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特許7263826硫黄系有機材料、及び該硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】硫黄系有機材料、及び該硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20230418BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20230418BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20230418BHJP
   C08K 5/372 20060101ALI20230418BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K3/40
C08K5/37
C08K5/372
C08K9/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019029300
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020132772
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】金 英輝
(72)【発明者】
【氏名】並木 康佑
(72)【発明者】
【氏名】宮本 美幸
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111747(JP,A)
【文献】米国特許第04140830(US,A)
【文献】特開2016-060836(JP,A)
【文献】国際公開第2009/109457(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/098789(WO,A1)
【文献】特開昭58-148850(JP,A)
【文献】国際公開第2002/098991(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/068516(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される硫黄系有機材料により表面修飾を施した板状ガラス
K-N-M 式(1)
(式中、Kは、下記一般式(k2)で表される基からなる群より選択される親水性の部分構造を1以上含み、Mは、下記一般式(m1)、(m6)、及び(m7)で表される硫黄原子を含む基からなる群より選択される親油性の部分構造を1以上含み、Nで表される二価の連結基は、下記構造式(n1)~(n3)で表される基からなる群より選択される1以上を含む。)
【化2】
(式中、各Rは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基を表す。)
【化3】
(式中、pは2~4の整数を表し、Xp及びZpは、それぞれ独立して、水素原子又はメチルチオール基を表す。)
【化8】
(式中、nは1又は2の整数を表す。)
【化9】
(式中、nは1~8の整数を表す。)
【化10】
(式中、Xは、酸素原子を表し、mは0~7の整数を表し、nは0~7の整数を表す。)
【化11】
(式中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、nは1~3の整数を表す。)
【化12】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
【請求項2】
請求項に記載の板状ガラスと硬化性樹脂組成物とを接触もしくは混合させた有機無機複合材料。
【請求項3】
前記硫黄系有機材料における親水性の部分構造が前記板状ガラスと接触し、前記硫黄系有機材料における親油性の部分構造が前記硬化性樹脂組成物と接触してなる、請求項に記載の有機無機複合材料。
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物が、下記一般式(2)~(9)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種類を20質量%以上含む、請求項又はに記載の有機無機複合材料。
【化14】
(式中、mは0~4の整数を表し、nは0~2の整数を表す。)
【化15】
(式中、pは2~4の整数を表し、Xp及びZpは、それぞれ独立して水素原子又はメチルチオール基を表す。)
【化16】
(式中、nは1又は2の整数を表す。)
【化17】
【化18】
(式中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、pは1~2の整数を表す。)
【化19】
(式中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、pは1~2の整数を表す。)
【化20】
【化21】
(式中、p及びqは、それぞれ独立して1~3の整数を表す。)
【請求項5】
前記硬化性樹脂組成物の硬化後のd線屈折率が1.6以上であり、厚さ0.25mmの可視光領域の光透過率が80%以上であり、ヘーズ値が1.0%以下である、請求項からのいずれかに記載の有機無機複合材料。
【請求項6】
前記硬化性樹脂組成物が、光重合開始剤、光増感剤、又は熱硬化剤をさらに含む、請求項からのいずれかに記載の有機無機複合材料。
【請求項7】
前記硬化性樹脂組成物と前記板状ガラスとの静的接触角が30度以下である、請求項からのいずれかに記載の有機無機複合材料。
【請求項8】
請求項からのいずれかに記載の有機無機複合材料を熱または活性エネルギー線により硬化させた、有機無機複合材料の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学樹脂レンズや光導波路、導光板等の光学部品を作製する際に必要な硫黄系有機材料、該硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料、該無機材料と硬化性樹脂組成物とを接触もしくは混合させた有機無機複合材料、及び該有機無機複合材料の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無機ガラスに代わる透明性材料として、透明性有機材料が使用されている。こうした材料を光学素子に用いる場合、一般に、たとえば透明性、熱的特性、機械的特性などが求められる。
【0003】
さらに、一般的に求められる特性を有しつつ、高屈折率化することで、薄肉軽量な光学レンズ(メガネレンズ、フレネルレンズ、CD、DVDなどの情報記録機器におけるピックアップレンズ、デジタルカメラなどの撮影機器用レンズ等)、光学プリズム、光導波路、光ファイバー、薄膜成形物、光学用接着剤、光半導体用封止材料、回折格子、導光板、液晶基板、光反射板、反射防止材等の高屈折光学部材の材料等への展開が期待されている。
【0004】
