(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】免疫療法のための同種および免疫抑制耐性T細胞を操作するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230407BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230407BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230407BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230407BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230407BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230407BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230407BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230407BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20230407BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230407BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20230407BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230407BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230407BHJP
【FI】
C12N15/09 100
A61K35/17
A61P31/12
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/06
C12N5/0783
C12N5/10
C07K14/705
C07K19/00
C12N9/16 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/62 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018137466
(22)【出願日】2018-07-23
(62)【分割の表示】P 2015514050の分割
【原出願日】2013-05-13
【審査請求日】2018-08-21
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-15
(32)【優先日】2012-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512213549
【氏名又は名称】セレクティス
【氏名又は名称原語表記】CELLECTIS
【住所又は居所原語表記】8 rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロマン・ガレット
(72)【発明者】
【氏名】アニエス・ゴーブル
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・グロッセ
(72)【発明者】
【氏名】セシル・マニウイ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ポアロ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・シャレンベルク
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアーヌ・スミス
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】宮岡 真衣
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-508850(JP,A)
【文献】特開2006-137777(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0158957(US,A1)
【文献】国際公開第2012/012667(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0030072(US,A1)
【文献】国際公開第2010/101249(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/043200(WO,A1)
【文献】PNAS (2011) Vol.108, No.6, pp.2623-2628
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications (2009) Vol.381, pp.355-360
【文献】Eur. J. Immunol. (1998) Vol.28, pp.3824-3831
【文献】J. Exp. Med. (2001) Vol.193, No.9, pp.1045-1057
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 5/00-5/28
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫療法のためにT細
胞をエクスビボで操作する方法であって、
(a)前記細胞に、少なくとも1つの低頻度切断エンドヌクレアーゼを導入して、前記低頻度切断エンドヌクレアーゼが前記細胞のゲノムの1つの標的配列において特異的に切断を触媒する工程、
(b)前記細胞に、前記切断の上流の配列に対して相同性を有する第1の領域、前記細胞のゲノムに挿入しようとする配列、および前記切断の下流の配列に対して相同性を有する第2の領域を連続的に含む外来性核酸を導入する工程
の遺伝子改変工程を含み、導入された前記外来性核酸が、TCRアルファをコードする遺伝子を不活性化し、キメラ抗原受容体(CAR)、または、多重鎖CARをコードする少なくとも1つの外来性ポリヌクレオチド配列を組み込み、
前記低頻度切断エンドヌクレアーゼが、配列番号37の標的配列を切断し、
前記低頻度切断エンドヌクレアーゼがTALE-ヌクレアーゼである、方法。
【請求項2】
前記外来性組換えポリヌクレオチドが、特異的細胞認識のためのCARをコードしている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CARが、CD19抗原に対するものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記CARが、配列番号73と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記
T細胞が初代細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記
T細胞が、ドナーからもしくは初代細胞の培養から入手可能
である、または
、幹細胞に由来
する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
インビトロで前記T細胞を増殖させる工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法により得ることができる、単離された細胞または細胞株。
【請求項9】
CD52およびTCRアルファ、GRおよびTCRアルファ、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される2つの遺伝子が不活性化されている、請求項8に記載の単離された細胞。
【請求項10】
前記細胞が、免疫チェックポイントに関与する少なくとも1つのタンパク質を不活性化することによりさらに遺伝子改変され
ている、請求項8または9に記載の単離された細胞。
【請求項11】
医薬品としての使用のための、請求項8~10のいずれか一項に記載の単離された細胞。
【請求項12】
がん、ウイルス感染、自己免疫障害、または移植片対宿主病(GvHD)と診断された患者の治療における使用のための、請求項8~10のいずれか一項に記載の単離された細胞。
【請求項13】
白血病およびリンパ腫の治療における使用のための、請求項8~10のいずれか一項に記載の単離された細胞。
【請求項14】
請求項8~13のいずれか一項に記載の単離された細胞を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第61/651,933号、2012年5月25日出願;および米国仮特許出願第61/696,612号、2012年9月4日出願に35 U.S.C.119(e)に基づいて優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、非アロ反応性および免疫抑制剤に耐性の両方である、免疫療法のための操作されたT細胞を開発するための方法に関する。本発明は、免疫抑制薬に対する標的およびT細胞受容体をコードしている両方の遺伝子を不活性化することによってT細胞を改変するための方法に関する。本方法は、ドナーからまたは初代細胞の培養から入手可能であるT細胞中の鍵となる遺伝子の選択を正確に標的化するための特異的低頻度切断エンドヌクレアーゼ、具体的にはTALE-ヌクレアーゼ(TALエフェクターエンドヌクレアーゼ)およびそのようなポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの使用を含む。本発明は、プレTCRα(「pTアルファ」)およびその機能性誘導体、キメラ抗原受容体(Chimeric antigen Receptor)(CAR)、多重鎖(CAR)ならびに免疫療法の効率を増強するためのその使用にも関する。本発明は、がんおよびウイルス感染を治療するための標準的および安価な養子免疫療法戦略への道を切り開く。
【背景技術】
【0003】
ex vivo(エクスビボ)で生成された自己抗原特異的T細胞の移行を含む養子免疫療法は、ウイルス感染およびがんを治療するための有望な戦略である。養子免疫療法のために使用されるT細胞は、抗原特異的T細胞の増殖または遺伝子操作を通じたT細胞の再方向付けのいずれかによって生成できる(Park, Rosenberg et al. 2011)。ウイルス性抗原特異的T細胞の移行は、移植関連ウイルス感染および稀なウイルス関連悪性腫瘍の治療のために使用される十分に確立された手順である。同様に腫瘍特異的T細胞の単離および移行は、メラノーマの治療においても良好であることが示されている。
【0004】
T細胞における新規特異性は、トランスジェニックT細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)の遺伝子移行を通じて良好に生成されている(Jena, Dotti et al. 2010)。CARは、単一融合分子中の1つまたは複数のシグナリングドメインに関連する標的化成分からなる合成受容体である。一般に、CARの結合成分は、可動性リンカーによって繋がれたモノクローナル抗体の軽鎖および可変断片を含む単鎖抗体(scFv)の抗原結合ドメインからなる。受容体に基づく結合成分またはリガンドドメインは、良好に使用されている。第1世代CARのシグナリングドメインは、CD3ゼータまたはFc受容体ガンマ鎖の細胞質性領域に由来する。第1世代CARは、T細胞細胞傷害性を良好に再方向付けたことが示されたが、それらは増殖の延長およびin vivo(インビボ)での抗腫瘍活性を提供できなかった。CD28、OX-40 (CD134)および4-1BB (CD137)を含む同時刺激分子からのシグナリングドメインは、CAR改変T細胞の生存を増強するためおよび増殖を増大させるために単独で(第2世代)または組合せで(第3世代)付加されている。CARは、リンパ腫および固形腫瘍を含む種々の悪性病変由来の腫瘍細胞の表面に発現される抗原に対してT細胞を良好に再方向付けできる(Jena, Dotti et al. 2010)。
【0005】
現在のCAR構造物はすべての関連するドメインが単一のポリペプチド中に含有されるような設計で構築されている。この設計は、シグナリングドメインの連続的付加を必要とし、それによりいくつかのドメインのその本来の膜近傍位置からの移動を必要とする。したがってリガンドおよびシグナリングドメインが分離されている構造物は、血漿膜から遠くに位置付けられたいくつかのドメインと共に付加されるよりも、それらの通常の膜近傍位置とは異なる鎖に位置付けられた共刺激ドメインの機能の改善を可能にできる。天然受容体、IgE(FcεRI)に対する高親和性受容体は、そのような構造物を与えられている。マスト細胞および好塩基球に存在するFcεRIは、IgEに高親和性で結合する。FcεRIは、リガンド結合アルファサブユニット、ベータサブユニットおよび2つのシグナル伝達ガンマサブユニットのホモ二量体からなる四量体受容体複合体である(Metzger, Alcaraz et al. 1986)。FcεRIアルファドメインは、IgEに結合する2つのIg様ドメイン、膜貫通ドメインおよび短い細胞質側尾部を含有する細胞外ドメインからなる。ベータサブユニットは、アミノおよびカルボキシ末端細胞質側尾部を分けている4つの膜貫通セグメントを含有する。ガンマ鎖は、膜貫通領域および、1つの免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)(ITAM)を含有する細胞質側尾部から本質的になる(Cambier 1995)。TCR複合体のゼータ鎖は、ガンマ鎖に密接に関連し、FcεRIのガンマ鎖を置換できる(Howard, Rodewald et al. 1990)。
【0006】
養子免疫療法を使用する患者の治療のための現在のプロトコールは、自己細胞移行に基づいている。この手法ではTリンパ球は、患者から回収され、ex vivoで遺伝的に改変または選択され、必要な場合は細胞の数を増幅するためにin vitro(インビトロ)で培養され、最終的に患者に注入される。リンパ球注入に加えて宿主は、T細胞の生着またはそれらの免疫応答への参加を支持する他の方法、例えば(放射線または化学療法での)前処置および(IL-2などの)リンパ球増殖因子の投与でも操作される場合がある。各患者は、患者自身のリンパ球を使用する個人的に作られた治療を受ける(すなわち自己療法)。自己療法は、実際に適用するために実質的な技術的およびロジスティックな困難に直面し、それらの生成は高価な専用の設備および専門職員を必要とし、患者の診断後に短い期間で生成されなければならず、多くの場合患者の前処置は免疫機能の低下を生じ、患者のリンパ球は低機能性で、存在数が非常に少ない場合がある。これらの困難から各患者の自己細胞調製物は、事実上新たな産生物であり、有効性および安全性において実質的な変動を生じる。理想的には、同種治療用細胞があらかじめ製造でき、詳細に特徴付けられ、患者への即時投与に利用できる標準化された療法を使用できるとよい。同種によって、細胞が同じ種に属するが遺伝的に類似していない個体から得られることが意味される。しかし、同種細胞の使用は、現在多くの難点を有する。免疫適格性宿主では、同種細胞は急速に拒絶され(宿主対移植片拒絶(host versus graft rejection)(HvG)と称されるプロセス)、これが移行される細胞の有効性を実質的に限定する。免疫非適格性宿主では同種細胞は生着できるが、それらの内在性TCR特異性は宿主組織を外来性として認識し、移植片対宿主病(graft versus host disease)(GvHD)を生じ、重篤な組織損傷および死に至る場合がある。同種細胞を有効に使用するためには、これらの問題の両方が克服されなければならない。
【0007】
免疫適格性宿主では、同種細胞は宿主免疫系によって急速に拒絶される。非照射血液産生物中に存在する同種白血球は、5から6日未満持続することが実証されている(Boni, Muranski et al. 2008)。したがって同種細胞の拒絶を予防するために、宿主の免疫系は有効に抑制されなければならない。グルココルチコイドステロイド(glucocorticoidsteroid)は、免疫抑制のために治療用に広く使用されている(Coutinho and Chapman 2011)。この種類のステロイドホルモンは、T細胞のサイトゾルに存在するグルココルチコイド受容体(glucocorticoid receptor)(GR)に結合し、核への移行および、免疫学的プロセスに関与する多数の遺伝子の発現を制御する特異的DNAモチーフの結合を生じる。グルココルチコイドステロイドでのT細胞の処置は、サイトカイン産生レベルの低減を生じ、T細胞免疫反応不顕性およびT細胞活性化における干渉を導く。アレムツズマブ(CAMPATH1-Hとしても周知)は、CD52、12アミノ酸グリコシルホスファチジル-イノシトール(glycosylphosphatidyl-inositol)(GPI)連結糖タンパク質を標的化するヒト化モノクローナル抗体である(Waldmann and Hale 2005)。CD52は、TおよびBリンパ球において高レベルでならびに単球において低レベル発現されるが、顆粒球および骨髄前駆体では欠如している。アレムツズマブ(CD52に対して方向付けられたヒト化モノクローナル抗体)での治療は、循環リンパ球および単球の急速な欠乏を誘導することが示されている。T細胞リンパ腫の治療においておよびある種の場合には移植のための前処置治療計画の一部としてしばしば使用される。しかし養子免疫療法の場合、免疫抑制剤の使用は、誘導される治療用T細胞に有害な作用も有する。したがって、これらの状態において養子免疫療法手法を有効に使用するために、導入される細胞は、免疫抑制処置に耐性である必要がある。
【0008】
一方、T細胞受容体(T cell receptor)(TCR)は、抗原の提示への応答においてT細胞の活性化に関与する細胞表面受容体である。TCRはヘテロ二量体を形成するようにアセンブルし、細胞表面に存在するT細胞受容体複合体を形成するようにCD3伝達サブユニットと会合する二本鎖、アルファおよびベータから一般にできている。TCRのアルファおよびベータの各鎖は、免疫グロブリン様N末端可変(variable)(V)および定常(constant)(C)領域、疎水性膜貫通ドメインならびに短い細胞質性領域からなる。免疫グロブリン分子についてと同様にアルファおよびベータ鎖の可変領域は、T細胞集団内の抗原特異性の広い多様性を作り出すV(D)J組換えによって生成される。しかし、未処理の抗原を認識する免疫グロブリンとは対照的に、T細胞はMHC分子と関連してプロセスされたペプチド断片によって活性化され、MHC制限として周知のT細胞による抗原認識に追加的側面を導入している。T細胞受容体を通じたドナーとレシピエントとの間のMHC不同性の認識は、T細胞増殖およびGVHDの潜在的な発達を導く。TCRの通常の表面発現は複合体の7個すべての構成成分の協調的な合成およびアセンブリに依存することが示されている(Ashwell and Klusner 1990)。TCRアルファまたはTCRベータの不活性化は、T細胞の表面からのTCRの排除を生じる場合があり、同種抗原の認識およびしたがってGVHDを予防する。しかし、TCR破壊は、CD3シグナリング構成成分の排除を生じ、さらなるT細胞増殖の手段を変更する。
【0009】
正常なT細胞ではT細胞受容体は、未成熟胸腺細胞によって発現され、二重陰性(CD4-CD8-)から二重陽性(CD4+CD8+)期へのT細胞発達のために重要であるプレT細胞受容体(pre-T cell receptor)(pTCR)から発生する。TCRベータ遺伝子座の増殖性再構成に成功するプレT細胞は、不変異プレTアルファ鎖およびCD3シグナリング構成成分とプレTCR複合体を形成するように対合する機能性TCRベータ鎖を発現する。細胞表面でのpreプレTCRの発現は、ベータ選択(発達中のT細胞の増殖を誘導するプロセス)の引き金を引くために必要であり、TCRベータ遺伝子座の対立遺伝子排除を実施し、TCRアルファ遺伝子座での再構成の誘導を生じる(von Boehmer 2005)。成熟TCRを形成するための増殖性TCRアルファ再構成およびTCRアルファによるpTアルファの置換の後に、胸腺細胞は、胸腺上皮細胞上に発現される自己ペプチドMHC複合体の結合について陽性またはTCRアルファ/ベータ選択と称される、選択の第2工程を受ける。したがって成熟T細胞は、それらのTCRを通じて抗原/MHC複合体を認識し、応答する。TCR活性化の最も即時型の結果は、会合したCD3サブユニットを介するシグナリング経路の開始であり、T細胞のクローン増殖、細胞表面での活性化マーカーの上方制御および細胞傷害性またはサイトカイン分泌の誘導を含む複数の事象を生じる。
【0010】
胸腺発達の際のプレTアルファとの対合を通じたTCRベータ鎖の選択の性質のために、TCRアルファが不活性化されているT細胞では、pTアルファ導入遺伝子の異種性導入はプレTCRの形成を生じる場合がある。このpTCRは、T細胞活性化の手段または非MHC依存性である手段における刺激として作用でき、それにより例えばTCRアルファ不活性化に続くアルファ/ベータT細胞の持続的増殖を可能にする。重要なことにpTCR複合体は、会合したCD3サブユニットに関してTCRと類似の生化学組成物を示す(Carrasco, Ramiro et al. 2001)。付加的にTCRとは対照的にプレTCRシグナリングは、リガンド非依存性事象によって部分的に生じる場合がある。pTCR細胞外ドメインの結晶構造は、pTCRシグナリングの可能性があるリガンド非依存性についての構造的基礎を提供する。pTCRは、2つのpTアルファ-TCRベータヘテロ二量体が会合しているヘッドトゥーテールの二量体を形成することが示されている(Pang, Berry et al. 2010)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第4,683,195号
【文献】WO2012/058458
【文献】米国特許第6,010,613号
【文献】WO2004083379
【文献】米国特許第6,352,694号
【文献】米国特許第6,534,055号
【文献】米国特許第6,905,680号
【文献】米国特許第6,692,964号
【文献】米国特許第5,858,358号
【文献】米国特許第6,887,466号
【文献】米国特許第6,905,681号
【文献】米国特許第7,144,575号
【文献】米国特許第7,067,318号
【文献】米国特許第7,172,869号
【文献】米国特許第7,232,566号
【文献】米国特許第7,175,843号
【文献】米国特許第5,883,223号
【文献】米国特許第6,905,874号
【文献】米国特許第6,797,514号
【文献】米国特許第6,867,041号
【文献】米国特許出願公開第20060121005号
【文献】WO2012138927
【文献】米国特許第4,474,893号
【文献】WO2013/017950
【文献】WO2004/067736
【非特許文献】
【0012】
【文献】Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc, Library of Congress, USA)
【文献】Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, (Sambrook et al, 2001、Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press)
