(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】異材接合用アークスタッド溶接方法、接合補助部材及び異材溶接継手
(51)【国際特許分類】
B23K 9/20 20060101AFI20230405BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
B23K9/20 A
B23K9/23 H
B23K9/23 F
(21)【出願番号】P 2019145774
(22)【出願日】2019-08-07
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000228981
【氏名又は名称】日本スタッドウェルディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】秦野 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
(72)【発明者】
【氏名】片岡 英樹
(72)【発明者】
【氏名】木俣 裕貴
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-063839(JP,A)
【文献】特開昭52-114446(JP,A)
【文献】特公昭48-029699(JP,B1)
【文献】特公昭49-032421(JP,B1)
【文献】特開2018-034164(JP,A)
【文献】特開2017-070962(JP,A)
【文献】特開2003-170273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/20
B23K 9/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金及び純アルミニウム以外の材料製の第1の板と、アルミニウム合金又は純アルミニウム製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスタッド溶接法であって、
前記第1の板に穴部を形成する工程と、
前記穴部と前記第2の板の接合予定部を合わせて前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる重ね合わせ工程と、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、アルミニウム合金又は純アルミニウム製の接合補助部材を、非消耗式電極を介して前記穴部に挿入して前記挿入部を前記第2の板に接触させる移動工程と、
前記接合補助部材と前記第2の板の間にアークを発生させるアーク発生工程と、
アーク熱によって前記接合補助部材と前記第2の板とを溶融して溶接する溶接工程と、を備え
、
前記接合補助部材は、溶接電源の陽極側に接続され、前記第2の板は、前記溶接電源の陰極側に接続される異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項2】
前記第2の板及び前記接合補助部材は、前記アルミニウム合金同士又は前記純アルミニウム同士が組み合わされて溶接される、請求項1に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項3】
前記移動工程によって、前記接合補助部材を前記第2の板に接触させた後、前記アーク発生工程において、前記非消耗式電極と前記接合補助部材とを一旦引き上げる、請求項1又は2に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項4】
前記移動工程の後、前記接合補助部材が前記第2の板に非接触の状態で、前記接合補助部材と前記第2の板の間に高周波高電圧を印加する工程を更に備える、請求項1又は2に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項5】
前記挿入部の長さが、前記第1の板の板厚の1.05倍以上、3.0倍以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項6】
前記挿入部の先端部は、錐形状又は突起を有する形状である、請求項1~5のいずれか1項に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項7】
前記溶接工程において、アルゴンガス又はヘリウムガスにより溶接部をシールドする、請求項1~6のいずれか1項に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項8】
前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の重ね合わせ面に接着剤を塗布する工程を、更に備える、請求項1~
7のいずれか1項に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項9】
前記接合補助部材は、前記第1の板を溶融することなく、前記第2の板のみを溶融して溶接される、請求項1~
8のいずれか1項に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、
アルミニウム合金又は純アルミニウム製であり、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、接合補助部材。
【請求項11】
アルミニウム合金及び純アルミニウム以外の材料製の第1の板と、アルミニウム合金又は純アルミニウム製の第2の板と、を備え、請求項1~
9のいずれか1項に記載の異材接合用アークスタッド溶接法によって製造される異材溶接継手であって、
前記第1の板には、前記挿入部が挿通される穴部が形成されており、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、アルミニウム合金又は純アルミニウム製の接合補助部材を更に備え、
前記接合補助部材の前記挿入部と、前記第2の板とが溶接されている、異材溶接継手。
【請求項12】
マグネシウム合金及び純マグネシウム以外の材料製の第1の板と、マグネシウム合金又は純マグネシウム製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスタッド溶接法であって、
前記第1の板に穴部を形成する工程と、
前記穴部と前記第2の板の接合予定部を合わせて前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる重ね合わせ工程と、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、マグネシウム合金又は純マグネシウム製の接合補助部材を、非消耗式電極を介して前記穴部に挿入して前記挿入部を前記第2の板に接触させる移動工程と、
前記接合補助部材と前記第2の板の間にアークを発生させるアーク発生工程と、
アーク熱によって前記接合補助部材と前記第2の板とを溶融して溶接する溶接工程と、を備え
、
前記接合補助部材は、溶接電源の陽極側に接続され、前記第2の板は、前記溶接電源の陰極側に接続される異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項13】
前記第2の板及び前記接合補助部材は、前記マグネシウム合金同士又は前記純マグネシウム同士が組み合わされて溶接される、請求項
12に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項14】
請求項
12又は
13に記載の異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、