高屈折率な透明性有機材料として、樹脂材料が挙げられる。例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、脂環式アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂に代表される非晶性熱可塑性樹脂、あるいはエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の硬化性樹脂は、可視領域波長における良好な透明性を有し、しかも無機ガラス材料に比べて成形性、量産性、あるいは可撓性、強靱性、耐衝撃性等の優れた特徴を有している。
【0005】
さらに最近では、硫黄元素を含有するモノマーを用いることによる透明性有機材料の高屈折率化が積極的に研究されている。例えばチオール化合物と、アリル化合物やイソシアネート化合物を重合して得られる樹脂(nd=1.60~1.67程度)、エピスルフィド、エピチオスルフィド化合物を重合硬化してなる樹脂(nd=1.7程度)などがある。なお、ヘリウムの与えるd線に対する屈折率をndとする。
【0006】
このような高屈折率化が強く求められるのは、光学設計の自由度が広がるためである。例えば、ポリマー光ファイバーについては、コア部(光ファイバー断面における中心部)はクラッド部(同外周部)よりも高屈折率とすることで、この屈折率差が大きいほど光が伝播可能な最大角度に対応する開口数を大きくすることができる。
【0007】
また例えば、発光ダイオードでは発光素子部をエポキシ樹脂などで封止している。一般に半導体素子部を構成している半導体の屈折率は非常に高く、接している物質の屈折率が低ければ臨界角も小さく全反射が起こりやすい。そのため、より屈折率の高い物質で発光素子をつつむことで全反射の起こる角度を大きくでき、その分外部での光束取り出し効率が向上する。
【0008】
ただ、高屈折率化が実現できても、高屈折率化は使用される元素、分子構造により決まるため、組成によっては、他の無機材料との濡れ性と密着性が課題になることがあった。特に硫黄元素を含む透明性有機材料は無機材料に対する濡れ性や密着性が悪く、無機材料と組み合わせて光学素子を作製する際に不都合が生じる場合が多かった。
【0009】
一般的に、透明性有機材料とガラスなどの無機材料を接着時、その濡れ性、密着性を向上させるため、表面修飾剤として、シランカップリング剤などの反応性ケイ素化合物が使用されている。修飾剤分子の一部が加水分解して水酸基を生じ、これがガラス表面のシラノール基と反応してシロキサン結合をつくる(親水性構造)。一方、表面修飾剤におけるガラス表面と反対側は、鎖式炭化水素の末端に反応性のビニル基、エポキシ基等を有する親油性構造であり、アクリル樹脂やエポキシ樹脂との親和性が高い。これは有機材料をコートする際、濡れ性を向上させる効果がある。また、先述のビニル基やエポキシ基は、熱や活性エネルギー線などの外部刺激により樹脂モノマーと反応して化学結合するため、密着性が向上する。
【0010】
しかしながら、市販のシランカップリング剤の親油性構造は、前述の硫黄元素を含む硫黄系有機材料との親和性は低く、無機材料との濡れ性を大きく向上させることはできない。このため、無機材料の表面を一様に濡らし難い。光学部材に利用するには、より濡れ性を高め、さらに、外部刺激により硫黄系樹脂モノマーと反応し、高い密着性が得られる表面修飾剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2018―9102号公報
【文献】特開2008―308592号公報
【文献】特開2004―35857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示のインプリント成型用光硬化性樹脂組成物は、無機材料と高い密着性を得られるが、(メタ)アクリル系樹脂を用いている。
【0013】
特許文献2に開示の感圧式接着剤組成物は、基材との密着性の高いシランカップリング剤を添加したチオール成分を含むポリエステルを開示しているが、基材に有機材料のポリエステルフィルムを用いており、無機材料の表面に対する濡れや密着性は示されていない。
【0014】
特許文献3に開示の光硬化型光学用接着剤組成物は、エポキシ基、又はチオール基(メルカプト基)を有するシランカップリング剤に硫黄系化合物を混合し、ガラス基材との高い接着性を得ている。高屈折率化のために硫黄系化合物を添加しているが、無機材料の表面に対する濡れ性は示されていない。
【0015】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、光学樹脂レンズや光導波路、導光板等の光学部品を作製する際に必要な硫黄系有機材料、該硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料、該無機材料と硬化性樹脂組成物とを接触もしくは混合させた有機無機複合材料、及び該有機無機複合材料の硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで本発明者らは、かかる状況下、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、硬化性樹脂組成物の一部と同構造な硫黄元素を含むある種の化学構造を含んだ硫黄系有機材料を表面修飾剤として用いた際、無機材料との濡れ性が良く密着性が維持され、高透明、且つ高屈折率な硬化物が得られることを見出すに至った。
本明細書における「屈折率」とは、光線屈折率を指し、ヘリウムの輝線波長587.56nmによる測定値を用いる。
【0017】
すなわち本発明は、下記に記載する通りである。
<1> 下記一般式(1)で表される硫黄系有機材料である。
K-N-M 式(1)
(式中、Kは、アミン、カルボン酸、リン酸、亜リン酸、アミン塩、カルボン酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、下記一般式(k1)で表される基、及び下記一般式(k2)で表される基からなる群より選択される親水性の部分構造を1以上含み、Mは、下記一般式(m1)~(m7)で表される硫黄原子を含む基からなる群より選択される親油性の部分構造を1以上含み、Nは、炭素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される1以上を含む二価の連結基を表す。)
【化1】
(式中、各Rは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基を表す。)
【化2】
(式中、各Rは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基を表す。)
【化3】
(式中、pは2~4の整数を表し、Xp及びZpは、それぞれ独立して、水素原子又はメチルチオール基を表す。)
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
(式中、nは1又は2の整数を表す。)
【化9】
(式中、nは1~8の整数を表す。)
<2> Nで表される二価の連結基が、下記構造式(n1)~(n4)で表される基からなる群より選択される1以上を含む、上記<1>に記載の硫黄系有機材料である。