【文献】Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait編, 1984)
【文献】Nucleic Acid Hybridization (B. D. Harries & S. J. Higgins編, 1984)
【文献】Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins編, 1984)
【文献】Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Lis, Inc., 1987)
【文献】Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986)
【文献】B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984)
【文献】Methods In ENZYMOLOGY (主編者J. Abelson and M. Simon, Academic Press, Inc., New York) シリーズ、具体的には154および155巻(Wuら編)ならびに185巻、"Gene Expression Technology" (D. Goeddel編)
【文献】Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos編、1987, Cold Spring Harbor Laboratory)
【文献】Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker編, Academic Press, London, 1987)
【文献】Handbook Of Experimental Immunology、I~IV巻(D. M. Weir and C. C. Blackwell編, 1986)
【文献】Manipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., 1986)
【文献】Donnelly et al., J. of General Virology 82: 1013~1025 (2001)
【文献】Donnelly et al., J. of Gen. Virology 78: 13~21 (1997)
【文献】Doronina et al., Mol. And. Cell. Biology 28 (13): 4227~4239 (2008)
【文献】Atkins et al., RNA 13 :803~810(2007)
【文献】Liu et al., Cell 66: 807~815, 1 1
【文献】Henderson et al., Immun. 73: 316~321, 1991
【文献】Bierer et al., Citrr. Opin. mm n. 5: 763~773, 93
【文献】Coffin, J. M., Retro viridae: The viruses and their replication、In Fundamental Virology、Third Edition、B. N. Fields, et al. ed. Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996
【文献】Kranz et al. (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78, 5807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明では本発明者らは、現在の免疫療法戦略の制限を克服し、非アロ反応性および免疫抑制薬への耐性の両方であるようにする遺伝的に改変されたT細胞の産生を達成した。これは、TCRアルファまたはTCRベータに対して方向付けられた特異的TALE-ヌクレアーゼを使用する遺伝子不活性化と共に、さまざまな免疫抑制薬、具体的にはCD52およびGRについての標的をコードしている遺伝子の不活性化によって可能にされた。
【0014】
具体的には、同種ドナー由来のTリンパ球中でのCD52またはグルココルチコイド受容体の不活性化を伴うTCRアルファまたはTCRベータの不活性化は、(MHC不同性の認識に関与する)TCRを排除することによってGVHDの危険性を顕著に低減し、一方アレムツズマブまたはグルココルチコイドステロイドなどの免疫抑制剤の存在下で導入されたリンパ球の増殖および活性を許容し、これらの細胞の拒絶を予防する。したがってこれらの改変された同種T細胞は、それらが腫瘍細胞または感染細胞を標的化できる患者の血液中でのさらに効率的な増殖が期待される。
【0015】
非アロ反応性および免疫抑制耐性の両方である可能性がある遺伝的に改変されたT細胞の上の構想に加えて、本発明者らは、特異的TALE-ヌクレアーゼの使用および設計によって、T細胞中のこれらのさまざまな遺伝子を同時に不活性化し、それにより二重変異体を得た。実際にはDSBによる二重遺伝子標的化は、培養物中で長期的にT細胞を得る工程および維持する工程の困難さ、それらの低い形質転換率、および選択手順の際の損失のために、いまのところT細胞では達成されていない。これらの困難は、そのような細胞を順調に得る確率の低さを生じる。
【0016】
したがって本発明の1つの重要な部分は、特異的TALE-ヌクレアーゼを設計したことであり、T細胞内での高率でのDSB事象を可能にし、細胞によって十分許容され(特に同時形質移入において)、本発明による遺伝子の選択を標的化することを可能にする。本明細書に記載のTALE-ヌクレアーゼなどの低頻度切断エンドヌクレアーゼを使用する工程によって、形質移入されたT細胞で遺伝子の二重不活性化を得る確率は顕著に増大しており、習慣的に標準的手段を用いてドナーから入手できる操作されたT細胞を産生することが可能であることは、いまや明らかである。
【0017】
付加的に本発明は、TCRアルファが不活性化された場合にT細胞が増殖できるように操作されている実施形態を提案する。TCRサブユニット不活性化を受けているT細胞に伴う重要な問題は、細胞がもはやCD3複合体を通じて増殖できないことである。この問題を克服するために本発明者らは、TCRアルファがCD3複合体を通じて不活性化されているT細胞を、細胞中でのプレTアルファの発現によって、したがって機能性アルファ/ベータTCRの不在下で機能性CD3複合体を回復させることによって増殖させる手段を実際に提供する。
【0018】
最終的にT細胞は、MHC非依存性に腫瘍関連抗原に方向付けられた同種細胞特異性に再び方向付けするためにCARでさらに形質転換される。具体的には本発明は、共刺激ドメインがそれらの機能を改善するためにそれらの通常の膜近傍位置に置かれており、操作されたT細胞の生存を増強し、増殖を増大する多重鎖CARに関する。結果として本発明は、養子免疫療法のための同種T細胞の効率的な形質転換およびCD3複合体を通じたそれらの容易な増殖を可能にする方法、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一態様では本発明は、T細胞、具体的にはドナーから得られる同種T細胞を免疫療法の目的のために好適であるように操作する方法を開示する。本発明の方法は、がんおよび/またはウイルス感染の治療のためにMHC認識およびまたは免疫抑制剤の標的化に関与する遺伝子を不活性化または置き換える工程によって、免疫療法に関連する細胞のゲノムの正確な改変をより詳細には可能にする。特定の実施形態では免疫療法に関連する改変された細胞は、特異的細胞認識のためのCARをコードしている外来性組換えポリヌクレオチドをさらに含む。本CARは、シグナリングドメインの連続的付加を必要とする単一の融合分子である。シグナリングドメインをそれらの本来の膜近傍位置から移動する工程は、それらの機能を干渉する場合がある。したがってこの難点を克服するために本発明者らは、すべての関連するシグナリングドメインの通常の膜近傍位置付けを可能にするようなFcεRI由来の多重鎖CARを設計する。FcεRIアルファ鎖の高親和性IgE結合ドメインは、T細胞特異性を細胞標的に再び方向付けるようにscFvなどの細胞外リガンド結合ドメインによって置き換えられており、FcεRIベータ鎖のNおよび/またはC末端尾部は、通常の膜近傍位置中に共刺激シグナルを位置付けるために使用される。
【0020】
別の態様では、TCRアルファが不活性化されているT細胞の活性化または刺激を促進するために、pTアルファまたはその機能性変種が操作されたT細胞に導入される。使用されるpTアルファまたはその機能性変種は、全長pTアルファ、スプライス変種(Saint-Ruf, Lechner et al. 1998)、プレTCR細胞表面発現を増加させることが示されているC末端切断バージョン(Carrasco, Ramiro et al. 2001)のいずれであってもよい。記載されたものより小さなまたは大きな他の追加的切断物も使用できる。さまざまなプレTアルファバージョンは、増殖および生存を促進するために他の分子(CD28、CD137、CD8、TCRアルファなど)由来のシグナリング成分をさらに含む場合があり、マウスにおいて以前記載された(Yamasaki, Ishikawa et al. 2006)D22A、R24A、R102AもしくはR117A変異などの二量体化するその能力に影響を与える変異を、またはヒトにおいて記載された(Pang, Berry et al. 2010)W46R変異を増殖潜在力を減少させるために含む場合がある。CARのscFv部分は、pTアルファまたはその機能性変種の細胞外ドメインにも融合されてもよく、それにより標的抗原に対する特異性をプレTCRの増殖活性と直接連動させる。
【0021】
別の態様では本発明は、目的の上の遺伝子、具体的にはTCRアルファ、TCRベータ、GRおよびCD52を正確に標的化し、それにより免疫療法のためのT細胞の遺伝的改変を可能にする、低頻度切断エンドヌクレアーゼをコードするポリペプチドおよびポリヌクレオチドに関する。本発明は、これらの遺伝子内の特異的標的配列およびこれらの遺伝子をそれぞれ標的化するように設計されたTALE-ヌクレアーゼをさらに具体的には提供する。
【0022】
本発明は、本明細書に記載のタンパク質、ポリペプチドまたはベクターのいずれかを含む単離された細胞または細胞株にも関する。特定の実施形態では本発明のT細胞は、不活性化されたTCRアルファ、TCRベータ、GRまたはCD52遺伝子を免疫療法におけるそれらの使用のために含む。本発明の単離された細胞または細胞株は、外来性組換えポリヌクレオチド、具体的にはpTアルファもしくはその機能性変種、CARまたは多重鎖CARをコードしているポリヌクレオチドをさらに含む場合がある。
【0023】
好ましい実施形態では改変されたT細胞は、治療用産生物として、理想的には「既製の(off the shelf)」産生物として使用される。
【0024】
別の態様では本発明は、上の方法によって得ることができる操作されたT細胞を投与する工程によって患者におけるがんまたは感染を治療するまたは予防するための方法に関する。
【0025】
図および表の簡単な記載
先行する特性に加えて本発明は、続く記載および添付の図から明らかになる他の特性をさらに含む。本発明のさらに完全な理解およびそれに付随する多数の有利点は、下の詳細な記載と共に次の図を参照することによって同物がさらに理解されることによって容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】T細胞と抗原提示細胞との間の通常の関係の模式図である。
【
図2】本発明による遺伝的に改変された治療用T細胞および患者の腫瘍細胞の模式図である。
【
図4-1】多重鎖CARのさまざまなバージョンの模式図である。Aは、FcεRI受容体の模式図である。Bは、FcεRIアルファ鎖の膜貫通ドメインに融合されたscFvおよびCD8ストーク領域を含む多重鎖CAR(csm1からcsm4)のさまざまなバージョン。41BB、CD28および/またはCD3ゼータドメインの少なくとも1つは、FcεRIアルファ、ベータおよび/またはガンマ鎖に融合される場合がある。
【
図4-2】多重鎖CARのさまざまなバージョンの模式図である。Cは、FcεRIアルファ鎖の膜貫通ドメインに融合されたscFvおよびCD8ストーク領域を含む多重鎖CAR(csm5からcsm10)のさまざまなバージョン。41BB、CD28および/またはCD3ゼータドメインの少なくとも1つは、FcεRIアルファ、ベータおよび/またはガンマ鎖に融合される場合がある。
【
図5】免疫療法のためのヒト同種細胞を操作するための方法の一例の模式図である。
【
図6】補体または対照を伴う抗CD52抗体(CAMPATH1-H)での処置後のCD52陽性またはCD52陰性の生細胞の1ミリリットルあたりの細胞濃度を示すグラフである。
【
図7】TCR陽性とTCR陰性の細胞との間、またはCD52陽性とCD52陰性の細胞との間および対照としての非活性化細胞でのフォワード側散乱(forward side scatter)(FSC)分布(細胞サイズの指標)の比較を示す図である。
【
図8-1】標的化されたCD52およびTCRアルファ不活性化T細胞でのCD107a発現(脱顆粒のマーカー)のフローサイトメトリー分析を示す図である。CD107発現は、CD52+TCRαβ+細胞(第1カラム)、CD52-TCRαβ-細胞(第2カラム)、CD52-TCRαβ+細胞(第3カラム)およびCD52+TCRαβ-細胞(第4カラム)でダウディ細胞とのインキュベーションの前(A)および後(B)に分析された。C)は、CARでさらに形質移入され、ダウディ細胞とインキュベートされたT細胞のフローサイトメトリー分析を表す。
【
図8-2】標的化されたCD52およびTCRアルファ不活性化T細胞でのCD107a発現(脱顆粒のマーカー)のフローサイトメトリー分析を示す図である。D)は、CARで形質移入されたがダウディ細胞とインキュベートされていないT細胞のフローサイトメトリー分析を表す。E)は、CARで形質移入され、PMA/イオノマイシンで処置されたT細胞のフローサイトメトリー分析を表す(陽性対照)。
【
図9A】CD52およびTRAC TALE-ヌクレアーゼ潜在的部位外標的のディープ配列決定分析を示す表である。
【
図9B】CD52およびTRAC TALE-ヌクレアーゼ潜在的部位外標的のディープ配列決定分析を示す表である。
【
図10】T7-エンドヌクレアーゼアッセイによるPDCD1およびCTLA-4ゲノム遺伝子座の分析を示す図である。矢印は消化されたPCR産生物を指す。
【
図11】プレTアルファ構築物のいくつかの例の模式図である。
【
図12】TCRアルファ不活性化ジャーカット(Jurkat)細胞における伝達効率(%BFP+細胞)およびFL、Δ18、Δ48pTアルファ構築物の活性(%CD3表面発現)のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図13】pTアルファタンパク質(プレTCRα)をコードするレンチウイルス構築物の模式図を示す図である。
【
図14B】BFP-2A-pTアルファΔ48(ΚΟ/Δ48)または対照BFPレンチウイルスベクター(KO/BFP)のいずれかで形質導入されたTCRアルファ不活性化T細胞(KO)での精製前後でのTCRアルファ/ベータ、CD3発現およびBFP発現のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図14C】BFP-2A-pTアルファΔ48レンチウイルスベクターで形質導入された(BFPpos)またはされていない(BFPneg)精製されたTCRアルファ不活性化細胞でのTCRアルファ/ベータおよびCD3発現のフローサイトメトリー分析を示す図である。NEPはTRAC TALE-ヌクレアーゼで電気穿孔されていない細胞を表す。
【
図15-1】非電気穿孔細胞(NEP)およびBFP-2A-pTa-Δ48レンチウイルスベクター(pΤα-Δ48)、BFP-2A-pTa-Δ48.41BBレンチウイルスベクター(pΤα-Δ48.ΒΒ)または対照BFPベクター(BFP)で形質導入されたTCRアルファ不活性化細胞(KO)それぞれでの抗CD3/CD28ビーズでの、再活性化の24および48時間後の初期活性化マーカーCD69(A)および後期活性化マーカーCD25(B)の発現のフローサイトメトリー分析を示す図である。pΤα-Δ48ヒストグラムは、pΤα-Δ48を発現しているTCR不活性化細胞(BFP+細胞)において検出されたシグナルに対応し、一方KOヒストグラムは、pΤα-Δ48を発現していないTCRアルファ不活性化細胞(BFP-細胞)に対応する。pΤα-Δ48.ΒΒヒストグラムは、pΤα-Δ48.41ΒΒを発現しているTCR不活性化細胞(BFP+細胞)において検出されたシグナルに対応するが、KOヒストグラムはpΤα-Δ48.41ΒΒを発現していないTCRアルファ不活性化細胞(BFP-細胞)に対応する。NEP(非電気穿孔(non electroporated))ヒストグラムは、操作されていない細胞において検出されたシグナルに対応する。
【
図15-2】非電気穿孔細胞(NEP)およびBFP-2A-pΤα-Δ48レンチウイルスベクター(pΤα-Δ48)、BFP-2A-pTα-Δ48.41BBレンチウイルスベクター(pΤα-Δ48.ΒΒ)または対照BFPベクター(BFP)で形質導入したTCRアルファ不活性化細胞(KO)での抗CD3/CD28ビーズでの再活性化の72時間後の細胞のサイズのフローサイトメトリー分析を示す図である。各グラフの上部に示された値は、各集団の蛍光の幾何学的平均に対応する。
【
図16】pTアルファ-Δ48(pTaΔ48)または対照BFPベクター(BFP)で形質導入され、IL2中または抗CD3/CD28ビーズを含むIL2中で維持されたTCRアルファ不活性化細胞(KO)のさまざまな時点(x軸)での細胞増殖分析を示す図である。BFP+細胞数は、各条件についてさまざまな時点で概算され、これらの細胞の誘導の倍数(y軸)は再活性化の2日後に得られた値に関して概算された。結果は、2つの無関係なドナーから得られた。第2ドナーについては、pTアルファ-Δ48.41BB(pTa-Δ48.BB)および全長pTアルファ-(pTa-FL)で形質導入された細胞について細胞増殖も決定された。
【
図17-1】5種の異なるサイトパルス(Cytopulse)プログラムで電気穿孔されたPBMCでのGFP陽性細胞のフローサイトメトリー分析を示す図である。上の行は、キュベット1つあたり細胞6×l0
6個での形質移入に対応し、下の行は、キュベット1つあたり細胞3×10
6個での形質移入に対応する。
【
図17-2】5種の異なるサイトパルス(Cytopulse)プログラムで電気穿孔されたPBMCでのGFP陽性細胞のフローサイトメトリー分析を示す図である。上の行は、キュベット1つあたり細胞6×l0
6個での形質移入に対応し、下の行は、キュベット1つあたり細胞3×10
6個での形質移入に対応する。
【
図18-1】生死判別色素(viability dye)(eFluor-450)を使用する精製されたT細胞死率の、ならびにGFP mRNA、GFP DNAおよび対照pUC DNAでの電気穿孔後の生存集団中でのGFP陽性細胞のフローサイトメトリー分析の図である。NEPは電気穿孔法緩衝液において維持されたが電気穿孔されていない細胞に対応し、NTは培養培地中で維持された非電気穿孔細胞に対応する。
【
図18-2】生死判別色素(viability dye)(eFluor-450)を使用する精製されたT細胞死率の、ならびにGFP mRNA、GFP DNAおよび対照pUC DNAでの電気穿孔後の生存集団中でのGFP陽性細胞のフローサイトメトリー分析の図である。NEPは電気穿孔法緩衝液において維持されたが電気穿孔されていない細胞に対応し、NTは培養培地中で維持された非電気穿孔細胞に対応する。
【
図19】TRAC TALE-ヌクレアーゼmRNA電気穿孔後のヒト初代T細胞でのTCRアルファ/ベータおよびCD3発現のフローサイトメトリー分析を示す図である(上)。TRAC TALE-ヌクレアーゼmRNA電気穿孔後にヒト初代T細胞から抽出したゲノムDNAのディープ配列決定分析を示す図である(下)。
【
図20】Aは、単一鎖CARをコードしているmRNAを伴うまたは伴わないT細胞の電気穿孔後のCAR発現(抗F(ab')2)のフローサイトメトリー分析を示す図である。Bは、ダウディ細胞と同時培養された電気穿孔されたT細胞でのCD107a発現(脱顆粒のマーカー)のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図21】Aは、多重鎖CARをコードしているmRNAを示す図である。Bは、多重鎖CARをコードしているポリシストロニックmRNAで電気穿孔されたまたはされていないT生細胞でのCAR発現(抗F(ab')2)のフローサイトメトリー分析を示す図である。Cは、ダウディ細胞と同時培養され電気穿孔されたT細胞でのCD107a発現(脱顆粒のマーカー)のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
Table1(表1):GR TALE-ヌクレアーゼの記載およびヒトGR遺伝子中のTALE-ヌクレアーゼ標的部位の配列。
【0028】
Table2(表2):酵母中のGR TALE-ヌクレアーゼの切断活性。値は、0から1の間を含む。最大値は1である。
【0029】
Table3(表3):293細胞における内在性TALE-ヌクレアーゼ標的部位での標的化変異導入の百分率。
【0030】
Table4(表4):初代Tリンパ球における内在性TALE-ヌクレアーゼ標的部位での標的化変異導入の百分率。
【0031】
Table5(表5):CD52、TRACおよびTRBC TALE-ヌクレアーゼの記載ならびにヒトの対応する遺伝子におけるTALE-ヌクレアーゼ標的部位の配列。
【0032】
Table6(表6): TRACおよびCD52TALE-ヌクレアーゼについての追加的標的配列。
【0033】
Table7(表7):CD52_T02、TRAC_T01、TRBC_T01およびTRBC_T02標的を標的化しているTALE-ヌクレアーゼについての挿入欠失の百分率。
【0034】
Table8(表8):対応するTALE-ヌクレアーゼ発現ポリヌクレオチドの形質移入後のCD52陰性、TCR陰性およびCD52/TCR二重陰性Tリンパ球の百分率。
【0035】
Table9(表9):TRBC TALE-ヌクレアーゼ発現ポリヌクレオチドの形質移入後のTCR陰性Tリンパ球の百分率。
【0036】
Table10(表10):CTLA4およびPDCD1 TALE-ヌクレアーゼの記載ならびにヒトの対応する遺伝子におけるTALE-ヌクレアーゼ標的部位の配列。
【0037】
Table11(表11):pTアルファ構築物のサブセットの記載。
【0038】
Table12(表12):ジャーカットTCRアルファ不活性化細胞におけるさまざまなpTアルファ構築物の活性。活性は、さまざまなプレTアルファ構築物で形質移入されたジャーカットTCRアルファ不活性化細胞でのCD3発現のフローサイトメトリー分析によって測定された。
【0039】
Table13(表13):PBMC由来T細胞における電気穿孔のために必要な最小電圧を決定するために使用されたさまざまなサイトパルスプログラム。
【0040】
Table14(表14):精製されたT細胞を電気穿孔するために使用したサイトパルスプログラム。
【0041】
本発明の詳細な記載
