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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】コーティング組成物および処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20230411BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20230411BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230411BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230411BHJP
   B32B 21/08 20060101ALI20230411BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230411BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230411BHJP
   C09D 15/00 20060101ALI20230411BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C09D183/04
B05D1/36 Z
B05D7/00 B
B05D7/00 L
B05D7/24 302B
B05D7/24 302F
B05D7/24 302P
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302Z
B05D7/24 303E
B32B21/08
B32B27/00 101
C09D5/02
C09D15/00
C09D183/02
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2018552909
(86)(22)【出願日】2016-12-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2016082562
(87)【国際公開番号】W WO2017109174
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】1551715-4
(32)【優先日】2015-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(31)【優先権主張番号】62/387,233
(32)【優先日】2015-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518222398
【氏名又は名称】シオオ・フェールクルチュル・エービー
【氏名又は名称原語表記】Sioo Fargkultur AB
【住所又は居所原語表記】Helge Harnemans vag 20,415 24 GOTEBORG,Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ボストレーム、ヘルイェ
(72)【発明者】
【氏名】ゲベルト、ベールイェ
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】門前 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/111556(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系物品を処理するためのコーティング組成物系であって、
少なくとも第1の水性組成物であって、pHが少なくとも10であり、カリウムシリケートを含み、前記カリウムシリケートは1.5ないし32重量%の範囲で存在し、前記カリウムシリケートのシリコン(Si)/カリウム(K)(モル比)が1.2-1.9である第1の水性組成物と、
少なくとも第2の水性組成物であって、以下の化合物のエマルション:
一般式Iのアルコキシシラン化合物:
【化1】
式中、
は、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されており、
およびRは、独立に、直鎖または分枝のアルコキシ基であり、
は、直鎖または分枝のアルコキシ基であるか、または直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されている、および/または
一般式IIのシロキサン化合物:
【化2】
式中、
11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されており、
17およびR18は、ヒドロキシルまたはアミノからなる基から選択される官能基であり、nは0-20である、
および/または
一般式IIIのシロキサン化合物:
【化3】
式中、
21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されている、
を含む第2の水性組成物と
を含むコーティング組成物系。
【請求項2】
前記第1の水性組成物の前記カリウムシリケートのSi/K(モル比)は、1.21.8である、請求項1に記載のコーティング組成物系。
【請求項3】
前記第1の水性組成物の前記カリウムシリケートのSi/K(モル比)は、1.2-1.65である、請求項2に記載のコーティング組成物系。
【請求項4】
前記第1の水性組成物の前記カリウムシリケートのSi/K(モル比)は、1.3-1.65である、請求項3に記載のコーティング組成物系。
【請求項5】
前記第1の水性組成物の前記カリウムシリケートは、4-30重量%の範囲で存在する、請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項6】
さらに、アルコール、エステル、エーテル、およびアミン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される浸透助剤を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項7】
前記浸透助剤は、ジオール、トリオール、テトロールおよび糖アルコール、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択されるポリオールである、請求項6に記載のコーティング組成物系。
【請求項8】
前記第1の水性組成物はさらに、非イオン性界面活性剤、ロジン酸およびアビエチン酸、ならびにこれらの塩、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される界面活性剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項9】
前記非イオン性界面活性剤は、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、フェノールエトキシレート、アミドエトキシレート、グリセリドエトキシレート(大豆油エトキシレートおよびヒマシ油エトキシレート)、脂肪酸エトキシレート、および脂肪酸エトキシレートならびにこれらの任意の組み合わせから選択される、請求項8に記載のコーティング組成物系。
【請求項10】
前記第1の水性組成物はさらに、ナトリウムシリケートを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項11】
前記第1の水性組成物は、ナトリウムシリケートをナトリウム対カリウムのモル濃度の比が9以下で含む、請求項10に記載のコーティング組成物系。
【請求項12】
前記第1の水性組成物は、ナトリウムシリケートをナトリウム対カリウムのモル濃度の比が5以下で含む、請求項11に記載のコーティング組成物系。
【請求項13】
前記第1の水性組成物は、ナトリウムシリケートをナトリウム対カリウムのモル濃度の比が3以下で含む、請求項12に記載のコーティング組成物系。
【請求項14】
は、分枝または直鎖の、飽和または不飽和のC1-18-アルキル基である、請求項1~13のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項15】
は、分枝または直鎖の、飽和または不飽和のC4-12-アルキル基である、請求項14に記載のコーティング組成物系。
【請求項16】
、RおよびRは、独立に、直鎖または分枝のC1-6-アルコキシ基である、請求項1~15のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項17】
11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、直鎖または分枝の、飽和または不飽和のC1-6-アルキル基である、請求項1~16のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項18】
11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、直鎖または分枝の、飽和または不飽和のC1-3-アルキル基である、請求項17に記載のコーティング組成物系。