【化10】
(式中、Xは、炭素原子、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を表し、mは0~7の整数を表し、nは0~7の整数を表す。)
【化11】
(式中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、nは1~3の整数を表す。)
【化12】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
【化13】
(式中、nは1~3の整数を表す。)
<3> 上記<1>又は<2>に記載の硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料である。
<4> 前記無機材料が板状ガラスである、上記<3>に記載の無機材料である。
<5> 上記<4>に記載の無機材料と硬化性樹脂組成物とを接触もしくは混合させた有機無機複合材料である。
<6> 前記硫黄系有機材料における親水性の部分構造が前記無機材料と接触し、前記硫黄系有機材料における親油性の部分構造が前記硬化性樹脂組成物と接触してなる、上記<5>に記載の有機無機複合材料である。
<7> 前記硬化性樹脂組成物が、下記一般式(2)~(9)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種類を20質量%以上含む、上記<5>又は<6>に記載の有機無機複合材料である。
【化14】
(式中、mは0~4の整数を表し、nは0~2の整数を表す。)
【化15】
(式中、pは2~4の整数を表し、Xp及びZpは、それぞれ独立して水素原子又はメチルチオール基を表す。)
【化16】
(式中、nは1又は2の整数を表す。)
【化17】
【化18】
(式中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、pは1~2の整数を表す。)
【化19】
(式中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、pは1~2の整数を表す。)
【化20】
【化21】
(式中、p及びqは、それぞれ独立して1~3の整数を表す。)
<8> 前記硬化性樹脂組成物の硬化後のd線屈折率が1.6以上であり、厚さ0.25mmの可視光領域の光透過率が80%以上であり、ヘーズ値が1.0%以下である、上記<5>から<7>のいずれかに記載の有機無機複合材料である。
<9> 前記硬化性樹脂組成物が、光重合開始剤、光増感剤、又は熱硬化剤をさらに含む、上記<5>から<8>のいずれかに記載の有機無機複合材料である。
<10> 前記硬化性樹脂組成物と前記無機材料との静的接触角が30度以下である、上記<5>から<9>のいずれかに記載の有機無機複合材料である。
<11> 上記<5>から<10>のいずれかに記載の有機無機複合材料を熱または活性エネルギー線により硬化させた、有機無機複合材料の硬化物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の硫黄系有機材料は、硫黄系硬化性樹脂組成物との濡れ性に優れ、容易に無機材料の表面全体に付着し、硬化後にもその密着性が維持されることから、無機材料上に高透明、且つ高屈折率な硬化物が得られる。光学素子、特に回折格子等の作製に利用されるインプリント材料への展開が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明について説明する。なお、以下は本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0020】
(硫黄系有機材料)
本発明の硫黄系有機材料は、下記一般式(1)で表される化合物より選択される。
K-N-M 式(1)
式(1)中、Kは、アミン、カルボン酸、リン酸、亜リン酸、アミン塩、カルボン酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、下記一般式(k1)で表される基、及び下記一般式(k2)で表される基からなる群より選択される親水性の部分構造を1以上含む。Kは、無機材料表面との相互作用の観点から好ましくは下記一般式(k2)で表される基を含む。
【化22】
式(k1)中、各Rは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、好ましくは、メチル基又はエチル基を表す。
【化23】
式(k2)中、各Rは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、好ましくは、メチル基又はエチル基を表す。
【0021】
式(1)中、Mは、下記一般式(m1)~(m7)で表される硫黄原子を含む基からなる群より選択される親油性の部分構造を1以上含む。Mは、硫黄系硬化性樹脂組成物との相溶性の観点から好ましくは、下記一般式(m1)、下記一般式(m6)、又は下記一般式(m7)で表される基を含む。
【化24】
式(m1)中、pは2~4の整数を表し、Xp及びZpは、それぞれ独立して、水素原子又はメチルチオール基を表す。
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
式(m6)中、nは1又は2の整数を表す。
【化30】
式(m7)中、nは1~8の整数を表し、好ましくは1を表す。
【0022】
式(1)中、Nは、炭素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される1以上を含む二価の連結基を表す。好ましくは、Nで表される二価の連結基は、下記構造式(n1)~(n4)で表される基からなる群より選択される1以上を含む。
【化31】
式中(n1)、Xは、炭素原子、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を表し、mは0~7の整数を表し、nは0~7の整数を表す。好ましくは、mは0~3の整数を表し、nは0~3の整数を表す。
【化32】
式(n2)中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、nは1~3の整数を表す。
【化33】
式(n3)中、nは1~3の整数を表す。
【化34】
式(n4)中、nは1~3の整数を表す。
【0023】
本発明の硫黄系有機材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。さらに、他のシランカップリング剤と組み合わせて使用してもよい。本発明の硫黄系有機材料は、表面修飾剤として好ましく使用することができる。
【0024】
(シランカップリング剤)
本発明の硫黄系有機材料と組み合わせて使用するシランカップリング剤は特に限定されず、ラジカル重合反応性の官能基を有するシランカップリング剤及びその他のシランカップリング剤が挙げられる。
【0025】
