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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】シリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20230411BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61M5/315 510
A61M5/31 530
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019049571
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020150998
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】坂口 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 速雄
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特表昭57-501762(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111539(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第0037920(EP,A1)
【文献】特開平8-266624(JP,A)
【文献】特開昭61-113431(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147018(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156183(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口した筒先が先端壁に設けられ、且つ開口部が後端に設けられた筒状のシリンジ本体と、前記シリンジ本体の内部で気密に前後摺動するガスケットと、前記ガスケットに接続されたプランジャと、を有するシリンジであって、
前記ガスケットの内容物押出面に、前記筒先に嵌合する突起部を備え、前記突起部は先端に向かってテーパー状に縮径し、
前記ガスケットは弾性材料を用いて作製されたものであり、
前記内容物押出面と前記先端壁の内面とが当接していない状態において、前記内容物押出面と前記先端壁の内面との前記シリンジ本体の側壁と平行な直線距離のうち、前記内容物押出面の外端と前記先端壁の内面の端部との直線距離が最も短く、
前記ガスケットを前記先端壁の内面方向に摺動させ、前記内容物押出面の前記外端と前記先端壁の内面の前記端部とが当接した後、さらに前記ガスケットの摺動を続けると、前記ガスケットが弾性変形して、前記先端壁の内面に当接する構成である、
シリンジ。
【請求項2】
前記ガスケットの前記突起部が、前記筒先に嵌合した際に少なくとも前記筒先の最先端まで到達する長さを有する、請求項1に記載のシリンジ。
【請求項3】
前記シリンジ本体の前記先端壁は、前記筒先に向かって前記筒先を備える方向側にテーパー状に縮径した形状であり、さらに、前記ガスケットの、前記外端を含む領域を除く前記内容物押出面は、前記突起部を備える位置に向かって前記先端壁の内面方向側にテーパー状に縮径した形状である、請求項1または2に記載のシリンジ。
【請求項4】
前記ガスケットがシリコーンゴムまたはフッ素ゴムを用いて作製されたものであり、且つ前記シリンジ本体の側壁内面に摺動性を高める加工がされている、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項5】
前記筒先が前記先端壁の中心からオフセットされた位置に設けられ、前記突起部が前記筒先に嵌合するように前記内容物押出面の中心からオフセットされた位置に設けられ、さらに、前記シリンジ本体および前記ガスケットに、摺動時に前記ガスケットが回転することを防ぐ回転規制部を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用途などに用いられるシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療用途を中心として様々な形状および構造のシリンジが流通している。その基本的な構造としては、先端に内容物出入口である開口が設けられ、後端にも開口が設けられたシリンジ本体と、このシリンジ本体内部を長手方向に摺動するガスケットと、このガスケットに接続されたプランジャとを備え、プランジャを押圧することにより先端の開口から内容物を押し出す構造となっている。
