(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G11B 20/18 20060101AFI20230331BHJP
G11B 3/00 20060101ALI20230331BHJP
G11B 20/02 20060101ALI20230331BHJP
G11B 3/72 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
G11B20/18 501
G11B20/18 522
G11B3/00 F
G11B20/02 C
G11B3/72
(21)【出願番号】P 2022522502
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041626
(87)【国際公開番号】W WO2021229841
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2020083084
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 忠義
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-094206(JP,U)
【文献】特開昭56-020398(JP,A)
【文献】特開昭56-011650(JP,A)
【文献】実開昭57-087317(JP,U)
【文献】特開2005-182932(JP,A)
【文献】特開平11-177362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 20/18
G11B 3/00
G11B 20/02
G11B 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レコードプレーヤ及び測定装置を備えるレコード再生システムにおける測定装置であって、
プロセッサと、
メモリと、を備え、
前記プロセッサは、前記メモリに記憶されたプログラムを実行することで、
レコード盤に複数記録された前記レコード再生システムの特性を測定するためのテスト信号が前記レコードプレーヤによって再生される際に、前記レコードプレーヤから前記測定装置へ入力される、複数記録された前記テスト信号に応じた複数の入力信号の周波数特性を測定し、
測定された前記複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと、所定の周波数特性との測定誤差を算出し、
前記複数の入力信号の周波数特性のうち前記測定誤差が最も小さい周波数特性を前記レコード再生システムの測定結果として選択し、
選択された前記測定結果を出力する
測定装置。
【請求項2】
前記テスト信号は、Swept Sine信号である
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記レコード盤には、前記テスト信号が複数記録される音溝の位置に対して前記レコード盤の外周側又は内周側に隣り合う位置に、前記レコード盤上の再生速度を検出するための検出信号が記録され、
前記測定装置は、
前記検出信号に基づいて、前記レコード盤上の前記テスト信号が複数記録される位置の再生速度を検出し、
検出された前記再生速度に応じて、前記レコード再生システムのサンプルレートの変換を行う
請求項1又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
レコード盤に複数記録されたレコード再生システムの特性を測定するためのテスト信号が前記レコード再生システムにおけるレコードプレーヤによって再生される際に、前記レコードプレーヤから入力される、複数記録された前記テスト信号に応じた複数の入力信号の周波数特性を測定し、
測定された前記複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと、所定の周波数特性との測定誤差を算出し、
前記複数の入力信号の周波数特性のうち前記測定誤差が最も小さい周波数特性を前記レコード再生システムの測定結果として選択し、
選択された前記測定結果を出力する
測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レコード再生システムにおいてピックアップカートリッジ(以下、カートリッジとも呼ぶ)、又は、ターンテーブルシステムとPhonoイコライザ間の伝送路の諸特性を測定する測定装置、測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パルス幅の短いレイズドコサインパルス波形が記録されたレコード盤を使用して、カートリッジ等の諸特性によって変化するレコード再生システムの特性を測定する技術が開示されている。レコード再生システムの特性は、具体的には、レコードプレーヤからPhonoイコライザ及びアンプ等を備える再生装置へ入力される入力信号の周波数特性(周波数振幅特性及び周波数位相特性等)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、パルス幅の短いレイズドコサインパルス波形を使用したレコード再生システムの特性の測定において、スクラッチノイズ等の外乱要因による影響を受けやすく、S/N比の良い測定をすることが難しい。一方で、S/N比の良い測定を行うためにインパルス信号を時間方向に引き伸ばしたTSP(Time Stretched Pulse)信号等のSS(Swept Sine)信号を使用することが考えられる。しかしながら、レコード盤にSS信号を適用する場合、レコードプレーヤ及びレコード盤に起因する影響により本来の特性を測定できない場合がある。
【0005】
