(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】DC/DC変換器の入力電圧周波数を制御するための方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20230407BHJP
【FI】
H02M3/28 K
(21)【出願番号】P 2020569994
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2019063690
(87)【国際公開番号】W WO2019238405
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-04-27
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】タレブ, ミアサ
(72)【発明者】
【氏名】マルーム, アブデルマーレク
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/137406(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169042(WO,A1)
【文献】特開2017-192281(JP,A)
【文献】特開2016-163386(JP,A)
【文献】特開2013-188084(JP,A)
【文献】国際公開第2017/098762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50%のデューティサイクルで動作し、周波数において制御されるLLC式DC電流/DC電流変換器(12)の入力電圧の周波数を制御する(60)ための方法であって、
- 最大制御周波数値(FR
MAX)および最小制御周波数値(FR
MIN)を規定する予備ステップ(61)と、
- 設定点電圧値(V
DCR)を規定する予備ステップ(62)と、
- 上側誤差値(eps)および関連する上限電圧値(V
DCR+eps)と、下側誤差値(-eps)および関連する下限電圧値(V
DCR-eps)とを規定する予備ステップ(63)であって、前記上限電圧値(V
DCR+eps)および下限電圧値(V
DCR-eps)が、前記設定点電圧値(V
DCR)を中心とする誤差振幅(51)を規定する、予備ステップ(63)とを含み、
さらに、
- 入力電圧の測定値(V
DCM)を取得するステップ(64)と、
- 前記DC電流/DC電流変換器(12)の制御周波数(F)値を計算するステップ(65)と
を含み、
- 前記測定電圧(V
DCM)が、前記上限電圧(V
DCR+eps)より大きい場合には、前記制御周波数(F)が前記最小制御周波数(FR
MIN)に対応し、
- 前記測定電圧(V
DCM)が、前記下限電圧(V
DCR-eps)より小さい場合には、前記制御周波数が前記最大制御周波数(FR
MAX)に対応し、
- 前記測定電圧(V
DCM)が、前記上限電圧(V
DCR+eps)と前記下限電圧(V
DCR-eps)との間にある場合には、前記制御周波数(F)が、前記設定点電圧値(V
DCR)と前記測定電圧(V
DCM)との差分、前記上側誤差値(eps)および前記下側誤差値(-eps)、ならびに前記最大制御周波数値(FR
MAX)および前記最小制御周波数値(FR
MIN)に基づき計算された平均周波数(F
MOY)に対応する、方法。
【請求項2】
前記測定電圧が、前記上限電圧と前記下限電圧との間にある場合には、前記制御周波数が、以下の式
を適用することによって計算され、
ここで誤差の値が、前記設定点電圧値(V
DCR)と前記測定電圧(V
DCM)との差分(V
DCR-V
DCM)に相当することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
制御動作が、開ループコントローラによって少なくとも部分的に制御されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定電圧が、前記上限電圧と前記下限電圧との間にある場合のみ、前記制御動作が、比例積分コントローラにより周波数において制御されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を実行するための手段を含む、DC電流/DC電流変換器の周波数を制御するための装置。
【請求項6】
蓄電器バッテリ(13)を充電するための充電器(1)であって、
- 力率補正ステージ(11)と、
- LLC共鳴DC電流/DC電流変換器(12)と、
- 請求項5に記載の、前記DC電流/DC電流変換器(12)の周波数を制御するための装置と
