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特許7255398動力伝達装置及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】動力伝達装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/02 20060101AFI20230404BHJP
   F16G 1/28 20060101ALI20230404BHJP
   F16H 55/36 20060101ALI20230404BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
F16H7/02 A
F16G1/28 B
F16H55/36 Z
B62D5/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019131191
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021014906
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 真育
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-027489(JP,A)
【文献】特開2002-039277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/02
F16G 1/28
F16H 55/36
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
はす歯を有する駆動プーリと、
はす歯を有する従動プーリと、
前記駆動プーリ及び前記従動プーリに巻きかけられ且つはす歯を有するベルトと、
前記駆動プーリ及び前記従動プーリの一方に設けられるフランジと、
を備え、
前記駆動プーリが回転している時、前記駆動プーリの回転軸である第1回転軸は、前記従動プーリの回転軸である第2回転軸に対して第1方向に向かうにしたがって近付くように傾斜しており、
前記フランジは、前記ベルトに対して、前記第1方向に配置され、
前記駆動プーリが正回転している時、及び前記駆動プーリが逆回転している時において、前記ベルトは、前記フランジに接している
動力伝達装置。
【請求項2】
前記ベルトの幅は、20mm以上30mm以下であり、
前記第1回転軸と前記第2回転軸とがなす角度は、0.1°以上0.15°以下である
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記ベルトの幅は、25mmであり、
前記第1回転軸と前記第2回転軸とがなす角度は、0.15°である
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記従動プーリの直径は、前記駆動プーリの直径よりも大きく、
前記フランジは、前記従動プーリに設けられる
請求項1から3のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の動力伝達装置と、
前記駆動プーリを回転させる電動モータと、
前記従動プーリと接続されるナット、及び前記ナットを貫通するねじ軸を備えるボールねじ装置と、
を備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力を伝達する装置として、入力軸に固定された駆動プーリと、出力軸に固定された従動プーリと、駆動プーリ及び従動プーリに巻きかけられたベルトと、を備える動力伝達装置が知られている。特許文献1には、動力伝達装置の一例が記載されている。特許文献1においては、ベルトがプーリから脱落することを防止するために、プーリに2つのフランジが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-232049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プーリに設けられるフランジが2つである場合には、部品点数及び組立工程が増えるため、製造工程が複雑になることがある。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、ベルトの脱落を抑制でき且つ容易に製造できる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係る動力伝達装置は、はす歯を有する駆動プーリと、はす歯を有する従動プーリと、前記駆動プーリ及び前記従動プーリに巻きかけられ且つはす歯を有するベルトと、前記駆動プーリ及び前記従動プーリの一方に設けられるフランジと、を備え、前記駆動プーリが回転している時、前記駆動プーリの回転軸である第1回転軸は、前記従動プーリの回転軸である第2回転軸に対して第1方向に向かうにしたがって近付くように傾斜しており、前記フランジは、前記ベルトに対して、前記第1方向に配置され、前記駆動プーリが正回転している時、及び前記駆動プーリが逆回転している時において、前記ベルトは、前記フランジに接している。
