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  • 特許-作業機械用油圧作動油の導電用添加剤 図1
  • 特許-作業機械用油圧作動油の導電用添加剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】作業機械用油圧作動油の導電用添加剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/76 20060101AFI20230411BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20230411BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230411BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20230411BHJP
【FI】
C10M129/76
C10N20:00 Z
C10N30:00 D
C10N40:08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019028313
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020132763
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】嘉本 大五郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 亮
(72)【発明者】
【氏名】南 亘
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 茂行
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-307200(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156338(WO,A1)
【文献】特開2018-053027(JP,A)
【文献】特開2014-218625(JP,A)
【文献】国際公開第2008/038571(WO,A1)
【文献】特開2010-180331(JP,A)
【文献】特開2018-145400(JP,A)
【文献】国際公開第2004/090082(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/067906(WO,A1)
【文献】特開2010-209521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(2)で表される化合物を含有する
ことを特徴とする作業機械用油圧作動油の導電用添加剤。
【化2】
(式(2)中、2つのRのうち一方は、アルキル基またはアルケン基を有する炭素数18のアシル基である。2つのRのうち他方は、水素原子である。)
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械用油圧作動油の導電用添加剤において、
基油に0.3質量%の濃度で添加されたときの作業機械用油圧作動油の油温25℃における電気伝導率が400pS/m以上である
ことを特徴とする作業機械用油圧作動油の導電用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械用油圧作動油の導電用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルやホイールローダ等の作業機械では、作業を行う際の動力源として油圧が利用されており、圧力の伝達に油圧作動油が用いられている。油圧作動油は、油圧ポンプで加圧され、油圧バルブで圧力と流量が調整された後、作業を行う部分を駆動する油圧アクチュエータに送られて動力を伝達する。動力伝達を終えた油圧作動油は、オイルクーラで冷却され、作動油フィルタで不純物がろ過された後、作動油タンクへ戻る。
【0003】
上記のように動力伝達に使用される油圧作動油は、原油を精製して得られる基油と、基油に添加された複数の添加剤とから構成される。基油は鉱物油と合成油とに大別されるが、作業機械用の油圧作動油としては主に鉱物油が用いられている。添加剤としては、清浄分散剤、酸化防止剤、耐加重添加剤、さび止め剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、乳化剤、抗乳化剤、かび防止剤、固体潤滑剤などが機能向上を目的として使用される。
【0004】
油圧作動油は、鉱物油を基油とする場合、電気伝導率が25℃の油温で一般的に数pS/mから数十pS/mと低い。すなわち、鉱物油を基油とする油圧作動油は、一般的に、絶縁性を有している。また、作動油フィルタは、セルロース等の有機系材料やガラス繊維等の絶縁性材料で形成されたろ過部材を用いることがある。そのため、油圧作動油が作動油フィルタを通過する際の流動抵抗(摩擦)によって、油圧作動油及び作動油フィルタのろ過部材が帯電する。
【0005】
作業機械では、近年、油圧ポンプの定格圧力の高圧化及び作動油タンクの小型化が図られている。油圧の高圧化により、油圧作動油に混入した異物による機器の不具合の発生が懸念される。そこで、作動油フィルタのろ過部材の目をより細かくすることで、油圧作動油への異物の混入の更なる抑制を図っている。しかし、ろ過部材の目を細かくする分、作動油フィルタを通過する際の油圧作動油の流動抵抗が大きくなり、油圧作動油及び作動油フィルタのろ過部材の帯電量が増加する。また、作動油タンクの小型化により、油圧作動油の貯留量が減少するので、その分、油圧作動油の循環が速まる傾向にある。そのため、油圧作動油の単位量当りの帯電量が増加する傾向にある。
【0006】
このように、油圧作動油が作動油フィルタのろ過部材を通過する際に生じる帯電量が増加する傾向にある。油圧作動油及び作動油フィルタのろ過部材が帯電して電荷の蓄積量が増加すると、作動油フィルタ内での放電の発生が懸念される。
