(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】溶接チップの異常特定装置及び溶接チップの異常特定方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20230406BHJP
G01B 21/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
B23K11/24 336
G01B21/00 C
(21)【出願番号】P 2019056585
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 悟
(72)【発明者】
【氏名】高木 徹
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 量康
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-170778(JP,A)
【文献】特開平07-303974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/24
G01B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接部材に対して溶接を行う少なくとも2つの溶接チップ部を有する溶接装置において、溶接後に生じた前記少なくとも2つの溶接チップ部の動作に対応する物理量を取得する物理量取得部と、
前記物理量をもとに、前記少なくとも2つの溶接チップ部のうち、異常が生じている溶接チップ部を特定する異常溶接チップ特定部と、
を備え、
前記物理量取得部は、前記少なくとも2つの溶接チップ部の動作に対応する歪データを取得する歪センサであって、
前記異常溶接チップ特定部は、
前記歪データにおける歪信号の波形及び前記歪信号の波形の変位方向をもとに、前記少なくとも2つの溶接チップ部のうち、異常が生じている溶接チップ部を特定することを特徴とする溶接チップの異常特定装置。
【請求項2】
前記溶接装置を駆動するための駆動データを取得する駆動データ取得部を更に備え、
前記異常溶接チップ特定部は、
前記物理量及び前記駆動データをもとに、前記少なくとも2つの溶接チップ部のうち、異常が生じている溶接チップ部を特定することを特徴とする請求項1に記載の溶接チップの異常特定装置。
【請求項3】
前記駆動データは、前記少なくとも2つの溶接チップ部を異なるタイミングで駆動させる駆動データであり、
前記異常溶接チップ特定部は、
前記物理量及び前記異なるタイミングを含む前記駆動データをもとに、前記少なくとも2つの溶接チップ部のうち、異常が生じている溶接チップ部を特定することを特徴とする請求項2に記載の溶接チップの異常特定装置。
【請求項4】
前記異常溶接チップ特定部から特定結果を取得し、前記特定結果をもとに算出した溶接条件データを前記溶接装置の駆動を行う溶接装置制御部に送り、前記溶接装置を駆動するための制御値を可変させる制御値調整部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接チップの異常特定装置。
【請求項5】
前記異常溶接チップ特定部から特定結果を取得し、前記特定結果をもとに算出した溶接チップの研磨条件データを研磨装置の駆動を行う研磨装置制御部に送り、前記研磨装置を駆動するための制御値を可変させる制御値調整部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接チップの異常特定装置。
【請求項6】
前記異常溶接チップ特定部から特定結果を取得し、前記特定結果をもとに算出した溶接チップの交換条件データを交換装置の制御を行う交換装置制御部に送り、前記交換装置を駆動するための制御値を可変させる制御値調整部を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の溶接チップの異常特定装置。
【請求項7】
前記物理量取得部は、
前記溶接チップ部、前記溶接チップ部を保持するシャンク部、前記溶接チップ部を装着するアーム部のうち少なくとも1つの部位に装着され、歪データを取得する歪センサ、加速度データを取得する加速度センサ、振動データを取得する振動センサ、変位データを取得する変位センサのうちいずれか1つ以上のセンサであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の溶接チップの異常特定装置。
【請求項8】
溶接チップの異常特定装置で行う溶接チップの異常特定方法において、
被溶接部材に対して溶接を行う少なくとも2つの溶接チップ部を有する溶接装置で、溶接後に生じた前記少なくとも2つの溶接チップ部の動作に対応する物理量を取得するステップと、
前記物理量をもとに、前記少なくとも2つの溶接チップ部のうち、異常が生じている溶接チップ部を特定するステップと、を行い、
前記取得するステップは、前記少なくとも2つの溶接チップ部の動作に対応する歪データを取得する歪センサにより行われ、
前記特定するステップでは、
前記歪データにおける歪信号の波形及び前記歪信号の波形の変位方向をもとに、前記少なくとも2つの溶接チップ部のうち、異常が生じている溶接チップ部を特定することを特徴とする溶接チップの異常特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接を行う技術に関する。特に、複数の溶接チップのうち異常の溶接チップを特定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ガンアームの動作に連動するシリンダの圧力変化を基準圧力変化と比較することで、電極チップとワークとの溶着状態を検出する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガンアームの動作に連動する圧力変化を1つのシリンダを用いて検出するため、一対の溶接チップのうち異常が生じている溶接チップを特定できない。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、異常な溶接チップを特定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る溶接チップの異常特定装置及び溶接チップの異常特定方法は、溶接後に生じた少なくとも2つの溶接チップ部の動作に対応する物理量をもとに、異常が生じている溶接チップ部を特定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、異常な溶接チップを特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る溶接ガン制御システムの構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る異常判定処理の処理手順を示す図である。
