため、本発明のゴム架橋物は、このような特性を活かし、O-リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、ショックアブソーバシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置およびボールねじ等)用のシール、バルブおよびバルブシート、BOP(Blow Out Preventer)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材、クラッチフェーシング材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、摩擦材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。とりわけ、本発明のゴム架橋物は、耐油中膨潤性および耐油中硬化性(特に、多環縮合芳香族化合物が含まれた油中における耐硬化性)に優れたものであることから、油に接触して使用される用途、特に多環芳香族化合物を含有する燃料油と接触して使用される用途に特に好適に用いることができる。
【実施例
【0097】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。以下において、特記しない限り、「部」は重量基準である。物性および特性の試験または評価方法は以下のとおりである。
【0098】
<ゴム組成>
ニトリル基含有共重合体ゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、マレイン酸モノn-ブチル単位の含有割合は、2mm角のニトリル基含有共重合体ゴム0.2gに、2-ブタノン100mLを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mLおよび水10mLを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、ニトリル基含有共重合体ゴム100gに対するカルボキシル基のモル数を求め、求めたモル数をマレイン酸モノn-ブチル単位の量に換算することにより算出した。
1,3-ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位の含有割合は、ニトリル基含有共重合体ゴムを用いて、水素添加反応前と水素添加反応後のヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6451-2に従い、ケルダール法により、ニトリル基含有共重合体ゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
アクリル酸n-ブチル単位の含有割合は、上記で求めたマレイン酸モノn-ブチル単位、1,3-ブタジエン単位、飽和化ブタジエン単位、および、アクリロニトリル単位の含有割合から、計算により求めた。
【0099】
<ヨウ素価>
ニトリル基含有共重合体ゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0100】
<ムーニー粘度(ポリマー・ムーニー、コンパウンド・ムーニー)>
ニトリル基含有共重合体ゴムのムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)および架橋性ニトリルゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンド・ムーニー)は、JIS K6300に従って測定した(単位は〔ML1+4、100℃〕)。架橋性ニトリルゴム組成物のムーニー粘度が低いほど、架橋性ニトリルゴム組成物としての加工性に優れると判断できる。
【0101】
<常態物性(伸び、引張強度、硬さ)>
架橋性ニトリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。次いで、得られたゴム架橋物をギヤー式オーブンに移して170℃で4時間二次架橋し、得られたシート状のゴム架橋物をJIS3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強度、および破断時の伸びを、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いてゴム架橋物の硬さを、それぞれ測定した。
【0102】
<圧縮永久歪み>
架橋性ニトリルゴム組成物を、金型を用いて、加圧しながら温度170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、これをギヤー式オーブンに移して170℃で4時間二次架橋して、直径29mm、高さ12.5mmの円柱型のゴム架橋物を得た。そして、得られたゴム架橋物を用いて、JIS K6262に従い、ゴム架橋物を25%圧縮させた状態で、150℃の環境下に168時間置いた後、圧縮永久歪みを測定した。この値が小さいほど、耐圧縮永久歪み性に優れる。
【0103】
<耐油中膨潤性試験(燃料油に浸漬した際の体積変化)>
上記常態物性の評価と同様にして得たシート状架橋物を用いて、JIS K6258に従い、得られたシート状のゴム架橋物を40℃に調整した試験燃料油(Fuel Cは、イソオクタン:トルエン=50:50(体積比率)の混合物)に、72時間浸漬することにより、耐油中膨潤性試験を行った。
なお、耐油中膨潤性試験においては、燃料油浸漬前後のゴム架橋物の体積を測定し、燃料油浸漬後の体積変化率△V(単位:%)を、「△V=([燃料油浸漬後の体積-燃料油浸漬前の体積]/燃料油浸漬前の体積)×100」に従って算出し、算出した体積変化率△Vにより評価した。体積変化率△Vが小さいほど、耐油中膨潤性に優れる。
【0104】
<耐油中硬化性試験(多環縮合芳香族化合物を含有する燃料油に浸漬した際の硬度変化)>
上記耐油中膨潤性試験と同様にして、シート状のゴム架橋物を作製した。また、これとは別に、Fuel C(Fuel Cは、イソオクタン:トルエン=50:50(体積比率)の混合物)と、エタノールとの混合液(Fuel C:エタノール=80:20(体積比率))に、フェナントレン10重量%を溶解させることにより、フェナントレン含有試験燃料油を調製した。
そして、上記にて得られたシート状のゴム架橋物について、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いて、硬さの測定を行った。次いで、上記にて調製したフェナントレン含有試験燃料油に、上記にて得られたシート状のゴム架橋物を、60℃、70時間浸漬させた後、ゴム架橋物をフェナントレン含有試験燃料油から取り出して、100℃で4時間乾燥し、さらに室温条件下で24時間静置した後に、上記同様の条件にて、再度、硬さの測定を行った。そして、「硬さ変化ΔHs=燃料油浸漬後の硬さ-燃料油浸漬前の硬さ」に従って、硬さ変化ΔHsを求めた。硬さ変化ΔHsの絶対値が大きいほど、フェナントレン含有試験燃料油に浸漬することによる硬度の上昇が大きく、耐油中硬化性に劣るものと判断できる。
