(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】フルーツプレパレーション
(51)【国際特許分類】
A23L 29/30 20160101AFI20230403BHJP
A23C 9/133 20060101ALI20230403BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20230403BHJP
【FI】
A23L29/30
A23C9/133
A23L19/00 A
(21)【出願番号】P 2016177091
(22)【出願日】2016-09-09
【審査請求日】2019-08-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2015177125
(32)【優先日】2015-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 允
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】▲吉▼澤 英一
【審判官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4342866(US,A)
【文献】特開2010-279253(JP,A)
【文献】特開2006-211940(JP,A)
【文献】Front Microbiol.Published online 2015 Apr 10,vol.6,p.288
【文献】CP Kelco,Xanthan Book 8th edition,2008,p.1-32
【文献】スクシノグリカンの食品への応用,日本調理科学会誌,2015年9月5日,vol.48,p.331-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23L
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロップ部とフルーツ(果肉)部からなるフルーツプレパレーションであって、シロップ部にウェランガムを
、フルーツプレパレーション全量に対して0.05~0.8質量%の割合で含有することを特徴とする
、ソフトヨーグルト用フルーツプレパレーション。
【請求項2】
シロップ部に、ウェランガムとともに、キサンタンガム、グァーガム、及び澱粉から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1に記載するソフトヨーグルト用フルーツプレパレーション。
【請求項3】
ソフトヨーグルトに、請求項1又は2に記載の
ソフトヨーグルト用フルーツプレパレーションを添加することを特徴とする、フルーツ含有ソフトヨーグルトの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルーツを糖やその他固形分を含有する溶液中で加工したフルーツプレパレーションに関する。詳細には、シロップ中でのフルーツの分散安定性が良く、多糖類特有のぬめり等が少なくキレの良い食感を有するフルーツプレパレーションに関する。また、ヨーグルトなどに添加した際に凝集物の発生がほとんどないフルーツプレパレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
フルーツプレパレーションとは、フルーツを糖やその他固形分を含有する溶液(以下、「シロップ」と言う)中で加工したものであり、ヨーグルトやアイスクリームなどにフルーツを添加する際、生のフルーツに代えて使用される果実加工食品である。これらフルーツプレパレーションには、シロップ中でのフルーツの分散安定性やヨーグルト、アイスクリームなどの食品との混合性を良好にするために、適度な粘度を付与することが行われている。
【0003】
例えば、フルーツプレパレーションにキサンタンガム、グァーガム等のガム質を含ませるものや、ガム質と低メトキシルペクチンの両者を添加してなるフルーツソース(特許文献1)や、容器に冷凍果肉を充填した後、予め糖液にグァーガム、ローカストビーンガム等の増粘剤等を分散混合しておいた液部を充填し、加熱、冷却するフルーツソース状物質の製造方法(特許文献2)などがある。しかし、キサンタンガム、ペクチン、グァーガムなどを使用した場合、シロップ中のフルーツ等の分散安定性については良好であるが、ヨーグルトなどの食品に添加した場合、組織に凝集が生じたり、食感がぬめり、重く、キレが悪くなるという問題点がある。
【0004】
また、安定剤と、果実、野菜等の原料とを加熱することなく混合し、容器、包材等に充填、密封し、次に高くとも75℃の温度で加熱する、ゲル状又はペースト状の形態にあるジャム、フィリング、ソース等の食品の製造方法(特許文献3)において、使用可能な安定剤にペクチン、アルギン酸ナトリウム、ジェランガム、カラギナン、グァーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム及びα化澱粉などが挙げられている。しかし、ジェランガムは脱アシル型であってもネイティブ型であっても、カチオン存在条件中では、融点以下である為、完全に溶解出来ない場合があり、使用可能な系が限定されることが予想される。また、特許文献3のジャム等はゲル状、ペースト状となる食品の製造を目的としており、シロップ中でのフルーツの分散安定性やヨーグルト等に添加した時の食感改良などを課題としていない。
【0005】
更には、果肉入りヨーグルトにネイティブ型ジェランガムなどの増粘剤を使用することも提案されている。例えば、原料乳と乳酸菌とネイティブ型ジェランガムと固形食品とを含む混合原料を発酵させるヨーグルトの製造方法や(特許文献4)、固形物がヨーグルトのカード全体にほぼ均一に分散しているヨーグルトにおいて、スタビライザーとしてアルギン酸を使用するヨーグルト(特許文献5)などが記載されている。しかし、これらネイティブ型ジェランガムやアルギン酸を発酵前から使用すると、発酵中及び発酵後のヨーグルトが凝集したり、食感においても、ざらつきが残り口溶けの良さが失われたりすることがある。また、添加量が多くなると発酵前の混合原料の粘度が高くなる傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平3-52942号公報