【
図4】第2実施形態に係る溶接ガン制御システムの構成を示す図である。
【
図5】第2実施形態に係る異常判定処理の処理手順を示す図である。
【
図7】第3実施形態に係る溶接ガン制御システムの構成を示す図である。
【
図8】第3実施形態に係る異常判定処理の処理手順を示す図である。
【
図9】第4実施形態に係る溶接ガン制御システムの構成を示す図である。
【
図10】第4実施形態に係る異常判定処理の処理手順を示す図である。
【
図11】第5実施形態に係る溶接ガン制御システムの構成を示す図である。
【
図12】第5実施形態に係る異常判定処理の処理手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
本発明を適用した第1実施形態を説明する。
【0010】
[溶接ガン制御システムの構成]
図1は、第1実施形態に係る溶接チップの異常特定装置50を備えた溶接ガン制御システム100の構成を示す図である。溶接ガン制御システム100は、
図1に示すように、作業ロボット1と、作業ロボット制御部2と、溶接ガン3と、溶接ガン制御部4と、歪センサ5と、歪センサ制御部6と、信号前処理・記憶部7と、溶接状態判定部8と、溶接チップ異常判定部9と、溶接状態記録部10と、溶接状態出力部11と、溶接状態報知部12と、を備えて構成される。
【0011】
溶接チップの異常特定装置50は、溶接ガン制御システム100の構成要素のうち、
図1に示すように、歪センサ5と、信号前処理・記憶部7と、溶接状態判定部8と、溶接チップ異常判定部9と、溶接状態記録部10と、溶接状態出力部11と、溶接状態報知部12と、を備えて構成される。
【0012】
作業ロボット1は、作業ロボット制御部2からのロボット駆動信号に基づき、自装置内の回転機構及び伸縮機構を自在に駆動してアーム部1aを駆動して溶接する溶接装置である。アーム部1aを動作することにより、作業ロボット1は、アーム部1aの先端に装着された溶接ガン3で溶接を行う。作業ロボット1は、例えば、自動車の生産作業及び溶接作業を行うための設備、設備の一部を構成する多軸関節型ロボットである。
【0013】
作業ロボット制御部2は、事前設定されたロボット駆動データに基づき、作業ロボット1の駆動を制御するためのロボット駆動信号を出力する溶接装置制御部である。ロボット駆動信号を出力することにより、作業ロボット制御部2は、作業ロボット1の駆動を制御する。ロボット駆動信号には、例えば、作業ロボット1の動作のオンオフ、動作速度、動作角度、溶接の作業順序、作業内容、作業内容の切り替えに関する駆動制御情報が含まれる。駆動制御情報を用いて、作業ロボット制御部2は、例えば、溶接作業動作のオンオフ、溶接検査動作のオンオフ、アーム部1aの位置及び速度、アーム部1aのティーチング動作を制御する。
【0014】
溶接ガン3は、作業ロボット1のアーム部1aの先端部33に装着され、溶接ガン制御部4からのガン駆動信号に基づき、一対の溶接チップ31a,31bでスポット溶接を行うことにより、鉄板等の被溶接部材である2枚以上のワークWを接合する溶接装置である。一対の溶接チップ31a,31bは、一対のシャンク32a,32bで保持される。溶接ガン3は、少なくとも2つの溶接チップを備え、少なくとも2つの溶接チップをそれぞれ駆動可能であればよい。溶接ガン3は、例えば、2つの溶接チップのうち一方の溶接チップのみを駆動可能なCガン、上側及び下側にそれぞれ2つ以上の溶接チップを備えた多点型ガンである。
【0015】
溶接ガン制御部4は、事前設定されたガン駆動データに基づき、溶接ガン3の溶接を制御するためのガン駆動信号を出力する溶接装置制御部である。ガン駆動信号を出力することにより、溶接ガン制御部4は、溶接ガン3の溶接を制御する。ガン駆動信号には、例えば、ワークWに印加する加圧力、溶接電流値、通電後に溶接ガン3の加圧力を下げて開放する溶接の作業順序に関する溶接制御情報が含まれる。溶接制御情報を用いて、溶接ガン制御部4は、ワークWに対する上側の溶接チップ31aの加圧、通電、開放を制御する。
【0016】
歪センサ5は、作業ロボット1のアーム部1aの先端部33に装着され、溶接中及び溶接後に生じた一対の溶接チップ31a,31bのそれぞれの動作に対応する先端部33及び先端部周囲の歪データを取得する物理量取得部(物理センサ)である。
図1には、1つの歪センサ5のみを上側の溶接チップ31aに対応付けた例を示すが、下側の溶接チップ31bに対しても歪センサ5を装着する。
【0017】
尚、歪センサ5は、一対の溶接チップ31a,31bのそれぞれの動作に対応する物理量を定量的に監視して計測する物理センサの例である。物理センサは、歪センサ以外に、例えば、加速度データを取得する加速度センサ、振動データを取得する振動センサ、変位データを取得する変位センサを1つ又は複数使用可能である。物理センサは、先端部33以外に、溶接チップ31a,31b、シャンク32a,32b、アーム部1aのうち1つ又は複数の部位に装着可能である。物理センサの数量は、物理センサの種類に依存する。物理センサは、歪センサの場合、2つ必要であるが、加速度センサの場合、1つのみで足りる。
【0018】
歪センサ制御部6は、歪センサ5を制御するとともに、歪センサ5からの歪信号を異常特定装置50へ出力する制御部である。歪センサ制御部6は、例えば、歪センサ5の動作のオンオフ、歪センサ5の感度調整、歪センサのサンプリング周波数の調整、歪信号に含まれる歪データの数値化処理を制御する。
【0019】
信号前処理・記憶部7は、歪センサ制御部6から出力された歪信号に対して歪データの欠損値等の補正又は補完を行う処理部である。信号前処理・記憶部7は、歪信号に含まれる歪データ(歪量)をもとに、溶接状態の「良」「否」「異常」等を判定するために必要な歪信号の前処理を行う処理部である。信号前処理・記憶部7は、歪信号に対して前処理を行うために用いる時間的に前後の歪信号を記憶する記憶部である。
【0020】
溶接状態判定部8は、信号前処理・記憶部7で行われた処理結果を用いて、過去及び現在の歪データの比較、統計学的な検定等を行うことにより、溶接状態の「良」「否」「異常」を判定する判定部である。
【0021】
溶接状態が「良」とは、ワークWの内部に形成された溶融金属部分であるナゲットの状態で判定し、例えばナゲットの径φの大きさが許容可能な閾値以内である状態をいう。溶接状態が「否」とは、ナゲットの径φの大きさが閾値を超える状態をいう。「異常」の溶接状態とは、例えば、溶接中の冷却などの不良によりワークと溶接チップが解放時に離れにくくなってしまう状態(溶着気味の状態)や異常なスパッタ(散り)の発生などがある。尚、「異常」の溶接状態に、溶接チップとワークが完全溶着している溶着状態を含めてもよい。
【0022】