マグネシウム合金又は純マグネシウム製であり、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、接合補助部材。
【請求項15】
マグネシウム合金及び純マグネシウム以外の材料製の第1の板と、マグネシウム合金又は純マグネシウム製の第2の板と、を備え、請求項
12又は
13に記載の異材接合用アークスタッド溶接法によって製造される異材溶接継手であって、
前記第1の板には、前記挿入部が挿通される穴部が形成されており、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、マグネシウム合金又は純マグネシウム製の接合補助部材を更に備え、
前記接合補助部材の前記挿入部と、前記第2の板とが溶接されている、異材溶接継手。
【請求項16】
鋼以外の材料製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスタッド溶接法であって、
前記第1の板に穴部を形成する工程と、
前記穴部と前記第2の板の接合予定部を合わせて前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる重ね合わせ工程と、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、鋼製の接合補助部材を、非消耗式電極を介して前記穴部に挿入して前記挿入部を前記第2の板に接触させる移動工程と、
前記接合補助部材と前記第2の板の間にアークを発生させるアーク発生工程と、
アーク熱によって前記接合補助部材と前記第2の板とを溶融して溶接する溶接工程と、を備え
、
前記接合補助部材は、溶接電源の陽極側に接続され、前記第2の板は、前記溶接電源の陰極側に接続される異材接合用アークスタッド溶接法。
【請求項17】
請求項
16に記載の異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、
鋼製であり、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、接合補助部材。
【請求項18】
鋼以外の材料製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を備え、請求項
16に記載の異材接合用アークスタッド溶接法によって製造される異材溶接継手であって、
前記第1の板には、前記挿入部が挿通される穴部が形成されており、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、鋼製の接合補助部材を更に備え、
前記接合補助部材の前記挿入部と、前記第2の板とが溶接されている、異材溶接継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材接合用アークスタッド溶接方法、接合補助部材及び異材溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を代表とする輸送機器には、(a)有限資源である石油燃料消費、(b)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO2、(c)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。
軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム合金、マグネシウム合金、炭素繊維などに置換する手段がある。しかし、全てをこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題があり、解決策として、例えば鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。
【0003】
鋼と上記軽量素材を組み合わせるには、必然的にこれらを接合する箇所が出てくる。鋼同士やアルミニウム合金同士、マグネシウム合金同士では容易である溶接が、異材(すなわち、異種材料)では極めて困難であることが知られている。この理由として、鋼とアルミニウム又は鋼とマグネシウムの溶融混合部には極めて脆い性質である金属間化合物(IMC)が生成し、引張や衝撃といった外部応力で溶融混合部が容易に破壊してしまうことにある。このため、抵抗スポット溶接法やアーク溶接法といった溶接法が異材接合には採用できず、他の接合法を用いるのが一般的である。鋼と炭素繊維の接合も、後者が金属ではないことから溶接を用いることができない。
【0004】
従来の異材接合技術の例としては、鋼素材と軽量素材の両方に貫通穴を設けてボルトとナットで上下から拘束する手段があげられる。また、他の例としては、かしめ部材を強力な圧力をかけて片側から挿入し、かしめ効果によって拘束する手段が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の例としては、摩擦攪拌接合ツールを用いてアルミニウム合金と鋼の素材同士を直接接合する手段も開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、他の例としては、アルミニウム合金素材に鋼製の接合部材をポンチとして押し込むことで穴あけと接合部材の仮拘束を行い、次に鋼素材と重ね合わせ、上下両方から銅電極にて挟み込んで、圧力と高電流を瞬間的に与えて鋼素材と接合部材を抵抗溶接する、REW(Resistant Element Welding)と呼ばれる手段が実用化されている(例えば、特許文献3参照)。また、鋼と鋼の間にアルミニウムを挟んだ3層構造において、同様に抵抗発熱でアルミニウムを溶融、鋼上下板を貫通させ、抵抗溶接させる手段が考案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
また、アルミニウムと鉄の板を重ね、ねじを高速回転させながら挿入して、摩擦熱により下板を軟化させて貫通させ、ねじの貫通後に回転を停止して下板が冷却されると、下板が収縮してねじの溝に入り込むことで板同士をねじで接合する、FDS(Flow Drill Screw)と呼ばれる手段が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-174219号公報
【文献】特許第5044128号公報
【文献】特開2009-285678号公報
【文献】特表2016-523718号公報
【文献】特開2018-114610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ボルトとナットによる接合法は、鋼素材と軽量素材が閉断面構造を構成するような場合、ナットを入れることができず適用できない。また、適用可能な開断面構造の継手の場合でも、ナットを回し入れるのに時間を要し能率が悪いという課題がある。
【0010】
また、特許文献1に記載の接合法は、比較的容易な方法ではあるが、鋼の強度が高い場合には、かしめ部材を挿入できない問題があり、かつ、接合強度は摩擦力とかしめ部材の剛性に依存するため、高い接合強度が得られないという問題がある。また、かしめ部材の挿入に際しては表と裏の両側から治具で押さえ込む必要があるため、閉断面構造には適用できないという課題もある。
【0011】
特許文献2に記載の接合法は、アルミニウム合金素材を低温領域で塑性流動させながら鋼素材面に圧力をかけることで、両素材が溶融し合うことがなく、金属間化合物の生成を防止しながら金属結合力が得られるとされ、鋼と炭素繊維も接合可能という研究成果もある。しかしながら、本接合法も閉断面構造には適用できず、また高い圧力を必要とするため機械的に大型となり、高価であるという問題がある。また、接合力としてもそれほど高くならない。
【0012】