本開示は、レコード再生システムの特性の測定を効果的に行うことができる測定装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における測定装置は、レコードプレーヤ及び測定装置を備えるレコード再生システムにおける測定装置であって、プロセッサと、メモリと、を備え、前記プロセッサは、前記メモリに記憶されたプログラムを実行することで、レコード盤に複数記録された前記レコード再生システムの特性を測定するためのテスト信号が前記レコードプレーヤによって再生される際に、前記レコードプレーヤから前記測定装置へ入力される、複数記録された前記テスト信号に応じた複数の入力信号の周波数特性を測定し、測定された前記複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと、所定の周波数特性との測定誤差を算出し、前記複数の入力信号の周波数特性のうち前記測定誤差が最も小さい周波数特性を前記レコード再生システムの測定結果として選択し、選択された前記測定結果を出力する。
【0007】
本開示における測定方法は、レコード盤に複数記録されたレコード再生システムの特性を測定するためのテスト信号が前記レコード再生システムにおけるレコードプレーヤによって再生される際に、前記レコードプレーヤから入力される、複数記録された前記テスト信号に応じた複数の入力信号の周波数特性を測定し、測定された前記複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと、所定の周波数特性との測定誤差を算出し、前記複数の入力信号の周波数特性のうち前記測定誤差が最も小さい周波数特性を前記レコード再生システムの測定結果として選択し、選択された前記測定結果を出力する処理を含む。
【0008】
本開示におけるプログラムは、上記の測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0009】
本開示におけるレコード盤は、レコード盤であって、レコード再生システムの特性を測定するためのテスト信号が1周以内の音溝に複数記録され、前記レコード盤には、前記テスト信号が複数記録される音溝の前記テスト信号が記録される位置に対して前記レコード盤の外周側又は内周側に隣り合う音溝の位置に、前記レコード盤上の再生速度を検出するための検出信号が記録される。
【発明の効果】
【0010】
本開示における測定装置等によれば、レコード再生システムの特性の測定を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るレコード再生システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、ムービングマグネット型カートリッジにおける、負荷、及び、カートリッジと負荷とを接続する伝送路の等価回路の一例を示す回路図である。
【
図3A】
図3Aは、実施の形態に係るレコード盤の一例を示す上面視図である。
【
図3B】
図3Bは、テスト信号及び再生速度を検出するための検出信号が記録された音溝の一例を示す断面視図である。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態に係るレコード盤の他の一例を示す上面視図である。
【
図4B】
図4Bは、テスト信号及び再生速度を検出するための検出信号が記録された音溝の他の一例を示す断面視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る測定装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、複数の入力信号の周波数特性の測定方法を説明するための図である。
【
図7A】
図7Aは、複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと所定の周波数特性との測定誤差の算出方法を説明するための図である。
【
図7B】
図7Bは、測定結果の選択方法を説明するための図である。
【
図7C】
図7Cは、測定結果の選択方法の具体例を説明するための図である。
【
図8】
図8は、サンプルレートの変換を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0013】
発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
(実施の形態)
以下、
図1から
図8を用いて実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、実施の形態に係るレコード再生システム1の構成の一例を示す図である。
【0016】
レコード再生システム1は、アナログレコードを再生するためのシステムであり、レコードプレーヤ100、再生装置10及びスピーカ80を備える。
【0017】
レコードプレーヤ100は、レコード盤に記録された信号(例えば音声信号等)を再生するための音響装置であり、ターンテーブル101及びカートリッジ102を備える。
【0018】
ターンテーブル101は、レコード盤が載せられて一定の速度で回転(具体的には自転)する回転台である。
【0019】
カートリッジ102は、トーンアーム(図示せず)の先端に設けられ、ターンテーブル101に載せられたレコード盤の音溝をトレースするレコード針を備えるピックアップカートリッジである。カートリッジには、その構造からムービングマグネット型又はムービングコイル型などの様々な構成のカートリッジがある。このようなカートリッジは、レコード針を介してレコード盤の音溝に記録された信号を振動として取得し、取得した振動によりマグネット又はコイルが振動することで電圧を発生させ、アナログの電気信号に変換して出力する。本実施の形態では、カートリッジ102を例えばムービングマグネット型のカートリッジとして説明する。
【0020】
スピーカ80は、後述するアンプ70から出力される信号の電力を音響エネルギーに変換して音を空間に出力する。
【0021】