溶接チップ異常判定部9は、溶接状態判定部8で行われた溶接状態の判定結果に加えて、歪信号を含む各種信号及び歪データを含む各種情報をもとに、一対の溶接チップ31a,31bのうち、「異常」の溶接状態が生じている溶接チップを判定する異常溶接チップ特定部である。溶接チップ異常判定部9は、例えば、歪信号の波形と歪信号の波形の変位方向との一方又は両方をもとに、「異常」の溶接状態が生じている溶接チップを判定する。
【0023】
溶接状態記録部10は、溶接状態の「良」「否」「異常」の判定結果、「否」又は「異常」の溶接状態が生じている溶接チップに関する情報を記録する記録部である。溶接状態記録部10は、更に、溶接チップ31a,31b、作業ロボット1、溶接ガン3に関する情報も記録する。溶接状態記録部10は、例えば、溶接状態判定部8及び溶接チップ異常判定部9で行われた判定結果、作業ロボット1及び溶接ガン3の状態情報、作業ロボット制御部2及び溶接ガン制御部4からの信号値、歪センサ制御部6からの信号値等を記録する。
【0024】
溶接状態出力部11は、溶接状態判定部8で溶接状態が「否」又は「異常」と判定された場合、溶接チップ異常判定部9で「異常」の溶接状態が生じている溶接チップが判定された場合、判定結果、判定結果を導出するために利用した情報等を関係者に出力する出力部である。溶接状態出力部11は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示機器、音を発するスピーカ等の音響機器である。関係者とは、例えば、作業員、作業監督者、保全員、設備管理者である。
【0025】
溶接状態報知部12は、溶接状態判定部8で溶接状態が「否」又は「異常」と判定された場合、溶接チップ異常判定部9で「異常」の溶接状態が生じている溶接チップが判定された場合、判定結果を関係者に警報アラームとして報知する報知部である。溶接状態報知部12は、例えば、回転灯、液晶ディスプレイ等の表示機器、音を発するブザー、スピーカ等の音響機器、電話端末、電子メール、SNS(Social Networking Service)、SMS(Short Message Service)等の情報媒体等を用いて報知する。
【0026】
尚、異常特定装置50は、CPU、メモリ、ハードディスク、入出力インタフェース、通信インタフェース等を備えるコンピュータで実現可能である。コンピュータを異常特定装置50として機能させるためのソフトウェアプログラムを、コンピュータにインストールして実行する。ソフトウェアプログラムを実行することで、コンピュータは、異常特定装置50が備える複数の情報処理部として機能する。
【0027】
本実施形態では、異常特定装置50をソフトウェアプログラムで実現するが、複数の情報処理部を実行するための1つ又は複数の専用ハードウェアを構築してもよい。専用ハードウェアには、本実施形態で説明した機能を実行するように設計された特定用向けの集積回路、電気回路、回路部品を含む。
【0028】
本実施形態では、作業ロボットによるスポット溶接を例に説明するが、例えば、アーク溶接等によるシーム溶接、作業ロボットの代わりに人が溶接作業を行う生産設備等、溶接作業の機構を備える全ての機構に適用可能である。
【0029】
[異常特定処理]
次に、異常特定装置50で行う異常判定処理について説明する。
図2は、異常特定装置50で行う異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0030】
作業ロボット1は、モータ等の駆動機構、駆動機構の動力を伝える減速機、アーム部1a、アーム部1aの先端部33に装着された溶接ガン3、スポット溶接機等を備え、作業ロボット制御部2からのロボット駆動信号に基づき、作業ロボット1の動作のオンオフ、動作速度及び動作角度の制御、作業順序及び作業内容の切り替え等を行う。
【0031】
また、溶接ガン3は、溶接ガン制御部4からのガン駆動信号に基づき、溶接時の加圧力を発生させるためにサーボモータの制御信号を生成し、溶接電流値、通電時間、溶接サイクル数、休止時間、溶接後の開放タイミング、開放速度等、溶接に関する制御を行う。
【0032】
そして、作業ロボット1及び溶接ガン3は、ロボット駆動信号及びガン駆動信号をもとに、互いに連携して、ワークWに対して、下側の溶接チップ31bを押圧する第1工程、上側の溶接チップ31aを押圧する第2工程、溶接電流を通電して溶接する第3工程、上側の溶接チップ31aを開放する第4工程、下側の溶接チップ31bを開放する第5工程、を行う。
【0033】
このとき、異常特定装置50は、上側及び下側の各溶接チップ31a,31bの動作に対応する先端部33及び先端部周囲に生じた歪量を歪センサ5で測定する。そして、異常特定装置50は、測定した歪量の歪データを用いて、溶接状態の「良」「否」「異常」を判定するとともに、「異常」の溶接状態が生じている溶接チップを判定する。以降、
図2を用いて異常判定処理を詳述する。
【0034】
ステップS101において、信号前処理・記憶部7は、歪センサ制御部6から、溶接前後を含む溶接時に歪センサ5で測定された歪データの歪信号を取得する。そして、信号前処理・記憶部7は、取得した歪信号の歪データに欠損値又は異常値がある場合、所定のデータを補正又は補完するとともに、歪信号をクラウド上のサーバ装置又は異常特定装置50の記憶装置に保存する。
【0035】
次に、ステップS102において、溶接状態判定部8は、欠損値等が補完等された歪データ、過去の歪データ、所定の比較・統計学的な検定方法を用いて、ワークWにおける溶接状態の「良」「否」「異常」を判定する。
【0036】
例えば、溶接状態判定部8は、現在の溶接状態と過去の溶接状態で先端部33等に生じた歪の歪波形の振幅、時間長、位相等の差異の大きさ等をもとに、ナゲットの大きさ、ナゲットの形状、スパッタの有無等を推定し、推定結果に基づき「良」「否」「異常」を判定する。
【0037】
例えば、溶接状態判定部8は、正常時の溶接状態の歪データを教師データとして保存しておき、教師データと現在の歪データの歪波形の振幅、時間長、位相等の差異の大きさ等をもとに、「良」「否」「異常」を判定する。
【0038】
例えば、溶接状態判定部8は、溶接ガン制御部4が出力するガン駆動信号を教師データとして保存しておき、教師データから推定算出される先端部33に生じる歪データの歪波形と現在の歪データの歪波形の振幅、時間長、位相等の差異の大きさ等をもとに、「良」「否」「異常」を判定する。
【0039】
本実施形態において、溶接状態判定部8は、各種条件等の値を用いて許容可能な閾値を算出しておく。そして、溶接状態判定部8は、教師データと現在の歪データの差異の大きさが閾値以内の場合、溶接状態を「良」と判定し、閾値を超えた場合、溶接状態を「否」又は「異常」と判定する。さらに、溶接状態判定部8は、溶着気味状態の場合、異常なスパッタが発生している場合、溶接状態を「異常」と判定する。尚、閾値は、実験データ等からの推定値、統計学上の検定値、マハラノビス距離等を用いて決定してもよい。
