(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
C09J 7/35 20180101AFI20230403BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20230403BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230403BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230403BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230403BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C09J7/35
C09J123/26
B32B27/00 D
B32B27/32 Z
B32B27/32 101
B32B15/08 N
B32B15/085 Z
(21)【出願番号】P 2019176236
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 真哉
(72)【発明者】
【氏名】小金丸 愛
(72)【発明者】
【氏名】奥村 久雄
(72)【発明者】
【氏名】杉木 友哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】今堀 誠
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138639(JP,A)
【文献】特開2013-91702(JP,A)
【文献】特開2004-339384(JP,A)
【文献】特開2005-114048(JP,A)
【文献】特開2018-147700(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142716(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152161(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/139016(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/078134(WO,A1)
【文献】特開2007-188718(JP,A)
【文献】国際公開第2018/186463(WO,A1)
【文献】特開2016-162622(JP,A)
【文献】国際公開第2001/004170(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、
前記樹脂基材の少なくとも一方の表面に設けられた易接着層と、
前記易接着層の前記樹脂基材とは反対側の表面に設けられた接着性樹脂層と、を有し、
前記接着性樹脂層は、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有し、酸価が0.01mgKOH/g~6.5mgKOH/gであるポリオレフィンを含有し、
表面自由エネルギーに占める双極子項の割合が0.01%~5.0%である金属部材を接着するための積層体。
【請求項2】
前記易接着層の溶解パラメーターが、前記接着性樹脂層の溶解パラメーターより大きく、前記樹脂基材の溶解パラメーターより小さく、前記易接着層の溶解パラメーターと前記接着性樹脂層の溶解パラメーターとの差の絶対値が、3.0(J/cm
3)
1/2以下である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記易接着層の厚みが、8nm~200nmである請求項1又は請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記樹脂基材のガラス転移温度が、90℃以上である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂基材の両面に設けられた前記易接着層と、前記易接着層の前記樹脂基材とは反対側の表面にそれぞれ設けられた前記接着性樹脂層と、を有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記酸性基が、カルボン酸基を含む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記酸無水物基が、カルボン酸無水物基を含む請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記ポリオレフィンがプロピレン単位を含み、前記プロピレン単位の含有量が、ポリオレフィンに対して、50質量%以上である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記ポリオレフィンの酸価が、0.01mgKOH/g~3.0mgKOH/gである請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記接着性樹脂層が、スチレン系熱可塑性エラストマーをさらに含有する請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、前記ポリオレフィン及び前記スチレン系熱可塑性エラストマーの合計に対して、20質量%以下である請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記接着性樹脂層の酸価が、0.01mgKOH/g~6.5mgKOH/gである請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト型の接着剤組成物は、フィルム状又はシート状に加工し、部材の表面に積層された接着性フィルム又はシートとして、電気分野、自動車分野及びその他の工業分野等の様々な産業分野で利用されている。これら分野で用いられる、鉄、アルミニウム、チタン及びその他金属等、並びにそれらの合金等の金属部材を接着するために、酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂(以下、「酸変性ポリオレフィン」という)を主成分とするホットメルト型組成物を用いると、比較的良好な接着強度を有する接合体が得られる事が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の酸変性ポリオレフィン、酸により変性されていない熱可塑性エラストマー及びエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む接着剤組成物を用いた接着性シール部材が開示されている。これは、シランカップリング剤と金属表面の水酸基との化学結合により接着力を得るもので、当該シール部材を用いた接合体は、耐水性に優れるものである。
【0004】
特許文献2は、ポリオレフィンを用いた特定の条件下での熱溶着により、金属部材と熱可塑性樹脂部材の接合体を製造する方法に関するもので、金属部材に対してクロメート処理等の表面処理をする場合にはポリオレフィンの膜厚を0.1~9mmとし、金属部材に対して記表面処理をしない場合にはポリオレフィンの膜厚を0.2~9mmとする事が開示されている。
【0005】
特許文献3には、第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、上記第1接着剤層及び上記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含むホットメルト接着性樹脂フィルムが開示されている。
【0006】
特許文献4には、特定の変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)及び有機溶剤(C)を含有する接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-213767号公報
【文献】国際公開第2014/112506号
【文献】特開2017-36354号公報
【文献】国際公開第2015/190411号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術を用いて形成された接合体を水の存在下で使用する場合、接着界面への水の侵入により剥離が促進され短時間で接着力が低下するという問題があった。
特許文献1に記載の接着性シール部材を用いた接合体では、耐水性は比較的良好なものの、温水存在下では接着力低下が著しいという問題があった。
特許文献2に記載の接合体の製造方法では、表面自由エネルギーに占める双極子項の割合が5.0%以下である低極性の金属部材に対しては、表面処理の有無に関わらず、ポリオレフィンの膜厚を200μmよりも薄膜とした場合には、耐水性に劣り、特に、温水存在下では接着力低下が著しいという問題があった。
特許文献3に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム、及び特許文献4に記載の接着剤組成物においても、上記低極性の金属部材に対しては、特に、温水存在下において接着力の低下が著しいという問題があった。
【0009】