【0007】
駆動プーリ及び従動プーリがはす歯を備えるので、駆動プーリの回転方向に応じて、はす歯がベルトを押す方向が変化することになる。しかし、本開示の動力伝達装置においては、第1回転軸が第2回転軸に対して第1方向に向かうにしたがって近付くように傾斜することによって、駆動プーリが回転すると、ベルトの駆動プーリとの噛み合い位置が第1方向に移動する。これにより、駆動プーリが回転すると、回転方向に関わらず、ベルトが第1方向に移動する。すなわち、ベルトの移動方向が、駆動プーリの回転方向に依存しなくなる。このため、少なくともベルトの第1方向にフランジが設けられていれば、ベルトの脱落が抑制される。動力伝達装置は、1つのフランジのみによってベルトの脱落を抑制できる。このため、動力伝達装置の製造工程における部品点数及び組立工程の増加が抑制される。したがって、動力伝達装置は、ベルトの脱落を抑制でき且つ容易に製造できる。
【0008】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記ベルトの幅は、20mm以上30mm以下であり、前記第1回転軸と前記第2回転軸とがなす角度は、0.1°以上0.15°以下である。
【0009】
第1回転軸と第2回転軸とが角度をなすことによって、駆動プーリが回転した時のベルトの第1方向への移動量が大きくなる一方で、ベルトが駆動プーリ又は従動プーリに噛み合いにくくなる可能性がある。これに対して、本開示の動力伝達装置において、ベルトの幅が、20mm以上30mm以下であり、且つ第1回転軸と第2回転軸とがなす角度が0.1°以上0.15°以下である。これにより、本開示の動力伝達装置は、駆動プーリが回転した時のベルトの第1方向への移動量を大きくできる上で、下記の効果を奏する。本開示の動力伝達装置は、ベルトに過大な力が加わった場合の歯飛びを抑制できる。また、本開示の動力伝達装置は、第1回転軸と第2回転軸との間の傾斜に起因するベルトの噛み合い精度の低下を抑制できる。
【0010】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記ベルトの幅は、25mmであり、前記第1回転軸と前記第2回転軸とがなす角度は、0.15°である。
【0011】
これにより、本開示の動力伝達装置は、第1回転軸と第2回転軸との間の傾斜に起因するベルトの噛み合い精度の低下をより抑制できる。また、本開示の動力伝達装置は、ベルトに過大な力が加わった場合の歯飛びをより抑制できる。
【0012】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記従動プーリの直径は、前記駆動プーリの直径よりも大きく、前記フランジは、前記従動プーリに設けられる。
【0013】
これにより、フランジが駆動プーリに設けられる場合と比較して、ベルトがフランジから受ける圧力が小さくなる。本開示の動力伝達装置は、フランジと接触することによるベルトの摩耗を抑制できる。
【0014】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係る電動パワーステアリング装置は、上述した動力伝達装置と、前記駆動プーリを回転させる電動モータと、前記従動プーリと接続されるナット、及び前記ナットを貫通するねじ軸を備えるボールねじ装置と、を備える。
【0015】
これにより、本開示の電動パワーステアリング装置は、操舵力を補助するための動力伝達装置におけるベルトの脱落を抑制できる。このため、本開示の電動パワーステアリング装置は、操舵力を補助する動力の伝達精度を向上できる。また、動力伝達装置が容易に製造できるので、ひいては電動パワーステアリング装置の製造が容易になる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の動力伝達装置は、ベルトの脱落を抑制でき且つ容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。
図2図2は、本実施形態のラックの周辺の正面図である。
図3図3は、本実施形態の動力伝達装置及びボールねじ装置の断面図である。
図4図4は、本実施形態の駆動プーリの斜視図である。
図5図5は、本実施形態の従動プーリの斜視図である。
図6図6は、本実施形態の駆動プーリ及び従動プーリの配置を示す模式図である。
図7図7は、駆動プーリが回転している時の駆動プーリ及びベルトを示す模式図である。
図8図8は、変形例の駆動プーリ及び従動プーリの配置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
(実施形態)
図1は、本実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。図2は、本実施形態のラックの周辺の正面図である。図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、ユニバーサルジョイント84と、ロアシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、ピニオンシャフト87と、ピニオン88aと、ラック88bと、を備える。