【0003】
そして、例えば特許文献1には、先端に設けられた薬液出入口および後端に設けられた開口を有するバレル(シリンジ本体)と、先端側に設けられてバレルの内周面と摺動するガスケット部、後端に設けられたフランジ部、および、該ガスケット部と該フランジ部とを結ぶ軸部を含むプランジャとを備え、このプランジャは、軸部の外周側に付設されて目盛が付された補助目盛部材をさらに含み、目盛においては、バレルの後端と重なる目盛が、バレルの内部に収容されている薬液量またはバレルの内部に収容された薬液の投与量を表示するように付されていることを特徴とする、所望の液量の薬液を吸入または投与可能であり、かつ、片手で把持した状態で薬液を容易に吸入できるシリンジが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/156183号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のシリンジ等において、シリンジ本体内の内容物を排出するためにガスケットによって押し出しを行うと、シリンジの先端部とガスケットとの隙間(デッドスペース)などにこの内容物が残存し、内容物を完全に排出することが難しい場合がある。このため、薬剤(薬液)等の内容物について、シリンジ本体内部に内容物が残留する可能性を考慮してシリンジ注入量を検討する必要があった。特に、再生医療の分野において幹細胞などを用いる場合には、高価な幹細胞などがシリンジ本体内部に残ってしまうと、コスト面などにおいて大きなデメリットとなる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、シリンジ内のデッドスペースが少なく、内容物排出の際に、内容物がシリンジ内部に残留しにくいシリンジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシリンジは、開口した筒先が先端壁に設けられ、且つ開口が後端に設けられた筒状のシリンジ本体と、このシリンジ本体の内部で気密に前後摺動するガスケットと、このガスケットに接続されたプランジャと、を有するシリンジであって、ガスケットの内容物押出面に、筒先に嵌合する突起部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るシリンジは、シリンジ内のデッドスペースが少なく、内容物排出の際に、内容物がシリンジ内部に残留しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るシリンジを示す断面図である。
図2】本実施形態に係るシリンジのガスケットおよびプランジャの斜視図である。
図3】本実施形態に係るシリンジの先端部の拡大断面図である。
図4】本実施形態に係る、先端方向に向かってテーパー状に縮径している突起部を備えるガスケットを有するシリンジの先端部の拡大断面図である。
図5】本実施形態に係る、シリンジ本体の筒先およびガスケットの突起部がその中心からオフセットされた位置に備えられたシリンジの先端部の拡大断面図である。なお、(a)はシリンジの長手方向における断面図であり、(b)はシリンジの短手方向における断面図((a)のA-Aにおける断面図)である。
図6】本実施形態に係る、ガスケットとシリンジ本体の先端壁との直線距離が、ガスケット端部において最も短いガスケットを有するシリンジの先端部の拡大断面図である。
図7】本実施形態に係る、ガスケットとシリンジ本体の先端壁との直線距離が、ガスケット端部において最も短いガスケットを有するシリンジである別の変形例の先端部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るシリンジの実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。なお、いずれの図面についても、便宜上、符号を付していない(省略している)箇所がある。
【0011】
<概要>
まず、本実施形態に係るシリンジの概要について、図1から図7の符号を参照して説明する。なお、図1は、本実施形態に係るシリンジ全体を示す模式的な断面図である。また、図2は本実施形態に係るシリンジのガスケットおよびプランジャの斜視図であり、図3から図7は、本実施形態に係るシリンジの先端部を拡大して示す模式的な拡大断面図である。
ここで、本実施形態に係るシリンジにおける「先端部」とは、シリンジにおける内容物を注入または排出する筒先を備える側を先端側とした場合において、シリンジの長手方向の長さの先端側1/3の領域が「先端部」である。
【0012】
本実施形態に係るシリンジは、筒状であるシリンジ本体1と、このシリンジ本体1の内部で気密に前後摺動するガスケット11と、このガスケット11に接続されたプランジャ21とを有する。
