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特許7258792レーザ超音波計測装置およびレーザ超音波計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】レーザ超音波計測装置およびレーザ超音波計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20230410BHJP
   G01N 29/34 20060101ALI20230410BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/34
G01N29/48
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020017689
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021124373
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 岳志
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】秋元 恵
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-213573(JP,A)
【文献】特開2003-185639(JP,A)
【文献】特開2003-173896(JP,A)
【文献】特開2000-180418(JP,A)
【文献】特開2000-241397(JP,A)
【文献】特開平03-046558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01B 17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中にある測定対象に広帯域の周波数を有する表面波を励起するレーザ超音波発生装置と、
互いに中心周波数の異なる複数の圧電素子と、
前記複数の圧電素子により受信された超音波信号に基づいて前記測定対象中の欠陥の規模を推定する欠陥推定部と、
を備えることを特徴とするレーザ超音波計測装置。
【請求項2】
前記レーザ超音波発生装置は、
パルスレーザ光を発生するパルスレーザ光源と、
照射プローブと、
前記パルスレーザ光を伝送する光ファイバと、
前記パルスレーザ光を前記光ファイバに入射させる光ファイバ入射機構と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のレーザ超音波計測装置。
【請求項3】
前記レーザ超音波発生装置は、
パルスレーザ光を発生するパルスレーザ光源と、
前記パルスレーザ光の光路を転換する光学ミラーと、
前記パルスレーザ光を集光する光学レンズと、
を有することを特徴とする請求項1に記載のレーザ超音波計測装置。
【請求項4】
前記欠陥推定部は、前記複数の圧電素子により受信された前記超音波信号のそれぞれの強度に基づいて前記測定対象中の欠陥の規模を推定することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のレーザ超音波計測装置。
【請求項5】
前記レーザ超音波発生装置、前記複数の圧電素子の設置位置を個別に調整する送受信位置制御機構をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のレーザ超音波計測装置。
【請求項6】
前記複数の圧電素子は、直線状に配列されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のレーザ超音波計測装置。
【請求項7】
前記複数の圧電素子は、環状に配列されていることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載のレーザ超音波計測装置。
【請求項8】
液体中にある測定対象に超音波を発生させるレーザ超音波発生装置を設置する発生装置設置ステップと、
互いに中心周波数の異なる複数の圧電素子を第1の位置に設置する第1回圧電素子設置ステップと、
前記発生装置設置ステップおよび前記第1回圧電素子設置ステップの後に、レーザ超音波発生装置により、測定対象に広帯域の周波数を有する超音波を発生させる第1回超音波発生ステップと、
前記第1回超音波発生ステップにおいて前記複数の圧電素子からの信号を取得し、前記信号のレベルを比較して、前記測定対象中の欠陥の規模を推定する第1回欠陥推定ステップと、
を有することを特徴とするレーザ超音波計測方法
【請求項9】
測定対象に超音波を発生させるレーザ超音波発生装置を設置する発生装置設置ステップと、
互いに中心周波数の異なる複数の圧電素子を第1の位置に設置する第1回圧電素子設置ステップと、
前記発生装置設置ステップおよび前記第1回圧電素子設置ステップの後に、レーザ超音波発生装置により、測定対象に広帯域の周波数を有する超音波を発生させる第1回超音波発生ステップと、
前記第1回超音波発生ステップにおいて前記複数の圧電素子からの第1の信号を取得し、前記第1の信号のレベルを比較して、前記測定対象中の欠陥の規模を推定する第1回欠陥推定ステップと、
を有し、