【0020】
図1に示すように、ステアリングホイール81は、ステアリングシャフト82に連結される。ステアリングシャフト82の一端は、ステアリングホイール81に連結される。ステアリングシャフト82の他端は、ユニバーサルジョイント84に連結される。ロアシャフト85の一端は、ユニバーサルジョイント84を介してステアリングシャフト82に連結される。ロアシャフト85の他端は、ユニバーサルジョイント86を介してピニオンシャフト87に連結される。ピニオンシャフト87は、ピニオン88aに連結される。ピニオン88aは、ラック88bに噛み合う。ピニオン88aが回転すると、ラック88bが車両の車幅方向に移動する。ピニオン88a及びラック88bは、ピニオンシャフト87に伝達された回転運動を直進運動に変換する。図2に示すように、ラック88bは、ラックハウジング88cに収容される。ラック88bは、タイロッド89に連結される。ラック88bが移動することで車輪の角度が変化する。なお、ステアリングホイール81の操作が電気信号に変換され、電気信号によって車輪の角度が変化させられてもよい。すなわち、電動パワーステアリング装置80に、ステアバイワイヤシステムを適用してもよい。
【0021】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、電動モータ93と、トルクセンサ94と、ECU(Electronic Control Unit)90と、を備える。電動モータ93は、例えばブラシレスモータであるが、ブラシ(摺動子)及びコミュテータ(整流子)を備えるモータであってもよい。電動モータ93は、後述するハウジング100に配置される。トルクセンサ94は、例えばピニオン88aに取り付けられている。トルクセンサ94は、ピニオン88aに伝達された操舵トルクをCAN(Controller Area Network)通信によりECU90に出力する。車速センサ95は、電動パワーステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ95は、車体に備えられ、車速をCAN通信によりECU90に出力する。電動モータ93、トルクセンサ94及び車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。
【0022】
ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。ECU90は、トルクセンサ94及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。ECU90は、操舵トルク及び車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。ECU90は、補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値を調節する。ECU90は、電動モータ93から誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。
【0023】
図3は、本実施形態の動力伝達装置及びボールねじ装置の断面図である。図4は、本実施形態の駆動プーリの斜視図である。図5は、本実施形態の従動プーリの斜視図である。図6は、本実施形態の駆動プーリ及び従動プーリの配置を示す模式図である。
【0024】
図3に示すように、電動パワーステアリング装置80は、ハウジング100と、ボールねじ装置10と、軸受30と、動力伝達装置20と、を備える。
【0025】
ハウジング100は、ボールねじ装置10、動力伝達装置20、及び軸受30を収容する。ハウジング100は、ラックハウジング88cに取り付けられる。電動モータ93は、ハウジング100に取り付けられる。
【0026】
図3に示すように、ボールねじ装置10は、ナット13と、ねじ軸11と、複数の転動体15と、を備える。ナット13は、内周面にねじ溝を備える。軸受30は、ハウジング100に対してナット13が回転できるようにナット13を支持する。ねじ軸11は、ナット13を貫通する。ねじ軸11は、外周面にねじ溝を備える。ねじ軸11は、ラック88bの一部である。すなわち、ねじ軸11は、ラック88bと一体である。転動体15は、ナット13とねじ軸11との間に配置される。転動体15は、ボールである。転動体15は、ナット13のねじ溝とねじ軸11のねじ溝で形成される転動路を無限循環する。ナット13が回転すると、ねじ軸11(ラック88b)が車幅方向に移動する。ボールねじ装置10は、回転運動を直進運動に変換する。
【0027】
動力伝達装置20は、電動モータ93の動力をナット13に伝達する。図3に示すように、動力伝達装置20は、駆動プーリ21と、従動プーリ23と、ベルト25と、フランジ27と、を備える。
【0028】
図3に示すように、駆動プーリ21は、入力部材としての電動モータ93のシャフト93aに固定される。駆動プーリ21は、シャフト93aと一体となって、第1回転軸A1を中心に回転する。図4に示すように、駆動プーリ21は、はす歯211を備える。はす歯211の長手方向は、第1回転軸A1に対して傾斜している。駆動プーリ21がはす歯211を備えることによって、ベルト25によって駆動プーリ21の外周面から押し出される空気の流れが滑らかになる。このため、駆動プーリ21における騒音が抑制される。