そして、シリンジ本体1には、開口した筒先5がその先端壁3に設けられ、且つ開口部7が後端に設けられている。また、ガスケット11は、その内容物押出面15に、ガスケット11を摺動させてシリンジ本体1の先端壁3の内面側に内容物押出面15を当接させたときに筒先5と嵌合する突起部13を備えている。
上記構成によれば、ガスケット11によってシリンジ本体1の内容物を筒先5から押し出して排出した時に、シリンジ本体1内部のデッドスペースが少ないため、この内容物がシリンジ本体1の内部に残留しにくくなる。なお、この内容物としては、受精卵、細胞、血清、抗体等の生体試料が好適例として示される。
【0013】
<全体構成について>
本実施形態に係るシリンジの全体構成について、図1から図3を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係るシリンジ全体を示す模式的な断面図であり、筒状のシリンジ本体1と、この内部で気密に前後摺動するガスケット11と、このガスケット11に接続されたプランジャ21とを有する。
【0015】
このシリンジ本体1は、その内部に薬液等を収容可能な部材であり、内容物出入口である開口した筒先5がその先端壁3(シリンジ本体1の先端側の壁面)に設けられ、且つガスケット11を装入するための開口部7が後端(先端側とは反対側の端)に設けられている。そして、その形状は筒状であれば特に限定されないが、内部のデッドスペースをより低減し、内容物をシリンジ本体1の内部により残留しにくくするという点から、シリンジ本体1および筒先5は円筒状であることが好ましい。なお、通常、シリンジ本体1の筒先5には、注射針やカテーテルなどの器具を接続して使用する。つまり、この筒先5は、注射針や他の医療機器と接続する接続部材でもある。
【0016】
そして、ガスケット11は、筒状のシリンジ本体1の側壁4(先端壁3の外周と接する、筒状であるシリンジ本体1の側面の壁)内面に当接し且つ内容物を押し出すことができる形状であれば良い。例えば、シリンジ本体1の内径と同じ外径を有する円盤状や、さらに後述する突起部13を備える位置に向かってテーパー状に縮径した形状(テーパー率は例えば50/100から300/100程度)などが例示される。また、摺動性向上のために、シリンジ本体1の側壁4内面との当接面に気密状態(液密状態)を保つことができる1以上の微細な溝を有していても良い。このガスケット11が、シリンジ本体1の内部において気密状態(液密状態)を保ちながらシリンジ本体1の長手方向において前後摺動し、この前後摺動によって、シリンジ本体1の筒先5から薬剤等を内部に吸入したり、吸入した薬剤等(内容物)を筒先5から排出したりすることができる。また、図1から図3に示すように、ガスケット11には、その内容物押出面15をシリンジ本体1の先端壁3内面側に当接させた時に筒先5に嵌合する突起部13が、この内容物押出面15に備えられている。
【0017】
さらに、このガスケット11には、人の手などによってガスケット11を摺動させるためのプランジャ21が接続されている。このプランジャ21は、ガスケット11と接続できるものであれば、その形状や使用材料について特段限定されるものではない。例えば、図2に示すような、樹脂製であって、プランジャ21の中心軸から放射状に突出した、互いに直交する(横断面が十字形状である)2つの板状部23と押し出しに用いるフランジ部25とを有する形状などが好適例として示される。この板状部23は、2つが直交されている形状に限定されず、3つあるいは4つの板状部23が交差して(例えば同じ開き角度で交差して)プランジャ21の中心軸から放射状に突出する構成としても良い。このような構成であると、プランジャ21の剛性を確保しながら使用材料の削減を図ることができる。そして、シリンジ本体1にも図1に示すようなウィング部9が備えられていると、2本の指によってこのウィング部9を支持しながら、親指によってフランジ部25を押すことによって、シリンジを片手で操作することが可能となる。
【0018】
なお、このガスケット11は弾性材料を用いて作製されているのが好ましく、特に、ガスケット11がシリコーンゴムまたはフッ素ゴム(これらをいずれも用いる場合を包含する)を用いて作製され、且つ、少なくともシリンジ本体1の側壁4内面に、この内面が未処理の場合よりも摺動性を高める加工がされていることがより好ましい。さらに、ガスケット11の表面にも、この表面が未処理の場合よりも摺動性を高める加工がされていても良い。ガスケット11の摺動がよりスムーズとなり、シリンジ本体1に収容されている内容物を押し出して排出する際に、内容物により損傷を与えにくいからである。これら以外の弾性材料としては、例えば、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムや、熱可塑性エラストマーなどが示される。ガスケット11がこのような弾性材料を用いて作製される場合には、ガスケット11の外径はシリンジ本体1の内径よりも僅かに大きくしても良い。また、摺動性を高める加工としては、シリコーン加工、フッ素樹脂加工、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂加工等の樹脂加工や、表面粗さを小さくする表面処理、潤滑油(シリコーンオイル等)の使用などが例示される。