【0007】
特に、低温環境下で作業機械が使用される場合には、作動油フィルタでの放電の発生が懸念される。鉱物油は、その動粘度が温度の低下に対して増加することが知られている。鉱物油を含む油圧作動油が低温環境下で使用される場合、油圧作動油の動粘度が通常環境下での使用時よりも増加するので、その分、油圧作動油の流動抵抗も大きくなる。そのため、油圧作動油及び作動油フィルタのろ過部材の帯電量が更に増加する傾向となり、作動油フィルタでの放電の発生がより懸念される状況となる。作動油フィルタで放電が生じると、その衝撃や発熱によって作動油フィルタが局所的に損傷する虞がある。
【0008】
放電による作動油フィルタの損傷を抑制する手段として、例えば、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1に記載のフィルタは、作動油を処理するフィルタ媒体(ろ過部材)を構成する複数層のうち、上流側の第1層を作動油に対して正又は負の電位を有する材料で構成する一方、下流側の第2層を作動油に対して第1層とは逆の負又は正の電位を有する材料で構成することで、フィルタ媒体の第1層及び第2層を貫流する際に作動油に生じる電荷を少なくとも部分的に中和して作動油の帯電を低減しようとするものである。さらに、当該フィルタは、作動油に生じる電荷の一部をフィルタ媒体に戻す電荷補償層をフィルタ媒体の下流側に設けること、又は、フィルタ媒体を導電性の材料で構成することで、フィルタ媒体における帯電を低減しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-5836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載のフィルタでは、各種の作業機械で使用される作動油が異なる場合、異なる作動油の特性に応じて、フィルタ媒体の第1層及び第2層の材料を選定する必要がある。すなわち、異なる作動油に応じて異なるフィルタ媒体が必要となり、同一のフィルタ媒体による汎用的な適用は難しい。
【0011】
また、特許文献1に記載のフィルタは、電荷補償層の設置や導電性のフィルタ媒体の使用により、フィルタ媒体の帯電を低減しようとするものである。この場合、フィルタを収容するフィルタハウジングを介してフィルタ媒体の電荷を接地点へ逸散させる。すなわち、電荷を接地点へ逸散させる構造をフィルタハウジングに設けている。一方、従来の作動油フィルタのフィルタハウジングでは、そのような構造を設けていないものが一般的である。したがって、従来の作動油フィルタを備えた作業機械では、放電による作動油フィルタの損傷を防ぐためには、既存のフィルタハウジングに対して電荷を接地点へ逸散させる構造を設ける改修を行うか、又は、既存のフィルタハウジングを、当該構造を備えるフィルタハウジングに交換する必要がある。
【0012】
このように、作動油フィルタの構成及び構造によって放電による作動油フィルタの損傷を抑制しようとする場合、フィルタの構成及び構造が複雑になったり、既存の作動油フィルタの改修又は交換を行う必要が生じたりする。そのため、放電による作動油フィルタの損傷を抑制する方法として、異なる観点の手段が求められている。
【0013】
本発明は、上記の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、既存の作動油フィルタを用いて低温環境下で作業を行う場合でも、放電による作動油フィルタの損傷を抑制することができる作業機械用油圧作動油の導電用添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、以下の一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする。
【0017】
【化2】
【0018】
式(2)中、2つのRのうち一方は、アルキル基またはアルケン基を有する炭素数18のアシル基である。2つのRのうち他方は、水素原子である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、油圧作動油の導電用添加剤が上記一般式(2)で表される化合物を含有することで、当該導電用添加剤が添加された油圧作動油の電気伝導率が上記導電用添加剤を添加しない場合と比べて高くなる。その結果、導電用添加剤が添加された油圧作動油の帯電量が低減されるので、既存の作動油フィルタを用いて低温環境下で作業を行う場合でも、作動油フィルタでの放電が抑制され、作動油フィルタの損傷を抑制することできる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の作業機械用油圧作動油を備えた作業機械の一実施の形態の構成を示す概略図である。
図2図1に示す本発明の作業機械の一実施の形態の一部を構成する作動油フィルタの構造を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の作業機械用油圧作動油及び作業機械の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態においては、作業機械の一例として油圧ショベルを例に挙げて説明する。
【0022】
[一実施の形態]
まず、本発明の作業機械の一実施の形態の構成について図1を用いて説明する。図1は本発明の作業機械用油圧作動油を備えた作業機械の一実施の形態の構成を示す概略図である。図1中、太い矢印は、油圧作動油の流通方向を示している。
【0023】
図1において、作業機械としての油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回自在に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前端部に俯仰動(回動)可能に取り付けられた作業フロント4とを備えている。上部旋回体3は、油圧アクチュエータとしての旋回油圧モータ6によって旋回駆動される。