【0040】
次に、ステップS103において、溶接状態記録部10は、溶接状態が「否」又は「異常」と判定された場合、溶接状態に「否」又は「異常」が生じていることを記録する。溶接状態出力部11は、溶接状態に「否」又は「異常」が生じていることをモニタに表示する。溶接状態報知部12は、溶接状態に「否」又は「異常」が生じていることを関係者に報知する。
【0041】
次に、ステップS104~ステップS109において、溶接チップ異常判定部9は、歪信号を含む各種信号及び歪データを含む各種情報をもとに、一対の溶接チップ31a,31bのうち、「異常」の溶接状態が生じている溶接チップを判定する。
【0042】
まず、ステップS104において、溶接チップ異常判定部9は、歪信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後、上方向に変位した後に下方向に戻る波形Aがあるか否かを把握する。
【0043】
そして、ステップS105において、溶接チップ異常判定部9は、
図3(a)に示すような上記波形Aがある場合、ワークWが上方向に引っ張られたとみなして、ワークWと上側の溶接チップ31aが溶着状態又は溶着気味状態と判断する。そして、溶接チップ異常判定部9は、上側の溶接チップ31aに異常が生じたと判定する。
【0044】
その後、ステップS106において、溶接状態記録部10は、歪信号の取得日時、溶接条件、歪信号の値等とともに、上側の溶接チップ31aに異常が生じたことを記録する。溶接状態出力部11は、上側の溶接チップ31aに異常が生じたことをモニタに表示する。溶接状態報知部12は、上側の溶接チップ31aに異常が生じたことを関係者に報知する。
【0045】
また、ステップS107において、溶接チップ異常判定部9は、歪信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後、下方向に変位した後に上方向に戻る波形Bがあるか否かを把握する。
【0046】
そして、ステップS108において、溶接チップ異常判定部9は、
図3(b)に示すような上記波形Bがある場合、ワークWが下方向に引っ張られたとみなして、ワークWと下側の溶接チップ31bが溶着状態又は溶着気味状態と判断する。そして、溶接チップ異常判定部9は、下側の溶接チップ31bに異常が生じたと判定する。
【0047】
その後、ステップS109において、溶接状態記録部10は、歪信号の取得日時、溶接条件、歪信号の値等とともに、下側の溶接チップ31bに異常が生じたことを記録する。溶接状態出力部11は、下側の溶接チップ31bに異常が生じたことをモニタに表示する。溶接状態報知部12は、下側の溶接チップ31bに異常が生じたことを関係者に報知する。
【0048】
関係者への報知方法について説明する。溶接状態判定部8が溶接状態を「否」又は「異常」と判定した場合、溶接チップ異常判定部9がいずれかの溶接チップに異常が生じたと判定した場合、溶接状態報知部12は、回転灯、ブザー等を用いて作業ロボット1の周囲にいる関係者に対して、溶接状態が異常であり、「否(不良)」又は「異常」の生じた溶接チップを識別する情報等を報知する。
【0049】
また、溶接状態報知部12は、電子メール、SNS、SMS等の通信手段を用いて、作業ロボット1の周囲に不在の関係者に対しても、溶接状態が異常であり、所定の溶接チップの状態が「否(不良)」又は「異常」であることを報知する。
【0050】
一方、溶接状態判定部8が溶接状態を「良」と判定した場合、溶接チップ異常判定部9が一対の溶接チップ31a,31bの全てを異常が生じたと判定しなかった場合、溶接状態出力部11は、溶接状態記録部10に記録された任意の値及び「良」の溶接状態に関する情報をグラフ又は模式図等に変換する。そして、溶接状態出力部11は、関係者に対してわかりやすい表示形態(音、音楽、音声等を含む)で、溶接の良好状態、溶接チップの良好な状態をモニタに表示する。尚、「異常が生じたと判定しなかった場合」とは、溶接チップ31a,31bの開放後、歪信号の波形に顕著な上下方向の変位が見られない場合をいう。
【0051】
ステップS102~ステップS109を行うことで、異常特定装置50は、溶接状態の「良」「否」「異常」の判定処理と、「異常」の溶接状態が生じている溶接チップの判定処理と、を行う。
【0052】
最後に、ステップS110において、異常特定装置50は、溶接診断の継続又は終了を確認するため、「溶接診断を終了するか?」をモニタに表示する。溶接診断を継続する入力を受けた場合、ステップS101へ遷移し、異常特定装置50は、他の溶接チップについて溶接診断を開始する。一方、溶接診断を終了する入力を受けた場合、異常特定装置50は、溶接診断を終了する。
【0053】
[第1実施形態の効果]
第1実施形態によれば、ワークWに対して溶接を行う少なくとも2つの溶接チップ31a,31bを有する溶接装置(作業ロボット1及び溶接ガン3)で、溶接後に生じた少なくとも2つの溶接チップ31a,31bの動作に対応する物理量(歪データ)を取得する物理量取得部(歪センサ5)と、取得した物理量をもとに、少なくとも2つの溶接チップ31a,31bのうち、異常が生じている溶接チップを特定する異常溶接チップ特定部(溶接チップ異常判定部9)と、を備えるので、少なくとも2つの溶接チップの動作に対応する物理量を用いることにより、溶接状態を把握でき、異常な溶接チップを特定できる。
【0054】
第1実施形態によれば、物理量取得部は、少なくとも2つの溶接チップ31a,31bの動作に対応する歪データを取得する歪センサ5であって、異常溶接チップ特定部は、歪データにおける歪信号の波形及び歪信号の波形の変位方向をもとに、少なくとも2つの溶接チップ31a,31bのうち、異常が生じている溶接チップを特定するので、溶接状態を確実に把握でき、異常な溶接チップを確実に特定できる。
【0055】
第1実施形態によれば、物理量取得部は、溶接チップ31a,31b、溶接チップ31a,31bを保持するシャンク32a,32b、溶接チップ31a,31bを装着するアーム部1aのうち少なくとも1つの部位に装着され、歪データを取得する歪センサ5、加速度データを取得する加速度センサ、振動データを取得する振動センサ、変位データを取得する変位センサのうちいずれか1つ以上のセンサであるので、溶接状態を確実に把握でき、異常な溶接チップを確実に特定できる。
【0056】
[第2実施形態]
本発明を適用した第2実施形態を説明する。第2実施形態では、加速度センサを更に用いることで、より高い精度で溶接状態の判定処理と「異常」な溶接チップの判定処理とを行う方法について説明する。
【0057】
[溶接ガン制御システムの構成]
図4は、第2実施形態に係る溶接チップの異常特定装置50を備えた溶接ガン制御システム100の構成を示す図である。異常特定装置50は、