【0019】
ここで、本発明において「弾性材料」とは、シリンジ本体1よりも柔軟な材料であり且つ保形性を有する軟質な弾性材料を意味する。また、「弾性材料を用いて作製されたもの」とは、弾性材料を主成分として作製されたものであることを意味し、他の成分が副成分として用いられる態様も包含される。なお、主成分とは、当該成分の含有率が70質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上であることを意味する。
【0020】
また、シリンジ本体1の寸法や、ガスケット11およびプランジャ21の寸法は、使用目的やシリンジ本体1の内部へ吸入する薬液等の量などによって可変であるため一概にはいえないが、例えば、シリンジ本体1の筒先5から後端の開口部7までの長さが5cmから20cm程度(内容量としては1mLから10mL程度)が示される。そして、ガスケット11の突起部13の先端からプランジャ21のフランジ部25までの長さは、シリンジ本体1の寸法よりも1cmから2cm程度長いのが好適である。
【0021】
<突起部の構成について>
本実施形態に係るシリンジのガスケット11に備えられた突起部13の構成について、図3から図5を参照して詳細に説明する。
【0022】
本実施形態に係るシリンジのガスケット11に備えられた突起部13は、シリンジ本体1の先端壁3に設けられた筒先5と嵌合する。したがって、突起部13の形状は筒先5の内部に収容可能な形状であり、例えば図1図3に示すように、筒先5の内部形状と同じ形状であっても良い。また、この突起部13は、ガスケット11の内容物押出面15においてシリンジ本体1の筒先5と嵌合できる位置に備えられている必要がある。
そして、図3に示すように、シリンジ本体1の内容物を押し出して排出する際に、突起部13が筒先5の最先端まで挿入されて内容物をより残りにくくするために、この突起部13は、筒先5に嵌合した際に少なくとも筒先5の最先端まで到達する長さを有すること、つまり筒先5の最先端まで到達する長さあるいはこの筒先5の最先端を超える長さを有することが好ましい。
【0023】
さらに、この突起部13は、シリンジ本体1の内容物を押し出して排出する際に、内容物の排出流路が確保されやすく、排出の際に内容物に損傷をより与えにくくするために、図4に示すような、突起部13が筒先5に向かってテーパー状に縮径している形状であっても良い。そして、このような突起部13のテーパー率は、10/100から30/100程度が好適例として示される。この場合において、筒先5もテーパー状となっていても良いが、内容物の排出流路をより確保し易くするためには、筒先5はテーパー状ではない(内径が一定である)筒状であるのが好ましく、そして、内容物が筒先5の中により残りにくくするために、図4に示すように、テーパー状である突起部13は筒先5の最先端を超える長さを有するのが好ましい。
【0024】
ここで、本実施形態に係るシリンジにおける内容物の排出流路とは、プランジャ21を押圧した際に、ガスケット11の摺動が止まる前における、ガスケット11の内容物押出面15および突起部13と、シリンジ本体1の内部および筒先5との間に生じる隙間を意味し、ガスケット11をシリンジ本体の先端壁3方向に摺動させていくと、徐々にこの隙間が狭くなっていくが、突起部13をテーパー状とすることで、ガスケット11の摺動が止まる直前まで内容物の排出流路が確保されるため好ましい。
【0025】
なお、図3図4に示すような、筒先5がシリンジ本体1の先端壁3の中心部分に設けられている中口シリンジの場合には、この突起部13はガスケット11の内容物押出面15の中心部分に設ければ良いが、図5に示すような、筒先5がシリンジ本体1の先端壁3の中心部分からオフセットされた位置に設けられている横口シリンジの場合には、この突起部13を筒先5と嵌合できる位置、つまり内容物押出面15の中心からオフセットされた位置に設ける必要がある。さらに、この横口シリンジの場合には、ガスケット11が摺動時に回転して、突起部13と筒先5の位置がずれることを防ぐために、シリンジ本体1およびガスケット11に回転規制部31を設けるのが好ましい。この回転規制部31としては、図5(a)(シリンジの長手方向における断面図)および図5(b)((a)のA-Aにおける断面図)に示すような、シリンジ本体1の側壁4の内面側に突出し且つシリンジの長手方向に延在するように設けられたガイドレールと、このガイドレールと嵌合する、ガスケット11側面においてシリンジの長手方向に設けられた溝などが例示される。このような回転規制部31は、ガスケット11のシリンジ本体1内周方向への回転を禁止することが可能な部材である。