再生装置10は、レコード盤を再生するレコードプレーヤ100から入力される入力信号の周波数特性を調整したり、増幅したりする装置であり、プロセッサ20、メモリ30、Phonoイコライザ40、A/D変換器50、D/A変換器60、アンプ70を備える。再生装置10は、測定装置の一例である。
【0022】
Phonoイコライザ40は、カートリッジ102から出力された電気信号の周波数振幅特性をフラットな特性に補正するイコライザである。通常、レコード盤はダイナミックレンジを有効に活用するため、カッティング時に周波数に対してエンファシス処理が施される。音源の周波数特性が補正されず、そのままカッティングが行われると、低域では振幅が大きくなる。このため、カッティング時にカッターヘッドの振幅限界を超え、再生時のトレースが困難になる。一方、高域では振幅が小さくなるため、S/N比が低下する。従って、レコード盤の音溝には、予め低域の信号レベルは小さく、高域の信号レベルは大きくなるように補正が行われたうえでカッティングが行われる。この補正には一般的にRIAA(Recording Industry Association of America)が定めた特性カーブが用いられる。再生時には上記の特性カーブと逆特性となるカーブで補正が行われることで周波数特性がフラットな元の特性に復元される。
【0023】
A/D変換器50は、Phonoイコライザ40から出力された電気信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する変換器である。A/D変換器50は、デジタル信号を出力する。
【0024】
D/A変換器60は、後述するデジタルフィルタ13によって周波数特性が調整された信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換する変換器である。D/A変換器60は、アナログ信号を出力する。
【0025】
アンプ70は、D/A変換器60から出力されたアナログ信号を増幅する増幅器である。アンプ70は、例えば、D級アンプ等であってもよい。
【0026】
レコードプレーヤ100が備えるカートリッジ102、カートリッジ102に接続される負荷(例えば再生装置10、具体的には、Phonoイコライザ40)、及び、カートリッジ102と負荷とを接続する伝送路の特性(例えばインピーダンスのミスマッチ等)によって、レコード再生システム1の特性、具体的には、レコードプレーヤ100から再生装置10へ入力される入力信号の周波数特性が変動する。これについて、
図2を用いて説明する。
【0027】
図2は、ムービングマグネット型カートリッジ102における、負荷、及び、カートリッジ102と負荷とを接続する伝送路の等価回路の一例を示す回路図である。
【0028】
再生装置10への入力信号(入力電圧Ei)は、カートリッジ102の開放出力電圧Ec、カートリッジ102の直流抵抗r、カートリッジ102のインダクタンスL、伝送路の浮遊容量C及び負荷抵抗Rに応じた値となり、すなわち、これらの特性に応じて再生装置10への入力信号の周波数特性が変動する。
【0029】
再生装置10は、レコード再生システム1の特性を測定する装置でもあり、具体的には、上述したような、レコードプレーヤ100が備えるカートリッジ102、カートリッジ102に接続される負荷、及び、カートリッジ102と負荷とを接続する伝送路の特性による、再生装置10への入力信号の周波数特性の変動を測定する。再生装置10は、その変動に応じて周波数特性を補正する機能も有していてもよい。再生装置10が有するレコード再生システム1の特性を測定する機能及び周波数特性を補正する機能は、周波数特性測定部11、フィルタ係数算出部12、デジタルフィルタ13及び再生速度検出部14によって実現される。周波数特性測定部11、フィルタ係数算出部12、デジタルフィルタ13及び再生速度検出部14の詳細については後述する。
【0030】
再生装置10がレコード再生システム1の特性を測定する際には、観賞用ではなくレコード再生システム1の特性の測定用のレコード盤がターンテーブル101に載せられて、測定用のレコード盤に記録されたテスト信号が再生される。テスト信号は、TSP信号等のSS信号である。SS信号は、インパルス信号を時間方向に引き伸ばすことでエネルギーを相対的に大きくした信号である。SS信号では、周波数が低周波から高周波に、又は高周波から低周波に時間的に変化する。SS信号を用いることで、S/N比の高い測定を行うことができる。
【0031】
しかしながら、測定用のレコード盤にSS信号を適用する場合、レコード再生システム1の特性を測定する際に、レコードプレーヤ100及びレコード盤に起因する影響を受ける。例えば、レコード盤の反りによりトーンアームが上下に振動することでレコード針に対して適切な針圧がかからず、レコード針がレコード盤から離れることで音溝を正確にトレースできずにカートリッジ102の開放出力電圧Ecが変化してしまうというレコード盤の反りの影響が存在する。例えば、レコード盤のセンターホールの位置ずれ(レコード盤の中心の位置ずれ)又はレコード盤の制作時(カッティング時)のトラック送りによるレコード盤の半径の変化により線速度が変化し音源の再生速度が変化するという半径の変化の影響が存在する。例えば、ターンテーブル101の回転速度のズレにより再生速度が変化するという回転速度のズレの影響が存在する。このように、レコード盤にSS信号を適用した場合には、レコードプレーヤ100及びレコード盤特有の影響によって入力信号の正確な測定が難しいという問題がある。この問題を解決するために、本開示では、レコード盤200及び再生装置10が用いられる。レコード盤200について
図3Aから
図4Bを用いて説明する。
【0032】
図3Aは、実施の形態に係るレコード盤200の一例を示す上面視図である。
【0033】
図3Bは、テスト信号及び再生速度を検出するための検出信号が記録された音溝の一例を示す断面視図である。
【0034】