さらに、特許文献3に記載の接合法も、閉断面構造には適用できず、また、接合部材の穴あけ及び打込みと、溶接との2段階の作業に分けなければならず、能率改善が求められる。REWにおいては、能率改善のため、1段階で完了させる試みがなされている。鋼製の接合補助部材、アルミニウム板、鋼板を重ねて電極で挟み込み、通電してその抵抗発熱でアルミニウム板を溶融して接合補助部材を貫通、下板と抵抗溶接させる試みがある。
しかしながら、アルミニウムの電気比抵抗は2.8×10-6Ω・cm、マグネシウムの電気比抵抗は4.4×10-6Ω・cmと、鉄の10.0×10-6Ω・cmと比べて著しく小さい。すなわち、抵抗発熱ではアルミニウムやマグネシウムは発熱しにくく、容易には溶融しない。超高電流を流してアルミニウムやマグネシウムを貫通したとしても、溶融が不十分なため、形成される溶接金属にはアルミニウムやマグネシウムと鋼の混合物、つまり金属間化合物の形成、排除を防ぐことが出来ず、健全な溶接部が得られない。したがって、接合強度の安定性が悪く、低い場合が生じる。なお、特許文献4に記載の接合法も、上記と同様の課題が存在する。
【0013】
また、特許文献5に記載の接合法は、継手の裏側までねじが飛び出すため、使用できる箇所が限られる。また、ねじに板を貫通できる剛性を持たせる必要があるため、得られる接合強度に比較してねじのサイズが大きくなり、素材も限定される問題がある。
【0014】
したがって、既存の異材接合技術は、(i)部材や開先形状が開断面構造に限定される、(ii)接合強度が低い、(iii)複数の動作が必要で能率が悪い、といった一つ以上の問題を持っている。このため、種々の素材を組み合わせたマルチマテリアル設計を普及させるためには、(i’)開断面構造と閉断面構造の両方に適用できる、(ii’)接合強度が十分に高く、かつ信頼性も高い、(iii’)能率が高い、という全ての要素を兼ね備えた、使いやすい新技術が求められている。
【0015】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば鋼のような、アルミニウム合金(以下「Al合金」とも言う)及び純アルミニウム(以下「純Al」とも言う)以外の材料と、Al合金又は純Alとの異材、若しくは、マグネシウム合金(以下「Mg合金」とも言う)及び純マグネシウム(以下「純Mg」とも言う)以外の材料と、Mg合金又は純Mgとの異材、若しくは、鋼以外の材料と、鋼との異材を、外観性能に優れ、強固かつ信頼性の高い品質で、更に高能率で接合でき、加えて、開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる、異材接合用アークスタッド溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ここで、Al合金やMg合金と、鋼を溶融接合させようとすると、上述したように金属間化合物(IMC)の生成が避けられない。これは抵抗溶接でもアーク溶接でも同じである。IMCが発生すれば継手強度は著しく低下する。一方、Al合金やMg合金同士、鋼同士など、同一系素材同士の溶接が最も高い接合強度と信頼性を示すことは、科学的にも実績的にも自明である。
そこで、本発明者らは、Al合金又は純Alであるアルミニウム系材料同士、若しくは、Mg合金又は純Mgであるマグネシウム系材料同士、若しくは、鋼材料同士の溶接を結合力として用い、更に拘束力を利用して異材の接合を達成する高能率な手法を考案した。
【0017】
したがって、本発明の上記目的は、異材接合用アークスタッド溶接法に係る下記(1)の構成により達成される。
(1) アルミニウム合金及び純アルミニウム以外の材料製の第1の板と、アルミニウム合金又は純アルミニウム製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスタッド溶接法であって、
前記第1の板に穴部を形成する工程と、
前記穴部と前記第2の板の接合予定部を合わせて前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる重ね合わせ工程と、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、アルミニウム合金又は純アルミニウム製の接合補助部材を、非消耗式電極を介して前記穴部に挿入して前記挿入部を前記第2の板に接触させる移動工程と、
前記接合補助部材と前記第2の板の間にアークを発生させるアーク発生工程と、
アーク熱によって前記接合補助部材と前記第2の板とを溶融して溶接する溶接工程と、
を備える異材接合用アークスタッド溶接法。
【0018】
また、異材接合用アークスタッド溶接法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)~(10)に関する。
(2) 前記第2の板及び前記接合補助部材は、前記アルミニウム合金同士又は前記純アルミニウム同士が組み合わされて溶接される、(1)に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
(3) 前記移動工程によって、前記接合補助部材を前記第2の板に接触させた後、前記アーク発生工程において、非消耗式電極と前記接合補助部材とを一旦引き上げる、(1)又は(2)に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
(4) 前記移動工程の後、前記接合補助部材が前記第2の板に非接触の状態で、前記接合補助部材と前記第2の板の間に高周波高電圧を印加する工程を更に備える、(1)又は(2)に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
(5) 前記挿入部の長さが、前記第1の板の板厚の1.05倍以上、3.0倍以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
(6) 前記挿入部の先端部は、錐形状、又は、突起を有する形状である、(1)~(5)のいずれかに記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
(7) 前記溶接工程において、アルゴンガス又はヘリウムガスにより溶接部をシールドする、(1)~(6)のいずれかに記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
(8) 前記接合補助部材は、溶接電源の陽極側に接続され、前記第2の板は、前記溶接電源の陰極側に接続される、(1)~(7)のいずれかに記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
(9) 前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の重ね合せ面に接着剤を塗布する工程を、更に備える、(1)~(8)のいずれかに記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
(10) 前記接合補助部材は、前記第1の板を溶融することなく、前記第2の板のみを溶融して溶接される、(1)~(9)のいずれかに記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【0019】
また、本発明の上記目的は、接合補助部材に係る下記(11)の構成により達成される。
(11) (1)~(10)のいずれかに記載の異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、
アルミニウム合金又は純アルミニウム製であり、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、接合補助部材。
【0020】
また、本発明の上記目的は、異材溶接継手に係る下記(12)の構成により達成される。
