(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】グリース組成物及び転動装置
(51)【国際特許分類】
C10M 171/04 20060101AFI20230328BHJP
C10M 171/02 20060101ALI20230328BHJP
C10M 145/14 20060101ALI20230328BHJP
C10M 145/16 20060101ALI20230328BHJP
C10M 149/14 20060101ALI20230328BHJP
C10M 145/22 20060101ALI20230328BHJP
C10M 145/24 20060101ALI20230328BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230328BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20230328BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20230328BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20230328BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230328BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20230328BHJP
【FI】
C10M171/04
C10M171/02
C10M145/14
C10M145/16
C10M149/14
C10M145/22
C10M145/24
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N20:04
C10N20:02
C10N30:06
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2022543586
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2021042603
(87)【国際公開番号】W WO2022107882
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2020193495
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雷
(72)【発明者】
【氏名】松本 兼明
(72)【発明者】
【氏名】▲芦▼田 晴久
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-075180(JP,A)
【文献】特開2019-172984(JP,A)
【文献】特開2013-129794(JP,A)
【文献】特開2010-174117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の軌道面を有する一対の軌道輪と、前記一対の軌道面の間に転動可能に保持される複数の転動体と、前記一対の軌道輪の間に形成される空間の開口端部を塞ぐシール部材と、を有し、前記シール部材が弾性材料からなる複数のシールリップを有する転動装置に用いられ、
前記一対の軌道輪のいずれか一方における前記シールリップが摺動する摺動面と、隣り合う2つの前記シールリップと、の間の空隙部に封入される、グリース組成物であって、
基油及び極性ポリマーを含有し、
前記基油の40℃における動粘度が
5mm
2
/s以上9.3mm
2
/s以下であり、
前記極性ポリマーの重量平均分子量は、5000~50000であることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項2】
さらに、極性基を有する増ちょう剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記極性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、スチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体、ポリウレタン、ポリエステル及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記極性ポリマーは、ポリアクリレート及びポリメタクリレートから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3に記載のグリース組成物。
【請求項5】
対向する一対の軌道面を有する一対の軌道輪と、前記一対の軌道面の間に転動可能に保持される複数の転動体と、前記一対の軌道輪の間に形成される空間の開口端部を塞ぐシール部材と、を有し、前記シール部材が弾性材料からなる複数のシールリップを有する転動装置であって、
前記一対の軌道輪のいずれか一方における前記シールリップが摺動する摺動面と、隣り合う2つの前記シールリップと、の間の空隙部にグリース組成物が封入されており、
前記グリース組成物は、基油及び極性ポリマーを含有し、
前記基油の40℃における動粘度が
5mm
2
/s以上9.3mm
2
/s以下であり、