【0024】
下部走行体2は、左右両側にクローラ式の走行装置8(図1中、左側のみを図示)を有している。左右の走行装置8はそれぞれ、油圧アクチュエータとしての走行油圧モータ9によって作動する。
【0025】
作業フロント4は、掘削作業等の作業を行うための多関節型の作業装置であり、例えば、ブーム11、アーム12、作業具としてのバケット13とで構成されている。ブーム11の基端側は、上部旋回体3の前端部に回動可能に取り付けられている。ブーム11の先端部には、アーム12の基端部が回動可能に取り付けられている。アーム12の先端側には、バケット13の基端部が回動可能に取り付けられている。ブーム11、アーム12、バケット13はそれぞれ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ15、アームシリンダ16、バケットシリンダ17によって作動する。
【0026】
上部旋回体3の内部には、作動油タンク21、油圧ポンプ22、原動機23、油圧バルブ24、オイルクーラ25、作動油フィルタ30等が配置される。油圧ポンプ22の吸込側に作動油タンク21が、油圧ポンプ22の吐出側に油圧バルブ24が配置されている。作動油タンク21の上流側に作動油フィルタ30が、作動油フィルタ30の上流側にオイルクーラ25が配置されている。作動油タンク21、油圧ポンプ22、油圧バルブ24、油圧アクチュエータ、オイルクーラ25、作動油フィルタ30等により油圧回路が構成されている。
【0027】
作動油タンク21は、油圧作動油を貯留するものであり、油面計やエアブリーザ等の取付が可能である。油圧作動油は、油圧アクチュエータに圧油として供給されて動力を伝達するものである。油圧アクチュエータは、圧油の供給により駆動するものである。油圧アクチュエータとしては、上述したように、作業フロント4の各作業要素11、12、13を作動させるブームシリンダ15、アームシリンダ16、バケットシリンダ17の油圧シリンダ、上部旋回体3を旋回させる旋回油圧モータ6、油圧ショベル1を走行させる走行油圧モータ9などがある。
【0028】
油圧ポンプ22は、油圧作動油に圧力を加えて圧油として吐出する機構である。油圧ポンプ22として、ピストンポンプやギヤポンプ、ベーンポンプ、スクリューポンプ、斜板式アキシャルピストンポンプ、斜軸式アキシャルピストンポンプ、ラジアルピストンポンプなどを用いることが可能である。原動機23は、油圧ポンプ22の動力源であり、エンジンや電動モータ等で構成されている。油圧バルブ24は、油圧ポンプ22から油圧アクチュエータへ供給される圧油の方向及び流量を制御するものである。油圧バルブ24は、油圧制御弁や流量制御弁、方向制御弁などを組み合わせて構成することができる。
【0029】
オイルクーラ25は、油圧作動油を冷却するものである。オイルクーラ25は、空冷式や水冷式があり、例えば、銅やアルミなどの金属で構成したチューブやフィンを介して熱交換を行うように構成されている。作動油フィルタ30は、油圧作動油に含まれる不純物をろ過して清浄性を確保する機構である。使用する油圧作動油の量や油圧の値に応じて適した作動油フィルタを選択することができる。
【0030】
次に、本発明の作業機械の一実施の形態における作動油フィルタの構造について図2を用いて説明する。図2図1に示す本発明の作業機械の一実施の形態の一部を構成する作動油フィルタの構造を示す断面模式図である。図2中、太い矢印は、油圧作動油の流通方向を示している。
【0031】
図2において、作動油フィルタ30は、油圧作動油をろ過するフィルタエレメント31を備えている。フィルタエレメント31の材質としては、一般的に、セルロース等の有機物が用いられる。フィルタエレメント31は、例えば、セルロースのろ紙を折り曲げて形成した多数のひだを有する筒状のものである。ろ紙の密度や粗さを選定することで、フィルタエレメント31のろ過性能を変えることができる。
【0032】
作動油フィルタ30は、例えば、カートリッジ式のものである。具体的には、フィルタエレメント31は、エレメントケース32とエレメントケース32の一方側及び他方側に設けたエレメントケース蓋33とにより保持されており、エレメントケース32及びエレメントケース蓋33と一体の構造物を形成している。一体の構造物としてのフィルタエレメント31、エレメントケース32、エレメントケース蓋33は、フィルタケース34内に収容されている。フィルタケース34は、例えば、一方が開口する有底筒状の容器であり、開口部がフィルタケース蓋35により閉塞されている。フィルタケース34は、油圧作動油が流れる流路を形成している。フィルタケース34には、油圧作動油が流入する流入口36が設けられている。フィルタケース蓋35には、フィルタエレメント31を通過して清浄化された油圧作動油が流出する流出口37が設けられている。
【0033】
フィルタエレメント31は、フィルタケース34からエレメントケース32を取り出すことで交換が可能である。なお、作動油フィルタ30は、例えば、フィルタケース34を接地させる構造がないものである。
【0034】
次に、本発明の作業機械の一実施の形態における油圧作動油の流れを図1及び図2を用いて説明する。
【0035】
図1に示す作動油タンク21内の油圧作動油は、原動機23により駆動された油圧ポンプ22により吸い込まれて加圧される。油圧ポンプ22から吐出された圧油としての油圧作動油は、油圧バルブ24により方向及び流量が制御された後、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ15、アームシリンダ16、バケットシリンダ17、旋回油圧モータ6、走行油圧モータ9等に供給される。圧油(油圧作動油)が供給されることで油圧アクチュエータが駆動して油圧ショベル1の各種の動作が行われる。
【0036】