図4に示すように、第1実施形態の構成に対して、加速度センサ13と、加速度センサ制御部14と、駆動データ取得部15と、を更に備えて構成される。以降、第1実施形態と異なる機能について説明する。
【0058】
加速度センサ13は、作業ロボット1のアーム部1aの先端部33またはその近傍に装着され、溶接中及び溶接後に生じた一対の溶接チップ31a,31bのそれぞれの動作に対応する先端部33及び先端部周囲の加速度データを取得する物理量取得部である。
【0059】
加速度センサ制御部14は、加速度センサ13を制御するとともに、加速度センサ13からの加速度信号を異常特定装置50へ出力する制御部である。加速度センサ制御部14は、例えば、加速度センサ13の動作のオンオフ、加速度センサ13の感度調整、加速度信号に含まれる加速度データの数値化処理を制御する。
【0060】
駆動データ取得部15は、作業ロボット制御部2からロボット駆動データを取得する取得部である。駆動データ取得部15は、溶接ガン制御部4からガン駆動データを取得する取得部である。ロボット駆動データ及びガン駆動データには、第1実施形態で説明したように、溶接作業に必要な溶接電流値、通電時間、溶接の作業順序等に関する情報が含まれる。
【0061】
信号前処理・記憶部7は、加速度センサ制御部14から出力された加速度信号に対して加速度データの欠損値等の補正又は補完を行う処理部である。信号前処理・記憶部7は、FFT(Fast Fourier Transform)等により加速度の周波数特性解析等、溶接状態の「良」「否」「異常」等を判定するために必要な加速度信号の前処理を行う処理部である。信号前処理・記憶部7は、加速度信号に対して前処理を行うために用いる時間的に前後の加速度信号を記憶する記憶部である。
【0062】
[異常特定処理]
次に、異常特定装置50で行う異常判定処理について説明する。
図5は、異常特定装置50で行う異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0063】
ステップS201において、信号前処理・記憶部7は、歪センサ制御部6から歪信号を取得する。
【0064】
次に、ステップS202において、信号前処理・記憶部7は、加速度センサ制御部14から、溶接前後を含む溶接時に加速度センサ13で測定された加速度データの加速度信号を取得する。そして、信号前処理・記憶部7は、取得した加速度信号の加速度データに欠損値又は異常値がある場合、所定のデータを補正又は補完するとともに、加速度信号をクラウド上のサーバ装置又は異常特定装置50の記憶装置に保存する。
【0065】
次に、ステップS203において、溶接状態判定部8は、欠損値等が補完等された歪データ及び加速度データ、過去の歪データ及び加速度データ、所定の比較・統計学的な検定方法を用いて、ワークWにおける溶接状態の「良」「否」「異常」を判定する。
【0066】
例えば、溶接状態判定部8は、現在の溶接状態と過去の溶接状態で先端部33等に生じた歪の歪波形及び加速度の加速度波形の振幅、時間長、位相等の差異の大きさ等をもとに、ナゲットの大きさ、ナゲットの形状、スパッタの有無等を推定し、推定結果に基づき「良」「否」「異常」を判定する。
【0067】
例えば、溶接状態判定部8は、正常時の溶接状態の歪データ及び加速度データを教師データとして保存しておき、教師データと現在の歪データの歪波形及び加速度データの加速度波形の振幅、時間長、位相等の差異の大きさ等をもとに、「良」「否」「異常」を判定する。
【0068】
例えば、溶接状態判定部8は、溶接ガン制御部4が出力するガン駆動信号を教師データとして保存しておき、教師データから推定算出される先端部33に生じる歪データの歪波形及び加速度データの加速度波形と現在の歪データの歪波形及び加速度データの加速度波形の振幅、時間長、位相等の差異の大きさ等をもとに、「良」「否」「異常」を判定する。
【0069】
本実施形態において、溶接状態判定部8は、各種条件等の値を用いて許容可能な閾値を算出しておく。そして、溶接状態判定部8は、教師データと現在の歪データ及び加速度データとの差異の大きさが閾値以内の場合、溶接状態を「良」と判定し、閾値を超えた場合、溶接状態を「否」又は「異常」と判定する。さらに、溶接状態判定部8は、スパッタが発生している場合、ナゲットの形状に歪が生じている場合、溶接状態を「異常」と判定する。尚、閾値は、実験データ等からの推定値、統計学上の検定値、マハラノビス距離等を用いて決定してもよい。
【0070】
次に、ステップS204において、溶接状態記録部10、溶接状態出力部11、溶接状態報知部12は、溶接状態が「否」又は「異常」と判定された場合、溶接状態を記録、表示、報知する。
【0071】
次に、ステップS205~ステップS210において、溶接チップ異常判定部9は、歪信号及び加速度信号を含む各種信号、歪データ及び加速度データを含む各種情報、ロボット駆動データ及びガン駆動データをもとに、一対の溶接チップ31a,31bのうち、「異常」の溶接状態が生じている溶接チップを判定する。
【0072】
まず、ステップS205において、溶接チップ異常判定部9は、歪信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に、上方向に変位した後に下方向に戻る波形Aがあるか否かを把握する。また、溶接チップ異常判定部9は、加速度信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に発生する加速度ピークのタイミングが、溶接チップ31a,31bの開放時に発生する加速度とΔt1(<Δt2)程度遅れているか否かを把握する。
【0073】
そして、ステップS206において、溶接チップ異常判定部9は、上方向に変位した後に下方向に戻る波形Aがあり、かつ、
図6(a)に示す波形Cのように、開放後の加速度ピークがΔt1程度遅れて発生している場合、ワークWが上方向に引っ張られたとみなして、ワークWと上側の溶接チップ31aが溶着状態又は溶着気味状態と判断する。そして、溶接チップ異常判定部9は、上側の溶接チップ31aに異常が生じたと判定する。
【0074】
Δt1とは、溶接チップ31a,31bの開放後、上側の溶接チップ31aに所定値以上等過大な加速度が発生するまでの時間である。ロボット駆動データ及びガン駆動データに含まれる溶接の作業手順に沿い、上側の溶接チップ31aが下側の溶接チップ31bよりも僅かに先の時刻で開放されるので、開放後の加速度ピークがΔt1程度遅れている場合、溶接チップ異常判定部9は、上側の溶接チップ31aが溶着状態又は溶着気味状態と判断する。
【0075】
その後、ステップS207において、溶接状態記録部10、溶接状態出力部11、溶接状態報知部12は、上側の溶接チップ31aに異常が生じたことを記録、表示、報知する。
