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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】負荷力率推定方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20230328BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20230328BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 130
H02J3/38 130
H02J13/00 301A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019149077
(22)【出願日】2019-08-15
(65)【公開番号】P2021035076
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】坂内 容子
(72)【発明者】
【氏名】村上 好樹
(72)【発明者】
【氏名】塚田 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正紀
【審査官】麻川 倫広
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115241(JP,A)
【文献】特開2017-158386(JP,A)
【文献】特開2016-152742(JP,A)
【文献】特開2020-127292(JP,A)
【文献】坂内 容子他,メガソーラが連系された配電系統における実負荷の力率推定手法,平成30年 電気学会全国大会講演論文集,日本,一般社団法人電気学会,2018年03月16日,482~483
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R11/00-11/66
21/00-22/10
35/00-35/06
H02J3/00-5/00
13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電装置が連系された配電系統の任意区間の負荷力率を潮流計測値から推定する方法において、
前記任意区間の潮流計測値を取得するステップと、
有効電力Pと無効電力Qを座標軸とするPQ平面に前記潮流計測値に基づいたデータ点をプロットするステップと、
複数の前記データ点をプロットしたプロット点群の中から、予め定められた条件の下で負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出する抽出ステップと、
前記条件を設定し、当該条件の可否を判定する判定ステップと、
2つの前記負荷特性点を結んだ負荷特性線の傾きtanθを算出するステップと、
前記傾きtanθをcosθに変換して負荷力率を求めるステップと、
をコンピュータが実行し、
前記判定ステップでは、前記太陽光発電装置の力率が0.95以下であるか否かを判定し、
前記抽出ステップでは、前記判定ステップにて前記太陽光発電装置の力率が0.95より大きいと判定された場合に、無効電力Qの最大値を与えるデータ点と、有効電力Pの最小値を与えるデータ点とを前記負荷特性点として抽出する負荷力率推定方法。
【請求項2】
前記潮流計測値と、前記任意区間内の前記太陽光発電装置において想定される各時刻の最大出力との差分を算出するステップと、
前記差分のデータを蓄積して前記任意区間の負荷仮定値を求めるステップと、をコンピュータが実行し、
前記データ点をプロットするステップでは、前記負荷仮定値を前記データ点としてプロットする請求項1に記載の負荷力率推定方法。
【請求項3】
太陽光発電装置が連系された配電系統の任意区間の負荷力率を潮流計測値から推定する方法において、
前記任意区間の潮流計測値を取得するステップと、
有効電力Pと無効電力Qを座標軸とするPQ平面に前記潮流計測値に基づいたデータ点をプロットするステップと、
複数の前記データ点をプロットしたプロット点群の中から、予め定められた条件の下で負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出する抽出ステップと、
前記条件を設定し、当該条件の可否を判定する判定ステップと、
2つの前記負荷特性点を結んだ負荷特性線の傾きtanθを算出するステップと、
前記傾きtanθをcosθに変換して負荷力率を求めるステップと、
をコンピュータが実行し、