レコード盤200は、レコード再生システム1の特性の測定専用のレコード盤であり、音溝にレコード再生システム1の特性を測定するためのテスト信号が複数(複数回)記録される。複数回記録されるテスト信号は、それぞれ同じ信号であり、TSP信号等のSS信号である。レコード盤200では、レコード再生システム1の特性を測定するためのテスト信号が1周以内の音溝に複数回記録される。テスト信号が1周以上の音溝に複数回記録される場合には、カッティング時のトラックピッチが小さい場合においてレコード盤200の半径方向に隣り合う音溝間で干渉が発生して、S/N比が劣化するおそれがあるためである。
図3Aには、テスト信号が1/4周程度の音溝に複数回記録される例が示される。このように、テスト信号が1周以内の音溝に複数回記録されることで、S/N比の劣化を抑制できる。
【0035】
レコード盤200には、テスト信号がレコード盤200の外周領域の音溝に複数回記録される。これは、ターンテーブルシステムにおいてターンテーブル101は一定の回転速度(例えば331/3rpm)で回転するため、レコード盤200の内周領域は線速度が遅く、テスト信号がレコード盤200の内周領域の音溝に記録される場合には、S/N比が悪くなるためである。レコード盤200の外周領域の音溝とは、レコード盤200の中心からレコード盤200の外周方向に向かって、レコード盤200の半径の半分よりも離れた位置の音溝のことである。
図3Aには、レコード盤200の中心からテスト信号が記録される音溝までの距離であるR2が、レコード盤200の半径であるR1の半分よりも大きいことが示されており、R2の位置の音溝にSS信号等のテスト信号が複数回記録される。
【0036】
レコード盤200には、テスト信号が複数回記録された音溝の位置に対してレコード盤200の外周側又は内周側に隣り合う位置に、レコード盤200上の再生速度を検出するための検出信号が記録される。例えば、検出信号は単一周波数の正弦波信号であり、331/3rpm等の既知の回転速度でレコード盤200が再生されたときに既知の周波数(例えば1kHz)となるように記録されているため、正弦波信号の周期を予め算出できる。このため、未知の回転速度でレコード盤200が再生されたときのゼロクロス点の時間間隔(正弦波半周期に相当)と既知の回転速度でレコード盤200が再生されたときの予め算出された正弦波信号の周期とを比較することで再生速度を求めることができる。例えば、未知の回転速度でレコード盤200が再生されたときの正弦波信号の隣接するゼロクロス点間のサンプル数と、既知の再生速度でレコード盤200が再生されたときの正弦波信号の隣接するゼロクロス点間のサンプル数(例えばメモリ等に予め記憶される)とを用いてサンプルレート変換率が算出されて、サンプルレート変換が行われる。テスト信号は、検出信号が記録された音溝の位置と隣り合う位置に複数回記録される。レコード盤のセンターホールの位置ずれによるレコード盤の半径の変化、又は、レコード盤のカッティング時のトラック送りによるレコード盤の半径の変化による再生速度の変化は、隣接する音溝であれば等しいとみなせる。このため、レコード盤200上の検出信号の記録された音溝における再生速度(サンプル数)を検出することにより、検出信号が記録された音溝と隣り合うテスト信号が記録された音溝での再生速度を測定することができる。
【0037】
図3A及び
図3Bでは、テスト信号が複数回記録される音溝に対してレコード盤200の外周側に隣り合う音溝に検出信号が記録される例が示される。この場合、検出信号は、音溝の外周側のチャネル(右チャネル(図面ではRchと記載する))に記録される。一般的に、音溝の右チャネルはレコード盤の外周側に位置し、音溝の左チャネル(図面ではLchと記載する)はレコード盤の内周側に位置する。テスト信号が複数回記録される音溝に対してレコード盤200の外周側に隣り合う音溝に検出信号が記録される場合、検出信号が記録された音溝における左チャネルよりも右チャネルのほうが、テスト信号が記録された音溝から遠くなる。これにより、検出信号がテスト信号に与える影響を抑制でき、S/N比の劣化を抑制できる。
【0038】
レコード盤200には、テスト信号が複数回記録される音溝に対してレコード盤200の内周側に隣り合う音溝に、レコード盤200上の再生速度を検出するための検出信号が記録されてもよい。これについて、
図4A及び
図4Bを用いて説明する。
【0039】
図4Aは、実施の形態に係るレコード盤200の他の一例を示す上面視図である。
【0040】
図4Bは、テスト信号及び再生速度を検出するための検出信号が記録された音溝の他の一例を示す断面視図である。
【0041】
図4A及び
図4Bでは、テスト信号が複数回記録される音溝に対してレコード盤200の内周側に隣り合う音溝に検出信号が記録される例が示される。この場合、検出信号は、音溝の内周側のチャネル(左チャネル)に記録される。テスト信号が複数回記録される音溝に対してレコード盤200の内周側に隣り合う音溝に検出信号が記録される場合、検出信号が記録された音溝における右チャネルよりも左チャネルのほうが、テスト信号が記録された音溝から遠くなる。これにより、検出信号がテスト信号に与える影響を抑制でき、S/N比の劣化を抑制できる。
【0042】
テスト信号が複数回記録される音溝に対してレコード盤200の外周側に隣り合う音溝に検出信号が記録される場合には、検出信号をテスト信号よりも先に再生できるため、サンプルレート変換率を先に決定してからテスト信号を再生し、リアルタイムにサンプルレート変換を行うことができる。このため、テスト信号が複数回記録される音溝に対してレコード盤200の内周側に隣り合う音溝に検出信号が記録される場合よりも、外周側に隣り合う音溝に検出信号が記録されるほうが望ましい。テスト信号が複数回記録される音溝に対してレコード盤200の内周側に隣り合う音溝に検出信号が記録される場合には、いったん、テスト信号が再生されてメモリ等に記憶され、次に、検出信号が再生されてサンプルレート変換率が決定されてサンプルレート変換が行われる。