(12) アルミニウム合金及び純アルミニウム以外の材料製の第1の板と、アルミニウム合金又は純アルミニウム製の第2の板と、を備え、(1)~(10)のいずれかに記載の異材接合用アークスタッド溶接法によって製造される異材溶接継手であって、
前記第1の板には、前記挿入部が挿通される穴部が形成されており、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、アルミニウム合金又は純アルミニウム製の接合補助部材を更に備え、
前記接合補助部材の前記挿入部と、前記第2の板とが溶接されている、異材溶接継手。
【0021】
また、本発明の上記目的は、異材接合用アークスタッド溶接法に係る下記(13)の構成により達成される。
(13) マグネシウム合金及び純マグネシウム以外の材料製の第1の板と、マグネシウム合金又は純マグネシウム製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスタッド溶接法であって、
前記第1の板に穴部を形成する工程と、
前記穴部と前記第2の板の接合予定部を合わせて前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる重ね合わせ工程と、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、マグネシウム合金又は純マグネシウム製の接合補助部材を、非消耗式電極を介して前記穴部に挿入して前記挿入部を前記第2の板に接触させる移動工程と、
前記接合補助部材と前記第2の板の間にアークを発生させるアーク発生工程と、
アーク熱によって前記接合補助部材と前記第2の板とを溶融して溶接する溶接工程と、
を備える異材接合用アークスタッド溶接法。
【0022】
また、異材接合用アークスタッド溶接法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(14)に関する。
(14) 前記第2の板及び前記接合補助部材は、前記マグネシウム合金同士又は前記純マグネシウム同士が組み合わされて溶接される、(13)に記載の異材接合用アークスタッド溶接法。
【0023】
また、本発明の上記目的は、接合補助部材に係る下記(15)の構成により達成される。
(15) (13)又は(14)に記載の異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、
マグネシウム合金又は純マグネシウム製であり、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、接合補助部材。
【0024】
また、本発明の上記目的は、異材溶接継手に係る下記(16)の構成により達成される。
(16) マグネシウム合金及び純マグネシウム以外の材料製の第1の板と、マグネシウム合金又は純マグネシウム製の第2の板と、を備え、(13)又は(14)に記載の異材接合用アークスタッド溶接法によって製造される異材溶接継手であって、
前記第1の板には、前記挿入部が挿通される穴部が形成されており、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、マグネシウム合金又は純マグネシウム製の接合補助部材を更に備え、
前記接合補助部材の前記挿入部と、前記第2の板とが溶接されている、異材溶接継手。
【0025】
また、本発明の上記目的は、異材接合用アークスタッド溶接法に係る下記(17)の構成により達成される。
(17) 鋼以外の材料製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスタッド溶接法であって、
前記第1の板に穴部を形成する工程と、
前記穴部と前記第2の板の接合予定部を合わせて前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる重ね合わせ工程と、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、鋼製の接合補助部材を、非消耗式電極を介して前記穴部に挿入して前記挿入部を前記第2の板に接触させる移動工程と、
前記接合補助部材と前記第2の板の間にアークを発生させるアーク発生工程と、
アーク熱によって前記接合補助部材と前記第2の板とを溶融して溶接する溶接工程と、
を備える異材接合用アークスタッド溶接法。
【0026】
また、本発明の上記目的は、接合補助部材に係る下記(18)の構成により達成される。
(18) (17)に記載の異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、
鋼製であり、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、接合補助部材。
【0027】
また、本発明の上記目的は、異材溶接継手に係る下記(19)の構成により達成される。
(19) 鋼以外の材料製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を備え、(17)に記載の異材接合用アークスタッド溶接法によって製造される異材溶接継手であって、
前記第1の板には、前記挿入部が挿通される穴部が形成されており、
挿入部と、該挿入部の外径寸法より大きな外径寸法の非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、前記挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法以下、かつ、前記非挿入部の外径寸法が前記第1の板の穴部の内径寸法より大きく、更に、前記挿入部の長さが前記第1の板の板厚よりも長い、鋼製の接合補助部材を更に備え、
前記接合補助部材の前記挿入部と、前記第2の板とが溶接されている、異材溶接継手。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、Al合金及び純Al以外の材料と、Al合金又は純Alとの異材、若しくは、Mg合金及び純Mg以外の材料と、Mg合金又は純Mgとの異材、若しくは、鋼以外の材料と、鋼との異材を、外観性能に優れ、強固かつ信頼性の高い品質で、更に高能率で接合でき、加えて、開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る異材溶接継手の斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、本実施形態の接合補助部材の側面図である。
【
図2B】
図2Bは、本実施形態の接合補助部材の正面図である。
【
図3A】
図3Aは、接合補助部材の第1変形例の側面図である。
【
図3B】
図3Bは、接合補助部材の第2変形例の側面図である。
【
図4A】
図4Aは、接合補助部材の第3変形例の正面図である。
【
図4B】
図4Bは、接合補助部材の第4変形例の正面図である。
【
図4C】
図4Cは、接合補助部材の第5変形例の正面図である。
【
図4D】
図4Dは、接合補助部材の第6変形例の正面図である。
【
図4E】
図4Eは、接合補助部材の第7変形例の正面図である。
【
図5A】
図5Aは、本実施形態の異材溶接継手の断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法を示す工程図である。
【
図7】
図7は、接合補助部材と上板との寸法関係を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法の第1変形例を示す部分工程図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法の第2変形例を示す部分工程図である。
【
図10】
図10は、本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法の第3変形例を示す工程図である。
