(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】追跡装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/66 20060101AFI20230411BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G01S13/66
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2019117142
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2021-12-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 悠介
(72)【発明者】
【氏名】北村 尭之
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-042181(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0065328(US,A1)
【文献】特開2002-260192(JP,A)
【文献】特公平04-053394(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/64
G01S 13/00 - G01S 17/95
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて、前記車両の周辺に存在する一つまたは複数の物標を追跡する追跡装置(4)であって、
予め設定された処理サイクルの繰り返し周期が経過する毎に、前記一つまたは複数の物標をセンサで観測した観測情報と、前記一つまたは複数の物標における過去の状態量との少なくとも一方に基づいて、前記一つまたは複数の物標のそれぞれにおける現在の前記状態量を推定するように構成された状態量推定部(S40,S220,S230)と、
前記一つまたは複数の物標のそれぞれに対して、前記一つまたは複数の物標の状態に基づいて、予め設定された少なくとも直線運動モデルからなる第1運動モデルと旋回運動モデルからなる第2運動モデルの中から一つの運動モデルを選択するように構成されたモデル選択部(S50)と、
前記一つまたは複数の物標のそれぞれについて、前記モデル選択部で選択された前記一つの運動モデルで前記状態量推定部に前記状態量を推定させるように構成された推定選択部(S210)と
を備え、
前記モデル選択部は、
前記一つまたは複数の物標の状態を示すように予め設定されたパラメータを選択パラメータとし、前記選択パラメータは前記一つまたは複数の物標の対地速度または相対速度または縦方向位置または距離または横方向位置または方位または反射強度のうち少なくとも一つであって、前記選択パラメータが予め設定された選択判定値以上であるか否かを判断することにより前記一つの運動モデルを選択し、
前記一つまたは複数の物標の対地速度または相対速度が前記選択パラメータの場合には、前記選択パラメータが前記選択判定値以上である場合、
前記一つまたは複数の物標の縦方向位置または距離が前記選択パラメータの場合には、前記選択パラメータが前記選択判定値以上である場合、
前記一つまたは複数の物標の横方向位置または方位が前記選択パラメータの場合には、前記選択パラメータが前記選択判定値未満である場合、
前記一つまたは複数の物標の反射強度が前記選択パラメータの場合には、前記選択パラメータが前記選択判定値以上である場合のいずれか一つを含む場合には、前記第2運動モデルが選択される追跡装置。
【請求項2】
請求項1に記載の追跡装置であって、
前記モデル選択部は、予め設定された第2運動モデル選択条件が成立した場合に、前記第2運動モデルを選択し、前記第2運動モデル選択条件が成立していない場合に、前記第1運動モデルを選択する追跡装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の追跡装置であって、
前記第2運動モデルは、状態変数に加速度を含む追跡装置。
【請求項4】
請求項1~
請求項3の何れか1項に記載の追跡装置であって、
前記状態量推定部は、更に、前記一つまたは複数の物標における過去の前記状態量の推定値に基づいて、前記一つまたは複数の物標のそれぞれにおける現在の前記状態量の予測値を算出し、
前記モデル選択部は、更に、現在の前記一つの運動モデルを設定してから経過した前記処理サイクルの数である設定経過サイクルが予め設定された切替判定サイクル以上であり、且つ、前記予測値と、前記観測情報が示す観測値との差である予測残差が予め設定された切替判定値以上である場合に、前回に選択した前記一つの運動モデルと異なる前記一つの運動モデルを選択する追跡装置。
【請求項5】
請求項1に記載の追跡装置であって、
前記選択判定値は、選択されている前記一つの運動モデルに応じて変更される追跡装置。
【請求項6】
請求項1~
請求項5の何れか1項に記載の追跡装置であって、
前記状態量推定部は、更に、前記状態量の誤差共分散を推定する追跡装置。
【請求項7】
請求項6に記載の追跡装置であって、
前記一つまたは複数の物標のそれぞれについて、前記一つの運動モデルが前回から変更された場合に、前記状態量および前記誤差共分散の少なくとも一方を、変更された後の前記一つの運動モデルに対応するように変換するように構成された変換部(S520,S620)を備える追跡装置。