前記極性ポリマーの重量平均分子量は、5000~50000であることを特徴とする、転動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動装置のシール部材又はシール装置に使用されるグリース組成物及び転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道車両の車輪を支持する車輪用転動装置は、通常、雨水及び泥水等に曝されながら屋外で使用される。そこで、従来の車輪用転動装置では、軸受の内部に雨水及び泥水等が侵入することを防止するとともに、軸受の内部に封入したグリースを密閉することを目的として、一対の軌道輪の間の開口端部を塞ぐシール部材が配設されている。
ところで、近年、自動車の燃費向上のための取り組みとして、シール部材と、シール部材のシールリップが摺動する面との間の低摩擦化(低トルク化)が要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シールリップが摺接する面に、40℃での基油動粘度が10~60mm2/sのグリースが塗布された回転部材のシール構造が提案されている。また、上記シール構造において、シールリップが摺接する面は、多数のディンプルを備えた凹凸面とされ、且つシールリップによる圧力が作用しても、グリースの油膜が維持される表面粗さRaは、0.5~1.5μmであり、上記シール構造によれば、基油を低粘度化することにより、シール性を維持しながら、回転トルクの低減を図ることができ、また、グリースがこの凹凸部に保持されるため、シールリップによる圧力が摺接する面に作用しても、グリースの油膜の破壊を抑制することができるとされている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のシール部材は、シールリップが摺接する相手側の面に凹凸が形成されているため、シールリップがこの凹凸に対して摺動し、シールリップの摺動摩耗が促進され、その結果、シール性(密封性能)の悪化につながるという課題がある。
【0005】
また、特許文献2には、シールリップの摺動摩耗の発生を低減した密閉装置が提案されている。この密閉装置は3つのシールリップを備え、3つのシールリップ側の摺動面に、それぞれ凹凸が形成されているとともに、3つのシールリップ間の空間に低粘度基油グリースが充填されたものである。そして、この密閉装置に使用される基油は、40℃における基油動粘度が10~40mm2/sであることが好ましい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2012-107758号公報
【文献】日本国特開2012-193835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の密閉装置を用いた場合に、40℃での基油動粘度が10mm2/sより小さくなると、グリース組成物の流動性が大きくなり、上記凹凸にグリースが保持されないという問題点が発生する。すなわち、摺動によりグリースが霧散しやすくなるため、所望のシール性を維持することができなくなる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、例えば動粘度が5~40mm2/sである低粘度の基油を使用した場合であっても、シール性の低下を抑制することができ、シール性と低トルク化との両立を実現することができるグリース組成物及び転動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、転動装置のシール部に用いられるグリース組成物に特定の重量平均分子量を有する極性ポリマーを含有させることにより、シール性を向上させることができ、特に40℃での動粘度が5~40mm2/sの低粘度基油を使用した場合であっても、シール性を損なうことなく、シールのリップ部と、シールのリップ部が摺動する面との間で摺動時に発生する回転抵抗を低減(低トルク化)することができることを見出した。
すなわち、グリース組成物が、例えば40℃での動粘度が5~40mm2/sの低粘度基油と、上記極性ポリマーとを含有することにより、低トルクを維持しつつ、シールリップの摺動面に安定的に油膜を形成することができる。
【0010】
グリース組成物が上記極性ポリマーを含有することにより得られる効果は2点ある。1点目は、ポリマーの増粘効果によって、油膜厚さを厚くすることができる点である。2点目は、極性ポリマーの極性基によって、シールリップ及び摺動面と、グリースとの間で静電的な力が働き、濡れ性が向上するため、摺動面にグリースを保持することができる点である。
【0011】
また、基油として極性の低い合成炭化水素系油等を用いた場合であっても、極性ポリマーを用いることで、極性ポリマーが界面活性剤として機能するため、極性ポリマーの極性基と増ちょう剤の極性基との間に静電的な相互作用が働き、また、極性ポリマーの非極性基と基油との間でファンデルワールス力などの相互作用が働く。その結果、極性ポリマーが界面活性剤のように機能することから、増ちょう剤の基油への濡れ性を向上させることができる。その結果、摺動時において、グリース組成物が摺動部から霧散することを抑制することができる。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明の上記目的は、グリース組成物に係る下記[1]の構成により達成される。
【0013】
[1] 対向する一対の軌道面を有する一対の軌道輪と、前記一対の軌道面の間に転動可能に保持される複数の転動体と、前記一対の軌道輪の間に形成される空間の開口端部を塞ぐシール部材と、を有し、前記シール部材が弾性材料からなる複数のシールリップを有する転動装置に用いられ、