【0043】
テスト信号と検出信号とが同じ音溝の右チャネルと左チャネルとで向かい合うようにして記録されてもよい。ただし、
図3Aから
図4Bに示されるように、テスト信号と検出信号とが1周違いで別の音溝(トラック)に記録されるほうが測定精度の観点から望ましい。
【0044】
次に、周波数特性測定部11、フィルタ係数算出部12、デジタルフィルタ13及び再生速度検出部14の詳細について説明する。
【0045】
再生装置10はプロセッサ20(例えばDSP(Digital Signal Processor))及びメモリ30等を有するコンピュータである。メモリは、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等であり、プロセッサにより実行されるプログラムを記憶することができる。周波数特性測定部11、フィルタ係数算出部12、デジタルフィルタ13及び再生速度検出部14は、メモリ30に格納されたプログラムを実行するプロセッサ20等によって実現される。
【0046】
周波数特性測定部11は、レコード盤200に複数回記録されたレコード再生システム1の特性を測定するためのテスト信号がレコードプレーヤ100によって再生される際に、再生速度検出部14で検出されたテスト信号の再生速度に基づき、テスト信号のサンプルレート変換を行い、再生速度のずれのないテスト信号へ変換する。周波数特性測定部11は、その後に、レコードプレーヤ100から再生装置10へ入力される複数回記録されたテスト信号に応じた複数の入力信号の周波数特性を測定し、測定された複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと、所定の周波数特性との測定誤差を算出し、複数の入力信号の周波数特性のうち測定誤差が最も小さい周波数特性をレコード再生システム1の測定結果として選択し、選択された測定結果を出力する。周波数特性測定部11の詳細については
図5から
図7Cを用いて後述する。
【0047】
フィルタ係数算出部12は、周波数特性測定部11から出力された測定結果に基づいてデジタルフィルタ13のフィルタ係数を算出する。例えば、所望の周波数特性に対して測定結果が示す周波数特性が、特定の周波数においてレベルが高すぎたり、低すぎたりする場合に、測定結果が示す周波数特性が所望の周波数特性に近づくようなフィルタ係数を算出する。フィルタ係数算出部12は、算出したフィルタ係数をデジタルフィルタ13に出力する。
【0048】
デジタルフィルタ13は、レコードプレーヤ100から再生装置10へ入力された入力信号の周波数特性を、フィルタ係数算出部12で算出されたフィルタ係数に応じて調整するフィルタである。例えば、デジタルフィルタ13は、FIR(Finite Impulse Response)フィルタである。
【0049】
再生速度検出部14は、レコード盤200に記録された検出信号に基づいて、レコード盤200上のテスト信号が複数回記録される位置の再生速度を検出する。検出信号には、例えば1kHzの正弦波が用いられる。再生速度検出部14は、正弦波のゼロクロス点ごとに正弦波の半周期の時間を算出し、既知の正弦波の周期と比較することで、時間のずれを検出する。再生速度検出部14の詳細については
図8を用いて後述する。
【0050】
図5は、実施の形態に係る再生装置10(具体的には周波数特性測定部11)の動作の一例を示すフローチャートである。例えば、ユーザがレコードプレーヤ100のターンテーブル101にレコード盤200を載せてレコード盤200に複数回記録されたテスト信号の再生を開始してから、再生装置10は、
図5に示される動作を行う。
【0051】
再生装置10は、レコード盤200に複数回記録されたテスト信号がレコードプレーヤ100によって再生される際に、レコードプレーヤ100から再生装置10へ入力される、複数回記録されたテスト信号に応じた複数の入力信号の周波数特性を測定する(ステップS11)。これについて、
図6を用いて説明する。
【0052】
図6は、複数の入力信号の周波数特性の測定方法を説明するための図である。
【0053】
図6に示されるように、例えば、レコード盤200の音溝の左チャネルにテスト信号(SS信号)が5つ記録され、右チャネルにテスト信号が5つ記録されているとする。
図6に示されるように、レコード盤200の音溝にトリガー信号が記録されていてもよい。トリガー信号によって、レコード盤200におけるテスト信号の開始と終了のタイミングを認識することができる。まず左チャネルに記録されたテスト信号が測定され、次に右チャネルに記録されたテスト信号が測定される例が示されているが、まず右チャネルに記録されたテスト信号が測定され、次に左チャネルに記録されたテスト信号が測定されてもよい。音溝において向かい合う右チャネルと左チャネルとにテスト信号が記録され、右チャネルに記録されたテスト信号と左チャネルに記録されたテスト信号とが同時に測定されてもよい。
【0054】
再生装置10は、レコード盤200に複数回記録されたテスト信号を再生するレコードプレーヤ100から再生装置10へ入力される、複数回記録されたテスト信号に応じた複数の入力信号からそれぞれテスト信号を抽出する。その際に、再生装置10は、再生速度検出部14によって検出されたテスト信号の再生速度に基づき、抽出したテスト信号のサンプルレート変換を行い、再生速度のずれのないテスト信号へ変換する。再生装置10は、サンプルレート変換後のテスト信号に対して、測定用のレコード盤200にカッティングされたテスト信号と複素共役を取った信号(例えば逆TSP信号)との畳み込み演算を行うことで、カートリッジ102、伝送路及び負荷の入力インピーダンスを組み合わせたインパルス応答を推定する。再生装置10は、推定されたインパルス応答に対してFFT(Fast Fourier Transform)を行うことで周波数特性(具体的には、周波数振幅特性及び周波数位相特性)を取得する。再生装置10は、以上の処理をレコード盤200に複数回記録されたテスト信号のそれぞれに対して同様に行い、それぞれの周波数特性を取得する。このとき、上述したようなレコードプレーヤ100及びレコード盤200に起因する影響によって、複数回記録されたテスト信号のうちいずれかの測定結果には、測定誤差が発生する場合がある。しかし、本開示では、レコード盤200にテスト信号が複数回記録されているため、測定誤差の少ない周波数特性を選択し採用することで、測定誤差の影響を低減することが可能となる。