【
図11】
図11は、本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法の第4変形例を示す工程図である。
【
図13A】
図13Aは、本実施形態の異材溶接継手が適用された閉断面構造を示す斜視図である。
【
図13B】
図13Bは、本実施形態の異材溶接継手が適用された、L字板と平板による開断面構造を示す斜視図である。
【
図13C】
図13Cは、本実施形態の異材溶接継手が適用された、2枚の平板による開断面構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係る異材接合用アークスタッド溶接法、接合補助部材及び異材溶接継手を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法は、互いに重ね合わせされる、Al合金及び純Al以外の材料の具体例である鋼製の上板10(第1の板)と、Al合金又は純Al製の下板20(第2の板)とを、Al合金又は純Al製の接合補助部材30を介して接合することで、
図1A及び
図1Bに示すような異材溶接継手1を得るものである。
【0032】
なお、下板20及び接合補助部材30は、それぞれ、Al合金又は純Al製とすることができるが、接合強度向上の観点からは、Al合金同士又は純Al同士といった同一材質で構成するのが好ましい。
【0033】
以下の説明においては、下板20及び接合補助部材30は、Al合金同士の組み合わせとして説明するが、純Al同士の組み合わせとすることもできる。また同様に、下板20及び接合補助部材30は、Mg合金同士の組み合わせ、純Mg同士の組み合わせ、あるいは、Mg合金と純Mgとの組み合わせとすることもできる。また同様に、下板20及び接合補助部材30は、鋼同士の組み合わせとすることもできる。なお、本実施形態における鋼としては、純鉄及び鉄合金であれば、特に制限されるものでなく、例えば、軟鋼、炭素鋼、ステンレス鋼などがあげられる。
【0034】
本実施形態に使用される上板10及び下板20は、いずれも平板状であり、上板10には、下板20との接合部に、接合補助部材30の挿入部31が挿通される穴部11が板厚方向に貫通形成されている。
【0035】
図2A及び
図2Bに示すように、接合補助部材30は、挿入部31と、該挿入部31に対して外向きフランジ状の非挿入部32と、を持った段付きの外形形状を有する。接合補助部材30は、非挿入部32の外径寸法P
Dが挿入部31の外径寸法Q
Dよりも大きく(
図2A参照)、かつ、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長く設定されている(
図7参照)。
特に、本実施形態では、以下に詳述するように、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tの1.05倍以上、3.0倍以下としている。また、挿入部31の外径寸法Q
Dが上板10の穴部11の内径寸法H
D以下に設定されており、非挿入部32の外径寸法P
Dが上板10の穴部11の内径寸法H
Dより大きく設定されている(
図1B参照)。すなわち、P
D>H
D≧Q
D、かつ、1.05T≦L≦3.0Tの関係を有する。
【0036】
図2Aに示すように、挿入部31の先端部31aは、円錐形状に形成されている。これは、溶接工程において、接合補助部材30の挿入部31と下板20との間に、接触と同時にアークを発生させる必要があるが、先端部31aを平坦とした場合、接触断面積が大きいため、アークが発生しにくいからである。一方、先端部31aを円錐形状とすることで、接触断面積を小さくすることができ、容易に接合補助部材30自身が溶融してアーク長を伸ばすことができる。
なお、先端部31aの形状は、円錐形状に限らず、四角錐等の他の錐形状であってもよく、あるいは、
図3Aに示すように、突起を有する形状であってもよい。また、挿入部31全体を円錐(
図3B参照)や四角錐などの形状としてもよい。
【0037】
接合補助部材30の概略断面形状をT字状の2段階形状とする理由は、下板20と接合補助部材30によって挟持される上板10への拘束力を高めるためである。非挿入部(フランジ部)32が挿入部31よりも幅広とする役割は、張り出し部分が上下剥離応力に対する抵抗体の役割となるためである。適切なサイズの接合補助部材30を適用することにより、上板10が接合補助部材30から容易に抜けてしまう現象を防止することが可能となる。一般的には、上板10は、接合補助部材30周辺の母材金属もしくは溶接金属が塑性変形した後、破断する。
【0038】
なお、接合補助部材30は挿入部31と非挿入部32の2段形状が適切であるが、非挿入部32を2段以上にして合計3段以上としてもよい。ただし、3段以上の形状は、2段形状に対して工業的改善価値はあまり無い。
【0039】
また、非挿入部32は、面積が大きく、かつ厚さが大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、好ましい。だが、必要以上に大きいと重量増要因や、上板10の表面からの出っ張り過剰により、美的外観劣化や近接する他の部材との干渉が生じるため、必要設計に応じてサイズを決めればよい。
【0040】
さらに、非挿入部32の外形は、円形としているが、そのメカニズム上、形状を問わず、単に、挿入部31の外径寸法Q
Dよりも外径寸法P
Dが大きければよい。すなわち、
図4A~
図4Eに示すように四角形以上の多角形形状でもよく、
図4B及び
図4Eに示すように、多角形の角部を丸くしてもよい。なお、非挿入部32の外形が非円形の場合、その外径寸法PDは、最短となる対向面間の距離で規定される。
【0041】
また、接合補助部材30の挿入部31、及び上板10の穴部11の断面形状を円形にすると、下板20と接合補助部材30とは接合されているが、上板10は金属的に接合されていないため、
図5Bに示すように、平面内で回転方向に力FRが作用すると、挿入部31を中心に下板20及び接合補助部材30が上板10に対して相対的に回転してしまう。
【0042】
そこで、
図5B等に示すように、挿入部31の断面形状を非円形形状にすることで、下板20及び接合補助部材30を上板10に対して相対回転させないようにすることができる。具体的に、挿入部31の断面形状は、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形などの多角形や楕円などが挙げられる。なお、後述するように、現実的には構造物を一点で接合することはほぼないため、稀有な懸念であるが保証しておくことに越したことはない。
【0043】
なお、上板10の材質は、本実施形態においては、Al合金及び純Al以外の材料であれば、特に限定されず、例えば、軟鋼、炭素鋼、ステンレス鋼、木材、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics;炭素繊維強化プラスチック)、非鉄金属、樹脂、及び樹脂と金属とのコンポジット材料などが挙げられる。また、鋼以外の材料製の上板10(第1の板)と、鋼製の下板20(第2の板)とを、鋼製の接合補助部材30を介して接合することで、
図1A及び
図1Bに示すような異材溶接継手1を得る場合にあっては、上板10の材質は、鋼以外の材料であれば、特に限定されず、例えば、Al合金、純Al、Mg合金、純Mgなどが挙げられる。
【0044】
また、
図1Bに示すように、接合補助部材30挿入部31の先端部31aと、下板20の上板側の一部とは、アーク熱によって金属結合された溶接部(溶接金属)Wを形成しており、これによって、上板10と下板20とが接合される。
【0045】
以下、異材溶接継手1を構成する異材接合用アークスタッド溶接法について、