ラジカル重合反応性シランカップリング剤は、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基含有シラン;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シラン等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基含有シランが好ましい。
【0026】
その他のシランカップリング剤は、ラジカル重合反応性の官能基を有さないシラン化合物である。その他のシランカップリング剤としては、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン;N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン;γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン等のハロアルキル基含有シランが挙げられる。
【0027】
(無機材料)
本発明の硫黄系有機材料にて修飾する無機材料は、石英、ガラス、セラミック材料、蒸着膜、磁性膜、反射膜、Ni、Cu、Cr、Fe等の金属基材、TFTアレイ基材、PDPの電極板、ITOや金属などの導電性基材、シリコーン、窒化シリコーン、ポリシリコーン、酸化シリコーン、アモルファスシリコーン等の半導体作製基材等が挙げられる。基材の形状は、板状でもよいし、ロール状でもよい。これらの中でも、面内の一様な修飾量の観点から板状ガラスが特に好ましい。
【0028】
(表面修飾方法)
前記無機材料を、本発明の硫黄系有機材料で表面修飾する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、塗布(スピンコート、スプレーコートなど)又は蒸着によって修飾できる。
【0029】
具体的には、本発明の硫黄系有機材料を無機材料上に塗布しベークする工程、その後、極性溶媒で前記無機材料を洗浄する工程、及び前記無機材料を乾燥させる工程を経て硫黄系有機材料を固定化させることができる。あるいは、無機材料を前記硫黄系有機材料中に浸漬する工程、その後、極性溶媒で前記無機材料を洗浄する工程、及び前記無機材料を乾燥させる工程を経て硫黄系有機材料を固定化させることができる。洗浄工程に使用する極性溶媒としては、例えば、前記硫黄系有機材料に含まれる水又は極性有機溶媒を使用することができる。
【0030】
(硬化性樹脂組成物)
本発明で使用される硬化性樹脂組成物としては、分子内に硫黄原子を含有する化合物が挙げられる。例えば、エピチオ化合物やチオール化合物が好ましく挙げられる。さらに、分子内に硫黄原子を含有する化合物とアリル化合物やイソシアネート化合物とを組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(エピチオ化合物)
エピチオ化合物としては、例えば、ビス(2,3-エピチオプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)エタン、1,2-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-2-メチルプロパン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)ブタン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-2-メチルブタン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)ブタン、1,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)ペンタン、1,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-2-メチルペンタン、1,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-3-チアペンタン、1,6-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1,6-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-2-メチルヘキサン、3,8-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-3,6-ジチアオクタン、1,2,3-トリス(2,3-エピチオプロピルチオ)プロパン、2,2-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)プロパン、2,2-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-1-(2,3-エピチオプロピルチオ)ブタン、1,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-2-(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3-チアペンタン、1,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-2,4-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3-チアペンタン、1-(2,3-エピチオプロピルチオ)-2,2-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-4-チアヘキサン、1,5,6-トリス(2,3-エピチオプロピルチオ)-4-(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3-チアヘキサン、1,8-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-4-(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,8-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-4,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,8-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-4,4-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,8-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-2,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,8-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-2,4,5-トリス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,1,1-トリス[{2-(2,3-エピチオプロピルチオ)エチル}チオメチル]-2-(2,