【0055】
図5での説明に戻り、次に、再生装置10は、測定された複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと、所定の周波数特性との測定誤差を算出する(ステップS12)。例えば、
図2のムービングマグネット型カートリッジ102の例では、カートリッジ102、負荷、及び、カートリッジ102と負荷とを接続する伝送路の等価回路においてはカートリッジ102のインダクタンスと伝送路の浮遊容量と負荷抵抗により決定される回路の共振周波数において周波数振幅特性にピークが発生するが、それ以外の周波数帯域では周波数特性は平坦な特性になることが予想される。ムービングマグネット型カートリッジ102においては、回路の共振周波数は凡そ5kHzから20kHzの間に発生することが一般的である。従って共振周波数以外の周波数帯域で周波数特性が平坦でない場合、測定の際に誤差が発生したとみなすことができる。再生装置10は、このような特徴に基づき、複数回記録されたテスト信号から取得された周波数特性結果の中から、共振周波数以外の帯域の測定誤差を算出し、測定誤差が最も小さい周波数特性をレコード再生システム1の測定結果として選択する(ステップS13)。これについて、
図7A及び
図7Bを用いて説明する。
【0056】
図7Aは、複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと所定の周波数特性との測定誤差の算出方法を説明するための図である。
図7Aの上側には、レコードプレーヤ100から再生装置10へ入力される複数回記録されたテスト信号に応じた複数の入力信号が示され、
図7Aの下側には、複数の入力信号の周波数特性(ここでは一例として周波数振幅特性)が示される。
【0057】
図7Bは、測定結果の選択方法を説明するための図である。
【0058】
例えば、
図7Aの上側には、5つの入力信号が示されている。5つの入力信号は、レコード盤200に5つ記録されたテスト信号に対応している。レコード盤200に5つ記録されたテスト信号はそれぞれ同じ信号であるため、理想的には5つの入力信号も同じ波形になる。しかし、例えばレコード盤200の反りの影響を受けて、左から2つ目の入力信号が他の入力信号と比べて波形が大きく異なっていることがわかる。これに応じて、
図7Aの下側に示されるように、左から2つ目の周波数振幅特性(測定結果2)が他の周波数振幅特性と比べて大きく特性が異なっていることがわかる。
【0059】
所定の周波数特性は、レコードプレーヤ100及びレコード盤200に起因する影響を受けていないときに想定される、テスト信号を再生するレコードプレーヤ100から再生装置10への入力信号の周波数特性(周波数振幅特性及び周波数位相特性)である。つまり、所定の周波数特性は、レコードプレーヤ100がテスト信号を再生する際に再生装置10へ入力される理想的な入力信号の周波数特性である。例えば、カートリッジ102、伝送路及び負荷の入力インピーダンスにより生じる周波数振幅特性のピーク・ディップとは異なる周波数特性の変化がある場合、テスト信号を再生するレコードプレーヤ100から再生装置10への入力信号の周波数特性と所定の周波数特性との測定誤差は大きくなる。再生装置10は、5つの周波数振幅特性のそれぞれと所定の周波数振幅特性との測定誤差を
図7Bに示されるように算出し、5つの周波数振幅特性のうち測定誤差が最も小さい周波数振幅特性(測定結果4)をレコード再生システム1の測定結果として選択する。ここで、
図7Cを用いて測定結果の選択方法の具体例について説明する。
【0060】
図7Cは、測定結果の選択方法の具体例を説明するための図である。
【0061】
再生装置10は、例えば
図7Cのように測定された周波数振幅特性(実線)に対して、周波数オクターブ毎(例えば1オクターブ毎)に帯域を分割し、理想的な入力信号の周波数特性(破線)との誤差を算出する。再生装置10は、各オクターブの誤差の総和を計算し、複数回記録されたテスト信号から取得された複数の入力信号の測定結果のうち、誤差の総和が最も小さくなった入力信号を測定結果として選択する。
図7Cでは振幅特性に着目して測定結果が選択される例が示されるが、同様に位相特性に着目して測定結果が選択されてもよい。
【0062】
ターンテーブル101の回転速度のズレの影響で、テスト信号の再生速度に変化が生じて測定誤差が大きくなることがあるが、本開示では、検出信号を用いたサンプルレート変換によりこれらの影響を相殺できる。これについて
図8を用いて説明する。
【0063】
図8は、サンプルレートの変換を説明するための図である。
【0064】
例えば、再生速度に変化が生じる場合と生じない場合とで、
図8の上側と中央に示されるように、5つ記録されたテスト信号の再生が終了するまでに時間のズレが生じる。そこで、
図8の中央に示されるように、テスト信号に隣接する検出信号を用いたサンプルレート変換によって、
図8の下側に示されるように、このような時間のズレを相殺でき、再生速度を本来の再生速度に戻すことができる。レコード盤200には、
図4Aに示されるように、検出信号の記録開始位置(角度)とテスト信号の記録開始位置とが同じになるように、また、検出信号の記録終了位置(角度)とテスト信号の記録終了位置とが同じになるように、検出信号とテスト信号とが1周違いで隣接する音溝に記録されている。このため、検出信号から得られるサンプルレート変換率をテスト信号に対応付けることができる。