【請求項19】
21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、直鎖または分枝の、飽和または不飽和のC1-6-アルキル基である、請求項1~18のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項20】
21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、直鎖または分枝の、飽和または不飽和のC1-3-アルキル基である、請求項19に記載のコーティング組成物系。
【請求項21】
前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の0.1ないし60重量%の量で含む、請求項1~20のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項22】
前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の0.3ないし20重量%の量で含む、請求項21に記載のコーティング組成物系。
【請求項23】
前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の0.3ないし18重量%の量で含む、請求項22に記載のコーティング組成物系。
【請求項24】
前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の0.4ないし15重量%の量で含む、請求項23に記載のコーティング組成物系。
【請求項25】
前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の1ないし13重量%の量で含む、請求項24に記載のコーティング組成物系。
【請求項26】
前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の2ないし12重量%の量で含む、請求項25に記載のコーティング組成物系。
【請求項27】
前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の2.5ないし12重量%の量で含む、請求項26に記載のコーティング組成物系。
【請求項28】
前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物は、(トリ)アルコキシシランおよびアルキルシロキサンの群から選択される、請求項1~27のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項29】
前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物は、トリエトキシオクチルシラン、ジメチルシロキサン、およびオクタメチルシクロテトラシロキサン、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択される、請求項28に記載のコーティング組成物系。
【請求項30】
前記第2の水性組成物はさらに、ビニル化合物を含む、請求項1~29のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
【請求項31】
前記第2の水性組成物はビニルアクリレートを含む、請求項30に記載のコーティング組成物系。
【請求項32】
セルロース系物品を準備する工程と、
第1および第2の水性組成物を含む、請求項1~31のいずれか1項に記載のコーティング組成物系を準備する工程と、
前記セルロース系物品に、前記コーティング組成物系の前記第1の水性組成物および前記第2の水性組成物を順次塗布する工程と
を含む、セルロース系物品の処理方法。
【請求項33】
前記コーティング組成物系の前記第1の水性コーティングを、圧力含浸、ブラシ処理、浸漬、吹き付け、ディッピング、注入およびロールコーティングから選択される方法を用いて塗布する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
セルロース系物品の処理用のパーツのキットの使用であって、前記パーツのキットは、請求項1~31のいずれか1項に記載のコーティング組成物系を含む方法。
【請求項35】
請求項1~31のいずれか1項に記載のコーティング組成物系を含む、セルロース系物品。
【請求項36】
請求項32または33に記載の方法によって処理された、セルロース系物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物およびセルロース系材料の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば木製物品を建築材として使用するとき、木製物品の保存は非常に重要である。
【0003】
カビの増殖や昆虫の侵入などから木材を保護することが重要であり、のみならず木材の腐食を防止することが望ましい。さらに、木製物品を、より耐火性にすることが望ましい。
【0004】
この分野においては、通常、セルロース系物品、たとえば木材をアルカリ金属シリケートで処理することが知られている。このような処理の目的は、処理した物品に、石化した木材の構造に似せた構造をもたせることであり、それは石化した木材が長期にわたって非常に安定であることが知られているからである。
【0005】
しかし、ナトリウムシリケートで木材を処理する一般的な方法によって、シリケート処理は水で容易に洗い流される。木製物品が湿った環境で使用されるとき、たとえば木製物品が海洋環境で使用されるとき、このことは特に不都合である。
【0006】
さらに、シリケートで木材を処理するいくつかの一般的な方法は、木材の表面にコーティングを与える。木製物品を処理する場合にこれは不都合であり、それは処理される物品への浸透が望ましく、処理された木製物品のより良好な特性を与えるからである。
【0007】
こうして、水で容易には洗い流されず、撥水性および処理される物品への良好な浸透を示す、セルロース系物品のためのシリケート処理を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、コーティング組成物系およびシリケートによるセルロース系物品の処理方法を提供することに関し、これは耐水性シリケート処理、および改善された浸透性を有する撥水性製品を与える。
【0009】
驚くことに、(i)カリウムシリケートと、(ii)アルコキシシラン化合物および/またはシロキサンと、(iii)浸透助剤との組み合わせによる処理は、望ましい木材処理を提供するのに非常に効率的であることがわかった。
【0010】
本発明の目的は、第1および第2の水性組成物を含むコーティング組成物系を提供することである。
【0011】
本発明は、pHが少なくとも10であり、カリウムを含み、カリウムシリケートが1.5ないし32重量%の範囲で存在し、前記カリウムシリケートのシリコン(Si)対カリウム(K)のモル比が1.2-2.1である、セルロース物品を処理するための第1の水性組成物を提供する。
【0012】
一実施形態によれば、第1の水性組成物の前記カリウムシリケートのSi対Kのモル比は1.2-1.8であり、より好ましくは1.3-1.8である。
【0013】
一実施形態によれば、第1の水性組成物のpHは、少なくとも10であり、たとえば少なくとも10.5または少なくとも10.8である。
【0014】
一実施形態によれば、第1の水性組成物のカリウムシリケートは、4-30重量%の範囲で存在する。
【0015】
一実施形態によれば、第1の水性組成物は、アルコール、エステル、エーテル、およびアミン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される浸透助剤を含む。
【0016】
一実施形態によれば、浸透助剤は、好ましくはジオール、トリオール、テトロールおよび糖アルコール、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択されるポリオールを含む。
【0017】
一実施形態によれば、ポリオールは、アセチレンアルコール、アルキルアルコール、アリールアルコール、およびこれらの任意の組み合わせから選択される。
【0018】
一実施形態によれば、浸透助剤がエーテル、好ましくはポリエーテルである場合、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、ポリフェニルエーテル(PPE)およびポリ(p-フェニレンオキサイド)(PPO)、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択される。
【0019】