前記一対の軌道輪のいずれか一方における前記シールリップが摺動する摺動面と、隣り合う2つの前記シールリップと、の間の空隙部に封入される、グリース組成物であって、 基油及び極性ポリマーを含有し、
前記極性ポリマーの重量平均分子量は、5000~140000であることを特徴とする、グリース組成物。
【0014】
また、グリース組成物に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[4]に関する。
[2] 前記基油の40℃における動粘度は、5mm2/s以上40mm2/s以下であることを特徴とする、[1]に記載のグリース組成物。
【0015】
[3] 前記極性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、スチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体、ポリウレタン、ポリエステル及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のグリース組成物。
【0016】
[4] 前記極性ポリマーは、ポリアクリレート及びポリメタクリレートから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、[3]に記載のグリース組成物。
【0017】
また、本発明の上記目的は、転動装置に係る下記[5]の構成により達成される。
[5] 対向する一対の軌道面を有する一対の軌道輪と、前記一対の軌道面の間に転動可能に保持される複数の転動体と、前記一対の軌道輪の間に形成される空間の開口端部を塞ぐシール部材と、を有し、前記シール部材が弾性材料からなる複数のシールリップを有する転動装置であって、
前記一対の軌道輪のいずれか一方における前記シールリップが摺動する摺動面と、隣り合う2つの前記シールリップと、の間の空隙部にグリース組成物が封入されており、
前記グリース組成物は、基油及び極性ポリマーを含有し、
前記極性ポリマーの重量平均分子量は、5000~140000であることを特徴とする、転動装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、グリース組成物が極性ポリマーを含有し、極性ポリマーの重量平均分子量を適切に制御しているため、例えば動粘度が5~40mm2/sである低粘度の基油を使用した場合であっても、シール性の低下を抑制することができ、シール性と低トルク化との両立を実現することができる、グリース組成物及び転動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る転動装置(車輪用転動装置)を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る転動装置におけるシール装置を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る転動装置におけるシール部材を拡大して示す断面図である。
【
図4】
図4は、各実施例及び比較例のシール性とシールトルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
[1.転動装置、シール装置及びシール部材]
まず、本実施形態に係る転動装置、シール装置及びシール部材について、以下に詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る転動装置を示す断面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る転動装置におけるシール装置を拡大して示す断面図である。また、
図3は、本発明の実施形態に係る転動装置におけるシール部材を拡大して示す断面図である。なお、本実施形態においては、転動装置として「車輪用転動装置」を例にして説明する。
【0022】
図1に示すように、転動装置20は、固定輪である外側軌道輪1と、回転輪である内側軌道輪3とを有し、一対の軌道輪を構成している。外側軌道輪1は、その外周面に形成した取付部2により、懸架装置(図示せず)に支持固定されている。
【0023】
一方、内側軌道輪3は、外側軌道輪1と同心に設けられており、使用時にこの内側軌道輪3が回転する。内側軌道輪3は、ハブ4と内輪5とを有し、ハブ4の内周面にはスプライン溝6が形成されている。また、ハブ4の外端部外周面には取付フランジ7が形成されている。なお、車両への組み付け時において、スプライン溝6には等速ジョイントを介して回転駆動される駆動軸が挿入され、取付フランジ7には車輪が固定される。
【0024】
外側軌道輪1の内周面には2列の外輪軌道面8,8が形成され、ハブ4及び内輪5における外輪軌道面8,8に対向する位置に、内輪軌道面9,9が形成されており、これにより、対向する2対の軌道面が構成されている。
また、各外輪軌道面8,8と内輪軌道面9,9との間には、転動体10,10が転動可能に配置されており、これにより外側軌道輪1の内側において、内側軌道輪3が回転自在に保持されている。また、外輪軌道面8と内輪軌道面9との間の隣り合う転動体10の間には、保持器11が設けられており、これにより、転動体10が低トルクで転動可能となっている。
【0025】
さらに、外側軌道輪1における軸方向の一方の端部と内輪5との間には、シール装置14が設けられており(