本開示の一実施形態は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低極性の金属部材に対して、温水存在下で接着力(以下、「耐温水性」ということがある。)に優れる積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 樹脂基材と、上記樹脂基材の少なくとも一方の表面に設けられた易接着層と、上記易接着層の上記樹脂基材とは反対側の表面に設けられた接着性樹脂層と、を有し、上記接着性樹脂層は、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有し、酸価が0.01mgKOH/g~6.5mgKOH/gであるポリオレフィンを含有し、表面自由エネルギーに占める双極子項の割合が0.01%~5.0%である金属部材を接着するための積層体。
<2> 上記易接着層の溶解パラメーターが、上記接着性樹脂層の溶解パラメーターより大きく、上記樹脂基材の溶解パラメーターより小さく、上記易接着層の溶解パラメーターと上記接着性樹脂層の溶解パラメーターとの差の絶対値が、3.0(J/cm3)1/2以下である<1>に記載の積層体。
<3> 上記易接着層の厚みが、8nm~200nmである<1>又は<2>に記載の積層体。
<4> 上記樹脂基材のガラス転移温度が、90℃以上である<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層体。
<5> 上記樹脂基材の両面に設けられた上記易接着層と、上記易接着層の上記樹脂基材とは反対側の表面にそれぞれ設けられた上記接着性樹脂層と、を有する<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層体。
<6> 上記酸性基が、カルボン酸基を含む<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層体。
<7> 上記酸無水物基が、カルボン酸無水物基を含む<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層体。
<8> 上記ポリオレフィンがプロピレン単位を含み、上記プロピレン単位の含有量が、ポリオレフィンに対して、50質量%以上である<1>~<7>のいずれか1つに記載の積層体。
<9> 上記ポリオレフィンの酸価が、0.01mgKOH/g~3.0mgKOH/gである<1>~<8>のいずれか1つに記載の積層体。
<10> 上記接着性樹脂層が、スチレン系熱可塑性エラストマーをさらに含有する<1>~<9>のいずれか1つに記載の積層体。
<11> 上記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、上記ポリオレフィン及び上記スチレン系熱可塑性エラストマーの合計に対して、20質量%以下である<10>に記載の積層体。
<12> 上記接着性樹脂層の酸価が、0.01mgKOH/g~6.5mgKOH/gである<1>~<11>のいずれか1つに記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態によれば、低極性の金属部材に対して、温水存在下で接着力に優れる積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
1.積層体
本開示の積層体は、樹脂基材と、上記樹脂基材の少なくとも一方の表面に設けられた易接着層と、上記易接着層の上記樹脂基材とは反対側の表面に設けられた接着性樹脂層と、を有し、上記接着性樹脂層は、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有し、酸価が0.01mgKOH/g~6.5mgKOH/gであるポリオレフィンを含有し、表面自由エネルギーに占める双極子項の割合が0.01%~5.0%である金属部材を接着するための積層体である。
【0015】
本開示の積層体は、上記特定のポリオレフィンを含有する接着性樹脂層を有することによって、表面自由エネルギーに占める双極子項の割合が0.01%~5.0%である金属部材に対して高い接着力を有し、また、上記金属部材に接着させることで接着性樹脂層と上記金属部材との接着界面への水の浸入を低減することができる。このため、本開示の積層体は、低極性の金属部材に対して温水存在下で優れた接着力を有する。
【0016】
1-1.樹脂基材
本開示においては接着性樹脂層を有する積層体の基材として樹脂基材を用いる。かかる基材を構成する樹脂は、目的とする用途において基材に求められる特性に応じて選択可能であるが、湿熱環境下における接着性樹脂層との密着性の向上効果を高くし、金属部材との密着性の向上効果を高くするため、ガラス転移温度(Tg)は高い方が好ましく、75℃以上が好ましく、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。したがい、熱可塑性樹脂であることが好ましい。樹脂基材のガラス転移温度の上限値は、取扱い性の観点から、200℃以下であることが好ましい。
【0017】
ガラス転移温度は、以下の方法にしたがって測定することができる。
試料10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差走査熱量計(TAインスツルメンツ社製・Q100型DSC)に装着し、25℃から20℃/分の速度で300℃まで昇温させ、300℃で5分間保持した後取出して金属板上で冷却することで急冷する。このパンを再度、示差走査熱量計に装着し、25℃から20℃/分の速度で昇温させてガラス転移温度(Tg:℃)及び融点(Tm:℃)を測定する。なお、かかるガラス転移温度は、補外開始温度とする。
【0018】
本開示に使用する樹脂基材の厚みは、接着性樹脂層を有する積層体の基材として必要な強度を得るために20μm以上であってもよく、25μm以上であることが好ましく、より好ましくは35μm以上、さらに好ましくは45μm以上であり、また、300μm以下であることが好ましく、より好ましくは270μm以下、さらに好ましくは250μm以下である。他には、150μm以下であってもよく、130μm以下であってもよい。
【0019】
本開示においては、上記のようなガラス転移温度が得易い観点、機械特性等が好ましく取り扱い易い観点などから、樹脂としてはポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド系樹脂が挙げられる。ポリアミド系樹脂としてはナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体などが挙げられる。この中でも成形性に優れるポリエステル樹脂が好ましく、すなわち樹脂基材としてはポリエステルフィルムが好ましい。
【0020】
本開示においてポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が75℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度を75℃以上にすることで、湿熱環境下において接着性樹脂層との優れた密着性を維持することができ、金属部材との密着性向上につながる。ガラス転移温度は、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。
かかるポリエステル樹脂の具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリエチレン-2,7-ナフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレートのホモポリマーを好ましく例示することができる。好ましくはガラス転移温度が75℃以上の範囲内においては、他のモノマーを共重合して共重合ポリマーとしてもよい。また、ポリエステル樹脂は、ポリマーブレンドとしてもよい。
共重合成分としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸(メインポリマーがポリエチレン-2,7-ナフタレートでない場合)、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸、p-オキシ安息香酸、p-オキシエトキシ安息香酸の如きオキシカルボン酸、或いはプロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコール等の如き2価アルコール類等を好ましく用いることができる。
これらの化合物は、1種のみでなく2種以上を用いることができる。またこれらの中でもさらに好ましくは、酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、p-オキシ安息香酸、グリコール成分としてはトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物を例示することができる。
ガラス転移温度が90℃以上のポリエステル樹脂の好ましい例としては、特にポリエチレンナフタレートが好ましい。ガラス転移温度が90℃以上である限りにおいて、ポリエチレンナフタレートは共重合ポリマーとしてもよい。また、ポリエチレンナフタレートは、ポリマーブレンドとしてもよい。なかでもポリエチレン-2、6-ナフタレートを主体とするポリエステル樹脂が力学的物性及び耐湿熱性が良いので好ましい。ここで「主体とする」とは、ポリエステル樹脂の全繰り返し単位の90モル%以上、好ましくは95モル%以上がエチレン-2,6-ナフタレート単位であることを表す。
【0021】
〔添加剤〕
本開示における樹脂基材には、本開示の目的を阻害しない限りにおいて、滑り性を向上させる等の目的で必要に応じて適当なフィラーを含有させることができる。このフィラーとしては、従来からポリエステルフィルム等のフィルム及びシートの滑り性付与剤として知られているものを用いることができるが、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコン樹脂粒子等を挙げることができる。さらに樹脂基材には、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑材、触媒等をも適宜添加することができる。