前記第1回欠陥推定ステップは、前記複数の圧電素子からの前記第1の信号が、透過表面波であるか反射表面波であるかを判別する判別ステップを有し、
前記判別ステップでの結果に応じた位置に前記複数の圧電素子を移動し第2の位置に設置する第2回圧電素子設置ステップと、
前記第2回圧電素子設置ステップの後に、レーザ超音波発生装置により、測定対象に広帯域の周波数を有する超音波を発生させる第2回超音波発生ステップと、
前記第2回超音波発生ステップにおいて前記複数の圧電素子からの第2の信号を取得し、前記第2の信号のレベルを比較して、前記測定対象中の欠陥の規模を推定する第2回欠陥推定ステップと、
前記第1回欠陥推定ステップおよび前記第2回欠陥推定ステップの結果から、前記欠陥の位置を推定する欠陥位置推定ステップと、
を有することを特徴とするレーザ超音波計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザ超音波計測装置およびレーザ超音波計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷試験(UT:Ultrasonic Testing)は、非破壊で構造材の表面および内部の健全性を確認できる技術であり、様々な分野で欠かせない検査技術となっている。
【0003】
圧電素子を検査対象に接触させて超音波を送受信する接触式のUT、小型の超音波送受信用圧電素子を並べ、圧電素子ごとにタイミング(遅延時間)をずらして超音波発信することにより任意の波形を形成できるフェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT)は、工業用途で広く用いられている。またパルスレーザの照射により超音波を励起し、別のレーザおよびレーザ干渉計により検査対象表面の微小振動を計測するレーザ超音波法(LUT:Laser Ultrasonic Testing)などの方法も利用されている。レーザ超音波法は非接触で検査できるため、溶接施工中の検査などにも適用されている。
【0004】
超音波信号の処理方法、検査対象内部を映像化するための装置や手法についても用途に応じた多様な形態が提案されており、例えば生体の内部を超音波により映像化する場合、生体内の組織の違いにより音速が異なることから、検査対象のある特定の領域の音速を仮定して超音波の計測を行い、得られた検出結果とあらかじめ想定していた結果との違いから解析する手法等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5651533号公報
【文献】特許第4632517号公報
【文献】特許第5528083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発電プラントの定期点検や溶接構造物の溶接部の品質検査などにおいて、被測定対象の表面のキズやき裂などの欠陥を検査する必要がある場合、超音波の表面波を用いて欠陥を検出することが可能である。表面波を発生するために、超音波探触子を用いる方法が考えられるが、アクセスが困難な部位への圧電素子の設置は困難である。レーザ超音波法は、超音波送信用のパルスレーザの照射により表面波を励起し、別の受信用レーザおよびレーザ干渉計により検査対象表面の微小振動を計測することで欠陥を検出することが可能だが、被測定対象の表面に付着物がある場合や、表面粗さが大きい場合などは、受信用レーザの反射光量が減少し、十分な受信感度が得られないという課題がある。
【0007】
他の方法として、超音波による表面検査を水中で行う場合、送信用レーザで励起された表面波が欠陥で漏洩波として水中に伝搬し、その漏洩波により別に設置した金属などの薄板が振動するのを受信用レーザで測定する手法も提案されている。しかし、この方法の場合、欠陥の表面からの深さは、超音波の励起点および受信点を、欠陥を跨ぐように配置し、欠陥を透過した表面波から発生する漏洩波の周波数を解析することにより求めることは可能だが、装置としては周波数解析機能を実装した信号処理用PCが、また、手法としては周波数解析ステップが必要となる。
【0008】
また、漏洩波の受信をレーザではなく圧電センサで行う場合でも、センサ固有の中心周波数に近い漏洩波のみを検出するため、欠陥深さを求めることはできない。
【0009】
そこで、本発明の実施形態は、レーザ超音波探傷において、周波数解析を行うことなく表面欠陥の深さに関する情報を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係るレーザ超音波計測装置は、液体中にある測定対象に広帯域の周波数を有する表面波を励起するレーザ超音波発生装置と、互いに中心周波数の異なる複数の圧電素子と、前記複数の圧電素子により受信された超音波信号に基づいて前記測定対象中の欠陥の規模を推定する欠陥推定部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本実施形態に係るレーザ超音波計測方法は、液体中にある測定対象に超音波を発生させるレーザ超音波発生装置を設置する発生装置設置ステップと、互いに中心周波数の異なる複数の圧電素子を第1の位置に設置する第1回圧電素子設置ステップと、前記発生装置設置ステップおよび前記第1回圧電素子設置ステップの後に、レーザ超音波発生装置により、測定対象に広帯域の周波数を有する超音波を発生させる第1回超音波発生ステップと、前記第1回超音波発生ステップにおいて前記複数の圧電素子からの信号を取得し、前記信号のレベルを比較して、前記測定対象中の欠陥の規模を推定する第1回欠陥推定ステップと、を有することを特徴とする。
