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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】炭素膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20230404BHJP
【FI】
C01B32/15
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020510072
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012502
(87)【国際公開番号】W WO2019188978
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2018065290
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】山岸 智子
(72)【発明者】
【氏名】上島 貢
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-536911(JP,A)
【文献】国際公開第2016/189873(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133183(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008594(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82Y 40/00
C01B 32/00-32/991
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を支持体上に供給する工程と、
前記支持体上の前記繊維状炭素ナノ構造体分散液から前記溶媒を除去することで、前記支持体上に炭素膜を備える積層体を形成する工程と、
前記積層体を、剥離液と接触させることで、前記支持体から前記炭素膜を剥離する工程と、
を含み、
前記剥離液は、全体としてのSP値が10(MPa) 1/2 以上であり、
そして前記剥離液は、2種以上のSP値が10(MPa) 1/2 以上の液体の混合物A、又は、1種若しくは2種以上のSP値が10(MPa) 1/2 以上の液体と、1種若しくは2種以上のSP値が10(MPa) 1/2 未満の液体との混合物Bである、炭素膜の製造方法。
【請求項2】
前記積層体を前記剥離液に浸漬させることで、前記支持体から前記炭素膜を剥離する、請求項1に記載の炭素膜の製造方法。
【請求項3】
前記支持体が多孔質の支持体であり、ろ過により前記支持体上の前記繊維状炭素ナノ構造体分散液から前記溶媒を除去する、請求項1または2に記載の炭素膜の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、炭素数6以上20以下の直鎖アルキル鎖を有する、請求項1~3の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
【請求項5】
前記繊維状炭素ナノ構造体分散液の、波長550nmの光線透過率が60%以上である、請求項1~4の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
【請求項6】
前記繊維状炭素ナノ構造体分散液を支持体上に供給する工程に先んじて、
複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒とを含む組成物に分散処理を施す工程と、
前記分散処理後の組成物を静置または遠心分離し、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる工程と、
静置または遠心分離した前記組成物から上澄みを液として繊維状炭素ナノ構造体分散液を分取する工程と、
を含む、請求項1~5の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
【請求項7】
前記支持体の、前記炭素膜と接する面の表面粗さRaが2.3μm以下である、請求項1~6の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
【請求項8】
前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体が、単層カーボンナノチューブを含む、請求項1~7の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
【請求項9】
前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が2以上である、請求項1~8の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
【請求項10】
前記剥離液が前記混合物Aであり、そして、前記混合物Aは、エタノール、メタノール及びイソプロピルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種と、水との混合物である、請求項1~9の何れかに記載の炭素膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素膜の製造方法に関し、特には、繊維状炭素ナノ構造体よりなる炭素膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性、熱伝導性および機械的特性に優れる材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)等の繊維状炭素ナノ構造体が注目されている。
【0003】