【0022】
〔製造方法〕
本開示に用いられる樹脂基材及びそれに用いられる樹脂は、当業者に従来公知の方法で製造可能である。
以下、樹脂としてポリエステル樹脂を用いた場合について代表例として説明する。なお、他の樹脂の場合も下記を参考にして樹脂基材を得ればよい。
【0023】
(ポリエステルの製造方法)
本開示におけるポリエステル樹脂は、従来公知の方法、例えばテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のカルボン酸とグリコールとの反応で直接低重合度ポリエステル樹脂を得る方法、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合を行う方法等で、得ることができる。
【0024】
上記においてエステル交換触媒としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物の一種又は二種以上を用いることができる。重合触媒としては三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネート又はこれらの部分加水分解物、シュウ酸チタニルアンモニウム、シュウ酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物が挙げられる。
【0025】
エステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的でトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物が添加されるが、ポリエステル樹脂中のリン元素としての含有量が20質量ppm~100質量ppmであることがポリエステル樹脂の熱安定性の点から好ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂は溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下又は窒素などの不活性気流中において固相重合することもできる。
【0027】
樹脂基材を構成するポリエステル樹脂の固有粘度(35℃、オルトクロロフェノール)は0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40dl/g~0.90dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が低すぎると工程切断が発生し易くなる傾向にある。また高すぎると溶融粘度が高くなる傾向にあるため溶融押出しが困難になる傾向にあり、重合時間が長くなる傾向にある。なお、固有粘度が低すぎると、耐加水分解性が低下する傾向にもある。
【0028】
(ポリエステルフィルムの製造方法)
本開示に用いられるポリエステルフィルムは、例えば上記のポリエステル樹脂をシート状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムを「Tg(単位:℃)」~「Tg(単位:℃)+60℃」で長手方向(製膜機械軸方向のこと。縦方向又はMD(Machine Direction)ともいう。)に1回もしくは2回以上の合計の倍率が3倍~6倍になるよう延伸し、「Tg(単位:℃)」~「Tg(単位:℃)+60℃」で幅方向(製膜機械軸方向と厚み方向とに垂直な方向のこと。横方向又はTD(Transverse Direction)ともいう。)に1回もしくは2回以上の合計の倍率が3倍~5倍になるように延伸し、必要に応じて更に「Tm(単位:℃)-80℃」~「Tm(単位:℃)-20℃」で1秒間~60秒間熱処理を行い、必要に応じて更に熱処理温度より10℃~20℃低い温度で幅方向に0%~20%収縮させながら再熱処理を行うことにより得ることができる。なお、ここでTgはフィルムの原料であるポリエステル樹脂のガラス転移温度、Tmは融点を表す。また、上記延伸は、逐次二軸延伸でもよいし、同時二軸延伸でもよい。
【0029】
1-2.易接着層
本開示においては、樹脂基材に優れた接着性を付与するために、上記樹脂基材の少なくとも一方の表面に、易接着を目的とした層(以下、「易接着層」という。)を形成する。かかる易接着層は塗膜であってもよい。このような易接着層は、本開示の接着性樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0030】
易接着層を構成する成分は、本開示の目的を達成するものであればどのようなものを使用してもよいが、溶解パラメーター(Solubility Parameter:SP値、以下「SP値」と略す。)が、接着性樹脂層のSP値と樹脂基材のSP値との間にあることが接着性の観点から好ましい。
易接着層のSP値は、接着性樹脂層のSP値よりも大きいことが好ましく、樹脂基材のSP値よりも小さいことが好ましい。易接着層のSP値、接着性樹脂層のSP値、及び樹脂基材のSP値の上記大小関係において、易接着層のSP値と接着性樹脂層のSP値との差(すなわち、「易接着層のSP値」-「接着性樹脂層のSP値」)の絶対値は、3.0(J/cm3)1/2以下であることが好ましく、2.5(J/cm3)1/2以下であることがより好ましく、2.0(J/cm3)1/2以下であることが特に好ましい。なお、易接着層のSP値と接着性樹脂層のSP値との差の絶対値の下限値は、0(J/cm3)1/2を超えることが好ましく、1.0(J/cm3)1/2以上であることがより好ましい。
【0031】
溶解パラメーターは、Fedorsの計算式を用いて求めることができる。具体的には、樹脂基材、接着性樹脂層、易接着層の化学構造式から、Fedorsの計算式を用いて、「ポリマー・エンジニアリング・アンド・サイエンス(Polymer Eng.& Sci.)」,第14巻,第2号(1974),第148~154ページを参照して計算によりSP値を求める。
δi=[Ev/V]1/2=[Δei/Δvi]1/2
Ev:蒸発エネルギー
V:モル体積
Δei:i成分の原子又は原子団の蒸発エネルギー
Δvi:i成分の原子又は原子団のモル体積
全原子又は全原子団の総和として下記式からSP値を求める。
σ=(Σei/Σvi)1/2
【0032】
易接着層としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂の中から選ばれた少なくとも1種類のバインダー樹脂を主成分とする組成物からなることが特に好ましい。ポリエステル樹脂としては、アクリル系樹脂変性ポリエステル樹脂及びビニル系樹脂変性ポリエステル樹脂を好ましく例示できる。
【0033】
ポリエステル樹脂を構成する成分としては、以下のような多価カルボン酸及び多価ヒドロキシ化合物に由来する成分(すなわち、構成単位をいう。以下同様。)を例示できる。すなわち、多価カルボン酸に由来する成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩、及びそれらのエステル形成性誘導体等に由来する成分を用いることができ、多価ヒドロキシ化合物に由来する成分としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチルー1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、p-キシリレングリコール、ビスフェノールA-エチレングリコール付加物、ビスフェノールA-1,2-プロピレングリコール付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウム等に由来する成分を用いることができる。これらの化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上選択して、常法の重縮合反応によりポリエステル樹脂を合成する。なお、上記のほか、ポリエステル樹脂は、後述するアクリル系樹脂変性ポリエステル樹脂、ビニル系樹脂変性ポリエステル樹脂、ポリエステルポリオールをイソシアネートで鎖延長したポリエステルポリウレタン等のポリエステル成分を有する複合高分子などであってもよい。
【0034】
アクリル樹脂を構成する成分としては、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートに由来する成分を主要な成分とするものが好ましく、アクリル樹脂に対して、当該成分が30モル%~90モル%であり、共重合可能でかつ官能基を有するビニル単量体に由来する成分70モル%~10モル%を含有する水溶性又は水分散性樹脂であるものがより好ましい。
【0035】
アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートと共重合可能でかつ官能基を有するビニル単量体は、官能基として、カルボキシル基又はその塩、酸無水物基、スルホン酸基又はその塩、アミド基又はアルキロール化されたアミド基、アミノ基(置換アミノ基を含む)若しくはアルキロール化されたアミノ基又はそれらの塩、水酸基、エポキシ基などを有するビニル単量体である。これらの中でも官能基として特に好ましいものはカルボキシル基又はその塩、酸無水物基、エポキシ基などである。これらの基は樹脂中に2種類以上含有されていてもよい。
【0036】
アルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートのアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0037】
アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートと共重合する官能基を有するビニル系単量体は、反応性官能基、自己架橋性官能基、親水性基などの官能基を有する下記の化合物類が使用できる。
カルボキシル基又はその塩、酸無水物基を有する化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、これらのカルボン酸のナトリウムなどとの金属塩、アンモニウム塩、無水マレイン酸などが挙げられる。
スルホン酸基又はその塩を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、これらのスルホン酸のナトリウムなどとの金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
アミド基又はアルキロール化されたアミド基を有する化合物としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、メチロール化アクリルアミド、メチロール化メタクリルアミド、ウレイドビニルエーテル、β-ウレイドイソブチルビニルエーテル、ウレイドエチルアクリレートなどが挙げられる。
アミノ基若しくはアルキロール化されたアミノ基又はそれらの塩を有する化合物としては、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、2-アミノエチルビニルエーテル、3-アミノプロピルビニルエーテル、2ーアミノブチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、それらのアミノ基をメチロール化したもの、ハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、サルトンなどにより4級化したものなどが挙げられる。
水酸基を有する化合物としては、β-ヒドロキシエチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、β-ヒドロキシプロピルアクリレート、β-ヒドロキシプロピルメタクリレート、β-ヒドロキシエチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレートなどが挙げられる。
エポキシ基を有する化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。その他官能基を有する化合物として、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネートなどが挙げられる。
さらに、エチレン、プロピレン、メチルペンテン、ブタジエン、スチレン、αーメチルスチレン等のオレフィン類、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン、塩化ビニル、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、酢酸ビニルなどもビニル系単量体化合物として挙げられる。
【0038】
ポリウレタン樹脂を構成する成分としては、以下のような多価ヒドロキシ化合物に由来する成分、多価イソシアネート化合物に由来する成分、鎖長延長剤に由来する成分、架橋剤に由来する成分などを例示できる。すなわち、多価ヒドロキシ化合物に由来する成分としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールのようなポリエーテル類、ポリエチレンアジペート、ポリエチレン-ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンのようなポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル系ポリオール、ひまし油等に由来する成分を用いることができる。多価イソシアネート化合物に由来する成分としては、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等に由来する成分を用いることができる。鎖長延長剤に由来する成分、架橋剤に由来する成分の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン-ナトリウムアクリレート付加物、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、水等に由来する成分を用いることができる。これらの化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上選択して、常法の重縮合-架橋反応によりポリウレタン樹脂を合成する。
【0039】
アクリル系樹脂変性ポリエステル樹脂及びビニル系樹脂変性ポリエステル樹脂は、ポリエステルの水溶液又は水分散液中においてアクリル系樹脂又はビニル系樹脂を重合することによって合成できる。このポリエステルを構成する成分としては、上述したものと同様の多価カルボン酸に由来する成分及び多価ヒドロキシ化合物に由来する成分、並びにこれらの化合物のエステル形成性誘導体に由来する成分を例示できる。
【0040】
アクリル系樹脂及びビニル系樹脂を構成する成分としては、やはり上述したものと同様のアルキルアクリレートに由来する成分、アルキルメタクリレートに由来する成分、またこれらと共重合する上述したものと同様のビニル系単量体化合物に由来する成分の1種又は2種以上を適宜用いることができる。
【0041】
本開示のアクリル系樹脂変性ポリエステル樹脂及びビニル系樹脂変性ポリエステル樹脂として、特開平1-165633号公報に記載されている、いわゆるアクリルグラフトポリエステルのような分子構造を持つものも含まれる。
【0042】
易接着層中の上記バインダー樹脂の含有量は、易接着層の全質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0043】
易接着層は、上記成分以外にメラミン樹脂等の他の樹脂、帯電防止剤、着色剤、界面活性剤、紫外線吸収剤等を使用してもよい。
本開示における易接着層は、上記バインダー樹脂に加えて、架橋剤を含有する組成物から形成されることが好ましい。これにより接着性がさらに向上する。架橋剤としては、オキサゾリン系架橋剤、グリシジルアミン系架橋剤が好ましく挙げられる。架橋剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して3質量部~40質量部が好ましく、4質量部以上、5質量部以上がより好ましく、また、35質量部以下、30質量部以下がより好ましい。
【0044】
〔易接着層の形成方法〕
このような易接着層を、樹脂基材の少なくとも一方の表面に形成する方法としては、制限されず、通常用いられる方法から適宜選択することができる。例えば、易接着層を形成するための塗液を樹脂基材に塗布し、乾燥することによって、易接着層を形成することができる。共押出法又はラミネーション法によって形成してもよい。
【0045】
例えば、樹脂基材がポリエステルフィルムである場合、延伸可能なポリエステルフィルムに易接着層を形成する成分を含む塗液(水溶液又は水分散液、エマルジョン型分散液が好ましい)を塗布したのち、乾燥、延伸し必要に応じて熱処理することにより積層することができる。この塗液の塗工は、通常の塗工工程、すなわち、二軸延伸熱固定したポリエステルフィルムに該フィルムの製造工程と切り離した工程で行ってもよいが、よりクリーンな雰囲気での塗布、すなわち該フィルムの製造工程中で行う方が、埃、ちり等を巻き込み難いので好ましい。また、該フィルムの製造工程中で行う塗布の中でも、延伸可能なポリエステルフィルムの状態で塗布することが、後の延伸によって、塗膜のポリエステルフィルムへの密着性をより向上させることができることからより好ましい。ここで、「延伸可能なポリエステルフィルム」とは、未延伸ポリエステルフィルム、一軸延伸ポリエステルフィルム又は二軸延伸ポリエステルフィルムを意味し、この中でも、フィルム製膜方向(縦方向)に一軸延伸したポリエステルフィルムが特に好ましい。塗布方法としては、公知の任意の塗布方法が適用でき、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法及びカーテンコート法などを単独又は組み合わせて用いることが出来る。塗布量は走行しているフィルム1m2当たり0.5g~20g、さらに1g~10gが好ましく、乾燥後の易接着層の厚みとしては、8nm~200nmが好ましく、さらに好ましくは10nm~100nmである。易接着層の厚みが薄すぎる場合は易接着層の密着性の向上効果が低くなる傾向にあり、他方厚すぎる場合は易接着層内において凝集破壊が生じ易くなる傾向にあり、湿熱環境下におけるヒートシール層との密着性の向上効果が低下する傾向にある。
【0046】
1-3.接着性樹脂層
本開示の接着性樹脂層は、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有し、酸価が0.01~6.5mgKOH/gであるポリオレフィン(以下、「(A)成分」という。)を含有する。
【0047】
〔(A)成分〕
(A)成分は、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有する。
【0048】
