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特許7260877ロボットハンド、ロボットハンドの制御装置、およびロボットシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-11
(45)【発行日】2023-04-19
(54)【発明の名称】ロボットハンド、ロボットハンドの制御装置、およびロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
B25J15/08 U
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019095392
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020189359
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-12-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [開催日]平成30年6月2日[集会名、開催場所]ロボティクス・メカトロニクス講演会2018 in Kitakyushuhttp://robomech.org/2018/北九州国際コンベンションゾーン(北九州市小倉北区浅野地区)[公開者]小山 佳祐[公開のタイトル]「触覚機能を内包する高速・高精度近接覚センサー第1報:センサモジュールの開発と接触判定の実現-」[公開された発明の内容]ロボティクス・メカトロニクス講演会2018 in Kitakyushuにて、触覚機能を内包する高速・高精度近接覚センサについて公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [ウェブサイト公開日(早期)]平成30年6月27日[ウェブサイトのアドレス]https://ieeexplore.ieee.org/document/8398438https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=8398438[公開者]小山 佳祐、下条 誠、妹尾 拓、石川 正俊[公開のタイトル]「High-Speed High-Precision Proximity Sensor for Detection of Tilt,Distance,and Contact」[公開された発明の内容]小山 佳祐、下条 誠、妹尾 拓、石川 正俊が、High-Speed High-Precision Proximity Sensor for Detection of Tilt,Distance,and Contactについて公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [開催日]平成30年9月4日[集会名、開催場所]第36回日本ロボット学会学術講演会http://rsj2018.rsj-web.org/中部大学春日井キャンパス(愛知県春日井市松本町1200) [公開者]小山 佳祐[公開のタイトル]「触覚機能を内包する高速・高精度近接覚センサー第2報:高速視覚センサの併用による高難度キャッチ-」[公開された発明の内容]第36回日本ロボット学会学術講演会にて、触覚機能を内包する高速・高精度近接覚センサについて公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [ウェブサイト公開日(早期)]平成31年1月7日[ウェブサイトのアドレス]https://ieeexplore.ieee.org/document/8603747https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=8603747[公開者]小山 佳祐、妹尾 拓、下条 誠、石川 正俊[公開のタイトル]「High-Speed High-Precision Proximity Sensor for Detection of Tilt,Distance,and Contact」[公開された発明の内容]小山 佳祐、下条 誠、妹尾 拓、石川 正俊が、High-Speed High-Precision Proximity Sensor for Detection of Tilt,Distance,and Contactについて公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】石川 正俊
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 拓
(72)【発明者】
【氏名】下条 誠
(72)【発明者】
【氏名】小山 佳祐
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0297206(US,A1)
【文献】特開2009-274204(JP,A)
【文献】特開平04-069182(JP,A)
【文献】特開2002-036159(JP,A)