上記構成により、横口シリンジであっても、ガスケット11の突起部13がシリンジ本体1の筒先5に確実に嵌合し、シリンジ内のデッドスペースが少なく、排出の際に内容物がシリンジ内部に残りにくいシリンジとすることができる。
【0026】
<ガスケットの構成について>
本実施形態に係るシリンジのガスケット11の構成について、図6および図7を参照して詳細に説明する。
【0027】
ガスケット11は、前述したように、シリンジ本体1の内部で気密に前後摺動するような形状であり、弾性材料を用いて作製されているのが好ましい。そして、このガスケット11をシリンジ本体1の先端壁3方向に摺動させ、ガスケット11の内容物押出面15とシリンジ本体1の先端壁3の内面側が当接して内容物を完全に排出する。
【0028】
ここで、このガスケット11が弾性材料を用いて作製され且つ突起部13が上記したテーパー状である場合、図6および図7に示すように、内容物押出面15と先端壁3の内面側とが当接していない状態において、内容物押出面15と先端壁3の内面側とにおけるシリンジ本体1の側壁4と平行な直線距離(図6および図7において両矢印により示した距離)のうち、内容物押出面15の外端(ガスケット外端17)と先端壁3の内面側の端部との直線距離が最も短く、ガスケット11を先端壁3の内面方向に摺動させ、内容物押出面15の外端と先端壁3の内面の端部とが当接した後、さらにガスケット11の摺動を続けると、ガスケット11が弾性変形して、例えば内容物押出面15の外端から内側に向かって、先端壁3の内面に当接する構成であるのがより好ましい。なお、図6および図7においては、理解を容易にするために、ガスケット11の全体の大きさに対するガスケット端部17の大きさを実際より大きく示している。
上記構成によれば、ガスケット11の内容物押出面15の外端(ガスケット外端17)、つまりシリンジ本体1の側面側から、内容物をガスケット11がかき出すように排出するため、テーパー状の突起部13と筒先5との間などに生じる排出流路から内容物を効率的に排出する構成となり、内容物排出の際に損傷をより与えにくく、且つシリンジ本体1の内部に内容物がより残りにくい。
【0029】
このガスケット外端17は、上記構成を満たすために、例えば、図6に示すような、シリンジ本体1の先端壁3方向に向かってガスケット外端17がエッジ立ちなどによって僅かに盛り上がっている形状や、図7に示すような、ガスケット11の内容物押出面15が、シリンジ本体1の先端壁3方向とは反対の方向にわずかに湾曲し、ガスケット端部17がわずかに盛り上がっている形状などが示される。特に、シリンジ本体1の先端壁3が筒先5に向かってテーパー状に縮径している形状である場合には、ガスケット11は図6に示すような形状であるのが好ましく、シリンジ本体1の先端壁3が側壁4と垂直な平面である場合には、ガスケット11は図7に示すような形状であるのが好ましい。
【0030】
なお、図6および図7に示す実施形態では、ガスケット端部17以外の内容物押出面15は、先端壁3の内面側とのシリンジ本体1の側壁4と平行な直線距離が、このガスケット外端17とシリンジ本体1の先端壁3内面側の端部との上記した平行な直線距離よりも僅かに長くなっており、このエッジ状のガスケット外端17によってシリンジ本体1の側壁4側(外側)からガスケット11が当接し、内容物をかき出すような構成となっている。
【0031】
ここで、ガスケット外端17と先端壁3の内面側の端部との上記した平行な直線距離に対する、ガスケット端部17以外の内容物押出面15と先端壁3の内面側との上記した平行な直線距離の長さの比率は、限定されるものではないが、1倍超から2倍程度であるのが好ましく、1倍超から1.5倍程度であるのがより好ましい。また、ガスケット外端17から突起部13に向かって上記した平行な直線距離が徐々に長くなるような構成であるのがより好ましい。シリンジ本体1の内容物がよりスムーズにかき出し易くなるからである。
【0032】
<変形例について>
本実施形態に係るシリンジのさらなる変形例について説明する。
【0033】
本実施形態に係るシリンジは、限定されるものではないが、内容物の排出をよりスムーズとするために、中口シリンジおよび横口シリンジにおいて、シリンジ本体1の先端壁3が上記したような筒先5に向かってテーパー状となっていることが好ましい。そして、筒先5は、注射針やチューブなどを接続するための接続部(嵌合によりロックするロック機構や、掛止部など)を備えていても良い。