【0076】
また、ステップS208において、溶接チップ異常判定部9は、歪信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に、下方向に変位した後に上方向に戻る波形Bがあるか否かを把握する。また、溶接チップ異常判定部9は、加速度信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に発生する加速度ピークのタイミングが、溶接チップ31a,31bの開放時に発生する加速度とΔt2(>Δt1)程度遅れているか否かを把握する。
【0077】
そして、ステップS209において、溶接チップ異常判定部9は、下方向に変位した後に上方向に戻る波形Bがあり、かつ、
図6(b)に示す波形Dのように、開放後の加速度ピークがΔt2程度遅れて発生している場合、ワークWが下方向に引っ張られたとみなして、ワークWと下側の溶接チップ31bが溶着状態又は溶着気味状態と判断する。そして、溶接チップ異常判定部9は、下側の溶接チップ31bに異常が生じたと判定する。
【0078】
Δt2とは、溶接チップ31a,31bの開放後、下側の溶接チップ31bに所定値以上等過大な加速度が発生するまでの時間である。ロボット駆動データ及びガン駆動データに含まれる溶接の作業手順に沿い、下側の溶接チップ31bが上側の溶接チップ31aよりも僅かに後の時刻で開放されるので、開放後の加速度ピークがΔt2程度遅れている場合、溶接チップ異常判定部9は、下側の溶接チップ31bが溶着状態又は溶着気味状態と判断する。
【0079】
その後、ステップS210において、溶接状態記録部10、溶接状態出力部11、溶接状態報知部12は、下側の溶接チップ31bに異常が生じたことを記録、表示、報知する。
【0080】
最後に、ステップS211において、異常特定装置50は、溶接診断の継続又は終了をモニタに表示する。
【0081】
[第2実施形態の効果]
第2実施形態によれば、溶接装置(作業ロボット1及び溶接ガン3)を駆動するための駆動データを取得する駆動データ取得部15を備え、異常溶接チップ特定部(溶接チップ異常判定部9)は、物理量(歪データ及び加速度データ)及び駆動データ(ロボット駆動データ及びガン駆動データ)をもとに、少なくとも2つの溶接チップ31a,31bのうち、異常が生じている溶接チップを特定するので、溶接状態をより確実に把握でき、異常な溶接チップをより確実に特定できる。
【0082】
第2実施形態によれば、駆動データは、少なくとも2つの溶接チップ31a,31bを異なるタイミングで駆動させる駆動データであり、異常溶接チップ特定部は、物理量及び異なるタイミングを含む駆動データをもとに、少なくとも2つの溶接チップ31a,31bのうち、異常が生じている溶接チップを特定するので、溶接状態をより確実に把握でき、異常が生じている溶接チップを高精度に特定できる。
【0083】
[第3実施形態]
本発明を適用した第3実施形態を説明する。第3実施形態では、所定の溶接チップに異常がある場合、既存の溶接条件を異常の発生を抑制するための溶接条件に変更することで、溶接状態の異常の発生及び溶接チップの異常の発生を抑制する方法について説明する。
【0084】
[溶接ガン制御システムの構成]
図7は、第3実施形態に係る溶接チップの異常特定装置50を備えた溶接ガン制御システム100の構成を示す図である。異常特定装置50は、
図7に示すように、物理量取得部として加速度センサ13及び加速度センサ制御部14を用い、第2実施形態の構成に対して、制御信号修正部16を更に備えて構成される。以降、第2実施形態と異なる機能について説明する。
【0085】
制御信号修正部16は、溶接状態判定部8及び溶接チップ異常判定部9から溶接状態の異常及び溶接チップの異常の判定結果を含む異常判定信号を取得した場合、判定結果をもとに既存の溶接条件データを変更する制御値調整部である。制御信号修正部16は、変更した溶接条件データを含む溶接条件修正信号を作業ロボット制御部2及び溶接ガン制御部4に送信することで、作業ロボット1及び溶接ガン3を駆動するための駆動制御値であるロボット駆動データ及びガン駆動データを可変させる制御値調整部である。
【0086】
[異常特定処理]
次に、異常特定装置50で行う異常判定処理について説明する。
図8は、異常特定装置50で行う異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0087】
ステップS301において、信号前処理・記憶部7は、加速度センサ制御部14から加速度信号を取得する。
【0088】
次に、ステップS302において、溶接状態判定部8は、加速度信号等を用いて、ワークWでの溶接状態の「良」「否」「異常」を判定する。
【0089】
次に、ステップS303において、溶接状態記録部10、溶接状態出力部11、溶接状態報知部12は、溶接状態が「否」又は「異常」と判定された場合、溶接状態を記録、表示、報知する。
【0090】
次に、ステップS304において、溶接チップ異常判定部9は、加速度信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に発生する加速度ピークのタイミングが、溶接チップ31a,31bの開放時に発生する加速度とΔt1程度遅れているか否かを判定する。
【0091】
そして、ステップS305において、制御信号修正部16は、加速度ピークがΔt1程度遅れていることで上側の溶接チップ31aに異常が生じたと判定された場合、上側の溶接チップ31aの異常を軽減させる溶接条件Aを算出する。
【0092】
例えば、制御信号修正部16は、上側の溶接チップ3aとワークWの接触角度がより垂直になる作業ロボット1及び溶接ガン3の位置座標X1を算出する。その他、制御信号修正部16は、変更後の加圧力P1、溶接電流値I1、通電時間T1を算出する。そして、制御信号修正部16は、溶接条件Aを含む溶接条件修正信号を作業ロボット制御部2及び溶接ガン制御部4に送信する。これにより、作業ロボット制御部2及び溶接ガン制御部4は、ロボット駆動データ及びガン駆動データ内の既存の溶接条件を溶接条件修正信号の溶接条件Aに修正する。
【0093】
また、ステップS306において、溶接チップ異常判定部9は、加速度信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に発生する加速度ピークのタイミングが、溶接チップ31a,31bの開放時に発生する加速度とΔt2程度遅れているか否かを判定する。
【0094】
そして、ステップS307において、制御信号修正部16は、加速度ピークがΔt2程度遅れていることで下側の溶接チップ31bに異常が生じたと判定された場合、下側の溶接チップ31bの異常を軽減させる溶接条件Bを算出する。そして、制御信号修正部16は、溶接条件Bとして算出した位置座標X2、加圧力P2、溶接電流値I2、通電時間T2を含む溶接条件修正信号を作業ロボット制御部2及び溶接ガン制御部4に送信する。