【文献】特開昭60-250402(JP,A)
【文献】特開2017-019057(JP,A)
【文献】特表2015-534480(JP,A)
【文献】特開2002-103039(JP,A)
【文献】特開2005-349492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を把持するロボットハンドであって、
近接覚センサを有する把持部を備え、
前記近接覚センサは、
100Hz以上である第1動作周波数で動作し、
0.5mm以下の分解能で前記対象物との距離、及び前記対象物との接触を計測可能に構成され、
前記把持部は、前記近接覚センサによって前記第1動作周波数で計測された距離に基づいて、前記対象物を把持可能に構成され、
前記把持部は、前記近接覚センサと前記対象物との距離が閾値以下に接近してから接触が検出されるまで、ダンピング制御を実行され、
前記ダンピング制御は、前記近接覚センサで計測された距離の微分値から算出された速度を減速する方向に調整する制御である、
ロボットハンド。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットハンドにおいて、
前記対象物は、ヤング率が5GPa以下である素材を含む柔軟物である、
ロボットハンド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のロボットハンドにおいて、
前記近接覚センサは、距離計測部と対象物接触部を具備し、
前記対象物接触部の対象物側端面は、前記距離計測部の対象物側端面よりも、対象物に近い距離差分値を有する位置に配置され、
前記距離計測部は、前記対象物と接触前状態である前記距離差分値よりも小さい距離を計測可能である、
ロボットハンド。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載のロボットハンドにおいて、
前記把持部は、一対の主指と1本の副指を備え、
前記主指は、互いに対向して対向方向に変位動作可能に構成され、
前記副指は、
前記近接覚センサを備え、
前記対向方向とは垂直方向に変位動作可能に構成され、
前記近接覚センサは対象物との角度を計測可能に構成される、
ロボットハンド。
【請求項5】
ロボットハンドの制御装置であって、前記ロボットハンドは、請求項1~請求項4の何れか1つに記載のロボットハンドであり、
本制御装置は、受信部と、制御部と、送信部とを備え、
前記受信部は、前記ロボットハンドにおける前記近接覚センサによって計測された距離を情報として受信可能に構成され、
前記制御部は、前記距離に基づいて、前記把持部を変位させるための制御信号を生成可能に構成され、
前記送信部は、前記制御信号を前記ロボットハンドに送信可能に構成される、
制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の制御装置において、
前記制御部は、前記距離の微分値に基づいて、前記把持部の速度を調整するための制御信号を生成可能に構成される、
制御装置。
【請求項7】
ロボットシステムであって、
ロボットハンドと、前記ロボットハンドの制御装置とを備え、
前記ロボットハンドは、請求項1~請求項4の何れか1つに記載のロボットハンドであり、
前記制御装置は、受信部と、制御部と、送信部とを備え、
前記受信部は、前記ロボットハンドにおける前記近接覚センサによって計測された距離を情報として受信可能に構成され、
前記制御部は、前記距離に基づいて、前記把持部を変位させるための制御信号を生成可能に構成され、
前記送信部は、前記制御信号を前記ロボットハンドに送信可能に構成される、
ロボットシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のロボットシステムにおいて、
高速視覚センサをさらに具備し、
前記高速視覚センサは、100Hz以上である第2動作周波数で動作する、
ロボットシステム。
【請求項9】
請求項8に記載のロボットシステムにおいて、
前記第1動作周波数と前記第2動作周波数の比率が整数である、
ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用と医療用および家庭用などのロボットハンド、特に壊れやすい柔軟物を高速で把持する作業が必要なロボットハンド、ロボットハンドの制御装置、およびロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
工業、商業、農業などの産業界、手術などの医療界、さらには家庭においてもロボットの活用が急激に進んでいる。その中で、例えば食料品業界では、果物やスティックケーキなどを箱詰めする様な作業がある。この様に、柔らかくて壊れやすい対象物を破壊的に潰すことなく、高速かつ高精度に把持することが可能なロボットが求められている。
【0003】