3-エピチオプロピルチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス[{2-(2,3-エピチオプロピルチオ)エチル}チオメチル]エタン、1,11-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-4,8-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-4,7-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)-5,7-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン等の鎖状脂肪族の2,3-エピチオプロピルチオ化合物;及び、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、2,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[{2-(2,3-エピチオプロピルチオ)エチル}チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン等の環状脂肪族の2,3-エピチオプロピルチオ化合物;及び、1,2-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,2-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス{4-(2,3-エピチオプロピルチオ)フェニル}メタン、2,2-ビス{4-(2,3-エピチオプロピルチオ)フェニル}プロパン、ビス{4-(2,3-エピチオプロピルチオ)フェニル}スルフィド、ビス{4-(2,3-エピチオプロピルチオ)フェニル}スルフォン、4,4’-ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族2,3-エピチオプロピルチオ化合物等;更に、3-メルカプトプロピレンスルフィド、4-メルカプトブテンスルフィド等のメルカプト基含有エピチオ化合物等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例示化合物のみに限定されるものではない。
【0032】
(チオール化合物)
チオール化合物としては、例えば、脂肪族チオール化合物、脂環族チオール化合物、芳香族チオール化合物、複素環含有チオール化合物等が挙げられる。より具体的には、メタンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,2,3-プロパントリチオール、1,2-シクロヘキサンジチオール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、(2-メルカプトエチル)スルフィド、ジエチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2-メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3-メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)エタン、1,2-ビス(3-メルカプトプロピルチオ)エタン、1,2,3-トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(3-メルカプトプロピルチオ)プロパン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2-メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3-メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3-ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプト-1,4-ジチアン、2,5-ジメルカプトメチル-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、及びこれらのチオグリコール酸およびメルカプトプロピオン酸のエステル、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2-メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3-メルカプトプロピネート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(2-メルカプトアセテート)、2-メルカプトエチルエーテルビス(3-メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2-メルカプトエチルエステル)、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、トリス(メルカプトメチルチオ)メタン、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]3-メルカプトプロパン、トリス(メルカプトエチルチオ)メタン等の脂肪族ポリチオール化合物;1,2-ジメルカプトベンゼン、1,3-ジメルカプトベンゼン、1,4-ジメルカプトベンゼン、1,2-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチレンオキシ)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、2,5-トルエンジチオール、3,4-トルエンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、2,6-ナフタレンジチオール等の芳香族ポリチオール化合物;2-メチルアミノ-4,6-ジチオール-sym-トリアジン、3,4-チオフェンジチオール、ビスムチオール、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン等の複素環ポリチオール化合物等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例示化合物のみに限定されるものではない。
【0033】
(有機無機複合材料)
本発明の有機無機複合材料は、前記硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料と前記硬化性樹脂組成物とを接触もしくは混合させたものである。
本発明の有機無機複合材料は、前記硫黄系有機材料における親水性の部分構造が前記無機材料と接触し、前記硫黄系有機材料における親油性の部分構造が前記硬化性樹脂組成物と接触してなる態様が好ましい。
また、本発明の有機無機複合材料は、前記硬化性樹脂組成物が、下記一般式(2)~(9)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種類を20質量%以上含む態様が好ましく、40質量%以上含む態様がより好ましい。