【0029】
図3に示すように、従動プーリ23は、出力部材としてのナット13に固定される。従動プーリ23は、ナット13と一体となって、第2回転軸A2を中心に回転する。図5に示すように、従動プーリ23は、はす歯231を備える。はす歯231の長手方向は、第2回転軸A2に対して傾斜している。従動プーリ23がはす歯231を備えることによって、ベルト25によって従動プーリ23の外周面から押し出される空気の流れが滑らかになる。このため、従動プーリ23における騒音が抑制される。
【0030】
図6に示すように、従動プーリ23の直径D23は、駆動プーリ21の直径D21よりも大きい。第1回転軸A1は、第2回転軸A2に対して第1方向D1に向かうにしたがって近付くように傾斜している。第1回転軸A1は、駆動プーリ21及び従動プーリ23が回転している時にも、第2回転軸A2に対して第1方向D1に向かうにしたがって近付くように傾斜している。図6において、第1方向D1は、左方向である。本実施形態において、第1方向D1は、駆動プーリ21から電動モータ93に向かう方向であるといえる。本実施形態においては、第1回転軸A1及び第2回転軸A2が平行である場合と比較して、ねじ軸11と電動モータ93との間の距離が小さくなるように、第1回転軸A1が第2回転軸A2に対して傾斜している。第1回転軸A1は、第2回転軸A2を含む平面上に配置される。第2回転軸A2に対して直交する方向から見た場合、第1回転軸A1は、第2回転軸A2と重なる。このため、第1回転軸A1及び第2回転軸A2は、交差し、角度θをなす。なお、図3図6及び後述する図8で示す角度θの大きさは、説明にため模式的に示されており、実際の大きさとは異なることがある。
【0031】
図3に示すように、ベルト25は、駆動プーリ21及び従動プーリ23に巻きかけられる。ベルト25は、駆動プーリ21のはす歯211及び従動プーリ23のはす歯231に噛み合うはす歯251を内周面に備える。図6に示すベルト25の幅W25は、20mm以上30mm以下であることが望ましい。より望ましくは、ベルト25の幅W25は、22mm以上29mm以下である。例えば本実施形態において、ベルト25の幅W25は、25mmである。
【0032】
電動モータ93が駆動すると、電動モータ93で生じた動力が動力伝達装置20を介してナット13に伝達される。これにより、軸受30に支持されるナット13が回転する。ナット13が回転すると、ラック88b(ねじ軸11)に軸方向の力が作用する。これにより、ラック88bを移動させるために要する力が小さくなる。電動パワーステアリング装置80は、ラックアシスト式である。電動モータ93は、ラック88bを移動させる方向に応じて、互いに逆方向の動力を発生させる。このため、駆動プーリ21は、正回転する場合もあり、逆回転する場合もある。
【0033】
フランジ27は、駆動プーリ21及び従動プーリ23の一方のみに設けられる。本実施形態においては、図6に示すように、フランジ27は、従動プーリ23に設けられる。フランジ27は、ベルト25に対して、第1方向D1側に配置される。フランジ27は、従動プーリ23の第1方向D1の端部のみに配置される。フランジ27の直径は、従動プーリ23の直径D23よりも大きい。駆動プーリ21が正回転している時、及び駆動プーリ21が逆回転している時において、ベルト25は、フランジ27に接している。
【0034】
例えば、フランジ27は、樹脂で形成される。フランジ27は、樹脂である従動プーリ23と一体に形成される。フランジ27が従動プーリ23の一端にのみ配置されていることによって、フランジ27及び従動プーリ23の一体成形が可能となる。これにより、動力伝達装置20の製造工程が容易になり、動力伝達装置20の製造コストが低減する。
【0035】
第1回転軸A1が第2回転軸A2に対して第1方向D1に向かうにしたがって近付くように傾斜しているので、ベルト25に張力が加わると、ベルト25には図6に示す力F1及び力F2が加わる。力F1は、第1回転軸A1に対して直交する方向の力である。力F2は、第1回転軸A1と平行な方向の力である。駆動プーリ21が静止している時、ベルト25と駆動プーリ21との間の摩擦が力F2と釣り合うことによって、第1回転軸A1と平行な方向へのベルト25の移動が規制される。
【0036】
仮に第1回転軸A1及び第2回転軸A2が平行な場合、駆動プーリ21が回転すると、ベルト25は、はす歯211から受ける力によって第1回転軸A1と平行な方向に移動する。ベルト25の移動方向は、駆動プーリ21の回転方向に依存する。具体的には、駆動プーリ21回転方向に向かって駆動プーリ21のはす歯211がベルト25を押す。はす歯211の回転方向に沿った力によってベルト25が回転する。一方、第1回転軸A1と平行な分力によってベルト25が第1回転軸A1と平行な方向に移動する。また、ベルト25は、円形の状態から変形した状態で駆動プーリ21及び従動プーリ23に取り付けられている。このため、ベルト25には円形に戻ろうとする力が作用する。ベルト25の剛性が高い場合、ベルト25は、従動プーリ23に入る時に撓む。その結果、ベルト25が第1回転軸A1と平行な方向に移動する。