例えば、ブームシリンダ15、アームシリンダ16、バケットシリンダ17の3つの油圧シリンダに対して圧油が供給されることで、作業フロント4が作動する。また、旋回油圧モータ6に対して圧油が供給されることで、上部旋回体3が左右方向に旋回する。また、走行油圧モータ9に対して圧油が供給されることで、油圧ショベル1が走行する。
【0037】
油圧アクチュエータの駆動により油圧アクチュエータから排出された圧油(油圧作動油)は、オイルクーラ25によって冷却された後、作動油フィルタ30で清浄化される。具体的には、油圧作動油は、図2に示す作動油フィルタ30の流入口36を介してフィルタケース34内へ流入し、フィルタケース34内に配置されたフィルタエレメント31の一次側から二次側へ通過する。これにより、油圧作動油中に含まれるスラッジ等の不純物が除去される。フィルタエレメント31を通過した油圧作動油は、作動油フィルタ30の流出口37から流出し、図1に示す作動油タンク21へ戻った後、再び油圧ポンプ22に吸い込まれる。
【0038】
このように、油圧作動油は、油圧ショベル1の油圧回路を循環して油圧アクチュエータに対して動力を伝達する。また、油圧作動油は、油圧ポンプ22内や油圧アクチュエータ内の摺動箇所を潤滑する潤滑油としても機能する。
【0039】
油圧作動油が作動油フィルタ30のフィルタエレメント31を通過する際に、流動抵抗(摩擦)によって油圧作動油及びフィルタエレメント31の双方が帯電する。
【0040】
近年、作業機械では、油圧ポンプ22の定格圧力の高圧化及び作動油タンク21の小型化が図られている。油圧の高圧化により、油圧作動油に混入した異物による油圧ポンプ22や油圧バルブ24、油圧アクチュエータ等の機器の不具合の発生が懸念される。そこで、作動油フィルタ30のフィルタエレメント31の目をより細かくすることで、油圧作動油への異物の混入の更なる抑制を図っている。しかし、フィルタエレメント31の目を細かくする分、フィルタエレメント31を通過する際の油圧作動油の流動抵抗(摩擦)が大きくなり、油圧作動油及びフィルタエレメント31の帯電量が増加する。また、作動油タンク21の小型化により、油圧作動油の貯留量が減少するので、油圧作動油の循環が速まる傾向にある。そのため、油圧作動油の単位量当りの帯電量が増加する傾向にある。
【0041】
このように、油圧作動油及びフィルタエレメント31の帯電量が増加する傾向にある。油圧作動油及びフィルタエレメント31が帯電して電荷の蓄積量が増加すると、作動油フィルタ30内での放電の発生が懸念される。
【0042】
特に、低温環境下で油圧ショベル1が使用される場合には、作動油フィルタ30での放電の発生が懸念される。油圧ショベル1で使用される油圧作動油は、一般的に、その動粘度が温度の低下に対して増加する。油圧作動油が低温環境下で使用される場合、通常環境下での使用時よりも油圧作動油の動粘度が増加するので、その分、油圧作動油の流動抵抗も大きくなる。そのため、油圧作動油及びフィルタエレメント31の帯電量が更に増加する傾向となり、作動油フィルタ30での放電の発生がより懸念される状況となる。作動油フィルタ30で放電が生じると、その衝撃や発熱によって作動油フィルタ30が局所的に損傷する虞がある。
【0043】
そこで、本実施の形態に係る油圧作動油は、放電による作動油フィルタ30の損傷を抑制するために、従来の油圧作動油とは異なる化合物を含有するように構成されている。
【0044】
次に、本発明の作業機械用油圧作動油の一実施の形態の組成を説明する。作業機械用油圧作動油(以下、油圧作動油という)は、基油と添加剤とを含有している。
【0045】
基油としては、原油を精製して得られる鉱物油、及び、原油等を原料として合成される合成油を用いることができる。一般的には、コスト等の観点から、鉱物油を用いる。鉱物油は、原油からの精製方法や残留する硫黄の量、飽和炭化水素の割合等から、グループIからグループIII(American Petroleum Institute (API)による分類)に分けられる。鉱物油は、電気伝導率が低く、絶縁性を有している。
【0046】
本実施の形態に係る油圧作動油は、基油に対する添加剤として、以下の一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物のうち少なくとも一方の化合物を含有するものである。
【0047】
【化3】
【0048】
式(1)中、Rは、炭素数8~18のアルキル基またはアルケン基を有するアシル基である。2つのRのうち一方は、炭素数8~18のアルキル基もしくはアルケン基を有するアシル基、または、水素原子である。2つのRのうち他方は、水素原子である。
【0049】
【化4】
【0050】
式(2)中、2つのRのうち一方は、炭素数8~18のアルキル基またはアルケン基を有するアシル基である。2つのRのうち他方は、炭素数8~18のアルキル基もしくはアルケン基を有するアシル基、または、水素原子である。
【0051】
上記一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物は、有機系物質である。これれは、スラッジの発生源となる金属成分を含まないことを意図したものである。また、上記一般式(1)及び一般式(2)に含まれるアシル基は、基油への溶解性を高める親油基として機能するものである。上記一般式(1)及び一般式(2)に含まれる水酸基は、水分を吸着する親水基として機能するものである。
【0052】
本実施の形態においては、油圧作動油が上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物のうち少なくとも一方の化合物を含有することで、当該油圧作動油の電気伝導率が上記化合物を添加しない場合と比べて大きくなる。その結果、油圧作動油の帯電量が低減されるので、既存の作動油フィルタを用いて低温環境下で作業を行う場合でも、作動油フィルタ30(図2参照)での放電が抑制され、作動油フィルタ30の損傷を抑制することできる。
【0053】