【文献】特開2003-102443公報
【文献】特開平11-243877号公報
【文献】特開2001-95482号公報
【文献】特開平2-227028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたものであり、シロップ中でのフルーツの分散安定性が良好であり、多糖類特有のぬめり等が少なくキレのよい食感となるフルーツプレパレーションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねたところ、フルーツプレパレーションに使用する安定剤としてウェランガムを含むことにより、シロップ中でのフルーツの分散安定性が良好であり、かつ多糖類特有のぬめり等が少なくキレの良い食感となることを見出した。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づいて開発されたものであり、下記の態様を含むものである:
項1
ウェランガムを含有することを特徴とするフルーツプレパレーション。
項2
ソフトヨーグルト用フルーツプレパレーションである、項1記載のフルーツプレパレーション。
項3
項1又は2に記載のフルーツプレパレーションを添加することを特徴とする、フルーツ含有ソフトヨーグルトの調製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、シロップ中でのフルーツの分散安定性が良好であり、かつ多糖類特有のぬめり等が少なくキレの良い食感となるフルーツプレパレーションを調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフルーツプレパレーションは、シロップ部とフルーツ(果肉)部とからなり、シロップ部にウェランガムを安定剤として使用することを特徴とする。
【0012】
本発明で使用するウェランガムは、スフィンゴモナス属細菌(Sphingomonas sp.)の培養液から得られた多糖類を主成分とするものである。簡便には、一般に流通している製品を利用することも可能であり、具体的には三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のビストップW等が例示できる。
【0013】
本発明におけるフルーツプレパレーションへのウェランガムの添加量は、調製するフルーツプレパレーションの種類や含まれる原料によって適宜調整することができるが、例えば、フルーツプレパレーション全量(シロップ部及びフルーツ部)に対し、ウェランガムを0.05~1.0質量%、好ましくは0.2~0.5質量%を添加することが望ましい。添加量が0.05質量%より低いと分散安定効果が不十分となり、一方、1.0質量%以上添加してもそれ以上の効果は見込めず、むしろ粘度等の上昇により製造・作業効率が低下する。
【0014】
また、安定剤として、ウェランガムを単独で添加しても良いが、キサンタンガム、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カラギナン、ネイティブ型ジェランガム及び澱粉から選ばれる1種又は2種以上を併用して使用することも出来る。従来、キサンタンガム、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カラギナン、ネイティブ型ジェランガム及び澱粉などの安定剤を使用することで、シロップ中にフルーツを分散させることは可能であったが、分散安定性を高める為に、非常に高粘度にする必要があり、ヨーグルトなどの食品に添加した場合、食感がぬめる、重くなる、組織が凝集しざらつきを生じるといった問題点があった。
【0015】
ウェランガムとともに、キサンタンガム、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カラギナン、ネイティブ型ジェランガム及び澱粉から選ばれる1種又は2種以上を併用する場合、フルーツプレパレーション中のキサンタンガム、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カラギナン、ネイティブ型ジェランガム及び澱粉から選ばれる1種又は2種以上の添加量としては、フルーツプレパレーション全量(シロップ部及びフルーツ部)に対して、0.01~2.0質量%、好ましくは、0.03~1.0質量%、更に好ましくは0.05~0.8質量%を挙げることができる。
【0016】
本発明により、ウェランガムを単独もしくは前記安定剤と併用して使用することで、シロップ中でのフルーツの分散安定性が良好であり、多糖類特有のぬめり等が少なくキレの良い食感を有するフルーツプレパレーションを調製することができる。したがって、本発明により得られるフルーツプレパレーションをヨーグルトなどの食品に添加した場合であっても、当該食品にぬめり等の食感の悪化が生じることが抑制される。また、本発明により得られるフルーツプレパレーションは、ヨーグルトなどの食品に添加しても凝集物の発生がほとんどないため、当該食品にざらつき等の食感の悪化が生じることが抑制される。
更には、本発明により得られるフルーツプレパレーションは、その粘度が低い場合であっても、ソフトヨーグルトと混合した際のソフトヨーグルトに対する粘度付与性に優れ、ソフトヨーグルトの保形性の向上に寄与する。
【0017】
なお、本発明の効果に悪影響を与えない限度で、他の安定剤を添加しても良い。例えば、脱アシル型ジェランガム、寒天、ゼラチン、乳清タンパク質、アラビアガム、グルコマンナン、サイリュームシードガム、プルラン、タマリンドシードガム、トラガントガム、カラヤガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、マクロホモプシスガム、ガティガム、ラムザンガム、スクシノグリカン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、微小繊維状セルロース、発酵セルロース、大豆多糖類及びデキストリンなどが挙げられる。