しかし、CNT等の繊維状炭素ナノ構造体は直径がナノメートルサイズの微細な構造体であるため、単体では取り扱い性や加工性が悪い。そこで、取り扱い性や加工性を確保して各種用途に用いるべく、複数本の繊維状炭素ナノ構造体を膜状に集合させて炭素膜を形成することが従来から行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1によれば、BET比表面積が500m/g以上である単層繊維状炭素ナノ構造体と、多層繊維状炭素ナノ構造体とを用いて炭素膜を形成することで、得られる炭素膜の自立性および導電性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-190772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、自立性に優れる炭素膜を製造可能な新たな技術が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、自立性に優れる炭素膜の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が所定の値以下である界面活性剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液から、所定の手順を経て炭素膜を製造すれば、自立性に優れる炭素膜を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の炭素膜の製造方法は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を支持体上に供給する工程と、前記支持体上の前記繊維状炭素ナノ構造体分散液から前記溶媒を除去することで、前記支持体上に炭素膜を備える積層体を形成する工程と、前記積層体を、SP値が10(MPa)1/2以上の剥離液と接触させることで、前記支持体から前記炭素膜を剥離する工程とを含む。上述した工程を経れば、自立性に優れる炭素膜を製造することができる。
【0010】
なお、本発明における「SP値」は、水や有機溶剤の溶解度パラメーター(SP値)を意味し、分子凝集エネルギーの平方根で表される値である。SP値については、「Polymer HandBook(Second Edition) 第IV章 Solubility Parameter Values」に記載があり、その値を本発明におけるSP値とする。(なお、SP値は25℃における値を指す。)また、データの記載がないものについては、「R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14, p147(1967)」に記載の方法で計算した値を本発明におけるSP値とする。
【0011】
そして、本発明の炭素膜の製造方法は、前記積層体を前記剥離液に浸漬させることで、前記支持体から前記炭素膜を剥離することが好ましい。積層体を剥離液に浸漬させれば、炭素膜中に存在する、分子量が400以下の界面活性剤などの分散剤を除去しつつ、支持体から炭素膜を良好に剥離することができる。
【0012】
更に、本発明の炭素膜の製造方法は、前記支持体が多孔質の支持体であり、ろ過により前記支持体上の前記繊維状炭素ナノ構造体分散液から前記溶媒を除去することが好ましい。溶媒の除去方法としてろ過を採用すれば、溶媒の除去を容易かつ迅速に行うことができる。
【0013】
また、本発明の炭素膜の製造方法は、前記界面活性剤が、炭素数6以上20以下の直鎖アルキル鎖を有することが好ましい。分子量400以下であり且つ炭素数6以上20以下の直鎖アルキル鎖を有する界面活性剤を用いれば、支持体から炭素膜を良好に剥離することができる。
【0014】
ここで、本発明の炭素膜の製造方法は、前記繊維状炭素ナノ構造体分散液の、波長550nmの光線透過率が60%以上であることが好ましい。波長550nmの光線透過率が60%以上である繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いれば、得られる炭素膜の光透過性を向上させることができる。
なお、本発明において、繊維状炭素ナノ構造体分散液の「波長550nmの光線透過率」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0015】
そして、本発明の炭素膜の製造方法は、前記繊維状炭素ナノ構造体分散液を支持体上に供給する工程に先んじて、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒とを含む組成物に分散処理を施す工程と、前記分散処理後の組成物を静置または遠心分離し、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる工程と、静置または遠心分離した前記組成物から上澄みを液として繊維状炭素ナノ構造体分散液を分取する工程と、を含むことが好ましい。上述した工程を経て繊維状炭素ナノ構造体分散液を調製すれば、当該繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いて得られる炭素膜の光透過性を向上させることができる。
【0016】
更に、本発明の炭素膜の製造方法は、前記支持体の、前記炭素膜と接する面の表面粗さRaが2.3μm以下であることが好ましい。炭素膜と接する面の表面粗さRaが2.3μm以下である支持体を用いれば、当該支持体から炭素膜を容易に剥離することができる。
なお、本発明において、支持体の「表面粗さRa」とは、JIS B0601:1994に準じる算術平均粗さを指し、たとえば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0017】
また、本発明の炭素膜の製造方法は、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体が、単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。単層カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いれば、得られる炭素膜の光透過性を向上させることができる。
【0018】