上記の油圧作動油は、上記一般式(1)中のR及びRの少なくとも一方がオレオイル基(炭素数が18のアルケン基を有するアシル基)またはステアロイル基(炭素数が18のアルキル基を有するアシル基)である一般式(1)で表された化合物、及び、上記一般式(2)中の2つのRのうち少なくとも1つがオレオイル基またはステアロイル基である一般式(2)で表された化合物のうち、少なくとも一方の化合物を添加したものが好ましい。炭素数が18のアシル基は、炭素数が18よりも小さいアシル基よりも、油圧作動油の電気伝導率が高い傾向にある。
【0054】
上記一般式(1)中のR及びRのアシル基として、オクタノイル基(炭素数が8のアルキル基を有するアシル基)やラウロイル基(炭素数が12のアルキル基を有するアシル基)、ミリストイル基(炭素数が14のアルキル基を有するアシル基)、パルミトイル基(炭素数が16のアルキル基を有するアシル基)等が可能である。また、パルミトレオイル基(炭素数が16のアルケン基を有するアシル基)等も可能である。上記一般式(2)中のRのアシル基も同様である。
【0055】
また、上記の油圧作動油は、上記一般式(1)中の2つのRが水素原子である一般式(1)で表された化合物、及び、上記一般式(2)中の2つのRの一方が水素原子である一般式(2)で表された化合物のうち、少なくとも一方の化合物を添加することが好ましい。親水基としての水酸基が多く存在する分、当該化合物を添加しない油圧作動油に対する電気伝導率の上昇率が高くなる傾向にある。
【0056】
上記の油圧作動油は、上記一般式(1)中の2つのRの一方がアシル基である一般式(1)で表された化合物、及び、上記一般式(2)中の2つのRがアシル基である一般式(2)で表された化合物のうち、少なくとも一方の化合物を添加することが可能である。
【0057】
また、上記一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の配合量は、基油の質量に対して0.2質量%以上0.4質量%以下であることが好ましい。上記化合物は添加剤なので、少量の添加で電気伝導率を向上させることが求められる。
【0058】
また、上記の油圧作動油は、上記一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物のうち少なくとも一方の化合物を添加することで、油温25℃における電気伝導率が400pS/m以上となることが好ましい。油温25℃における電気伝導率が400pS/m以上の油圧作動油では、低温環境下での作業機械の動作における放電による作動油フィルタの損傷を防止可能である。
【0059】
ところで、油圧ショベル1で使用される油圧作動油は、油圧ポンプ22での加圧や油圧バルブ24での流量制御等による加熱及びオイルクーラ25での冷却が繰り返される。上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物のうち少なくとも一方の化合物を含有する油圧作動油では、加熱や冷却の繰り返しによる電気伝導率の著しい低下がないことが確認されている。
【0060】
なお、本実施の形態に係る油圧作動油においては、基油だけでは不足する様々な機能を補う添加剤を、上記効果を阻害しない範囲で配合することができる。代表的なものとして、清浄分散剤、酸化防止剤、耐荷重添加剤、さび止め剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、乳化剤、消泡剤、抗乳化剤、かび防止剤、固体潤滑剤などが挙げられる。
【0061】
清浄分散剤として、有機酸金属化合物や中性・過塩基性金属、過塩基性金属スルホネート、過塩基性金属フェネート、過塩基性金属スルホネート、コハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン等を用いることができる。
【0062】
酸化防止剤として、ジチオリン酸亜鉛や有機硫黄化合物、ヒンダードフェノール、芳香族アミン等を用いることができる。
【0063】
耐荷重添加剤として、長鎖脂肪酸や脂肪酸エステル、高級アルコール、アルキルアミン、リン酸エステル、ジチオリン酸亜鉛、有機硫黄、リン化合物、有機ハロゲン化合物等を用いることができる。
【0064】
さび止め剤として、カルボン酸やスルホネート、リン酸塩、アルコール、エステル等を用いることができる。
【0065】
腐食防止剤として、含窒素化合物やジチオリン酸亜鉛等を用いることができる。
【0066】
金属不活性化剤として、含窒素化合物を用いることができる。
【0067】
粘度指数向上剤として、ポリメタクリレートやオレフィンコポリマー、スチレンオレフィンコポリマー、ポリイソブチレン等を用いることができる。
【0068】
流動点降下剤として、ポリメタクリレートやアルキル化芳香族化合物、フマレート・酢酸ビニル共重合物、エチレン・酢酸ビニル共重合物等を用いることができる。
【0069】
乳化剤として、エチレンオキサイド付加物やエステル、カルボン酸塩、硫酸エステル、スルホン酸塩、リン酸エステル、アミン誘導体、4級アンモニウム塩等を用いることができる。
【0070】
消泡剤として、ポリメチルシロキサンやシリケート、有機フッ素化合物、金属石けん、脂肪酸エステル、リン酸エステル、高級アルコール、ポリアルキレングリコール等を用いることができる。
【0071】
抗乳化剤として、エチレンオキサイド付加物やエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドブロックポリマー、4級アンモニウム塩等を用いることができる。
【0072】
かび防止剤として、フェノール化合物やホルムアルデヒデ供与体化合物、サリチリアニリド化合物等をもちいることができる。
【0073】
固体潤滑剤として、二硫化モリブデンや二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、四フッ化エチレンポリマー、フッ化グラファイト、フラーレン等を用いることができる。
【0074】