また、本実施形態に係るレーザ超音波計測方法は、測定対象に超音波を発生させるレーザ超音波発生装置を設置する発生装置設置ステップと、互いに中心周波数の異なる複数の圧電素子を第1の位置に設置する第1回圧電素子設置ステップと、前記発生装置設置ステップおよび前記第1回圧電素子設置ステップの後に、レーザ超音波発生装置により、測定対象に広帯域の周波数を有する超音波を発生させる第1回超音波発生ステップと、前記第1回超音波発生ステップにおいて前記複数の圧電素子からの第1の信号を取得し、前記第1の信号のレベルを比較して、前記測定対象中の欠陥の規模を推定する第1回欠陥推定ステップと、を有し、前記第1回欠陥推定ステップは、前記複数の圧電素子からの前記第1の信号が、透過表面波であるか反射表面波であるかを判別する判別ステップを有し、前記判別ステップでの結果に応じた位置に前記複数の圧電素子を移動し第2の位置に設置する第2回圧電素子設置ステップと、前記第2回圧電素子設置ステップの後に、レーザ超音波発生装置により、測定対象に広帯域の周波数を有する超音波を発生させる第2回超音波発生ステップと、前記第2回超音波発生ステップにおいて前記複数の圧電素子からの第2の信号を取得し、前記第2の信号のレベルを比較して、前記測定対象中の欠陥の規模を推定する第2回欠陥推定ステップと、前記第1回欠陥推定ステップおよび前記第2回欠陥推定ステップの結果から、前記欠陥の位置を推定する欠陥位置推定ステップと、を有することを特徴とする。

【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の構成を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の変形例の構成を示すブロック図である。
図3】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の第1の欠陥の場合の作用を説明する概念的ブロック図である。
図4】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の第2の欠陥の場合の作用を説明する概念的ブロック図である。
図5】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の第3の欠陥の場合の作用を説明する概念的ブロック図である。
【0013】
図6】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の手順を示すフロー図である。
図7】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置において透過表面波を用いる場合の構成を示すブロック図である。
図8】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の透過表面波を用いる場合の圧電素子で受信する波形を示す波形図である。
図9】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の透過表面波を用いる場合の欠陥深さとエコー強度の関係を示すグラフ波形図である。
図10】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置において反射表面波を用いる場合の構成を示すブロック図である。
図11】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の反射表面波を用いる場合の圧電素子で受信する波形を示す波形図である。
図12】第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の反射表面波を用いる場合の欠陥深さとエコー強度の関係を示すグラフ波形図である。
図13】第2の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の構成を示すブロック図である。
図14】第3の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の構成を示すブロック図である。
図15】第4の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るレーザ超音波計測装置およびレーザ超音波計測方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重畳する説明は省略する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の構成を示すブロック図である。
【0016】
レーザ超音波計測装置100は、レーザ超音波発生装置10、圧電素子20、および欠陥推定部30を有する。
【0017】