図2を参照)、外側軌道輪1における軸方向の他方の端部とハブ4との間には、シール部材12bが設けられている。シール装置14及びシール部材12bは、外側軌道輪1の内周面と、内側軌道輪3の外周面との間で、転動体10,10が配置された空間13の開口端部を塞いでいる。
【0026】
続いて
図2に示すように、シール装置14は、外側軌道輪1に取り付けられ、芯金110及び弾性部材107から構成されるシール部材12aと、内側軌道輪3における内輪5に取り付けられたスリンガ106とを有する。
【0027】
芯金110は、断面略L字形で円環状に形成されており、例えば低炭素鋼板等の金属板にプレス加工等の打ち抜き加工及び塑性加工を施すことにより、一体成形されている。
また、スリンガ106も、断面L字形で円環状に形成されており、例えばステンレス鋼板等のように優れた耐食性を有する金属板に、プレス加工等の打ち抜き加工及び塑性加工を施すことにより一体成形されている。
【0028】
弾性部材107は弾性材料からなり、外側シールリップ114、中間シールリップ115及び内側シールリップ116を備え、芯金105にその基端部が接合して固定されている。外側シールリップ114、中間シールリップ115及び内側シールリップ116の先端縁は、スリンガ106の内側面に摺接している。
【0029】
本実施形態においては、隣り合う外側シールリップ114及び中間シールリップ115と、これらの摺動面であるスリンガ106の内側面とにより形成された空隙部121、並びに、中間シールリップ115及び内側シールリップ116と、これらの摺動面であるスリンガ106の内側面とにより形成された空隙部122に、それぞれ所定のグリース組成物が封入されている。
【0030】
このグリース組成物は、基油及び特定の極性ポリマーを含有しているため、ポリマーの増粘効果によって、油膜厚さを向上させることができるとともに、外側シールリップ114、中間シールリップ115及び内側シールリップ116と、摺動面であるスリンガ106の内側面との間にグリース組成物を効果的に保持することができる。
その結果、外部からの塵埃、水、泥水等が軸受内部に侵入することを防止するシール性を損なうことなく、低トルク化を実現することができる。
【0031】
また、
図3に示すようなシール部材12bにおいても同様に、上記グリース組成物を使用することができる。
図3に示すシール部材12bは、それぞれが円輪状に形成された芯金216と弾性部材217とを有する。芯金216は、金属板を加工して成形されたものであり、外側軌道輪1の外端部に内嵌固定されている。また、弾性部材217は弾性材料からなり、外径側サイドシールリップ218、内径側サイドシールリップ219及びラジアルシールリップ220を有する。
なお、弾性部材217の基部は、接着剤等により芯金216に接合固定されている。
【0032】
本実施形態においては、外径側サイドシールリップ218及び内径側サイドシールリップ219と、これらの摺動面である内側軌道輪3の内表面との間の空隙部221、並びに、内径側サイドシールリップ219及びラジアルシールリップ220と、これらの摺動面である内側軌道輪3の内表面との間の空隙部222に、それぞれ所定のグリース組成物が封入されている。
したがって、シール装置14の場合と同様に、外部からの塵埃、水、泥水等が軸受内部に侵入することを防止するシール性を損なうことなく、低トルク化を実現することができる。
【0033】
[2.グリース組成物]
次に、本実施形態に係るグリース組成物について、以下に詳細に説明する。本実施形態に係るグリース組成物は、基油及び極性ポリマーを含有し、その他として増ちょう剤、及び必要により添加剤を含有する。
【0034】
<2-1.基油>
基油は、本実施形態に係るグリース組成物の主成分であり、例えば、基油中に添加される増ちょう剤を分散させることでグリース組成物とすることができる。
なお、本実施形態において使用される基油としては、40℃における動粘度が、5~40mm2/sである低粘度基油であることが好ましい。
従来の密閉装置に使用される低粘度基油グリースにおいては、40℃における基油の動粘度が、例えば10~40mm2/sであることが好ましいとされている。しかし、40℃における基油の動粘度が、例えば10mm2/sより小さくなると、グリース組成物の流動性が大きくなり、シールリップと摺動面との間にグリース組成物が保持されず、摺動によりグリースが霧散することがある。なお、グリースの霧散とは、グリースが細かい粒子になって放出される現象と、グリースが蒸発する現象との両方をいう。
【0035】
本実施形態では、後述のとおり、グリース組成物の添加剤として、特定の重量平均分子量を有する極性ポリマーを使用する。このような特定の極性ポリマーをグリース組成物に含有させると、極性ポリマーの極性基によって、シールリップ及び摺動面と、グリースとの間で静電的な力が働き、シールリップ及び摺動面表面と、グリースとの濡れ性を向上させることができると考えられる。
また、極性ポリマーが界面活性剤として機能することにより、極性ポリマーの極性基と増ちょう剤との間で静電的な相互作用が働き、また非極性基と基油との間でファンデルワールス力などの相互作用が働く。その結果、増ちょう剤の基油への濡れ性を向上させることができると考えられる。
上記のような極性ポリマーの効果により、摺動時において、グリース組成物が摺動部から霧散することを抑制することができる。
【0036】
40℃における基油の動粘度が5mm2/s以上であると、所望の耐熱性を有するため、使用中に基油が経時的に揮発することを抑制することができ、シール性を維持することができる。したがって、40℃における基油の動粘度は、5mm2/s以上であることが好ましく、8mm2/s以上であることがより好ましい。