次に、本発明の作業機械用油圧作動油の実施例1~10の組成及びその効果を比較例1~2と比較しつつ表1を用いて説明する。表1は、本発明の作業機械用油圧作動油の実施例1~10及び当該実施例に対する比較例1~2における組成、電気伝導率の測定結果、作動油フィルタの損傷試験の結果を示すものである。
【0075】
【表1】
【0076】
以下の比較例1~2及び実施例1~10の油圧作動油の電気伝導率を測定した。具体的な測定方法は以下のとおりである。JISC2101に記載された電気絶縁油試験方法に基づいた方法により、油圧作動油の体積抵抗率を測定した。ただし、測定温度は、80℃でなく、25℃とした。測定結果の体積抵抗率の逆数から油圧作動油の電気伝導率を求めた。
【0077】
また、以下の比較例1~2及び実施例1~10の油圧作動油を使用して作業機械の動作による作動油フィルタの損傷試験を行った。外気温が低く油圧作動油の温度が低い状態の場合に、放電による作動油フィルタの損傷が懸念される。そこで、試験条件として、外気温度が0℃以下の低温環境下で油圧作動油の温度が低い状態から作業機械の始動(油圧ポンプの始動)を5回行った。5回の始動を行った後に作動油フィルタの損傷の有無を確認した。作動油フィルタの損傷試験は、同一の作業機械によるものである。すなわち、当該試験は、油圧ポンプの定格圧力や作動油タンクの容量、作動油フィルタの構成及び構造、油圧回路の構成が同じ条件で行われたものである。
【0078】
[比較例1]
比較例1の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、添加剤として、清浄分散剤、酸化防止剤、耐荷重添加剤、粘度指数向上剤、消泡剤、及び抗乳化剤を用いた。
【0079】
比較例1の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、90pS/m(25℃)であった。また、比較例1の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じた。
【0080】
[比較例2]
比較例2の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、添加剤として、比較例1と同じ種類の添加剤(清浄分散剤、酸化防止剤、耐荷重添加剤、粘度指数向上剤、消泡剤、及び抗乳化剤)を用いた。
【0081】
比較例2の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、110pS/m(25℃)であった。また、比較例2の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じた。
【0082】
[実施例1]
実施例1の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例1と同じ添加剤(清浄分散剤、酸化防止剤、耐荷重添加剤、粘度指数向上剤、消泡剤、及び抗乳化剤)を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、化学式(3)のモノオレイン酸ソルビタンを0.2質量%の濃度で添加した。モノオレイン酸ソルビタンは、上記一般式(1)で表された化合物のうち、Rがオレオイル基、2つのRが共に水素原子である化合物である。
【0083】
【化5】
【0084】
実施例1の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、550pS/m(25℃)であった。すなわち、モノオレイン酸ソルビタンが添加された実施例1の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例1の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約6.1倍となった。また、実施例1の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0085】
以上の結果により、油圧作動油の基油(鉱物油)に対してモノオレイン酸ソルビタンを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0086】
[実施例2]
実施例2の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例2と同じ添加剤(清浄分散剤、酸化防止剤、耐荷重添加剤、粘度指数向上剤、消泡剤、及び抗乳化剤)を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、セスキオレイン酸ソルビタンを0.3質量%の濃度で添加した。
【0087】
実施例2の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、460pS/m(25℃)であった。すなわち、セスキオレイン酸ソルビタンが添加された実施例2の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例2の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約4.2倍になった。また、実施例2の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0088】
以上の結果により、油圧作動油の基油(鉱物油)に対してセスキオレイン酸ソルビタンを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0089】
[実施例3]
実施例3の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例1と同じ添加剤を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、ジオレイン酸ソルビタンを0.4質量%の濃度で添加した。ジオレイン酸ソルビタンは、上記一般式(1)で表された化合物のうち、Rがオレオイル基、2つのRのうち一方がオレオイル基、他方が水原子である化合物である。