【0095】
尚、ステップS304又はステップS306で溶接チップ31a,31bに異常が生じたと判定しなかった場合、ステップS308又はステップS309において、溶接状態記録部10は、加速度信号の取得日時、溶接条件、加速度信号の値等とともに、溶接状態が「否」であることを記録する。溶接状態出力部11は、溶接状態が「否」であることをモニタに表示する。溶接状態報知部12は、溶接状態が「否」であることを関係者に報知する。
【0096】
最後に、ステップS310において、異常特定装置50は、溶接診断の継続又は終了をモニタに表示する。
【0097】
[第3実施形態の効果]
第3実施形態によれば、異常溶接チップ特定部(溶接チップ異常判定部9)から特定結果(判定結果)を取得し、特定結果をもとに算出した溶接条件データを溶接装置(作業ロボット1及び溶接ガン3)の駆動を行う溶接装置制御部(作業ロボット制御部2及び溶接ガン制御部4)に送り、溶接装置を駆動するための制御値を可変させる制御値調整部(制御信号修正部16)を備えるので、溶着が生じにくくなる溶接条件への変更が可能となり、溶接の品質を向上できる。
【0098】
[第4実施形態]
本発明を適用した第4実施形態を説明する。第4実施形態では、所定の溶接チップに異常がある場合、異常の生じた溶接チップの表面を削る(チップドレス)処理を最適に行うことで、溶接チップの寿命を延ばす方法について説明する。
【0099】
[溶接ガン制御システムの構成]
図9は、第4実施形態に係る溶接チップの異常特定装置50を備えた溶接ガン制御システム100の構成を示す図である。異常特定装置50は、
図9に示すように、第3実施形態の構成に対して、チップドレッサー17と、ドレッサー制御部18と、を更に備えて構成される。以降、第3実施形態と異なる機能について説明する。
【0100】
チップドレッサー17は、ドレッサー制御部18からのドレス制御信号に基づき、溶接チップを研磨する研磨装置である。チップドレッサー17は、例えば、溶接チップ表面の切削処理、溶接チップ表面から不純物を除去する除去処理、変形した溶接チップの形状を元に戻す形状変換処理、等の研磨作業を電気的に自動で行う。
【0101】
ドレッサー制御部18は、事前設定されたドレス制御データに基づき、チップドレッサー17の研磨処理を制御するためのドレス制御信号を出力する研磨装置制御部である。ドレス制御信号を出力することにより、ドレッサー制御部18は、チップドレッサー17の研磨処理を制御する。ドレス制御信号には、例えば、チップドレッサー17の動作のオンオフ、チップ研磨量、チップ研磨量を制御するための加圧力、研磨時間等が含まれる。
【0102】
制御信号修正部16は、溶接状態判定部8及び溶接チップ異常判定部9から溶接状態の異常及び溶接チップの異常の判定結果を含む異常判定信号を取得した場合、判定結果をもとに既存のドレス条件データを変更する制御値調整部である。制御信号修正部16は、変更したドレス条件データを含むドレス条件修正信号をドレッサー制御部18に送信することで、チップドレッサー17を駆動するための駆動制御値であるドレス条件データを可変させる制御値調整部である。
【0103】
[異常特定処理]
次に、異常特定装置50で行う異常判定処理について説明する。
図10は、異常特定装置50で行う異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0104】
ステップS401において、信号前処理・記憶部7は、加速度センサ制御部14から加速度信号を取得する。
【0105】
次に、ステップS402において、溶接状態判定部8は、加速度信号等を用いて、ワークWでの溶接状態の「良」「否」「異常」を判定する。
【0106】
次に、ステップS403において、溶接状態記録部10、溶接状態出力部11、溶接状態報知部12は、溶接状態が「否」又は「異常」と判定された場合、溶接状態を記録、表示、報知する。
【0107】
次に、ステップS404において、溶接チップ異常判定部9は、加速度信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に発生する加速度ピークのタイミングが、溶接チップ31a,31bの開放時に発生する加速度とΔt1程度遅れているか否かを判定する。
【0108】
そして、ステップS405において、制御信号修正部16は、加速度ピークがΔt1程度遅れていることで上側の溶接チップ31aに異常が生じたと判定された場合、上側の溶接チップ31aの異常をなくすドレス条件Aを算出する。
【0109】
例えば、制御信号修正部16は、上側の溶接チップ3aをドレスするため、ドレス時の加圧力P1、ドレス量S1、ドレス電流I1、ドレス時間T1を算出する。そして、制御信号修正部16は、ドレス条件Aを含むドレス条件修正信号をドレッサー制御部18に送信する。
【0110】
また、ステップS406において、溶接チップ異常判定部9は、加速度信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に発生する加速度ピークのタイミングが、溶接チップ31a,31bの開放時に発生する加速度とΔt2程度遅れているか否かを判定する。
【0111】
そして、ステップS407において、制御信号修正部16は、加速度ピークがΔt2程度遅れていることで下側の溶接チップ31bに異常が生じたと判定された場合、下側の溶接チップ31bの異常をなくすドレス条件Bを算出する。そして、制御信号修正部16は、溶接条件Bとして算出した加圧力P2、ドレス量S1、ドレス電流I2、ドレス時間T2を含むドレス条件修正信号をドレッサー制御部18に送信する。
【0112】
尚、ステップS404又はステップS406で溶接チップ31a,31bに異常が生じたと判定しなかった場合、ステップS408又はステップS409において、溶接状態記録部10、溶接状態出力部11、溶接状態報知部12は、加速度信号の取得日時、溶接条件、加速度信号の値等を記録するとともに、溶接チップ31a,31bに異常がないことを記録、表示、報知する。
【0113】
その後、ステップS410において、ドレッサー制御部18は、制御信号修正部16からのドレス条件修正信号によりドレス条件データが可変されたか否かを判定する。
【0114】
そして、ステップS411において、ドレッサー制御部18は、ドレス条件データが可変された場合、可変後の新たなドレス条件データに基づき、上側の溶接チップ31aに対してはドレス条件Aでチップドレッサー17を駆動し、下側の溶接チップ31bに対してはドレス条件Bでチップドレッサー17を駆動する。
【0115】
最後に、ステップS412において、異常特定装置50は、溶接診断の継続又は終了をモニタに表示する。
【0116】