把持力を調節可能なロボットハンドとして特許文献1が提案されている。特許文献1では、ロボットハンドの指に複数の触覚センサを配置し、指先に対する対象物の当接の検出と、指の腹部による対象物の把持力を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-349492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、触覚センサを用いてロボットハンドと対象物の当接を検出している。すなわち、把持動作を実行する際に接触して初めて対象物の存在を検出することが可能となる。そのため、柔らかい対象物を高速に把持しようとした場合に、接触した時点ではロボットハンドの指部に大きなイナーシャが存在し、勢い余って柔らかい対象物を押し込んでしまい、弾性限度を超えて対象物を破壊してしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、柔らかくて壊れやすい対象物を高速かつ高精度に把持可能な、ロボットハンド、ロボットハンドの制御装置、およびロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、対象物を把持するロボットハンドであって、近接覚センサを有する把持部を備え、前記近接覚センサは、100Hz以上である第1動作周波数で動作し、0.5mm以下の分解能で前記対象物との距離を計測可能に構成され、前記把持部は、前記近接覚センサによって前記第1動作周波数で計測された距離に基づいて、前記対象物を把持可能に構成される、ロボットハンドが提供される。
【0008】
本発明に係るロボットハンドでは、近接覚センサを用いることによって、ロボットハンドが対象物に接触する前から対象物との距離を計測することが可能であり、柔軟である対象物に対しても優しい保持動作を行うことが出来る。この近接覚センサを100Hz以上という高い動作周波数かつ0.5mm以下という高分解能で対象物との距離を計測することにより、ロボットハンドおよびロボットシステム全体として、高速かつ高精度な把持動作を実施することが出来るという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るロボットハンド1の構成図。
図2】本発明の実施形態に係る近接覚センサ12の構成図。
図3】第1実施形態に係るロボットシステム100の機能ブロック図。
図4】第2実施形態に係るロボットシステム100の構成概略図。
図5】第2実施形態に係るロボットシステム100の機能ブロック図。
図6】本発明の実施形態に係るロボットシステム100の制御アクティビティ図。
図7】第3実施形態に係るロボットハンド1が薄板の把持動作を行っていることを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。特に、本明細書において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、0または1で構成される2進数のビット集合体として信号値の高低によって表されるデジタル信号情報と、電圧・電流が連続的に変化するアナログ信号情報で、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0011】
また、広義の回路とは、デジタル回路(Digital Circuit)、アナログ回路(Analog Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、およびメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、デジタル回路としては、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。また、アナログ回路としては抵抗、コンデンサ(Capasitor)、インダクタ(Inductor)などの受動素子(Passive Component)、ダイオード(Diode)、トランジスタ(Transistor)、サイリスタ(Thyristor)、ゲートターンオフサイリスタ(Gate Turn-Off Thyristor:GTO)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)などのディスクリート半導体(Discrete Semiconductor)、およびロックインアンプ(Lock-in Amplifiler)、フィルタ(Filter)、コンパレータ(Comparator)などのアナログ集積回路(Analog Integrated Circuit)等を含むものである。さらに、デジタル回路とアナログ回路の境界部に、D/Aコンバータ(Digital-to-Analog Converter)もしくはA/Dコンバータ(Analog-to-Digital Converter)を使用する回路構成も可能である。
【0012】
1.ロボットハンド1
第1章では、ロボットハンド1の構成について図面を用いて説明する。
【0013】
1.1 ロボットハンド1全体構成