【請求項8】
請求項1~
請求項7の何れか1項に記載の追跡装置であって、
選択された前記一つの運動モデルに関わらず、前記一つまたは複数の物標の前記状態量が格納されるように構成された状態量格納部(13a)を備え、
前記状態量格納部は、少なくとも前記第1運動モデルと前記第2運動モデルのうち状態変数の数が最も多い前記一つの運動モデルにおける前記状態量を格納可能な容量を有する追跡装置。
【請求項9】
請求項6に記載の追跡装置であって、
選択された前記一つの運動モデルに関わらず、前記一つまたは複数の物標の前記状態量および前記誤差共分散を共通の物理量に変換して出力するように構成された出力部(S70)を備える追跡装置。
【請求項10】
請求項1~
請求項9の何れか1項に記載の追跡装置であって、
前記モデル選択部は、
さらに前記車両の状態を示すように予め設定されたパラメータを前記選択パラメータとし、前記選択パラメータは前記車両の回転半径または加速度の絶対値のうち少なくとも一つであって、前記選択パラメータが前記選択判定値以上であるか否かを判断することにより前記一つの運動モデルを選択し、
前記車両の回転半径が前記選択パラメータの場合には、前記選択パラメータが前記選択判定値未満である場合、
前記車両の加速度の絶対値が前記選択パラメータの場合には、前記選択パラメータが前記選択判定値以上である場合、のいずれか一つを含む場合には前記第2運動モデルが選択される追跡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の周辺に存在する物標を追跡する追跡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダにより物標の位置および速度などの状態量を算出するためには、前回の処理サイクルでの物標の位置および速度などの推定値から求めた今回の処理サイクルでの予測値と、今回の観測値とのフィルタ処理を行うのが一般的である。しかし、予測値の算出に用いる運動モデルと物標の実際の運動との間で乖離がある場合には、物標の状態量を精度良く推定することができない。それに対し、特許文献1には、運動モデルが互いに異なる複数のフィルタ処理部がそれぞれ物標の状態量を推定し、推定結果の収束状況に応じて、何れか一つのフィルタ処理部の出力を選択することで、精度良い推定結果を得る目標追尾装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、一つの物標に対して複数のフィルタ処理を並行して実行させる必要があるため、処理負荷が大きくなってしまうという問題があった。
本開示は、処理負荷の増加を抑制して精度良く物標を追跡することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、車両に搭載されて、車両の周辺に存在する一つまたは複数の物標を追跡する追跡装置(4)であって、状態量推定部(S40,S220,S230)と、モデル選択部(S50)と、推定選択部(S210)とを備える。
【0006】
状態量推定部は、予め設定された処理サイクルの繰り返し周期が経過する毎に、一つまたは複数の物標をセンサ(2)で観測した観測情報と、一つまたは複数の物標における過去の状態量との少なくとも一方に基づいて、一つまたは複数の物標のそれぞれにおける現在の状態量を推定するように構成される。
【0007】
モデル選択部は、一つまたは複数の物標のそれぞれに対して、一つまたは複数の物標の状態と、車両の状態との少なくとも一方に基づいて、予め設定された複数の運動モデルの中から一つの運動モデルを選択するように構成される。
【0008】
推定選択部は、一つまたは複数の物標のそれぞれについて、モデル選択部で選択された一つの運動モデルで状態量推定部に状態量を推定させるように構成される。
このように構成された本開示の追跡装置は、一つの物標に対して一つの運動モデルを用いて状態量を推定する。このため、本開示の追跡装置は、一つの物標に対して複数の運動モデルを並行して実行するという事態の発生を抑制し、処理負荷の増加を抑制することができる。さらに、本開示の追跡装置は、複数の運動モデルの中から一つの運動モデルを選択して、一つまたは複数の物標のそれぞれにおける現在の状態量を推定する。このため、本開示の追跡装置は、一つまたは複数の物標のそれぞれに対して適切な一つの運動モデルを選択して状態量を推定することができ、状態量の推定精度を向上させることができる。これにより、本開示の追跡装置は、精度良く物標を追跡することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】運転支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態におけるレーダ装置の設置位置と検出範囲とを示す図である。
【
図5】状態量予測処理を示すフローチャートである。
【
図7】第1実施形態のモデル設定処理を示すフローチャートである。
【
図11】自車両の前方で道路を横断するために直進する歩行者を示す図である。
【
図12】道路のカーブの手前を走行する自車両および先行車両を示す図である。
【
図14】第2実施形態のモデル設定処理を示すフローチャートである。
【
図15】別の実施形態におけるレーダ装置の設置位置と検出範囲とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下に本開示の第1実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態の運転支援システム1は、車両に搭載され、