【0065】
例えば、検出信号には正弦波信号が用いられ、検出信号の振幅の変化から検出信号のゼロクロス点の時間間隔(正弦波信号の半周期)ごとのサンプル数(Ni(iは自然数))が算出される。テスト信号の記録開始位置から記録終了位置までの間の、検出信号に対応する位置に、検出信号の半周期ごとのサンプル数が対応付けられる。例えば、検出信号及びテスト信号のそれぞれについて、最初と最後にトリガー信号が配置されることで、互いのトリガー信号の位置を基準にサンプル数が対応付けられる。トリガー信号が配置されなくてもよく、例えば、無音状態から信号が検出され始めたタイミングを基準に対応付けがなされてもよい。
【0066】
再生速度に変化が生じない場合の、検出信号の半周期ごとの理想のサンプル数Mが既知として例えばメモリ等に記録され、検出信号の半周期ごとに対応するテスト信号における区間で、変換率M/Niでサンプルレート変換が行われる。例えば、理想のサンプル数Mが100であるのに対して、N1=110、N2=100の場合、テスト信号の最初の区間(すなわちトリガー信号の直後の検出信号における半周期に対応するテスト信号の区間)に対して、M/N1=100/110の変換率でサンプルレート変換が行われる。これにより、この区間は100サンプルとなり、理想のサンプル数に変換することができる。つまり、この区間について本来の再生速度になるようにサンプルレート変換が行われる。次の区間は、N2=100であり、M/N2=100/100の変換率となり、サンプルレート変換は行われない。以後も同様に検出信号における半周期に対応する区間ごとにサンプルレート変換が適用される。ゼロクロス点の時間間隔は正弦波の半周期ごとに求めることができるため、再生速度(すなわちサンプル数)も正弦波の半周期ごとに取得することができる。取得された再生速度に合わせてサンプルレートの変換を行うことで、正確に再生速度のずれのない元のデータ数に戻すことが可能となる。計算時間を短縮するために、正弦波の半周期ではなく、複数周期の平均値を用いてサンプルレートの変換を行ってもよい。
【0067】
サンプルレート変換を単純化することもできる。例えば、検出信号を最初から最後まで再生したときのサンプル数をNとし、このときの理想のサンプル数をMとして、テスト信号全体を変換率M/Nでサンプルレート変換してもよい。この場合、検出信号は振幅が検出可能な信号であればなんでもよく、ホワイトノイズ又はパルス信号などでもよい。検出信号は、トリガー信号が配置されないときに選択可能な検出信号に加え、無音(無信号)であってもよい。
【0068】
図5での説明に戻り、次に、再生装置10は、選択された測定結果を出力する(ステップS14)。これにより、フィルタ係数算出部12は、レコードプレーヤ100及びレコード盤200に起因する影響の少ない周波数特性をもとに、デジタルフィルタ13のフィルタ係数を算出することができる。
【0069】
以上説明したように、レコードプレーヤ100及び再生装置10を備えるレコード再生システム1における再生装置10であって、プロセッサ20と、メモリ30と、を備え、プロセッサ20は、メモリ30に記憶されたプログラムを実行することで、レコード盤200に複数記録されたレコード再生システム1の特性を測定するためのテスト信号がレコードプレーヤ100によって再生される際に、レコードプレーヤ100から再生装置10へ入力される、複数記録されたテスト信号に応じた複数の入力信号の周波数特性を測定し、測定された複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと、所定の周波数特性との測定誤差を算出し、複数の入力信号の周波数特性のうち測定誤差が最も小さい周波数特性をレコード再生システム1の測定結果として選択し、選択された測定結果を出力する。
【0070】
これによれば、レコード盤200にレコード再生システム1を測定するためのテスト信号が複数記録されており、テスト信号の測定が全て失敗する確率は低くなっている。このため、上記測定誤差が大きい周波数特性、すなわち、測定に失敗した周波数特性をレコード再生システム1の測定結果として選択せずに、上記測定誤差が最も小さい周波数特性、すなわち、正確に測定できた周波数特性をレコード再生システム1の測定結果として選択することができる。よって、レコード再生システムの特性の測定を効果的に行うことができる。
【0071】
例えば、テスト信号は、SS信号であってもよい。
【0072】
これによれば、S/N比の良い測定が可能となる。
【0073】
例えば、レコード盤200には、テスト信号が複数記録される音溝の位置に対してレコード盤200の外周側又は内周側に隣り合う位置に、レコード盤200上の再生速度を検出するための検出信号が記録され、再生装置10は、検出信号に基づいて、レコード盤200上のテスト信号が複数記録される位置の再生速度を検出し、検出された再生速度に応じて、レコード再生システム1のサンプルレートの変換を行ってもよい。
【0074】
これによれば、レコード盤200のセンターホールの位置ずれによるレコード盤200の半径の変化、又は、レコード盤200のカッティング時のカーターヘッドのトラック送りによるレコード盤200の半径の変化により発生する再生速度の変化を相殺することができ、測定誤差を低減できる。
【0075】
レコード盤200は、レコード再生システム1の特性を測定するためのテスト信号が1周以内の音溝に複数記録される。
【0076】
これによれば、レコード盤200にレコード再生システム1の特性を測定するためのテスト信号が複数記録されており、テスト信号の測定が全て失敗する確率は低くなっている。このため、再生装置10等がレコード盤200を用いてレコード再生システム1の特性の測定を行うことで、レコード再生システム1の特性の測定を効果的に行うことができる。テスト信号が1周以内の音溝に複数記録されるため、半径方向に隣り合う音溝間で干渉が発生しにくくなり、S/N比の劣化を抑制できる。