図6を参照して説明する。なお、以下に説明する溶接工程において、アークを利用するためには、抵抗溶接を利用するものと異なり、アークを発生、維持するための機構が必要である。
具体的に、電源には板厚等に応じて、コンデンサ方式(CD方式)、電力アーク方式、ショートサイクル方式が適用できる。コンデンサ方式は、大容量のコンデンサに電力を蓄え、アーク溶接時に電力を一気に放出する方式であり、非常に薄い板に適用される。電力アーク方式は、一般的な交流→直流変換と変圧回路を有した溶接電源を用いる方式で、比較的長時間のアーク発生が可能であり、大きな板厚を溶融できる。ショートサイクル方式は、電力アーク方式と電源の機構は同じであるが、短時間制御が可能なように改良された方式であり、適用板厚はコンデンサ方式と電力アーク方式の中間に位置する。これらの溶接用電源は一般的なアークスタッド溶接用のものを流用できる。
【0046】
まず、本溶接方法は、あらかじめ穴部11が空けられた上板10と、下板20とを重ね合わせ(Step1:重ね合わせ工程)、併せて、非消耗式電極40の先端に接合補助部材30をセットする。重ね合わせ工程においては、下板20の接合予定位置と上板10の穴部11とを一致させて重ね合わせる。なお、非消耗式電極40と接合補助部材30とは一時的に機械的方式あるいは電磁的方式で連結されており、容易に脱着が出来るようにする。また、連結状態では非消耗式電極40と接合補助部材30間は通電される状態である。
【0047】
そして、非消耗式電極40を介して接合補助部材30(挿入部31)を上板10の穴部11に挿入し、更に下板20に向けて移動させる(Step2:移動工程)。
さらに、アーク発生に向けて、非消耗式電極40と下板20の間には溶接電源50から無負荷電圧がかけられる(Step3:アーク発生工程)。その際、溶接電源50の陽極(プラス極)側が接合補助部材30に接続され、溶接電源50の陰極(マイナス極)側が下板20に接続されるのが好ましい。
【0048】
下板20であるAl合金の表面は、電気が流れ難い酸化被膜で覆われているが、下板20側を陰極とすることで、下板20から接合補助部材30に向けて電子が飛ぶ際のクリーニング作用によって、Al合金表面の酸化被膜が破壊されて通電が容易になる。また、接合補助部材30の表面も酸化被膜で覆われているが、面積が小さい先端部31aに電子が集中する形状効果により酸化被膜が破壊される。なお、溶接電源50を交流電源とすることでも、同様の効果が得られる。
なお、図示しないが、鋼以外の材料の具体例として例えばAl合金製の上板10(第1の板)と、鋼製の下板20(第2の板)とを、鋼製の接合補助部材30を介して接合することで、
図1A及び
図1Bに示すような異材溶接継手1を得る場合にあっては、下板20側を陽極とし、上板10側を陰極とするのがよい。
【0049】
続いて、接合補助部材30の先端部31aが下板20の表面に達すると、無負荷電圧の作用でアークが発生する。そして、アークが発生すると、アーク熱によって、下板20と接合補助部材30の先端部31aの同時溶融が始まる(Step3~5:溶接工程)。なお、
図6中、Step3~Step5に示す領域hは、アーク熱によって熱せられた部分を表している。
【0050】
外部から与える熱が不要になると、溶接電源50は電力供給を終了させ、非消耗式電極40と接合補助部材30を下板20に向けて押圧する。これにより、接合補助部材30の非挿入部32の下面が、上板10の上面に隙間なく密着した状態で、Al合金同士が金属結合した健全な溶接部Wが得られ、下板20と接合補助部材30が溶接される。その後、非消耗式電極40と接合補助部材30の一時的連結を解除して非消耗式電極40を外し、自然冷却すれば、下板20と接合補助部材30が上板10を挟み込んだ状態で溶接工程は完了となる。
【0051】
なお、一般にアーク溶接は、シールドガスを用いて大気から溶融池を遮断する必要がある。この場合のシールドガスとして、ArやHeといった不活性ガス又はその混合ガスを好適に用いることができる。これにより、溶接熱による溶接部の焼け、すなわち酸化物生成が抑制され、外観が向上する効果がある。
鋼以外の材料の具体例として例えばAl合金製の上板10(第1の板)と、鋼製の下板20(第2の板)とを、鋼製の接合補助部材30を介して接合することで、
図1A及び
図1Bに示すような異材溶接継手1を得る場合にあっては、必ずしもシールドガスを用いる必要はない。
【0052】
また、
図7を参照して、本実施形態では、接合補助部材30の挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tの1.05倍以上、3.0倍以下としている。上述の通り、接合補助部材30の挿入部31はアーク発生時に自ら溶融消耗する。したがって、挿入部31の長さLは上板10の板厚Tと、溶接条件によって変動する溶融長さから換算されたものとするのが好ましい。
【0053】
もし、溶接工程後に挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い状態になってしまうと、上板10は接合補助部材30と下板20とに挟持されず、力をほとんどかけずとも上下に動いてしまう。挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tの3.0倍以下であれば板厚分を残して溶融消費するため、好ましい。一方、挿入部31の長さLが短いと下板20を溶かすことなく、すなわち溶接そのものが達成できない状態になる可能性がある。そこで、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tの1.05倍以上であれば、上板10及び下板20間を締結することができるため好ましい。
【0054】
ここで、上記アークスタッド溶接法、及び該溶接法にて製造される異材溶接継手1のメリットについて、以下詳述する。
【0055】
すなわち、従来のREWにおいても、接合補助部材と下板とが溶接され、上板が拘束される形状としているが、上述したように、REWは、接合補助部材を打ち込む工程と抵抗溶接の工程が独立した2段階プロセスとなるため、能率が悪い。そこで、一工程でプロセスを完遂させるために、接合補助部材を介して抵抗スポット溶接を行うことで、Al合金又はMg合金同士の抵抗溶接を行い、REWと同じ継手形状を得ることが考えられる。しかしながら、電気抵抗を利用しての発熱はAl合金やMg合金では小さく、これらの合金を完全に溶融させることは困難であった。つまり、抵抗溶接では、接合補助部材30と下板20の溶接は不完全である。
【0056】
一方、本実施形態では、Al合金やMg合金を効率的に溶融させる手段としてアーク熱を利用することとした。アークは鉄、Al合金、Mg合金など素材にかかわらず、最高点で10000℃を超える超高温が発生する。さらに、鉄の融点は1530℃に対し、アルミニウムは660℃、マグネシウムは650℃と遙かに低い。したがって、本実施形態のように、Al合金やMg合金はアーク熱によって超高温に曝すことで、容易に溶融し、液体化することができる。
【0057】
また、本実施形態では、Al合金やMg合金にアークを曝すため、非消耗電極式のアーク発生・維持装置を工夫して、非消耗式電極40に対してAl合金やMg合金製の接合補助部材30を機械的方式あるいは電磁的方式で連結する構成とした。この場合、非消耗式電極は、一般的に抵抗スポット溶接法と同じく、銅合金電極としている。したがって、本実施形態は、アークを発生すると共に接合補助部材30自身も溶融し続ける消耗電極式のアーク発生・維持装置となる。
【0058】
さらに、本実施形態では、電気抵抗を利用する場合と異なり、アークは経路の電気抵抗にあまり影響を受けないことから、強い加圧をして固体状態の上板10と下板20とを圧着させ、電気抵抗変化を極力低減させる必要がない。したがって、アークを利用すると下板20の裏側から押し上げるクランプ機構が不要であり、片側からの電極アクセスで接合が可能である。つまり、閉断面部材にも適用可能となる。