を備える充電器(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に電気自動車用またはハイブリッド自動車用の電気バッテリ充電器の分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、電気バッテリ充電器用のDC電流/DC電流変換器の入力電圧の周波数を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電気自動車用の電気バッテリ充電器は、より一般的には充電器と呼ばれ、かなりの充電電力を必要とし、その充電電力は、たとえば三相動作においては最大22kW、単相動作においては7kWに及ぶ可能性がある。
【0004】
これらの充電器は、全般的に、2つの電力変換ステージを含む。すなわち、電力網電圧のAC/DC変換を実行してDCバスに供給する、一般にPFCと短縮される第1の力率補正(power factor correction)ステージと、バッテリを充電するために必要な出力電流を制御し、変圧器を通して充電器をガルバニック絶縁するDC/DCと呼ばれる第2のDC/DC変換ステージである。
【0005】
先行技術の
図1を参照すると、出力キャパシタの端子において、2つの出力DC電圧バスが、それぞれDC/DC変換器に結合されている。
【0006】
DC/DCは、特に、
図2に示してあるように、充電器をガルバニック絶縁する変圧器22を備えるLLCであってもよい。
【0007】
図3は、
図2のDC/DC変換器のアセンブリの簡略図を示しており、キャパシタCrと2つのインダクタLrおよびLmとを備える。入力電圧はDCバスに対応し、出力電圧はバッテリの電圧である。次いで、ゲインは、2つの電圧の比に対応する。
【0008】
LLC式DC/DCの第1のMOSFETブリッジ120は、50%のデューティサイクルで動作し、周波数において制御される。具体的には、周波数制御は、DC/DCのゲインを調節し、充電器の入力におけるDCバスの電圧を、所与の設定点値に調整することを可能にする。バッテリの電圧および必要な電力に応じて、周波数は、たとえば60kHz~200kHzの間で変動してもよい。
【0009】
このタイプのDC/DC変換器を制御するための、先行技術で提案された解決策は、全般的に出力電圧を調節し、一例としてMATLAB for Engineers-Applications in Control, Electrical Engineering, IT and Robotics、InTech、2011年におけるDRGONA,Peter、 FRIVALDSKY,Michal、およびSIMONOVA,AnnaによるA New Approach of Control System Design for LLC Resonant Converterにおいて開示されているものがあり、この文献では、DC/DCの出力電圧が、チョッピング周波数を使用して制御される。周波数増分に対する出力電圧の応答の動的範囲をシミュレーションするPSpiceハードウェアモジュールを使用して、デューティサイクルと出力電圧との間の伝達関数が同定法から推論される。次いで、前に推論された伝達関数に基づき、コントローラが設計される。
【0010】
また、伝達関数は、「小信号」と呼ばれる方法を使用して取得されてもよく、この方法は、YANG,Boによる博士論文Topology investigation of front end DC/DC converter for distributed power system、2003年に述べてあるように、動作点周りの励振、およびDC/DCの応答の測定から、伝達関数を推論するものである。しかし、この伝達関数は、検討中の動作点にしか適用することができず、動作点が変化するたび、使えないものになってしまう。したがって、伝達関数を毎回再計算することが必要である。こうした解決策は、実行するのが相対的に複雑で、計算時間の観点から費用がかかるものでもある。
【0011】
出力電圧が低い範囲にわたって変動する場合には、DC電流の制御という観点からの制御動作も知られている。
【0012】
最後に、FANG,Zhijian、WANG,Junhua、DUAN,Shanxuらによる Control of an LLC Resonant Converter Using Load Feedback Linearization、IEEE Transactions on Power Electronics、2018年、vol.33、no.1、p.887-898という出版物も知られており、この出版物では、LLC式DC/DCの出力電圧を制御するためにフィードバック線形化によって制御が構成される。この出版物は、7つの状態の非線形モデルを記載しており、その後これが2つの状態に縮約され、PIループによる制御を提案している。しかし、こうした解決策は、複雑で費用のかかるハードウェアとソフトウェアの適合を必要とする。
【0013】
バッテリにより出力電圧が課されることが実際には行われる。さらに、特に電気自動車用途において、この出力電圧が、幅広い値の範囲、たとえば250V~430Vで変動することが実際には生じる。
【0014】