レーザ超音波発生装置10は、パルスレーザ光源11、光ファイバ入射機構12、照射プローブ13、光ファイバ15を有する。レーザ超音波発生装置10の発生する超音波は、周波数に幅を有する、すなわち低周波数から高周波数までの広帯域の周波数を有する。なお、周波数の具体的な領域については、検出対象とするき裂を含む欠陥2(図3)のサイズ、具体的には表面からの深さに応じて、これを含む領域を選択する。
【0018】
パルスレーザ光源11として使用するレーザは、例えば、Nd:YAGレーザ、CO2レーザ、Er:YAGレーザ、チタンサファイアレーザ、アレキサンドライトレーザ、ルビーレーザ、色素(ダイ)レーザおよびエキシマレーザなどが挙げられ、これ以外の場合であってもよい。パルスレーザ光源11は1台だけでなく複数台から構成してもよい。
【0019】
パルスレーザ光源11から発振されるパルスレーザ光は、光ファイバ入射機構12を介して光ファイバ15に導入され、照射プローブ13から測定対象1に照射される。
【0020】
圧電素子20は、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23の3つの圧電素子を有する。圧電素子は、超音波探触子と呼ばれるものであり、一般的には、図示はしないが、超音波を発生する機構と、超音波をダンピングするダンピング材と、超音波の発振面に取り付けられた前面板との、いずれかの構成もしくはその組み合わせからなる構成となる。圧電素子20に使用するものは、超音波の発生機構は有さなくともよい。前面板とその支持部等の剛性により、圧電素子の固有振動数である中心周波数が決まる。
【0021】
ここで、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23は、互いに、中心周波数が異なるものを用いる。なお、圧電素子20が3つの圧電素子を有する場合を例にとって示したが、2つ、あるいは4つ以上であってもよい。
【0022】
欠陥推定部30は、複数の圧電素子、すなわち、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23により受信された超音波信号に基づいて、容器3内の液体4に浸漬された測定対象1における欠陥2を推定する。なお、推定の具体的な内容については、後述する。
【0023】
図2は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【0024】
本変形例は、レーザ超音波発生装置10aが、パルスレーザ光源11、反射ミラー14、および光学レンズ16を有し、光ファイバを用いずに、パルスレーザ光源11から発せられたパルスレーザ光の光路を反射ミラー14により反射して方向転換し、光学レンズ16で集光して測定対象1に照射する構成であり、たとえば、このような構成であってもよい。
【0025】
図3は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の第1の欠陥の場合の作用を説明する概念的ブロック図、図4は、第2の欠陥の場合の作用を説明する概念的ブロック図、また、図5は、第3の欠陥の場合の作用を説明する概念的ブロック図である。
【0026】
図3ないし図5において、A、B、Cは、レーザ超音波発生装置10による照射により生じた測定対象1の表面を伝搬する表面波Usに含まれる3種類の波を模式的に示したものであり、表面波A、表面波B、および表面波Cと呼ぶこととする。表面波A、表面波B、および表面波Cは、それぞれ、波長λA、波長λB、および波長λCを有し、波長λA<波長λB<波長λCであるものとする。また、これらに対応する周波数を、それぞれ、周波数fA、周波数fB、および周波数fCとする。したがって、周波数fA>周波数fB>周波数fCである。
【0027】
測定対象1に発生した表面波Usは、測定対象1の表面を伝搬し、測定対象1の表面に欠陥2が存在する場合、その波長に依存して、この欠陥2を透過するか、あるいはこの欠陥2により反射する。
【0028】
すなわち、波長が欠陥2の深さよりも短い表面波Usは、欠陥で反射する。この欠陥で反射する超音波を反射表面波Urと呼ぶものとする。また、波長が欠陥2の深さよりも長い表面波Usは欠陥を通り越し、すなわち透過して伝搬する。この表面波を、透過表面波Utと呼ぶものとする。
【0029】
図3ないし図5を例にとれば、図3は、欠陥2の深さが、表面波Aの波長λAより大きく、表面波Bの波長λBより小さい場合を示しており、この場合は、表面波Aは欠陥2で反射し、表面波Bおよび表面波Cは透過する。図4は、欠陥2の深さが、表面波Bの波長λBより大きく、表面波Cの波長λCより小さい場合を示しており、この場合は、表面波Aおよび表面波Bは欠陥2で反射し、表面波Cのみが透過する。また、図5は、欠陥2の深さが、表面波Cの波長λCより大きい場合を示しており、この場合は、表面波A、表面波Bおよび表面波Cはいずれも欠陥2で反射する。
【0030】
今、図3ないし図5に示すように、測定対象1は、容器3内の液体4に浸漬しており、超音波の送受信は、液体4の中で行われる。このような状態では、測定対象1の表面を伝搬する表面波Us、反射表面波Ur、および透過表面波Utの一部は、水中に漏えいする。以下、反射表面波Urおよび透過表面波Utが水中に漏えいした漏えい波を、それぞれ、反射漏えい波Urwおよび透過漏えい波Utwと呼ぶものとする。この反射漏えい波Urwおよび透過漏えい波Utwを、それぞれ受信可能な位置で圧電素子20が受信する。たとえば、図4の場合であれば、反射漏えい波Urwは、主として表面波Aおよび表面波Bに起因するものであり、透過漏えい波Utwは、主として表面波Cに起因するものとなる。