図1は、本発明の実施形態に係るロボットハンド1の構成図である。図1では2本の指状である把持部11(a)(b)を有するロボットハンドを示している。ここでは、説明を簡単にするため、対象物OBJがyz2次元平面状を移動するものとしている。対象物OBJの移動範囲が3次元空間である場合など、把持部11は複数本あれば良く、本数は限定されない。把持部11(a)(b)は、それぞれ内側に変位動作(図1中矢印ma、mb)することにより、矢印mo方向に移動してくる対象物OBJを挟む形で把持可能な構成となっている。
【0014】
指状の把持部11(a)(b)は指先に、それぞれ近接覚センサ12(a)(b)を有しており、把持部11(a)(b)内側に存在する対象物OBJに対して、距離および接触を計測可能な構成となっている。図1では、近接覚センサ12(a)(b)において、距離計測部13および対象物接触部14が配置されている場合を示している。なお、距離計測部13と対象物接触部14については後述する。
【0015】
図1における近接覚センサ12(a)(b)は、非接触から接触状態までを高速かつ高精度に計測可能な構成となっている。移動する対象物OBJに対して高速かつ高精度な把持動作の目的を達成するには、近接覚センサ12の計測周期である第1動作周波数は、100Hz以上と高いものが好ましく、さらに好ましいのは500Hz以上である。具体的には例えば、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、560、580、600、620、640、660、680、700、720、740、760、780、800、820、840、860、880、900、920、940、960、980、1000、1020、1040、1060、1080、1100、1120、1140、1160、1180、1200、1220、1240、1260、1280、1300、1320、1340、1360、1380、1400、1420、1440、1460、1480、1500、1520、1540、1560、1580、1600、1620、1640、1660、1680、1700、1720、1740、1760、1780、1800、1820、1840、1860、1880、1900、1920、1940、1960、1980、2000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であっても良い。
【0016】
また、近接覚センサ12が計測する距離の分解能は、0.5mm以下と小さいものが好ましく、さらに好ましくは0.2mm以下である。具体的には例えば、具体的には例えば、0.02、0.04、0.06、0.08、0.1、0.12、0.14、0.16、0.18、0.2、0.22、0.24、0.26、0.28、0.3、0.32、0.34、0.36、0.38、0.4、0.42、0.44、0.46、0.48、0.5mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であっても良い。
【0017】
上記の高速度かつ高分解能を達成できれば、近接覚センサ12のうち距離計測部13の方式は限定されず、光反射方式、超音波反射時間方式、電磁誘導方式(渦電流方式)、静電容量方式などが適用可能である。この中でもLEDやフォトダイオードを構成要素とし、位相情報を利用した光反射方式が小型化の観点で有利である。
【0018】
図1に示す把持部11(a)(b)ではそれぞれ2つの関節型である駆動部15を有している。ロボットハンド1全体として、対象物OBJを把持可能とできる方向および変位距離を確保できる構成であれば、駆動部15の個数は限定されない。また、駆動部15の方式も多関節型以外に、直線型のアクチュエータの組み合わせなど任意の方式で構わない。さらには駆動源も電力に限定されず、油圧、空気圧なども利用可能である。
【0019】
1.2 近接覚センサ12
本実施形態に係る近接覚センサ12の構成を図2に示す。土台となる近接覚センサベース16の対象物OBJ側に、距離計測部13と対象物接触部14を配置している。対象物接触部14の対象物OBJ側端面14eは、距離計測部13の対象物OBJ側端面13eよりも対象物OBJに近い位置にあり、その距離差分値がdgである。このように配置することにより、ロボットハンド1が把持動作を行う際には対象物接触部14が対象物OBJに接触して把持動作を行うこととなる。
【0020】
対象物接触部14の配置は必須では無く、距離計測部13が対象物OBJに接触する形で把持動作を実行することも可能であるが、対象物接触部14を配置することにより以下の動作が可能となる。対象物接触部14の対象物OBJ側端面14eと対象物OBJとの間の距離doは、距離計測部13が計測した対象物OBJとの距離dmから距離差分値dgを引いた(dm-dg)となる。このとき、距離計測部13の計測可能最小距離が距離差分値dgよりも小さくすることができれば、対象物接触部14の対象物OBJ側端面14eと対象物OBJとの間の距離doが0になるまで計測可能となる。換言すると、近接覚センサ12が、距離計測部13と対象物接触部14を具備し、前記対象物接触部14の対象物OBJ側端面14eは、前記距離計測部13の対象物OBJ側端面13eよりも、対象物に近い距離差分値dgを有する位置に配置され、前記距離計測部13は、前記対象物と接触前状態である前記距離差分値dgよりも小さい距離を計測可能に構成すれば、距離計測部13の計測値dmの最小値が0で無くても、近接覚センサ12全体としては対象物OBJとの距離doを接触する距離0まで計測可能である。