一方、40℃における基油の動粘度が40mm2/s以下であると、摺動面におけるすべり摩擦抵抗の増大を抑制することができ、低トルク化を実現することができる。したがって、40℃における基油の動粘度は、40mm2/s以下であることが好ましく、20mm2/s以下であることがより好ましい。
【0037】
本実施形態において使用される基油の種類は特に限定されず、潤滑油の基油として使用されている油(鉱油系、合成油系又は天然油系の潤滑油)は、全て使用することができる。
具体的には、鉱油系潤滑基油としては、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製及び水素化精製等を適宜組み合わせることにより、鉱油を精製したものを挙げることができる。
また、合成油系潤滑油基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油、フッ素系油及びシリコーン系油等を挙げることができる。
さらに、天然油系潤滑基油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油及びパーム核油等の油脂系油、並びにこれらの水素化物を挙げることができる。ただし、シール部材又はシール装置における弾性部材の材料として、例えば最も多く使用されているニトリルゴムを使用した場合には、鉱油又は合成炭化水素系油を使用することが好ましい。
【0038】
上記合成炭化水素系油としては、合成油であるポリ-α-オレフィン(PAO)や、ガストゥリキッド(GTL:Gas To Liquid)等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは粘度指数が高いため、高温で粘度低下が少なく、油膜を保持する能力が高いこと、及び低温においては粘度が高くなり過ぎず、適度な流動性を保つことから、潤滑性の低下が少ない。この優れた低温流動性は、グリース組成物の基油として使用した場合、極めて有効に働く作用である。
【0039】
例えば、低温における粘度が極めて高く、流動性を失う潤滑油をグリース組成物の基油として使用すると、グリース組成物自体も完全に流動性を失い、機械部品の摺動面に対してほとんどグリース組成物が供給されなくなり、摩耗が促進される場合がある。一方、ポリ-α-オレフィンのような低温流動性に優れる基油を含有するグリース組成物は、流動性が保持されるため、適切な量の潤滑油を摺動面に供給することができ、潤滑機能が保たれるとともに、摺動面における摩耗を抑制することができる。
【0040】
天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法(Fischer-Tropsch process)により液体炭化水素を合成し、これに基づいて得られたGTLは、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高い。したがって、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本形態の基油として好適に用いることができる。
【0041】
<2-2.極性ポリマー>
本実施形態に係るグリース組成物に含有される極性ポリマーは、ポリマー構造内に極性基と非極性基を有するポリマーである。上述のとおり、グリース組成物に極性ポリマーを含有させると、極性ポリマーが有する増粘効果等によって、シールリップと摺動面との間の油膜厚さを厚くすることができる。
【0042】
また、グリース組成物の基油として、極性の低い又は極性を有さない低粘度の基油を用いた場合であっても、特定の極性ポリマーを含有させることにより、グリース状を保持することができ、撹拌・摺動によりグリース組成物が霧散することを抑制することができる。
【0043】
さらに、基油として、極性の低い合成炭化水素系油等を用い、増ちょう剤としてウレア化合物のような極性基(ウレア結合等)を有する増ちょう剤を用いた場合に、グリース組成物に特定の極性ポリマーを含有させると、耐久性及び濡れ性を向上させることができる。
【0044】
極性ポリマーの効果について、以下に詳述する。基油として好適に使用することができるPAOは、金属面、ゴム面等に対する濡れ性が悪いが、ゴムに対する攻撃性が低いという性質を有する。また、PAOは、温度による粘度の変化が少なく、耐久性に優れている。
一方、後述する増粘剤として好適に使用される脂肪族ウレアは、PAOとの相性が良好ではなく、油分離しやすくい性質を有する。また、もともとは硬く、せん断により軟化しやすいが、耐久性は良好である。
このような基油と増粘剤とを含むグリース組成物は、優れた耐久性を有するが、濡れ性(付着性)が悪いため、所定の場所にとどまらず、霧散されやすい状態となっている。
【0045】
そこで、本実施形態に係るグリース組成物のように、特定の極性ポリマーを含有させると、極性ポリマーの極性基と増ちょう剤の極性基との間に静電的な相互作用が働く。
さらに、極性ポリマーの非極性基と基油との間でファンデルワールス力などの相互作用が働き、極性ポリマーが界面活性剤のように機能するため、増ちょう剤の基油への濡れ性を向上させることができる。
【0046】
なお、本実施形態に係る転動装置は、シール部材が、例えばニトリルゴムやアクリルゴム等の弾性材料からなる複数のシールリップを有し、これらのシールリップは、例えば鋼製のスリンガ106又は鋼製の内側軌道輪3の表面を摺動する。