ここで、本発明の炭素膜の製造方法において、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が2以上であることが好ましい。ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が2以上である繊維状炭素ナノ構造体を用いれば、得られる炭素膜の自立性を十分に確保することができる。
なお、本発明において、繊維状炭素ナノ構造体の「ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の炭素膜の製造方法によれば、自立性に優れる炭素膜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の炭素膜の製造方法は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体を膜状に集合させて炭素膜を製造する方法である。
【0021】
(炭素膜の製造方法)
本発明の炭素膜の製造方法は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を支持体上に供給する工程(分散液供給工程)と、前記支持体上の前記繊維状炭素ナノ構造体分散液から前記溶媒を除去することで、前記支持体上に炭素膜を備える積層体を形成する工程(積層体形成工程)と、前記積層体を、SP値が10(MPa)1/2以上の剥離液と接触させることで、前記支持体から前記炭素膜を剥離する工程(炭素膜剥離工程)を、少なくとも含む。本発明の製造方法によれば、自立性に優れる炭素膜を製造することができる。
【0022】
<分散液供給工程>
分散液供給工程では、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液(以下、「分散液」と略記する場合がある。)を支持体上に供給する。
【0023】
<<繊維状炭素ナノ構造体分散液>>
分散液は、繊維状炭素ナノ構造体、分子量が400以下の界面活性剤および溶媒を含み、任意に、繊維状炭素ナノ構造体、分子量が400以下の界面活性剤および溶媒以外の成分(その他の成分)を含む。
【0024】
〔繊維状炭素ナノ構造体〕
分散液に含まれる複数本の繊維状炭素ナノ構造体としては、特に限定されず、単層CNT、多層CNT、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そして、本発明においては、得られる炭素膜の光透過性を向上させる観点から、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用することが好ましい。
ここで、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、単層CNTのみからなるものであってもよいし、単層CNTと、単層CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。単層CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体としては、例えば、上述した、多層CNT、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物が挙げられる。
そして、繊維状炭素ナノ構造体中に占める単層CNTの割合は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましく、95%以上であることが特に好ましく、100%であること(即ち、繊維状炭素ナノ構造体が単層CNTのみからなること)が最も好ましい。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体中に占める単層CNTの割合」は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本中の単層CNTの数を数えることで、求めることができる。
【0025】
また、繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50以上の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の3σ/Avが上述した範囲内であれば、炭素膜の膜強度を高めて自立性を十分に確保しつつ、導電性を向上させることができる。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0026】
そして、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して、凝集物の生成による炭素膜の光透過性の低下を防ぐことができる。一方、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、炭素膜の膜強度を高めて自立性を十分に確保することができる。加えて、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が上述した範囲内であれば、炭素膜の導電性を高めることができる。
【0027】
更に、繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、400m/g以上であることが好ましく、700m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1200m/g以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が400m/g以上であれば、炭素膜の膜強度を高めて自立性を十分に確保することができる。一方、繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m/g以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して、凝集物の生成による炭素膜の光透過性の低下を防ぐことができる。加えて、繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が上述した範囲内であれば、炭素膜の導電性を高めることができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