したがって、入力においてDC電圧を制御することが望ましい。なぜなら、これにより、PFCの出力のキャパシタの端子にDC電圧を課すことが可能になるからである。
【0015】
しかし、LLC式DC/DC変換器の入力においてDC電圧を制御することは、先行技術がいかなる満足な解決策も提供していない主題である。
【0016】
したがって、LLC式DC/DCの入力において、DC電圧を迅速かつ確実に制御するための解決策が必要とされている。
【発明の概要】
【0017】
DC電流/DC電流変換器の入力電圧の周波数を制御するための方法であって、
- 最大制御周波数値および最小制御周波数値を規定する予備ステップと、
- 設定点電圧値を規定する予備ステップと、
- 上側誤差値および関連する上限電圧値と、下側誤差値および関連する下限電圧値とを規定する予備ステップであって、前記上限電圧値および下限電圧値が、前記設定点電圧値を中心とする誤差振幅を規定する、予備ステップとを含み、
さらに、
- 入力電圧の測定値を取得するステップと、
- 前記DC電流/DC電流変換器の制御周波数値を計算するステップと
を含み、
- 測定電圧が、前記上限電圧より大きい場合には、制御周波数が前記最小制御周波数に対応し、
- 測定電圧が、前記下限電圧より小さい場合には、制御周波数が前記最大制御周波数に対応し、
- 測定電圧が、前記上限電圧と前記下限電圧との間にある場合には、制御周波数が、設定点電圧値と測定電圧との差分、上側および下側の誤差値、ならびに最大および最小の制御周波数値に基づき計算された平均周波数に対応する方法が提案される。
【0018】
したがって、DC電流/DC電流変換器の入力電圧を制御するための、迅速で頑健な方法を実現することが可能になる。
【0019】
有利には、限定することなく、測定電圧が前記上限電圧と前記下限電圧との間にある場合には、前記制御周波数が、以下の式
を適用することによって計算され、ここで値誤差は、設定点電圧値と測定電圧との差分V
DCR-V
DCMに相当する。したがって、測定電圧が設定点電圧に近いとき、設定点値へ向かう正確な収束を確実にし、静誤差を打ち消すことが可能になる。
【0020】
有利には、限定することなく、制御動作が、開ループコントローラによって少なくとも部分的に制御される。こうして、制御周波数の計算を精緻化することができる。
【0021】
測定電圧が、前記上限電圧と前記下限電圧との間にあるときのみ、制御動作は、比例積分コントローラにより周波数において特に制御される。したがって、測定電圧が設定点電圧に近いとき、制御周波数の計算を選択的に精緻化することにより、制御を改善することが可能になる。
【0022】
また、本発明は、上に記載の方法を実行するための手段を備える、DC電流/DC電流変換器の周波数を制御するための装置に関する。
【0023】
また、本発明は、蓄電器バッテリを充電するための充電器であって、
- 力率補正ステージと、
- LLC共鳴DC電流/DC電流変換器と、
- 上に記載の、前記DC電流/DC電流変換器の周波数を制御するための装置と
を備える充電器に関する。
【0024】
本発明の他の特徴および利点は、指標としてであって限定としてではなく提供される本発明の特定の一実施形態の以下の説明を、添付図面を参照しながら読めば明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】先行技術から知られている電気バッテリ充電器の概略図である。
【
図2】
図1による充電器用のDC電流/DC電流変換器の詳細図である。
【
図3】
図2によるDC電流/DC電流変換器のLLC回路の簡略図である。
【
図4a】本発明の一実施形態による方法の概略図である。
【
図4b】
図4aの一実施形態による方法の計算ステップの詳細図である。
【
図5】限度電圧、設定点電圧、および測定電圧の関数として、横座標に時間および縦座標にボルトをとる、
図4aの実施形態による方法の計算ステップの方法の適用周波数制御を示す概略図である。
【
図6】
図4aの一実施形態により実行される方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1~
図6は、同じ実施形態に関係し、同時に解説される。
【0027】
図1を参照すると、三相電力網10に接続された電気バッテリ13の充電器1は、PFCステージ11とも呼ばれる力率補正ステージ11と、それぞれがインバータ212を有するDC電流からDC電流への変換器DC/DC12aおよび12bとを備える。
【0028】
三相電力網10には、入力フィルタ14が装着され、フィルタ処理済みの入力電流をPFCステージ11に伝送する。
【0029】
PFC11の出力では、PFCステージ11の出力キャパシタの端子に接続された2つのDC電圧バスが、それぞれDC/DC変換器12a、12bに結合されており、これらが出力において蓄電器バッテリ13と並列に接続されている。
【0030】
各DC/DC12a、12b(その単なる一例を