【0037】
これに対して、本実施形態においては、駆動プーリ21が回転すると、ベルト25の駆動プーリ21との噛み合い位置が第1方向D1にずれる。図7は、駆動プーリが回転している時の駆動プーリ及びベルトを示す模式図である。図7の破線は、駆動プーリ21が静止している時のベルト25の位置を示す。図7の破線の丸印は、駆動プーリ21が静止している時のベルト25の駆動プーリ21との噛み合い位置を示す。図7の実線は、駆動プーリ21が回転している時のベルト25の位置を示す。図7の実線の丸印は、駆動プーリ21が回転している時のベルト25の駆動プーリ21との噛み合い位置を示す。図7で矢印で示すように、駆動プーリ21が回転すると、ベルト25の駆動プーリ21との噛み合い位置が第1方向D1に移動する。これにより、駆動プーリ21が回転すると、回転方向に関わらず、ベルト25が第1方向D1に移動する。ベルト25の移動方向が、駆動プーリ21の回転方向に依存しなくなる。このため、ベルト25がフランジ27に接した状態が保たれる。
【0038】
第1回転軸A1及び第2回転軸A2がなす角度θが大きいほど、駆動プーリ21が回転した時のベルト25及び駆動プーリ21の噛み合い位置のずれ量(図7で矢印で示したずれ量)は大きくなる。すなわち、角度θは、ある程度大きい必要がある。一方、角度θが大きいほど、ベルト25に加わる荷重によってベルト25に傷が生じる可能性が高くなる。具体的には、張力が加わった状態で回転するベルト25において、ベルト25の歯の側面(隣りの歯に面する面)に傷が生じることがある。ベルト25の寿命を向上させるために、ベルト25における傷の発生は抑制されることが望ましい。上述した理由から、角度θは、適切な所定範囲内にあることが望ましい。所定範囲は、ベルト25の幅W25によって異なる。例えば、ベルト25の幅W25が25mmである場合、角度θは、0.1°以上0.3°以下であることが望ましい。
【0039】
第1回転軸A1と第2回転軸A2とが角度をなすことによって、駆動プーリ21が回転した時のベルト25及び駆動プーリ21の噛み合い位置のずれ量(図7で矢印で示したずれ量)が大きくなる一方で、ベルト25が駆動プーリ21又は従動プーリ23に噛み合いにくくなる可能性がある。このため、角度θは、適切な所定範囲内にあることが望ましい。所定範囲は、ベルト25の幅W25によって異なる。ベルト25の幅W25が、20mm以上30mm以下である場合、角度θは0.1°以上0.15°以下であることが望ましい。これにより、ベルト25に過大な力が加わった場合の歯飛びが抑制される。また、第1回転軸A1と第2回転軸A2との間の傾斜に起因するベルト25の噛み合い精度の低下が抑制される。ベルト25の幅W25が、25mm以下である場合、角度θは0.15°であることが望ましい。
【0040】
なお、フランジ27は、必ずしも従動プーリ23に設けられなくてもよい。フランジ27は、駆動プーリ21に設けられてもよい。フランジ27は、駆動プーリ21及び従動プーリ23の一方にのみ設けられていればよい。フランジ27は、駆動プーリ21に設けられる場合、及び従動プーリ23に設けられる場合のいずれにおいても、ベルト25に対して、第1方向D1に配置される。
【0041】
以上で説明したように、動力伝達装置20は、はす歯211を有する駆動プーリ21と、はす歯231を有する従動プーリ23と、駆動プーリ21及び従動プーリ23に巻きかけられ且つはす歯251を有するベルト25と、駆動プーリ21及び従動プーリ23の一方に設けられるフランジ27と、を備える。駆動プーリ21が回転している時、駆動プーリ21の回転軸である第1回転軸A1は、従動プーリ23の回転軸である第2回転軸A2に対して第1方向D1に向かうにしたがって近付くように傾斜している。フランジ27は、ベルト25に対して、第1方向D1に配置される。駆動プーリ21が正回転している時、及び駆動プーリ21が逆回転している時において、ベルト25は、フランジ27に接している。
【0042】
駆動プーリ21及び従動プーリ23がはす歯を備えるので、駆動プーリ21の回転方向に応じて、はす歯がベルト25を押す方向が変化することになる。しかし、本実施形態においては、第1回転軸A1が第2回転軸A2に対して第1方向D1に向かうにしたがって近付くように傾斜することによって、駆動プーリ21が回転すると、ベルト25の駆動プーリ21との噛み合い位置が第1方向D1に移動する。これにより、駆動プーリ21が回転すると、回転方向に関わらず、ベルト25が第1方向D1に移動する。ベルト25の移動方向が、駆動プーリ21の回転方向に依存しなくなる。このため、少なくともベルト25の第1方向D1にフランジ27が設けられていれば、ベルト25の脱落が抑制される。動力伝達装置20は、1つのフランジ27のみによってベルト25の脱落を抑制できる。このため、動力伝達装置20の製造工程における部品点数及び組立工程の増加が抑制される。したがって、動力伝達装置20は、ベルト25の脱落を抑制でき且つ容易に製造できる。なお、脱落とは、ベルト25が駆動プーリ21又は従動プーリ23から完全に離脱すること、若しくはベルト25の一部が駆動プーリ21又は従動プーリ23からはみ出すことを意味する。