酸性基の具体例としては、カルボン酸基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられ、これらの中でも、変性が容易である点で、カルボン酸基が好ましい。
【0049】
酸無水物基の具体例としては、カルボン酸無水物基、スルホン酸無水物基及びリン酸無水物基等が挙げられ、これらの中でも、原料の入手が容易であり、変性が容易である点で、カルボン酸無水物基が好ましい。
【0050】
上記の中でも、耐温水性の観点から、(A)成分においては、酸性基がカルボン酸基を含み、酸無水物基がカルボン酸無水物基を含むことが好ましい。
【0051】
(A)成分は、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーで変性されたポリオレフィンであってもよい。変性の方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、有機過酸化物、脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーを、酸性基及び酸無水物基を有しないポリオレフィンと溶融混練する等のグラフト変性、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーとオレフィン類との共重合等が挙げられる。
【0052】
(酸性基含有モノマー)
(A)成分の原料として酸性基含有モノマーが挙げられる。具体的には、エチレン性二重結合及びカルボン酸基等を、同一分子内に持つ化合物であり、各種の不飽和モノカルボン酸化合物及び不飽和ジカルボン酸化合物等が挙げられる。
【0053】
不飽和モノカルボン酸化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸及びイソクロトン酸等が挙げられる。
【0054】
不飽和ジカルボン酸化合物の具体例としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ナジック酸及びエンディック酸等が挙げられる。
【0055】
酸性基含有モノマーとしては、変性が容易である点で、不飽和ジカルボン酸化合物が好ましく、マレイン酸が特に好ましい。
【0056】
これらの酸性基含有モノマーは、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
変性に用いた酸性基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、公知の方法により、未反応の酸性基含有モノマーを除去したものを、(A)成分として用いることが好ましい。
【0058】
(酸無水物基含有モノマー)
(A)成分の原料として酸無水物基含有モノマーが挙げられる。具体的には、エチレン性二重結合及びカルボン酸無水物基等を、同一分子内に持つ化合物であり、前記不飽和モノカルボン酸化合物の酸無水物及び前記不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物等が挙げられる。
【0059】
不飽和モノカルボン酸化合物の酸無水物の具体例としては、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、クロトン酸無水物及びイソクロトン酸無水物等が挙げられる。
【0060】
不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物の具体例としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、ナジック酸無水物及びエンディック酸無水物等が挙げられる。
【0061】
酸無水物基含有モノマーとしては、変性が容易である点で、不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物が好ましく、マレイン酸無水物が特に好ましい。
【0062】
これらの酸無水物基含有モノマーは、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0063】
変性に用いた酸無水物基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、公知の方法により、未反応の酸無水物基含有モノマーを除去したものを、(A)成分として用いることが好ましい。
【0064】
(酸性基及び酸無水物基を有しないポリオレフィン)
(A)成分の原料として酸性基及び酸無水物基を有しないポリオレフィン(以下、「(a1)成分」という。)が挙げられる。
【0065】
(a1)成分の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンとエチレンのランダム共重合体、プロピレンとエチレンのブロック共重合体、エチレンとα-オレィンのランダム共重合体、エチレンとα-オレフィンのブロック共重合体、プロピレンとα-オレフィンのランダム共重合体、プロピレンとα-オレフィンのブロック共重合体等が挙げられる。前記α-オレフィンとしては、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン及び1-オクテン等が挙げられる。
【0066】
これらの中でも、耐温水性を向上できる点で、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンのブロック共重合体、プロピレン-エチレンのランダム共重合体、プロピレンとα-オレフィンのランダム共重合体及びプロピレンとα-オレフィンのブロック共重合体等のポリプロピレン系重合体が好ましい。さらに、(a1)成分におけるプロピレン単位が50質量%以上であることが特に好ましい。
【0067】
(a1)成分は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0068】
(A)成分の酸価は、0.01mgKOH/g~6.5mgKOH/gである。金属部材に対する接着力を付与できる点で、0.01mgKOH/g以上であり、0.1mgKOH/g以上がより好ましく、0.5mgKOH/g以上が特に好ましい。また、耐温水性を向上できる点で、6.5mgKOH/g以下であり、3.0mgKOH/g以下がより好ましく、2.0mgKOH/g以下がさらに好ましく、1.0mgKOH/g以下が特に好ましい。
酸価は、JIS K 0070:1992に準じて測定することができる。具体的には、混合キシレン:n―ブタノール=1:1質量比の混合溶媒に、精秤した試料を溶解させて試料溶液を得る。次いで、この試料溶液に、指示薬として1質量/体積%のフェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、滴定液として0.1mol/Lの水酸化カリウムのエチルアルコール溶液を用いて、滴定を行い、次式に従って酸価を算出する。次式において、Tは滴定量(mL)、Fは滴定液のファクター、Wは試料採取量(g)をそれぞれ表す。
酸価=(T×F×56.11×0.1)/W
【0069】
(A)成分の融点は、100℃~200℃が好ましく、より好ましくは120℃~180℃である。耐温水性を向上できる点で、100℃以上が好ましく、加工性を向上できる点で、200℃以下が好ましい。
融点は、示差走査熱量計(DSC)(例えば、TA Instruments社製、DSCQ100)を用い、サンプル約20mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して、25℃から230℃まで10℃/分の昇温速度で測定を行ったときの融解ピーク温度として求めることができる。
【0070】
(A)成分のメルトフローレート(以下、「MFR」という。)は、230℃、試験圧力1.96MPaの測定条件において、0.1g/10分~30g/10分が好ましく、より好ましくは0.1g/10分~20g/10分である。加工性を向上できる点で、0.1g/10分以上が好ましく、耐温水性を向上できる点で、30g/10分以下が好ましい。
MFRは、JIS K 7210:2014に準拠し、以下の条件で測定することができる。
・装置:フローテスターCFT-500((株)島津製作所製)
・ダイス:Φ1mm×10mm
・試験圧力:1.96MPa
・シリンダー面積:1cm2
・シリンダー温度:230℃
【0071】
(A)成分は、プロピレン単位を含むことが好ましい。(A)成分中のプロピレン単位の含有量は、耐温水性を向上できる点で、(A)成分に対して、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0072】
本開示の接着性樹脂層において、(A)成分は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0073】
本開示の接着性樹脂層において、(A)成分の含有量は、耐温水性に優れるという理由から、接着性樹脂層100質量%を基準として、80質量%~100質量%であることが好ましく、より好ましくは90質量%~100質量%である。
【0074】
〔その他成分〕
本開示の接着性樹脂層は、(A)成分を含有するものであるが、目的に応じて種々の成分を配合することができる。なお、本開示の接着性樹脂層には、耐温水性が悪くなる恐れがあることから、多官能イソシアネート化合物を含まない方が好ましく、例えば100ppm以下の含有量であることが好ましい。
【0075】