【0034】
【化35】
式(2)中、mは0~4の整数を表し、nは0~2の整数を表す。好ましくは、n=0、あるいは、m=0及びn=1を表す。
【化36】
式(3)中、pは2~4の整数を表し、Xp及びZpは、それぞれ独立して水素原子又はメチルチオール基を表す。
【化37】
式(4)中、nは1又は2の整数を表す。
【化38】
【化39】
式(6)中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、pは1~2の整数を表す。
【化40】
式(7)中、Rは水素原子、又はメチル基を表し、pは1~2の整数を表す。好ましくは、pは1を表す。
【化41】
【化42】
式(9)中、p及びqは、それぞれ独立して1~3の整数を表し、好ましくはp=1及びq=1である。より好ましい化合物は、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、又は1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼンである。
【0035】
本発明の有機無機複合材料は、前記硬化性樹脂組成物の硬化後のd線屈折率が1.6以上であり、厚さ0.25mmの可視光領域の光透過率が80%以上であり、ヘーズ値が1.0%以下である態様が好ましい。
また、本発明の有機無機複合材料は、前記硬化性樹脂組成物が、光重合開始剤、光増感剤、又は熱硬化剤をさらに含む態様が好ましい。
更に、本発明の有機無機複合材料は、前記硬化性樹脂組成物と前記無機材料との静的接触角が30度以下であることが好ましく、10度以下であることがより好ましい。
【0036】
(硬化性樹脂組成物の塗布方法)
硬化性樹脂組成物を、本発明の硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料に塗布する方法としては、一般によく知られた塗布方法、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法、スピンコート方法、スリットスキャン法等が挙げられる。板状の無機材料に対しては、スピンコート法が好適である。
【0037】
(膜厚)
硬化性樹脂組成物からなる層の膜厚は、使用する用途によって異なるが、0.05μm~30μmであるのが好ましい。
【0038】
(重合開始剤)
本発明で使用することができる重合開始剤としては、イオンを発生するアニオン重合開始剤やカチオン重合開始剤、加熱により重合開始ラジカルを発生する熱重合開始剤、紫外線の照射により重合開始ラジカルを発生する光重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、熱重合促進剤、光増感剤、光重合促進剤などをさらに添加することも好ましい。
【0039】
(有機無機複合材料の硬化物)
本発明の有機無機複合材料の硬化物は、上記の有機無機複合材料を熱または活性エネルギーにより硬化させて得られる。本発明では、特に、硬化性樹脂組成物中の上記一般式(2)~(9)で示される硬化性成分を架橋して、硬化させたものが好ましい。
【0040】
(インプリント成型硬化体の製造方法)
本発明は、光学素子、特に回折格子等の作製に利用されるインプリント材料への展開が可能である。インプリント成型硬化体の製造方法は、特に限定されないが、特開2012-214716号公報に記載された方法が挙げられる。具体的には、インプリント成型硬化体の製造方法は、下記工程(1)~(4):
(1)前記硬化性樹脂組成物を、硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料に塗布する工程、
(2)前記無機材料上に塗布された硬化性樹脂組成物に、微細凹凸パターンを有するスタンパを圧接する工程、
(3)工程(2)の後、前記硬化性樹脂組成物を硬化させてインプリント成型硬化体を得る工程、及び、
(4)前記インプリント成型硬化体を前記スタンパから剥離する工程を含む。
【0041】
(金型)
金型は、転写されるべきパターンを有する金型が使われる。金型は、例えば、フォトリソグラフィや電子線描画法等によって、所望する加工精度に応じてパターンが形成されている。
【0042】
金型としては、光透過性金型及び非光透過性金型が好ましく挙げられる。光透過性金型は、ガラス、石英、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、ポリカーボネート樹脂などの光透明性樹脂、透明金属蒸着膜、ポリジメチルシロキサンなどの柔軟膜、光硬化膜、金属膜等が挙げられる。非光透過性金型は、例えば、セラミック材料、蒸着膜、磁性膜、反射膜、Ni、Cu、Cr、Fe、真鍮等の金属金型、SiC、シリコーン、窒化シリコーン、ポリシリコーン、酸化シリコーン、アモルファスシリコーン等の金型等が例示される。
【0043】
金型の形状は板状金型、ロール状金型等のいずれでもよい。ロール状金型は、特に転写の連続生産性が必要な場合に適用される。
【0044】
金型は、材料と金型との剥離性をより向上するために離型処理を行ったものを用いてもよい。このような離型処理を行うための離型剤は、シリコーン系やフッソ系などのシランカップリング剤、例えば、ダイキン工業製、オプツールDSX等の市販品が挙げられる。
【実施例
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載における「部」は、特に断らない限り質量基準である。
【0046】
(硫黄系有機材料の合成)
(合成例1)
100mlバイアル瓶にチオール化合物である4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール(GST)を97.3g仕込み、触媒としてトリフェニルホスフィンを0.12g添加した。室温で30分攪拌した後、アクリレート系シランカップリング剤(信越化学、型番KBM-5103)を25.0g添加した。更に、100℃で5日間攪拌した。反応終点は赤外吸収スペクトル(IR)分析により行い、KBM-5103の化学構造内にある1640cm-1付近のアルケンに起因する吸収の消失により確認した。反応後、生成物を含む混合液を中圧分取精製装置にて未反応のGSTを除去し、親水性構造と親油性構造を有する下記式(10)で表される化合物を得た。
【化43】
【0047】
(合成例2)
100mlバイアル瓶にチオール化合物である2,2’-チオジエタンチオール(DMDS)を57.6g仕込み、触媒としてトリフェニルホスフィンを0.8g添加した。室温で30分攪拌した後、アクリレート系シランカップリング剤(信越化学、型番KBM-5103)を25.0g添加した。更に、100℃で5日間攪拌した。反応終点は赤外吸収スペクトル(IR)分析により行い、KBM-5103の化学構造内にある1640cm-1付近のアルケンに起因する吸収の消失により確認した。反応後、生成物を含む混合液を中圧分取精製装置にて未反応のDMDSを除去し、親水性構造と親油性構造を有する下記式(11)で表される化合物を得た。
【化44】