加えて、繊維状炭素ナノ構造体は、G/D比が2以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体がG/D比が2以上であると、繊維状炭素ナノ構造体中に占める屈曲構造体の割合が低下することで得られる炭素膜の密度が高まり、膜強度が向上するためと推察されるが、炭素膜の自立性を十分に確保することができる。
なお、繊維状炭素ナノ構造体のG/D比の上限は、特に限定されないが、通常1000以下である。
【0028】
そして、繊維状炭素ナノ構造体としては、市販品を用いてもよいし、例えば、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を効率的に製造してもよい。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
ここで、スーパーグロース法により製造したSGCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0029】
なお、分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の濃度は、繊維状炭素ナノ構造体が溶媒中に分散可能であれば特に限定されない。
【0030】
〔分子量が400以下の界面活性剤〕
分子量が400以下の界面活性剤は、上述した繊維状炭素ナノ構造体を溶媒中で分散させる分散剤として機能する成分である。分子量が400以下の界面活性剤は、溶媒中で繊維状炭素ナノ構造体を分散させる性質を有する一方で、溶媒除去後には繊維状炭素ナノ構造体同士のネットワーク形成を阻害しないためと推察されるが、分子量が400以下の界面活性剤を用いることにより、後述する炭素膜剥離工程において、支持体から炭素膜を良好に剥離させることができる。
ここで、支持体から炭素膜を一層良好に剥離させる観点からは、分子量が350以下の界面活性剤を用いることがより好ましく、分子量が300以下の界面活性剤を用いることが更に好ましい。なお、分子量が400以下の界面活性剤の分子量の下限は、特に限定されないが、例えば50以上である。
また、分子量が400以下の界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れも用いることができる。具体的に、分子量が400以下の界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム(分子量:288.38)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(分子量:348.48)などが挙げられる。これらは、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
また、分子量が400以下の界面活性剤としては、炭素数6以上20以下の直鎖アルキル鎖を有する界面活性剤を用いることが好ましい。分子量400以下であり且つ炭素数6以上20以下の直鎖アルキル鎖を有する界面活性剤を用いることで、後述する炭素膜剥離工程において、支持体から炭素膜を一層良好に剥離させることができる。
【0032】
そして、分子量が400以下の界面活性剤の中でも、後述する炭素膜剥離工程において、支持体から炭素膜を良好に剥離させる観点から、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましく、ドデシルスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0033】
〔溶媒〕
分散液に含まれる溶媒(繊維状炭素ナノ構造体の分散媒)としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
〔その他の成分〕
分散液に任意に含まれるその他の成分としては、繊維状炭素ナノ構造体の分散液や炭素膜に含まれうる既知の成分であれば特に限定されない。例えば、分散液は、その他の成分として、上述した分子量が400以下の界面活性剤以外の分散剤(その他の分散剤)を含んでいてもよい。
そして、その他の分散剤としては、繊維状炭素ナノ構造体を分散可能であり、繊維状炭素ナノ構造体を分散させる溶媒に溶解可能であれば、特に限定されることなく、分子量が400超の界面活性剤、合成高分子または天然高分子を用いることができる。
【0035】
ここで、分子量が400超の界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れも用いることができる。具体的に、分子量が400超の界面活性剤としては、デオキシコール酸ナトリウム(分子量:414.55)、コール酸ナトリウム(分子量:430.55)などが挙げられる。
また、合成高分子としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
更に、天然高分子としては、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロース、並びに、その塩または誘導体が挙げられる。
これらのその他の分散剤は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
〔分散液の調製方法〕
ここで、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒と、任意にその他の成分を含む分散液の調製方法は、繊維状炭素ナノ構造体が溶媒中に分散可能であれば特に限定されない。例えば、分散液は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒と、任意にその他の成分とを含む組成物に分散処理を施す工程(分散処理工程)と、前記分散処理後の組成物を静置または遠心分離し、前記複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる工程(分離工程)と、静置または遠心分離した前記組成物から上澄みを液として繊維状炭素ナノ構造体分散液を分取する工程(分取工程)、を経て製造することができる。上述した分散処理工程、分離工程、および分取工程を経て分散液を調製すれば、当該分散液を用いて得られる炭素膜の光透過性を向上させることができる。