一実施形態によれば、第1の水性組成物は、さらに非イオン性界面活性剤、ロジン酸およびアビエチン酸、ならびにこれらの塩、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される界面活性剤を含み、好ましくは、前記非イオン性界面活性剤は、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、フェノールエトキシレート、アミドエトキシレート、グリセリドエトキシレート(大豆油エトキシレートおよびヒマシ油エトキシレート)、脂肪酸エトキシレート、および脂肪族アミンエトキシレートならびにこれらの任意の組み合わせから選択される。
【0020】
一実施形態によれば、用途に応じて、第1の水性組成物は、さらにシリコンフリー消泡剤またはシリコン含有消泡剤から選択される消泡剤を含む。
【0021】
一実施形態によれば、セルロース系物品は、木材、板紙、繊維板、紙、生きた植物、綿、ビスコース、オオバキ繊維、およびこれらの任意の組み合わせの群から選択される。木材は硬材または軟材から選択しうる。軟材は、マツ、セイヨウトネリコ、ヒッコリー、ブナ、カバ、セコイヤ、ヘムロック、マツ、モミ、スギ、トウヒから選択しうる。
【0022】
一実施形態によれば、セルロース系物品は、熱処理木材および硬材の群;好ましくは、高度のタンニン酸を含む硬材から選択され、好ましくはナラ、クリ、マホガニー、チーク、メープル、クルミ、カラマツ材の群から選択される。
【0023】
一実施形態によれば、第1の水性組成物は、さらに、ナトリウムシリケートを、好ましくはナトリウム対カリウムのモル濃度の比が9以下、より好ましくは5以下、最も好ましくは3以下で含む。
【0024】
一実施形態によれば、第1の水性組成物は、さらに、染料および/または色素を含み;好ましくは植物色素、酸化チタンおよび酸化鉄の群から選択され、好ましくは二酸化チタン、酸化第二鉄、酸化第一鉄から選択される。
【0025】
一実施形態によれば、第1の水性組成物は、さらに、植物油、リグニン、セルロース、およびこれらの任意の組み合わせの群から選択される少なくとも一種の添加物を含み、前記第1の組成物に0ないし10重量%の濃度で含まれる。
【0026】
本発明の1つの目的は、セルロース系物品を処理するためのコーティング組成物系を提供することであり、
本明細書に開示した少なくとも第1の水性組成物と、
少なくとも第2の水性組成物であって、以下の化合物のエマルション:
【0027】
一般式Iのアルコキシシラン化合物:
【化1】
式中、
R1は、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されており、
R2およびR3は、独立に、直鎖または分枝のアルコキシ基であり、
R4は、直鎖または分枝のアルコキシ基であるか、または直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されている、
および/または
【0028】
一般式IIのシロキサン化合物:
【化2】
式中、
R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されており、
R17およびR18は、ヒドロキシルまたはアミノからなる基から選択される官能基であり、nは0-20である、
および/または
【0029】
一般式IIIのシロキサン化合物:
【化3】
式中、
R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されている、
を含む第2の水性組成物と
を含む。
【0030】
一実施形態によれば、Rは、分枝または直鎖の、飽和および不飽和のC1-18-アルキル基、好ましくはC4-12-アルキル基である。
【0031】
一実施形態によれば、R、RおよびRは、独立に、直鎖または分枝のC1-6-アルコキシ基である。
【0032】
一実施形態によれば、R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、分枝または直鎖の、飽和または不飽和のC1-6-アルキル基、好ましくはC1-3-アルキル基である。
【0033】
一実施形態によれば、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、分枝または直鎖の、飽和または不飽和のC1-6-アルキル基、好ましくはC1-3-アルキル基である。
【0034】
一実施形態によれば、前記第2の組成物のpHは、少なくとも5であり、好ましくは少なくとも7、より好ましくは7-10、たとえば7-8である。
【0035】
一実施形態によれば、前記第2の組成物のpHは、4-11であり、好ましくは5-10、最も好ましくは6-9.5である。
【0036】
一実施形態によれば、前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の0.1ないし60重量%、好ましくは0.3ないし20重量%、好ましくは0.3ないし18重量%、好ましくは0.4ないし15重量%、好ましくは1ないし13重量%、好ましくは2ないし12重量%、好ましくは2.5ないし12重量%の量で含む。
【0037】
一実施形態によれば、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物は、(トリ)アルコキシシランおよびアルキルシロキサンの群から選択され、好ましくはトリエトキシオクチルシラン、ジメチルシロキサン、およびオクタメチルシクロテトラシロキサン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される。
【0038】
一実施形態によれば、前記第2の水性組成物はさらに、ビニル化合物、好ましくはビニルアクリレートを含む。
【0039】
一実施形態によれば、ビニル化合物は、第2の水性組成物の最大20重量%、好ましくは最大10重量%、より好ましくは最大7重量%の量で、第2の水性組成物に与えられる。
【0040】
一実施形態によれば、前記第2の水性組成物は、さらに、反応性ではないシランおよびその他の成分がセルロース系物品の表面に結合することを可能にするカップリング剤を含むことができる。カップリング剤は少なくとも2つの反応サイトを有するかまたは得ることができる。
【0041】
本発明の1つの目的は、セルロース系物品の処理方法を提供することであり、
セルロース系物品を準備する工程と、
第1および第2の水性組成物を含む、本発明によるコーティング組成物系を準備する工程と、
前記セルロース系物品に、前記コーティング組成物系の前記第1の水性組成物および前記第2の水性組成物を順次塗布する工程と
を含む。
【0042】
一実施形態によれば、前記コーティング組成物系の前記第1の水性コーティングを、圧力含浸、ブラシ処理、浸漬、吹き付け、ディッピング、注入およびロールコーティングから選択される方法を用いて塗布する。
【0043】
本発明の1つの目的は、セルロース系物品の処理用のパーツのキットの使用を提供することであり、前記パーツのキットは、本発明によるコーティング組成物系を含む。
【0044】
本発明の1つの目的は、本発明によるコーティング組成物系を含むか、または本発明の方法によって処理された、セルロース系物品を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、セルロース系材料上のコーティングの特性を改善するコーティング組成物を提供する。本発明のコーティング組成物系は、セルロース系物品の処理に使用することができる組成物のキットである。
【0046】
セルロース系物品、たとえば、それらに限定されないが、木材、繊維板、紙、板紙、および類似のセルロース系材料は、本発明の組成物による処理に適している。生きた植物、たとえば種子も、本発明の組成物で処理しうる。
【0047】
たとえば第1の組成物で木材物品を処理する場合、木材の内部構造が変化し、カリウムシリケートが細胞壁内および細胞壁上で結晶化する。カリウムシリケートは、腐食、カビの増殖および昆虫の侵入から木材を保護し、木材をより耐火性にし、木材の人工的な石化を生じさせる。しかし、このようにして形成されたカリウムシリケートの結晶は、ある程度、水溶性であり、水による過剰な洗浄によって洗い流されるかもしれない。しかし、セルロース系物品のケイ化に加えて、カリウムシリケート処理は木材のようなセルロース系物品の構造を広げもする。
【0048】
第1の組成物は、それが塗布されたセルロース系材料に良好に浸透することができる。本発明の組成物は、通常のコーティング組成物と比べて、良好な接着性、長期効果および外観をもつコーティングを与えることができる。また、通常は十分かつ満足のいく仕方でコーティングすることが非常に難しいセルロース系材料が、たとえば浸透および長期間の接着に関して非常に良好な最終結果で、本発明による組成物でコーティングされうることを特筆すべきである。
【0049】
加えて、組成物はさらに、組成物のシリコン含有モノマー間の相互作用または重合を減少させるかまたはなくす。第1の組成物は、水素結合特性を有する化学薬品を含む。シリケートのモノマーは浸透助剤に水素結合され、よってともに反応するシリケートイオンの量を減少させる。形成された水素結合錯体は、木材に浸透し、その後、セルロースと水素結合される。
【0050】
第1の組成物中に界面活性剤が存在すれば、これらは表面張力を下げる、および/または第1の組成物の疎水相および親水相の乳化を助けることができるであろう。好ましくは、この目的のために非イオン界面活性剤が使用される。これは、低い沈殿速度も与えるであろう。