【0090】
実施例3の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、400pS/m(25℃)であった。すなわち、ジオレイン酸ソルビタンが添加された実施例3の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例1の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約4.4倍になった。また、実施例3の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0091】
以上の結果により、油圧作動油の基油に対してジオレイン酸ソルビタンを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0092】
[実施例4]
実施例4の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例2と同じ添加剤を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、化学式(4)のモノオレイン酸グリセリドを0.3質量%の濃度で添加した。モノオレイン酸グリセリドは、上記一般式(2)で表された化合物のうち、2つのRの一方がオレオイル基、他方が水素原子である化合物である。
【0093】
【化6】
【0094】
実施例4の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、480pS/m(25℃)であった。すなわち、モノオレイン酸グリセリドが添加された実施例4の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例2の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約4.4倍になった。また、実施例4の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0095】
以上の結果により、油圧作動油の基油に対してモノオレイン酸グリセリドを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0096】
[実施例5]
実施例5の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例1と同じ添加剤を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、化学式(5)のモノステアリン酸ソルビタンを0.2質量%の濃度で添加した。モノステアリン酸ソルビタンは、上記一般式(1)で表された化合物のうち、Rがステアロイル基、2つのRが共に水素原子である化合物である。
【0097】
【化7】
【0098】
実施例5の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、540pS/m(25℃)であった。すなわち、モノステアリン酸ソルビタンが添加された実施例5の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例1の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約6.0倍になった。また、実施例5の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0099】
以上の結果により、油圧作動油の基油に対してモノステアリン酸ソルビタンを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0100】
[実施例6]
実施例6の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例2と同じ添加剤を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、セスキステアリン酸ソルビタンを0.3質量%の濃度で添加した。
【0101】
実施例6の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、450pS/m(25℃)であった。すなわち、セスキステアリン酸ソルビタンが添加された実施例6の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例2の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約4.1倍になった。また、実施例6の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0102】
以上の結果により、油圧作動油の基油に対してセスキステアリン酸ソルビタンを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0103】
[実施例7]
実施例7の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例1と同じ添加剤を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、ジステアリン酸ソルビタンを0.4質量%の濃度で添加した。ジステアリン酸ソルビタンは、上記一般式(1)で表された化合物のうち、Rがステアロイル基、2つのRのうち一方がステアロイル基、他方が水素原子である化合物である。
【0104】
実施例7の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、410pS/m(25℃)であった。すなわち、ジステアリン酸ソルビタンが添加された実施例7の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例1の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約4.6倍になった。また、実施例7の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0105】