【0077】
例えば、テスト信号は、SS信号であってもよい。
【0078】
これによれば、S/N比の良い測定が可能となる。
【0079】
例えば、テスト信号がレコード盤200の外周領域の音溝に複数記録されていてもよい。
【0080】
これによれば、レコード盤200の外周領域は再生速度が速いため、S/N比の劣化を抑制できる。
【0081】
例えば、レコード盤200には、テスト信号が複数記録される音溝の位置に対してレコード盤200の外周側又は内周側に隣り合う位置に、レコード盤200上の再生速度を検出するための検出信号が記録されていてもよい。
【0082】
これによれば、レコード盤200のセンターホールの位置ずれによるレコード盤200の半径の変化、又は、レコード盤200のカッティング時のカーターヘッドのトラック送りによるレコード盤200の半径の変化により発生する再生速度の変化を検出することができる。
【0083】
例えば、検出信号は、テスト信号が複数記録される音溝に対してレコード盤200の外周側に隣り合う音溝内の右チャネルの壁に記録されていてもよい。
【0084】
これによれば、S/N比の劣化を抑制できる。
【0085】
例えば、検出信号は、テスト信号が複数記録される音溝に対してレコード盤200の内周側に隣り合う音溝内の左チャネルの壁に記録されていてもよい。
【0086】
これによれば、S/N比の劣化を抑制できる。
【0087】
(その他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略等を行った実施の形態にも適応可能である。上記実施の形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0088】
例えば、上記実施の形態では、テスト信号がSS信号である例を説明したが、これに限らない。例えば、テスト信号は、測定の対象となる周波数成分を含む既知の信号(例えば、通常の音楽、ホワイトノイズ又はピンクノイズ等)であれば特に限定されない。
【0089】
例えば、上記実施の形態では、レコード盤200に再生速度の検出信号が記録される例について説明したが、レコード盤200に再生速度の検出信号が記録されなくてもよい。
【0090】
例えば、上記実施の形態では、再生装置10が再生速度検出部14を備える例について説明したが、再生装置10は、再生速度検出部14を備えていなくてもよい。
【0091】
本開示は、再生装置10として実現できるだけでなく、再生装置10を構成する構成要素が行うステップ(処理)を含む測定方法として実現できる。
【0092】
具体的には、測定方法は、
図5に示されるように、レコード盤に複数記録された、レコード再生システムの特性を測定するためのテスト信号がレコード再生システムにおけるレコードプレーヤによって再生される際に、レコードプレーヤから入力される、複数記録されたテスト信号に応じた複数の入力信号の周波数特性を測定し(ステップS11)、測定された複数の入力信号の周波数特性のそれぞれと、所定の周波数特性との測定誤差を算出し(ステップS12)、複数の入力信号の周波数特性のうち測定誤差が最も小さい周波数特性をレコード再生システムの測定結果として選択し(ステップS13)、選択された測定結果を出力する(ステップS14)処理を含む。
【0093】
例えば、測定方法は、コンピュータ(コンピュータシステム)によって実行されてもよい。そして、本開示は、測定方法に含まれるステップを、コンピュータに実行させるためのプログラムとして実現できる。さらに、本開示は、そのプログラムを記録したCD-ROM等である非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体として実現できる。
【0094】
例えば、本開示が、プログラム(ソフトウェア)で実現される場合には、コンピュータのCPU、メモリ及び入出力回路等のハードウェア資源を利用してプログラムが実行されることによって、各ステップが実行される。つまり、CPUがデータをメモリ又は入出力回路等から取得して演算したり、演算結果をメモリ又は入出力回路等に出力したりすることによって、各ステップが実行される。
【0095】
上記実施の形態の再生装置10に含まれる構成要素は、集積回路(IC:Integrated Circuit)であるLSI(Large Scale Integration)として実現されてもよい。
【0096】
集積回路はLSIに限られず、専用回路又は汎用プロセッサで実現されてもよい。プログラム可能なFPGA、又は、LSI内部の回路セルの接続及び設定が再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサが、利用されてもよい。
【0097】
さらに、半導体技術の進歩又は派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて、再生装置10に含まれる構成要素の集積回路化が行われてもよい。
【0098】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面及び詳細な説明を提供した。
【0099】
したがって、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0100】
上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示は、レコード再生システムの特性を測定する装置等に適用できる。
【符号の説明】
【0102】
1 レコード再生システム
10 再生装置
11 周波数特性測定部
12 フィルタ係数算出部
13 デジタルフィルタ
14 再生速度検出部
20 プロセッサ
30 メモリ
40 Phonoイコライザ
50 A/D変換器
60 D/A変換器
70 アンプ
80 スピーカ
100 レコードプレーヤ
101 ターンテーブル
102 カートリッジ
200 レコード盤