【0051】
多量の泡立ちが最終生成物の外見に影響するかもしれないので、第1の組成物において消泡剤を使用してもよい。消泡剤の使用は特に、産業的なコーティング用途に対して関心があるであろう。
【0052】
第1および/または第2のコーティング組成物において増粘剤を使用してもよい。第1のコーティング組成物においてこれらを使用すれば、セルロース系材料への浸透は不十分になるが、1回の塗布当たりでセルロース系材料に塗布されるコーティングの量が増加し、よって良好な保護を与えるであろう。
【0053】
カリウムシリケートのシリコン対カリウムの比は、かなり低いことが好ましい。これは、組成物で塗布されたセルロース系物品への浸透に利する。本発明の組成物は、増加した量の利用可能なモノマーを与える。また、ある量の塩基性材料は、より広がったポア構造のセルロース材料を与え、シリケート材料の浸透を助ける。
【0054】
第1の水性組成物に色素を与えてもよい。このような色素は無機および/または有機でよい。色素の例は、酸化チタンおよび酸化鉄である。その例は、TiO、FeOOH、Fe、Fe、およびこれらの任意の組み合わせである。一実施形態では、非常に小さい粒径の二酸化チタンが好ましく、たとえば直径で、最大400nm、好ましくは最大350nmの粒径である。
【0055】
第1の組成物の組成は、セルロース系材料のポアでの気泡形成を減少または除去することを目的とする。
【0056】
第1および/または第2の水性コーティング組成物中にシリカ酸ゾルが存在していてもよい。シリカゾルは安定で、実質的に、球形で、離散的で、非凝集性で、稠密な非晶質シリカ(SiO)の粒子を含む。第1および/または第2の組成物には、直径が約2-200ナノメータ(nm)、たとえば3-100nm、あるいは4-40nmであるシリカゾルが存在していてもよい。コーティング組成物中でのゾルの使用は、より硬く、より耐久性のあるセルロース系物品の表面をもたらす。使用しうる1つの特定の種類のシリカゾルは、ゾルの表面でゾルのヒドロキシ基(-OH)に結合した有機物質を有するシリカゾルである。このようなゾルはコーティングの表面に見出されるであろう。好ましくは、ゾルは、たとえば第2の水性コーティング組成物の塗布によって、コーティングに結合され固定される。
【0057】
一実施形態では、シリカゾルは重合シリケートをベースとする。このようなゾルの表面では、その上のヒドロキシ基が、たとえばシランまたはその他の材料と反応しているであろう。しかし、このような材料は、pH感受性であるかもしれず、非常に高いpHでは、ゾルが少なくとも部分的に溶解される、および/または反応によってゾルに結合した基が逆反応によって脱着される。これは粘度の増加を生じさせる。よって、高いpHに感受性のあるシリカゾルは好ましくは、第2の水性コーティング組成物中で使用される。第2のコーティング組成物へのシリカゾルの導入は、表面の付着物に対する高い保護を与える。
【0058】
第2の工程として、アルコキシシランおよび/またはシロキサンのエマルションを含む第2の水性組成物を、カリウムシリケート処理物品に塗布する。カリウムシリケート処理が構造を広げているので、アルコキシシラン化合物は、無処理物品におけるよりも大きな範囲で、処理物品に拡散できる。シリケート結晶に接触しているときに、アルコキシシランが重合し、ペンダントアルコキシ基とともに大きなポリシランネットワークを形成するであろう。その後、これらの非重合アルコキシ基が、おそらく縮合反応を経由して、木材物品の分子のヒドロキシル基(たとえば、セルロースおよびシリケートのヒドロキシル基)と反応する。形成されたポリシランネットワークは、強く撥水性であり、よって木材に対して、少なくとも部分的に共有結合された水の含浸を生じさせる。さらに、第2の組成物から形成された、形成されたポリシランのネットワークは、物理的に(立体的に)、木材構造中の第1の組成物からのシリケートを固定し、シリケート処理が洗い流されることを防止する。よって、2つの水性組成物(すなわち、カリウムシリケートを含有する第1の組成物と、シランを含有する第2の組成物)を使用するという選択肢は、相乗効果を与え、(i)シリケート処理が木材構造を広げたことによって、シラン化合物が木材に深く浸透し、木材に対する十分な防水処理を生じさせ、(ii)形成されたシランネットワークが、木材構造内のシリケート処理を固定させ、その結果このシリケート処理が木材から容易に洗い流されることができず、(iii)シリケートが表面に硬い構造を与え、これが表面上にシランネットワークを固定させる。シランはアルカリにより活性化され、シリカ粒子上およびセルロース表面上の結合と反応する。その結果は、シリケート処理によって、セルロース系物品が安定化され、液体水に対して耐水性になることである。空気中に存在するであろう、気体状の水を含む蒸気は、本発明のいかなるコーティングも自由に通過できる。Si:Kのモル比が重要で、シリケートが主に、モノマー形態、ダイマー形態、トリマー形態、またはより大きい形態で存在するのかを決定し、ここで、低い比は多くのモノマー形態を示し、高い比は多くのより大きい形態を示す。モノマー形態のシリケートは、ありうるシリケートのうち、物理的に最も小さい形態である。
【0059】
本発明では、高い割合の、モノマー形態にあるシリケートを有することが好ましく、ここでは木材構造へのより良好な浸透と、木材構造の細胞壁内またはその付近にシリケート結晶を形成するためのより良好な能力とを示し、より良好なシリケート処理を与えることがわかった。
【0060】
第2の組成物には、シリコンベースのバインダー構造が存在する。シリコンベースのポリマーとモノマーは、ネットワークを形成するにあたって相互作用している。第2の組成物は、第2の組成物の特性をさらに強化する、および/またはそれに補助的な特性を追加するための補助的な成分を含んでいてもよい。
【0061】
第2の組成物は重合可能であろうシランおよび/またはシロキサンを含む。これらの化合物は、いくつかの態様においてポーラスであると考えられる表面コーティングを与えることができ、ある成分がコーティングを通して移動することを可能にさせる。
【0062】
第2のコーティング組成物は、塗布の直後であっても、撥水性効果を与えることができる。第2の組成物の構造は、表面に疎水性有機テールをもつコーティングを与える。コーティングは気体水に対しては浸透可能であるが、液体水に対してそうではない。よってコーティングは、セルロース系材料に呼吸、すなわち含水量を調整することを可能にし、同時に、液体水のような他のより大きな成分がコーティング層に浸透することを防止する。
【0063】
第2の組成物は、コーティングの表面により良好に結合することを助けるであろう補助的なポリマーバインダーを含んでいてもよい。このような補助的なバインダーは、ビニル化合物であってもよい。ビニル化合物は、第2のコーティングを、蒸気、すなわち気体水に対して少しだけ浸透しにくくする。よって、コーティングが気体水に対して稠密/非浸透性にすぎるようになるので、あまりに多くのビニル化合物を添加しないことが重要である。しかし、ビニル化合物の使用は、コーティングの結合を増加させ、より耐久性で清掃しやすい表面を与える。
【0064】
第2のコーティング組成物は、組成物および塗布コーティングの貯蔵寿命および存続期間を増加するために、殺生物剤を含んでいてもよい。
【0065】
第2の組成物のコーティングは、セルロースと他の粒子を、それらが第2の組成物中に存在するかまたは第2の組成物のコーティングと接触しているならば、固定することもできる。
【0066】
第2の組成物に、第1の組成物について述べたような色素を含ませてもよい。第2の組成物への色素の適用は、好ましくは、非常に小さい粒径の二酸化チタンを使用し、それ自体で表面を強化し、UV保護も与える。好適な小さい粒径は、直径で、最大400nm、たとえば最大350nm、あるいは最大300nmである。
【0067】
第2のコーティング組成物に適用される色素は、良好なカバレージを与えるであろう。
【0068】
本発明の1つの目的は、pHが少なくとも10であり、カリウムシリケートを含む、セルロース系物品の処理のための第1の水性組成物を提供することであり、前記カリウムシリケートは1.5ないし32重量%の範囲で存在し、前記カリウムシリケートのシリコン(Si)対カリウム(K)のモル比が1.2-2.1である。
【0069】
Si:Kのモル比は、最大2.1、たとえば最大1.8、最大1.65、または最大1.6でありうる。
【0070】
一実施形態において、前記第1の水性組成物の前記カリウムシリケートのSi対Kのモル比は、少なくとも1.2、たとえば1.3である。よって、カリウムシリケートのSi対Kのモル比は、1.2-2.1、たとえば1.2-2.0,1.2-1.9, 1.2-1.8、1.3-1.8、1.2-1.65、 1.3-1.65、1.2-1.6または1.3-1.6でありうる。
【0071】