【0059】
図8は、本実施形態のアークスタッド溶接法の第1変形例を示す。なお、
図8は、Step2~Step3のみ図示している。
Step2の移動工程において、接合補助部材30が下板20の表面に接触すると、溶接電源50が供給する無負荷電圧によってアークが発生し、接合補助部材30自体の溶融消耗に伴い、徐々にアーク長は長くなっていく。しかし、アーク発生直後の段階では、まだアークの維持が不安定であり、接合補助部材30が溶けた液滴が下板20の母材と橋絡状態を作ってしまい、アークが消失しやすい。
【0060】
このため、第1変形例では、Step3のアーク発生工程において、前進させた接合補助部材30をストップさせるのではなく、所定期間の間、逆送させる、すなわち、非消耗式電極40と接合補助部材30とを一旦引き上げる。これにより、橋絡を防ぐことができ、アークを安定化させることができる。
【0061】
図9は、本実施形態のアークスタッド溶接法の第2変形例を示す。なお、
図9は、Step2~Step3のみ図示している。
上記実施形態及び第1変形例におけるアーク発生方法は、タッチスタートと呼ばれる方式であるが、アークが円滑に発生すれば他の方式であってもよい。他の方式の代表的な手段として、ティグ(Tungsten Inert Gas)溶接法用として良く用いられている非接触式があげられる。中でも、アーク用電力回路とは別に、高周波高電圧放電回路を設けて、空間に火花を発生させ、更にアークを誘導発生させる手段が使いやすさの点から普及している。一般的には100kHz~500MHzの周波数かつ1~100kボルトの出力の高周波高電圧がアーク発生用に適している。
したがって、該変形例は、接合補助部材30の移動を下板20に非接触の状態で停止させ、また、所定の期間だけ、接合補助部材30と下板20との間に高周波高電圧を印加し、空間に火花を発生させ、その後、無負荷電圧を作用させてアークを発生させるようにしている。
なお、該変形例では、高周波高電圧を印加しアークを発生させた後、接合補助部材30を一旦引き上げることも可能である。
【0062】
また、異種金属同士が接すると、ガルバニ電池を形成する為に腐食を加速する要因になる。この原因(電池の陽極反応)による腐食は電食と呼ばれている。鋼と、Al合金又はMg合金の継手であれば、Al合金又はMg合金の腐食が進む。異種金属同士が接する面に水があると腐食が進むため、接合箇所として水が入りやすい場所に本実施形態が適用される場合は、電食防止を目的として、水の浸入を防ぐためのシーリング処理を施す必要がある。本接合法でも、Al合金やMg合金と、鋼が接する面は複数形成されるため、樹脂系の接着剤60をさらなる継手強度向上の目的のみならず、シーリング材として用いることが好ましい。
【0063】
図10に示すように、最も異種金属が接する面積が大きいのは上板10と下板20の母材間空間であることから、上板10と下板20の間の接合面全面に接着剤60を塗布してから接合補助部材30を用いた接合を始めるのが好ましい。ただし、アーク熱で接着剤60が気化し、アークの不安定化、溶融池の飛散、気孔欠陥の発生につながる可能性があることから、
図11に示すように、接合領域Aを除いて接着剤60を塗布する方法がより好ましい。
【0064】
なお、本接合法では電食が起きやすい箇所は母材間のみならず、接合後の接合補助部材30の非挿入部32と鋼である上板10との境界付近もある。この箇所の腐食を緩和するために、
図12Aに示すように、少なくとも、接合補助部材30の非挿入部32と接触する上板10の表面に亜鉛めっきやクロムめっきといった鉄よりも腐食電位が小さい、”卑”の物質61でコーティングする、あるいはリン酸塩被膜処理(ボンデライト処理)しておくと効果がある。
あるいは、
図12Bに示すように、更に好ましくは接合補助部材30で接合後、樹脂製などのシーリング材62で非挿入部32との周囲全体を覆い、接触部を水密状態とするのが最も効果がある。
【0065】
以上の構成により、上板10が鋼、下板20がAl合金の素材を開断面構造、閉断面構造にかかわらず強固に接合することができる。更には接着剤60を併用することにより、接合強度の向上と共に腐食を防ぐことも出来る。
【0066】
なお、上記実施形態は、上板10が鋼、下板20がAl合金の組み合わせの例であるが、下板20がAl合金又は純Alである場合には、上板10がAl合金及び純Al以外の材料、また、下板20がMg合金又は純Mgである場合には、上板10がMg合金及び純Mg以外の材料、また、下板20が鋼である場合には、上板10が鋼以外の材料であっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
また、本実施形態の溶接法は、接合面積が小さい点溶接と言えるため、ある程度の接合面積を有する実用部材同士の重ね合わせ部分Jを接合する場合は、本溶接を
図13A~
図13Cに示すように、複数実施すればよい。これにより、重ね合わせ部分Jにおいて強固な接合が行われる。本実施形態は、
図13B及び
図13Cに示すような開断面構造にも使用できるが、特に、
図13Aに示すような閉断面構造において好適に使用することができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法によれば、Al合金及び純Al以外の材料製の上板10と、Al合金又は純Al製の下板20と、を接合するにあたり、上板10に穴部11を形成する工程と、穴部11と下板20の接合予定部を合わせて上板10と下板20を重ね合わせる重ね合わせ工程と、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い、Al合金又は純Al製の接合補助部材30を、非消耗式電極40を介して穴部11に挿入して挿入部31を下板20に接触させる移動工程と、接合補助部材30と下板20の間にアークを発生させるアーク発生工程と、アーク熱によって接合補助部材30と下板20とを溶融して溶接する溶接工程と、を備える。
これにより、Al合金及び純Al以外の材料製の上板10と、Al合金又は純Al製の下板20を、外観性能に優れ、強固かつ信頼性の高い品質で、更に高能率で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
【0069】
また、下板20及び接合補助部材30は、Al合金同士又は純Al同士が組み合わされて溶接される。これにより、下板20と接合補助部材30が、より健全な溶接部Wを形成する。
【0070】
また、移動工程によって、接合補助部材30を下板20に接触させた後、アーク発生工程において、非消耗式電極40と接合補助部材30とを一旦引き上げる。これにより、橋絡を防いでアークを安定化することができる。
【0071】
また、移動工程の後、接合補助部材30が下板20に非接触の状態で、接合補助部材30と下板20の間に高周波高電圧を印加する工程を更に備える。これにより、非接触式でアークを容易に発生させることができる。
【0072】
また、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tの1.05倍以上、3.0倍以下である。これにより、溶融消耗される部分の長さと、残った固体部分の長さを適切に管理することで、上板10と下板20とを強固に締結することができる。
【0073】
また、挿入部31の先端部31aは、錐形状又は突起を有する形状である。これにより、アークの発生を円滑に行うことができる。
【0074】
また、溶接工程において、アルゴンガス又はヘリウムガスにより溶接部をシールドする。これにより、溶接熱による溶接部の焼け、すなわち酸化物生成が抑制され、外観が向上する。
【0075】