前記判定ステップでは、有効電力Pの上位X%の範囲内という条件を設定し、前記プロット点群に関して前記上位X%の範囲内にプロットされた点か否かを判定し、
前記上位X%の範囲内にプロットされたプロット点群の平均値を算出するステップと、
前記潮流計測値の個数密度の最大領域を算出するステップと、をコンピュータが実行し、
前記抽出ステップでは、前記個数密度の最大領域に含まれる点と、前記平均値とを前記負荷特性点として抽出する負荷力率推定方法。
【請求項4】
前記データ点をプロットするステップでは、前記潮流計測値をそのまま前記データ点としてプロットする請求項に記載の負荷力率推定方法。
【請求項5】
前記潮流計測値の測定誤差又は外れ値を除去値として設定するステップと、
前記プロット点群の中から前記除去値に該当するデータ点を除外するステップと、をコンピュータが実行する請求項1~のいずれかに記載の負荷力率推定方法。
【請求項6】
負荷力率の推定期間の時間単位を変更するステップをコンピュータが実行する請求項1~のいずれかに記載の負荷力率推定方法。
【請求項7】
前記データ点をプロットするステップでは、任意の時間帯の前記データ点をプロットする請求項1~のいずれかに記載の負荷力率推定方法。
【請求項8】
太陽光発電装置が連系された配電系統の任意区間の負荷力率を潮流計測値から推定する負荷力率推定装置において、
前記任意区間の潮流計測値を取得する潮流計測値取得部と、
有効電力Pと無効電力Qを座標軸とするPQ平面に前記潮流計測値に基づいたデータ点をプロットするプロット部と、
複数の前記データ点をプロットしたプロット点群の中から、予め定められた条件の下で負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出する抽出部と、
前記条件を設定し、当該条件の可否を判定する判定部と、
2つの前記負荷特性点を結んだ負荷特性線の傾きtanθを算出する傾き算出部と、
前記傾きtanθをcosθに変換して負荷力率を求める負荷力率算出部と、
を備え
前記判定部は、前記太陽光発電装置の力率が0.95以下であるか否かを判定し、
前記抽出部は、前記判定部にて前記太陽光発電装置の力率が0.95より大きいと判定された場合に、無効電力Qの最大値を与えるデータ点と、有効電力Pの最小値を与えるデータ点とを前記負荷特性点として抽出する負荷力率推定装置。
【請求項9】
太陽光発電装置が連系された配電系統の任意区間の負荷力率を潮流計測値から推定する負荷力率推定装置において、
前記任意区間の潮流計測値を取得する潮流計測値取得部と、
有効電力Pと無効電力Qを座標軸とするPQ平面に前記潮流計測値に基づいたデータ点をプロットするプロット部と、
複数の前記データ点をプロットしたプロット点群の中から、予め定められた条件の下で負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出する抽出部と、
前記条件を設定し、当該条件の可否を判定する判定部と、
2つの前記負荷特性点を結んだ負荷特性線の傾きtanθを算出する傾き算出部と、
前記傾きtanθをcosθに変換して負荷力率を求める負荷力率算出部と、
を備え、
前記判定部は、有効電力Pの上位X%の範囲内という条件を設定し、前記プロット点群に関して前記上位X%の範囲内にプロットされた点か否かを判定し、
前記上位X%の範囲内にプロットされたプロット点群の平均値を算出する平均値算出部と、
前記潮流計測値の個数密度の最大領域を算出する最大領域算出部と、
をさらに備え、
前記抽出部は、前記個数密度の最大領域に含まれる点と、前記平均値とを前記負荷特性点として抽出する負荷力率推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電装置が連系された配電系統において潮流計測値のみから負荷力率を推定する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メガソーラなどの太陽光発電装置が連系された配電系統では、配電線事故が発生すると、安全確保のために事故区間の太陽光発電装置を停止する。停止した太陽光発電装置は自動復旧しない。従って、配電線事故復旧時に健全区間から電力供給をする場合には、事故区間内の太陽光発電装置の出力を考慮して区間負荷を推定し、融通や系統切り替えを行う必要がある。
【0003】
しかし、実際に取得可能な物理量は、事故区間上流の開閉器で測定する潮流計測値のみであり、通常、太陽光発電装置の出力は不明である。そのため、取得した潮流計測値を、太陽光発電装置の出力と負荷とに分離した上で、太陽光発電装置の出力を推定しなくてはならない。