その他成分としては、具体的には、スチレン系熱可塑性エラストマー(以下、「(B)成分」という。)、粘着付与剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、分散剤、密着性付与剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、滑剤及び充填剤等が挙げられる。また、本開示の接着性樹脂層は、上記(A)成分以外のポリオレフィン(例えば、(a1)成分等)を含有していてもよい。
【0076】
以下、これらの成分について説明する。
なお、後記するその他成分は、例示した化合物の1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
((B)成分)
本開示の接着性樹脂層は、(B)成分として、スチレン系熱可塑性エラストマーをさらに含有することができる。スチレン系熱可塑性エラストマーをさらに含有することで、接着力を向上することができる。
【0078】
(B)成分の具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、エポキシ変性スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SEPS」という。)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SEBS」という。)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系樹脂等が挙げられ、酸性基及び酸無水物基を有しないものであっても酸性基及び/又は酸無水物基を有するものであってもよく、アミノ基を有するものであってもよい。
【0079】
酸性基及び/又は酸無水物基を導入するための変性方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、有機過酸化物、脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、上記酸性基及び/又は酸無水物基含有モノマーを上記スチレン系樹脂と溶融混練する等のグラフト変性等が挙げられる。
【0080】
アミノ基を導入するための変性方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、リビングアニオン重合により得た前記スチレン系樹脂のリビング末端にアミノ基含有化合物を付加させる等の末端変性、有機過酸化物、脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、2-(1-シクロヘキセニル)エチルアミン等の不飽和結合を持つアミン化合物を前記スチレン系樹脂と溶融混練する等のグラフト変性などが挙げられる。
【0081】
(B)成分としては、耐温水性と加工性を両立できる点で、SEPS及びSEBSが好ましい。
【0082】
(B)成分の酸価は、安定した品質を保つことができる点で、80mgKOH/g以下が好ましい。さらに、耐温水性を向上できる点で、50mgKOH/g以下がより好ましく、20mgKOH/g以下が特に好ましく、0.0mgKOH/gであってもよい。酸価は、JIS K 0070:1992に準じて測定することができる。具体的には、混合キシレン:n―ブタノール=1:1質量比の混合溶媒に、精秤した試料を溶解させて試料溶液を得る。次いで、この試料溶液に、指示薬として1質量/体積%のフェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、滴定液として0.1mol/Lの水酸化カリウムのエチルアルコール溶液を用いて、滴定を行い、次式に従って酸価を算出する。次式において、Tは滴定量(mL)、Fは滴定液のファクター、Wは試料採取量(g)をそれぞれ表す。
酸価=(T×F×56.11×0.1)/W
【0083】
(B)成分のMFRは、230℃、試験圧力1.96MPaの測定条件において、1g/10分~100g/10分が好ましく、より好ましくは1g/10分~90g/10分である。加工性を向上できる点で、1g/10分以上が好ましく、耐温水性を向上できる点で、100g/10分以下が好ましい。
MFRは、JIS K 7210:2014に準拠し、以下の条件で測定することができる。
・装置:フローテスターCFT-500((株)島津製作所製)
・ダイス:Φ1mm×10mm
・試験圧力:1.96MPa
・シリンダー面積:1cm2
・シリンダー温度:230℃
【0084】
(B)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計に対して、20質量%以下であることが好ましく、1質量%~20質量%であることがより好ましく、1質量%~10質量%であることが特に好ましい。接着性樹脂層が(B)成分を含有する場合、(B)成分の含有量の下限値は、制限されず、(A)成分及び(B)成分の合計に対して、0質量%を超える範囲で適宜設定することができる。上記(B)成分の含有量の好ましい範囲に対応する(A)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計に対して、80質量%以上、80質量%~99質量%、90質量%~99質量%、にそれぞれなり得る。なお、接着性樹脂層が(B)成分を含有する場合における(A)成分の含有量の上限値は、(A)成分及び(B)成分の合計に対して、100質量%未満の範囲で適宜設定することができる。
(B)成分の含有量としては、加工性及び接着力に優れる点で、1質量%以上であることが好ましく、耐温水性を向上できる点で、20質量%以下であることが好ましい。
【0085】
(粘着付与剤)
粘着付与剤は、接着力を向上する目的で配合することができる。
【0086】
粘着付与剤としては、公知のものを使用することができ、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、共重合系石油樹脂及び水添石油樹脂等が挙げられる。
【0087】
テルペン系樹脂の具体例としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、及びこれらとフェノール又はビスフェノールA等との共重合体等が挙げられる。
【0088】
ロジン系樹脂の具体例としては、天然ロジン、重合ロジン及びこれらのエステル誘導体等が挙げられる。
【0089】
脂肪族系石油樹脂は、C5系樹脂ともいわれ、一般に、石油のC5留分より合成される樹脂である。脂環族系石油樹脂は、C9系樹脂ともいわれ、一般に、石油のC9留分より合成される樹脂である。
【0090】
共重合石油樹脂の具体例としては、C5/C9共重合樹脂等が挙げられる。
【0091】
水添石油樹脂は、一般に、上記の各種石油樹脂の水素添加により製造されたものである。
【0092】
粘着付与剤の含有量としては、耐温水性に優れるという点で、接着性樹脂層の100質量%に対して、1質量%~20質量%であることが好ましく、より好ましくは1質量%~10質量%である。
【0093】
〔酸価〕
本開示の接着性樹脂層の酸価は、0.01mgKOH/g~6.5mgKOH/gが好ましい。金属部材に対する接着力を向上できる点で、0.01mgKOH/g以上が好ましく、0.1mgKOH/g以上がより好ましく、0.5mgKOH/g以上が特に好ましい。また、耐温水性を向上できる点で、6.5mgKOH/g以下が好ましく、3.0mgKOH/g以下がより好ましく、1.5mgKOH/g以下が特に好ましい。酸価は、JIS K 0070:1992に準じて測定することができる。具体的には、混合キシレン:n―ブタノール=1:1質量比の混合溶媒に、精秤した試料を溶解させて試料溶液を得る。次いで、この試料溶液に、指示薬として1質量/体積%のフェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、滴定液として0.1mol/Lの水酸化カリウムのエチルアルコール溶液を用いて、滴定を行い、次式に従って酸価を算出する。次式において、Tは滴定量(mL)、Fは滴定液のファクター、Wは試料採取量(g)をそれぞれ表す。
酸価=(T×F×56.11×0.1)/W
【0094】
接着性樹脂層の酸価の調整方法としては、接着性樹脂層中の(A)成分の含有量を調整する方法、酸価が0.05mgKOH/g~100mgKOH/gであるポリオレフィンと(a1)成分とを配合する方法等が挙げられる。
【0095】
〔融点〕
本開示の接着性樹脂層の融点は、100℃~200℃が好ましく、より好ましくは120℃~180℃である。耐温水性を向上できる点で、100℃以上が好ましく、加工性を向上できる点で、200℃以下が好ましい。
融点は、示差走査熱量計(DSC)(例えば、TA Instruments社製、DSCQ100)を用い、サンプル約20mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して、25℃から230℃まで10℃/分の昇温速度で測定を行ったときの融解ピーク温度として求めることができる。
【0096】
〔MFR〕
本開示の接着性樹脂層のMFRは、230℃、試験圧力1.96MPaの測定条件において、1g/10分~30g/10分が好ましく、より好ましくは5g/10分~20g/10分である。加工性を向上できる点で、1g/10分以上が好ましく、耐温水性を向上できる点で、30g/10分以下が好ましい。
MFRは、JIS K 7210:2014に準拠し、以下の条件で測定することができる。
・装置:フローテスターCFT-500((株)島津製作所製)
・ダイス:Φ1mm×10mm
・試験圧力:1.96MPa
・シリンダー面積:1cm2
・シリンダー温度:230℃
【0097】
〔接着性樹脂層の形成方法〕