以上の結果により、油圧作動油の基油に対してジステアリン酸ソルビタンを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0106】
[実施例8]
実施例8の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例2と同じ添加剤を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、モノステアリン酸グリセリドを0.3質量%の濃度で添加した。モノステアリン酸グリセリドは、上記一般式(2)で表された化合物のうち、2つのRの一方がステアロイル基、他方が水素原子である化合物である。
【0107】
実施例8の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、470pS/m(25℃)であった。すなわち、モノステアリン酸グリセリドが添加された実施例8の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例2の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約4.3倍になった。また、実施例8の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0108】
以上の結果により、油圧作動油の基油に対してモノステアリン酸グリセリドを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0109】
[実施例9]
実施例9の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例1と同じ添加剤を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、モノラウリン酸ソルビタンを0.2質量%の濃度で添加した。モノラウリン酸ソルビタンは、上記一般式(1)で表された化合物のうち、Rが炭素数12のアルキル基を有するアシル基、2つのRが共に水素原子である化合物である。
【0110】
実施例9の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、530pS/m(25℃)であった。すなわち、モノラウリン酸ソルビタンが添加された実施例9の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例1の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約5.9倍になった。また、実施例9の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0111】
以上の結果により、油圧作動油の基油に対してモノラウリン酸ソルビタンを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0112】
[実施例10]
実施例10の油圧作動油では、表1に示すように、基油としてグループIIIの鉱物油を用いた。当該基油に対して、比較例1と同じ添加剤を添加した。また、当該基油に対して、更なる添加剤として、モノオクタン酸ソルビタンを0.2質量%の濃度で添加した。モノオクタン酸ソルビタンは、上記一般式(1)で表された化合物のうち、Rが炭素数8のアルキル基を有するアシル基、2つのRが共に水素原子である化合物である。
【0113】
実施例10の油圧作動油の電気伝導率の測定結果は、530pS/m(25℃)であった。すなわち、モノオクタン酸ソルビタンが添加された実施例10の油圧作動油は、当該化合物が添加されていない比較例1の油圧作動油と比べて、電気伝導率が約5.9倍になった。また、実施例10の油圧作動油を用いた作動油フィルタの損傷試験では、作動油フィルタに損傷が生じなかった。
【0114】
以上の結果により、油圧作動油の基油に対してモノオクタン酸ソルビタンを添加することで、油圧作動油の電気伝導率が高まり、低温環境下での作業機械の動作時における作動油フィルタの損傷を抑制できることが判明した。
【0115】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、本実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は、本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0116】
例えば、本発明を油圧ショベルに適用した例を示したが、本発明は油圧作動油により油圧アクチュエータが駆動する油圧クレーンやホイールローダ等の各種の作業機械に広く適用することができる。
【0117】
また、上述した実施の形態においては、作動油フィルタ30のフィルタエレメント31を円筒状に形成した構成の例を示したが、板状のフィルタエレメントを備える構成の作動油フィルタも可能である。また、フィルタエレメント31の材質として、セルロースを用いる例を示したが、ガラス繊維等の各種の材料を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0118】
1…油圧ショベル(作業機械)、6…旋回油圧モータ(油圧アクチュエータ)、9…走行油圧モータ(油圧アクチュエータ)、15…ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)、16…アームシリンダ(油圧アクチュエータ)、17…バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)、30…作動油フィルタ
図1
図2