1.2未満の低い比では、セルロース系材料へのコーティングの浸透は高いが、木材に大きな負の影響があることがわかった。つまり、リグニンが、たとえばセルロース産業におけるように、酸素漂白におけるのと同じように、空気からの酸素との反応によって酸化されるらしい。コーティング製品のアルカリ度が、酸化されたリグニンの溶解を助ける。このリグニンの一部は、セルロース系材料の繊維をいっしょに保持し、よって、表面からの繊維の損失が存在するであろう。第2のコーティング組成物は、セルロース系材料を表面上の水から保護する、すなわち撥水性を助けるが、コーティングは影響を受けた繊維に塗布されるべきであるため、この効果は失われるかまたは減少することもある。繊維の損失は全コーティング系の作用に影響する。よって、本発明によれば、1.2未満の比は望ましくない。
【0072】
これらの比はカリウムシリケートのみに基づく。第1の水性組成物は、たとえばSiまたはKを含む他の化合物の添加により、全体として、さまざまなモル比のシリコン対カリウムを含みうる。本発明の一実施形態では、第1の水性組成物のSi:Kのモル比は、全体として、最大3、たとえば最大2.5、最大2.1、最大1.65または最大1.6でありうる。
【0073】
カリウムシリケートは、溶液として第1の水性組成物に存在していてもよく、当業者に知られているように、最大2の値のSi:K比は溶液を与える。その形態は、ある程度、組成物中のカリウムシリケートの濃度にも依存するであろう。溶液中のカリウムシリケートは、モノマー、ダイマー、トリマーの形態、またはより大きい形態で存在する(ここで、モノマーは1つのKO-単位当たり1つのSiO-単位であり、トリマーは1つのKO-単位当たり3つのSiO-単位である)。Si:Kモル比はこれらの形態の相対比率に影響し、低い比は高い度合のモノマーに相当する。
【0074】
第1の水性組成物のpHは、少なくとも10、たとえば少なくとも10.3、少なくとも10.5、または少なくとも10.8である。第1の水性組成物のpHは、pHの上限が最大13、たとえば最大12.9または12.8である。よって、pHの範囲は、約10-13、10.5-12.9または10.5-12.8でありうる。このような高いpH値は、第1の組成物をゲル形成から防止し、保管中に組成物を安定な溶液として保つことを助け、ゲル化を回避する。さらに、望ましいpH値では、組成物中のある種の補助的で任意の成分、たとえばリグニンおよび樹脂が容易に溶解され、処理物品へのこのような成分の浸透を促進する。望ましい高いpHは、好適な反応条件を与え、さらなる成分の反応、たとえば第2の水性組成物中に存在するシランおよび/またはシロキサンの反応および起こりうる重合を促進する。
【0075】
第1の水性組成物は、カリウムシリケートを、その第1の水性組成物の1.5-32重量%、たとえば1.5-30重量%、4-30重量%、10-30重量%、2-20重量%、または2-18重量%の範囲で含む。この範囲未満の濃度では、第2の組成物のシランの適切な浸透が得られないであろう。この範囲を超える濃度では、カリウムシリケートの適切な浸透が得られないであろう。ある用途では、第1の水性組成物は、第1の水性組成物の約2-7重量%の範囲でカリウムシリケートを含み、ある用途では、第1の水性組成物は、第1の水性組成物の約8-20重量%の範囲でカリウムシリケートを含むことを特筆する。
【0076】
第1の水性組成物は、アルコール、エステル、エーテル、およびアミン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される浸透助剤を含みうる。
【0077】
第1の水性組成物の浸透助剤は好ましくは、シリカに水素結合できる化合物である。シリカへの水素結合によって、組成物に存在するシリカモノマーの量は重合として改善され、シリカモノマーの架橋がある程度まで減少され、このことはひるがえってセルロース系物品への材料のより良好な浸透をもたらす。
【0078】
一実施形態によれば、第1の水性組成物の浸透助剤がアルコールである場合、それはポリオールであることが好ましい。好適なポリオールは、ジオール、トリオール、テトラロール、糖アルコール、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択しうる。以下において言及した特定のアルコールは単独で用いてもよいし、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0079】
一実施形態では、ポリオールは、アセチレンアルコール、アルキルアルコール、アリールアルコール、およびこれらの任意の組み合わせから選択しうる。
【0080】
ジオールは、アセチレンジオール、アルキルアルコール、アリールアルコール、およびこれらの任意の組み合わせの群から選択しうる。好適であろうジオールの例は、ビスフェノールA、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、およびこれらの任意の組み合わせの群から選択しうる。そのうちの特定のジオールは、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、3-オキサ-1,5-ペンタンジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンジオール(TMDD)、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、2,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールから選択しうる。
【0081】
トリオールは、グリセロール、ブタントリヒドロキシド、ベンゼントリオールから選択しうる。
【0082】
糖アルコールは、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、ビビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、フシトール、イジトール、イノシトール、ボレミトールおよび還元澱粉加水分解物(HSH)、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択しうる。
【0083】
一実施形態によれば、第1の水性組成物の浸透助剤がエーテルである場合、エーテルはポリエーテルであることが好ましい。ポリエーテルは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、ポリフェニルエーテル(PPE)およびポリ(p-フェニレンオキサイド)(PPO)、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択しうる。
【0084】
第1の水性組成物は、低分子量のシリカ、すなわちシリカモノマーの量に関して等モル量で浸透助剤を含みうる。
【0085】
第1の水性組成物は、その第1の水性組成物の少なくとも0.01重量%、たとえば0.05-30重量%、0.1-25重量%、0.1-15重量%、0.01-5重量%、0.01-1重量%、0.025-1重量%または0.01-0.025重量%の量で、浸透助剤を含みうる。
【0086】
浸透助剤は物品への組成物の拡散を促進する。
【0087】
一実施形態によれば、第1の水性組成物はさらに、非イオン性界面活性剤、ロジン酸およびアビエチン酸、ならびにロジン酸およびアビエチン酸の塩、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される界面活性剤を含む。好適な非イオン性界面活性剤は、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、フェノールエトキシレート、アミドエトキシレート、グリセリドエトキシレート(大豆油およびヒマシ油エトキシレート)、脂肪酸エトキシレート、および脂肪酸アミンエトキシレートならびにこれらの任意の組み合わせから選択される。特定のアルコールエトキシレートは、少なくとも6炭素(C6)、たとえばC6-C20、C8-C18、C10-C18またはC12-C16の炭素長を有するアルキルアルコールエトキシレートから選択しうる。好ましくは、アルキルアルコールエトキシレートのエチレンオキシド部分(EO)は、2-12EO、たとえば3-10EO、4-10EOを有する。アルコールエトキシレートは2-12EOを有するC6-C20から選択しうる。好ましくは、毒性がなく環境に優しい界面活性剤を使用する。
【0088】
一実施形態によれば、乳化剤のような補助的な添加物、たとえばスルフェート(たとえば2-ヘキシルデシルスルフェート)およびスルホナートを添加してもよい。
【0089】
一実施形態によれば、第1の水性組成物は、さらにシリコンフリー消泡剤またはシリコン含有消泡剤から選択される消泡剤を含んでいてもよい。
【0090】
一実施形態によれば、セルロース系物品は、木材、板紙、繊維板、紙、生きた植物、およびこれらの任意の組み合わせの群から選択しうる。セルロース系物品は、熱処理木材および硬材の群、好ましくは高度のタンニン酸を含む硬材、好ましくは、ナラ、クリ、マホガニー、チーク、クルミ、カラマツ材の群から選択しうる。
【0091】