【0048】
(合成例3)
100mlバイアル瓶にチオール化合物である4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール(GST)を73.7g仕込み、触媒としてペンタメチルピペリジルメタクリレ-トを0.02g添加した。室温で30分攪拌した後、イソシアネート系シランカップリング剤(信越化学、型番KBE-9007N)を20.0g添加した。更に、100℃で3日間攪拌した。反応終点は赤外吸収スペクトル(IR)分析により行い、KBE-9007Nの化学構造内にある2260cm-1付近のイソシアネート基に起因する吸収の消失により確認した。反応後、生成物を含む混合液を中圧分取精製装置にて未反応のGSTを除去し、親水性構造と親油性構造を有する下記式(12)で表される化合物を得た。
【化45】
【0049】
(合成例4)
100mlバイアル瓶にチオール化合物である2,2’-チオジエタンチオール(DMDS)を43.7g仕込み、触媒としてペンタメチルピペリジルメタクリレ-トを0.01g添加した。室温で30分攪拌した後、イソシアネート系シランカップリング剤(信越化学、型番KBE-9007N)を20.0g添加した。更に、100℃で3日間攪拌した。反応終点は赤外吸収スペクトル(IR)分析により行い、KBE-9007Nの化学構造内にある2260cm-1付近のイソシアネート基に起因する吸収の消失により確認した。反応後、生成物を含む混合液を中圧分取精製装置にて未反応のDMDSを除去し、親水性構造と親油性構造を有する下記式(13)で表される化合物を得た。
【化46】
【0050】
(合成例5)
100ml丸底フラスコにチオ尿素3.04gを仕込み、エタノール30mlを加えた。3-グリシドキシプロピルエトキシシラン5.56gを30mlのアセトンで希釈し、無水酢酸1.32gを加え、丸底フラスコ内に滴下し、6時間室温で攪拌した。反応終点は赤外吸収スペクトル(IR)分析により行い、3-グリシドキシプロピルエトキシシランの化学構造内にある850cm-1付近のエポキシ基に起因する吸収の消失により確認し、617cm-1付近のエピスルフィド環に起因する吸収の出現を確認した。得られた白色固体沈殿物について、エバポレータにより溶媒を留去した。その後、白色固体と液体の混合物を濾過し、親水性構造と親油性構造を有する透明液体の下記式(14)で表される化合物を得た。
【化47】
【0051】
(表面修飾液の調製と表面処理方法)
イソプロピルアルコールと純水を質量比90:10の割合で混合した混合液100.0部に対し、1.0部の表面修飾剤(それぞれ合成例1~5で合成した硫黄系有機材料)を添加した。さらに混合液100.0部に対し1.0質量部の酢酸を添加した。室温下で30分間十分に攪拌し、表面修飾剤の加水分解を進行させ表面修飾液を用意した。無機材料に表面修飾を施すには、例えば板状のガラス基板の場合、表面修飾液に10分間浸漬させ、イソプロピルアルコールで洗浄した後、風乾した。
【0052】
(チオール-エン構造を有する硬化性樹脂組成物の調製と該硬化物の光学物性)
300mlフラスコに、2,4-ビス(メルカプトメチル)-1,5-ジメルカプト-3-チアペンタン53.0部、シアヌル酸トリアリル47.0部、および光重合開始剤として1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン3.0部を混合し、均一になるまで撹拌し、チオール-エン構造を有する硬化性樹脂組成物(以下、「チオール-エン組成物」と呼ぶ)を調製した。
光学物性の測定用試料として、前記調製した硬化性樹脂組成物を離型処理した板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9213)で厚み0.25mmスペーサと共に挟み、UV照射装置(Iwasaki, 型番LHPUV365/2501-00)にて30cm離れた距離から3分間照射し、硬化した膜(硬化物)をガラス板から剥がし用意した。屈折率測定には、多波長アッベ屈折率計(アタゴ、DR-M4)を用いた。硬化物の屈折率は1.62であった。透過率測定には、紫外可視分光光度計(日本分光、V-630)を用いた。可視光領域の透過率は80%以上であった。ヘーズ値の測定には、分光測色計(コニカミノルタ、CM-5)を用いた。ヘーズ値は1.0%以下であった。
なお、離形処理した板状ガラスは、板状ガラスをフッ素系離形処理剤(ダイキン、型番オプツールDSX)と希釈液(3M、型番NOVEC7100)を処理剤:希釈液=1:200で調製した混合液に24時間浸漬させた後、希釈液で洗浄し風乾させ用意した。
【0053】
(エピスルフィド構造を有する硬化性樹脂組成物の調製と該硬化物の光学物性)
下記式(15)で示されるエピスルフィド化合物(EPS)を用いた。
【化48】
EPS100.0部に対して、熱硬化剤としてテトラn-ブチルホスホニウムブロマイド0.1部を添加し、均一になるまで撹拌し、エピスルフィド構造を有する硬化性樹脂組成物(以下、「エピスルフィド組成物」と呼ぶ)を調製した。
光学物性の測定用試料として、前記調製した硬化性樹脂組成物を離型処理した板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9213)で厚み0.25mmスペーサと共に挟み、その後乾燥機で100℃30分加熱硬化させた。硬化した膜(硬化物)をガラス板から剥がし用意した。屈折率測定には、多波長アッベ屈折率計(アタゴ、DR-M4)を用いた。硬化物の屈折率は1.71であった。透過率測定には、紫外可視分光光度計(日本分光、V-630)を用いた。可視光領域の透過率は80%以上であった。ヘーズ値の測定には、分光測色計(コニカミノルタ、CM-5)を用いた。ヘーズ値は1.0%以下であった。
なお、離形処理した板状ガラスは、前記処理方法にて同様に用意した。
【0054】
(濡れ性評価の方法)
無機材料の基材として板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)を用意し、前記表面処理方法にて表面を修飾した。濡れ性を評価するために、修飾した板状ガラスに硬化性樹脂組成物を滴下し、静的接触角を測定した(協和界面科学、型番Drop Master 500)。静的接触角が30度以下のものを「○」、30度を超えるものを「×」とした。
次に、同板状ガラスをスピンコータ―(MIKASA, 型番MS-A150)に設置し、硬化性樹脂組成物をガラス表面に1.5ml滴下後、回転数1500rpmで30秒間コートした。濡れ性を評価するために、コート後、成膜ができたか否かを目視にて判断した。成膜できたものを「○」、成膜できなかったものを「×」とした。
【0055】
(有機無機複合材料の剥がれ評価の方法)
成膜できたものに、表面未処理な同板状ガラスをコート面に被せ、更に、光硬化、又は熱硬化により硬化させた。複合材料としての密着性を評価するため、硬化後に、ガラス同士を剥がし、表面修飾剤にて修飾したガラスから硬化物が剥がれなかったものを「○」、剥がれたものを「×」とした。
【0056】
(実施例1~5)