【0004】
潮流計測値から太陽光発電装置の出力を推定する際に、負荷力率が必要とされることが多い。すなわち、負荷力率の想定値は太陽光発電装置の出力推定精度を大きく左右する要因となっている。そこで従来より、潮流計測値のみから負荷力率を推定する技術が種々提案されている。
【0005】
既存の負荷力率推定手法としては、潮流計測値のPQ平面(有効電力Pと無効電力Qを座標軸とする平面)にプロットされたデータ点のうち、有効電力Pの最大値と無効電力Qの最小値を与える2点を結んだ直線から負荷特性を求めて推定する手法が存在する。この手法で抽出されるのは夜間の実負荷であり、日中と夜間では負荷の稼動状態は大きく違うと想定される。そのため、実際に求めたい負荷力率からは誤差があると考えられる。
【0006】
また、潮流測定値から快晴時の太陽光発電装置の出力を差し引いて負荷仮定値を算出し、負荷仮定値から負荷力率を推定する手法も提案されている。この手法では、PQ平面にプロットした負荷仮定値から、夜間と快晴時の負荷仮定値が含まれるクラスタを抽出してその傾きを求める。そのため、日中を含む負荷力率を推定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特許第5638546号
特開2015-138864公報
【非特許文献】
【0008】
平成30年電気学会全国大会「メガソーラが連系された配電系統における実負荷の力率推定手法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
日中の負荷力率に近い値を推定する技術では、系統に連系する太陽光発電装置の力率が1に近いときに精度が悪化することが課題であった。また、負荷力率推定技術では、潮流計測値に測定誤差や外れ値が存在すると、それらの影響を受けて、推定誤差が大きくなることが問題となっていた。
【0010】
本発明では、日中の負荷力率に近い値を潮流計測値のみから推定する手法において、推定精度の向上を図った負荷力率推定方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明は、太陽光発電装置が連系された配電系統の任意区間の負荷力率を潮流計測値から推定する方法において、下記のステップ(1)~()をコンピュータが実行する。
(1)前記任意区間の潮流計測値を取得するステップ。
(2)有効電力Pと無効電力Qを座標軸とするPQ平面に前記潮流計測値に基づいたデータ点をプロットするステップ。
(3)複数の前記データ点をプロットしたプロット点群の中から、予め定められた条件の下で負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出するステップ。
(4)前記条件を設定し、当該条件の可否を判定する判定ステップ。
(5)2つの前記負荷特性点を結んだ負荷特性線の傾きtanθを算出するステップ。
(6)前記傾きtanθをcosθに変換して負荷力率を求めるステップ。
(7)前記判定ステップでは、前記太陽光発電装置の力率が0.95以下であるか否かを判定する。
(8)前記抽出ステップでは、前記判定ステップにて前記太陽光発電装置の力率が0.95より大きいと判定された場合に、無効電力Qの最大値を与えるデータ点と、有効電力Pの最小値を与えるデータ点とを前記負荷特性点として抽出する。
また、本発明は、上記ステップを実行する構成要素を備えた負荷力率推定装置としても捉えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、予め定められた条件の可否を判定し、当該条件下で、潮流計測値に基づいたデータ点をPQ平面にプロットしたプロット点群の中から、負荷真値に近いと想定される負荷特性点を抽出することにより、高い精度で負荷力率を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態の概要を示すブロック図
図2】第1の実施形態のフローチャート
図3】第1の実施形態のフローチャート
図4】負荷仮定値と負荷真値とをPQ平面にプロットした図
図5】第2の実施形態のフローチャート
図6】負荷仮定値と負荷真値とをPQ平面にプロットした図
図7】第3の実施形態のフローチャート
図8】潮流計測値のPQ平面上のプロット点の個数密度を示す図
図9】潮流計測値のPQ平面上のプロット点の個数密度を三次元で示す図
図10】負荷仮定値と負荷真値とをPQ平面にプロットした図