熱処理木材は、さまざまな理由で、熱にさらされているであろう。熱処理は、木材中の生存生物の量を減少または除去するための、または制御環境で木材の含水率を減少させる、たとえば反りを減少させるための、部分的な加熱殺菌まで行われるであろう。
【0092】
一実施形態によれば、第1の水性組成物はさらに、ナトリウムシリケートのような他のシリケートを含む。カリウムシリケート以外の他のシリケートが組成物に存在するならば、これらはさまざまな量で見出されるであろう。
【0093】
一実施形態によれば、アルカリシリケート含有量の少なくとも70重量%、たとえば少なくとも80重量%、少なくとも重量90%、または少なくとも95重量%がカリウムシリケートによって構成される。
【0094】
一実施形態によれば、第1の水性組成物は、カリウムシリケートに加えて、ナトリウムシリケートを、ナトリウム対カリウムのモル濃度の比、0ないし9、より好ましくは0ないし5、最も好ましくは0ないし3で含みうる。たとえば、ナトリウム対カリウムのモル比は、少なくとも0.001、たとえば0.02または0.04である。よってこの比は0.001-9、0.002-5、0.004-3、0.001-0.5、0.002-0.1または0.002-0.006でありうる。
【0095】
一実施形態によれば、第1の水性組成物はさらに、染料および/または色素を含んでいてもよい。これらは、酸化チタンおよび酸化鉄の群から選択しうる、好ましくは二酸化チタン、酸化第二鉄および酸化第一鉄から選択しうる。植物色素を使用してもよい。染料または色素は、前記第1の組成物中に、0ないし10重量%の濃度で存在しうる。
【0096】
一実施形態によれば、前記第1の水性組成物は、さらに植物油、リグニン、セルロースの群から選択される少なくとも一種の添加物を含む。これらは前記第1の組成物中に0ないし10重量%の濃度で存在しうる。このような添加物は、セルロース系物品上での、第1の組成物によるシリケート処理の効果を増強する。リグニンは、カリウムシリケートとの組み合わせで、木材構造の石化を与える。細かく粉砕されたセルロースおよび/または(植物)色素は、コーティングされたセルロース系物品内の活性領域を増加させる。
【0097】
本発明の1つの目的は、セルロース系物品を処理するためのコーティング組成物系を提供することであり、
少なくとも、上で開示した本発明による第1の水性組成物と、
少なくとも第2の水性組成物であって、以下の化合物のエマルション:
【0098】
一般式Iのアルコキシシラン化合物:
【化4】
式中、
R1は、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されており、
R2およびR3は、独立に、直鎖または分枝のアルコキシ基であり、
R4は、直鎖または分枝のアルコキシ基であるか、または直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されている、
および/または
【0099】
一般式IIのシロキサン化合物:
【化5】
式中、
R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されており、
R17およびR18は、ヒドロキシルまたはアミノからなる基から選択される官能基であり、nは0-20である、
【0100】
および/または
一般式IIIのシロキサン化合物:
【化6】
式中、
R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されている、
を含む第2の水性組成物と
を含む。
【0101】
一実施形態によれば、Rは、分枝または直鎖の、飽和および不飽和のC1-18-アルキル基、好ましくはC4-12-アルキル基である。R基は、得られるポリシランネットワークの疎水性の度合に主要な役割を果たす。よって、Rは疎水基、たとえばC4-12アルキル基、Cであることが好ましい。このようなアルキルは任意に、芳香族基、たとえばフェニル;ハロゲン原子、たとえばF、Cl、Br、I;ヘテロ原子、たとえばO、N、S、P;および当業者に知られている他の官能基によって置換されていてもよい。
【0102】
典型的に、Rは非加水分解性基、すなわち加水分解によってSi-原子を開裂させることのできない基である。Rがn-オクチルである場合に良好な結果が示された。R基を、次の工程で、他の化合物をシランにカップリングするために、たとえば塗料およびラッカーを物品にカップリングするために用いてもよい。このようなカップリングを促進するため、R基は、さらに有機官能基、たとえばアミノ、ベンジルアミノ、メタクリレート、ビニルベンジルアミノ、エポキシ、クロロフェニル、メラミン、ビニル、ウレイド、メルカプト、ジスルフィドおよびテトラスルフィド基で置換されていてもよい。好ましくは、このような官能基は、Si-原子から離れたR基末端の近くまたは末端に位置する。たとえば、アクリレートベースの塗料またはラッカーは、アミノ、メタクリレートまたはエポキシ官能基で置換されたR-基を有するこのようなシラン上で使用するのに適しているであろう。塗料/ラッカーとR-官能基との他の組み合わせは、当業者に知られている。
【0103】
一実施形態によれば、R、RおよびRは、独立に、直鎖または分枝のC1-6-アルコキシ基である。R、RまたはRで示される基の例は、直鎖または分枝のアルコキシ基、すなわち酸素原子を介してSi-原子に結合したアルキル基(Si-O-アルキル)を含む。基R、RおよびRを、互いから独立して選択してもよく、すなわちRはRおよびまたはRと異なっていてもよい。本発明に好適なR2-4基の例は、たとえば直鎖および分枝のC1-6-アルキル、たとえばC1-4-アルキル、その不飽和の変種を含み、このようなアルキルは、芳香族基、たとえばフェニル;ハロゲン原子、たとえばF、Cl、Br、I;ヘテロ原子、たとえばO、N、S、P;および当業者に知られている他の官能基によって任意に置換される。R2-4がエチルである場合に良好な結果が示された。重合プロセスを行う場合、アルコキシ基はアルコールとして放出される。反応環境が水溶液なので、放出されたアルコールが容易に水に可溶であることは好都合である。よって、R、RおよびRがたとえばメトキシ(メタノールを形成)、エトキシ(エタノールを形成)、またはプロポキシ(プロパノールを形成)であることが好ましい。また、Rを上でRについて記載した基から選択してもよい。一般式(I)の2以上の異なるシラン化合物が同じ組成物に含まれていてもよい。一例では、R、RおよびRが独立にアルコキシ基である、一般式(I)の第1のシランを、RとRがRについて記載した基から選択され、Rが直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルからなり、任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基で置換された基から選択される、式(I)の第2のシラン化合物と混合してもよい。このようなシランの混合物では、第1のシランは主に、シランを物品に結合するために、セルロース系物品のヒドロキシ基への強い結合を与え、他方で第2のシランは、RおよびRにより与えられるより強い効果、たとえば撥水効果を与える。第1のシラン対第2のシランの比は、処理されるセルロース系物品によって望まれる特性に基づいて選択される。
【0104】
一例として、アミノ官能R-基を含むシランで処理された物品は、アクリルベースの塗料で塗布されるのによく適している。塗料中のアクリルポリマーは、シラン上のアミノ基と共有結合を形成するであろう。今度はシランがカリウムシリケートおよびセルロースに共有結合するので、アクリルベースのコーティングは物品に強力に結合するであろう。コーティング成分と有機官能基との間の他のこのような組み合わせは、当業者に明らかであろう。
【0105】
一実施形態によれば、式IIによる前記シロキサンのR11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、分枝または直鎖の、飽和または不飽和のC1-6-アルキル基、好ましくはC1-3-アルキル基でありうる。例はメチル、エチル、エテニル、エチニル、プロピル、プロぺニル、プロピニルでありうる。
【0106】
一実施形態によれば、nは0-15、たとえば0-10、0-8、0-5、1-8、または1-5である。
【0107】
一実施形態によれば、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、分枝または直鎖の、飽和または不飽和のC1-6-アルキル基、好ましくはC1-3-アルキル基である。例はメチル、エチル、エテニル、エチニル、プロピル、プロぺニル、プロピニルでありうる。
【0108】
一実施形態によれば、前記第2の組成物のpHは、少なくとも5、たとえば少なくとも7または少なくとも9である。
【0109】
一実施形態によれば、前記第2の組成物は、式Iによる前記アルコキシシラン、式IIによるシロキサン化合物、式IIIによるシロキサン化合物の少なくとも1つ、およびこれらの任意の組み合わせを、第2の組成物の0.1ないし60重量%、たとえば0.3-20重量%、0.3-18重量%、0.4-15重量%、1-13重量%、2-12重量%、または2.5-12重量%の範囲で含む。