そこで、この摺動部に、極性ポリマーを含有させたグリース組成物を存在させると、基油に溶解した極性ポリマーの極性基(エステル基等)と、シールリップ表面の極性基(ニトリルゴムの場合はニトリル基、アクリルゴムの場合はエステル結合等の極性基)及び摺動面における鉄分子との間で静電的な相互作用が働く。その結果、摺動時において、グリース組成物が摺動部から霧散することを抑制することができる。また、転動装置におけるシール部材12a及びシール部材12bが設けられている箇所において、低粘度基油を使用した場合でも、グリース組成物を、シールリップと摺動面との間及びその近傍に保持することができ、シール性を維持することができる。
【0047】
上記のような極性ポリマーの効果により、低粘度基油を用いた場合であっても、シールリップと摺動面との間に安定的にグリース組成物を存在させることができ、低トルクとシール性との両立が可能となる。
【0048】
ここで、極性ポリマーの非極性基とは、C、Hから構成されるメチル基やエチル基などの炭化水素系の官能基が挙げられる。
また、極性ポリマーの極性基とは、上記非極性基以外の官能基を指し、例えばO、N、S等のような、C、H以外の元素を含み、分子内に電荷の偏りを有する官能基が挙げられる。極性基としては、例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ニトロ基、スルホ基、アミド結合、ペプチド結合、ウレア結合、ウレタン結合、エステル結合等が挙げられる。
【0049】
なお、極性ポリマーは、基油に溶解するものであって、後述する重量平均分子量が規定の範囲内であれば特に限定されないが、例えば、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、スチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体、ポリウレタン、ポリエステル及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体等を挙げることができ、これらの化合物を単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
また、極性ポリマーは、本発明の効果を阻害しない限り、その他の官能基を含んでいてもよい。
なお、上記列挙した極性ポリマーのうち、ポリメタクリレート及びポリアクリレートのうち少なくとも1種を使用することが、トルクとシール性の観点から、より好ましい。
【0050】
なお、極性ポリマーの重量平均分子量が5000未満であると、増粘効果が得られ難くなる。したがって、極性ポリマーの重量平均分子量は5000以上とし、140000以下であることが好ましい。
一方、極性ポリマーの重量平均分子量が140000を超えると、グリース組成物の粘度が高くなりすぎて、極性ポリマーをグリース組成物中に均一に分散することが困難になるとともに、極性ポリマーをシールリップと摺動面との間に侵入させることが困難になり、油膜厚さを向上させる効果を得ることができない。したがって、極性ポリマーの重量平均分子量は140000以下とし、50000以下であることが好ましい。
【0051】
さらに、極性ポリマーの添加による上記効果を得るためには、極性ポリマーの含有量は、グリース組成物全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましい。
一方、極性ポリマーの含有量が、グリース組成物全質量に対して30質量%以下であると、グリース組成物の粘度が高くなりすぎず、トルクの上昇を抑制することができる。したがって、極性ポリマーの含有量は、グリース組成物全質量に対して30質量%以下であることが好ましく、28質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
なお、本実施形態においては、極性ポリマーと、例えば油とが含まれる溶液を、添加剤としてグリース組成物に含有させることができる。このような場合に、上記極性ポリマーの含有量とは、極性ポリマーの「実質ポリマー濃度」を表す。実質ポリマー濃度とは、実際にグリース組成物中に含まれるポリマー濃度を示し、上記溶液の添加量に、溶液中の極性ポリマーの割合を乗じることにより算出することができる値である。
【0053】
<2-3.増ちょう剤>
増ちょう剤は、基油中に分散して三次元構造を形成し、基油を三次元構造中に保持することにより、半固体状にする作用を有する成分であり、グリース組成物中に含有させることができる。
【0054】
増ちょう剤としては、例えば、金属成分がLi及びNa等の金属石けん、金属成分がLi、Na、Ba及びCa等である複合金属石けん等の金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物及びウレタン化合物等の非石けん類、アミノ酸系ゲル化剤(N-2-エチルヘキサノイル―L-グルタミン酸ジブチルアミド、及びN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α、γ-n-ジブチルアミド等)、並びにベンジリデンソルビトール誘導体(ジベンジリデンソルビトール、ジトリリデンソルビトール及び非対称のジアルキルベンジリデンソルビトール等)を適宜選択して使用することができる。
これらの増ちょう剤は、単独又は混合物として用いることができる。
【0055】