本明細書で特に定義する場合を除いて、使用されるすべての技術的および科学的用語は、遺伝子治療、生化学、遺伝学および分子生物学の分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。
【0042】
本明細書に記載のものと類似のまたは等価のすべての方法および材料は、本明細書に記載の好適な方法および材料と共に本発明の実行または検査において使用できる。本明細書で述べるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法および例は単に例示的であり、他に特定する場合を除いて限定することを意図しない。
【0043】
本発明の実施は、他に示す場合を除いて、当業者の技能の範囲内である細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の従来技術を使用する。そのような技術は、文献において完全に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M.AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc、Library of Congress, USA); Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Third Edition, (Sambrook et al, 2001, Cold Spring Harbor、New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait編, 1984); Mullis et al. 米国特許第4,683,195号; Nucleic Acid Hybridization (B. D. Harries & S. J. Higgins編、1984); Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins編, 1984); Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987); Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); Methods In ENZYMOLOGY (主編者J. Abelson and M. Simon, Academic Press, Inc., New York)シリーズ、具体的には154および155巻(Wuら編)ならびに185巻、"Gene Expression Technology"(D.Goeddel編); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos編, 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker編, Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, I~IV巻(D. M. Weir and C. C. Blackwell編, 1986); ならびにManipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., 1986)を参照されたい。
【0044】
一般的態様では本発明は、がんおよび感染を治療する新規の養子免疫療法戦略のための方法に関する。
【0045】
非アロ反応性および免疫抑制耐性T細胞:
具体的な態様では本発明は、特に免疫療法のための、T細胞を操作する方法に関する。具体的には本方法は、
(a)少なくとも
- 免疫抑制薬に対する標的を発現している第1の遺伝子、および
- T細胞受容体(TCR)の構成成分をコードしている第2の遺伝子
を不活性化することによってT細胞を改変する工程
(b)前記細胞を(場合により前記免疫抑制薬の存在下で)増殖させる工程、
を含む。
【0046】
免疫抑制薬は、作用のいくつかの機序のうちの1つによって免疫機能を抑制する薬物である。言い換えると免疫抑制薬は、免疫応答の程度および/または正確さを減退させる能力によって示される化合物によって行われる役割である。非限定的例として免疫抑制薬は、カルシニューリン阻害剤、ラパマイシンの標的、インターロイキン-2α鎖遮断剤、イノシン一リン酸脱水素酵素の阻害剤、ジヒドロ葉酸還元酵素の阻害剤、副腎皮質ステロイドまたは免疫抑制代謝拮抗薬であってよい。古典的な細胞傷害性免疫抑制物質はDNA合成を阻害する工程によって作用する。他は、T細胞の活性化を通じてまたはヘルパー細胞の活性化を阻害する工程によって作用する場合がある。本発明による方法は、T細胞における免疫抑制薬の標的を不活性化することによって、免疫療法のためのT細胞に免疫抑制耐性を付与できる。非限定的例として免疫抑制薬に対する標的は、CD52、グルココルチコイド受容体(GR)、FKBPファミリー遺伝子メンバーおよびシクロフィリンファミリー遺伝子メンバーなどの免疫抑制薬に対する受容体であってよい。
【0047】
具体的な実施形態では、方法の遺伝子改変工程は、CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される1つの遺伝子の不活性化に依存する。別の実施形態では、方法の遺伝的改変工程は、CD52およびGR、CD52およびTCRアルファ、CDR52およびTCRベータ、GRおよびTCRアルファ、GRおよびTCRベータ、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される2つの遺伝子の不活性化に依存する。別の実施形態では、方法の遺伝的改変工程は、2つより多い遺伝子の不活性化に依存する。遺伝子改変は、ex-vivoで好ましくは行われる。
【0048】
遺伝子を不活性化する工程によって、目的の遺伝子が機能性タンパク質の形態で発現されないことが意図される。具体的な実施形態では、方法の遺伝子改変は、(操作するために提供される細胞中での)1つの低頻度切断エンドヌクレアーゼの発現に依存し、前記低頻度切断エンドヌクレアーゼは、1つの標的化遺伝子での切断を特異的に触媒し、それにより前記標的化遺伝子を不活性化する。低頻度切断エンドヌクレアーゼによって生じる核酸鎖ブレークは、相同組換えまたは非相同末端結合(nonhomologous end joining)(NHEJ)の別々の機序を通じて通常修復される。しかしNHEJは、切断部位のDNA配列にしばしば変化を生じる不完全な修復プロセスである。機序は、2つのDNA末端の残存物の、直接の再ライゲーションを通じた(Critchlow and Jackson 1998)またはいわゆるマイクロホモロジー媒介末端結合を介した(Ma, Kim et al. 2003)再結合を含む。非相同末端結合(NHEJ)を介した修復は、小さな挿入または欠失をしばしば生じ、特異的遺伝子ノックアウトの作出のために使用できる。前記改変は、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、欠失または付加であってよい。切断誘導変異導入事象(すなわち変異導入事象がNHEJ事象に連続している)が生じた細胞は、当技術分野において十分周知の方法によって同定および/または選択できる。具体的な実施形態では細胞を操作するための前記方法は、
(a)好ましくは細胞培養由来または血液試料由来のT細胞を用意する工程、
(b)免疫抑制薬に対する標的を発現している前記T細胞中の遺伝子を選択する工程、
(c)前記T細胞に
- 前記免疫抑制薬に対する標的をコードしている前記遺伝子、および
- T細胞受容体(TCR)の構成成分をコードしている少なくとも1つの遺伝子
をそれぞれDNA切断によって、好ましくは二本鎖ブレークによって選択的に不活性化できる低頻度切断エンドヌクレアーゼを導入する工程、
(d)前記細胞を(場合により前記免疫抑制薬の存在下で)増殖させる工程
の少なくとも1つを含む。
【0049】
より好ましい実施形態では、前記方法は、
(a)好ましくは細胞培養由来または血液試料由来のT細胞を用意する工程、
(b)免疫抑制薬に対する標的を発現している前記T細胞中の遺伝子を選択する工程、
(c)前記T細胞を
- 前記免疫抑制薬に対する標的をコードしている前記遺伝子、および
- T細胞受容体(TCR)の構成成分をコードしている少なくとも1つの遺伝子
をそれぞれDNA切断によって、好ましくは二本鎖ブレークによって選択的に不活性化できる低頻度切断エンドヌクレアーゼをコードしている核酸で形質転換する工程、
(d)前記T細胞で前記低頻度切断エンドヌクレアーゼを発現させる工程、
(e)それらの細胞表面上にTCRを発現していない形質転換されたT細胞を選別する工程、
(f)前記細胞を(場合により前記免疫抑制薬の存在下で)増殖させる工程
を含む。
【0050】
具体的な実施形態では前記低頻度切断エンドヌクレアーゼは、CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される1つの遺伝子を特異的に標的化する。別の実施形態では方法の遺伝子改変は、操作される提供された細胞における2つの低頻度切断エンドヌクレアーゼ発現に依存し、前記2つの各低頻度切断エンドヌクレアーゼは、CD52およびGR、CD52およびTCRアルファ、CDR52およびTCRベータ、GRおよびTCRアルファ、GRおよびTCRベータ、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される遺伝子の対のそれぞれにおいて切断を特異的にそれぞれ触媒し、それにより前記標的化遺伝子を不活性化する。別の実施形態では、2つより多い遺伝子を標的化および/または不活性化するために操作される細胞において、2つより多い低頻度切断エンドヌクレアーゼが発現される場合がある。
【0051】
別の実施形態では、免疫抑制処置に特異的な工程(b)の前記遺伝子はCD52であり、工程(d)または(e)の免疫抑制処置はCD52抗原を標的化するヒト化抗体を含む。
【0052】
別の実施形態では、免疫抑制処置に特異的な工程(b)の前記遺伝子は、グルココルチコイド受容体(glucocorticoid receptor)(GR)であり、工程d)または(e)の免疫抑制処置はデキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイドを含む。
【0053】
別の実施形態では、免疫抑制処置に特異的な工程(b)の前記標的遺伝子は、FKBPファミリー遺伝子メンバーまたはその変種であり、工程(d)または(e)の免疫抑制処置はタクロリムスまたはフジマイシンとしても周知のFK506を含む。別の実施形態では、前記FKBPファミリー遺伝子メンバーはFKBP12またはその変種である。
【0054】
別の実施形態では、免疫抑制処置に特異的な工程(b)の前記遺伝子は、シクロフィリンファミリー遺伝子メンバーまたはその変種であり、工程(d)または(e)の免疫抑制処置はシクロスポリンを含む。
【0055】
別の実施形態では前記低頻度切断エンドヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼ、亜鉛フィンガーヌクレアーゼまたはTALE-ヌクレアーゼであってよい。好ましい実施形態では前記低頻度切断エンドヌクレアーゼは、TALE-ヌクレアーゼである。TALE-ヌクレアーゼによって、転写活性化因子様エフェクター(Transcription Activator Like Effector)(TALE)由来DNA結合ドメインおよび核酸標的配列を切断するための1つのヌクレアーゼ触媒ドメインからなる融合タンパク質が意図される。(Boch, Scholze et al. 2009; Moscou and Bogdanove 2009)(Deng, Yan et al. 2012; Mak, Bradley et al. 2012)(Christian, Cermak et al. 2010; Cermak, Doyle et al. 2011; Geissler, Scholze et al. 2011; Huang, Xiao et al. 2011; Li, Huang et al. 2011; Mahfouz, Li et al. 2011; Miller, Tan et al. 2011; Morbitzer, Romer et al. 2011; Mussolino, Morbitzer et al. 2011; Sander, Cade et al. 2011; Tesson, Usal et al. 2011; Weber, Gruetzner et al. 2011; Zhang, Cong et al. 2011; Li, Piatek et al. 2012; Mahfouz, Li et al. 2012)本発明では新規TALE-ヌクレアーゼは、養子免疫療法戦略に関連する遺伝子を正確に標的化するように設計されている。
【0056】
本発明による好ましいTALE-ヌクレアーゼは、
- 配列番号1から6(GR)、
- 配列番号37、57から60(TCRアルファ)、
- 配列番号38または39(TCRベータ)、および
- 配列番号40、61から65(CD52)
からなる群から選択される標的配列を認識および切断するものである。
【0057】
前記TALE-ヌクレアーゼは、配列番号7から配列番号18および配列番号41から配列番号48から選択されるポリペプチド配列を、それぞれの標的配列、配列番号1から6および配列番号37から40を切断するために好ましくは含む。
【0058】
別の実施形態では追加的触媒ドメインは、標的化遺伝子を不活性化するそれらの能力を増強するための変異導入を増加させるために、前記低頻度切断エンドヌクレアーゼを含む細胞にさらに導入される場合がある。具体的には前記追加的触媒ドメインは、DNA末端プロセシング酵素である。DNA末端プロセシング酵素の非限定的例は、5-3'エキソヌクレアーゼ、3-5'エキソヌクレアーゼ、5-3'アルカリエキソヌクレアーゼ、5'フラップエンドヌクレアーゼ、ヘリカーゼ、ホスファターゼ、ヒドロラーゼおよび鋳型非依存性DNAポリメラーゼを含む。そのような触媒ドメインの非限定的例は、タンパク質ドメインまたは、hExoI(EX01_ヒト)、酵母ExoI(EX01_酵母)、大腸菌(E.coli)ExoI、ヒトTREX2、マウスTREX1、ヒトTREX1、ウシTREX1、ラットTREX1、TdT(末端デオキシヌクレオチジル転移酵素)ヒトDNA2、酵母DNA2(DNA2_YEAST)からなる群から選択されるタンパク質ドメインまたはタンパク質ドメインの触媒活性誘導体を含む。好ましい実施形態では前記追加的触媒ドメインは、3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を有し、より好ましい実施形態では前記追加的触媒ドメインはTREXであり、さらに好ましくはTREX2触媒ドメインである(WO2012/058458)。別の好ましい実施形態では前記触媒ドメインは、一本鎖TREKポリペプチド中によってコードされている。前記追加的触媒ドメインは、本発明によるヌクレアーゼ融合タンパク質またはキメラタンパク質に(場合によりペプチドリンカーによって)融合されていてよい。
【0059】
エンドヌクレオチドブレークは、相同組換えの速度を促進することが周知である。したがって別の実施形態では方法の遺伝的改変工程は、相同組換えが標的核酸配列と外来性核酸との間に生じるように、標的核酸配列の一部に相同性の配列を少なくとも含む外来性核酸を細胞に導入する工程をさらに含む。具体的な実施形態では前記外来性核酸は、標的核酸配列の5'および3'領域にそれぞれ相同性である第1および第2の部分を含む。これらの実施形態における前記外来性核酸は第1と第2の部分の間に位置付けられた第3の部分(標的核酸配列の5'および3'領域に相同性を有さない)も含む。標的核酸配列の切断に続いて、相同組換え事象が、標的核酸配列と外来性核酸との間で促進される。好ましくは少なくとも50bp、好ましくは100bpを超えるおよびより好ましくは200bpを超える相同性配列が前記ドナーマトリクス内で使用される。したがって外来性核酸は、好ましくは200bpから6000bp、より好ましくは1000bpから2000bpである。実際に、共有される核酸相同性はブレークの部位の上流および下流に隣接する領域中に位置付けられ、導入される核酸配列は2つの腕の間に位置付けられるべきである。
【0060】
具体的には前記外来性核酸は、前記切断の配列上流に相同性の第1の領域、CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される1つの標的化遺伝子を不活性化する配列ならびに切断の配列下流に相同の第2領域を連続的に含む。前記ポリヌクレオチド導入工程は、前記低頻度切断エンドヌクレアーゼの導入または発現と同時、前または後であってよい。ブレーク事象が生じた標的核酸配列の位置に依存して、そのような外来性核酸は、遺伝子をノックアウトするために(例えば外来性核酸が前記遺伝子の翻訳領域内に位置付けられる場合)または新規配列もしくは目的の遺伝子を導入するために使用できる。そのような外来性核酸を使用する工程による配列挿入は、(前記遺伝子の補正もしくは再配置(非限定的例として対立遺伝子交換)によって)標的化された既存の遺伝子を改変するために、または標的化遺伝子の発現、前記標的化遺伝子の補正もしくは再配置を上方もしくは下方制御(非限定的例としてプロモーター交換)するために使用できる。好ましい実施形態ではCD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群由来の遺伝子の不活性化は、特異的TALE-ヌクレアーゼによって標的化された正確なゲノム位置で行うことができ、前記特異的TALE-ヌクレアーゼは切断を触媒し、前記外来性核酸は相同組換えによって組み込まれているCD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される1つの標的化遺伝子を不活性化するための少なくとも相同領域および配列を連続的に含む。別の実施形態ではいくつかの遺伝子は、いくつかのTALE-ヌクレアーゼをそれぞれ使用する工程、ならびに特定の遺伝子不活性化のために1つの規定の遺伝子およびいくつかの特異的ポリヌクレオチドを特異的に標的化する工程によって連続的にまたは同時に不活性化できる。
【0061】
追加的ゲノム改変工程によって、CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される別の遺伝子の不活性化も意図できる。上に述べたとおり、前記追加的ゲノム改変工程は、
(a)前記低頻度切断エンドヌクレアーゼが前記細胞のゲノムの1つの標的化配列において特異的に切断を触媒するように、前記細胞に少なくとも1つの低頻度切断エンドヌクレアーゼを導入する工程、
(b)場合により前記細胞に、前記切断の上流にある配列に対して相同性を有する第1の領域、前記細胞のゲノムに挿入された配列および前記切断の下流にある配列に対して相同性を有する第2の領域を連続的に含む外来性核酸を導入する工程であって、
前記導入される外来性核酸が遺伝子を不活性化し、目的の少なくとも1つの組換えタンパク質をコードしている少なくとも1つの外来性ポリヌクレオチド配列を組み込む工程を含む不活性化工程であってよい。別の実施形態では前記外来性ポリヌクレオチド配列は、CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される遺伝子内に組み込まれる。
【0062】
具体的な実施形態では細胞を操作する前記方法は、追加的ゲノム改変工程をさらに含む。追加的ゲノム改変工程は、目的の1つのタンパク質を操作するための細胞への導入を意図する場合がある。目的の前記タンパク質は、本開示に記載のとおり非限定的例としてpTアルファもしくはその機能性変種、キメラ抗原受容体(CAR)、多重鎖CAR、二特異性抗体または低頻度切断エンドヌクレアーゼ標的化PDCD1もしくはCTLA-4であってよい。
【0063】
本発明は、TALE-ヌクレアーゼにも関する。本発明は一般に:
(a)CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される遺伝子内の標的配列に結合するように操作された転写活性化因子様エフェクター(TALE)DNA結合ドメイン;
(b)切断ドメインまたは切断ハーフドメイン
を含むTALE-ヌクレアーゼに関する。
【0064】
本発明による好ましいTALE-ヌクレアーゼは:
- 配列番号1から6(GR)、
- 配列番号37、57から60(TCRアルファ)、
- 配列番号38または39(TCRベータ)、および
- 配列番号40、61から65(CD52)
からなる群から選択される標的配列を認識および切断するものである。
【0065】
前記TALE-ヌクレアーゼは、それぞれの標的配列、配列番号1から6および配列番号37から40を切断するために、配列番号7から配列番号18および配列番号41から配列番号48から選択されるポリペプチド配列を好ましくは含む。
【0066】
いくらかの多様性がこれらのポリペプチドが由来するゲノムデータから生じ、活性の顕著な損失を伴うことなくこれらのポリペプチド中に存在するいくつかのアミノ酸を置換する可能性(機能性変種)も考慮することから、本発明は本特許出願において提供される配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%およびさらにより好ましくは少なくとも95%の同一性を共有する上のポリペプチドのポリペプチド変種を包含する。
【0067】
したがって本発明は、配列番号7から配列番号18および配列番号41から配列番号48からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%または99%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドに描かれる。
【0068】
本発明の範囲に同様に含まれるのは、上に記載の本発明による低頻度切断エンドヌクレアーゼをコードしているポリヌクレオチド、ベクターである。
【0069】
本発明の範囲には、CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子が不活性化されている細胞、具体的にはT細胞を操作するための前記方法によって容易に得られる単離された細胞または細胞株も包含される。好ましくはCD52およびGR、CD52およびTCRアルファ、CDR52およびTCRベータ、GRおよびTCRアルファ、GRおよびTCRベータ、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される2つの遺伝子は、不活性化されている。
【0070】
本発明によりこれらの遺伝子は、少なくとも1つの低頻度切断エンドヌクレアーゼによって好ましくは不活性化される。TALE-ヌクレアーゼの使用は、T細胞における二重不活性化を達成するために特に有利であることが本発明者らによって示されている。本発明は、少なくとも2つのポリヌクレオチドを含む単離されたT細胞を包含しており、前記ポリヌクレオチドは少なくとも第1および第2のTALE-ヌクレアーゼをコードしている(好ましくは第1のTALE-ヌクレアーゼはTCRをコードしている遺伝子に対して方向付けられており、第2のTALE-ヌクレアーゼはCD52またはGRなどの免疫抑制薬に対する受容体をコードしている遺伝子に対して方向付けられている)。
【0071】
別の実施形態では前記単離された細胞は、1つの追加的ゲノム改変をさらに含む。別の実施形態では前記追加的ゲノム改変は、少なくとも1つの外来性ポリヌクレオチド配列の組み込みである。別の実施形態では前記外来性配列は、CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される1つの遺伝子に組み込まれる。