また、接合補助部材30は、溶接電源50の陽極側に接続され、下板20は、溶接電源50の陰極側に接続される。これにより、下板20から接合補助部材30に向けて電子が飛ぶ際のクリーニング作用によって表面の酸化被膜が破壊されて通電が容易になる。
【0076】
また、上板10と下板20の少なくとも一方の重ね合せ面に接着剤60を塗布する工程を、更に備える。これにより、接着剤60は、継手強度向上の他、シーリング材として作用し、上板10と下板20間での電食を防止することができる。
【0077】
また、接合補助部材30は、上板10を溶融することなく、下板20のみを溶融して溶接される。これにより、上板10の材料が鋼である場合には、鋼と、アルミニウム又はマグネシウムとの金属間化合物(IMC)が生成することがない。
【0078】
また、本実施形態の接合補助部材30は、上述した異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、Al合金又は純Al製で、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い。
これにより、当該接合補助部材30を用いて、異材接合用アークスタッド溶接法を適切に行うことができる。
【0079】
また、本実施形態の異材溶接継手1は、上記異材接合用アークスタッド溶接法によって製造され、Al合金及び純Al以外の材料製の上板10と、上板10にアーク溶接されたAl合金又は純Al製の下板20と、を備える異材溶接継手1であって、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い、Al合金又は純Al製の接合補助部材30を更に備え、上板10には、挿入部31が挿通される穴部11が形成されており、接合補助部材30の挿入部31と下板20とが溶接されている。
これにより、Al合金及び純Al以外の材料製の上板10と、Al合金又は純Al製の下板20とを備えた異材溶接継手1は、外観性能に優れ、強固かつ信頼性の高い品質で、更に高能率で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
【0080】
また同様に、本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法によれば、Mg合金及び純Mg以外の材料製の上板10と、Al合金又は純Al製の下板20と、を接合するにあたり、上板10に穴部11を形成する工程と、穴部11と下板20の接合予定部を合わせて上板10と下板20を重ね合わせる重ね合わせ工程と、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い、Mg合金又は純Mg製の接合補助部材30を、非消耗式電極40を介して穴部11に挿入して挿入部31を下板20に接触させる移動工程と、接合補助部材30と下板20の間にアークを発生させるアーク発生工程と、アーク熱によって接合補助部材30と下板20とを溶融して溶接する溶接工程と、を備える。
これにより、Mg合金及び純Mg以外の材料製の上板10と、Mg合金又は純Mg製の下板20を、外観性能に優れ、強固かつ信頼性の高い品質で、更に高能率で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
【0081】
また同様に、本実施形態の接合補助部材30は、上述した異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、Mg合金又は純Mg製で、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い。
これにより、当該接合補助部材30を用いて、異材接合用アークスタッド溶接法を適切に行うことができる。
【0082】
また同様に、本実施形態の異材溶接継手1は、上記異材接合用アークスタッド溶接法によって製造され、Mg合金及び純Mg以外の材料製の上板10と、上板10にアーク溶接されたAl合金又は純Al製の下板20と、を備える異材溶接継手1であって、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い、Al合金又は純Al製の接合補助部材30を更に備え、上板10には、挿入部31が挿通される穴部11が形成されており、接合補助部材30の挿入部31と下板20とが溶接されている。
これにより、Mg合金及び純Mg以外の材料製の上板10と、Mg合金又は純Mg製の下板20とを備えた異材溶接継手1は、外観性能に優れ、強固かつ信頼性の高い品質で、更に高能率で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
【0083】
また同様に、本実施形態の異材接合用アークスタッド溶接法によれば、鋼以外の材料製の上板10と、鋼製の下板20と、を接合するにあたり、上板10に穴部11を形成する工程と、穴部11と下板20の接合予定部を合わせて上板10と下板20を重ね合わせる重ね合わせ工程と、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い、鋼製の接合補助部材30を、非消耗式電極40を介して穴部11に挿入して挿入部31を下板20に接触させる移動工程と、接合補助部材30と下板20の間にアークを発生させるアーク発生工程と、アーク熱によって接合補助部材30と下板20とを溶融して溶接する溶接工程と、を備える。
これにより、鋼以外の材料製の上板10と、鋼製の下板20を、外観性能に優れ、強固かつ信頼性の高い品質で、更に高能率で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
【0084】
また同様に、本実施形態の接合補助部材30は、上述した異材接合用アークスタッド溶接法に用いられ、鋼製で、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い。
これにより、当該接合補助部材30を用いて、異材接合用アークスタッド溶接法を適切に行うことができる。
【0085】
また同様に、本実施形態の異材溶接継手1は、上記異材接合用アークスタッド溶接法によって製造され、鋼以外の材料製の上板10と、上板10にアーク溶接された鋼製の下板20と、を備える異材溶接継手1であって、挿入部31と、該挿入部31の外径寸法QDより大きな外径寸法PDの非挿入部32とを持った段付きの外形形状を有し、挿入部31の外径寸法QDが上板10の穴部11の内径寸法HD以下、かつ、非挿入部32の外径寸法PDが上板10の穴部11の内径寸法HDより大きく、更に、挿入部31の長さLが、上板10の板厚Tよりも長い、鋼製の接合補助部材30を更に備え、上板10には、挿入部31が挿通される穴部11が形成されており、接合補助部材30の挿入部31と下板20とが溶接されている。
これにより、鋼以外の材料製の上板10と、鋼製の下板20とを備えた異材溶接継手1は、外観性能に優れ、強固かつ信頼性の高い品質で、更に高能率で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
【0086】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が
可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 異材溶接継手
10 上板(第1の板)
11 穴部
20 下板(第2の板)
30 接合補助部材
31 挿入部
31a 先端部
32 非挿入部
40 非消耗式電極
50 溶接電源
60 接着剤
A 接合領域
h アーク熱によって熱せられた部分
HD 穴部の内径寸法
J 重ね合わせ部分
L 挿入部の長さ
PD 非挿入部の外径寸法
QD 挿入部の外径寸法
T 第1の板の板厚
W 溶接部