【0105】
<合成例1(ニトリル基含有共重合体ゴム(A-1)の製造)>
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル15部、マレイン酸モノn-ブチル6部、アクリル酸n-ブチル39部、t-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン40部を仕込んだ。金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応を行った。濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0106】
そして、上記にて得られた共重合体ゴムのラテックスを、その共重合体ゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が3,000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、共重合体ゴムのラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3.0MPa、温度50℃で7時間水素添加反応を行い、ニトリル基含有共重合体ゴム(A-1)のラテックスを得た。
【0107】
次いで、得られたラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、60℃で12時間真空乾燥することにより、ニトリル基含有共重合体ゴム(A-1)を得た。得られたニトリル基含有共重合体ゴム(A-1)の各単量体単位の組成は、アクリロニトリル単位15重量%、マレイン酸モノn-ブチル単位5重量%、アクリル酸n-ブチル単位35重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分も含む)45重量%であり、ヨウ素価は8、カルボキシル基含有量は2.8×10-2ephr、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は41であった。
【0108】
<合成例2(ニトリル基含有共重合体ゴム(A’-2)の製造)>
アクリロニトリルの配合量を21部に、マレイン酸モノn-ブチルの配合量を6部に、アクリル酸n-ブチルの配合量を34部に、1,3-ブタジエンの配合量を39部に、それぞれ変更した以外は、合成例1と同様にして、ニトリル基含有共重合体ゴム(A’-2)を得た。得られたニトリル基含有共重合体ゴム(A’-2)の各単量体単位の組成は、アクリロニトリル単位21重量%、マレイン酸モノn-ブチル単位5重量%、アクリル酸n-ブチル単位29重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分も含む)45重量%であり、ヨウ素価は8、カルボキシル基含有量は2.8×10-2ephr、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は48であった。
【0109】
<合成例3(ニトリル基含有共重合体ゴム(A’-3)の製造)>
反応器内に、イオン交換水200部、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル19部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン40部、アクリル酸n-ブチル41部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら16時間重合反応を行なった。次いで、濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止し、水温60℃のロータリーエバポレ-タを用いて残留単量体を除去して、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約29重量%)を得た。
【0110】
次いで、上記にて得られたラテックスを、そのニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固し、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリルゴムを得た。そして、得られたニトリルゴムを、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴムに対して500重量ppm加え、水素圧3MPa、温度50℃で水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことで、高飽和ニトリルゴム(A’-3)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(A’-3)は、ヨウ素価が14、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕が61であり、カルボキシル基を実質的に含有しないものであった。また、高飽和ニトリルゴム(A’-3)は、アクリロニトリル単位18.6重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分を含む)41.5重量%、アクリル酸n-ブチル39.9部であった。
【0111】
<実施例1>
合成例1で得られたニトリル基含有共重合体ゴム(A-1)100部に、シリカ(商品名「Nipsil ER」、東ソー・シリカ社製、BET比表面積:111m/g)25部、表面処理クレー(商品名「Burgess KE」、バーゲスピグメント社製、シランカップリング剤で処理された上記一般式(1)で表される珪酸アルミニウム、体積平均粒子径:1.5μm)100部、炭酸カルシウム(商品名「白艶華CC」、白石工業社製、脂肪酸で表面処理された炭酸カルシウム、BET比表面積:26m/g、電子顕微鏡観察により測定された個数平均粒子径:50nm)50部、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(商品名「アデカサイザーC-8」、ADEKA社製、可塑剤)35部、4,4’-ジ-(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1.5部、ステアリン酸(架橋促進助剤)1部、および、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(商品名「フォスファノール RL210」、東邦化学工業社製)1部を配合して、50℃で5分間混合した。次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7(DBU)(商品名「RHENOGRAN XLA-60(GE2014)、RheinChemie社製、DBU60%(ジンクジアルキルジフォスフェイト塩になっている部分も含む)、塩基性架橋促進剤)4部、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名「Diak#1」、デュポン社製、脂肪族多価アミン類に属するポリアミン架橋剤)2.1部、および加工助剤(商品名「ストラクトール HT-750」、シル+ザイラッハストラクトール社製)4部を配合して、混練することにより、架橋性ニトリルゴム組成物を得た。