[第4実施形態の効果]
第4実施形態によれば、異常溶接チップ特定部(溶接チップ異常判定部9)から特定結果(判定結果)を取得し、特定結果をもとに算出した溶接チップ31a,31bの研磨条件データを研磨装置(チップドレッサー17)の駆動を行う研磨装置制御部(ドレッサー制御部18)に送り、研磨装置を駆動するための制御値を可変させる制御値調整部(制御信号修正部16)を備えるので、溶接チップの摩耗量を最適化でき、溶接チップの寿命を向上できる。
【0117】
[第5実施形態]
本発明を適用した第5実施形態を説明する。第5実施形態では、所定の溶接チップに異常がある場合、溶接チップを交換する処理を最適に行うことで、結果的に溶接チップの寿命を延ばす方法について説明する。
【0118】
[溶接ガン制御システムの構成]
図10は、第5実施形態に係る溶接チップの異常特定装置50を備えた溶接ガン制御システム100の構成を示す図である。異常特定装置50は、
図10に示すように、第3実施形態の構成に対して、チップ交換装置19と、チップ交換制御部20と、を更に備えて構成される。以降、第3実施形態と異なる機能について説明する。
【0119】
チップ交換装置19は、チップ交換制御部20からのチップ交換制御信号に基づき、溶接チップを電気的に自動で交換する交換装置である。
【0120】
チップ交換制御部20は、事前設定されたチップ交換制御データに基づき、チップ交換装置19のチップ交換処理を制御するためのチップ交換制御信号を出力する交換装置制御部である。チップ交換制御信号を出力することにより、チップ交換制御部20は、チップ交換装置19のチップ交換処理を制御する。チップ交換制御信号には、例えば、チップ交換装置19の動作のオンオフ、チップ交換部位(上側又は下側)の切り替え情報、チップ交換の実施タイミング等が含まれる。
【0121】
制御信号修正部16は、溶接状態判定部8及び溶接チップ異常判定部9から溶接状態の異常及び溶接チップの異常の判定結果を含む異常判定信号を取得した場合、判定結果をもとに既存のチップ交換条件データを変更する制御値調整部である。制御信号修正部16は、変更したチップ交換条件データを含むチップ交換条件修正信号をチップ交換制御部20に送信することで、チップ交換装置19を駆動するための駆動制御値であるチップ交換条件データを可変させる制御値調整部である。
【0122】
[異常特定処理]
次に、異常特定装置50で行う異常判定処理について説明する。
図12は、異常特定装置50で行う異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0123】
ステップS501において、信号前処理・記憶部7は、加速度センサ制御部14から加速度信号を取得する。
【0124】
次に、ステップS502において、溶接状態判定部8は、加速度信号等を用いて、ワークWでの溶接状態の「良」「否」「異常」を判定する。
【0125】
次に、ステップS503において、溶接状態記録部10、溶接状態出力部11、溶接状態報知部12は、溶接状態を「否」又は「異常」と判定された場合、溶接状態を記録、表示、報知する。
【0126】
次に、ステップS504において、溶接チップ異常判定部9は、加速度信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に発生する加速度ピークのタイミングが、溶接チップ31a,31bの開放時に発生する加速度とΔt1程度遅れているか否かを判定する。
【0127】
そして、ステップS505において、制御信号修正部16は、加速度ピークがΔt1程度遅れていることで上側の溶接チップ31aに異常が生じたと判定された場合、上側の溶接チップ31aを交換するためのチップ交換条件データを含むチップ交換条件修正信号をチップ交換制御部20に送信する。その後、チップ交換制御部20は、受信したチップ交換条件データに基づき、上側の溶接チップ31aを交換するようにチップ交換装置19を制御する。
【0128】
また、ステップS506において、溶接チップ異常判定部9は、加速度信号の波形を参照し、溶接チップ31a,31bの開放後に発生する加速度ピークのタイミングが、溶接チップ31a,31bの開放時に発生する加速度とΔt2程度遅れているか否かを判定する。
【0129】
そして、ステップS507において、制御信号修正部16は、加速度ピークがΔt2程度遅れていることで下側の溶接チップ31bに異常が生じたと判定された場合、下側の溶接チップ31bを交換するためのチップ交換条件データを含むチップ交換条件修正信号をチップ交換制御部20に送信する。その後、チップ交換制御部20は、受信したチップ交換条件データに基づき、下側の溶接チップ31bを交換するようにチップ交換装置19を制御する。
【0130】
尚、ステップS504又はステップS506で溶接チップ31a,31bに異常が生じたと判定しなかった場合、ステップS508又はステップS509において、溶接状態記録部10、溶接状態出力部11、溶接状態報知部12は、加速度信号の取得日時、溶接条件、加速度信号の値等を記録するとともに、溶接チップ31a,31bに異常がないことを記録、表示、報知する。
【0131】
最後に、ステップS510において、異常特定装置50は、溶接診断の継続又は終了をモニタに表示する。
【0132】
[第5実施形態の効果]
第5実施形態によれば、異常溶接チップ特定部(溶接チップ異常判定部9)から特定結果を取得し、特定結果をもとに算出した溶接チップ31a,31bの交換条件データを交換装置(チップ交換装置19)の制御を行う交換装置制御部(チップ交換制御部20)に送り、交換装置を駆動するための制御値を可変させる制御値調整部(制御信号修正部16)を備えるので、溶接チップの交換を最適化でき、交換する溶接チップ量を減少でき、結果的に溶接チップの寿命を向上できる。
【0133】
[その他]
各実施形態では、作業ロボットによるスポット溶接を例に説明したが、作業ロボット及びスポット溶接以外にも適用可能である。例えば、本発明は、工場外のロボット以外のスポット溶接機、アーク溶接等の抵抗溶接以外の溶接作業等、幅広く利適用可能である。
【符号の説明】
【0134】
1…作業ロボット
1a…アーム部
2…作業ロボット制御部
3…溶接ガン
4…溶接ガン制御部
5…歪センサ
6…歪センサ制御部
7…信号前処理・記憶部
8…溶接状態判定部
9…溶接チップ異常判定部
10…溶接状態記録部
11…溶接状態出力部
12…溶接状態報知部
13…加速度センサ
14…加速度センサ制御部
15…駆動データ取得部
16…制御信号修正部
17…チップドレッサー
18…ドレッサー制御部
19…チップ交換装置
20…チップ交換制御部
31a…上側の溶接チップ
31b…下側の溶接チップ
32a…上側のシャンク
32b…下側のシャンク
33…アーム部の先端部
50…溶接チップの異常特定装置
100…溶接ガン制御システム