【0021】
さらに、対象物接触部14を、弾性率が既知である弾性体で構成すれば、近接覚センサ12と対象物OBJが接触した後の把持動作による対象物接触部14の変形量すなわち距離差分値dgの変化量を計測し、その変化量から対象物OBJに印加されている圧力を計測できるという利点も有する。
【0022】
2.ロボットシステム100
第2章では、ロボットシステム100の構成について図面を用いて説明する。図3に第1実施形態に係るロボットシステム100の機能ブロック図を示す。ロボットシステム100は、第1章で説明したロボットハンド1および制御装置2よりより構成されている。制御装置2に関してこれから詳しく説明する。
【0023】
2.1 制御装置2
図3に示す通り、制御装置2は、受信部21と、送信部22と、記憶部23と、制御部24とを有し、これらの構成要素が制御装置2の内部において通信バス20を介して電気的に接続されている。以下、各構成要素についてさらに説明する。
【0024】
<受信部21>
受信部21は、ロボットハンド1内の近接覚センサ12が計測した情報spを受信する機能を有する。UART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)、USB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、Thunderbolt、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいものの、無線LANネットワーク通信、5G/LTE/3G等のモバイル通信、Bluetooth(登録商標)通信等を必要に応じて含めてもよい。これらは一例であり、専用の通信規格を採用してもよい。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。
【0025】
図3においては、簡単のため1つの近接覚センサ12から1本の線で接続されている様子を示しているが、複数の近接覚センサ12からそれぞれ別に専用線で接続しても良いし、ロボットハンド1内で複数の近接覚センサ12が計測した情報を論理的に纏めた後で、物理的な接続はまとめて1つとする構成とすることも可能である。
【0026】
<送信部22>
送信部22は、後に説明する制御部24で生成した制御信号sdを、ロボットハンド1の駆動部15向けに送信するものである。通信手段は受信部21と同様に有線型や無線型の通信手段を用いることが可能であり、限定されない。
<記憶部23>
記憶部23は、様々な情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶媒体である。これは、例えばソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。また、これらの組合せであってもよい。
【0027】
特に、記憶部23は、個々の作業種別や作業内容に関する各種パラメータ、対象物OBJに関して形状や材質に関する情報を記憶している。
【0028】
また、記憶部23は、制御部24によって実行される制御装置2に係る種々のプログラム等を記憶している。具体的には例えば、後述する粗位置制御、近接位置制御、ダンピング制御、接触検出などを演算し、制御信号sdを生成するプログラムである。
【0029】
<制御部24>
制御部24は、制御装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。制御部24は、例えば不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。制御部24は、記憶部23に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、制御装置2に係る種々の機能を実現する。具体的には、対象物OBJ毎に予め与えられた情報、受信部21を介して受信した近接覚センサ12が計測した情報を基に制御信号sdを生成し、送信部22を介して駆動部15に送出する機能が該当する。
【0030】
すなわち、ソフトウェア(記憶部23に記憶されている)による情報処理がハードウェア(制御部24)によって具体的に実現されることで、粗位置制御部241、近接位置制御部242、ダンピング制御部243、接触検出部244として実行されうる。なお、図3においては、単一の制御部24として表記されているが、実際はこれに限るものではなく、機能ごとに複数の制御部24を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。以下、粗位置制御部241、近接位置制御部242、ダンピング制御部243、接触検出部244についてさらに詳述する。
【0031】
[粗位置制御部241]