【0037】
[分散処理工程]
分散処理工程では、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、分子量が400以下の界面活性剤と、溶媒と、任意にその他の成分とを含む組成物に分散処理を施す。ここで、分散処理工程で用いる分散処理方法としては、特に限定されることなく、繊維状炭素ナノ構造体分散液の調製に使用されている既知の分散処理方法を用いることができる。中でも、組成物に施す分散処理としては、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理が好ましい。キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理を使用すれば、繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させることができるので、得られる炭素膜の膜強度を高めて自立性を十分に確保することができる。
ここで、キャビテーション効果が得られる分散処理、解砕効果が得られる分散処理の具体例としては、特に限定されず、例えば、特開2016-183082号公報に記載のものが挙げられる。
【0038】
なお、分散処理に供する組成物中の繊維状炭素ナノ構造体の濃度は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の濃度が0.005質量%以上であれば、得られる分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の濃度が低下するのを抑制して、炭素膜を効率的に製造することができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の濃度が5質量%以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して、凝集物の生成による炭素膜の光透過性の低下を防ぐことができる。
更に、分散処理に供する組成物中の分子量が400以下の界面活性剤の濃度は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。分子量が400以下の界面活性剤の濃度が0.1質量%以上10質量%以下であれば、得られる上澄み液(分散液)中に分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体を適度に残存させ、光透過性に優れる炭素膜を効率的に製造することができる。
【0039】
[分離工程]
分離工程では、上述した分散処理後の組成物を静置または遠心分離することで、複数本の繊維状炭素ナノ構造体の一部を沈殿させる。そして、分離工程では、凝集性の高い繊維状炭素ナノ構造体が沈殿し、分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体は上澄み液中に残存する。
【0040】
分散処理後の組成物を静置する際の条件は、沈殿と上澄みの分離が良好に行われれば特に限定されない。例えば、静置する時間は、得られる上澄み液中に分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体を適度に残存させ、光透過性に優れる炭素膜を効率良く製造する観点からは、1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましい。なお、静置する時間の上限は特に限定されない。
【0041】
また、分散処理後の組成物の遠心分離は、特に限定されることなく、既知の遠心分離機を用いて行うことができる。
中でも、得られる上澄み液中に分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体を適度に残存させ、光透過性に優れる炭素膜を効率良く製造する観点からは、分散処理後の組成物を遠心分離する際の遠心回転数は、10rpm以上であることが好ましく、20rpm以上であることがより好ましく、15000rpm以下であることが好ましく、10000rpm以下であることがより好ましい。
また、得られる上澄み液中に分散性に優れる繊維状炭素ナノ構造体を適度に残存させ、光透過性に優れる炭素膜を効率良く製造する観点からは、繊維状炭素ナノ構造体分散液を遠心分離する際の遠心分離時間は、0.1分以上であることが好ましく、0.5分以上であることがより好ましく、150分以下であることが好ましく、120分以下であることがより好ましい。
【0042】
[分取工程]
分取工程では、分離工程で静置または遠心分離した組成物から上澄み液として繊維状炭素ナノ構造体分散液を分取する。そして、上澄み液の分取は、例えば、デカンテーションやピペッティングなどにより、沈殿層を残して上澄み液を回収することにより行うことができる。具体的には、例えば、分離工程後の組成物の液面から5/6の深さまでの部分に存在する上澄み液を回収すればよい。
静置または遠心分離後の組成物から分取した上澄み液としての繊維状炭素ナノ構造体分散液には、静置または遠心分離により沈殿しなかった繊維状炭素ナノ構造体が含まれている。この繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いれば、光透過性に優れる炭素膜を効率良く製造することができる。
【0043】
〔分散液の光線透過率〕
ここで、繊維状炭素ナノ構造体分散液の、波長550nmの光線透過率は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましく、85%以上であることが一層好ましく、88%以上であることが特に好ましく、99%以下であることが好ましい。分散液の、波長550nmの光線透過率が60%以上であれば、光透過性に優れる炭素膜を効率良く製造することができる。一方、分散液の、波長550nmの光線透過率が99%以下であれば、得られる炭素膜の膜強度を十分に確保することができ、ハンドリング性を向上させることができる。