【0031】
図6は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の手順を示すフロー図である。
【0032】
まず、測定対象1に超音波を発生させるレーザ超音波発生装置10を設置する(ステップS10)。
【0033】
次に、第1回測定を行う(ステップS20)。第1回測定ステップS20は、3つのステップを有する。
【0034】
すなわち、まず、互いに周波数の異なる複数の圧電素子として、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23を第1の位置P1(図7)に設置する(ステップS21)。
【0035】
図7は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置において透過表面波を用いる場合の構成を示すブロック図である。
【0036】
第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23が設置されている第1の位置P1は、測定対象1の欠陥2を挟んで、レーザ超音波発生装置10により照射される位置P0の反対側にある。ただし、この段階では、第1の位置P1と欠陥2の位置の関係は不明である。
【0037】
次に、レーザ超音波発生装置10により、測定対象1に広帯域の周波数を有する超音波を発生する(ステップS22)。この結果、測定対象1の表面に表面波Usが発生する。位置P1においては、主に、透過漏えい波Utwが受信される。
【0038】
次に、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23のそれぞれからの信号を取得し、これらの信号レベルを比較する(ステップS23)。
【0039】
図8は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の透過表面波を用いる場合の圧電素子で受信する波形を示す波形図である。縦方向には、上側から下側に向かって、第1の圧電素子21からの高周波、第2の圧電素子22からの高周波、および第3の圧電素子23からの高周波のそれぞれの波形が示されている。また、左右に並んだ波形図の左側に第1の欠陥の場合が、右側に第2の欠陥の場合が、それぞれ示されている。
【0040】
第1の欠陥の場合の波形と第2の欠陥の場合の波形とを比較すると、第1の圧電素子21からの高周波の波形の強さはいずれも小さく差異がない。第2の圧電素子22からの高周波の波形の強さは、第1の欠陥の場合は、右側の第2の欠陥の場合に比べて小さくなっている。また、第3の圧電素子23からの高周波の波形の強さはいずれも大きく差異がない。
【0041】
まず、第1の欠陥の場合および第2の欠陥の場合のいずれにおいても、中心周波数fAが高いすなわち対応する波長λAが短い第1の圧電素子21からの高周波の波形の強さより、中心周波数fCが低いすなわち対応する波長λCが長い第3の圧電素子23からの高周波の波形の強さが強いということは、位置P1が透過表面波Utwを計測する位置である、すなわち、欠陥2を挟んで位置P0と反対側の位置であることを意味している。したがって、欠陥2は、位置P0と位置P1の間にあるということが分かる。
【0042】
また、右側の第2の欠陥の場合は、第3の圧電素子23からの高周波のみが透過しているため、き裂の深さは、第2の圧電素子22の中心周波数fBに対応する波長λBより深く、かつ、第3の圧電素子23の中心周波数fCに対応する波長λCより浅いことが分かる。
【0043】
また、左側の第1の欠陥の場合は、第1の圧電素子21からの高周波のみが反射しているため、き裂の深さは、第1の圧電素子21の中心周波数fAに対応する波長λAより深く、かつ、第2の圧電素子22の中心周波数fBに対応する波長λBより浅いことが分かる。
【0044】
このように、欠陥2の深さおよび位置の概略を推定することができる。
【0045】
図9は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の透過表面波を用いる場合の欠陥深さとエコー強度の関係を示すグラフ波形図である。横軸は、計測対象1に形成された欠陥2の深さである。また、縦軸は、欠陥を透過した透過表面波を圧電素子で計測した場合のエコー強度である。圧電素子は、破線が第1の圧電素子21、一点鎖線が第2の圧電素子22、実線が第3の圧電素子23である。
【0046】
形成する欠陥深さを連続的に増加させると、それぞれの透過表面波Utwは、単調に減少する。特に、欠陥の大きさが、それぞれの波長の近傍にあるときに、減少の傾きが大きくなる。
【0047】
この透過表面波の減少特性図をあらかじめ作成しておくことによって、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22および第3の圧電素子23からのエコー信号のレベルの相対比を得て、この減少特性図と比較することにより、欠陥2の深さをさらに精度よく推定することができる。
【0048】