【0072】
プレTアルファ
別の態様では本発明は、前記T細胞pTアルファ(プレTCRαとも称される)またはその機能性変種に導入する工程および前記細胞を(場合によりCD3複合体の刺激を通じて)増殖させる工程を含む、TCRアルファ欠損T細胞を増殖させる方法に関する。好ましい実施形態では方法は、
a)CD3表面発現を支持するためにpTアルファの断片を少なくともコードしている核酸で前記細胞を形質転換する工程、
b)前記細胞で前記pTアルファを発現させる工程、
c)場合により前記細胞を(場合によりCD3複合体の刺激を通じて)増殖させる工程
を含む。
【0073】
本発明は、T細胞を増殖させるための方法の工程を含む、免疫療法のためのT細胞を調製するための方法にも関する。
【0074】
具体的な実施形態ではpTアルファポリヌクレオチド配列は、無作為にまたは相同組換えを通じて導入できる(具体的には挿入はTCRアルファ遺伝子の不活性化に関連してよい)。
【0075】
本発明により、pTアルファのさまざまな機能性変種が使用される。ペプチドの「機能性変種」は、ペプチド全体またはその断片のいずれかに実質的に類似している分子を指す。本発明のpTアルファまたはその機能性変種の「断片」は、分子の(短いペプチドである)任意のサブセットを指す。好ましいpTアルファまたは機能性変種は、全長pTアルファまたはC末端切断型pTアルファバージョンであってよい。C末端切断型pTアルファは、C末端の1つまたは複数の残基を欠いている。非限定的例としてC末端切断型pTアルファバージョンは、タンパク質のC末端から18、48、62、78、92、110または114残基を欠いている(配列番号107から配列番号114)。さらにペプチドのアミノ酸配列変種は、ペプチドをコードしているDNA中の変異によって調製できる。そのような機能性変種は、例えばアミノ酸配列内の残基からの欠失、挿入または置換を含む。任意の組合せの欠失、挿入および置換も最終構築物が所望の活性(具体的には機能性CD3複合体の回復)を有する限り最終構築物に到達するために作製できる。好ましい実施形態では少なくとも1つの変異が二量体化に影響を与えるように上に記載のさまざまなpTアルファバージョンに導入できる。非限定的例として変異される残基は、ヒトpTアルファタンパク質の少なくともW46R、D22A、K24A、R102AもしくはR117AまたはpTアルファファミリーもしくは相同体メンバー上でCLUSTALW方法を使用して配列比較した位置であってよい。好ましくはpTアルファまたは上に記載のその変種は、変異された残基W46R(配列番号123)または変異された残基D22A、K24A、R102AおよびR117A(配列番号124)を含む。具体的な実施形態では前記pTアルファまたは変種は、非限定的例としてCD28、OX40、ICOS、CD27、CD137(4-1BB)およびCD8などのシグナル伝達ドメインにも融合される(配列番号115から配列番号120)。pTアルファまたは上に記載の変種の細胞外ドメインは、TCRアルファタンパク質の断片に、具体的にはTCRアルファの膜貫通および細胞内ドメインに融合できる(配列番号122)。pTアルファ変種は、TCRアルファの細胞内ドメインにも融合できる(配列番号121)。
【0076】
別の実施形態では前記pTアルファバージョンは、細胞外リガンド結合ドメインに融合され、より好ましくはpTアルファまたはその機能性変種は、可動性リンカーによって繋がれた標的抗原特異的モノクローナル抗体の軽(VL)および重(VH)可変断片を含む一本鎖抗体断片(scFV)に融合される。非限定的例としてpTアルファまたはその機能性変種のアミノ酸配列は、配列番号107から配列番号124からなる群から選択される。
【0077】
いくらかの多様性がこれらのポリペプチドが由来するゲノムデータから生じ、活性の顕著な損失を伴うことなくこれらのポリペプチド中に存在するいくつかのアミノ酸を置換する可能性(機能性変種)も考慮することから、本発明は本特許出願において提供される配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%およびさらにより好ましくは少なくとも95%の同一性を共有する上のポリペプチドのポリペプチド変種を包含する。
【0078】
したがって本発明は、配列番号107から配列番号124からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%または99%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドに描かれる。
【0079】
TCRアルファ欠損T細胞によって機能性TCRアルファ鎖の発現を欠いている単離されたT細胞が意図される。これは、さまざまな手段によって達成できる、非限定的例として、細胞表面上にいかなる機能性TCRアルファも発現しないようにT細胞を操作する工程による、またはその表面上に非常に少量の機能性TCRアルファ鎖を産生するようにT細胞を操作する工程によるまたはTCRアルファ鎖の変異されたまたは切断された形態を発現するようにT細胞を操作する工程による。
【0080】
TCRアルファ欠損細胞は、もはやCD3複合体を通じては増殖できない。したがってこの問題を克服するためにおよびTCRアルファ欠損細胞の増殖を可能にするために、pTアルファまたはその機能性変種を前記細胞に導入し、それにより機能性CD3複合体を回復させる。好ましい実施形態では方法は、前記T細胞に、DNA切断によってT細胞受容体(TCR)の1つの構成成分をコードしている1つの遺伝子を選択的に不活性化できる低頻度切断エンドヌクレアーゼを導入する工程をさらに含む。具体的な実施形態では前記低頻度切断エンドヌクレアーゼは、TALE-ヌクレアーゼである。非限定的例として、TALE-ヌクレアーゼは、配列番号37および配列番号57から60からなる群から選択されるTCRアルファの遺伝子標的配列の1つに対して方向付けられている。好ましくはTALE-ヌクレアーゼは配列番号41および配列番号42からなる群から選択される。
【0081】
具体的な実施形態では、TCRアルファ欠損T細胞の増殖のための前記方法は、追加的ゲノム改変工程を含む。追加的ゲノム改変工程によって、目的の1つのタンパク質を操作するための細胞への導入が意図される場合がある。前記目的のタンパク質は、非限定的例として、キメラ抗原受容体(CAR)、具体的には配列番号73のアミノ酸配列を含むCAR、多重鎖CAR、具体的には配列番号125のアミノ酸配列を含む多重鎖CAR、二特異性抗体、PDCDlもしくはCTLA-4を標的化する、具体的には配列番号74から配列番号78の核酸配列を標的化する低頻度切断エンドヌクレアーゼ、または本開示に記載の免疫抑制薬のための標的を標的化する低頻度切断エンドヌクレアーゼであってよい。
【0082】
本発明に同様に包含されるのは、pTアルファ、具体的には上に記載の機能性変種をコードしているポリペプチドである。好ましい実施形態では本発明は、CD28、OX40、ICOS、CD137およびCD8などのシグナル伝達ドメインに融合されたpTアルファまたはその機能性変種に関する。より具体的には本発明は、配列番号107から配列番号124からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むpTアルファ機能性変種に関する。本発明に同様に包含されるのは、pTアルファまたは上に記載のその機能性変種をコードしているポリヌクレオチド、ベクターである。
【0083】
本発明の範囲には、前記方法により容易に得られる単離された細胞または細胞株も包含される。具体的には前記単離された細胞または細胞株は、CD3表面発現を支持するためにpTアルファまたはその機能性変種を前記細胞に導入する工程によって得られる。好ましい実施形態では前記単離された細胞または細胞株は、TCRアルファ遺伝子を不活性化することによってさらに遺伝的に改変される。この遺伝子は、少なくとも1つの低頻度切断エンドヌクレアーゼによって好ましくは不活性化される。好ましい実施形態では前記低頻度切断エンドヌクレアーゼは、TALE-ヌクレアーゼである。
【0084】
多重鎖キメラ抗原受容体(CAR)
別の実施形態では本発明は、多重鎖キメラ抗原受容体(CAR)(具体的には本発明の操作されたT細胞の産生および増殖に適合された)に関する。多重鎖CARは次の構成成分:
a)FcεRIアルファ鎖の膜貫通ドメインおよび細胞外リガンド結合ドメインを含む1つのポリペプチド、
b)FcεRIベータ鎖のNおよびC末端細胞質側尾部の一部および膜貫通ドメインを含む1つのポリペプチド、ならびに/または
c)FcsRIガンマ鎖の細胞質内尾部および膜貫通ドメインそれぞれの一部を含む2つのポリペプチド
の少なくとも2つを含み、それによりさまざまなポリペプチドが二量体、三量体または四量体CARを形成するように自発的に合わせて多量体化する。
【0085】
四量体CARの一例は
図3に例示されている。多重鎖CARのさまざまなバージョンは
図4に表されている。多重鎖CARの一例は、配列番号125のアミノ酸配列を含む。本明細書で使用される用語「一部」は、短いペプチドである分子の任意のサブセットを指す。代替的にポリペプチドのアミノ酸配列機能性変種は、ポリペプチドをコードしているDNA中の変異によって調製できる。そのような機能性変種は、例えばアミノ酸配列内の残基からの欠失、挿入または置換を含む。任意の組合せの欠失、挿入および置換も最終構築物が所望の活性を有する(特に特異的な抗標的細胞性免疫活性を示す)限り最終構築物に到達するために作製できる。
【0086】
好ましい実施形態では前記細胞外リガンド結合ドメインはscFvである。scFv以外の結合ドメインもリンパ球の予め定義された標的化のために使用できる、非限定的例としてラクダ単一ドメイン抗体断片または血管内皮増殖因子ポリペプチドなどの受容体リガンド、インテグリン結合ペプチド、ヘレグリンまたはIL-13ムテイン、抗体結合ドメイン、抗体高頻度可変性ループまたはCDRなど。
【0087】
好ましい実施形態ではa)の前記ポリペプチドは、前記細胞外リガンド結合ドメインと前記膜貫通ドメインとの間のストーク領域をさらに含む。本明細書で使用する用語「ストーク領域」は、膜貫通ドメインを細胞外リガンド結合ドメインに連結するように機能する任意のオリゴまたはポリペプチドを一般に意味する。具体的にはストーク領域は、さらなる可動性および到達性を細胞外リガンド結合ドメインに提供するために使用される。ストーク領域は、300アミノ酸まで、好ましくは10から100アミノ酸および最も好ましくは25から50アミノ酸を含む場合がある。ストーク領域は、CD8、CD4もしくはCD28の細胞外領域の全体または一部由来、または抗体定常領域の全体もしくは一部由来などの天然に存在する分子の全体または一部由来であってよい。代替的にストーク領域は、天然に存在するストーク配列に対応する合成配列であってよく、または完全な合成ストーク配列であってよい。
【0088】
好ましい実施形態では、a)、b)および/またはc)の前記ポリペプチドは、少なくとも1つのシグナル伝達ドメインをさらに含む。最も好ましい実施形態では前記シグナル伝達ドメインは、CD28、OX40、ICOS、CD137およびCD8からなる群から選択される。
【0089】
好ましい実施形態ではFcεRIアルファ、ベータおよび/またはガンマ鎖断片の前記C末端細胞質側尾部は、TNFR関連因子2(TRAF2)結合モチーフをさらに含む。最も好ましい実施形態ではFcεRIアルファ、ベータおよび/またはガンマ鎖の前記C末端細胞質側末端尾部は、共刺激TNFRメンバーファミリーの細胞質内尾部によって置き換えられている。共刺激TNFRファミリーメンバーの細胞質側尾部は、主要保存モチーフ(P/S/A)X(Q/E)E)または非主要モチーフ(PXQXXD)(式中Xは任意のアミノ酸である)からなるTRAF2結合モチーフを含有する。TRAFタンパク質は、受容体三量体化に応答して多数のTNFRの細胞内尾部に動員される。
【0090】
別の好ましい実施形態ではFcεRIアルファ、ベータおよび/またはガンマ鎖の前記細胞質内ドメインは、TCRゼータ鎖(CD3ゼータとも称される)の細胞質内ドメインによって置き換えられる。別の好ましい実施形態ではFcεRIアルファ、ベータおよび/またはガンマ鎖の前記細胞質内ドメインは、少なくとも1つの追加的免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)を含む。ITAMは、種々の受容体の細胞質内尾部において見出され、syk/zap70クラスチロシンキナーゼに対する結合部位として作用する十分に明らかにされたシグナリングモチーフである。本発明において使用されるITAMの例は、TCRゼータ、FCRガンマ、FCRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79bおよびCD66d由来のものを含む。
【0091】
非限定的例として多重鎖CARのさまざまなバージョンを
図4に例示する。
【0092】
好ましい実施形態では多重鎖CARは、配列番号125のアミノ酸配列を含む。本発明は、配列番号125からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%または99%配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドに関する。
【0093】
本発明の範囲に含まれるのは、上に記載の本発明による多重鎖CARをコードしているポリヌクレオチド、ベクターである。
【0094】
包含される具体的な実施形態では本発明は、前記T細胞に前記多重鎖CARを構成するさまざまなポリペプチドを導入する工程および前記細胞を増殖させる工程を含む、免疫療法のためのT細胞を調製する方法に関する。
【0095】
別の実施形態では前記方法は、TCRの1つの構成成分および/または免疫抑制薬に対する標的を発現している少なくとも1つの遺伝子を不活性化することによって前記細胞を遺伝的に改変する工程をさらに含む。好ましい実施形態では前記遺伝子は、TCRアルファ、TCRベータ、CD52およびGRからなる群から選択される。好ましい実施形態では前記方法は、DNA切断によって前記遺伝子を選択的に不活性化できる低頻度切断エンドヌクレアーゼを前記T細胞に導入する工程をさらに含む。より好ましい実施形態では前記低頻度切断エンドヌクレアーゼは、TALE-ヌクレアーゼである。本発明による好ましいTALE-ヌクレアーゼは:配列番号1から6(GR)、配列番号37、57から60(TCRアルファ)、配列番号38または39(TCRベータ)、および配列番号40、配列番号61から配列番号65(CD52)からなる群から選択される標的配列を認識および切断するものである。
【0096】
具体的な実施形態では前記方法は、追加的ゲノム改変工程をさらに含む。追加的ゲノム改変工程によって、目的のタンパク質の1つを操作するための細胞への導入が意図される場合がある。目的の前記タンパク質は、非限定的例として本開示に記載のとおり二特異性抗体、PDCDlまたはCTLA-4、pTアルファを標的化する低頻度切断エンドヌクレアーゼまたはその機能性変種であってよい。
【0097】
本発明は、細胞を操作するための前記方法によって容易に得られる単離された細胞または細胞株にも関する。具体的には前記単離された細胞は、前記多重鎖CARを構成するポリペプチドをコードしている外来性ポリヌクレオチド配列を含む。
【0098】
不活性化PDCDlまたはCTLA4 T細胞
治療用抗腫瘍免疫を活性化するための1つの別の手法は、免疫チェックポイントの遮断である。免疫応答は、刺激および阻害のシグナルの均衡によって制御されている。免疫チェックポイントタンパク質の発現は、腫瘍によって制御不全にされる場合があり、重要な免疫耐性機序である可能性がある。T細胞機能の負の制御因子は、CTLA-4(T細胞活性化およびPDCD1としても周知のプログラム死-1(programmed death-1)(PD1)の経路を下方制御する鍵となる負の制御分子)、膜貫通受容体(活性化されたT細胞上で上方制御されており、そのリガンド(プログラム死リガンド-1、PD-L1)に結合した場合にサイトカイン産生およびT細胞の増殖の減少を導く)(Pardoll 2012)などの分子を含む。したがって阻害シグナルのアンタゴニストは抗原特異的T細胞応答の増幅を生じる。
【0099】
したがって本発明は、免疫チェックポイントに関与する少なくとも1つのタンパク質、具体的にはPDCD1および/またはCTLA-4を不活性化することによってT細胞を遺伝的に改変する工程を含む、(特に免疫療法のための)T細胞を操作するための方法に関する。
【0100】
具体的な実施形態では方法は、
(a)T細胞を用意する工程、
(b)DNA切断によってPDCD1遺伝子またはCTLA-4遺伝子を選択的に不活性化できる低頻度切断エンドヌクレアーゼを前記T細胞に導入する工程、および
(c)前記細胞を増殖させる工程
の1つを含む。
【0101】
好ましい実施形態では前記低頻度切断エンドヌクレアーゼは、TALE-ヌクレアーゼである。本発明では新規TALE-ヌクレアーゼは、養子免疫療法戦略に関連する遺伝子を正確に標的化するように設計されている。本発明による好ましいTALE-ヌクレアーゼは、配列番号77および配列番号78(PDCD-1)、配列番号74から配列番号76(CTLA-4)からなる群から選択される標的配列を認識および切断するものである。本発明は、配列番号79から配列番号88からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTALE-ヌクレアーゼポリペプチドにも関する。
【0102】
本発明は、配列番号79から配列番号88からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%または99%配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドにも関する。本発明の範囲に同様に含まれるのは、上に記載の本発明による低頻度切断エンドヌクレアーゼをコードしているポリヌクレオチド、ベクターである。この方法は、本開示に記載のさまざまな方法の任意の1つに関連する場合がある。
【0103】
二特異性抗体
さらなる実施形態により、既に記載のさまざまな方法によって得られた操作されたT細胞は、二特異性抗体にさらに曝露される場合がある。前記T細胞は、患者への投与の前にex vivoでまたは患者への投与に続いてin vivoで二特異性抗体に曝露される場合がある。前記二特異性抗体は、操作された細胞を標的抗原の近傍に運ぶことができる別々の抗原特性を有する2つの可変領域を含む。非限定的例として前記二特異性抗体は、腫瘍マーカーおよび、CD3などのリンパ球抗原に対して方向付けられており、任意の循環T細胞を腫瘍に対して再方向付けるおよび活性化する可能性を有する。
【0104】
送達方法
上に記載のさまざまな方法は、pTアルファまたはその機能性変種、低頻度切断エンドヌクレアーゼ、TALE-ヌクレアーゼ、CARまたは多重鎖CARを(場合によりDNA末端プロセシング酵素または外来性核酸を伴うと共に)細胞に導入する工程を含む。
【0105】
非限定的例として、前記pTアルファまたはその機能性変種、低頻度切断エンドヌクレアーゼ、TALE-ヌクレアーゼ、CARまたは多重鎖CAR場合によりDNA末端プロセシング酵素または外来性核酸は、1つまたはさまざまなプラスミド性ベクターによってコードされている導入遺伝子として導入されてよい。さまざまな導入遺伝子は、2Aペプチドをコードしている配列などのリボソームスキップ配列をコードしている核酸配列を含む1つのベクター中に含まれる場合がある。2Aペプチド(ピコルナウイルスのアフタウイルスサブグループにおいて同定された)は、コドンによってコードされた2つのアミノ酸の間にペプチド結合を形成することなく1つのコドンから次へのリボソーム「スキップ」を生じる(Donnelly et al., J. of General Virology 82: 1013~1025 (2001); Donnelly et al., J. of Gen. Virology 78: 13~21 (1997); Doronina et al., Mol. And.Cell. Biology 28 (13): 4227~4239 (2008); Atkins et al., RNA 13: 803~810 (2007)を参照されたい)。「コドン」によって意味されるのは、リボソームによって1つのアミノ酸残基に翻訳されるmRNA上(またはDNA分子のセンス鎖上)の3つのヌクレオチドである。したがって2つのポリペプチドは、インフレームである2Aオリゴペプチド配列によってポリペプチドが分離される場合に、mRNA内の単一の、近接翻訳領域から合成できる。そのようなリボソームスキップ機序は、当技術分野において十分周知であり、単一のメッセンジャーRNAによってコードされているいくつかのタンパク質の発現のためのいくつかのベクターによって使用されることが周知である。非限定的例として本発明においては、低頻度切断エンドヌクレアーゼおよびDNA末端プロセシング酵素または多重鎖CARのさまざまなポリペプチドを細胞に発現するために2Aペプチドが使用されている。
【0106】
前記プラスミドベクターは、前記ベクターを受け入れている細胞の同定および/または選択のために提供される選択マーカーを含有する場合がある。
【0107】
ポリペプチドは、前記ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの細胞への導入の結果として細胞中で原位置で合成されてよい。代替的に前記ポリペプチドは、細胞の外側で産生され、次いでその中に導入されてよい。ポリヌクレオチド構築物を動物細胞に導入するための方法は、当技術分野において周知であり、非限定的例として、(ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノムに組み込まれている)安定形質転換方法、(ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノムに組み込まれていない)一過性形質転換方法およびウイルス介在性の方法を含む。前記ポリヌクレオチドは、例えば組換えウイルス性ベクター(例えばレトロウイルス、アデノウイルス)、リポソームなどによって細胞に導入されてよい。例えば一過性形質転換方法は、例えば微量注入、電気穿孔法または微粒子銃を含む。前記ポリヌクレオチドは、細胞において発現されることを考慮して、ベクター、さらに具体的にはプラスミドまたはウイルスに含まれてもよい。
【0108】
- 電気穿孔法
本発明のより好ましい実施形態、本発明によるポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドは、例えば電気穿孔法によって細胞に直接導入されるmRNAであってよい。本発明者らは、T細胞におけるmRNA電気穿孔法のための最適な条件を決定した。
【0109】
本発明者は、パルス電場の使用によって、細胞への材料の送達のために生細胞を一過性に透過性にすることができるサイトパルス技術を使用した。PulseAgile(Cellectis property)電気穿孔法波形の使用に基づく技術は、パルス持続時間、強度およびパルス間の間隔の正確な調節を与える(米国特許第6,010,613号および国際PCT出願第WO2004083379号)。これらすべてのパラメーターは、最小の死亡率を有する高い形質移入効率のための最高の条件に達するために変更できる。基本的には、最初の高電場パルスはポア形成を可能にする一方で、続く低電場パルスはポリヌクレオチドを細胞に移動させる。本発明の一態様では本発明者らは、T細胞におけるmRNA>95%の形質移入効率を達成する工程およびT細胞においてさまざまな種類のタンパク質を一過性に発現するための電気穿孔プロトコールの使用を記載する。具体的には本発明は、前記T細胞をRNAに接触させる工程および:
(a)1センチメートルあたり2250から3000Vの電圧範囲、0.1msのパルス幅ならびに工程(a)および(b)の電気パルス間に0.2から10msのパルス間隔を有する1回の電気パルス;
(b)2250から3000Vの電圧範囲、100msのパルス幅および工程(b)の電気パルスと工程(c)の最初の電気パルス間に100msのパルス間隔を有する1回の電気パルス;ならびに
(c)325Vの電圧、0.2msのパルス幅および4回の各電気パルス間に2msのパルス間隔を有する4回の電気パルス
からなるアジャイルパルス(agile pulse)シーケンスをT細胞に適用する工程を含むT細胞を形質転換する方法に関する。
【0110】
具体的な実施形態ではT細胞を形質転換する方法は、前記T細胞をRNAに接触させる工程および:
(a)1センチメートルあたり2250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2400、2450、2500、2600、2700、2800、2900または3000Vの電圧、0.1msのパルス幅および工程(a)と(b)との電気パルスの間に0.2、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10msのパルス間隔を有する1回の電気パルス;
(b) 2250から2250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2400、2450、2500、2600、2700、2800、2900または3000Vの電圧範囲、100msのパルス幅および工程(b)の電気パルスと工程(c)の最初の電気パルスとの間に100msのパルス間隔を有する1回の電気パルス;ならびに
(c)325Vの電圧、0.2msのパルス幅および4回の各電気パルスの間に2msのパルス間隔を有する4回の電気パルス
からなるアジャイルパルスシーケンスをT細胞に適用する工程を含む。
【0111】
上に記載の値の範囲に含まれる任意の値は、本出願において開示される。電気穿孔法媒体は、当技術分野において周知の任意の好適な媒体であってよい。好ましくは電気穿孔法媒体は、0.01から1.0ミリシーメンスにわたる範囲において伝導性を有する。
【0112】
具体的な実施形態では、非限定的例として前記RNAは、低頻度切断エンドヌクレアーゼ、ハーフテール(Half-TALE)ヌクレアーゼなどの低頻度切断エンドヌクレアーゼの1つの単量体、キメラ抗原受容体、多重鎖キメラ抗原受容体の少なくとも1つの構成成分、pTアルファまたはその機能性変種、外来性核酸、1つの追加的触媒ドメインをコードする。
【0113】
T細胞の活性化および増殖
T細胞の遺伝的改変の前または後に関わらず、T細胞は、例えば米国特許第6,352,694号; 第6,534,055号; 第6,905,680号; 第6,692,964号; 第5,858,358号; 第6,887,466号; 第6,905,681号; 第7,144,575号; 第7,067,318号; 第7,172,869号; 第7,232,566号; 第7,175,843号; 第5,883,223号; 第6,905,874号; 第6,797,514号; 第6,867,041号; および米国特許出願公開第20060121005号に記載の方法を使用して一般に活性化および増殖させることができる。T細胞はin vitroまたはin vivoで増殖させることができる。
【0114】
一般に本発明のT細胞は、CD3TCR複合体関連シグナルを刺激する薬物およびT細胞表面上の共刺激分子を刺激するリガンドが付着している表面とのその接触によって増殖される。
【0115】
具体的にはT細胞集団は、抗CD3抗体もしくはその抗原結合断片または表面に固定された抗CD2抗体との接触によって、あるいはカルシウムイオン透過孔と併せてタンパク質キナーゼC活性化因子(例えばブリオスタチン)との接触によってなどでin vitroで刺激される場合がある。T細胞の表面上のアクセサリー分子の共刺激のために、アクセサリー分子に結合するリガンドが使用される。例えばT細胞の集団は、T細胞の増殖を刺激するための適切な条件下で抗CD3抗体および抗CD28抗体と接触させることができる。CD4+T細胞またはCD8+T細胞のいずれかの増殖を刺激するために、抗CD3抗体および抗CD28抗体。例えば各シグナルを与える薬物は、溶液中にあるまたは表面に結合していてよい。当業者が容易に理解できるとおり、粒子の細胞に対する比は、標的細胞と比較した粒子サイズに依存する場合がある。本発明のさらなる実施形態ではT細胞などの細胞は、薬物コートビーズと組合せられ、ビーズおよび細胞は次に分離され、次いで細胞は培養される。代替的実施形態では培養に先立って、薬物コートビーズおよび細胞は分離されずに一緒に培養される。細胞表面タンパク質は、抗CD3および抗CD28が付着している常磁性ビーズ(3×28ビーズ)がT細胞に接触できるようにする工程によってライゲーションされてよい。一実施形態では細胞(例えばT細胞4から10個)およびビーズ(例えば、1:1の比でのDYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T常磁性ビーズ)は緩衝液、好ましくはPBS(カルシウムおよびマグネシウムなどの二価カチオンを含まない)中で合わせられる。再度当業者は、任意の細胞濃度が使用できることを容易に理解できる。混合物は、数時間(約3時間)から約14日間またはその間の任意の整数値の時間培養される場合がある。別の実施形態では混合物は21日間培養されてよい。T細胞培養のために適切な条件は、血清(例えばウシ胎児もしくはヒト血清)、インターロイキン-2(IL-2)、インスリン、IFN-g、1L-4、1L-7、GM-CSF、-10、-2、1L-15、TGFpおよびTNF-または細胞の増殖のための当業者に周知の任意の他の添加物を含む増殖および生存のために必要な因子を含有している適切な培地(例えば、基礎培地もしくはRPMI培地1640またはX-vivo 5、(Lonza))を含む。細胞の増殖のための他の添加物は、これだけに限らないが、サーファクタント、プラズマネート(plasmanate)、およびN-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールなどの還元薬物を含む。培地は、RPMI 1640、A1M-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 1およびX-Vivo 20、最適化剤を添加アミノ酸、ピルビン酸ナトリウムおよびビタミンと共に、血清不含有または適切な量の血清(または血漿)またはホルモンの規定のセットならびに/もしくはT細胞の発達および増殖のために十分な量のサイトカイン(複数可)を補充してのいずれかで含む場合がある。抗生物質(例えばペニシリンおよびストレプトマイシン)は、実験用培地にだけ含まれ、対象に注入される細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、増殖を支持するために必要な条件下、例えば適切な温度(例えば37℃)および雰囲気(例えば5%CO2補充空気)に維持される。さまざまな刺激時期に曝露されるT細胞は異なる特徴を示す場合がある。
【0116】
別の具体的な実施形態では前記細胞は、組織または細胞との同時培養によって増殖される場合がある。前記細胞は、in vivoで(例えば対象への前記細胞の投与後に対象の血液中で)増殖される場合もある。
【0117】
改変T細胞
本発明の範囲には、既に記載のいずれか1つの方法によって得られた単離されたT細胞も包含される。本発明による前記T細胞は、幹細胞に由来する場合がある。幹細胞は、成体幹細胞、胚性幹細胞、さらに具体的には非ヒト幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、人工多能性幹細胞、全能性幹細胞または造血幹細胞であってよい。代表的なヒト細胞は、CD34+細胞である。前記単離された細胞は、樹状細胞、NK細胞、B細胞または、炎症Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球またはヘルパーTリンパ球からなる群から選択されるT細胞であってもよい。別の実施形態では前記細胞は、CD4+Tリンパ球およびCD8+Tリンパ球からなる群に由来する場合がある。本発明の細胞の増殖および遺伝的改変の前に、細胞の供給源は種々の非限定的方法を通じて対象から得ることができる。T細胞は、末梢血単核球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織および腫瘍を含む多数の非限定的供給源から得ることができる。本発明の特定の実施形態では、入手可能で当業者に周知の任意の数のT細胞株が使用できる。別の実施形態では前記細胞は、健康なドナー由来、がんと診断された患者由来または感染を有すると診断された患者由来であってよい。別の実施形態では前記細胞は、異なる表現型特徴を表す混合された細胞の集団の一部である。本発明の範囲には、既に記載の方法に従って形質転換されたT細胞から得られた細胞株も包含される。免疫抑制処置に耐性であり、前述の方法によって容易に得られる改変された細胞は、本発明の範囲に包含される。
【0118】
別の実施形態では本発明による前記単離された細胞は、CD52、GR、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される1つの不活性化遺伝子を含む、ならびに/またはCAR、多重鎖CARおよび/もしくはpTアルファ導入遺伝子を発現する。別の実施形態では本発明による前記単離された細胞は、CD52およびGR、CD52およびTCRアルファ、CDR52およびTCRベータ、GRおよびTCRアルファ、GRおよびTCRベータ、TCRアルファおよびTCRベータからなる群から選択される2つの不活性化遺伝子を含む、ならびに/またはCAR、多重鎖CARおよび/もしくはpTアルファ導入遺伝子を発現する。
【0119】
別の実施形態では、TCRは、TCRアルファ遺伝子および/またはTCRベータ遺伝子(複数可)を不活性化することによって本発明による細胞中で非機能性にされる。上の戦略は、さらに具体的にはGvHDを回避するために使用される。本発明の具体的な態様は、個体由来の改変された細胞を得るための方法であり、前記細胞は、主要組織適合複合体シグナリング経路と無関係に増殖できる。前記方法は、
(a)前記個体から細胞を回収する工程、
(b)TCRアルファまたはTCRベータ遺伝子を不活性化する工程によって前記細胞をex-vivoで遺伝的に改変する工程、
(c)遺伝的に改変されたT細胞をin vitroで前記細胞を増殖させるために適した条件下で培養する工程
を含む。
【0120】
主要組織適合複合体シグナリング経路と無関係に増殖でき、本方法によって容易に得られる改変された細胞は、本発明の範囲に包含される。前記改変された細胞は、本発明の具体的な態様において、宿主対移植片(HvG)拒絶および移植片対宿主病(GvHD)について必要がある患者を治療するために使用でき、したがって本発明の範囲は、宿主対移植片(HvG)拒絶および移植片対宿主病(GvHD)について必要がある患者を治療する方法であって、不活性化されたTCRアルファおよび/またはTCRベータ遺伝子を含む改変された細胞の有効量を前記患者に投与する工程によって前記患者を治療する工程を含む。
【0121】
治療適用
別の実施形態では、さまざまな方法によって得られた単離された細胞または既に記載のとおりの前記単離された細胞由来の細胞株は薬として使用できる。別の実施形態では前記薬は、必要とする患者においてがんまたは感染を治療するために使用できる。別の実施形態では、本発明による前記単離された細胞または前記単離された細胞由来の細胞株は、必要とする患者におけるがんまたはウイルス性感染の治療のための薬の製造において使用できる。
【0122】
別の態様では本発明は、必要とする患者を治療するための方法に依存し、前記方法は次の工程:
(a)既に記載のいずれか1つの方法によって得られるT細胞を用意する工程;
(b)前記形質転換されたT細胞を前記患者に投与する工程、
の少なくとも1つを含む。
【0123】
一実施形態では本発明の前記T細胞は、in vivoでのT細胞増殖にロバストになる場合があり、長期間存続できる場合がある。
【0124】
前記治療は、寛解的、治療的または予防的であってよい。それは、自己免疫療法の一部または同種免疫療法処置の一部のいずれかであってよい。自己によって、患者を治療するために使用される細胞、細胞株または細胞集団が前記患者に由来するまたはヒト白血球抗原(HLA)適合性ドナーに由来することが意味される。同種によって、患者を治療するために使用される細胞または細胞集団が前記患者由来ではなくドナー由来であることが意味される。
【0125】
本発明は、T細胞(典型的にはドナーから得られた)の非アロ反応性細胞への形質転換を可能にすることから同種免疫療法のために特に適している。これは、標準的プロトコールの下で行われ、必要に応じて何度でも再産生できる。生じる改変されたT細胞は、プールされ、一人または数人の患者に投与されてよく、「既製」の産生物として利用できるようになる。
【0126】
開示された方法で使用できる細胞は、前のセクションにおいて記載されている。前記治療は、がん、ウイルス感染、自己免疫障害または移植片対宿主病(GvHD)を有すると診断された患者を治療するために使用できる。治療できるがんは、血管新生していない、または実質的にまだ血管新生していない、および血管新生した腫瘍を含む。がんは、非固形腫瘍(血液腫瘍など、例えば白血病およびリンパ腫)を含んでよく、または固形腫瘍を含んでよい。本発明のCARで治療されるがんの種類は、これだけに限らないが、細胞腫、芽細胞腫および肉腫、ならびにある種の白血病またはリンパ系腫瘍、良性および悪性腫瘍、ならびに悪性病変(例えば肉腫、細胞腫およびメラノーマ)を含む。成体腫瘍/がんおよび小児腫瘍/がんも同様に含まれる。
【0127】
それは、抗体療法、化学療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法、遺伝子治療、ホルモン療法、レーザー光療法および放射線療法から選択されるがんに対する1つまたは複数の療法と組み合わせた治療であってもよい。
【0128】
本発明の好ましい実施形態により前記治療は、免疫抑制処置を受けている患者に投与できる。実際に本発明は、少なくとも1つの免疫抑制薬に(そのような免疫抑制薬に対する受容体をコードしている遺伝子の不活性化によって)耐性にされた細胞または細胞集団に好ましくは依存する。この態様では免疫抑制処置は、患者における本発明によるT細胞の選択および増殖を補助する。
【0129】
本発明による細胞または細胞集団の投与は、エアロゾル吸入、注射、経口摂取、輸血、インプラントまたは移植を含む任意の簡便な手段で実行できる。本明細書に記載の組成物は、皮下的、皮内的、腫瘍内、節内(intranodally)、髄内、筋肉内、静脈内もしくはリンパ内注射または腹腔内で患者に投与できる。一実施形態では本発明の細胞組成物は、静脈内注射によって好ましくは投与される。
【0130】
細胞または細胞集団の投与は、体重1kgあたり細胞104~109個、好ましくは体重1kgあたり細胞105から106個(これらの範囲の細胞数のすべての整数値を含む)の投与からなってよい。細胞または細胞集団は、1回または複数回の投与で投与されてよい。別の実施形態では細胞の前記有効量は、単回投与として投与される。別の実施形態では細胞の前記有効量は、1回投与より多く経時的に投与される。投与の時期は、管理している医師の判断の範囲内であり、患者の臨床状態に依存する。細胞または細胞集団は、血液バンクまたはドナーなどの任意の供給源に由来できる。個体の要求は変化するが、具体的な疾患または状態に対する所与の細胞型の有効量の最適範囲の決定は当業者の技術の範囲内。有効量は、治療的または予防的利益を提供する量を意味する。投与される用量は、レシピエントの年齢、健康および体重、併用治療の種類(ある場合)、治療の頻度および所望の効果の性質に依存する。
【0131】
別の実施形態では細胞またはこれらの細胞を含む組成物の前記有効量は、非経口的に投与される。前記投与は、静脈内投与であってよい。前記投与は、腫瘍内の注射によって直接行われてもよい。
【0132】
本発明の特定の実施形態では細胞は、これだけに限らないが抗ウイルス療法、シドホビルおよびインターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとしても周知)またはMS患者に対するナタリズマブ治療または乾癬患者に対するエファリズマブ治療またはPML患者に対する他の治療などの薬物での治療を含む任意の数の関連する治療方法と併せて(例えば、前、同時または次に)患者に投与される。さらなる実施形態では本発明のT細胞は、化学療法、放射線、免疫抑制薬(シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレートおよびFK506など)、抗体または(CAM PATH、抗CD3抗体もしくは他の抗体療法などの)他の免疫除去(immunoablative)薬物、シトキシン(cytoxin)、フルダリビン(fludaribine)、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカインおよび照射との組合せで使用できる。これらの薬剤は、カルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリン(シクロスポリンおよびFK506)のいずれかを阻害するまたは増殖因子誘導シグナリングのために重要であるp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)(Liu et al., Cell 66: 807~815, 1 1; Henderson et al., Immun. 73: 316~321, 1991; Bierer et al., Citrr. Opin.mm n. 5: 763~773, 93)。さらなる実施形態では本発明の細胞組成物は、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法薬物のいずれかを使用するT細胞除去療法、体外照射放射線療法(XRT)、シクロホスファミドまたはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体と併せて(例えば、前、同時または続いて)患者に投与される。別の実施形態では、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬物(例えばリツキサン)などのB細胞除去療法に続いて投与される。例えば一実施形態では対象は、高用量化学療法での標準的治療に続いて末梢血幹細胞移植を受ける場合がある。特定の実施形態では移植に続いて対象は、本発明の増殖された免疫細胞の注入を受ける。追加的実施形態では増殖された細胞は、手術の前または続いて投与される。本明細書に記載の任意の1つの方法によって得られる前記改変された細胞は、宿主対移植片(HvG)拒絶および移植片対宿主病(GvHD)について必要がある患者を治療するために本発明の具体的な態様において使用でき;したがって本発明の範囲であるのは、不活性化TCRアルファおよび/またはTCRベータ遺伝子を含む改変された細胞の有効量を前記患者に投与する工程によって前記患者を治療する工程を含む、宿主対移植片(HvG)拒絶および移植片対宿主病(GvHD)に対して必要がある患者を治療する方法である。
【0133】
免疫療法のためのヒト同種細胞を操作する方法の例
本発明のより良い理解のために、免疫療法のためのヒト同種細胞を操作する方法の一例を
図5に例示する。方法は、次の工程の1つまたは複数の組合せを含む:
1.細胞培養からまたは個々の患者からの血液試料または血液バンクからT細胞を用意する工程、および抗CD3/C28活性化因子ビーズを使用して前記T細胞を活性化する工程。ビーズは、T細胞の活性化および増殖のために必要である初回および同時刺激シグナルの両方を提供する。
2.a)CD3表面発現を支持し、CD3複合体の刺激を通じた細胞の増殖を可能にするためにpTアルファまたはその機能性変種の導入遺伝子で前記細胞を形質導入する工程。TCR破壊は、TCR複合体を排除することが予測され、アロ反応性(GvHD)を除去するが、CD3シグナリング構成成分の欠損のために同種細胞増殖を変化させる可能性がある。形質導入された細胞は、pTアルファ鎖またはその機能性変種を発現することが予測される。このpTアルファ鎖は、TCRベータ鎖およびCD3シグナリング構成成分と対合し、プレTCR複合体を形成し、それにより機能性CD3複合体を回復させ、不活性化TCRアルファ細胞の活性化または刺激を支持する。T細胞へのpTアルファレンチウイルスベクターでの形質導入は、TCRアルファ不活性化の前または後に実施されてよい。
b)リンパ腫および固形腫瘍を含む種々の悪性病変由来の標的細胞の表面に発現される抗原に対してT細胞を再方向付けできるように多重鎖CARで前記細胞を形質導入する工程。同時刺激ドメインの機能を改善するために本発明者らは、既に記載のFcεRI由来の多重鎖CARを設計した。形質導入は、TCRアルファおよびCD52遺伝子の不活性化の前または後に実施されてよい。
3.非アロ反応性および免疫抑制性耐性のT細胞を操作する工程:
a)細胞の表面由来のTCRを除き、同種のTCRによる宿主組織の外来としての認識を予防し、それによりGvHDを回避するために前記細胞中のTCRアルファを不活性化することは可能である。
b)移植されたT細胞に影響を与えずに移植片拒絶を予防するために前記細胞を免疫抑制処置耐性にするために、免疫抑制薬に対する標的をコードしている1つの遺伝子を不活性化することも可能である。この例では、免疫抑制薬の標的はCD52であり、免疫抑制薬はヒト化モノクローナル抗CD52抗体である。
T細胞内の高率のDSB事象を可能にすることからTALE-ヌクレアーゼの使用は、T細胞における上記二重不活性化を達成するために特に有利であったことが本発明者らによって示された。好ましくは、TCRアルファおよびCD52遺伝子は、T細胞に前記遺伝子を標的化するTALE-ヌクレアーゼをコードしているmRNAを電気穿孔する工程によって不活性化される。高い形質転換率を生じるmRNAを使用する工程は、T細胞に害が少なく、T細胞を操作するプロセスにおいて重要であったことが本発明者らによって見出された。それにより不活性化されたT細胞は、磁性ビーズを使用して選別される。例えばCD52を発現しているT細胞は固体表面への固定によって除去され、不活性化された細胞はカラムを通されるストレスに曝されない。この穏やかな方法は、適正に操作されたT細胞の濃度を増加させる。
4.患者への投与前の操作されたT細胞のin vitroでの、または患者への投与に続くCD3複合体の刺激を通じたin vivoでの増殖。投与工程の前に患者は、CAMPATH1-H、ヒト化モノクローナル抗体抗CD52などの免疫抑制処置に供される。
5.場合により、操作された細胞を標的抗原近傍に運ぶために、前記細胞は患者への投与の前にex vivoで、または患者への投与後にin vivoで二特異性抗体に曝露される。
【0134】
他の定義