【0110】
一実施形態によれば、前記第2の組成物は、式Iによる前記アルコキシシラン、式IIによるシロキサン化合物、式IIIによるシロキサン化合物の少なくとも1つ、およびこれらの任意の組み合わせを含み、これを(トリ)アルコキシシランおよびアルキルシロキサン、たとえばトリエトキシオクチルシラン、ジメチルシロキサン、オクタメトキシシクロテトラシロキサンの群から選択しうる。
【0111】
本発明によるアルコキシシランとシロキサンは、重合された、重合性のおよび非重合性の化合物から選択しうる。
【0112】
非重合性のシランまたはシロキサンの使用は、第2の組成物によって与えられる防水性を増加させるであろう。セルロース系物品上に添加した場合、非重合性のアルコキシシランおよび/またはシロキサンは保護表面層を形成し、これは直ちに物品に防水性を与える。物品内部の反応(すなわちシランおよび/またはシロキサンネットワークの重合、ならびにシランおよび/またはシロキサンネットワークをセルロースに共有結合させる縮合)は、周囲温度では遅い反応であるので、迅速な防水性を与え、シラン-セルロース-シリケート構造の形成を可能にすることが重要である。
【0113】
化合物n-オクチルトリエトキシシランを使用して撥水特性をさらに増加させてもよく、好ましくは第2の水性組成物の、0.5-15重量%、たとえば0.5-12重量%、5-15重量%、2-12重量%、3-11重量%または7-12重量%の量で使用する。
【0114】
第2の組成物で使用しうるシロキサンの例は、エトキシ-およびヒドロキシ-末端のn-オクチルシルセスキオキサン;ならびにヒドロキシ-末端の、ジメチルシロキサンとアミノエチルアミノプロピルシルセスキオキサンの群から選択しうる。
【0115】
第2の組成物で使用しうるシランの例は、トリエトキシオクチルシランおよびメトキシオクチルシランの群から選択しうる。
【0116】
一実施形態によれば、第2の水性組成物はさらに、ビニル化合物、好ましくはビニルアクリレートを含む。このような補助的な成分は、第2の組成物によって与えられる防水効果を増加させる。
【0117】
一実施形態によれば、ビニル化合物は、第2の水性組成物の一般式Iのアロキシシラン化合物および/または式IIおよびIIIによるシロキサンの量より少ない量で、第2の水性組成物に与えられる。
【0118】
一実施形態によれば、ビニル化合物は、第2の水性組成物の最大20重量%、たとえば最大10重量%または最大7重量%の量で、第2の水性組成物に与えられる。
【0119】
一実施形態によれば、作用組成物(第1または第2の水性組成物)中の溶媒の主要部分(すなわち50%超、たとえば70%超または90%超)は、水である。
【0120】
一実施形態によれば、主に水である溶媒は、作用組成物(第1および/または第2の水性組成物)中に、第1または第2の組成物でありうる水性組成物の約50-94%重量%の量で存在する。両方の組成物は類似の溶媒含有量を有していてもよい。
【0121】
一実施形態によれば、第2の水性組成物はワックスを含んでいてもよい。ワックスは第2の水性組成物の約0-10重量%、たとえば0.5-7重量%で存在しうる。
【0122】
一実施形態における第2の水性組成物は、シリケートを含まないことを特筆する。第2の水性組成物は、乳化形態および標準的な保管条件では比較的安定である。
【0123】
シランを水中エマルションの形態で供給することにはいくつかの利点がある。たとえば、水中エマルションは、根本的に有機溶媒の使用を不要にし、よって、水をエマルションの担体として使用しうるので、本発明の組成物をより環境に優しくする。さらに、水は低コストで得られる溶媒である。第2の、シランおよび/またはシロキサン含有組成物を、上述したように処理されたセルロース系物品に塗布する場合、それは設けられた結晶化カリウムシリケートに接触するようになる。この結晶化した表面は、物品内にポリシランネットワークおよび/またはポリシロキサンネットワークを形成するための重合反応の触媒として作用する。いかなる特定の理論にも拘束されることなく、考えられる反応経路を以下に説明する。加水分解によって、アルコキシ基R-Rは、アルコキシ基のアルコールとしてSi-原子を開裂させ、反応性シラントリオールR-Si(OH)を残す。縮合反応を経由して、シラントリオールが重合する。セルロース系物品の表面(内面および外面)は、主にセルロースおよびヘミセルロースに由来する複数のペンダントヒドロキシ基を示す。これらのセルロースヒドロキシ基は、重合シラントリオール上の未反応のヒドロキシ基と水素結合を形成する。熱の印加を経由して、これらのヒドロキシ-ヒドロキシ水素結合は、縮合によって、セルロースとシランポリマーとの間の共有結合に転換される。熱の印加がなければ、この縮合はかなり遅いプロセスである。シリケート処理された物品中でのシランネットワークの形成は、シリケートが物品から洗い流されるのを物理的に妨げることに導く。理解されるように、第1の組成物が、細かく粉砕されたセルロースのような添加物を含む場合、アロキシシランもこのセルロースに結合するので、これは物品の強化を与えるよりも大きい。上述した反応経路は、結晶化カリウムシリケートとアロキシシランとの反応にも有効である。また、このカリウムシリケートはペンダントヒドロキシ(-OH)基を有し、それに対してシランが共有結合する。よって、シランはシロキサンネットワークに共有結合するとともに、物品内部で立体的に保持される。
【0124】
セルロース系物品のシリケート処理とシラン処理との組み合わせは、正に相乗効果を与える。第1に、シラン化合物自体は、構造中に非常に深く拡散する能力を有していない(典型的には、木材中で約1ないし1.5mmにすぎない)。しかし、シリケート処理が構造を「広げ」、よってシラン化合物はより深い効果的な防水性を与える能力を有する(典型的に2ないし3mm以上)。ゆえに、防水の深さは100%以上まで増える。このことは、たとえば物品が実質的な摩耗および引裂を受ける高摩耗用途で有益である。このような用途では、非常に浅い処理は望ましくない頻度で再処理を必要とするので、深い効果的な保護があることが望ましい。第2に、シランネットワークは、さもなければ水溶性のカリウムシリケート結晶を処理物品の内部に固定し、その結果カリウムシリケート処理により与えられた保護を安定させる。シラン処理はカリウムシリケートを水から保護し、その結果これらが水によって洗い流されることはない。
【0125】
本発明の1つの目的は、セルロース系物品の処理方法を提供することであり、
セルロース系物品を準備する工程と、
第1および第2の水性組成物を含む、本発明によるコーティング組成物系を準備する工程と、
前記セルロース系物品に、前記コーティング組成物系の前記第1の水性組成物および前記第2の水性組成物を順次塗布する工程とを含む。
【0126】
本発明は、セルロース系物品の処理方法に関し、セルロース系物品は最初に第1の水性コーティングが塗布され、続いて第2の水性組成物が塗布される。典型的に、第1の組成物をセルロース系物品に塗布した後、物品を妥当な程度まで乾燥させてから、第2の組成物を表面に塗布する。
【0127】
一実施形態によれば、コーティング組成物系の前記第1の水性コーティングを、圧力含浸、ブラシ処理、浸漬、吹き付け、ディッピング、注入およびロールコーティングから選択される方法を用いて塗布する。ブラシまたは吹き付け塗布を使用する場合、1.2-1.4、たとえば1.3-1.4のSi:K比を使用して、塗布される材料のセルロース構造への浸透を容易にすることが望ましい。第1のコーティング組成物を複数回塗布する場合、後続の第1のコーティング組成物のSi:K比は、約1.4-2.0、たとえば1.5-1.9のSi:Kのようにわずかに高い比を有していてもよい。圧力含浸を使用する場合、低いSi:K比、たとえば1.2-1.4、たとえば1.3-1.4が好ましい。圧力含浸された表面の任意の後続のコーティングは、同じまたはわずかに高い比、たとえば1.4-2.0、たとえば1.5-1.9を有する組成物を使用してもよい。
【0128】
本発明の1つの目的は、セルロース系物品の処理用のパーツのキットの使用であって、前記パーツのキットは、本発明によるコーティング組成物系を含む。
【0129】
本発明の1つの目的は、本発明によるコーティング組成物系を含むセルロース系物品を提供することである。
【0130】
本発明の1つの目的は、本発明による方法によって処理されたセルロース系物品を提供することである。
【0131】
典型的に、本発明は,前記セルロース系物品に、水、風、温度のような要素に対するより一層の耐久性を与えるための解決策を与える。カリウムシリケートによる物品の処理は、物品に対して幾つかの特性、たとえば耐火性、カビ増殖耐性、昆虫の侵入の防止、結晶がUV-波長の光を吸収および反射するのでUV-保護を与える。また、カリウムシリケート結晶は、揮発性有機化合物に対するブロック手段を形成する。
【0132】

試験は、比の低下が、セルロース系材料中に含浸されるコーティングの量に改善を与えることを示している。下の表1を参照のこと。試験では、圧力含浸されたデッキボードを、本発明による第1のコーティング組成物で塗布した。