粗位置制御部241は、ソフトウェア(記憶部23に記憶されている)による情報処理がハードウェア(制御部24)によって具体的に実現されているものである。粗位置制御部241は、近接覚センサ12の計測可能範囲内に対象物OBJが位置するように、精度の粗い位置制御を行うもので、ロボットハンド1の駆動部15に対する制御信号sdを生成する。生産ラインなどにおいて、予め設定された位置となるようにロボットハンド1を制御することも可能であるし、後述する第2実施形態の様に、近接覚センサ12とは別に広い計測範囲でロボットハンド1と対象物OBJの位置関係を計測可能なセンサを有する場合は、その計測結果を用いて粗位置制御を行うことも可能である。
【0032】
[近接位置制御部242]
近接位置制御部242は、ソフトウェア(記憶部23に記憶されている)による情報処理がハードウェア(制御部24)によって具体的に実現されているものである。ロボットハンド1内の近接覚センサ12が計測した距離に基づいて、ロボットハンド1が対象物OBJを把持できる様に精度が高い位置制御を行うものである。複数の把持部11毎に配置された近接覚センサ12毎にその時点での目標距離drefが設定され、実際に近接覚センサ12で計測された距離do(図2参照)との間の差分値(do-dref)を基に把持部11の近接覚センサ12(指先)位置を修正する。また、複数の近接覚センサ12、具体的には例えば図1における近接覚センサ12(a)と近接覚センサ12(b)の距離計測結果から対象物OBJの幅を計測することが可能であり、あらかじめ記憶部23に設定されている幅の値との誤差を検出し、それに基づく近接覚センサ12位置の目標値の補正も行う。
【0033】
[ダンピング制御部243]
ダンピング制御部243は、ソフトウェア(記憶部23に記憶されている)による情報処理がハードウェア(制御部24)によって具体的に実現されているものである。上述した粗位置制御部241および近接位置制御部242による制御によって、対象物OBJを把持することは可能であるが、対象物OBJに凹凸がある場合などでは、早い速度で把持部11が対象物OBJに衝突する場合がある。対象物OBJが剛体である場合には特に問題にはならないが、対象物OBJが柔軟物、具体的には例えばヤング率が5GPa以下であるような素材を含む場合には、接触直後の対象物OBJの変形(潰れ)が大きくなる。そのとき、対象物OBJの弾性変形領域(弾性限度)を超えて潰れた場合には塑性変形が起きてしまい、すなわち対象物OBJが破壊されてしまう。
【0034】
この塑性変形を防ぐために、近接覚センサ12で計測した距離の微分値から把持部11(近接覚センサ12)の速度を算出し、近接覚センサ12の速度を減速する方向に調整するダンピング制御を行う。このダンピング制御は近接覚センサ12が対象物OBJに接近してからのみ実行することで、把持動作全体の高速動作からの逸脱は最小に抑えることが可能である。
【0035】
[接触検出部244]
接触検出部244は、ソフトウェア(記憶部23に記憶されている)による情報処理がハードウェア(制御部24)によって具体的に実現されているものである。接触検出部244は、対象物OBJが近接覚センサ12の対象物接触部14に接触した状態を検出するものである。図2における対象物接触部14の対象物OBJ側端面14eと対象物OBJとの距離doが0となったときを接触と定義する。近接覚センサ12の距離計測部13が計測した対象物OBJとの距離dmおよび順運動学で計算した近接覚センサ12位置の変化より接触を検出することが可能である。
【0036】
検出方法としては、1)距離計測部13が計測した距離dmが、対象物接触部14の対象物OBJ側端面14eと、距離計測部13の対象物OBJ側端面13eの位置の差分値dgと等しくなった時点を接触と判定する。および、2)近接覚センサ12の位置の移動量と距離の変化量の差を計算し、その差が予め設定した閾値を上回った時点を接触と判定する、という2つの方法を取ることが出来る。2方法の選択は限定されないが、表面が滑らかな対象物OBJには方法1)を、凹凸の程度が大きい対象物OBJには方法2)を適用することが好ましい。
【0037】
さらに、1.2節でも記述したとおり、対象物接触部14を、弾性率が既知である弾性体で構成すれば、近接覚センサ12と対象物OBJが接触した後の把持動作による対象物接触部14の変形量すなわち距離(位置)の差分値dgの変化量を計測することで、その変化量から対象物OBJに印加されている圧力(把持力)を計算することが可能となる。この様に間接的に圧力を計測できれば、対象物OBJの重量やロボットシステム100に与えられた作業内容毎に異なる最適な圧力で対象物OBJを把持する制御を行うことが出来る。
【0038】
2.2 第2実施形態
図4に本発明の第2実施形態に係るロボットシステム100の構成概略図、図5に当該ロボットシステム100の機能ブロック図を示す。第2実施形態では、カメラ型の高速視覚センサ3(a)3(b)を配置している。図4では2つの高速視覚センサ3を配置して対象物OBJの3次元空間座標を広範囲に計測可能とした場合を示しているが高速視覚センサ3の個数は限定されず、例えばコンベア上を移動する対象物OBJを計測する場合などでは2次元計測で充分であり高速視覚センサ3の数も1つとすることが出来る。