- ポリペプチド配列中のアミノ酸残基は、本明細書において1文字表記に従って指定され、例えばQはGlnまたはグルタミン残基を意味し、RはArgまたはアルギニン残基を意味し、DはAspまたはアスパラギン酸残基を意味する。
【0135】
- アミノ酸置換は、1つのアミノ酸残基の別での置き換えを意味する、例えばペプチド配列中のアルギニン残基のグルタミン残基での置き換えはアミノ酸置換である。
【0136】
- ヌクレオチドは、次のとおり指定される:1文字表記がヌクレオチドの塩基を指定するために使用される:aはアデニンであり、tはチミンであり、cはシトシンであり、gはグアニンである。縮重ヌクレオチドについて、rはgまたはa(プリンヌクレオチド)を表し、kはgまたはtを表し、sはgまたはcを表し、wはaまたはtを表し、mはaまたはcを表し、yはtまたはc(ピリミジンヌクレオチド)を表し、dはg、aまたはtを表し、vはg、aまたはcを表し、bはg、tまたはcを表し、hはa、tまたはcを表し、nはg、a、tまたはcを表す。
【0137】
- 本明細書において使用される「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)(PCR)によって生成された断片ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成された断片などのヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドを指す。核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド(DNAおよびRNAなど)もしくは天然に存在するヌクレオチドの類似体(例えば、天然に存在するヌクレオチドの鏡像異性体形態)または両方の組合せである単量体から構成されてよい。改変されたヌクレオチドは、糖成分および/またはピリミジンまたはプリン塩基成分中に変更を有してもよい。糖修飾は、例えば1つまたは複数のヒドロキシル基のハロゲン、アルキル基、アミンおよびアジド基での置き換えを含み、または糖はエーテルまたはエステルとして官能化されてよい。さらに、糖成分全体はアザ糖および炭素環糖類似体などの立体的および電気的に類似している構造で置き換えられてよい。塩基成分における修飾の例は、アルキル化プリンおよびピリミジン、アシル化プリンもしくはピリミジン、または他の十分周知の複素環置換を含む。核酸単量体は、リン酸ジエステル結合またはそのような連結の類似体によって連結されてよい。核酸は一本鎖または二本鎖のいずれであってもよい。
【0138】
- 「前記二本鎖ブレークの上流にある配列に対して相同性を有する第1の領域、前記細胞のゲノムに挿入される配列および前記二本鎖ブレークの下流にある配列に対して相同性を有する第2の領域を連続的に含むポリヌクレオチド」によって、DNA標的の5'および3'領域に原位置で相同性である第1および第2の部分を含むDNA構築物またはマトリクスを意味することが意図される。DNA構築物は、第1と第2の部分との間に位置付けられた、対応するDNA配列に原位置で同じ相同性を含むまたは代替的にDNA標的の5'および3'領域に原位置で相同性を含まない第3部分も含む。DNA標的の切断に続いて、相同組換え事象は、目的の遺伝子座およびこのマトリクス中に含まれる標的化遺伝子を含有するゲノム間で促進され、DNA標的を含有するゲノム配列は、マトリクスの第3部分ならびに前記マトリクスの第1および第2の部分の可変部分によって置き換えられる。
【0139】
- 「DNA標的」、「DNA標的配列」、「標的DNA配列」、「核酸標的配列」、「標的配列」または、「プロセシング部位」によって、本発明による低頻度切断エンドヌクレアーゼによって標的化され、プロセスされる可能性があるポリヌクレオチド配列が意図される。これらの用語は、特異的DNA位置、好ましくは細胞中の遺伝子位置を指すが、プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾンまたはオルガネラ(非限定的例としてミドコンドリアなど)などの遺伝物質の本体とは無関係に存在できる遺伝物質の一部も指す。TALE-ヌクレアーゼ標的の非限定的例として、標的化ゲノム配列は、15bpスペーサーによって分離された2つの17bp長配列(ハーフ標的と称される)から一般になる。各ハーフ標的は、非限定的例としてTable1(表1)、5(表5)、6(表6)および10(表10)に列挙され、EF1-アルファプロモーターまたはT7プロモーターの調節下でプラスミド中にコードされるTALE-ヌクレアーゼの反復によって認識される。核酸標的配列は、前記標的の1本の鎖の配列5'から3'によって定義され、Table1(表1)、5(表5)、6(表6)および10(表10)に示されている。
【0140】
- キメラ抗原受容体(CAR)によって、例えば特異的抗標的細胞性免疫活性を示すキメラタンパク質を生成するために、標的細胞に存在する構成成分に対する結合ドメイン(例えば所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する抗体に基づく特異性)をT細胞受容体活性化細胞内ドメインと組み合わせた分子が意図される。一般にCARは、T細胞抗原受容体複合体ゼータ鎖(scFvFcζ)の細胞内シグナリングドメインに融合された細胞外単鎖抗体(scFvFc)からなり、(T細胞において発現された場合に)モノクローナル抗体の特異性に基づいて抗原認識を再方向付けする能力を有する。本発明において使用されるCARの一例は、CD19抗原に方向付けられたCARであり、非限定的例としてアミノ酸配列、配列番号73を含む場合がある。
【0141】
- 1つまたは複数の「送達ベクター」によって、本発明において必要とされる薬物/化学物質および分子(タンパク質または核酸)を、細胞に接触させるために(すなわち「接触させる工程」)または細胞内または細胞内コンパートメントに送達する(すなわち「導入する工程」)ために本発明において使用できる任意の送達ベクターが意図される。それは、これだけに限らないがリポソーム送達ベクター、ウイルス性送達ベクター、薬剤送達ベクター、化学的担体、ポリマー担体、リポプレックス、ポリプレックス、デンドリマー、マクロバブル(超音波造営剤)、ナノ粒子、乳液または他の適切な移行ベクターを含む。これらの送達ベクターは、分子、化学的、巨大分子(遺伝子、タンパク質)または、プラスミド、Diatosによって開発されたペプチドなどの他のベクターの送達を可能にする。これらの場合送達ベクターは、分子担体である。1つまたは複数の「送達ベクター」によって形質移入を実施するための送達方法も意図される。
【0142】
- 用語1つまたは複数の「ベクター」は、別の核酸をそれが連結されていたところに輸送できる核酸分子を指す。本発明において「ベクター」は、これだけに限らないが、ウイルス性ベクター、プラスミド、RNAベクターまたは、染色体性、非染色体性、半合成もしくは合成核酸からなる直鎖状もしくは環状DNAもしくはRNA分子を含む。好ましいベクターは、自律複製ができる(エピソームベクター)および/またはそれらが連結する核酸の発現ができる(発現ベクター)ものである。多数の好適なベクターは、当業者に周知であり、商業的に入手可能である。
【0143】
ウイルス性ベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えばアデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、(オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルスおよび水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば麻疹およびセンダイウイルス)などの)マイナス鎖RNAウイルス、(ピコルナウイルスおよびアルファウイルスなどの)プラス鎖RNAウイルス、ならびに(アデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルルス1型および2型、エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus)、サイトメガロウイルス)およびポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘およびカナリアポックス)を含む)二本鎖DNAウイルスを含む。他のウイルスは、例えばノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルスおよび肝炎ウイルスを含む。レトロウイルスの例は:トリ白血病肉腫、哺乳類C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスを含む(Coffin, J. M., Retroviridae: The viruses and their replication、In Fundamental Virology, Third Edition, B. N. Fields et al. ed, Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996)。
【0144】
- 「レンチウイルスベクター」によって、それらの比較的大きなパッケージング能力、低減された免疫原性およびさまざまな細胞型に幅広く高効率で安定に形質導入するそれらの能力のために遺伝子送達のために非常に有望であるHIVベースレンチウイルスベクターが意味される。
【0145】
レンチウイルスベクターは、3種(パッケージング、エンベロープおよび移行)またはそれ以上のプラスミドの産生細胞への一過性形質移入後に通常生成される。HIVと同様にレンチウイルスベクターは、ウイルス性表面糖タンパク質と細胞表面の受容体との相互作用を通じて標的細胞に侵入する。侵入の際にウイルス性RNAは、ウイルス性逆転写酵素複合体によって介在される逆転写を受ける。逆転写の産生物は、二本鎖直鎖状ウイルス性DNAであり、感染細胞のDNAへのウイルス性組み込みのための基質である。「組み込みレンチウイルスベクター(またはLV)」は、非限定的例として、標的細胞のゲノムに組み込まれることができるベクターを意味する。反対に「非組み込みレンチウイルスベクター(またはNILV)」は、ウイルスインテグラーゼの作用を通じて標的細胞のゲノムに組み込まれない効率的遺伝子送達ベクターを意味する。
【0146】
- 送達ベクターおよびベクターは、ソノポレーション(sonoporation)または電気穿孔法またはこれらの技術の派生法などの任意の細胞性透過処理技術と併せるおよび組み合わせることができる。
【0147】
- 1つまたは複数の細胞によって、任意の真核生細胞、初代細胞およびin vitro培養のためのこれらの生物由来の細胞株が意図される。
【0148】
- 1つまたは複数の「初代細胞」によって、生体組織(すなわち生検材料)から直接採取された、およびin vitro増殖のために確立された細胞が意図され、非常に少ない集団倍加を経験しており、それにより持続性腫瘍性または人工的不死化細胞株と比較して、それらが由来する主な機能性構成成分および組織の特徴にさらに代表的である。
【0149】
非限定的例として細胞株は、CHO-K1細胞; HEK293細胞; Caco2細胞; U2-OS細胞; NIH 3T3細胞; NSO細胞; SP2細胞; CHO-S細胞; DG44細胞; K-562細胞、U-937細胞; MRC5細胞; IMR90細胞; ジャーカット細胞; HepG2細胞; HeLa細胞; HT-1080細胞; HCT-116細胞; Hu-h7細胞; Huvec細胞; Molt 4細胞からなる群から選択されてよい。
【0150】
これらすべての細胞株は、目的の遺伝子またはタンパク質を産生、発現、定量、検出、研究するための細胞株モデルを提供するために本発明の方法によって改変される場合があり;これらのモデルは研究および産生ならびに非限定的例として化学的、バイオ燃料、治療および農学などの種々の分野において目的の生物学的に活性な分子を選別するために使用される場合がある。
【0151】
- 「変異」によって、ポリヌクレオチド(cDNA、遺伝子)またはポリペプチド配列中の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、20個、25個、30個、40個、50個またはそれ以上のヌクレオチド/アミノ酸の置換、欠失、挿入が意図される。変異は、遺伝子のコード配列またはその制御配列に影響を与えることができる。それは、ゲノム配列の構造またはコードされるmRNAの構造/安定性にも影響を与える場合がある。
【0152】
- 「変種(複数可)」によって、親分子のアミノ酸配列中の少なくとも1つの残基の変異または置き換えによって得られる反復変種、変種、DNA結合変種、TALE-ヌクレアーゼ変種、ポリペプチド変種が意図される。
【0153】
- 「機能性変種」によって、タンパク質またはタンパク質ドメインの触媒活性変異体が意図され;そのような変異体は、その親タンパク質またはタンパク質ドメインと比較して同じ活性または追加的特性、またはより高いもしくは低い活性を有する場合がある
【0154】
- 「遺伝子」によって、染色体にそって直鎖状に配置されたDNAのセグメントからなり、特異的タンパク質またはタンパク質のセグメントをコードする遺伝の基本単位が意味される。遺伝子は、プロモーター、5'非翻訳領域、1つまたは複数のコード配列(エクソン)、場合によりイントロン、3'非翻訳領域を典型的には含む。遺伝子は、ターミネータ、エンハンサーおよび/またはサイレンサーをさらに含む場合がある。
【0155】
- 本明細書において使用される用語「遺伝子座」は、染色体上でのDNA配列の(例えば遺伝子の)特異的物理的位置である。用語「遺伝子座」は、染色体上での低頻度切断エンドヌクレアーゼ標的配列の特異的物理的位置を指す場合もある。そのような遺伝子座は、本発明による低頻度切断エンドヌクレアーゼによって認識および/または切断される標的配列を含む場合がある。本発明の目的の遺伝子座が細胞の遺伝物質(すなわち染色体)の本体に存在する核酸配列を限定しないでなく、(プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾンとしてまたは非限定的例としてミドコンドリアなどのオルガネラ中)前記遺伝物質の本体とは無関係に存在できる遺伝物質の一部も限定しないことは理解される。
【0156】
- 用語「エンドヌクレアーゼ」は、DNAまたはRNA分子中、好ましくはDNA分子中の核酸間の結合の加水分解(切断)を触媒できる任意の野生型または変種酵素を指す。エンドヌクレアーゼは、その配列に無関係のDNAまたはRNA分子を切断しないが、特異的ポリヌクレオチド配列(さらに「標的配列」または「標的部位」と称される)でDNAまたはRNA分子を認識および切断する。エンドヌクレアーゼは、典型的には長さ12塩基対(bp)より長い、より好ましくは14~55bpのポリヌクレオチド認識部位を有する場合に低頻度切断エンドヌクレアーゼとして分類できる。低頻度切断エンドヌクレアーゼは、規定の遺伝子座にDNA二本鎖ブレーク(DNA double-strand break)(DSB)を誘導する工程によってHRを顕著に増加させる(Rouet, Smih et al. 1994; Choulika, Perrin et al. 1995; Pingoud and Silva 2007)。低頻度切断エンドヌクレアーゼは、例えばホーミングエンドヌクレアーゼ(Paques and Duchateau 2007)、操作された亜鉛フィンガードメインとFoklなどの制限酵素の触媒ドメインとの融合から生じるキメラ亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(Zinc-Finger nuclease)(ZFN)(Porteus and Carroll 2005)または化学的エンドヌクレアーゼ(Eisenschmidt, Lanio et al. 2005; Arimondo, Thomas et al. 2006)であってよい。化学的エンドヌクレアーゼでは、化学的またはペプチド性クレーバーは、核酸のポリマーまたは特異的標的配列を認識する別のDNAのいずれかにコンジュゲートされ、それにより特異的配列への切断活性を標的化する。化学的エンドヌクレアーゼは、オルソフェナントロリン、DNA切断分子および(特異的DNA配列に結合することが周知である)三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)のコンジュゲートなどの合成ヌクレアーゼも包含する(Kalish and Glazer 2005)。そのような化学的エンドヌクレアーゼは、本発明による用語「エンドヌクレアーゼ」に含まれる。
【0157】
低頻度切断エンドヌクレアーゼは、例えばTALE-ヌクレアーゼであってよく、FokI触媒ドメインおよび、転写活性化因子様エファクター(TALE)(キサントモナス属(Xanthomonas genus)の植物病原体による感染プロセスにおいて使用されるタンパク質のファミリー)由来のDNA結合ドメインを使用するキメラヌクレアーゼの新しい種類であってもよい(Boch, Scholze et al. 2009; Moscou and Bogdanove 2009; Christian, Cermak et al. 2010; Li, Huang et al.)。FokIベースTALE-ヌクレアーゼ(TALE-ヌクレアーゼ)の機能性レイアウトは、本質的にZFNのものであり、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインはTALEドメインによって置き換えられている。このようにTALE-ヌクレアーゼによるDNA切断は非特異的中心領域に隣接する2つのDNA認識領域を必要とする。本発明に包含される低頻度切断エンドヌクレアーゼは、TALE-ヌクレアーゼに由来する場合もある。
【0158】
低頻度切断エンドヌクレアーゼは、(メガヌクレアーゼの名称でも周知である)ホーミングエンドヌクレアーゼであってよい。そのようなホーミングエンドヌクレアーゼは、当技術分野において十分周知である(Stoddard 2005)。ホーミングエンドヌクレアーゼは、DNA標的配列を認識し、一本鎖または二本鎖ブレークを生成する。ホーミングエンドヌクレアーゼは、高度に特異的であり、長さ12から45塩基対(bp)の範囲、通常長さ14から40bpの範囲のDNA標的部位を認識する。本発明によるホーミングエンドヌクレアーゼは、例えばLAGLIDADGエンドヌクレアーゼに、HNHエンドヌクレアーゼに、またはGIY-YIGエンドヌクレアーゼに対応する場合がある。本発明による好ましいホーミングエンドヌクレアーゼは、I-CreI変種であってよい。
【0159】
- 「TALE-ヌクレアーゼ」(TALEN)によって、核酸結合ドメイン(典型的には転写活性化因子様エフェクター(TALE)由来)および核酸標的配列を切断するための1つのヌクレアーゼ触媒ドメインからなる融合タンパク質が意図される。触媒ドメインは好ましくはヌクレアーゼドメインであり、より好ましくはエンドヌクレアーゼ活性を有するドメイン(例えばI-TevI、ColE7、NucAおよびFok-Iなど)である。具体的な実施形態ではTALEドメインは、メガヌクレアーゼなど(例えばI-CreIおよびI-OnuIまたはその機能性変種)に融合される場合がある。より好ましい実施形態では前記ヌクレアーゼは、単量体TALE-ヌクレアーゼである。単量体TALE-ヌクレアーゼは、特異的認識および切断のために(操作されたTAL反復とWO2012138927に記載のI-TevIの触媒ドメインとの融合などの)二量体化を必要としないTALE-ヌクレアーゼである。転写活性化因子様エフェクター(TALE)は、複数の反復配列(各反復は核酸標的化配列の各ヌクレオチド塩基に特異的である2残基を位置12および13(RVD)に含む)を含む細菌種キサントモナス由来のタンパク質である。類似のモジュラー塩基対塩基核酸結合特性(MBBBD)を有する結合ドメインは、異なる細菌種において出願者によって近年発見された新規モジュラータンパク質に由来してもよい。新規モジュラータンパク質は、TAL反復よりもさらに配列多様性を示す有利点を有する。好ましくは、さまざまなヌクレオチドの認識に関連するRVDは、Cを認識するためにはHDであり、Tを認識するためにはNGであり、Aを認識するためにはNIであり、GまたはAを認識するためにはNNであり、A、C、GまたはTを認識するためにはNSであり、Tを認識するためにはHGであり、Tを認識するためにはIGであり、Gを認識するためにはNKであり、Cを認識するためにはHAであり、Cを認識するためにはNDであり、Cを認識するためにはHIであり、Gを認識するためにはHNであり、Gを認識するためにはNAであり、GまたはAを認識するためにはSNでありおよびTを認識するためにはYGであり、Aを認識するためにはTLであり、AまたはGを認識するためにはVTでありおよびAを認識するためにはSWである。別の実施形態では重要なアミノ酸12および13は、ヌクレオチドA、T、CおよびGに対するそれらの特異性を調節するために、具体的にはこの特異性を増強するために他のアミノ酸残基に変異されてもよい。TALE-ヌクレアーゼは、既に記載されており、遺伝子標的化および遺伝子修飾を促すために使用されている(Boch, Scholze et al. 2009; Moscou and Bogdanove 2009; Christian、Cermak et al. 2010; Li, Huang et al.)。操作されたTAL-ヌクレアーゼは、商標TALEN(商標)(Cellectis, 8 rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France)で商業的に入手可能である。
【0160】
- 用語「切断」は、ポリヌクレオチドの共有結合性骨格のブレークを指す。切断は、これだけに限らないが、リン酸ジエステル結合の酵素的または化学的加水分解を含む種々の方法によって開始される場合がある。一本鎖切断および二本鎖切断の両方が可能であり、2本鎖切断は2つの別々の一本鎖切断事象から生じる場合もある。二本鎖DNA、RNAまたはDNA/RNAハイブリッド切断は、平滑末端または粘着末端(staggered end)のいずれかの産生を生じる場合がある
【0161】
- 「融合タンパク質」によって、本来は別々のタンパク質またはその一部をコードしている2つ以上遺伝子の連結からなる当技術分野において十分周知のプロセスの結果が意図され、前記「融合遺伝子」の翻訳は、本来の各タンパク質由来の機能特性を有する単一のポリペプチドを生じる。
【0162】
- 「同一性」は、2つの核酸分子またはポリペプチド間の配列同一性を指す。同一性は、比較の目的のために配列比較できる各配列における位置を比較する工程によって決定されてもよい。比較される配列中の位置が同じ塩基によって占められている場合、分子はその位置で同一である。核酸またはアミノ酸配列間の類似性または同一性の程度は、核酸配列によって共有されている位置で同一またはマッチしているヌクレオチドの数の関数である。FASTAまたはBLAST(GCG配列決定パッケージ(University of Wisconsin, Madison, Wis.)の一部として利用可能である)を含む種々の配列比較アルゴリズムおよび/またはプログラムが2つの配列間の同一性を算出するために (例えば初期設定で)使用できる。例えば、本明細書に記載の特異的ポリペプチドに少なくとも70%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有し、好ましくは実質的に同じ機能を示すポリペプチドおよびそのようなポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドは、考慮される。