図1に示すように、レーダ装置2と、挙動センサ群3と、追跡装置4と、支援実行部5とを備える。以下、運転支援システム1を搭載する車両を自車両という。
【0011】
レーダ装置2は、ミリ波またはマイクロ波等のレーダ波を送信し、反射したレーダ波を受信する。
図2に示すように、レーダ装置2は、自車両の前方に向けてレーダ波を送信することにより、検出範囲Rd内に存在してレーダ波を反射した反射点に関する情報(以下、観測情報)を生成する。観測情報には、反射点までの距離と、反射点の方位と、反射点の相対速度と、反射点で反射したレーダ波の強度(以下、反射強度)とが含まれる。
【0012】
図1に示すように、挙動センサ群3は、自車両の挙動に関する情報と、自車両の挙動に影響を与える運転操作に関する情報とを検出するための各種機器からなる。挙動センサ群3が検出する情報には、例えば、アクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量、操舵角、車両速度および車両加速度が含まれる。
【0013】
追跡装置4は、レーダ装置2により生成された観測情報に基づいて、自車両の周囲に存在する物標を追跡し、追跡した物標の状態量を示す物標情報を生成する。
追跡装置4は、CPU11、ROM12およびRAM13等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成された電子制御装置である。マイクロコンピュータの各種機能は、CPU11が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROM12が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、CPU11が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、追跡装置4を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0014】
支援実行部5は、例えば、アクチュエータ、オーディオ装置および表示装置などを備える。支援実行部5は、追跡装置4にて生成される物標情報に基づき、自車両の挙動を制御したり、自車両の運転者に対する報知を実行したりする。
【0015】
追跡装置4のCPU11が実行する追跡処理の手順を説明する。追跡処理は、追跡装置4の動作中において、予め設定された処理サイクル毎に繰り返し実行される処理である。処理サイクルの繰り返し周期をΔTとする。以下では、本処理により追跡の対象となっている物標を追跡物標と呼ぶ。
【0016】
追跡処理が実行されると、CPU11は、
図3に示すように、まずS10にて、予測処理を実行する。ここで、S10で実行される予測処理の手順を説明する。
予測処理が実行されると、CPU11は、
図4に示すように、まずS110にて、一つまたは複数の追跡物標の中から、今回の予測処理において選択されていない一つの追跡物標を選択する。以下、選択された追跡物標を対象物標という。
【0017】
そしてS120にて、CPU11は、状態量予測処理を実行する。ここで、S120で実行される状態量予測処理の手順を説明する。
状態量予測処理が実行されると、CPU11は、
図5に示すように、まずS210にて、対象物標に対して、後述の第1運動モデルが設定されているか、後述の第2運動モデルが設定されているかを判断する。ここで、第1運動モデルが設定されている場合には、CPU11は、S220にて、後述する第1予測処理を実行し、状態量予測処理を終了する。一方、第2運動モデルが設定されている場合には、CPU11は、S230にて、後述する第2予測処理を実行し、状態量予測処理を終了する。
【0018】
次に、S220で実行される第1予測処理を説明する。
第1予測処理では、CPU11は、第1運動モデルを用いて、前回の処理サイクルで求められた対象物標の状態ベクトルの推定値に基づき、今回の処理サイクルでの状態ベクトルの予測値を算出する。下式(1)~(6)は、拡張カルマンフィルタを表す式である。
【0019】
Xk|k-1は状態ベクトルの予測値(すなわち、予測ベクトル)である。Xkは状態ベクトルの推定値である。zkは観測値である。Pk|k-1は状態ベクトルの予測値の誤差共分散行列である。Pkは誤差共分散行列の推定値である。Skはイノベーション行列である。Kkはカルマンゲインである。fは前の状態量からの予測値を与える関数である。hは観測値を与える関数である。Qkはプロセスノイズの分散である。Fkは関数fのヤコビアンで定義される状態遷移行列である。Rkは観測ノイズの誤差共分散行列である。Hkは関数hのヤコビアンで定義される状態空間を観測空間に写像する変換行列である。また、X0は状態ベクトルの初期値(すなわち、初期推定ベクトル)、P0は誤差共分散行列の初期値を表す。
【0020】
【数1】
そして第1運動モデルは、直線運動モデルである。直線運動モデルは、
図11に示すように、自車両V1の前方で、道路を横断するために直進する歩行者PDを検出するためのモデルである。
【0021】
第1運動モデルでは、物標の状態量は、横方向位置x、縦方向位置y、横方向速度vxおよび縦方向速度vyで表される。これらの状態量を要素としてベクトル表現した状態ベクトルは、X=[x,y,vx,vy]Tで表される。なお、横方向は自車両の車幅方向であり、縦方向は車幅方向に垂直な方向である。