以上の第1回測定の次に、第2回測定を行う(ステップS30)。第2回測定ステップS30も、3つのステップを有する。
【0049】
まず、互いに中心周波数の異なる複数の圧電素子として、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23を第2の位置P2(図10)に設置する(ステップS31)。
【0050】
図10は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測装置において反射表面波を用いる場合の構成を示すブロック図である。
【0051】
第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23が設置されている第2の位置P2は、測定対象1の欠陥2を挟んで、位置P1の反対側である。これは、第1回測定のステップS23において、第1の位置P1が欠陥2を挟んで位置P0と反対側の位置である、すなわち、欠陥2は位置P0と位置P1の間にあるということが分かったことによる。この場合は、さらに、欠陥2の位置の推定精度を上げるために、位置P0と位置P1との間に、位置P2を設定する。説明の都合上、位置P2は、漏えい反射波Urwを検知可能な位置であるものとする。
【0052】
次に、レーザ超音波発生装置10により、測定対象1に広帯域の周波数を有する超音波を発生する(ステップS32)。この結果、測定対象1の表面に表面波Usが発生する。位置P2においては、主に、反射漏えい波Urwが受信される。
【0053】
次に、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22、および第3の圧電素子23のそれぞれからの信号を取得し、これらの信号レベルを比較する(ステップS33)。
【0054】
図11は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の反射表面波を用いる場合の圧電素子で受信する波形を示す波形図である。縦方向には、上側から下側に向かって、第1の圧電素子21からの高周波、第2の圧電素子22からの高周波、および第3の圧電素子23からの高周波のそれぞれの波形が示されている。また、左右に並んだ波形図の左側に第1の欠陥の場合が、右側に第2の欠陥の場合が、それぞれ示されている。
【0055】
第1の欠陥の場合の波形と第2の欠陥の場合の波形とを比較すると、第1の圧電素子21からの高周波の波形の強さはいずれも大きいが、第1の欠陥の場合の方が大きい。第2の圧電素子22からの高周波の波形の強さは、第1の圧電素子21からの高周波の波形の強さよりは小さく、また、第1の欠陥の場合は、右側の第2の欠陥の場合に比べて大きくなっている。また、第3の圧電素子23からの高周波の波形の強さはいずれも小さく差異がない。
【0056】
まず、第1の欠陥の場合および第2の欠陥の場合のいずれにおいても、中心周波数fAが高いすなわち対応する波長λAが短い第1の圧電素子21からの高周波の波形の強さが、中心周波数fCが低いすなわち対応する波長λCが長い第3の圧電素子21からの高周波の波形の強さより大きいということは、位置P1が反射表面波Urwを計測する位置である、すなわち、欠陥2と位置P0との間の位置であることを意味している。したがって、欠陥2は、位置P2と位置P1の間にあるということが分かる。
【0057】
また、右側の第2の欠陥の場合は、第3の圧電素子23からの高周波の反射がほとんどないこと、また、第2の圧電素子22からの高周波の反射も小さいことから、第1の圧電素子21の中心周波数fAに対応する波長λAより深く、かつ、第2の圧電素子22の中心周波数fBに対応する波長λBより浅いことが分かる。
【0058】
また、左側の第1の欠陥の場合は、第3の圧電素子23からの高周波の反射のみが小さいことから、き裂の深さは、第2の圧電素子22の中心周波数fBに対応する波長λBより深く、かつ、第3の圧電素子23の中心周波数fCに対応する波長λCより浅いことが分かる。
【0059】
このように、欠陥2の深さおよび位置の概略を推定することができる。
【0060】
図12は、第1の実施形態に係るレーザ超音波計測方法の反射表面波を用いる場合の欠陥深さとエコー強度の関係を示すグラフ波形図である。横軸は、測定対象1に形成された欠陥の深さである。また、縦軸は、欠陥で反射した反射表面波を圧電素子で計測した場合のエコー強度である。圧電素子は、破線が第1の圧電素子21、一点鎖線が第2の圧電素子22、実線が第3の圧電素子23である。
【0061】
この反射表面波の減少特性図をあらかじめ作成しておくことによって、第1の圧電素子21、第2の圧電素子22および第3の圧電素子23からのエコー信号のレベルの相対比を得て、この減少特性図と比較することにより、欠陥2の深さをさらに精度よく推定することができる。
【0062】
なお、第1回測定のステップS20において、欠陥2の位置が十分に把握可能の結果が得られている場合には、この第2回測定のステップS30は不要である。また、第2回測定のステップS30の結果が、第1回測定のステップS20の結果と同様、すなわち、たとえば、両者とも、透過漏えい波を検出していた場合、位置P2の位置P0からの距離がまだ大きい場合には、さらに、位置P2と位置P0との間に、圧電素子20を移動させて、さらなる測定を実施してもよい。