【0039】
図5に示すとおり、この高速視覚センサ3の計測結果情報scは、受信部21を介して制御部24に供給され、制御部24内の粗位置制御部241で活用される。
【0040】
図4図5における高速視覚センサ3は、移動する対象物OBJに対して高速な位置計測が求められる。高速視覚センサ3の計測周期(フレームレート)である第2動作周波数は、100Hz以上と高いものが好ましく、さらに好ましいのは500Hz以上である。具体的には例えば、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、560、580、600、620、640、660、680、700、720、740、760、780、800、820、840、860、880、900、920、940、960、980、1000、1020、1040、1060、1080、1100、1120、1140、1160、1180、1200、1220、1240、1260、1280、1300、1320、1340、1360、1380、1400、1420、1440、1460、1480、1500、1520、1540、1560、1580、1600、1620、1640、1660、1680、1700、1720、1740、1760、1780、1800、1820、1840、1860、1880、1900、1920、1940、1960、1980、2000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であっても良い。
【0041】
粗位置制御部241では高速視覚センサ3の計測情報が、近接位置制御部242では近接覚センサ12の計測情報が用いられるが、粗位置制御と近接位置制御は瞬間的に切り替えるのではなく、粗位置制御100%である状態から、近接位置制御が可能になった時点から徐々に近接位置制御の割合を増やして、最終的に近接位置制御100%とすることで、連続性が高い制御を行うことが出来る。その際には近接覚センサ12の第1動作周波数と高速視覚センサ3の第2動作周波数が1を含む整数比であることが好ましい。整数比とすることで、動作周波数が遅い方のセンサ動作時には、固定時間差である他方のセンサの計測結果を活用することが出来るため、円滑な制御移行を行うことが可能となる。
【0042】
3 制御プロセス
第3章では、ロボットシステム100の制御プロセスについて記述する。図6はロボットシステム100が対象物OBJに対して把持作業を実行する制御アクティビティ図である。以下、図面を参照しながら説明する。
【0043】
(アクティビティA1)
ロボットシステム100としての作業開始後に先ず粗位置制御部241が粗位置制御として、対象物OBJに近接覚センサ12(把持部11)を接近させる制御を実行する。2.1節で記述した様に予め設定された動作となる様に制御を行うことも可能であるし、2.2節で記述した様に高速視覚センサ3の計測結果を用いて制御を行うことも可能である。
【0044】
(アクティビティA2)
アクティビティA1の粗位置制御の結果、対象物OBJと近接覚センサ12間の距離が第1閾値以下に接近したら近接位置制御部242が近接覚センサ12を用いた近接位置制御を開始する。ここで第1閾値は、近接覚センサ12の計測可能最大距離よりも小さい値が設定される。近接位置制御により対象物OBJと近接覚センサ12間の距離が第2閾値以下に接近したらアクティビティA3が起動され、第3閾値以下に接近したら、アクティビティA1が終了し、第4閾値以下に接近したらアクティビティA4が起動される。図6では、第2閾値、第3閾値、第4閾値の順に小さい場合を示しているが、これらの大小関係はこの順番に限定されない。
【0045】
(アクティビティA3)
アクティビティA2の近接位置制御の結果、対象物OBJと近接覚センサ12間の距離が第2閾値以下に接近したらダンピング制御が行われる。2.1節で記述したように、ダンピング制御は近接覚センサ12で計測した距離の微分値から速度を算出して、近接覚センサ12の速度を減速する方向に調整する。このダンピング制御は接触が検出されるまで継続される。
【0046】
(アクティビティA4)
アクティビティA2の近接位置制御の結果、対象物OBJと近接覚センサ12間の距離が第4閾値以下に接近したら接触検出処理が実行される。2.1節で記述したように、接触検出には距離計測部13が計測した対象物OBJとの距離dmや順運動学で計算した近接覚センサ12位置の変化により、接触状態を検出する。必要に応じ対象物接触部14の変形量から対象物OBJに加わる圧力を計算することも可能である。接触が検出された、あるいは対象物OBJに加わる圧力が予め設定された段階で把持作業制御が終了となる。
【0047】
図6では、それぞれのアクティビティは1つずつ示しているが、複数の把持部11を有するロボットシステム100においては、全ての把持部への制御を同一タイミングで行う必要は無く、把持部11毎に異なるタイミングで制御を実行することも可能であることに留意されたい。