【0044】
<<分散液の支持体上への供給>>
上述した繊維状炭素ナノ構造体分散液を支持体上に供給する方法は、特に限定されず、塗布、滴下などが挙げられる。また支持体としては、その上で分散液中の溶媒を除去して炭素膜を成膜可能であれば、特に限定されない。
【0045】
〔支持体〕
例えば、分散液中の溶媒の除去を乾燥により行う場合は、支持体としては、樹脂支持体、ガラス支持体などを挙げることができる。ここで、樹脂支持体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどよりなる支持体を挙げることができる。また、ガラス支持体としては、通常のソーダガラスよりなる支持体を挙げることができる。
また、例えば、分散液中の溶媒の除去をろ過により行う場合は、支持体としては、多孔質の支持体を用いる。多孔質の支持体としては、特に限定されないが、ろ紙や、セルロースとニトロセルロースの少なくとも一方を含む多孔質シートを挙げることができる。
【0046】
また、支持体の、分散液が供給される面(即ち、溶媒の除去後に得られる炭素膜と接する面)は、表面粗さRaが2.3μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.7μm以下であることが更に好ましい。炭素膜と接する面の表面粗さRaが2.3μm以下である支持体を用いれば、後述する炭素膜剥離工程において、支持体から炭素膜を容易に剥離することができる。なお、表面粗さRaの下限は特に限定されないが、通常0.5μm以上である。
【0047】
<積層体形成工程>
積層体形成工程では、支持体上の分散液から溶媒を除去することで、炭素膜と、炭素膜に接する支持体とを備える積層体を得る。
【0048】
<<溶媒の除去>>
分散液から溶媒を除去する方法としては、乾燥、ろ過が挙げられるが、容易かつ迅速に溶媒を除去する観点からは、ろ過が好ましい。
なお、ろ過の方法としては、公知のろ過方法を採用できる。具体的には、ろ過方法としては、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過などを用いることができる。これらの中でも、減圧ろ過が好ましい。
なお、分散液中の溶媒は完全に除去する必要はなく、溶媒の除去後に残った繊維状炭素ナノ構造体が膜状の集合体(炭素膜)としてハンドリング可能な状態であれば、多少の溶媒が残留していても問題はない。
【0049】
<<積層体>>
上述のようにして分散液から溶媒を除去することで得られる積層体は、直ちに後述する炭素膜剥離工程に供してもよいが、積層体の状態で、保管や運搬等を行ってもよい。積層体の状態で保管や運搬を行うことで、炭素膜の破損を防止することができる。
【0050】
<炭素膜剥離工程>
炭素膜剥離工程では、積層体形成工程で得られた積層体を、SP値が10(MPa)1/2以上の剥離液と接触させることで、支持体から炭素膜を剥離する。
【0051】
<<剥離液>>
ここで、剥離液のSP値は10(MPa)1/2以上であることが必要である。剥離液のSP値が10(MPa)1/2未満であると、剥離液が、支持体と炭素膜の間に十分に浸透しないためと推察されるが、炭素膜を支持体から損傷なく剥離することが困難となる。なお、剥離液のSP値の上限は、特に限定されないが、例えば25(MPa)1/2以下である。
【0052】
ここで、剥離液として使用可能な液体としては、剥離液全体としてのSP値が10(MPa)1/2以上であれば特に限定されず、SP値が10(MPa)1/2以上の液体1種を単独で用いてもよいし、2種以上のSP値が10(MPa)1/2以上の液体の混合物を用いてもよいし、さらには、1種又は2種以上のSP値が10(MPa)1/2以上の液体と、1種又は2種以上のSP値が10(MPa)1/2未満の液体との混合物を用いてもよい。
【0053】
なお、SP値が10(MPa)1/2以上の液体としては、例えば、水(純水、ナノバブル水等)、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)を挙げることができる。
【0054】
<<積層体と剥離液の接触>>
積層体と、SP値が10(MPa)1/2以上の剥離液とを接触させる方法は、炭素膜を損傷なく剥離させることができれば特に限定されないが、積層体を剥離液に浸漬させることが好ましい。積層体を剥離液に浸漬させることで、剥離液中で炭素膜が支持体から容易に剥離し、剥離後の炭素膜を回収することができる。加えて、積層体を剥離液に浸漬させることで、炭素膜中に残存する、分子量が400以下の界面活性剤などの分散剤を除去することができる。ここで、浸漬条件(例えば、浸漬時間、浸漬温度)は、支持体と炭素膜の剥離を良好に行うことができれば、特に限定されない。
そして、支持体からの剥離後、任意に乾燥する等して、自立性に優れる炭素膜を得ることができる。
【0055】
(炭素膜)
上述した本発明の炭素膜の製造方法により得られる炭素膜は、複数本の繊維状炭素ナノ構造体の集合体で構成される。本発明の炭素膜は、例えば、製造工程において不可避に混入する、繊維状炭素ナノ構造体以外の成分(例えば、分子量が400以下の界面活性剤などの分散剤)を含んでいてもよい。しかしながら、炭素膜中に占める繊維状炭素ナノ構造体の割合は、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましく、99.5質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であること(即ち、炭素膜が繊維状炭素ナノ構造体のみからなること)が最も好ましい。
【0056】
ここで、本発明の炭素膜の製造方法により得られる炭素膜は、厚みが10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、110nm以下であることが好ましく100nm以下であることがより好ましい。厚みが10nm以上であれば、炭素膜の自立性を十分に確保することができ、110nm以下であれば、炭素膜の光透過性を向上させることができる。