【0163】
- 「類似性」は、2つ以上のポリペプチドのアミノ酸配列間の関係を記載する。BLASTPは、BLOSUM45、BLOSUM62またはBLOSUM80などの類似性マトリクスを使用して参照アミノ酸配列に少なくとも70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、92.5%、95%、97.5%、98%、99%の配列類似性を有するアミノ酸配列を同定するためにも使用できる。他に示す場合を除いて類似性スコアは、BLOSUM62の使用に基づく。BLASTPが使用される場合、類似性百分率はBLASTPポジティブスコアに基づき、配列同一性百分率はBLASTP同一性スコアに基づく。BLASTP「同一性」は同一である高スコア配列対中の合計残基の数および割合を示し;BLASTP「ポジティブ」は配列比較スコアが正の値を有し、互いに類似している残基の数および割合を示す。本明細書に記載のアミノ酸配列にこれらの程度の同一性または類似性または任意の中間の程度の類似性の同一性を有するアミノ酸配列は、本開示によって考慮され、包含される。類似ポリペプチドのポリヌクレオチド配列は、遺伝コードを使用して推定され、従来の手段によって得ることができる。例えばpTアルファの機能性変種は、配列番号107のアミノ酸配列に70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、92.5%、95%、97.5%、98%、99%配列類似性を有してよい。そのような機能性変種をコードしているポリヌクレオチドは、遺伝コードを使用してそのアミノ酸配列を逆翻訳する工程によって産生される。
【0164】
- 「シグナル伝達ドメイン」または「同時刺激リガンド」は、T細胞上の同族同時刺激分子に特異的に結合し、それにより、例えば、TCR/CD3複合体とペプチドにロードされたMHC分子との結合によって与えられる一次シグナルに加えて、これだけに限らないが増殖活性化、分化などを含むT細胞応答を調節するシグナルを提供する抗原提示細胞上の分子を指す。同時刺激リガンドは、これだけに限らないがCD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞接着分子(ICAM、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、M1CB、HVEM、リンホトキシンベータ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3に特異的に結合するリガンドを含む場合がある。同時刺激リガンドは、これだけに限らないが、CD27、CD28、4-IBB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LTGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンドなどのT細胞上に存在する同時刺激分子に特異的に結合する抗体もとりわけ包含する。
【0165】
「同時刺激分子」は、同時刺激リガンドに特異的に結合するT細胞上の同族結合パートナーを指し、それによりこれだけに限らないが増殖などの細胞による同時刺激応答を介在する。同時刺激分子は、これだけに限らないがMHCクラスI分子、BTLAおよびTollリガンド受容体を含む。
【0166】
本明細書において使用される「同時刺激シグナル」は、TCR/CD3ライゲーションなどの一次シグナルとの組合せで、T細胞増殖および/または鍵となる分子の上方制御もしくは下方制御を導くシグナルを指す。
【0167】
- 「二特異性抗体」は、単一の抗体分子中に2つの異なる抗原に対する結合部位を有する抗体を指す。古典的抗体構造に加えて他の分子も2つの結合特異性を含んで構築できることは当業者によって理解される。二特異性抗体による抗原結合が同時または連続的であってよいことはさらに理解される。二特異性抗体は、化学的技術によって(例えば、Kranz et al. (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78、5807を参照されたい)、「ポリドーマ(polydoma)」技術によって(米国特許第4,474,893号を参照されたい)または組換えDNA技術によって(それ自体が周知である)産生できる。非限定的例として各結合ドメインは、抗体重鎖(「VHまたはH領域」)由来の少なくとも1つの可変領域を含み、第1の結合ドメインのVH領域はCD3などのリンパ球マーカーに特異的に結合し、第2の結合ドメインのVH領域は腫瘍抗原に特異的に結合する。
【0168】
- 本明細書において使用される用語「細胞外リガンド結合ドメイン」は、リガンドに結合できるオリゴまたはポリペプチドとして定義される。好ましくはドメインは、細胞表面分子と相互作用できる。例えば細胞外リガンド結合ドメインは具体的な疾患状態に関連する標的細胞上の細胞表面マーカーとして作用するリガンドを認識するように選ばれてよい。したがってリガンドとして作用できる細胞表面マーカーの例は、ウイルス性、細菌性および寄生虫感染、自己免疫疾患およびがん細胞と関連するものを含む。
【0169】
本明細書において使用される用語「対象」または「患者」は、非ヒト霊長類およびヒトを含む動物界のすべてのメンバーを含む。
【0170】
上に記述した本発明の記載は、それを作製および使用するやり方およびプロセスを当業者が同物を作製および使用できるように提供し、実施可能性は、原記載の一部を構成する添付の特許請求の範囲の対象の内容について具体的に与えられる。
【0171】
本明細書において数値限定または範囲が述べられる場合、端点は含まれる。同様に数値限定または範囲内のすべての値および部分的範囲は、明確に記載されたのと同様に具体的に含まれる。
【0172】
上の記載は、当業者が本発明を作製および使用できるように表され、具体的な適用およびその必要事項の内容において提供される。好ましい実施形態への種々の改変は当業者に容易に明らかであり、本明細書に定義する一般的原理は他の実施形態および適用に本発明の精神および範囲から逸脱することなく適用できる。したがって本発明は、示される実施形態に限定されることを意図せず、本明細書に開示の原理および特性と一致する最も広い範囲に認められる。
【0173】
本発明は一般に記載され、さらなる理解は、単に例示の目的のために本明細書で提供され、他に記載する場合を除いて限定されることを意図しないある種の具体的な例を参照することによって得ることができる。
【実施例】
【0174】
(実施例1)
ヒトGR遺伝子を切断するTALE-ヌクレアーゼ
ヒトGR遺伝子のエクソンを標的化する6個のヘテロ二量体TALE-ヌクレアーゼを設計および産生した。下のTable1(表1)は、各TALE-ヌクレアーゼによって切断される標的配列を示す。GR TALE-ヌクレアーゼは、15bpスペーサーによって分離された2つの17bp長配列(ハーフ標的と称される)から構成されるGR標的配列に結合および切断するように操作された反復配列をそれぞれ含有する2つの独立の実体(ハーフTALE-ヌクレアーゼと称される)からなる。
【0175】
【0176】
N末端、C末端ドメインおよび反復のアミノ酸配列は、AvrBs3 TALE(参照:GenBank:X16130.1)に基づいている。C末端およびN末端ドメインは、2つのBsmBI制限部位によって分離されている。所望の配列(配列番号1から6)を標的化している反復アレイ(配列番号7から18)は、連続的な制限/ライゲーション/洗浄工程からなる固体支持法を使用して合成した(国際PCT出願WO2013/017950)。簡潔には第1のブロック(2回反復(di-repeat)をコードしている)をビオチン/ストレプトアビジン相互作用を通じて固体支持体に固定し、第2ブロック(3回反復((tri-repeat))を次いで第1にライゲーションし、SfaNI消化後に第3ブロック(3回反復)をカップルさせた。プロセスは、所望の反復アレイを得るまで3回または2回反復ブロックを使用して繰り返した。次いで産生物を大腸菌における増幅のために古典的pAPG10クローニングプラスミドにクローニングし、配列決定した。それにより得られた反復アレイ配列を受け入れるプラスミドのためにはIIS型制限酵素BsmBIを、挿入される反復配列のためにはBbvlおよびSfaNIを使用して酵母発現TALEベクターにサブクローニングした。Fokl制限酵素の触媒ドメインに融合したTALE由来DNA結合ドメインを含有するハーフTALE-ヌクレアーゼをコードするDNAを、大腸菌で増幅させ、標準的ミニプレ技術によって回収し、挿入物の完全性を評価するために配列決定した。
【0177】
酵母におけるGR TALE-ヌクレアーゼの活性:
6種のGR-TALE-ヌクレアーゼのヌクレアーゼ活性を37℃および30℃で以前記載の本発明者らの酵母SSAアッセイにおいて(国際PCT出願WO2004/067736および(Epinat, Arnould et al. 2003; Chames, Epinat et al. 2005; Arnould, Chames et al. 2006; Smith, Grizot et al. 2006)、15bpのスペーサーによって分離されたDNA鎖上で相互に向き合っている2つのTALE標的配列を含有する(配列番号1から6を生じている)標的上で検査した。TALE-ヌクレアーゼDNA標的配列を含有するすべての酵母標的リポータープラスミドは、以前記載のとおり構築した(国際PCT出願WO2004/067736および(Epinat、Arnouldet al. 2003;Chames、Epinat et al. 2005;Arnould、Chames et al. 2006;Smith、Grizotet al. 2006)。標的上の個々のクローンの(酵母における)TALE-ヌクレアーゼ切断活性レベルをTable2(表2)に表す。
【0178】
【0179】
値は0と1と間にある。最大値は1である。
【0180】
HEK293細胞細胞におけるGR TALE-ヌクレアーゼの活性:
各TALE-ヌクレアーゼ構築物を制限酵素消化を使用して哺乳動物発現ベクターにpEF1アルファロングプロモーターの調節下でサブクローニングした。
【0181】
HEK293細胞100万個を形質移入の1日前に播種した。細胞を、GR遺伝子中の目的の2つのハーフ標的ゲノム配列を認識するGRex2、GRex3T2、GRex3T4、GRex5T1、GRex5T2またはGRex5T3 TALE-ヌクレアーゼの左または右半分をEF1アルファプロモーターの調節下でコードしている2つのプラスミドそれぞれ2.5μgで、リポフェクタミン(Invitrogen)25μLを製造の説明書に従って使用して同時形質移入した。対照として細胞を、T細胞受容体アルファ定常鎖領域(TRAC_T01)標的部位((TRAC_T01-Lおよび-R TALEヌクレアーゼ(配列番号41および配列番号42、TRAC_T01標的部位(配列番号37))を標的化するTALE-ヌクレアーゼの左および右半分をEF1アルファプロモーターの調節下でコードしている2つのプラスミドそれぞれ2.5μgで同時形質移入した。TALEヌクレアーゼによってGRコード配中に生成された二本鎖ブレークは、変異性の機序である非相同末端結合(NHEJ)を誘発する。
【0182】
TALE-ヌクレアーゼの活性は標的化されるゲノム遺伝子座での挿入または欠失の発生頻度によって測定される。
【0183】
形質移入の2日または7日後に細胞を収集し、抽出したゲノムDNAについて遺伝子座特異的PCRを次のプライマー:5'-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAG-3'(フォワードアダプター配列)-10N(TAG)-遺伝子座特異的フォワード配列を、GRエクソン2:5'-GGTTCATTTAACAAGCTGCC-3'(配列番号31)に対して、GRエクソン3:5'-GCATTCTGACTATGAAGTGA-3'(配列番号32)に対しておよびGRエクソン5:5'-TCAGCAGGCCACTACAGGAGTCTCACAAG-3'(配列番号33)に対して、ならびにリバースプライマー5'-CCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCTCAG-3'(リバースアダプター配列)-遺伝子座特異的リバース配列をGRエクソン2:5'-AGCCAGTGAGGGTGAAGACG-3'(配列番号34)に対して、GRエクソン3:5'-GGGCTTTGCATATAATGGAA-3'(配列番号35)に対して、およびGRエクソン5:5'-CTGACTCTCCCCTTCATAGTCCCCAGAAC-3'(配列番号36)に対して使用して実施した。
【0184】
PCR産生物を454 sequencing system(454 Life Sciences)によって配列決定した。PCR産生物1つあたり配列およそ10,000個を得て、次いで部位特異的挿入または欠失事象の存在について分析した。Table3(表3)は、試料中の配列の総数においてTALE-ヌクレアーゼ標的部位での挿入または欠失を示す配列の百分率を示す。Table3(表3)にGRex2、GRex3T2およびGRex3T4についての代表的実験結果を列挙する。
【0185】
検査したすべての場合において7日目での変異導入の%は、形質移入2日後での試料の値と比較して類似していた。変異原性事象の性質も分析し、すべての場合について挿入と比較して欠失が大部分であることを明らかにした。
【0186】
【0187】
初代Tリンパ球におけるGR TALE-ヌクレアーゼの活性:
各TALE-ヌクレアーゼ構築物を制限酵素消化を使用してT7プロモーターの調節下で発現ベクターにサブクローニングした。
【0188】
TALE-ヌクレアーゼ切断GRゲノム配列をコードしているmRNAをT7プロモーターの下流からコード配列を保持している各プラスミドから合成した。末梢血から単離したTリンパ球を抗CD3/CD28活性化因子ビーズ(Life technologies)を使用して5日間活性化し、細胞500万個を両方のハーフTALE-ヌクレアーゼをコードしている2個のmRNAそれぞれ10μgで、CytoLVT-P instrument (BTX-Harvard apparatus)を使用して電気穿孔法によって形質移入した。T細胞をCD52遺伝子(CD52_T02-Lおよび-R TALEN配列番号55および56)を標的化している両方のハーフTALEヌクレアーゼをコードしている2個のmRNAそれぞれ10μgで形質移入し、標的配列CD52_T02配列番号40)を対照として使用した。
【0189】
形質移入の3および7日後、ゲノムDNAを形質移入された細胞から単離し、遺伝子座特異的PCRを既に記載のプライマーを使用して実施した。PCR産生物を454 sequencing system (454 Life Sciences)によって配列決定した。PCR産生物1つあたり配列およそ10,000個を得て、次いで部位特異的挿入または欠失事象の存在について分析した;結果はTable4(表4)。
【0190】
【0191】
(実施例2)
ヒトCD52遺伝子、ヒトT細胞受容体アルファ定常鎖(TRAC)およびヒトT細胞受容体ベータ定常鎖1および2(TRBC)を切断するTALE-ヌクレアーゼ
実施例1に記載のとおり、CD52、TRACおよびTRBC遺伝子をそれぞれ標的化するヘテロ二量体TALE-ヌクレアーゼを設計および産生した。標的化ゲノム配列は、11または15bpスペーサーによって分離された2つの17bp長配列(ハーフ標的と称される)からなる。
【0192】
各ハーフ標的は、Table5(表5)に列挙されるハーフTALE-ヌクレアーゼの反復によって認識される。ヒトゲノムは、2つの機能性T細胞受容体ベータ鎖(TRBC1およびTRBC2)を含有する。アルファ/ベータTリンパ球の発達の際に、これら2本の定常鎖の内の1本がTCRベータの可変領域をスプライスするために各細胞において選択され、機能性全長ベータ鎖を形成する。2つのTRBC標的は、TRBC1とTRBC2との間で保存された配列中で選ばれ、対応するTALE-ヌクレアーゼはTRBC1およびTRBC2の両方を同時に切断する。
【0193】
【0194】
TRACおよびCD52遺伝子中の他の標的配列(Table6(表6)に示す)を設計した。
【0195】
【0196】
HEK293細胞におけるCD52-TALE-ヌクレアーゼ、TRAC-TALE-ヌクレアーゼおよびTRBC-TALE-ヌクレアーゼの活性
各TALE-ヌクレアーゼ構築物を制限酵素消化を使用して哺乳動物発現ベクターにpEF1アルファロングプロモーターの調節下でサブクローニングした。HEK293細胞100万個を形質移入の1日前に播種した。細胞を、CD52遺伝子中の目的のゲノム配列中の2つのハーフ標的を認識するTALE-ヌクレアーゼ、T細胞受容体アルファ定常鎖領域(TRAC)もしくはT細胞受容体ベータ定常鎖領域(TRBC)をEF1-アルファプロモーターの調節下でコードしている2個のプラスミドそれぞれ2.5μg、または対照pUCベクター(pCLS0003)5μgでリポフェクタミン(Invitrogen)25μlを製造の説明書に従って使用して同時形質移入した。CD52またはTRACコード配列中でTALE-ヌクレアーゼによって生成された二本鎖切断は、変異性の機序である非相同末端結合(NHEJ)によって生細胞において修復される。生細胞中でのTALE-ヌクレアーゼの活性は、標的化されたゲノム遺伝子座での挿入または欠失の発生頻度によって測定される。形質移入の48時間後、ゲノムDNAは形質移入された細胞から単離され、遺伝子座特異的PCRを次のプライマー:5'-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAG(フォワードアダプター配列)-10N(TAG)-遺伝子座特異的フォワード配列を、CD52:5'-CAGATCTGCAGAAAGGAAGC-3'(配列番号66)に対して、TRAC:5'-ATCACTGGCATCTGGACTCCA-3'(配列番号67)に対して、TRBC1:5'-AGAGCCCCTACCAGAACCAGAC-3'(配列番号68)に対して、またはTRBC2:5'-GGACCTAGTAACATAATTGTGC-3'(配列番号69)に対して、ならびにリバースプライマー5'-CCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCTCAG(リバースアダプター配列)-内在性遺伝子座特異的リバース配列を、CD52:5'-CCTGTTGGAGTCCATCTGCTG-3'(配列番号70)に対して、TRAC:5'-CCTCATGTCTAGCACAGTTT-3'(配列番号71)に対して、TRBC1およびTRBC2:5'-ACCAGCTCAGCTCCACGTGGT-3'(配列番号72)に対してを使用して実施した。PCR産生物を454 sequencing system (454 Life Sciences)によって配列決定した。PCR産生物1つあたり配列およそ10,000個を得て、次いで部位特異的挿入または欠失事象の存在について分析した;結果はTable7(表7)。
【0197】
【0198】
初代Tリンパ球におけるCD52-TALE-ヌクレアーゼ、TRBC-TALE-ヌクレアーゼおよびTRAC-TALE-ヌクレアーゼの活性
各TALE-ヌクレアーゼ構築物を制限酵素消化を使用してT7プロモーターの調節下で哺乳動物発現ベクターにサブクローニングした。
【0199】
CD52 TRACおよびTRBCゲノム配列をを切断するTALE-ヌクレアーゼコードしているmRNAをT7プロモーターの下流からコード配列を保持している各プラスミドから合成した。末梢血から単離したTリンパ球を抗CD3/CD28活性化因子ビーズ(Life technologies)を使用して5日間活性化し、細胞500万個を両方のハーフTALE-ヌクレアーゼをコードしている2個のmRNA(または対照として非コードRNA)それぞれ10μgで、CytoLVT-P instrumentを使用して電気穿孔法によって形質移入した。NHEJによって誘発された挿入および欠失の結果として、CD52および/またはTRACについてのコード配列は細胞の一部でフレームから出て非機能性遺伝子を生じる。電気穿孔法の5日後に、細胞表面でのCD52またはTCRの存在についてのフローサイトメトリーによって、細胞を蛍光色素コンジュゲート抗CD52または抗TCR抗体で標識化した。末梢血液から増殖されたすべてのTリンパ球が通常CD52およびTCRを発現することから、CD52陰性またはTCR陰性細胞の割合は、TALE-ヌクレアーゼ活性の直接の測定値である。Table8(表8)に代表的な実験の結果を列挙する。Table9(表9)は、TRBC TALE-ヌクレアーゼの効率を検査する代表的な実験の結果を示す。
【0200】
【0201】
【0202】
標的化CD52遺伝子でのT細胞の機能性分析
CD52遺伝子不活性化の目標は、Tリンパ球を抗CD52抗体介在免疫抑制に耐性にすることである。前の段落に記載のとおりCD52を切断するTALE-ヌクレアーゼをコードしているmRNAでTリンパ球を形質移入した。形質移入の7日後に細胞を30%ウサギ補体(Cedarlane)を含むまたは含まない50μg/ml抗CD52モノクローナル抗体(または対照としてラットIgG)で処置した。37℃、2時間のインキュベーション後、細胞を蛍光生死判別色素(eBioscience)と共に蛍光色素コンジュゲート抗CD52抗体で標識し、生細胞中のCD52陽性およびCD52陰性細胞の発生頻度を測定するためにフローサイトメトリーによって分析した。
図6は、CD52陰性細胞が補体介在抗CD52抗体毒性に完全に耐性であることを実証する実験の代表的結果を示す。
【0203】
標的化TRAC遺伝子でのT細胞の機能性分析
TRAC遺伝子不活性化の目標は、Tリンパ球をT細胞受容体刺激に非応答性にすることである。前の段落に記載のとおり、TRACまたはCD52を切断するTALE-ヌクレアーゼをコードしているmRNAでTリンパ球を形質移入した。形質移入の16日後に細胞を5μg/mlまでのフィトヘマグルチニン(PHA、Sigma-Aldrich)(T細胞受容体を通じて作用するT細胞分裂促進因子)で処置した。機能性T-細胞受容体を有する細胞は、PHA処置後にサイズが増大する。3日間のインキュベーション後に細胞を蛍光色素コンジュゲート抗CD52または抗TCR抗体で標識し、TCR陽性とTCR陰性細胞との間、またはCD52陽性とCD52陰性細胞との間の細胞サイズ分布を比較するためにフローサイトメトリーによって分析した。
図7は、TCR陽性細胞がPHA処置後にサイズが顕著に増大する一方で、TCR陰性細胞は(TRAC不活性化がそれらをTCRシグナリングに非応答性にしたことを示して)未処置細胞と同じサイズを有することを示している。対照的に、CD52陽性およびCD52陰性は同程度サイズが増大する。
【0204】
標的化CD52およびTRAC遺伝子でのT細胞の機能性分析
T細胞がキメラ抗原受容体(CAR)と共に供された場合の抗腫瘍活性を示す能力にゲノム操作が影響を与えないことを検証するために、本発明者らはCD52-TALE-ヌクレアーゼおよびTRAC-TALE-ヌクレアーゼで標的化されたT細胞を抗CD19 CAR(配列番号73)をコードしているRNA 10μgで形質移入した。24時間後、T細胞をCD19発現ダウディ細胞と4時間インキュベートした。CD107aの細胞表面上方制御(Tリンパ球によって放出される細胞傷害性顆粒(脱顆粒と称される)のマーカー)をフローサイトメトリー分析によって測定した(Betts, Brenchley et al. 2003)。結果は