図11】負荷仮定値と負荷真値とをPQ平面にプロットした図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について、図1図4を参照して具体的に説明する。第1の実施形態は、各ステップをコンピュータが実行することで、太陽光発電装置、例えばメガソーラが連系された配電系統の任意区間の負荷力率を、潮流計測値のみから推定する方法である。第1の実施形態は、各ステップを実行する構成要素を備えた負荷力率推定装置としても捉えることができる。また、実施形態の態様としては、負荷力率の推定方法及びその装置に加えて、各ステップをコンピュータに実行させる負荷力率推定プログラムや、当該プログラムを記録した記録媒体として捉えることも可能である。
【0015】
(構成)
図1は、第1の実施形態の概要を示すブロック図である。図1に示すように、負荷力率推定装置には、潮流計測値取得部1と、データベース2と、計算部3と、プロット部4と、抽出部5と、判定部6とが設けられている。このうち、潮流計測値取得部1は、任意区間の潮流計測値を取得する。データベース2には区間ごとの太陽光発電装置の定格値が格納されている。
【0016】
計算部3は、太陽光発電装置の快晴時出力の算出、潮流計測値と快晴時出力との差分算出やその積算、2つの負荷特性点を結んだ負荷特性線の傾きtanθ、さらには傾きtanθのcosθへの変換などの計算を行う。プロット部4は、有効電力Pと無効電力Qを座標軸とするPQ平面に潮流計測値に基づいたデータ点をプロットする。
【0017】
抽出部5は、複数のデータ点をプロットしたプロット点群の中から、予め定められた条件の下で日中の負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出する。判定部6は、前記条件を設定し、当該条件の可否を判定する判定する。
【0018】
(作用)
図2に示すように、第1の実施形態では、潮流計測値取得部1が任意区間の潮流計測値を取得する(ステップS01)。ステップS01にて取得される潮流計測値には、有効電力、無効電力、任意区間に付随する区間情報、データ取得時の日時データなどが含まれる。これらの潮流計測値は、事故区間上流に設置された開閉器や配電線センサーなどによって測定される。
【0019】
ステップS02では、ステップS01で取得した潮流計測値のうち、区間情報と日時データをデータベース2に取り込み、計算部3が、データベース2に格納された太陽光発電装置の定格出力を用いて、太陽光発電装置の快晴時出力を算出する。算出した快晴時出力は、1日が全日にわたって快晴であると仮定した時の太陽光発電装置の各時刻の想定最大出力である。快晴とは雲量1割以下である空の状態を示す。快晴時出力は昼間と夜間を合わせた1日分のデータである。そのため、快晴時出力は太陽光発電装置が発電せずに出力が0となる夜間の出力つまり実際の出力を含むことになる。
【0020】
ステップS03では、ステップS01で取得した潮流計測値の有効電力及び無効電力と、ステップS02で算出した太陽光発電装置の快晴時出力つまり各時刻の想定最大出力とを取り込んで、計算部3にて両者の差分データを求める。ここで、太陽光発電装置の実際の出力を快晴時出力と同等であると仮定して、ステップS03で求めた差分データを負荷仮定値とする。ステップS04では、前記差分データを1日分累積して、計算部3にて、太陽光発電装置の出力が快晴時と同等であった場合の1日分の負荷仮定値を算出する。以上のステップS01~S04は、予め設定された潮流計測時間ごとに実施する。
【0021】
ステップS05では、プロット部4によって、ステップS04で求めた負荷仮定値をデータ点としてPQ平面にプロットする。負荷仮定値は潮流計測値のみに基づくデータなので、ステップS05でプロットするデータ点は全て、潮流計測値のみから導かれるデータである。ステップS06では、抽出部5によって、複数のデータ点をプロットしたプロット点群の中から、予め定められた条件の下で、日中の負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出する。
【0022】
先に述べたように、日中の負荷力率に近い値を推定する技術では、系統に連系する太陽光発電装置の力率が1に近いときに精度が悪化することが課題であった。そこで第1の実施形態では、太陽光発電装置の力率0.95を閾値とし、太陽光発電装置の力率が1に近いか否かで、負荷特性線の傾きtanθを求める手法を、変えることとする。
【0023】
太陽光発電装置の力率が1から離れている場合、有効電力Pに対する無効電力Qの割合は通常、30%以上となる。有効電力Pに対する無効電力Qの割合が増えると、負荷仮定値は有効電力P及び無効電力Qともに真値から大きくずれることになる。従って、負荷真値に近いデータ点の傾きと、負荷真値から遠いデータ点の傾きが大きく変化することになり、クラスタ分けが容易となり、クラスタリングモデルの利用に適している。