【0048】
4.ロボットハンド1の変形例
第4章では第3実施形態について説明する。第3実施形態として、把持部11として1対の主指11(a)、11(b)と1本の副指11(c)を備えたロボットハンド1を図7に示す。主指11(a)と主指11(b)は互いに対向して対向方向に変位動作可能に構成されている。また、副指11(c)は主指11(a)、11(b)の対向方向とは垂直方向に変位動作可能に構成されている。
【0049】
副指11(c)は指先側に近接覚センサ12(c)を具備しており、この近接覚センサ12は距離だけではなく、傾き角度を計測可能に構成されている。傾き角度の計測方式は限定されるものでは無いが、例えば、LEDやフォトダイオードを構成要素とし、位相情報を利用した光反射方式を適用することが可能である。
【0050】
この1対の主指11(a)、11(b)と1本の副指11(c)を備えたロボットハンド1は、図7に示す様な薄板状対象物PEGをフレームFRMに挿入させる作業を効率良く実施することが可能である。手順を以下に説明する。(A)先ず、主指11(a)と主指11(b)で薄板状対象物PEGを把持し、副指11(c)でその上部を支えることにより、薄板状対象物PEGが1方向にのみ回転可能な状態とする。ロボットハンド1全体を下方向に回転させて、薄板状対象物PEGとフレームFRMを接触させる。このとき、薄板状対象物PEGの姿勢変化を近接覚センサ12(c)で検出する。(B)続いて、ロボットハンド1全体を旋回運動など変位させ、薄板状対象物PEGとフレームFRMを接触したままなぞり動作を行う。このなぞり動作の間、近接覚センサ12(c)は薄板状対象物PEGの姿勢計測を継続する。薄板状対象物PEGとフレームFRMの開口部が一致したところで、薄板状対象物PEGの角度θが変化するのでその時点でなぞり動作を終了する。(C)近接覚センサ12(c)の対象物接触部14が予め設定された閾値を超えるまで下方向に変位動作を行う。以上の制御により薄板状対象物PEGをフレームFRMに挿入することが出来る。このとき、薄板状対象物PEGは1方向にのみ回転する様に把持されているため、極めて小さい接触力で挿入動作を実行することができる。
【0051】
5.結言
以上の様に、本実施形態によれば、柔らかくて壊れやすい対象物OBJを高速かつ高精度に把持可能な、ロボットハンド1、ロボットハンド1の制御装置2、およびロボットシステム100を実施することが出来る。
【0052】
かかるロボットハンド1は、対象物を把持するロボットハンド1であって、近接覚センサを12有する把持部11を備え、前記近接覚センサ12は、100Hz以上である第1動作周波数で動作し、0.5mm以下の分解能で前記対象物OBJとの距離を計測可能に構成され、前記把持部11は、前記近接覚センサ12によって前記第1動作周波数で計測された距離に基づいて、前記対象物OBJを把持可能に構成される、ロボットハンド1である。
【0053】
かかるロボットハンド1の制御装置2は、前記ロボットハンドは、請求項1~請求項4の何れか1つに記載のロボットハンド1であり、本制御装置は、受信部21と、制御部24と、送信部22とを備え、前記受信部21は、前記ロボットハンド1における前記近接覚センサ12によって計測された距離を情報spとして受信可能に構成され、前記制御部24は、前記距離に基づいて、前記把持部11を変位させるための制御信号sdを生成可能に構成され、前記送信部22は、前記制御信号sdを前記ロボットハンド1に送信可能に構成される、制御装置2である。
【0054】
かかるロボットシステム100は、ロボットハンド1と、前記ロボットハンド1の制御装置2とを備え、前記ロボットハンド1は、請求項1~請求項4の何れか1つに記載のロボットハンド1であり、前記制御装置2は、受信部21と、制御部24と、送信部22とを備え、前記受信部21は、前記ロボットハンド1における前記近接覚センサ12によって計測された距離を情報spとして受信可能に構成され、前記制御部24は、前記距離に基づいて、前記把持部11を変位させるための制御信号sdを生成可能に構成され、前記送信部22は、前記制御信号sdを前記ロボットハンド1に送信可能に構成される、ロボットシステム100である。
【0055】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
1 :ロボットハンド
11 :把持部
12 :近接覚センサ
13 :距離計測部
14 :対象物接触部
15 :駆動部
16 :近接覚センサベース
2 :制御装置
20 :通信バス
21 :受信部
22 :送信部
23 :記憶部
24 :制御部
241 :粗位置制御部
242 :近接位置制御部
243 :ダンピング制御部
244 :接触検出部
3 :高速視覚センサ
100 :ロボットシステム
OBJ :対象物
PEG :薄板状対象物
FRM :フレーム
θ :角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7