図2に示す)は、入力MOSFETブリッジ120と、LLC回路121(この簡略図を
図3に示す)と、変圧器22と、出力ダイオードブリッジ122とを備える。
【0031】
充電器1はさらに、本発明による制御方法60を実行することができるDC電流/DC電流変換器12を制御するための手段15を備える。
【0032】
本発明による制御方法60は、DC電流/DC電流変換器12の入力電圧の周波数を制御することを目的とする。
【0033】
図4、
図5、および
図6を参照すると、DC電流/DC電流変換器を制御するための方法は、複数の予備ステップ61、62、63を含む。これらの予備ステップ61~63は、互いに独立している。予備ステップ61~63は、方法の動作パラメータを規定することを目的としており、方法が実行される前、たとえばキャリブレーション段階において実行されてもよく、または方法の開始時に動的に実行されてもよい。
【0034】
これらの予備ステップ61~63は、方法の動作パラメータを動的に修正するために、方法60の動作中にさらに再現されてもよい。
【0035】
まず、最大制御周波数値FRMAXおよび最小制御周波数値FRMINを規定するステップ61が実行され、たとえばこの場合、最大周波数FRMAXが200kHzで、最小周波数FRMINが60kHzに規定される。
【0036】
次いで、入力電圧をそれに向かって収束させるべき設定点電圧値V
DCRを規定するステップ62が実行される。
図5の例示的な実施形態では、V
DCR=450Vである。
【0037】
次いで、2つの誤差値(上側誤差値epsと下側誤差値-eps)によって規定される誤差ゾーン51が規定され63、これらの2つの誤差値により、上限電圧値VDRC+epsと下限電圧値VDCR-epsを規定することが可能になる。
【0038】
この例示的な実施形態では、誤差電圧+eps=100V、および-eps=-100Vが規定される。
【0039】
設定点電圧VDCRを囲むこれらの上限電圧値VDRC+epsおよび下限電圧値VDCR-epsは、こうして設定点電圧VDCRを中心とする誤差振幅を規定する。
【0040】
この実施形態では、上側誤差値epsと下側誤差値-epsは同じ絶対値を有し、それにより、設定点電圧値VDCRを中心とする対称的な誤差ゾーンが規定される。しかし、本発明は、これらの絶対値が同じであることに限定されず、異なる絶対値を有する上側誤差値epsおよび下側誤差値-epsが提供されてもよい。
【0041】
次いで、この方法は、入力電圧の測定値VDCMを取得するステップ64を実行する。
【0042】
次いで、DC電流/DC電流変換器の制御周波数値を計算するステップ65が実行される。
【0043】
この計算ステップ65では、測定入力電圧VDCMが、上限電圧値VDCR+epsおよび下限電圧値VDCR-epsと比較される。
【0044】
測定電圧VDCMが、前記上限電圧VDCR+eps以上である場合には、前記最小制御周波数FRMINに等しい制御周波数Fが適用される。
【0045】
測定電圧VDCMが、下限電圧VDCR-eps以下である場合には、最大制御周波数FRMAXに等しい制御周波数Fが適用される。
【0046】
最後に、測定電圧VDCMが、厳密に前記上限電圧VDCR+epsと前記下限電圧VDCR-epsとの間にある場合には、制御周波数Fは、測定電圧と設定点電圧との差分、上限誤差および下限誤差の値、ならびに最大制御周波数および最小制御周波数の値に基づき計算された平均周波数FMOYに対応する。
【0047】
この平均周波数F
MOYは、以下の式
を使用して計算され、ここで
- 誤差の値は、設定点電圧値V
DCRと測定電圧V
DCMとの差分に相当し、すなわち誤差=V
DCR-V
DCMである。
【0048】
言い換えれば、誤差パラメータ-eps、epsの対により、設定点VDCRに近い誤差ゾーンを規定することが可能になり、この誤差ゾーン内で、正確に設定点値VDCRに収束できるようにする周波数FMOYを、制御手段が計算する。
【0049】
具体的には、誤差VDRC-VDRMが、閾値-eps、epsのうちの1つに到達するとき、制御周波数は、設定点値に正確に到達して静誤差を打ち消すように計算される。
【0050】
この誤差ゾーンより上または下では、有効な収束を確実にするために、以下の論理により説明されるように、最小周波数FRMINまたは最大周波数FRMAXがそれぞれ適用される。
【0051】
図4aを参照すると、測定電圧V
DCMが、厳密に前記上限電圧V
DCR+epsと前記下限電圧V
DCR-epsとの間にあるとき、より一般的にはPIコントローラと呼ばれる比例積分コントローラ42が起動される。これにより、適用されるべき周波数Fの計算を精緻化し、数ボルトにわたる測定電圧の収束を改善することが可能になる。
【0052】
したがって第1の制御ステージ41の出力は、フィードフォワード開ループ制御コマンドと呼ばれるものに到達し、PIコントローラ42によって得られる結果に加えられる43。