【0024】
そこで、第1の実施形態では、太陽光発電装置の力率が1から離れていれば、潮流測定値から快晴時の太陽光発電装置の定格出力を差し引いて負荷仮定値を算出し、夜間と快晴時の負荷仮定値が含まれるクラスタを抽出する手法を採用する。すなわち、図3のフローチャートに示すように、太陽光発電装置の力率が0.95以下であると、判定部6が判定した場合には(ステップS61のYes)、予め格納されたクラスタリングモデル群の中からプロット点群の分布形状から適したクラスタリングモデルを選別する(ステップS62)。
【0025】
ステップS63では、選別されたクラスタリングモデルを用いて、負荷真値に近い夜間のデータ(例えば18時から翌日の6時まで)を含むデータ点を、負荷特性点として抽出する。夜間では、実際の太陽光発電装置の出力と快晴時出力が共に0になるので、快晴時出力が負荷真値に近い値となる。ステップS07では、抽出した負荷特性点を結んだ負荷特性線の傾きtanθを、計算部3が算出する。図2に戻って、ステップS08では、ステップS07にて求めた傾きtanθを、力率cosθに変換することで負荷力率を、計算部3が算出する。
【0026】
一方、太陽光発電装置の力率が0.95を超えて1に近づけば、有効電力Pに対する無効電力Qの割合は減る。そのため、負荷仮定値は有効電力P及び無効電力Qともに、負荷真値からのずれが小さくなる。従って、負荷真値に近いデータ点の傾きと、負荷真値から遠いデータ点の傾きとは見分けづらくなり、クラスタ分けは困難になる。
【0027】
また、負荷仮定値は潮流計測値から快晴時出力を差し引いたものなので、基本的には負荷真値よりも大きい値であると推定される。従って、図4に示すように負荷仮定値と負荷真値を同一のPQ平面上にプロットすると、負荷仮定値の中で負荷真値に近いプロット点群は、負荷真値とのずれが小さいことから、原点付近に多く存在することがわかる。
【0028】
以上のことから、太陽光発電装置の力率が1に近い場合、原点付近のプロット点群の特徴を抽出するためには、無効電力Qの最大値を与えるデータ点(以下、最大Q点と呼ぶ)及び有効電力Pの最小値を与えるデータ点(以下、最小P点と呼ぶ)を、負荷特性点として抽出し、その傾きtanθを求めればよいということになる。図3のフローチャートに従って説明すると、太陽光発電装置の力率が0.95より大きいと、判定部6が判定した場合(ステップS61のNo)、ステップS64に移行する。
【0029】
ステップS64では、PQ平面上にプロットしたプロット点群の中から、無効電力Qの最大値を与えるデータ点と、有効電力Pの最小値を与えるデータ点とを、負荷特性点として抽出する。ステップS07では、抽出した2つの負荷特性点を結んだ負荷特性線(図4の点線)の傾きtanθを、計算部3が算出する。傾きtanθを算出した後は、太陽光発電装置の力率に関係なく、ステップS08に移行する(図2)。ステップS08では、ステップS07にて求めた傾きtanθを、力率cosθに変換することで、計算部3が負荷力率を算出する。
【0030】
(効果)
第1の実施形態では、任意区間の潮流計測値を取得するステップS01と、PQ平面に潮流計測値に基づいた負荷仮定値をデータ点としてプロットするステップS05と、複数のデータ点をプロットしたプロット点群の中から、予め定められた条件の下で日中の負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出するステップS06と、前記条件の可否を判定するステップS61と、2つの負荷特性点を結んだ負荷特性線の傾きtanθを算出するステップS07と、傾きtanθをcosθに変換して負荷力率を求めるステップS08と、をコンピュータが実行する。
【0031】
第1の実施形態においては、日中の負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出する場合に、所定の条件を設定して、この条件の可否を判定するステップS61を実施する。そのため、負荷特性点を抽出する際の様々な条件に合わせて、負荷特性点の抽出方法を変更することが可能である。従って、負荷特性点の抽出に際しての誤差原因を効率良く排除することができる。その結果、推定誤差を軽減することができ、負荷力率の推定精度向上に寄与することができる。
【0032】