これらの増ちょう剤のうち、イソシアネートと一級アミンにより反応生成されるウレア化合物を使用することが好ましい。ウレア化合物が有するウレア基は、ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ペンタウレア及びヘキサウレアのいずれでもよい。また、ウレア化合物の種類は、脂肪族ウレア、脂環族ウレア及び芳香族ウレアのいずれでもよい。さらに、例えばウレタン基のような、ウレア基以外の基を有するウレア(例えばウレアウレタン)でもよい。
【0056】
上記の増ちょう剤のうち、脂肪族ウレアは、芳香族ウレア及び脂環族ウレアと比較して、シールトルクを低下することができる。この理由としては、脂肪族ウレアは、せん断力によりグリースが軟化しやすいため、攪拌抵抗がその他のウレアより小さいことが理由の一つであると考えられる。したがって、本実施形態においては、ジイソシアネート1モルと脂肪族の一級モノアミン2モルを反応させて得られる、脂肪族ジウレアを使用することが好ましい。
【0057】
以下、ウレア化合物を合成する際に使用する各種原料の一例を挙げる。
【0058】
ジイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。より具体的な例としては、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トランス-1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、1,3-ビス-(イソシアナトメチル-ベンゼン)、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3-ビス-(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、3-イソシアナトメチル-3,3,5′-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、フェニレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシレンジイソシアネート(m-TMXDI)、及びp-テトラメチルキシレンジイソシアネート(p-TMXDI)等を挙げることができ、特に、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、トランス-1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、及び4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を使用することが好ましい。
【0059】
一級モノアミンとしては、脂肪族、脂環式又は芳香族のモノアミンが挙げられる。ここで、脂肪族アミンとしては、C8~C24の飽和又は不飽和の脂肪族アミンで、分岐状のもの、直鎖状のものが挙げられるが、特に直鎖状の脂肪族アミンを使用することが好ましい。具体的には、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン及びシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0060】
グリース組成物中の増ちょう剤の含有量としては、グリース組成物全質量に対して、5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。増ちょう剤の含有量が5質量%以上であると、グリース状態を容易に維持することができる。また、増ちょう剤の含有量が40質量%以下であると、グリース組成物の硬さを適切に保つことができ、潤滑状態を十分に発揮することができる。
【0061】
<2-4.その他の添加剤>
本実施形態においては、グリース組成物の各種性能を向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。
添加剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛及びジチオカルバミン酸亜鉛等の酸化防止剤、スルフォン酸金属塩、エステル系、アミン系、ナフテン酸金属塩及びコハク酸誘導体等の防錆剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛及び有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸及び動植物油等の油性向上剤、並びにベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等、潤滑油に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0062】
以上、本実施形態に係るグリース組成物について説明した。
【0063】
本発明は、上記したように、転動装置のシール部に用いられるグリース組成物に関するが、シール部材の隣り合う2つのシールリップと、このシールリップが摺動する摺動面との間の空隙部に、上記した所定のグリース組成物が封入された転動装置にも関する。
なお、転動装置としては、
図1~
図3に記載したラジアル軸受に限定されず、一対の軌道輪の間に形成される空間の開口端部を塞ぐシール部材を有する転動装置であれば、どのようなものでも適用することができる。例えば、スラスト軸受であってもよい。また、転動体は玉に限定されず、ころであっても本発明を適用することができる。
【実施例】
【0064】