接着性樹脂層を形成する方法としては、制限されず、通常用いられる方法から適宜選択することができる。例えば、接着性樹脂層を形成するための組成物(以下、「接着剤組成物」という。)を溶融混練し、押出成形によって、易接着層上に接着性樹脂層を形成することができる。押出成形としては、例えば、共押出法、押出ラミネート法等が挙げられる。
【0098】
本開示の接着剤組成物は、公知の方法で製造できる。具体的には、(A)成分及び必要に応じてその他成分をヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー又はリボンブレンダー等を用いて混合することによって得ることが好ましく、該混合物を単軸押出機、多軸押出機、ロール又はニーダー等を用いて180~300℃、好ましくは190~260℃で溶融混練することによって、ペレット状の形態として得ることができる。
【0099】
接着性樹脂層の厚さは、金属部材の材質、用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、10~200μmが好ましく、20~200μmがより好ましい。
【0100】
本開示の積層体は、上記樹脂基材の両面に設けられた上記易接着層と、上記易接着層の上記樹脂基材とは反対側の表面にそれぞれ設けられた上記接着性樹脂層と、を有することが好ましい。積層体の両面にそれぞれ接着性樹脂層を設けることで、積層体を介して、2つの被着体を接合することができる。2つの易接着層の組成は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、2つの接着性樹脂層の組成は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0101】
1-4.金属部材
金属部材としては、表面自由エネルギーに占める双極子項の割合が0.01%~5.0%であれば制限されず、例えば、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム等を含む金属部材が挙げられる。上記の中でも、耐酸性に優れる点で、チタンを含む金属部材が好ましい。また、金属部材の具体例としては、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム及びその他金属等、並びにそれらの合金等が挙げられる。上記の中でも、金属部材の材質としては、耐酸性に優れる点で、チタン又はチタン合金であることが好ましい。
【0102】
耐温水性に優れる点で、表面自由エネルギーに占める双極子項の割合が0.01%~2.5%であることが好ましく、0.01%~1.5%であることがより好ましく、0.01%~1.0%であることが特に好ましい。
【0103】
ここで、金属部材の表面自由エネルギー並びにそれらの分散項、双極子項及び水素結合項は、以下の略号で表すものとする。金属部材の表面自由エネルギーに占める双極子項の割合は、「γM
P÷γM×100」で計算される。
【0104】
γM:金属部材の表面自由エネルギー(γM
D+γM
P+γM
H)
γM
D:金属部材の表面自由エネルギーの分散項
γM
P:金属部材の表面自由エネルギーの双極子項
γM
H:金属部材の表面自由エネルギーの水素結合項
【0105】
上記γM、γM
D、γM
P、及びγM
Hは、JIS R 3257:1999に規定される接触角計を用いた静滴法により、以下の条件で3点法による接触角を測定し、拡張Fowkes式を用いて計算される。
測定温度:25℃
液体:水、α-ブロモナフタレン、ジヨードメタン
【0106】
金属部材の厚さとしては、その材質、用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0107】
2.接合体
本開示の接合体は、上記積層体と、上記積層体の上記接着性樹脂層の表面の少なくとも一部に接合された、表面自由エネルギーに占める双極子項の割合が0.01%~5.0%である金属部材と、を有する。
【0108】
本開示において、「接着性樹脂層の表面の少なくとも一部」とは、本開示の接合体に存在する接着性樹脂層の表面の少なくとも一部を意味する。本開示の接合体において、上記金属部材は、本開示の接合体に存在する接着性樹脂層の表面の少なくとも一部に接合されていればよく、複数の接着性樹脂層が存在する場合にはすべての接着性樹脂層の表面に接合されていなくてもよい。例えば、本開示の接合体に存在する接着性樹脂層が1つである場合には、1つの接着性樹脂層の表面の一部に上記金属部材が接合されていればよい。また、本開示の接合体に存在する接着性樹脂層が複数である場合には、少なくとも1つの接着性樹脂層の表面の一部に上記金属部材が接合されていればよい。
【0109】
本開示の接合体は、上記接着性樹脂層と上記金属部材とが接合しているため、高い接着力を有し、さらに、上記接着性樹脂層と上記金属部材との接着界面への水の浸入を低減することができる。このため、本開示の接合体は、優れた耐温水性を有する。
【0110】
本開示の接合体における積層体、及び金属部材については、上記「1.積層体」において説明したとおりであり、好ましい範囲も同様である。金属部材は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0111】
耐温水性の観点から、金属部材の表面自由エネルギーと接着性樹脂層の表面自由エネルギーとの差は、5.0mN/m以上であることが好ましく、6.0mN/m以上であることがより好ましい。さらに、はく離強度の観点から、金属部材の表面自由エネルギーと接着性樹脂層の表面自由エネルギーとの差は、10.0mN/m以上であることが好ましい。また、接着性樹脂層の表面自由エネルギーは、金属部材の表面自由エネルギーよりも小さいことが好ましい。本開示の接合体において、金属部材の表面自由エネルギーと接着性樹脂層の表面自由エネルギーとの差は「γM-γA」で計算される。また、安定した品質を保つことができること、耐温水性及びはく離強度の点で、30mN/m以下が好ましく、15mN/m以下がより好ましく、13mN/m以下が特に好ましい。
【0112】
ここで、接着性樹脂層の表面自由エネルギー、並びにそれらの分散項、双極子項及び水素結合項は、以下の略号で表すものとする。
γA:接着性樹脂層の表面自由エネルギー(γA
D+γA
P+γA
H)
γA
D:接着性樹脂層の表面自由エネルギーの分散項
γA
P:接着性樹脂層の表面自由エネルギーの双極子項
γA
H:接着性樹脂層の表面自由エネルギーの水素結合項
【0113】
上記γA、γA
D、γA
P、及びγA
Hは、JIS R 3257:1999に規定される接触角計を用いた静滴法により、以下の条件で3点法による接触角を測定し、拡張Fowkes式を用いて計算される。
測定温度:25℃
液体:水、α-ブロモナフタレン、ジヨードメタン
【0114】
本開示の接合体は、上記積層体の上記接着性樹脂層の表面の少なくとも一部に、上記金属部材以外の部材(以下、「その他の部材」という。)が接合されていてもよい。その他の部材としては、ガラス及び熱可塑性樹脂等であってもよい。
【0115】
ガラスとしては、アルカリガラス、無アルカリガラス及び石英ガラス等が挙げられる。
【0116】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びポリ塩化ビニル系樹脂が挙げられる。
【0117】
金属部材及びその他の部材の形状としては、用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、フィルム状、シート状、板状、アングル状及び棒状等が挙げられる。
【0118】
本開示の接着剤組成物はペレット状として使用でき、また当該ペレットを、フィルム成形機を用いてフィルム又はシート等の形状(以下、「接着性フィルム」という)として使用できる。また、T-ダイ方式、インフレ方式、カレンダー方式又はスクリュー式押出し機により50℃~200℃の温度で溶融混練し、押出成形により、部材である金属、ガラス又は熱可塑性樹脂の片面又は両面に接着剤組成物からなる接着性樹脂層が積層された接着性フィルムとして使用してもよい。
【0119】
なお、部材として熱可塑性樹脂を用いる場合は、本開示の接着剤組成物の押出成形を、共押出法又は押出ラミネート法により行うことで、熱可塑性樹脂層を有する接着性フィルムを得ることが好ましい。
【0120】
3.用途
本開示の積層体、及び接合体は、電気分野、自動車分野及びその他の工業分野等の様々な産業分野、特に燃料電池等の車載用電池分野において使用することができる。ただし、本開示の積層体は、燃料電池以外の用途に使用されてもよい。
【0121】
電気分野の用途例としては、モバイル機器、テレビ筐体及び白物家電筐体等における、加飾シート貼付けによる加飾、金属部材と樹脂の接着及び電子部品の封止等がある。
【0122】
自動車分野の用途例としては、ピラー、モール、ドアトリム、スポイラー及びルーフ等の内外装部材等における、金属部材/樹脂からなる外装材の接着、本皮革、ファブリック、インパネ発泡シート及び加飾シートと基材の接着等がある。
【0123】
その他の工業分野の用途例としては、工業用包材及びバリアーフィルム等の多層フィルムのフィルム間の接着等がある。
【0124】
その他産業分野の用途例としては、物流資材、住建材、日用雑貨及びスポーツ用品の接着等が挙げられる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに制限されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0126】
1.測定方法
〔酸価〕