【実施例
【0057】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、本発明において、繊維状炭素ナノ構造体のG/D比、繊維状炭素ナノ構造体分散液の波長550nmの光線透過率、炭素膜の厚み、表面抵抗値および波長550nmの光線透過率、並びに、支持体の表面粗さRaは、以下の要領で測定および評価した。
【0058】
<G/D比>
顕微レーザラマン分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製Nicolet Almega XR)を使用し、繊維状炭素ナノ構造体のラマンスペクトルを計測した。そして、得られたラマンスペクトルについて、1590cm-1近傍で観察されたGバンドピークの強度と、1340cm-1近傍で観察されたDバンドピークの強度とを求め、G/D比を算出した。
<分散液の波長550nmの光線透過率>
0.1mm幅の石英セルに、分散液を滴下して測定サンプルを用意した。そして、分光光度計(日本分光社製、「V-670」)を用いて、分散液の波長550nmの光線透過率を測定した。
<炭素膜の厚み>
得られた炭素膜をガラス基板に載せ、「Dimension Icon AFM」(ブルカー社製)を用いて、ガラス面と炭素膜面の任意の3か所の段差を測定し,その平均値を、炭素膜の厚みとした。
<炭素膜の表面抵抗値>
JIS K7194に準拠し、抵抗率計(三菱化学社製、「ロレスタ(登録商標)GP」)を用いて、四端子四探針法にて炭素膜のシート抵抗を測定した。
<炭素膜の波長550nmの光線透過率>
分光光度計(日本分光社製、「V-670」)を用いて、炭素膜の波長550nmの光線透過率を測定した。
<支持体の表面粗さRa>、
形状解析レーザ顕微鏡(キーエンス社製、「VK-X160」)で、分散液供給側の面の任意の5点の表面粗さを測定し、その平均値を支持体の表面粗さRa(μm)とした。
【0059】
(実施例1)
<繊維状炭素ナノ構造体分散液の調製>
分散剤としてドデシルスルホン酸ナトリウム(SDS)を含む濃度2%のSDS水溶液500mLに対し、繊維状炭素ナノ構造体としての「MEIJO eDIPS」(名城ナノカーボン製、G/D比:200、単層CNTの割合:90%、3σ/Av:0.5、平均直径(Av):1.5nm、BET比表面積:750m/g)を0.1g加え、繊維状炭素ナノ構造体、分散剤、および水を含む組成物を、分散時に背圧を負荷する多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、製品名「BERYU SYSTEM PRO」)に充填し、100MPaの圧力で組成物の分散処理を行った。具体的には、背圧を負荷しつつ、組成物にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体を分散させた。なお、分散処理は、高圧ホモジナイザーから流出した分散液を再び高圧ホモジナイザーに返送しつつ、10分間実施した(分散処理工程)。
次いで、分散処理後の組成物に、当該組成物の50倍量の水を添加した。得られた希釈液を、常温(25℃)で2時間静置した(分離工程)。2時間静置後、上澄み液を採取して繊維状炭素ナノ構造体分散液を得た(分取工程)。得られた分散液(上澄み液)の波長550nmの光線透過率は90.0%であった。
<積層体の作製>
上記で得られた分散液を、多孔質の支持体としてのメンブレンフィルター(セルロース混合エステルタイプ、分散液供給側の面の表面粗さRa:1.2μm)を備えた減圧ろ過装置を用いて、0.09MPaの条件下にて上澄み液のろ過を実施し、メンブレンフィルター上に炭素膜を備える積層体を得た。
<炭素膜の剥離>
上記で得られた積層体を、剥離液(SP値:10(MPa)1/2、組成:水が50%、エタノールが50%)中に浸漬した。浸漬から2分経過後、メンブレンフィルターから剥離し剥離液の液面に浮上した炭素膜を回収した。得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり、メンブレンフィルターから剥離しても膜の状態を維持していた(即ち、得られた炭素膜は自立性に優れていた)。そして、得られた炭素膜の、波長550nmの光線透過率は92.7%であり、表面抵抗値は500Ω/□であり、厚みは50nmであった。
【0060】
(実施例2)
分離工程において、静置による分離に替えて、遠心分離機(シンキー社製、「あわとり練太郎」)を用いた遠心分離(真空下、遠心回転数:50rpm、遠心分離時間:1分)による分離を採用した以外は、実施例1と同様にして、繊維状炭素ナノ構造体分散液、積層体、および炭素膜を得た。なお、得られた分散液(上澄み液)の波長550nmの光線透過率は98.6%であった。また、得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり、メンブレンフィルターから剥離しても膜の状態を維持していた(即ち、得られた炭素膜は自立性に優れていた)。そして、得られた炭素膜の、波長550nmの光線透過率は95%であり、表面抵抗値は500Ω/□であり、厚みは30nmであった。
【0061】
(比較例1)
分散剤として、SDSに替えてデオキシコール酸ナトリウム(DOC)を用いた以外は、実施例1と同様にして、繊維状炭素ナノ構造体分散液および積層体を得た。そして、実施例1と同様にして、炭素膜の剥離を試みたが、剥離液中で炭素膜が剥離せず、ピンセットでの剥離を試みたが炭素膜が崩壊し、自立性に優れる炭素膜を得ることができなかった。
【0062】
(比較例2)
分散剤として、SDSに替えてコール酸ナトリウム(SC)を用いた以外は、実施例1と同様にして、繊維状炭素ナノ構造体分散液および積層体を得た。そして、実施例1と同様にして、炭素膜の剥離を試みたが、剥離液中で炭素膜が剥離せず、ピンセットでの剥離を試みたが炭素膜が崩壊し、自立性に優れる炭素膜を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の炭素膜の製造方法によれば、自立性に優れる炭素膜を製造することができる。