【0063】
ステップS30の第2回測定の次に、表面欠陥サイズ、位置の評価、判定を行う(ステップS40)。すなわち、第1回測定および第2回測定の結果の整合性を含めて、総合的に確認し、欠陥2の深さ、位置の推定を確実なものとする。
【0064】
以上のように、本実施形態によって、レーザ超音波探傷において、周波数解析を行うことなく表面欠陥の深さに関する情報を取得することができる。
【0065】
[第2の実施形態]
図13は、第2の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本実施形態に係るレーザ超音波計測装置100は、送受信位置調整部40をさらに有する。
【0066】
送受信位置調整部40は、送受信ユニット筐体41および送受信ユニット駆動部42を有する。
【0067】
送受信ユニット筐体41は、照射プローブ13および圧電素子20を収納する。送受信ユニット駆動部42は、送受信ユニット筐体41を移動駆動する。
【0068】
照射プローブ13および圧電素子20は、測定対象1の表面形状、例えば欠陥2がき裂の場合、そのき裂の進展方向などにより、設置位置を調整する必要がある。そのため、送受信位置調整部40を設け、照射プローブ13および圧電素子20の位置を調整する。例えば、上下、左右、前後の3軸の位置調整に加え、測定対象1に対する照射プローブ13の照射方向、圧電素子20のセンサ面の方向などを調整することができるようにする。例えば、送受信位置調整部40にロボットアームなどを用いることで、測定対象1の形状が複雑であっても所定の位置の検査を容易に行うことができる。
【0069】
[第3の実施形態]
図14は、第3の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の構成を示すブロック図である。
【0070】
本実施形態では、圧電素子20は、複数の第1の圧電素子21および複数の第2の圧電素子22を有する。第1の圧電素子21および第2の圧電素子2の中心周波数の異なる2種類の圧電素子が、同一円周上に交互に配されている。圧電素子20が配列されているこの円周は、パルスレーザ光が照射される位置P0を含み、測定対象1の表面に垂直な直線L0を中心した円周である。
【0071】
このように圧電素子を設置した場合、パルスレーザ光によって測定対象1の表面に励起された表面波Usは、パルスレーザ光の照射点P0を中心に径方向の外側に伝搬していく。圧電素子20に到達する水中漏洩波Utwは、複数のモードの超音波が異なる経路を取りうるため、例えば、欠陥位置から発生する水中漏洩波、欠陥を透過した透過表面波からの水中漏洩波などが検出される。圧電素子20を円環上に広げて配置することで、それぞれの圧電素子20により検出された超音波波形を解析し、測定範囲内の欠陥の有無を知ることができる。さらに、欠陥からのエコーが得られる時間の違い、透過表面波の検出有無により、欠陥位置、欠陥深さの情報を得ることも可能となる。なお、圧電素子群の数、圧電素子の配置における順序は、この限りでない。また、楕円形、半円形などの配置形態をとっても良い。
【0072】
[第4の実施形態]
図15は、第4の実施形態に係るレーザ超音波計測装置の構成を示すブロック図である。
【0073】
本実施形態においては、パルスレーザの照射側にシリンドリカルレンズ17を有する。また、圧電素子20は、複数の第1の圧電素子21および複数の第2の圧電素子22を有する。複数の第1の圧電素子21および複数の第2の圧電素子22は、シリンドリカルレンズ17から径方向外側に向かう直線上に、第1の圧電素子21および第2の圧電素子22が交互に一列に配されている。なお、圧電素子20がシリンドリカルレンズ17からみて一方のみに配されているが、両側に設けてもよい。
【0074】
パルスレーザ光により測定対象1の表面に励起された表面波Usは、照射点P0から図中では左右方向に伝搬していく。これに対して、圧電素子20を列状に配置することで、表面波Usが伝搬した範囲からの水中漏洩波Uwの信号を受信することができる。
【0075】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0076】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0077】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0078】
1…測定対象、2…欠陥、3…容器、4…液体、10、10a…レーザ超音波発生装置、11…パルスレーザ光源、12…光ファイバ入射機構、13…照射プローブ、14…反射ミラー、15…光ファイバ、16…光学レンズ、17…シリンドリカルレンズ、20…圧電素子、21…第1の圧電素子、22…第2の圧電素子、23…第3の圧電素子、30…欠陥推定部、40…送受信位置調整部、41…送受信ユニット筐体、42…送受信ユニット駆動部、100…レーザ超音波計測装置
図1
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図10
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