図8に含まれ、CD52陰性/TCRαβ陰性細胞およびCD52陽性/TCRαβ陽性がPMA/イオノマイシン(陽性対照)またはCD19+ダウディ細胞への応答で脱顆粒する同じ能力を有することを示している。CD107上方制御は、CD19+の存在に依存する。これらのデータは、調節された抗腫瘍応答を開始するT細胞の能力にゲノム操作が悪影響を有さないことを示唆する。
【0205】
初代Tリンパ球におけるCD52-TALE-ヌクレアーゼおよびTRAC-TALE-ヌクレアーゼのゲノム安全性
本発明者らの構築物がヌクレアーゼサブユニットを含むことから、重要な問題は、複数のTALE-ヌクレアーゼ形質移入が遺伝子毒性および、「近接してマッチしている」標的配列でのもしくはハーフTALE-ヌクレアーゼの誤対合による標的外切断を導くかどうかである。TRAC-TALE-ヌクレアーゼおよびCD52-TALE-ヌクレアーゼの細胞性ゲノムの完全性への影響を推定するために、本発明者らは、部位外切断の可能性を示すヒトゲノム中の配列を列挙した。リストを作成するために本発明者らは、元のハーフ標的と比較して4個までの置換を有するゲノム中のすべての配列を同定し、次いで相互に9から30bpのスペーサーを有するヘッドトゥーヘッド方向の潜在的ハーフ標的対を同定した。この分析は、1つのハーフTALE-ヌクレアーゼ分子のホモ二量体またはヘテロ二量体(CD52ハーフTALE-ヌクレアーゼ1個とTRACハーフTALE-ヌクレアーゼ1個とから形成された)によって潜在的に標的化された部位を含んだ。本発明者らは、個々の置換の損失および置換の位置を考慮した特異性データに基づいて潜在的部位外標的をスコア化した(ミスマッチはハーフ標的の3'末端の塩基についてより耐性が高い)。本発明者らは、切断の生じやすさの推定を反映するスコアを有する173個の固有配列を得た。本発明者らは、高得点の15個選択し、CD52およびTRAC TALE-ヌクレアーゼで同時形質移入され、磁性分離によってCD52陰性、TCRαβ陰性として精製されたT細胞のこれらの遺伝子座で見出された変異の発生頻度をディープ配列決定によって分析した。結果は
図9。挿入/欠失の最も高い発生頻度は、7×10
-4である。これらの結果は、意図する標的よりも推定部位外標的を少なくとも600倍変異されにくくする。したがって、この研究で使用されるTALE-ヌクレアーゼ試薬は、非常に特異的である。
【0206】
(実施例3)
ヒトCTLA4遺伝子およびヒトPDCD1遺伝子を切断するTALE-ヌクレアーゼ
実施例1に記載のとおり、PDCD1およびCTLA4遺伝子をそれぞれ標的化するヘテロ二量体TALE-ヌクレアーゼを設計および産生した。標的化ゲノム配列は、11または15bpスペーサーによって分離された2つの17bp長配列(ハーフ標的と称される)からなる。各ハーフ標的は、Table10(表10)に列挙されるハーフTALE-ヌクレアーゼの反復によって認識される。
【0207】
【0208】
HEK293細胞におけるCTLA4-TALE-ヌクレアーゼおよびPDCD1-TALE-ヌクレアーゼの活性
各TALE-ヌクレアーゼ構築物を制限酵素消化を使用して哺乳動物発現ベクターにpEFIアルファロングプロモーターの調節下でサブクローニングした。HEK293細胞100万個を形質移入の1日前に播種した。細胞を、PDCD1およびCTLA-4遺伝子中の目的のゲノム配列中の2つのハーフ標的を認識するTALE-ヌクレアーゼをEFI-アルファプロモーターの調節下でコードしている2個のプラスミドそれぞれ2.5μgまたは対照pUCベクター(pCLS0003)5μgでリポフェクタミン(Invitrogen)25μlを製造の説明書に従って使用して同時形質移入した。PDCD1またはCTLA-4コード配列中でTALE-ヌクレアーゼによって生成された二本鎖切断は、変異性の機序である非相同末端結合(NHEJ)によって生細胞において修復される。生細胞中でのTALE-ヌクレアーゼの活性は、標的化されたゲノム遺伝子座での挿入または欠失の発生頻度によって測定される。形質移入の48時間後、ゲノムDNAは形質移入された細胞から単離され、遺伝子座特異的PCRを次のプライマー:5'-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAG(フォワードアダプター配列)-10N(TAG)-遺伝子座特異的フォワード配列をCTLA4_T01:5'-CTCTACTTCCTGAAGACCTG-3'(配列番号:99)に対して、CTLA4_T03/T04:5'-ACAGTTGAGAGATGGAGGGG-3'(配列番号:100)に対して、PDCD1_T01:5'-CCACAGAGGTAGGTGCCGC-3'(配列番号101)に対してまたはPDCD1_T03:5'-GACAGAGATGCCGGTCACCA-3'(配列番号102)に対してならびに逆プライマー5'-CCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCTCAG(リバースアダプター配列)内在性遺伝子座特異的リバース配列をCTLA4_T01:5'-TGGAATACAGAGCCAGCCAA-3(配列番号103)に対して、CTLA4_T03/T04:5'-GGTGCCCGTGCAGATGGAAT-3(配列番号104)に対して、PDCD1 T01:5' -GGCTCTGCAGTGGAGGCCAG-3'(配列番号105)に対してまたは、PDCDl_T03:5'-GGACAACGCCACCTTCACCT-3'(配列番号106)に対して使用して実施した。
【0209】
PCR産生物をT7-エンドヌクレアーゼアッセイによって分析した:簡潔には、PCR産生物の変性および再アニーリング後に、T7エンドヌクレアーゼは野生型および変異鎖から構成されるミスマッチDNAを特異的に消化する。次いで消化産生物は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって解析される。消化産生物の存在は、TALE-ヌクレアーゼ活性によって誘導された変異配列を示す。結果を
図10に示す(矢印は消化されたPCR産生物を指す)。それらは、PDCD1_T1、PDCD1_T3、CTLA4_T1、CTLA4_T3およびCTLA4_T4 TALヌクレアーゼがすべてそれらの標的部位で変異原性ヌクレアーゼ活性を示すことを実証している。
【0210】
(実施例4)
pTアルファは、不活性化TCRアルファTリンパ球においてCD3表面発現を可能にする:
さまざまなプレTアルファバージョンの記載:
ヒトpTアルファ遺伝子は、細胞外Ig様ドメイン、疎水性膜貫通ドメインおよび大きなC末端細胞質内尾部を含む膜貫通糖タンパク質をコードする。ヒトpTアルファ糖タンパク質由来のさまざまなバージョンが設計されており、Table11(表11)に記載および
図11に示されている。
【0211】
【0212】
検査したさまざまなプレTアルファ構築物は:
1)pTアルファ欠失変異体:さまざまな欠失をヒトpTアルファタンパク質(114アミノ酸を含む)(配列番号107)の細胞内細胞質側尾部において生成した。検査した構築物は、タンパク質の全長バージョン(FL)および18、48、62、78、92、110および114アミノ酸がタンパク質のC末端から除かれた変異体(配列番号108から配列番号114)を含む。
2)細胞内活性化ドメインを含有するpTアルファ変異体:C末端でCD8、CD28または41BB細胞内活性化ドメインに融合したFLおよびΔ48変種(配列番号115から配列番号120)。
3)pTアルファ/TCRαキメラ変異体:構築物の1つにおいて、TCRα細胞内ドメイン)(IC)をpTアルファの尾部不含有バージョン(Δ114)(配列番号121)に融合した。第2構築物もpTアルファ細胞外ドメインをTCRα由来膜貫通(TM)およびICドメインに融合して生成した(配列番号122)。
4)pTアルファ二量体化変異体:いくつかの変異がプレTCR複合体のオリゴマー形成/二量体化能力を変更できるとして文献に記載されている。これらの変異体は、構成的シグナリング(プレTCRオリゴマー形成について誘導されると考えられている)を誘導することなく細胞表面でのプレTCR発現を可能にするために提案されている。変異は、pTアルファΔ48変種に誘導されており、それらは:×
- l×MUT:W46R(配列番号123)
- 4×MUT:D22A、K24A、R102A、R117A(配列番124)
を含む。
【0213】
さまざまなプレTアルファ構築物のTRAC不活性化ジャーカット細胞における活性:
さまざまなpTアルファ変種をTCRアルファ不活性化細胞においてCD3表面発現を回復させるそれらの能力について選別するために、TCRアルファ遺伝子がTALEN標的化TRACを使用して破壊された細胞株を生成した。ジャーカット細胞(T細胞白血病細胞株)をTRACを切断するTALENをコードしているプラスミドでサイトパルス電気穿孔法を使用して形質移入し、次いでKO細胞(TCR
α/β
NEG;CD3
NEG)をCD3磁性ビーズを使用するネガティブ選択によって精製した。KO集団(JKT_KO×3細胞)を増幅し、さまざまなpTアルファ変種の選別のために使用した。選別は、さまざまなpTアルファ変種をEF1αプロモーターの調節下でコードしているプラスミド15μgでのJKT_KO×3細胞100万個の形質移入に続く、形質移入48時間後のCD3細胞表面発現のフローサイトメトリーによる分析によって実施した。
図12は、CD3+細胞の%に基づいて、フローサイトメトリーによって決定された、FL、Δ18およびΔ48pTアルファ構築物のJKT_KO×3細胞における形質移入効率(BFP+細胞の%)ならびに活性の代表的な例である。さまざまな構築物からの結果をTable12(表12)に分類する。
【0214】
【0215】
TCRアルファ不活性化初代Tリンパ球におけるpTアルファ-FLおよびpTアルファ-Δ48の活性:
TCRアルファ不活性化Tリンパ球においてCD3表面発現を誘導するpTアルファ-FLおよびpTアルファ-Δ48バージョンの能力を検査するために、pTアルファ-FLおよびpTアルファ-Δ48コード配列を青色蛍光タンパク質(BFP)をSFFVプロモーターに続く自己切断T2Aペプチドの下にコードしている自己不活性化pLV-SFFV-BFP-2A-PCTRAレンチウイルスベクターにクローニングした(
図13)。
【0216】
末梢血から単離されたTリンパ球を抗CD3/CD28活性化因子ビーズ(Life technologies)を使用して72時間活性化し、細胞450万個をTCRアルファ定常鎖領域(TRAC)を標的化するTALE-ヌクレアーゼをコードしているmRNA 10μgでCytoLVT-S instrument (BTX-Harvard Harbour)を使用して電気穿孔法によって形質移入した。電気穿孔法の2日後、T細胞をLV-SFFV-BFP-2A-pTアルファ-Δ48またはLV-SFFV-BFP-2A-対照レンチウイルスベクターのいずれかで形質導入した。次いでCD3陰性およびCD3低T細胞を抗CD3磁性ビーズ(Miltenyi Biotech)を使用して精製した。実験プロトコールを
図14Aに示す。
【0217】
図14Bは、BFP-2A-pTアルファΔ48(ΚΟ/Δ48)または対照BFPレンチウイルスベクター(KO/BFP)で形質導入したTCRアルファ不活性化T細胞(KO)上の(CD3ビ゛ーズでの精製前後での)TCRアルファ/ベータ、CD3細胞表面発現およびBFP発現のフローサイトメトリー分析を表す。BFP-T2A-pTアルファ-Δ48ベクターで形質導入したTCRアルファ不活性化細胞(BFP+細胞)は、非形質導入細胞(BFP-細胞)と比較してより高いレベルのCD3を示す。対照BFPベクターで形質導入した細胞においては差異は観察されなかった。これらの結果は、TCRアルファ不活性化細胞の細胞表面でのCD3発現のpTアルファ介在回復を示す。対照的にTCRアルファ/ベータ染色は、予測されるとおり、pTアルファ-Δ48発現ベクターで形質導入されたまたはされていない細胞において変化しないままである。
【0218】
pTアルファ介在CD3発現はTCR欠損T細胞の活性化を支持する
細胞活性化シグナルを形質導入するpTアルファの能力を決定するために、初期および後期活性化マーカーの発現をpTアルファ-Δ48およびpTアルファ-Δ48.41BBで形質導入したTCRアルファ不活性化T細胞上で分析した。pTアルファ-Δ48およびpTアルファ-Δ48.41BBで形質導入したTCRアルファ不活性化T細胞は初代ヒトT細胞から前のセクションおよび
図14Aに記載のとおり生成した。
【0219】
CD3を介するシグナリングを検出するために、CD3ビーズでのTCRアルファ不活性化T細胞の精製の3日後に抗CD3/CD28コートビーズを使用して、細胞を再活性化した(
図14A)。細胞を蛍光色素コンジュゲート抗CD69(初期活性化マーカー)および抗CD25(後期活性化マーカー)で、再活性化後24および48時間でそれぞれ染色し、フローサイトメトリーによって分析した(
図15A~
図15B)。
図15A~
図15Bに示すとおり、pTアルファ-Δ48(ΚΟ/pΤα-Δ48)またはpTアルファ-Δ48.41BB(ΚΟ/pΤα-Δ48.ΒΒ)を発現しているTCRアルファ不活性化細胞は、TCRアルファ/ベータ発現細胞において観察されたものと同様のレベルの活性化マーカーの上方制御を示す(NEP:非電気穿孔細胞)。
【0220】
T細胞活性化の別の指標は、しばしば「ブラスティング(blasting)」と称される細胞サイズの増大である。「ブラスティング」を誘導するプレTCR複合体の能力は、抗CD3/CD28-ビーズを使用する再活性化の72時間後の細胞サイズのフローサイトメトリー分析によって測定される(
図15C)。抗CD3/CD28ビーズでの刺激は、TCRアルファ/ベータ複合体を発現している細胞における細胞サイズにおいて、pTアルファ-Δ48またはpTアルファ-Δ48.41BBを発現している細胞におけるものに匹敵する増大を誘導した。併せてこれらの結果は、プレTCR複合体が活性化マーカー上方制御を介在している機序に効率的につながるシグナルを伝達するために適格性であることを示唆している。
【0221】
pTアルファ介在CD3発現は刺激性抗CD3/CD28抗体を使用するTCR欠損初代T細胞の増殖を支持する
長期間の細胞増殖を支持するプレTCR複合体の能力を評価するために、既に記載のとおり生成された細胞の増殖を測定した。初期活性化の10日後に、細胞をIL2(非再活性化)または抗CD3/CD28ビーズを含むIL2(再活性化)で維持した。BFP+細胞の数を概算するために各条件についてさまざまな時点で細胞を計数し、フローサイトメトリーによって分析した。BFPまたはBFP-T2A-プレTCRα-Δ48ベクターで形質導入したTCRアルファ不活性化細胞(KO)の増殖を比較し、これらの細胞の誘導の倍数を再活性化の2日後に得た値に関して概算した。
図16は、2つの無関係なドナーで得た結果を示す。両方の場合においてpTアルファ-Δ48を発現しているTCRアルファ不活性化細胞は、BFP対照ベクターだけを発現しているTCRアルファ不活性化細胞よりも多い増殖を示した。第2ドナーについて、pTアルファ-Δ48.41BBまたは全長pTアルファを発現しているTCRアルファ不活性化細胞も含まれ、BFP対照ベクターだけを発現しているTCRアルファ不活性化細胞よりも多い増殖を示している。
【0222】
(実施例5)
サイトパルス技術を使用するT細胞でのmRNA形質移入の最適化
最適化サイトパルスプログラムの決定
第1セットの実験を細胞を形質移入できる電圧範囲を判定するために非活性化PBMCで実施した。5種の異なるプログラムをTable13(表13)に記載のとおり検査した。
【0223】
【0224】
細胞3または600万個を0.4cm gapキュベット(1mlあたり細胞30または15×l0
6個)中においてGFPをコードしているプラスミドおよび対照プラスミドpUC 20μgでさまざまなサイトパルスプログラムを使用して電気穿孔した。電気穿孔24時間後に、形質移入の効率を決定するためにGFP発現を電気穿孔した細胞でフローサイトメトリーによって分析した。
図17に示すデータは、PBMC由来T細胞におけるプラスミド電気穿孔法のために必要な最小電圧を示している。これらの結果は、サイトパルスプログラム3および4がT細胞の効率的な形質転換を可能にすることを実証する(EP#3および#4)。
【0225】
精製された活性化T細胞のmRNAの電気穿孔法
T細胞の効率的なDNA電気穿孔を可能にする最良のサイトパルスプログラムを決定した後に、本発明者らはこの方法をmRNA電気穿孔法に応用できるかどうかを検査した。
【0226】
PHA/IL2で6日間予備活性化した精製されたT細胞5×l06個をサイトポレーション緩衝液T(BTX- Harvard apparatus)に再懸濁し、0.4cmキュベット中においてGFPをコードしているmRNA 10μgまたはGFPもしくはpUCをコードしているプラスミド20μgで、前のセクションにおいて決定したとおり好ましいサイトパルスプログラムを使用して電気穿孔した(Table14(表14))。
【0227】
【0228】
形質移入48時間後、細胞を生死判別色素(eFluor-450)で染色し、細胞生存率およびGFP+生細胞の%をフローサイトメトリー分析によって決定した(
図18)。
【0229】
図18に示すデータは、本明細書で決定した最適条件でのRNAの電気穿孔が無害で、生細胞の95%を超える形質移入を可能にすることを示す。
【0230】
合成では、データセット全体がT細胞をDNAまたはRNAのいずれでも効率的に形質移入できることを示す。具体的にはRNA形質移入は、細胞生存率に影響を与えず、細胞集団において目的の形質移入した遺伝子の均一な発現レベルを可能にする。
【0231】
効率的な形質移入は、使用された活性化方法(PHA/IL-2またはCD3/CD28コートビーズ)とは無関係に細胞活性化後の早期に達成できる。本発明者らは、活性化の72時間後に>95%の効率で細胞を形質移入することに成功した。付加的に、融解および活性化後のT細胞の効率的な形質移入は、同じ電気穿孔法プロトコールを使用して得ることができる。
【0232】
TALE-ヌクレアーゼ機能性発現のための初代ヒトT細胞におけるmRNA電気穿孔法
mRNA電気穿孔法が初代ヒトT細胞において効率的なGFPの発現を可能にすることを実証した後に、本発明者らは、この方法が目的の他のタンパク質の発現に応用できるかどうかを検査した。転写活性因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALE-ヌクレアーゼ)は、TAL DNA結合ドメインのDNA切断ドメインへの融合によって生成された部位特異的ヌクレアーゼである。それらは(それらが実質的に任意の所望のDNA配列で二本鎖ブレークを誘導することから)強力なゲノム校正ツールである。これらの二本鎖ブレークは、非相同末端結合(NHEJ)(変異性のDNA修復機序)を活性化し、潜在的に目的の任意の所望の遺伝子の不活性化を導く。代替的に適切な修復鋳型が細胞に同時に導入されると、TALE-ヌクレアーゼ誘導DNAブレークは相同組換えによって修復でき、それにより遺伝子配列を任意に改変する可能性を提供する。
【0233】
本発明者らは、T細胞抗原受容体(TRAC)のアルファ鎖をコードしているヒト遺伝子中の配列を特異的に切断するように設計されたTALE-ヌクレアーゼを発現するためにmRNA電気穿孔法を使用した。この配列に誘導された変異は、遺伝子不活性化および細胞表面からのTCRαβ複合体の減少を生じると予測される。TRAC TALE-ヌクレアーゼRNAまたは対照としての非コードRNAをサイトパルス技術を使用して活性化初代ヒトTリンパ球に形質移入した。電気穿孔法シーケンスは、Table14(表14)に記載のとおり1200Vのパルス2個に続く130Vのパルス4個から構成される。
【0234】
電気穿孔法7日後のTCR表面発現のフローサイトメトリー分析(
図19、上パネル)によって、本発明者らは、T細胞の44%はTCRαβの発現を失っていたことを観察した。本発明者らは、形質移入された細胞のゲノムDNAを、TRAC遺伝子座のPCR増幅に続く454ハイスループット配列決定によって分析した。配列決定された対立遺伝子の33%(2153の内の727)は、TALE-ヌクレアーゼ切断の部位に挿入または欠失を含有した。
図19(下パネル)は、変異対立遺伝子の例を示す。
【0235】
これらデータは、サイトパルス技術を使用するmRNAの電気穿孔法がTRAC TALE-ヌクレアーゼの機能性発現を生じることを示す。
【0236】
抗CD19単鎖キメラ抗原受容体(CAR)をコードしているモノシストロニックmRNAでのT細胞の電気穿孔法:
T細胞5×106個を抗CD3/CD28コートビーズで数日間(3~5)予備インキュベートし、IL2をサイトポレーション緩衝液T中に再懸濁し、mRNAを含まないまたは単鎖CAR(配列番号73)をコードしているmRNA 10μgを含む0.4cmキュベット中でTable14(表14)に記載のプログラムを使用して電気穿孔した。
【0237】
電気穿孔法24時間後に細胞を、生細胞でのCARの細胞表面発現を特異的に評価するために定着性生死判別色素eFluor-780およびPEコンジュゲートヤギ抗マウスIgG F(ab')2断片で染色した。データを
図20に示す。Aは、既に記載のモノシストロニックmRNAで電気穿孔したT生細胞の大部分がそれらの表面にCARを発現していることを示す。電気穿孔法24時間後、T細胞をダウディ(CD19
+)細胞と6時間同時培養し、それらの表面での脱顆粒マーカーCD107aの発現を検出するためにフローサイトメトリーによって分析した(Betts, Brenchley et al. 2003)。
【0238】
図20に示すデータは、既に記載のモノシストロニックmRNAで電気穿孔した細胞の大部分がCD19を発現している標的細胞の存在下で脱顆粒することを示している。これらの結果は、電気穿孔されたT細胞の表面で発現されるCARが活性であることを明確に実証する。
【0239】
抗CD19マルチサブユニットキメラ抗原受容体(CAR)をコードしているポリシストロニックmRNAでのT細胞の電気穿孔法:
抗CD3/CD28コートビーズおよびIL2で数日間(3~5)予備インキュベートしたT細胞5×10
6個をサイトポレーション緩衝液T中で電気穿孔し、mRNAを含まずに、または多重鎖CAR(配列番号125、配列番号126によってコードされる、
図21Aおよび
図4B(csm4))をコードしているmRNA 45μgで0.4cmキュベット中でTable14(表14)に記載のプログラムを使用して電気穿孔した。
【0240】
電気穿孔法24時間後に細胞を、生細胞でのCARの細胞表面発現を特異的に評価するために定着性生死判別色素eFluor-780およびPEコンジュゲートヤギ抗マウスIgG F(ab')2断片で染色した。
図21に示すデータは、既に記載のポリシストロニックmRNAで電気穿孔したT生細胞の大部分がそれらの表面にCARを発現していることを示す。
【0241】
電気穿孔法24時間後、T細胞をダウディ(CD19
+)細胞と6時間同時培養し、それらの表面での脱顆粒マーカーCD107aの発現を検出するためにフローサイトメトリーによって分析した。
図21に示すデータは、既に記載のポリシストロニックmRNAで電気穿孔した細胞の大部分がCD19を発現している標的細胞の存在で脱顆粒することを示している。これらの結果は、電気穿孔されたT細胞の表面で発現されるCARが活性であることを明確に実証する。
【0242】
【配列表】