【0022】
また第1運動モデルでは、今回の処理サイクルでの状態量の予測値を状態ベクトルXk|k-1=[x’,y’,vx’,vy’]Tとし、前回の処理サイクルでの状態量の推定値を状態ベクトルXk-1=[x,y,vx,vy]Tとする。そして関数fは、状態ベクトルXk|k-1と状態ベクトルXk-1との間で、式(7)に示す関係が成立するように設定される。
【0023】
【数2】
すなわち、S220の第1予測処理では、CPU11は、式(7)で設定される関数fを用いて、式(1)により、今回の処理サイクルにおける状態ベクトルの予測値を算出し、式(2)により、今回の処理サイクルにおける状態ベクトルの予測値の誤差共分散行列を算出する。
【0024】
次に、S230で実行される第2予測処理を説明する。
S230の第2予測処理では、CPU11は、第2運動モデルを用いて、前回の処理サイクルで求められた対象物標の状態ベクトルの推定値に基づき、今回の処理サイクルでの状態ベクトルの予測値を算出する。
【0025】
そして第2運動モデルは、旋回運動モデルである。旋回運動モデルは、
図12に示すように、自車両V1の前方で、道路のカーブCVを走行する先行車両V2を検出するためのモデルである。
【0026】
第2運動モデルでは、物標の状態量は、横方向位置x、縦方向位置y、速度v、進行方向θ、加速度aおよびヨーレートωで表される。これらの状態量を要素としてベクトル表現した状態ベクトルは、X=[x,y,v,θ,a,ω]Tで表される。
【0027】
また第2運動モデルでは、今回の処理サイクルでの状態量の予測値を状態ベクトルXk|k-1=[x’,y’,v’,θ’,a’,ω’]Tとし、前回の処理サイクルでの状態量の推定値を状態ベクトルXk-1=[x,y,v,θ,a,ω]Tとする。そして関数fは、状態ベクトルXk|k-1と状態ベクトルXk-1との間で、式(8)に示す関係が成立するように設定される。
【0028】
【数3】
すなわち、S230の第2予測処理では、CPU11は、式(8)で設定される関数fを用いて、式(1)により、今回の処理サイクルにおける状態ベクトルの予測値を算出し、式(2)により、今回の処理サイクルにおける状態ベクトルの予測値の誤差共分散行列を算出する。
【0029】
なお、CPU11は、算出した状態量を、RAM13に設けられた状態量格納部13aに格納する。
状態量格納部13aは、
図13に示すように、複数の物標のそれぞれについて、[x,y,v
x,v
y]または[x,y,v,θ,a,ω]を格納するように形成されている。具体的には、複数の物標のそれぞれについて、格納領域R1,R2,R3,R4,R5,R6が設けられている。そしてCPU11は、例えば、第1運動モデルで状態ベクトルの推定値を算出した場合には、対応する物標の格納領域R1,R2,R3,R4にそれぞれ、x,y,v
x,v
yを格納する。またCPU11は、第2運動モデルで状態ベクトルの推定値を算出した場合には、対応する物標の格納領域R1,R2,R3,R4,R5,R6にそれぞれ、x,y,v,θ,a,ωを格納する。
【0030】
状態量予測処理が終了すると、CPU11は、
図4に示すように、S130にて、一つまたは複数の追跡物標の中の全ての追跡物標をS110で選択したか否かを判断する。ここで、全ての追跡物標を選択していない場合には、CPU11は、S110に移行する。一方、全ての追跡物標を選択した場合には、CPU11は、予測処理を終了する。
【0031】
予測処理が終了すると、CPU11は、
図3に示すように、S20にて、レーダ装置2により検出された反射点と、追跡物標とを関連付ける関連付け処理を実行する。ここで、S20で実行される関連付け処理の手順を説明する。
【0032】
関連付け処理が実行されると、CPU11は、
図6に示すように、まずS310にて、今回の処理サイクルで検出された一つまたは複数の反射点の中から、今回の関連付け処理において選択されていない一つの反射点を選択する。以下、選択された反射点を選択反射点という。
【0033】
次にS320にて、CPU11は、一つまたは複数の追跡物標の中から、今回の関連付け処理において選択されていない一つの追跡物標を選択物標として選択する。さらにS330にて、CPU11は、選択反射点と選択物標との間の距離を算出する。
【0034】
そしてS340にて、CPU11は、一つまたは複数の追跡物標の中の全ての追跡物標をS320で選択したか否かを判断する。ここで、全ての追跡物標を選択していない場合には、CPU11は、S320に移行する。一方、全ての追跡物標を選択した場合には、CPU11は、S350にて、今回の処理サイクルで検出された一つまたは複数の反射点の中の全ての反射点をS310で選択したか否かを判断する。ここで、全ての反射点を選択していない場合には、CPU11は、S310に移行する。
【0035】
一方、全ての反射点を選択した場合には、CPU11は、S360にて、一つまたは複数の追跡物標の中でS370の処理が実行されていない一つの追跡物標を選択物標として選択する。次にS370にて、CPU11は、S330で算出された距離に基づいて、反射点を選択物標と関連付けるか否かを決定する。以下、選択物標に関連づけられた反射点を関連反射点という。関連付け方法としては、例えば、選択物標Mjから最も距離が小さい反射点が反射点Piであり、かつ、反射点Piから最も距離が小さい物標が選択物標Mjである場合に、反射点Piと選択物標Mjとを関連付ける。
【0036】