第1の実施形態では、抽出ステップS61において太陽光発電装置の力率が0.95より大きい、つまり太陽光発電装置の力率が1に近いと判定した場合、無効電力Qの最大値を与えるデータ点と、有効電力Pの最小値を与えるデータ点とを負荷特性点として抽出する。そのため、太陽光発電装置の力率が1に近い場合に、負荷真値に近い原点付近のプロット点群の特徴を抽出することが可能である。従って、太陽光発電装置の力率が1の近くであっても、推定精度の悪化を招く心配がない。
【0033】
また、第1の実施形態では、太陽光発電装置の力率が0.95以下と判定した場合には、選別されたクラスタリングモデルを用いて、夜間のデータ点を負荷特性点として抽出する。そのため、第1の実施形態では、太陽光発電装置の力率によって影響を受けることなく、日中の負荷力率に近い値を、潮流計測値のみから高い精度で推定することができる。従って、第1の実施形態によれば、事故区間内の太陽光発電装置の出力推定が可能となり、配電線事故復旧時の電力供給に際して融通や系統切替を安定して行うことができる。
【0034】
(第2の実施形態)
(構成と作用)
第2の実施形態について、図5図6を参照して具体的に説明する。第2の実施形態の基本的な構成は上記第1の実施形態と同様である。そのため、同一の構成要素に関しては同一符号を付して説明は省略する。
【0035】
一般に、負荷仮定値の算出に用いる潮流計測値には測定誤差や外れ値が含まれていることが想定される。そのため、測定誤差や外れ値がプロット点群の中で最大Q点や最小P点となった場合、求める負荷特性点に誤差が生じることになる。その結果、負荷特性線の傾きtanθが負荷仮定値の中で負荷真値に近いプロット点群の特徴を表すことができず、負荷力率の推定精度が低下する懸念がある。
【0036】
そこで、第2の実施形態では、図5に示すように、あらかじめ測定誤差及び外れ値を除去値として設定しておき(ステップS51)、負荷真値に近いと想定されるデータ点を負荷特性点として抽出するステップS06を行う前に、前記除去値をプロット点群の中から除外する(ステップS52)。その他の各ステップに関しては上記第1の実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0037】
ステップS52における外れ値等の除外には、その都度適した手法を用いればよい。例えば、Isolation Forestと呼ばれる手法を用いて、全体のプロット点の10%が外れ値であるとして除外を実施してもよい。図6で示した白抜きの〇印が外れ値であり、これらを除外して最大Q点及び最小P点を求め、ステップS07では、抽出した2つの負荷特性点を結んだ負荷特性線(図6の点線)の傾きtanθを算出する。
【0038】
(効果)
第2の実施形態では、潮流計測値に測定誤差や外れ値が存在しても、プロット点群の中から除外することができる。そのため、測定誤差や外れ値のデータ点が最大Q点あるいは最小P点として抽出されることがなくなり、負荷特性点に誤差が生じるおそれがない。従って、原点付近のプロット点群の特徴を抽出する最大Q点及び最小P点を抽出することができる。その結果、最大Q点及び最小P点を結んだ負荷特性線の傾きtanθは、負荷仮定値の中で負荷真値に近いプロット点群の特徴を表すことができ、推定精度の低下を抑制することが可能である。
【0039】
(第3の実施形態)
(構成と作用)
第3の実施形態について、図7図11を参照して具体的に説明する。第3の実施形態の基本的な構成は上記第1の実施形態と同様である。そのため、同一の構成要素に関しては同一符号を付して説明は省略する。図7は、第3の実施形態の概要を示す図である。図7に示す第3の実施形態は、上記第1の実施形態で示した負荷力率推定手法と同様に、潮流計測値を用いた負荷力率推定手法である。
【0040】
第3の実施形態では、図7に示すように、ステップS10で潮流計測値を取得し、取得した潮流計測値をそのままPQ平面にプロットする(ステップS11)。統計的手法により外れ値の除外を行ったのち(S12)、負荷真値に近いデータの抽出を行って(ステップS13)、傾きtanθを求め(ステップS14)、傾きtanθから力率cosθを算出する(ステップS15)。
【0041】
第3の実施形態では、負荷真値に近いデータ点の抽出に際して、データ点の個数密度を用いる。図8図9は潮流計測値のPQ平面上のプロット点の個数密度を示したものであり、等高線は潮流計測値の個数密度を最大値で規格化したものである。図8図9に示す通り、夜間のデータは負荷のみとなるため、ほぼ一定値を取り、ある領域に集中する。
【0042】