合成例1~5で合成した硫黄系有機材料をそれぞれ含む表面修飾液に板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)を室温で10分間浸漬させた。板状ガラスを各表面修飾液からそれぞれ取り出した後、イソプロピルアルコールで洗浄し、風乾した。修飾した各板状ガラスに前記チオール-エン組成物を滴下し、静的接触角を測定した(協和界面科学、型番Drop Master 500)。接触角はいずれも30度以下であった。
次に、表面修飾した各板状ガラスをスピンコーター(MIKASA, 型番MS-A150)の台座に設置し、前記チオール-エン組成物をガラス表面に2.0ml滴下後、回転数1500rpmで30秒間コートした。コート後、いずれの表面修飾した板状ガラスもチオール-エン組成物に覆われ成膜できたことを目視で確認した。
さらに、前記チオール-エン組成物が成膜された各板状ガラスに、表面未処理な板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)をコート面に被せ、3分間光硬化させた(Iwasaki, 型番LHPUV365/2501-00)。硬化後に、ガラス同士を剥がすと、表面修飾剤にて修飾したガラスからは、いずれも硬化物は剥がれなかった。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例6~10)
合成例1~5で合成した硫黄系有機材料をそれぞれ含む表面修飾液に板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)を室温で10分間浸漬させた。板状ガラスを各表面修飾液からそれぞれ取り出した後、イソプロピルアルコールで洗浄し、風乾した。修飾した各板状ガラスに前記エピスルフィド組成物を滴下し、静的接触角を測定した(協和界面科学、型番Drop Master 500)。接触角はいずれも30度以下であった。
次に、表面修飾した各板状ガラスをスピンコーター(MIKASA, 型番MS-A150)の台座に設置し、前記エピスルフィド組成物をガラス表面に2.0ml滴下後、回転数1500rpmで30秒間コートした。コート後、いずれの表面修飾した板状ガラスもエピスルフィド組成物に覆われ成膜できたことを目視で確認した。
さらに、前記エピスルフィド組成物が成膜された各板状ガラスに、表面未処理な板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)をコート面に被せ、乾燥機で100℃30分加熱硬化させた。硬化後に、ガラス同士を剥がすと、表面修飾剤にて修飾したガラスからは、いずれも硬化物は剥がれなかった。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
表面未処理な板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)に前記チオール-エン組成物を滴下し、静的接触角を測定した(協和界面科学、型番Drop Master 500)。接触角は30度以下であった。
次に、同板状ガラスをスピンコーター(MIKASA, 型番MS-A150)の台座に設置し、前記チオール-エン組成物をガラス表面に2.0ml滴下後、回転数1500rpmで30秒間コートした。コート後、表面未処理な板状ガラスはチオール-エン組成物に覆われ成膜できたことを目視で確認した。
さらに、前記チオール-エン組成物が成膜された板状ガラスに、表面未処理な板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)をコート面に被せ、3分間光硬化させた(Iwasaki, 型番LHPUV365/2501-00)。硬化後に、ガラス同士を剥がすと、ガラスからは、硬化物が一部剥がれていた。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
シランカップリング剤(信越化学、型番KBM-5103)を含む表面修飾液に板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)を室温で10分間浸漬させた。板状ガラスを該表面修飾液から取り出した後、イソプロピルアルコールで洗浄し、風乾した。表面修飾した板状ガラスに前記チオール-エン組成物を滴下し、静的接触角を測定した(協和界面科学、型番Drop Master 500)。接触角は30度以下であった。
次に、同板状ガラスをスピンコーター(MIKASA, 型番MS-A150)の台座に設置し、前記チオール-エン組成物をガラス表面に2.0ml滴下後、回転数1500rpmで30秒間コートした。コート後、表面修飾した板状ガラスはチオール-エン組成物に覆われ成膜できたことを目視で確認した。
さらに、前記チオール-エン組成物が成膜された板状ガラスに、表面未処理な板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)をコート面に被せ、3分間光硬化させた(Iwasaki, 型番LHPUV365/2501-00)。硬化後に、ガラス同士を剥がすと、ガラスからは、硬化物が一部剥がれていた。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例3)
表面未処理な板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)に前記エピスルフィド組成物を滴下し、静的接触角を測定した(協和界面科学、型番Drop Master 500)。接触角は30度を超えていた。
次に、同板状ガラスをスピンコーター(MIKASA, 型番MS-A150)の台座に設置し、前記エピスルフィド組成物をガラス表面に2.0ml滴下後、回転数1500rpmで30秒間コートした。コート後、エピスルフィド組成物は板状ガラス表面からはじかれ、成膜できなかった。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例4)
シランカップリング剤(信越化学、型番KBM-5103)を含む表面修飾液に板状ガラス(松浪硝子工業、型番S9112)を室温で10分間浸漬させた。板状ガラスを該表面修飾液から取り出した後、イソプロピルアルコールで洗浄し、風乾した。表面修飾した板状ガラスに前記エピスルフィド組成物を滴下し、静的接触角を測定した(協和界面科学、型番Drop Master 500)。接触角は30度を超えていた。
次に、同板状ガラスをスピンコーター(MIKASA, 型番MS-A150)の台座に設置し、前記エピスルフィド組成物をガラス表面に2.0ml滴下後、回転数1500rpmで30秒間コートした。コート後、エピスルフィド組成物は板状ガラス表面からはじかれ、成膜できなかった。結果を表1に示す。
【0062】
表1より、硫黄系有機材料、該硫黄系有機材料により表面修飾を施した無機材料、該無機材料と硬化性樹脂組成物とを接触もしくは混合させた有機無機複合材料、及び該有機無機複合材料の硬化物は、光学材料として優れ、回折格子、光導波路、光ファイバー、レンズ等の光学素子に有用である。
【0063】
【表1】