またS380にて、CPU11は、S120で算出された状態ベクトルの予測値が示す選択物標の位置と、関連反射点の観測情報が示す関連反射点の位置との間の距離を、選択物標の予測残差として算出する。
【0037】
そしてS390にて、CPU11は、一つまたは複数の追跡物標の中の全ての追跡物標をS360で選択したか否かを判断する。ここで、全ての追跡物標を選択していない場合には、CPU11は、S360に移行する。一方、全ての追跡物標を選択した場合には、CPU11は、関連付け処理を終了する。
【0038】
関連付け処理が終了すると、CPU11は、
図3に示すように、S30にて、関連反射点が存在しない追跡物標を消滅させる消滅処理を実行する。具体的には、追跡物標毎に、消滅カウンタが設けられ、CPU11は、関連反射点が存在する場合に消滅カウンタをリセットする。一方、関連反射点が存在しない場合には、CPU11は、消滅カウンタをインクリメントする。そして、消滅カウンタの値が所定値に達した場合、すなわち、所定回の処理サイクルで連続して関連反射点が存在しなかった場合に、CPU11は、その追跡物標を消滅させる。
【0039】
そしてS40にて、CPU11は、S20の関連付け処理によって互いに関連づけられた追跡物標の状態ベクトルの予測値と、関連反射点の観測情報とに基づいて、今回の処理サイクルで追跡物標の状態ベクトルの推定値を算出する更新処理を実行する。具体的には、CPU11は、式(3)~(6)を用いて、今回の処理サイクルにおける状態ベクトルの推定値(すなわち、状態ベクトルXk)と、誤差共分散行列の推定値(すなわち、行列Pk)とを算出する。なお、CPU11は、S370において関連反射点が存在していない追跡物標の状態ベクトルおよび誤差共分散行列の予測値を、推定値に設定する。
【0040】
更新処理が終了すると、CPU11は、S50にて、モデル設定処理を実行する。ここで、S50で実行されるモデル設定処理の手順を説明する。
モデル設定処理が実行されると、CPU11は、
図7に示すように、まずS410にて、一つまたは複数の追跡物標の中から、今回のモデル設定処理において選択されていない一つの追跡物標を選択する。以下、選択された追跡物標を対象物標という。
そしてS411にて、CPU11は、対象物標の後述する経過サイクルが予め設定された第5判定値以下であるか否かを判断する。なお、追跡物標毎に経過サイクルカウンタが設けられている。そしてCPU11は、追跡物標が検出されてから処理サイクルの繰り返し周期が経過する毎に、対応する経過サイクルカウンタをインクリメント(すなわち、1加算)する。経過サイクルは、経過サイクルカウンタの値であり、対象物標を検出してから経過した処理サイクルの数に相当する。
ここで、経過サイクルが第5判定値以下である場合には、CPU11は、S510に移行する。
【0041】
一方、経過サイクルが第5判定値を超えている場合には、CPU11は、S420にて、CPU11は、挙動センサ群3から取得した車両速度Vnと、S40で算出した状態ベクトルの推定値を用いて算出した縦方向速度とに基づいて、対地速度Vabsを算出する。対地速度Vabsは、地面に対する物標の進行速度である。すなわち、対地速度Vabsは、自車両の走行速度に、自車両の進行方向に沿った物標の相対速度を加算することにより算出される。
【0042】
具体的には、CPU11は、S120において第1運動モデルで状態ベクトルの予測値を算出した場合には、式(9)により、対地速度Vabsを算出する。またCPU11は、S120において第2運動モデルで状態ベクトルの予測値を算出した場合には、式(10)により、対地速度Vabsを算出する。
【0043】
Vabs=Vn+vy ・・・(9)
Vabs=Vn+v/cosθ ・・・(10)
そしてS430にて、CPU11は、S420にて算出された対地速度Vabsが予め設定された第1判定値以上であるか否かを判断する。ここで、対地速度Vabsが第1判定値以上である場合には、CPU11は、S520に移行する。一方、対地速度Vabsが第1判定値未満である場合には、CPU11は、S440にて、対象物標の縦方向位置が予め設定された第2判定値以上であるか否かを判断する。
【0044】
ここで、縦方向位置が第2判定値以上である場合には、CPU11は、S520に移行する。一方、縦方向位置が第2判定値未満である場合には、CPU11は、S450にて、対象物標の横方向位置が予め設定された第3判定値未満であるか否かを判断する。ここで、横方向位置が第3判定値未満である場合には、CPU11は、S520に移行する。
【0045】
一方、横方向位置が第3判定値以上である場合には、CPU11は、S460にて、対象物標に対応する観測情報に基づいて、対象物標の反射強度が予め設定された第4判定値以上であるか否かを判断する。ここで、反射強度が第4判定値以上である場合には、CPU11は、S520に移行する。
【0046】
一方、反射強度が第4判定値未満である場合には、CPU11は、S480にて、挙動センサ群3から取得した操舵角に基づいて、自車両が走行している走行経路の回転半径を算出する。
【0047】
そしてS490にて、CPU11は、S480で算出した回転半径が予め設定された第6判定値未満であるか否かを判断する。ここで、回転半径が第6判定値未満である場合には、CPU11は、S520に移行する。一方、回転半径が第6判定値以上である場合には、CPU11は、S500にて、挙動センサ群3から取得した車両加速度に基づいて、車両加速度の絶対値が予め設定された第7判定値以上であるか否かを判断する。