本願発明の本来の目的は日中の負荷力率を求めることであるが、実負荷の負荷特性直線が個数密度の最大値となる領域を通過しなければ、夜間の推定結果の誤差が大きくなることが予想される。したがって、第3の実施形態では、潮流計測値の個数密度の最大領域を負荷特性直線が通過すると仮定する。例えば、個数密度の最大領域を円として、この円の中心点を負荷特性直線が通過すると仮定する。
【0043】
また、第3の実施形態では、負荷真値に近いデータ点の抽出に際して、有効電力Pの最大値の平均値を用いる。これは、日中に最も多くの負荷が稼動すると想定し、有効電力Pの最大値を与える最大P点を日中の特徴点とする。ただし、最大P点については、全プロットデータのうちの最大P点を1点だけ選ぶ(図10参照)のではなく、有効電力Pの上位X%のデータ点の平均値を最大P点とする(図11参照)。上位X%は、例えば、5%≦X≦15%とする。
【0044】
第3の実施形態のステップS13では、有効電力Pの上位X%の範囲内という条件を設定しておき、外れ値を除外したプロット点群に関して上位X%の範囲内にプロットされた点か否かを判定する。そして、上位X%の範囲内にプロットされたプロット点群の平均値を算出する。最終的に、個数密度の最大領域に含まれる点と、有効電力Pの上位X%のデータ点の平均値とを、負荷特性点として抽出する。このようにして抽出した2点を結ぶ直線の傾きtanθを求め(ステップS14)、傾きtanθから力率cosθを算出する(ステップS15)。
【0045】
(効果)
第3の実施形態によれば、最大P点を与える点を、複数点の平均値とすることで、潮流計測値の測定誤差や外れ値の影響を軽減することが可能となる。従って、推定精度の低下を抑制することが可能である。また、第3の実施形態では、負荷真値に近いデータ点の抽出に際して、データ点の個数密度を用いることで、夜間の推定結果の誤差を抑えることが可能である。さらに、第3の実施形態では、データ点をプロットするステップにおいて、潮流計測値をそのままデータ点としてプロットするので、効率良くプロット作業を行うことができる。
【0046】
(他の実施形態)
本発明のいくつかの複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0047】
例えば、第1の実施形態では、太陽光発電装置の力率が0.95以下である場合にクラスタリングを適用したが、クラスタリング適用時の太陽光発電装置の力率の閾値は0.95に限らず、適宜変更可能である。さらに、クラスタリング手法は例えばK-Means法が代表的であるが、これにこだわる必要はなく、実際にプロットされた負荷仮定値の形状に適した手法を適宜、採用可能である。
【0048】
配電系統の負荷力率は一日を通して一定なわけではなく、曜日や天候、季節等によって変化すると想定される。また、系統によっては時間帯で特殊な動きをする負荷により、ある時間帯のみ負荷力率が極端に変化する場合が想定される。上記の実施形態に示した手法は、データ点が極端に少なくなければ実施可能であるので、数ヶ月、1ヶ月、1週間、1日などのさまざまな時間単位での負荷力率の推定が可能である。そこで、負荷力率の推定期間の時間単位を変更するステップを、コンピュータが実行するようにしてもよい。
【0049】
また、データ点をプロットするステップにおいて、任意の時間帯のデータ点をプロットするようにして、その時間帯の負荷力率を求めるといった使用方法も可能である。これらの実施形態によれば、目的に応じた期間についての負荷力率推定を実施することができる。例えば、PM3:00~PM4:00という時間帯に絞って潮流計測値を半年間集め、この時間帯の負荷力率を推定することが可能である。
【0050】
さらに、上記第3の実施形態では、負荷真値に近いデータ点の抽出に際して、有効電力Pの最大値の平均値を用いたが、無効電力Qの最小値についても平均値を求めるようにしてもよい。このような実施形態によれば、無効電力Qの最小値について、潮流計測値の測定誤差や外れ値の影響を軽減することが可能となる。
【0051】
また、上記第3の実施形態において、第2の実施形態にて示した除去値を設定し、負荷特性点を抽出する前に除去値をプロット点群の中から除外するようにしてもよい。このような実施形態によれば、上記第3の実施形態において、測定誤差や外れ値のデータ点が負荷特性点に与える影響を抑えることができ、誤差原因のさらなる軽減化が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 潮流計測値取得部
2 データベース
3 計算部
4 プロット部
5 抽出部
6 判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11