【0133】
【表1】
【0134】
銅およびその他の化学薬品を含む組成物による圧力含浸を受けたセルロース系物品は、本発明による処理によって保護することができる。与えられた二工程の仕方で本発明に従って処理することによって、銅およびその他の化学薬品の漏出の減少によって、木材の増加した寿命が得られる。銅はしばしばカーボネートヒドロキシドとして与えられ、アルカリ性である。驚くことに、アルカリ性の第1の水性組成物と第2の組成物の組み合わせで、本発明の処理による銅の漏出が減少する。
【0135】
さらに、試験は、比の低下が、セルロース系材料中に含浸するコーティングの量に改善を与えることを示している。下の表2を参照のこと。試験では、処理されていないマツ材を用い、圧力含浸を使用して本発明による第1のコーティング組成物を塗布した。
【0136】
【表2】
【0137】
第1のコーティング組成物に浸透助剤を使用した試験も行った。下の表3は、浸透助剤ありおよびなしの第1のコーティング組成物でトウヒを処理した結果を開示している。トウヒによって吸収されるコーティングの量は、浸透助剤により増加する。第1のコーティング組成物は、カリウムシリケートのモル比が1.4であった。コーティング組成物を水と混合してから塗布した。3部の水を1部の第1のコーティング組成物と混合した。使用した浸透剤の量は、0.7重量%のジオール,(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンジオール(TMDD))であった。
【0138】
【表3】
【0139】
浸透助剤はセルロース系物品に塗布される第1のコーティング組成物の効果をさらに改善する。
以下に、本願の出願時の特許請求の範囲を実施の態様として付記する。
[1] セルロース系物品を処理するためのコーティング組成物系であって、
少なくとも第1の水性組成物であって、pHが少なくとも10であり、カリウムシリケートを含み、前記カリウムシリケートは1.5ないし32重量%の範囲で存在し、前記カリウムシリケートのシリコン(Si)対カリウム(K)のモル比が1.2-2.1である第1の水性組成物と、
少なくとも第2の水性組成物であって、以下の化合物のエマルション:
一般式Iのアルコキシシラン化合物:
【化7】
式中、
R1は、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されており、
R2およびR3は、独立に、直鎖または分枝のアルコキシ基であり、
R4は、直鎖または分枝のアルコキシ基であるか、または直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されている、および/または
一般式IIのシロキサン化合物:
【化8】
式中、
R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されており、
R17およびR18は、ヒドロキシルまたはアミノからなる基から選択される官能基であり、nは0-20である、
および/または
一般式IIIのシロキサン化合物:
【化9】
式中、
R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のアルキルおよびアリールからなる基から選択され、前記基は任意に、芳香族、ハロゲンおよび/またはヘテロ原子の官能基ならびにオルガノ官能基で置換されている、
を含む第2の水性組成物と
を含むコーティング組成物系。
[2] 前記第1の水性組成物の前記カリウムシリケートのSi対Kのモル比は、1.2ないし1.8、好ましくは1.2-1.65、より好ましくは1.3-1.65である、[1]に記載のコーティング組成物系。
[3] 前記第1の水性組成物の前記カリウムシリケートは、4-30重量%の範囲で存在する、[1]または[2]に記載のコーティング組成物系。
[4] さらに、アルコール、エステル、エーテル、およびアミン、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される浸透助剤;好ましくはジオール、トリオール、テトロールおよび糖アルコール、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択されるポリオールを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[5] 前記第1の水性組成物はさらに、非イオン性界面活性剤、ロジン酸およびアビエチン酸、ならびにこれらの塩、ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される界面活性剤を含み;好ましくは、前記非イオン性界面活性剤は、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、フェノールエトキシレート、アミドエトキシレート、グリセリドエトキシレート(大豆油エトキシレートおよびヒマシ油エトキシレート)、脂肪酸エトキシレート、および脂肪酸エトキシレートならびにこれらの任意の組み合わせから選択される、[1]~[4]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[6] 前記第1の水性組成物はさらに、ナトリウムシリケートを、好ましくはナトリウム対カリウムのモル濃度の比が9以下、より好ましくは5以下、最も好ましくは3以下で含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[7] R は、分枝または直鎖の、飽和および不飽和のC 1-18 -アルキル基、好ましくはC 4-12 -アルキル基である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[8] R 、R およびR は、独立に、直鎖または分枝のC 1-6 -アルコキシ基である、[1]~[7]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[9] R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のC 1-6 -アルキル基、好ましくはC 1-3 -アルキル基である、[1]~[8]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[10] R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27およびR28は、独立に、直鎖および分枝の、飽和および不飽和のC 1-6 -アルキル基、好ましくはC 1-3 -アルキル基である、[1]~[9]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[11] 前記第2の組成物は、前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物を、第2の組成物の0.1ないし60重量%、好ましくは0.3ないし20重量%、好ましくは0.3ないし18重量%、好ましくは0.4ないし15重量%、好ましくは1ないし13重量%、好ましくは2ないし12重量%、好ましくは2.5ないし12重量%の量で含む、[1]~[10]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[12] 前記アルコキシシラン化合物および/またはシロキサン化合物は、(トリ)アルコキシシランおよびアルキルシロキサンの群から選択され、好ましくはトリエトキシオクチルシラン、ジメチルシロキサン、およびオクタメチルシクロテトラシロキサン、ならびにこれらの任意の組み合わせの群から選択される、[1]~[11]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[13] 前記第2の水性組成物はさらに、ビニル化合物、好ましくはビニルアクリレートを含む、[1]~[12]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系。
[14] セルロース系物品を準備する工程と、
第1および第2の水性組成物を含む、[1]~[13]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系を準備する工程と、
前記セルロース系物品に、前記コーティング組成物系の前記第1の水性組成物および前記第2の水性組成物を順次塗布する工程と
を含む、セルロース系物品の処理方法。
[15] 前記コーティング組成物系の前記第1の水性コーティングを、圧力含浸、ブラシ処理、浸漬、吹き付け、ディッピング、注入およびロールコーティングから選択される方法を用いて塗布する、[14]に記載の方法。
[16] セルロース系物品の処理用のパーツのキットの使用であって、前記パーツのキットは、[1]~[13]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系を含む方法。
[17] [1]~[13]のいずれか1項に記載のコーティング組成物系を含むか、または[14]もしくは[15]に記載の方法によって処理された、セルロース系物品。