【0048】
ここで、車両加速度の絶対値が第7判定値以上である場合には、CPU11は、S520に移行する。一方、車両加速度の絶対値が第7判定値未満である場合には、CPU11は、S510にて、後述する第1設定処理を実行し、S530に移行する。また、S520に移行すると、CPU11は、後述する第2設定処理を実行し、S530に移行する。
【0049】
そしてS530に移行すると、一つまたは複数の追跡物標の中の全ての追跡物標をS410で選択したか否かを判断する。ここで、全ての追跡物標を選択していない場合には、CPU11は、S410に移行する。一方、全ての追跡物標を選択した場合には、CPU11は、モデル設定処理を終了する。
【0050】
ここで、S510で実行される第1設定処理の手順を説明する。
第1設定処理が実行されると、CPU11は、
図8に示すように、まず、S610にて、対象物標に対して第2運動モデルが設定されているか否かを判断する。ここで、第2運動モデルが設定されていない場合には、CPU11は、第1設定処理を終了する。一方、第2運動モデルが設定されている場合には、CPU11は、S620にて、状態変数x,y,v,θ,a,ωで表されている状態ベクトルおよび誤差共分散行列を、状態変数x,y,v
x,v
yで表される状態ベクトルおよび誤差共分散行列へ変換する。そしてS630にて、CPU11は、対象物標に対して第1運動モデルを設定し、第1設定処理を終了する。
【0051】
次に、S520で実行される第2設定処理の手順を説明する。
第2設定処理が実行されると、CPU11は、
図9に示すように、まず、S710にて、対象物標に対して第1運動モデルが設定されているか否かを判断する。ここで、第1運動モデルが設定されていない場合には、CPU11は、第2設定処理を終了する。一方、第1運動モデルが設定されている場合には、CPU11は、S720にて、状態変数x,y,v
x,v
yで表されている状態ベクトルおよび誤差共分散行列を、状態変数x,y,v,θ,a,ωで表される状態ベクトルおよび誤差共分散行列へ変換する。そしてS730にて、CPU11は、対象物標に対して第2運動モデルを設定し、第2設定処理を終了する。
【0052】
モデル設定処理が終了すると、CPU11は、
図3に示すように、S60にて、追跡物標と関連付けられなかった反射点を新規物標として新たに登録する登録処理を実行する。ここで、S60で実行される登録処理の手順を説明する。
【0053】
登録処理が実行されると、CPU11は、
図10に示すように、まずS810にて、今回の処理サイクルで検出された反射点のうち、追跡物標と関連付けられなかった反射点を非関連反射点とし、一つまたは複数の非関連反射点の中から、今回の登録処理において選択されていない一つの非関連反射点を選択する。
【0054】
次にS820にて、CPU11は、選択された非関連反射点の観測情報(すなわち、反射点までの距離と、反射点の方位と、反射点の相対速度)と、挙動センサ群3から取得した操舵角および車両加速度とに基づいて、X=[x,y,v,θ,a,ω]Tで表されている状態ベクトルの初期値(すなわち、初期推定ベクトル)を算出する。
【0055】
そしてS830にて、CPU11は、選択された非関連反射点を、S820で算出した初期推定ベクトルとともに、新規物標として登録する。
さらにS840にて、CPU11は、S810において全ての非関連反射点を選択したか否かを判断する。ここで、全ての非関連反射点を選択していない場合には、CPU11は、S810に移行する。一方、全ての非関連反射点を選択した場合には、CPU11は、登録処理を終了する。
【0056】
登録処理が終了すると、CPU11は、
図3に示すように、S70にて、物標情報を生成して、生成した物標情報を支援実行部5へ出力し、追跡処理を一旦終了する。具体的には、S70にて、CPU11は、まず、一つまたは複数の追跡物標の状態ベクトルの推定値と、一つまたは複数の新規物標の状態ベクトルの初期値とを、第1運動モデルの状態変数で表される状態ベクトル(すなわち、X=[x,y,v
x,v
y]
Tで表される状態ベクトル)に変換する。なお、追跡物標の状態ベクトルの推定値はS40で算出され、新規物標の状態ベクトルの初期値はS50で算出される。すなわち、CPU11は、追跡物標の状態ベクトルの推定値と、新規物標の状態ベクトルの初期値とについて、第2運動モデルの状態変数で表されている場合に、変換処理を実行する。さらにCPU11は、誤差共分散行列を、状態変数x,y,v
x,v
yで表される誤差共分散行列へ変換する。そしてCPU11は、第1運動モデルの状態変数に変換された追跡物標の状態ベクトルの推定値と、第1運動モデルの状態変数に変換された新規物標の状態ベクトルの初期値と、第1運動モデルの状態変数に変換された誤差共分散行列とを、物標情報として生成する。
【0057】
このように構成された追跡装置4は、車両に搭載されて、車両の周辺に存在する一つまたは複数の物標を追跡する。
追跡装置4は、予め設定された処理サイクルの繰り返し周期ΔTが経過する毎に、一つまたは複数の物標をレーダ装置2で観測した観測情報と、一つまたは複数の物標における過去の状態ベクトルの推定値Xk-1とに基づいて、一つまたは複数の物標のそれぞれにおける現在の状態ベクトルの推定値Xkを推定する。
【0058】
追跡装置4は、一つまたは複数の物標のそれぞれに対して、一つまたは複数の物標の状態と、車両の状態との少なくとも一方に基づいて、予め設定された第1運動モデルおよび第2運動モデルの中から一つの運動モデルを選択する。