【0034】
また、本実施形態に係るシリンジは、上記したように筒先5がシリンジ本体1の先端壁3の中心部分からオフセットされた位置に設けられている横口シリンジであっても良いが、この横口シリンジである場合においても、前述したような、ガスケット11が、その内容物押出面15と先端壁3の内面側とにおけるシリンジ本体1の側壁4と平行な直線距離のうち、ガスケット外端17と先端壁3の内面側の端部との直線距離が最も短い構成とすることもできる。
【0035】
さらに、シリンジ本体1の材質は、ガラス製、樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂など)製のいずれでも良く、また、筒先5については金属製であっても良く、使用するガスケット11の摺動性や内容物などを勘案して適宜設計すれば良い。そして、このシリンジ本体1は、限定されるものではないが、内容物の状態を確認できる程度に透明であっても良く、さらに、その側壁4の外周面に目盛りが付されていても良い。また、その容量も使用目的に応じて任意に選択が可能である。
【0036】
なお、このシリンジ本体1の筒先5に、この筒先5の開口をカバーする着脱可能なキャップが備わっていても良い。このキャップは、シリンジ使用時には脱離させ、シリンジ使用前または使用中断時に装着させるものである。そして、ガスケット11に備わる突起部13が、筒先5と嵌合させたときにその最先端を超える長さを有する場合には、このキャップは、このような突起部13の筒先5を超えた長さ分を覆うことが可能な長さ(深さ)とする。
【0037】
<用途について>
本実施形態に係るシリンジは、その用途は特段限定されず、様々な用途に使用できる。例えば、内容物として薬剤だけでなく、幹細胞や抗体などにも使用可能である。また、生化学試験など、医療用途以外にも使用することができる。
【0038】
以上のような実施形態を含む本発明に係るシリンジは、シリンジ内のデッドスペースが少なく、特に、ガスケットの突起部がテーパー状であって、内容物を外側(ガスケットの端部側)からかき出すような構成であると、幹細胞や抗体などが内容物であっても、排出の際にこの内容物を損傷しにくく、且つこの内容物がシリンジ内部に極めて残りにくい。
【0039】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)開口した筒先が先端壁に設けられ、且つ開口部が後端に設けられた筒状のシリンジ本体と、前記シリンジ本体の内部で気密に前後摺動するガスケットと、前記ガスケットに接続されたプランジャと、を有するシリンジであって、前記ガスケットの内容物押出面に、前記筒先に嵌合する突起部を備える、シリンジ。
(2)前記ガスケットの前記突起部が、前記筒先に嵌合した際に少なくとも前記筒先の最先端まで到達する長さを有する、(1)に記載のシリンジ。
(3)前記ガスケットの前記突起部が、先端に向かってテーパー状に縮径している、(1)または(2)に記載のシリンジ。
(4)前記ガスケットが弾性材料を用いて作製されたものであり、前記内容物押出面と前記先端壁の内面とが当接していない状態において、前記内容物押出面と前記先端壁の内面との前記シリンジ本体の側壁と平行な直線距離のうち、前記内容物押出面の外端と前記先端壁の内面の端部との直線距離が最も短く、前記ガスケットを前記先端壁の内面方向に摺動させ、前記内容物押出面の前記外端と前記先端壁の内面の前記端部とが当接した後、さらに前記ガスケットの摺動を続けると、前記ガスケットが弾性変形して、前記先端壁の内面に当接する構成である、(3)に記載のシリンジ。
(5)前記ガスケットがシリコーンゴムまたはフッ素ゴムを用いて作製されたものであり、且つ前記シリンジ本体の側壁内面に摺動性を高める加工がされている、(1)~(4)のいずれか1つに記載のシリンジ。
(6)前記筒先が前記先端壁の中心からオフセットされた位置に設けられ、前記突起部が前記筒先に嵌合するように前記内容物押出面の中心からオフセットされた位置に設けられ、さらに、前記シリンジ本体および前記ガスケットに、摺動時に前記ガスケットが回転することを防ぐ回転規制部を備える、(1)~(5)のいずれか1つに記載のシリンジ。
【符号の説明】
【0040】
1 シリンジ本体
3 先端壁
4 側壁
5 筒先
7 開口部
9 ウィング部
11 ガスケット
13 突起部
15 内容物押出面
17 ガスケット外端
21 プランジャ
23 板状部
25 フランジ部
31 回転規制部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7