酸価は、試料1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を示し、JIS K 0070:1992に準じて測定した。
具体的には、混合キシレン:n―ブタノール=1:1質量比の混合溶媒に、精秤した試料を溶解させて試料溶液を得る。次いで、この試料溶液に、指示薬として1質量/体積%のフェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、滴定液として0.1mol/Lの水酸化カリウムのエチルアルコール溶液を用いて、滴定を行い、次式に従って酸価を算出した。
酸価=(T×F×56.11×0.1)/W
【0127】
ここで、上記計算式において、Tは滴定量(mL)、Fは滴定液のファクター、Wは試料採取量(g)をそれぞれ表す。
【0128】
〔MFR〕
以下の条件でMFR(単位:g/10分)を測定した。
・装置:フローテスターCFT-500((株)島津製作所製)
・ダイス:Φ1mm×10mm
・試験圧力:1.96MPa
・シリンダー面積:1cm2
・シリンダー温度:230℃
【0129】
〔表面自由エネルギー〕
JIS R 3257:1999に規定される接触角計を用いた静滴法により、以下の条件で3点法による接触角を測定し、拡張Fowkes式を用いて、γM、γM
D、γM
P及びγM
H、並びにγA、γA
D、γA
P及びγA
Hをそれぞれ計算した。また、静滴法に用いた各液体のγL、γL
D、γL
P及びγL
Hを下記表1に示す。
装置:CA-X型接触角計(協和界面科学(株)製)
測定温度:25℃
液体:水、α-ブロモナフタレン、ジヨードメタン
【0130】
【0131】
〔ガラス転移温度〕
試料10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差走査熱量計(TAインスツルメンツ社製・Q100型DSC)に装着し、25℃から20℃/分の速度で300℃まで昇温させ、300℃で5分間保持した後取出して金属板上で冷却することで急冷した。このパンを再度、示差走査熱量計に装着し、25℃から20℃/分の速度で昇温させてガラス転移温度(Tg:℃)及び融点(Tm:℃)を測定した。なお、かかるガラス転移温度は、補外開始温度とした。
【0132】
〔厚み〕
JIS K 7130(1999年制定)の規定に準じ、各層の厚みを測定した。
【0133】
〔溶解パラメーター(SP値)〕
以下の方法でSP値を求めた。
使用した樹脂基材、接着性樹脂層、易接着層の化学構造式から、Fedorsの計算式を用いて、「ポリマー・エンジニアリング・アンド・サイエンス(Polymer Eng.& Sci.)」,第14巻,第2号(1974),第148~154ページを参照して計算によりSP値を求めた。
δi=[Ev/V]1/2=[Δei/Δvi]1/2
Ev:蒸発エネルギー
V:モル体積
Δei:i成分の原子又は原子団の蒸発エネルギー
Δvi:i成分の原子又は原子団のモル体積
全原子又は全原子団の総和として下記式からSP値を求めた。
σ=(Σei/Σvi)1/2
【0134】
2.使用した樹脂の物性
下記表2に、使用した樹脂の酸価及びMFRを示す。
【0135】
【0136】
3.使用した金属部材の物性
下記表3に、金属部材として使用した5種類(M1~M5)の材質、表面自由エネルギー、並びにそれらの分散項、双極子項、水素結合項及び表面自由エネルギーに占める双極子項の割合を示す。なお、金属部材としては、サイズが10mm×30mm、厚さは100μmの板を使用した。
【0137】
【0138】
4.実施例1
〔積層体の製造〕
(易接着剤の調製)
下記処方により易接着剤(固形分濃度4質量%)を調製した。希釈溶媒はイオン交換水を用いた。
・アクリル樹脂(日本カーバイト工業(株)製、商品名RX7770):85質量部
・エポキシ系架橋剤(三菱ガス化学(株)製、商品名TETRAD-X):7.5質量部
・界面活性剤(三洋化成工業(株)製、商品名サンノニックSS-70):7.5質量部
【0139】
(易接着層を有する樹脂基材の製造)
エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩を、重合触媒として三酸化アンチモンを用いて、固有粘度0.60dl/g(35℃、オルトクロロフェノール)のポリエチレン-2,6-ナフタレート(表4中「PEN」と示す。)を合成した。得られた樹脂を、170℃ドライヤーで6時間乾燥後、押出機に投入し、溶融温度300℃で溶融混練した。300℃のダイスリットより樹脂を押し出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向に3.5倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。
縦延伸後のフィルムの両面に、上記易接着剤をロールコーター法により、最終的に得られる積層体における易接着層の厚みがそれぞれ50nmとなるように塗布した。続いて、フィルムの両端をクリップで保持しながらテンター内に導き、135℃に加熱された雰囲気中で横方向に3.5倍で延伸した。テンタ-内で、220℃で40秒間の熱固定を行い、220℃で幅方向に1%弛緩した後、均一に徐冷して室温まで冷やし、200μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。
【0140】
(接着性樹脂層の形成)
次に、得られた二軸延伸フィルムの両面の易接着層の上に、押出ラミネート法により、表4に示す組成の接着性樹脂層を形成し、積層体を得た。得られた接着性樹脂層のそれぞれの厚みは50μmであった。なお、押出ラミネートの条件は、押出温度230℃とした。
【0141】
5.実施例2~5及び10、並びに比較例1~8
接着性樹脂層の構成及び用いる金属部材を表4のように変更する以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。
【0142】
6.実施例6
下記に従って易接着層を有する樹脂基材を製造する点以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。
エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩を、重合触媒として三酸化アンチモンを用いて、樹脂として固有粘度0.58dl/g(35℃、オルトクロロフェノール)のポリエチレンテレフタレート(表4中「PET」と示す。)を合成した。得られた樹脂を、170℃ドライヤーで6時間乾燥後、押出機に投入し、溶融温度300℃で溶融混練して300℃のダイスリットより押し出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向に3.5倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。
続いて、縦延伸後のフィルムの両面に、実施例1と同様にして易接着剤をロールコーター法により塗布した。
続いて、フィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、135℃に加熱された雰囲気中で横方向に3.5倍で延伸した。その後、テンター内で220℃で40秒間の熱固定を行い、220℃で幅方向に1%弛緩後、均一に徐冷して室温まで冷やし、200μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。
【0143】
7.実施例7~9
易接着層の構成を表4のように変更する以外は、実施例1と同様にして積層体を製造した。
【0144】
8.評価
実施例1~10及び比較例1~8の積層体を用いて、はく離接着強さ、及び定荷重浸漬試験の落下時間について評価した。評価結果をまとめて表4に示す。
【0145】
〔はく離接着強さ〕
実施例1~10及び比較例1~8の積層体をそれぞれ10mm×20mmのサイズにカットした。得られた各積層体の両面の接着性樹脂層に、表4の記載にしたがって選択した板状の金属部材をそれぞれ加熱圧着して接合体を作製した。このときの条件は、温度160℃、圧力3.0MPa、圧着時間10秒とした。また、接合体の作製においては、積層体の長手方向の一方の端部と、金属部材の長手方向の一方の端部との位置を合わせて、積層体に金属部材を加熱圧着することで、接合体における金属部材の長手方向の他方の端部に、接着性樹脂層が接着されていない部分を設けた。その後、25℃に調温された環境で3日間収容して試験片を得た。
得られた試験片の2枚の金属部材のうち、接着性樹脂層が接着されていない部分をそれぞれ上下チャックに固定し、金属部材と接着性樹脂層との間のはく離接着強さ(N/10mm)を測定した。測定条件は、温度が25℃、引張速度は30mm/分とした。
【0146】
〔定荷重浸漬試験の落下時間(耐温水性)〕
はく離接着強さと同様の手順で作製した試験片の一方の金属部材のうち接着性樹脂層が接着されていない部分をフックを用いて上から吊るし、さらに、もう一方の金属部材のうち接着性樹脂層が接着されていない部分にフックを用いておもりを取り付け、温水中で荷重0.4N/mmとなる荷重をかけた。試験片をおもりと共に95℃の温水中に浸漬し、接着部位が剥がれておもりが落下するまでの時間を測定した。
【0147】
【0148】
表4より、実施例1~10の積層体は、比較例1~8の積層体に比べて、耐温水性に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本開示の積層体は、電気分野、自動車分野、及びその他の工業分野等の様々な産業分野、特に燃料電池等の車載用電池分野において使用することができる。