【0059】
追跡装置4は、一つまたは複数の物標のそれぞれについて、選択された一つの運動モデルで状態ベクトルの推定値Xkを推定する。
このように追跡装置4は、一つの物標に対して一つの運動モデルを用いて状態ベクトルの推定値を推定する。このため、追跡装置4は、一つの物標に対して複数の運動モデルを並行して実行するという事態の発生を抑制し、処理負荷の増加を抑制することができる。さらに追跡装置4は、複数の運動モデルの中から一つの運動モデルを選択して、一つまたは複数の物標のそれぞれにおける現在の状態ベクトルの推定値Xkを推定する。このため、追跡装置4は、一つまたは複数の物標のそれぞれに対して適切な一つの運動モデルを選択して状態ベクトルの推定値Xkを推定することができ、状態ベクトルの推定値Xkの推定精度を向上させることができる。これにより、追跡装置4は、精度良く物標を追跡することができる。
【0060】
また、第1運動モデルは、直線運動モデルであり、第2運動モデルは、旋回運動モデルである。車両に搭載されたレーダ装置2における主な物標は、車両と歩行者である。車両は操舵角に応じた旋回動作をするため、運動モデルとしては旋回運動モデルが適している。一方、例えば自車両の前方で横断する歩行者は、直線的な動きである可能性が高く、また、車両と異なり一定の回転半径での旋回挙動をしないため、旋回運動モデルよりも直線運動モデルが適している。
【0061】
追跡装置4は、物標の対地速度Vabsが第1判定値以上である場合に、第2運動モデルを選択する。
追跡装置4は、物標の縦方向位置が第2判定値以上である場合に、第2運動モデルを選択する。
【0062】
追跡装置4は、物標の横方向位置が第3判定値未満である場合に、第2運動モデルを選択する。
追跡装置4は、物標の反射強度が第4判定値以上である場合に、第2運動モデルを選択する。
【0063】
追跡装置4は、物標の経過サイクルが第5判定値以下である場合に、第1運動モデルを選択する。
追跡装置4は、自車両の回転半径が第6判定値未満である場合に、第2運動モデルを選択する。
【0064】
追跡装置4は、車両加速度の絶対値が第7判定値以上である場合に、第2運動モデルを選択する。
第2運動モデルは、状態変数に加速度aを含む。これにより、追跡装置4は、物標の追跡精度を向上させることができる。
【0065】
追跡装置4は、S430,S440,S450,S460,S470,S490,S500で否定判断された場合に、第1運動モデルを選択する。S430,S440,S450,S460,S470,S490,S500の判断条件は、第2運動モデルを選択するために設定された第2運動モデル選択条件である。
【0066】
追跡装置4は、更に、誤差共分散行列の推定値Pkを推定する。
追跡装置4は、一つまたは複数の物標のそれぞれについて、一つの運動モデルが前回から変更された場合に、状態ベクトルおよび誤差共分散行列を、変更された後の一つの運動モデルに対応するように変換する。
【0067】
追跡装置4は、選択された一つの運動モデルに関わらず、一つまたは複数の物標の状態ベクトルが格納される状態量格納部13aを備える。状態量格納部13aは、第1運動モデルおよび第2運動モデルのうち状態変数の数が最も多い第2運動モデルにおける状態ベクトルを格納可能な容量を有する。これにより、追跡装置4は、第1運動モデルおよび第2運動モデルにおける状態ベクトルを、共通の状態量格納部13aに格納することができる。このため、追跡装置4は、第1運動モデルおよび第2運動モデルにおける状態ベクトルを格納するために、第1運動モデルと第2運動モデルとで別々のデータ格納部を設ける必要がなく、データ記憶容量の増加を抑制することができる。
【0068】
追跡装置4は、選択された一つの運動モデルに関わらず、一つまたは複数の物標の状態ベクトルおよび誤差共分散行列を、状態変数x,y,vx,vyに変換して出力する。これにより、追跡装置4は、支援実行部5において、状態ベクトルおよび誤差共分散行列を、第1運動モデルの状態変数と第2運動モデルの状態変数との間で変換する処理を不要とすることができる。このため、追跡装置4は、支援実行部5における物標情報の利用を容易にすることができる。
【0069】
以上説明した実施形態において、S40,S220,S230は状態量推定部としての処理に相当し、S50はモデル選択部としての処理に相当し、S210は推定選択部としての処理に相当し、状態ベクトルは状態量に相当する。
【0070】
また、物標の対地速度Vabs、物標の縦方向位置、物標の横方向位置、物標の反射強度、物標の経過サイクルおよび自車両の回転半径は選択パラメータに相当する。
また、第1判定値、第2判定値、第3判定値、第4判定値、第5判定値、第6判定値および第7判定値は選択判定値に相当する。
【0071】
また、誤差共分散行列は誤差共分散に相当し、S620,S720は変換部としての処理に相当し、S70は出力部としての処理に相当し、状態変数x,y,vx,vyは共通の物理量に相当する。
【0072】
(第2実施形態)
以下に本開示の第2実施形態を図面とともに説明する。なお第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0073】
第2実施形態の運転支援システム1は、モデル設定処理が変更された点が第1実施形態と異なる。
第2実施形態のモデル設定処理は、S412,S414,S416の処理が追加された点が第1実施形態と異なる。
【0074】
すなわち、