【0112】
そして、得られた架橋性ニトリルゴム組成物を用いて、架橋性ニトリルゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンド・ムーニー)、常態物性(伸び、引張強度、硬さ)、圧縮永久歪み、耐油中膨潤性試験、および耐油中硬化性試験の各試験・評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
<実施例2>
シリカ(Nipsil ER)の配合量を25部から30部に、炭酸カルシウム(白艶華CC)の配合量を50部から40部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
<実施例3>
シリカ(Nipsil ER)の配合量を25部から40部に、表面処理クレー(Burgess KE)の配合量を100部から80部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
<実施例4>
シリカ(Nipsil ER)の配合量を25部から50部に、表面処理クレー(Burgess KE)の配合量を100部から75部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
<実施例5>
表面処理クレー(Burgess KE)の配合量を100部から55部に、炭酸カルシウム(白艶華CC)の配合量を50部から95部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
<実施例6>
表面処理クレー(Burgess KE)の配合量を100部から125部に、炭酸カルシウム(白艶華CC)の配合量を50部から25部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
<実施例7>
シリカ(Nipsil ER)の配合量を25部から30部に、表面処理クレー(Burgess KE)の配合量を100部から105部に、炭酸カルシウム(白艶華CC)の配合量を50部から60部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
<実施例8>
表面処理クレー(Burgess KE)の配合量を100部から90部に、炭酸カルシウム(白艶華CC)の配合量を50部から40部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
<実施例9>
表面処理クレー(Burgess KE)100部に代えて、未処理のクレー(商品名「Satintone5HB」、BASF社製、体積平均粒子径:0.8μm)100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
<比較例1>
合成例1で得られたニトリル基含有共重合体ゴム(A-1)100部に代えて、合成例2で得られたニトリル基含有共重合体ゴム(A’-2)100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
<比較例2>
合成例1で得られたニトリル基含有共重合体ゴム(A-1)100部に代えて、合成例3で得られたニトリル基含有共重合体ゴム(A’-3)100部を使用するとともに、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7(DBU)、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、およびアミン変性シリコンを配合せず、代わりに、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(商品名「Vulcup40KE」、40%品、ハーキュレス社製、過酸化物系架橋剤)7部を配合した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
<比較例3>
表面処理クレー(Burgess KE)の配合量を100部から15部に、炭酸カルシウム(白艶華CC)の配合量を50部から135部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
<比較例4>
シリカ(Nipsil ER)の配合量を25部から90部に、表面処理クレー(Burgess KE)の配合量を100部から40部に、炭酸カルシウム(白艶華CC)の配合量を50部から40部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に示すように、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位、およびカルボキシル基含有単量体単位を含有し、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が8~18重量%であり、ヨウ素価が120以下であるニトリル基含有共重合体ゴム(A)に、ポリアミン系架橋剤(C)に加えて、所定の配合割合で、シリカ(B1)と、クレー(B2)と、炭酸カルシウム(B3)とを配合してなる架橋性ニトリルゴム組成物は、コンパウンド・ムーニーが低く、加工性に優れるものであり、さらに、このような架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物は、常態物性(伸び、引張強度、硬さ)が良好であり、圧縮永久歪みが小さく、耐油中膨潤性(燃料油中における体積変化)、および耐油中硬化性(多環縮合芳香族化合物を含有する燃料油に浸漬した際の硬度変化)に優れるものであった(実施例1~9)。
【0127】
一方、ニトリル基含有共重合体ゴムとして、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が18重量%超であるものを用いた場合には、多環縮合芳香族化合物を含有する燃料油に浸漬した際の硬度変化が大きく、耐油中硬化性に劣るものであった(比較例1)。
また、ニトリル基含有共重合体ゴムとして、カルボキシル基含有単量体単位を含有しないものを用いた場合には、圧縮永久歪みが大きく、また、燃料油中における体積変化が大きく、耐油中膨潤性に劣るものであった(比較例2)。
炭酸カルシウム(B3)に対する、クレー(B2)の含有割合が低すぎる場合には、得られるゴム架橋物は、圧縮永久歪みが大きく、耐圧縮永久歪み性に劣るものであった(比較例3)。
さらに、シリカ(B1)、クレー(B2)、および炭酸カルシウム(B3)の合計量に対する、シリカ(B1)の含有量の重量比率が多すぎる場合には、コンパウンド・ムーニー粘度が高くなり、架橋性ニトリルゴム組成物としての加工性に劣るものであった(比較例4)。