【0018】
また、シロップは、水溶性固形分(Brix)が10~80質量%程度になるように任意に調整して使用することが望ましい。水溶性固形分は食用可能な水溶性の固形分の添加量を調整することにより行うことができる。一般的な水溶性固形分の成分としては、糖質を挙げることができるが、これに限定されず使用することができる。
【0019】
糖質としては、砂糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、水飴、還元水飴、果糖ブドウ糖液糖、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール等)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)等の糖質を使用することが出来る。なお、糖質のみで甘味が足りない場合は、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末、アドバンテーム等の高甘味度甘味料を添加しても良い。
【0020】
本発明において、フルーツ(果肉)部で使用するフルーツは、食用可能であるものであれば特に制限はなく、例えば、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、梨、桃、りんご、ミカン、ブドウ、パイナップル、メロン、キーウィ、バナナ、アロエ等の果肉・葉肉・種子・果皮などを挙げることができ、適宜カットしたり、ピューレ状やすりおろし状としたり、任意の形状で使用することができる。また、これらのフルーツを模したゼリーであってもよい。なお、フルーツプレパレーション全量(シロップ部及びフルーツ部)に対して、前記フルーツを1~90質量%程度使用することが出来る。さらに、フルーツの全部或いは一部を、寒天ゲル、ナタデココ、杏仁豆腐などのカット品に代えてもよい。
【0021】
更には、本発明のフルーツプレパレーションは、本発明の効果を妨げない範囲において、香料、色素、酸味料、風味調整剤、酸化防止剤等などの副原料を配合することができる。また、必要に応じて、ビタミン類、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等のカルシウム類、鉄、マグネシウム、リン、カリウム等のミネラル類などを配合してもよい。これらはシロップ部に予め配合してもおいても良いし、調製したシロップにフルーツと共に配合しても良い。
【0022】
本発明のフルーツプレパレーションの製造方法としては、従来の方法に準じて製造すればよい。例えば、ウェランガム単独或いはキサンタンガム、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、カラギナン、ネイティブ型ジェランガム及び澱粉から選ばれる1種又は2種以上を併用する安定剤及び糖質を混合し、ついで、この混合物を水に加えて加熱溶解してシロップを調製し、フルーツと必要に応じて副原料を加え、更に加熱し、必要に応じて加熱殺菌工程を経た後、冷却して製造する方法を例示することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、文中、「%」は「質量%」を意味し、「*」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0024】
下記の処方及び調製方法に従って各種安定剤を使用したフルーツプレパレーションを調製した。
<処方>
リンゴプレザーブ 20.0
砂糖 30.0
安定剤 表1及び2参照
クエン酸三ナトリウム 0.05
50%クエン酸溶液 pH3.8まで
イオン交換水にて全量 100 %
【0025】
<調製方法>
1)イオン交換水に砂糖、及び安定剤を加え、80℃にて10分間撹拌した。
2)リンゴプレザーブ、クエン酸三ナトリウム、及び50%クエン酸溶液を加え、pHを3.8に調整し、撹拌した。
3)85℃にて30分間殺菌後、10℃まで冷却した。
【0026】
<ヨーグルトとの混合方法>
市販のソフトヨーグルトとフルーツプレパレーションを8:2の比率で混合した。
【0027】
【0028】
【0029】
<評価方法>
・果肉の分散安定性:殺菌直後の果肉の分散状態を目視にて確認した。
・粘度:B型粘度計にて、測定温度10℃、ローターNo.3及び4、回転数30rpm、1分後の粘度を測定した。
・食感:官能評価した。
・ヨーグルトと混合後の組織の荒れ:凝集物の有無・状態を目視にて確認した。
【0030】
<評価>
安定剤としてウェランガムを含まないフルーツプレパレーション(比較例1~8)では、フルーツの分散安定性に劣りフルーツが浮上してしまうか、フルーツの分散安定性が良好であってもぬめりや糊感といった食感の悪化が生じた。また、比較例1、2、5及び6では、ソフトヨーグルトとの混合後に凝集物が目視ではっきりと確認できる程度に発生した。
一方、安定剤としてウェランガムを含むフルーツプレパレーション(実施例1~6)では、フルーツの分散安定性が良好であり、かつ、ぬめりや糊感といった食感の悪化が抑制され、キレのよい食感であった。更には、ソフトヨーグルトとの混合後であっても食感にぬめりや糊感はなく、また凝集物の発生が抑制されるため、食感にざらつきは生じなかった。
【0031】
また、実施例1~6は、フルーツプレパレーションの粘度が低粘度であるにもかかわらず、ソフトヨーグルトに対する粘度付与性に非常に優れており、ソフトヨーグルトの保形性の向上に寄与することがわかった。
【0032】
なお、ソフトヨーグルトとフルーツプレパレーション(実施例1~3)を7:3の比率で混合したところ、凝集物の発生はほとんどなく、目立たなかった。