図14に示すように、S411にて、経過サイクルが第5判定値を超えている場合には、CPU11は、まずS412にて、対象物標の設定経過サイクルが予め設定された切替サイクル以上であるか否かを判断する。なお、追跡物標毎に設定経過サイクルカウンタが設けられている。そしてCPU11は、追跡物標が検出されてから処理サイクルの繰り返し周期が経過する毎に、対応する設定経過サイクルカウンタをインクリメントする。但し、CPU11は、運動モデルが切り替わる毎に、対応する設定経過サイクルカウンタをリセット(すなわち、0に設定)する。設定経過サイクルは、設定経過サイクルカウンタの値であり、現在の運動モデルを設定してから経過した処理サイクルの数に相当する。
ここで、設定経過サイクルが切替サイクル未満である場合には、CPU11は、S420に移行する。
【0075】
一方、設定経過サイクルが切替サイクル以上である場合には、CPU11は、S414にて、対象物標の予測残差が予め設定された切替判定値以上であるか否かを判断する。ここで、予測残差が切替判定値未満である場合には、CPU11は、S420に移行する。一方、予測残差が切替判定値以上である場合には、CPU11は、S416にて、対象物標に対して第1運動モデルが設定されているか否かを判断する。ここで、第1運動モデルが設定されていない場合には、CPU11は、S510に移行する。一方、第1運動モデルが設定されている場合には、CPU11は、S520に移行する。
【0076】
このように構成された追跡装置4は、一つまたは複数の物標における過去の状態ベクトルの推定値Xk-1に基づいて、一つまたは複数の物標のそれぞれにおける現在の状態ベクトルの予測値Xk|k-1を算出する。そして追跡装置4は、経過サイクルが切替判定サイクル以上であり、且つ、状態ベクトルの予測値(本実施形態では、物標の位置)と、観測情報が示す観測値(本実施形態では、反射点の位置)との差である予測残差が切替判定値以上である場合に、前回に選択した一つの運動モデルと異なる一つの運動モデルを選択する。これにより、追跡装置4は、物標の追跡精度を向上させることができる。
【0077】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
[変形例1]
例えば上記実施形態では、第1,2,3,4,5,6,7判定値が固定値である形態を示した。しかし、第1~7判定値は、選択されている一つの運動モデルに応じて変更されるようにしてもよい。すなわち、第1運動モデルが選択されているときの第1~7判定値と、第2運動モデルが選択されているときの第1~7判定値とが互いに異なるようにしてもよい。これにより、追跡装置4は、第1運動モデルと第2運動モデルとを切り替えるための閾値にヒステリシスを設けることができ、運動モデルが第1運動モデルと第2運動モデルとの間で頻繁に切り替わる所謂チャタリングが発生するのを抑制することができる。
【0078】
[変形例2]
上記実施形態では、自車両の前方に向けてレーダ波を送信する形態を示した。しかし、レーダ波を送信する方向は自車両の前方に限定されるものではなく、例えば
図15に示すように、自車両の前方に加えて、自車両の前方における左側および右側と、自車両の後方における左側および右側とに向けてレーダ波を送信するようにしてもよい。
【0079】
[変形例3]
上記実施形態では、物標の対地速度Vabsが第1判定値以上である場合に第2運動モデルを選択する形態を示した。しかし、対地速度の代わりに相対速度を用いるようにしてもよい。
【0080】
[変形例4]
上記実施形態では、物標の縦方向位置が第2判定値以上である場合に第2運動モデルを選択する形態を示した。しかし、縦方向位置の代わりに、自車両と物標との間の距離を用いるようにしてもよい。
【0081】
[変形例5]
上記実施形態では、物標の横方向位置が第3判定値未満である場合に第2運動モデルを選択する形態を示した。しかし、横方向位置の代わりに方位を用いるようにしてもよい。
【0082】
[変形例6]
上記実施形態では、複数の運動モデルが第1運動モデルと第2運動モデルとを含む形態を示したが、複数の運動モデルが3つ以上の運動モデルを含むようにしてもよい。また、上記実施形態では、第1運動モデルにおける物標の状態量の横方向速度vxおよび縦方向速度vyが相対速度である形態を示した。しかし、横方向速度vxおよび縦方向速度vyが対地速度であるようにしてもよい。
【0083】
本開示に記載の追跡装置4及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の追跡装置4及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の追跡装置4及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。追跡装置4に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0084】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0085】
上述した追跡装置4の他、当該追跡装置4を構成要素とするシステム、当該追跡装置4としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、追跡方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0086】
2…レーダ装置、4…追跡装置