下記表1に示す組成を有するグリース組成物を作製し、得られたグリース組成物を、
図3に示すような試験用シール装置に封入した。次に、得られた試験用シール装置を、ハブシール単体泥水耐久試験機(日本精工株式会社製)に装着し、以下に示す試験条件にて泥水槽内で回転させ、泥水耐久寿命(シール性)を評価した。また、上記試験用シール装置を、ハブシール単体トルク試験機(日本精工株式会社製)に装着し、以下に示す試験条件にて回転させ、シールトルクを評価した。
【0065】
その結果を表1に示すとともに、
図4にも併せて示す。なお、下記表1に示すシール性は、日本精工株式会社が定めた規格値に対する相対値(実施例No.1で示す結果を「1.00」としている。)であり、数値が大きいほどシール性に優れていることを示す。同様に、下記表1に示すシールトルクは、比較例No.1で示す結果を1.00としたときの相対値であり、数値が小さいほど低トルクであることを示す。
また、表1において、実施例No.1~4及び比較例No.7に添加されている「アクルーブ」には、ポリ(メタ)アクリレートと、ハンドリング性向上のための油とが含まれる。表1中の有効濃度とは、添加剤中のポリ(メタ)アクリレートの含有量を表し、実質ポリマー濃度とは、「アクルーブ」の添加量に有効濃度を乗じることにより得られた値を表す。
【0066】
<シール性の評価>
(シール単体泥水耐久試験条件)
・シールサイズ:内径61mm、外径75mm
・回転速度:1000min-1
・軸偏心量(TIR:Total Indicator Reading):0.2mm
・泥水組成:JIS8種ダスト20%含有
・雰囲気温度:室温
【0067】
<シールトルクの評価>
(シール単体トルク試験条件)
・シールサイズ:内径61mm、外径75mm
・回転速度:1000min-1
・雰囲気温度:室温
【0068】
【0069】
<結果及び考察>
図4は、各実施例及び比較例のシール性とシールトルクとの関係を示すグラフである。なお、
図4において、「○」は実施例No.1~4を表す。また、「□」は比較例No.1、2及び4~6を表し、「◇」は比較例No.3を表す。さらに、「△」は比較例No.7を表し、「×」は比較例No.8を表す。
【0070】
図4における比較例No.1~6を示す「□」及び「◇」並びに表1で表されるように、基油を低粘度化するほどシールトルクの値は低下するが、シール性は低下する。すなわち、シールトルクとシール性は、
図4中の直線(破線)で示されるようなトレードオフの関係にある。
また、実施例No.1~4(
図4の「○」)は、比較例No.3(
図4の「◇」)のグリース組成物に、ポリ(メタ)アクリレートが含有された「アクルーブA1060」又は「アクルーブ812」(三洋化成工業株式会社製)を、9質量%又は27質量%の含有量となるように添加したものである。実施例No.1~4を表す「○」についても、シール性が上昇するに従って、シールトルクの値は上昇し、
図4中の直線(実線)で示されるようなトレードオフの関係を示している。
【0071】
しかし、実施例No.1~4は、グリース組成物に極性ポリマーであるポリ(メタ)アクリレートが含有されており、実施例No.1~4(
図4の「○」)を表す実線は、比較例No.1、2及び4~6を表す破線よりも上側に位置していることから、比較例よりも低トルク及びシール性を両立したものとなっていることがわかる。
すなわち、同じシールトルクの値で比較した場合には、比較例よりも実施例の方が高いシール性を示し、同じシール性で比較した場合には、比較例よりも実施例の方が低いシールトルクを示している。
【0072】
比較例No.7(
図4の「△」)は、比較例No.3(
図2の「◇」)のグリース組成物に、ポリ(メタ)アクリレートが含有された「アクルーブV5091」(三洋化成工業株式会社製)を、9質量%の含有量となるように添加したものである。なお、比較例No.7のグリース組成物に含有されているポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量は150000である。
比較例No.7は、極性ポリマーの重量平均分子量が本発明範囲の上限を超えているため、高いシール性と低トルクとを両立する結果を得ることはできなかった。
【0073】
比較例No.8(
図4の「×」)は、比較例No.3(
図2の「◇」)のグリース組成物に、スチレンイソプレンポリマーの「InfineumSV150」(インフィニアムジャパン株式会社製)を添加したグリース組成物である。
スチレンイソプレンポリマーは、ポリマー構造内に極性基を有さない非極性ポリマーであるため、比較例No.8は、比較例No.3と比較してシール性を向上させることができたが、それに伴いトルクも上昇してしまい、高いシール性と低トルクとを両立する結果を得ることはできなかった。
【0074】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0075】
なお、本出願は、2020年11月20日出願の日本特許出願(特願2020-193495)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0076】
1 外側軌道輪
3 内側軌道輪
4 ハブ
5 内輪
8 外輪軌道面
9 内輪軌道面
10 転動体
12a,12b シール部材
14 シール装置
20 転動装置
106 スリンガ
107,217 弾性部材
110,216 芯金
114,115,116,218,219,220 シールリップ
121,122,221,222 空隙部