【0043】
動力伝達装置20において、ベルト25の幅W25は、20mm以上30mm以下である。第1回転軸A1と第2回転軸A2とがなす角度θは、0.1°以上0.15°以下である。
【0044】
第1回転軸A1と第2回転軸A2とが角度をなすことによって、駆動プーリ21が回転した時のベルト25の第1方向D1への移動量が大きくなる一方で、ベルト25が駆動プーリ21又は従動プーリ23に噛み合いにくくなる可能性がある。これに対して、本実施形態の動力伝達装置20において、ベルト25の幅W25が、20mm以上30mm以下であり、且つ第1回転軸A1と第2回転軸A2とがなす角度θが0.1°以上0.15°以下である。これにより、動力伝達装置20は、駆動プーリ21が回転した時のベルト25の第1方向D1への移動量を大きくできる上で、下記の効果を奏する。動力伝達装置20は、ベルト25に過大な力が加わった場合の歯飛びを抑制できる。また、動力伝達装置20は、第1回転軸A1と第2回転軸A2との間の傾斜に起因するベルト25の噛み合い精度の低下を抑制できる。
【0045】
動力伝達装置20において、ベルト25の幅W25は、25mmである。第1回転軸A1と第2回転軸A2とがなす角度θは、0.15°である。
【0046】
これにより、動力伝達装置20は、第1回転軸A1と第2回転軸A2との間の傾斜に起因するベルト25の噛み合い精度の低下をより抑制できる。また、動力伝達装置20は、ベルト25に過大な力が加わった場合の歯飛びをより抑制できる。
【0047】
動力伝達装置20において、従動プーリ23の直径D23は、駆動プーリ21の直径D21よりも大きい。フランジ27は、従動プーリ23に設けられる。
【0048】
これにより、フランジ27が駆動プーリ21に設けられる場合と比較して、ベルト25がフランジ27から受ける圧力が小さくなる。動力伝達装置20は、フランジ27と接触することによるベルト25の摩耗を抑制できる。
【0049】
電動パワーステアリング装置80は、動力伝達装置20と、駆動プーリ21を回転させる電動モータ93と、ボールねじ装置10と、を備える。ボールねじ装置10は、従動プーリ23と接続されるナット13、及びナット13を貫通するねじ軸11を備える。
【0050】
これにより、電動パワーステアリング装置80は、操舵力を補助するための動力伝達装置20におけるベルト25の脱落を抑制できる。このため、電動パワーステアリング装置80は、操舵力を補助する動力の伝達精度を向上できる。また、動力伝達装置20が容易に製造できるので、ひいては電動パワーステアリング装置80の製造が容易になる。
【0051】
(変形例)
図8は、変形例の駆動プーリ及び従動プーリの配置を示す模式図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0052】
図8に示すように、第1回転軸A1は、第2回転軸A2に対して第1方向D1に向かうにしたがって近付くように傾斜している。第1回転軸A1は、駆動プーリ21及び従動プーリ23が回転している時にも、第2回転軸A2に対して第1方向D1に向かうにしたがって近付くように傾斜している。図8において、第1方向D1は、左方向である。変形例において、第1方向D1は、駆動プーリ21から電動モータ93とは反対方向に向かう方向であるといえる。変形例においては、第1回転軸A1及び第2回転軸A2が平行である場合と比較して、ねじ軸11と電動モータ93との間の距離が大きくなるように、第1回転軸A1が第2回転軸A2に対して傾斜している。
【0053】
図8に示すように、変形例の動力伝達装置20Aは、フランジ27Aを備える。フランジ27Aは、従動プーリ23に設けられる。フランジ27Aは、ベルト25に対して、第1方向D1に配置される。フランジ27Aは、従動プーリ23の第1方向D1の端部に配置される。駆動プーリ21が正回転している時、及び駆動プーリ21が逆回転している時において、ベルト25は、フランジ27Aに接している。
【符号の説明】
【0054】
10 ボールねじ装置
11 ねじ軸
13 ナット
15 転動体
20、20A 動力伝達装置
21 駆動プーリ
23 従動プーリ
25 ベルト
27、27A フランジ
30 軸受
80 電動パワーステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 ステアリングシャフト
84 ユニバーサルジョイント
85 ロアシャフト
86 ユニバーサルジョイント
87 ピニオンシャフト
88a ピニオン
88b ラック
88c ラックハウジング
89 タイロッド
90 ECU
93 電動モータ
93a シャフト
94 トルクセンサ
95 車速センサ
98 イグニッションスイッチ
99 電源装置
100 ハウジング
211 はす歯
231 はす歯
251 はす歯
A1 第1回転軸
A2 第2回転軸
D1 第1方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8